説明

脱蝋およびハイドロフィニッシングを用いるフィッシャー−トロプシュ法生成物の改良法

C5以上のF−T合成原油(8)のバルク脱蝋、当該脱蝋した中間体のハイドロフィニッシング(21)および改善された性質を有する120℃以上の生成物を回収することによる低流動点のディーゼル油および潤滑油基油を製造する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
(発明の分野)
本発明は、C以上の炭化水素のフィッシャー−トロプシュ合成原油をバルク脱蝋し、次いでハイドロフィニッシングを行い改善された性質を持つディーゼル油および潤滑油基油を回収することにより、フィッシャー−トロプシュ法のプラントから回収した初留点約120℃より高い沸点を有する炭化水素類を品質向上させる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
(本発明の背景)
高パラフィン分の潤滑油基油に対する市場は高粘度指数、酸化安定性およびこれら油の粘度が割に低揮発性であることにより成長し続けている。当該フィッシャー−トロプッシュ製法(合成原油)から生産された生成物は潤滑油ベース原料へと加工するのに理想的な対象物となる蝋分を高比率で含有する。従って、当該フィッシャー−トロプッシュ製法から回収した炭化水素生成物は高品質な潤滑油基油を調製するための原料として提示されてきた。例えば、フィッシャー−トロプシュ法の蝋から水素化異性化脱蝋および溶媒脱蝋により調製した非環状イソパラフィンを高含有量で有する上質な潤滑油基油を説明している米国特許第6,080,301号を参照。
【0003】
高品質のディーゼル油製品もフィッシャー−トロプシュ製法から回収した合成原油より調製することができる。フィッシャー−トロプシュ由来ディーゼル油は一般的に非常に低い硫黄含有量および優れたセタン価を有している。これらの特質はフィッシャー−トロプシュ由来ディーゼル油が低品質な石油由来ディーゼル油の品質向上させる際の優れた混合用原料となる。
【0004】
一般的に、本開示の目的であるディーゼル油は約700°F(370℃)の上限沸点および約300°F(約150℃)の初留点を有していると考えられている。潤滑油基油は一般的には約600°F(約315℃)より高い初留点を有するであろう。フィッシャー−トロプシュ法のプラントから当初回収されるときディーゼル油および潤滑油基油の範囲で沸騰する合成原油画分は、通常蝋状の直鎖パラフィン類および不飽和炭化水素の割合が高く、それ故これらの画分を単独または混合原料として使用する前に最終製品としての市販規格に適合させるためには品質向上が必要とされる。品質向上において、それぞれの沸点範囲に従って種々な画分を分離する。潤滑油基油及びディーゼル油の範囲で沸騰するそれらの画分の場合、品質向上工程では一般的に流動点を好ましい温度まで低下させ、製品の酸化およびUV安定性を改善することが目的である。これらの画分の性質を改善するためには、これらを当該合成原油から分離し、別々に脱蝋およびハイドロフィニッシングする。出願人は従来の教示とは反対に、種々な画分の分離する前にC以上の合成原油画分全部をバルク脱蝋およびハイドロフィニッシュすることが有効であることを発見した。
【0005】
フィッシャー−トロプシュ蝋は当該フィッシャー−トロプシュ法由来の合成原油からの高沸点画分を称し、室温ではしばしば固体である。本開示の目的では“フィッシャー−トロプシュ蝋”は当該フィッシャー−トロプシュ合成原油のより高沸点部分に含有されている。フィッシャー−トロプシュ蝋はC20およびより大きな炭化水素様化合物を少なくとも10重量パーセント、好ましくはC20およびより大きな炭化水素様化合物を少なくとも40重量パーセント、および最も好ましくはC20およびより大きな炭化水素様化合物を少なくとも70パーセント含有する。フィッシャー−トロプシュ蝋は、接触脱蝋操作に送ると高品質の潤滑油基油およびディーゼル油に転換される、より重質炭化水素を含むだろうから本発明では重要である。
【0006】
以上の合成原油はフィッシャー−トロプシュ法のプラントからの生成物の画分を称し、それらは通常室温では液体または固体である。通常は室温より高い沸点の炭化水素には分子中に5個以上の炭素原子を含有するような炭化水素を含むであろう。しかしながら、当技術分野の当事者であれば炭素数以外の他の因子、例えば分子中の不飽和結合、分岐およびヘテロ原子の存在などがフィッシャー−トロプシュ合成原油画分の沸点範囲に影響することは知っていると思われる。そこで、この画分には炭素原子5個未満を含有するある種の炭化水素が存在することがありうる。室温では通常ガス相である当該フィッシャー−トロプシュ合成から回収した生成物は本開示においてC以下の生成物とされる。主にプロパンおよびブタンの混合物であるLPGはC以下の生成物の例である。
【0007】
ディーゼル油の範囲で沸騰する画分も同じようにC10からC19の炭化水素と呼ばれる。同じように、フィッシャー−トロプシュ蝋の大部分は好ましくディーゼル油の沸点範囲上端に初留点を有する炭化水素を主に含み、分子の骨格に20個の炭素原子を有する炭化水素を主に有する生成物を称する“C20以上の生成物”からなる。ディーゼル油の沸点範囲の上端およびフィッシャー−トロプシュ蝋の沸点範囲の下端は相当重なりを持つことは留意すべきことである。本開示で使用される用語“ナフサ”は骨格に約CからCの間の炭素原子を有し、一般的にはディーゼル油の沸点未満の沸点範囲を有するような液状生成物を称するが、沸点範囲の上端はディーゼル油の初留点の末端に重なっている。C10以上の炭化水素はナフサ、即ちディーゼル油および潤滑油基油の範囲内または約150℃より上で沸騰する画分の範囲より上で一般的には沸騰する。当該蒸留操作を実施する際の生成物のおのおのにつき選択する正確なカットポイントは、当該生成物の規格および望む収率で決定されるであろう。
【0008】
フィッシャー−トロプシュ由来の合成原油を含むC20以上の炭化水素類の脱蝋およびハイドロフィニッシングは米国特許第5,135,638号にて検討されている。ナフサとディーゼル油の範囲で沸騰するより軽質な供給原料のシリコアルミノリン酸塩モレキュラーシーブ(SAPO)を含む触媒との接触による異性化は米国特許第4,859,311号で検討されている。
【0009】
本開示で使用する単語“含む”または“含んでいる”は、指定した構成要素を包含するが他の指定していない構成要素を排除しないことを意味する制限ないトランジション語句(transition)を意図している。語句“本質的に〜から成る”または“本質的に〜から成っている”は他のいかなる重要なものも構成物から排除することを意味する意図がある。語句“成る”または“成っている”は少量の不純物を除いては列挙した構成要素のほかは全て排除することを意味するトランジション語句を意図している。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0010】
(本発明の概要)
概して、本発明はフィッシャー−トロプシュ法のプラントから約150℃より高い初留点を有する低流動点の炭化水素生成物を製造する方法に関し、この方法は(a)フィッシャー−トロプシュ法のプラントからC以上の合成原油を含んでいる供給原料を回収すること;(b)接触脱蝋域において当該C以上の合成原油供給原料を脱蝋条件下で脱蝋触媒と接触させてC以上の合成原油供給原料を脱蝋し、それにより当該C以上の合成原油供給原料と比してより低い流動点を持つC以上の合成原油中間体を製造すること;(c)ハイドロフィニッシュ域においてハイドロフィニッシュ条件下で当該C以上の合成原油中間体をハイドロフィニッシュし、それによりUV安定化C以上の生成物を製造すること:及び(d)当該UV安定化したC以上の生成物から別々に約150℃より高い初留点を有する低流動点生成物を回収することを含む。工程(d)の低流動点生成物は一般的にはディーゼル油および潤滑油基油生成物から成り、当該操作の如何によるが当該生成物の比例収率(proportional yield)はかなりの範囲で変動する。
【0011】
本発明の1つの実施形態では、当該好ましい脱蝋触媒は、例えば活性金属を含んでいる水素化成分と組合せた通常SAPOと呼ばれるシリコアルミノリン酸塩分子篩を含んでいる触媒のような水素化異性化触媒である。当該SAPOは好ましくは例えばSAPO−11、SAPO−31およびSAPO−41のような中程度孔のSAPOで、SAPO−11が特に好ましい。SAPO類のほかに他のアルミノリン酸塩(“非ゼオライト系分子篩”)が使用でき、これらは米国特許第5,135,638号、col.10、line 24−31に示されている。より完全な説明は米国特許第5,883,837号、col.8、line5−17になされている。従って、本発明の実施形態はフィッシャー−トロプシュ法のプラントから約150℃より高い初留点を有する低流動点合成原油生成物を製造する方法として説明でき、それは(a)フィッシャー−トロプシュ法のプラントからC以上の合成原油を含んでいる供給原料を回収すること;(b)水素化異性化域において当該C以上の合成原油供給原料を水素化異性化条件下にて水素化異性化触媒と接触させることで、当該C以上の合成原油供給原料を脱蝋して当該C以上の合成原油供給原料と比較してより低い流動点を有するC以上の中間体を製造すること;(c)ハイドロフィニッシング域にてハイドロフィニッシング条件下で当該異性化したC以上の中間体をハイドロフィニッシングすることにより、UV安定化したC以上の生成物を製造すること、及び(d)当該UV安定化炭化水素生成物から低流動点ディーゼル油生成物および潤滑油基油生成物を別々に回収することを含む。水素化成分と共にSAPO−11を含んでいる水素化異性化触媒が特に好ましい。当該水素化成分は通常モリブデン、ニッケル、バナジウム、コバルト、タングステン、亜鉛、白金およびパラジウムのような活性金属を含む。当該活性金属として金属の白金およびパラジウムが特に好ましい。米国特許第5,939,349号で教示されているように非水系添加法により当該金属類を加えたこれらのSAPO類が特に好ましい。
【0012】
超高粘度指数の基油生成物、即ち140より大の粘度指数を有する生成物は、中程度孔ゼオライトを含んでいる脱蝋触媒を通常水素化活性がある活性金属と共に使用することで得られる。適した中程度孔サイズのゼオライトにはSSZ−32、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35およびZSM−48が含まれる。当該ゼオライトSSZ−32、ZSM−22およびZSM−23は特に好ましい。当該活性金属成分は既に上述してある。本発明の実施形態はフィッシャー−トロプシュ法のプラントから超高粘度指数で、低流動点の潤滑油生成物を製造する方法として説明できるが、それは(a)フィッシャー−トロプシュ法のプラントからC以上の合成原油を含んでいる供給原料を回収すること、(b)接触水素脱蝋域にてC以上の炭化水素供給原料を中程度孔サイズのゼオライトと水素化活性を有する少なくとも1種の金属を含んでいる水素化異性化触媒と接触させて脱蝋し、前記脱蝋はC以上の合成原油供給原料に比して低い流動点を有するC以上の中間体を生成するように選択した水素脱蝋条件下で実施すること;(c)ハイドロフィニッシング域においてハイドロフィニッシング条件下でC以上の中間体をハイドロフィニッシングしてUV安定化C以上の生成物を製造すること;及び(d)UV安定化したC以上の生成物から超高粘度指数で低流動点の潤滑油基油生成物を別々に回収することを含む。本開示においてゼオライトまたはSAPOのいずれかに関する用語“中程度孔サイズ”は当該多孔性無機酸化物をか焼した状態のとき、約5.3から約6.5オングストロームの範囲の孔開口を有する無機分子篩を意味する。超高粘度指数の生成物を製造するための最も好ましいゼオライトは約5.0から約5.5オングストロームの有効孔開口を有するより限られたものである。
【0013】
フィッシャー−トロプシュ法の生成物をディーゼル油および潤滑油基油に改良する従来の方法では、種々の画分を通常改良するのに先立って分離する。約315℃を超える温度で沸騰するそのフィッシャー−トロプシュ画分を脱蝋する間に、ある程度の蝋分解が生じてディーゼル油、ナフサおよびC以下の炭化水素のようなより低分子量の生成物を生じるであろう。SAPO−11のような高ディーゼル油選択性を有する好ましいSAPO触媒の1つを潤滑油基油範囲で沸騰する画分を脱蝋するのに使用すると、ディーゼル油がナフサおよびC以下の炭化水素類のようなより価値の低いものに優先的して製造される。従来の操作では相当量の高付加価値のディーゼル油が製造されるので、当該脱蝋操作の次に第二の分離が一般的に必要とされるであろう。本発明では全てのディーゼル油を回収する際、単一操作だけが必要なので相当経費の節約となる。加えて、本発明では当該脱蝋操作から回収されるディーゼル油画分は、好ましくは約−20℃未満およびより好ましくは約−30℃未満の特別低い流動点を持つことになるであろう。当該ディーゼル油の低流動点は終留点(end point)を拡げて全生成物におけるディーゼル油の収率も増加する。
【0014】
(本発明の詳細な説明)
本発明は図を参考にすることにより明確で具体的に説明されるであろう。一酸化炭素および水素を主に含む合成されたガスまたは合成ガスは入口2を通してフィッシャー−トロプシュ反応器4に送られる。C以上の炭化水素を主に含むフィッシャー−トロプシュ合成原油はライン6で脱蝋装置8に運ばれ、そこで当該合成原油の、特にディーゼル油および潤滑油基油の範囲において沸騰する合成原油の画分の流動点が低下させられる。当該脱蝋装置から回収されるC以上の中間体はライン10によりハイドロフィニッシング装置12へ運ばれ、そこではいずれの残存不飽和炭素−炭素二重結合も飽和され、当該炭化水素類のUV安定性も改善される。当該UV安定化C以上の生成物はライン14により回収され、蒸留塔16に送られ、そこでは種々の画分が分離される。当該図において別々に回収されて示されている生成物は、それぞれC以下の生成物18、ナフサ20、ディーゼル油22および潤滑油基油24である。
【0015】
(フィッシャー−トロプシュ合成法)
フィッシャー−トロプシュ合成方法では、適切な温度と圧力の反応条件下で水素および一酸化炭素の混合物を含む合成したガス(合成ガス)をフィッシャー−トロプシュ触媒と接触させることにより液状およびガス状炭化水素類が生成する。当該フィッシャー−トロプシュ反応は一般的には約300°Fから約700°F(約150℃から約370℃)、好ましくは約400°Fから約550°F(204℃から228℃)の温度;約10から約600psia(0.7バールから41バール)、好ましくは30psiaから300psia(2バールから21バール)の圧力および約100cc/g/時間から約10,000cc/g/時間、好ましくは300から3,000cc/g/時間の触媒空間速度で実施される。
【0016】
当該生成物はCからC200以上の炭化水素類でCからC100以上の範囲が大部分である。当該反応は例えば1種以上の触媒床を含んでいる固定床、スラリー反応器類、流動床反応器類または異なるタイプの反応器の組合せなど、種々な反応器タイプ中で実施することができる。当該反応方法および反応器類はよく知られており文献の中に記録されている。本発明を行う好ましい方法であるスラリーフィッシャー−トロプシュ製法は強い発熱合成反応に対して優れた熱(および質量)移動の特徴を利用しており、コバルト触媒を使用するとき比較的高分子量のパラフィン系炭化水素類を製造することができる。スラリー製法では、当該反応条件で液体である当該合成反応の炭化水素生成物を含んでいるスラリー液体中に分散、懸濁した粒子状のフィッシャー−トロプシュ型炭化水素合成触媒を含む反応器中のスラリーを通して、第三相として水素および一酸化炭素の混合物を含んでいる合成ガスを泡立てる。当該一酸化炭素に対する当該水素のモル比は約0.5から約4の広い範囲でよいが、より一般的には約0.7から約2.75の範囲内であり、好ましくは約0.7から約2.5である。特に好ましいフィッシャー−トロプシュ製法は欧州特許EP0609079中で教示され、それは当明細書においては参照により全体が組み込まれてある。
【0017】
適切なフィッシャー−トロプシュ触媒はFe、Ni、Co、RuおよびReのような第VIII族触媒金属を1種以上含むが、コバルトが好ましい。加えて、適切な触媒は促進剤を含有してもよい。そこで、好ましいフィッシャー−トロプシュ触媒は適した無機担体材料で、好ましくは1種以上の耐熱性金属酸化物を含む無機担体材料上に効果量のコバルトおよびRe、Ru、Pt、Fe、Ni、Th、Zr、Hf、U、MgおよびLaの1種以上を含む。一般的に、当該触媒中に存在するコバルトの量は全触媒組成中に約1と約50重量パーセントの間である。当該触媒はThO、La、MgOおよびTiOのような塩基性酸化物促進剤、ZrOのような促進剤、貴金属(Pt、Pd、Ru、Rh、Os、Ir)、貨幣金属(Cu、Ag、Au)およびFe、Mn、NiおよびReのような他の遷移金属類を含有する。適切な支持材料にはアルミナ、シリカ、マグネシアおよびチタニアまたはそれらの混合物が含まれる。コバルト含有触媒用の好ましい支持体はチタニアを含む。有用な触媒およびそれらの調製は既知であり、米国特許第4,568,663号中に示されているが、それは例示を意図していて触媒選択に関しては非制限的である。
【0018】
(接触的脱蝋)
図には示していないが未精製合成原油は、窒素や酸素化合物が一般的に有名な触媒毒として作用する多くの夾雑物を含有するので、当該合成原油については脱蝋装置に導入する前に前処理する工程を入れるのが望ましいであろう。当該窒素化合物と酸素化合物は水素化精製により除去できる。好ましくは脱蝋反応器への供給原料中の窒素は50ppm未満、より好ましくは10ppm未満であるべきである。或いは、当該アルコール類は脱蝋に先駆けて脱水して水を除去できる。夾雑物除去用の他の方法には吸着および抽出が含まれる。
【0019】
接触脱蝋は主なる3種、従来型水素化脱蝋、完全水素化異性化脱蝋および部分的水素化異性化脱蝋から成る。3種の全てでは、蝋状炭化水素気流および水素の混合物につき酸性成分を含有する触媒上を通して供給原料中の直鎖および僅かに分岐したイソパラフィン類を転換して、許容される流動点の潤滑油基油原料のような他の非蝋状種にすることを必要とする。全ての種類に関する一般的な条件では約400°Fから約800°F(200℃から425℃)の温度、約200psiaから3000psiaの圧力および約0.2から5/時間の空間速度が必要とされる。原料の脱蝋に対して選択する方法は一般的には生成物の品質および当該供給原料の蝋含有量に依存し、従来型水素化脱蝋ではしばしば低蝋含有量供給原料が好ましい。脱蝋用の方法は当該触媒の選択により効果を出すことができる。一般的な事項はAvilino SequeiraがLubricant Base Stock and Wax Processing,Marcel Dekker,Inc.Pages194−223において概説している。従来の水素化脱蝋、完全水素化異性化脱蝋および部分的水素化異性化脱蝋の間の判定は米国特許第5,282,958号で説明されているようなn−ヘキサデカン異性化試験を用いて行うことができる。96パーセントで測定するとき、従来型水素化脱蝋触媒類を用いたn−ヘキサデカン転換では10パーセント未満の異性化ヘキサデカン類の選択性を示し、部分的水素化異性化脱蝋触媒は10パーセントより大で40パーセント未満の異性化ヘキサデカン類の選択性を示し、完全水素化異性化脱蝋触媒類は40パーセント以上、好ましくは60パーセントより大および最も好ましくは80パーセントより大の異性化ヘキサデカン類への選択性を示すであろう。
【0020】
従来型水素化脱蝋では、例えばZSM−5のような従来型水素化脱蝋触媒を用いることで当該蝋分子の大部分をより小さなパラフィン類へ選択的分解して当該流動点は低下する。主に劣化を減少させるために当該触媒に金属を添加することができる。本発明では従来型水素化脱蝋はフィッシャー−トロプシュ蝋分子を分解して最終生成物スレート中にある低分子量生成物の収率を増加させるために使用できる。
【0021】
完全水素化異性化脱蝋は一般的には蝋を異性化して非蝋状のイソパラフィン類への高い転換度を達成するが、一方では同時に分解での転換を最小化する。蝋の転換は完全であるか少なくとも非常に高度でできるので、許容される流動点の潤滑油基油を製造するのに本方法は一般的には追加の脱蝋方法と組合せる必要はない。完全水素化異性化脱蝋は酸性成分と水素化活性を有する活性金属成分から成る二元触媒を使用する。両成分が異性化反応を行うのに必要とされる。完全水素化異性化に用いられる触媒の酸性成分には好ましくはSAPO−11、SAPO−31およびSAPO−41などの中程度孔SAPOが含まれ、SAPO−11が特に好ましい。ZSM−22、ZSM−23、SSZ−32、ZSM−35およびZSM−48のような中程度孔ゼオライトも完全水素化異性化脱蝋を実施するのに使用できる。典型的な活性金属類にはモリブデン、ニッケル、バナジウム、コバルト、タングステン、亜鉛、白金およびパラジウムが含まれる。当該金属の白金およびパラジウムは活性金属類として特に好まれ、白金が最も普通に使用される。
【0022】
部分的水素化異性化脱蝋では、パラフィン類を選択的に異性化できる触媒を用いて当該蝋の一部分をイソパラフィン類に異性化するが、当該蝋の異性化を比較的低値に保つときのみである(典型的には50パーセント未満)。より高い転換率では分解による蝋の転換が顕著となり、潤滑油基油原料の収率損失で無駄が多くなる。完全水素化異性化脱蝋と同じように、部分的水素化異性化脱蝋に使用される触媒には酸性成分および水素化成分が含まれる。部分的水素化異性化脱蝋に有用な酸性触媒成分には無定形シリカアルミナ類、フッ化アルミナおよび12環状ゼオライト類(ベータ、Yゼオライト、Lゼオライトのような)が含まれる。当該触媒の水素化成分は完全水素化異性化脱蝋で既に検討したものと同じである。当該蝋転換は不完全であるので、許容される流動点(約+10°Fまたは−12℃未満)の潤滑油基油原料を生産するために、部分的水素化異性化脱蝋は追加的な脱蝋手法、一般的には溶媒脱蝋、完全水素化異性化脱蝋または従来型水素化脱蝋で補完しなければならない。
【0023】
本発明は超高粘度指数の潤滑油基油を調製する際にも使用できる。SAPO−11のようなSAPO類を含有する触媒は超高粘度指数潤滑油基油を製造する際に使用されてきた。しかしながら、例えばSSZ−32、ZSM−23およびZSM−22のような一次元孔の中程度孔ゼオライトは、超高粘度指数を有する潤滑油基油生成物を望むなら本発明の実施においても使用することができる。用語、1−D孔と呼ばれている一次元孔は米国特許第5,135,638号、column 6、line31〜41に全容が説明されている。簡単に言うと、当該用語は結晶内通路が並行であり、相互に連結していないゼオライトを称する。従来の石油由来原料についてSAPO類を含有している触媒類はゼオライトを含有している触媒類より高い粘度指数生成物を通常製造するであろうから、本実施形態における超高粘度指数潤滑油基油の製造は特に驚くべきことである。好ましくは、中程度孔ゼオライトは水素化活性を有している活性金属と共に使用される。
【0024】
非ゼオライト系分子篩を含有し、本発明で使用する水素化成分を有しているこれらの触媒を調製する際、非水系方法を用いて当該触媒上に当該金属を沈着させるのが通常好ましい。当該金属を触媒上に非水系法を用いて沈着させた触媒、特にSAPO類を含有する触媒は、活性金属を沈着するのに水系方法を使用した触媒類より高い選択性および活性を示した。非ゼオライト系分子篩上への活性金属の非水系沈着は米国特許第5,939,349号で教示されている。一般的に、当該方法には当該活性金属の非水系で非反応性溶媒中への化合物の溶解、およびイオン交換または浸漬により分子篩上へ沈着させることが伴う。
【0025】
(ハイドロフィニッシング)
ハイドロフィニッシングの操作は生成物のUV安定性および色の改善を意図している。この操作は芳香族類特に多環式芳香族類で見られるものを含んでいる炭化水素分子中に存在する二重結合を飽和化して完了すると考えられている。本発明の方法では、当該脱蝋操作から回収されたC以上の中間体はハイドロフィニッシング装置に送られる。当該ハイドロフィニッシング方法の一般的説明は米国特許第3,852,207号および第4,673,487号にて見られるであろう。本開示で使用されるUV安定性の用語は紫外線および酸素に曝された場合の潤滑油または他の生成物の安定性を称する。不安定性は紫外線および空気に曝した場合に目に見える沈殿物形成または暗色化の進行であり、生成物中に濁りまたは綿状物が生じることで示される。本発明の方法で調製された潤滑油基油およびディーゼル油生成物は、それらが市販の潤滑油および市販できるディーゼル油の製造で使用するのに適するにはUV安定性が必要とされるであろう。
【0026】
一般的には、ハイドロフィニッシング域における全圧は約200psigおよび約3000psigの間であり、約5000psigと約2000psigの圧が好ましい。ハイドロフィニッシング域での温度範囲は通常約300°F(150℃)から約700°F(370℃)の範囲で、約400°F(205℃)から約500°F(260℃)が好ましい。LHSVは通常約0.2から約2.0、好ましくは0.2から1.5であり最も好ましくは約0.7から1.0の範囲である。水素は通常ハイドロフィニッシング域に供給原料バレル当たり約1000から約10,000SCFの速度で供給される。一般的には、当該水素は供給原料のバレル当たり約3000SCFの速度で供給される。当該ハイドロフィニッシング工程は当該脱蝋工程として同じガスシステムの中に組み込むことができる。
【0027】
適したハイドロフィニッシング触媒は一般的に酸化物担体と共に第VIII族の金属成分を含有する。ニッケル、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、パラジウム、白金およびオスミウムを含む金属類または金属類の化合物がハイドロフィニッシング触媒類にて有効である。好ましくは当該金属または金属類は白金、パラジウムまたは白金とパラジウムの混合物であろう。耐熱性酸化物の担体は通常アルミナ、シリカ、シリカ−アルミナ、シリカ−アルミナ−ジルコニアなどから構成される。当該触媒は場合によりゼオライト成分を含有してもよい。一般的なハイドロフィニッシング触媒類は米国特許第3,852,207号、第4,157,294号および第4,673,487号に開示されている。
【0028】
当該発明を実施する際に、ディーゼル油および潤滑油基油の範囲で沸騰するこれらフィッシャー−トロプシュ画分の間のカットポイントはディーゼル油の収率または潤滑油基油の収率のどちらを増やすかで調整することができる。例えば、ディーゼル油のためのカットポイントを拡張することで、ディーゼル油の収率を最大にするばかりでなく非常に低い曇り点と流動点を有するディーゼル油生成物を製造することもできる。同時に、潤滑油にとって主な市販上の謳い文句である潤滑油基油分の揮発度が最小化される。
【0029】
SAPO−11のようなSAPOを脱蝋操作において水素化異性化触媒として使用すると、ディーゼル油が蝋分解の主な生成物である。結局、価値がより低いナフサおよびC以下のガスに関する実効収率が最小化される。分画の間における当該ディーゼル油と当該潤滑油基油生成物の間のカットポイントも、当該最終製品スレート中に存在するディーゼル油の量を減少または増加させるように調節することができる。例えば、選択するカットポイントは600°F(515℃)まで下げることができる。これによりディーゼル油を犠牲にして回収する潤滑油基油の量を増加させるであろう。同じように、当該カットポイントは700°F(370℃)以上に選ぶこともできる。これで潤滑油基油の収率を犠牲にして回収するディーゼル油の量を増加させるであろう。また一方、後者の場合回収されるディーゼル油は特に低い流動点をもち、当該潤滑油基油は非常に低い揮発性を有することになるであろう。
【0030】
最終的には既に述べたように、本発明の現方法は従来処理方式を使うとき必要とされる2種の分画工程の代わりに単一の分画操作のみを必要とする。従って、本発明は従来操作より顕著に経費節減を生じる。
【0031】
以下の実施例は本発明の特定な実施形態を更に示す目的があるが、それについて制限を意味するものではない。
【0032】
(実施例)
表1に示す規格を有するフィッシャー−トロプシュ法由来の供給原料を水素化分解触媒および水素化異性化触媒を用いて脱蝋した。
【0033】
【表1】


市販で入手できるニッケル−タングステン シリカ/アルミナディーゼル油水素分解触媒と、水素化成分として白金が存在するアルミナ上に25重量パーセントのSAPO−11を含有する水素化異性化触媒を比較した。供給原料を全圧1000psig、液体時間当たり空間速度1.0、および10,000SCF H/bblのワンススルーガス速度において脱蝋した。当該脱蝋操作から回収した生成物はハイドロフィニッシングしなくても、表2に示した性質を有していた。
【0034】
【表2】


表2はフィッシャー−トロプシュ法の生成物はバルク脱蝋でき、優れた性質を有するディーゼル油および潤滑油基油を満足な収率にて製造するのに成功していることを示している。Pt/SAPO触媒を用いて回収したディーゼル油は従来の触媒を用いてのディーゼル油より顕著に低い曇り点を有していた。当該脱蝋操作から得られた潤滑油基油類を比較すると、Pt/SAPO触媒を用いての生成物が顕著に低い流動点および100℃でより大きな粘度を有することは注目すべきことである。加えて、当該潤滑油基油生成物は158の粘度指数を有し、それは超高粘度指数生成物として適格であるのに必要とされるものを充分に上回っている。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】図1は本発明の1つの実施形態についての概略図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)フィッシャー−トロプシュ法のプラントからC以上の合成原油を含んでいる供給原料を回収すること;
(b)接触脱蝋域において当該C以上の合成原油供給原料を脱蝋条件下で脱蝋触媒と接触させることにより当該C以上の合成原油供給原料を脱蝋し、それによりC以上の合成原油供給原料と比較して低い流動点を有するC以上の中間体を製造すること;
(c)ハイドロフィニッシング域にてハイドロフィニッシング条件下でC以上の中間体をハイドロフィニッシングし、それによりUV安定化C以上の生成物を製造すること;及び
(d)当該UV安定化C以上の生成物から別々に約150℃より高い初留点を有する低流動点炭化水素生成物を回収することを含む、
フィッシャー−トロプシュ法のプラントから約150℃より高い初留点を有する低流動点炭化水素生成物を製造する方法。
【請求項2】
当該UV安定化C以上の生成物から別々に低粘度ディーゼル油および潤滑油基油を回収する、請求項1の方法。
【請求項3】
工程(b)の脱蝋触媒は水素化活性を有する活性金属を少なくとも1種含有する、請求項1の方法。
【請求項4】
当該脱蝋触媒は中程度孔サイズのSAPOを含む、請求項3の方法。
【請求項5】
当該脱蝋触媒はSAPO−11、SAPO−31およびSAPO−41からなる群より選択した少なくとも1種のSAPOを含む、請求項4の方法。
【請求項6】
当該脱蝋触媒はSAPO−11を含む、請求項5の方法。
【請求項7】
当該脱蝋触媒は中程度孔サイズのゼオライトを含む、請求項3の方法。
【請求項8】
当該脱蝋触媒はSSZ−32、ZSM−22、ZSM−23、ZSM−35およびZSM−48からなる群より選択した少なくとも1種のゼオライトを含む、請求項7の方法。
【請求項9】
超高粘度指数、低流動点の潤滑油基油を工程(d)で回収する、請求項8の方法。
【請求項10】
当該活性金属類の少なくとも1種は白金およびパラジウムからなる群より選択する、請求項3の方法。
【請求項11】
当該活性金属類の少なくとも1種は白金である、請求項10の方法。
【請求項12】
当該脱蝋触媒は非ゼオライト系分子篩で、当該活性金属は非水系添加法で加える、請求項3の方法。
【請求項13】
工程(c)のハイドロフィニッシング条件は約200psigから約3000psigの間の圧力を含む、請求項1の方法。
【請求項14】
当該ハイドロフィニッシング条件は約500psigと約2000psigの間の圧力を含む、請求項13の方法。
【請求項15】
(a)フィッシャー−トロプシュ法のプラントからC以上の合成原油を含んでいる供給原料を回収すること;
(b)水素化異性化域において当該C以上の合成原油供給原料を水素化異性化条件下で水素化異性化触媒と接触させて当該C以上の合成原油供給原料を脱蝋し、それによりC以上の合成原油供給原料と比較して低い流動点を有する異性化したC以上の中間体を製造すること;
(c)ハイドロフィニッシング域にてハイドロフィニッシング条件下で異性化したC以上の中間体をハイドロフィニッシングし、それによりUV安定化C以上の生成物を製造すること;及び
(d)当該UV安定化C以上の生成物から別々に低流動点のディーゼル油および潤滑油基油を回収することを含む、
フィッシャー−トロプシュ法のプラントから約120℃より高い初留点を有する低流動点合成原油生成物を製造する方法。
【請求項16】
当該水素化異性化触媒は中程度の孔サイズのSAPOおよび水素化活性を有する活性金属を含んでいる少なくとも1種の水素化成分を含む、請求項15の方法。
【請求項17】
当該水素化異性化触媒はSAPO−11、SAPO−31およびSAPO−41からなる群より選択した少なくとも1種のSAPOを含む、請求項16の方法。
【請求項18】
当該水素化異性化触媒はSAPO−11を含む、請求項17の方法。
【請求項19】
当該活性金属の少なくとも1種は白金およびパラジウムからなる群より選択するものである、請求項16の方法。
【請求項20】
当該活性金属の少なくとも1種が白金である、請求項19の方法。
【請求項21】
当該活性金属は非水系添加法で水素化異性化触媒に加える、請求項16の方法。
【請求項22】
工程(c)のハイドロフィニッシング条件は約200psigから約3000psigの間の圧力を含む、請求項15の方法。
【請求項23】
当該ハイドロフィニッシング条件は約500psigと約2000psigの間の圧力を含む、請求項22の方法。
【請求項24】
当該潤滑油基油生成物から低流動点ディーゼル油生成物を分離する際のカットポイントは、当該低流動点ディーゼル油生成物の収率を最大にするように予め設定してある、請求項16の方法。
【請求項25】
(a)フィッシャー−トロプシュ法のプラントからC以上の合成原油を含んでいる供給原料を回収すること;
(b)接触水素化脱蝋域において当該C以上の炭化水素供給原料を中程度孔サイズのゼオライトと少なくとも1種の水素化活性を有する金属を含んでいる水素化異性化脱蝋触媒と接触させて当該C以上の合成原油供給原料を脱蝋し、前記脱蝋はC以上の合成原油供給原料と比較して低い流動点を有するC以上の中間体を製造するように選ばれた水素化脱蝋条件下で実施すること;
(c)ハイドロフィニッシング域にてハイドロフィニッシング条件下でC以上の中間体をハイドロフィニッシングし、それによりUV安定化したC以上の生成物を製造すること;及び
(d)当該UV安定化したC以上の生成物から別々に超高粘度指数の低い流動点である潤滑油基油生成物を回収することを含む、
フィッシャー−トロプシュ法のプラントから超高粘度指数で低流動点の潤滑油基油生成物を製造する方法。
【請求項26】
当該中程度の孔サイズのゼオライトは同時に一次元孔を有することが特徴である、請求項25の方法。
【請求項27】
一次元孔を有する中程度の孔サイズのゼオライトはSSZ−32、ZSM−22およびZSM−23からなる群より選択した少なくとも1種のゼオライトを含む、請求項25の方法。
【請求項28】
当該活性金属の少なくとも1種は白金およびパラジウムからなる群より選択したものである、請求項25の方法。
【請求項29】
当該活性金属の少なくとも1種が白金である、請求項28の方法。
【請求項30】
工程(c)のハイドロフィニッシング条件は約200psigから約3000psigの間の圧力を含む、請求項25の方法。
【請求項31】
当該ハイドロフィニッシング条件は約500psigと約2000psigの間の圧力を含む、請求項30の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2006−526034(P2006−526034A)
【公表日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−500383(P2005−500383)
【出願日】平成15年5月12日(2003.5.12)
【国際出願番号】PCT/US2003/015022
【国際公開番号】WO2004/106467
【国際公開日】平成16年12月9日(2004.12.9)
【出願人】(503148834)シェブロン ユー.エス.エー. インコーポレイテッド (258)
【Fターム(参考)】