説明

脂質代謝改善剤およびこれを含む飲食品、飼料

【課題】天然素材であって、しかも上記食物繊維と比類し得る生理活性を有する素材を探索し、新規な機能性食品の原料として提供する。
【解決手段】リン含量が760ppm以上である馬鈴薯澱粉および/または当該澱粉を含有する澱粉粕を主成分として含有する脂質代謝改善剤。血中中性脂肪および/または血清遊離脂肪酸の低減効果を有する。上記脂質代謝改善剤を含有する飲食品および飼料。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高リン含量の馬鈴薯澱粉および/または当該澱粉を含有する澱粉粕を主成分として含有する脂質代謝改善剤およびこれを含む飲食品、飼料に関し、特に、血中中性脂肪および/または血清遊離脂肪酸の低減効果を有する脂質代謝改善剤およびこれを含む飲食品、飼料に関する。
【背景技術】
【0002】
食物繊維の摂取不足は、便秘、糖尿病、高脂血症、高血圧、肥満、大腸ガンなどの生活習慣病を引き起こす原因と考えられている。例えば、食物繊維の摂取不足は、糞便容量の低下を招き、排便回数の低下と糞便の消化管内通過時間の延長を来たし、それが基因して腸粘膜と発がん性物質との接触時間が長くなり発がんの危険性が増大すると考えられている。食物繊維の摂取不足は、食の欧米化にともない、食物繊維を多く含む野菜や穀物の摂取量の減少に起因しており、特に、若年齢層程、その傾向が強い。
【0003】
そこで、食物繊維素材を多く含む健康食品が数多く登場している。例えば、難消化性澱粉は、結腸直腸消化管の疾患の予防または治療に有効であることが知られるようになり、種々の食品に添加する方法が提案されている。
【0004】
食物繊維やオリゴ糖のような難消化性の物質は、消化管内で種々の挙動を示し、生体に対して生理効果を発現する。例えば、上部消化管において、水溶性の食物繊維は食物の移動速度の低下をもたらし、栄養素の吸収遅延が起こる。糖の吸収遅延は、血糖値の上昇を抑制し、それに伴いインシュリン節約などの効果を発現する。また、胆汁酸の排泄を促進することにより、体内のステロールグループが減少し、血清中のコレステロールが低下するなどの効果も現れる。また、これらの難消化性物質は、小腸までの消化吸収を免れ、大腸へ達する。大腸へ達したオリゴ糖や食物繊維の一部は、腸内細菌により資化されて短鎖脂肪酸、腸ガス、ビタミンなどを産生する。短鎖脂肪酸による腸内環境の酸性化は、整腸作用をもたらし、また吸収された短鎖脂肪酸は代謝されエネルギーになると同時にコレステロール合成を阻害することも報告されている。
【0005】
食物繊維には、不溶性食物繊維と水溶性食物繊維とがあり、水溶性食物繊維としてはグアーガム、グルコマンナン、ペクチンなどの天然ガム類があげられるが、いずれも高粘性であり、単独で多量に摂取するには困難がある。また、加工食品へ添加するには食品製造上に問題が生じテクスチャー面でも困難な点が多い。
【0006】
馬鈴薯澱粉に酸を添加して加熱処理した後にα−アミラーゼ及びグルコアミラーゼで加水分解して得られる難消化性デキストリンは、食物繊維を含有し、低カロリーであるため種々の健康食品に利用されている。この難消化性デキストリンも水溶性食物繊維に分類される。
【0007】
澱粉は、食品原料として大量に生産されているため、安価に入手が可能であり、澱粉および澱粉関連物質には種々の生理活性があることも知られている。
【0008】
例えば、特表2002−503959(特許文献1)にはα−アミラーゼ消化に対して高い耐性を有し、食物繊維源としてパンまたはクラッカーなどの製品中の低カロリー食品添加物として有用な、化学的に変性されたRS4デンプンが開示されている。
【0009】
また、特開平10−279487(特許文献2)には、アミロース含量が30重量%以上の澱粉及び/又はその誘導体を湿熱処理することにより得られた食物繊維含有澱粉素材を有効成分とし、血漿中性脂肪の低下作用及び脂肪酸合成系酵素活性の低下作用を有することを特徴とする脂質代謝改善剤が開示されている。
【0010】
特開平11−158197(特許文献3)には、α−1、4結合のみで構成され、重合度が2から10、望ましくは3から5で1 個以上のグルコース残基の3位にリン酸基が結合しているリン酸化糖、およびこのリン酸化糖を含有する食品、飲料等が開示されている。
【0011】
さらに、特開平8−104696(特許文献4)には、分子内に少なくとも1個のリン酸基を有するリン酸化された糖であって、該糖が、グルカン、マンナン、デキストラン、寒天、シクロデキストリン、フコイダン、ジェランガム、ローカストビーンガム、グアーガム、タマリンドガム、およびキサンタンガムからなる群から選択される糖である、リン酸化糖およびこのリン酸化糖を含む、肥料、飼料、食品、飲料等が開示されている。
【特許文献1】特表2002−503959号公報
【特許文献2】特開平10−279487号公報
【特許文献3】特開平11−158197号公報
【特許文献4】特開平8−104696号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
上記のように、澱粉を原料とする種々の物質が、生理活性との関連を含めて提案されている。しかるに、いずれの物質も、澱粉に加工、特に化学的な処理を施したものである。これら加工にはコストがかかり、かついずれも化学的な処理を施した人工的な物質である。したがって、コスト等の点で、改善の余地がある。
【0013】
そこで、本発明は、安心感のある天然素材であって、しかも上記食物繊維と比類し得る生理活性を有する素材を探索し、新規な機能性食品の原料として提供することを目的とする。さらに本発明は、この素材を用いた飲食品および飼料を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは、食品および食品原料として大量に生産されている馬鈴薯に注目し、馬鈴薯の品種と馬鈴薯澱粉の生理活性との関連について多角的に解析した。その結果、リン含量が一定以上に高い澱粉では、血中中性脂肪および血清遊離脂肪酸の低減効果が高いことを見いだして、本発明を完成した。
【0015】
本発明は以下の通りである。
[1]リン含量が760ppm以上である馬鈴薯澱粉および/または当該澱粉を含有する澱粉粕を主成分として含有する脂質代謝改善剤。
[2]血中中性脂肪および/または血清遊離脂肪酸の低減効果を有する[1]に記載の脂質代謝改善剤。
[3]前記澱粉は、α化された澱粉である[1]または[2]に記載の脂質代謝改善剤。
[4]前記馬鈴薯の品種は、とうや、ホッカイコガネ、ワセシロ、エニワ、キタアカリ、さやか、アーリースターチ、男爵薯、コナフブキ、トヨシロ、インカパープル、インカレッド、インカのめざめ、北海91号、北海92号およびキタムラサキから成る群から選ばれる少なくとも1種である[1]〜[3]のいずれか1項に記載の脂質代謝改善剤。
[5]前記澱粉は、平均粒子径が30μm以下である分級澱粉である[1]〜[4]のいずれかに記載の脂質代謝改善剤。
[6][1]〜[5]のいずれかに記載の脂質代謝改善剤を含有する飲食品。
[7][1]〜[5]のいずれかに記載の脂質代謝改善剤を含有する飼料。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、血中中性脂肪および/または血清遊離脂肪酸の低減効果が高い脂質代謝改善剤を提供することができる。本発明の脂質代謝改善剤は、天然素材である澱粉を使用し、あるいはそれを単に加熱して得たα化澱粉を使用しており、比較的簡易な方法で調製でき、かつ安全性に対する安心感も高い。α化高リン澱粉は、盲腸重量および盲腸内短鎖脂肪酸の増加がないことから、消化吸収されエネルギー源として利用される脂質であるが、未消化成分からなる食物繊維と同様の脂肪代謝改善効果を有する。また、消化吸収されることから、摂り過ぎで下痢を起こしたり、ミネラル等の栄養素が排出される等の問題もないことが予想されるとともに、安価な糖質であり、多くの飲食品等への利用ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
本発明の脂質代謝改善剤は、リン含量が760ppm以上である馬鈴薯澱粉および/または当該澱粉を含有する澱粉粕を主成分として含有する。上述のように、本発明者らは、一定以上に高いリン含量を有する馬鈴薯澱粉が、血中中性脂肪および血清遊離脂肪酸の低減効果に優れることを見いだした。具体的には、リン含量が760ppm以上の馬鈴薯澱粉および/または当該澱粉を含有する澱粉粕において、血中中性脂肪および血清遊離脂肪酸が低減することから、リン含量を760ppm以上とする。リン含量は、高いほど、血中中性脂肪および/または血清遊離脂肪酸の低減効果に優れることから、860ppm以上であることが好ましい。
【0018】
本発明において、馬鈴薯澱粉中のリン含量は、次の手順に従い、澱粉を湿式灰化した後、リン・バナド・モリブデン酸法により測定することができる(生化学実験法第19巻、澱粉・関連糖質実験法、32頁、1986年、学会出版センター)。
【0019】
澱粉試料0.2gに硝酸2.0ml加えて弱火で加熱すると、まず濃暗褐色の煙が出てくる。 煙が薄くなれば加熱をやめ、放冷して、60%過塩素酸1.5ml、硝酸1.5mlを加える。再び加熱し、白煙が生じれば加熱をやめ、放冷する。なお、白煙が生じる前に分解液が乾固すれば爆発の危険があるので、注意を要する。分解液が不足したら、60%過塩素酸1.5ml、硝酸1.5mlを追加して、再び加熱し、白煙が生じるまで行う。灰化した無色透明の液はリン酸の一部がピロリン酸になっているので、灰化液に蒸留水を3.0ml加えて沸騰するまで加熱し、ピロリン酸を正リン酸にする。放冷後、10mlに定容し、リン含量測定用の試料とする。
【0020】
灰化液中のリン含量は、リン・バナド・モリブデン酸法で求める。すなわち、リン含量測定用の試料(リンを5-25μg/ml含む灰化液)1.0mlに、蒸留水1.5ml、60%過塩素酸0.25ml、0.02Mバナジン酸アンモニウム溶液0.75ml、3.53%モリブデン酸アンモニウム溶液1.5mlこの順序で十分攪拌しながら加える。室温で、30分放置後、420nmの吸光度を測定する。なお、リン標準溶液として、リン酸二水素カリウム溶液を用いる。
【0021】
馬鈴薯の澱粉は、他の原料由来の澱粉に比べて、リン含量が高い。例えば、代表的な澱粉であるコーンスターチのリン含量は、後述するように140ppm前後と非常に少ない。馬鈴薯澱粉には、リンが、アミロペクチン中のグルコース残基の3位と6位にエステル結合したリン酸基として存在し、馬鈴薯澱粉には、このリン酸基が他のいも類の澱粉に比べても多い。さらに、馬鈴薯澱粉は、馬鈴薯の品種によって、そのリン含量が異なり、低リン含量の澱粉を含有する品種と高リン含量の澱粉を含有する品種とに大きく分類できる。本発明では、高リン含量の澱粉を含有する品種であってリン含量が760ppm以上である澱粉を含有する品種の馬鈴薯澱粉を用いる。リン含量が760ppm以上である品種としては、例えば、とうや、ホッカイコガネ、ワセシロ、エニワ、キタアカリ、さやか、アーリースターチ、男爵薯、コナフブキ、トヨシロ、インカパープル、インカレッド、インカのめざめ、北海91号、北海92号およびキタムラサキ等を挙げることができる。特に、とうや、ホッカイコガネ、ワセシロ、エニワ、キタアカリ、さやか、インカパープル、インカレッド、インカのめざめ、北海91号、北海92号およびキタムラサキは、澱粉のリン含量が860ppm以上であり、好ましい。
【0022】
本発明の脂質代謝改善剤は、特に、血中中性脂肪に対する低減効果に優れる。一般に、食事からの中性脂肪は腸から肝臓に輸送される。また過剰に摂り過ぎた炭水化物も肝臓で中性脂肪に合成される。肝臓から血液中に放出された中性脂肪(血中中性脂肪)は全身に運ばれ、脂肪酸に分解されて主に心臓や心血管系の筋肉のエネルギーとして使用される。余剰のものは皮下や腸間膜の脂肪細胞に備蓄し、エネルギーが不足するとその備蓄した中性脂肪が動員される。馬鈴薯澱粉、とくに高リン澱粉を主成分とする本発明の脂質代謝改善剤が血中中性脂肪を低減するメカニズムとして、例えば、次の2点が考えられる。但し、これらのメカニズムは、本発明者らの推察であり、これらのメカニズムに拘泥するものではない。
【0023】
1)炭水化物源として高リン澱粉は、アミラーゼによる分解が遅く、さらにその物性による胃からの排出速度の遅延などによって、分解した糖はゆっくり吸収され、そのため、血糖値の上昇も抑制され、肝臓での糖から脂肪への転換合成が抑制され、血中中性脂肪が低下すると推察される。
2)α化馬鈴薯高リン澱粉を摂取後アミラーゼによる消化を免れた(消化できなかった)オリゴ糖(リン酸化オリゴ糖)、一部老化した澱粉やレジスタントスターチによる食物繊維様生理作用(胆汁酸排泄促進、消化管下部での発酵による短鎖脂肪酸の生成)によって肝臓内脂質合成が抑えられ、血中に放出される中性脂肪が低下すると推察される。
【0024】
なお、実施例に示すように、高リン澱粉摂取により血中中性脂肪は低下したが、盲腸内短鎖脂肪酸は、対照区と差がない結果が得られ、また、血中および肝臓内総コレステロールにも差異がない結果が得られた。これらのことから、高リン澱粉はレジスタントスターチや食物繊維と異なったメカニズムで脂質代謝改善が行われていると推察される。
【0025】
また、本発明の脂質代謝改善剤は、特に、血清遊離脂肪酸に対する低減効果に優れる。これは、高リン澱粉を摂取したラットの肝臓中の中性脂肪量が低下したという結果が得られていることから、肝臓中の中性脂肪量が低下することで、血中の中性脂肪と遊離脂肪酸濃度が低下するのではないか、と推察される。
【0026】
馬鈴薯澱粉は、常法によりリン含量が760ppm以上である澱粉を含有する馬鈴薯から製造されたものであることができる。また、澱粉粕は、馬鈴薯澱粉製造時に生じるもので、残存澱粉や食物繊維性の糖質が多く含まれる。澱粉粕は、乾物重量(水分を除いたもの)の約30〜60重量%(平均は約50%)が澱粉である。本発明の脂質代謝改善剤に含まれる澱粉粕は、高リン含量(リン含量が760ppm以上)である澱粉の製造過程で得られるもので、高リン含量(リン含量が760ppm以上)の澱粉を含む澱粉粕である。
【0027】
さらに、本発明において、馬鈴薯澱粉は、飲食品用等、ヒトが摂取する場合には、α化された澱粉であることが好ましい。ここでα化された澱粉とは、α化澱粉でもよく、あるいはα化された後老化した澱粉であってもよい。馬鈴薯澱粉は粒径が大きいため、消化性が悪く、生の状態で消費される場合がほとんどなく、一般的には、高水分条件で加熱処理したα化状態で消費される。なお、α化した場合でも、エステル結合したリン酸基の箇所は保持されているので、遅消化性の利点は有しており、血中中性脂肪および/または血清遊離脂肪酸の低減効果を発揮できる。また、本発明の脂質代謝改善剤をヒト以外の動物に投与する場合には、動物は生の澱粉を消化することができ、一般的に生澱粉を飼料として与えることが多いので生澱粉であってもよく、α化された澱粉であっても構わない。
【0028】
α化の程度としては、α化度が70〜100%であることが好ましいが、これに限定されるものではない。α化度の測定は、グルコアミラーゼ法により行う。グルコアミラーゼ法は、生澱粉とα化澱粉の識別に非常に優れている。グルコアミラーゼの測定方法は、例えば、「食品分析法」(第3版)日本食品工業学会、食品分析法編集委員会 編纂、株式会社光琳 P646〜P649
に記載されている。
【0029】
また、澱粉粕は、上記α化された澱粉を含有するものであることが好ましい。この場合も前述の澱粉の場合と同様に、飲食品用等、ヒトが摂取する場合には、α化された澱粉であることが好ましい。また、本発明の脂質代謝改善剤をヒト以外の動物に投与する場合には、動物は生の澱粉を消化することができ、一般的に生澱粉を飼料として与えることが多いので、澱粉粕に含まれる澱粉は生澱粉であってもよく、α化された澱粉であっても構わない。α化された澱粉を含有する澱粉粕は、澱粉をα化する場合と同様に加熱処理することで得られる。
【0030】
馬鈴薯澱粉について、粒径で分画した粒子径の異なる澱粉には、リン含量に差異があることが知られている。一般的傾向として粒子径が大きいほどリン含量は低く、粒子径が小さいほどリン含量は高い。本発明では、リン含量が高いほど、血中中性脂肪および/または血清遊離脂肪酸の低減効果は高いことから、澱粉として粒子径が小さいものを用いることが好ましい。例えば、分級澱粉は、平均粒子径が30μm以下であることが好ましく、平均粒子径が20μm以下である分級澱粉であることがより好ましい。尚、分級澱粉は、α化する前の澱粉であり、平均粒子径は、α化する前の澱粉についてのものである。
【0031】
尚、平均粒子径が30μm以下、好ましくは20μm以下である分級澱粉を用いると、原料馬鈴薯澱粉がリン含量760ppm未満であっても、リン含量を760ppm以上にできる場合があり、本発明における「リン含量が760ppm以上の馬鈴薯澱粉」には、分級によってリン含量が760ppm以上になった分級馬鈴薯澱粉も含まれる。
【0032】
本発明の脂質代謝改善剤は、澱粉および/または澱粉粕を主成分として含有し、澱粉および/または澱粉粕以外の成分を含有することができる。例えば、タブレット化する場合には、結晶セルロースやソルビット、乳糖等の賦形剤、脂肪酸エステル等の滑沢剤、寒天、ゼラチンや塩類、油脂、コーンスターチ等の上記澱粉以外の澱粉等の結合剤等を適宜混合して適当な形状等に成形することもできる。
【0033】
本発明は、上記本発明の脂質代謝改善剤を含有する飲食品を包含する。ここで飲食品としては、澱粉および/または澱粉粕にして、数十グラムを毎日無理なく摂取できるという観点から、例えば、「主食系(麺類、パン、ごはん:α化澱粉加工品など)、スナック類、デザート類、飲料、スープ、調味料類などを挙げることができる。より具体的には、例えば、パン、米様食材(造粒米)等の主食類、春雨、うどん、にゅうめん、そうめん、ビーフン、中華麺、パスタ、マカロニ、冷麺、そば、α化麺、ワンタン、餃子・シュウマイの皮等の麺類、米菓、海老せんべい、成形ポテトチップス等のスナック類、葛きり、もち、黒蜜、くず湯等のデザート類、ハム、ソーセージ、ウインナー、かまぼこ、ちくわ、なると、はんぺん等の練り製品、タレ、ドレッシング等の調味料類、タブレット化した健康食品等を挙げることができる。但し、飲食品は、これらに限定されるものではなく、また、継続的に喫食するようなものであることが好ましい。
【0034】
また、これら食品における脂質代謝改善剤の含有量は、食品の種類や目的等を考慮して適宜決定できるが、例えば、5〜95質量%の範囲とすることができる。
【0035】
本発明の脂質代謝改善剤は、澱粉として、成人の場合、一日当たり、10〜300g、好ましくは50〜300gの脂質代謝改善剤を摂取することが、良好な血中中性脂肪および/または血清遊離脂肪酸の低減効果を得るという観点から適当である。本発明の脂質代謝改善剤が澱粉粕を含むものである場合、その摂取量は、澱粉粕に含まれる澱粉の量として、上記範囲とすることが適当である。
【0036】
また、本発明は、上記本発明の脂質代謝改善剤を含有する飼料を包含する。ここで飼料としては、家畜用、家禽用あるいは養魚用の飼料、ペットフード等を例示することができる。また、これら飼料における脂質代謝改善剤の含有量は、飼料の種類や目的等を考慮して適宜決定できるが、例えば、5〜50質量%、好ましくは5〜30質量%の範囲とすることができる。
【0037】
本発明の脂質代謝改善剤は、動物の種類によって異なるが、澱粉として、体重1kg当たり、一日当たり、4〜40g、好ましくは4〜24gの脂質代謝改善剤を摂取することが、良好な血中中性脂肪および/または血清遊離脂肪酸の低減効果を得るという観点から適当である。本発明の脂質代謝改善剤が澱粉粕を含むものである場合、その摂取量は、澱粉粕に含まれる澱粉の量として、上記範囲とすることが適当である。
【実施例】
【0038】
実施例1
[馬鈴薯高リン澱粉]
α化馬鈴薯澱粉(高リン含有)の血中中性脂肪および血清遊離脂肪酸の低減効果について試験した。
【0039】
a.投与サンプル:
(1)コントロール(α化コーンスターチ)
(2)高リン澱粉:ホッカイコガネ使用
(3)低リン澱粉:紅丸使用
※(1):ドラムドライヤー(ドラム表面温度140℃程度)で乾燥・粉砕したα化澱粉。
※(2)(3):馬鈴薯澱粉工場から品種別の澱粉を採取し、ドラムドライヤー(ドラム表面温度140℃)で乾燥・粉砕したα化澱粉。
【0040】
b.飼育方法:
7週齢Sprague-Dawley(SD)系ラット雄18匹に1週間市販の粉末飼料を与えて馴化を行い、各投与群で体重に有意差がないように3つに群分けを行った。その後、下記組成の飼料を自由摂食、自由摂水により5週間投与した。ラットは個別に飼育し、室温を23±1℃、湿度50±5%,明暗周期を12時間とした。
【0041】
※飼料組成 %
カゼイン 25
コーンオイル 5
ミネラル類(AIN-93G) 3.5
ビタミン類(AIN-93G) 1
塩化コリン 0.25
セルロース 5
シュークロース 30.25
(コーンスターチ/高リン澱粉/低リン澱粉)
α化ホッカイコガネ澱粉 0 / 30 / 0
α化紅丸澱粉 0 / 0 / 30
α化コーンスターチ 30 / 0 / 0
【0042】
高リン澱粉(ホッカイコガネ)のリン含量は、874ppm、低リン澱粉(紅丸)のリン含量は、644ppmであった。コーンスターチのリン含量は、137ppmであった。
【0043】
c.分析方法:
血清は尾の静脈から採血。中性脂肪は酵素法(第一化学薬品のオート S TG-Nキット)により分析した。遊離脂肪酸は酵素法でACS(アシル-CoAシンセターゼ)・ACOD(アシル-CoAオキシダーゼ)法により分析した。結果を図1に示す。
【0044】
実施例2
[馬鈴薯澱粉粕]
馬鈴薯澱粉粕(高リン含有のα化澱粉含有)の血中中性脂肪および血清遊離脂肪酸の低減効果について試験した。
【0045】
a.投与サンプル:
(1)コントロール(α化コーンスターチ)
(2)高リン澱粉粕:ホッカイコガネ使用、α化澱粉含有
(3)低リン澱粉粕:紅丸使用、α化澱粉含有
※(1):ドラムドライヤー(ドラム表面温度140℃程度)で乾燥・粉砕したもの。
※(2)(3):馬鈴薯澱粉工場から品種別の澱粉粕を採取し、ドラムドライヤー(ドラム表面温度140℃)で乾燥・粉砕したもので澱粉粕中の澱粉はα化されている。α化高リン澱粉粕(ホッカイコガネ)の澱粉量は約49%であり、α化低リン澱粉粕(紅丸)の澱粉量は約43%である。
尚、以下、α化澱粉を含有する澱粉粕をα化澱粉粕ということがある。
【0046】
b.飼育方法:
7週齢Fisher344ラット雄15匹に1週間市販の粉末飼料を与えて馴化を行い、各投与群で体重に有意差がないように3つに群分けを行った。その後、下記組成の飼料を与え1日1回4週間経口投与した。ラットは個別に飼育し、室温を23±1℃、湿度60±5%,明暗周期を12時間とした。
【0047】
※飼料組成
AIN-93G文献配合 %
カゼイン 20
L-シスチン 0.3
大豆油 7
ミネラル類(AIN-93G) 3.5
ビタミン類(AIN-93G) 1
重酒石酸コリン 0.25
第3ブチルヒドロキノン 0.0014
セルロースパウダー 5
シュークロース 10
【0048】
(コーンスターチ/高リン澱粉粕/低リン澱粉粕)
ホッカイコガネ澱粉粕(α化澱粉含有) 0 / 15 / 0
紅丸澱粉粕(α化澱粉含有) 0 / 0 / 15
α化コーンスターチ 52.95 / 37.95 / 37.95
【0049】
高リン澱粉粕(ホッカイコガネ)の澱粉中のリン含量は、874ppm、低リン澱粉粕(紅丸)の澱粉中のリン含量は、644ppmであった。
【0050】
c.分析方法:
血清は頚静脈から採血。中性脂肪は酵素法(第一化学薬品のクリニメイトTG-2試薬キット)により分析。遊離脂肪酸は酵素法でACS(アシル-CoAシンセターゼ)・ACOD(アシル-CoAオキシダーゼ)法により分析した。結果を図2に示す。
【0051】
澱粉粕摂取によって脂肪代謝を制御するSREBP-1c(ステロール制御エレメント結合タンパク質-1c)のmRNA発現を低下させることにより脂肪酸合成酵素(FAS)のmRNA が低下して中性脂肪を低下させていると推定される。
【0052】
参考例
[オカラ・アズキ餡粕]
参考として、オカラ・アズキ餡粕の血中中性脂肪および血清遊離脂肪酸の低減効果について試験した。
【0053】
a.投与サンプル:
(1)コントロール(α化コーンスターチ)
(2)オカラ:豆乳の絞りかす
(3)アズキ餡粕:こしあん作成時に出るアズキの皮の部分
※オカラ :豆を浸漬後100℃数分加熱して絞る
※アズキ餡粕:小豆に水を加え90分ほど煮込んでから製餡機により粕を分離
※(2)(3):100g当たり5mlの市販穀物酢を添加(細菌等の混入、増殖防止のため)。
【0054】
b.飼育方法:
8週齢Fisher344ラット雄15匹に1週間市販の粉末飼料を与えて馴化を行い、各投与群で体重に有意差がないように3つに群分けを行った。その後、下記組成の飼料を与え1日1回4週間経口投与をした。ラットは個別に飼育し、室温を23±1℃、湿度60±5%,明暗周期を12時間とした。
【0055】
※飼料組成
AIN-93G文献配合 %
カゼイン 20
L-シスチン 0.3
大豆油 5
ミネラル類(AIN-93G) 3.5
ビタミン類(AIN-93G) 1
重酒石酸コリン 0.25
第3ブチルヒドロキノン 0.0014
シュークロース 10
(コーンスターチ/ オカラ / アズキ餡粕)
オカラ 0 / 10 / 0
アズキ餡粕 0 / 0 / 10
α化コーンスターチ 59.9486 / 49.9486 / 49.9486
【0056】
c.分析方法:
血清は毎週頚静脈から採血。中性脂肪は酵素法(第一化学薬品のクリニメイトTG-2試薬キット)により分析した。結果を図3に示す。
【0057】
実施例3
高リン含有のα化馬鈴薯澱粉および澱粉粕(高リン含有のα化澱粉含有)の盲腸重量に対する影響を試験した。上記α化馬鈴薯澱粉および澱粉粕は、他の繊維素材と異なり消化されることを示す。(消化されない成分(繊維)があると盲腸の活動が活発になり、盲腸が肥大する。)
【0058】
試験方法
実施例1(α化馬鈴薯澱粉)、実施例2(澱粉粕)の方法で飼育したラットの体重を測定し、かつ解剖して盲腸重量を測定した。
【0059】
【表1】

【0060】
【表2】

【0061】
上記表1および2に示す結果は、高リン澱粉および澱粉粕を摂取しても盲腸重量の増加はほとんど見られないことを示す。
【0062】
実施例4
α化馬鈴薯澱粉および澱粉粕(高リン含有α化澱粉含有)の盲腸内短鎖脂肪酸に対する影響を試験した。上記α化馬鈴薯澱粉および澱粉粕は、他の繊維素材と異なり消化されることを示す。(小腸で消化されない繊維などがラットの盲腸で発酵されて、短鎖脂肪酸が増加する。)
【0063】
試験方法
実施例1(α化馬鈴薯澱粉)、実施例2(澱粉粕)の方法で飼育したラットを解剖して盲腸内容物を測定した。
【0064】
α化澱粉の場合:
盲腸内容物0.75 gを精秤し、蒸留水3.75 mlを加え、ポッター型ホモジナイザーを用いて氷冷下でホモジナイズした。得られたホモジネートの一部を遠心分離(15,000 rpm, 10 min, 4℃)した。遠心分離後に得られた上清0.45 mlに50 mM NaOH溶液50μlを加え、短鎖脂肪酸および有機酸をナトリウム塩にした。さらにクロロホルム500μlを加え激しく振盪混合した後、遠心分離(15,000 rpm, 10 min, 4℃)した。得られた上清を短鎖脂肪酸および有機酸の測定まで-40℃で保存した。凍結上清を解凍した後、フィルター(0.2μm)を通し、液体クロマトグラフィーにより短鎖脂肪酸および有機酸濃度を測定した。測定条件は以下のとおりである。
【0065】
カラム:Shim-pack SCR-102H (8 mm×300 mm)
ガードカラム:Shim-pack SCR-102H (6 mm×50 mm)
移動相:5 mM p-トルエンスルホン酸
流速:0.8 ml/min
カラムオーブン温度:45℃
反応相:5 mM p-トルエンスルホン酸(含100 mM EDTA, 20 mM Bis-Tris)
流速:0.8 ml/min
検出器:電気伝導度検出器(Shimadzu CDD-6A)
検出器温度:48℃
【0066】
澱粉粕(α化澱粉含有)の場合:
盲腸内容物は摘出した盲腸からをピンセットでコニカルチューブに搾り出して盲腸内容物の重量を測定した後、攪拌しながらpHを測定した。次に、盲腸内容物を滅菌超純水で5mlにメスアップし混合した後,混合液1.5mlを遠心チューブに移し、4℃、10,000rpmで10分間遠心分離した。上澄み1mを他の遠心チューブに移し、冷70% HClO4 50μlを加えて混合した後4℃、10,000rpm、10分間遠心分離することでタンパク質を沈殿させた。さらに、この上澄み500μlを別のチューブに移し、4N NaOH 100μlを加えて混合し4℃、10,000rpmで10分間遠心分離した。 上澄み100μlを別のチューブに移し、3N H3PO4 100μlを加えて混合した。この2μlをガスクロマトグラフィーに供して,短鎖脂肪酸を定量した。
【0067】
【表3】

【0068】
【表4】

【0069】
表3に示す結果から、高リン澱粉を摂取しても短鎖脂肪酸の増加は見られない。但し、表4に示す結果から、高リン澱粉粕を摂取すると短鎖脂肪酸の増加が見られた(盲腸重量の増加はない)。澱粉粕には澱粉以外に繊維成分が含まれているためと考えられる。
【0070】
実施例5
α化馬鈴薯澱粉および澱粉粕(高リン含有のα化澱粉含有)の血清コレステロールと中性脂肪に対する影響を試験した。上記α化馬鈴薯澱粉および澱粉粕は、コレステロールを下げずに中性脂肪を下げる特性を有することを示す。
【0071】
試験方法
澱粉を用いた場合のコレステロールの測定方法:
血清脂質分析(総コレステロールおよびHDLコレステロール濃度)
総コレステロール(T-CHOL)濃度は酵素法(ピュアオートS CHO-N試薬)を、高密度リポタンパクコレステロール(HDL-CHOL)濃度の測定は直接法(コレステストN HDL)を用いて比色法により測定を行った。いずれも自動分析装置で測定した。
【0072】
澱粉粕を用いた場合のコレステロールの測定方法:
血清脂質分析
総コレステロール(T-CHOL)、高密度リポタンパクコレステロール(HDL-CHOL)濃度はコレステロールオキシダーゼ・DAOD法により測定を行った。T-CHOL濃度とHDL-CHOL濃度の差を超低密度リポタンパクコレステロール+中密度リポタンパクコレステロール+低密度リポタンパクコレステロール(VLDL+IDL+LDL-CHOL)濃度とした。
【0073】
澱粉を用いた場合の中性脂肪の測定方法:
実施例1と同じ方法で測定した。
澱粉粕を用いた場合の中性脂肪の測定方法:
実施例2と同じ方法で測定した。
【0074】
【表5】

【0075】
【表6】

【0076】
表5および6に示す結果から、α化高リン澱粉およびα化高リン澱粉を含む澱粉粕は、中性脂肪は下げるが、総コレステロールはほとんど下げないことが分かる。血中コレステロール値が高いと狭心症や心筋梗塞に対する危険率は上がるが、それ以外の場合、コレステロール量が下がるとがん死を含む死亡率はかえって高いことが近年報告されている。総コレステロールはほとんど下げずに、中性脂肪を低下させる本発明の脂質代謝改善剤は、この点で特に有用である。
【産業上の利用可能性】
【0077】
本発明は、健康食品等の飲食品や飼料の製造産業等において有用である。
【図面の簡単な説明】
【0078】
【図1】実施例1の実験結果。
【図2】実施例2の実験結果。
【図3】参考例の実験結果。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
リン含量が760ppm以上である馬鈴薯澱粉および/または当該澱粉を含有する澱粉粕を主成分として含有する脂質代謝改善剤。
【請求項2】
血中中性脂肪および/または血清遊離脂肪酸の低減効果を有する請求項1に記載の脂質代謝改善剤。
【請求項3】
前記澱粉は、α化された澱粉である請求項1または2に記載の脂質代謝改善剤。
【請求項4】
前記馬鈴薯の品種は、とうや、ホッカイコガネ、ワセシロ、エニワ、キタアカリ、さやか、アーリースターチ、男爵薯、コナフブキ、トヨシロ、インカパープル、インカレッド、インカのめざめ、北海91号、北海92号およびキタムラサキから成る群から選ばれる少なくとも1種である請求項1〜3のいずれか1項に記載の脂質代謝改善剤。
【請求項5】
前記澱粉は、平均粒子径が30μm以下である分級澱粉である請求項1〜4のいずれか1項に記載の脂質代謝改善剤。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の脂質代謝改善剤を含有する飲食品。
【請求項7】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の脂質代謝改善剤を含有する飼料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−1925(P2007−1925A)
【公開日】平成19年1月11日(2007.1.11)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−183735(P2005−183735)
【出願日】平成17年6月23日(2005.6.23)
【出願人】(501203344)独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構 (827)
【出願人】(504300088)国立大学法人帯広畜産大学 (96)
【出願人】(000111487)ハウス食品株式会社 (262)
【Fターム(参考)】