説明

肥満処置のためのS6キナーゼ活性のモジュレーション

本発明はS6キナーゼ1活性の特異的な阻害を介して肥満を処置する有効な薬剤のスクリーニング法を提供する。また、S6キナーゼ1に特異的なインヒビターの有効量を投与することによる肥満の処理法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は肥満、とりわけS6キナーゼ(S6K)活性のモジュレーターによる肥満の処置に関する。
【0002】
発明の背景
肥満は多くの場合インスリン抵抗性と関連する代謝性疾患であり、同時に、後にII型糖尿病と心臓血管系疾患に進展する危険因子を構成する。インスリン抵抗性はII型糖尿病へ進展するかなり前から始まり、インスリンはインスリン抵抗性を補うために、また正常なグルコース濃度を維持するために、過剰に生産される。膵臓が正常なグルコース濃度を維持するために最早十分なインスリンを生産することができなくなった場合に、インスリン抵抗性が後にII型糖尿病に発展する可能性がある。II型糖尿病の初期段階はインスリン濃度の上昇と関連しているが、病気の進行とともに膵臓がインスリンを生産できなくなり、その結果、血中グルコース濃度が上昇する。糖尿病は心臓疾患と脳卒中の重要な危険因子であり、失明と末期腎不全の主要原因である。
【0003】
世界的には10億人を超える人々が体重超過であり、その内、1億人が臨床的にも肥満である。米国だけでも肥満に関連する疾患を処置する健康管理費用の増加が毎年1千億ドル以上と見積もられている。現行の肥満処置法は、行動に関する改善、食事療法、外科処置(胃形成術)、食欲刺激シグナルもしくは栄養(脂肪)吸収を遮断する医薬の投与、および熱発生もしくは脂肪代謝を増大させる薬剤の投与などである。これらの方法のあるものは患者の決断力に頼らねばならない、あるいは侵襲的である、あるいは不所望の副作用をもつということで不利である。肥満を調節するメカニズムの理解は、重要な治療上の情報を提供する。
【0004】
細胞内シグナル伝達経路は種々の細胞機能に関係があるとされており、かかる経路でのキナーゼの関与は、シグナル伝達経路をモジュレートするための潜在的に薬物化可能な標的を提供する。S6キナーゼ(S6K)シグナル伝達経路を描出しようとする試みが多くの研究によりなされている。S6キナーゼはリボソームタンパク質S6をリン酸化するキナーゼである。S6K1遺伝子(p70/p85S6Kとしても知られる)を欠失すると、マウスにおいて、S6K1のホモログであるS6K2(このものは、生化学的にS6K1の機能を一部補完し得、S6をリン酸化する)が同定されることとなる(Shima et al., 1998, EMBO J., 17, 6649-6659)。S6K2のインビボでの詳細な機能は現在未知である。
【0005】
S6K1欠損マウスは生存可能であり繁殖力を有するが、胚形成時に身体サイズに顕著な縮小を示し、その影響は成体期までに殆ど克服される。3.5週令のホモ接合型突然変異マウスとの比較により、すべての臓器の重量が体重の減少に比例することが分かった。ホモ接合型突然変異マウスの小型化は翻訳能力の欠陥と一致する(Shima et al., 1998, EMBO J., 17, 6649-6659)。
【0006】
S6K1欠損マウスは低インスリン血症および軽度のグルコース不耐性であるが、それはグルコース感知またはインスリン産生における病変によるものではなく、ベータ細胞サイズの選択的な低下による膵臓内分泌量の減少によるものであると思われる。従って、低インスリン血症であるがインスリン抵抗性でないのは、一次病変がS6K1欠損マウスを高血糖症に導くためと考えられる。観察される表現型は症状発現前の2型糖尿病の形態に非常に類似するが、この場合、栄養不良誘発低インスリン血症が個体をグルコース不耐性に向かわせる(Pende et al., 2000, Nature, 408, 994-997)。
【0007】
S6K活性は癌および血管形成に関係するとされている。国際特許出願WO93/19752号公報は、ラパマイシンとその誘導体のp70 S6キナーゼのインヒビターとしての使用、および細胞の増殖または免疫応答を阻害するためのそれらの使用について記載している。米国特許出願2003/0083284号公報は、p70 S6キナーゼの発現を阻害するアンチセンス化合物を記載する(70kDaおよび核85kDaのイソ型の両方に言及)。アンチセンス核酸については、感染症、炎症および腫瘍形成、ならびに代謝障害の処置に潜在的に有用であると提案している。
米国特許出願2003/0143656は、p70 S6Kの活性を上昇させ得る化合物が、糖尿病または肥満の処置に有用であり得るか、またはアポトーシスの阻害に有用であり得ると提唱している。
【0008】
アトウブら(Attoub et al., 2001, Faseb J., 14, 2329-2338)は、ラパマイシンがレプチンの機能、とりわけレプチンが誘発する細胞のコラーゲンゲルへの侵入(発癌のモデルとして)を遮断することを示している。レプチン療法は、先天性レプチン欠損症の肥満患者の除脂肪量を維持しながら体重減少を促進するために使用されているが、このことは肥満または糖尿病の処置におけるレプチンについて示唆を与える。
副作用を避けるために特異性の改善された、肥満個体の体重減少を促進する非侵襲性療法の必要性は残されたままであり、本発明はこの必要性に合致するものである。
【0009】
発明の概要
本発明の第一の側面によると、脂肪蓄積による体重異常(weight disorder)の処置に有効な薬剤を同定する方法であって、以下の工程:i)S6キナーゼを化合物とインキュベートする工程;ii)S6キナーゼ活性を検出する工程;およびiii)S6キナーゼ活性における化合物が誘発するモジュレーションを、当該化合物の存在しない場合と比較して判定する工程であって、その場合、化合物存在下でS6キナーゼ活性が変化した場合、当該化合物が脂肪蓄積による体重異常の処置に有効な薬剤であり得るとする工程を含む方法が提供される。化合物が誘発するモジュレーションは、好ましくは哺乳動物のラパマイシン標的(mTOR)活性の影響から独立したものである。一態様において、モジュレーションとはS6キナーゼ1活性の阻害であり、体重異常とは肥満または過体重状態である。別の態様において、モジュレーションとはS6キナーゼ1活性の活性化であり、体重異常とは不十分な脂肪蓄積から生じる低体重状態である。S6キナーゼ活性は、基質としてS6またはペプチドを用いて簡便にアッセイし得るものであり、高処理能アッセイにより容易に測定し得る。
【0010】
本発明はまた、体重異常の処置に有効な薬剤のスクリーニング方法であって、少なくとも1つの化合物の存在下に、転写活性細胞成分を、プロモーター配列に操作可能に連結するS6K遺伝子をエンコードするか、またはレポーター遺伝子に操作可能に連結するS6Kプロモーター配列をエンコードする核酸と接触させること;およびS6キナーゼの発現またはS6キナーゼプロモーター活性に対する当該化合物の作用を検出することを含み、その場合に、S6キナーゼの発現またはプロモーター活性に増減ありと検出した場合、当該化合物が脂肪蓄積による体重異常の処置に有効な薬剤であり得るとすることを特徴とする方法を提供する。かかるアッセイは細胞に基づくアッセイであり、その場合、転写活性細胞成分と核酸は細胞に存在する。好適な態様において、S6キナーゼはS6キナーゼ1である。
【0011】
本発明のスクリーニングアッセイは、好ましくは脂肪蓄積、脂肪代謝または脂肪細胞サイズに対する当該薬剤による作用を検出する工程を含む。
さらに、本発明方法により同定される薬剤をも包含する。
さらなる側面においては、脂肪細胞サイズを減少させる方法であって、脂肪細胞を有効量のS6キナーゼ1インヒビター(S6キナーゼ2と比較してS6キナーゼ1活性を優先的に低下させるインヒビター)と接触させることを含む方法が提供される。
【0012】
さらに別の側面においては、脂肪蓄積による体重異常を処置する方法であって、医薬上有効量のS6キナーゼモジュレーターを対象に投与することを含む方法が提供される。S6モジュレーターはS6K1インヒビターであり、とりわけ体重異常が肥満または過体重状態である場合のインヒビターであり、S6キナーゼ1に特異的な阻害性抗体またはそのフラグメント(例えば、S6キナーゼ2と比較してS6K1の触媒活性を優先的に低下させる)またはS6キナーゼ2と比較してS6キナーゼ1の発現を優先的に低下させるアンチセンス、リボザイムもしくはsiRNAを含み得る。
【0013】
従って、脂肪蓄積による体重異常を処置または予防的に処置するための医薬の製造におけるS6キナーゼの特異的モジュレーターの使用であって、例えば、肥満などの過体重状態の処置または予防的処置のための選択的S6キナーゼ1インヒビター(例えば、アンチセンス分子、リボザイム、siRNA、抗体またはそのフラグメント)の使用が提供される。
【0014】
さらに本発明は、医薬として使用する AGUGUUUGACAUAGACCUG(配列番号:1)または AAGGGGGCUAUGGAAAGGUUU(配列番号:2)の核酸配列を含んでなる少なくとも一部が二本鎖であるRNAを提供する。
【0015】
本発明のさらなる側面においては、脂肪蓄積による体重異常の素因の診断方法であって、個体からサンプルを採取すること;当該サンプル中のS6キナーゼ活性、好ましくはS6キナーゼ1活性のレベルを検出すること;および正常対照値または値の変動幅と比較して、サンプル中のS6キナーゼ活性の変化を脂肪蓄積による体重異常の素因と相関させること;を含む方法が提供される。例えば、正常対照値または値の変動幅と比較して、S6キナーゼ1活性の増加は、肥満の素因を示唆しているものとする。
【0016】
発明の詳しい説明
本発明は、S6K1欠損マウスが野生型マウスと比較して、成熟とともに、高脂肪食餌で飼育した場合であっても、低体重を維持するという知見に基づくものである。S6K1欠損マウスは同じ総量の食餌を摂るが、体重で比較するとより多くを摂食する。S6K1欠損マウスを解剖すると、白色脂肪と褐色脂肪(例えば、精巣上体脂肪)が著しく減少している一方、臓器サイズには影響のないことが明らかとなる。脂肪の減少は脂肪細胞(アジポサイト)サイズの減少によるものである。S6K1-/-マウスでは、基礎脂肪分解の急激な増大と代謝速度の高上昇により、脂肪の蓄積から防御される。従って、S6K1活性のモジュレーションは、体重異常の処置に有用であると期待される。mTOR(ラパマイシンの哺乳動物標的;S6キナーゼをリン酸化し、活性化する)は、S6K1活性をモジュレートするための直接の標的となり得るが、S6K1の直接標的化は、mTOR活性を阻害するより一般的な副作用を回避することであり、それによって体重異常を有する患者の処置にさらに特異性を提供する。特に、mTORはS6K1とS6K2の両方を活性化することが知られているが、それに対して本発明者らはS6K1の選択的な阻害が望ましいことを見出した。
【0017】
従って、本発明はS6キナーゼ活性、特にS6キナーゼ1活性のモジュレーションに基づき、脂肪蓄積による体重異常の処置に有効な薬剤の同定方法を提供する。典型的には、かかる方法は、S6キナーゼ(またはその機能的等価物もしくは誘導体)を化合物とインキュベートする工程;S6キナーゼ活性を検出する工程;および該化合物が誘発するS6キナーゼ活性のモジュレーションを該化合物の存在しない場合と比較して判定する工程を含む。該化合物の存在下でのS6キナーゼ活性の変化は、該化合物が体重異常の処置に有効な薬剤であり得ることを示唆する。該化合物不存在下での対照アッセイは並行して実施し得る。
【0018】
文脈から特に他の意味が明らかでない限り、「S6K」または「S6キナーゼ」は、S6K1(p70およびp85)およびS6K2(参照例:ジーンバンク受託番号:M57428、AJ007938、AB019245、NM003952および関連配列)の両方を包含するものとして本明細書で使用するが、S6K1が好適な標的である。S6Kの模範的な機能的等価物(変異体)または誘導体は、置換、化学的、酵素的、または他の適切な手段により、天然に生じるアミノ酸以外の部分との共有結合により修飾されている。
【0019】
一般的に言って、かかる変異体は野生型または本明細書に特定した他の配列に実質的に相同である、すなわち、それとの配列類似性または同一性を共有する。類似性または同一性とは、ヌクレオチド配列および/またはエンコードされたアミノ酸配列レベルであり、また好ましくは少なくとも約50%、60%、または70%あるいは80%であり、最も好ましくは、少なくとも約90%、95%、96%、97%、98%または99%である。配列比較はFASTAおよびFASTPを使用して実施し得る(参照:Pearson & Lipman, 1988, Methods in Enzymology 183: 63-98)。パラメータは、好ましくはデフォルトマトリックスを用い、以下のように設定する:ガポペン(ギャップにおける最初の残基に対するペナルティ):タンパク質について−12/DNAについて−16;ギャペックスト(ギャップにおけるさらなる残基に対するペナルティ):タンパク質について−2/DNAについて−4;KTUPワードの長さ:タンパク質につい2/DNAについて6。類似性解析も、ハイブリッド形成を用いて実施し得る。特定の配列相同性の核酸分子間のハイブリッド形成達成のために必要なストリンジェントな条件を計算するための一つの共通する式は以下のとおりである:
Tm=81.5℃+16.6Log[Na+]+0.41(%G+C)−0.63(%ホルムアミド)−600/#bp(2回繰返し)(Molecular Cloning: a Laboratory Manual: 2nd edition, Sambrook et al., 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Press)。
【0020】
共通の構造的特徴を保持する変異体は、S6Kのフラグメント、とりわけ触媒活性またはイソ型に特異的な特徴を維持するフラグメントであり得る。例えば、S6K1およびS6K2のカルボキシ末端配列はその同一性が僅かに約20%であり、従って、イソ型特異的アッセイが望ましい場合には、かかるイソ型に特異的な特徴をフラグメントに含めることが有用であり得る。同様に、S6K1はS6K2には存在しないT447でリン酸化を受け得、これが別のあるいはさらなるイソ型に特異的な特徴を提供する。好ましくは、フラグメントはその長さがアミノ酸として50個ないし350個のものである。
【0021】
S6Kの変異体はまたその突然変異体を含んでなり、少なくとも1つのS6Kの特徴、好ましくは上記のごとき触媒活性および/またはイソ型に特異的な特徴を保持するという要件を条件として、アミノ酸の欠失、付加または置換を含み得る。従って、同類アミノ酸置換は、末端切断同様に、実質的にS6Kの性質を変えることなく実施し得る。さらに、付加および置換は、本発明のスクリーニング方法に使用されるS6Kのフラグメント、特に、S6K触媒活性を上昇させるか、またはある種の他の望ましい性質を賦与するフラグメントに対しても実施することができる。例えば、マウスS6K1(p70S6Kとしても知られる)のT389、T229およびS371は、ショウジョウバエp70S6KのT389、T238およびS380に相同である。特に、T389は構成的に活性なキナーゼを産生するために、酸性アミノ酸残基に突然変異があると示されている。上に言及したS6KまたはS6Kフラグメントとの融合タンパク質も望ましい。
【0022】
本発明のスクリーニングアッセイは、S6キナーゼ活性を決定する特定の方法に限定されるものではない。S6キナーゼアッセイは技術上周知である(参照例:米国特許USPN6,372,467号公報;参照によりその全文を本明細書の一部とする)。簡単に説明すると、S6キナーゼを、S6などの適切な基質と一緒にS6のリン酸化を可能とするバッファー中でインキュベートする。基質のリン酸化を、標識したリン酸基、例えば、バッファー中にATP源として存在する放射性標識32Pを用いて検出することができる。あるいは、S6K触媒活性のリン酸化産物に特異的な抗体を使用して活性を検出し得る。当業者には明らかなように、本アッセイはロボットおよび自動化工程を用いる高処理能技法に容易に適合させ得る。
【0023】
別法として、S6キナーゼ活性は合成基質、例えば、Arg-(Arg)-Arg-X-X-Ser-X(例えば、KRRRLASLAA(配列番号:3)またはKRRRLSSLRASTSKSESSQK(配列番号:4))(Flowtow and Thomas (1992) J. Biol. Chem. 267: 3074-3078)を含んでなる基質を用いてアッセイし得る。
【0024】
S6K活性はまた、該キナーゼの下流標的を検出することによりアッセイすることもできる。例えば、S6Kは特異標的、例えば、ポリピリミジン領域(5'TOP)をもつ遺伝子およびリボソーム遺伝子などの転写と翻訳に影響することが知られている。(Fumagalli S, Thomas G. (1999) Ribosomal Protein S6 Phosphorylation and Signal Transduction. In: Translational Control. Eds. Hershey, J. Mathews, M. Sonenberg, N. Cold Spring Harbor Press. pp695-717)。
【0025】
従って、本発明のさらなる側面によると、脂肪蓄積による体重異常(例:肥満)の処置に有効な薬剤のスクリーニング方法であって、S6K遺伝子またはS6K調節配列の制御下に発現される遺伝子の発現をモジュレートする化合物を同定することによる方法が提供される。
【0026】
該方法は、少なくとも1つの化合物の存在下に、転写活性細胞成分、好ましくは細胞中の成分と、プロモーター配列に操作可能に連結するS6K遺伝子をエンコードするか、またはレポーター遺伝子に操作可能に連結するS6Kプロモーター配列(またはレポーター遺伝子の発現を可能にする他のS6K調節領域)をエンコードする核酸と接触させること;およびS6キナーゼ発現またはレポーター遺伝子発現のコーディング領域の発現に対する当該化合物の作用を検出することを含む。S6キナーゼ発現またはプロモーター活性に増減のある場合、当該化合物が体重異常の処置に有効な薬剤であり得ることを示唆する。かかるアッセイとしては、インビトロの転写アッセイも技術分野上周知であるが、細胞に基づくアッセイであり得る(ここで、転写活性細胞成分と核酸は細胞中に存在する)。好適な態様において、S6キナーゼはS6キナーゼ1である。
【0027】
レポーター遺伝子は検出可能な変化を提供し得る何らかの分子をエンコードする。かかるレポーター分子は、蛍光部分(例えば、シアン蛍光タンパク質、CFP;黄色蛍光タンパク質、YFP;青色蛍光タンパク質、BFP;または緑色蛍光タンパク質、GFP、などの蛍光タンパク質;すべて市販入手可能、クロンテック・リビング・カラー・ユーザーマニュアル)、抗原、レポーター酵素などを含む。レポーター酵素は以下のものを含むが、限定されるものではない:ベータ−ガラクトシダーゼ、グルコシダーゼ、クロラムフェニコール アセチルトランスフェラーゼ(CAT)、グルクロニダーゼ、ルシフェラーゼ、ペルオキシダーゼ、ホスファターゼ、オキシドレダクターゼ、デヒドロゲナーゼ、トランスフェラーゼ、イソメラーゼ、キナーゼ、レダクターゼ、デアミナーゼ、カタラーゼおよびウレアーゼ。本発明の請求項の方法にて使用すべきレポーター分子を選択するに際して、レポーター分子それ自体は、アッセイ混合物に存在するプロテアーゼ活性による不活化を含む、スクリーニングアッセイに存在する推定薬剤またはその他の成分による不活化をされてはならない。適切なレポーター分子の選択は当業者にとって自明である。
【0028】
核酸は、様々なバクテリア、酵母、および哺乳動物細胞についてよく知られるように、1個以上の選択した宿主細胞にて複製を可能とするベクター中に一般に生じる。例えば、種々のウイルス起源(SV40、ポリオーマ、アデノウイルス、VSVまたはBPV)が哺乳動物細胞におけるベクターのクローニングに有用である。ベクターは、例えば、プラスミド、コスミド、ウイルス粒子、ファージ、または細胞が取り込み得る、関心のある配列のまたはレポーター遺伝子を発現するために使用し得る他の適切なベクターまたは構築物である。
【0029】
発現ベクターは通常、タンパク質をエンコードする関心のある核酸配列に、mRNA合成に向かうように操作可能に連結したプロモーターを含む。種々の可能な宿主細胞が認識するプロモーターは、S6K1およびS6K2プロモーター(上流調節配列)などのように、周知である。「操作可能に連結」とは、同じ核酸分子の一部として結合し、転写がプロモーターから開始されるように適切な位置と方向を占めるようにすることを意味する。プロモーターに操作可能に連結したDNAは、プロモーターの「転写制御下」にある。哺乳動物宿主細胞におけるベクターからの転写は、例えば、ウイルス(例えば、ポリオーマウイルス、鶏痘ウイルス、アデノウイルス(例えば、アデノウイルス2)、ウシパピローマウイルス、ニワトリザルコーマウイルス、サイトメガロウイルス、レトロウイルス、B型肝炎ウイルスおよびシミアンウイルス(SV40))のゲノムから得られるプロモーターまたは異種哺乳動物プロモーター(アクチンプロモーターまたは免疫グロブリンプロモーター)または熱ショックプロモーターなどにより制御されるが、かかるプロモーターは宿主細胞系と共存し得ることが条件である。本発明の発現ベクターはまた、1種以上の選択遺伝子、例えば、抗生物質または他の毒素に抵抗性を付与する遺伝子をも含み得る。
【0030】
本発明の方法は、従って、該核酸を宿主細胞に導入することをさらに含む。導入(特にインビトロでの導入)は一般に、限定することなく「形質転換」というが、利用可能な技法を採用し得る。真核細胞での適切な技法は、技術分野上周知のように、リン酸カルシウム形質導入(トランスフェクション)、DEAE−デキストラン、エレクトロポレーション、リポソームを介した形質導入、および例えばワクチニアなどのレトロウイルスまたは他のウイルスを用いる形質導入(トランスダクション)などである。参照例:Keown et al., Methods in Enzymology, 185: 527-537 (1990) and Mansour et al., Nature 336: 348-352 (1988)。
【0031】
本明細書に記載した発現もしくはクローニングベクターで形質導入また形質転換した宿主細胞は通常の栄養培地で培養し得る。培養条件、例えば、培地、温度、pHなどは、当業者が特別の実験をすることなしに選択し得る。一般に、細胞培養の生産性を最大とするための原理、プロトコール、および実際の技法などは文献に見出すことができる(Mammalian Cell Biotechnology; a Practical Approach(哺乳動物細胞のバイオテクノロジー;実施方法)M. Butler, ed. JRL Press (1991) and Sambrook et al., 上記)。
【0032】
S6K1に特異的なアッセイはまた、技術分野上周知のように、S6K1のC末端ドメインにノイラビンなどの特異タンパク質の結合を検出することにより設計することも可能である(Burnett PE, Blackshaw, Lai MM, Qureshi IA, Burnett AF, Sabatini DM, Snyder SH。ノイラビンはp70 S6キナーゼと神経細胞骨格を連結する合成タンパク質である。Proc Natl Acad Sci USA, 1998 Jul 7: 95(14): 8351-6)。
【0033】
従って、本発明のもう一つの態様においては、S6K1と結合パートナーとの相互作用の阻害が評価される。この評価は、(i)S6K1をその結合パートナーと試験物質の存在下および不存在下に接触させること;および(ii)試験物質の存在がS6K1とその結合パートナーとの相互作用を阻害するかどうかを判定することを含む。
【0034】
ポリペプチドと結合パートナーとの相互作用を評価する方法は、当業者周知のいずれの方法でもよく、本明細書に開示されている。これら方法のいずれを使用しても、試験物質がポリペプチド(この場合、S6K1)と結合パートナーとの相互作用を阻害するかどうか、評価することができる。
【0035】
一態様において、アッセイはS6K1およびそのノイラビンとの相互作用に基づくものであり、試験物質がS6K1とノイラビンとの相互作用を阻害するかどうかを判定する工程を含んでなる。これはS6K1とその結合パートナーとの物理的会合を、一方を検出可能な標識で標識し、それを固体支持体に固定した他方と接触させ、検出することにより達成し得る。適切な検出可能標識は、35S−メチオニンであるが、これは組換えにより製造したS6K1および/またはその結合パートナーに取り込むことができる。組換えにより生成したS6K1および/またはその結合パートナーは、抗体で標識し得るエピトープを含む融合タンパク質として発現させることもできる。あるいは、当業者周知のように、例えば、放射性標識とシンチラントを用いる二重標識を使用してもよい。
【0036】
一般に、固体支持体に固定するタンパク質は、固体支持体に結合するそのタンパク質に対する抗体をもちいるか、またはそれ自体周知の他の技法を介して固定することができる。好適なインビトロ相互作用では、グルタチオン−S−トランスフェラーゼ(GST)またはHis6などのタグ標識を含む融合タンパク質を利用し得る。タグ標識はアフィニティ相互作用により、例えば、グルタチオンアガロースビーズまたはNi−マトリックスにそれぞれ固定することができる。
【0037】
上記タイプのインビトロアッセイフォーマットにおいては、推定インヒビター化合物は、固定化した結合パートナー、例えば、GST−結合パートナーまたは場合によってはGST−S6K1に結合する標識したS6K1または結合パートナーの量をモジュレートするその能力を判定することによりアッセイすることができる。これはグルタチオンアガロースビーズをSDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動により分画することにより判定し得る。あるいは、ビーズを洗い、非結合タンパク質を除き、結合したタンパク質の量を、例えば、適当なシンチレーション計測計により、存在する標識の量を計測することにより定量し得る。
【0038】
別法として、固体支持体に分子を付着させるGSTの代わりに、固体支持体に付着させた、S6K1または結合パートナーの一方に対する抗体を使用することができる。S6K1およびその結合パートナーに対する抗体は、技術分野上公知の様々な方法により入手し得る。代替様式においては、S6K1およびその結合パートナーの一方を蛍光ドナー部分で標識し、他方をアクセプターで標識する;このアクセプターは、ドナーからの発光を減少させることができる。このことは本発明によるアッセイを蛍光共鳴エネルギー転移(FRET)により実施することを可能とする。この様式において、ドナーの蛍光シグナルはS6K1とその結合パートナーが相互作用したときに変化する。この相互作用をモジュレートする候補インヒビターが存在するとき、ドナーの蛍光シグナル量が増大する。
【0039】
FRETはそれ自体技術上既知の技法であり、従って、その正確なドナー分子およびアクセプター分子、ならびにそれらをS6K1およびその結合パートナーに結合させる手段は、文献参照により達成し得る。
【0040】
適切な蛍光ドナー部分はもう一つの発蛍光団分子または化合物の一部に発蛍光エネルギーを転移し得る部分であり、限定されるものではないが、クマリンおよびフルオレセイン、ロドールおよびローダミンなどの関連色素、レゾルフィン、シアニン色素、ビマン、アクリジン、イソインドール、ダンシル色素、ルミノールおよびイソルミノール誘導体などのアミノフタル酸ヒドラジン、アミノフタリミド、アミノナフタリミド、アミノベンゾフラン、アミノキノリン、ジシアノヒドロキノン、およびユーロピウムとテルビウム複合体および関連化合物などである。
【0041】
適切なアクセプターは、限定されるものではないが、クマリンと関連発蛍光団、フルオレセイン、ロドールおよびローダミンなどのキサンテン、レゾルフィン、シアニン、ジフルオロボラジアザインダセン、およびフタロシアニンである。
【0042】
好適なドナーはフルオレセインであり、好適なアクセプターはローダミンおよびカルボシアニンである。これらのフルオレセインおよびローダミンのイソチオシアン酸誘導体はアルドリッチ(Aldrich Chemical Company Ltd., Gillingham, Sorset, UK)から入手可能であり、S6K1およびその結合パートナーの標識に使用され得る。カルボシアニン付着の参照例:Guo et al., J. Biol. Chem., 270: 27562-8, 1995。
【0043】
本発明のアッセイはインビボでも実施し得る。かかるアッセイは適切な宿主細胞、例えば、バクテリア、酵母、昆虫または哺乳動物宿主細胞中で実施し得る。酵母および哺乳動物細胞が特に適当である。かかるアッセイをインビボで実施するために、S6K1およびその結合パートナーを発現し得る構築物およびレポーター遺伝子構築物を、該細胞に導入し得る。この導入は適切な技法、例えば、リン酸カルシウム沈降法またはエレクトロポレーションなどにより達成し得る。前記構築物は一過性にまたは安定なエピソームとして発現するか、あるいは宿主細胞のゲノムに集積される。
【0044】
インビボアッセイはまた、ツーハイブリッドアッセイの形状をも取り得る。ツーハイブリッドアッセイは文献開示の方法に従う(Fields and Song, 1989, Nature 340: 245-246)。かかるアッセイにおいて、酵母GAL4転写因子のDNA結合ドメイン(DBD)および転写活性ドメイン(TAD)を、その相互作用を検討すべき第一および第二分子にそれぞれ融合させる。機能的GAL4転写因子は、関心のある2つの分子が相互作用する場合にのみ回復する。従って、分子の相互作用はGAL4 DNA結合部位に操作可能に連結したレポーター遺伝子を使用することにより測定可能であり、当該DNA結合部位は当該レポーター遺伝子の転写を活性化することができる。他の転写活性化ドメイン、例えば、ウイルスVP16活性化ドメインをGAL4 TADの代わりに使用することもできる。
【0045】
使用するアッセイ形状の如何を問わず、これらは一般に当業者が常用する適当な対照を用いて実施するが、好ましくは低分子ライブラリー、ペプチドライブラリー、ファージディスプレイライブラリーまたは天然物ライブラリーなどに存在し得る化合物をスクリーニングするために使用する。推定もしくは実際のインヒビターまたはその他のモジュレーターは、スクリーニングすることが望ましい起源から供給されてもよいし、また天然産もしくは合成品でもよく、さらにペプチドまたはポリペプチド(例:抗体)あるいは核酸(例:siRNA)であってもよい。治療用途に最も適する好適なインヒビターは低分子、例えば、現在技術上周知のコンビナトリアルライブラリーからの分子である(参照例:Newton (1997) Expert Opinion Therapeutic Patents, 7(10): 1183-1194)。好適な候補物質はPKCインヒビターなどの低分子である。
【0046】
化合物が誘発するS6K活性のモジュレーションは、該化合物が存在しない場合と比較して、該化合物が存在するとS6K活性(酵素活性、下流標的へのシグナル伝達活性、プロモーター活性または発現)に変化のあることを意味する。とりわけ化合物が誘発するS6K活性の阻害は、該化合物が存在しない場合に比較して、S6K活性の低下により反映される。逆に、化合物が誘発するS6K活性の活性化は、S6K活性の上昇により反映される。
【0047】
活性化因子および阻害因子(インヒビター)は本明細書において集約的にモジュレーターといい、好ましくはS6Kのキナーゼ活性に直接影響を及ぼすものである。再構成成分を用いて実施されるアッセイは、直接的S6K阻害を達成するために容易に設計することができる(すなわち、S6K触媒活性の特異的阻害であり、活性なキナーゼの形成を阻害するものではない;例えば、mTORの作用を経由する)。典型的には、S6キナーゼ1活性は、特に脂肪組織におけるS6キナーゼ1シグナル伝達の阻害と体重減少が望ましい場合に、選択的に阻害される(すなわち、S6キナーゼ2活性および他のキナーゼならびに酵素よりも優先的に阻害される)。逆に、脂肪蓄積が不十分であるために体重異常が低体重状態である場合、S6K1活性が活性化されるか、またはS6K2活性が阻害される。
【0048】
S6KインヒビターはS6K活性、例えば、S6K1またはS6K2活性を低下させる化合物である。例えば、S6K酵素活性を阻害する化合物は一般に、S6KのATP結合部位に結合するか、またはS6Kの触媒ドメインに結合する。S6K1とS6K2ノックアウトマウス間に観察される表現型に差異があるとすれば、該化合物はS6K2や他のS6Kイソ型と比較して、優先的にS6K1を阻害している。従って、S6K2またはS6K1とS6K2の両方を阻害する化合物(ラパマイシン、その誘導体または他のmTORインヒビター)が有用であり得るが、S6K1の選択的阻害が肥満など過剰な脂肪蓄積の処置にとって望ましい。それ故、S6K1インヒビターは、典型的にはS6K2活性の減少レベルに比較して、S6K1活性を少なくとも10%、より好ましくは20%、50%、100%および200%低下させる。従って、対照アッセイは、例えば、免疫沈降したS6K2で実施し、免疫沈降したS6K1と比較し、モジュレーターの選択性を確立する。
【0049】
本発明のスクリーニング法は、所望によりさらに機能的アッセイを含んでなるが、この方法は脂肪蓄積、脂肪代謝または脂肪細胞サイズに対し当該薬剤が及ぼす作用を検出することを含む。適切な方法を下記の実施例に示す。
【0050】
該スクリーニング法では所望により、S6キナーゼ遺伝子をもつ非ヒト動物に可能性のあるモジュレーターを投与し、該化合物が存在していない場合に比較して、体重減少または増加(特に脂肪蓄積)が影響を受けているかどうかを判定する工程を含む。非ヒト動物とは一般に、マウスまたはラットなどの実験用哺乳動物であり、様々な投与量を食餌と混ぜて経口的に、または他の適切な手段により投与するが、投与手段は安定性および標的化送達など、化合物の性質に基づき選択し得る。S6キナーゼ遺伝子は実験用哺乳動物のような異なる種からのものでもよく、例えば、マウスS6K遺伝子を置換し、ヒトS6K遺伝子を含むマウスの使用が、ヒト被験者を使用せずにヒトS6Kに対する薬剤の作用を判定するために特に有用である。
【0051】
S6K1の阻害について化合物の効力と有効性もまた、肥満の動物モデル(例:ob/obマウス)を用いて評価し、S6K1ノックアウトマウスと比較することができる。
かかる化合物をスクリーニングするのに有用なキットもまた、本発明に従って調製可能であり、必須のものとしてスクリーニングに有用なS6Kまたはそのフラグメント、および説明書を含んでなる。典型的に、S6KポリペプチドはS6K活性を検出する手段および少なくとも1種の化合物(推定医薬)または本スクリーニング法を実施するために有用な本明細書に記載の他の物質とともに提供される。
【0052】
本発明によるキットで使用するS6Kは、例えば、溶液、懸濁液または凍結乾燥品としてタンパク質の形状で、またはS6Kもしくはそのフラグメントの生産を発現系で、所望によりインシトゥで可能な核酸配列の形状で提供し得る。
【0053】
化合物(例えば、推定薬剤)は、無機または有機化合物、例えば、抗生物質、抗体、ポリペプチドまたはペプチドなどであり、一般に単離または精製する。「単離」または「精製」した組成物は、由来する細胞もしくは組織源からの細胞性物質または他の混入タンパク質を実質的に含まないか、または化学的に合成した場合には化学的前駆体または他の化学物質を実質的に含まない。実質的に細胞物質を含まないポリペプチドは、ポリペプチドの製剤であり、そこでのポリペプチドはそれを単離する細胞の細胞性成分から分離されている;例えば、該ポリペプチドは組換えにより製造したものである。好ましくは、治療用化合物、例えば、S6Kインヒビターの製剤は少なくとも75%、より好ましくは80%、より好ましくは85%、より好ましくは90%、より好ましくは95%、より好ましくは98%、最も好ましくは99%または100%の乾燥重量の製剤である。化合物の混合物もスクリーニングの初期段階で試験し得る。
【0054】
従って、化合物は抗体であり、好ましくはS6K、とりわけS6K1に特異的なモノクローナル抗体であるが、その意味は、該化合物が、それが結合し得るポリペプチドと同一種の他のポリペプチドでありながら、それに対して結合親和性を全くもたないかまたは実質的にもたないポリペプチド(例えば、結合親和性が少なくとも約1000倍劣る)を識別し得るからである。特異的抗体は他の分子には存在しないか、または接近し得ない当該分子のエピトープに結合する。例えば、イソ型特異的阻害の場合(S6K2活性よりもS6K1活性を選択的に阻害)、該抗体はS6K1とS6K2との間に高度にではないが保存されているS6KのC−末端ドメインを阻害し得る。抗体は技術分野上標準的な技法を用いて取得し得る。例えば、抗体は技術分野上既知の様々な技法のいずれかを用い、免疫した動物から得ることができ、好ましくは関心のある抗原に対する抗体の結合を用いスクリーニングし得る。例示として、ウエスタンブロッティング法または免疫沈降法を使用し得る(Armitage et al., Nature, 357: 80-82, 1992)。
【0055】
哺乳動物をペプチドで免疫するための代替法または補助的方法として、タンパク質に特異的な抗体は、例えば、機能的免疫グロブリン結合ドメインをその表面に提示しているラムダバクテリオファージまたは繊維状バクテリオファージを使用して、免疫グロブリン可変領域を発現する組換えによる生産物ライブラリーから取得してもよい;参照例:国際特許出願WO92/01047号公報。
【0056】
抗体は多くの方法で修飾可能であり、抗体のフラグメント、誘導体、機能的等価物、および抗体ホモログを含み、さらに合成分子、および抗原またはエピトープに結合するように抗体にその形を似せた分子を含む。抗原または他の結合パートナーに結合し得る抗体フラグメントの例は、VL、VH、CIおよびCH1ドメインからなるFabフラグメント;VHおよびCH1ドメインからなるFdフラグメント;抗体の一本鎖のVLおよびVHドメインからなるFvフラグメント;VHドメインからなるdAbフラグメント;単離CDR領域とF(ab’)2フラグメント、ヒンジ領域でジスルフィド架橋により連結した2つのFabフラグメントを含む二価フラグメントなどである。一本鎖Fvフラグメントも包含する。
【0057】
非ヒト起源からのCDRをヒトの枠組み領域に接合したヒト化抗体は、一般に枠組みアミノ酸残基の一部に変化をもち、元の非ヒト抗体よりも免疫原性の弱い抗体を与えるが、それらも本発明の範囲に包含される。
【0058】
当業者にとっては明らかなように、モノクローナル抗体は、当初の抗体の特異性を保持する他の抗体またはキメラ分子を生成させるための組換えDNA技法の対象となり得る。かかる技法は、抗体の免疫グロブリン可変領域または相補性決定領域(CDR)をエンコードするDNAを、異なる免疫グロブリンの定常領域もしくは定常領域と枠組み領域に導入することからなる。参照例:欧州特許出願EP−A−184187、英国特許出願GB−A−2188638または欧州特許出願EP−A−0239400号公報。キメラ抗体のクローニングと発現は、欧州特許出願EP−A−0120694およびEP−A−0125023号公報に記載されている。
【0059】
ペプチドはS6K活性のインヒビターとしても使用可能であり、例えば、推定自己阻害性ドメインを含む合成ペプチド(S6キナーゼ1残基400〜432;Flowtow and Thomas, 1992)またはさらに上に参照した合成基質(例:S6 230〜249、Ala235)である;これらはさらに新規インヒビターモデルとして使用し得る。
【0060】
別法として、細胞内のS6K活性を、核酸を用いて、例えば、事前もしくは事後−転写サイレンシングにより低下させることができる。従って、S6K配列(特に、S6K1に特異的な配列)を、アンチセンスRNAまたはリボザイムを産生させるために、ベクターに上記のようにアンチセンス方向に挿入してもよい。
【0061】
S6K2に対してよりもS6K1に対して選択的な核酸配列は、アミノ酸33〜77およびアミノ酸454〜525(番号は米国特許出願US2003/0083284号公報の配列番号:3による;本公報を参照により本発明の一部とする)またはその一部をエンコードする配列を含み、一般的には長さが少なくとも15、18またはそれ以上のヌクレオチドである。配列比較は本質的に上記のようにFASTAおよびFASTP(参照:Pearson & Lipman, 1988. Methods in Enzymology 183: 63-98)を用いて行い、配列の特異性を確立することができる。
【0062】
アンチセンスの代替法では二本鎖RNA(dsRNA)を使用するが、この方法はアンチセンスのみよりも遺伝子サイレンシングにおいてより有効であることが分かっている(Fire A. et al Nature, Nol 391, (1998))。dsRNA介在サイレンシングは遺伝子特異的であり、時にRNA干渉(RNAi)(参照:Fire (1999) Trends Genet. 15: 358-363, Sharp (2001) Genes 2: 1110-1119 and Tuschl (2001) Chem. Biochem. 2: 239-245)と呼ばれる。
【0063】
RNA干渉は2段階工程である。第一に、dsRNAが細胞内で切断されて、5’末端リン酸と3’の短いオーバーハング(〜2nt)をもつ約21〜23ntの短鎖干渉RNA(siRNA)を生じる。siRNAは分解のために特異的に対応するmRNA配列を標的とする(Zamore P.D. Nature Structural Biology, 8, 9, 746-750, (2001))。従って、一態様において、阻害はS6K−エンコード配列、特にS6K1に選択的な配列(例えば、二本鎖RNAでもよい)を含んでなる二本鎖RNAを用いて達成される(このRNAは例えば上記のようにsiRNAに処理加工され得る)。PKR経路などの細胞防御メカニズムは、一般に、例えば、個々の成分に対するsiRNAを用いて回避する必要がある。これらのRNA産物はインビトロで、例えば、常套の化学合成法により合成し得る。
【0064】
しかしながら、PKR経路を回避するために、3’−オーバーハング末端をもつ長さ約21〜23ヌクレオチドの化学的に合成したsiRNA二重鎖を使用するのが好ましい(Zamore PD et al Cell, 101, 25-33 (2000))。合成siRNA二重鎖は、広範な哺乳動物細胞株において内在性異種遺伝子の発現を特異的に抑制することが示されている(Elbashir SM. et al. Nature, 411, 494-498 (2001))。
【0065】
従って、S6K配列の、とりわけS6K2よりもS6K1に選択性を有する配列の20〜25bps、より好ましくは、21〜23bpsを含むsiRNA二重鎖は、本発明の一側面としての形状、例えば、所望により分解を予防するために保護された形状の、合成的に製造された形状を含む。
【0066】
あるいは、siRNAはベクターからインビトロ(回収および使用のため)またはインビボで製造し得る。従って、ベクターは、例えば、本明細書に引用した文献(特に参照により本明細書の一部とする)のいずれかに記載されているように、技術分野上既知の何らかの方法でsiRNAを細胞に導入するのに適する、S6Kをエンコードする核酸配列(変異体またはそのフラグメントをエンコードする核酸配列を含む)を含み得る。
【0067】
一態様において、該ベクターは、本発明による核酸配列をセンスおよびアンチセンスの両方向に含み、その結果、RNAとして発現された場合、センスおよびアンチセンス区分が会合して二本鎖RNAを形成する。これは例えば長鎖の二本鎖RNA(例えば、23ntを超える)でもよいが、インビトロでダイサー(Dicer)により処理加工されて複数のsiRNA(参照例:Myers (2003) Nature Biotechnology 21: 324-328)または1個のsiRNA、ヘアピン構造を生じてもよい。あるいは、センスおよびアンチセンス配列を、異なるベクター上に提供する。これらのベクターおよびRNA産物は、例えば、細胞でのS6Kポリペプチドの新たな生産を阻害するために有用である。かかる核酸およびベクターを、宿主細胞に導入するか、または適当な形状で哺乳動物に投与することができる。
【0068】
従って、siRNAなどの核酸を投与し、S6K1活性を阻害することができる。siRNA技法はS6K1に特異的な配列、例えば、AGTGTTTGACATAGACCTG(配列番号:1)または好ましくは、AAGGGGGCTATGGAAAGGTTT(配列番号:2)に基づき、常套的に適用され得る。siRNAの標的発現は、組織特異的プロモーター、例えば、脂肪組織または肝臓に特異的なプロモーターを使用して達成し得る。
【0069】
しかし、投与し易くするために、触媒部位またはATP結合部位に結合し得るように、該化合物は低分子であることが好ましい。イソ型の特異的阻害の場合、該化合物はS6K1とS6K2の間で高度にではないが保存されているS6KのC−末端ドメインを阻害することが可能である。
【0070】
S6Kモジュレーターを潜在的に改善するために、単離したS6Kを用いて、タンパク質全体の、あるいは少なくとも酵素活性に関わる領域の二次構造および三次構造を確立することができる。三次元構造を同定する常套の方法は、例えば、X線での検討またはNMRでの検討である。これらの方法または相当する方法により得たデータは、例えば、S6K1とS6K2の選択性を提供するなど、S6Kのモジュレーターの同定または改善に直接または間接的に使用し得る。この観点で一般的に使用される方法は、例えば、コンピュータ援用薬物設計または分子模型である。
【0071】
本発明による化合物は、本明細書にすでに記載した技法を用いるスクリーニングで同定可能であり、確立された手法に従い、天然資源または遺伝子的に修飾した起源から抽出することにより、または特に低分子量化合物の場合には合成により、調製し得る。タンパク質性の化合物は、組換え発現系、例えば、バキュロウイルス系にて、またはバクテリア系での発現により調製し得る。タンパク質性化合物はシグナル伝達経路の機能の研究に主として有用であるが、治療用、例えば、S6キナーゼ1に対するヒト化阻害性抗体などに適用し得る。
【0072】
他方、低分子量化合物は、確立された手法に従い、化学合成によって製造する。これらは本来治療剤として示される。PKCインヒビターまたはその誘導体もしくは修飾体は、S6K1の選択的阻害に、また脂肪蓄積による肥満もしくは他の体重異常に潜在的に有効な医薬として使用し得る。低分子量化合物および有機化合物は、一般に、肥満(または体重異常と関連する症状)の処置に使用する薬剤として有用であり得る。
【0073】
本発明はまた脂肪細胞サイズを減少させる方法であって、脂肪細胞と、S6キナーゼ1インヒビターの有効量とを接触させることを特徴とする方法を提供する。従って、本発明はまた、肥満などの脂肪蓄積による体重異常の処置に使用するS6キナーゼ活性を直接にモジュレートする化合物を提供する。とりわけS6K2活性よりもS6キナーゼ1活性を選択的に阻害する化合物が、過体重状態、例えば罹患する肥満症の処置に使用するために、または肥満になる危険のあるヒトなどの哺乳動物を処置するために提供される。
【0074】
閉経前に過体重または肥満となった女性は、乳癌の素因を有すると考えられる。理論に囚われるつもりはないが、本発明者らが信ずることは、より高いボディ・マス・インデックス(higher mass index)をもつ個体の増大した脂肪組織は、癌塊増殖(cancer mass growth)を推進するエネルギーを提供し、結果としてより高いボディ・マス・インデックスをもつ個体は一般に癌を発生させる危険がある。従って、S6K2活性よりもS6K1活性を選択的に阻害する化合物は、かかる処置を必要とする肥満の個体の癌もしくは癌症状の素因を処置するのに有用であり得る。従って、本明細書における肥満の処置としての記載は、過体重または肥満個体の癌症状(例えば、乳癌)などの体重異常と関連する症状にも適用する。
【0075】
肥満は通常ボディ・マス・インデックス(BMI)を測定することで定義するが、それは簡単な式を用いて計算する(体重kgを身長mの二乗で割る)。BMIの計算値が18.5〜24.9であるとき、正常体重であるとする;BMI値25〜29.9kg/mは過体重であることを示す;BMI値30〜39.9は肥満であることを示す;またBMI値40以上は病的肥満であることを示す。同様に、BMIの計算値が18.5未満は低体重状態と見なし得る。あるいは、胴回り(脂肪分布を予測)、ウエスト対ヒップ比(脂肪分布を予測)、皮下脂肪(測定する場合には数箇所で;脂肪分布を予測)、またはバイオインピーダンス(除脂肪マスが脂肪マスよりも良好に電流を通すという原理に基づく;すなわち、脂肪マスが電流を妨害する;%脂肪を予測)を測定し得る。過体重個体は、胴回りが男性で>94cm、女性で>80cm、ウエスト対ヒップ比が男性で>0.95、女性で>0.80として特徴づけられる。肥満の個体は、胴回りが男性で>102cm(40インチ)、女性で>88cm(35インチ)として特徴づけられる。
【0076】
脂肪蓄積による体重異常(例:肥満などの過体重状態)の処置に使用するS6Kモジュレーター(例、インヒビター)は、従って、モジュレーターの正確な性質に基づいて、常套の方法に従い医薬品として製剤化可能であり、典型的にはモジュレーターまたはその前駆体と生物学的に許容し得る担体とを含んでなる。様々な治療を考慮して、かかる治療はS6K1を発現することの示された組織、特に脂肪細胞を標的とし得る。
【0077】
化合物を、治療的に有効な用量で投与する。本明細書にて使用する場合の用語“治療的に有効な量”とは、化合物または医薬組成物の量が、組織、系、動物またはヒトに有益な生物学的または医学的応答を引き出すことを意味する。例えば、S6K1阻害性化合物の治療的に有効な量は、脂肪組織の減少から生じる体重減少において、その改善が臨床的に検出され得るものとする用量である。
【0078】
処置とは、脂肪蓄積による体重異常の症候を緩和する目的での個体の管理と介護を含む。処置とは、障害の症候または合併症の発症を予防し、症候または合併症を緩和し、あるいは症状または障害を除くために、化合物を投与することを含む。
【0079】
罹患細胞または組織へのモジュレーターの送達は、適切なパッケージまたは投与システムを用いて実施し得る。例えば、モジュレーターを医薬投与に使用し得る薬剤とともに治療用に製剤化し、許容し得る経路で被験者に送達し、所望の生理作用を生じさせることができる。有効量とは、体重減少など所望の生理作用を生じる量である。
【0080】
本発明のさらなる側面において、本発明はまた、脂肪蓄積による体重異常(例:肥満)の処置または予防的処置用の医薬製造のためのモジュレーター(例:S6キナーゼ1の選択的インヒビター)をも提供する。適切なモジュレーター、とりわけインヒビターは、上に検討した機能的または他のアッセイ法により同定されるものであり、例えば、さらに毒性試験を実施した後に、医薬中に組込ませることができる。従って、当該方法は選択したモジュレーターを、例えば、脂肪蓄積による体重異常を制御することの望ましい疾患の医薬として製剤化する工程を含む。これらの疾患処置に使用するかかるインヒビターおよび医薬品、ならびにそれらの使用からなる処置方法もさらに本発明の側面を形成する。
【0081】
該組成物は上記の構成成分に加えて、医薬的に許容し得る賦形剤、保存剤、可溶化剤、粘性増強物質、安定剤、湿潤剤、懸濁化剤、甘味剤、着色剤、芳香剤、浸透圧調節用塩、バッファー、またはコーティング剤を含み得る。かかる原材料は非毒性であり、有効成分の効果を阻害しないものであるべきである。担体または他の原材料の詳細な性質は投与ルートに左右され得る。技法とプロトコールの例は、「Reminntonn's Pharmaceutical Sciences」(レミントンの薬剤学)(16th edition, Osol, A.(ed.), 1980)に見出し得る。
【0082】
該組成物を医薬組成物に製剤化する場合、その投与は経口、経鼻(例:経鼻スプレーなどの形状)または直腸経由(例:座剤の形状)などのような経腸的に実施し得る。しかし、投与は筋肉内、静脈内、皮内、皮下、または腹腔内(例:注射溶液の形状)など非経腸的にも実施し得る。
【0083】
従って、例えば、医薬組成物が錠剤の形状である場合、該錠剤は固体担体、例えば、ゼラチンまたは佐剤などを含み得る。錠剤、被覆錠剤、糖衣錠および硬ゼラチンカプセル剤などの製造の場合、活性化合物およびその医薬的に許容し得る酸付加塩は、医薬的に不活性な無機または有機の添加剤で処理加工することができる。乳糖、トウモロコシ、デンプンもしくはその誘導体、タルク、ステアリン酸もしくはその塩などが、例えば、錠剤、糖衣錠および硬ゼラチンカプセル剤用の添加剤として使用し得る。軟ゼラチンカプセル用の適切な添加剤は、例えば、植物油、ロウ、脂肪、半固体および液体ポリオールなどである。該組成物が液体医薬製剤の形状である場合、一般には液体担体、例えば、水、石油、動物油もしくは植物油、鉱油または合成油などを含む。生理食塩水、デキストロースもしくは他の糖類溶液、またはエチレングリコール、プロピレングリコールもしくはポリエチレングリコールなどのグリコール類も包含される。液剤およびシロップ剤の製造に適する他の添加剤は、例えば、水、ポリオール、サッカロース、転化糖、グルコース、トレハロースなどである。注射溶液に適する添加剤は、例えば、水、アルコール、ポリオール、グリセロール、植物油などである。静脈内、皮内または皮下注射、または脳内カテーテル注入剤用には、該活性成分は、発熱物質を含まず、適当なpH、等張性および安定性を有する非経口投与可能な水溶液の形状となる。関連の当業者は、例えば、塩化ナトリウム注射剤、リンゲル注射剤、乳酸化リンゲル注射剤などの等張性ビヒクルを用いて、適切な溶液を容易に調製し得る。必要に応じ、保存剤、安定化剤、緩衝剤および/または他の添加物を含めることも可能である。
【0084】
また、脂肪蓄積による体重異常の処置を評価する方法であって、S6Kキナーゼ遺伝子、特にS6K1を含む非ヒト動物に治療剤(例えば、本明細書に示したスクリーニング方法により同定した治療剤)を投与し、当該薬剤の体重増加または減少に及ぼす影響を判定することからなる方法が提供される。あるいは、肥満組織または末梢血などのサンプルを採取し、S6K濃度または活性レベルについて試験し、S6Kに対する調節効果を確立することができる。
【0085】
さらに、体重異常の処置を評価する方法であって、S6キナーゼ欠損の非ヒト動物(ノックアウト動物など)、特にS6K1欠損動物に治療剤を投与し、該薬剤の作用を判定することを含む方法が提供される。かかる方法を用いて、該治療剤の不所望の副作用が存在するか否かを立証することができる。
【0086】
本発明者らは高脂肪食で飼育した野生型マウスで、肥満の遺伝的マウスモデルであるob/obマウス(実施例9参照)と同様に、S6K1活性が顕著に上昇することを示した。従って、本発明は体重異常の素因を診断する方法であって、個体からサンプルを採取すること;当該サンプル中のS6キナーゼ、好ましくはS6キナーゼ1のレベルを検出すること;および正常対照値または値の変動幅と比較した時の、前記サンプル中のS6キナーゼ量の変化を体重異常の素因と相関させること;を含む方法を提供する。S6キナーゼの存在は抗体を用いるか、または上記の活性アッセイ法を用いて容易に決定し得る。S6K発現は例えば、PCR技法を用いて転写レベルでも検出し得る。タンパク質レベルを検出する際、S6K1を特異的に測定したい場合、S6K2に特異的な抗体を対照として使用し得る。一般に、正常対照値または値の変動幅と比較しときに、S6キナーゼ1活性が少なくとも10%、好ましくは少なくとも20%、30%、40%または50%上昇すると、肥満の素因があるとする。最も好ましくは、活性の上昇は対照値の少なくとも2倍である。そのサンプルは組織サンプルまたは体液でもよいが、好ましくは脂肪組織である。
【0087】
S6K1の活性を(S6K2などの他のS6Kイソ型から独立して)測定するために、サンプルを試験対象から採取する。サンプル中に存在する細胞を溶解し、タンパク質を抽出する。所望により、さらなる精製工程を実施してもよい。次いで、サンプルを、S6K1特異抗体を用いて免疫沈降に付し得るが、これは技術上既知である。S6K1の免疫沈降に続いて、標準のキナーゼアッセイを上記のとおりに実施し得る。
本発明を以下の実施例によりさらに説明するが、これらは説明のみを目的とするものである。
【0088】
実施例
本明細書の開示と実施例にて言及してはいるが明瞭に記載していない分子遺伝学、タンパク質とペプチドの生化学、および免疫学の方法については、科学文献に報告があり、また当業者周知である。例えば、遺伝子工学の標準的方法は本質的に文献(Sambrook et al., Molecular Cloning: A laboratory manual, 2nd Ed., Cold Spring Harbor Laboratory Press, Cold Spring Harbor NY, 1989)に記載されたとおりに実施する。
【0089】
実施例1:S6K1欠損マウスは野生型よりも小さい
S6K1欠損マウスは、胚形成時に身体サイズの減少が見られるが、その影響は成体期までに殆ど克服され、11週令までには20〜15%に縮小する。本実施例はS6K1欠損マウスが、加齢とともに野生型に比べ低い体重を維持することを証明する。正常の固形食餌(NCD、脂肪由来の総カロリーの4%、3035キロカロリー/kg、KLIBA−NAFAG、スイス)で飼育したオスマウスを10週令から17週間観察した。
【0090】
S6K1欠損マウスは文献(Shima et al., 1998, EMBO J., 17, 6649-6659)記載どおりに生成させた。マウスはC57BI/6および129Oiaマウス系統由来のハイブリッド背景を保持しており、12匹の群(3ケージ)として収容し、12時間の明期/12時間の暗期サイクルを維持した(06:00GMTで点灯)。体重を、通常の固形飼料で飼育した野生型(wt)およびS6K1欠損マウスにおいて週ごとに記録した。意外なことに、結果はS6K1-/-マウスの体重増加速度が野生型マウスよりも相当に遅いことを示し、結果として、27週目の体重と10週目で比較した体重の差が25%に増大していた。また、注目すべきことは、S6K1-/-マウスが野生型(wt)マウスに比べて体重の変動が小さいことであった。
【0091】
そのデータを下記表IおよびIIに示すが、データはS6K1欠損マウスがwtに比較して小型であり、体重も低いことを示す。
【表1】

【表2】

【表3】

【表4】

【0092】
実施例2:S6K1欠損マウスは体脂肪が低下している
マウスを解剖し、実施例1に記載したS6K1欠損マウスが示す低体重の原因を判定した。S6K1欠損マウスは腹腔内の脂肪体が少ないことが分かった。各脂肪マスと臓器マスを6ヶ月令のオスマウスから取り出した組織について重量計測した。S6K1欠損マウスの解剖から、精巣上体白色脂肪細胞組織が野生型マウスに比べて著しく低下していることが分かる(0.8%±0.1%、比較3.4%±0.1%;値は平均値±標準誤差平均;S.E.M)。褐色脂肪組織/体重率もまた、S6K1欠損マウスで減少した(0.5%±0.05%、比較1.0±0.1%)が、一方で臓器サイズは本質的に影響を受けていなかった(下記表III参照)。同様の結果はメスのマウスにも認められた。脂肪の低下は肝臓または筋肉における脂肪沈着の選択的減少と関係していなかった。
【表5】

【0093】
データはS6K1-/-マウスにおいては野生型マウスと比較して体の白色脂肪および褐色脂肪が低下していることを立証する。
【0094】
実施例3:S6K1欠損脂肪細胞はより小型である
S6K1欠損マウスでは何故脂肪が少ないかを立証するために、脂肪組織切片をヘマトキシリンとエオジンで染色し、組織顕微鏡を用い、20倍の倍率で可視化した。S6K1欠損マウス由来の精巣上体白色脂肪組織(WAT)および褐色脂肪組織の両方が、野生型と比べて細胞サイズが小さかった。
【0095】
細胞密度とサイズを、WATの肥満組織切片で定量した。細胞数を、各遺伝子型について3匹の個々の動物からの6つの切片上、120×120mmの範囲内で、イメージ・プロプラス・ソフトウエア(メディア・サイバネティックス(Media Cybernetics))を用いて計数した。データを下記表IVに示す。
【表6】

【表7】

【表8】

【表9】

【0096】
精巣上体脂肪体における脂肪細胞サイズを走査電子顕微鏡により、またはヘマトキシリン−エオシン染色により分析すると、細胞サイズが劇的に縮小していることが分かり、それを定量化するとS6K1-/-マウス由来の脂肪細胞が野生型マウスのものよりも71%も小さく(wt:3129±904、n=3;S6K1-/-:918±189mm2,n=3、P<0.05)、多くの肥満細胞が多房性表現型を示すことが明らかとなった。これらの研究はまた、体重などの細胞サイズ分布が、野生型マウスに比べてS6K1-/-マウスでははるかにより均一であることが明らかとなり、また細胞表面積対総質量の大まかな計算が、細胞数に対する影響が小さいことを示唆した。要約すると、電子顕微鏡分析、組織学分析および細胞密度/サイズ分析からの結果は、S6K1欠損動物での脂肪減少が脂肪細胞サイズの減少によるものであることを立証する。
【0097】
実施例4:食餌がS6K1欠損マウスにおける低脂肪の原因ではない
S6K1マウスが野生型マウスとは食餌量に差があるかどうかを立証するために(それは、S6K1マウスの脂肪減少を説明するかもしれない)、正常または高脂肪固形飼料を用い、マウス1匹あたりの食物摂取量を1日おきに15日間測定した。正常飼料で飼育したか、または高脂肪飼料で飼育したか否かに関わらず、S6K1欠損マウスは野生型と同じ総量の食物を摂食するが(約4.6±0.1g食物/マウス/日)、体重で比較すると、より多くを摂食する(約17%以上、または0.15g食物/g体重/日に比べて0.18g)。
【0098】
実施例5:S6K1欠損マウスは代謝速度が高まる
食物摂取量が増加すると、減少したWATと組合わさって、代謝活性上昇の可能性が高まった。S6K1欠損マウスと野生型マウスの代謝速度を、オキシマックス(Oxymax)(コロンバス・インスツルーメント(Columbus Instruments)、コロンバス、オハイオ)を用い間接的熱量測定により試験し、8時間の絶食期間にかけて、15分ごとに酸素消費および二酸化炭素産生をモニターした。
【0099】
実験による結果は、S6K1-/-マウス対野生型マウスにおける酸素消費速度に顕著な27%の増加を示す。呼吸交換比(RER=産生されるCOと消費されるOの比)の計算は、野生型マウスについて0.713±0.004の値、またS6K1-/-マウスについては0.709±0.003、P<0.01を与えたが、これは両方の動物がエネルギー源として脂肪酸を主に利用したことを示している。
【0100】
代謝産物のアッセイを以下のように実施した。一夜絶食した後、または摂食開始の1時間後に一夜絶食した後、眼窩後洞から採血した。非エステル化脂肪酸およびトリグリセリドを、酵素アッセイ(ベーリンガー−マンハイム、ドイツ)により定量した。血漿レプチンを、ラットレプチンRIAキット(リンコ・リサーチ(Linco Research)、セントルイス、ミズーリ)を用い測定した。結果を表Vに示す。血漿レプチンレベルはS6K1-/-マウスにおいて有意に低下していたが(表V)、体重に比例してマウスの食物消費量が増大していた。
【表10】

データは平均±s.e.m.を表す、P<0.05、野生型と比較(n=6〜18)。
P値は両側不対スチューデントt−テストにより計算した。
【0101】
理論に囚われるつもりはないが、脂肪組織マスの減少、代謝速度の上昇、および体重を修正したときに、血漿グリセリドと遊離脂肪酸が遺伝子型間で類似していたという事実があるとすれば(表V)、S6K1の存在しない場合、脂肪組織のトリグリセリドが急速に利用されていたか、または遊離脂肪酸が貯蔵用の脂肪組織に到達し得ず、直ちに筋肉に取り込まれ酸化されたかのいずれかであると推論された。
【0102】
WATは通常エネルギー消費組織ではないが、野生型マウスと比べたとき、S6K1-/-マウスにおいて脂肪酸を循環させる基礎レベルに差がなかった(表V)ということは、遊離脂肪酸がWATで直接酸化され得ることを示唆する。この仮説と矛盾無く、電子顕微鏡写真は、多くの多房性脂肪細胞の存在を明らかにしたが、この細胞ではサイズとミトコンドリアの数が劇的に増大していた;表現型は野生型由来の脂肪細胞には全く存在しないものである。その他はWATにおけるUCP1の過剰発現が同様の表現型を誘発し、定量的リアルタイムPCRにより測定したUCP1レベルが、野生型からのWATに比較して、S6K1-/-マウス由来のWATにおいて劇的に上方制御を受けたことを示していた。
【0103】
実施例6:S6K1欠損マウスは基礎脂肪分解の増大を示す
脂肪組織におけるトリグリセリドの分解(脂肪分解)を、成熟脂肪細胞からの脂肪酸またはグリセロールのいずれかの放出をモニターすることにより測定した。一次脂肪細胞を、すでに記載されているような(Marette et al., 1991)コラゲナーゼ消化により、精巣上体脂肪体から調製した。細胞を、異なる濃度(10−8ないし10−5M)でのノルエピネフリン(シグマ−アルドリッチSARL、セントクエンチン・ファラビール(St-Quentin Fallavier)、フランス)の存在下または不存在下に、37℃で30分間インキュベートした。ノルエピネフリンは、ベータ−アドレナリンアゴニストであり、脂肪細胞トリグリセリドのグリセロールおよび遊離脂肪酸への分解(脂肪分解)を促進し、基礎代謝速度を上昇させる(熱発生)。精巣上体脂肪細胞の細胞サイズの減少(実施例3参照)にも関わらず、結果は脂肪酸放出の基礎速度が野生型マウスと比較して、S6K1-/-マウスからの脂肪細胞においては約5倍高いことを示した。脂肪酸放出速度は、ノルエピネフリンを加えたことによって、両方の遺伝子型において用量依存的に上昇して同様の最大値に達し、その上昇は野生型マウスにおいてより急激であった。同様の結果がグリセロールの放出についても得られた。従って、S6K1-/-マウスは基礎脂肪分解における急激な上昇のために一部脂肪蓄積から保護される。
【0104】
実施例7:S6K1欠損マウスは脂肪生成が損なわれている
脂肪分解研究のための成熟脂肪細胞の単離に際して、S6K1-/-マウスの精巣上体WATに存在する前脂肪細胞はほんのわずかであることが明らかになった。このことが、脂肪細胞がトリグリセリドを貯蔵できないということと相俟って、脂肪細胞分化混合物を用いて、S6K1-/-と野生型の胚由来のマウス胎児性線維芽細胞(MEF)を脂肪細胞に分化させる能力を比較する実験を思いつかせた。
【0105】
簡単に説明すると、脂肪細胞の分化はすでに文献(Hansen et al., 1999, J. Biol. Chem., 274, 2386-2393)に記載されているように、本質的には野生型またはS6K1欠損マウス胎児性線維芽細胞(MEF)を用いて誘発された。MEFの継代数は一継代内であった。分化のために、2日後の集密細胞(0日)を増殖培地(1μMデキサメタゾン(シグマ)、0.5mMメチルイソブチルキサンチン(アルドリッチ)、5μg/mlインスリン(ベーリンガー・マンハイム)、およびシグリタゾン(チアゾリンジオン、PPARアゴニスト:BIOMOL、GR−205、0.5μM)で2日間処理した。2日目から培地には5μg/mlのインスリンとシグリタゾンを含め、1日おきに取り替えた。オイル・レッドO染色:オイル・レッドO染色溶液(0.5%オイル・レッドO/イソプロピルアルコール溶液−蒸留水(60:40))を濾過した。細胞をPBSで洗浄し、30分間染色し、次いで蒸留水で2回洗浄した。S6K1欠損細胞はわずかな染色を示した。それ故、S6K1を欠くMEFは、減少したオイル・レッドO脂質染色により評価されるように、脂肪生成の潜在力が低下しており、P2mRNAの低レベルと一致する。これらをまとめると、結果はS6K1-/-マウスは脂肪生成が損なわれており、また脂肪を貯蔵できないためにWATが低下したことを示唆する。
【0106】
実施例8:S6K1欠損マウスは食餌誘発肥満に対して保護される
S6K1-/-マウスが加齢とともに脂肪を蓄積し得ないことは、その代謝速度が全体として上昇したことと相俟って、これらのマウスが食餌誘発肥満に対して保護されている可能性のあることを示唆した。この実施例において、体重を、高脂肪食餌(HFD、脂肪由来総カロリーの60%;4057キロカロリー/kg、リサーチダイエット、米国)で飼育した野生型およびS6K1欠損マウスにおいて毎週記録した。S6K1マウスを高脂肪食餌で飼育した場合、S6K1欠損マウスの絶対体重増加は、高脂肪食摂食の期間中(7週令から27週令)約10.5gであり、比較した野生型マウスで約14.4gであった。NCDでの状況同様に(実施例1)、S6K1-/-マウスは野生型マウスと比較してHFDでの体重の変動が小さかった。ノックアウトの体サイズが小さいとすれば、相対的体重増加は遺伝子型間で同様であった(5ヶ月間の高脂肪食摂食後、野生型の体重増加58.0%に比較して、S6K1欠損マウスの体重増加は58.9%)。S6K1欠損マウスの体重増加の相対比が野生型と同様であったとしても、これらマウスは野生型マウスと同程度まで脂肪を増やすことはできていない。3ヶ月間にわたって、野生型マウスではS6K1欠損マウスによる0.02g/g脂肪/体重と比較して、0.1g/g増加した。
【0107】
両遺伝子型のマウスはNCDよりもHFDで摂食量がすくなかったが、恐らくNCDに比べてHFDがより高カロリー密度であることによる。一定の期間に、S6K1-/-マウスは野生型マウスと同量の食餌を消費するが、体重に対して標準化するとかれらは44%より多い食餌を消費する。従って、S6K1マウスがより摂食するとしても、かれらが野生型マウスと同程度まで脂肪を増やすことはない。
【0108】
間接的な熱量測定を、HFDおよびNCDマウスについて8時間の絶食期間にわたり実施した。両方の遺伝子型において、酸素消費はNCDに比べてHFDで増大したが、その作用はS6K1-/-マウスに対してより顕著であり、結果としてS6K1-/-マウスと野生型マウス間の差は25%〜30%増加した。データはさらに、RERがHFD対NCD(それぞれ、0.708±0.002対0.709±0.004)に関してS6K1-/-マウスでは未変化のままであり、一方、野生型マウスではNCDでの0.713±0.004からHFD食餌での0.729±0.002(n=6、P<0.01)に増加し、脂肪酸酸化に比例して炭水化物が増加することを暗示した。両食餌に対してS6K1-/-マウスは高代謝速度を示すという事実にも関わらず、HFDについては、循環遊離脂肪酸レベルが3倍の増大を示したが、一方、野生型マウスでは遊離脂肪酸レベルに有意な変化はなかった(表V)。それ故、S6K1-/-マウスはHFDをチャレンジしたとき、測定可能な速度で脂肪を蓄積し得ない。
【0109】
実施例9:高脂肪食餌で飼育した肥満動物と野生型動物は脂肪組織にてS6K1リン酸化の上昇を示す
S6K1が正常および肥満遺伝モデル由来の肥満組織において影響を受けるかどうかを試験するために、S6K1のリン酸化を検出した。これはホスホ特異抗体を用いて容易に実施し得る。短期間絶食した野生型マウスの脂肪組織においてS6K1 T389とS6S240/S244リン酸化のレベルを測定した。増殖因子の刺激によって、S6は5個のセリン残基のカルボキシ末端でのリン酸化が増大し、その順序はSer236で始まり、引き続き>Ser235>Ser240>Ser244およびSer247となる。S6K1 T389とS6 S240/S244 リン酸化の基底値はNCDで維持した後に短期間絶食したマウスで低値である。それと著しく対照的に、HFDで維持し、同じ条件下で処理した同じマウスは、S6K1 T389とS6 S240/S244リン酸化の高上昇レベルを維持した。
【0110】
本発明者らは、肥満の遺伝的モデルであるob/obマウスのS6K1活性についても試験した。結果は、NCDで維持したob/obマウスがNCDで飼育した野生型マウスに比べて、S6K1 T389とS6 S240/S244リン酸化が上昇していることを示す。予備的なヒトのデータもこれらのデータと一致し、さらにS6K1が肥満罹患患者の処置における有望な薬物標的であること、また潜在的な診断マーカーであることを支持している。
【0111】
本明細書に言及した出版物すべての開示、ならびに2002年10月18日に出願された英国特許出願GB0224338.4号公報、および「肥満処置のためのS6キナーゼ活性のモジュレーション(Modulation of S6Kinase Activity for the Treatment of Obesity)」の名称で2003年8月22日に代理人の事件整理番号1−32727P2とともに出願された米国特許出願は、特に個々に言及したものとして参照により本明細書の一部とする。
【配列表】



【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪蓄積による体重異常の処置に有効な薬剤を同定する方法であって、
i)S6キナーゼと化合物をインキュベートする工程;
ii)S6キナーゼ活性を検出する工程;および
iii)S6キナーゼ活性における化合物の誘発するモジュレーションを当該化合物が存在しない場合と比較して判定する工程であって、ここで、該化合物の存在下におけるS6キナーゼ活性が変化した場合、当該化合物が脂肪蓄積による体重異常の処置に有効な薬剤であり得るとする工程;
を含む方法。
【請求項2】
当該モジュレーションがS6キナーゼ1活性の阻害であり、当該体重異常が肥満または過体重状態である請求項1記載の方法。
【請求項3】
当該モジュレーションがS6キナーゼ1活性の活性化であり、当該が不十分な脂肪蓄積を原因とする低体重状態である請求項1記載の方法。
【請求項4】
S6を基質として用いてS6キナーゼ活性を判定することを含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
ペプチド基質を用いてS6キナーゼ活性を判定することを含む、請求項1〜3のいずれか1項記載の方法。
【請求項6】
体重異常の処置に有効な薬剤のスクリーニング方法であって、(a)少なくとも1つの化合物の存在下にて、プロモーター配列に操作可能に連結するS6キナーゼ遺伝子をエンコードするか、またはレポーター遺伝子に操作可能に連結するS6キナーゼプロモーター配列をエンコードする核酸と転写活性細胞成分を接触させること;および(b)S6キナーゼ発現またはS6キナーゼプロモーター活性における当該化合物の作用を検出することであって、ここで、S6キナーゼ発現またはプロモーター活性に増減ありと検出した場合、当該化合物が脂肪蓄積による体重異常の処置に有効な薬剤であり得るとすることを含む方法。
【請求項7】
当該転写活性細胞成分および当該核酸が細胞に存在するものである、請求項6記載の方法。
【請求項8】
当該S6キナーゼがS6キナーゼ1である請求項6または7記載の方法。
【請求項9】
脂肪蓄積、脂肪代謝または脂肪細胞サイズに対する当該薬剤による作用を検出することをさらに含む、請求項1〜8のいずれか1項記載の方法。
【請求項10】
請求項1〜9のいずれか1項記載の方法により同定される薬剤。
【請求項11】
脂肪細胞サイズを減少させる方法であって、S6キナーゼ2と比較してS6キナーゼ1活性を優先的に低下させるインヒビターの有効量と脂肪細胞を接触させることを含む方法。
【請求項12】
脂肪蓄積による体重異常を処置または予防する方法であって、医薬上有効量のS6キナーゼモジュレーターを被験者に投与することを含む方法。
【請求項13】
当該S6モジュレーターが、S6キナーゼ2と比較してS6キナーゼ1活性を優先的に低下させるインヒビターであり、当該体重異常が肥満または過体重状態である請求項12記載の方法。
【請求項14】
当該インヒビターがS6キナーゼ1のATP結合部位に結合するものである、請求項13記載の方法。
【請求項15】
当該インヒビターがS6キナーゼ1の触媒ドメインに結合するものである、請求項13記載の方法。
【請求項16】
当該インヒビターがS6キナーゼ1に特異的な抗体または抗体フラグメントである、請求項13記載の方法。
【請求項17】
当該インヒビターがS6キナーゼ2と比較してS6キナーゼ1の発現を優先的に減少させるアンチセンス、リボザイムまたはsiRNAである、請求項13記載の方法。
【請求項18】
脂肪蓄積による体重異常を処置または予防的に処置するための医薬の製造におけるS6キナーゼモジュレーターの使用。
【請求項19】
脂肪蓄積または肥満による過体重状態を処置または予防的に処置するための医薬の製造における、S6キナーゼ2と比較してS6キナーゼ1活性を優先的に阻害する薬剤の使用。
【請求項20】
過体重または肥満の個体の癌腫症状を処置または予防的に処置するための医薬の製造における、S6キナーゼ2と比較してS6キナーゼ1活性を優先的に阻害する薬剤の使用。
【請求項21】
当該薬剤がアンチセンス分子、リボザイム、siRNA、抗体または抗体フラグメントである、請求項19または20に記載の使用。
【請求項22】
医薬として使用する AGUGUUUGACAUAGACCUG(配列番号:1)または AAGGGGGCUAUGGAAAGGUUU(配列番号:2)の核酸配列を含んでなる少なくとも一部が二本鎖であるRNA。
【請求項23】
脂肪蓄積による体重異常の素因の診断方法であって、
個体からサンプルを採取すること;
当該サンプル中のS6キナーゼ活性レベルを検出すること;および
正常対照値または値の変動幅と比較した場合のS6キナーゼ活性の変化を、脂肪蓄積による体重異常の素因と相関させること;
を含む方法。
【請求項24】
当該S6キナーゼ活性がS6キナーゼ1活性である、請求項23記載の方法。
【請求項25】
当該変化が、正常対照値または値の変動幅と比較した場合のS6キナーゼ1活性の増加であり、当該体重異常が過体重状態または肥満である請求項24記載の方法。
【請求項26】
少なくとも1つの脂肪細胞、およびS6キナーゼ活性を検出するための手段を含んでなるキット。

【公表番号】特表2006−502744(P2006−502744A)
【公表日】平成18年1月26日(2006.1.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−501296(P2005−501296)
【出願日】平成15年10月17日(2003.10.17)
【国際出願番号】PCT/EP2003/011554
【国際公開番号】WO2004/035815
【国際公開日】平成16年4月29日(2004.4.29)
【出願人】(502407336)ノバルティス・フォルシュングスシュティフトゥング・ツヴァイクニーダーラッスング・フリードリッヒ・ミーシェー・インスティトゥート・フォー・バイオメディカル・リサーチ (19)
【氏名又は名称原語表記】Novartis Forschungsstiftung Zweigniederlassung Friedrich Miescher Institute for Biomedical Research
【Fターム(参考)】