説明

育毛養毛剤および育毛養毛用組成物

【課題】高い育毛効果を持ち、根本的な脱毛症治療に極めて有用な育毛養毛剤および育毛養毛用組成物を提供する。
【解決手段】下記一般式(I)または(II):




[式(I)(II)中、R、R、Rは1〜20の炭素原子を有する直鎖状または分岐状の炭化水素基または水素原子を表し、Xはハロゲンを表し、nは0〜20の整数を表す]で表される、ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体を有効成分として有する育毛養毛剤および育毛養毛用組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、育毛養毛剤および育毛養毛用組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
脱毛症の発症原因,発症機序については多くの研究がなされているが,未だ不明な点が多い。従来、脱毛症に対処するための育毛養毛剤が種々提案されている。例えば、5α−リダクターゼ阻害や抗酸化といった作用を有する化合物・植物抽出物等が発毛促進効果を持つことが以前から報告されている(特許文献1、特許文献2)。
【0003】
しかしながら、上記従来の育毛養毛剤の効果は非常に個人差が大きく,満足するものは見出されていない。そのため、高い育毛効果を持ち、根本的な脱毛症治療に極めて有用な育毛養毛剤の開発が望まれているのが、現状である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−286165号公報
【特許文献2】特開2005−225764号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来の事情に鑑みてなされたものであって、その課題は、高い育毛効果を持ち、根本的な脱毛症治療に極めて有用な育毛養毛剤および育毛養毛用組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するために、下記構成を採用した育毛養毛剤および育毛養毛用組成物育毛養毛方法を提供する。
【0007】
[1] ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体を有効成分として有する育毛養毛剤。
[2] ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体が、下記一般式(I)または(II):
【0008】
【化1】

【0009】
【化2】

(式(I)(II)中、R、R、Rは1〜20の炭素原子を有する直鎖状または分岐状の炭化水素基または水素原子を表し,Xはハロゲンを表し,nは0〜20の整数を表す]で表される化合物,またはその薬学的もしくは医学的に許容しうる塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする、上記[1]に記載の育毛養毛剤。
[3] ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体がN−(4−tert−ブチルベンジル)−4−クロロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミドである、上記[1]または[2]に記載の育毛養毛剤。
[4]ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体が4−クロロ−3−エチル−1−メチル−N−[4−(p−トリルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミドである、上記[1]または[2]に記載の育毛養毛剤。
[5] 上記[1]〜[4]のいずれか1つに記載の育毛養毛剤を含むことを特徴とする育毛養毛組成物。
【発明の効果】
【0010】
本発明にかかる育毛養毛剤および育毛養毛組成物は、高い育毛効果を持ち,根本的な脱毛症治療に極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】図1は、実施例4の対照群における初回塗布より30日後のC57BL/6マウス背部の画像を示す図である。
【図2】図2は、実施例4のN−(4−tert−ブチルベンジル) −4−クロロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミド(0.1%)を用いた群における初回塗布より30日後のC57BL/6マウス背部の画像を示す図である。
【図3】図3は、実施例4の4−クロロ−3−エチル−1−メチル−N−[4−(p−トリルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド(0.1%)を用いた群における初回塗布より30日後のC57BL/6マウス背部の画像を示す図である。
【図4】図4は、実施例4の比較群1における初回塗布より30日後のC57BL/6マウス背部の画像を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
上述のように、本願発明に係る育毛養毛剤は、ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体を有効成分として有することを特徴とする。
上記ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体としては、具体的には、下記一般式(I)または(II):
【0013】
【化3】

【0014】
【化4】

(式(I)(II)中、R、R、Rは1〜20の炭素原子を有する直鎖状または分岐状の炭化水素基または水素原子を表し、Xはハロゲンを表し、nは0〜20の整数を表す]で表される化合物、またはその薬学的もしくは医学的に許容しうる塩からなる群から選ばれる少なくとも1種が好適である。
【0015】
上記一般式(I)で表される化合物として、より具体的には、N−(4−tert−ブチルベンジル)−4−クロロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミド、N−(4−tert−ブチルベンジル)−4−ブロモ−1,3−ジメチルピラゾール−5−カルボキサミド、N−(4−tert-ブチルベンジル)−4−フルオロ−3−i−プロピル−1−エチルピラゾール−5−カルボキサミド、N−(4−tert-ブチルベンジル)−4−ヨード−1,3−ジエチルピラゾール−5−カルボキサミド、N−(4−メチルベンジル)−4−クロロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミド、N−(4−エチルベンジル)−4−ブロモ−1,3−ジメチルピラゾール−5−カルボキサミド、N−(4−i−プロピルベンジル)−4−フルオロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミド、N−(4−n−プロピルベンジル)−4−ヨード−3−i−プロピル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミド、N−(4−n−ブチルベンジル)−4−クロロ−1,3−ジメチルピラゾール−5−カルボキサミド、N−(4−s−ブチルベンジル)−4−ブロモ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミド、N−(4−s−ペンチルベンジル)−4−ヨード−3−i−プロピル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミド、N−(4−tert−ペンチルベンジル)−4−フルオロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミド等を挙げることができる。中でも、N−(4−tert−ブチルベンジル)−4−クロロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミドが好適である。
【0016】
また、上記一般式(II)で表される化合物として、より具体的には、4−クロロ−3−エチル−1−メチル−N−[4−(p−トリルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド、4−ブロモ−1,3−ジメチル−N−[4−(p−トリルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド、4−ヨード−3−エチル−1−メチル−N−[4−(フェニルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド、4−フルオロ−1,3−ジメチル−N−[4−(フェニルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド、4−クロロ−3−エチル−1−メチル−N−[4−(p−エチルフェニルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド、4−ヨード−1,3−ジエチル−N−[4−(p−エチルフェニルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド、4−ヨード−1,3−ジメチル−N−[4−(p−i−プロピルフェニルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド、4−クロロ−1,3−ジメチル−N−[4−(p−c−プロピルフェニルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド、4−クロロ−3−エチル−1−メチル−N−[4−(p−tert−ブチルフェニルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド、4−ブロモ−1,3−ジメチル−N−[4−(p−tert−ブチルフェニルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド、4−ブロモ−3−tert−ブチル−1−メチル−N−[4−(p−トリルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド、4−ヨード−3−tert−ブチル−1−メチル−N−[4−(p−トリルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド、4−クロロ−3−tert−ブチル−1−メチル−N−[4−(p−i−プロピルフェニルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド等を挙げることができる。中でも、4−クロロ−3−エチル−1−メチル−N−[4−(p−トリルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミドが好適である。
【0017】
本発明に係る育毛養毛剤は、水、アルコール、DMSO(ジメチルスルホキシド)などの希釈溶媒、必要に応じて用いられる安定剤、保存剤などの成分に、有効成分であるピラゾール−5−カルボキサミド誘導体を配合してなる。
【0018】
本発明に係る育毛養毛剤は、通常、育毛養毛トニック、ヘアークリームなどの育毛養毛組成物に育毛養毛効果をもたらす有効成分として配合されて用いられるが、そのまま生体の皮膚に塗布する用い方も可能である。
そのまま皮膚に塗布する場合の育毛養毛剤中のピラゾール−5−カルボキサミド誘導体の含有量としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができるが、例えば、固形分換算で、0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましい。前記含有量が、0.001質量%未満であると、その配合効果が十分に発揮されないことがあり、10質量%を超えると、使用感が悪くなるなどの不具合を生じる場合がある。一方、前記含有量が、より好ましい範囲内であると、その配合効果が十分に発揮され、かつ、安全性及び安定性に優れる点で、有利である。
育毛養毛組成物に育毛養毛効果をもたらす有効成分として配合されて用いられる場合では、育毛養毛剤中のピラゾール−5−カルボキサミド誘導体の含有量は、育毛養毛剤を配合した後の育毛養毛組成物中のピラゾール−5−カルボキサミド誘導体の含有量が0.001〜10質量%の範囲内に調整可能な範囲で、適宜に設定される。
【0019】
(育毛養毛組成物)
本発明の育毛養毛組成物は、上記育毛養毛剤を含む組成物であり、育毛養毛トニック、ヘアークリームなどの剤形とされる。したがって、育毛養毛組成物には、その剤形に従来用いられていた成分に、上記育毛養毛剤が育毛養毛効果をもたらすための成分として配合される。
本発明の育毛養毛組成物中の育毛養毛剤の含有量は、ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体の固形分換算で、0.001〜10質量%が好ましく、0.01〜10質量%がより好ましい。
【実施例】
【0020】
以下、本発明に係る育毛養毛剤および育毛養毛組成物の実施例を説明する。以下に説明する実施例は、本発明を説明する好適な例示であるが、本発明を限定するものではない。
【0021】
本発明に係る育毛養毛剤の有効成分であるピラゾール−5−カルボキサミド誘導体として、N−(4−tert−ブチルベンジル)−4−クロロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミド、および4−クロロ−3−エチル−1−メチル−N−[4−(p−トリルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミドを用いた育毛養毛剤サンプルの育毛養毛効果を、以下の評価方法により評価した。評価に用いた各有効成分の溶媒には、DMSOを用いた。使用濃度は各評価方法の説明中に記載した。
【0022】
(実施例1):ヒト由来表皮角化細胞の増殖促進作用の評価
Alamar Blue染色液は培養細胞系の好気呼吸の指標に用いられる酸化還元指示薬であり,還元による呈色の変化量が細胞数に比例することが知られている。今回,当指示薬を用いてヒト由来表皮角化細胞の増殖促進作用の評価を行った。
培地は全て角化細胞用培地(クラボウ社製、商品名「Humedia-KG2,Cat# KK-2150S」)を用い,培養条件は全て37℃、5%CO、湿度99%以上とした。
【0023】
24−well−plate(住友ベークライト社製、Cat# MS−80240) にヒト由来表皮角化細胞(クラボウ社製、商品名「Neonatal human epidermal keratinocyte; NHEK, Cat# KK−4001」)を5000cells/wellの細胞濃度で播種し、24時間の培養後,N−(4−tert−ブチルベンジル)−4−クロロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミド(0ppm、0.01ppm、および0.1ppmの3通り、基剤には0.1質量%DMSOを使用)を含んだ培地と交換し、更に24時間培養後、各wellに50μL Alamar Blue染色液(BIOSOURCE社製、Cat# DAL1100)を加え、プレートリーダー(大日本住友製薬社製、商品名「POWERSCAN HT」)により励起波長(530nm)および検出波長(590nm)での吸光度を計測した。計測3時間後、再度吸光度の計測を行い、3時間での変化を算出した。
【0024】
計測後,同濃度のN−(4−tert−ブチルベンジル)−4−クロロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミドを含んだ培地と再度交換し、72時間後、同様にして3時間でのAlamar Blue 吸光度の変化を計測した。
【0025】
吸光度変化の比(薬剤添加72時間後/薬剤未添加時)より細胞賦活作用を評価した。例数は,各検体につきn=3とした。評価結果を下記(表1)に示した。
【0026】
【表1】

(表1)の結果から、ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体であるN−(4−tert−ブチルベンジル)−4−クロロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミドは表皮角化細胞の増殖促進作用を有することが示された。
【0027】
次に、本発明に係る育毛養毛剤の有効成分であるピラゾール−5−カルボキサミド誘導体として、N−(4−tert−ブチルベンジル)−4−クロロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミド、および4−クロロ−3−エチル−1−メチル−N−[4−(p−トリルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミドを用いた育毛養毛剤サンプルの毛成長促進作用(実施例2,3)及び成長期への毛周期変換作用(実施例4)を評価した。
【0028】
評価を行うための対照群として、各種薬剤の溶媒である50%エタノールを塗布剤として用いた群を用意し、また、比較群1として、明らかに発毛促進作用を有することが知られているミノキシジル(1質量%)を塗布剤として用いた群を用意し、さらに比較群2として、GSK−3β阻害作用を有することで知られるリチウム化合物(塩化リチウム:4質量%あるいは酢酸リチウム:4質量%)を塗布剤として用いた群を用意した。なお、リチウム化合物を比較群として採用した理由は、本発明の育毛養毛剤の有効成分であるピラゾール化合物にGSK3β阻害作用があることが知られていることから、GSK−3β阻害作用と育毛養毛作用との関連性の有無を確認するためである。
【0029】
また、被験体としては、雄のC3H/HeNマウス(7週齢,日本チャールスリバー社製)及び雄のC57BL/6マウス(7週齢,日本エスエルシー社製)を用いた。被験体にマウスを用いた理由は、一般的に認められているように、操作性が良好であることに加えて、他のほ乳類に比べて、マウス等の一部の齧歯類が毛周期の休止期および成長期の事前コントロールが容易である点にある。マウス等の一部の齧歯類では、電気バリカンによる除毛で、皮膚を目視できる状態にして確認した皮膚の色がピンク色である場合は、毛周期が休止期にあり、黒変している場合は、既に成長期にあると判断される。この電気バリカンによる除毛では、毛周期に対する影響はないが、さらに電気シェーバーによる除毛処理を行うと、休止期にある毛周期が成長期に誘導される。本発明に係る育毛養毛剤が慣用の育毛養毛剤と同様に成長期毛の毛成長に効果があることを確認するためには、バリカン除毛の後、さらに電気シェーバーによる除毛を行ったマウスを使えばよい。そして、より根本的な脱毛症の解決策と考えられる休止期状態からの発毛、すなわち休止期にある毛周期を成長期に誘導し、発毛に至らせる効果を確認するためには、バリカン除毛後の皮膚状態の目視確認により毛周期が休止期にあるマウスを使えばよい。
【0030】
(実施例2):ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体の毛成長促進作用の評価
毛周期において休止期にある雄のC3H/HeNマウス(7週齢,日本チャールスリバー社製)を用い,小川らの方法(フレグランスジャーナル,Vol.17,No.5,p20-29,1989. 参照)を参考にして実験を行った。当評価系は、成長期毛の伸長を促進する効果を評価するものである。
【0031】
マウスの背部体毛を約2×4cmの大きさに電気バリカンで除毛し、背部皮膚が休止期を示すピンク色であることを目視により確認した。続いて、その部分をさらに電気シェーバーにて除毛することによって毛周期における成長期を誘導した。
除毛の翌日より1日1回100μLずつ週5回、20日間サンプル塗布を行い,除毛部分に対し毛再生が始まった部分の面積比の変化を求め,下記11段階の評価にて,毛再生の速さを比較した。なお、成長期に誘導されたか否かは、シェーバー後15日以降も毛再生が起こらないことにより確認されるので、そのような個体は評価より除外することになる。
【0032】
ピラゾール化合物サンプルとしては,ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体を含む下記(表2)に示す3種のピラゾール化合物を50%エタノールに0.1質量%の濃度で溶解したものを使用した。
また、比較群1として、明らかに発毛促進作用を有することが知られているミノキシジル(1質量%)塗布群を設けた。対照群として、各種薬剤の溶媒である50%エタノール塗布群を設けた。さらに、GSK−3β阻害作用を有することで知られるリチウム化合物(塩化リチウム、4質量%)を比較群2として評価した。
各群ともに1群8匹として実験に供した。薬剤の初回塗布から10日後の平均発毛面積率スコアを下記評価基準により求めた。その結果を(表2)に示した。
【0033】
(評価基準)
除毛された部分の全体面積に対する毛再生が始まった部分の面積の割合
0点:0〜4%
1点:5〜14%
2点:15〜24%
3点:25〜34%
4点:35〜44%
5点:45〜54%
6点:55〜64%
7点:65〜74%
8点:75〜84%
9点:85〜94%
10点:95〜100%
【0034】
【表2】

【0035】
(表2)に見るように、ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体である「N−(−4−tert−ブチルベンジル)−4−クロロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミド」が顕著な毛成長促進効果を示した。なお、GSK−3β阻害剤として知られているリチウムには、(表2)に見るように、毛成長促進作用は認められなかった。
【0036】
(実施例3):ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体の毛成長促進作用の評価
上記実施例2における評価法と同様にして、下記(表3)に示す4種のピラゾール化合物、対照群(50%エタノール)、および比較群1(ミノキシジル(1%))の毛成長促進作用を評価した。この実施例では、ピラゾール化合物サンプルとして、2種類のピラゾール−5−カルボキサミド誘導体を含む下記(表3)に示す4種のピラゾール化合物を同時に評価することにより、カルボキサミドのピラゾール骨格への結合部位による比較を行った(ピラゾール骨格の3位と5位および1位と2位は等価とする)。結果を(表3)に示す。
【0037】
【表3】

【0038】
(表3)に示した通り、4種のピラゾール化合物の内、ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体である「N−(−4−tert−ブチルベンジル)−4−クロロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミド」および「4−クロロ−3−エチル−1−メチル−N−[4−(p−トリルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド」の2種類のピラゾール−5−カルボキサミド誘導体が毛成長促進作用を示した。
【0039】
(実施例4):ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体の成長期への毛周期変換作用の評価
毛周期において休止期にある雄のC57BL/6マウス(7週齢,日本エスエルシー社製)を用い,小川らの方法(フレグランスジャーナル,Vol.17,No.5,p20-29,1989. 参照)を参考にして実験を行った。脱毛症の根本的な解決のためには,成長期毛の伸長を促すのみではなく,同時に休止期毛を成長期に移行させる「毛周期変換」が更に重要であると考えられるので、この実施例では、休止期から成長期への毛周期変換効果を評価する。
【0040】
被験体のマウスの数は、下記(表4)に示す4群のそれぞれに8匹用意した。各マウスの背部体毛を約2×4cmの大きさに電気バリカンにて除毛し、背部皮膚が休止期を示すピンク色であることを目視により確認した。この除毛部分をさらに電気シェーバーにより除毛することはせず、毛周期は休止期のままとした。なお、対照群と、比較群1に用意した各8匹の内、それぞれ1匹が電気バリカンにて除毛後に目視にて確認した皮膚が黒変しており、既に成長期にあったので、被験体から除外した。したがって、対照群及び比較群1の被験体数は7匹となった。
【0041】
上記電気バリカンのみによる除毛の翌日より1日1回100μLずつ週5回、30日間サンプル塗布を行い、毛周期が休止期にある除毛部分に対し毛再生が始まった部分の面積比の変化を求めた。求めた面積比を下記11段階の評価基準に当てはめて、毛再生の早さを比較した。
【0042】
使用サンプルは、下記(表4)に示すように、50%エタノール(対照群)、ミノキシジル(1%)(比較群1)、及び酢酸リチウム(4%)(比較群2)の他、2種のピラゾール−5−カルボキサミド誘導体を50%エタノールに0.1質量%の濃度で溶解したものを使用した。
【0043】
各群のマウスに対して、薬剤の初回塗布から20日後の平均発毛面積率スコアを下記評価基準により求めた。その結果を下記(表4)に示した。また、図1〜4に、比較群2を除いた4つの評価群毎の、初回塗布より30日後のC57BL/6マウス背部の画像を示した。図1は対照群のマウス背部写真、図2はN−(4−tert−ブチルベンジル) −4−クロロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミド(0.1%)を用いた群のマウス背部写真、図3は4−クロロ−3−エチル−1−メチル−N−[4−(p−トリルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド(0.1%)を用いた群のマウス背部写真、図4は比較群1のマウス背部写真である。
【0044】
(評価基準)
除毛された部分の全体面積に対する毛再生が始まった部分の面積の割合
0点:0〜4%
1点:5〜14%
2点:15〜24%
3点:25〜34%
4点:35〜44%
5点:45〜54%
6点:55〜64%
7点:65〜74%
8点:75〜84%
9点:85〜94%
10点:95〜100%
【0045】
【表4】

【0046】
(表4)および図1〜4に示した通り、ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体である「N−(4−tert−ブチルベンジル)−4−クロロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミド」および「4−クロロ−3−エチル−1−メチル−N−[4−(p−トリルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミド」は高い毛周期変換効果を示した。また,GSK−3β阻害剤として知られているリチウムは、(表4)に示す通り効果を示さなかった。
【0047】
以上のように、本願発明者らは、C3Hマウスを用いてピラゾール−5−カルボキサミド誘導体を含めた複数のピラゾール化合物の毛成長促進作用を評価し、ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体であるN−(4−tert−ブチルベンジル)−4−クロロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミドおよび4−クロロ−3−エチル−1−メチル−N−[4−(p−トリルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミドが顕著な効果を示すこと、それにより、ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体は優れた毛成長促進作用を有することを確認した。
さらに、脱毛症の根本的な解決のためには成長期毛の伸長を促すのみではなく,同時に休止期毛を成長期に移行させることが更に重要であると考えられるため、上記2種のピラゾール−5−カルボキサミド誘導体が休止期から成長期への毛周期変換作用を有するか否か、C57BL/6マウスを用いて検討した。その結果、従来の育毛養毛剤の主成分として使用されているミノキシジルと比較して顕著に高い効果を示すことが、確認された。
【0048】
上述のように優れた育毛養毛効果を有する本発明の育毛養毛剤を含む育毛養毛組成物の配合例を以下の(表5)および(表6)に示す。これらの育毛養毛組成物(育毛養毛トニック)においても、上記実施例1〜4のサンプルと同様の高い育毛養毛効果が得られることが確認された。
【0049】
【表5】

【0050】
【表6】

【産業上の利用可能性】
【0051】
以上のように、本発明にかかる育毛養毛剤および育毛養毛組成物は、高い育毛効果を持ち,根本的な脱毛症治療に極めて有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体を有効成分として有する育毛養毛剤。
【請求項2】
ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体が、下記一般式(I)または(II):
【化1】

【化2】

(式(I)(II)中、R、R、Rは1〜20の炭素原子を有する直鎖状または分岐状の炭化水素基または水素原子を表し、Xはハロゲンを表し、nは0〜20の整数を表す]
で表される化合物、またはその薬学的もしくは医学的に許容しうる塩からなる群から選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載の育毛養毛剤。
【請求項3】
ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体がN−(4−tert−ブチルベンジル)−4−クロロ−3−エチル−1−メチルピラゾール−5−カルボキサミドである請求項1または2に記載の育毛養毛剤。
【請求項4】
ピラゾール−5−カルボキサミド誘導体が4−クロロ−3−エチル−1−メチル−N−[4−(p−トリルオキシ)ベンジル]ピラゾール−5−カルボキサミドである請求項1または2に記載の育毛養毛剤。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の育毛養毛剤を含むことを特徴とする育毛養毛組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−136944(P2011−136944A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−297839(P2009−297839)
【出願日】平成21年12月28日(2009.12.28)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】