説明

脈管内人工補綴物

【課題】予防または緩和する新規の脈管内人工補綴物を提供する。
【解決手段】人工補綴物は、管状壁を含む、その管状壁は、第1の縦の長さと第2の縦の長さとの間を移動可能であり、および身体通路における人工補綴物の移植に際して放射状に拡張可能である。一態様において、前記管状壁は、アコーディオン様の作用によって可変可能な縦の長さを有する。他の態様において、前記管状壁は、テレスコープ様の作用によって可変可能な縦の長さを有する。前記管状壁の縦の長さは、脈管内人工補綴物の留置を最適化するために変更される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明の一側面において、本発明は、脈管内人工補綴物に関する。本発明の別の側面において、本発明は、患者の大動脈疾患状態を処理する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ステントは、一般的に知られている。実際には、「ステント」という用語は、「管内脈管グラフト(intraluminal vascular graft)」および「拡張式人工補綴物(expandable prosthesis)」などの用語と互いに交換可能な用語として使用されている。本明細書の全体に渡り使用されているように「ステント」という用語は、広い意味で使用され、身体通路〔例えば、管腔(lumen)または 動脈(artery)〕の移植のための任意の伸展式の人工補填装置を含む。
【0003】
過去10年でステントの使用は、あるケースにおいては外科手術の代替として使用され、これらの装置の可能性から多くの注目を集めている。一般的に、ステントは、前記通路の完全性(integrity)を維持している間に、身体通路の開通性(patency)を達成し、且つ維持するために使用される。本明細書中に使用されているように「身体通路」という用語は、広い意味で使用され、人体中の任意の管(例えば、 天然または医原性)を含み、且つ、血管、呼吸器管(respiratory ducts)、胃腸管(gastrointestinal ducts)等を含む群から選択されるメンバーを含む用語である。
【0004】
現在利用可能なステントの圧倒的多数は、標的身体通路においてステントの全体構造を制御して塑性変形(plastic deformation)させるものであり、この点においてステント開発は発展してきている、従って、身体通路の開通性を維持するのに十分な力のみがステントの展開の間に適用される。
【0005】
一般的に、これらのシステムの多くにおいて、ステントは、カテーテル・システムによりバルーンと共に身体通路の標的領域に配送される。一旦、ステントが適切に配置されれば(例えば、脈管内移植のために脈管の標的領域は、蛍光透視の間の視覚化を促進するために造影剤で満たされる)、バルーンが膨張してステントの全体構造を可塑的に変形させ、その結果、ステントが身体通路の所定位置に圧着(urged)される。上述のとおり、適用される力(force)の量は、少なくとも身体通路の開通性を維持する間のステント (即ち、適用される力は、ステント材料が塑性変形を生じる最少の力を越える)の拡大に必要なものである。この段階では、バルーンは、収縮させてカテーテル内に回収され、次に除去される。理想的には、ステントは、所定位置に残存し、そして身体通路内の標的領域を実質的に封鎖(または狭小化)のない状態に維持する。
【0006】
現在まで、大抵のステント開発は、いわゆる冠状動脈 ステントに集中している。これまで冠状動脈ステント開発の技術における多くの進展がなされたが、改善の余地がある。
【0007】
これまで少ししか(もしくは全く)注目されなかった領域は、大動脈疾患(aortic disease)の脈管内処理の領域である。この点に関して大動脈の病気を再検討するのは有用である。
【0008】
大動脈疾患は、全般的に高い心臓血管性の死亡率に寄与する。比較的新しいイメージング形式〔例えば、 経食道心エコー検査(transesophageal echocardiography), 磁気共鳴断層撮影(magnetic resonance tomography), らせんCT(helical computed tomography), 電子ビームCT(electron beam computed tomography)〕は、先の10年の間に導入された。これらの新しいイメージング技術は、大動脈疾患(救急状況においてさえ)の向上した、および/または、早期の診断を促進する。これらの新しいイメージング技術は、近年の患者管理に効果を発揮しており、より迅速な診断と意思決定を可能としている。
【0009】
一般的に、大動脈疾患は、大動脈壁、特に大動脈の中膜(media)の強度を弱める機構により発症する。かかる壁の弱体化は、高度の壁ストレス(大動脈の膨張および動脈瘤形成を誘発し得る)を生じ、最終的には大動脈の解離または破裂(rupture)を生じる。大動脈疾患の様々なカテゴリーを、図1に要約する。
【0010】
大動脈の病気は、医学における重大な問題である。2つの一般的なアプローチが存在しており、それは即ち、薬物療法および外科手術である。薬物療法は、血圧を下げる目的で使用されるが、このアプローチは不利であり、せいぜい患者を重大なリスクになお放置する間に病気の影響を変える程度のものである。外科手術は、中核的研究機関(centers of excellence)においてさえ、高い死亡率および罹患率のために不利である。集団の高齢化は、変性疾患(degenerative disease)である大動脈疾患の発生の増加を生じる。更に、大動脈の剛性(stiffness)は、年とともに増加し、これにより冠状動脈および他の動脈の潅流が減少する。
【0011】
まさに臨床的な関心事である大動脈疾患の(3)つの適応が存在し、これらは即ち、(1) 大動脈解離(aortic dissection), (2) 閉鎖性胸部損傷(blunt chest trauma)(大動脈の重大な外傷を伴う), および (3) 大動脈硬化症(aortic sclerosis)である。
【0012】
大動脈解離は、約15〜20例/100万人の住民/年の割合で発症し、症状の発症後、初年度に50%、最初の5時間で1時間あたり5%の死亡率を伴うことが知られている。それは、大動脈壁の分割(splitting)、その壁への出血を生じ、断裂(tear)もしくは「破裂ポイント」を有する「脈管内膜(intima)」と称される弁で分離された真性および偽(新規)の管腔の形成を伴う。上行大動脈が関与する患者においては外科手術が実行され、下行大動脈が関与する患者においては薬物療法が好ましい。上記に述べたように、外科手術をしても、依然として死亡率は高い。主な問題は、ショックおよび多臓器不全を生じる腹部の器官潅流(organ perfusion)である。比較的最近の研究は、壁内出血(intramural hemorrhage), 壁内血腫(intramural hematoma) および 大動脈の潰瘍が、解離(dissections)もしくは解離のサブタイプの進展の徴候でありえることを示している。現在、解離の様々な形態が、以下のように分類される:
クラス1 (図2a): 真性と偽の管腔の間の脈管内膜弁(intimal flap)を有する古典的な大動脈解離;
クラス2 (図2b): 壁内血腫/出血の形成を伴う中膜の分裂(Medial disruption);
クラス3 (図2c): 血腫、断裂部位での離心性の隆起(eccentric bulge)のない孤立性/潜在性の解離(Discrete/subtle dissection);
クラス4 (図2d): 大動脈の潰瘍形成に至るプラーク破裂、周囲の血腫を伴う穿通性の大動脈のアテローム性動脈硬化症性潰瘍(aortic atherosclerotic ulcer)、通常は外膜下(subadventitial)に生じる;並びに
クラス5 (図2e) : 医原性および 外傷性(traumatic)の解離。
【0013】
解離のこれらの各クラスは、それらの急性および慢性の段階において認められる;慢性解離は、急性症候(acute event)以後に14日間を越えて経過した場合に存在すると考えられる。
【0014】
[古典的な大動脈解離 (クラス1-図2a )]
急性の大動脈解離は、真性管腔および偽管腔を分離する脈管内膜弁の急速な発生を特徴とするものである。圧力の差から真性管腔は、偽管腔より通常小さい。脈管内膜弁の断裂は、交通性の解離(communicating dissections)を特徴とする。しかしながら、 断裂が必ずしも認められるわけではなく、そして非交通性の解離は珍しいことでもない。解離は、順行性(antegrate)または逆行性(retrograde)の様式で大動脈壁の病的な領域から拡大し得るものであり、側枝を巻き込み、そして他の合併症の原因となる。
【0015】
[壁内血腫/出血 (クラス2-図2b)]
壁内血腫は、大動脈解離に至る嚢胞性の中膜変性(medial degeneration)の多くのケースで認められる初期障害であると信じられており、脈管内膜断裂(intimal tear)は、先行する壁内解離に対して二次的なものであると思われる。壁内血腫 は、周囲の大動脈の中膜(aortic media)に支持されない脈管の血管(vasa vasorum)に通常出現する破裂(rupture)の結果、または病的な脈管の血管の破裂の結果である可能性がある。解離性血腫(dissecting hematoma)は大動脈にそって伸展するので、弱くなった内壁は拡張期性の反動(diastolic recoil)の伸展力を受ける。大動脈線維性外膜(aortic fibrous adventitia)と内側のより弾力のある中膜との間の弾力性の差異は、付加的な役割を演じているだろう。
【0016】
検死解剖研究において、断裂のない動脈瘤(aneurysms)の解離は、311検体のうちの12%にまで認められている。他の研究は、505ケースにおいて4%の発生を報告している。一連の突然死において、解離を伴う患者の67%は、断裂を有していなかった。大動脈解離が疑われる患者における壁内の出血および血腫の発生は、様々な新規のイメージング技術により観察されたように、10〜30%の範囲であるように思われる。
【0017】
壁内の血腫および 出血の2つの区別可能なタイプが存在する。
タイプIの壁内血腫および 出血は、滑らかな内部の大動脈管腔を呈し、直径は通常3.5cm未満であり、壁厚は0.5cmを越える。壁内血腫のサインであるエコーフリー空間(心エコー図で見られた)は、患者中の□例のみに認められた。血腫の縦の広がりの平均は約11cmであり、エコーフリー空間は、流れが最少であるか、または存在しないことを示している。
【0018】
タイプIIの壁内血腫および出血は、大動脈の動脈硬化に出現する。重症大動脈硬化症を伴う粗い内部大動脈表面が特徴的であり、前記大動脈は3.5cmを越えて膨張し、カルシウム沈着が頻繁に認められる。平均壁厚は、1.3cmであり、約0.6から約4cmの範囲であり、そしてエコーフリー空間(echo free spaces)は、調査した患者の70%に認められている。縦の拡張は、タイプI血腫における範囲と類似する範囲を有しており、通常は約11cmである。壁内出血は、上行大動脈よりも下行大動脈においてより頻繁に認められる。
【0019】
壁内出血および血腫が大動脈の解離を生じるとの事実は、追跡調査においてのみ示されている。壁内出血および血腫の結果として生じる急性大動脈解離は、患者の約28% から 約47 %に発生する。それは約21% から 約47 %の大動脈破裂(aortic rupture)と関連しており;および退行(regression)は患者の約10%に認められる。
【0020】
[潜在性―孤立性の大動脈解離 (クラス3-図2c)]
構造的な脆弱性は、臨床的に未検出の病気または大動脈解離のマイナーな形態の何れかを生じ得る。潜在性の解離は、脈管壁の部分的に星状(stellate)または線状(linear)の断裂として説明され、血栓(thrombus)で覆われている。部分的な断裂が傷跡(scar)を形成した後、この型(constellation)は、未発達な(abortive)、分離的解離(discrete dissection)と称される。大動脈の内部層の部分的破裂は既に障害を受けた中膜への血液の侵入を許し、それゆえ大動脈壁の解離を生じ、ゆくゆくは追跡調査の間に壁内の第二の管腔を生じるか、破裂を生じるか、または治癒する。
【0021】
[プラーク破裂/潰瘍形成 (クラス4-図2d)]
アテローム性動脈硬化症性大動脈のプラークの潰瘍形成は、大動脈解離または大動脈穿孔(aortic perforation)を生じる可能性がある。これは、コンピュータ断層撮影により最初に観察された。イメージング技術における技術革新〔例えば、脈管内超音波法(intravascular ultrasound), スパイラルCT(spiral computed tomography)および磁気共鳴イメージング(magnetic resonance)〕は、新規の見識を提供する。大動脈の潰瘍形成を診断する能力は、これらによって改善され、この症状の病理生理学(pathophysiology)における更なる見識が得られた。潰瘍は、下行胸大動脈(descending thoracic aorta)、同様に腹大動脈(abdominal aorta)に影響するように思われ、広範囲の縦方向の伝播または分枝脈管の劣化(branch vessel compromise)とは通常は関連しない。弁の(Valvular)、心膜の(pericardial)、または他の脈管の(vascular)合併症は、稀であるようである。潰瘍は、脈管内膜の境界を越えて貫通し、下部(subjacent)のタイプIIの壁内血腫形成を伴う乳頭様の突起を大抵伴っている。アテローム性動脈硬化症性プラークの連続的な侵食は、内部伸縮性膜(internal elastic membrane)を結果的に侵害し得る。偽動脈瘤、大動脈の破裂または 解離が発生し得る。
【0022】
大動脈硬化症は、脈管内膜の肥厚(thickening)(グレード I)から、塞栓症の危険性を伴う自由に浮遊する血栓の発生(グレード IV) まで4グレードに通常分けられる。年配の患者において、グレード IVの 大動脈硬化症の発生が増加している。これは、患者に発作(stroke)の顕著な発症を生じさせている。従って、大動脈の管腔に自由に浮遊する血栓を伴う大動脈硬化症 グレード IVの治療が開発されていたなら、結果として生じる発作の発症を予防または緩和するであろう。
【0023】
現在、大動脈硬化症(特にグレード IVタイプ)に対する信頼性のある処置アプローチは存在しない。抗凝固は、既知のアプローチであるが、この処置は、特に年寄りの患者の出血性発作(hemorrhagic strokes)の危険性を容認しなければならない。更に、この療法は、モニターするのが非常に困難である。外科手術は、非常に複雑で、且つ死亡率が高い。現在、外科手術は、抗凝固療法の望ましい代替方法と見なされていない。
【0024】
[外傷性/医原性の大動脈解離 (クラス5-図2e)]
閉鎖性胸部損傷は、上行大動脈および/または大動脈狭窄(aortic isthmus)でのボタリ靭帯(igamentum Botalli)の領域の解離を通常生じる。大動脈の医原性の解離は、心臓カテーテル法の間に稀に生じる。それは大動脈縮窄(aortic coarctation)の血管形成術(angioplasty)の後に一様に認められるが、大動脈の交差クランピング(cross clamping)の後、および大動脈内のバルーンポンピングの使用後にも観察される。大抵のカテーテル誘発性の解離は、逆行性の解離(retrograde dissections)である。それらは、偽管腔の血栓症と同様に通常サイズが縮小する。大動脈起始部(aortic root)への冠状動脈解離(coronary dissection)の近位進行(Proximal progression)が観察される。閉鎖性胸部損
傷において、大動脈での大きな加速は、特に大動脈弓と下行大動脈のアドジャンクション(adjunction)の大動脈の脈管内膜(intimal)、中膜(medial)または横断面(transsection)の離断に至る〔閉鎖性胸部損傷のケースの15〜20%は、大動脈の負傷(injury)に関するものである〕。この閉鎖性胸部損傷の結果、縦隔血腫(mediastinal hematoma)が、患者の急死に伴い出現する可能性がある。閉鎖性胸部損傷は、他の胸部損傷と同様に、大きなオートバイおよび自動車に関連する事故において発生することが知られている。診断は非常に困難であるが、経食道心エコー検査により改善されている。典型的に、大動脈への障害は、大動脈の3cm〜5cmの範囲を含む小さい領域に限定される。慣習的に、外科手術は、これらの患者を安定化する唯一の処置であった。90%の死亡率は、外科手術が適時に実行されなかった場合に認められている。たとえ外科手術が適時に実行されたとしても、死亡率は高い。
【0025】
大動脈解離を処置する外科技術を改善する大抵の従来技術の試みは、成功率は特に高くない。
【0026】
いわゆる「ステントグラフト(stent grafts)」は、大動脈の病気の処置に適してはいないことを指摘するのも意味がある。具体的には、従来のステントグラフトは、一般的に固定した縦の長さを有するものである。各患者の生体組織(anatomy)は異なっており、また大動脈の全体的な縦の長さ若しくは他の内管腔(endoluminal)の疾患状態は様々であるので、側枝の閉鎖の発生を最小限にするために、ステントグラフトは特定もしくは特別あつらえの縦の長さであるべきである。多様な状況下で使用される装置を手元に所持することは、不都合であり、様々に異なる縦の長さを有する多くのステントグラフトの在庫(inventory stocking)を必要とする。
【0027】
従って、当該技術分野において達成された利点が存在するにもかかわらず、従来技術の上記の欠点の少なくとも1つを予防または 緩和することが可能な脈管内人工補綴物の必要性がなお存在している。具体的には、その人工補綴物は、人工補綴物の移植の間に医師によってインビボで縦の長さを調整することを可能とした脈管内人工補綴物であることが望ましいであろう。
【0028】
以前のステントデザインおよび留置システムの議論に関しては、例えば、次ぎの特許の何れかを参照のこと。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】米国特許 4,733,665 (Palmaz)
【特許文献2】米国特許 4,739,762 (Palmaz)
【特許文献3】米国特許 4,800,882 (Gianturco)
【特許文献4】米国特許 4,907,336 (Gianturco)
【特許文献5】米国特許 5,035,706 (Gianturco et al.)
【特許文献6】米国特許 5,037,392 (Hillstead)
【特許文献7】米国特許 5,041,126 (Gianturco)
【特許文献8】米国特許 5,102,417 (Palmaz)
【特許文献9】米国特許 5,147,385 (Beck et al.)
【特許文献10】米国特許 5,282,824 (Gianturco)
【特許文献11】米国特許 5,316,023 (Palmaz et al.)
【特許文献12】米国特許 5,755,771 (Penn et al.)
【特許文献13】米国特許 5,906,640 (Penn et al.)
【特許文献14】米国特許 6,217,608 (Penn et al.)
【特許文献15】カナダ 特許 1,239,755 (Wallsten)
【特許文献16】カナダ 特許 1,245,527 (Gianturco et al.)
【発明の概要】
【0030】
本発明の課題は、従来技術の上記の不利な点の少なくとも1つを予防または緩和する新規の脈管内人工補綴物を提供することである。
【0031】
従って、本発明の一側面において、本発明は、身体通路における移植のための脈管内人工補綴物を提供する、該人工補綴物は管状壁を含み、該管状壁は、(i) 第1の縦の長さと第2の縦の長さとの間を移動可能であり、且つ (ii) 身体通路における前記人工補綴物の移植に際して放射状に拡張可能である。
【0032】
本発明の別の側面において、本発明は、身体通路における移植のための脈管内人工補綴物を提供する、該人工補綴物は互いの縦に滑動するかみ合い(longitudinal sliding engagement)において第1管状壁および第2管状壁を含んでおり、該第1管状壁および前記第2管状壁は身体通路における人工補綴物の移植に際して放射状に拡張可能である。
【0033】
本発明の別の側面において、本発明は、患者の標的身体通路における第1局在ポイントと第2局在ポイントとの間に局在する脈管内疾患状態を、脈管内人工補綴物で脈管内封鎖する方法を提供する、この脈管内人工補綴物は、互いの縦に滑動するかみ合いにおいて第1管状壁および第2管状壁を含んでおり、前記第1管状壁および前記第2管状壁は放射状に拡張可能である。この方法は、以下の工程、即ち: 前記人工補綴物および カテーテルを、身体通路内に、身体通路に適用するカテーテル法により挿入することと;
前記人工補綴物および カテーテルを、前記脈管内疾患状態が局在する標的身体通路に移動することと;
前記人工補綴物の遠位端が前記第1局在ポイントと実質的に揃うように前記人工補綴物の遠位端の位置を合わせることと;
前記人工補綴物の遠位端を、前記カテーテルに対して伸展させることと;
前記管状壁の遠位端が前記標的身体通路に対して圧着されるように、前記管状
壁の遠位端に放射状の外向きの膨張力(expansive force)を働かせることと;
前記カテーテルに対して前記人工補綴物の近位部分を固定することと;
前記カテーテルを後退させることにより、前記管状壁の伸展可能部分を、前記人工補綴物の近位端が前記第2局在ポイントと実質的に揃うまで縦に伸展させることと;
前記カテーテルに対して前記人工補綴物を自由にすることと;
脈管内人工補綴物の近位端を暴露するために、前記カテーテルを後退させるこ
とと;並びに
前記管状壁の近位端が前記標的身体通路に対して圧着されるように、前記管状
壁の近位端に放射状の外向きの膨張力を働かせることと;を含む。
【0034】
更に別の側面において、本発明は、患者の身体通路の第1局在ポイントと第2局在ポイントとの間に局在する脈管内疾患状態を、脈管内人工補綴物で脈管内封鎖する方法を提供する、該脈管内人工補綴物は、遠位端および近位端を含む管状壁を含んでおり、該管状壁は:(i) 第1の縦の長さと第2の縦の長さとの間を移動可能であり、および (ii) 前記身体通路における人工補綴物の移植に際して放射状に拡張可能(radially expandible)である。この方法は以下の工程、即ち:
カテーテル内に前記人工補綴物を配置することと;
前記人工補綴物および カテーテルを、身体通路内に、前記身体通路のカテーテル法により挿入することと;
前記人工補綴物および カテーテルを、前記脈管内疾患状態が局在する標的身体通路に移動させることと;
前記人工補綴物の遠位端を、前記カテーテルから伸展させることと;
前記人工補綴物の遠位端が前記第1局在ポイントと実質的に揃うように前記人
工補綴物の遠位端の位置を合わせることと;
前記管状壁の遠位端が前記標的身体通路に対して圧着されるように、前記管状
壁の遠位端に放射状の外向きの膨張力を働かせることと;
前記カテーテルに対して前記人工補綴物の近位端を圧着させることと;
前記カテーテルを後退させることにより、前記管状壁の伸展可能部分を、前記
人工補綴物の近位端が前記第2局在ポイントと実質的に揃うまで縦に伸展させる
ことと;
前記カテーテルに対して前記人工補綴物の近位端を自由にすることと;
前記脈管内人工補綴物の近位端を暴露するために、前記カテーテルを後退させることと;並びに
前記管状壁の近位端が前記標的身体通路に対して圧着されるように、前記管状壁の近位端に放射状の外向きの膨張力を働かせることと;を含む。
【0035】
一般的に、本発明の人工補綴物は、これまでに言及した大動脈疾患の適応の処置に有効に使用することができる。具体的には、以下により詳細に記載されるように、本発明の脈管内人工補綴物は、側枝閉鎖を予防または緩和している間に、患部の長さに最適となるようにインビボで変化する縦の長さを有する。
【0036】
従って、本発明の脈管内人工補綴物 装置の好適な形態は、縦に伸展可能または可変可能な部分を含むステントシステムである。好ましくは、前記 縦に伸展可能または可変可能な部分は、非多孔性材料またはグラフト材料により少なくとも部分的に放射状にカバーされる。
【0037】
大動脈解離に関して、本発明の人工補綴物は、通常は解離連絡部(dissection connection)での真性管腔から偽管腔への流れを封鎖するために脈管内膜 断裂の側に移植される。本発明の人工補綴物は、大動脈の下向部分の解離の処置において、人工補綴物の長さを最適化することに有効に使用し得る。
【0038】
本発明の脈管内人工補綴物の好ましい特性は、部分的、放射状の非多孔性またはグラフト性のカバーリングを有していることである。前記装置の配置および位置合わせは、脈管内超音波および 経食道心エコー検査により進行され、断裂を封鎖し、そして、予防または緩和している間に、大動脈壁全体をカバーする(例えば、大動脈壁の領域は、重要な側枝を含んでいる可能性がある)。
【0039】
一旦移植された際の、本発明の脈管内人工補綴物の好適な形態の利点は、ユニークな設計の結果、近位から遠位の大動脈への流れを、装置の移植の間でさえも許容することである。対照的に、従来のステントグラフトは、解離の拡張および増大を生じる血圧の急激な上昇の危険性を踏まえて使用しなければならない。
【0040】
本発明の脈管内人工補綴物は、断裂を封鎖する目的で有効に使用でき、真性管腔から偽管腔への流れを予防または緩和する。このようにして、治癒プロセスが始まり、うまくいくケースにおいては、6ヶ月内の追跡治療の間に偽管腔の全体的な消滅および大動脈壁の強化が導かれる。加えて、偽管腔における前記圧が軽減または排除され、これにより真性管腔の器官潅流を増大および改善することができる。
【0041】
適切に留置された場合、本発明の脈管内人工補綴物は、大動脈の病的な部分を防御し、従って前記管腔から縦隔(mediastinum)に少量の血液が抜けるか、または如何なる血液も抜けないことになる、これにより患者は安定化する。脈管内超音波および 経食道心エコー検査を使用することにより、本発明の脈管内人工補綴物を、大動脈の障害を封鎖するために適切に誘導し得る。大動脈解離の処置の際に背骨(back bone)に供給する複数の動脈の封鎖を避けることは重要であり、なぜならこれによって患者に重篤な結果を伴う対麻痺を生じる可能性があるからである。
【0042】
実際、本発明の発明者が知るかぎり、本発明の脈管内装置は、大動脈疾患の確実な治療に有用な初めての装置である。従って、本発明の脈管内装置により、大動脈流(aortic flow)の閉鎖が予防または緩和され、そして急激な血圧増加(これは致命的な結果に至る可能性がある)が回避される。更に、本発明の装置は、脈管内を介した様式で(即ち、非外科的に)留置できるので、一般的に患者に対してより安全であり且つ健康保険への負担が少ない。
【0043】
本発明の脈管内人工補綴物は、大動脈壁での脈管内膜弁および血栓を覆うために有効に使用され、これによって発作(stroke)および塞栓(emboli)の危険性を、抗凝固(anticoagulation)処理を必要とすることなく予防または緩和する。本発明の人工補綴物の好適な形態は、大動脈の周縁(circumference)の放射状の部分のみをカバーするので、側面の動脈(背骨に供給している)の閉鎖が予防または緩和される。本発明の人工補綴物の好適な形態は、開放しており、また移植の間に近位および遠位の動脈からの流れを閉鎖しないので、血圧増加が予防または緩和される。従って、本発明の人工補綴物のユニークな有効性は、大動脈の多くの領域が血栓形成を示している際に大動脈の複数の箇所にさえも使用できることである。
【0044】
本発明の態様は、添付される図面を参照して記載される。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】大動脈疾患の様々なカテゴリーの要約を示す図である。
【図2】図2(2a-2e)は、大動脈解離の様々なカテゴリーを示す図である。
【図3】図3(3a-3b)は、本発明に基づく退縮および伸展した配置の拡張式人工補綴物を示す斜視図である。
【図4】図4(4a-4b)は、退縮および伸展した配置における本発明の脈管内人工補綴物の別の態様を示す斜視図である。
【図5】本発明の脈管内人工補綴物の態様の管腔内における留置を示す断面図である。
【図6】本発明の脈管内人工補綴物の態様の管腔内における留置を示す断面図である。
【図7】本発明の脈管内人工補綴物の態様の管腔内における留置を示す断面図である。
【図8】本発明の脈管内人工補綴物の態様の管腔内における留置を示す断面図である。
【図9】本発明の脈管内人工補綴物の態様の管腔内における留置を示す断面図である。
【図10】本発明の脈管内人工補綴物の態様の管腔内における留置を示す断面図である。
【図11】本発明の脈管内人工補綴物の態様の管腔内における留置を示す断面図である。
【図12】本発明の脈管内人工補綴物の態様の管腔内における留置を示す断面図である。
【図13】本発明の脈管内人工補綴物の態様の管腔内における留置を示す断面図である。
【図14】本発明の脈管内人工補綴物の態様の管腔内における留置を示す断面図である。
【図15】本発明の脈管内人工補綴物の態様の管腔内における留置を示す断面図である。
【図16】図 5-16に示される態様において有用な潅流バルーン(perfusion balloon)を示す斜視図である。
【図17】図16の線XVI-XVIにおける断面図である。
【図18】本発明の脈管内人工補綴物の別態様の留置を示す断面図である。
【図19】本発明の脈管内人工補綴物の別態様の留置を示す断面図である。
【図20】本発明の脈管内人工補綴物の別態様の留置を示す断面図である。
【図21】本発明の脈管内人工補綴物の別態様の留置を示す断面図である。
【図22】本発明の脈管内人工補綴物の別態様の留置を示す断面図である。
【図23】本発明の脈管内人工補綴物の別態様の留置を示す断面図である。
【図24】本発明の脈管内人工補綴物の別態様の留置を示す断面図である。
【図25】図 18-24の脈管内人工補綴物の留置後を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0046】
図3を参照して、1以上の縦方向の背部(longitudinal spines) 14によって相互に接合される複数の環状部(annular members) 12を含む拡張式人工補綴物 10が示される。環状部 12は、放射状に拡張可能(expandable)である。更に、背部 14は、縦方向に拡張可能である。
【0047】
拡張式人工補綴物 10 の一部分に配置されたものは、カバー材料 16である。カバー材料 16は、様々な環状部 12に接着される。
【0048】
縦に退縮するバージョン(longitudinally retracted version)の脈管内人工補綴物 10(即ち、 図3a)において、カバー材料 16の縦の長さは、それが配置される脈管内人工補綴物 10の縦の長さ Aよりも長い。これは、カバー材料 10を折り畳む等の適切な手段により達成される。或いは、 カバー材料 16は、伸ばすことが可能な材料から作出できる。
【0049】
図3bに示されるように、脈管内人工補綴物 10を、それが放射状に展開する前に長くすることが可能である。これが達成される様式は、以下に記載される。ポイントは、近接する環状部 12の間の空間が増大するにしたがい、カバー材料 16の縦の長さBを図3aにおける長さAに比べて増大するようにカバー材料 16を展開するか、さもなければ長くする(例えば、引き伸ばすことにより)ことである。
【0050】
別の態様が、図4に示される。具体的には、第1部分 11および第2部分 13を含む脈管内人工補綴物 10aが示される。部分 11および 13は、互いに縦に移動可能である〔例えば、テレスコープ(telescoping)の様式で〕。部分 11および 13の各々は、各々が縦方向の背部 14aによって相互に連結した(interconnected)一連の環状部 12aを含むように同様に構築される。
【0051】
図4に示される態様において、脈管内人工補綴物 10aを長くすることは、部分13に対する部分 11の相対的な拡張によって達成される。これにより部分 11および 13の各々に配置されるカバー材料 16aの全体の長さが広げられる。
【0052】
当業者により理解されるように、環状部 12および 14 (図3)並びに 部分 11および 13 (図4)の組み合わせは、好ましくは生体組織の標的部位に対する人工補綴物の誘導を容易にするように最適化された任意の通常型のステント デザインであればよい。ステント 部分の好適なデザインは、Penn等の上記の国際特許出願に開示されたものである。当然ながら、当業者は、本発明の脈管内人工補綴物が、図 3および 4に示される特定のステント デザインの使用に限定されないこと、並びに任意の一般的な技術のステント デザインが使用できることを認識するであろう。
【0053】
好ましくは, カバー材料 16 (図3)および 16a (図4)は、ダクロンTM(Dacron、ゴアテックスTM(Gortex)、他のポリマー材料、ウシの心膜(bovine pericardium)等のシート材料(sheet material)である。この目的で使用される前記材料の性質は、特に限定されない。前記材料は実質的に体液に対して不浸透性であること、一般的に生体適合性であること、且つ、その物理的性質が、配送、留置、または脈管内人工補綴物の移植後の一般的な有効性を妨げないことが好ましい。
【0054】
カバー材料 16 (図3)および 16a (図4)は、NuSil Technology (Carpenteria, California)から市販されているようなシリコーンに準拠する 材料に由来してもよい。かかる材料の制限されない例は、MED-6640という商品名でヌシルテクノロジーから市販されているシリコーンに準拠する分散液(dispersion)である。この材料は、キシレンなどの有機溶媒中に分散液として通常取得される。前記分散液は、それ自体として使用してもよく、またはその粘度を更なる溶媒の添加により所望のとおりに変化させてもよい。
【0055】
好ましくは、カバー材料は、別の管状のステント構造に付着させる。付着が達成される手段は、特に限定されない。例えば、前記カバー材料は、適切な接着剤を使用してステント上の適切なスポットに固定できる。或いは、前記カバー材料は、ステントに縫い付けることができる。当業者は、カバー材料をステント構造に固定し得る多くの他の手段を想定するであろう。
【0056】
他の態様において、 カバー材料 16 (図3)および 16a (図4)は、人工補綴物 10 (図3)および 10a (図4)の残りの部分と同一の材料から成るものであってもよいが、好ましくは多くのスリット(slits), マイクロカット(microcuts), 溝穴(slots), 孔(apertures) 等を含むように適切に修飾される。これらは、これらを通過する体液 (例えば、血液)の特性と、拡張式人工補綴物を配送および留置できるようにカバー材料を十分フレキシブルに変化させる特性との折り合いをつけるためのものである。
【0057】
図 5-16を参照して、脈管内人工補綴物 10aを留置する好適な態様が示される。図示する目的のみのため、上記で議論した脈管内人工補綴物 10a の様々な構造の詳細は、 図 5-16から省略した。更に、実例として示す目的のみのため、図 5-16に示される脈管内人工補綴物 10aは、ステインレス・スティール, タンタル(tantalum )等の可逆的に変形可能な材料から構築される。
【0058】
従って、図5を参照して、封鎖部位 105(管腔の壁に配置される)を有する管腔 100 (これは上記の図2で言及した上行大動脈であってもよい)が示される。従来のカテーテル法の技術に基づいて、最初の工程(明瞭さのため示していない)は、ガイドワイヤー 110の遠位端が封鎖部位 105の遠位であるように、管腔 100にガイドワイヤー 110を配置することを伴う。その後、ガイドカテーテル115の遠位端が封鎖部位 105の遠位先端(distal extremity)に近接するような様式で、ガイドカテーテル115が配置される。
【0059】
その後、好ましくは遠位端に弾性バルーン(elastomeric balloon)を含むバルーン カテーテル120、(または他の適切な配送システム)、に配置される脈管内人工補綴物 10aが、脈管内人工補綴物ロバ(endovascular prosthesis lova)の部分 11の遠位領域を露出するためにガイドカテーテル115から伸ばされる。その後、バルーン カテーテル120の遠位端に配置されるバルーン 122が、従来の様式で拡張される。これにより、脈管内人工補綴物 10aの部分 11の遠位端が、図6に示されるように管腔 100に対して圧着される。
【0060】
次に、バルーン 122は収縮させられ、そしてバルーン カテーテル120はバルーン 122が脈管内人工補綴物 10aの部分 13の近位端の付近にくるように後退させられる、この様子は図7に示される。
【0061】
その後、バルーン 122は、拡張式人工補綴物 10aの部分 13の近位端を、ガイドカテーテル115の内側に対して圧着するために部分的に拡張させられる、この様子は図8に示される。
【0062】
次に、 ガイドカテーテル115が、図9に示されるように後退させられる。脈管内人工補綴物 10aの部分 13の近位端が、この工程の間にガイドカテーテル115の内側に対して圧着されるので、脈管内人工補綴物10aの部分 11からの部分 13の相対的な伸長を効果的に生じる。
【0063】
次に、バルーン カテーテル120のバルーン 122が収縮させられ、そしてバルーン カテーテル120は、バルーン 122が脈管内人工補綴物 10aの部分 11および 13の重複する領域の付近にくるように再度位置決めされる、図10を参照のこと。
【0064】
この段階で、バルーン 122が拡張させられ、図11に示されるように管腔 100に対する脈管内人工補綴物 10aの部分 11および 13の圧着を生じる。
【0065】
その後、 ガイドカテーテル115が、図12に示されるように拡張式人工補綴物 10a全体を露出するために後退させられ、そしてバルーン カテーテル120のバルーン 122が、部分 13の近位端を管腔 100に対して拡張するために再度位置決めされる。
【0066】
図 13および 14は、脈管内人工補綴物 10aの全長に沿った連続的な展開工程を示しており、それは封鎖部位 105を封鎖するために「改造される(remodeled)」。
【0067】
具体的には示されないが、もちろんカバー材料 16a (図4)は、封鎖部位 105を封鎖するように位置決めされることが好ましい。
【0068】
図 16および 17は、図 5-15に示される態様に有用である好適な潅流バルーンを示している。前記潅流バルーンは、図 12-14に示される「改造工程」の間に、管腔 100を介して連続的に血液を流動させることに特に有用である。
【0069】
図 18-24を参照して、本発明の脈管内人工補綴物の留置の別態様が記載される。当業者には明白なように、図 18-24は、患者の上行大動脈における脈管内人工補綴物の留置を示している。明瞭性のため、前記脈管内人工補綴物は、一連の輪として概略的に示される。好ましくは、前記人工補綴物の縦の長さがアコーディオンタイプの動作により調整されるように、これらの輪はカバーリング材料で効果的に相互に連結される。更に、再度明瞭性の目的のみのために、処理する特定の大動脈疾患を示さない。
【0070】
このように、ガイドワイヤー 200が、患者の心臓(示さず)のちょうど近位の上行大動脈 205まで脈管内を誘導される。その後、鞘 210、バルーン カテーテル215および脈管内人工補綴物 220の連結体(combination)が、上行大動脈 205にまでガイドワイヤー 200上を配送される。
【0071】
バルーン カテーテル215の遠位端に配置されるバルーン 225は、人工補綴物 220の遠位の輪 235に最も近接する輪 230のペアに圧着するように若干拡張される。次に、鞘 210およびバルーン カテーテル215の前記連結体が、図19に示される矢印の方向に若干後退させられる。これにより遠位の輪 235が鞘 210から露出し、遠位の輪 235の自己拡張を生じる。具体的には、脈管内人工補綴物 220に含まれる輪はニチノール等の形状記憶合金から構築されることが好ましい。
【0072】
図 19および 20を参照して説明すると、カテーテル215のバルーン 225が収縮し、カテーテル215が後退し、そしてバルーン 225を中間に配置される輪 240のペアに対して圧着されるように再度膨張させる(カテーテル215のバルーン 225の再位置合わせに関しては図20を参照のこと)。
【0073】
次に、鞘 210およびバルーン カテーテル215の前記連結体が、図20に示される矢印の方向に後退させられる。これにより図21に示されるように脈管内人工補綴物 220の連続的な輪の暴露を生じる。脈管内人工補綴物 220の更なる輪が鞘 210から露出する際、図22に示されるようにカテーテル215のバルーン 225を再度位置決めすることが望ましいであろう。カテーテル215のバルーン 225の再位置合わせは、図 19および 20を参照して上記に記載のように達成される。
【0074】
鞘 210およびバルーン カテーテル215の前記連結体の継続的な後退は、図22に示すように脈管内人工補綴物 220の更なる輪が鞘 210から露出することになる。図22を参照して説明すると、脈管内人工補綴物 220が適切な縦の長さにいちど達すると、カテーテル215のバルーン 225は収縮し、そして図24に示すように鞘 210およびバルーン カテーテル215の前記連結体が後退し、これによって脈管内人工補綴物 220の近位に配置された輪 245のペアを暴露させる。従って、図示された態様 (図24)において、脈管内人工補綴物 220の近位に配置された輪245の間の距離を実質的に長くすることはない。当業者は、脈管内人工補綴物 220が特に有効であることを理解するであろう、なぜならその縦の長さを患者への移植の間に容易に変更し得るからである。これは患者の標的生体組織の寸法が患者毎に変化する際に特に有効である。更に、図 18-24に示されたアプローチは、脈管内人工補綴物 220が、配送システムを介して潅流を維持している間に留置されるので、特に有用である。更に、本発明の脈管内人工補綴物は、その配送の間、望ましくない伸びおよび大動脈への関連するストレスが最小化もしくは回避されることから有用である。大動脈のこのような伸びを回避することにより、前記人工補綴物の配置が、脈管の適切な長さ及びサイズを決定するために取得される前処理測定とより容易に一致させることができる。
【0075】
本発明の脈管内人工補綴物は、被覆材料をその上に更に含んでもよい。前記被覆材料は、前記人工補綴物の表面上に連続的にまたは不連続的に配置されてもよい。更に、前記被覆は、前記人工補綴物の内部および/または外部表面に配置されてもよい。前記被覆材料は、1以上の生物学的に不活性な材料〔例えば、人工補綴物の血栓形成性(thrombogenicity)を軽減する〕、移植後に身体通路の壁に浸出する薬用組成物(例えば、身体通路に、抗凝固作用を提供するため、製剤を配送するためなどの目的で)などであってもよい。
【0076】
本発明の脈管内人工補綴物は、好ましくは身体脈管(body vessel)の壁との、および/または、該脈管を介して流れる液体(通常は血液)との不都合な相互作用を最小限にするための生体適合性の被覆(biocompatible coating)を施され提供される。前記被覆は、好ましくはポリマー性の材料であり、これは一般的に人工補綴物に溶媒中の予備成形されたポリマー の溶液または分散液を加え、そして前記溶媒を除去することによって提供される。非ポリマー性の被覆材料を、代替的に使用してもよい。適切な被覆材料(例えば、ポリマー)は、ポリテトラフロウロエチレン(polytetraflouroethylene)またはシリコーンラバー、或いは生体適合性であることが知られたポリウレタンであってもよい。しかしながら、好ましくは、 前記ポリマーは、両性イオン性の側基(zwitterionic pendant groups)、一般的にはリン酸アンモニュウムエステル基、例えばホスホリルコリン基またはその類似体を有している。適切なポリマーの例は、国際公開番号 WO 93/16479および WO 93/15775に記載されている。これらの明細書中に記載されたポリマーは、血液適合性(hemo-compatible)であり、同様に一般的に生体適合性であり、且つ加えて潤滑(lubricious)である。人工補綴物の表面は、不都合な相互作用(例えば、血液との)を最小限にするために完全にコートされる、この相互作用は元の脈管(parent vessel)における血栓症を誘発するであろう。
【0077】
この優良な被覆は、被覆溶液粘性, 被覆技術および/または溶媒除去工程などの被覆状態の適切な選択により達成し得る。
【0078】
本発明は図示した態様および例を参照して記載されたが、この記載は限定的に解釈されることを意図していない。従って、前記図示した態様、同様に本発明の他の態様の様々な修飾が、本明細書の記載を参照することで当業者に自明となろう。例えば、 当業者は、 図 3および 4に示された特定の態様(即ち、部分的にカバーされた脈管内人工補綴物)を、前記人工補綴物が完全にカバーされるか、または全くカバーされないように修飾することが可能であることを理解するだろう。更に、前記人工補綴物が部分的または完全にカバーされる場合、前記人工補綴物のカバーされた領域と、それが圧着される身体通路の部分の封鎖を促進する生体接着剤(bioadhesive)等を使用することが可能である。従って、本願の特許請求の範囲の請求項は、任意のかかる修飾または態様をも保護することを意図している。
【0079】
本明細書中で参照された全ての出版物、特許および 特許出願は、それらの全体が引用によって本願に援用されるが、この援用の程度は各個別の出版物、特許および 特許出願が具体的および個別的に示される場合と同程度である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
身体通路の移植のための脈管内人工補綴物であって、該人工補綴物が管状壁を含み、該管状壁が、(i) 第1の縦の長さと第2の縦の長さとの間を移動可能であり、および (ii) 該身体通路における該人工補綴物の移植に際して放射状に拡張可能である脈管内人工補綴物。
【請求項2】
請求項1に記載した脈管内人工補綴物であって、前記管状壁が、互いの滑動するかみ合い(sliding engagement)において、第1管状壁および第2管状壁を含む脈管内人工補綴物。
【請求項3】
請求項2に記載した脈管内人工補綴物であって、前記管状壁が前記身体通路の領域を閉鎖する環状部を含み、該環状部が第1多孔性部および非多孔性部を含む脈管内人工補綴物。
【請求項4】
請求項3に記載した脈管内人工補綴物であって、前記管状壁が、前記環状部に近接する第2多孔性部を含む脈管内人工補綴物。
【請求項5】
請求項3に記載した脈管内人工補綴物であって、前記管状壁が、前記環状部に近接する第3多孔性部を含む脈管内人工補綴物。
【請求項6】
請求項2〜3の何れか1項に記載の脈管内人工補綴物であって、前記管状壁が、前記環状部の一面(one side)に近接して配置される第2多孔性部、および前記環状部の反対面(opposed side)に近接する第3多孔性部を含む脈管内人工補綴物。
【請求項7】
請求項6に記載した脈管内人工補綴物であって、前記第2多孔性部および前記3多孔性部が、前記第1多孔性部によって相互に連結された脈管内人工補綴物。
【請求項8】
請求項3〜7の何れか1項に記載の脈管内人工補綴物であって、前記非多孔性部が、前記環状部の約90°〜約270°の範囲を放射状に覆う脈管内人工補綴物。
【請求項9】
請求項3〜7の何れか1項に記載の脈管内人工補綴物であって、前記非多孔性部が、前記環状部の約150°〜約250°の範囲を放射状に覆う脈管内人工補綴物。
【請求項10】
請求項3〜7の何れか1項に記載の脈管内人工補綴物であって、前記非多孔性部が、前記環状部の約180°〜約240°の範囲を放射状に覆う脈管内人工補綴物。
【請求項11】
請求項3〜10の何れか1項に記載の脈管内人工補綴物であって、前記非多孔性部が、約2 cm 約10 cmの範囲の間隔を縦に伸展する脈管内人工補綴物。
【請求項12】
請求項3〜10の何れか1項に記載の脈管内人工補綴物であって、前記非多孔性部が、約3 cm 約8 cmの範囲の間隔を縦に伸展する脈管内人工補綴物。
【請求項13】
請求項3〜10の何れか1項に記載の脈管内人工補綴物であって、前記非多孔性部が、約3 cm 約6 cmの範囲の間隔を縦に伸展する脈管内人工補綴物。
【請求項14】
請求項3〜13の何れか1項に記載の脈管内人工補綴物であって、前記非多孔性部が、第4多孔性部に対して配置されたカバー材料を含む脈管内人工補綴物。
【請求項15】
請求項3〜14の何れか1項に記載の脈管内人工補綴物であって、前記非多孔性部が、前記第1多孔性部に連結して配置されたカバー材料を含む脈管内人工補綴物。
【請求項16】
請求項15に記載した脈管内人工補綴物であって、前記カバー材料が、ポリマー 材料の層を含む脈管内人工補綴物。
【請求項17】
請求項1に記載した脈管内人工補綴物であって、前記管状壁が、複数の相互に連結して拡張可能な環状部を含む脈管内人工補綴物。
【請求項18】
請求項17に記載した脈管内人工補綴物であって、前記環状部が、複数の縦方向の背部によって相互に連結された脈管内人工補綴物。
【請求項19】
請求項17に記載した脈管内人工補綴物であって、前記環状部が、カバー材料によって相互に連結された脈管内人工補綴物。
【請求項20】
請求項1〜19の何れか1項に記載の脈管内人工補綴物であって、前記管状壁が、少なくとも1つの放射線不透過性マーカーを含む脈管内人工補綴物。
【請求項21】
請求項1〜19の何れか1項に記載の脈管内人工補綴物であって、前記管状壁が、前記管状壁の対向する端に配置された1対の放射線不透過性マーカーを含む脈管内人工補綴物。
【請求項22】
請求項1〜19の何れか1項に記載の脈管内人工補綴物であって、前記管状壁が、前記非多孔性部の対向する端に配置された1対の放射線不透過性マーカーを含む脈管内人工補綴物。
【請求項23】
請求項1〜22の何れか1項に記載の脈管内人工補綴物であって、前記管状壁が、可逆的に変形可能な材料から構築された脈管内人工補綴物。
【請求項24】
請求項23に記載した脈管内人工補綴物であって、前記可逆的に変形可能な材料が、ステインレス・スティールを含む脈管内人工補綴物。
【請求項25】
請求項23に記載した脈管内人工補綴物であって、前記可逆的に変形可能な材料が、層構造(a laminar structure)を含む脈管内人工補綴物。
【請求項26】
請求項25に記載した脈管内人工補綴物であって、前記層構造が、 可逆的に変形可能な材料の層および放射線不透過性材料の層を含む脈管内人工補綴物。
【請求項27】
請求項1〜22の何れか1項に記載の脈管内人工補綴物であって、前記管状壁が、自己拡張する 材料から構築された脈管内人工補綴物。
【請求項28】
請求項27に記載した脈管内人工補綴物であって、前記自己拡張する 材料が、形状記憶合金を含む脈管内人工補綴物。
【請求項29】
患者の標的身体通路中の第1局在ポイントと第2局在ポイントとの間に局在する脈管内疾患状態を、請求項1〜28の何れか1項に記載の脈管内人工補綴物で脈管内封鎖する方法であって、以下の工程:
前記人工補綴物および カテーテルを、身体通路内に、前記身体通路のカテーテル法により挿入することと;
前記人工補綴物および カテーテルを、前記脈管内疾患状態が局在する標的身体通路に移動することと;
前記人工補綴物の遠位端が前記第1局在ポイントと実質的に揃うように前記人工補綴物の遠位端の位置を合わせることと;
前記人工補綴物の遠位端を、前記カテーテルに対して伸展させることと;
前記管状壁の遠位端が前記標的身体通路に対して圧着されるように、前記管状壁の遠位端に放射状の外向きの膨張力を働かせることと;
前記カテーテルに対して前記人工補綴物の近位部分を固定することと;
前記カテーテルを後退させることにより、前記管状壁の伸展可能部分を、前記人工補綴物の近位端が前記第2局在ポイントと実質的に揃うまで縦に伸展させることと;
前記カテーテルに対して前記人工補綴物を自由にすることと;
前記脈管内人工補綴物の近位端を暴露するために、前記カテーテルを後退させることと;並びに
前記管状壁の近位端が前記標的身体通路に対して圧着されるように、前記管状壁の近位端に放射状の外向きの膨張力を働かせることと;
を含む方法。
【請求項30】
請求項29に記載した方法であって、大動脈疾患状態が、大動脈解離を含む方法。
【請求項31】
請求項29に記載した方法であって、大動脈疾患状態が、閉鎖性胸部損傷を含む方法。
【請求項32】
請求項29に記載した方法であって、大動脈疾患状態が、大動脈硬化症を含む方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate

【図10】
image rotate

【図11】
image rotate

【図12】
image rotate

【図13】
image rotate

【図14】
image rotate

【図15】
image rotate

【図16】
image rotate

【図17】
image rotate

【図18】
image rotate

【図19】
image rotate

【図20】
image rotate

【図21】
image rotate

【図22】
image rotate

【図23】
image rotate

【図24】
image rotate

【図25】
image rotate


【公開番号】特開2010−110633(P2010−110633A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2009−287549(P2009−287549)
【出願日】平成21年12月18日(2009.12.18)
【分割の表示】特願2002−542302(P2002−542302)の分割
【原出願日】平成13年11月19日(2001.11.19)
【出願人】(507248619)エビーシオ・メディカル・デバイセズ・ユーエルシー (7)
【出願人】(303046510)
【Fターム(参考)】