説明

肥満治療のためのMTP阻害剤の固体非晶性分散体

組成物は、(S)−N−{2−[ベンジル(メチル)アミノ]−2−オキソ−1−フェニルエチル}−1−メチル−5−[4'−(トリフルオロメチル)[1,1'−ビフェニル]−2−カルボキサミド]−1H−インドール−2−カルボキシアミドおよびポリマーを含んでなる固体非晶性分散体からなる。

【発明の詳細な説明】
【背景技術】
【0001】
本発明は、肥満治療のためのミクロソームトリグリセリド転送タンパク阻害剤(MTP阻害剤)を含んでなる固体非晶性分散体に関する。
【0002】
肥満は、有病率や関連する健康リスクを高めるため、多くの人々にとって健康における関心事である。肥満および過体重は、一般にボディマス指数(BMI)によって定義され、これは全身脂肪と相関関係があり、疾患の相対リスクが推定される。BMIは、体重(キログラム)を身長(メートル)の二乗で割って算出する。過体重は、典型的にBMI25〜29.9kg/m2として定義され、肥満は典型的にBMI30kg/m2またはそれ以上として定義される。例えば、National Heart, Lung, and Blood Institute, Clinical Guidelines on the Identification, Evaluation, and Treatment of Overweight and Obesity in Adults, The Evidence Report, Washington, DC: U.S. Department of Health and Human Services, NIH publication No. 98-4083 (1998)参照。
【0003】
肥満の増加は、冠状動脈性心疾患、卒中、高血圧、2型糖尿病、異脂肪血症、睡眠時無呼吸、骨関節炎、胆嚢疾患、うつ病、および特定の形態の癌(例えば、子宮内膜、乳房、前立腺および結腸)を含む肥満と関連する過剰の健康リスクのために関心事である。健康についての肥満のマイナスの影響として、これが、米国における防止しうる死亡の第2の主要因であるということであり、そして社会における重大な経済的および心理・社会的影響を与えている。McGinnis M, Foege WH., “Actual Causes of Death in the United States," JAMA, 270, 2207-12 (1993)参照。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
肥満は、現在、それに関連する健康リスクを減らすための治療が必要である慢性疾患として認識されている。体重の減少は重要な治療結果であるが、肥満治療の主な目標の1つは、心臓血管および代謝値を改善して肥満関連の罹病率および死亡率を減らすことである。体重の5〜10%を減量すると血糖、血圧および脂質濃度といったような代謝値を実質的に改善できることがわかった。したがって、体重の5〜10%を意図的に減らすと罹病率および死亡率を低下させることができると考えられる。
【0005】
肥満治療のために現在入手できる処方箋調剤薬は、一般に、飽満感を誘発させるかまたは食事の脂肪吸収を低下させることによって体重を減らす。飽満感は、ノルエピネフリン、セロトニンまたは両方のシナプスレベルを高めることによって達せられる。例えば、セロトニン受容体サブタイプ1B、1Dおよび2C並びに1−および2−アドレナリン受容体を刺激すると、飽満感が制御されて食物摂取が減少する。Bray GA, “The New Era of Drug Treatment. Pharmacologic Treatment of Obesity: Symposium Overview," Obes Res., 3(suppl 4), 415s-7s (1995)参照。アドレナリン作動薬(例えばジエチルプロピオン、ベンズフェタミン、フェンジメトラジン、マジンドールおよびフェンテルミン)は、カテコールアミン分泌の促進を通して中枢神経のノルエピネフリンおよびドーパミン受容体を調節することによって作用する。より古いアドレナリン作動性減量薬(例えばアンフェタミン、メタンフェタミンおよびフェンメトラジン)は、ドーパミン経路に強く関与しており、濫用の危険性があるため、現在は推奨されていない。フェンフルラミンおよびデクスフェンフルラミンは、いずれも食欲を制御するために使用されるセロトニン作動剤であるが、もはや使用するために入手することができない。
【0006】
MTPの阻害では、脂肪吸収および食物摂取の両方を低下させる独特なアプローチが提供される。MTP阻害剤の例は、(S)−N−{2−[ベンジル(メチル)アミノ]−2−オキソ−1−フェニルエチル}−1−メチル−5−[4'−(トリフルオロメチル)[1,1'−ビフェニル]−2−カルボキシアミド]−1H−インドール−2−カルボキシアミド(本明細書では「薬物A」と称する)である。MTP阻害剤は、食物摂取を減少させ、腸の脂肪吸収を阻害することによって体重を減少させる。しかしながら、結晶性薬物Aでは高い多様性および限られた有効性がみられ、これはその低い水溶性のためであると考えられてきた。
【0007】
研究は続けられているが、体重増加を減らすまたは予防するためのより有効かつ安全な治療処置がさらに必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
固体非晶性分散体は、(S)−N−{2−[ベンジル(メチル)アミノ]−2−オキソ−1−フェニルエチル}−1−メチル−5−[4'−(トリフルオロメチル)[1,1'−ビフェニル]−2−カルボキシアミド]−1H−インドール−2−カルボキシアミド(薬物A)およびポリマーを含んでなり、その際、薬物Aの少なくとも主要部分は、非晶性形態であり、そして薬物Aは、固体非晶性分散体の少なくとも約40質量%の量で固体非晶性分散体中に存在する。
【0009】
本発明の前述のおよび他の目的、特徴および利点は、本発明の以下の詳細な説明を考察することでさらに容易に理解されるであろう。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
薬物Aは、式(I):
【化1】

を有する(S)−N−{2−[ベンジル(メチル)アミノ]−2−オキソ−1−フェニルエチル}−1−メチル−5−[4'−(トリフルオロメチル)[1,1'−ビフェニル]−2−カルボキシアミド]−1H−インドール−2−カルボキシアミドである。薬物Aは、2001年6月28日に出願され、同一出願人による米国仮特許出願第60/301,644号に開示されており、現在の米国特許第6,720,351号は、ここに参照により本明細書に組み込まれている。薬物Aは、約674.71の分子量を有する。薬物Aは、その医薬上許容しうる形態のすべてを含むことを理解すべきである。「医薬上許容しうる形態」とは、立体異性体、立体異性体混合物、鏡像異性体、溶媒和物、水和物、同形体、多形体、仮像、中性形態、塩形態およびプロドラッグを含めたすべての医薬上許容しうる誘導体または変種を意味する。
【0011】
薬物Aは、肥満治療を目的とするMTP阻害剤である。現在知られている薬物Aで最も低いエネルギー結晶形態の水中の溶解度は、0.6μg/ml未満である。薬物Aはイオン化できず、cLogP約7.8を有する。これらの特徴は水不溶性の性質の原因となっている。
【0012】
濃度増大
本発明の薬物Aの固体非晶性分散体を含んでなる組成物は、水性使用環境に投薬した時に濃度増大をもたらし、それは、以下の状態の少なくとも1つ、好ましくは両方を満たすことを意味する。第1の状態は、水性使用環境中でその最も低いエネルギー形態の結晶性薬物A単独の同等量を含んでなる対照組成物と比較して組成物が薬物Aの最大薬物濃度(MDC)を高める状態である。対照組成物は、可溶化剤または水溶液中の薬物Aの溶解度に実質的に影響を及ぼす他の成分を含まないことを理解すべきである。対照組成物は、現在知られているその最も低いエネルギーの最も低い溶解度の形態における薬物A単独の結晶形態である。薬物Aの非晶性分散体を含んでなる組成物は、水性使用環境で、対照組成物の少なくとも1.25倍、より好ましくは少なくとも2倍、そして最も好ましくは対照組成物の少なくとも3倍のMDCの薬物Aを供給することが好ましい。
【0013】
第2の状態は、薬物Aの固体非晶性分散体を含んでなる組成物が、水性使用環境中で現在知られているその最も低いエネルギーの形態の結晶性薬物A単独の同等量からなる対照組成物と比較して薬物Aの濃度対時間曲線(AUC)下の溶解領域を高める状態である。より詳しくは、使用環境において、組成物は、使用環境に導入した後、約0〜約270分の期間のいずれか90分の間に上記の対照組成物の少なくとも1.25倍のAUCが得られる。組成物によって得られるAUCは、対照組成物の少なくとも2倍、より好ましくは少なくとも3倍であることが好ましい。
【0014】
「水性使用環境」は、in vivo環境、例えば動物、特にヒトの消化管、または試験溶液のin vitro環境、例えばリン酸緩衝生理食塩水(PBS)溶液またはModel Fasted Duodenal(MFD)溶液であってもよい。適当なPBS溶液は、20mM Na2HPO4、47mM KH2PO4、87mM NaClおよび0.2mM KClを含み、NaOHでpH6.5に調整された水溶液である。適当なMFD溶液は、7.3mMナトリウムタウロコール酸および1.4mM 1−パルミトイル−2−オレイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリンが存在している同様のPBS溶液である。MFD溶液は、290ミリオスモル(mOsm)/kgの浸透圧に調整することができる。特に、本発明の方法によって形成される組成物は、それをMFDまたはPBS溶液に加え、撹拌して溶解を促進することによって溶解試験することができる。本発明者らは、in vitro溶解試験が、in vivo性質の良好な予測因子であり、従って、in vitroおよびin vivo使用環境のいずれかまたは両方において濃度増大が得られる場合、組成物は本発明の範囲内にあることを見出した。使用環境は、動物の消化管である場合、溶解した薬物濃度は、患者に管を挿入し、直接消化管の試料を定期的に採取することによって測定することができる。
【0015】
水溶液中の高められた薬物A濃度を評価するin vitro試験は、(1)十分な量の対照組成物、典型的に結晶性薬物A単独を、in vitro試験媒体、例えばMFDまたはPBS溶液に撹拌しながら加え、薬物Aを平衡濃度にし;(2)個々の試験において、全ての薬物Aが溶解した場合、薬物Aの理論上の濃度が薬物Aの平衡濃度の少なくとも2倍、そして好ましくは少なくとも10倍となるように同じ試験媒体中の十分な量の試験組成物(例えば非晶性薬物Aを含む組成物)撹拌しながら加え;そして(3)試験媒体中の試験組成物の測定されたMDCおよび/または水性AUCを、平衡濃度および/または対照組成物の水性AUCと比較する:ことによって実施することができる。MDCにおける最も大きい増大を定量化するには、使用した試験組成物および対照組成物の量は、試験組成物の少なくとも一部が、MDC時に試験媒体中に未溶解のまま残るようでなければならない。
【0016】
溶解した薬物Aの濃度は、典型的に試験媒体を採取し、MDCを確認することができるように試験媒体中の薬物Aの濃度対時間にプロットすることによって時間の関数として測定される。MDCは、試験期間中にわたって測定された溶解した薬物Aの最大値ととるべきである。 水性AUCは、水性使用環境中に組成物を導入した時間(時間がゼロの時)
および使用環境に導入後270分(時間が270分の時)の間のいずれか90分の期間にわたる濃度対時間曲線を積分することによって算出される。典型的に、組成物が急速に、すなわち約60分未満のうちにそのMDCに到達した場合、AUCを算出するために用いる時間の間隔は、0から90分までの時間である。しかしながら、上記のいずれか90分の時間にわたる組成物のAUCが本発明の基準を満たす場合、形成された組成物は、本発明の範囲内にあると考えられる。
【0017】
測定を誤る大きな薬物微粒子を取り除くため、試験溶液を濾過または遠心分離する。「溶解した薬物」は、典型的に0.45μmシリンジフィルタを通過する物質、またはそれとは別に遠心分離後の上澄み中に残る物質のいずれかである。濾過は、商標TITAN(R)の下でScientific Resourcesによって販売された13mm、0.45μmポリビニリジンジフルオリドシリンジフィルタを用いて実施することができる。遠心分離は、典型的にポリプロピレンマイクロ遠心分離管中、13,000Gで60秒間遠心分離することによって実施される。他の同様の濾過または遠心分離方法を使用することができ、有用な結果が得られる。例えば、別のタイプのミクロフィルターを使用すると、上記のフィルタで得るよりいくらか高いまたは低い値(±10〜40%)を得ることができるが、好ましい分散体の確認は依然として可能である。「溶解した薬物」のこの定義は、単量体の溶媒和された薬物分子だけでなく、また、広範囲にわたる種類、例えばサブミクロンの寸法を有するポリマー/薬物集合体、例えば薬物凝集体、ポリマーおよび薬物の混合物の凝集体、ミセル、ポリマーミセル、コロイド粒子またはナノクリスタル、ポリマー/薬物複合体およびその他、明記された溶解試験において濾液または上澄み中に存在するこのような薬物を含む種類を包含することを認識すべきである。
【0018】
消化管中で少なくとも一時的に薬物Aの溶解度を改善することが望ましいが、薬物の有効性を維持しながら薬物Aへの全身性曝露を制限することも望ましい。脂肪吸収の阻害は、腸管の腸細胞で起こる。MTP阻害剤の全身性曝露(すなわち血液中へのMTP阻害剤の吸収)は、必要ではなく、また望まれない。従って、消化管中の溶解した薬物の濃度は、有効性(すなわち食物摂取および脂肪吸収を減らす)を得るのに十分高いが、血液中への薬物Aの吸収を制限するのに十分に低いレベルで維持するのが好ましい。従って、好ましい実施態様において、本発明は、患者の体重を減らす際に有効となるように、消化管のような水性使用環境において、結晶性薬物と比較して、溶解した薬物Aの濃度がより高くなるが、消化管中で溶解した薬物の濃度が血液中への吸収が制限されるように十分に低い、非晶性薬物Aを含んでなる組成物に関する。
【0019】
固体非晶性分散体
組成物は、薬物Aおよびポリマーの固体非晶性分散体を含んでなる。「非晶性」は、薬物Aが「結晶性」ではないことを意味する。「結晶性」は、薬物が、三次元の各次元において少なくともの100個の繰り返し単位の長い範囲の秩序を示すことを意味する。従って、非晶性なる用語は、本質的に秩序を有しない物質だけでなく、また、いくらか小規模の秩序を有しうるが、その秩序が三次元より少ないおよび/または短い距離しかない物質も含まれるものとする。非晶性物質は、当分野で知られている技術、例えば粉末X線回折(PXRD)結晶学、固体NMR、または熱技術、例えば示差走査熱量測定法(DSC)によって特徴付けることができる。本発明の組成物は、非晶性および結晶性の薬物Aの両方を含むことができるが、組成物中の薬物Aの少なくとも主要部分は非晶性形態であることが好ましい。「主要部分」とは、少なくとも60質量%を意味する。組成物中の薬物Aの少なくとも75質量%は、非晶性形態であることが好ましく、そして薬物Aの少なくとも90質量%が非晶性形態であることがより好ましい。固体非晶性分散体が結晶性薬物Aを実質的に含まないことは最も好ましい。結晶性薬物Aの量は、粉末X線回折(PXRD)、走査型電子顕微鏡(SEM)分析、示差走査熱量測定(DSC)、または他のいずれかの標準定量的測定法によって測定することができる。
【0020】
ポリマーは、固体非晶性分散体の中で、比較的純粋なドメインまたは領域中に、非晶性薬物Aの中で均質に分散されたポリマーの固体溶液またはこれら状態のいずれかの組み合わせもしくはそれらの間の中間の状態として存在することができる。固体非晶性分散体は、実質的に均質であって、非晶性薬物Aおよびポリマーが、互いにできるだけ均質に分散されていることが好ましい。本明細書に使用されているように、「実質的に均質である」は、固体非晶性分散体中の比較的純粋な非晶性薬物ドメインまたは領域中に存在する薬物Aの画分は、20質量%またはそれ未満であることを意味する。固体非晶性分散体は、ほとんど完全に均質であることが好ましく、これは純粋な薬物ドメイン中に存在する薬物の画分が薬物の総量の10質量%またはそれ未満であることを意味する。少なくとも実質的に均質である固体非晶性分散体は、非均質な分散体と比較して一般に物理的により安定であり、改善された濃度増大性を有し、そしてさらに改善された生物学的利用能を有する。好ましい実施態様において、固体非晶性分散体は、薬物およびポリマーのガラス転移温度の中間に少なくとも1つのガラス転移温度を有し、それは薬物およびポリマーの少なくとも一部が、分子的に分散されていることを表す。より好ましい実施態様において、固体非晶性分散体は、薬物およびポリマーのガラス転移温度の間の中間に単一のガラス転移温度を有し、それは固体非晶性分散体が完全に均質である(すなわち固溶体)ことを表す。
【0021】
ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、セルロースアセテートフタレート(CAP)、セルロースアセテートトリメリテート(CAT)、カルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)、およびそれらの混合物からなる群より選ぶことができる。
【0022】
好ましい実施態様において、ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(すなわち「HPMCAS」)である。本明細書および特許請求の範囲に使用されているように、「HPMCAS」とは、2−ヒドロキシプロポキシ基(−OCH2CH(CH3)OH、以下ヒドロキシプロポキシ基と称する)、メトキシ基(−OCH3)、アセチル基(−COCH3)、およびスクシノイル基(−COCH2CH2COOH)を含むセルロース誘導体のポリマーを意味する。他の置換基は、HPMCASの性能および性質に実質的に影響を及ぼさなければ、ポリマー上に少量含むことができる。
【0023】
一般に、それぞれの置換基の置換度は、ポリマーの他の基準を満たしている限り0.1〜2.9の範囲であることができる。HPMCAS上の置換基または基の「置換度」とは、セルロース鎖上の糖類反復単位上で置換されたその置換基の平均数を意味する。置換基は、糖類反復単位上の3つのヒドロキシルのいずれかを置換することによって糖類反復単位に直接結合することができ、または、それらはヒドロキシプロポキシ置換基を通して結合することができ、ヒドロキシプロポキシ置換基は、糖類反復単位上の3つのヒドロキシルのいずれかを置換することによって糖類反復単位に結合している。例えば、糖類反復単位上の3つのヒドロキシルのうちの2つがメトキシ基で置換されている場合、メトキシ基の置換度は、2.0である。
【0024】
HPMCASは、信越化学工業(東京、日本)から商業的に入手可能であり、商品名「AQOAT」で知られている。信越化学工業は、種々のpHレベルで腸保護するために異なる置換パターンを有する3種のグレードのAQOATを製造している。AS−LFおよびAS−LGグレード(「F」は微細を表し、そして「G」は粒状を表す)は、pH約5.5まで腸保護する。AS−MFおよびAS−MGグレードは、pH約6.0まで腸保護をもたらすが、一方AS−HFおよびAS−HGグレードは、pH約6.8まで腸保護をもたらす。しかしながら、本発明の分散体中にHPMCASを用いる目的は、腸保護をもたらすことではなく、薬物Aの水性濃度を高めることに留意する必要がある。
【0025】
信越化学工業は、これらの3種のグレードのAQOATポリマーについて以下の仕様を記載している:
【表1】

【0026】
好ましいポリマーは、HグレードのHPMCASである。
【0027】
薬物Aは、固体非晶性分散体の少なくとも約40質量%の量(または薬物対ポリマーの比率が少なくとも約0.66)で固体非晶性分散体中に存在する。薬物Aは、より多い量で存在することができ、そして少なくとも約50質量%の量(または薬物対ポリマーの比率が少なくとも約1)で、少なくとも約60質量%の量(または薬物対ポリマーの比率が少なくとも約1.5)で、またはさらに少なくとも約75質量%の量(または薬物対ポリマーの比率が少なくとも約3)で固体非晶性分散体中に存在することができる。好ましい実施態様において、薬物Aは、固体非晶性分散体の少なくとも約85質量%の量(または薬物対ポリマーの比率が少なくとも約5.7)で固体非晶性分散体中に存在する。薬物充填量の高い分散体は、薬物充填量の低い固体非晶性分散体と比較して溶解した薬物濃度がより低い傾向がある。薬物装填量の高い分散体は、結晶性薬物と比べて、水性使用環境中でより高い溶解した薬物濃度を達成することができるが、また、薬物充填量の低い分散体と比較して全身性曝露が制限される。固体非晶性分散体は、薬物A少なくとも約90質量%またはさらに少なくとも約95質量%を含むことができる。従って、例えば、固体非晶性分散体は、薬物対ポリマーの比率が少なくとも約9、またはさらに少なくとも約19であることができる。
【0028】
一実施態様において、固体非晶性分散体は、薬物A約85質量%〜約98質量%およびポリマー約15質量%〜約2質量%を含んでなる。好ましい実施態様において、固体非晶性分散体は、薬物A約90質量%〜約97質量%、およびポリマー約10質量%から約3質量%を含んでなる。より好ましい実施態様において、固体非晶性分散体は、薬物A約92質量%〜約96質量%およびポリマー約8質量%〜約4質量%を含んでなる。
【0029】
固体非晶性分散体の製造
薬物Aの固体非晶性分散体は、薬物Aの少なくとも主要部分(少なくとも60%)が非晶性状態となるようないずれかの慣用の方法に従って製造することができる。このようなプロセスには、機械的、熱的および溶媒を用いるプロセスがある。典型的な機械的プロセスには、ミル処理および押出;高温融合、溶媒変性された融合および溶融凝固法を含めた溶融プロセス;および非溶媒沈殿、スプレーコーティングおよび噴霧乾燥を含めた溶媒プロセスがある。多くの場合、プロセスは、2つまたはそれ以上のタイプのプロセスを組み合わせて分散体を形成することができる。例えば、押出プロセスを用いる場合、高められた温度で押出機は運転すると、機械的(剪断)および熱的手段(加熱)の両方を用いて分散体を形成することができる。典型的な方法の例は、以下の米国特許に開示されており、これらの適切な開示は、参照により本明細書に組み込まれている:米国特許第5,456,923号および同第5,939,099号、これらは押出プロセスによる分散体の形成を記載しており;同第5,340,591号および同第4,673,564号、これらはミル処理プロセスによる分散体の形成を記載しており;および同第5,707,646号および同第4,894,235号、これらは溶融凝固プロセスによる分散体の形成を記載している。
【0030】
分散体を形成する好ましい方法は、「溶媒処理」であり、これは、薬物の少なくとも一部およびポリマーのすくなくとも一部を共通の溶媒に溶解することからなる。用語「溶媒」は広く使用され、溶媒の混合物が含まれる。ここで、「共通の」は、薬物およびポリマーの少なくとも一部を溶解する溶媒を意味し、これは化合物の混合物であってもよい。薬物およびポリマーは、共通の溶媒中に完全に溶解することが好ましい。
【0031】
薬物およびポリマーのそれぞれの少なくとも一部が溶解した後、蒸発によってまたは非溶媒と混合することによって溶媒を急速に除去する。典型的なプロセスは、噴霧乾燥、スプレーコーティング(パンコーティング、流動層コーティング、等)、および薬物およびポリマーの溶液をCO2、ヘキサン、ヘプタン、適当なpHの水または他のいくつかの非溶媒と急速に混合することによる沈殿である。溶媒を除去して実質的に均質な固体分散体を得ることが好ましい。この目的を達成するために、例えば溶液を霧化して薬物およびポリマーを急速に凝固するプロセスのように、溶液から溶媒を急速に除去することが一般に望ましい。
【0032】
生成した固体非晶性分散体は、相が分離していてもよく、これは、薬物およびポリマーが、それぞれ先に述べたような分散体内の別々のドメイン中にあるか、または互いに均質に分散して単一の相を形成していることを意味する。溶媒を除去して、実質的に均質な固体非晶性分散体を形成することが好ましい。このような分散体では、薬物Aおよびポリマーは、互いに可能な限り均質に分散されており、薬物A中に分散されたポリマーの固溶体とみなすことができ、その際、固体非晶性分散体は、熱力学的に安定であり、これは薬物A中のポリマー濃度がその平衡値であるかまたはそれ未満であることを意味し、または、それは過飽和固溶体とみなすことができ、その際、薬物A中のポリマー濃度はその平衡値より上にある。
【0033】
溶媒は、噴霧乾燥によって除去することができる。用語「噴霧乾燥」は、慣用的に使用され、そして大まかに言えば、液滴から溶媒を蒸発させるための強い推進力がある噴霧乾燥装置中で、液体混合物を小さな液滴に分割し(微粒化)、そして混合物から急速に溶媒を除去することを含むプロセスのことである。噴霧乾燥プロセスおよび噴霧乾燥装置は、一般にPerry's Chemical Engineers' Handbook, pages 20-54 to 20-57 (Sixth Edition 1984)に記載されている。噴霧乾燥プロセスおよび装置のさらなる詳細は、Marshall, “Atomization and Spray-Drying," 50 Chem. Eng. Prog. Monogr. Series 2 (1954), and Masters, Spray Drying Handbook (Fourth Edition 1985).によって概説されている。溶媒蒸発のための強い推進力は、一般に、噴霧乾燥装置中で溶媒の分圧を、乾燥する液滴の温度で溶媒の蒸気圧より十分に下に維持することによって得られる。これは、(1)噴霧乾燥装置中で圧力を不完全な真空(例えば0.01〜0.50気圧)に維持する;または(2)液滴を暖かい乾燥ガスと混合する;または(3)(1)および(2)の両方によって達成される。さらに、溶媒の蒸発に必要な熱の少なくとも一部は、噴霧溶液を加熱することによって得ることができる。
【0034】
噴霧乾燥に適切な溶媒は、薬物Aおよびポリマーが相互に可溶性であるすべての化合物であることができる。また、溶媒は150℃またはそれ未満の沸点を有し、揮発性であることが好ましい。さらに、溶媒は、比較的低い毒性を有し、固体非晶性分散体からThe International Committee on Harmonization(ICH)のガイドラインに従って許容しうるレベルまで除去されなければならない。このレベルまで溶媒を除去するには、トレー乾燥のような後の処理工程が必要となることがある。好ましい溶媒としては、アルコール、例えばメタノール、エタノール、n−プロパノール、イソ−プロパノールおよびブタノール;ケトン、例えばアセトン、メチルエチルケトンおよびメチルイソ−ブチルケトン;エステル、例えば酢酸エチルおよび酢酸プロピル;および種々の他の溶媒、例えばアセトニトリル、塩化メチレン、トルエン、1,1,1−トリクロロエタンおよびテトラヒドロフランが含まれる。また、溶媒の混合物を使用することもできる。
【0035】
噴霧溶液中の薬物Aおよびポリマーの量は、噴霧溶液中それぞれの溶解度および生成する固体非晶性分散体中の薬物対ポリマーの所望の比率に左右される。好ましくは、噴霧溶液は、溶解した固体を少なくとも約1質量%、より好ましくは少なくとも3質量%、そしてより好ましくは少なくとも約10質量%含む。
【0036】
溶媒を有する供給物は、様々な条件下で噴霧乾燥することができるが、それでも許容しうる性質を有する非晶性薬物または固体非晶性分散体が得られる。例えば、種々のタイプのノズルを使用して噴霧溶液を霧化し、それによって噴霧溶液を小さな液滴の集まりとして噴霧乾燥室に導入することができる。形成された液滴が十分に小さく、十分に乾燥(溶媒の蒸発により)して、噴霧乾燥室の壁に固着しなければ、すなわちコーティングされなければ、本質的にすべてのタイプのノズルを使用して溶液を噴霧することができる。
【0037】
最大液滴サイズは、噴霧乾燥器内でサイズ、形状およびフローパターンの関数として広く変化するが、一般に、液滴はノズルから出る時に直径約500μm未満でなければならない。固体非晶性分散体を形成するために使用することができるノズルのタイプの例としては、二流体ノズル、噴水型ノズル、フラットファン型ノズル、加圧ノズルおよびロータリーアトマイザーがある。好ましい実施態様において、加圧ノズルを使用することができ、これは、2002年2月1日に出願された米国仮出願第60/353,986号に対して優先権を主張する、同一出願人による同時係属中の米国特許出願第10/351,568号に詳細に開示されており、この開示は参照により本明細書に組み込まれている。
【0038】
噴霧溶液は、広範囲にわたる温度および流速で噴霧ノズルまたはノズルに供給することができる。一般に、噴霧溶液温度は、溶媒の凝固点のすぐ上から周囲圧力の沸点より約20℃上(溶液に加圧することによって)、そしていくつかの場合、より高いいずれかの範囲であることができる。噴霧ノズルへの噴霧溶液の流速は、ノズルのタイプ、噴霧乾燥機のサイズおよび噴霧乾燥条件、例えば乾燥ガスの入口温度および流速に応じて広い範囲で変化することができる。一般に、噴霧乾燥プロセスにおける噴霧溶液から溶媒を蒸発させるエネルギーは、主として乾燥ガスから生じる。
【0039】
乾燥ガスは、原則として、本質的にすべてのガスであることができるが、安全性の理由のため、そして固体非晶性分散体中で薬物Aまたは他の物質の望ましくない酸化を最小限にするため、窒素のような不活性ガス、窒素の豊富な空気またはアルゴンが使用される。乾燥ガスは、典型的に約60℃〜約300℃、そして好ましくは約80℃〜約240℃の温度で乾燥室に導入される。
【0040】
液滴の比表面積が大きく、溶媒蒸発の推進力が大きいと、液滴の凝固時間が早くなる。凝固時間は、約20秒未満、好ましくは約10秒未満、そしてさらに好ましくは1秒未満でなければならない。この急速な凝固は、多くの場合、粒子が、薬物Aの豊富な相およびポリマーの豊富な相に分離しないで均一で均質な分散体を維持するのに重要である。好ましい実施態様において、噴霧乾燥器の高さおよび容積は、液滴が、噴霧乾燥機の内側面に衝突する前に乾燥するのに十分な時間が得られるように調整され、これは、2002年2月1日に出願された米国仮出願第60/354,080号、現在米国特許第6,763,607号に対して優先権を主張する、同一出願人による同時継続中の米国特許出願第10/353,746号に詳述されており、それは参照により本明細書に組み込まれている。
【0041】
凝固した後、固体粉末は、典型的に約5〜60秒間、噴霧乾燥室中にとどまり、さらに固体粉末から溶媒を蒸発させる。固体分散体の最終的な溶媒含量は、乾燥機を出る時には低くなければならず、その理由は、これによって固体非晶性分散体中での薬物A分子の易動度が低減され、そのため安定性が改善されるからである。一般に、固体非晶性分散体の溶媒含量は、噴霧乾燥室から出る時には、10質量%未満、そして好ましくは2質量%未満でなければならない。
【0042】
形成した後、適切な乾燥プロセス、例えばトレー乾燥、真空乾燥、流動層乾燥、高周波乾燥、ベルト乾燥、回転乾燥および当分野で知られている他の乾燥プロセスを用いて固体非晶性分散体を乾燥させて残留溶媒を除去することができる。好ましい二次的な乾燥方法としては、真空乾燥または周囲条件下でのトレー乾燥がある。乾燥中の化学分解を最小限にするには、乾燥を不活性ガス、例えば窒素下で行うかまたは真空下で行うことができる。
【0043】
固体非晶性分散体は、通常、小さな粒子の形態である。粒子の平均サイズは、直径500μm未満、直径200μm未満、直径100μm未満または直径50μm未満であることができる。一実施態様において、粒子は、1〜100ミクロン、好ましくは1〜50ミクロンの範囲の平均直径を有する。固体非晶性分散体を噴霧乾燥によって形成する場合、生成した分散体は、このような小さな粒子の形態である。固体非晶性分散体を溶融凝固または押出プロセスのような別の方法によって形成する場合、生成した分散体を、ふるいにかけ、粉砕され、または別のやり方で処理して多くの小さな粒子を得ることができる。
【0044】
処理を容易にするには、乾燥した粒子は、一定の密度およびサイズの特徴を有することになる。一実施態様において、生成した固体非晶性分散体粒子は、噴霧乾燥によって形成され、嵩比容約4cc/gまたはそれ未満、そしてより好ましくは約3.5cc/gまたはそれ未満を有することができる。粒子は、タップ比容約3cc/gまたはそれ未満、そしてより好ましくは約2cc/gまたはそれ未満を有することができる。粒子は、Hausner比(嵩比容対タップ比容の比率)約3またはそれ未満、そしてより好ましくは約2またはそれ未満を有する。粒子は、スパン3またはそれ未満、そしてより好ましくは約2.5またはそれ未満を有することができる。本明細書に使用されているように、「スパン」は、
【数1】

として定義され、ここで、D10は、直径が等しいまたはより小さい粒子を含んでなる、総体積の10%を占める粒子の直径に対応する直径であり、D50は、直径が等しいまたはより小さい粒子を含んでなる、総体積の50%を占める粒子の直径に相当する直径であり、そしてD90は、直径が等しいまたはより小さい直径の粒子を含んでなる、総体積の90%を占める粒子の直径に対応する直径である。
【0045】
剤形
組成物は、薬物の投与のための様々な剤形で使用することができる。典型的な剤形は、乾燥しているかまたは水または他の液体を添加して再構成してペースト、スラリー、懸濁液または溶液を形成する、経口的に服用することができる散剤または顆粒剤;錠剤;カプセル剤;多微粒子;および丸剤である。種々の添加剤を、本発明の組成物と共に混合、粉砕または造粒して上記の剤形に適した物質を形成することができる。
【0046】
本発明の組成物は、種々の形態で処方することができ、液体ビヒクル中の粒子の懸濁液として供給される。このような懸濁液は、製造時に液体またはペーストとして処方することができ、または乾燥粉末として処方してあとで経口投与の前に、液体、典型的に水を加えることができる。懸濁液中に構成されるこのような粉末は、しばしばサシェまたは構成用経口粉末(OPC)製剤と称する。このような剤形は、いずれかの知られている方法によって処方および再構成することができる。最も単純なアプローチは、単に水を加えて撹拌することによって再構成される乾燥粉末として剤形を処方することである。別法として、剤形は、液体としておよび合わせて撹拌して経口懸濁液を形成する乾燥粉末として処方することができる。さらに別の実施態様において、剤形は、2種の粉末として処方することができ、これは、最初に1つの粉末に水を加え、溶液を形成し、これに第2の粉末を撹拌しながら合わせて懸濁液を形成することによって再構成される。
【0047】
一実施態様において、剤形は、即時放出錠剤である。錠剤の製剤は、固体非晶性分散体、希釈剤、例えば微結晶性セルロース(Avicel(R)PH102)、およびラクトース一水和物(Fast Flo 316(R))、崩壊剤、例えばナトリウムデンプングリコレート(Explotab(R))、および潤滑剤、例えばステアリン酸マグネシウムからなる。典型的な錠剤は、固体非晶性分散体約5質量%、微結晶性セルロース59質量%、ラクトース一水和物32質量%、およびナトリウムスターチグリコレート3質量%を混合することによって形成することができる。次いで、潤滑剤ステアリン酸マグネシウム0.5質量%を加え、混合物を再び混合する。次いで、ローラーコンパクターを用いて混合物を造粒し、それからミル処理する。さらに潤滑剤ステアリン酸マグネシウム0.5質量%を加え、混合物を再び混合する。次いで、生成した混合物を錠剤成形機に置き、圧縮する。
【0048】
本発明の他の特徴および実施態様は、以下の実施例から明らかとなり、これらは本発明を説明するものであってその意図する範囲を制限するものではない。
【0049】
実施例1
本実施例は、噴霧乾燥によって薬物A95質量%とポリマー5質量%との固体非晶性分散体を形成した。最初に、薬物A9.5質量%、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)(商品名AQOAT−HGの下で販売されている,信越化学工業,東京,日本から入手可能)0.5質量%、およびアセトン90質量%を含む噴霧溶液を以下の通り形成した。HPMCASおよびアセトンを容器中で合わせ、約2時間混合し、HPMCASを溶解させた。ポリマーの全量を加えた後、生成した混合物は、わずかなくもりがあった。次に、薬物Aを直接この混合物に加え、混合物をさらに4時間撹拌した。次いで、この混合物をスクリーンサイズ200μmのフィルタを通過させることによって濾過し、混合物からすべての大きな不溶性物質を除去し、このようにして噴霧溶液を形成した。
【0050】
次いで、以下の方法を用いて固体非晶性分散体を形成した。高圧ポンプを用いて噴霧溶液を、加圧ノズル(Spraying Systems Pressure Nozzle and Body) (SK 78-21)を備えた噴霧乾燥器(Liquid-Feed Process Vesselを有するNiro type XP Portable Spray-Dryer(PSD−1))にポンピングした。PSD−1は、5フィート9インチの室延長部を備えていた。室延長部を噴霧乾燥機に付け加え、乾燥機の縦の長さを延ばした。長さを延ばして、乾燥機内の滞留時間を増加させ、これによって生成物を噴霧乾燥器の曲がった部分に到達する前に乾燥させることができる。また、噴霧乾燥機は、316SSサーキュラーディフューザープレートを備えており、1/16インチのドリル穴があって1%の開口領域を有する。この小さな開口領域は、乾燥ガスの流れが噴霧乾燥器内で生成物の再循環を最小限にすることを目的としている。ノズルは、操作中にディフューザープレートと同一平面上にした。噴霧溶液を約163g/分、圧力100psigでノズルに供給した。ポンプの後にパルセイション緩衝装置があり、ノズルでのパルセイションを最小限にする。乾燥ガス(例えば窒素)を、流速2100g/分および入口温度110℃でディフューザープレートを通して供給した。蒸発した溶媒および湿った乾燥ガスは、噴霧乾燥機から50℃の温度で出る。このプロセスによって形成された噴霧乾燥した分散体(344g)をサイクロン中に集め、次いで、Gruenberg単路対流トレー乾燥器を用いて50℃で24時間操作して後乾燥させた。乾燥させた後、次いで分散体を周囲空気および湿度(21℃/45%RH)で2時間平衡させた。二次乾燥後の分散体の性質は、以下の通りであった:
【0051】
【表2】

【0052】
対照1
対照1は、融点119℃の結晶性薬物A(C1)単独からなる。
【0053】
濃度増大
In Vitro溶解試験
実施例1を用いてIn vitro溶解試験を実施し、結晶性薬物と比較して固体非晶性分散体では薬物Aの濃度増大が得られることを示す。実施例1および対照C1の試料を、全く同一にそれぞれマイクロ遠心分離管に加えた。これらの試験では、薬物の全てが溶解した場合、薬物の最大理論濃度(MTC)が500μg/mLとなるように十分な量の物質を加えた。管を37℃温度に制御された室中に置き、そして絶食モデルの十二指腸溶液(model fasted duodenal solution)すなわち「MFDS」1.8mLをそれぞれ個々の管に加えた。MFDSは、pH6.5で0.5質量%ナトリウムタウロコール酸および1−パルミトイル−2−オレイル−sn−グリセロ−3−ホスホコリン(NaTC/POPC、4/1質量比)を含むPBS1.8mLからなり、NaCl:KCl(20.4:1質量/質量)で290mOsm /kgに調整されている。渦動混合機を用いて試料を約60秒間急速に混合した。13,000G、37℃で1分間試料を遠心分離した。次いで、生成した上澄液から試料採取し、メタノールで1:6(体積)に希釈し、それから、Phenomenex Luna(フェニル−ヘキシル5μmカラム)を用いてアセトニトリル:水70:30(体積:体積)からなる移動相を用いて1ml/分の流速で高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)によって分析した。薬物濃度は、UV吸光度を用いて241nmで測定した。それぞれ個々の管の内容物を渦動混合機で混合し、次の試料を摂取するまで37℃で静かに放置した。試料を、4、10、20、40および90分で集めた。 結果を表2に示した。
【0054】
【表3】

【0055】
これらの試料で得られた薬物の濃度を用いて、90分での溶解した薬物の最大濃度(MDC90)および初期の90分間の溶解した薬物濃度対時間曲線(AUC90)の下の領域を決定した。結果を表3に示した。
【0056】
【表4】

【0057】
データから分かるように、固体非晶性分散体では、結晶性薬物単独のものよりも濃度増大が得られる。実施例1のMDC90は、結晶性対照C1のそれの2.3倍であり、そして
AUC90(実施例1)は、結晶性対照C1のそれの2.8倍であった。
【0058】
実施例2
In Vivo試験−イヌ
これらの試験は、薬物A95質量%およびHPMCAS5質量%からなる固体非晶性分散体は、イヌにおいて薬物Aの有効性が得られることを示した。薬物A95質量%およびHPMCAS5質量%からなる固体非晶性分散体を、実施例1(信越化学工業、東京、日本で販売されたHMPCASのAQOAT−HGグレード)のようにして製造した。
【0059】
治療期間の開始時に体重15〜19kgの健康な若い成体(2〜4歳)の雄および雌のビーグル犬を試験の被験者として用いた。本研究は、それぞれ3匹の雄および3匹の雌イヌを含んでなる2つの動物のグループから構成される。6匹の動物の各グループを結晶性薬物または固体非晶性分散体を摂取するようにランダムに割り当てた。試験化合物は、散剤として提供した。経口強制飼養によって投与する投薬懸濁剤は、試験ビヒクルとして0.5%メチルセルロース/0.1%Tween 80水溶液を使用して得た。投薬懸濁剤は、0.4mg/kgの用量でkg体重当たり5ml供給されるように0.08mg/mlの活性で製造した。7日のベースライン順化期間の後、7日の評価研究を実施した。研究の日0〜6に、それぞれのイヌに、各投薬日の時間0に一用量として供給管を通して投与した投薬懸濁剤を摂取させた。この後、水リンス0.25mg/kgを与え、投薬溶液の全供給量を確保した。それぞれの試験動物は、研究中は毎日、服用後、約0.5〜1時間、水およびIAMS Mini-Chunks(R) (The lams Company, P.O. Box 14597, Dayton, OH)ドライフードに自由にアクセスできるようにした。
【0060】
食物摂取における減少を、順化期間の間、そして再び治療評価期間の間、摂食前およびそれぞれ24時間の消費期間の終わりに毎日個々の食物のボウルの重さを測定することによって数量化した。摂食前のボウル全部の重さとボウル重さおよび24時間の消費期間の終わりに残っている食物の量との間の差は、食物摂取における減少を表す。
【0061】
体重における減少は、投薬を開始する2日前(日2)および評価研究の日7の個々のイヌの体重を測定することによって数量化した。日2の体重と日7の体重との間の差は、体重における減少を表す。
【0062】
糞便の脂肪パーセンテージの増加は、日0〜7に投薬懸濁剤を投与する前に24時間毎に個々のイヌから全糞便排出物を集め、脂肪であった糞便の湿潤質量パーセンテージを測定することによって数量化した。日5〜7における糞便脂肪の平均湿潤質量パーセンテージと日0における糞便脂肪の湿潤質量パーセンテージとの間の差は、糞便脂肪における増加を表す。糞便脂肪の湿潤質量パーセンテージは、以下の通り測定した。それぞれの糞便試料を、採集後に凍結し、次いで室温で一夜かけて解凍し、それから等しい体積の水を添加した後完全に混合して均質した。全試料からアリコート(約5g)を採取し、風袋を計った50mLの遠心分離管へ移し、計量した(0.01gの精度で)。次いで、無水エタノール中のガラスビーズ約10gおよび0.4%アミルアルコール10mLをそれぞれの管に加え、平床型振盪機で高速で12分間、管を水平に振盪した。試料を2N HCl3mLで酸性化し、石油エーテル30mLを加えた。管を上記のように2分間振盪し、次いで1,000rpmで5分間遠心分離して相を分離した。各管からの石油エーテル層のアリコート25mLを、予め計量した結晶皿に移した。さらに石油エーテル25mLを各管に加え、管を1〜2分振盪し、上記のように遠心分離した。再び、石油エーテル層25mLを、適当な結晶皿へ移した。この工程を繰り返した。結晶皿を薄葉紙で覆い、フード中に一夜放置し、蒸発させた。翌朝、結晶皿を再び計量し、採取した糞便脂肪の量を測定した。次いで、それぞれの試料から回収した糞便脂肪のパーセンテージを算出した。
【0063】
血清コレステロール濃度の減少は、投薬の前日(「日1」)〜日8の服用後0時間に相当する時間に、静脈穿刺によって血液3mLを集めることによって数量化した。日1〜0の平均血清コレステロール濃度と日7の血清コレステロール濃度との差は、血清コレステロールにおける減少を表す。
【0064】
結果から、固体非晶性分散体では、おそらく、結晶性薬物と比較して消化管中で溶解したin vivo薬物濃度がより高いため、結晶性薬物単独と比較して改善された有効性が得られることがわかった。固体非晶性分散体は、食物摂取および体重の両方を減少させた。さらに、糞便脂肪含量を増加させた。固体非晶性分散体では、食物摂取の減少において2.1倍改善され、体重減少において1.5倍改善され、糞便脂肪の増加において1.7倍改善され、そして血清コレステロールの減少において1.7倍改善された。
【0065】
実施例3〜4
「ミニ」噴霧乾燥装置を用いて、薬物対濃度増大ポリマーの種々の比率、および種々の濃度増大ポリマーで薬物Aの固体非晶性分散体を製造した。表4は、それぞれの分散体中の薬物の濃度および使用した濃度増大ポリマーを記載する。
【0066】
【表5】

【0067】
以下のポリマーを用いて分散体を形成した。HPMCAS−MF(ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート)は、AQOAT−MF(「中間、微細」)(中間表示は、相対的な溶解pHのことであり、そして微細の表示は、粉末の形態のことである)として信越化学工業(東京、日本)から得た。また、HPMCP HP−55(ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート)は、信越化学工業から得た。
【0068】
ミニ噴霧乾燥機を用いて分散体を製造するには、薬物Aをアセトン中でポリマーと共に混合して噴霧溶液を形成した。Cole Parmer 74900シリーズの速度制御シリンジポンプを経て1.3mL/分の速度でそれぞれの溶液を「ミニ」噴霧乾燥装置にポンピングした。窒素の加熱された流れ(70℃)を用いてSpraying Systems Co.の二流体ノズルモデル番号SU1Aを通して薬物/ポリマー溶液を霧化した。噴霧溶液を直径11cmのステンレス鋼室中に噴霧した。生成した固体非晶性分散体をろ紙上に集め、真空下で乾燥させ、そしてデシケータ中に保存した。噴霧溶液組成物は、表5に示した。
【0069】
【表6】

【0070】
In Vitro溶解試験
これらの試験は、本発明の非晶性分散体では、薬物Aの in vitro濃度増大が得られることを示す。それぞれの試験では、分散体を、全く同一にマイクロ遠心分離管に加えた。これらの試験では、薬物の全てが溶解した場合、最大理論上の濃度(MTC)が500μg/mLとなるように十分な量の物質を加えた。 管を、37℃の温度に制御された室中に置き、0.5質量%ナトリウムタウロコール酸および1−パルミトイル−2−オレイル−sn−グリセロ−3ホスホコリン(NaTC/POPC、4/1質量比)含んでなるPBS1.8mLをpH6.5および290mOsm/kg(絶食モデルの十二指腸溶液,model fasted duodenal solution「MFDS」)で、それぞれ個々の管に加えた。渦動混合機を用いて約60秒間、試料を急速に混合した。試料を13,000G、37℃で1分間遠心分離した。次いで、生成した上澄液から試料を採取し、メタノールで1:6(体積)に希釈し、それから、先に述べたようにHPLCによって分析した。それぞれ個々の管の内容物を渦動混合機で混合し、そして次の試料を採取するまで37℃で静かに放置した。試料を、4、10、20、40および90分で集めた。結果を表6に示した。
【0071】
【表7】

【0072】
これらの試料で得られた薬物の濃度を用いて初期の90分間のMDC90およびAUC90を測定した。結果を表7に示した。
【0073】
【表8】

【0074】
データから分かるように、本発明の分散体は、結晶性薬物単独のものよりも濃度増大が得られる。
【0075】
前記明細書に使用した用語および表現は、明細書において説明の用語として用いられ、制限されるものではなく、このような用語および表現の使用において、示したおよび記載した特徴と同等のものまたはその一部を排除する意図はなく、本発明の範囲は、特許請求の範囲によってのみ定義され制限されることが認識される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)
【化1】

を有する化合物およびポリマーを含む固体非晶性分散体であって、該化合物は該固体非晶性分散体の量の少なくとも約40質量%で存在する、該固体非晶性分散体。
【請求項2】
化合物は、分散体の少なくとも約50質量%の量で存在する、請求項1に記載の固体非晶性分散体。
【請求項3】
化合物は、分散体の少なくとも約75質量%の量で存在する、請求項1に記載の固体非晶性分散体。
【請求項4】
化合物は、分散体の少なくとも約85質量%の量で存在する、請求項1に記載の固体非晶性分散体。
【請求項5】
化合物は、分散体の少なくとも約90質量%の量で存在する、請求項1に記載の固体非晶性分散体。
【請求項6】
化合物は、分散体の約95質量%の量で存在する、請求項1に記載の固体非晶性分散体。
【請求項7】
化合物は、分散体の約85質量%〜約98質量%の量で存在する、請求項1に記載の固体非晶性分散体。
【請求項8】
化合物は、分散体の約90質量%〜約97質量%の量で存在する、請求項1に記載の固体非晶性分散体。
【請求項9】
ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネート(HPMCAS)、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート(HPMCP)、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、セルロースアセテートフタレート(CAP)、セルロースアセテートトリメリテート(CAT)およびカルボキシメチルエチルセルロース(CMEC)およびそれらの混合物からなる群より選ばれる、請求項1に記載の固体非晶性分散体。
【請求項10】
ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートである、請求項1に記載の固体非晶性分散体。
【請求項11】
ポリマーは、ヒドロキシプロピルメチルセルロースアセテートスクシネートのHグレードである、請求項8に記載の固体非晶性分散体。
【請求項12】
水性使用環境において結晶性形態の化合物の等量から本質的になる対照組成物の少なくとも1.25倍である化合物の最大濃度が得られる、請求項1に記載の固体非晶性分散体。
【請求項13】
水性使用環境において使用環境への導入時と使用環境へ導入後の約270分との間の少なくともいずれか90分間についての濃度対時間曲線の下の面積が、結晶性形態の化合物の等量から本質的になる対照組成物の少なくとも約1.25倍である、請求項1に記載の固体非晶性分散体。
【請求項14】
固体非晶性分散体は、約100ミクロン未満の平均粒子直径を有する、請求項1に記載の固体非晶性分散体。
【請求項15】
錠剤に組み込まれた請求項1に記載の固体非晶性分散体。
【請求項16】
(a) 化合物およびポリマーを溶媒中に溶解して噴霧溶液を形成させ、
(b) 噴霧溶液から溶媒を急速に蒸発させて固体非晶性分散体を形成する;
ことからなり、その際、該化合物は、式I
【化2】

を有する、固体非晶性分散体の形成方法。

【公表番号】特表2007−511500(P2007−511500A)
【公表日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−538977(P2006−538977)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【国際出願番号】PCT/IB2004/003581
【国際公開番号】WO2005/046644
【国際公開日】平成17年5月26日(2005.5.26)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】