説明

脱硝触媒の劣化予測方法、劣化対策方法、劣化対策システム及び排ガス処理システムの設計方法

【課題】排ガス等の脱硝システムにおける脱硝触媒の活性劣化を予測する。
【解決手段】燃焼機器102からの排ガスにアンモニア系物質を添加して脱硝触媒104で窒化酸化物の分解を行う排ガス処理において、硫黄酸化物による脱硝触媒104の劣化を少なくとも温度と硫黄酸化物の酸化率との関係に基づいて予測する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、脱硝触媒の劣化予測方法、劣化対策方法、劣化対策システム及び排ガス処理システムの設計方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ディーゼルエンジンやガスタービン等の燃焼機関の排ガス中に含まれる窒素酸化物を除去する脱硝装置が用いられている。脱硝方法として、排ガス通路に設けたチタン・バナジウム系の触媒に還元剤となるアンモニアを供給することによって窒素酸化物(NOx)と反応させ、化学式(1)のように、水と窒素に分解するアンモニア選択接触還元法(SCR法)が知られている。また、排ガス通路に尿素を噴射し、化学式(2)のように尿素を分解することによってアンモニアを触媒へ供給する方法が採られている。
【化1】

【化2】

【0003】
このような脱硝装置において、未反応アンモニアによる酸性硫安析出により生ずる装置の閉塞又は硫黄酸化物SO3による腐食を防止することが必要とされている。
【0004】
例えば、硫黄分及びバナジウム(V)分を多く含む燃料を燃焼した排ガスを脱硝する場合において、脱硝装置の出口でSO3濃度の検出を行い、脱硝装置の運転時間の経過に伴ってSO3濃度の増加が認められれば、脱硝装置の運転温度を徐々に低下させるように排ガス温度を制御することでSO2酸化率を低いレベルに保ち、SO3の発生量を抑える技術が開示されている(特許文献1参照)。また、高い脱硝活性を有するとともに、副反応であるSO2の酸化を抑制できる排煙脱硝触媒及びその製造方法を提供する技術も開示されている(特許文献2参照)。
【0005】
ここで、特許文献1の図3及び特許文献2の表1では、SO2酸化率は排ガス温度の上昇と共に増加するとされている。
【0006】
また、窒素酸化物を含む排ガスの処理方法において、低温脱硝工程で脱硝触媒に蓄積する被毒物質である硫黄含有化合物を除去して再生する触媒再生工程を設け、低温脱硝工程と触媒再生工程を連続して少なくとも2回以上繰り返すことによって触媒を再生させる技術が開示されている(特許文献3参照)。
【0007】
また、脱硝装置における触媒の劣化を推定するための劣化推定方法についても開示されている(特許文献4,5参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平10−109017号公報
【特許文献2】特開2004−275852号公報
【特許文献3】特開2005−87815号公報
【特許文献4】特開2008−31940号公報
【特許文献5】特開平7−26944号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
ところで、脱硝触媒を利用した排ガス処理における触媒の劣化についての予測の精度は低く、さらに予測の精度を高めることが望まれている。しかしながら、予測の精度が低下する原因は不明であった。
【0010】
また、触媒の劣化の予測精度を高めることに伴って、劣化した触媒を再生させる技術も必要とされている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に対応した脱硝触媒の劣化予測方法は、燃焼機器からの排ガスにアンモニア系物質を添加して脱硝触媒で窒化酸化物の分解を行う排ガス処理において、硫黄酸化物による前記脱硝触媒の劣化を少なくとも温度と硫黄酸化物の酸化率との関係に基づいて予測する。これにより、脱硝触媒の劣化をより正確に予測することが可能となる。
【0012】
請求項2に対応した脱硝触媒の劣化予測方法では、前記温度と硫黄酸化物の酸化率との関係は、温度が上がるほどSO2酸化率が下がる関係とする。これにより、従来の温度と硫黄酸化物の酸化率との関係を用いた場合に比べて、脱硝触媒の劣化をより正確に予測することが可能となり、脱硝触媒の劣化対策を有効に行うことが可能となる。
【0013】
請求項3に対応した脱硝触媒の劣化予測方法では、前記脱硝触媒の劣化の予測値が予め定められた閾値を超えるときに前記排ガスの温度を上げる。排ガスの温度を上げる方法としては、例えば、燃焼機器への発電機の接続、排ガス加熱ヒータ等の加熱手段の利用、ガバナーによる燃焼機器の負荷の増加等が挙げられる。排ガス加熱手段としては、再加熱バーナ、電気式再加熱器、電気誘導加熱ヒータ等の加熱手段が挙げられる。これにより、脱硝触媒に堆積した硫安を除去し、劣化した脱硝触媒を復元することが可能となる。
【0014】
請求項4に対応した脱硝触媒の劣化対策システムは、燃焼機器と、前記燃焼機器からの排ガスを排出する排ガス通路と、前記排ガス通路に設けられた脱硝触媒と、前記排ガス通路における前記脱硝触媒と前記燃焼機器との間に設けられた前記排ガスにアンモニア系物質を添加するアンモニア系物質添加手段と、硫黄酸化物による前記脱硝触媒の劣化を少なくとも温度と硫黄酸化物の酸化率との関係に基づいて予測結果を導出する劣化予測手段と、を備える。これにより、脱硝触媒の劣化をより正確に予測することが可能となる。
【0015】
請求項5に対応した脱硝触媒の劣化対策システムでは、前記温度と硫黄酸化物の酸化率との関係は、温度が上がるほどSO2酸化率が下がる関係とする。これにより、従来の温度と硫黄酸化物の酸化率との関係を用いた場合に比べて、脱硝触媒の劣化をより正確に予測することが可能となり、脱硝触媒の劣化対策を有効に行うことが可能となる。
【0016】
請求項6に対応した脱硝触媒の劣化対策システムでは、前記劣化予測手段は、前記予測結果として前記脱硝触媒の下限活性にまで至る予測時間を導出する。これにより、脱硝触媒の将来的な劣化を予測することができ、脱硝触媒の復元処理やメンテナンス等の劣化対応処理を適切に行うことが可能となる。
【0017】
請求項7に対応した脱硝触媒の劣化対策システムでは、前記予測結果が予め定められた閾値を超えるときに警告を行う警告手段をさらに備える。警告手段は、例えば、ディスプレイに劣化予測時刻を呈示したり、警報器から音や光を発生させたりすることが挙げられる。これにより、ユーザに対して脱硝触媒の劣化を示すことができる。
【0018】
請求項8に対応した脱硝触媒の劣化対策システムでは、前記排ガスの温度を上昇させる排ガス加熱手段をさらに備え、前記劣化予測手段による前記予測結果が予め定められた閾値を超えるときに、前記排ガス加熱手段を作動させて前記排ガスの温度を上昇させる。前記排ガスの温度を上げる排ガス加熱手段としては、例えば、燃焼機器への発電機の接続、排ガス加熱ヒータ等の加熱手段の利用等が挙げられる。より具体的には、例えば、再加熱バーナ、電気式再加熱器、電気誘導加熱ヒータ等の加熱手段が挙げられる。これにより、脱硝触媒に堆積した硫安を除去し、劣化した脱硝触媒を復元することが可能となる。
【0019】
請求項9に対応した脱硝触媒の劣化対策システムでは、前記排ガス加熱手段は、前記燃焼機器の負荷を変更する負荷調節手段である。例えば、ガバナーによる燃焼機器の負荷の負荷調節手段を用いることができる。これにより、脱硝触媒に堆積した硫安を除去し、劣化した脱硝触媒を復元することが可能となる。
【0020】
請求項10に対応した排ガス処理システムの設計方法は、燃焼機器からの排ガスにアンモニア系物質を添加して脱硝触媒で窒化酸化物の分解を行う排ガス処理において、少なくとも温度と硫黄酸化物の酸化率との関係に応じた予測された硫黄酸化物による劣化に基づいて前記脱硝触媒を含む排ガス処理システムの設計を行う。これにより、脱硝触媒の劣化の予測を適切に考慮した脱硝触媒を含む排ガス処理システムを設計することができる。
【発明の効果】
【0021】
本発明の脱硝触媒の劣化予測方法及び劣化予測システムによれば、脱硝触媒の劣化と密接に関連する硫黄酸化物の酸化率との関係に基づき、脱硝触媒の劣化をより正確に予測することが可能となる。これにより、脱硝触媒の劣化に対する対策をより適切かつ有効に行うことができる。
【0022】
また、前記温度と硫黄酸化物の酸化率との関係として、温度が上がるほどSO2酸化率が下がる関係を用いたときには、従来の脱硝触媒の劣化よりも正確に脱硝触媒の劣化を予測することが可能となる。
【0023】
また、前記脱硝触媒の劣化の予測値が予め定められた閾値を超えるときに前記排ガスの温度を上げることによって、劣化した脱硝触媒を手動又は自動で活性化させることができる。
【0024】
また、前記脱硝触媒の下限活性にまで至る予測時間を導出した場合には、将来に亘る脱硝触媒の劣化をより正確に予測することが可能となる。これにより、脱硝触媒の将来的な劣化に対する対策をより適切かつ有効に行うことができる。
【0025】
また、前記予測結果が予め定められた閾値を超えるときに警告を行う警告手段をさらに備えた場合には、ユーザに対して脱硝触媒の劣化を適切に示すことができる。
【0026】
また、本発明の排ガス処理システムの設計方法によれば、脱硝触媒の劣化の予測を適切に考慮した脱硝触媒を含む排ガス処理システムを設計することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施の形態における脱硝システムの主要構成を示す図である。
【図2】窒素酸化物と還元剤との反応系を示す図である。
【図3】硫黄酸化物と還元剤との反応系を示す図である。
【図4】本発明の実施の形態における脱硝システムの構成を示す図である。
【図5】本発明の実施の形態における劣化予測処理を示すフローチャートである。
【図6】本発明の実施の形態における劣化予測処理を説明する図である。
【図7】反応温度と二酸化硫黄の酸化率との関係を示す図である。
【図8】硫黄析出物の析出量と脱硝触媒の脱硝活性及び/又はSO2酸化活性の活性度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明の実施の形態を、図面に従って説明する。図1は、本発明の実施の形態における排ガスの脱硝システム100の主要構成を示す。脱硝システム100は、図1に示すように、燃焼機器102、排ガス通路103、脱硝触媒104、還元剤供給部106及び劣化予測部108を含んで構成される。
【0029】
燃焼機器102は、内燃機関やガスタービン、例えば船舶用ディーゼル機関等である。脱硝システム100は、燃焼機器102から排出される排ガスに含まれる窒素酸化物を除去するために用いられる。
【0030】
脱硝触媒104は、排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)をアンモニアと反応させて分解するための触媒である。脱硝触媒104は、チタン・バナジウム系の金属が用いられる。例えば、バナジウム(V)、モリブデン(Mo)又はタングステン(W)を活性成分にした酸化チタンTiO2系触媒が使用される。脱硝触媒104は、排ガス通路103内に配置される。脱硝触媒104は、その反応面積を広くするために平板や触媒の細管を束ねた構造とすることが好ましい。例えば、ハニカム構造とすることが好適である。
【0031】
還元剤供給部106は、尿素タンク、ポンプ、尿素バルブ、コンプレッサ、空気バルブ、噴射ノズル及び配管を含んで構成することができる。還元剤供給部106は、噴射ノズルを介して尿素(尿素水)と空気とを排ガス通路103へ供給するために設けられる。例えば、尿素(尿素水)を還元剤として排ガス通路103内へ噴射し、化学式(2)で表される分解反応により生ずるアンモニアを脱硝触媒104の表面に供給する構成としている。尿素タンクは、尿素水((NH22CO+H2O)を蓄えるタンクである。ポンプは、尿素タンクと噴射ノズルとを接続する配管の途中に設けられる。ポンプは、尿素タンクに蓄えられている尿素水に圧力を与え、配管及び噴射ノズルを介して排ガス通路103へ尿素水を供給する。尿素バルブは、配管のポンプの下流に設けられ、ポンプによって加圧された尿素水の噴射ノズルへの供給・遮断を行う。コンプレッサは、噴射ノズルに繋がる配管の途中に設けられる。コンプレッサは、空気を加圧して配管を介して噴射ノズルへ供給する。なお、脱硝システム100を船舶に搭載する場合には、コンプレッサの代わりに船舶に設けられている空気配管の空気を利用してもよい。空気バルブは、配管のコンプレッサの下流に設けられ、コンプレッサによって加圧された空気の噴射ノズルへの供給・遮断を行う。噴射ノズルは、還元剤供給部106から排ガス通路103へ尿素水を噴射するためのノズルである。噴射ノズルは、配管の先端部を加工して形成され、又は配管の先端部に他部材を接続して構成される。噴射ノズルは、排ガス通路103内の脱硝触媒104よりも上流側に配設される。噴射ノズルは、尿素水と空気とを混合させて、適切な供給圧力によって排ガス通路103へ予め空気と混合された尿素水を噴射する。ただし、還元剤は尿素(尿素水)に限定されるものではない。
【0032】
劣化予測部108は、脱硝システム100の脱硝触媒104の劣化を予測する処理を行う。また、劣化予測部108は、予測結果に応じて、脱硝システム100の制御を行うものとしてもよい。劣化予測部108は、CPU、メモリ、入力装置、出力装置、外部インターフェース等を含む一般的なコンピュータで構成することができる。劣化予測部108は、CPUにてメモリに予め記憶させた劣化予測プログラムを読み出して実行することによって脱硝システム100の脱硝触媒104の劣化の予測処理及び劣化に対する対策処理を行う。劣化予測部108での処理は後述する。
【0033】
脱硝触媒104は、図2に示す化学反応系で表されるアンモニア等の還元剤と排ガス中の窒化化合物(NOx)との反応を促進する。排ガスには、一酸化窒素(NO)や二酸化窒素(NO2)等の窒素酸化物(NOx)が含まれ、還元剤供給部106から供給される尿素及び水との反応によって生成されたアンモニアと反応して、化学式(1)で示される反応によって水と窒素に分解される。
【0034】
また、排ガスにSO2等の硫黄酸化物が含まれる場合、脱硝触媒104は、図3に示す化学反応系で表される反応を促進する。排ガスに含まれる二酸化硫黄(SO2)は、還元剤供給部106から供給される尿素及び水との反応によって生成されたアンモニアと反応して、化学式(3)及び(4)で示される反応によって三酸化硫黄(SO3)や硫安((NH4)HSO4)が生成される。なお、化学式(4)の反応は、温度が低くなるにつれて左から右への反応が進行し易く、温度が高くなるにつれて右から左への反応が進行し易くなる平衡反応である。
【化3】

【化4】

【0035】
図4は、脱硝システム100のシステムブロック図を示す。脱硝システム100は、図4に示すように、排ガス流量計10、排ガス温度計12、窒素酸化物濃度計14,16、硫黄酸化物濃度計18、尿素量注入制御器20、尿素注入器22、発電機24、クラッチ26、排ガス加熱手段28、加熱ヒータ30、ガバナー等負荷調節器32、ディスプレイ34及び警報器36を含んで構成される。
【0036】
排ガス流量計10は、燃焼機器102から排出される排ガスの流量を計測して、劣化予測部108へ出力する。排ガス温度計12は、燃焼機器102から排出される排ガスの温度を計測して、劣化予測部108へ出力する。排ガス流量計10及び排ガス温度計12は、既存の流量センサや温度センサを使用することができる。また、排ガス流量計10及び排ガス温度計12は、燃焼機器102と脱硝触媒104との間の排ガス通路103に設けることが好適である。
【0037】
窒素酸化物濃度計14,16は、燃焼機器102から排出される排ガスに含まれる窒素酸化物(NOx)の濃度を測定して、劣化予測部108へ出力する。窒素酸化物濃度計14,16としては、化学発光式NOx計や定電圧電解式NOx計、ジルコニア固体電解質を利用した一般的なセンサ等を利用することができる。窒素酸化物濃度計14は、燃焼機器102と脱硝触媒104との間の排ガス通路103に配置され、脱硝触媒104の入口側の脱硝処理前の排ガス中の窒素酸化物の濃度を測定して出力する。窒素酸化物濃度計16は、脱硝触媒104の出口側に配置され、脱硝触媒104の出口側の脱硝処理後の排ガス中の窒素酸化物の濃度を測定して出力する。
【0038】
硫黄酸化物濃度計18は、燃焼機器102から排出される排ガスに含まれる硫黄酸化物(SOx)の濃度を測定して、劣化予測部108へ出力する。硫黄酸化物(SOx)としては、少なくともSO2の濃度を測定して出力する。硫黄酸化物濃度計18としては、固体電解質を用いるセンサや紫外線蛍光法(UVF法)を用いるセンサを利用することができる。硫黄酸化物濃度計18は、燃焼機器102と脱硝触媒104との間の排ガス通路103に配置され、脱硝触媒104の入口側の脱硝処理前の排ガス中の硫黄酸化物の濃度を測定して出力する。
【0039】
尿素量注入制御器20及び尿素注入器22は、還元剤供給部106を構成する要素である。尿素量注入制御器20は、劣化予測部108からの予測結果を受けて、尿素注入器22から排ガス通路103を介して脱硝触媒104へ排ガス中の窒素酸化物(NOx)を処理するのに適した尿素及び水の量を調整する。尿素注入器22は、先に説明したように尿素タンク、ポンプ、尿素バルブ、コンプレッサ、空気バルブ、噴射ノズル及び配管等を含んで構成され、尿素量注入制御器20によって制御された量の尿素水を排ガス通路103内へ噴射する。尿素注入器22の注入量の情報は、尿素量注入制御器20を介して劣化予測部108に伝えられる。劣化予測に当たっては、排ガス温度計12の温度、尿素注入制御器22の制御値又は実測値を用いることが好ましいが、排ガス流量計10、窒素酸化物濃度計14、硫黄酸化物濃度計18の各計測値は、燃焼機器102の燃焼負荷別マッピングデータ及び燃料油の油種情報(規定S濃度データ等)を利用し、各計測値を適宜省くこともできる。
【0040】
発電機24は、燃焼機器102から出力されるエネルギーを受けてステータによって形成される磁界中でロータを回転させて発電を行う。発電機24で得られた電気エネルギーは排ガス加熱手段28や加熱ヒータ30で利用するようにしてもよい。また、クラッチ26は、劣化予測部108からの制御信号を受けてクラッチの開閉を行い、燃焼機器102を発電機24へ接続した状態と接続しない状態とを切り換えるために用いられる。
【0041】
排ガス加熱手段28は、再加熱バーナや電気式再加熱器を含んで構成される。排ガス加熱手段28は、劣化予測部108からの制御信号を受けて、排ガス通路103を流れる排ガスを加熱するために設けられる。再加熱バーナは、燃料を気体中に拡散させることにより混合して高温で燃焼させ排ガスの温度を上昇させる。また、電気式再加熱器は、抵抗加熱ヒータ等に電気を通電することによって排ガスの温度を上昇させる。電気式再加熱器を用いる場合、発電機24から出力された電気を用いて加熱を行うことが好適である。
【0042】
加熱ヒータ30は、脱硝触媒104を加熱する手段を含んで構成される。加熱ヒータ30は、劣化予測部108からの制御信号を受けて、排ガス通路103を流れる排ガスを加熱するために設けられる。加熱ヒータ30としては、例えば、電気誘導加熱ヒータ等とすることが好適である。加熱ヒータ30は、発電機24から出力された電気を用いて加熱を行うことが好適である。
【0043】
ガバナー等負荷調節器32は、燃焼機器102の負荷を調整する手段である。ガバナー32は、劣化予測部108における脱硝触媒104の劣化の予測結果に応じて燃焼機器102の出力負荷を調整し、排ガスの温度を上昇又は下降させる。
【0044】
なお、発電機24、排ガス加熱手段28、加熱ヒータ30及びガバナー32は少なくともいずれか1つを備えればよい。また、排ガス加熱手段28及び加熱ヒータ30は、再加熱バーナ、電気式再加熱器、電気誘導加熱ヒータ等の加熱手段を少なくとも1つ含んでいればよい。
【0045】
ディスプレイ34は、劣化予測部108に含まれ、脱硝触媒104の劣化の予測結果をユーザに呈示するために用いられる。警報器36は、劣化予測部108に含まれ、脱硝触媒104の劣化に応じてユーザに警告を発する。また、ディスプレイ34に劣化情報を表示し警告してもよい。
【0046】
以下、図5のフローチャートを参照して、脱硝触媒104の劣化の予測及びそれに対する対策処理について説明する。以下の処理は、劣化予測部108において劣化予測プログラムを実行することによって実現される。
【0047】
ステップS10では、排ガスの流量、温度、窒素酸化物濃度及び硫黄酸化物濃度の測定が行われる。劣化予測部108のCPUは、外部インターフェースを介して接続された排ガス流量計10、排ガス温度計12、窒素酸化物濃度計14,16、硫黄酸化物濃度計18からそれぞれ排ガス流量、排ガス温度、入口側の窒素酸化物濃度、出口側の窒素酸化物濃度及び入口側の硫黄酸化物濃度の測定値を取得する。なお、脱硝触媒104の空塔速度(SV)は、排ガスの流量と脱硝触媒104の量との比で表すことができる。
【0048】
ステップS12では、燃焼機器102の回転数、トルク、給気圧力、等を処理した還元剤供給部106からの還元剤(尿素)及び水分の注入量、ガバナー等負荷調節器32の燃焼機器負荷値の取得が行われる。劣化予測部108のCPUは、外部インターフェースを介して接続された燃焼機器102、還元剤供給部106及びガバナー32からそれぞれの特性値を取得する。
【0049】
ステップS14では、化学反応モデルを用いて三酸化硫黄(SO3)の濃度及びアンモニア(NH3)の濃度を算出する。図6に示すように、脱硝触媒104内の排ガス通路103を排ガスの流れる方向に沿って複数の領域A0〜An(nは1以上の整数)に分割し、脱硝触媒104の入口から各領域A1〜Anの境界に排ガスが到達するまでの時間をt1〜tn(各時間の間隔tn−t(n−1)=Δtとする)として、各領域A0〜Anにおける三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度を求める。なお、各領域A0〜Anにおける三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度は近似的に各領域A0〜Anの入口の濃度に等しいとする。
【0050】
三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の反応速度は反応速度式(5)及び(6)に示すように1次反応式で表すことができる。
【化5】

【化6】

【0051】
ここで、−ΔCSO2は二酸化硫黄(SO2)の濃度減少量、ΔCSO3は三酸化硫黄(SO3)の濃度増加量(=−ΔCSO2:化学式(3)より)、CSO2は二酸化硫黄(SO2)の濃度、−ΔCNH3はアンモニア(NH3)の濃度減少量、CNH3はアンモニアの濃度、KSO2,KNH3は反応速度係数、FSO2(t,An),FNH3(t,An)は時刻tにおける領域Anの脱硝触媒104の活性度(0≦FSO2(t,An),FNH3(t,An)≦1)である。FNH3(t,An)はFSO2(t,An)に等しいものとし、それらの初期値は1とする。
【0052】
各領域の境界におけるアンモニア(NH3)の反応速度式における反応速度係数KNH3は、窒素酸化物(NOx)の脱硝率から求めることができる。例えば、窒素酸化物(NOx)の脱硝率をηNOX%とすると、触媒入口側のアンモニア(NH3)濃度と窒素酸化物(NOx)の濃度の体積比α(=NH3/NOx[ppm/ppm])で0≦α≦1のとき、窒素酸化物(NOx)の反応速度式も化学式(6)と同じように1次反応式で表されるとすると、次の関係式(7)が成り立ち、時間tnを代入することによって反応速度係数KNH3を求めることができる。
【化7】

【0053】
脱硝反応の化学式(1)より、窒素酸化物(NOx)とアンモニア(NH3)との反応の当量の割合が決まれば、アンモニア(NH3)の反応速度係数KNH3は反応速度係数KNOxから求めることができる。なお、排ガスの脱硝処理おいては化学式(1)の一酸化窒素(NO)とアンモニア(NH3)との反応が主であるので、二酸化窒素(NO2)とアンモニア(NH3)との反応は近似的に無視してもよい。このように、脱硝触媒104の入口と出口とにおける窒素酸化物(NOx)の濃度の測定値からアンモニア(NH3)の反応速度係数KNH3を求めることができる。
【0054】
一方、二酸化硫黄(SO2)から三酸化硫黄(SO3)が生成される反応の反応速度係数KSO2は模擬排ガスによる実験によって求められる。図7は、試験装置として固定床の小型流通式触媒試験装置(触媒充填量40〜50cc)に模擬排ガスを流した際の二酸化硫黄(SO2)の酸化率と温度との関係を示す。また、図8は、触媒に付着した四酸化硫黄(SO4)の量と脱硝触媒の活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20との関係を示す。ここで、KSO20は実験初期の劣化していない脱硝触媒の反応速度係数KSO2である。バナジウム系脱硝触媒の場合は、SO2酸化活性度と脱硝触媒の活性金属が共通のバナジウムであることからFSO2(t,An),FNH3(t,An)=KNH3/KNH30又はKNOX/KNOX0から活性度を計算してもよい。
【0055】
触媒としては、バナジウム(V)−タングステン(W)/二酸化チタン(TiO2)系ハニカム型低温脱硝触媒を用いた。模擬試験では、二酸化硫黄(SO2)を800ppm、酸素(O2)を13%、一酸化窒素(NO)を1500ppm、水を10重量%の混合ガスを窒素バランスで流し、還元剤として3%尿素水を400℃の蒸発器でアンモニア(NH3)に加水分解させて脱硝触媒の上流にてアンモニア(NH3)換算で1500ppmほど供給した。また、実験系の脱硝触媒の空塔速度(SV)は25000h-1とした。反応温度は200℃から400℃の範囲で変化させた。
【0056】
このような模擬排ガスによる実験において、文献(Carlo Orsenigo, Ind.Eng.Chem.Res,1998,vol.37,pp.2350-2359)に準じてNDIR式の二酸化硫黄(SO2)濃度計により除湿処理後の二酸化硫黄(SO2)濃度を測定し、二酸化硫黄(SO2)の酸化率は触媒の入口と出口とにおける二酸化硫黄(SO2)濃度の減少率とした。また、触媒に付着した四酸化硫黄(SO4)の量は、劣化した触媒を抜き取り、水抽出法・イオンクロマト分析により定量した。
【0057】
このようにして得られた関係から、各温度における二酸化硫黄(SO2)から三酸化硫黄(SO3)が生成される反応の反応速度係数KSO2、及び、触媒に付着した四酸化硫黄(SO4)の量と脱硝触媒104の活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20を求めることが可能となる。
【0058】
ここで、本実施の形態の脱硝触媒の劣化予測方法及び劣化対策方法における特徴の1つとして、図7に示すように、400度までの範囲では反応温度が上昇すると共に二酸化硫黄(SO2)の酸化率が低下する関係を用いる点が挙げられる。特許文献1及び2の従来例に示すように、二酸化硫黄(SO2)の酸化率は従来反応温度の上昇と共に増加すると考えられていたが、実際の脱硝反応における排ガスでは、反応温度が上昇すると共に二酸化硫黄(SO2)の酸化率が低下する関係となっていることが今回初めて解明された。
【0059】
なお、このような傾向はバナジウム(V)−タングステン(W)/二酸化チタン(TiO2)系ハニカム型低温脱硝触媒に限定されるものではなく、バナジウム系等の他の脱硝触媒においても同様の傾向を示すと考えられる。ただし、400度を超える温度範囲では、反応温度の上昇と共に二酸化硫黄(SO2)の酸化率が上昇することも考えられる。
【0060】
このようにして得られた反応速度係数KSO2、反応速度係数KNH3及び脱硝触媒104の活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20を反応速度式(5)及び(6)に当てはめ、時刻Tにおける各領域A0〜Anにおける三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度を求める。
【0061】
ステップS16では、ステップS14にて算出した各領域A0〜Anにおける三酸化硫黄(SO3)のうち硫安((NH4)HSO4)として析出する量を算出する。ここでは、文献(S Matsuda et.al,Ind.Eng.Prod.Res.,Dev.1982,vol.21,pp.48-52)に開示されている平衡式(8)を用いて硫安((NH4)HSO4)として析出する量を算出する。ここで、PSO3は三酸化硫黄(SO3)の分圧、PNH3はアンモニア(NH3)の分圧、Rは気体常数及びTは温度である。
【化8】

【0062】
平衡式(8)では、三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の分圧(濃度)の積は温度の関数で表される。そこで、ステップS14で求めたアンモニア(NH3)の濃度を分圧換算して、排ガスの温度Tmpと共に平衡式(8)に代入することによって、その状態においてガスとして存在し得る三酸化硫黄(SO3)の分圧を求めることができる。そして、ガスとして存在し得る三酸化硫黄(SO3)の分圧を濃度換算し、ステップS14で求めた三酸化硫黄(SO3)の生成濃度から減算することによって、硫安((NH4)HSO4)として脱硝触媒104の表面に析出する量を算出することができる。なお、硫安の平衡計算は、化学式(4)の文献平衡データや化学平衡計算ソフトで計算代理してもよい。
【0063】
さらに、脱硝触媒104の表面に析出する硫安((NH4)HSO4)の量を時刻Tまでに既に析出した硫安((NH4)HSO4)の量に累積加算することによって、各領域A0〜Anにおける硫安((NH4)HSO4)の析出累積値を算出することができる。
【0064】
ステップS18では、ステップS16で求めた各領域A0〜Anにおける硫安((NH4)HSO4)の析出累積値に基づいて、各領域A0〜Anにおける脱硝触媒104の活性度を求める。
【0065】
図8に示すように、模擬ガスによる実験によって触媒に付着した四酸化硫黄(SO4)の量と脱硝触媒104の活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20を予め求めておき、各領域A0〜Anにおける硫安((NH4)HSO4)の析出総量から脱硝触媒104の活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20を得る。
【0066】
ステップS20では、ステップS18で得られた脱硝触媒104の活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20に基づいて劣化対策処理を行うか否かを判定する。
【0067】
劣化対策処理は、例えば、各領域A0〜Anにおける脱硝触媒104の活性度の値が所定の基準閾値を下回った場合に行うものとすることができる。また、例えば、各領域A0〜Anにおける脱硝触媒104の活性度の平均値が所定の基準閾値を下回った場合に行うものとしてもよい。ただし、これらに限定されるものではなく、脱硝触媒104の活性度に基づいた処理であればよい。
【0068】
劣化対策処理を行う場合にはステップS22に処理を移行させ、そうでない場合にはステップS10に処理を移して次の時刻Tにおける劣化予測処理を行う。
【0069】
ステップS22では、劣化対策処理を行う。劣化対策処理は、例えば、排ガスの温度Tmpを上昇させることによって平衡式(8)を右辺から左辺へ進行するようにさせ、脱硝触媒104の各領域A0〜Anに析出した硫安((NH4)HSO4)を三酸化硫黄(SO3)のガスとして排出させる処理とすることができる。排ガスの温度Tmpを上昇させるためには、クラッチ26を接続状態として燃焼機器102によって発電機24を動作させ、燃焼機器102の負荷を増大させることによって燃焼機器102から排出される排ガスの温度Tmpを上昇させる方法がある。また、排ガス加熱手段28によって排ガス通路103を流れる排ガスの温度Tmpを直接的に上昇させる方法もある。また、加熱ヒータ30を用いて脱硝触媒104を加熱する方法を採用してもよい。また、ガバナー等負荷調節器32によって燃焼機器102の負荷を調整して燃焼機器102から排出される排ガスの温度Tmpを上昇させてもよい。この劣化対策処理時の排ガスの温度Tmpは200℃を超えて1000℃以下の範囲が考えられるが、触媒の熱劣化による交換頻度を長くしたい場合、好ましくは250℃以上600℃以下の範囲である。
【0070】
この場合、排ガスの温度Tmpを所定の時間だけ上昇させ、脱硝触媒104に堆積した硫安((NH4)HSO4)を完全に除去したなら各領域A0〜Anに析出した硫安((NH4)HSO4)の累積値を0にリセットし、排ガスの加熱処理を停止させて、ステップS10から処理を繰り返してもよい。具体的に、これらの劣化対策処理は、例えば船舶の場合、港湾内におけるディーゼルエンジンの低負荷運転により低温が継続し堆積した硫安を、港湾外に出て高負荷運転により除去したり、港湾内で前述した発電機24や排ガス加熱手段28、加熱ヒータ30を作動させ高温により除去を行う。
【0071】
また、劣化対策処理は、例えば、ディスプレイ34に脱硝触媒104の活性度が基準閾値を超えたことを示す情報を表示させてユーザ(燃焼機器102の管理者)に対して警告を呈示するものとしてもよい。また、警報器36から音や光を発することによってユーザ(燃焼機器102の管理者)に対して警告を呈示するものとしてもよい。
【0072】
この場合、ユーザは、手動で排ガスの温度Tmpを上昇させる処理を実行させたり、燃焼機器102を停止させてメンテナンス作業を行ったりすることができる。
【0073】
以下に、上記処理についてより具体的に説明する。脱硝処理開始時には、ステップS10からS12では各種データが取得され、ステップS14にて、各領域A0〜Anの脱硝触媒104の活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20は1(劣化なし)として、脱硝触媒104の入口から流入した排ガスによる各領域A0〜Anの出口側境界の三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度が求められる。すなわち、時刻T=0において領域A0を通過する時間Δtでの三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度は、領域A0での活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20を1として反応速度式(5)及び(6)に反応速度係数KSO2,KNH3及び触媒入口部の排ガスにおける二硫化硫黄(SO2)及びアンモニア(NH3)の濃度を代入して求めることができる。時刻T=0に脱硝触媒104の入口から流入した排ガスは時刻t1、t2、・・・tnに各領域A1〜Anの境界に到達することになるので、時刻t1において領域A1を通過する時間Δtでの三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度は、時刻t1における領域A1での活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20を1として反応速度式(5)及び(6)に反応速度係数KSO2,KNH3及び領域A1に到達する二硫化硫黄(SO2)及びアンモニア(NH3)の濃度を代入して求めることができる。同様に、時刻t2において領域A2を通過する時間Δtでの三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度、時刻t3において領域A3を通過する時間Δtでの三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度・・・時刻tnにおいて領域Anを通過する時間Δtでの三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度を算出することができる。
【0074】
次に、ステップS16にて、時刻T=0における領域A0での三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度、時刻t1における領域A1での三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度・・・及び反応(排ガス)の温度Tmpから、時刻T=0における領域A0での硫安((NH4)HSO4)の析出量、時刻t1における領域A1での硫安((NH4)HSO4)の析出量・・・を求める。この算出された析出量を時刻T=0までの領域A0での硫安((NH4)HSO4)の析出量の累積値、時刻t1における領域A1での硫安((NH4)HSO4)の析出量の累積値・・・の初期値とする。
【0075】
ステップS18では、時刻T=0における各領域A0〜Anの硫安((NH4)HSO4)の析出量の累積値から領域A0の脱硝触媒104の活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20を求める。他の領域A1〜Anには未だ排ガスは到達していないので、脱硝触媒104の活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20は1のままとなる。
【0076】
ステップS20では、ステップS18で求められた各領域A0〜Anの脱硝触媒104の活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20に基づいて劣化対策処理を行うか否かを判定し、劣化対策処理を行わない場合にはステップS10に処理を戻す。
【0077】
ステップS10からS12では各種データが再び取得され、ステップS14にて、時刻T=Δtに脱硝触媒104の入口から流入した排ガスによって三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度が求められる。ここでは、領域A0についてはステップS18において新たに得られた活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20を用いて濃度を算出し、他の領域A1〜Anについては1(劣化なし)として三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度が求められる。すなわち、時刻T=Δtにおいて領域A0を通過する時間Δtでの三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度は、ステップS18において時刻T=0における処理で得られた領域A0での活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20の値を用いて、反応速度式(5)及び(6)に反応速度係数KSO2,KNH3及び触媒入口部の排ガスにおける二硫化硫黄(SO2)及びアンモニア(NH3)の濃度を代入して求めることができる。時刻T=Δtに脱硝触媒104の入口から流入した排ガスは時刻t1、t2、・・・tn後に各領域A1〜Anの境界に到達することになるので、時刻Δt+t1において領域A1を通過する時間Δtでの三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度は、時刻Δt+t1における領域A1での活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20を1として反応速度式(5)及び(6)に反応速度係数KSO2,KNH3及び領域A1に到達する二硫化硫黄(SO2)及びアンモニア(NH3)の濃度を代入して求めることができる。同様に、時刻Δt+t2において領域A2を通過する時間Δtでの三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度、時刻Δt+t3において領域A3を通過する時間Δtでの三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度・・・時刻Δt+tnにおいて領域Anを通過する時間Δtでの三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度を算出することができる。
【0078】
次に、ステップS16にて、時刻T=Δtにおける領域A0での三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度、時刻Δt+t1における領域A1での三酸化硫黄(SO3)及びアンモニア(NH3)の濃度・・・及び反応(排ガス)の温度Tmpから、時刻T=Δtにおける領域A0での硫安((NH4)HSO4)の析出量、時刻Δt+t1における領域A1での硫安((NH4)HSO4)の析出量・・・を求める。この算出された析出量から時刻T=Δtまでの領域A0での硫安((NH4)HSO4)の析出量の累積値を求める。すなわち、領域A0については時刻T=0及びT=Δtにおける硫安((NH4)HSO4)の析出量の総和が累積値となり、領域A1については時刻T=0に対する処理で得られた時刻T=t1(=Δt)における硫安((NH4)HSO4)の析出量が累積値となる。領域A2〜Anについてはガスとして存在し得る三酸化硫黄(SO3)の分圧より、各領域A2〜Anにおいて触媒で酸化し生成される三酸化硫黄(SO3)の生成濃度が下回り、硫安((NH4)HSO4)の析出量は0となる。
【0079】
ステップS18では、時刻T=Δtにおける各領域A0及びA1の硫安((NH4)HSO4)の析出量の累積値から領域A0及びA1の脱硝触媒104の活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20を求める。他の領域A2〜Anには硫安析出量が未だ0なので、脱硝触媒104の活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20は1のままとなる。
【0080】
ステップS20では、ステップS18で求められた各領域A0〜Anの脱硝触媒104の活性度FSO2(t,An),FNH3(t,An)=KSO2/KSO20に基づいて劣化対策処理を行うか否かを判定し、劣化対策処理を行わない場合にはステップS10に処理を戻す。
【0081】
このような処理を繰り返すことによって、脱硝触媒104の劣化予測処理及び劣化対策処理を実行することかできる。ただし、劣化予測処理及び劣化対策処理は上記に限定されるものではなく、燃焼機器102からの排ガスにアンモニア系物質を添加して脱硝触媒104で窒素酸化物の分解を行う排ガス処理において、硫黄酸化物による脱硝触媒104の劣化を少なくとも温度Tmpと硫黄酸化物の酸化率との関係に基づいて予測するものであればよい。特に、温度Tmpと硫黄酸化物の酸化率との関係は、温度が上がるほど酸化率が下がる関係とすることが好適であるが、温度が上がるにつれて二酸化硫黄(SO2)の酸化率が上がる温度域又は当該特性の触媒に用いることも可能である。
【0082】
また、燃焼機器102から排出される排ガスの時間的な変化が予想できる場合には、その排ガスの性状(排ガスの流量、温度、窒素酸化物濃度及び硫黄酸化物濃度等)の変化の予想値に基づいて、脱硝触媒104の劣化の将来的な予測を行うことも可能である。
【0083】
例えば、燃焼機器102から排出される排ガスの性状が時間的に変化しない場合には、劣化予測処理においてステップS10で最初に取得した排ガスの性状(排ガスの流量、温度、窒素酸化物濃度及び硫黄酸化物濃度等)に基づいて将来に亘って脱硝触媒104に析出される硫安((NH4)HSO4)の量を算出し、その量から脱硝触媒104の活性度が所定の基準閾値を超える時刻を求め、その予想時刻をユーザに呈示するものとしてもよい。この場合、排ガス加熱手段28等を用いて排ガスの温度Tmpを上げ、劣化対策処理を熱処理で行い、予想時刻を延長させることもできる。
【0084】
また、脱硝触媒104の活性度の予測方法を排ガス処理システムの設計に適用することもできる。これによれば、脱硝触媒の劣化の予測を適切に考慮した脱硝触媒を含む排ガス処理システムを設計することができる。この排ガス処理システム、また先の劣化対策システム、劣化予測方法、劣化の対策方法において、脱硝触媒の劣化予測を理論や実験に基づき予測を行い、先を見越すことができるため、単に劣化の進行による脱硝性能の低下という結果を見ての対応と比較し、事前に計画的に対策が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0085】
以上の実施形態は、船舶用のディーゼル機関の排ガスの処理に適用することができるがこれに限定されるものではなく、他の移動体、例えば鉄道車両、自動車等についても適用することができる。また、ディーゼル機関以外の間欠燃焼を行う機関(直噴式のオットー機関等)についても適用することができる。さらに、ゴミ焼却器や火力発電設備等の一般の燃焼機器にも適用が可能である。
【符号の説明】
【0086】
12 排ガス温度計、14,16 窒素酸化物濃度計、18 硫黄酸化物濃度計、24 発電機、26 クラッチ、28 排ガス加熱手段、30 加熱ヒータ、32 ガバナー等負荷調節器、34 ディスプレイ、36 警報器、100 脱硝システム、102 燃焼機器、103 排ガス通路、104 脱硝触媒、106 還元剤供給部、108 劣化予測部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
燃焼機器からの排ガスにアンモニア系物質を添加して脱硝触媒で窒化酸化物の分解を行う排ガス処理において、硫黄酸化物による前記脱硝触媒の劣化を少なくとも温度と硫黄酸化物の酸化率との関係に基づいて予測することを特徴とする脱硝触媒の劣化予測方法。
【請求項2】
前記温度と硫黄酸化物の酸化率との関係は、温度が上がるほどSO2酸化率が下がる関係であることを特徴とする請求項1記載の脱硝触媒の劣化予測方法。
【請求項3】
前記脱硝触媒の劣化の予測値が予め定められた閾値を超えるときに前記排ガスの温度を上げることを特徴とする請求項1又は2記載の脱硝触媒の劣化予測方法を用いた脱硝触媒の劣化対策方法。
【請求項4】
燃焼機器と、
前記燃焼機器からの排ガスを排出する排ガス通路と、
前記排ガス通路に設けられた脱硝触媒と、
前記排ガス通路における前記脱硝触媒と前記燃焼機器との間に設けられた前記排ガスにアンモニア系物質を添加するアンモニア系物質添加手段と、
硫黄酸化物による前記脱硝触媒の劣化を少なくとも温度と硫黄酸化物の酸化率との関係に基づいて予測結果を導出する劣化予測手段と、
を備えること特徴とする脱硝触媒の劣化対策システム。
【請求項5】
前記温度と硫黄酸化物の酸化率との関係は、温度が上がるほどSO2酸化率が下がる関係であることを特徴とする請求項4記載の脱硝触媒の劣化対策システム。
【請求項6】
前記劣化予測手段は、前記予測結果として前記脱硝触媒の下限活性にまで至る予測時間を導出することを特徴とする請求項4又は5記載の脱硝触媒の劣化対策システム。
【請求項7】
前記劣化予測手段は、前記予測結果が予め定められた閾値を超えるときに警告を行う警告手段をさらに備えることを特徴とする請求項4から6のいずれか1項記載の脱硝触媒の劣化対策システム。
【請求項8】
前記排ガスの温度を上昇させる排ガス加熱手段をさらに備え、
前記劣化予測手段による前記予測結果が予め定められた閾値を超えるときに、前記排ガス加熱手段を作動させて前記排ガスの温度を上昇させることを特徴とする請求項4から7のいずれか1項記載の脱硝触媒の劣化対策システム。
【請求項9】
前記排ガス加熱手段は、前記燃焼機器の負荷を変更する負荷調節手段であることを特徴とする請求項8記載の脱硝触媒の劣化対策システム。
【請求項10】
燃焼機器からの排ガスにアンモニア系物質を添加して脱硝触媒で窒化酸化物の分解を行う排ガス処理において、少なくとも温度と硫黄酸化物の酸化率との関係に応じた予測された硫黄酸化物による劣化に基づいて前記脱硝触媒を含む排ガス処理システムの設計を行う排ガス処理システムの設計方法。

【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−69296(P2011−69296A)
【公開日】平成23年4月7日(2011.4.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−220962(P2009−220962)
【出願日】平成21年9月25日(2009.9.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 化学工学会米沢大会(3支部合同大会) 研究発表講演要旨集、社団法人化学工学会関東支部・北海道支部・東北支部主催、2009年8月10日及び11日開催
【出願人】(501204525)独立行政法人海上技術安全研究所 (185)
【出願人】(503116899)新潟原動機株式会社 (61)
【出願人】(390033042)ダイハツディーゼル株式会社 (43)
【出願人】(000005902)三井造船株式会社 (1,723)
【Fターム(参考)】