説明

脂環式置換基含有芳香族系化合物の製造方法及び低誘電材料

【課題】空孔導入を必要としない層間絶縁膜材料として優れた低誘電材料として使用される脂環式置換基含有芳香族系化合物の製造方法を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表されるハロゲン化脂環式化合物と、下記式(2)で表される芳香族系化合物を、フリーデル・クラフツ反応により反応させ、芳香族系化合物に少なくとも1つの脂環式基(R)を導入する脂環式置換基含有芳香族系化合物の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気・電子分野において、半導体の層間絶縁膜材料等として用いられる低誘電材料として有用な、脂環式置換基を有する芳香族系化合物の製造方法、並びに特定構造の脂環式置換基含有芳香族系化合物及びこれらの化合物の用途に関するものである。
【背景技術】
【0002】
低誘電材料は、電機・電子部品における材料としても帯電や抵抗値上昇等の問題点を解消するために広く用いられている。低誘電材料は、経済性向上、部材の誘電率の低下を目的として使用されるほか、発熱を伴う部分に用いられたり、薄膜として使用されたりすることが多い。このため、低誘電材料は、耐熱性向上、強度向上等も同時に求められている。
【0003】
特に低誘電材料は、半導体の層間絶縁膜材料として有用であり、低誘電率、高耐熱性、高強度、経済性を具備した材料の開発が活発に行われている。
低誘電材料の主な用途である半導体の層間絶縁膜材料としては、現在シロキサン系化合物が中心に用いられている。シロキサン系化合物は、主にケイ素、酸素から構成されている。ところが、分子の双極子モーメントが大きいほど誘電率は高くなるため、非共有電子対を多く有するシロキサン系化合物等は不利である。しかし、今までは誘電率kの要求値が3〜4程度と比較的高くてもよかったこと、また、強度やシリコンウェハーに対する密着性のバランスの点から、シロキサン系化合物が用いられていた。
【0004】
近年、半導体の高性能化の要求から半導体回路幅の微細化が求められており、誘電率をさらに低くすることが必要になってきた。その際には半導体チップ全体の強度や物理的ストレス等による絶縁破壊の問題も深刻になるため、薄膜としての強度も維持する必要がある。
【0005】
一方、低誘電率化の観点から、シロキサン系化合物は、無機シロキサン系化合物から有機シロキサン系化合物に移行し、さらにコントロールされたナノメートルレベルの空孔を導入する技術が進展してきた。しかし、さらなる低誘電率化に対応するために空孔の導入量を増やすと、薄膜の強度低下を招くため、強度低下を伴わず誘電率を低下させるには限界があった。
【0006】
そこで、有機系ポリマー等の新規材料が提案されてきたが、絶縁性、低誘電率と高強度に加えて、特に、半導体製造時にかかる熱負荷に耐える高耐熱性を具備する材料は見当たらなかった。
また、特許文献1に例示されるボラジン−ケイ素系高分子のような有機/無機重合体も提案されている。しかしながら、低誘電率、高強度、高耐熱性を具備するが重合に必要なプラチナ触媒を除去する工程がないため、残留プラチナ原子により生じる絶縁破壊や低安定性の点で問題が残っていた。
【0007】
また、特許文献2には、低誘電率、高強度、高耐熱性を具備するナフチルエーテル系高分子が提案されている。しかし、将来の画像表示装置や半導体装置に適用するには、低誘電率の点で不十分であった。
さらに、特許文献3には、主鎖中に二官能性の脂環式基を有する繰り返し単位からなるナフチレン系重合体が開示されている。しかし、特許文献2と同様に、将来の画像表示装置や半導体装置に適用するには、低誘電率の点で不十分であった。
【特許文献1】特開2002−359240号公報
【特許文献2】国際公開WO2004/083278パンフレット
【特許文献3】国際公開WO2005/092946パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、空孔導入を必要としない層間絶縁膜材料として優れた低誘電材料として使用される脂環式置換基含有芳香族系化合物を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明によれば、以下の脂環式置換基含有芳香族系化合物の製造方法等が提供される。
1.下記式(1)で表されるハロゲン化脂環式化合物と、下記式(2)で表される芳香族系化合物を、フリーデル・クラフツ反応により反応させ、前記芳香族系化合物に少なくとも1つの脂環式基(R)を導入する脂環式置換基含有芳香族系化合物の製造方法。
【化7】

[式中、Rは、置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基であり、Xはハロゲンである。nは4〜10000の整数である。
Aは置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基又は脂肪族骨格を含む芳香族基であり、Bは、単結合、−O−、−S−、下記式(I)に示されるメチレン基、下記式(II)に示されるアセタール基、又は二官能脂環式基で表される基である。
【化8】

(式中、R及びRは、それぞれ水素、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基であり、RとRは、同一でも、異なっていてもよい。)
yは1〜5の整数であり、AとB又はB同士が結合して環構造を形成してもよく、また、複数のBは同一でも異なっていてもよい。]
2.前記式(2)で表される芳香族系化合物が、下記式(3)又は下記式(4)で表される化合物である1記載の製造方法。
【化9】

(式中、R11〜R15及びR18は水素、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基であり、それぞれ同一でも、異なっていてもよく、
16及びR17は、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基であり、
nは、4〜10,000の整数であり、l及びmは0〜11の整数であり、l又はmが1〜10である場合、R16及びR17の位置はいずれでもよい。l又はmが2〜11である場合、複数のR16及びR17はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
3.前記式(2)で表される芳香族系化合物が、下記式(5)で表される化合物である1記載の製造方法。
【化10】

(式中、R21は、置換もしくは非置換の炭素数6〜14の二官能性芳香族基、又は置換もしくは非置換の炭素数5〜50の二官能性脂環式置換基であり、
22は、水素、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基であり、
pは2〜8の整数であり、複数のpは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
4.前記式(2)で表される芳香族系化合物が、下記式(6)で表される化合物である1記載の製造方法。
【化11】

(式中、R31〜R34は、それぞれ置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基であり、複数のR31〜R34は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、nは、4〜10,000の整数である。)
5.下記式(6’)で表される脂環式置換基含有芳香族系化合物。
【化12】

(式中、Rは、置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基であり、aは0〜6、bは0〜4、cは0〜4、dは0〜6であり、a〜dの合計は0.01〜20であり、化合物全体に1以上のRが結合している。Rが複数の場合は、それぞれ同一でも異なってもよい。
31〜R34は、それぞれ水素、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基であり、複数のR31〜R34は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、nは、4〜10,000の整数である。)
6.上記5に記載の脂環式置換基含有芳香族系化合物を含有してなる塗料。
7.上記5に記載の脂環式置換基含有芳香族系化合物を含む薄膜。
8.上記5に記載の脂環式置換基含有芳香族系化合物を含む低誘電材料。
9.上記5に記載の脂環式置換基含有芳香族系化合物を含む半導体用層間絶縁膜材料。
10.上記5に記載の脂環式置換基含有芳香族系化合物を含む電子材料。
11.上記8に記載の薄膜を含む半導体装置。
12.上記8に記載の薄膜を含む電子回路装置。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、空孔導入を必要としない層間絶縁膜材料として優れた低誘電材料として使用される脂環式置換基含有芳香族系化合物の製造方法及び低誘電材料が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明は、下記式(8)に示される脂環式置換基含有芳香族系化合物の製造方法に関する。
【化13】

【0012】
式(8)において、Aは、置換又は非置換の炭素数6〜30の芳香族基又は脂肪族骨格を含む芳香族基である。
芳香族基として、好ましくは、ベンゼン、ナフタレン、アントラセン、ビフェニル、ターフェニル、ビナフチル等が挙げられる。
脂肪族骨格を含む芳香族基として、好ましくはインダン、フルオレン、テトラヒドロナフタレン等が挙げられる。
【0013】
式(8)において、Bは、単結合、−O−、−S−、下記式(I)に示されるメチレン基、下記式(II)に示されるアセタール基、又は二官能脂環式基で表される基である。
【化14】

【0014】
式(I)及び式(II)において、R及びRは、それぞれ水素、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基である。
とRは、同一でも、異なっていてもよい。
【0015】
及びRが示す炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基としては、水素、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、ヘキシル基、n−ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラヘキサデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基が好ましい。
尚、炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基に置換基が結合している場合には、置換基としては、フェニル基、トリフルオロメチル基、アダマンチル基が好ましい。
【0016】
及びRが示す炭素数3〜20の分岐状脂肪族基として、イソプロピル基、イソブチル基、2−エチルヘキシル基が好ましい。
尚、炭素数3〜20の分岐状脂肪族基に置換基が結合している場合には、置換基としては、フェニル基、トリフルオロメチル基、アダマンチル基が好ましい。
【0017】
及びRが示す炭素数5〜50の脂環式置換基として、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、シクロドデシル基、シクロテトラデシル基、ノルボニル基、アダマンチル基、ジアマンチル基が好ましい。
尚、炭素数5〜50の脂環式置換基に置換基が結合している場合には、置換基としては、メチル基、エチル基、n−ブチル基、フェニル基、アダマンチル基が好ましい。
【0018】
及びRが示す炭素数6〜30の芳香族基として、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が好ましい。
尚、炭素数6〜30の芳香族基に置換基が結合している場合には、置換基としては、メチル基、エチル基、n−ブチル基、フェニル基、アダマンチル基が好ましい。
【0019】
及びRが示すフッ素含有脂肪族基として、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基が好ましい。また、フッ素含有脂環式基であってもよく、この場合には、パーフルオロアダマンチル基が好ましい。
【0020】
及びRが示すフッ素含有芳香族基として、ペンタフルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、ヘプタフルオロナフチル基、ノナフルオロアントラセニル基が好ましい。
【0021】
また、R及びRは上記の置換基を組み合わせて形成される置換基でもよい。具体例として、4−トリフルオロメチルフェニル基、3−メチルアダマンチル基、3−トリフルオロメチルアダマンチル基、3−フェニルアダマンチル基、ビアダマンチル基等が挙げられる。
【0022】
式(8)において、二官能脂環式基としては、二官能性のシクロヘキシル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基、ジアマンチル基等が挙げられる。
【0023】
式(8)において、yは1〜5の整数である。2つのAが2つ以上のBで結合しているとき、それぞれのBは同一であっても異なっていてもよい。例えば、−A−CH−O−CH−A−(2つのメチレン基と1つエーテル結合を組み合わせてAを結合した構造)が挙げられる。また、AとB又はB同士が環構造を形成してもよい。
Bは、好ましくは単結合、−O−、アセタール基、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基、ジアマンチル基、及びこれらが複数組合さって構成される基である。
【0024】
式(8)において、Rは、置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基であり、単環状構造、複環状構造、多環状構造のいずれでもよい。
脂環式置換基として、好ましくは、シクロヘキシル基、ノルボニル基、アダマンチル基、脂肪族基を有してもよいビアダマンチル基、脂肪族基を有してもよいジアマンチル基である。より好ましくは、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ジアマンチル基、ビアダマンチル基、脂肪族基を有するビアダマンチル基、脂肪族基を有するジアマンチル基である。
さらに好ましくは、下記式で表されるビアダマンチル基、又はジアマンチル基である。
【0025】
【化15】

(式中、Rは炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基であり、ビアダマンチル基の任意の位置に0.1〜17個の範囲で結合している。)
【0026】
炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、オクチル基、デシル基等が好ましい。置換数は0.5〜6が特に好ましい。
【0027】
Rは、Aで示される芳香族基に置換される置換基であり、その置換位置は、芳香族炭素上のいずれでもよい。RがAで示される芳香族基に置換される数z(Rの置換数)は、Rの構造及び対象となる芳香族系化合物の構造により異なるが、繰り返し単位(モノマーユニット1単位)当たり0.01〜50であり、好ましくは、0.05〜30である。Rの置換数が0.01未満では、未導入の化合物と比較して、低誘電率化等の性能の有意な向上が見込めない場合があり、50を越えると置換基同士の立体反発により安定性が低下し、溶解性が低下する場合がある。
ただし、Rを導入することができるA中の芳香族基の数が多い場合には、Rが50を越える範囲であっても、低誘電率化の効果がある場合がある。
低誘電率化の点で、特に好ましいRは、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基、又は脂肪族基を有するビアダマンチル基である。
【0028】
尚、本発明の製造方法で得られる化合物では、脂環式置換基(R)によって一部乃至全部置換された芳香族基(A)と、脂環式置換基(R)によって置換されていない芳香族基(A)が混在する場合があるため、置換数zが1未満の場合もある。即ち、繰り返し単位内ではなく、式(8)で表される化合物全体で、Rが1つ以上結合していればよい。後述する式(3’)〜(6’)も同様である。
【0029】
式(8)において、nは4〜10,000の整数である。好ましくは4〜3,000である。
【0030】
式(8)で表される脂環式置換基含有芳香族系化合物は、下記式(1)に表されるハロゲン化脂環式化合物と、下記式(2)に表される芳香族系化合物を、ルイス酸を用いたフリーデル・クラフツ反応によって反応させることにより製造することができる。
【化16】

【0031】
式(1)において、Rは式(8)のRと同様である。
【0032】
式(1)において、Xはハロゲンであり、例えばヨウ素、臭素、塩素から選ばれる。
【0033】
フリーデル・クラフツ反応の反応性、得られる生成物の性能上の観点から、式(1)で表される化合物として、最も好ましくは、3−ブロモ−5,5’−ジブチル−1,1’−ビアダマンタンである。
【0034】
式(1)で表されるRのハロゲン化物は、R−Hで表される前駆体化合物に対して臭素、臭化ホウ素、臭化リン等の臭素化剤を反応させることにより得られる。例えば、Tetrahedron Letters,42,8645(2001)を参照できる。
【0035】
式(2)において、A,Bは、式(8)で表されるA,Bと同様である。
式(2)の化合物は、A、Bからなる単位をn個含む大環状化合物であってもよい。また、複数あるA、Bからなる単位が、Bを介して、A−B−Aの形式で結合していてもよい。さらに、複数のA,Bで構成される繰り返し単位であってもよく、Bの部分とAの置換基を介して結合して環状構造を構成してもよい。
【0036】
反応生成物である式(8)の化合物の収率、モノマーユニット1単位あたりのRの置換数、置換位置は、原料である式(2)で表される芳香族系化合物の構造、及び、反応条件により異なるため一概に定義できないが、反応基質、触媒、溶媒の添加量、反応温度、反応時間等の制御により、それらを制御することが可能である。
【0037】
フリーデル・クラフツ反応で、使用されるルイス酸は、公知のルイス酸性を有する化合物を用いることが可能である。
具体的には塩化アルミニウム、臭化アルミニウム、フッ化アルミニウム、三フッ化ホウ素、三塩化ホウ素、三臭化ホウ素、トリス(ペンタフルオロフェニル)ホウ素、五フッ化リン、スカンジウムトリフラートの他、チタン、ジルコニウム等の金属のアルコキシド化合物等、公知の化合物が例示される。
好ましくは塩化アルミニウム、臭化アルミニウムである。これらを組み合わせて用いてもよい。
【0038】
ルイス酸の添加量は、使用する式(1)のハロゲン化脂環式化合物に対して、好ましくは、0.001当量〜10当量である。好ましくは0.01当量〜1当量である。
【0039】
好ましいルイス酸の種類及び添加量は、使用する式(2)の芳香族化合物と式(1)のハロゲン化脂環式化合物の組合せや反応条件により異なるが、その反応性、経済性の観点から、塩化アルミニウム及び/又は臭化アルミニウムを0.01当量〜1当量用いる。
【0040】
使用する反応基質や反応条件により、溶媒を用いても用いなくても反応は実施できる。一般的には、溶媒により反応基質及び触媒の濃度が低下することにより反応速度が低下したり、溶媒自身が反応に関与し反応の選択率を低下させたりする可能性があるため、溶媒を用いない方が好ましい例が多い。しかし、基質の形態等に起因して、反応の制限上、又は後処理の制限上、溶媒を使用することが好ましい場合は、ハロゲン化炭化水素溶媒を用いるのが一般的である。
ハロゲン化炭化水素として、好ましくは、1,1,2,2−テトラクロロエタン、1,2−ジクロロエタン、四塩化炭素、クロロホルム、ジクロロメタンである。
【0041】
フリーデル・クラフツ反応を実施するに際して、アルコール系溶媒やピリジン等の塩基性有機溶媒は、ルイス酸の触媒作用を抑制するため好ましくない。また、芳香族系溶媒は、反応基質であるハロゲン化脂環式化合物と反応し副生成物を与えてしまうため好ましくない。
【0042】
フリーデル・クラフツ反応を実施する際の反応温度は、好ましくは−100℃〜200℃であり、より好ましくは−78℃〜100℃である。−78℃未満では十分な反応速度が得られない場合があり、100℃を超えると副反応が進行し、所望の化合物の収率が低下する恐れがある。
【0043】
本発明において得られた化合物は、洗浄、イオン交換樹脂処理、再沈殿、再結晶、精密ろ過、乾燥等の精製より、例えば、Fe3+、Cl、Na、Ca2+等のイオン性不純物、反応溶媒、後処理溶媒、水分等を除去することが好ましい。これにより、使用時の誘電率は低下し、耐熱性又は強度が向上する。
【0044】
本発明の製造方法のようにフリーデル・クラフツ反応により、対象の芳香族系化合物の芳香環にRとして脂環式置換基を導入することで、さらなる低誘電率化が可能となる。これは、主鎖構造に脂環式置換基が入る場合と比較して、ペンダントとして入る場合は、薄膜を構成する分子同士の分子間距離が相対的に遠くなり、分子間の空隙が確保できるため、誘電率の上昇につながる電子分極の密度が低下するため、誘電率が低下すると考えられる。また、全ての分子には電子分極が存在するが、脂環式置換基は電子分極が低いため、ペンダントとして導入する際に、誘電率の上昇に寄与し難いためと考えられる。
【0045】
本発明においては、Rである脂環式置換基は芳香族環に直接結合している。アルキル基等を介して結合すると、介在基の部分で側鎖が曲がってしまうため、分子間距離を充分に離すことが困難となる。また、耐熱性の観点から、加熱時の回転による分子の運動を引き起こすので好ましくない場合がある。
【0046】
本発明の、脂環式置換基含有芳香族系化合物の製造方法は、下記式(9)〜(11)に示す脂環式置換基含有芳香族系化合物を製造する場合に好適である。
【化17】

(A,B,R,nは式(8)と同じである。pは2〜8である。)
【0047】
式(9)で表される脂環式置換基含有芳香族系化合物として、具体的には、下記式(3’)及び(4’)に示されるポリインダン誘導体が挙げられる。
【化18】

【0048】
式(3’)及び(4’)において、Rは、式(8)のRと同様である。
Rとして特に好ましくは、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基、脂肪族基を有するビアダマンチル基である。
【0049】
式(3’)及び(4’)において、R11〜R18は、それぞれ水素、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基である。ただしR16及びR17は水素ではない。R11〜R18は、同一でも、異なっていてもよい。
【0050】
11〜R18が示す炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、ヘキシル基、n−ヘプチル基、オクチル基、ノニル基、デシル基、ドデシル基、テトラヘキサデシル基、ヘキサデシル基、オクタデシル基が好ましい。また、R11〜R15としては、水素が好ましい。
尚、炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基に置換基が結合している場合には、置換基としては、フェニル基、トリフルオロメチル基、アダマンチル基が好ましい。
【0051】
11〜R18が示す炭素数3〜20の分岐状脂肪族基として、イソプロピル基、イソブチル基、2−エチルヘキシル基が好ましい。
尚、炭素数3〜20の分岐状脂肪族基に置換基が結合している場合には、置換基としては、フェニル基、トリフルオロメチル基、アダマンチル基が好ましい。
【0052】
11〜R18が示す炭素数5〜50の脂環式置換基として、シクロヘキシル基、シクロオクチル基、シクロデシル基、シクロドデシル基、シクロテトラデシル基、ノルボニル基、アダマンチル基、ジアマンチル基が好ましい。
尚、炭素数5〜50の脂環式置換基に置換基が結合している場合には、置換基としては、メチル基、エチル基、n−ブチル基、フェニル基、アダマンチル基が好ましい。
【0053】
11〜R18が示す炭素数6〜30の芳香族基として、フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、アントラセニル基が好ましい。
尚、炭素数6〜30の芳香族基に置換基が結合している場合には、置換基としては、メチル基、エチル基、n−ブチル基、フェニル基、アダマンチル基が好ましい。
【0054】
11〜R18が示すフッ素含有脂肪族基として、トリフルオロメチル基、ペンタフルオロエチル基が好ましい。また、R11〜R15及びR18はフッ素含有脂環式基であってもよく、この場合には、パーフルオロアダマンチル基が好ましい。
【0055】
11〜R18が示すフッ素含有芳香族基として、ペンタフルオロフェニル基、4−フルオロフェニル基、ヘプタフルオロナフチル基、ノナフルオロアントラセニル基が好ましい。
【0056】
また、R11〜R18は、上記の置換基を組み合わせて形成される置換基でもよい。具体例として、4−トリフルオロメチルフェニル基、3−メチルアダマンチル基、3−トリフルオロメチルアダマンチル基、3−フェニルアダマンチル基、ビアダマンチル基等が挙げられる。
【0057】
式(3’)及び式(4’)において、kは、0.01〜3である。好ましくは、0.05〜3である。kが0.05以下では、脂環式置換基を置換しない場合(k=0の場合)と比べて低誘電率化等の性能上の有意差が認められない恐れがある。また、式(3’)及び式(4’)の化合物の構造上、kは3を超えることはない。
Rの位置は、いずれでもよく、芳香環に複数のRが置換されている場合、複数のRはそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0058】
式(4’)において、l及びmは、それぞれ0〜11の整数であり、l及びmが1〜10である場合、R16及びR17の位置はいずれでもよい。また、l及びmが2〜11である場合、R16及びR17はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。
【0059】
式(3’)及び式(4’)において、nは4〜10,000の整数であり、好ましくは10〜1000である。nが10未満では耐熱性、安定性が低くなる恐れがあり、nが10,000を越えると有機溶媒への溶解度が低下し薄膜等の所望の形態への成型が困難になる恐れがある。
【0060】
式(3’)及び式(4’)の原料物質は、下記式(3)及び(4)である。即ち、Rが結合していない他は、式(3’)及び式(4’)と同じである。
【化19】

【0061】
式(3)及び式(4)の化合物は、例えば、Makromolecular Chemistry,193,3083−3096(1992)やMakromol.Chem.193,487−500(1992)を参照することにより製造できる。具体的に、対応するモノマー(ジイソプロペニルベンゼン誘導体等)から、酸触媒を用いたカチオン重合方法により製造する。この他、対応するモノマーから、ラジカル開始剤を用いたラジカル重合法により製造することが可能である。
【0062】
これらの製造方法に用いられる酸触媒としては、硫酸、トリフルオロ酢酸、トリフルオロメタンスルホン酸等の一般的な強酸が好適に用いられる、ラジカル開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビスシクロヘキサンカルボニトリル、アゾビスメチルプロピオンアミジン等のフリーラジカルを好適に発生する化合物が好適に使用できる。
【0063】
式(10)で表される脂環式置換基含有芳香族系化合物は、複数あるA、Bからなる単位が、Bを介して、A−B−Aの形式で結合している。
式(10)で表される脂環式置換基含有芳香族系化合物として、具体的には、下記式(5’)に表される環状芳香族系化合物が挙げられる。
【化20】

【0064】
式(5’)において、Rは、式(8)におけるRと同様であり、Rの置換位置はいずれの芳香族炭素上でもよい。hは0〜2であり、iは0〜3であり、jは0以上であり、h〜jの合計は0.01以上である。
本発明の製造方法で得られる化合物は、実際は式(5’)で示される置換物とRが全く結合していない未置換物の混合物として回収される。置換物と未置換物を精製分離してもよいが、実用上、混合物のまま使用してもよい。この場合、分子1つあたりのRの置換数は、例えば、R21がナフチレン基であるときは0.01〜88であり、好ましくは、0.05〜44である。置換数が0.05未満では低誘電率化等の性能の有意な向上が見込めない場合がある。
Rを表す置換基として、好ましくは、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基、脂肪族基を有するビアダマンチル基である。
【0065】
式(5’)においてR21は、置換もしくは非置換の炭素数6〜14の二官能性芳香族基、又は置換もしくは非置換の炭素数5〜50の二官能性脂環式置換基である。置換基を有する場合、その位置は特に限定されない。
21を表す置換基として、好ましくは、1,2−フェニレン基、1,3−フェニレン基、1,4−フェニレン基、1,8−ナフチレン基、2,7−ナフチレン基、3,6−ナフチレン基、及び、これら置換基に、炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基、フッ素含有芳香族基、又は上記の置換基が組み合わさり形成される置換基が結合した置換基である。これらの具体例は上記式(3’)や式(4’)と同様である。
【0066】
式(6)において、R22は、水素、置換又は非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基、又はフッ素含有芳香族基である。これらの具体例は上記式(3’)や式(4’)と同様である。
式(5’)において、pは、2以上8以下の整数である。複数のR21,R22は、それぞれ同一でも異なってもよい。
【0067】
式(5’)の原料物質は、下記式(5)である。即ち、Rが結合していない他は、式(5’)と同じである。
【化21】

【0068】
式(5)の化合物は、a)アルデヒドとレゾルシノールとの塩酸存在下での縮合反応、b)アセタール化反応、c)ウルマン反応によるエーテル化反応、のいずれかの方法により効率的に合成することができる。具体的な合成方法として、Org.Lett.,Vol.2,No.24,3845−3848,2000,J.Am.Chem.Soc.,2003,125,650−651に記載された方法を利用することができる。
【0069】
式(11)で表される脂環式置換基含有芳香族系化合物として、具体的には、下記式(6’)で表されるアダマンチル芳香族エーテル系高分子が挙げられる。
【化22】

【0070】
式(6’)において、Rは、式(8)のRと同じである。Rの置換位置は式(6’)中の任意の芳香環炭素上である。
aは0〜6、bは0〜4、cは0〜4、dは0〜6であり、モノマーユニット1単位あたりのRの置換数(a〜dの合計)は0.01〜20である。好ましくは0.05〜18である。Rの置換数が0.05未満では低誘電率化等の性能の有意な向上が見込めない場合があり、Rの置換数が18を越えると、置換基同士の立体反発により安定性が低下し、溶解性が低下する恐れがある。特に好ましいRは、シクロヘキシル基、アダマンチル基、ビアダマンチル基、脂肪族基を有するビアダマンチル基である。
【0071】
式(6’)において、R31〜R34は、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基である。これらの具体例は、式(3’)及び(4’)のR11〜R15と同様である。
また、nは4〜10,000であり、より好ましくは4〜3,000の整数である。
【0072】
式(6’)の原料物質は、下記式(6)である。即ち、Rが結合していない他は、式(6)と同じである。
【化23】

【0073】
式(6)の化合物は、例えば、国際公開WO2005/92946を参照して合成できる。
本発明の化合物では、この公報の化合物よりも誘電率が低い。これは、分子の構成が同じでも、三次元的にペンダントがある構造にした方が、分子間距離を相対的に遠くする効果があるためと考えられる。また、全ての分子には電子分極が存在するが、脂環式置換基は電子分極が低いため、ペンダントとして導入する際に、誘電率の上昇に寄与し難いと考えられる。
【0074】
本発明の脂環式置換基含有芳香族系化合物によれば、従来のように空孔導入をしなくともULSI等半導体の性能を飛躍的できる層間絶縁膜材料の提供が可能となる。現状のナノメートルレベルの空孔導入手法では強度低下せずに誘電率を低下させるのには限界があるため、オングストロームレベルの空孔を導入する必要があり、それは即ち原子レベルのサイズの空孔、即ち分子間自由体積を増加させることに他ならない。
また、さらに誘電率を低下させるには水素原子を減少させること等により、分子の分極率を低下させる必要があり、かつ高耐熱性、高強度を具備する必要があるため芳香環系化合物が適する。
低誘電材料として使用される芳香族系化合物を、耐熱性、強度を維持しつつ、さらに低誘電率化させるためには、本発明の如く、芳香族置換基のようなπ電子系を有さず、かつ水素原子の含有量が直鎖状又は分岐状の脂肪族置換基より少ない、シクロヘキシル構造、アダマンチル構造、ビアダマンチル構造等に代表される脂環式置換基を芳香族系化合物に導入することにより、誘電率の低下が可能となるとともに、耐熱性向上、強度向上、製膜性向上が可能となる。
【0075】
本発明の脂環式置換基含有芳香族系化合物は、有機溶媒に溶解させて塗料として使用することができる。
本発明の脂環式置換基含有芳香族系化合物は、一般的な有機溶媒に溶解させることができる。具体的な有機溶媒として、ジクロロメタン、クロロホルム、1,2−ジクロロエタン、1,1,2,2−テトラクロロエタン、DMF、NMP、DMSO、プロピレングリコールメチルエーテルアセテート、乳酸エチル、シクロヘキサノントルエン、ベンゼン、アセトン等が挙げられる。
塗料における脂環式置換基含有芳香族系化合物の配合量は、作製する薄膜の厚さや塗料の粘度等を考慮して適宜調整できるが、一般には、0.01重量%〜50重量%程度である。
【0076】
本発明の脂環式置換基含有芳香族系化合物は、層間絶縁膜等、薄膜の形態で使用されることが好ましい。本発明の脂環式置換基含有芳香族系化合物からなる薄膜は、上述した塗料を使用して、スピンコーティング法、スプレーコーティング法等の塗布法や、CVD法等の、一般に公知の方法により製膜できる。厚さが10nm〜10μmの薄膜が形成できる。本発明の脂環式置換基含有芳香族系化合物からなる薄膜は、半導体装置(集積回路)用や電子回路装置用の層間絶縁膜として好適に利用できる。
熱硬化性有機系層間絶縁膜材料に対して経済的である上、熱硬化させるために必要となる触媒や架橋剤を必要としないため、これらの残留がなく層間絶縁膜材料として好適に使用できる。
【0077】
本発明の脂環式置換基含有芳香族系化合物は、低誘電材料として好適に使用できる。本発明の脂環式置換基含有芳香族系化合物の誘電率は、主鎖の構造、分子量、置換基の種類、置換位置、置換数により適宜調整できる。
誘電率kの値として2.8以下の範囲、好ましくは2.6以下、さらに好ましくは2.4以下である。誘電率kの下限値は特定する必要はないが、現実的な値として1.5程度である。
【0078】
本発明の脂環式置換基含有芳香族系化合物を、半導体製造におけるULSI多層配線構造の層間絶縁膜材料として用いる場合、必要な特徴として挙げられる、誘電率、耐熱性、強度、基板密着性、安定性等の特性は、該材料を用いる部位の要求値により変化するため、一概に定義ができない。一般に、半導体用層間絶縁膜材料として使用する場合、誘電率等を低く、耐熱性、強度、基板密着性、安定性等を高くすることが望ましい。本発明の脂環式置換基を有する芳香族系化合物はこれらの性質を具備するものである。さらに、薄膜化後の高温での重合(熱キュア)が不要な上、化学構造も単純で安価な原料より製造できる。
【0079】
本発明の脂環式置換基含有芳香族系化合物は、誘電率が低く、透明性、強度、安定性等に優れているので、層間絶縁膜材料に代表される半導体微細配線内および周囲の絶縁材料、半導体実装用材料、画像表示装置の表面保護膜材料等の電子材料として使用することができる。
【0080】
本発明の脂環式置換基含有芳香族系化合物は、誘電率が低く、透明性、強度、安定性等に優れているので、本発明の脂環式置換基含有芳香族系化合物から作製された薄膜は、CPU、DRAM、フラッシュメモリ等の半導体装置、情報処理用小型電子回路装置、高周波通信用電子回路装置等の電子回路装置、画像表示装置、光通信用装置等の部材、表面保護膜、耐熱膜等として使用することができる。
【実施例】
【0081】
本発明はこれらの実施例によって何ら限定されるものではない。また、以下の例で使用した触媒、試薬は、市販の製品、又は公知文献記載の方法に従い調製したものである。
【0082】
実施例1
(1)出発化合物の合成
Makromolecular Chemistry,193,487(1992)に記載の方法に従い、1,4−ジイソプロペニルベンゼンより下記式(12)で表されるポリインダンを合成した(重量平均分子量7830)。
【化24】

【0083】
(2)ジブチルビアダマンチル基の導入
窒素雰囲気下、容量100ミリリットルのフラスコ中に、式(12)で表されるポリインダン(0.16g、単位モノマーとして1ミリモル)と、Tetrahedron Letters,42,8645(2001)に記載の方法に従い合成した3−ブロモ−5,5’−ジブチル−1,1’−ビアダマンタン(0.46g、1ミリモル)を入れた後、1,1,2,2−テトラクロロエタン(15ミリリットル)を添加、攪拌し均一溶液とした。この溶液を氷浴中で攪拌しつつ0℃まで冷却した後、窒素雰囲気下で無水臭化アルミニウム(0.27g、1ミリモル)を添加し、0℃に冷却しつつ3時間攪拌し、反応を実施した。
次いで、冷却攪拌したままメタノール(1ミリリットル)を滴下することにより反応を停止させ、さらにメタノール(50ミリリットル)を添加することにより、生成物を白色固体として析出させ、ろ別、メタノール洗浄することにより、ジブチルビアダマンチル置換ポリインダンを得た(0.27g、収率72%)。
得られたジブチルビアダマンチル置換ポリインダンの構造はH−NMR(図1)により確認した。その結果、式(12)で表されるモノマーユニット1単位あたりのジブチルビアダマンチル基の置換数は0.42個であった。
【0084】
実施例2
(1)出発化合物の合成
Journal of American Chemcal Society,125,650(2003)に記載の方法に従い下記式(13)で表される環状芳香族系化合物を合成した。
【化25】

【0085】
(2)ジブチルビアダマンチル基の導入
窒素雰囲気下、容量100ミリリットルのフラスコ中に、式(13)で表される環状芳香族系化合物(0.40g、0.21ミリモル)と、3−ブロモ−5,5’−ジブチル−1,1’−ビアダマンタン(0.23g、0.50ミリモル)を入れた後、1,1,2,2−テトラクロロエタン(15ミリリットル)を添加、攪拌し均一溶液とした。該溶液を氷浴中で攪拌しつつ0℃まで冷却した後、窒素雰囲気下で無水臭化アルミニウム(0.13g、0.50ミリモル)を添加し、0℃に冷却しつつ3時間攪拌し、反応を実施した。次いで、冷却攪拌したままメタノール(1ミリリットル)を滴下することにより反応を停止させ、さらにメタノール(50ミリリットル)を添加することにより、生成物を白色固体として析出させ、ろ別、メタノール洗浄することによりジブチルビアダマンチル置換環状芳香族系化合物を得た(0.40g、収率88%)。
得られたジブチルビアダマンチル置換環状芳香族系化合物の構造は、H−NMR(図2)により確認した。その結果、式(13)で表される環状芳香族系化合物1モルに対してジブチルビアダマンチル基が0.73モル置換されたものであった。
【0086】
実施例3
(1)出発化合物の合成
WO2005/092946に記載の方法に従い、下記式(14)で表されるアダマンチル芳香族エーテル系高分子化合物を合成した(重量平均分子量=6800)。
【化26】

【0087】
具体的に、ニトロベンゼン(2.8ミリリットル)が入った容量20ミリリットルのフラスコに、2,2−ビス[4−(1−ナフトキシ)フェニル]アダマンタン(0.30g、0.5ミリモル)を完全に溶解させた後、無水塩化第二鉄(0.21g、1.31ミリモル)を添加した。この懸濁液を室温下にて攪拌し、20時間反応させた。この重合溶液を酸性メタノールに投入することにより塩化第二鉄を含む鉄化合物を溶解させるとともに重合体を沈殿させた。
この重合体を濾過し減圧乾燥した後、ジクロロメタン(5ミリリットル)に溶解させ均一溶液とした。この溶液をイオン交換樹脂(オルガノ株式会社製、アンバーライト15J−HG・DRY)を充填したカラム管に通過させた後、減圧濃縮した均一溶液をアセトン(20ミリリットル)に投入、濾過、減圧乾燥させることにより上記式(14)に示すポリ{2,2−ビス[4−(1−ナフチルオキシ)フェニル]アダマンタン}を得た
【0088】
(2)ジブチルビアダマンチル基の導入
窒素雰囲気下、容量100ミリリットルのフラスコ中に、式(14)で表されるアダマンチル芳香族エーテル系高分子化合物(0.57g、単位モノマーとして1ミリモル)と、3−ブロモ−5,5’−ジブチル−1,1’−ビアダマンタン(0.92g、2ミリモル)を入れた後、1,1,2,2−テトラクロロエタン(15ミリリットル)を添加、攪拌し均一溶液とした。該溶液を氷浴中で攪拌しつつ0℃まで冷却した後、窒素雰囲気下で無水臭化アルミニウム(0.53g、2ミリモル)を添加し、0℃に冷却しつつ3時間攪拌し、反応を実施した。次いで、冷却攪拌したままメタノール(1ミリリットル)を滴下することにより反応を停止させ、さらにメタノール(50ミリリットル)を添加することにより、生成物を白色固体として析出させ、ろ別、メタノール洗浄することによりジブチルビアダマンチル置換アダマンチル芳香族エーテル系高分子化合物を得た(1.14g、収率88%)。
得られたジブチルビアダマンチル置換アダマンチル芳香族エーテル系高分子化合物の構造はH−NMR(図3)により確認した。その結果、式(14)で表されるアダマンチル芳香族エーテル系高分子化合物のモノマーユニット1単位あたりのジブチルビアダマンチル基の置換数は2であった。
【0089】
実施例4
実施例3において、3−ブロモ−5,5’−ジブチル−1,1’−ビアダマンタンの代わりにブロモシクロへキサン(0.33g、1ミリモル)を使用した以外は実施例3と同様に実施した。その結果、シクロヘキシル置換アダマンチル芳香族エーテル系高分子化合物を得た(0.56g、収率76%)。
得られたシクロヘキシル置換アダマンチル芳香族エーテル系高分子の構造はH−NMR(図4)により確認した。その結果、式(14)で表されるアダマンチル芳香族エーテル系高分子化合物のモノマーユニット1単位あたりのシクロヘキシル基の置換数は2であった。
【0090】
実施例5〜8
実施例1〜4において合成した脂環式置換基を有する芳香族系化合物を用い、それぞれ、それぞれ1,1,2,2−テトラクロロエタン溶液(濃度:10重量パーセント)を用いたスピンコート法によりシリコン基板上に400〜500nm厚の薄膜を作成した。この結果、膜厚が均一な薄膜が得られ、高い製膜性を有することが判明した。さらに、作製した薄膜を用いて水銀プローブ法により誘電率を評価した。これらの評価結果を表1に示す。
表1の結果より本発明の脂環式置換基を有する芳香族系化合物は、低誘電率性を示し、電子材料、低誘電材料、半導体用層間絶縁膜材料として好適に用いることができ、かつ、極めて高い性能を示すことを証明した。
【0091】
また、表1の結果より本発明の脂環式置換基を有する芳香族系化合物は、同じ基本構造を有するが、側鎖に脂環式置換基を有しない比較例の芳香族系化合物と比較して、比誘電率がより低くなっていることが分かる。ここで、比較例4は、比誘電率の面では実施例6,7,8より優れるが、半導体用層間絶縁膜材料として用いる場合、シリコン基板等に対する密着性において、実施例6,7,8より劣る。このため、総合的に判断すると、実施例6,7,8の芳香族化合物の方が優れると判断される。
【0092】
比較例1〜3
出発化合物である式(12)、式(13)及び式(14)で表される芳香族系化合物について、実施例5〜8と同様に評価した。それぞれの結果を表1に示す。
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0093】
本発明の低誘電材料は、半導体装置、電子回路装置等で使用される電子材料、半導体用層間絶縁膜材料、透明材料、高強度材料、耐熱材料等として利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0094】
【図1】実施例1で得られた脂環式置換基含有ポリインダンのH−NMRのチャート図である。
【図2】実施例2で得られた脂環式置換基含有環状芳香族系化合物のH−NMRのチャート図である。
【図3】実施例3で得られた脂環式置換基含有アダマンチル芳香族エーテル系高分子化合物のH−NMRのチャート図である。
【図4】実施例4で得られた脂環式置換基含有アダマンチル芳香族エーテル系高分子化合物のH−NMRのチャート図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表されるハロゲン化脂環式化合物と、下記式(2)で表される芳香族系化合物を、フリーデル・クラフツ反応により反応させ、
前記芳香族系化合物に少なくとも1つの脂環式基(R)を導入する脂環式置換基含有芳香族系化合物の製造方法。
【化1】

[式中、Rは、置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基であり、Xはハロゲンである。nは4〜10000の整数である。
Aは置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基又は脂肪族骨格を含む芳香族基であり、Bは、単結合、−O−、−S−、下記式(I)に示されるメチレン基、下記式(II)に示されるアセタール基、又は二官能脂環式基で表される基である。
【化2】

(式中、R及びRは、それぞれ水素、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基であり、RとRは、同一でも、異なっていてもよい。)
yは1〜5の整数であり、AとB又はB同士が結合して環構造を形成してもよく、また、複数のBは同一でも異なっていてもよい。]
【請求項2】
前記式(2)で表される芳香族系化合物が、下記式(3)又は下記式(4)で表される化合物である請求項1記載の製造方法。
【化3】

(式中、R11〜R15及びR18は水素、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基であり、それぞれ同一でも、異なっていてもよく、
16及びR17は、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基であり、
nは、4〜10,000の整数であり、l及びmは0〜11の整数であり、l又はmが1〜10である場合、R16及びR17の位置はいずれでもよい。l又はmが2〜11である場合、複数のR16及びR17はそれぞれ同一でも異なっていてもよい。)
【請求項3】
前記式(2)で表される芳香族系化合物が、下記式(5)で表される化合物である請求項1記載の製造方法。
【化4】

(式中、R21は、置換もしくは非置換の炭素数6〜14の二官能性芳香族基、又は置換もしくは非置換の炭素数5〜50の二官能性脂環式置換基であり、
22は、水素、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基であり、
pは2〜8の整数であり、複数のpは、それぞれ同一でも異なってもよい。)
【請求項4】
前記式(2)で表される芳香族系化合物が、下記式(6)で表される化合物である請求項1記載の製造方法。
【化5】

(式中、R31〜R34は、それぞれ置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基であり、複数のR31〜R34は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、nは、4〜10,000の整数である。)
【請求項5】
下記式(6’)で表される脂環式置換基含有芳香族系化合物。
【化6】

(式中、Rは、置換又は非置換の炭素数5〜50の脂環式置換基であり、aは0〜6、bは0〜4、cは0〜4、dは0〜6であり、a〜dの合計は0.01〜20であり、化合物全体に1以上のRが結合している。Rが複数の場合は、それぞれ同一でも異なってもよい。
31〜R34は、それぞれ水素、置換もしくは非置換の炭素数1〜20の直鎖状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数3〜20の分岐状脂肪族基、置換もしくは非置換の炭素数6〜30の芳香族基、フッ素含有脂肪族基又はフッ素含有芳香族基であり、複数のR31〜R34は、それぞれ同一でも異なっていてもよく、nは、4〜10,000の整数である。)
【請求項6】
請求項5に記載の脂環式置換基含有芳香族系化合物を含有してなる塗料。
【請求項7】
請求項5に記載の脂環式置換基含有芳香族系化合物を含む薄膜。
【請求項8】
請求項5に記載の脂環式置換基含有芳香族系化合物を含む低誘電材料。
【請求項9】
請求項5に記載の脂環式置換基含有芳香族系化合物を含む半導体用層間絶縁膜材料。
【請求項10】
請求項5に記載の脂環式置換基含有芳香族系化合物を含む電子材料。
【請求項11】
請求項8に記載の薄膜を含む半導体装置。
【請求項12】
請求項8に記載の薄膜を含む電子回路装置。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−7537(P2008−7537A)
【公開日】平成20年1月17日(2008.1.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−176332(P2006−176332)
【出願日】平成18年6月27日(2006.6.27)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】