説明

脳疾患診断システム

【課題】 より正確かつ詳細に脳疾患の診断を行う。
【解決手段】 検診者の脳疾患を診断する脳疾患診断システム1の診断サーバ10は、検診者の脳の画像を取得して取得画像とする取得部11と、取得画像において複数の領域を設定する領域設定部12と、複数の領域各々について、取得画像の画素値に基づいて個別指標値を算出する個別指標値算出部13と、複数の領域各々の個別指標値に対して、重み付けを行うことによって全体指標値を算出する全体指標値算出部14と、全体指標値に基づいて検診者の脳疾患を診断する診断部15と、診断の結果を示す情報を出力する出力部16と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、検診者の脳疾患を診断する脳疾患診断システムに関する。
【背景技術】
【0002】
医用技術の発展と共に患者情報や画像情報などの電子データ化が進められている。特に、医療機器の発展に伴い画像データ量が増加しており、それに対応して医師の読影負担が大きくなっている。そのような背景の中、様々なモダリティ(CT(Computed Tomography)、MRI(Magnetic Resonance Imaging)、US(ultrasonography)、SPECT(Single Photon Emission Computed Tomography)、PET(Positron EmissionTomography)等)や部位(肺野や乳房等)を対象として、医師の読影支援を目的とした自動診療システム(CAD(Computer-aided diagnosis))が研究・開発されている。
【0003】
自動診療システムの一つの脳疾患を診断する方法として、特許文献1に記載されている方法が提案されている。この方法では、MRI、PET、SPECT等から得られた被検者の脳画像データに対して、灰白質組織を抽出して、抽出後の脳画像に対して平滑化を行う。その後、脳画像に対して解剖学的標準化等を行った上で、被検者の脳画像と健常者の脳画像との統計学的比較を行い、関心領域(ROI(Region of Interest))を設定して解析する。そして解析結果を診断結果として提供するものである。ここで、関心領域として設定される領域は、脳画像の各ボクセルついて、健常者画像群のボクセル値の平均値及び標準偏差により算出されるZスコアに基づいて自動設定される。
【特許文献1】特開2005−237441号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の特許文献1に記載された方法では、上記のように自動設定された一つの関心領域を一律に扱った解析に基づいて、脳疾患が診断される。しかしながら、一つの関心領域だけの分析では、正確な診断ができないおそれがある。また、どのような脳疾患が発生しているかという、詳細な診断を行うことができない。これは、一つの関心領域だけの分析では、当該関心領域のデータが、脳疾患の影響によるものか、また、どのような脳疾患による影響によるものか(例えば、アルツハイマーの影響であるか否か)まで判断できないことによるものである。
【0005】
本発明は、以上の問題点を解決するためになされたものであり、より正確かつ詳細に脳疾患の診断を行うことができる脳疾患診断システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記の目的を達成するために、本発明に係る脳疾患診断システムは、検診者の脳疾患を診断する脳疾患診断システムであって、検診者の脳の画像を取得して取得画像とする取得手段と、取得手段によって取得された取得画像において、複数の領域を設定する領域設定手段と、領域設定手段によって設定された複数の領域各々について、取得画像の画素値に基づいて個別指標値を算出する個別指標値算出手段と、個別指標値算出手段によって算出された複数の領域各々の個別指標値に対して、重み付けを行うことによって全体指標値を算出する全体指標値算出手段と、全体指標値算出手段によって算出された全体指標値に基づいて、検診者の脳疾患を診断する診断手段と、診断手段による診断の結果を示す情報を出力する出力手段と、を備えることを特徴とする。
【0007】
本発明に係る脳疾患診断システムでは、検診者の脳の画像に基づいて、当該検診者の脳疾患が診断される。本システムでは、脳の画像に対して、複数の領域が設定されて、複数の領域各々に対して、画素値に基づく個別指標値が算出される。続いて、当該各個別指標値に対して重み付けが行われて全体指標値が算出されて、当該全体指標値から上記の診断が行われる。従って、本発明に係る脳疾患診断システムによれば、脳の領域毎に脳疾患の影響を考慮した判断を行うことができ、より正確かつ詳細に脳疾患の診断を行うことができる。
【0008】
診断手段は、脳疾患が有るサンプルデータの指標値及び脳疾患が無いサンプルデータの指標値に基づいて得られた閾値と、全体指標値算出手段によって算出された全体指標値とを比較することによって、検診者の脳疾患を診断することが望ましい。この構成によれば、全体指標値を用いた判断の際の判断基準をより適切なものとすることができ、更に正確かつ詳細に脳疾患の診断を行うことができる。
【0009】
全体指標値算出手段は、脳疾患が有るサンプルデータの指標値及び脳疾患が無いサンプルデータの指標値に基づいて、重み付けを行うことが望ましい。この構成によれば、全体指標値を算出する際の重み付けをより適切に行うことができる。例えば、診断を行う脳疾患に影響が大きい範囲に対しては大きい重みとすることができる。その結果として、更に正確かつ詳細に脳疾患の診断を行うことができる。
【0010】
取得手段は、取得した脳の画像の画素値に基づいて、当該画像に対して補正を行って取得画像とすることが望ましい。この構成によれば、検診者の脳の個体差等を排除して、適切な脳疾患の診断を行うことができる。
【0011】
取得手段は、検診者の年齢を示す情報も取得して、診断手段は、取得手段によって取得された情報により示される検診者の年齢に応じて、当該検診者の脳疾患を診断する、ことが望ましい。脳の状態は、通常、年齢に応じて変化するが、この構成によれば、年齢応じた適切な脳疾患の診断を行うことができる。
【0012】
取得手段は、取得した脳の画像に対して解剖学的標準化を行って取得画像とすることが望ましい。この構成によれば、脳の画像を処理しやすくして、適切な脳疾患の診断を行うことができる。
【0013】
脳疾患診断システムは、検診者の脳の画像を撮像する撮像手段を更に備え、取得手段は、撮像手段によって撮像された画像を取得する、ことが望ましい。この構成によれば、脳の画像を確実に取得できるので、確実に本発明を実施することができる。
【0014】
撮像手段は、検診者の脳のスライス画像を、当該検診者の脳の画像として撮像し、取得手段は、撮像手段によって撮像されたスライス画像から、脳の脳表を投影した脳表投影画像を生成して取得画像とする、ことが望ましい。この構成によれば、脳疾患の種類によっては診断を行いやすい脳表画像に基づいて、診断を行うことができる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、脳の領域毎に脳疾患の影響を考慮した判断を行うことができ、より正確かつ詳細に脳疾患の診断を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面と共に本発明に係る脳疾患診断システムの好適な実施形態について詳細に説明する。なお、図面の説明においては同一要素には同一符号を付し、重複する説明を詳細する。
【0017】
図1に本実施形態に係る脳疾患診断システム1の構成を示す。脳疾患診断システム1は、検診者の脳疾患を診断するシステムである。即ち、脳疾患診断システム1は、検診者が脳疾患を罹っているか否かを判断するシステムである。診断対象となる脳疾患としては、例えばアルツハイマー病等の種別が特定された疾患でもよいし、脳に異常が発生している否かという種別が特定されていない疾患でもよい。本実施形態では、アルツハイマー病を例として説明する。
【0018】
図1に示すように、脳疾患診断システム1は、脳疾患診断システム1の主要機能をなす診断サーバ10を含んで構成されている。また、脳疾患診断システム1は、CT装置、MRI装置、PET装置等のモダリティにより撮影された医療画像データを格納し管理するストレージシステムを含み、あるいは接続されていることが望ましい。本実施形態では、以下のように、脳疾患診断システム1は、ストレージシステムを含むものとして説明するが、必ずしもストレージシステムが含まれていなくてもよい。
【0019】
脳疾患診断システム1は、(ストレージシステムの構成として)、画像データを格納するための複数のストレージ20と、複数のロードバランサ30と、複数の画像サーバ40と、複数の業務サーバ50と、複数のゲートウェイサーバ60とを含んでいる。
【0020】
ロードバランサ30は、ストレージシステムに入力されるタスク要求を受け付けて、タスク要求に応じてストレージシステムの各サーバ40,50,60に転送する等の処理を行う装置である。ロードバランサ30は、タスク要求毎に各サーバ40,50,60が過負荷とならないように負荷分散制御を行う。ロードバランサ30とストレージ20及び各サーバ40,50,60とは、スイッチングハブ70を介して有線の回線により接続されており、互いに情報の送受信を行うことができる。なお、2つのロードバランサ30のうち一方は、もう一方に障害が発生した場合の予備等として用いられる。
【0021】
画像サーバ40は、画像データに係る情報を記録、管理する装置である。画像データに係る情報は、具体的には、画像データが複数のストレージ20のうちどのストレージ20に格納されているかを示す情報(格納ストレージ情報)である。画像サーバ40は、ロードバランサ30から、当該情報の書込要求(Write要求)及び読出要求(Read要求)を入力して、それぞれの要求に応じて処理を行う。また、画像サーバ40同士は、有線の回線により接続されており、互いに情報の送受信を行い、画像サーバ40間での情報の同期を行っている。また、より詳細には後述するように画像サーバ40は、モダリティにより撮像された画像の処理を行う。
【0022】
業務サーバ50は、画像データに係る検診者の情報を記録、管理する装置である。業務サーバ50は、ロードバランサ30から、検診者の情報に係る処理のタスク要求を入力して、それぞれの要求に応じて処理を行う。また、業務サーバ50同士も、画像サーバ40と同様に、有線の回線により接続されており、互いに情報の送受信を行うことができる。
【0023】
ゲートウェイサーバ(DICOMゲートウェイ)60は、ロードバランサ30からストレージ20に格納される画像データを入力して、ストレージ20に転送する装置である。ゲートウェイサーバ60各々は、ストレージ20に接続されたロードバランサ80に画像データを出力する。なお、このロードバランサ80は、各サーバ40,50,60と接続されるロードバランサ30とは別のものである。また、ゲートウェイサーバ60は、本実施形態に係る脳疾患の診断に用いられる情報が入力された場合には、その情報を診断サーバ10に入力する。
【0024】
当該ロードバランサ80は、ゲートウェイサーバ60又は診断サーバ10から入力された画像データや診断結果を示すデータが格納されるべきストレージ20を判断して、当該データのストレージ20への格納を行う。通常、上記のデータは、データの損失を防止するため、2箇所のストレージ20に格納される。なお、2つのロードバランサ80のうち一方は、もう一方に障害が発生した場合の予備等として用いられる。
【0025】
また、脳疾患診断システム1には、ユーザにより用いられる装置として、クライアント100、ビューワ110及びモダリティ121,122,123が、ストレージシステムに接続されて、含まれていてもよい。上記の各装置100,110,121〜123は、スイッチングハブ130を介して有線の回線により、ロードバランサ30に接続されており、ロードバランサ30との間で情報の送受信を行うことができる。
【0026】
クライアント100は、ユーザが脳疾患診断システム1を利用する際に用いられる端末である。ビューワ110は、医師等のユーザが画像データを読影するための読影用端末である。クライアント100やビューワ110には、画像データを取得し、取得した画像データを表示する手段を備えている。また、クライアント100又はビューワ110は、ユーザが脳疾患診断システム1による診断結果を参照するためにも用いられる。クライアント100やビューワ110は、画像データを取得するために、(ユーザの操作等により)画像データの取得要求をロードバランサ30に入力する。取得要求には、取得対象となる画像データを特定する情報が含まれている。
【0027】
モダリティ121〜123は、検診者の頭部(脳)に対して撮像を行って画像データを取得するための撮像手段たる装置であり、具体的にはCT装置121、MRI装置122及びPET装置123等である。モダリティ121〜123は、取得した画像データをストレージシステムで管理するために、当該画像データの登録要求をロードバランサ30に対して行う。
【0028】
また、モダリティ121により撮像される画像データには、所定の断面での、被験者の頭部(脳)の内部を示したスライス画像である。なお、スライス画像は、例えば数mm〜数cm程度の間隔の断面での複数のスライス画像であることが望ましい。スライス画像を構成する画素は、画素に対応する位置の、頭部における組織又は領域に応じた強度(画素値)を有している。例えば、PET装置123により取得されたスライス画像の画素値は、脳糖代謝量を示す半定量値であるSUV(Standard Update Value)に応じた値である(画素値に対して所定の演算を行うことによって、SUVを得ることができる。あるいは、画素値自体を、SUVを示す値として用いることができる)。即ち、本実施形態で用いられるスライス画像は、脳の位置に応じた機能に応じた画素値を有するものが含まれる。本実施形態では、上記のPET装置123によって撮像されたスライス画像を脳疾患の診断に用いることとして説明する。また、PET装置123によってスライス画像が取得される際には、例えば、PET装置123の操作者の入力等により検診者の年齢を示す情報が入力されて、上記のスライス画像に対応付けられる。
【0029】
上記の診断サーバ10、ストレージ20、ロードバランサ30,80、画像サーバ40、業務サーバ50、ゲートウェイサーバ60、クライアント100及びビューワ110としては、具体的には、CPU(Central Processing Unit)、メモリ及びディスク装置等を備えるコンピュータが用いられ、これらが動作することによりそれぞれの装置の機能が発揮される。
【0030】
ここで、脳疾患診断システム1において扱われる脳画像、及び脳画像について示される情報について詳細に説明する。ここで、説明する内容は、本願発明者の研究によって得られた知見を含む。
【0031】
脳疾患診断システム1において当初取得される画像は、PET装置123によって取得された、検診者のスライス画像に基づく画像である。脳疾患診断システム1では、PET装置123による撮像から、診断サーバ10によって後述する取得画像とされるまでの処理は以下のようなものである。なお、スライス画像が診断サーバ10に入力される際には、上記のように検診者の年齢を示す情報が対応付けられて併せて入力されており、検診者の年齢を示す情報が利用可能である。
【0032】
PET装置123は、検診者(の脳)に対して撮像を行い、図2に示すスライス画像(PET生画像)201を取得する。PET装置123は、取得したスライス画像201を、スイッチングハブ130、ロードバランサ30、スイッチングハブ70及びゲートウェイサーバ60を介して、診断サーバ10に出力する。診断サーバ10は、入力したスライス画像201に対して解剖学的標準化を行い、図2に示す標準脳画像(断層像)202とする。なお、PET装置123によって取得されたスライス画像が全身の画像である場合には、診断サーバ10は、診断に必要な頭部画像のみを切り出す。
【0033】
ここで、解剖学的標準化は、従来の方法により行われてもよく、具体的には例えば3DSSP(Three dimensional stereotactic surface projection)のツールが用いられて行われる。続いて、診断サーバ10は、標準脳画像202に対してマスク処理を行い、周辺ノイズをカットして脳内部の画像データを抽出する。なお、上記のマスク処理は、従来の方法が利用されえる。なお、上記のマスク処理は必ずしも実施する必要はない。
【0034】
続いて、診断サーバ10は、解剖学的標準化後又はマスク処理後の標準脳画像202に対して、補正処理を行う。この補正処理は、画像間の画素値のばらつきを軽減するために標準化をするものである。具体的には、全脳の画素値の平均が予め設定される所定の値となるように、一定となるように、標準脳画像202に対しての補正(例えば、画素値の平均が所定の値となるような係数を画素値に乗算する)を行う。なお、平均が一定となるようにされるのは必ずしも全脳でなくてもよく、例えば、標準脳画像202の小脳、橋又は視床に相当する部分の画素値の平均が予め設定される所定の値となるように補正を行うこととしてもよい。
【0035】
続いて、診断サーバ10は、補正された標準脳画像202から、図2に示すような、脳表を示す脳表画像203を生成する。診断サーバ10は、生成した脳表画像を各方向から投影した脳表投影画像204を生成する。脳表投影画像204は、投影する方向毎に生成され、その方向は図2に示すように右、左、上、下、前、後並びに中心で切って右及び左の8方向である。脳表画像203及び脳表投影画像204の生成は、具体的には、上記の3DSSPによるツールを利用した処理により行われる。
【0036】
引き続いて、診断サーバ10で、標準脳画像202に対して、更に行われる処理について説明する。診断サーバ10で、標準脳画像202から、上述した方法と同様の方法により脳表投影画像204を生成する。続いて、検診者の脳と正常脳との比較した画像205を生成する。正常脳とは、脳疾患を患っていない検診者の脳である。正常脳の上記と同様な脳表投影画像は、予め本システム1等によって取得されてストレージ20に格納されており、利用可能になっている。診断サーバ10は、ストレージ20から、正常脳の脳表投影画像を取得する。ストレージ20に格納されている正常脳の脳表投影画像は年代毎になっており、検診者の年齢を示す情報に基づいて、検診者の同年代の正常脳の脳表投影画像が取得される。診断サーバ10は、取得した正常脳の脳表投影画像の画素値の平均値及び標準偏差を算出する。続いて、診断サーバ10は、算出した値を用いて、検診者の脳の脳表投影画像の画素毎に下記の式を用いてZスコアを算出する。なお、Zスコアを算出するための式は、予め診断サーバ10が記憶している。
Zスコア=(検診者の脳の画素値−正常脳平均値)/正常脳標準偏差
【0037】
Zスコアは、画素値が正常脳の画素値と乖離している度合を示している。PET画像を用いた場合は、Zスコアの値が高いほど糖代謝量が低いことを示している。診断サーバ10は、算出したZスコアを画素値とした、図2に示す検診者の脳と正常脳との比較した画像205を生成する。
【0038】
診断サーバ10は、このように生成した脳画像(画像データ)を、ストレージ20に格納する。なお、ストレージ20への格納の際、別の検診者の脳の検診の際に比較データとして用いられるように、検診者の年齢及び脳疾患の有無を示す情報等を脳画像対応付けて併せてストレージ20に格納する。
【0039】
なお、PET装置123によって取得された検診者のスライス画像は、ストレージシステムの画像サーバ40によっても管理されて、ストレージ20に格納される。
【0040】
ここで、各脳画像と脳画像について示される情報について詳細に説明する。図3に、標準脳画像202に基づく、加齢による全脳代謝量の推移を示すグラフを示す。このグラフにおいて横軸はSUVを示し、縦軸は標準脳画像202における対応するSUVの頻度(画素数)を示している。SUVが大きい頻度が多い程、脳糖代謝量が大きいことを示している。このグラフは、脳全体を対象とて頻度がカウントされたグラフであり、複数の検診者のデータの平均をとったものである(それぞれ、30歳代291名(男性237名、女性54名)、40歳代397名(男性303名、女性94名)、50歳代249名(男性121名、女性128名)、60歳代30名(男性30名)のデータである)。図3に示されるように、年代を追う毎にSUVが小さくなるようなSUVの分布となっており、これは年代を追う毎に脳糖代謝量が小さくなっていることを示している。上記のように、検診者の年齢に応じて、脳画像におけるSUVが変化する。
【0041】
図4に、標準脳画像202に基づく、正常脳とのアルツハイマー病患者の脳との全脳代謝量の相違を示すグラフを示す。このグラフにおいて横軸はSUVを示し、縦軸は標準脳画像202における対応するSUVの頻度(画素数)を示している。このグラフは、脳全体を対象として頻度がカウントされたグラフである。また、このグラフにおいて細線で示されるデータは、個々の検診者のデータであり、太線で示されるデータは、アルツハイマー病及び正常脳毎の検診者のデータの平均をとったものである。(それぞれ、正常脳23名(男性12名、女性11名、平均年齢52.3歳)、アルツハイマー病24名(男性10、女性14名、平均年齢58.3歳)のデータである)。図5は、アルツハイマー病及び正常脳の検診者毎のSUVの平均値(縦軸)を示したグラフである。図5に示したグラフでは、有意水準0.001未満でアルツハイマー病の脳画像と正常脳の脳画像との(SUVの平均値の)間に有意差がある。上記のように、検診者がアルツハイマー病に罹患しているか否かによって、脳画像におけるSUVに相違がある。
【0042】
図6(a)に、複数のアルツハイマー病患者(24名)の脳表投影画像の画素値の平均に対して、複数の正常脳(23名)の脳表投影画像の画素値の平均値を比較対象として、上記のZスコアを算出して、Zスコアに応じた画像としたものである(図2の画像205と同様の画像である)。当該画像に示すように、Zスコアが高い、即ち、アルツハイマー病と正常脳との間で画素値の違いが大きい部分には偏りがある。Zスコアが高い部分は、脳の頭頂葉、側頭葉、頭頂連合野及び後帯状回の部分である(図6(b)に、脳画像の対応箇所を示す図を示す)。上記の図に示すように、アルツハイマー病の脳と正常脳との間で、脳糖代謝量の相違は、脳の部位に応じたものとなる。以上が、脳疾患診断システム1において扱われる脳画像、及び脳画像について示される情報についての説明である。
【0043】
引き続いて、本発明に係る機能について、診断サーバ10の機能を中心に、より詳細に説明する。図7に示すように診断サーバ10は、取得部11と、領域設定部12と、個別指標値算出部13と、全体指標値算出部14と、診断部15と、出力部16とを備えて構成される。
【0044】
取得部11は、検診者の脳の画像を取得して取得画像とする取得手段である。取得部11によって取得される画像は、PET装置123によって取得された、検診者のスライス画像に基づく画像である。上述したように、取得部11は、PET装置123からゲートウェイサーバ60を介してスライス画像201が入力されて、当該スライス画像201から、上述した処理によって標準脳画像202、脳表画像203及び脳表投影画像204を順に生成する。取得部11は、上記の標準脳画像202、及び脳表投影画像204を脳疾患の診断に用いる取得画像とする。取得部11は、生成した取得画像を領域設定部12に出力する。なお、取得部11は、必ずしも上記のように画像処理がなされた画像を取得画像とする必要はない。入力された脳画像が標準化や補正等の画像処理の必要がないものであれば、それぞれの画像処理は行われなくてもよい(例えば、当該入力された脳画像を取得画像とすることとしてもよい)。
【0045】
領域設定部12は、取得部11から入力された取得画像(標準脳画像)において、複数の領域(ROI:Region of Interest)を設定する領域設定手段である。取得画像における領域の設定は、例えば、脳の解剖学的部位に分割するように行われる。図8に、脳の解剖学的部位を示す。右側面を示す図8(a)に示されるように、脳の部位には、前頭葉301、頭頂葉302、側頭葉303、後頭葉304及び小脳305がある。また、脳を中心で切って右を示す図8(b)に示されるように、脳の部位には、前頭連合野306、後帯状回307及び頭頂連合野308がある。また、脳全体を領域の一つとして設定してもよい(その場合、領域間に重なり合う部分が生じることとなる)。領域の設定は、例えば、予め画像における座標がどの解剖学的部位に属するかという設定をしておき(上記を示す情報を保持しておき)、当該設定に基づいて行われる。この設定は、脳疾患診断システム1の管理者や医師等により行われる。
【0046】
解剖学的部位の特定基準は、3DSSPの標準脳変換にも使用されるTalairachのアトラスや、大脳皮質の解剖学・細胞構築学的区分(1〜52で分類)が示されたBrodmann([Korbinian Brodmann] Brodmann’s Localisation in the Cerebral Cortex: The Principles of Comparative Localisation in the cerebral Cortex Based onCytoarchitectonics)の脳地図が用いられてもよい。また、Brodmannの脳地図を基に、いくつかの領域を組み合わせて、前頭葉、側頭葉、脳頂葉、後頭葉及び小脳等、大きな領域で区切ってもよい。
【0047】
また、領域の設定は、脳画像の全体に対して行われる必要はなく、診断対象の疾患により特異的に画素値が変化する部分に対して行われればよい。例えば、アルツハイマー病の場合、頭頂葉、側頭葉、頭頂連合野及び後帯状回が、より変化しやすいのでそれらの部分に対してそれぞれ領域が設定されればよい。即ち、検診対象とする脳疾患に特有な変化が認められる部位に領域を設定するのがよい。その逆に、検診対象とする脳疾患に特有な変化が認められない部位に領域を設定してもよい。また、医師が良く観察する部位に領域を設定してもよいし、その逆に、医師があまり観察しない部位に領域を設定してもよい
【0048】
また、領域の設定は、予め、サンプルとして取得されている正常脳の脳画像と、診断対象の疾患に罹患している脳の脳画像とを、上述したように画素毎にZスコア化して、Zスコアが0〜0.5、0.5〜1.0…等、その値毎に自動的に領域を設定してもよい。
【0049】
領域設定部12は、取得画像と設定された複数の領域を示す情報を、個別指標値算出部13に出力する。
【0050】
個別指標値算出部13は、領域設定部12によって設定された複数の領域各々について、取得画像の画素値に基づいて個別指標値を算出する個別指標値算出手段である。具体的には、個別指標値算出部13は、個別指標値を以下のように算出する。まず、取得画像において設定された領域毎に、図4に示すようにSUVを示す値として画素値毎の画素の頻度をヒストグラム化する。個別指標値算出部13は、ヒストグラムから、SUVの平均値、標準偏差、最大値、最小値、積分値及び分布パターンを算出して個別指標値とする。
【0051】
本実施形態では、SUVの平均値及び標準偏差を個別指標値とする例で説明する。また、予め正常脳の平均値のサンプルデータから画素値の平均値Nave及び標準偏差NLSDを算出しておき、これらの値及び以下の式を用いて、検診者の取得画像の画素値の平均値xの個別画素変換値x´を求めて、個別指標値としてもよい。
【数1】

【0052】
個別指標値算出部13は、算出した個別指標値を示す情報を全体指標値算出部14に出力する。
【0053】
全体指標値算出部14は、個別指標値算出部13によって算出された領域各々の個別指標値に対して、重み付けを行うことによって全体指標値を算出する全体指標値算出手段である。具体的には、以下の式のように、各個別指標値Rn(nは領域を示す添え字)に対して設定される重み係数knと対応する個別指標値とを乗算して、和を取ることにより算出する。
全体指標値=R1×k1+R2×k2+R3×k3+…+Rn×kn
【0054】
また、上記の重み係数knは、脳疾患が有る(脳の画像の)サンプルデータの指標値及び脳疾患が無い(脳の画像の)サンプルデータの指標値に基づいて、設定されることが望ましい。個別指標値及び全体指標値と、本発明における診断の考え方とについては、より詳細に後述する。重み係数は、脳疾患の脳と正常脳との間で個別指標値の乖離が大きい(傾向がある)領域について、全体指標値に大きく影響するように設定されることが望ましい。全体指標値算出部14は、算出した全体指標値を示す情報を診断部15に出力する。
【0055】
診断部15は、全体指標値算出部14によって算出された全体指標値に基づいて、検診者の脳疾患を診断する診断手段である。診断部15は、具体的には、閾値と全体指標値との比較によって、検診者が検診対象の脳疾患に罹患しているか否かを診断する。上記の閾値は、診断部15によって予め記憶されている。この場合、上記の閾値は、脳疾患が有るサンプルデータの指標値及び脳疾患が無いサンプルデータの指標値に基づいて得られた値であることが望ましい。また、診断部15は、全体指標値から、検診者が検診対象の脳疾患に罹患している度合を決定するというような診断を行うこととしてもよい。診断部15は、診断の結果を示す情報を出力部16に出力する。
【0056】
出力部16は、診断部15による診断の結果を示す情報を出力する出力手段である。具体的には、出力部16は、診断サーバ10が備える表示装置(図示せず)に診断結果を表示することによって、医師等が当該診断結果を参照できるようにする。また、その参照の際、診断に用いた画像や診断者のデータ(年齢等)を併せて表示することとしてもよい。また、出力部16によって出力される情報は、ストレージ20に格納された上で出力が行われてもよい。その場合、各機能部によって算出、生成されたデータは、その都度ストレージに格納されるのがよい。
【0057】
引き続いて、全体指標値算出部14による全体指標値の算出から診断部15による脳疾患の診断までをより詳細に説明する。
【0058】
図9に、図8で示した脳の領域毎に算出された、アルツハイマー病の脳及び正常脳の複数の検診者毎のSUVの平均値(縦軸)を示したグラフである(図5と同様のグラフである)。図9に示したグラフでは、それぞれ以下のような有意水準で、アルツハイマー病の脳画像と正常脳の脳画像との(SUVの平均値の)間に有意差がある。有意水準は、それぞれ(2)頭頂葉では0.001未満、(3)側頭葉では0.001未満、(4)後頭葉では0.005未満、(5)小脳では0.001未満、(6)前頭連合野では0.005未満、(7)後帯状回では0.001未満、(8)頭頂連合野では0.001未満である。なお、(1)前頭葉では有意差なしである。
【0059】
また、図10及び図11に、図8で示した脳の領域毎の、アルツハイマー病の脳(図中ADで示す)及び正常脳(図中Non−ADで示す)のSUVのヒストグラム(複数の検診者の平均)である。上記の図9〜11からもわかるように、アルツハイマー病の脳と正常脳との間で検出されるSUVの相違は、その部位によって異なる。具体的には、Zスコアを用いた図6での説明でも述べたように、アルツハイマー病の脳と正常脳との間では、頭頂葉、側頭葉、後帯状回及び頭頂連合野に大きな違いがみらえる。
【0060】
ここで、脳全体の画像を一律に扱って、脳疾患を診断することを考える。図12(a)に、上記の取得画像から脳全体を対象として算出された、アルツハイマー病の脳及び正常脳の複数の検診者毎のSUVの平均値(縦軸)を示したグラフである。図12(a)のグラフは、正常脳23例、アルツハイマー病24例のデータである。このグラフにおける値は、上述したように複数の正常脳の画素値の平均値のサンプルデータの平均値Nave及び標準偏差NLSDから求められた全体画素変換値である。即ち、以下の式により、正常脳の取得画像(サンプルデータ)の画素値の平均値NLの全体画素変換値NL´、及びアルツハイマー病の脳の取得画像(サンプルデータ)の画素値の平均値ADの全体画素変換値AD´をそれぞれ求めたものである。
【数2】

【0061】
図12(a)に示すグラフの例で、例えば、閾値を設定して、アルツハイマー病であるか否かを診断することができる。閾値よりも値が大きければ正常脳、値が閾値以下であればアルツハイマー病であると診断される。ここで、脳疾患が有る場合であっても、値が閾値よりも大きくなっており、正常脳(脳疾患無し)と判断される場合がある。脳疾患が有る場合に疾患有りと正しく診断できる割合を感度と呼ぶ。また、正常脳である(脳疾患が無い)場合でも、値が閾値以下となり脳疾患有りと判断される場合がある。正常脳である場合に脳疾患無しと正しく診断できる割合を特異度と呼ぶ。閾値を下げると特異度が向上し(一方で感度が下がる)、閾値を上げると感度が向上する(一方で特異度が下がる)。
【0062】
図12(a)のデータを用いた場合の上記の閾値と感度及び特異度との関係を示すグラフ(ROC(Receiver Operating Characteristic)曲線と呼ばれる)を図12(b)に示す。図12(b)のグラフは、横軸は1−特異度を示し、縦軸は感度を示しており、閾値に対応する感度と1−特異度との値をプロットしたものである。一般的に、感度はより1に近い方が、1−特異度は0に近いほうが、診断結果としては好ましいものであるので、上記のグラフはプロットされた線が左上に位置するほうが診断能力に長けていることを示している。例えば、個別画素変換値=−1に閾値を設けたときに、図12(b)に示すように、感度は0.83、特異度は0.78(図中の丸で示す)となる。
【0063】
上記の感度及び特異度について、脳の各領域についても導出することができる。図8で示した脳の領域毎の、閾値と感度及び特異度との関係を示すグラフ、並びに個別画素変換値=−1に閾値を設けたときの感度及び特異度を図13に示す。この時の各領域の感度は、以下のようになる。
【表1】

【0064】
上記の感度を、上述した全体指標値を導出する際の重み係数knとして用いることができる。感度を重み係数として用いて、上記の正常脳及びアルツハイマー病の脳のサンプルデータに対して、全体指標値を導出して図14(a)のグラフに示す。また、当該全体指標値を用いて診断を行う場合の、閾値と感度及び特異度との関係を示すグラフを図14(b)に示す。上記と同様に、全体画素変換値=−1に閾値を設けると、図14(b)に示すように、感度は1.00、特異度は0.87(図中の丸で示す)となる。上記のように、全脳のSUVを用いて判別するよりも、複数の領域を設定して各領域のSUVを重み付けした全体指標値を用いて診断を行うこととすれば、診断の感度が向上することが分かる。
【0065】
上記の重み係数を用いて診断を行う際には、診断部15は、重み係数を導出した際に用いられた個別画素変換値=−1を閾値として用いてもよいし、全体指標値のROC曲線にて最も左上に位置するときの閾値を用いてもよい。
【0066】
また、上記のように閾値を個別画素変換値=−1に設けた場合の感度を重み係数に利用したが、任意の値(例えば、個別画素変換値=−2)を予め設定しておきその値のときの感度や、ROC曲線にて最も左上に位置するときの感度を利用する等してもよい。同様にして、特異度を重み係数に利用することができる。更に、医師等の知見に基づいて、重み係数自体が予め任意に設定されてもよい。
【0067】
また、以下のように上記を組み合わせて重み係数を導出して、それを用いることとしてもよい。
重み係数kn=knsen+knspc+knDr
ここで、knsenは、上述したように所定の閾値等を用いて算出した感度を示す。knspcは、上述したように所定の閾値等を用いて算出した特異度を示す。knDrは、医師等により設定された重み係数である。また、上記の3つの値のうちいずれか2つの値を用いてもよい。
【0068】
また、診断部15による診断に用いられる閾値は、予め設定した閾値(例えば、上記の場合であれば、全体画素変換値=−1)としてもよいし、サンプルデータを用いた際の全体指標値による図14に示したようなROC曲線にて最も左上に位置する点に対応する閾値が用いられてもよい。
【0069】
重み係数及び閾値の設定は、検診者に対する診断を行う前に、上述したような複数の脳疾患が有るサンプルデータと複数の脳疾患が無いサンプルデータとが用いられて行われる。サンプルデータの数はなるべく多いことが好ましく、具体的には、正常脳及び脳疾患が有る脳のサンプルデータは、数十例程度用意することが望ましい。また、検診者と同年代や性別が同じのサンプルデータを用いることが望ましい。また、サンプルデータは同施設や同機種にて取得された画像によるものであることが望ましい。また、脳疾患Aのサンプルデータ数十例、脳疾患Bのサンプルデータ数十例、というように脳疾患の種別を複数用意してもよい。以上が、本実施形態に係る脳疾患診断システム1の構成の説明である。
【0070】
引き続いて、図15のフローチャートを用いて、脳疾患診断システム1により実行される処理を説明する。本処理は、脳疾患診断システム1により検診者の脳疾患を診断する際の処理である。
【0071】
脳疾患診断システム1では、まず、PET装置123によって、検診者のスライス画像(FDG−PET画像)が撮像されて取得される。また、スライス画像の取得と共に、検診者の年齢を示す情報が対応付けられて併せて入力される(S01)。撮像された検診者のスライス画像は、PET装置123から、ゲートウェイサーバ60を介して診断サーバ10に入力される(S02)。
【0072】
診断サーバ10では、取得部11によってスライス画像が受信される。ここで、前述のスライス画像が全身画像の場合、診断サーバ10は診断に必要な頭部領域のみを自動で切り出す(S03)。前述のスライス画像が頭部領域のみの場合、頭部領域の自動抽出(S03)は不要である。続いて、取得部11によって、スライス画像に対して3DSSP処理による解剖学的標準化が行われ、標準脳画像が生成される(S04)。さらに、取得部11によって、標準脳画像に対してマスク処理を行い脳内部の画像データを抽出してもよい。
【0073】
その一方で、取得部11によって、更に画像処理が行われる。まず、標準脳画像に対して補正処理を行う(S05)。補正処理は、上述したように全脳の画素値の平均が予め設定される所定の値となるようにするためのものである。続いて、取得部11によって、補正処理が行われた標準脳画像に対して3DSSP処理が行われ、脳表投影画像が生成される(S06)。上記の標準脳画像及び脳表投影画像が、取得画像とされて、取得部11から領域設定部12に入力される。
【0074】
続いて、領域設定部12によって、標準脳画像及び脳表投影画像に対して、複数の領域の設定が行われる(S07)。領域の設定は、上述したように予めの設定等に基づいて行われる。各画像データ及び設定された領域の情報は、領域設定部12から個別指標値算出部13に入力される。
【0075】
続いて、個別指標値算出部13によって、上記の取得画像の画像データから、図10及び図11等に示すような、設定された領域毎のヒストグラムデータが抽出される(S08)。ヒストグラムデータは、SUV毎の画素の頻度のデータである。続いて、個別指標値算出部13によって、ヒストグラムデータから、領域毎の個別指標値が算出される(S09)。算出された個別指標値は、個別指標値算出部13から全体指標値算出部14に入力される。
【0076】
続いて、全体指標値算出部14によって、領域各々の個別指標値に対して重み付けが行われることによって全体指標値が算出される(S10)。全体指標値の算出に用いられる重み係数は、予め脳疾患が有るサンプルデータの指標値及び脳疾患が無いサンプルデータから上述したように、予め算出しておき、全体指標値算出部14に記憶されている。ただし、必ずしも予め算出されている必要は無く、このタイミングで算出されてもよい。全体指標値は、標準脳画像からと、脳表投影画像からとの2つの値が算出される。算出された全体指標値は、全体指標値算出部14から診断部15に入力される。
【0077】
続いて、診断部15によって、全体指標値に基づいて検診者の脳疾患が診断される(S11)。具体的には、上述したように、予め診断部15に記憶された閾値と全体指標値との比較によって、検診者が検診対象の脳疾患に罹患しているか否かが診断される。ここでは、標準脳画像に基づく診断と、脳表投影画像に基づく診断の2つの診断が行われる。診断の結果を示す情報は、診断部15から出力部16に入力される。ここで、保管している脳疾患教師データが脳疾患の種別毎に複数ある場合、S07〜S11が繰り返し行われる。
【0078】
続いて、診断部15による診断の結果を示す情報は、出力部16からストレージ20に出力され、ストレージ20に格納される(S12)。ストレージ20に格納された上記の情報は、脳疾患診断システム1のクライアント100及びビューワ110等により取得されて表示される。また、上述した処理によって生成された各画像や情報についても、併せてストレージ20に格納されて、診断の結果を示す情報と同様に利用される。
【0079】
その一方で、取得部11によって、S04にて生成された標準脳画像に対して更に以下のような画像処理が行われる。まず、標準脳画像から、3DSSP処理により脳表投影画像204が生成される(S21)。続いて、ストレージ20に格納されている検診者と同年代の正常脳の脳表投影画像が取得される(S22)。続いて、当該正常脳の脳表投影画像が用いられて、検診者の脳表投影画像の画素毎にZスコアが算出される。なお、Zスコアの算出の際に用いられる、画素値の平均値及び標準偏差については、このタイミングで算出されてもよいし、予め算出してストレージ20等に記憶させておいてそれを利用することとしてもよい。続いて、算出したZスコア(に応じた値)を画素値とした脳画像(差分画像)を生成する(S23)。
【0080】
取得部11によって生成された上記のそれぞれの画像は、出力部16を介してストレージ20に出力され、ストレージ20に格納される(S24)。具体的には、PET装置123によって撮像されたスライス画像(頭部PETの生画像)、解剖学的標準化が行われた標準脳画像、脳表投影画像、及びZスコアが用いられた差分画像がストレージ20に格納される。ストレージ20に格納された上記の情報は、脳疾患診断システム1のクライアント100等により取得されて表示される。
【0081】
S12及びS24においてストレージ20に格納された情報及び画像は、上記のようにクライアント100及びビューワ110等において表示される。医師等がその情報及び画像を参照(読影)して、診断や治療等に役立てられる(S31)。以上が、脳疾患診断システム1により実行される処理である。
【0082】
上述したように、本実施形態に係る脳疾患診断システム1では、検診者の脳の画像に基づいて、当該検診者の脳疾患が診断される。本システム1では、脳の画像に対して、複数の領域が設定されて、複数の領域各々に対して、画素値に基づく個別指標値が算出される。続いて、当該各個別指標値に対して重み付けが行われて全体指標値が算出されて、当該全体指標値から上記の診断が行われる。従って、本実施形態に係る脳疾患診断システム1によれば、脳の領域毎に脳疾患の影響を考慮した判断を行うことができ、医師の読影に近い形(医師の目)で診断を行うことができ、より正確かつ詳細に脳疾患の診断を行うことができる。また、診断ミスも低下する。このような自動診断の結果を利用することによって、医師読影の負担が軽減し、また、医師が読影するときの付加価値情報として参考にすることができる。
【0083】
また、例えば、特許文献1に記載された方法では、用意した2群に有意な差があった部位のみにしかROIが設定されず、その他の部位は判別の対象に入らない。そのため、教師データのROIパターンにマッチしない脳疾患例は検出されにくい。一方、本実施形態では脳疾患例で特異的に低下する部位と、その他の部位も判断の対象に入れることができる。更に、医師があまり観察しないような部位にもROIを設定することで、そのような部位のデータも考慮されるため、より正確かつ詳細に脳疾患の診断を行うことができる。即ち、先行技術と比較して、総合的かつ高精度な診断が可能となる。
【0084】
また、本実施形態のように脳疾患が有るサンプルデータと脳疾患が無いサンプルデータとを利用して、診断の際の閾値や重み係数を得ることとすれば、判断基準や重み付けをより適切なものにすることができ、更に正確かつ詳細に脳疾患の診断を行うことができる。例えば、診断を行う脳疾患に影響が大きい範囲に対しては大きい重みとすることができる。また、サンプルデータを用いて感度及び特異度といった連続的な数値を用いるため、教師データのROIパターンにどの程度類似しているかといった、連続的(点数、指標値)な評価が可能となる。ただし、閾値や重み係数は、医師等により設定されてもよく、必ずしもサンプルデータが用いられる必要はない。
【0085】
また、上述したように脳画像に対する補正を行うこととすれば、検診者の脳の個体差等を排除して、適切な脳疾患の診断を行うことができる。また、脳画像に対して解剖学的標準化を行うこととすれば、脳の画像を処理しやすくして適切な脳疾患の診断を行うことができる。
【0086】
また、閾値や重み付けを検診者の年齢に応じて行うことが望ましい。この構成によれば、上述したように脳の状態は、通常、年齢に応じて変化するため、年齢応じた適切な脳疾患の診断を行うことができる。
【0087】
また、本実施形態のように、脳表投影画像を用いた診断をすることが望ましい。この構成によれば、脳疾患の種類によっては診断を行いやすい脳表画像に基づいて、診断を行うことができる。また、本実施形態では、標準脳画像と脳表投影画像との2つの画像に基づいて診断を行っているが、いずれか一方が用いられて診断が行われてもよい。
【0088】
また、本実施形態のように脳疾患診断システム1にモダリティ121〜123が含まれていることとすれば、脳の画像を確実に取得できるので、確実に本発明を実施することができる。但し、脳疾患診断システム1では脳画像が取得されれば診断を行うことができるので撮像を行う装置は必ずしも必要ない。
【0089】
本実施形態では、モダリティとして主にPET装置123が用いられる例を説明したが、その他にもCT装置121、MRI装置122及びSPECT装置(図示せず)等が用いられてもよい。ここで、PET装置123は代謝、血流を、CT装置121は脳萎縮、脳腫瘍、脳梗塞及び脳出血を、MRI装置122は脳萎縮、脳腫瘍、脳梗塞及び脳出血を、SPECT装置は脳血流シンチグラフィを、それぞれ脳画像として検出することができる。従って、診断したい脳疾患に応じたモダリティを用いることとするのがよい。
【0090】
また、本実施形態ではアルツハイマー病を診断する例を説明したが、その他の脳疾患を診断することもできる。例えば、脳血管障害、認知症、脳死及びその他の神経変性疾患や精神疾患脳炎を診断することもできる。また、脳萎縮、脳腫瘍、脳梗塞及び脳出血については、どの部分に異常があるかを診断することができる。
【0091】
更に、以下のような脳疾患を診断することができる(下記において括弧内は、当該脳疾患と関係が大きい脳の部位であり、上記の重み付け等に参考にされうる)。具体的には、前頭側頭型認知症(前頭葉、側頭葉)、皮質基底核変性症(前頭葉、頭頂葉)、進行性核上性麻痺(前頭葉、高位前頭葉内側)、筋萎縮性側索硬化症(前頭葉、一次感覚運動野)、てんかん(側頭葉、その他)、アルツハイマー型認知症(側頭葉、頭頂葉、後帯状回、海馬)、軽度認知機能障害(MCI)(側頭葉、頭頂葉、後帯状回、海馬)、レビー小体型認知症(頭頂葉、後帯状回、後頭葉)、ミトコンドリア脳筋症(MELAS)(後頭葉)、多発性硬化症(後頭葉)、パーキンソン病(後頭葉)、ハンチントン病(大脳基底核)、ウイルソン病(大脳基底核)、ビンスワンガー病(白質)、水頭症(白質)、脳血管性障害(小脳びまん(蔓延する)性血流低下)、変性代謝疾患(脊髄小脳変性症)(小脳びまん性血流低下)、多系統萎縮(オリーブ核橋小脳変性症)(小脳びまん性血流低下)、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)(小脳びまん性血流低下)、脳腱黄色腫症(小脳びまん性血流低下)、薬物中毒(小脳びまん性血流低下)、小脳脳炎(小脳びまん性血流低下)、放射線照射(小脳びまん性血流低下)、感染性疾患(神経梅毒・クロイツフェルト・ヤコブ病・ウェルニッケ脳症)(大脳の広範囲に広がる異常)、亜急性硬化症全脳炎(SSPE)(大脳の広範囲に広がる異常)、急性散在性脳脊髄炎(ADEM)(大脳の広範囲に広がる異常)、薬物中毒(大脳の広範囲に広がる異常、セロトニン系で線条体が低下)、低酸素血症(大脳の広範囲に広がる異常)、一酸化炭素中毒(大脳の広範囲に広がる異常)、ビンスワンガー病(大脳の広範囲に広がる異常)、Gerstmann症候群(頭頂葉)、筋萎縮性側索硬化症(一次感覚運動野)、下1/4同名半盲(頭頂葉)、半側空間無視(劣位半球の頭頂葉)、運動失調(小脳)、歩行失調・体感失調(小脳上部虫部)、脳血管性認知症(血管が梗塞している部位)、その他の認知障害(内分泌・感染・腫瘍・外傷・水頭症)(対応する部位)、その他の機能障害(聴覚・視覚・失語・語義失語等)(対応する部位)、パーキンソン病(ドーパミン系薬剤(ラクロプライド、β−CFT)で線条体が低下)、覚せい剤常用者(セロトニン系薬剤(McN5652、DASB)で線条体が低下)、アルツハイマー型認知症(PIBで集積増加)、軽度認知機能障害(MCI)(PIBで集積増加)等である。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の実施形態に係る脳疾患診断システムの構成を示す図である。
【図2】脳疾患診断システムにおいて利用される脳画像を示す図である。
【図3】標準脳画像に基づく、加齢による全脳代謝量の推移を示すグラフである。
【図4】アルツハイマー病及び正常脳のSUVのヒストグラムである。
【図5】アルツハイマー病及び正常脳の複数の検診者毎のSUVの平均値を示したグラフである。
【図6】アルツハイマー病患者の脳表投影画像から、正常脳の脳表投影画像を比較対象として得られたZスコアに応じた画像、及びZスコアが高い部位を示した脳の部位を示した図である。
【図7】脳疾患診断システムの診断サーバの機能構成を示す図である。
【図8】脳の解剖学的部位を示す図である。
【図9】脳の領域毎に算出された、アルツハイマー病及び正常脳の複数の検診者毎のSUVの平均値を示したグラフである。
【図10】脳の領域毎の、アルツハイマー病及び正常脳のSUVのヒストグラムである。
【図11】脳の領域毎の、アルツハイマー病及び正常脳のSUVのヒストグラムである。
【図12】アルツハイマー病の脳及び正常脳の複数の検診者毎の脳全体のSUVの平均値を示したグラフ、及び閾値と感度及び特異度との関係を示すグラフである。
【図13】脳の領域毎の、閾値と感度及び特異度との関係を示すグラフである。
【図14】アルツハイマー病の脳及び正常脳の複数の検診者毎の全体指標値を示したグラフ、及び閾値と感度及び特異度との関係を示すグラフである。
【図15】本発明の実施形態に係る脳疾患診断システムにおいて実行される処理を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0093】
1…脳疾患診断システム、10…診断サーバ、11…取得部、12…領域設定部、13…個別指標値算出部、14…全体指標値算出部、15…診断部、16…出力部、20…ストレージ、30…ロードバランサ、40…画像サーバ、50…業務サーバ、60…ゲートウェイサーバ、70…スイッチングハブ、80…ロードバランサ、100…クライアント、110…ビューワ、121〜123…モダリティ(121…CT装置、122…MRI装置、123…PET装置)、130…スイッチングハブ。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検診者の脳疾患を診断する脳疾患診断システムであって、
前記検診者の脳の画像を取得して取得画像とする取得手段と、
前記取得手段によって取得された取得画像において、複数の領域を設定する領域設定手段と、
前記領域設定手段によって設定された前記複数の領域各々について、前記取得画像の画素値に基づいて個別指標値を算出する個別指標値算出手段と、
前記個別指標値算出手段によって算出された前記複数の領域各々の個別指標値に対して、重み付けを行うことによって全体指標値を算出する全体指標値算出手段と、
前記全体指標値算出手段によって算出された全体指標値に基づいて、前記検診者の脳疾患を診断する診断手段と、
前記診断手段による診断の結果を示す情報を出力する出力手段と、
を備える脳疾患診断システム。
【請求項2】
前記診断手段は、前記脳疾患が有るサンプルデータの指標値及び前記脳疾患が無いサンプルデータの指標値に基づいて得られた閾値と、前記全体指標値算出手段によって算出された全体指標値とを比較することによって、前記検診者の脳疾患を診断することを特徴とする請求項1に記載の脳疾患診断システム。
【請求項3】
全体指標値算出手段は、前記脳疾患が有るサンプルデータの指標値及び前記脳疾患が無いサンプルデータの指標値に基づいて、前記重み付けを行うことを特徴とする請求項1又は2に記載の脳疾患診断システム。
【請求項4】
前記取得手段は、前記取得した脳の画像の画素値に基づいて、当該画像に対して補正を行って前記取得画像とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の脳疾患診断システム。
【請求項5】
前記取得手段は、前記検診者の年齢を示す情報も取得して、
前記診断手段は、前記取得手段によって取得された情報により示される前記検診者の年齢に応じて、当該検診者の脳疾患を診断する、
ことを特徴とする請求項1〜4のいずれか一項に記載の脳疾患診断システム。
【請求項6】
前記取得手段は、前記取得した脳の画像に対して解剖学的標準化を行って前記取得画像とすることを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の脳疾患診断システム。
【請求項7】
前記検診者の脳の画像を撮像する撮像手段を更に備え、
前記取得手段は、前記撮像手段によって撮像された前記画像を取得する、
ことを特徴とする請求項1〜6のいずれか一項に記載の脳疾患診断システム。
【請求項8】
前記撮像手段は、前記検診者の脳のスライス画像を、当該検診者の脳の画像として撮像し、
前記取得手段は、前記撮像手段によって撮像されたスライス画像から、前記脳の脳表を投影した脳表投影画像を生成して取得画像とする、
ことを特徴とする請求項7に記載の脳疾患診断システム。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図7】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図2】
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【図6】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−12176(P2010−12176A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−177254(P2008−177254)
【出願日】平成20年7月7日(2008.7.7)
【出願人】(000236436)浜松ホトニクス株式会社 (1,479)
【Fターム(参考)】