説明

脱硝触媒の調製方法およびその方法により調製された触媒

【課題】脱硝触媒として適切な量の三酸化硫黄(SO)を容易に触媒上に添加することができる脱硝触媒の調製方法およびこの方法により触媒に適量に三酸化硫黄が添加されて調製された、脱硝性能が向上した触媒を提供することも目的とする。
【解決手段】本発明は、アンモニアの存在下に窒素酸化物を窒素と水に分解するセラミック繊維シートからなるハニカム触媒の調製方法であり、反応器(8)に示すように酸化チタン、酸化バナジウムおよび酸化タングステンを含む触媒に、三酸化硫黄(SO)を含むガスを供給することにより、該触媒に三酸化硫黄を添加する方法である。また、本発明は、三酸化硫黄の含量が、前記触媒の全重量に対して0.8〜1.5重量%である、該方法により調製された触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ガス中の窒素酸化物を除去するための脱硝触媒の調製方法およびその方法により調製された触媒に関する。
【背景技術】
【0002】
各種工場から排出される排ガス中に含まれる窒素酸化物(NOx)を除去する方法として、アンモニアを還元剤として排ガスに加え、これを触媒に接触させることにより、窒素酸化物(NOx)を窒素と水に分解するアンモニア接触還元法が多く用いられている。
【0003】
この方法において用いられる触媒として、バナジウムを酸化チタンに担持させ、脱硝性能の向上のために、これにタングステンやモリブデン等の金属がさらに加えられたものが知られている。
【0004】
脱硝性能を向上させるためには活性サイトであるバナジウムの担持量を増加させることが最も効果的である。
【0005】
しかしながら、酸化チタン担体上に担持されたバナジウムは、排ガス中に含まれる二酸化硫黄(SO)を三酸化硫黄(SO)に酸化し、生じた三酸化硫黄は還元剤として添加されたアンモニアと反応して硫安((NHSO)が形成される。生じた硫安は、脱硝装置内の配管等に付着しガス流れ阻害など種々の問題を起こす原因となる。こうした問題を引き起こす硫安の形成を抑制するために、二酸化硫黄の酸化能が低いことが脱硝触媒の性能として求められるため、安易にバナジウムの含有量を増やすことはできない。
【0006】
特許文献1の第2頁左欄40行〜右欄13行には、チタンおよびケイ素からなる二元系含水酸化物中に硫酸を共存させ、これを熱処理することによって得られた複合含イオン酸化物に、バナジウムやタングステンを高分散状態で担持させた触媒が、二酸化硫黄(SO)から三酸化硫黄(SO)への酸化能が低く、高い脱硝性能を持つことが記載されている。
【0007】
しかしながら、特許文献1の第4頁左欄35〜37行には、「このイオウ分は十分に安定な状態では存在しないので新たに硫酸もしくは硫安を所定量加える必要がある。」と記載されており、触媒に含まれる三酸化硫黄(SO)の含有量を所望の量にするには煩雑な調製工程が必要であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特公昭62−14339号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、脱硝触媒として適切な量の三酸化硫黄(SO)を容易に触媒上に添加することができる脱硝触媒の調製方法を提供することを目的とする。
【0010】
また、本発明は、上記方法により触媒に適量に三酸化硫黄が添加されて調製された、脱硝性能が向上した触媒を提供することも目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するため、本発明は、アンモニアの存在下に窒素酸化物を窒素と水に分解するセラミック繊維シートからなるハニカム触媒の調製方法において、酸化チタン、酸化バナジウムおよび酸化タングステンを含む触媒に、三酸化硫黄(SO)を含むガスを供給することにより、該触媒に三酸化硫黄を添加する方法である。
【0012】
また、本発明は、上記方法により調製された触媒であって、三酸化硫黄の含量が、前記触媒の全重量に対して0.8〜1.5重量%であるものである。
【発明の効果】
【0013】
本発明は、三酸化硫黄(SO)を含むガスを触媒に供給することにより脱硝触媒を調製するので、適切な量(触媒の全重量に対して0.8〜1.5重量%)の三酸化硫黄(SO)を容易に触媒上に添加することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の実施例を実施するために用いられる装置を示すフロー図である。
【図2】三酸化硫黄含有ガスを供給した後の触媒中の三酸化硫黄(SO)含量の経時変化を示すグラフである。
【図3】触媒中の三酸化硫黄含量と脱硝性能との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を具体的に説明するために、本発明の実施例およびこれとの比較を示すための比較例をいくつか挙げる。
【0016】
(触媒の調製)
(実施例1)
以下の1)〜5)に従って、触媒を調製した。
【0017】
1)波板加工したセラミック繊維シートと平板状のセラミック繊維シートを交互に積層してハニカム構造体を形成した。
【0018】
2)上記ハニカム構造体を、シリカゾルにチタニア微粒子を懸濁させたスラリー(固形分比率;45重量%、シリカとチタニアの比率;20:80)に浸漬し、これをスラリーから取り出した後、110℃で乾燥し、500℃で1時間焼成し、チアニアをセラミック繊維シートの空隙に保持させた。
【0019】
3)チタニア保持ハニカム構造体をメタバナジン酸アンモニウム水溶液(10g/L)に浸漬し、これを上記水溶液から取り出した後、110℃で乾燥し、220℃で1時間焼成し、チタニア保持ハニカム構造体に酸化バナジウムを担持させた。
【0020】
4)このハニカム構造体をメタタングステン酸アンモニウム水溶液(3.88mol(タングステンとして)/Lの溶液を水1kg当たり28mL)に浸漬し、これを水溶液から取り出した後、110℃で乾燥し、400℃で1時間焼成し、ハニカム構造体にさらに酸化タングステンを担持させた。
【0021】
5)三酸化硫黄の添加は、図1に示す実験装置を用いて行った。この実験装置は後述のように同触媒の脱硝性能についての試験の実施にも用いられる。
【0022】
上記4)により得られた触媒を、反応器(8)内のセラミック製の反応管に置き、反応管内の温度を260℃とした。次いで、反応管に10ppmの三酸化硫黄(SO)を含むガス(AIR+HO)を供給した。この三酸化硫黄(SO)を含有するガスは、MFC(マスフローコントローラ)(2)を介して空気(AIR)を蒸発管(4)に導入すると共に、これにポンプ(5)を介して水および硫酸(HSO)を添加することにより作製されたものである。この際に実際にポンプ(5)を介して空気に添加されているのは硫酸(HSO)水溶液であるが、その濃度は、0.3mL−HSO(98%)/L−HOである。反応管に供給されるガスの全流量を5L/minとした。またガスの水分濃度を10%と設定した。硫酸水溶液の流量は、0.4mL/minであった。
【0023】
上記の三酸化硫黄含有ガスの供給時間は、1、2、4、8、16および24時間とした。
【0024】
(実施例2)
ガス中の三酸化硫黄(SO)濃度を20ppmとした他は、実施例1と同様にして、触媒を調製した。
【0025】
(実施例3)
ガス中の三酸化硫黄(SO)濃度を100ppmとした他は、実施例1と同様にして、触媒を調製した。
【0026】
(実験結果)
三酸化硫黄含有ガスを供給した後の触媒中の三酸化硫黄(SO)含量の変化を図2に示す。ここで、触媒中の三酸化硫黄(SO)含量は、蛍光X線分析装置(SII社製、SEA1200VX)により測定した。
【0027】
ガス供給量がいずれの場合であっても、一定の時間が経過した後の触媒中の三酸化硫黄(SO)の含量は一定の飽和状態になった。また、ガス中の三酸化硫黄(SO)の濃度に応じて、触媒中の三酸化硫黄(SO)の含量が変わるので、目的に応じた三酸化硫黄濃度のガスを一定時間供給することにより、所望の含量の三酸化硫黄(SO)を触媒に含ませることができる。
【0028】
(脱硝試験)
次に、図1における装置を用いた脱硝試験の実施について説明する。
【0029】
窒素酸化物(NOx)および空気(AIR)が、それぞれ、MFC(1)、(2)を介して混合用タンク(mix tank)(3)に導入され、ここで攪拌された混合気体は、各MFC(1)、(2)の制御により脱硝試験に供されるのに適したNOx濃度を有することになる。混合用タンク(3)を出た混合気体は、大部分は蒸発管(4)に通され、一部はNOx計(9)へ送られる。蒸発管(4)に導入された混合気体は、必要に応じてヒータ(6)により加熱される。蒸発管(6)を出た混合気体は、反応器(8)に導入され、反応器(8)の反応管内に設置された脱硝触媒と接触する。
【0030】
反応器(8)を出た混合気体は、一部がNOx計(9)に送られて、混合気体中のNOx濃度が測定され、混合用タンク(3)を出た初期の混合気体のNOx濃度と比較することにより脱硝性能が測定される。
【0031】
また、反応器(8)を出た混合気体は、ガスクロマトグラフ(GC)にも送られ、ここで、アンモニアの濃度が測定される。
【0032】
実施例1〜3により作製された三酸化硫黄を含む脱硝触媒を用いて脱硝試験を行った。本脱硝試験において用いられた条件を下記表1に示す。
【0033】
【表1】

【0034】
表中、「AV」は触媒面積速度を示す。
【0035】
また、比較例1として、三酸化硫黄(SO)を添加する前の触媒を用いて、上記表1と同条件にて脱硝試験を行った。
【0036】
(実験結果)
触媒中の三酸化硫黄含量と脱硝性能との関係を図3のグラフに示す。
【0037】
図3のグラフ中のK/K0について、Kは三酸化硫黄を添加した触媒の脱硝性能、K0は三酸化硫黄を添加していない触媒の脱硝性能を示している。K/K0が1超である場合、三酸化硫黄を添加した触媒の方が三酸化硫黄を添加していない触媒よりも脱硝性能において優れていることを意味している。
【0038】
図3のグラフを参照すると、触媒中の三酸化硫黄の含量が0.8〜1.5%であるように触媒を調製することにより脱硝性能を向上させることができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アンモニアの存在下に窒素酸化物を窒素と水に分解するセラミック繊維シートからなるハニカム触媒の調製方法において、
酸化チタン、酸化バナジウムおよび酸化タングステンを含む触媒に、三酸化硫黄(SO)を含むガスを供給することにより、該触媒に三酸化硫黄を添加する方法。
【請求項2】
三酸化硫黄の含量が、前記触媒の全重量に対して0.8〜1.5重量%である、請求項1に記載の方法により調製された触媒。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−140005(P2011−140005A)
【公開日】平成23年7月21日(2011.7.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−2956(P2010−2956)
【出願日】平成22年1月8日(2010.1.8)
【出願人】(000005119)日立造船株式会社 (764)
【Fターム(参考)】