説明

脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び製造システム

【課題】脂肪酸アルキルエステルの製造効率を高めると共に、脂肪酸アルキルエステルの製造に係るコストを低減できる脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び製造システムを提供する。
【解決手段】
本発明に係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、石灰石を流動媒体とする流動床ボイラから排出される石炭灰を触媒とし、原料油脂とアルコールとを混合してエステル交換反応をさせる反応工程と、エステル交換反応後の生成物を、グリセリンと石炭灰とを主成分とする第1液と、脂肪酸アルキルエステルを主成分とし、石炭灰由来のカルシウム又はマグネシウムの何れかを含む第2液とに分離する第1分離工程と、第2液に酢酸又は硫酸の少なくとも一方からなる酸を加えて混合し、カルシウム又はマグネシウムを酸と反応させて脂肪酸アルキルエステルに対して不溶化する不溶化工程と、不溶化したカルシウム又はマグネシウムを、脂肪酸アルキルエステルを主成分とする第3液から分離する第2分離工程とを行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び製造システムに関する。
【背景技術】
【0002】
油脂を原料とする脂肪酸アルキルエステルは、例えば、酸化カルシウム等を含む固体塩基触媒の存在下で油脂とアルコールとをエステル交換反応させることによって製造される。このように製造された脂肪酸アルキルエステルは、工業原料、医薬品、バイオディーゼル燃料等に広く用いられている。
特にバイオディーゼル燃料としての用途を考慮すると、脂肪酸アルキルエステルは、固体塩基触媒に由来するカルシウム等の金属成分を含まないように製造される必要がある。金属成分は、燃料系部品の金属部分に固着、蓄積して、出力低下や排ガス悪化等を引き起こす虞があるためである。そこで、脂肪酸アルキルエステルに含まれる金属成分を水洗浄によって除去する脂肪酸アルキルエステルの製造方法が知られている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−67904号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前述した製造方法では、洗浄水と金属成分とから塩基性の水溶液が生成されると、脂肪酸アルキルエステルが加水分解(けん化)されて石鹸になるため、脂肪酸アルキルエステルの収率が低減してしまう虞があった。
また、脂肪酸アルキルエステルを製造するための固体塩基触媒として、例えば、採掘した石灰石を水洗、篩い分けした後、焼成炉で焼成する等の工程を経て精製される酸化カルシウムを調達する必要があった。
【0005】
本発明は係る課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、脂肪酸アルキルエステルの製造効率を高めると共に、脂肪酸アルキルエステルの製造に係るコストを低減できる脂肪酸アルキルエステルの製造方法及び製造システムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記課題を解決するため本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造方法は、
石灰石を流動媒体とする流動床ボイラから排出される石炭灰を触媒とし、原料油脂とアルコールとを混合してエステル交換反応をさせる反応工程と、
前記エステル交換反応後の生成物を、グリセリンと前記石炭灰とを主成分とする第1液と、脂肪酸アルキルエステルを主成分とし、前記石炭灰由来のカルシウム又はマグネシウムの何れかを含む第2液とに分離する第1分離工程と、
前記第2液に酢酸又は硫酸の少なくとも一方からなる酸を加えて混合し、前記カルシウム又は前記マグネシウムを前記酸と反応させて前記脂肪酸アルキルエステルに対して不溶化する不溶化工程と、
前記不溶化した前記カルシウム又は前記マグネシウムを、前記脂肪酸アルキルエステルを主成分とする第3液から分離する第2分離工程と、
を行うことを特徴とする。
【0007】
この脂肪酸アルキルエステルの製造方法によれば、エステル交換反応後の生成物から分離された石炭灰由来のカルシウム又はマグネシウムを、酸と反応させることで脂肪酸アルキルエステルに対して不溶化し、脂肪酸アルキルエステルを主成分とする第3液から分離するので、けん化等によって脂肪酸アルキルエステルの収率が低下することを防止でき、脂肪酸アルキルエステルの製造効率を高めることができる。
【0008】
また、流動床ボイラから排出される石炭灰をエステル交換反応の触媒に流用するため、固体塩基触媒を原料から精製して別途調達することが不要となり、脂肪酸アルキルエステルの製造に係るコスト及び環境負荷を低減することができる。
【0009】
係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、前記第2分離工程の残液に洗浄水を加え、水溶性の成分を分離する第3分離工程を行うことが好ましい。
この製造方法によれば、石炭灰由来のカルシウム又はマグネシウムが分離されている分、第2分離工程の残液に対する水洗浄の回数や排水量を減らすことができると共に、カルシウムやマグネシウムに起因するアルカリ廃水の発生を防止できる。これにより、脂肪酸アルキルエステルの製造に係るコスト及び環境負荷を低減することができる。
【0010】
係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、前記第2分離工程では、洗浄水を加えることで、前記不溶化した前記カルシウム又は前記マグネシウムを、前記第3液から分離することが好ましい。
この製造方法によれば、脂肪酸アルキルエステルに対して不溶化したカルシウムやマグネシウムを洗浄水によって溶解し、第3液から分離しているので、簡単な構成で分離が行える。これにより、脂肪酸アルキルエステルの製造に係るコストを低減することができる。
【0011】
また、係る脂肪酸アルキルエステルの製造方法において、前記流動床ボイラは、加圧流動床複合発電方式の発電設備に備えられる加圧流動床ボイラであり、前記石炭灰はベッドマテリアル灰であり、前記発電設備で使用される蒸気の廃熱によって前記エステル交換反応をさせ、前記第1分離工程において分離した前記第1液を前記発電設備の発電燃料として前記加圧流動床ボイラで消費することが好ましい。
この製造方法では、加圧流動床複合発電方式(PFBC:Pressurized Fluidized Bed Combustion Combined Cycle)の発電設備(以下PFBC発電設備と称する)に備えられる加圧流動床ボイラから発生するベッドマテリアル(BM:Bed Material)灰(以下BM灰と称する)を固体塩基触媒とする。このBM灰は、エステル交換反応において触媒作用を有する石灰(酸化カルシウム)を主成分とし、約0.5mm〜3mm程度の粒径を有している。このため、特別な精製処理なくBM灰をエステル交換反応の固体塩基触媒として流用することができ、脂肪酸アルキルエステルの製造に係るコスト及び環境負荷を低減することができる。
【0012】
また、この脂肪酸アルキルエステルの製造方法では、PFBC発電設備において発生する蒸気の廃熱によってエステル交換反応に必要な熱量が提供されるため、別途熱源を用意する必要がなく脂肪酸アルキルエステルの製造に係るコスト及び環境負荷を低減することができる。
【0013】
また、この脂肪酸アルキルエステルの製造方法では、第1液をPFBC発電設備の発電燃料として、加圧流動床ボイラで消費する。このため、脂肪酸アルキルエステルの製造において第1液を処分するためのコストや、PFBC発電設備の燃料コストを低減することができる。
【0014】
また、前記課題を解決するため本発明の脂肪酸アルキルエステルの製造システムは、
石灰石を流動媒体とする流動床ボイラから排出される石炭灰を触媒とし、原料油脂とアルコールとを混合してエステル交換反応をさせる反応部と、
前記エステル交換反応後の生成物を、グリセリンと前記石炭灰とを主成分とする第1液と、脂肪酸アルキルエステルを主成分とし、前記石炭灰由来のカルシウム又はマグネシウムの何れかを含む第2液とに分離する第1分離部と、
前記第2液に酢酸又は硫酸の少なくとも一方からなる酸を加えて混合し、前記カルシウム又は前記マグネシウムを前記酸と反応させて前記脂肪酸アルキルエステルに対して不溶化する不溶化反応部と、
前記不溶化した前記カルシウム又は前記マグネシウムを、前記酸アルキルエステルを主成分とする第3液から分離する第2分離部と、
を備えたことを特徴とする。
【0015】
本発明の他の特徴については、添付図面及び本明細書の記載により明らかとなる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、脂肪酸アルキルエステルの製造効率を高めることができると共に、脂肪酸アルキルエステルの製造コストを低減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本実施形態に係る脂肪酸アルキルエステル製造システム及びPFBC発電設備の構成例を示す模式図である。
【図2】本実施形態に係る脂肪酸アルキルエステルの製造工程を説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
以下、本発明の実施形態を説明する。まず、図1を参照しつつ、本実施形態に係る脂肪酸アルキルエステル製造システム1(以下、単に製造システム1と称する)及びPFBC発電設備2について説明する。
【0019】
本実施形態では、製造システム1とPFBC発電設備2との間をBM灰が循環し、PFBC発電設備2の廃熱が製造システム1で利用され、製造システム1で生成されるグリセリンがPFBC発電設備2で利用される。即ち、製造システム1とPFBC発電設備2とは夫々の動作において相互に補完し合う関係にある。
【0020】
<<PFBC発電設備について>>
PFBC発電設備2は、圧力容器20と、加圧流動床ボイラ21と、蒸気タービン22と、集じん器23と、ガスタービン24と、発電機25とを備えている。このPFBC発電設備2では、加圧流動床ボイラ21で蒸気を発生させて蒸気タービン22を駆動し、加圧流動床ボイラ21からの排ガスを、集じん器23で集じん処理した後、ガスタービン24の駆動に用いている。
【0021】
加圧流動床ボイラ21では、加圧容器20内における加圧下で流動床燃焼(加圧流動床燃焼)を行い、蒸気を発生させる。加圧流動床燃焼では、加圧流動床ボイラ21の内部で、空気を吹き付ける等によって浮遊させた流動状態の石炭を燃焼する。この加圧流動床燃焼では、石炭と共に石灰石が加圧流動床ボイラ21に投入される。石灰石は、石炭を流動状態とするための流動媒体として作用すると共に、石炭の燃焼によって生じる硫黄成分の脱硫剤としても作用する。
【0022】
石灰石が存在することで、PFBC発電設備2で発生する石炭灰(PFBC灰,BM灰)は、一般的な火力発電設備で発生する石炭灰に比べて酸化カルシウムの含有量が多くなる。このため、エステル交換反応の固体塩基触媒として好適に使用できる。ここで、加圧流動床ボイラ21の炉底から得られるBM灰は、主に集じん器23から得られるPFBC灰に比べて酸化カルシウムの含有量が多い。このような事情から本実施形態の脂肪酸アルキルエステル製造システム1では、BM灰をエステル交換反応の固体塩基触媒として用いている。
【0023】
<<脂肪酸アルキルエステル製造システムについて>>
次に、製造システム1について説明する。本実施形態に係る製造システム1は、PFBC発電設備2から供給されるBM灰及び蒸気廃熱を利用し、原料油脂とアルコールとから脂肪酸アルキルエステルを製造する。
【0024】
ここで、原料油脂は、グリセリンエステルを主として含む物質であり、天然油脂であっても合成油脂であってもこれらを混合したものであってもよい。本実施形態では、環境負荷低減の観点から、食品工場や一般家庭等から廃棄される廃食油を原料油脂として用いることとする。
【0025】
尚、エステル交換反応を効率的に行うために、廃食油等の原料油脂からは、例えば食材由来の固形物をろ過等の処理によって除去し、水分や遊離脂肪酸を吸着等の処理によって除去しておくことが好ましい。
【0026】
また、使用するアルコールとしては、メタノールやエタノール等の低級アルコールであって含水量が少ないものであることが好ましい。本実施形態では、メタノールを用いることとする。
【0027】
脂肪酸アルキルエステル製造システム1は、反応部10と、第1分離部11と、不溶化反応部12と、金属塩除去処理部13(第2分離部)と、水洗浄処理部14(第3分離部)とから構成されている。
【0028】
反応部10は、廃食油とメタノールとを混合してエステル交換反応をさせるものである。この反応部10は、反応開始剤生成部10Aと、エステル交換反応部10Bとを備えている。反応開始剤生成部10Aは、メタノールとPFBC発電設備2から供給されたBM灰とを混合し、メトキシドアニオンを生成する。
【0029】
このメトキシドアニオンは、エステル交換反応の開始を容易化するための反応開始剤として作用する。すなわち、メトキシドアニオンは、メタノールのヒドロキシ基からBM灰がプロトンを脱離することによって生じ、廃食油(グリセリンエステル)のカルボニル炭素に対する求核剤となる。従って、BM灰とメタノールとを予め混合し、優先的にメトキシドアニオンを生成しておくことで、エステル交換反応が開始されやすくなり、この反応を効率的に行うことができる。
【0030】
エステル交換反応部10Bは、PFBC発電設備2から供給された蒸気廃熱を用いて、廃食油と、反応開始剤生成部10Aでの生成物(メトキシドアニオンを含有するBM灰とアルコールとの混合物)とを混合し、次式に示すエステル交換反応をさせる。なお、この式におけるR、R、Rは夫々同一又は異なる炭化水素基を示している。
【化1】

【0031】
このエステル交換反応では、脂肪酸アルキルエステルとして脂肪酸メチルエステル(以下FAME(Fatty Acid Methyl Ester)と称する)が生成すると共に、グリセリンも生成される。即ち、エステル交換反応を行った後の混合生成物は、FAME、グリセリン、BM灰が主な成分となる。
【0032】
混合生成物のうち、FAMEとグリセリンとは極性の違いによって互いに溶解せず、BM灰は沈殿する。よって、エステル交換反応後の混合生成物を静置すると、この夫々の成分は比重差によって、エステル交換反応部10Bにて上層と下層とに分離する。そして、FAMEを主成分とする上層側が相対的に比重の軽い軽液(第2液)となり、グリセリン及びBM灰を主成分とする下層側が相対的に比重の重い重液(第1液)となる。
【0033】
第1分離部11は、エステル交換反応を行った後の混合生成物を、重液と軽液とに分離する。このため、第1分離部11は、エステル交換反応部10Bの底部に連通した第1ドレンパイプ11A、第1ドレンパイプ11Aの途中に設けた第1ドレンバルブ11B、エステル交換反応部10Bの中間高さに連通した第2ドレンパイプ11C、第2ドレンパイプ11Cの途中に設けた第2ドレンバルブ11Dによって構成される。尚、分離にかかる時間を短縮すべく、第1分離部11として遠心分離装置を採用してもよい。
【0034】
第1分離部11で分離された重液は、PFBC発電設備2の加圧流動床ボイラ21に供給される。加圧流動床ボイラ21内において、グリセリンは燃料として消費され、BM灰は脱硫剤等として再利用される。これによって、製造システム1では副生成物の処理コストが低減され、PFBC発電設備2では加圧流動床ボイラ21に投入される燃料物質(石炭、石灰石)の調達コストが低減される。
【0035】
一方、第1分離部11で分離された軽液は、不溶化反応部12に供給される。この軽液には、主成分であるFAMEの他に、グリセリン、BM灰由来の金属成分、エステル交換反応に関与しなかったメタノール等の残留物が含有されている。ここで、BM灰由来の金属成分とは、例えば酸化カルシウムやカルシウムメトキシド等のカルシウムを含むカルシウム分、マグネシウム分、アルカリ金属分等、酸と反応して塩を生成する成分をいう。尚、本実施形態では、BM灰由来の金属成分がカルシウム分であるとして説明する。
【0036】
不溶化反応部12では、軽液に酢酸を加えて混合し、軽液中のカルシウム分を酢酸と反応させる。酢酸との反応でカルシウム分は金属塩となり、FAMEに対して不溶性を備えた酢酸カルシウムが生成される。カルシウム分がカルシウムメトキシドである場合の不溶化反応部12での反応式を次に示す。
【化2】

【0037】
尚、不溶化反応部12ではカルシウム分を金属塩とし、FAMEに対して不溶化すればよい。このため、酢酸以外の酸を用いることができる。例えば、硫酸を用いても、複数の酸を混合して用いてもよい。
【0038】
金属塩除去処理部13は、不溶化反応部12での生成物(主にFAMEと酢酸カルシウムとを含有する第3液)から酢酸カルシウム(金属塩)を分離する。酢酸カルシウムは、例えばゼリー状の相となって液中に分散するため、ろ過や遠心分離等の処理によって軽液中から取り除くことができる。尚、金属塩除去処理部13は、ろ過によって金属塩を除去するものであっても、遠心分離によって金属塩を除去するものであってもよい。そして、分離にかかる時間の短縮を重視する場合には遠心分離装置が好ましく、設備コストの低減を重視する場合にはろ過器が好ましい。
【0039】
水洗浄処理部14は、金属塩除去処理部13で酢酸カルシウムを取り除いた後の残液に対して、洗浄水を加えて水洗浄し、残液に含まれる水溶性の成分を除去する。残液に含まれる水溶性の成分とは、グリセリンやメタノール等である。例えば、FAMEをバイオディーゼル燃料として用いた場合、これらの成分も、燃料フィルタの閉塞、金属部品の腐食等の要因となるため、水洗浄によって除去する。
【0040】
ここで、水洗浄処理部14で水洗浄される残液は、酢酸カルシウムが取り除かれている。このため、FAMEのけん化を防止できる。すなわち、次式に示す反応を有効に抑えることができる。尚、次式におけるRは、R、R、Rを総称したものである。
【化3】

【化4】

【0041】
これによって、FAMEの収率の低減を抑えることができ、製造効率を高めることができる。尚、残液に微量に残留した、酢酸カルシウムや、未反応の酢酸等も水溶性であるため、水洗浄処理部14によって分離することができる。これによって、より精製精度の高いFAMEを製造できる。また、不溶化反応部12において、軽液中に硫酸を加えた場合は、水洗浄に加えて硫黄を除去するための処理を行うことが好ましい。
【0042】
<<脂肪酸アルキルエステルの製造工程について>>
次に、製造システム1による脂肪酸アルキルエステルの製造工程について説明する。図2のフローチャートに示すように、この製造システム1では、まず反応開始剤生成処理を行う(S1)。この反応開始剤生成処理では、反応開始剤生成部10Aにて、BM灰とメタノールとを混合し、メトキシドアニオン(反応開始剤)を生成する。
【0043】
反応開始剤を生成したならば、エステル交換反応を行う(S2)。そして、エステル交換反応部10Bにて廃食油とS1での生成物とを混合し、前述したエステル交換反応をさせる。ここで、エステル交換反応に用いられる物質の夫々の質量比は、例えばメタノール80:BM灰40:廃食油400である。また、このエステル交換反応が行われる温度は例えば60℃である。このエステル交換反応により、FAME、グリセリン及びBM灰が混合した混合生成物が得られる。
【0044】
次に、第1分離処理を行う(S3)。第1分離処理では、エステル交換反応後の混合生成物を静置し、エステル交換反応部10Bにおける上層側の軽液と下層側の重液とに分離する。
【0045】
軽液と重液とを分離したならば、不溶化処理を行う(S4)。不溶化処理では、分離後の軽液に所定量の酢酸を加えて混合し、軽液中のカルシウム分を酢酸と反応させる。例えば、メタノール80g、BM灰41g、廃食油400gから生成・分離された軽液に対し、7mlの割合となるように酢酸を加えて混合する。これにより、FAMEに不溶な酢酸カルシウムが生成される。
【0046】
不溶化処理を行ったならば、第2分離処理を行う(S5)。第2分離処理では、S4で生成された酢酸カルシウムを、金属塩除去処理部13にて遠心分離したり濾別したりする。
【0047】
次に、水洗浄処理を行う(S6)。この水洗浄処理は、第3分離処理に相当し、酢酸カルシウムを取り除いた後の残液を洗浄水で洗浄する。この水洗浄処理を行うことで、残液に含まれる水溶性の成分が分離され、精製されたFAMEが得られる。
【0048】
<他の実施形態について>>
前述した実施形態は、本発明の理解を容易にするためのものであり、本発明を限定して解釈するためのものではない。本発明は、その趣旨を逸脱することなく変更、改良されると共に、本発明にはその等価物も含まれる。
【0049】
例えば、前述の製造システム1では、不溶化反応部12で生成した酢酸カルシウムを軽液中から分離する金属塩除去処理部13を備えることとしたが、これに限られるものではない。酢酸カルシウムは水に易溶であるため、例えば、金属塩除去処理部13に代え、水洗浄処理部14での水洗浄によって、不溶化反応部12での生成物(第3液)から酢酸カルシウムを分離することとしてもよい。これにより、この生成物からカルシウム分等を分離する工程(第2分離工程)と、グリセリンやメタノール等の残留成分を分離する工程とを一つの工程で行える。このため、脂肪酸アルキルエステルの製造に係る設備コストや時間を低減することができる。そして、この場合には水洗浄処理部14が第2分離部に相当する。
【0050】
また、本実施形態にかかる脂肪酸アルキルエステル製造システム1では、PFBC発電設備2の加圧流動床ボイラ21から得られるBM灰を固体塩基触媒として用いることとしたが、これに限られるものではない。例えば、大気圧下で流動床燃焼を行う常圧流動床ボイラから得られるBM灰を固体塩基触媒として用いてもよい。
【符号の説明】
【0051】
1…脂肪酸アルキルエステル製造システム,2…PFBC発電設備,10…反応部,10A…反応開始剤生成部,10B…エステル交換反応部,11…第1分離部,12…不溶化反応部,13…金属塩除去処理部,14…水洗浄処理部,20…加圧容器,21…加圧流動床ボイラ,22…蒸気タービン,23…集じん器,24…ガスタービン,25…発電機

【特許請求の範囲】
【請求項1】
石灰石を流動媒体とする流動床ボイラから排出される石炭灰を触媒とし、原料油脂とアルコールとを混合してエステル交換反応をさせる反応工程と、
前記エステル交換反応後の生成物を、グリセリンと前記石炭灰とを主成分とする第1液と、脂肪酸アルキルエステルを主成分とし、前記石炭灰由来のカルシウム又はマグネシウムの何れかを含む第2液とに分離する第1分離工程と、
前記第2液に酢酸又は硫酸の少なくとも一方からなる酸を加えて混合し、前記カルシウム又は前記マグネシウムを前記酸と反応させて前記脂肪酸アルキルエステルに対して不溶化する不溶化工程と、
前記不溶化した前記カルシウム又は前記マグネシウムを、前記脂肪酸アルキルエステルを主成分とする第3液から分離する第2分離工程と、
を行うことを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項2】
前記第2分離工程の残液に洗浄水を加え、水溶性の成分を分離する第3分離工程を行うことを特徴とする請求項1に記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項3】
前記第2分離工程では、洗浄水を加えることで、前記不溶化した前記カルシウム又は前記マグネシウムを、前記第3液から分離することを特徴とする請求項1に記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項4】
前記流動床ボイラは、加圧流動床複合発電方式の発電設備に備えられる加圧流動床ボイラであり、
前記石炭灰はベッドマテリアル灰であり、
前記発電設備で使用される蒸気の廃熱によって前記エステル交換反応をさせ、
前記第1分離工程において分離した前記第1液を前記発電設備の発電燃料として前記加圧流動床ボイラで消費する、
ことを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載の脂肪酸アルキルエステルの製造方法。
【請求項5】
石灰石を流動媒体とする流動床ボイラから排出される石炭灰を触媒とし、原料油脂とアルコールとを混合してエステル交換反応をさせる反応部と、
前記エステル交換反応後の生成物を、グリセリンと前記石炭灰とを主成分とする第1液と、脂肪酸アルキルエステルを主成分とし、前記石炭灰由来のカルシウム又はマグネシウムの何れかを含む第2液とに分離する第1分離部と、
前記第2液に酢酸又は硫酸の少なくとも一方からなる酸を加えて混合し、前記カルシウム又は前記マグネシウムを前記酸と反応させて前記脂肪酸アルキルエステルに対して不溶化する不溶化反応部と、
前記不溶化した前記カルシウム又は前記マグネシウムを、前記酸アルキルエステルを主成分とする第3液から分離する第2分離部と、
を備えたことを特徴とする脂肪酸アルキルエステルの製造システム。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−195678(P2011−195678A)
【公開日】平成23年10月6日(2011.10.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−62942(P2010−62942)
【出願日】平成22年3月18日(2010.3.18)
【出願人】(000211307)中国電力株式会社 (6,505)
【Fターム(参考)】