説明

脂肪酸アルキルエステル組成物

【課題】低温流動性に優れ、特に寒冷地や冬場における使用に適した脂肪酸アルキルエステル組成物を提供する。
【解決手段】本発明は、ヨウ素価が60〜120である脂肪酸アルキルエステル(A)と、HLBが1〜9である多価アルコール脂肪酸エステル(B)とを含有し、かつ当該(B)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分との合計含有量に対し、3〜10質量%の範囲内であることを特徴とする脂肪酸アルキルエステル組成物である。本発明の脂肪酸アルキルエステル組成物においては、前記(B)成分が、ショ糖脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上からなることが好ましい。また、前記(A)成分が、パーム油またはパーム核油を使用して製造される脂肪酸アルキルエステルを含むことが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、低温流動性が改善された脂肪酸アルキルエステル組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
天然油脂である植物油と、脂肪族アルコールとのエステル交換反応により得られる脂肪酸アルキルエステルは、近年、石油等の化石原料に替わる再生可能な環境適応型原料としてバイオディーゼル燃料や各種溶剤、潤滑油などに広く利用されている。
この脂肪酸アルキルエステルのうち、原料としてパーム油を使用して製造される脂肪酸アルキルエステル(以下、パーム脂肪酸アルキルエステルということがある。)などは、パルミチン酸アルキルエステルやステアリン酸アルキルエステル等の飽和脂肪酸アルキルエステル(飽和脂肪酸分)の含有量が多いため、飽和脂肪酸分の含有量が少ない大豆油や菜種油を使用して製造される脂肪酸アルキルエステルに比べて、一般的に低温流動性が悪く、寒冷地や冬場における使用が制限される問題がある。
【0003】
脂肪酸アルキルエステルの流動点を低くする流動点降下剤としては、従来、ポリアクリル酸高級アルコールエステル、アクリル酸とマレイン酸との共重合物、無水マレイン酸共重合体/長鎖α−オレフィン重合体/メタアクリル酸エステル重合体の混合物等が用いられている(例えば、特許文献1〜4参照)。
【特許文献1】特開平11−080757号公報
【特許文献2】特開平08−165480号公報
【特許文献3】米国特許第6051538号明細書
【特許文献4】米国特許第6203585号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、前記ポリアクリル酸高級アルコールエステル、前記アクリル酸とマレイン酸との共重合物、前記重合体の混合物等の流動点降下剤は、たとえばパーム脂肪酸アルキルエステルの流動点降下の効果をほとんど示さない。
このため、パーム脂肪酸アルキルエステルの活用は、資源量、製造価格の点で今後有望視されるものの、流動点が13〜14℃と高いため、低温流動性が悪く、特に寒冷地や冬場の貯槽タンクでの固化やハンドリング性に問題があり、その改善が要望されている。
【0005】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであり、低温流動性に優れ、特に寒冷地や冬場における使用に適した脂肪酸アルキルエステル組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは鋭意検討した結果、上記課題を解決するために、以下の手段を提供する。
すなわち、本発明の脂肪酸アルキルエステル組成物は、下記(A)成分と下記(B)成分とを含有し、かつ当該(B)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分との合計含有量に対し、3〜10質量%の範囲内であることを特徴とする。
(A)ヨウ素価が60〜120である脂肪酸アルキルエステル、
(B)HLBが1〜9である多価アルコール脂肪酸エステル。
【0007】
本発明の脂肪酸アルキルエステル組成物においては、前記(B)成分が、ショ糖脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上からなることが好ましい。
また、本発明の脂肪酸アルキルエステル組成物においては、前記(A)成分が、パーム油またはパーム核油を使用して製造される脂肪酸アルキルエステルを含むことが好ましい。また、前記(A)成分が、パーム油またはパーム核油を使用して製造される脂肪酸アルキルエステルと、ヨウ素価が110以上である脂肪酸アルキルエステルとの混合物からなることが好ましい。
また、本発明の脂肪酸アルキルエステル組成物においては、前記(A)成分中の炭素数16以下の脂肪酸部を有する脂肪酸アルキルエステルの割合が30質量%以下であることが好ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、低温流動性に優れ、特に寒冷地や冬場における使用に適した脂肪酸アルキルエステル組成物を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
≪脂肪酸アルキルエステル組成物≫
本発明の脂肪酸アルキルエステル組成物は、ヨウ素価が60〜120である脂肪酸アルキルエステル(本発明において(A)成分という。)と、HLBが1〜9である多価アルコール脂肪酸エステル(本発明において(B)成分という。)とを含有する。
【0010】
<(A)成分>
(A)成分は、ヨウ素価が60〜120である脂肪酸アルキルエステルである。
(A)成分のヨウ素価は60〜120であり、本発明の効果がより発揮される点で、70〜120であることが好ましく、85〜110であることがより好ましい。該ヨウ素価が60以上であることにより、該(A)成分の流動点降下の効果が得られ、低温流動性が向上する。該ヨウ素価が120以下であることにより、不飽和脂肪酸分の含有量が多くなり過ぎることによる酸化劣化を抑制できる。また、該ヨウ素価が60〜120である脂肪酸アルキルエステルには、パーム脂肪酸アルキルエステル等の飽和脂肪酸分の多いものが包含され、本発明の技術的意義がある。
なお、本発明において「ヨウ素価」とは、ウィイス−シクロヘキサン法(基準油脂分析試験法の2.3.4.1−1996を参照)に準拠し、測定される値を示す。
【0011】
(A)成分としては、該(A)成分中に、炭素数12〜18の脂肪酸部を有する脂肪酸アルキルエステル(脂肪酸分)を90質量%以上含むものが好ましい。なかでも、ヨウ素価を60〜120の範囲に容易に調整することができる点で、炭素数16〜18の脂肪酸部を有する脂肪酸分を90質量%以上含むものがより好ましい。
また、(A)成分としては、該(A)成分中の炭素数16以下の脂肪酸部を有する脂肪酸アルキルエステル(脂肪酸分)の割合が30質量%以下であることが好ましく、20質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。該割合が30質量%以下であることにより、後述する(B)成分の配合による(A)成分の流動点降下の効果がより発揮される。
【0012】
かかる(A)成分は、たとえば、原料として植物油を使用し、該植物油を、アルカリ触媒等の触媒の存在下、メタノール等の1価アルコールとエステル交換反応させ、副生物のグリセリン等を除去する製造方法;植物油の加水分解により得られる脂肪酸を、メタノール等の1価アルコールによりエステル化する製造方法により製造することができる。
【0013】
1価アルコールとしては、炭素数1〜13の1価の脂肪族アルコールが好ましく、具体的にはメタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノール、オクタノール、2−エチルヘキサノール、デカノール、ウンデカノール、イソトリデカノールが挙げられる。なかでも、脂肪酸アルキルエステルを合成する際の反応性が良好で、かつエステル化やエステル交換反応時における過剰分の回収、リサイクル使用が容易である点から、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、ブタノール、イソブタノールがより好ましく、メタノールがさらに好ましい。
【0014】
植物油としては、パーム油、大豆油、菜種油、パーム核油、ヤシ油、とうもろこし油などが挙げられる。また、脂肪酸組成が、ウインタリングによる分別などにより調整されたものも使用することができ、具体例としては、精製処理後にウインタリング処理がなされたRBDパームステアリン、RBDパームオレイン、RBDパーム核油が挙げられる。
「RBD」とは、精製(Refined)、漂白(Bleached)、および脱臭(Deodorized)処理が施されたものであることを示す。
【0015】
本発明において、(A)成分は、前記植物油の中でも、本発明の技術的意義がより発揮される点で、パーム油またはパーム核油を使用して製造される脂肪酸アルキルエステルを含むことが好ましい。
パーム油の脂肪酸組成は、炭素数16と18の飽和及び不飽和脂肪酸を主成分とし、パーム核油の脂肪酸組成は、炭素数12〜18の飽和及び不飽和脂肪酸を主成分とする。
パーム脂肪酸アルキルエステルおよびパーム核油脂肪酸アルキルエステルは、たとえば蒸留操作により分離される、共に炭素数18の脂肪酸分の留分中に、飽和脂肪酸(ステアリン酸)分を10〜15質量%程度含むものである。パーム脂肪酸アルキルエステルは、この飽和脂肪酸(ステアリン酸)分が、蒸留操作等の工業的手段により容易に分離除去することができないため、流動点が高く、低温流動性が低い等の低温での取り扱いに難点がある。
また、一方で、炭素数18の脂肪酸分の留分は、不飽和結合を2つ以上有する高不飽和脂肪酸分の含有量が少ないものである(15〜20質量%程度)。そのため、蒸留操作等の工業的手段のみによる低温流動性の改善には限界がある。
本発明は、特に、このような性質を持つパーム油、パーム核油を使用して製造される脂肪酸アルキルエステルの低温流動性の改善に効果を発揮する。
【0016】
本発明における(A)成分は、ヨウ素価が60〜120であるものであれば、1種単独で用いてもよく、2種以上混合して用いてもよい。
ヨウ素価の調整は、たとえば、以下に示す(1)〜(4)の方法により調整することができる。
(1)蒸留操作により分離される留出液および/または残留液を混合等することにより、脂肪酸アルキルエステルの脂肪酸部の脂肪酸組成を制御する方法。
(2)大豆油、菜種油等を使用して製造される脂肪酸アルキルエステル(たとえばヨウ素価110以上)と、パーム油などを使用して製造される脂肪酸アルキルエステル(たとえばヨウ素価20〜60)とを混合する方法。
(3)油脂、脂肪酸または脂肪酸アルキルエステルをウインタリング処理して固体脂を分別除去する方法。
(4)不飽和度の高い油脂、脂肪酸、脂肪酸アルキルエステルの不飽和結合を水素添加反応により部分的に水添する方法。
【0017】
上記(1)〜(4)の方法のなかでも、工業的に簡便な操作であり、(A)成分のヨウ素価を容易に調整することができる点で、(1)または(2)の方法が好ましい。
(1)の方法として具体的には、たとえばパーム脂肪酸アルキルエステル等の飽和脂肪酸分の含有量が多い脂肪酸アルキルエステルから、蒸留操作により、目的とする飽和脂肪酸分を分離除去する方法;脂肪酸アルキルエステルを蒸留操作により一度精留して分取した後に、それらを適宜混合する方法が挙げられる。
たとえば、パーム脂肪酸アルキルエステルまたはパーム核油脂肪酸アルキルエステルを使用して(A)成分を調製する場合、上記のように、(A)成分中の炭素数16以下の脂肪酸部を有する脂肪酸分の割合を30質量%以下とするには、蒸留操作により、炭素数16以下の脂肪酸部を有する脂肪酸分を分離除去することによって制御できる。また、蒸留操作により、前記炭素数16以下の脂肪酸部を有する脂肪酸分が分離された留出液と、その際の残留液(炭素数18の脂肪酸部を有する脂肪酸分)とを適宜混合することによっても制御できる。
【0018】
(2)の方法として具体的には、パーム油またはパーム核油を使用して製造される脂肪酸アルキルエステルと、ヨウ素価が110以上(好ましくはヨウ素価110〜150)である脂肪酸アルキルエステルとを混合する方法が好ましく挙げられる。
【0019】
(A)成分中のパーム油またはパーム核油を使用して製造される脂肪酸アルキルエステルの割合は、20質量%以上であることが好ましく、40質量%以上であることがより好ましく、最も好ましくは100質量%である。該割合が20質量%以上であれば、本発明の技術的意義があり、100質量%であっても本発明の効果が充分に得られる。
【0020】
ヨウ素価が110以上である脂肪酸アルキルエステルの脂肪酸部は、主に炭素数C18〜C22の不飽和脂肪酸からなるものが好ましく、なかでもオレイン酸、リノール酸、エルシン酸を主成分とするものがより好ましい。かかる脂肪酸アルキルエステルの原料としては、菜種油、大豆油、ヒマワリ油等の植物油等が挙げられ、なかでも菜種油、大豆油が好ましい。
【0021】
脂肪酸アルキルエステル組成物中の(A)成分の含有量は、脂肪酸アルキルエステル組成物中、50〜97質量%であることが好ましく、80〜97質量%であることがより好ましく、93〜95質量%であることが特に好ましい。該範囲の下限値以上であれば、脂肪酸アルキルエステル濃度として充分に高いものとなり、各用途により好適なものが得られる。一方、上限値以下であることにより、(B)成分とのバランスをとることができ、流動点降下の効果が得られやすくなって低温流動性が向上する。
【0022】
<(B)成分>
(B)成分は、HLBが1〜9である多価アルコール脂肪酸エステルである。該(B)成分は、本発明において、(A)成分の流動点降下の効果を発揮する。これにより、本発明の脂肪酸アルキルエステル組成物は低温流動性に優れる。また、該(B)成分は、前記(A)成分に対する溶解性が良好である。
(B)成分のHLBは1〜9であり、1〜4であることが好ましい。該HLBが1〜9であることにより、(A)成分の流動点降下の効果が得られる。また、(A)成分に対する溶解性が良好となる。また、該HLBの上限値以下、特にHLB4以下であることにより、(A)成分の流動点降下の効果がより高くなる。
なお、本発明において「HLB」とは、アトラス法によって計算される値を示すものとする。HLBの値は、(B)成分の鹸化価をS、(B)成分を構成する脂肪酸の酸価をAとした場合、下記計算式により算出することができる。
計算式:HLB=20(1−S/A)
【0023】
かかる(B)成分は、たとえば、直鎖または分岐鎖状の脂肪酸を、多価アルコールによりエステル化する製造方法により製造することができる。
直鎖または分岐鎖状の脂肪酸において、炭素数は6〜22であることが好ましく、12〜22であることがより好ましく、飽和脂肪酸であってもよく、不飽和脂肪酸であってもよい。
多価アルコールとしては、2価以上のアルコールが好ましく、たとえばグリセリン、ポリグリセリン、プロピレングリコール、ショ糖、ソルビタン等が挙げられる。
(B)成分としては、たとえば、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルが好ましく、なかでも(A)成分の流動点降下の効果がより高い点から、ショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステルが特に好ましい。
【0024】
前記ショ糖脂肪酸エステルは、たとえばショ糖を親水基とし、植物油脂由来の脂肪酸を親油基としてエステル結合させて得られる非イオン性界面活性剤が挙げられ、シュガーエステルとも呼ばれているものである。
ショ糖には8つの水酸基(−OH基)があり、その8つの水酸基に、幾つの脂肪酸を結合させるかにより、20〜0迄の範囲でHLB値を調整できる。そのなかでも、本発明においては、HLBが1〜9(好ましくは1〜4、より好ましくは1〜2)であるものであれば、特に制限なく使用できる。
ショ糖脂肪酸エステルとして具体的には、たとえばショ糖カプロン酸エステル、ショ糖カプリル酸エステル、ショ糖カプリン酸エステル、ショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖ミリスチン酸エステル、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖ステアリン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、ショ糖リノール酸エステル、ショ糖リノレン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステル等が挙げられる。なかでも、前記(A)成分に対する溶解性が良好で、かつ低温流動性改善の効果が高い点で、HLBが1〜2であるショ糖ラウリン酸エステル、ショ糖エルカ酸エステルが好ましい。
使用できるショ糖脂肪酸エステルの市販品としては、たとえばリョートーシュガーエステルL−195、リョートーシュガーエステルER−190、リョートーシュガーエステルER−290(以上、商品名;いずれも三菱化学フーズ製)が挙げられる。
【0025】
前記ポリグリセリン脂肪酸エステルは、たとえば植物油由来のグリセリンを脱水縮合によりポリグリセリンとした後、該ポリグリセリンと、植物油由来の脂肪酸とをエステル結合させて得られるものが挙げられる。
ポリグリセリン脂肪酸エステルは、ポリグリセリンの重合度、脂肪酸の種類、エステル化度の組み合わせによって、20〜0迄の範囲でHLB値を調整できる。本発明においては、グリセリンの重合度が3〜15の範囲であるポリグリセリンと、植物油由来の脂肪酸とのエステルで、かつHLBが1〜9(好ましくは1〜4)であるものであれば、特に制限なく使用できる。
ポリグリセリン脂肪酸エステルとして具体的には、たとえばポリグリセリンカプロン酸エステル、ポリグリセリンカプリル酸エステル、ポリグリセリンカプリン酸エステル、ポリグリセリンラウリン酸エステル、ポリグリセリンミリスチン酸エステル、ポリグリセリンパルミチン酸エステル、ポリグリセリンステアリン酸エステル、ポリグリセリンオレイン酸エステル、ポリグリセリンリノール酸エステル、ポリグリセリンリノレン酸エステル、ポリグリセリンエルカ酸エステル等が挙げられる。なかでも、(A)成分に対する溶解性が良好で、かつ低温流動性改善の効果が高い点で、HLBが1〜4であるポリグリセリンエルカ酸エステルがより好ましい。
使用できるポリグリセリン脂肪酸エステルの市販品としては、たとえばSYグリスターNE−750(商品名、阪本薬品工業製)が挙げられる。
【0026】
前記ソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビタンと、植物油由来の脂肪酸とをエステル結合させて得られるものである。
ソルビタン脂肪酸エステルは、ソルビタンに結合した脂肪酸の種類およびエステル化度によって、20〜0迄の範囲でHLB値を調整できる。そのなかでも、本発明においては、HLBが1〜9であるものであれば、特に制限なく使用できる。
ソルビタン脂肪酸エステルとして具体的には、たとえばソルビタンカプロン酸エステル、ソルビタンカプリル酸エステル、ソルビタンカプリン酸エステル、ソルビタンラウリン酸エステル、ソルビタンミリスチン酸エステル、ソルビタンパルミチン酸エステル、ソルビタンステアリン酸エステル、ソルビタンオレイン酸エステル、ソルビタンリノール酸エステル、ソルビタンリノレン酸エステル、ソルビタンエルカ酸エステル等が挙げられる。なかでも、(A)成分に対する溶解性が良好で、かつ低温流動性改善の効果が高い点で、HLBが1〜9であるソルビタンラウリン酸エステルがより好ましい。
使用できるソルビタン脂肪酸エステルの市販品としては、たとえばNIKKOL SL−10(商品名、日光ケミカルズ製)が挙げられる。
【0027】
本発明における(B)成分は、1種または2種以上混合して用いることができる。
なお、上記で例示されるショ糖脂肪酸エステル、ポリグリセリン脂肪酸エステル、ソルビタン脂肪酸エステルは、植物油由来の脂肪酸を使用したもの、食品分野で利用されているもの等を選択することが可能であり、生分解性や安全性の高い原料を(B)成分として使用することができる。
【0028】
本発明の脂肪酸アルキルエステル組成物において、(A)成分と(B)成分との混合割合は、当該(B)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分との合計含有量に対し、3〜10質量%の範囲内であり、3〜7質量%の範囲内であることが好ましく、5〜7質量%の範囲内であることがより好ましい。当該(B)成分の含有量が3質量%以上であることにより、流動点降下の効果が得られ、低温流動性に優れる。特に5質量%以上であると、流動点降下の効果がより顕著に得られる。当該(B)成分の含有量が10質量%以下であることにより、流動点降下の効果が充分に得られる。また、上限値以下であれば、高粘度(20℃で数千から数万mPa・s)もしくは常温で固体状の物性を示す(B)成分による脂肪酸アルキルエステル組成物の粘度の増加や当該(B)成分の析出を防ぐことができる。
さらに、流動点降下剤として従来使用されているポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合物等においては、その使用量によって流動点降下の効果がほとんど変わらない問題がある。これに対し、本発明における(B)成分は、前記3〜10質量%の範囲内で多く使用するほど、(A)成分の流動点降下の効果が高くなる傾向があり、有用である。
【0029】
<任意成分>
本発明の脂肪酸アルキルエステル組成物には、前記(A)成分、前記(B)成分以外に必要に応じて、たとえば酸化防止剤、金属不活性化剤、流動帯電防止剤、粘度指数向上剤、洗浄分散剤、分子修復剤、乳化剤等の潤滑油添加剤、ガソリン、軽油または重油などの石油由来の燃料、石油系溶剤、フタル酸ジエステル等のニ塩基酸ジエステル、グリコールエーテル系溶剤などの有機溶剤等の任意成分を適宜、配合することができる。
【0030】
本発明の脂肪酸アルキルエステル組成物は、(A)成分と、(B)成分と、必要に応じて任意成分とを、たとえば加熱しながら混合して均一な溶液とし、その後、常温等にまで冷却することにより調製することができる。
【0031】
本発明の脂肪酸アルキルエステル組成物の流動点は、(A)成分単独の流動点に比べて、7.5℃以上低いことが好ましく、10〜40℃低いことがより好ましい。(A)成分単独の流動点に比べて7.5℃以上低いことにより、(B)成分を選択的に使用する本発明の技術的、経済的な意義がある。
【0032】
本発明によれば、低温流動性に優れ、特に寒冷地や冬場における使用に適した脂肪酸アルキルエステル組成物を提供することができる。
また、本発明によれば、好ましくはパーム脂肪酸アルキルエステル等の飽和脂肪酸分の多い、低ヨウ素価の脂肪酸アルキルエステルの低温流動性が改善でき、特に寒冷地や冬場における貯蔵、輸送、混合などの際のハンドリング性に優れた脂肪酸アルキルエステル組成物を提供することができる。
【0033】
また、流動点降下剤として従来使用されているポリアクリル酸エステル、ポリアクリル酸エステル/無水マレイン酸共重合物等においては、生分解性に劣るという問題もある。
本発明においては、生分解性、さらに安全性に優れた多価アルコール脂肪酸エステル(B)を選択することが可能であり、該(B)成分を流動点降下剤として含有する脂肪酸アルキルエステル組成物を提供することができる。また、該(B)成分は、前記の高分子化合物等の従来の流動点降下剤に比べて、低ヨウ素価の脂肪酸アルキルエステルの低温流動性改善の効果に特に優れたものである。
【0034】
また、本発明の脂肪酸アルキルエステル組成物は、バイオディーゼル燃料や溶剤、潤滑油、潤滑剤、洗浄剤、流出油処理剤、電気絶縁油、インク溶剤、ウレタン減粘剤等に利用することができる。
【実施例】
【0035】
以下に実施例を用いて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0036】
≪パーム脂肪酸メチルエステルの調製≫
パーム脂肪酸メチルエステルは、原料パーム油を、メタノールを用いてエステル交換反応することにより調製した。
【0037】
(原料パーム油)
原料パーム油としてRBDパームステアリン(POS)を用いた。
RBDパームステアリン(POS)は、粗パーム油(CPO)を物理脱酸処理(脱酸・脱色・脱臭)した精製パーム油(RBDパーム油)を、冷却固液分離(ウインタリング)した際の固体側の油脂である。
このRBDパームステアリン(POS)の脂肪酸組成は、下記の通りであった。
炭素数12(C12と表す。以下、同様。)飽和脂肪酸成分:0.1質量%、C14飽和脂肪酸成分:1.3質量%、C16飽和脂肪酸成分:59.7質量%、C18飽和脂肪酸成分:5.3質量%、C18F1(F1は不飽和結合を1つ有することを表す。)脂肪酸成分:26.5質量%、C18F2(不飽和結合を2つ有する。)脂肪酸成分:6.3質量%、C18F3(不飽和結合を3つ有する。)の脂肪酸成分:0.1質量%、C20以上の飽和脂肪酸成分:0.7質量%。なお、脂肪酸組成は、後述のエステル交換反応により得られた粗脂肪酸メチルエステルを構成する脂肪酸分の分布を測定することにより求めた。
【0038】
[エステル交換反応]
上記RBDパームステアリン(POS)100質量部に対して、メタノール40質量部と、触媒として水酸化ナトリウム0.3質量部とを添加して、パドル撹拌機付オートクレーブで70℃、1時間反応させることにより、脂肪酸メチルエステルを主成分とする油相と、グリセリン相とを生成させた。
次いで、これらを40℃で1時間静置した後、油相とグリセリン相とに分離した。
油相100質量部に対して水洗用の水30質量部を添加し、撹拌後、これを40℃で1時間静置した。その後、これを油相と水相(石鹸、メタノール、グリセリン、水酸化ナトリウムなど水溶性物質が溶解している相)とに分離し、油相側より粗脂肪酸メチルエステルを得た。粗脂肪酸メチルエステル中の脂肪酸メチルエステル濃度(エステル交換反応率)は95.5質量%であった。
なお、粗脂肪酸メチルエステル中の脂肪酸メチルエステル濃度は、ガスクロマトグラフィー(GC)により測定し、あらかじめ作成された検量線を用いて求めた。
すなわち、試料(粗脂肪酸メチルエステル)をサンプルビンに約0.2g取り、n−ヘキサン約1gを加えて溶解し、下記GC測定条件により操作し、検量線から各脂肪酸分の留分の濃度を算出した。該検量線は、脂肪酸メチルエステル標準品(炭素数6〜22、和光純薬社製)を、n−ヘキサンにそれぞれ溶解し、所定の濃度となるように標準溶液を調製し、各標準溶液を下記条件でGC分析することにより作成した。
【0039】
(GC測定条件)
GC:島津製作所製、製品名:GC6A。
カラム:DEGS(ジエチレングリコールサクシネート20質量%)。
カラム温度:180℃
注入口温度:250℃
検出器温度:250℃
RANGE(10n):n=3
キャリアガス:N、50mL/min
検出器:FID
注入器:1μL
【0040】
<ヨウ素価の異なる脂肪酸メチルエステルの調製>
上記で得られた粗脂肪酸メチルエステルを用いて、ヨウ素価の異なる脂肪酸メチルエステルである試料A〜Dを調製した。
【0041】
[蒸留操作]
前記エステル交換反応により得られた粗脂肪酸メチルエステルを、170℃の常圧下でフラッシュ蒸留して、メタノールと水とを留出液として除去した。
次いで、フラッシュ蒸留の残留液に対して、減圧蒸留(蒸留塔のトップ圧力2.0kPa、トップ温度180℃)を行って、C12飽和脂肪酸メチルエステル、C14飽和脂肪酸メチルエステルを留出液として除去した。
上記蒸留操作により得られた残留液に対して、単蒸留(蒸留塔のトップ圧力0.6kPa、トップ温度200℃、蒸発率98質量%)を行って、C16飽和脂肪酸メチルエステル、C18飽和および不飽和脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出液1を得た。
次いで、この留出液1に対して、減圧蒸留(蒸留塔のトップ圧力2.0kPa、トップ温度190℃)を行って、C16飽和脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出液2を除去した。
【0042】
(試料Aの調製)
更に、この残留液(留出液1から留出液2が除去された液)に対して、減圧蒸留(蒸留塔のトップ圧力0.5kPa、トップ温度190℃、蒸発率97質量%)を行って、C18飽和および不飽和脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出液(試料A)を得た。
【0043】
(試料B、C、Dの調製)
更に、留出液2と試料Aとを、留出液2/試料A=45/55(質量比)の割合で混合することにより、試料Bを調製した。
また、留出液2と試料Aとを、留出液2/試料A=28/72(質量比)の割合で混合することにより、試料Cを調製した。
更に、留出液2と試料Aとを、留出液2/試料A=15/85(質量比)の割合で混合することにより、試料Dを調製した。
【0044】
得られた留出液1、留出液2、および試料A〜D(以下、「脂肪酸アルキルエステル」と表すことがある。)について、脂肪酸部の脂肪酸組成分布、ヨウ素価をそれぞれ表1に示す。また、試料A〜Dについては、流動点(℃;流動点降下剤を添加しない場合の流動点)を併せて示す。
脂肪酸組成分布、ヨウ素価、流動点は、それぞれ以下に示す方法により測定した。
【0045】
[脂肪酸組成分布の測定方法]
留出液1、留出液2、試料A〜Dをそれぞれ0.02g採取し、ヘキサン1gで希釈してサンプルを調製し、以下の条件でガスクロマトグラフィー(GC)分析を行った。定量は、あらかじめ既知濃度の前記脂肪酸メチルエステル標準品を、下記条件でGC分析することにより作成した検量線にて行った。
(分析条件)
機種:HEWLETT PACKARD製、製品名:5890A GAS CHROMATOGRAPH。
カラム:J&W Capillary Column DB−5HT(製品名;内径0.25mm×長さ30m、膜厚0.25μm;J&W Scientific製)。
温度:50→350℃(昇温速度10℃/min)
キャリアガス:He、30cm/sec
注入口:350℃、Split ratio 50:1、1μL
検出口:FID、350℃
【0046】
[流動点の測定方法]
流動点は、JIS K2269(石油及び石油製品の流動点並びに石油製品曇り点試験方法)に準拠した方法により測定した。
【0047】
[ヨウ素価の測定方法]
ヨウ素価は、ウィイス−シクロヘキサン法(基準油脂分析試験法の2.3.4.1−1996)に準拠した方法により測定した。
【0048】
【表1】

【0049】
≪パーム核油脂肪酸メチルエステルの調製≫
パーム核油脂肪酸メチルエステルは、原料パーム核油を、メタノールを用いてエステル交換反応することにより調製した。
【0050】
(原料パーム核油)
原料パーム核油としてRBDパーム核油(PKO)を用いた。
RBDパーム核油(PKO)は、粗パーム核油(PKO)を物理脱酸処理(脱酸・脱色・脱臭)した精製パーム核油(RBDパーム核油)である。
このRBDパーム核油(PKO)の脂肪酸組成は、下記の通りであった。
C6飽和脂肪酸成分:0.1質量%、C8飽和脂肪酸成分:3.2質量%、C10飽和脂肪酸成分:3.2質量%、C12飽和脂肪酸成分:45.4質量%、C14飽和脂肪酸成分:16.5質量%、C16飽和脂肪酸成分:9.1質量%、C18飽和脂肪酸成分:2.4質量%、C18F1(不飽和結合を1つ有する。)脂肪酸成分:17.1質量%、C18F2(不飽和結合を2つ有する。)脂肪酸成分:2.7質量%、C20以上の飽和脂肪酸成分:0.3質量%。なお、脂肪酸組成は、後述のエステル交換反応により得られた粗脂肪酸メチルエステルを構成する脂肪酸分の分布を測定することにより求めた。
【0051】
[エステル交換反応]
上記パーム脂肪酸メチルエステルの調製における[エステル交換反応]の説明において、上記RBDパーム核油(PKO)100質量部に対して、メタノール50質量部と、触媒として水酸化ナトリウム0.4質量部とを添加した以外は、上記パーム脂肪酸メチルエステルの調製における[エステル交換反応]と同様にして粗脂肪酸メチルエステルを得た。粗脂肪酸メチルエステル中の脂肪酸メチルエステル濃度(エステル交換反応率)は95.0質量%であった。
【0052】
<ヨウ素価の異なる脂肪酸メチルエステルの調製>
RBDパーム核油(PKO)を使用して得られた粗脂肪酸メチルエステルを用いて、ヨウ素価の異なる脂肪酸メチルエステルである試料E〜Fを調製した。
【0053】
[蒸留操作]
前記エステル交換反応により得られた粗脂肪酸メチルエステルを、170℃の常圧下でフラッシュ蒸留して、メタノールと水とを留出液として除去した。
次いで、フラッシュ蒸留の残留液に対して、減圧蒸留(蒸留塔のトップ圧力2.0kPa、トップ温度180℃)を行って、C6〜C14の脂肪酸メチルエステルを留出液として除去した。
上記蒸留操作により得られた残留液に対して、単蒸留(蒸留塔のトップ圧力0.6kPa、トップ温度200℃、蒸発率92質量%)を行って、C16飽和脂肪酸メチルエステル、C18飽和および不飽和脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出液(試料E)を得た。
次いで、この留出液(試料E)に対して、減圧蒸留(蒸留塔のトップ圧力2.0kPa、トップ温度190℃)を行って、C16飽和脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出液4を除去した。
更に、この残留液に対して、単蒸留(蒸留塔のトップ圧力0.5kPa、トップ温度190℃、蒸発率97質量%)を行って、C18飽和および不飽和脂肪酸メチルエステルを主成分とする留出液(試料F)を得た。
【0054】
得られた留出液4、試料Eおよび試料F(以下、「脂肪酸アルキルエステル」と表すことがある。)について、脂肪酸部の脂肪酸組成分布、ヨウ素価をそれぞれ表2に示す。また、試料E、試料Fについては、流動点(℃;流動点降下剤を添加しない場合の流動点)を併せて示す。
脂肪酸組成分布、ヨウ素価、流動点は、それぞれ上記と同様の方法により測定した。
【0055】
【表2】

【0056】
≪多価アルコール脂肪酸エステルの溶解性試験≫
表3に示す、HLBの異なる多価アルコール脂肪酸エステルおよび高分子化合物について、表1に示す試料Aに対する溶解性を評価した。
【0057】
[溶解性試験]
試料Aの95質量部に対して、表3に示す各成分の5質量部をそれぞれ加え、加熱しながら均一に溶解するまで撹拌した後、室温まで冷却して試験液を調製し、該試験液の外観を目視にて確認した。そして、下記判定基準により、試料Aに対する溶解性の評価を行った。その結果を表3に示す。
(判定基準)
○:均一で、透明な液体であった。
×:不溶だった。
【0058】
【表3】

【0059】
表3の結果から、HLBが1〜9である多価アルコール脂肪酸エステルは、試料Aに対する溶解性が良好であることが確認できた。
一方、HLBが9超の多価アルコール脂肪酸エステルは、試料Aに対する溶解性が悪いことが確認された。
【0060】
≪流動点降下の評価1≫
次に、試料Aに対する溶解性が良好であった、HLBが1〜9である多価アルコール脂肪酸エステルおよびB−4の高分子化合物(以下、「流動点降下剤」と表すことがある。)と、表1に示す試料A〜Dとを混合して流動点を測定し、流動点降下の評価を行った。その結果を表4〜6に示す。
表4〜6中、「ΔT(対ブランク)」は、流動点降下剤を添加しない場合の流動点、すなわち、表1に示す試料A〜Dの流動点との温度差を示す。
本評価においては、前記温度差が大きいほど、流動点降下剤による流動点降下の効果が高いことを示す。
【0061】
(実施例1〜3、比較例1〜5)。
実施例1
試料Aの95質量部に対して、表3に示す成分B−1aを5質量部の割合で加え、加熱しながら均一に溶解するまで撹拌した後、室温まで冷却して試験液を得た。続けて、得られた試験液の流動点を上記と同様の測定方法により測定した。結果を表4に示す。
【0062】
実施例2
実施例1において、試料Aに替えて試料Dを使用した以外は、実施例1と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表4に示す。
【0063】
実施例3
実施例1において、試料Aに替えて試料Cを使用した以外は、実施例1と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表4に示す。
【0064】
比較例1
実施例1において、試料Aに替えて試料Bを使用した以外は、実施例1と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表4に示す。
【0065】
比較例2
実施例1において、B−1aに替えてB−4を使用した以外は、実施例1と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表4に示す。
【0066】
比較例3
実施例2において、B−1aに替えてB−4を使用した以外は、実施例2と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表4に示す。
【0067】
比較例4
実施例3において、B−1aに替えてB−4を使用した以外は、実施例3と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表4に示す。
【0068】
比較例5
比較例1において、B−1aに替えてB−4を使用した以外は、比較例1と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表4に示す。
【0069】
【表4】

【0070】
表4の結果から、B−1aを用いた実施例1は、B−4を用いた比較例2に比べて流動点が低い(前記温度差が大きい)ことが確認された。
同様に、実施例2は比較例3に比べて、実施例3は比較例4に比べて、それぞれ流動点が低い(前記温度差が大きい)ことが確認された。
したがって、HLBが1であるショ糖脂肪酸エステルは、高分子化合物(B−4)に比べて、ヨウ素価が60〜120である脂肪酸アルキルエステルの流動点降下の効果が高いことが確認できた。
【0071】
また、比較例1および比較例5においては、前記温度差が0であり、ヨウ素価が60未満の脂肪酸アルキルエステル(試料B)においては、流動点降下剤の種類によらず、流動点降下の効果が得られにくいことが確認できた。
【0072】
(実施例4、比較例6〜8)。
実施例4
試料Dの97質量部に対して、表3に示す成分B−1aを3質量部の割合で加え、加熱しながら均一に溶解するまで撹拌した後、室温まで冷却して試験液を得た。続けて、得られた試験液の流動点を上記と同様の測定方法により測定した。結果を表5に示す。
【0073】
比較例6
実施例4において、試料Dの99質量部に対して、表3に示す成分B−1aを1質量部の割合で加えた以外は、実施例4と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表5に示す。
【0074】
比較例7
実施例4において、B−1aに替えてB−4を使用した以外は、実施例4と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表5に示す。
【0075】
比較例8
比較例6において、B−1aに替えてB−4を使用した以外は、比較例6と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表5に示す。
【0076】
【表5】

【0077】
表5の結果から、B−1aを3質量%含有する実施例4は、B−1aを1質量%含有する比較例6に比べて流動点が低い(前記温度差が大きい)ことが確認された。
したがって、本発明に係る多価アルコール脂肪酸エステルの含有量が、脂肪酸アルキルエステルと多価アルコール脂肪酸エステルとの合計含有量に対し、3〜10質量%の範囲内であることにより、当該脂肪酸アルキルエステルの流動点降下の効果が高いことが確認できた。
【0078】
一方、比較例7および比較例8で用いられた高分子化合物(B−4)は、その含有量により当該脂肪酸アルキルエステルの流動点降下の効果は変わらず、該効果が得られにくいことが確認できた。
【0079】
(実施例5〜8、比較例9)。
実施例5
実施例1において、B−1aに替えてB−1bを使用した以外は、実施例1と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表6に示す。
【0080】
実施例6
実施例1において、B−1aに替えてB−1cを使用した以外は、実施例1と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表6に示す。
【0081】
実施例7
実施例1において、B−1aに替えてB−2aを使用した以外は、実施例1と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表6に示す。
【0082】
実施例8
実施例1において、B−1aに替えてB−3を使用した以外は、実施例1と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表6に示す。
【0083】
比較例9
実施例7において、試料Aの99質量部に対して、B−2aを1質量部の割合で加えた以外は、実施例7と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表6に示す。
【0084】
【表6】

【0085】
表6の結果から、HLBが1〜9である多価アルコール脂肪酸エステルを含有し、当該多価アルコール脂肪酸エステルの含有量が、脂肪酸アルキルエステルと多価アルコール脂肪酸エステルとの合計含有量に対し、3〜10質量%の範囲内である実施例5〜8は、いずれも流動点が低い(前記温度差が大きい)ことが確認できた。
【0086】
一方、HLBが1〜9である多価アルコール脂肪酸エステルの含有量が、脂肪酸アルキルエステルと多価アルコール脂肪酸エステルとの合計含有量に対し、3質量%未満である比較例9は、実施例7に比べて、流動点が高い(前記温度差が小さい)ことが確認できた。
【0087】
≪流動点降下の評価2≫
表7に示すように、試料B(ヨウ素価49)と、大豆油メチルエステル(当栄ケミカル製、ヨウ素価121)とを混合して、異なるヨウ素価の脂肪酸アルキルエステルを調製し、上記と同様にして流動点降下の評価を行った。
表7中の「ΔT(対ブランク)」とは、試料Bと前記大豆油メチルエステルとの混合物(混合脂肪酸アルキルエステル)の流動点(℃;流動点降下剤を添加しない場合の流動点)との温度差を意味する。
また、大豆油メチルエステル、および試料Bと大豆油メチルエステルとの混合物(実施例9〜11)の脂肪酸組成分布、ヨウ素価を表8にそれぞれ示す。
流動点、脂肪酸組成分布、ヨウ素価は、それぞれ上記と同様の方法により測定した。
【0088】
(実施例9〜11、比較例10)。
比較例10
比較例1において、試料Bの100質量部に対して、B−1aを5質量部の割合で加えた以外は、比較例1と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表7に示す。
【0089】
実施例9
試料Bの75質量部に対して、前記大豆油メチルエステル25質量部と、B−1aの5質量部とを加え、加熱しながら均一溶解するまで撹拌した後、室温まで冷却して試験液を調製し、流動点を測定した。その結果を表7に示す。
【0090】
実施例10
実施例9において、試料Bの50質量部に対して、前記大豆油メチルエステル50質量部を加えた以外は、実施例9と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。その結果を表7に示す。
【0091】
実施例11
実施例9において、試料Bの25質量部に対して、前記大豆油メチルエステル75質量部を加えた以外は、実施例9と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。その結果を表7に示す。
【0092】
【表7】

【0093】
【表8】

【0094】
表7〜8の結果から、低ヨウ素価の脂肪酸アルキルエステルと高ヨウ素価の脂肪酸アルキルエステルとの混合によりヨウ素価が60〜120に調整された、混合脂肪酸アルキルエステルを含有する実施例9〜11は、ブランクに対して、いずれも流動点が低くなることが確認できた。
【0095】
≪流動点降下の評価3≫
次に、表3に示すショ糖脂肪酸エステルおよび高分子化合物(流動点降下剤)と、表2に示すパーム核油を使用して製造された脂肪酸メチルエステルである試料Eおよび試料Fとを混合して流動点を測定し、流動点降下の評価を行った。その結果を表9に示す。
なお、表9中の「ΔT(対ブランク)」は、流動点降下剤を添加しない場合の流動点、すなわち、表2に示す試料E、Fの流動点との温度差を示す。
【0096】
(実施例12〜14、比較例11〜12)。
実施例12
試料Eの95質量部に対して、B−1aを5質量部の割合で加え、加熱しながら均一に溶解するまで撹拌した後、室温まで冷却して試験液を得た。続けて、得られた試験液の流動点を上記と同様の測定方法により測定した。結果を表9に示す。
【0097】
実施例13
実施例12において、試料Eに替えて試料Fを使用した以外は、実施例12と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表9に示す。
【0098】
実施例14
実施例13において、B−1aに替えてB−1bを使用した以外は、実施例13と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表9に示す。
【0099】
比較例11
実施例12において、B−1aに替えてB−4を使用した以外は、実施例12と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表9に示す。
【0100】
比較例12
実施例13において、添加剤B−1aに替えてB−4を使用した以外は、実施例13と同様にして試験液を調製し、流動点を測定した。結果を表9に示す。
【0101】
【表9】

【0102】
表9の結果から、B−1aを用いた実施例12は、B−4を用いた比較例11に比べて流動点が低い(前記温度差が大きい)ことが確認された。
同様に、実施例13は比較例12に比べて、流動点が低い(前記温度差が大きい)ことが確認された。
また、B−1bを用いた実施例14も、流動点が低い(前記温度差が大きい)ことが確認された。
したがって、(A)成分としてパーム核油を使用して製造される脂肪酸アルキルエステルを含有する実施例12〜14は、パーム油を使用して製造される脂肪酸アルキルエステルを含有する実施例1〜8と同様、流動点が低い(前記温度差が大きい)ことが確認できた。
【0103】
以上、表4〜9に示した結果より、本発明に係る実施例1〜14の脂肪酸アルキルエステル組成物は、低い流動点に調整できることから、低温流動性に優れ、特に寒冷地や冬場における使用に適していることが確認できた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記(A)成分と下記(B)成分とを含有し、かつ当該(B)成分の含有量が、(A)成分と(B)成分との合計含有量に対し、3〜10質量%の範囲内であることを特徴とする脂肪酸アルキルエステル組成物。
(A)ヨウ素価が60〜120である脂肪酸アルキルエステル、
(B)HLBが1〜9である多価アルコール脂肪酸エステル。
【請求項2】
前記(B)成分が、ショ糖脂肪酸エステルおよびポリグリセリン脂肪酸エステルから選ばれる1種以上からなる請求項1記載の脂肪酸アルキルエステル組成物。
【請求項3】
前記(A)成分が、パーム油またはパーム核油を使用して製造される脂肪酸アルキルエステルを含む請求項1または2に記載の脂肪酸アルキルエステル組成物。
【請求項4】
前記(A)成分が、パーム油またはパーム核油を使用して製造される脂肪酸アルキルエステルと、ヨウ素価が110以上である脂肪酸アルキルエステルとの混合物からなる請求項3記載の脂肪酸アルキルエステル組成物。
【請求項5】
前記(A)成分中の炭素数16以下の脂肪酸部を有する脂肪酸アルキルエステルの割合が30質量%以下である請求項1〜4のいずれかに記載の脂肪酸アルキルエステル組成物。

【公開番号】特開2008−143939(P2008−143939A)
【公開日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−329499(P2006−329499)
【出願日】平成18年12月6日(2006.12.6)
【出願人】(000006769)ライオン株式会社 (1,816)
【Fターム(参考)】