説明

脱亜鉛装置および脱亜鉛方法

【課題】極めて安価で確実な脱亜鉛を可能とする脱亜鉛装置および脱亜鉛方法を提供する。
【解決手段】 スクラップ鋼板41を投入するための投入口を有し、脱亜鉛装置2の外側の容器となる誘導加熱容器50と、誘導加熱容器50の外周に巻回され、高周波電源装置に接続された誘導加熱コイル60,61と、誘導加熱容器50の中心に立設された中空状の棒体である合金鋼製の中空パイプ70とを備え、容器内は炭素含有材料42の投入等によって還元雰囲気とされ、中空パイプ70には亜鉛蒸気等を外部へ排出するためのスリット71,72,73が形成されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、亜鉛メッキ鋼板を加熱して亜鉛を蒸発させて除去する誘導加熱方式の脱亜鉛装置および脱亜鉛方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、鋳物業界においては、スクラップ鋼板を溶解して鋳鉄の原材料とする割合が増えており、再利用されるスクラップ鋼板の代表的なものに亜鉛メッキ鋼板がある。スクラップ鋼板の溶解手段としては電気炉溶解法が常用されているが、これにより亜鉛メッキ鋼板を溶解する場合には種々の問題がある。例えば、亜鉛メッキ鋼板をそのまま溶解すると、亜鉛が炉の耐火物を浸透通過して加熱コイルを損傷させ、溶解設備の寿命を縮めることになって保全費を増加させてしまう。また、亜鉛は沸点が低くて蒸発しやすく、亜鉛蒸気による作業環境の悪化を招いたり、亜鉛が製品に混入されて品質を劣化させてしまったりすることもある。
【0003】
このような問題に対して、亜鉛メッキ鋼板の溶解前に予め亜鉛を溶融分離させるべく、真空加熱式脱亜鉛設備による前処理を亜鉛メッキ鋼板に施すことが一般的に行われている。
【0004】
また、特許文献1に示されるような誘導加熱式脱亜鉛装置も提案されている。この誘導加熱式脱亜鉛装置によれば、加熱コイルに通電して亜鉛メッキ鋼板を誘導加熱して亜鉛を溶融させるとともに、溶融した亜鉛の一部が蒸発して生じる亜鉛華を材料排出口から外部に排気することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−83676号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の装置では、加熱筒の中央部分に位置する亜鉛メッキ鋼板にまで熱が行きわたらず、亜鉛の除去が不十分かつ亜鉛が酸化された状態で誘導溶解炉に搬送され、亜鉛が製品に混入してしまうおそれがある。特に、処理中の亜鉛は大気に触れると酸化しやすく、歪な形状をした鋼板屑表面で酸化亜鉛が生成されると、酸化亜鉛の粉末が蓄積されてしまい、篩にかけたり振動を加えたりしても容易に除去できなくなるという問題がある。また、酸化亜鉛の昇華点は約1725℃で、鉄の融点(約1535℃)をも超えており、上記装置で酸化亜鉛を揮発除去することは困難である。
【0007】
一方、亜鉛除去の点では有効な真空加熱式脱亜鉛設備には、設備費用が高価で、多大な設置スペースも確保しなければならず、真空度を維持するためのメンテナンス費用も必要となり、導入コストだけでなくランニングコストも高くなる傾向にある。すなわち、専用の大規模な施設で集中的に脱亜鉛処理を行う上では真空加熱式脱亜鉛設備が適しているものの、中小規模の鋳物工場における脱亜鉛処理としては不適である。また、専用の施設で高温加熱により脱亜鉛処理が施されたスクラップ鋼板は、トラック等による鋳物工場への搬送のために冷却しなければならず、鋳物工場で溶解原料として使用されるときには、ほぼ室温にまで戻っている。つまり、脱亜鉛処理のために要した熱エネルギーは全く無駄になっており、エネルギー効率の点でもロスの大きい設備になっている。
【0008】
そこで、本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、極めて安価で確実な脱亜鉛を可能とし、鋳物工場にも導入可能な省スペース型の脱亜鉛装置および脱亜鉛方法を提供することを目的とする。また、脱亜鉛処理のために要する熱エネルギーを効率的に利用し、エネルギーロスの少ない脱亜鉛装置および脱亜鉛方法を提供することをも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記の課題を解決するため、本発明に係る脱亜鉛装置は、亜鉛メッキ鋼板を投入するための投入口を有する加熱容器と、前記加熱容器の外周に巻回され、加熱電源に接続された加熱コイルと、前記加熱容器の内部に立設された棒体とを備えることを特徴とする。
【0010】
これによれば、極めて簡易な設備で構成され、その設置面積も小さくできるので、真空加熱式脱亜鉛設備と比べて導入コストが安価で鋳物工場への導入も可能な、省スペース型の脱亜鉛装置を実現することができる。また、装置内部に立設された棒体が熱を帯びて装置内部から亜鉛メッキ鋼板を加熱するので、装置内に熱を行きわたらせ、均一な加熱が可能となり確実な亜鉛除去に資する脱亜鉛装置が実現される。さらに、本装置は、鋳物工場における鋼板溶解の前処理設備として利用することができ、加熱が施された鋼板をそのまま溶解工程へと移行させることで、脱亜鉛処理に要した熱エネルギーを無駄にすることなく活用することも可能となる。
【0011】
ここで、前記棒体は、誘導加熱に対する親和性を有する素材とするのが好ましく、前記棒体は中空状で、棒体内部に通じる削孔部を備えており、前記脱亜鉛装置は、さらに、前記削孔部から中空状の棒体を介して容器内の気体を外部へ排出する排気手段を備えるのが好ましい。
【0012】
これによれば、亜鉛メッキ鋼板自体の発熱のみならず、装置内部の棒体が誘導加熱されやすくなり、装置内へ熱を行きわたらせやすくなるとともに、中空状の棒体の削孔部から中空状の棒体を介して装置内部の亜鉛蒸気が排出され、棒体が亜鉛蒸気の排出路として機能することとなる。
【0013】
また、前記加熱コイルを複数備え、各加熱コイルがそれぞれ異なる温度で加熱するのが好ましく、複数の加熱コイルのうち、下方に位置する加熱コイルの方が高温で加熱するのがより好ましい。
【0014】
これによれば、亜鉛メッキ鋼板への加熱温度を段階的に設定することができ、亜鉛メッキ鋼板の状態に応じて効率的な加熱が可能な脱亜鉛装置が実現される。
【0015】
さらに、脱亜鉛装置は、前記加熱コイルを複数備え、各加熱コイルにそれぞれ異なる周波数で通電するとしてもよい。
【0016】
これによれば、異なる周波数で加熱コイルへ通電するので、昇温速度や消費電力、装置内の均熱化を考慮して加熱条件を設定することが可能となる。
【0017】
また、前記削孔部が複数形成され、前記棒体の上部から下部に向けて削孔部の径又は/及び数が異なるとするのも好ましい。
【0018】
これによれば、削孔部の径や数を変えることで吸引される亜鉛蒸気の量を調整することができ、装置内の位置に応じて温度や還元雰囲気を設定することが可能な脱亜鉛装置が実現される。
【0019】
また、前記棒体が、加熱容器の内部に複数立設されているとすることにより、装置内における加熱をさらに均一なものとすることができる。また、複数本ないし一本の棒体を、加熱コイルからの距離が遠く亜鉛メッキ鋼板が加熱されにくい加熱容器中心部に立設して棒体が発熱することにより、その伝熱によって周囲の亜鉛メッキ鋼板の加熱を促し、コイルに近い亜鉛メッキ鋼板との温度のばらつきを抑制することができる。
【0020】
ここで、前記脱亜鉛装置は、さらに、加熱容器の下方に、亜鉛が除去された鋼板を所定量ずつ装置外へ排出する排出手段を備えることにより、バッチ連続式にスクラップ鋼板の脱亜鉛処理が可能な脱亜鉛装置が実現される。
【0021】
またさらに、前記加熱容器は、メタル容器であり、亜鉛メッキ鋼板と接する内壁を絶縁断熱材とすることもできる。メタル容器の側面の一部は縦方向に絶縁断熱材で区切ることにより、円周方向に誘導電流が流れるのを抑制することもできる。
【0022】
これにより、局所加熱による加熱容器の溶融や劣化、加熱容器の内側と亜鉛メッキ鋼板との導通によるスパークを防止するので、脱亜鉛装置は耐摩耗性に優れたものとなる。さらにメタル容器の急激な加熱を防ぐこともできる。
【0023】
また、本発明は、亜鉛メッキ鋼板を加熱して亜鉛を蒸発させて除去する脱亜鉛方法であって、亜鉛メッキ鋼板を投入するための投入口を有する加熱容器に亜鉛メッキ鋼板と炭素含有材料とを投入し、前記加熱容器の外周に巻回され、加熱電源に接続された加熱コイルによる亜鉛メッキ鋼板の誘導加熱と、前記加熱容器の内部に中空状の棒体を立設し、当該棒体が帯びる熱による加熱とで、投入された亜鉛メッキ鋼板の亜鉛を蒸発させて除去し、前記投入された炭素含有材料を容器内の酸素と反応させて一酸化炭素ガスを発生させることによって容器内を還元雰囲気として亜鉛の酸化を抑制し、前記棒体に形成した削孔部から、中空状の棒体の内側を介して、前記蒸発させた亜鉛と前記発生させた一酸化炭素ガスとを外部へ排出することを特徴とする脱亜鉛方法として実現することもできる。炭素含有材料としては、コークス、加炭材、石炭等が好適である。また、炭素含有材料は、亜鉛メッキ鋼板とともに投入口から投入する以外にも、予め加熱容器内に炭素棒などを固定し、その消耗度合いに応じて適宜取り換えられるようにしてもよい。
【0024】
また、この脱亜鉛方法としては、還元雰囲気を調整するための気体を前記加熱容器内に通気するのが好ましく、前記蒸発させた亜鉛及び前記発生させた一酸化炭素ガスの外部への排出方向に向けて、前記棒体内を通風するのがより好ましい。
【0025】
これによれば、装置内を還元雰囲気に保って酸化亜鉛の発生を抑えつつ、装置内部で亜鉛メッキ鋼板を均一に加熱するので、効率よく確実な亜鉛除去が実現可能となる。
【発明の効果】
【0026】
このように、本発明に係る脱亜鉛装置および脱亜鉛方法によれば、簡易な設備で構成されるから、設置面積が少なく、安価なコストで済み、鋳物工場へ容易に導入することができる。また、加熱容器の内部に立てられた棒体が装置内側から外側へ向けて加熱する役割を果たすので、炉内中央部分に投入された亜鉛メッキ鋼板にまで十分な熱を加えることができ、確実な亜鉛除去を実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】脱亜鉛装置の概略を示す図である。
【図2】中空パイプの構成例を示す図である。
【図3】第2実施形態に係る脱亜鉛装置の概略を示す図である。
【図4】第2実施形態に係る脱亜鉛装置の内部構造を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明に係る脱亜鉛装置および脱亜鉛方法について図を参照しながら説明する。
【0029】
図1は、脱亜鉛装置の概略を示す図である。
【0030】
脱亜鉛装置1は、亜鉛メッキ鋼板を加熱して亜鉛を蒸発させる誘導加熱式の脱亜鉛炉であり、誘導加熱容器10、誘導加熱コイル20及び中空パイプ30を備えている。
【0031】
誘導加熱容器10は、スクラップ鋼板41を加熱するための容器である。この誘導加熱容器10は、上部にスクラップ鋼板41と炭素含有材料42とを投入するための投入口を備えており、投入後の加熱処理によって発生する亜鉛蒸気等が容器上部から漏出しないようにするとともに投入口から装置内へ空気が入ることで投入口付近のスクラップ鋼板41に酸化亜鉛を発生させないようにするために、容器上部を密閉する容器蓋11を備えている。また、加熱処理後のスクラップ鋼板を排出するために容器を傾動させる傾動機構12も備えている。
【0032】
誘導加熱コイル20は、誘導加熱容器10の外周に巻回されており、誘導加熱電源(図示せず)に接続されている。誘導加熱電源として0.5〜10kHzの高周波電源装置を用い、誘導加熱電源から誘導加熱コイル20へ通電すると、投入口から誘導加熱容器10内へ投入されたスクラップ鋼板41が誘導加熱されることとなる。
【0033】
中空パイプ30は、誘導加熱容器10内に立てられる中空状の棒体である。中空パイプ30は、亜鉛蒸気の排出口となる孔をあけて削孔部、すなわちスリット31が形成されており、装置下部からパイプ内を吸気し、スリット31から装置内部の亜鉛蒸気やダストを中空パイプ30内を介して外部へ排出するようになっている。ここで、中空パイプ30は、図2に示すように、外管32と内管33との二重管として内管33より吸引排気する構造とすることもできる。この場合、内管33で吸引した分だけ外管32より空気が流入し(図2のA方向)、管内で加熱された後、亜鉛と一酸化炭素を酸化させて内管33より酸化亜鉛と二酸化炭素の形態で排出する(図2のB方向)。また、この中空パイプ30は、誘導加熱されやすい素材、すなわち、誘導加熱に対する親和性を有する素材で構成されており、容器内部の温度上昇に伴いパイプ自体も熱を帯びる。この中空パイプ30の伝熱により、パイプ近傍のスクラップ鋼板41を加熱するので、容器内の熱が届きにくい箇所に投入されたスクラップ鋼板41の加熱を促進させることができる。
【0034】
このように、脱亜鉛装置1は、極めて簡易な設備で構成されており、その設置面積も小さくすることができる。したがって、真空加熱式脱亜鉛設備と比べて導入コストが安価で、かつ、多大な設置スペースも不要であるから、鋳物工場などへ容易に導入することが可能で、鋳物工場における鋼板溶解の前処理設備として利用することができる。すなわち、加熱が施されて傾動機構12から排出される処理後のスクラップ鋼板をそのまま溶解工程へと移行させることができるので、脱亜鉛処理に要した熱エネルギー(誘導加熱コイル20による加熱)を無駄にすることなく、その熱エネルギーを活用することもできる。
【0035】
また、容器内にスクラップ鋼板41だけでなく炭素含有材料42も投入し、装置上部を密閉する容器蓋11を備えていることにより、容器内を還元雰囲気として酸化亜鉛の発生を抑制することができる。
【0036】
さらに、誘導加熱容器10内に立設された中空パイプ30は、加熱処理によってスクラップ鋼板から除去される油分や水分、亜鉛蒸気の他に、投入された炭素含有材料の炭素が容器内の酸素と反応して発生させる一酸化炭素ガスや炭酸ガスを吸気して外部へ排出する。それだけでなく、パイプそのものが熱を帯びるので、容器内部から熱が伝わりにくい箇所に投入されたスクラップ鋼板41へ加熱することができる。
【0037】
次に、上記の脱亜鉛装置よりも脱亜鉛処理について好適な改良を加えた第2実施形態の脱亜鉛装置について説明する。
【0038】
図3は、第2実施形態に係る脱亜鉛装置の概略を示す図であり、図4は、その内部構造を示す図である。
【0039】
脱亜鉛装置2は、上記の脱亜鉛装置1と同様に、誘導加熱容器50、誘導加熱コイル60,61及び中空パイプ70を備えている。
【0040】
誘導加熱容器50は、スクラップ鋼板41を加熱するための容器で、上部にスクラップ鋼板41を投入するための投入口を備えており、脱亜鉛装置2の外側の容器となる点で、上記の誘導加熱容器10と共通する。しかし、この誘導加熱容器50は、上方から順に予熱槽51、第1加熱槽52、第2加熱槽53および調整槽54に分けられる点で、上記の誘導加熱容器10と異なる。
【0041】
予熱槽51は、その下方に位置する第1加熱槽52から伝わる熱によってスクラップ鋼板41を加熱するための槽である。この予熱槽51における500℃程度までの温度の熱でスクラップ鋼板41に含まれる水分や油分などが除去される。
【0042】
第1加熱槽52は、第1加熱槽52の外周に巻回された誘導加熱コイル60による誘導加熱でスクラップ鋼板41を加熱するための槽である。この第1加熱槽52においては、約500℃〜900℃の温度の熱でスクラップ鋼板41に含まれる亜鉛が除去される。
【0043】
第2加熱槽53は、第2加熱槽53の外周に巻回された誘導加熱コイル61による誘導加熱でスクラップ鋼板41を加熱するための槽である。この第2加熱槽53においては、第1加熱槽52で除去されなかったスクラップ鋼板41中の亜鉛、例えば、溶融して滴下した亜鉛などが約900℃〜1100℃の温度の熱によって除去されることになる。
【0044】
調整槽54は、加熱処理後のスクラップ鋼板41を保持・冷却したり、装置内の雰囲気を調整したりするための槽である。亜鉛が除去されたスクラップ鋼板41は、調整槽54で一定時間保持されて冷却された後、プッシャー等によって排出部55から所定量ずつ装置外へと排出される。また、調整槽54は、通気調整バルブ56を備えており、装置内の一酸化炭素ガス濃度や還元雰囲気を調整するために、ここから不活性ガスや空気等の気体が取り込まれるようになっている。
【0045】
このように構成される誘導加熱容器50内にスクラップ鋼板41を投入して加熱処理を施す。このとき、容器内へはスクラップ鋼板41と共に炭素含有材料42も投入される。容器内に炭素含有材料42を投入することにより、容器内部を還元雰囲気として酸化亜鉛の発生を減少させることができる。すなわち、炭素が容器内の酸素と反応して一酸化炭素ガスや炭酸ガスとなって、後述する中空パイプ70を介して外部へと排出されるので、容器内は低酸素状態となり、溶融した亜鉛の酸化を防ぐことができる。なお、調整槽54の通気調整バルブ56から空気が取り込まれるようになっていることから、下方に位置する第2加熱槽53、第1加熱槽52の順番に酸素が一酸化炭素ガス等となって排出されていき、容器の上方へ向かうほど低酸素、つまり還元雰囲気が強まることとなる。
【0046】
ここで、誘導加熱容器50は、マグネシアなどのセラミックスを材質として用いてもよいし、ステンレス(例えば、SUS310)などのメタル容器としてもよい。メタル容器は、セラミックスよりも耐摩耗性に優れており、運転保守の点で有利である。ただ、メタル容器の場合は局所加熱による溶融や劣化、加熱容器内側とスクラップ鋼板41との導通によるスパークの発生が懸念されるため、これを防止するために容器の内壁として絶縁断熱材57(例えば、雲母など)を設けるのが好ましい。
【0047】
誘導加熱コイル60,61は、誘導加熱容器50の外周に巻回されており、誘導加熱電源(図示せず)に接続されている。誘導加熱電源として0.5〜10kHzの高周波電源装置を用い、誘導加熱電源から誘導加熱コイル60,61へ通電すると、投入口から誘導加熱容器50内へ投入されたスクラップ鋼板41が誘導加熱されることとなる。
【0048】
誘導加熱コイルへの通電に際して、その周波数が高いほど目標とする温度への上昇率が優れており、総消費電力も少なくなる傾向がある。反対に周波数が低くなるほど装置内における均熱化が図られる傾向がある。第1加熱槽52における加熱では、装置内のスクラップ鋼板41に含まれる亜鉛が溶融して下方へ滴下するのを防ぐ目的で、なるべく早く亜鉛蒸気として装置外へ排出できるようにするために、急速な昇温が必要である。また、第2加熱槽53における加熱では、残存する亜鉛を確実に除去する必要がある一方で、局所加熱による鉄の溶融固着を防ぐために、装置内の均熱化が重要となる。以上のことを鑑みて、第2加熱槽53に巻回される誘導加熱コイル61における周波数は、第1加熱槽52に巻回される誘導加熱コイル60と同等かそれ以下の周波数とするのが好ましい。具体的には誘導加熱コイル60への通電は、周波数1〜10kHzとし、誘導加熱コイル61への通電は、周波数0.5〜5kHzとするのが好ましい。
【0049】
中空パイプ70は、誘導加熱容器50の中央に立てられる中空状の棒体である。中空パイプ70は、亜鉛蒸気の排出口となる孔をあけて削孔部が形成されており、装置下部から突き出して上方へ向けて空気などが通風されており、装置上方からはパイプ内を吸気して亜鉛蒸気を外部へ排出するようになっている。本実施の形態では、予熱槽51に対応する位置にスリット71、第1加熱槽52に対応する位置にスリット72、第2加熱槽53に対応する位置にスリット73を削孔部として形成した例を示している。また、装置の下へ行くほど亜鉛蒸気の発生量が多くなることを考慮して、装置上方から順にスリット71,72,73の径を大きくして装置内の亜鉛蒸気の吸引量が下になるほど多くなるようにしている。なお、削孔部の形状は縦長のスリットに限られるものではなく、複数個の円形状の孔を形成するとしてもよい。また、上方から下方にかけて径を大きくするのではなく孔の数だけを増やすこととしてもよいし、径を小さくして数を増やすこととしてもよい。
【0050】
この中空パイプ70は、上記の脱亜鉛装置1の場合と同様に、誘導加熱に対する親和性を有する素材、例えば、合金鋼(ステンレスや耐熱鋼など)で構成されており、容器内部の温度が上昇するにつれてパイプ自体も加熱される。800℃以上の熱を帯びたパイプは、その伝熱によって、容器内のスクラップ鋼板41を容器の内側から加熱するので、誘導加熱されにくい容器の中央部分に投入されたスクラップ鋼板の加熱を促進させ、装置内の鋼板全体の昇温速度向上に寄与する。なお、中空パイプ70として使用されるステンレスは、例えば、オーステナイト系ステンレス(SUS310)、オーステナイト−フェライト2相系ステンレス(SUS329)やフェライト系ステンレス(SUS430)である。さらに、誘導加熱容器50の中央に立設された中空パイプ70に温度センサを併設すれば、誘導加熱容器50の外周付近だけでなく容器中央付近の温度を計測することも可能となる。容器中央付近の温度計測値に基づいて亜鉛蒸気の吸引量を調整する等によって容器内の温度を制御することができ、容器内の均熱化を図ることもできる。
【0051】
このように構成される脱亜鉛装置2におけるスクラップ鋼板の脱亜鉛処理手順は、次のようになる。
【0052】
まず、亜鉛メッキされたスクラップ鋼板41と炭素含有材料42とを誘導加熱容器50へ投入する。
【0053】
投入されたスクラップ鋼板41は、予熱槽51において、下方に位置する第1加熱槽52から伝わる熱と、熱を帯びた中空パイプ70の熱とで、水分や油分などが除去される。除去された水分などは、中空パイプ70のスリット71から装置外へと排出される。なお、予熱槽51では、前に投入されている炭素含有材料が下方の槽で酸素と反応しているため、極めて強い還元雰囲気となっており、酸化亜鉛が生じることはほとんどない。また、予熱槽51は、誘導加熱コイル60から遠くなるほど温度が低下し、投入口付近の槽内温度は低くなるので、投入口近傍のスクラップ鋼板41の油分や蒸気は投入口から出ていかず、空気に触れても発火するおそれがなく、安全性が保たれている。
【0054】
予熱槽51で水分や油分が除去されたスクラップ鋼板41は、処理済みのスクラップ鋼板が排出部55から装置外へと排出されると第1加熱槽52に落下移動して、ここで加熱処理が施される。第1加熱槽52では、誘導加熱コイル60からの誘導加熱と、熱を帯びた中空パイプ70の熱によって、加炭材、コークス、石炭や炭素電極屑などの炭素含有材料と酸素の反応で生成される一酸化炭素ガスを主体とする還元雰囲気下で概ね500〜900℃の温度に加熱されることにより、亜鉛蒸気が生成されて中空パイプ70のスリット72から装置外へと排出される。なお、第1加熱槽52では、前に投入されている炭素含有材料が下方の第2加熱槽53で酸素と反応しているため、強い還元雰囲気が保たれている。
【0055】
第1加熱槽52における加熱処理後に、スクラップ鋼板41は、上記同様に処理済みのスクラップ鋼板が排出されると第2加熱槽53に落下移動して、ここで加熱処理が施される。第2加熱槽53では、誘導加熱コイル61からの誘導加熱と、熱を帯びた中空パイプ70の熱とで、概ね900〜1100℃の温度に加熱されることにより、鉄・亜鉛合金などを形成して蒸気圧が低くなり第1加熱槽52で除去しきれず残存していた亜鉛成分が揮発除去される。また、第2加熱槽53における加熱は高温であるため、第1加熱槽52で揮発せずに溶融亜鉛として第2加熱槽53に滴下した場合でも、第2加熱槽53にて揮発させることができ、亜鉛蒸気として中空パイプ70のスリット73から装置外へと排出することが可能である。
【0056】
その後、第2加熱槽53で亜鉛が除去されたスクラップ鋼板41は、調整槽54で保持・冷却されてから、排出部55から所定量ずつ装置外へ排出される。
【0057】
このような手順でバッチ連続式にスクラップ鋼板の脱亜鉛処理を行う構成とすることで、極めて安価で確実な脱亜鉛が可能となる。
【0058】
以上説明したように、本実施の形態に係る脱亜鉛装置は、加熱容器と、加熱容器の中央に立てられる中空状の棒体であるパイプ、加熱容器に巻回された加熱コイルと、加熱コイルに通電するための高周波電源装置などの簡易な設備であるから、真空加熱式脱亜鉛設備と比して極めて安価なコストで済み、設置面積も小さくて済むので、省スペース型の脱亜鉛装置として鋳物工場へも容易に導入することができる。また、装置内を還元雰囲気として酸化亜鉛をなるべく生じさせないようにしているので、スクラップ鋼板そのものを溶解させることのない温度での亜鉛の確実な除去を実現できる。そして、本実施の形態に係る脱亜鉛装置では、装置の中央部に立設された棒体が亜鉛蒸気の排出路として機能するとともに装置の中心からスクラップ鋼板を加熱する。すなわち、誘導加熱コイル60,61による誘導加熱容器50外側からの加熱(図4のA方向)と、中空パイプ70による装置内側からの加熱(図4のB方向)とによって、容器の中央部分近傍に投入されたスクラップ鋼板41にまで熱を行きわたらせることができるので、亜鉛の確実な除去が可能となる。特に、低温になりがちな容器の中央部分に中空パイプ70を配置することによって、中央部分にスクラップ鋼板が滞留することがなくなるとともに中空パイプからの加熱によりスクラップ鋼板が熱せられるので、加熱容器内の急速昇温及び均熱化が実現可能となる。また、亜鉛蒸気の排出路となる中空パイプが熱せられることにより、パイプ内に亜鉛蒸気が付着することもないので、保守コストに優れた脱亜鉛装置を実現することができる。さらに、容器の外周付近の温度だけでなく、容器の中央部分に立設したパイプを利用して容器中央部の温度も計測することもできるので、容器内の温度制御も可能となる。
【0059】
以上、本発明に係る脱亜鉛装置および脱亜鉛方法について、実施の形態に基づいて説明したが本発明はこれに限定されるものではなく、本発明の目的を達成でき、かつ発明の要旨を逸脱しない範囲内で種々設計変更が可能であり、それらも全て本発明の範囲内に包含されるものである。
【0060】
例えば、上記実施の形態では、1本の中空パイプを容器中心に立設するとしているが、容器内部であれば中心でなくてもよく、複数本のパイプを立設することとしてもよい。
【0061】
また、上記実施の形態では、中空パイプを合金鋼製としたが、誘導加熱されるものであれば合金鋼に限られるものではなく、合金元素が添加されていない鉄や炭素鋼、炭化珪素やカーボンなどを用いてもよい。
【0062】
さらに、スリットを形成した中空状ではないパイプを立てて、容器内の急速昇温及び均熱化のみを実現することとし、容器内の亜鉛蒸気等は容器上部に開口部を設けて、そこから排気する構成とすることも可能である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明に係る脱亜鉛装置は、亜鉛メッキがされたスクラップ鋼板の亜鉛除去装置として好適である。
【符号の説明】
【0064】
1,2 脱亜鉛装置
10,50 誘導加熱容器
11 容器蓋
12 傾動機構
20,60,61 誘導加熱コイル
30,70 中空パイプ
31,71,72,73 スリット
32 外管
33 内管
41 スクラップ鋼板
42 炭素含有材料
51 予熱槽
52 第1加熱槽
53 第2加熱槽
54 調整槽
55 排出部
56 通気調整バルブ
57 絶縁断熱材

【特許請求の範囲】
【請求項1】
亜鉛メッキ鋼板を投入するための投入口を有する加熱容器と、
前記加熱容器の外周に巻回され、加熱電源に接続された加熱コイルと、
前記加熱容器の内部に立設された棒体とを備える
ことを特徴とする脱亜鉛装置。
【請求項2】
前記棒体は、誘導加熱に対する親和性を有する素材である
ことを特徴とする請求項1記載の脱亜鉛装置。
【請求項3】
前記棒体は中空状で、棒体内部に通じる削孔部を備えており、
前記脱亜鉛装置は、さらに、
前記削孔部から中空状の棒体を介して容器内の気体を外部へ排出する排気手段を備える
ことを特徴とする請求項1又は2記載の脱亜鉛装置。
【請求項4】
前記加熱コイルを複数備え、
各加熱コイルがそれぞれ異なる温度で加熱する
ことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の脱亜鉛装置。
【請求項5】
複数の加熱コイルのうち、下方に位置する加熱コイルの方が高温で加熱する
ことを特徴とする請求項4記載の脱亜鉛装置。
【請求項6】
前記加熱コイルを複数備え、
各加熱コイルにそれぞれ異なる周波数で通電する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか1項に記載の脱亜鉛装置。
【請求項7】
前記削孔部が複数形成され、
前記棒体の上部から下部に向けて削孔部の径又は/及び数が異なる
ことを特徴とする請求項3記載の脱亜鉛装置。
【請求項8】
前記棒体が、加熱容器の内部に複数立設されている
ことを特徴とする請求項1〜7のいずれか1項に記載の脱亜鉛装置。
【請求項9】
前記棒体は、前記加熱容器の中心に立設されている
ことを特徴とする請求項1〜8のいずれか1項に記載の脱亜鉛装置。
【請求項10】
前記脱亜鉛装置は、さらに、
加熱容器の下方に、亜鉛が除去された鋼板を所定量ずつ装置外へ排出する排出手段を備える
ことを特徴とする請求項1〜9のいずれか1項に記載の脱亜鉛装置。
【請求項11】
前記加熱容器は、メタル容器であり、亜鉛メッキ鋼板と接する内壁を絶縁断熱材とした
ことを特徴とする請求項1〜10のいずれか1項に記載の脱亜鉛装置。
【請求項12】
亜鉛メッキ鋼板を加熱して亜鉛を蒸発させて除去する脱亜鉛方法であって、
亜鉛メッキ鋼板を投入するための投入口を有する加熱容器に亜鉛メッキ鋼板と炭素含有材料とを投入し、
前記加熱容器の外周に巻回され、加熱電源に接続された加熱コイルによる亜鉛メッキ鋼板の誘導加熱と、前記加熱容器の内部に中空状の棒体を立設し、当該棒体が帯びる熱による加熱とで、投入された亜鉛メッキ鋼板の亜鉛を蒸発させて除去し、
前記投入された炭素含有材料を容器内の酸素と反応させて一酸化炭素ガスを発生させることによって容器内を還元雰囲気として亜鉛の酸化を抑制し、
前記棒体に形成した削孔部から、中空状の棒体の内側を介して、前記蒸発させた亜鉛と前記発生させた一酸化炭素ガスとを外部へ排出する
ことを特徴とする脱亜鉛方法。
【請求項13】
還元雰囲気を調整するための気体を前記加熱容器内に通気する
ことを特徴とする請求項12記載の脱亜鉛方法。
【請求項14】
前記蒸発させた亜鉛及び前記発生させた一酸化炭素ガスの外部への排出方向に向けて、前記棒体内を通風する
ことを特徴とする請求項12又は13記載の脱亜鉛方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2011−42850(P2011−42850A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−192988(P2009−192988)
【出願日】平成21年8月24日(2009.8.24)
【出願人】(000225027)特殊電極株式会社 (26)
【出願人】(000213297)中部電力株式会社 (811)
【Fターム(参考)】