説明

育毛養毛剤、育毛養毛組成物及びNT−4発現阻害剤、並びに育毛養毛剤の製造方法

【課題】NT−4の発現を阻害して育毛養毛効果を奏しうる新たな有効成分を有する育毛養毛剤を提供する。
【解決手段】育毛養毛剤にクイーンズデライトの抽出物を含ませる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育毛養毛剤、育毛養毛組成物及びNT−4発現阻害剤、並びに育毛養毛剤の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
脱毛症の発症原因及び発症機序については多くの研究がなされているが、未だ不明な点が多い。例えば特許文献1,2では、5α−リダクターゼ阻害及び抗酸化等の作用を有する化合物及び植物抽出物等が発毛促進効果を有することが報告されている。また、例えば特許文献3には、所定の科に属する植物に由来する抽出物が発毛促進効果を有することが報告されている。しかし、このような従来の育毛養毛剤の効果は非常に個人差が大きく、満足するものは見出されていない。
【0003】
一方で、非特許文献1においては、アポトーシスを誘導する神経栄養因子−4(Neurotrophin−4。NT−4ともいう。)が脱毛に寄与することが報告されている。本発明者らも、NT−4の発現を阻害し得る有効成分としてのペプチド群及び植物種を見出し、これらを育毛養毛剤として使用することを特許文献4,5において提案している。特許文献4,5で提案した有効成分は、本発明者らの検討によれば、男性型脱毛症(Androgenetic alopecia。AGAともいう。)のモデル動物を用いた評価においても良好な結果を示した。このことから、NT−4の発現を低下させる作用を有する育毛養毛剤は、AGAの根本的解決に繋がるものと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−286165号公報
【特許文献2】特開2005−225764号公報
【特許文献3】特開平08−113516号公報
【特許文献4】特開2007−137811号公報
【特許文献5】特開2006−232828号公報
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】FASEB J.(1999),13(2):395−410
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献4,5記載の育毛養毛剤の有効成分と同等もしくはそれ以上の効果を有する別の有効成分を得ることができれば、原料確保の点からも、育毛養毛効果を有する整髪料などの育毛養毛組成物を製造する場合の製剤化の自由度を確保する点からも、好ましい。本発明は上記の課題に鑑みてなされたものであって、NT−4の発現を阻害して育毛養毛効果を奏しうる新たな有効成分を有する育毛養毛剤及び育毛養毛組成物を提供すること、前記の育毛養毛剤の製造方法を提供すること、並びに、NT−4の発現を阻害する新たなNT−4発現阻害剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、高い育毛養毛効果を有する成分を見出すべく、NT−4の遺伝子の発現を高感度で検出できるプロモーター活性評価系を採用し、NT−4の遺伝子の発現そのものを制御し得る成分のスクリーニングを行った。その結果、トウダイグサ科植物の1つである「クイーンズデライト(学名;Stillingia sylvatica)」の抽出物がNT−4遺伝子の発現阻害活性を顕著に示すことが初めて見出された。さらに、この抽出物を用いてAGAモデル動物の育毛養毛効果の評価を実施したところ、前記の抽出物は育毛養毛効果を奏することが判明した。
【0008】
本発明は、上記の知見に基づいてなされたものである。すなわち、本発明の育毛養毛剤は、クイーンズデライトの抽出物を含むことを特徴とする。
本発明の育毛養毛組成物は、本発明の育毛養毛剤を含むことを特徴とする。
本発明のNT−4発現阻害剤は、クイーンズデライトの抽出物を含むことを特徴とする。
本発明の育毛養毛剤の製造方法は、クイーンズデライトの抽出処理を行う工程を有することを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明に係る育毛養毛剤及び育毛養毛組成物は、NT−4の発現を阻害することができ、更には育毛養毛効果を奏することができる。
本発明に係る育毛養毛剤の製造方法によれば、本発明に係る育毛養毛剤を得ることができる。
本発明に係るNT−4発現阻害剤によれば、NT−4の発現を阻害することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下に、実施形態及び例示物等を示して本発明について詳細に説明するが、本発明は以下に示す実施形態及び例示物等に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において任意に変更して実施できる。
【0011】
[1.概要]
本発明に係る育毛養毛剤は、クイーンズデライト(Queen’s delight,学名;Stillingia sylvatica)の抽出物(以下、適宜「クイーンズデライト抽出物」ということがある。)を含む。なお、本発明で言う「育毛養毛剤」とは、育毛および養毛を促進する作用を有する薬剤をいう。育毛養毛剤を目的の組成物に含ませることにより、育毛及び養毛を促進する効果を付与した育毛養毛用組成物を調製することができる。本発明に係る育毛養毛剤又はそれを含む育毛養毛用組成物を、哺乳類の主に頭皮に適用することにより、育毛養毛を促進する効果が得られる。
【0012】
[2.クイーンズデライト抽出物]
クイーンズデライトとは、トウダイグサ科(Euphorbiaeae)に属する植物であり、ハーブの1種である。従来、クイーンズデライトの根部からの抽出物は去痰作用を有し、気管支炎、喉頭炎等の呼吸器系疾患の治療に用いることが知られている(Richard Mabey著、The Complete New Herbal ハーブ大全、小学館)。
【0013】
クイーンズデライトの用部(即ち、抽出する対象となる部分)に特に限定は無いが、根が好適である。また、クイーンズデライトは種子、幼木及び成木のいずれを用いてもよいが、成木を用いることが好ましい。さらに、クイーンズデライトの産地にも制限は無いが、アメリカ合衆国産のクイーンズデライトを使用することが好ましい。いずれも、クイーンズデライト抽出物の有効性を十分に発揮させる観点からである。
クイーンズデライト抽出物は、市販品を用いてもよく、適切な抽出方法により得られるものを用いてもよい。以下、クイーンズデライトの抽出方法の一例を説明するが、クイーンズデライトの抽出方法は以下に例示する方法に限定されるものではない。
【0014】
クイーンズデライトの抽出方法では、まず、クイーンズデライトを用意する。このクイーンズデライトは、生木をそのまま用いてもよく、予め乾燥させてもよい。
抽出処理に先立ち、クイーンズデライトは粉砕して破砕物にしておくことが好ましい。抽出処理を効率的に行うためである。
【0015】
用意したクイーンズデライトは、適切な溶媒(以下、適宜「抽出溶媒」ということがある。)による抽出処理を行うことによって、クイーンズデライトに含まれるNT−4の発現を阻害する物質を抽出する工程を行う。
抽出処理は、通常、クイーンズデライトを適切な抽出溶媒に浸漬させて行う。また、クイーンズデライトを浸漬させる際、攪拌を行うようにすると抽出処理を効率的に行えるため好ましい。
【0016】
抽出溶媒としては、例えば、水、有機溶媒等が挙げられる。クイーンズデライト抽出物に含まれる物質のうちNT−4の発現を阻害する物質は、水に溶解するもの及び有機溶媒に溶解するもののいずれもが存在すると推察されるため、水及び有機溶媒のいずれを用いた場合でもNT−4の発現を阻害する物質をクイーンズデライトから抽出することができると思料される。好適な有機溶媒の例を挙げると、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の一価アルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類;酢酸エチル等のエステル類;ジエチルエーテル等のエーテル類などが挙げられる。有機溶媒の中でも一価アルコールが好ましく、エタノールがより好ましい。なお、抽出溶媒は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。また、抽出溶媒には、本発明の効果を著しく損なわない限り、その他の成分が含まれていてもよい。
【0017】
抽出処理の際、クイーンズデライトと抽出溶媒との比率は、「(クイーンズデライトの質量)/(抽出溶媒の質量)」で表される質量比で、1/50以上が好ましく、1/30以上がより好ましく、1/20以上が特に好ましく、また、1/2以下が好ましく、1/5以下がより好ましく、1/10以下が特に好ましい。前記の質量比を前記範囲の下限以上とすることで抽出溶媒の使用量を抑制して製造コストを抑制でき、また、上限以下とすることでNT−4の発現を阻害する物質をクイーンズデライトから効率的に抽出できる。
【0018】
抽出処理の際の抽出溶媒の温度(以下、適宜「抽出温度」ということがある。)は、通常5℃以上、好ましくは10℃以上、より好ましくは25℃以上であり、通常100℃以下である。抽出温度を前記範囲の下限以上とすることでNT−4の発現を阻害する物質をクイーンズデライトから効率的に抽出できる。
【0019】
抽出処理を行う時間(以下、適宜「抽出時間」ということがある。)は、通常1時間以上、好ましくは5時間以上、より好ましくは10時間以上であり、通常1週間以下、好ましくは5日以下、より好ましくは3日以下である。抽出時間を前記範囲の下限以上とすることでNT−4の発現を阻害する物質をクイーンズデライトからより確実に抽出することができ、上限以下とすることで抽出処理に要する時間を短縮して製造効率を高めることが可能となる。
【0020】
また、抽出処理は、NT−4の発現を阻害する物質をクイーンズデライトから抽出できる限り上述した浸漬以外の操作によって行ってもよい。例えば、気体状又は霧状の抽出溶媒による蒸気抽出によって抽出処理を行うようにしてもよい。
【0021】
抽出処理により、NT−4の発現を阻害する物質はクイーンズデライトから抽出溶媒に移動し、少なくともNT−4の発現を阻害する物質と抽出溶媒とを含む組成物が本発明に係るクイーンズデライト抽出物として得られる。そこで、抽出処理の後で、通常は、クイーンズデライト抽出物と残渣とを分離する。分離方法に制限は無いが、例えば、ろ過、遠心分離等が挙げられる。
【0022】
得られたクイーンズデライト抽出物は、必要に応じて濃縮又は乾燥を行ってもよい。濃縮及び乾燥の方法としては、例えば、加熱、減圧等による濃縮及び乾燥などが挙げられる。また、例えば凍結乾燥を行うようにしてもよい。なお、前記の濃縮方法及び乾燥方法は、任意に組み合わせて行ってもよい。
【0023】
上述した方法により、抽出処理前のクイーンズデライトの質量を100%として、固形分相当で通常1%以上、好ましくは5%以上、より好ましくは10%以上のクイーンズデライト抽出物が得られる。
【0024】
得られたクイーンズデライト抽出物のNT−4発現阻害率は、入手先によってある程度の変動があるが、クイーンズデライト抽出物の固形分1ppm当たりで、通常30%以上、好ましくは50%以上、より好ましくは80%以上であり、大変高い値である。なお、前記のNT−4発現阻害率の上限に特に制限は無いが、通常は95%以下である。
ここで「NT−4発現阻害率」とは、培養細胞系において活性型男性ホルモン(DHT)によって誘導されるNT−4の発現量を基準に、クイーンズデライト抽出物を添加した場合の発現阻害量の割合として定義される値である。また、本明細書において量の比率を表す単位としてのppmは、特に断らない限り重量/体積(mg/L)を基準とした比率を表す。
【0025】
[3.育毛養毛剤]
本発明に係る育毛養毛剤は、少なくとも上述したクイーンズデライト抽出物を有効成分として含む。本発明に係る育毛養毛剤は前記のクイーンズデライト抽出物のみからなる薬剤として用いてもよいが、通常は溶媒を含み、溶液の状態で保存、運搬及び使用される。
【0026】
本発明に係る育毛養毛剤が含むクイーンズデライト抽出物の量は、クイーンズデライト抽出物の固形分換算で、0.001質量%以上が好ましく、0.01質量%以上がより好ましい。育毛養毛剤の使用時に十分な育毛養毛効果を得るようにするためである。なお、上限に特に制限は無いが、10質量%以下とすることが好ましく、5質量%以下とすることがより好ましい。過度に多いクイーンズデライト抽出物を含ませても、育毛養毛効果はそれ以上向上しない傾向があるからである。
【0027】
育毛養毛剤が含む溶媒の種類は、例えば、水、エタノール等の非毒性の溶媒が挙げられる。なお、溶媒は1種類のみを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
前記の溶媒は、通常、前記のクイーンズデライト抽出物の製造後にクイーンズデライト抽出物に混合すればよい。このようにクイーンズデライト抽出物と溶媒とを混合する場合、乾燥によりクイーンズデライト抽出物から抽出溶媒を留去した後で、溶媒と混合し希釈することが望ましい。
また、前記のクイーンズデライト抽出物の抽出溶媒が例えば水、エタノール、及びそれらの混合物(例えば、含水エタノール等)などの非毒性の溶媒である場合は、抽出溶媒を含むクイーンズデライト抽出物を育毛養毛剤としてそのまま用いてもよく、クイーンズデライト抽出物と前記溶媒とを混合して希釈液として用いてもよい。さらに、前記のようにクイーンズデライト抽出物を濃縮して濃縮エキスとして用いてもよく、乾燥して粉末等にして用いてもよく、ペースト状に調製して用いてもよい。
【0028】
本発明に係る育毛養毛剤は、炭素鎖長が11、13、15、及び17の奇数鎖脂肪酸からなる群より選ばれる少なくとも1種の脂肪酸を含むことが好ましい。前記の脂肪酸とクイーンズデライト抽出物とを組み合わせることで、相乗的な育毛養毛効果を得ることができるためである。なお、前記の脂肪酸は1種類のみを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0029】
育毛養毛剤における前記の脂肪酸の濃度は、好ましくは0.0005質量%以上、より好ましくは0.25質量%以上であり、好ましくは50質量%以下、より好ましくは25質量%以下である。前記脂肪酸の量を前記範囲の下限以上とすることで使用時に十分な育毛養毛効果を得ることができ、また上限以下とすることで育毛養毛組成物の安定性を高めることができる。さらに、前記脂肪酸の量が多すぎると効果が頭打ちになる可能性がある。
【0030】
本発明に係る育毛養毛剤は、その使用目的に応じて、クイーンズデライト抽出物、溶媒、及び前記の脂肪酸以外にその他の成分を含んでいてもよい。
例えば、本発明に係る育毛養毛剤は、既存の育毛養毛成分を含んでいてもよい。既存の育毛養毛成分としては、例えば、PDG(ペンタデカン酸グリセリド)、特開平09−157136号公報記載のコレウスエキス、特開平10−45539号公報記載のゲンチアナエキス、マツカサエキス、ローヤルゼリーエキス、クマザサエキス等の化学物質及びエキス類等が挙げられる。中でも、育毛養毛効果の点から、PDG及びコレウスエキスが好ましい。
【0031】
前記の既存の育毛養毛成分は、市販品あるいは公知の方法によって得られたものを使用できる。特に、前記のエキス類は植物成分の抽出により得ることができる。この場合、抽出に用いる溶媒としては、水;メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール等の一価アルコール類;プロピレングリコール、ブチレングリコール等の多価アルコール類などが挙げられる。なお、前記の溶媒は1種類のみを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。抽出方法は、通常の植物エキスの抽出法などの方法に準じて行えばよく、必要により公知の方法で脱臭、脱色等の処理を施してから用いてもよい。また、市販の抽出物も用いることができる。
【0032】
本発明に係る育毛養毛剤が含むその他の成分の例を更に挙げると、非イオン性界面活性剤、糖質系界面活性剤等の界面活性剤;セルロース類;油脂類;エステル油;高分子樹脂;色剤;香料;紫外線吸収剤;タンパク質、ビタミン類、ホルモン類、血管拡張剤、アミノ酸類、抗炎症剤、皮膚機能亢進剤、角質溶解剤等の薬効成分などが挙げられる。
【0033】
界面活性剤としては、例えば、ソルビタン脂肪酸エステル類(ソルビタンモノラウレート、ソルビタンモノオレート等)、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油、ポリオキシエチレン硬化ヒマシ油モノ又はイソステアレート、グリセリン脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル(モノミリスチン酸デカグリセリン、モノミリスチン酸ペンタグリセリン)等が挙げられる。
【0034】
セルロース類としては、例えば、ヒドロキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等が挙げられる。
油脂類としては、例えば、多価アルコール脂肪酸エステル(トリ−2エチルヘキサン酸グリセリン、トリイソステアリン酸トリメチロールプロパン酸等)、サフラワー油、月見草油、ホホバ油等が挙げられる。
【0035】
エステル油としては、例えば、不飽和脂肪酸アルキルエステル(オレイン酸エチル、リノール酸イソプロピル等)、ミリスチン酸メチル、ミリスチン酸イソプロピル等が挙げられる。
高分子樹脂としては、例えば、両性、カチオン性、アニオン性及びノニオン性ポリマー等が挙げられる。
【0036】
紫外線吸収剤としては、例えば、メトキシケイ皮酸オクチル(ネオヘリオパンAV)、オキシベンゾン、ウロカニン酸等が挙げられる。
アミノ酸類としては、例えば、メチオニン、セリン、グリシン、シスチン等が挙げられる。
角質溶解剤としては、例えば、サリチル酸、レゾルシン等が挙げられる。
なお、その他の成分は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0037】
[4.育毛養毛組成物]
本発明に係る育毛養毛剤を、所定の目的組成物に含ませることにより、その目的組成物に養毛育毛効果を付与した育毛養毛組成物を得ることができる。
【0038】
本発明に係る育毛養毛剤を所定の目的組成物に含ませる場合、その目的組成物中におけるクイーンズデライト抽出物の量は、その製品形態及び使用頻度により異なり一概に規定することはできないが、育毛養毛組成物全体に対するクイーンズデライト抽出物の量は、固形物換算で、通常0.001質量%以上、好ましくは0.01質量%以上であり、通常1.0質量%以下である。クイーンズデライト抽出物の量を前記範囲の下限以上とすることで使用時に十分な育毛養毛効果を得ることができ、また上限以下とすることで育毛養毛組成物の安定性及び使用感を高めることができる。
【0039】
本発明に係る育毛養毛組成物の態様の例としては、各種の外用製剤類(動物用に使用する製剤も含む)全般が挙げられる。具体例を挙げると、カプセル状、粉末状、顆粒状、固形状、液状、ゲル状、軟膏状、或いは気泡性の、(1)医薬品類、(2)医薬部外品類、(3)局所又は全身用の皮膚化粧品類、(4)頭皮・頭髪に適用する薬用及び/又は化粧用の製剤類(例えば、シャンプー剤、リンス剤、トリートメント剤、パーマネント液、染毛料、整髪料、ヘアートニック剤、育毛養毛料など)が挙げられる。
【0040】
本発明に係る育毛養毛組成物の具体例の主なものとしては、育毛養毛用毛髪化粧料及び育毛養毛用医薬品等が挙げられる。育毛養毛用毛髪化粧料及び育毛養毛用医薬品には、本発明の効果を著しく損なわない範囲において、既知の薬効成分を必要に応じて適宜含ませることができる。既知の薬効成分としては、例えば、抗菌剤、抗炎症剤、保湿剤等が挙げられる。なお、既知の薬効成分は、1種類のみを用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0041】
前記の育毛養毛用毛髪化粧料及び育毛養毛用医薬品は、常法に従って例えば均一溶液、ローション、ジェルなどの形態で外用により使用することができる。
また、前記の養毛育毛用毛髪化粧料は、例えばエアゾールの形態をとることができる。その場合、養毛育毛用毛髪化粧料は、前記の成分以外に、例えばn−プロピルアルコール及びイソプロピルアルコール等の低級アルコール:ブタン、プロパン、イソブタン、液化石油ガス、ジメチルエーテル等の可燃性ガス:窒素ガス、酸素ガス、炭酸ガス、亜酸化窒素ガス等の圧縮ガスなどを含ませることができる。
【0042】
[5.NT−4発現阻害剤]
本発明に係る育毛養毛剤は、上述したように、NT−4の発現を阻害することができる。したがって、本発明に係る育毛養毛剤は、NT−4発現阻害剤として使用することもできる。
【0043】
本発明に係るNT−4発現阻害剤の組成及び形態は、少なくともクイーンズデライト抽出物を含む限り、NT−4発現阻害剤の具体的な用途に応じて任意に設定することができる。ただし、通常は、NT−4発現阻害剤の組成及び形態は、上述した本発明に係る育毛養毛剤と同様に設定すればよい。
前記のNT−4発現阻害剤は、上述した育毛養毛用途に加え、例えばNT−4により誘導されるアポトーシスを抑制する作用を利用し、前記アポトーシスが主な原因と推測される病気の治療薬の有効成分として使用できる。例えば、アルツハイマー病治療薬、脳梗塞治療薬等に用いることが期待される。
【実施例】
【0044】
以下、実施例に基づき、本発明について更に具体的に説明する。ただし、本発明は下記実施例に限定されるものではない。
【0045】
〔調製例1〕
クイーンズデライトの乾燥根部を粉砕機にて破砕し、100.8gの破砕物を得た。これに2000mLの70体積%エタノールを加え、室温にて一昼夜撹拌した。桐山ろ紙にて残渣を除去し、得られた抽出物についてエバポレーターにて減圧乾固し、5.2gの固形分(本発明に係るクイーンズデライト抽出物に相当)を得た。以下、この固形分を「QD70%EtOH抽出物」という。
【0046】
〔調製例2〕
クイーンズデライトの乾燥根部を粉砕機にて破砕し、101.6gの破砕物を得た。これに2000mLの蒸留水を加え、室温にて一昼夜撹拌した。桐山ろ紙にて残渣を除去し、得られた抽出物について凍結乾燥し、5.0gの固形分(本発明に係るクイーンズデライト抽出物に相当)を得た。以下、この固形分を「QD水抽出物」という。
【0047】
〔調製例3〕
クイーンズデライトの乾燥根部を粉砕機にて破砕し、124.2gの破砕物を得た。これに2500mLの酢酸エチルを加え、室温にて一昼夜撹拌した。桐山ろ紙にて残渣を除去し、得られた抽出物についてエバポレーターにて減圧乾固し、4.7gの固形分(本発明に係るクイーンズデライト抽出物に相当)を得た。以下、この固形分を「QD酢酸エチル抽出物」という。
【0048】
〔評価方法1:NT−4発現阻害作用の評価方法〕
NT−4上流配列約2000bp(配列番号1)を、pGL3−basic(Promega社製)にサブクローニングを行った。本プラスミドを、内部標準としてのpRL−SV40(Promega社製)とともに、HeLa細胞に導入した。1日培養後、調製例1、調製例2又は調製例3にて得られたQD70%EtOH抽出物を固形分換算にて1ppm(実施例1)、QD70%EtOH抽出物を固形分換算にて10ppm(実施例2)、QD水抽出物を固形分換算にて1ppm(実施例3)、QD水抽出物を固形分換算にて10ppm(実施例4)、QD酢酸エチル抽出物を固形分換算にて1ppm(実施例5)、およびQD酢酸エチル抽出物を固形分換算にて10ppm(実施例6)と、10−7M dihydrotestosterone(DHT)とを含む培地に交換した。また、比較例1としては、QD70%EtOH抽出物、QD水抽出物、及びQD酢酸エチル抽出物を含まず、代わりに0.1体積%のエタノールと10−7M DHTとを含む培地を用いた。コントロール群としてはDHTを含まない培地を用いた。24時間後にデュアル−ルシフェラーゼ レポーター アッセイ システム(Dual−Luciferase Reporter Assay System;Promega社製)を用いてルシフェラーゼアッセイ(Luciferase assay)を行った。培養は、10体積%チャコール処理済FBSを添加したDMEM(Dulbecco’s modified Eagle’s Medium、フェノールレッド不含)培地で行った。
【0049】
(NT−4発現阻害作用の評価結果)
各サンプルのルシフェラーゼ相対活性(Relative Luciferase Activity)を算出した。このルシフェラーゼ相対活性は、NT−4上流配列とpGL3−basicのサブクローニングにより得られたベクターにより発現するホタルルシフェラーゼの活性値を、内部標準として導入したpRL−SV40により発現するウミシイタケルシフェラーゼの活性値で除することにより求められる値である。
【0050】
次に、このルシフェラーゼ相対活性からNT−4発現阻害率(%)を、以下の式(1)に基づいて算出した。なお、式(1)中、RLAContはコントロール群のNT−4発現率(ルシフェラーゼ相対活性)を表し、RLADHTはDHT添加群のNT−4発現率を表し、RLASampは各サンプル添加群のNT−4発現率を表す。

NT-4発現阻害率 (%) =[1-(RLASamp-RLACont)/(RLADHT-RLACont)] × 100 (1)

【0051】
上述のようにして求めた各実施例サンプルのNT−4発現阻害率(%)を下記表1に示す。
【0052】
【表1】

【0053】
表1から分かるように、実施例のサンプルはいずれも高いNT−4発現阻害率を有する。したがって、クイーンズデライト抽出物を有効成分として有することにより、本発明に係る育毛養毛剤はNT−4の発現を効果的に阻害できることが確認できた。
【0054】
〔評価方法2:育毛養毛効果の評価方法〕
毛周期において休止期にある雄のC57BL/6マウス(7週齢)を用い、小川らの方法(フレグランスジャーナル,Vol.17,No.5,p20−29,1989.参照)を参考にして実験を行った。
マウスの背部体毛を約2×4cmの大きさに電気バリカン及び電気シェーバーにて除毛し、毛周期における毛髪成長期を誘導した。除毛後、DHT30mgを各マウスに皮下投与し、発毛を遅延させた。翌日より1日1回100μLずつ週5回、45日間サンプル塗布を行い、除毛部分に対し毛再生が始まった部分の面積比の変化を求め、下記11段階評価にて、毛再生の早さを比較した。
【0055】
サンプルは、前記のQD70%EtOH抽出物(実施例7)、QD水抽出物(実施例8)、及びQD酢酸エチル抽出物(実施例9)を、それぞれエタノールに1質量%の濃度で溶解させたものを使用した。また、コントロール群(比較例2)には、溶媒であるエタノールを塗布した。各群ともに1群7匹として実験に供した。除毛及び皮下投与後から30日後の平均発毛面積率スコアを表2に示す。
【0056】
(育毛養毛効果の評価基準(発毛スコア))
除毛された部分の全体面積に対する毛再生が始まった部分の面積の割合(%)に下記の点数を付し、点数の大きさによって育毛養毛効果を評価した。
(点数):(毛再生面積率(%))
0点:0〜4%
1点:5〜14%
2点:15〜24%
3点:25〜34%
4点:35〜44%
5点:45〜54%
6点:55〜64%
7点:65〜74%
8点:75〜84%
9点:85〜94%
10点:95〜100%
【0057】
【表2】

【0058】
表2から分かるように、実施例7、8及び9では比較例2と比較して高いスコアが得られている。したがって、本発明に係る育毛養毛剤及び育毛養毛組成物が高い育毛養毛効果を奏することが確認された。また、表1に示したように、本発明に係る育毛養毛剤はNT−4の遺伝子発現を低下させる作用を示したことから、前記の育毛養毛効果は、クイーンズデライト抽出物が有するNT−4阻害活性によるものであることが分かる。
【0059】
〔育毛養毛剤の処方例〕
本発明に係る育毛養毛剤の処方例を、以下の表3及び表4に示す。ただし、表3及び表4に示す処方例はあくまで例示であり、本発明は表3及び表4に示す処方に限定されるものではない。なお、表4においてPOE(40)とはポリオキシエチレンの付加モル数が40モルであることを表す。
【0060】
【表3】

【0061】
【表4】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
クイーンズデライトの抽出物を含むことを特徴とする育毛養毛剤。
【請求項2】
請求項1に記載の育毛養毛剤を含むことを特徴とする育毛養毛組成物。
【請求項3】
クイーンズデライトの抽出物を含むことを特徴とするNT−4発現阻害剤。
【請求項4】
請求項1記載の育毛養毛剤の製造方法であって、
クイーンズデライトの抽出処理を行う工程を有することを特徴とする育毛養毛剤の製造方法。

【公開番号】特開2010−215595(P2010−215595A)
【公開日】平成22年9月30日(2010.9.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−66734(P2009−66734)
【出願日】平成21年3月18日(2009.3.18)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】