説明

胃瘻造設法用器具及び胃瘻造設法

【課題】 安全で、外径の大きい胃瘻カテーテルを、ガイドワイヤ等を用いず迅速、かつ容易に留置することができ、気腹を防止することもでき、さらに穿刺も容易で腹部の血管や胃壁を損傷することがないとともに、シースの先端開口部がめくれることもない胃瘻造設法用器具及び胃瘻造設法を提供すること。
【解決手段】 先端が鋭利な形状となった細径で所定長さの針本体を有するトロッカー針2と、拡張用ダイレータ3と、ピールアウェイシース4とを具え、前記トロッカー針、ダイレータ及びシースは、それぞれの後端部に設けた把持部22,34,44が当接して組み付けられた状態で、ダイレータ3の径小部がシースの先端開口部から段差なく突出し、かつトロッカー針2の先端がダイレータの径小部の先端開口部から段差なく突出し、さらにシース4のシース本体周壁には該シース本体を軸方向に複数個に分割するための手段としての肉薄の溝46が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、胃瘻造設法用器具及び胃瘻造設法に関し、さらに詳しくは胃瘻カテーテルを胃内に留置する胃瘻造設の作業を、ガイドワイヤ等を用いず迅速、かつ容易に行えるようにした技術に係るものである。
【背景技術】
【0002】
従来、いわゆる胃瘻造設術として行われていたものは、全身麻酔下に開腹手術で瘻孔を形成する開腹的胃瘻造設術である。しかし、胃瘻造設術の適応となる患者は高齢者や寝たきり状態で全身に何らかの疾患が見られる症例が多いため、全身麻酔の手術はきわめて危険性が高かった。
【0003】
そこで最近は、内視鏡を利用して胃瘻を造設する経皮内視鏡的胃瘻造設術( Percutaneous Endoscopic Gastrostomy 、以下「PEG」という。)が行われ、PEGを用いた胃瘻栄養が現在の経管栄養法として広く普及している。PEGでは、まず口腔より内視鏡を挿入し、送気チャンネルより空気を送り込み、胃を膨らませて腹壁と胃壁を密着させる。次にチューブ状の胃瘻カテーテルの挿入を行うが、それにはいくつか方法があり、ガイドワイヤを利用して口腔より胃瘻カテーテルを挿入する「プル/プッシュ法」や、シースを利用して腹部に胃瘻カテーテルを挿入する「イントロデューサ法」、さらにガイドワイヤやダイレータを利用して腹部に胃瘻カテーテルの挿入を行う「ダイレクト法」がある。
【0004】
しかし、上記方法にはそれぞれ欠点があり、「プル/プッシュ法」は胃瘻カテーテルを口腔から挿入するので、咽頭部の細菌が胃瘻カテーテルに付着し、胃の造設部で感染する恐れがある。「イントロデューサ法」はシースと金属製のトロッカー針を利用して瘻孔を形成するが、太いトロッカー針を穿刺することは腹部の血管や胃壁を損傷する恐れがあり危険なので、5.5mm程のトロッカー針に合った外径の小さい胃瘻カテーテルしか挿入できない。一方、「ダイレクト法」は腹部に18G(1.0mm)程の穿刺針を穿刺し、そこからガイドワイヤを入れ、更にそのガイドワイヤに沿ってダイレータで瘻孔を拡張するため、外径の大きい胃瘻カテーテルの挿入は可能であるが、胃瘻カテーテルの挿入時にダイレータを抜かなければならないので、その際腹腔に空気が溜まり気腹を起こしてしまうということが問題視されている。
【0005】
そこで、本発明者等は、細径のトロッカー針を使用し、ダイレータ及びシースを組み付けて腹部に穿刺し挿入することで、以前より安全で、外径の大きい胃瘻カテーテルも留置することが可能、かつ気腹を防止できないかという課題について鋭意研究の結果、「イントロデューサ法」と「ダイレクト法」の両方の欠点を改善することができる方法を見出し、この発明を完成するに至った。
【0006】
なお、この発明に関して先行技術調査を行ったところ、特開2003−38655号公報(特許文献1)があり、この特許文献1には、胃瘻カテーテルを装着するためのシース付きダイレータが開示されている。しかし、ここに開示のダイレータは、ダイレータの先端部の外径が1.6mm程に形成されているとはいえ、先端が軸線と直交する平坦面形状に形成され先細な形状となっていないため、挿入し難い。しかも、シースの先端開口部から突出したダイレータの先端部が複数の段差のある遷移部により形成されているため、前記遷移部で円滑な挿入が中断されてしまう等、ダイレータの挿入が容易でなかった。また、シースの先端開口部とダイレータの外面に段差が形成され、この段差によりシースの先端開口部が挿入時にダイレータからめくれてしまうこともあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−38655号公報(段落0032及び図9参照)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この発明は、前記のような従来の問題点に鑑み、安全で、外径の大きい胃瘻カテーテルを、ガイドワイヤ等を用いず迅速、かつ容易に留置することができ、気腹を防止することもでき、さらに穿刺も容易で腹部の血管や胃壁を損傷することがないとともに、シースの先端開口部がめくれることもない胃瘻造設法用器具及び胃瘻造設法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記課題を解決するために、請求項1に記載の発明は、胃瘻造設法に用いられる器具であって、先端が鋭利な形状となった細径で所定長さの針本体を有し、該針本体の後端部に針把持部が設けられたトロッカー針と、このトロッカー針の針本体を挿通する軸方向孔が設けられたダイレータ本体を有し、該ダイレータ本体の先端部に先端方向に徐々に経小となった先細形状の径小部が設けられ、かつ後端部に前記トロッカー針の針本体を挿通したとき針把持部が当接するダイレータ把持部が設けられた拡張用ダイレータと、このダイレータのダイレータ本体を挿通する軸方向孔が設けられたシース本体を有し、該シース本体の後端部に前記ダイレータのダイレータ本体を挿通したときダイレータ把持部が当接するシース把持部が設けられたピールアウェイシースとを具え、前記トロッカー針、ダイレータ及びピールアウェイシースは、それぞれの後端部に設けた把持部が当接して組み付けられた状態で、前記ダイレータの径小部がピールアウェイシースの先端開口部から段差なく突出し、かつ前記トロッカー針の先端がダイレータの径小部の先端開口部から段差なく突出し、さらに前記シースのシース本体周壁には該シース本体を軸方向に複数個に分割するための手段が設けられていることを特徴とする。
【0010】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の胃瘻造設法用器具において、トロッカー針の針本体は細い径からなることを特徴とする。
【0011】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は2に記載の胃瘻造設法用器具において、ダイレータの径小部の後端とシースのシース本体の先端との間は、シース本体の先端外面を先端方向に下向のテーパ面とすることにより、段差が形成されていないことを特徴とする。
【0012】
請求項4に記載の発明は、請求項1ないし3のいずれかに記載の胃瘻造設法用器具において、分割するための手段は、肉薄の溝であることを特徴とする。
【0013】
請求項5に記載の発明は、請求項1ないし4のいずれかに記載の胃瘻造設法用器具をトロッカー針、ダイレータ及びピールアウェイシースが組み付けられた状態で腹部へ穿刺し、トロッカー針の先端部が胃内部に入るまで挿入し、その後トロッカー針を抜去したうえピールアウェイシースが付いた状態のダイレータをさらに胃内部まで押し込むようにして入れて瘻孔を拡張し、その後ダイレータを抜去したうえピールアウェイシースをシース本体周壁に設けた分割するための手段によって軸方向に複数個に分割して胃瘻カテーテルを入れ、その後ピールアウェイシースを抜去したうえ胃瘻カテーテルを留置することを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
この発明は、前記のようであって、請求項1ないし4に記載の発明によれば、先端が鋭利な形状となった細径で所定長さの針本体を有し、該針本体の後端部に針把持部が設けられたトロッカー針と、このトロッカー針の針本体を挿通する軸方向孔が設けられたダイレータ本体を有し、該ダイレータ本体の先端部に先端方向に徐々に経小となった先細形状の径小部が設けられ、かつ後端部に前記トロッカー針の針本体を挿通したとき針把持部が当接するダイレータ把持部が設けられた拡張用ダイレータと、このダイレータのダイレータ本体を挿通する軸方向孔が設けられたシース本体を有し、該シース本体の後端部に前記ダイレータのダイレータ本体を挿通したときダイレータ把持部が当接するシース把持部が設けられたピールアウェイシースとを具え、前記トロッカー針、ダイレータ及びピールアウェイシースは、それぞれの後端部に設けた把持部が当接して組み付けられた状態で、前記ダイレータの径小部がピールアウェイシースの先端開口部から段差なく突出し、かつ前記トロッカー針の先端がダイレータの径小部の先端開口部から段差なく突出し、さらに前記シースのシース本体周壁には該シース本体を軸方向に複数個に分割するための手段が設けられているので、胃瘻造設法用器具を組み付けたまま腹部へ穿刺して挿入することができる。したがって、従前よりも安全に、しかも外径の大きい胃瘻カテーテルを留置することができる。しかも、トロッカー針、ダイレータ及びピールアウェイシースを一度に挿入してから最内側のトロッカー針から順に抜去していくだけなので作業回数が少なくて済む。また、従来のようにガイドワイヤ等を用いなくともよいので、使用も簡便である。
【0015】
また、腹部に穿刺して挿入したのち、トロッカー針と拡張用ダイレータを順次に抜き、ピールアウェイシースを残した状態で胃瘻カテーテルを挿入するので、腹腔に空気が漏れず、気腹が起こるのを防止することもできる。さらに、トロッカー針の針本体の先端形状が鋭利となっているため、穿刺も容易であり、従前のような腹部の血管や胃壁を損傷することがないし、瘻孔を拡張するときにシースの先端開口部がダイレータからめくれることもないという優れた効果がある。
【0016】
請求項5に記載の発明によれば、請求項1ないし4のいずれかに記載の胃瘻造設法用器具を用いて迅速、かつ容易に胃瘻カテーテルを留置することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】この発明の一実施の形態を示す、胃瘻造設法用器具の全体図であり、(A)は軸方向の一部を省略した正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図である。
【図2】図1(A)の縦断正面図である。
【図3】図2の線X−Xに沿う拡大断面図である。
【図4】トロッカー針の全体図であり、(A)は軸方向の一部を省略した正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図である。
【図5】拡張用ダイレータの全体図であり、(A)は軸方向の一部を省略した正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図である。
【図6】ピールアウェイシースの全体図であり、(A)は軸方向の一部を省略した正面図、(B)は左側面図、(C)は右側面図である。
【図7】ダイレータの径小部の先端及び後端付近を拡大して示す要部断面図である。
【図8】使用の一例を示す作用説明図である。
【図9】別例のダイレータの径小部の先端及び後端付近を拡大して示す要部断面図である。
【図10】別の実施の形態を示す、軸方向の一部を省略した胃瘻造設法用器具の全体正面図である。
【図11】ロック機構を示し、(A)はロック時、(B)はロック解除時、のそれぞれの状態の右側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、図面を参照しながら、この発明の一実施の形態に係る胃瘻造設法用器具について、説明する。
【0019】
図1〜3において、1は胃瘻造設法用器具であり、この胃瘻造設法用器具1は、金属製のトロッカー針2、合成樹脂製の拡張用ダイレータ3、及び合成樹脂製のピールアウェイシース4からなっている。
【0020】
トロッカー針2は、図4にも示すように、例えば生体に適した鋼製からなり、外径が2mmの細径の針本体21を有している。針本体21の先端部の先端21aは3面カット(刃の角度は図4(B)に示すように120°)の鋭利な形状に形成され、穿刺し易いようになっている。針本体21の後端部には針把持部22が設けられている。針把持部22は、針本体21の後端部が嵌入して固定される該後端寄りの円形大径部22aとその反対側の円形小径部22bからなっている。針把持部22が大径部22aと小径部22bからなっているのは、針把持部22を後記ダイレータの保持部に当接した状態から引き抜く際に大径部22aを摘んで引き抜き易いようにしたためである。そして、トロッカー針2は、軸方向の長さが針本体21で190mm、針把持部22で10mm、の全長が200mmとなっている。針本体21の先端21aの形状が鋭利になっていて、そのままの状態では危険を伴うため、使用しないときには先端部に先端保護のためのキャップを設ける場合もある。
【0021】
拡張用ダイレータ3は、図5にも示すように、例えば生体に適した熱可塑性樹脂製からなり、トロッカー針2の針本体21を挿通する軸方向孔32が設けられたダイレータ本体31を有している。ダイレータ本体31の先端部には先端方向に徐々に経小となった先細略円錐形状の径小部33が設けられている。径小部33の先端外面とトロッカー針2の針本体21の外面とは滑らかに連接した状態とされ、該径小部の先端と針本体21の外面との間に段差が形成されないようになっている。また、ダイレータ本体31の後端部にはトロッカー針2の針本体21を挿通したとき針把持部22が当接するダイレータ把持部34が設けられている。ダイレータ把持部34は、針把持部22の円形小径部22bが当接する後端寄りの円形大径部34aとその反対側の円形小径部34bからなっている。ダイレータ把持部34が大径部34aと小径部34bからなっているのは、前記針把持部22の場合と同様な理由であり、ダイレータ把持部34を後記シースの保持部に当接した状態から引き抜く際に大径部34aを摘んで引き抜き易いようにするためである。そして、拡張用ダイレータ3は、軸方向の長さがダイレータ本体31で153mm、径小部33で20mm、ダイレータ把持部34で9mm、の全長が182mmとなっている。
【0022】
ピールアウェイシース4は、図6にも示すように、例えば生体に適した熱可塑性樹脂製からなり、ダイレータ3のダイレータ本体31を挿通する軸方向孔42が設けられたシース本体41を有している。シース本体41の先端外面には、図7に示すように、先端方向に下向のテーパ面43が形成され、該テーパ面の先端外面とダイレータ3の径小部33の後端外面が面一となってシース本体41の先端とダイレータ3の径小部33の後端との間に段差が形成されないようになっている。この実施の形態では段差が形成されないようにするためにテーパ面43を形成して径小部33の後端外面と面一としたが、必ずしもこのような構成にしなくともよく、他に例えば外方に凸状となった湾曲面として連接するようにしてもよい。また、シース本体41の後端部にはダイレータ3のダイレータ本体31を装着したときダイレータ把持部34が当接するシース把持部44が1対、シース本体41を挟むように、しかし両側縁間にシース本体41の外面が一部現出するようにして相対称に設けられている。シース把持部44は、ダイレータ把持部34の小径部34bが当接する後端寄りの大鍔部44aとその反対側の小鍔部44bからなっている。
【0023】
また、前記シース本体41の外面が一部現出した周壁であって、その軸方向に沿う部位には該本体を軸方向に引き裂いて複数個に分割するための手段としての肉薄の溝46が破線で示すように設けられている。溝46はこの実施の形態では円周方向に180°位置がずれた箇所に2個設けられている。なお、溝46は一例であり、他に例えば小穴を多数、所定間隔で形成して引き裂き易くしたものでもよい。そして、ピールアウェイシース4は、軸方向の長さがシース本体41で143mm、シース把持部44で7mm、の全長が150mmとなっている。挿入深さを把握するためにピールアウェイシース4のシース本体41の周壁外面に目盛を施す場合もある。
【0024】
前記トロッカー針2、ダイレータ3及びピールアウェイシース4は、次のようにして組み付けられる。すなわち、まずダイレータ3を、その径小部33の先端側からシース4の把持部44のある後端開口部に入れ、把持部34の小径部34bをシース4の把持部44の大鍔部44aに当接させる。この当接により、ダイレータ3の径小部33がシース4の先端開口部より突出した状態となる。次に、トロッカー針2を、その先端側からシース4が付いたダイレータ3の把持部34のある後端開口部に入れ、把持部22の小径部22bをダイレータ3の把持部34の大径部34aに当接させる。この当接により、トロッカー針2の先端部がダイレータ3の径小部33の先端開口より突出した状態となる。これにより、前記トロッカー針2、ダイレータ3及びピールアウェイシース4は組み付けられた状態になるとともに、その先端方向には段差がない状態となる。つまり、トロッカー針2の針本体21とダイレータ3の径小部33の先端との間、及びダイレータ3の径小部33の後端とシース4のシース本体41の先端との間には段差が形成されない状態になる。
【0025】
前記のようにトロッカー針2、ダイレータ3及びピールアウェイシース4が組み付けられた胃瘻造設法用器具1を用いて行う胃瘻造設術について、図8を参照して説明する。
【0026】
まず、図示していないが、次のような前手技を行う。すなわち、口腔より内視鏡を挿入し、指サイン並びにイルミネーションサインにて確認しながら瘻孔部位を決定する。瘻孔部位を決定した後、皮膚消毒の上、局所麻酔と試験穿刺をして、留置する胃瘻カテーテルのサイズを決定する。そして、胃壁固定具の手順に従い、胃壁固定を行い、その後メスで皮膚切開を約10mm、真皮まで十分に行う。
【0027】
前述のような前手技が完了した後、本手技を行う。まず、図8(A)に示すように、トロッカー針2、ダイレータ3及びピールアウェイシース4が組み付けられた胃瘻造設法用器具1を腹部へ穿刺して挿入する。このときトロッカー針2の先端部が胃内部に入るまで挿入する。細径のトロッカー針2とダイレータ3を組み合わせることで腹部の血管及び胃壁の損傷を防ぐことができる。
【0028】
次に、トロッカー針2を抜去する。そして、特に図示していないが、シース4が付いた状態のダイレータ3をさらに胃内部まで押し込むようにして入れ瘻孔を拡張する。このダイレータ3の押し込み拡張によって、より安全に瘻孔を形成することができ、かつ外径の大きい胃瘻カテーテルの挿入が可能となる。瘻孔を拡張した後、ダイレータ3を抜去する。この状態を示すのが図8(B)である。次に、前記ダイレータの抜去により残されたシース4内に、図8(C)に示すように、胃瘻栄養チューブ51を挿入する。そして、挿入後に、矢印で示すように、シース4の把持部44を摘んで相反する方向へ引き離すことにより、シース4の体表面に出ている部分を肉薄の溝46に沿って引き裂く。さらに続けて、上部分が引き裂かれたシース本体41の下部分を引き抜くことによりシース4全体を抜去する。これらの作業を行なうことで腹腔に空気が溜まることにより起こる気腹の防止を図ることができる。しかる後、図8(D)に示すように、胃瘻栄養チューブ51においては、胃内側ではバルーン52を膨らませ、体表面側では脱落防止用ストッパ53を装着して胃瘻栄養チューブ51を留置し、これで造設完了となる。造設完了後においては、留置した胃瘻栄養チューブ51を介して栄養剤を入れてやることが可能となる。
【0029】
前記のようであって胃瘻造設法用器具1を使用することにより、腹部の血管及び胃壁の損傷を抑え、気腹を防止し、患者への負担を最小限に抑えることができる。すなわち、胃瘻造設法用器具1にあっては、組み付け状態で挿入したトロッカー針2、ダイレータ3及びピールアウェイシース4を、一度挿入してから順に抜去していくだけなので作業回数が少なくて済む。また、従来のようにガイドワイヤ等を用いなくともよいので、使用が簡便である。また、細径のトロッカー針2とダイレータ3を組み付けることで腹部の血管及び胃壁の損傷を防ぐことができるので、より安全に瘻孔を形成することができ、かつ外径の大きい胃瘻カテーテルを留置することができる。また、腹部に穿刺して挿入したのち、トロッカー針2とダイレータ3を順次抜き、シース4を残した状態で胃瘻カテーテルを挿入するので、腹腔に空気が漏れず、気腹が起こるのを防止できる。また、シース4の先端外面をテーパ加工して段差をなくしているため、腹部へ滑らかに挿入することができる。しかも、挿入時にシース4の先端開口部がダイレータ3からめくれることもない。
【0030】
図9は、胃瘻造設法用器具1の先端方向に段差をなくすための別の例を示す。この例ではダイレータのダイレータ本体31’の外径が径小部33’の後端の外径より小径に形成され、この小径のダイレータ本体31’にシース本体41’が挿入して装着されている。シース本体41’は先端外面がダイレータ本体31’の径小部33’の後端外面と面一となるようにその外径が形成されている。そのため、ダイレータ本体31’にシース本体41’が挿入して装着されると、ダイレータの径小部33’の後端とシースのシース本体41’の先端との間は、図7のようにテーパ面43としたものと同様に段差が形成されなくなる。したがって、この別例のものでも前記のような作用効果を奏することが可能である。なお、この別例ではダイレータ本体31’のシース本体41’からの抜去に際して、シースの材質が熱可塑性樹脂製で柔軟性を有するため、シース本体41’の先端開口部に抜き出しの負荷がかかると、該開口部が一時的に拡開して抜去を可能とする。
【0031】
図10は、別の実施の形態の胃瘻造設法用器具を示す。この実施の形態の胃瘻造設法用器具61では、トロッカー針62、ダイレータ63、及びピールアウェイシース64が組み付けられると、それぞれロック機構によってロック可能になっている点で、前記図1〜9の実施の形態と基本的に相違し、そのほかの構成は把持部の形状等で若干の相違があるものの、ほぼ同様となっている。図11は、ダイレータ63とピールアウェイシース64のロック機構66を示す。
【0032】
すなわち、このロック機構66は、ピールアウェイシース64のシース把持部68の後端面に設けられた円弧状の上下係合爪71と、ダイレータ63の把持部72の前端面に設けられ、回動することにより前記係合爪に係脱可能な係合突部73と、を有している。そして、トロッカー針62、ダイレータ63、及びピールアウェイシース64が組み付けられた後に行うロック時には、図11(A)に矢印で示すようにピールアウェイシース64に対してダイレータ63を回動し、係合突部73を係合爪71に係合させる。これにより、ピールアウェイシース64とダイレータ63とはロックされた状態になり、一体化されて互いに軸方向に離間することがなくなる。一方、組み付けを解くためにロックを解除するには、図11(A)の状態からピールアウェイシース64に対してダイレータ63を回動し、図11(B)に示すように係合突部73を係合爪71から離脱させる。これにより、ロックが解除され、ダイレータ63はピールアウェイシース64から軸方向に離間させることが可能となる。
【0033】
また、図面では示していないが、ダイレータ63とトロッカー針62にもロック機構が設けられている。すなわち、ダイレータ63の把持部72の後端開口部内面にめねじが形成されているとともに、トロッカー針62の針把持部74の前端部外面におねじが形成され、このおねじの前記めねじへの螺合によりロックする。なお、図10で、75はピールアウェイシース64の周壁の円周方向に180°位置がずれた箇所に2個設けられた分割用の肉薄の溝であり、前記実施の形態の溝46と同様な機能を有するようになっている。
【0034】
胃瘻造設法用器具61を用いて行う胃瘻造設術は、前記胃瘻造設法用器具1を用いて行うそれとほぼ同様であるため、説明は省略することとする。この実施の形態の胃瘻造設法用器具61においては、前記のようなロック機構66等を備えているため、該ロック機構をロックすることにより、トロッカー針62、ダイレータ63、及びピールアウェイシース64を嵌合した状態で一体化でき、トロッカー針62やダイレータ63がピールアウェイシース64の基端側から抜け出さないようにすることができる。そのため、通常、胃瘻造設法用器具を腹部へ穿刺する際においては、該器具の基端側を手で持って押し込んで穿刺する方法のほかに、器具全体の中程を鉛筆状に持って穿刺する方法が考えられるが、後者のような場合においても前記図1〜9の実施の形態の胃瘻造設法用器具1ではダイレータ3とトロッカー針2がピールアウェイシース4から抜け出て離れてしまうことがあるのに対して、ダイレータ63とトロッカー針62がピールアウェイシース64から抜け出ることがなく、確実で安全な施術ができる。
【0035】
なお、前記各実施の形態では、あくまでも好ましい一例を挙げたにすぎず、段差をなくするための手段としてのテーパ面等の細部の設計的な事項は特許請求の範囲に記載の範囲内で任意に変更、修正することができることは言うまでもない。また、実施の形態では、胃瘻カテーテルとして胃瘻栄養チューブを示したが、胃瘻栄養チューブに代えてほかの胃瘻カテーテルとしてもよい。
【符号の説明】
【0036】
1,61 胃瘻造設法用器具
2,62 トロッカー針
3,63 拡張用ダイレータ
4,64 ピールアウェイシース
21 針本体
22,74 針把持部
31 ダイレータ本体
32 軸方向孔
33 径小部
34,72 ダイレータ把持部
41 シース本体
42 軸方向孔
43 テーパ面
44,68 シース把持部
46,75 肉薄の溝(分割するための手段)
51 胃瘻栄養チューブ(胃瘻カテーテル)
66 ロック機構
71 係合爪
73 係合突部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
胃瘻造設法に用いられる器具であって、
先端が鋭利な形状となった細径で所定長さの針本体を有し、該針本体の後端部に針把持部が設けられたトロッカー針と、
このトロッカー針の針本体を挿通する軸方向孔が設けられたダイレータ本体を有し、該ダイレータ本体の先端部に先端方向に徐々に経小となった先細形状の径小部が設けられ、かつ後端部に前記トロッカー針の針本体を挿通したとき針把持部が当接するダイレータ把持部が設けられた拡張用ダイレータと、
このダイレータのダイレータ本体を挿通する軸方向孔が設けられたシース本体を有し、該シース本体の後端部に前記ダイレータのダイレータ本体を挿通したときダイレータ把持部が当接するシース把持部が設けられたピールアウェイシースとを具え、
前記トロッカー針、ダイレータ及びピールアウェイシースは、それぞれの後端部に設けた把持部が当接して組み付けられた状態で、前記ダイレータの径小部がピールアウェイシースの先端開口部から段差なく突出し、かつ前記トロッカー針の先端がダイレータの径小部の先端開口部から段差なく突出し、さらに前記シースのシース本体周壁には該シース本体を軸方向に複数個に分割するための手段が設けられていることを特徴とする胃瘻造設法用器具。
【請求項2】
請求項1に記載の胃瘻造設法用器具において、トロッカー針の針本体は細い径からなることを特徴とする胃瘻造設器具。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の胃瘻造設法用器具において、ダイレータの径小部の後端とシースのシース本体の先端との間は、シース本体の先端外面を先端方向に下向のテーパ面とすることにより、段差が形成されていないことを特徴とする胃瘻造設器具。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載の胃瘻造設法用器具において、分割するための手段は、肉薄の溝であることを特徴とする胃瘻造設器具。
【請求項5】
請求項1ないし4のいずれかに記載の胃瘻造設法用器具をトロッカー針、ダイレータ及びピールアウェイシースが組み付けられた状態で腹部へ穿刺し、トロッカー針の先端部が胃内部に入るまで挿入し、その後トロッカー針を抜去したうえピールアウェイシースが付いた状態のダイレータをさらに胃内部まで押し込むようにして入れて瘻孔を拡張し、その後ダイレータを抜去したうえピールアウェイシースをシース本体周壁に設けた分割するための手段によって軸方向に複数個に分割して胃瘻カテーテルを入れ、その後ピールアウェイシースを抜去したうえ胃瘻カテーテルを留置することを特徴とする胃瘻造設法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−206179(P2011−206179A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−75360(P2010−75360)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(508303324)富士システムズ株式会社 (10)
【Fターム(参考)】