説明

脂肪族ポリイミドをマトリックスとするアラミドナノコンポジット

【課題】 芳香族ポリアミドが本来有する優れた耐熱性及び機械的特性等を損なうことなく有機溶媒への可溶性を付与し、マトリックス樹脂に芳香族ポリアミドを分子レベルで分散させたナノコンポジットを提供すること。
【解決手段】 脂肪族ポリイミド及び/またはその前駆体をマトリックスとし、前記脂肪族ポリイミドの前駆体である脂肪族イミドに対し相溶性を示す有機溶媒可溶性芳香族ポリアミドを強化繊維分子として含有するアラミドナノコンポジットおよびその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪族ポリイミド及び/またはその前駆体をマトリックスとし、有機溶媒可溶性芳香族ポリアミドを強化繊維分子として含有するアラミドナノコンポジットに関する。
【背景技術】
【0002】
熱硬化型ポリイミド、特に脂肪族付加型ポリイミドはそのオリゴマーから予測される熱分解温度より高温でも耐え得るという優れた特性を有している。また、芳香族ポリイミドに較べて吸湿性が一般に低いことから、その応用が期待されている。しかしながら、このものは、物性的に脆いという欠点が知られており、その欠点の元と考えられる末端基の改良が進められているが、未だ顕著な進展は見られていない。
【0003】
一方、芳香族ポリアミド(アラミド)は、デュポン(Dupont)社の「ケブラー(登録商標)」に代表されるように、耐熱性、優れた力学特性(破断強度、初期弾性率)、電気絶縁性を有し、工業材料として広く使用されている。しかしながら、特にパラ配向性芳香族ポリアミドは有機溶媒への溶解性に乏しく、硫酸等極めて限定された溶媒にしか溶解しない。このため、その加工や他ポリマーとの複合化には制約が多く、繊維や繊維強化性樹脂の強化繊維以外の用途には限りがあった。
【0004】
この芳香族ポリアミドの優れた特性を生かし、ナイロンなどの汎用樹脂により優れた力学特性を持たせようとする努力が行われ、共溶媒である硫酸中で分子状に芳香族ポリアミドを分散させ、水洗により硫酸を除去するなどナノコンポジット化の試みが行われてきた(特許文献1及び非特許文献1など)。しかし、共溶媒である硫酸によって、芳香族ポリアミドやナイロンの分子量低下を来たし、期待通りの結果が得られないでいる。
【0005】
また、塩化リチウムを添加してアミド系溶媒に溶解した芳香族ポリアミドを、ナイロンの重合過程に遭遇させて複合体を得る方法も検討されている(特許文献1)。さらに、特許文献2では、非対称の3,4'−ジアミノジフェニルエーテルを部分的に導入した可溶性芳香族ポリアミドを強化繊維分子とし、芳香族ポリアミドイミドをマトリックスとする高分子複合体が開示されている。これらの特許文献では、芳香族ポリアミドを含む溶液にマトリックス溶液を添加しており、撹拌により相互に分散させて高分子複合体を製造しているが、ケブラーをはじめとする芳香族ポリアミドは、アミド基同士の水素結合等の分子間相互作用により溶媒中においても強化繊維分子どうしが集合体を形成し易く、一旦集合体を形成した芳香族アミド溶液をマトリックス溶液と混合しても、マトリックス中に強化繊維分子を均一分散させることが困難であった。
【0006】
一方、有機溶媒への溶解性を改善する手段として、主鎖に酸素あるいはメチレン基等の屈曲性構造単位を導入した芳香族ポリアミド(例えば、特許文献3等)が提案されている。しかし、一般には、かかる構造単位の導入はパラ配向性芳香族ポリアミド本来のヤング率、強度等の優れた機械特性を損ねることとなるという問題があった。
【0007】
また、別な手段として、特許文献4ではジアミン成分に塩素原子を置換したパラ配向性芳香族ポリアミドの利用が示されており、また、非特許文献2ではジカルボン酸成分に塩素原子を導入して有機溶媒への可溶化の試みもなされた。しかし、塩素原子を導入した芳香族ポリアミドは、得られる成形物の廃棄、焼却時に塩素やダイオキシンなどの発生が心配される。
【0008】
更に、特許文献5、6等には塩素原子等のハロゲン原子を含有しない高剛性芳香族ポリアミドの開示があるが、これらの特許文献では、ジアミン組成、ジカルボン酸組成双方に様々な置換基を導入し、さらに主鎖にも酸素あるいはメチレン基等の屈曲性構造単位を導入しており、特にパラ配向性芳香族ポリアミド本来の優れた力学特性の基である分子の直線性(剛直性、結晶性)を過度に損ない、実際のところ、ポリイミドなど他の高強度高弾性率素材に対する優位性を有するとはいえない。
【0009】
【特許文献1】特開昭54−65747号公報
【特許文献2】特開昭61−51055号公報
【特許文献3】特開昭52−98795号公報
【特許文献4】特開昭54−106564号公報
【特許文献5】特開平9−118748号公報
【特許文献6】特開平9−118749号公報
【非特許文献1】PureAppl.Chem.1983,55,819
【非特許文献2】Journal of Polymer Science, Part A: PolymerChemistry, 26, 23 5(1988)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明が解決しようとする課題は、芳香族ポリアミドが本来有する優れた耐熱性及び機械的特性等を損なうことなく有機溶媒への可溶性を付与し、マトリックス樹脂に芳香族ポリアミドを分子レベルで分散させたナノコンポジットを提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記課題を解決するため、鋭意研究を行った結果、溶媒可溶性及び脂肪族イミドに対して相溶性を有する特定の構造を有する芳香族ポリアミドを見出し、さらに、脂肪族イミドをマトリックスとする溶液中に当該芳香族ポリアミドのモノマー成分を投入し、モノマー成分を重縮合させることにより相互侵入型ナノコンポジット溶液が得られること、更にこれを用いることにより芳香族ポリアミドが均一に分散したナノコンポジットを製造することができることを見出し、本発明を完成した。
【0012】
即ち、本発明は、脂肪族ポリイミド及び/またはその前駆体をマトリックスとし、前記脂肪族ポリイミドの前駆体である脂肪族イミドに対し相溶性を示す有機溶媒可溶性芳香族ポリアミドを強化繊維分子として含有するアラミドナノコンポジットである。
【0013】
また本発明は、次の成分(A)ないし(D)
(A)アミド系溶媒
(B)脂肪族イミド
(C)芳香族ジアミン
(D)芳香族ジカルボン酸ハライド
を必須成分として含有する溶液中で、成分(C)と成分(D)との重縮合反応を行うポリアミド化工程と、得られた反応溶液をそのまま又は溶媒(A)を除去した後に加熱して脂肪族イミド(B)を熱硬化させるポリイミド化工程を含む脂肪族ポリイミドと芳香族ポリアミドとのナノコンポジットの製造方法である。
【発明の効果】
【0014】
本発明において、強化繊維分子として使用される芳香族ポリアミドは、脂肪族イミドとの相溶性及び有機溶媒に体する可溶性を有し、マトリックス溶液に均一に分散させることが可能であり、脂肪族ポリイミドと、芳香族ポリアミドのアラミドナノコンポジットを容易に得ることができる。
【0015】
そして、本発明により得られるアラミドナノコンポジットは、透明性が高く、緻密かつ均一で、マトリックスである脂肪族ポリイミド中に強化繊維分子として芳香族ポリアミドが均一に分散しているものであり、従来の脂肪族ポリイミドと比較して機械的特性および熱特性に優れ、自動車や航空機などの各種部品材料として、あるいは絶縁材料分野において、さらには、オプトエレクトロニクス分野において好適に用いることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本明細書中において芳香族ポリアミドとは、芳香族ジアミンと芳香族ジカルボン酸ハライドとの重縮合によって得られるポリマーを意味する。本発明で使用する芳香族ポリアミドは、後述する脂肪族イミドとの相溶性及び有機溶媒への可溶性を有することが必須であり、特に、アミド系溶媒に溶解することが好ましい。
【0017】
このような特性を有する芳香族ポリアミドは、後記するように
(A)アミド系溶媒
(B)脂肪族イミド
(C)芳香族ジアミン
(D)芳香族ジカルボン酸ハライド
を必須成分として含有する溶液中で、成分(C)である芳香族ジアミンと、成分(D)である芳香族ジカルボン酸ハライドとを重縮合させることにより製造される。
【0018】
更に、上記芳香族ポリアミドは、成分(C)の芳香族ジアミンとしてパラフェニレンジアミンを用い、成分(D)の芳香族ジカルボン酸ハライドとして、溶解性向上を図るために置換基を導入したテレフタル酸ジクロライドを用いることが好ましい。テレフタル酸ジクロライドに導入される置換基としては、塩素等以外の置換基が好ましく、また、力学特性(特に、破断強度)や結晶性や耐熱特性の低下を抑えるために、出来るだけ小さな置換基を導入することが好ましい。具体的には、フッ素、臭素、トリメチルシラン、トリエチルシラン、フェニル基のうち少なくとも一種一置換基を含むテレフタル酸ジクロライドが好ましい。
【0019】
また、結晶性を残しながら、分子量がフィルム成形に十分であってもひびの入らないフィルムを作成するためには、芳香族ジカルボン酸ハライド(成分(D))として、小さな置換基を導入した上記テレフタル酸ジクロライドに加え、多核芳香族ジカルボン酸化合物を共重合させるとよい。多核芳香族ジカルボン酸化合物の具体的な例としては、4,4'−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、1,4−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、1,5−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、1,4−アントラセンジカルボン酸ジクロライド、1,5−アントラセンジカルボン酸ジクロライド、2,6−アントラセンジカルボン酸ジクロライド、9,10−アントラセンジカルボン酸ジクロライドなどが挙げられる。これらの化合物は一種単独で用いても良いし、二種以上を混合して用いても良い。また、これらの化合物の使用量は、置換基を導入したテレフタル酸ジクロライドとの総和(100質量%)に対して1〜99質量%の範囲で、より好ましくは10〜90質量%の範囲で使用することができる。
【0020】
本発明でいう脂肪族ポリイミドは、成分(B)の脂肪族イミドを熱硬化させて得られるものをいう。このような熱硬化性脂肪族イミド(成分(B))としては、ビスアルケニル置換ナジイミドを好適に用いることができる。
【0021】
このビスアルケニル置換ナジイミドとしては、特開昭59−80662号公報、特開昭60−178862号公報、特開昭61−18761号公報、特開昭63−170358号公報、特開平7−53516号公報、特開平7−206991号公報及び特開平8−277265号公報等に記載されている公知のビスアルケニル置換ナジイミドを用いることができる。
【0022】
より具体的には、次の一般式(1)
【化1】

[式中、RおよびRはそれぞれ独立に選ばれた水素またはメチル基を示し、R
−C2p−(ただしpは2〜20の整数)で表されるアルキレン基、C〜C
のシクロアルキレン基、−[(C2qO)(C2rO)2s]−
(ただしq、r、sはそれぞれ独立に選ばれた2〜6の整数、tは0または1の
整数、uは1〜30の整数)で表されるポリオキシアルキレン基、C〜C12
二価の芳香族基、−(R)−C−R'−(ただし、aは0または1の整数、
R、R'は少なくとも一方が独立に選ばれた、C〜Cのアルキレン基または
〜Cのシクロアルキレン基)で表されるアルキレン・フェニレン基、−
−T−C−(ただしTは−CH−、−C(CH−、−CO−
、−O−、−OCC(CHO−、−S−、−SO−)で表さ
れる基またはこれらの基の1〜3個の水素を水酸基で置換した基を表す]
で表されるビスアルケニル置換ナジイミドが用いられる。このビスアルケニル置換ナジイミドは、対応する無水アルケニル置換ナジック酸とジアミンの反応によって合成される。
【0023】
上記一般式(1)で表されるビスアルケニル置換ナジイミドとしては、ジアミンが脂肪族ジアミンであるN,N'−エチレン−ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド)、N,N′−トリメチレン−ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド)、N,N'−ヘキサメチレン−ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド)、N,N'−ドデカメチレン−ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド)等;ジアミンが芳香族ジアミンであるN,N'−p−フェニレン−ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド)、N,N'−m−フェニレン−ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド)、ビス{4−(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド)フェニル}メタン、ビス{4−(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド)フェニル}エーテル等;ジアミンがフェニレン・アルキレンジアミンであるN,N'−p−キシリレン−ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド)、N,N'−m−キシリレン−ビス(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド)等があげられる。このような構造のビスアルケニル置換ナジイミドは単独で用いてもよいし、それらの混合物又はそのオリゴマーとして用いてもよい。
【0024】
ナノコンポジット中のマトリックスである脂肪族ポリイミドと強化繊維分子である芳香族ポリアミドの比率は、最終目的硬化物の用途によって適宜決定されるが、機械的特性及び耐熱性向上のためには質量比で40:60〜99:1の範囲であり、好ましくは50:50〜95:5、より好ましくは60:40〜90:10の範囲である。芳香族ポリアミドの比率が上記範囲より少ないと、本発明の効果が得られない場合がある。また、芳香族ポリアミドの比率が上記範囲を超えると、脂肪族ポリイミドの特性(低吸湿性など)が損なわれる場合がある。
【0025】
本発明のアラミドナノコンポジットを製造するには、まず、アミド系溶媒(A)に、前述の脂肪族イミド(B)、芳香族ジアミン(C)及び芳香族ジカルボン酸ハライド(D)を溶解し、これらを必須成分とする液を調製する。この溶液中においては、(C)と(D)の反応は速やかで、かつ脂肪族イミド(B)よりも溶解が速いため、脂肪族イミド(B)を後添加しようとすると、既に芳香族ポリアミドが生成して両成分の均一なる複合が行われにくい。従って、最初に脂肪族イミド(B)をアミド系溶媒(A)に溶解した溶液を調製し、これに(C)と(D)を添加し、これらを重縮合させることが好ましい。
【0026】
アミド系溶媒(A)としては、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)等が挙げられる。これらのアミド系溶媒は単独で用いてもよいし、二種以上の混合物を用いても良い。
【0027】
芳香族ジアミン(C)及び芳香族ジカルボン酸ハライド(D)は、各々アミド系溶媒(A)に溶解させて添加しても良いが、溶解せずにそのまま添加することが好ましい。芳香族ポリアミドの分子間相互作用はアミド基同士の水素結合であるが、本発明のように脂肪族イミド溶液中で芳香族アラミドを重合させる場合、溶媒に溶解して混合した場合よりも、そのまま添加したほうが、芳香族アラミドのアミド基と脂肪族ポリイミドのイミド基のカルボニル部位との水素結合が効果的に形成される場合がある。
【0028】
また、(C)と(D)は、同時に添加してもよいが、系中の水分の影響を受けにくいことや、副反応を抑制する意味で、芳香族ジアミン(C)を先に添加することがより好ましい。
【0029】
脂肪族イミド(B)の溶解温度としては、特に限定されないが0〜80℃の範囲が例示され、撹拌を伴う溶解が効率的である。脂肪族イミド(B)の濃度としては、アミド系溶媒(A)に対して、0.1〜0.5モル/Lの濃度範囲が好ましく、0.1〜0.3モル/Lの濃度範囲がより好ましく用いられる。濃度が上記下限値未満では溶媒除去に多くのコストがかかったり、生産性が悪くなる場合があり、また、上記上限値を超えると、臨界濃度を大きく超え芳香族ポリアミドが均一に分散しない場合がある。
【0030】
芳香族ジアミン(C)と芳香族ジカルボン酸ハライド(D)の混合は急激な反応による発熱を防ぐ意味で、−10〜30℃の低温域にて行うことが好ましい。(C)及び(D)の濃度は、各々、アミド系溶媒(A)に対して、0.1〜1.5モル/Lの範囲で行うのが好ましく、0.25〜1.3モル/Lの範囲で行うのがより好ましい。濃度が上記下限値未満では、収量が十分でない場合があり、上記上限値を超えると溶液の粘性が高すぎて十分な反応操作が行えないことがある。なお、(C)と(D)は等モルとすることが好ましく、また、得られるナノコンポジット中の脂肪族ポリイミドと芳香族ポリアミドの比率が所望の値となるように投入量を決定することができる。
【0031】
(C)と(D)の添加後、反応は直ちに進むが、反応条件として5〜20分間を上記の低温域で、その後の20〜200分間を0〜65℃の範囲で行うことが好ましい。反応中においても系を撹拌することが好ましい。多くの場合、反応時間60分以降の重合度上昇は少ない。なお、溶解及び反応操作は、窒素等の不活性雰囲気下で行うことが好ましい。
【0032】
かくして得られた溶液は、芳香族ポリアミドのポリマー鎖が脂肪族イミド(すなわち、脂肪族ポリイミドの前駆体)に対して均一に分散した、相互侵入型ナノコンポジット溶液となる。反応後の溶液は、そのままで、あるいは過剰な溶媒を留去して基材等に塗布し、加熱することによって重合、硬化させ薄膜、被覆膜とすることができる。また、別の使用形態として、反応後の溶液から溶媒を乾燥、除去し、脂肪族イミドの融点以上の温度に加熱して注型成形、射出成形、圧縮成形等による成形法を行なうこともできる。硬化温度及び硬化時間は、用いる脂肪族イミドの種類や成形方法、硬化物の形状(厚さ)等により異なるが、一般的な条件として、硬化温度180〜420℃、好ましくは220〜380℃で、硬化時間0.01〜30時間、好ましくは0.1〜24時間加熱する。上記の硬化条件により得られた成形体、薄膜、被覆膜等は、必要に応じて更に220〜380℃の温度で、0.5〜30時間後硬化処理してもよい。
【0033】
得られた硬化物は、透明性が高く、緻密かつ均一で、マトリックスである脂肪族ポリイミド中に強化繊維分子として芳香族ポリアミドが均一に分散しており、従来の脂肪族ポリイミドと比較して機械的特性および熱特性に優れ、自動車や航空機などの各種部品材料として、あるいは絶縁材料分野において、さらには、オプトエレクトロニクス分野において好適に用いることができる。
【実施例】
【0034】
以下に実施例によって本発明を更に詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、得られた硬化物の熱物性は以下の装置にて測定した。
(1)ガラス転移温度(Tg)
測定装置:DSC 8230(メーカー:Rigaku)
測定条件:窒素還流下、10℃/minで昇温、
(2)熱膨張係数(CTE)
測定装置:TMA 8310(メーカー:Rigaku)圧縮モードにて測定
測定条件:窒素還流下、室温〜450℃まで、10℃/minで昇温
(3)5%熱重量減少温度
測定装置:TG 8120(メーカー:Rigaku)
測定条件:窒素還流下、10℃/minで昇温
【0035】
実 施 例 1
50ml三ツ口フラスコに、乾燥させたビス[4−(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド )フェニル]メタン(丸善石油化学(株)製、商品名BANI−M)2.5gとN−メチル−2−ピロリドン(NMP)4.5mlを取り、窒素気流下撹拌溶解させた。次いで、室温にて、p−フェニレンジアミン0.25gと、常法により合成・精製した2−トリメチルシリルテレフタル酸ジクロライド0.64gを加え、3時間反応させた。
【0036】
得られた粘調溶液をガラス容器に入れ、窒素雰囲気下加熱乾燥器中で、180℃で12時間、250℃で24時間加熱処理を実施した。その結果、透明な紅色の成型硬化物を得た。TMA圧縮モードでのTgは、270℃で、CTEは62ppm/℃、5%熱重量減少温度は395℃であった。
【0037】
比 較 例 1
p−フェニレンジアミンと2−トリメチルシリルテレフタル酸ジクロライドを添加しなかった以外は実施例1と同条件でBANI−Mの溶液を調整し、硬化物を得た。熱物性を測定した結果、Tgは260℃で、CTEは43ppm/℃、5%熱重量減少温度は399℃であった。
【0038】
実 施 例 2
50ml三ツ口フラスコに、乾燥させたBANI−M2.5gとNMP4.5mlを取り、窒素気流下撹拌溶解させた。次いで、室温にて、p−フェニレンジアミン0.25gと常法により合成・精製した2−フルオロテレフタル酸ジクロライド0.51gを加え、3時間反応させた。
【0039】
得られた粘調溶液をガラス容器に入れ、窒素雰囲気下加熱乾燥器中で、150℃で5時間、180℃で10時間、250℃で24時間加熱処理を実施した。その結果、透明な紅色の成型硬化物を得た。TMA圧縮モードでのTgは、270℃、CTEは52ppm/℃、5%熱重量減少温度は409℃であった。
【0040】
比 較 例 2
p−フェニレンジアミンと2−フルオロテレフタル酸ジクロライドを添加しなかった以外は実施例2と同条件でBANI−Mの溶液を調整し、硬化物を得た。熱物性を測定した結果、Tgは262℃、CTEは50ppm/℃、5%熱重量減少温度は399℃であった。
【産業上の利用可能性】
【0041】
オプトエレクトロニクス分野では、脂肪族ポリイミドは芳香族ポリイミドに較べて吸湿性が一般に低いことから、その応用が期待されているが、一般に力学的強度が不十分であった。
【0042】
これに対し本発明のナノコンポジットは、芳香族ポリアミドのような高強度高分子と複合したものであり、力学的強度を高めた素材であるため、オプトエレクトロニクス分野での利用が広く期待されるものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
脂肪族ポリイミド及び/またはその前駆体をマトリックスとし、前記脂肪族ポリイミドの前駆体である脂肪族イミドに対し相溶性を示す有機溶媒可溶性芳香族ポリアミドを強化繊維分子として含有するアラミドナノコンポジット。
【請求項2】
脂肪族イミドが、ビスアルケニル置換ナジイミドである請求項1記載のアラミドナノコンポジット。
【請求項3】
脂肪族イミドが、ビス[4−(アリルビシクロ[2.2.1]ヘプト−5−エン−2,3−ジカルボキシイミド )フェニル]メタンである請求項1記載のアラミドナノコンポジット。
【請求項4】
芳香族ポリアミドが、パラフェニレンジアミンと、フッ素、臭素、トリメチルシラン、トリエチルシラン、フェニル基のうち少なくとも一種一置換基を含むテレフタル酸ジクロライドとを重縮合反応させて得られる芳香族ポリアミドである請求項1〜3の何れかに記載のアラミドナノコンポジット。
【請求項5】
芳香族ポリアミドが、パラフェニレンジアミンと、次の成分(a)および(b)
(a)フッ素、臭素、トリメチルシラン、トリエチルシラン、フェニル基のうち少な
くとも一種一置換基を含むテレフタル酸ジクロライド、
(b)4,4’−ビフェニルジカルボン酸ジクロライド、1,4−ナフタレンジカルボ
ン酸ジクロライド、1,5−ナフタレンジカルボン酸ジクロライド、2,6−ナフ
タレンジカルボン酸ジクロライド、1,4−アントラセンジカルボン酸ジクロライ
ド、1,5−アントラセンジカルボン酸ジクロライド、2,6−アントラセンジカ
ルボン酸ジクロライド及び9,10−アントラセンジカルボン酸ジクロライドか
らなる群より選ばれる一種以上
とを共重縮合反応させて得られる芳香族ポリアミドである請求項1〜3の何れかに記載のアラミドナノコンポジット。
【請求項6】
脂肪族ポリイミドと芳香族ポリアミドを、それらの重量比40:60〜99:1で含有する請求項1〜5の何れかに記載のアラミドナノコンポジット。
【請求項7】
アミド系溶媒(A)と、脂肪族イミド(B)と、芳香族ジアミン(C)と、芳香族ジカルボン酸ハライド(D)とを必須成分として含有する溶液中で、(C)と(D)との重縮合反応を行うポリアミド化工程と、得られた反応溶液をそのまま又は溶媒(A)を除去した後に加熱して脂肪族イミド(B)を熱硬化させるポリイミド化工程を含む脂肪族ポリイミドと芳香族ポリアミドとのナノコンポジットの製造方法。
【請求項8】
アミド系溶媒(A)が、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、N,N−ジメチルアセトアミド(DMAc)、N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)からなる群から選ばれる少なくとも1種の溶媒である請求項7記載のナノコンポジットの製造方法。


【公開番号】特開2009−51890(P2009−51890A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−217966(P2007−217966)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(000157603)丸善石油化学株式会社 (84)
【Fターム(参考)】