説明

腐蝕抑制被覆での金属表面の保護法

本発明は、1種以上の成分として、a)1.酸化反応を介して配合される陰イオンを含有し、かつ2.非傷害化状態でのデポー物質の酸化還元電位と金属表面の腐蝕電位との間の電位変化で、又はそれに比べてより少ない損傷での電位変化で既に、この陰イオンの少なくとも一部分を遊離させる(この際、陰イオンは腐蝕の陽極又は/及び陰極部分反応を抑制することができ、又は/及び付着補助作用をし、この際、陰イオンは各々、その移動を妨げないイオン半径を有する)少なくとも1種のデポー物質を含有し、かつ場合により、b)少なくとも1種のマトリックス物質を含有する、腐蝕抑制組成物を含む被覆で金属表面を保護するための方法に関し、この際、1種以上のデポー物質は、被覆の非傷害化範囲で少なくとも部分的に酸化され又は少なくとも部分的に陰イオンを添加されて存在し、かつこの際、少なくとも1種のデポー物質は、被覆の傷害化範囲で少なくとも部分的に還元され、又は添加陰イオンを少なくとも部分的に遊離させ、この際、被覆は、含有される成分及びその含量の選択によって、強い離層が起こる前に、少なくとも部分的に早期又は適時に、離層の発生又は進行を押えるように調整される。デポー物質は、場合により選択的に、陽イオンの比較的低い陽イオン輸送率を有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属表面上に塗布され、引き続いて、場合により乾燥されかつ場合により硬化もされる腐蝕抑制組成物を含む被覆を用いて金属表面を保護するための方法に関する。この組成物は、少なくとも1種のデポー物質、例えば、電導性ポリマーを含有し、これは電位変化の際に、腐蝕の陽極及び/又は陰極部分反応を抑制する及び/又は付着抑制の陰イオンを遊離させ、従って、強い離層が起こる前に、少なくとも部分的に早期に又は適時に離層の発生又は進行が押えられる。そのような被覆は、要求される場合にのみ反応するので、知的被覆の基準をしばしば満足させることができる。
【0002】
数十年来、電導性ポリマー及びその使用は、腐蝕保護においても進展している。微量化学的規模での電気化学的現象は、把握することも理解することも困難である。更に極めて稀に使用される僅かな測定可能性だけはあるが、現象及び理論は極めて稀にしか試験されない。再試験に耐えられず、かつ今日までの試験目的である若干の現象及び理論が記載されている(G.M.Spinks et al.著のJ. Solid State Electrochem. 2002, 6, 85 - 100 での概要が参照される)。電導性ポリマーは、工業的実施では今まで稀にしか使用されていなかった。
【0003】
EP‐A1‐1382721は、陰イオンとして配合されているモノ‐及びジチオール‐有機酸の誘導体と一緒にポリアニリンをベースとするデポー物質を使用する金属表面の腐蝕抑制法を保護する。遊離機序として、損傷と被覆の間の電気的結合が仮定されるとしても、脱プロトン化及び陰イオンの遊離に結び付く酸素の還元及びそれに伴うpH‐上昇が記載されているだけである。ポリマーにおける電位降下による陰イオンの遊離は挙げられてもいないし、暗示されてもいない。抑制陰イオンは、常に、酸の陰イオンである。この抑制陰イオンは、本出願とは異なり、プロトン化反応を介してのみ遊離され(例えば、エメラルジン(Emeraldin)‐塩は、エメラルジン(Emeraldin)‐塩基及び陰イオンを含有するブレンステッド‐酸に分解する)、かつ酸化還元反応を介しては遊離されない。
【0004】
P. J. Kinlen et al. はCorrosion Science Section, 58, June 2002, 490 - 497 に、EP‐A1‐1382721と同様の方法を示している。
【0005】
US‐B1‐6328874は、例えば、15〜60Vの極めて強い陽極電位で、電導性ポリマーの電気化学的重合化及び析出下に、アルミニウム‐表面の保護のための方法を記載している。しかし、多官能性ポリマーの有機陰イオンが多量に使用されるので、製造される薄膜から還元による陰イオンは遊離され得ない。
【0006】
J. He et al. はJournal of the Electrochemical Society 147, 2000, 3667 - -3672 に、電導性ポリマーでの腐蝕抑制機序として、電導性ポリマーとの電気的接触で陽極的分極化による、精鋼上に自然に存在する不働化層の安定化及び改善化を示し、それによって、より安定した不働化のオキシド層を得ることを主張している。この際、陰イオンは役割を果たしていない。
【0007】
DE‐A1‐4334628C2は、分散液として金属支持体上に塗布される電導性ポリマー、殊にポリアニリンでの建築用鋼鉄の不働化法を明らかにしている。第2方法段階で、被覆された支持体を酸素含有水中に浸漬させ、この際、不働化させる。被覆及び不働化は、相互に別々の段階で行なわれる。陰イオンは電導性ポリマーと関連して述べられていない。
【0008】
電導性ポリマーについての多くの刊行物は、陰イオンに言及していない。陰イオンに言及している刊行物は、殆どは、腐蝕抑制陰イオンについて論じていない。ここで、電導性ポリマーとは、それが化学的又は電気化学的に重合されているかどうかで区別され、それというのも、電気化学的重合では、比較的卑金属の表面が、常にポリマーの析出前に不働化されるからである:例えば、金属表面は、オキサレート塩の使用で初めて不働化される。この際、同時に、オキサレート塩‐イオンは電導性ポリマー中に配合され、不働化表面上で析出される。従って、そうして生成された電導性ポリマーは、腐蝕抑制陰イオンを含有するが、腐蝕抑制イオンを記載している刊行物は、電位降下に基づくこれらの陰イオンの遊離は論じていない。
【0009】
ところで、伝導性ポリマーを含有する組成物に、腐食抑制陰イオンが添加されていない場合に、電導性ポリマーの保護作用が短時間だけ存在することが確認され、それというのも、生成された不働化層の持続的破壊によって、例えば、クロリド‐イオンによって、電導性ポリマーがその後に続く再不働化で更に減少され、かつ再不働化に必要な不働化電流が極めて高いので、そこで消費されるからである。しかし、腐蝕抑制陰イオンの存在で、この不働化電流は強く減少される。
【0010】
更に、自然修復作用以上のことが、クロム‐VI‐含有の被覆によってのみ公知である:1.損傷又はむしろ傷害化箇所で金属表面の不働化(陽極部分反応)、2.正に離層している及び既に離層した範囲での陰極部分反応(酸素還元)の抑制。しかし、周知のように、六価のクロメートは有害であり、従って、環境保護の理由から、金属表面の保護のためのクロメート含有成分は徹底して減少される。しかし、クロメートも、小さい損傷だけを不働化及び修復させるが、大面積の損傷には不可能である。しかし今までは、実際に六価のクロメートを含まずに、そのような自然修復作用を示す化学系は未知である。
【0011】
特許出願DE102004037552及びそれから派生される外国出願、DE102004037542及び平行して同じ特許局で同一出願者によって提出された、表題"電導性ポリマーでの微細粒の被覆法(Verfahren zum Beschichten von feinen Partikeln mit leitfaehigen Polymeren)"及び"腐蝕保護被覆での金属表面の被覆法(Verfahren zum Beschichten metallischer Oberflaechen mit einer korrosionsschuetzenden Beschichtung)"及びその外国特許は、殊に、デポー物質、陰イオン、陽イオン、マトリックス物質、出発‐、中間‐及び最終物質、他の添加される又は生成される成分、出発‐、中間‐及び最終組成物、化学反応、製法及び製造条件、物理化学的現象、特性、定義(それらが本特許出願におけるそれと同一である限り)、使用、請求の目的、図面、表及び実施変法の種類に関して、明らかに本出願に引用される。
【0012】
従って、例えば、電導性ポリマーをベースとし、実験室での試験の結果により、腐蝕保護被覆の最適化のための手段を一般に記載する腐蝕抑制組成物での金属表面の保護法を得るという課題があった。
【0013】
更に、他の点で有利であると実証される電導性ポリマーを有する個々の化学系が、実際に、被覆の損傷の際の金属下地上への被覆において、電場の勾配及び電位降下と結び付いた陰イオンの遊離(解放‐作用(Release-Effekt))での電位変化によって自らを明らかにするばかりでなく、修復作用(修復‐作用(Repair-Effekt))を有する場合が特に有利である。しかし、離層箇所が再び修繕される修復作用は、僅かな化学系、つまり、必要な条件を満たす系でのみ期待され得る。
【0014】
ところで、金属/被覆界面範囲での損傷が、例えば、デポー物質から目的の腐蝕抑制陰イオンの遊離を生じさせ、かつ損傷作用を早期に押えるために利用され得る電位降下を引き起こすことが意外にも判明した。この際、出願者に公知の刊行物とは反対に、pH‐値‐変化は、陰イオンの遊離のためのトリガー信号としては利用されない。pH‐値‐変化の使用では、デポー物質の還元は行なわれずに、プロトン化又は/及び脱プロトン化だけが行なわれる。このpH‐値‐変化は、実際には、ポリアニリンでのみ利用される。これに対して、電位降下の際には、常に、デポー物質の還元が行なわれ、この際及びそれによって陰イオンが遊離される。
【0015】
本発明による作用を有するアニリン、ポリアニリン又はその誘導体は、これらの出願人には未知である。
【0016】
この課題は、塗付後に場合により乾燥されかつ場合により硬化もされる腐蝕抑制組成物を含む被覆での金属表面の保護法で解明され、この方法は、1種以上の成分として、場合により少なくとも部分的にマトリックス中に、
a)少なくとも1種のデポー物質、例えば、1.酸化反応を介して少なくとも1種の配合された陰イオンを添加イオンとして含有し、かつ2.電位降下(還元)の際に、これらのイオンの少なくとも一部分を遊離させる少なくとも1種の電導性ポリマー
(この際、少なくとも1種の陰イオンは、腐蝕の陽極又は/及び陰極部分反応を抑制し、かつ場合により付着補助作用をするために好適であり、この際、陰イオンは各々、1種以上のデポー物質及び場合により、例えば、被覆のマトリックス中の少なくとももう1種の成分を通るその移動を妨げない又は実際に妨げないイオン半径を有し、
この際、少なくとも1種の陰イオンは、これらの陰イオンが、水中、少なくとも1種の他の極性溶剤中又は/及び同様に少なくとも1種の非‐極性溶剤を含有する混合物中で移動性であることによって選択され/選択されていて、
この際、少なくとも1種のデポー物質からの陰イオンの遊離は、脱プロトン化反応を介さずに又は/及びほんの僅かしか脱プロトン化反応を介さずに、主に又は/及び全て還元反応を介して行なわれ、かつ
この際、1種以上のデポー物質の製造のための少なくとも1種の出発物質は、その酸化電位が、水又は/及びそれに使用される混合物中の少なくとも1種の他の極性溶剤の分解電位よりも小さい又は等しいことによって選択される)及び
b)場合により少なくとももう1種の成分又は/及び少なくとも1種のデポー物質、例えば、少なくとも1種の有機ポリマー/コポリマーのマトリックスとして少なくとも部分的に用いられる、少なくとも1種のマトリックス物質(この際、少なくとも1種のデポー物質は、被覆の非傷害化範囲で少なくとも部分的に酸化され又は少なくとも部分的に陰イオンを添加されて存在し、かつこの際、少なくとも1種のデポー物質は被覆の傷害化範囲で少なくとも部分的に還元され、又は添加陰イオンを少なくとも部分的に遊離させる)を含有する被覆を金属表面上に塗布し、
この際、被覆は、含有される成分及びその含量の選択によって、少なくとも1種のデポー物質から、腐蝕保護陰イオン及び場合により同様に付着補助陰イオンの実質的割合が、非傷害化状態での少なくとも1種のデポー物質の酸化還元電位と、金属/被覆界面での損傷、例えば、引掻き傷又は不純物の金属表面の腐蝕電位との間の電位降下の際に遊離されるように調整され、従って、金属/被覆界面での強い離層が起こる前に、少なくとも部分的に早期又は適時に離層の発生又は/及び進行が押えられることを特徴とする。
【0017】
更に、この課題は、塗付後に場合により乾燥させかつ場合により硬化もされる腐蝕抑制組成物を含む被覆での金属表面の保護法で解明され、この方法は、1種以上の成分として、場合により少なくとも部分的にマトリックス中に、
a)少なくとも1種のデポー物質、例えば、1.酸化反応を介して少なくとも1種の配合された陰イオンを添加イオンとして含有し、かつ2.電位降下(還元)の際に、これらのイオンの少なくとも一部分を遊離させる少なくとも1種の電導性ポリマー
(この際、少なくとも1種の陰イオンは、腐蝕の陽極又は/及び陰極部分反応を抑制し、かつ場合により付着補助作用をするために好適であり、この際、陰イオンは各々、1種以上のデポー物質及び場合により、例えば、被覆のマトリックス中の少なくとももう1種の成分を通るその移動を妨げられない又は実際に妨げられないイオン半径を有し、
この際、少なくとも1種の陰イオンは、これらの陰イオンが、水中、少なくとも1種の他の極性溶剤中又は/及び同様に少なくとも1種の非‐極性溶剤を含有する混合物中で移動性であることによって選択され/選択されていて、
この際、少なくとも1種のデポー物質からの陰イオンの遊離は、脱プロトン化を介さずに又は/及びほんの僅かしか脱プロトン化反応を介さずに、主に又は/及び全部還元反応を介して行なわれ、かつ
この際、1種状のデポー物質の製造のための少なくとも1種の出発物質は、その酸化電位が水又は/及びそれに使用される混合物中の少なくとも1種の他の極性溶剤の分解電位よりも小さい又は等しいことによって選択される)及び
b)場合により少なくとももう1種の成分又は/及び少なくとも1種のデポー物質、例えば、少なくとも1種の有機ポリマー/コポリマーのマトリックスとして少なくとも部分的に用いられる、少なくとも1種のマトリックス物質(この際、少なくとも1種のデポー物質は、被覆の非傷害化範囲で少なくとも部分的に酸化され又は少なくとも部分的に陰イオンで添加されて存在し、かつこの際、少なくとも1種のデポー物質は被覆の傷害化範囲で少なくとも部分的に還元され、又は添加陰イオンを少なくとも部分的に遊離させる)を含有する被覆を金属表面上に塗布し、
この際、被覆は、含有される成分及びその含量の選択によって、少なくとも1種のデポー物質から、腐蝕保護陰イオン及び場合により付着補助陰イオンの実質的割合が、非傷害化状態でのこれらのデポー物質の酸化還元電位から、金属/被覆界面での損傷、例えば、引掻き傷又は不純物の金属表面の腐蝕電位への電位降下の場合よりも少ない電位降下で既に、殊に、分離先導前部でのより少ない電位降下で遊離されるように調整され、従って、金属/被覆界面での弱い又は強い離層が起こる前に、少なくとも部分的に早期又は適時に離層の発生又は/及び進行が押えられることを特徴とする。
【0018】
付着補助陰イオンが生じる場合には、これらは腐蝕保護性であってはならず、又は全てが腐蝕保護性であってもならず、従って、多くの実施態様では、少なくとも1種の腐蝕保護陰イオンのほかに、少なくとも1種の付着補助陰イオンも出現する。
【0019】
本出願の意における添加の概念は、デポー物質の酸化的陰イオン負荷に関する。本出願の意における損傷の概念は、他の著者において通常選択されるよりも広く、それというのも、それが機械的損傷、例えば引掻き傷だけではなく、金属/被覆界面上又はそれらの近くでの化学的不純物、例えば、未清浄塩残分も把握されるからである。本出願の意における"離層"の概念は、完全には分離していないが、その分離を正に始めようとする分離箇所の周辺にも関し、要するに、損傷の周りで大抵広く出現する先導前部までの範囲に関する("傷害化範囲";外側:弱い離層)。"傷害化範囲"の概念は、場合により損傷が損傷化箇所も電位変化の先導前部も含有していて、要するに、化学系の変化が出現している損傷の周りの範囲を意味する。傷害化範囲の外に、非傷害化範囲がある。"傷害化箇所"は、場合により出現した離層を含む損傷を表わす。弱い離層は、先導された陰極前部の範囲で起こり、その際、ポリマー付着は未だ傷害されていないが、しばしば界面で酸素還元も起こる。強い離層は、界面での付着を傷害するほど多くのラジカルがそこで付加的に生じる場合に起こる。本出願の意における"金属/被覆界面"は、金属表面及び本発明によるデポー物質含有被覆の範囲にある界面を包含し、要するに、例えば、部分的に無意識に又は未制御に塗付されている前処理層又は/及びオキシド‐含有層、及び隣接被覆又は金属材料に対する界面を包含する。
【0020】
出発物質の酸化電位が、水又は/及びそれに使用される混合物中の少なくとも1種の他の極性溶剤の分解電位よりも小さい又は等しい場合には、例えば、水の分解及び、例えば、水素‐遊離が起き得る前に、電導性ポリマーの酸化(=重合)が終結していることが条件付けられる。
【0021】
ここで、特に、傷害化範囲に存在する電導性ポリマーでの電位降下に基づき、モリブデート‐陰イオンが遊離され、損傷に直接移動することが確認された。他の移動過程は、この試験実施では除外され得る。その後に、金属表面上で、損傷化箇所にモリブデート‐含有の不働層が形成され、XPS‐測定(レントゲン分光法)によって調査される。
【0022】
ここで更に、ラスター‐ケルビン‐ゾンデ(Raster-Kelvin-Sonde)(SKP)を用いて、修復作用が確認され、この際、DE102004037542の図2が、そこの例1と関連して、損傷化範囲の強い不働化作用についての測定結果を再現する。しかし、図2において、極めて低い腐蝕電位での第一測定と連続測定の平均からの個々の測定曲線との間で得られた若干の測定曲線が省略された。その間には、離層箇所の離層が少なくとも部分的に停止されたことを証明する極めて強い約0.3Vほどの電位上昇がある。図1は、それに比較して、一般に出現する結果を示す。
【0023】
この電位降下は、非傷害化状態におけるこのデポー物質の酸化還元電位から、損傷での金属表面の腐蝕電位への電位降下よりも、有利に約少なくとも40mV又は約少なくとも80mV少なく、特に有利に約少なくとも120mV又は約少なくとも160mV少なく、極めて特に有利に約少なくとも200mV又は約少なくとも240mV、殊に約少なくとも280mV又は約少なくとも320mV少ない。
【0024】
1種以上の出発物質又は1種以上のデポー物質の選択の際には、1種以上のデポー物質の製造のための有利に少なくとも1種の出発物質は、1.それが、水中、少なくとも1種の他の極性溶剤中又は/及び同様に少なくとも1種の非‐極性溶剤を含む混合物中で又は、特に有利に水中又は水及び少なくとももう1種の第二の溶剤を含有する混合物中で重合され得る又は重合され得た又は重合されたことによって選択される。
【0025】
遊離される腐蝕保護陰イオンの割合は、少なくとも部分的に腐蝕保護作用が生じるほど多くの腐食保護陰イオンが遊離される場合が重要である。特に、陰イオンを溶解させるために又はその移動を原則的に可能にするために又は容易にするために、出発物質混合物中又は生成物‐混合物中又は出発物質混合物又は生成物‐混合物の溶剤混合物中の、少なくとも僅少含量の水又は/及び少なくとも1種の他の極性溶剤が特に有利である。水又は/及び少なくとも1種の他の極性溶剤を含有する溶剤混合物は、場合により、エマルジョン又は/及び懸濁液であってもよい。水又は/及び少なくとも1種の他の極性溶剤を使用することによって、水と接触する出発物質の酸化電位は、水又は/及び少なくとも1種の他の極性溶剤の分解電位よりもできるだけ高くあってはならない。被覆の硬化は、自体公知の方法で、特に、熱的又は/及びラジカル的架橋結合で行なわれ得る。選択的に又は付加的に、特に、少なくとも1種の膜化可能な有機ポリマー及び場合により同様に少なくとも1種の膜化助剤の含量で、膜化が選択され得る。マトリックスは、より強く明確で又は/及び少なくとも1種のデポー物質とは区別されていてよいが、すべきものではない。更になお、マトリックス中に配合されていてよく又は/及びマトリックスに属していてよい、少なくとももう1種の成分、例えば、各々少なくとも1種の硬化剤、1種の無機粒子、シラン/シロキサン、ポリシロキサン、腐蝕抑制剤、架橋結合剤又は/及び添加剤が含有されていてよい。しかし、一般に少なくとももう1種の成分が、少なくとも1種のデポー物質と少なくとも混合されていてもよい。
【0026】
本発明による被覆は、1実施態様において、少なくとも部分的にマトリックスを、例えば、内位添加構造で形成し得る。本発明による被覆は、もう1つの実施態様で、広汎に、実質的に又は完全に、少なくとも1種のデポー物質及び場合により少なくとももう1種の成分を含有し得る;この被覆は、しばしば、広汎に又は全てマトリックスのない、多かれ少なかれ単一の又は実質的に単一の被覆である。第三の実施態様では、本発明による被覆の第一及び第二実施態様の間の混合形又は/及び流動的推移であってよく、この際、勾配被覆が存在してもよく、又は金属表面上に、主に、広汎に又は実質的に少なくとも1種のデポー物質を含む殆ど別々の第一被覆及び主に、広汎に又は実質的に少なくとももう1種の成分を含む第二被覆が存在していてよく、この際、第二被覆は、場合により少なくとも1種のデポー物質を含有することもできる。更に、少なくとも1種のデポー物質だけ又は実質的にそれだけを含む本発明による被覆であってよい。ここで、場合により少量の、特に本出願中に挙げられる少なくとも1種の物質又は/及び少なくとも1種の反応生成物が出現し得る。この本発明による被覆上に、場合により、なお少なくとももう1種の被覆、特に、少なくとも1種の有機被覆、例えば、プライマー又は多層ラッカー系又は接着剤層を塗布することができる。多くの実施変体では、本発明によるデポー物質含有の組成物の塗付の前に、例えば、精鋼表面上のバリ錆を避けるために、腐蝕保護を高めるために又は/及びそれに続く被覆への付着を改善するために、デポー物質を含有する被覆を塗付する前に、清浄された又は清浄な金属表面上に少なくとも1種の予備処理層を塗布する。予備処理層又は本発明による被覆上に有利に塗付すべき後続の被覆、その製法及びその特性の種類は原則的に公知である。
【0027】
本発明による組成物は、有利に、溶液、エマルジョン又は/及び懸濁液である。これは、有利に、少なくとも重合の時点で、少なくとも少量の水又は/及び少なくとも1種の他の極性溶剤を、場合により、同様に少なくとももう1種の非‐極性溶剤との溶剤混合物中に含有する。組成物は、場合により、少なくとも1種の有機溶剤も含有する。特に、組成物は、場合により、水少なくとも2又は少なくとも5質量%又は/及び水とは別の極性溶剤少なくとも2又は少なくとも5質量%を、場合により溶剤混合物中、懸濁液中又は/及びエマルジョン中に含有する。
【0028】
組成物又は被覆の成分としての少なくとも1種のデポー物質は、有利に、被覆の塗付後に既に広汎に又は完全に重合している。少なくとも1種のデポー物質は、有利に、水中又は水を含有する混合物中で、広汎に、殆ど完全に又は完全に重合していて、この際、この水は、場合により、溶剤混合物中、懸濁液中又は/及びエマルジョン中に存在していてよい。デポー物質の製法は、原則的に公知である。酸化的陰イオンを配合し得る、少なくとも1種の電導性ポリマーをベースとする少なくとも1種のデポー物質が、有利に組成物に添加される。多くの実施態様では、(例えば、しばしば、ポリアニリンをベースとする)陰イオンがプロトン化反応を介して(例えば、エメラルジン‐塩基及び陰イオンを含有するブレンステッド‐酸は、エメラルジン‐塩を形成する)配合される、電導性ポリマーが製造されない又は使用されない、又は使用される電導性ポリマーの少量しか製造されない又は使用されないが、陰イオンが酸化反応を介して配合される電導性ポリマーだけが又はそれが主に製造され又は使用されることが有利である。
【0029】
少なくとも1種のマトリックス物質は、場合により少なくとももう1種の成分を含有するマトリックスを、少なくとも被覆の一部分に形成することができる(しかし、すべきものではない)。少なくとも1種のマトリックス物質は、特に、少なくとも1種の有機又は/及び無機物質、例えば、膜化成分、例えば、合成樹脂、天然樹脂、SiO、水ガラス‐変体、無機シリケート、有機シリケート、例えば、アルキルシリケート、シラン、シロキサン、ポリシロキサン、シリル化ポリマーをベースとする、例えば、有機結合剤又は/及び無機結合剤、例えば、フタレートをベースとする軟化剤、例えば、スチロール又は/及びカプロラクタムをベースとする反応性希釈剤、架橋結合可能な(いわゆる、"乾性")油、多糖類又は/及びそれらの混合物であってよい。
【0030】
本発明による方法では、少なくとも1種のデポー物質の製造のための出発物質は、有利に、電子伝導性オリゴマー/ポリマー/コポリマー/ブロックコポリマー/グラフトコポリマー(この際、全部一緒にデポー物質として又は電導性ポリマーとして表示される)を形成するのに好適である、芳香族体又は/及び不飽和炭化水素‐化合物、例えば、アルキン、複素環、炭素環、その誘導体又は/及び、特に、X=N又は/及びSを有する複素環を含むその組合せのモノマー又は/及びオリゴマーから選択される。
【0031】
少なくとも1種の出発物質は、特に、イミダゾール、ナフタレン、フェナントレン、ピロール、チオフェン又は/及びチオフェノールをベースとする非置換又は/及び置換化合物から選択され得る。非置換出発物質の内で、特に、ピロールが有利である。場合により、同様に少なくとも1種の出発物質は前以て別に製造され又は/及び稀な場合には、組成物に添加される。しかし、通例は、少なくとも1種のデポー物質を組成物に添加する。
【0032】
置換出発物質の内で、少なくとも1種の化合物は、特に有利に、ベンズイミダゾール、2‐アルキルチオフェノール、2‐アルコキシチオフェノール、2,5‐ジアルキルチオフェノール、2,5‐ジアルコキシチオフェノール、特に、1〜16個のC‐原子を有する1‐アルキルピロール、特に1〜16個のC‐原子を有する1‐アルコキシピロール、特に、1〜16個のC‐原子を有する3‐アルキルピロール、特に、1〜16個のC‐原子を有する3‐アルコキシピロール、特に、1〜16個のC‐原子を有する3,4‐ジアルキルピロール、特に、1〜16個のC‐原子を有する3,4‐ジアルコキシピロール、特に、1〜16個のC‐原子を有する1,3,4‐トリアルキルピロール、特に、1〜16個のC‐原子を有する1,3,4‐トリアルコキシピロール、1‐アリールピロール、3‐アリールピロール、特に、1〜16個のC‐原子を有する1‐アリール‐3‐アルキルピロール、特に、1〜16個のC‐原子を有する1‐アリール‐3‐アルコキシピロール、特に、1〜16個のC‐原子を有する1‐アリール‐3,4‐ジアルキルピロール、特に、1〜16個のC‐原子を有する1‐アリール‐3,4‐ジアルコキシピロール、特に、1〜16個のC‐原子を有する3‐アルキルチオフェン、特に、1〜16個のC‐原子を有する3‐アルコキシチオフェン、特に、1〜16個のC‐原子を有する3,4‐ジアルキルチオフェン、特に、1〜16個のC‐原子を有する3,4‐ジアルコキシチオフェン、3,4‐エチレンジオキシチオフェン及びその誘導体から選択される。この際、製造され、デポー物質の製造のためのベースとして使用され又は組成物に添加される、特に、1〜16個のC‐原子を有するピロール‐1‐イルアルキルホスホン酸、特に、1〜16個のC‐原子を有するピロール‐1‐イルアルキル燐酸、特に、1〜16個のC‐原子を有するピロール‐3‐イルアルキルホスホン酸、特に、1〜16個のC‐原子を有するピロール‐3‐イルアルキル燐酸、特に、1〜12個のC‐原子を有する5‐アルキルー3,4‐エチレンジオキシチオフェン、特に、1〜12個のC‐原子を有する5‐(ω‐ホスホノ)アルキル‐3,4‐エチレンジオキシチオフェン及びその誘導体をベースとする、少なくとも1種の化合物が選択され得る。C‐原子の数は、各々相互に無関係で、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又は/及び16個であってよい。
【0033】
置換出発物質の内で、極めて特に有利に、2‐メチルチオフェノール、2‐メトキシチオフェノール、2,5‐ジメチルチオフェノール、2,5‐ジメトキシチオフェノール、1‐メチルピロール、1‐エチルピロール、特に、10又は/及び12個のC‐原子を有するピロール‐1‐イルアルキルホスホン酸、特に、12個のC‐原子を有するピロール‐1‐イルアルキルホスフェート、1‐メトキシピロール、1‐エトキシピロール、特に6、8又は/及び11個のC‐原子を有するピロール‐3‐イルアルキルホスホン酸、3‐メトキシピロール、3‐エトキシピロール、3,4‐ジメチルピロール、3,4‐ジメトキシピロール、1,3,4‐トリメチルピロール、1,3,4‐トリメトキシピロール、1‐フェニルピロール、3‐フェニルピロール、1‐フェニル‐3‐メチルピロール、1‐フェニル‐3‐メトキシピロール、1‐フェニル‐3,4‐ジメチルピロール、1‐フェニル‐3,4‐ジメトキシピロール、3‐メチルチオフェン、3‐エチルチオフェン、3‐ヘキシルチオフェン、3‐オクチルチオフェン、3‐メトキシチオフェン、3‐エトキシチオフェン、3‐ヘキソキシチオフェン、3‐オクトキシチオフェン、3,4‐ジメチルチオフェン、3,4‐ジメトキシチオフェン、5‐(‐(ω‐ホスホノ)メチル‐3,4‐ジオキシチオフェン及びその誘導体から選択される少なくとも1種の化合物が製造され、デポー物質の製造のためのベースとして使用され又は組成物に添加される。
【0034】
特に、エチルチオフェン、エチレンジオキシチオフェン、メチルチオフェン、3‐エチルピロール、3‐メチルピロール、N‐エチルピロール、N‐メチルピロール、3‐フェニルピロール及びその誘導体から選択される少なくとも1種の化合物が製造され、デポー物質の製造のためのベースとして使用され又は組成物に添加される。
【0035】
この際、低級のオリゴマー、例えば、約n=8を有するオリゴマーは、電導性ポリマーの作用を殆ど示さない又は示さない。電導性ポリマーは、還元状態で電気的に中性である。電導性ポリマーの酸化の場合には、相応する陰イオンを収容し得る陽イオンが生成する。酸化状態は、化学的に少なくとも1種の酸化剤で、電気化学的に又は/及び光化学的に調整され得る。この際、化学的だけで又は広汎に化学的だけで操作することが有利である。電気重合は実施されず、化学的に重合されることが有利である。電導性ポリマーは、塩‐様構造を有し、従って、陰イオン‐電荷の電導性ポリマーの場合には、塩と称することができる。
【0036】
本発明による方法では、少なくとも1種のデポー物質は、有利に、少なくとも1種の電導性ポリマー、特に、イミダゾール、ナフタレン、フェナントレン、ピロール、チオフェン又は/及びチオフェノールをベースとする、特に、ピロール又は/及びチオフェンをベースとする少なくとも1種の電導性ポリマーである。有利な電導性ポリマーには、例えば、ポリピロール(PPy)、ポリチオフェン(PTH)、ポリ(パラ‐フェニレン)(PPP)又は/及びポリ(パラ‐フェニレンビニレン)(PPV)をベースとするものが属する。デポー物質は別々に又は混合物で前以て製造され、その後に組成物に添加され又は/及び稀な場合には、組成物の出発物質として添加され又は/及び組成物中又は/及び被覆中で反応してデポー物質を形成する。
【0037】
特に1〜16個のC‐原子を有するポリ(1‐アルキルピロール)(P1APy)、特に1〜16個のC‐原子を有するポリ(1‐アルコキシピロール)(P1AOPy)、特に1〜16個のC‐原子を有するポリ(3‐アルキルピロール)(P3APy)、特に1〜16個のC‐原子を有するポリ(3‐アルコキシピロール)(P3AOPy)、ポリ(1‐アリールピロール)(P1ArPy)、ポリ(3−アリールピロール)(P3ArPy)、特に1〜16個のC‐原子をゆうするポリ(3‐アルキルチオフェン)(P3ATH)、特に1〜16個のC‐原子を有するポリ(3‐アルコキシチオフェン)(P3ATH)、ポリ(3‐アリールチオフェン)(P3ArTH)、特に1〜16個のC‐原子を有するポリ(3‐アルキルビチオフェン)、ポリ(3,3’‐ジアルキルビチオフェン)、ポリ(3,3’‐ジアルコキシビチオフェン)、ポリ(アルキルテルチオフェン)、ポリ(アルコキシテルチオフェン)、ポリ(3,4‐エチレンジオキシチオフェン)(PEDOT)及びポリ(ベンゾ[b]チオフェン)(PBTH)をベースとする化合物から選択される少なくとも1種のポリマーを製造すること又は/及び組成物に添加することが特に有利である。
【0038】
ポリ(1‐メチルピロール)(P1MPy)、ポリ(1‐メトキシピロール)(P1MOPy)、ポリ(3‐メチルピロール)(P3MPy)、ポリ(3‐メトキシピロール)(P3MOPy)、ポリ(1‐フェニルピロール)(P1PhPy)、ポリ(3‐フェニルピロール)(P3PhPy)、ポリ(3‐メチルチオフェン)、ポリ(3‐ヘキシルチオフェン)(P3HT)、ポリ(3‐メトキシチオフェン)、ポリ(3‐ヘキソキシチオフェン)、ポリ(3‐フェニルチオフェン)、ポリ(3‐メチルビチオフェン)、ポリ(3‐ヘキシルビチオフェン)、ポリ(3,3’‐ジメチルビチオフェン)、ポリ(3,3’‐ジヘキシルビチオフェン)、ポリ(3,3’‐ジメトキシビチオフェン)、ポリ(3,3’‐ジヘキソキシビチオフェン)、ポリ(3‐メチルテルチオフェン)、ポリ(3‐メトキシテルチオフェン)、特に1〜12個のC‐原子を有するポリ(5‐アルキル‐3,4‐エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(イソチアナフテン)(PITN)、ポリヘテロシクロペンタジエン(PHCP)、ジオキシ‐3,4‐ヘテロシクロペンタジエン(ADO-HCP)、ジ‐〜オクトヘテロシクロペンタジエン(OHCP)、置換された又は/及びはしご状ポリ(パラ‐フェニレン)(PPP又はLPPP)及び置換された又は/及びはしご状のポリ(パラ‐フェニレンビニレン)(PPV又はLPPV)から選択される少なくとも1種のポリマーを製造すること又は/及び組成物に添加することが特に有利である。
【0039】
この際、各々相互に無関係で、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15又は/及び16個のC‐原子のアルキル鎖を有する化合物を製造すること又は使用することが有利である。ポリマーには、各々相互に無関係で、特に1〜16個のC‐原子を有するポリ(1,3‐ジアルキルピロール)、ポリ(3,4‐ジアルキルピロール)、ポリ(3,4‐ジアルキルチオフェン)、ポリ(1,3,4‐トリアルキルピロール)、ポリ(3,4‐ジアルコキシチオフェン)、ポリ(1,3,4‐トリアルコキシピロール)、ポリ(2‐アリールチオフェン)又は相応する出発物質を選択することもできる。アリール‐化合物には、特に、1‐フェニル‐、3‐フェニル‐、1‐ビフェニル‐、3−ビフェニル‐、1‐(4‐アゾベンゾル)‐又は/及び3‐(4‐アゾベンゾル)‐化合物が選択され得る。
【0040】
出発物質又は/及びポリマーにおいて、置換基として、各々相互に無関係で、有利に、H、OH、O、COOH、CHOH、OCH、特にn=2〜12を有するC2n‐1、特にn=2〜12を有するOC2n‐1、アルキル、アルコキシ、アリール、アミン、アミノ、アミド、一級アンモニウム、イミノ、イミド、ハロゲン、カルボキシ、カルボキシレート、メルカプト、ホスホネート、S、スルホン又は/及びスルホネートが選択され得る。
【0041】
それに好適である電導性ポリマーは、殆どは原則的に公知であるが、部分的になお少なくとも1種の腐蝕保護変体については記載されていない;しかし、このポリマーに関する腐蝕保護が記載されている場合には、腐蝕保護は、より卑金属の表面では既存の不働化層が無ければ機能しない。個々の実施態様では、少なくとも1種のデポー物質は、少なくとも部分的にマトリックスを組成物中に、特に金属/被覆界面周辺に形成することもできる。殆どの電導性ポリマーは市場では得られない。
【0042】
デポー物質の酸化還元特性を、化合物から化合物へ明らかに変化させるために、置換基によって又は/及び他の基本分子(モノマー/オリゴマー)によって変性された電導性ポリマー又は/及び僅かに異なる酸化還元電位を有する少なくとも2種の異なる基本分子(モノマー/オリゴマー)を有する電導性コポリマーを使用することが有利である。選択的に又は付加的に、相応に異なるデポー物質を相互に混合させることができる。それによって、金属表面を含む化学系のための酸化還元電位の正確な水準を有する少なくとも1種の化合物を選抜することができる。デポー物質の酸化還元電位は、特に、金属表面の腐蝕電位以上、少なくとも75mV、少なくとも100mV又は少なくとも150mV、有利に少なくとも200mV又は少なくとも250mV、極めて特に有利に少なくとも300mV又は少なくとも350mVである場合に好適である。
【0043】
デポー物質は、原則的には、化学的、電気化学的又は/及び光化学的に重合されていてよい。少なくとも1種のデポー物質又はそれを含有する組成物は、有利に電気化学的又は/及び機械的に、特に金属表面上に塗布され得る。電気化学的塗布の場合には、比較的により卑金属の表面は、金属表面の強い溶解を阻止するために、前以て不働化されなければならない。従って、電気化学的塗布の場合には、先ず常に不働化層を形成させるために、少なくとも1種の出発物質がそれから重合される溶液に、常に腐蝕抑制陰イオンを添加しておく又は添加させなければならない。従って、この方法で生成された電導性ポリマーは、自動的に腐蝕抑制陰イオンを含有するが、腐蝕抑制陰イオンを記載する刊行物は、電位降下に基づくこの陰イオンの遊離を決して示してはいない。
【0044】
本発明による方法では、デポー物質からの陰イオンの広汎な又は完全な遊離を可能にする、少なくとも1種のデポー物質及び少なくとも1種の陰イオンを有利に選択し、それによって、特に電解質から又は/及び損傷からの陽イオンの陽イオン輸送率を低下させることができ、それによって再び、金属/被覆界面範囲での有害ラジカルの生成を減少させることができる。
【0045】
少なくとも1種のデポー物質を製造するために、通例、少なくとも1種の出発物質及びデポー物質中に配合可能な少なくとも1種の陰イオンのほかに、既に試剤、例えば、少なくとも1種の添加陰イオンが酸化剤として作用しない限り、酸化剤が必要である。
【0046】
酸化剤として、例えば、その塩が数段階の価度で存在し得る酸をベースとする化合物、例えば、鉄塩、ペルオキシド又は/及び過酸をベースとする化合物、例えば、ペルオキソジスルフェートを使用することができる。
【0047】
1種以上のデポー物質中に配合可能な酸化的陰イオンは、特に、アルカン酸、アレーン酸(Arensauren)、硼素含有酸、弗素‐含有酸、ヘテロポリ酸、イソポリ酸、沃素‐含有酸、珪酸、ルイス‐酸、鉱酸、モリブデン‐含有酸、過酸、燐‐含有酸、バナジウム‐含有酸、タングステン‐含有酸、それらの塩及びそれらの混合物をベースとするものから選択され得る。
【0048】
本発明による方法においては、少なくとも1種の移動性腐蝕保護陰イオン、有利に、ベンゾエート、カルボキシレート、例えば、ラクテート、ジチオール、フマレート、錯フルオリド、ランタネート、メタボレート、モリブデート、例えば、ニトロサリチレートをベースとするニトロ化合物、オクタノエート、燐含有オキシ陰イオン、例えば、ホスフェート又は/及びホスホネート、フタレート、サリチレート、シリケート、スルホキシレート、例えば、ホルムアルデヒドスルホキシレート、チオール、チタネート、バナデート、タングステート又は/及びジルコネートをベースとする少なくとも1種の陰イオン、特に有利に、チタン錯フルオリド又は/及びジルコニウム錯フルオリドをベースとする少なくとも1種の陰イオンである。
【0049】
本発明による方法では、少なくとも1種の付着補助陰イオンは、有利に少なくとも1種の燐含有オキシ陰イオンをベースとする陰イオン、例えば、ホスホネート、シラン、シロキサン、ポリシロキサン又は/及び界面活性剤である。
【0050】
本発明による方法では、少なくとも1種の腐蝕抑制又は/及び付着補助陰イオンとして、有利に、少なくとも2種の陰イオンの混合物、特に有利に、特に、カルボキシレート、錯弗化物、モリブデート、ニトロ化合物、ホスホネート、ポリシロキサン、シラン、シロキサン又は/及び界面活性剤をベースとするものから選択される、少なくとも1種の前記の移動性腐蝕保護陰イオンと少なくとも1種の前記の付着補助陰イオンとをベースにする混合物、極めて特に有利に、少なくとも1種の前記の移動性腐蝕保護陰イオンと少なくとも1種の前記の付着補助陰イオンとをベースとする混合物が使用される。特に、一方で、カルボキシレート、錯フルオリド、モリブデート及びニトロ化合物をベースとし、かつ他方で燐含有のオキシ陰イオン、ポリシロキサン、シラン、シロキサン又は/及び界面活性剤をベースとする種類の陰イオンから選択される種類のイオンを含む混合物が使用される。
【0051】
本発明による方法では、少なくとも1種の遊離可能な陰イオンは、有利に、水中、少なくとも1種の他の極性溶剤中又は/及び少なくとも1種の極性溶剤を有する溶剤混合物中で移動性である陰イオンである。少なくとも1種の遊離可能な陰イオンが、水中、少なくとも1種の他の極性溶剤中又は/及び少なくとも1種の極性溶剤を有する溶剤混合物中で、少なくとも少量で可溶性であることが特に有利であり、従って、水、少なくとも1種の他の極性溶剤又は/及び少なくとも1種の極性溶剤を含有する溶剤混合物が、陰イオンの溶解のために存在している場合が有利である。陰イオンは、酸の陰イオンである必要はないが、例えば、塩の陰イオンであってもよい。少なくとも1種の遊離可能な陰イオンは、酸化反応を介して、電導性ポリマー中に配合される。陰イオンの遊離の際に、損傷範囲の被覆で電解質中のpH‐値‐変化が起こることもあるが、それは陰イオンの遊離のトリガー信号としては利用されない。ポリピロール又はポリチオフェンをベースとする電導性ポリマーの場合には、そのようなpH‐値‐変化はトリガー信号としては利用されず、それというのも、付加的に、電導性ポリマーの還元が必要であるからであるが、この還元は、公知技術水準の刊行物においては、出願者の知識により、電位降下と共にトリガー機序としては今まで記載されていない。電解質は、水中又は場合により溶剤混合物の成分である少なくとも1種の極性溶剤中でイオンであり、この際、イオン及び水又は/及び少なくとも1種の他の極性溶剤は、有利に(及び少量である)存在している。
【0052】
本発明による方法では、腐蝕抑制又は付着補助陰イオンは、特に実質的な範囲で、有利に700mV以下、特に有利に650mV以下、極めて特に有利に600mV以下、特に各々550mV、500mV又は450mV以下の電位降下で遊離される。
【0053】
本発明による方法では、腐蝕抑制又は付着補助陰イオンは、特に実質的な範囲で、有利に400mV以下、特に有利に350mV以下、極めて特に有利に300mV以下、特に各々250mV、200mV、150mV又は100mV以下の電位降下で既に遊離される。
【0054】
この際、電位降下は、腐蝕保護作用をするために、十分な量の腐蝕保護陰イオンを本発明による化学系で遊離させる場合、及びこの腐蝕保護作用が少なくとも1回だけの機序後に(例えば、陽極又は陰極部分反応で)起こる場合に重要である。
【0055】
本発明による方法では、組成物は、殆どの実施態様で、有利に少なくとも1種の付着補助剤も含有し、この際、少なくとも1種の付着補助剤は、場合により、離層箇所でも、被覆と金属表との間に、離層を終止させ又は/及び解消させる付着橋を形成する。後者は、抑制又は中止だけが起こるのではなく、真正な自然修復作用(修復‐作用)である。
【0056】
腐蝕抑制組成物で金属表面を保護するための本発明による方法で、付着補助剤は、少なくとも1種の付着補助アンカー基を有する化合物をベースとする、特に、ホスホネート、シラン、シロキサン、ポリシロキサン又は/及び界面活性剤をベースとする、有利に少なくとも1種の物質である。付着補助剤は、アルキルホスホネート又は/及びアリールホスホネートをベースとする、少なくとも1種の物質であることが特に有利である。
【0057】
本発明による方法では、組成物は、酸素還元で生じる遊離ラジカルを収容し得る、有利に少なくとも1種のラジカル‐捕捉剤、例えば、少なくとも1種のアミンを含有し、それによって、離層は中止又は遅延され得る。
【0058】
有利な実施変体で、有機ポリマーの被覆の場合には、例えば、換気水分を調整するために、及びそれによって条件付けられた孔溝中のイオン移動のための前提を作るために、本発明による被覆は水希釈可能であり、かつ場合により少なくとも1種の水溶性成分を有することができる。
【0059】
陰イオン基を有するポリマーを添加することが有利である。荷電及び有効なイオン度は、移動速度にしばしば影響するので、むしろ、より低い価度を有する陰イオンを使用することが大いに有利である。
【0060】
本発明による方法では、有利に金属表面は、特に金属表面が金属純正に清浄される程、先ず特に徹底的に清浄され、従って、全ての又は実際に全ての固着していない及び平たく積重していない異物が除去される。それによって、処理液又は本発明による組成物での完全な又は殆ど完全な湿潤も達成され得る。この際、清浄剤の組成が汚れの種類に同調させることが有利である。それによって、中間層又はデポー物質を含有する被覆の塗付に特に好適にするために、金属表面を特に適合させる。清浄後に、特に徹底的に良好に清浄すること、特に、水での少なくとも2回の洗浄過程も行なうことが推奨され、この際、有利に少なくとも1回VE‐水で実施される。清浄は、場合により、機械的補助手段、例えば、清浄の際のブラシ、電気分解又は/及び超音波によって助成されてもよい。
【0061】
本発明による方法では、有利に、金属表面上に直接及び少なくとも1種のデポー物質を含有する被覆下に直接、特に、少なくとも1種の界面活性剤、少なくとも1種のポリマー/コポリマー、少なくとも1種の燐含有オキシ陰イオン、例えば、ホスホネート又は/及び少なくとも1種のシラン/シロキサン/ポリシロキサンの塗付によって、OH‐基を有する付着改善中間層が塗布される。
【0062】
本発明による被覆上に、引き続き、少なくとももう1種の被覆、特に少なくとも1種の有機被覆又は/及び少なくとも1種の接着剤を含有する層、場合により、少なくとも1種の硬化可能な有機被覆、例えば、プライマー‐又は少なくとも1種のラッカー‐層が塗布される。
【0063】
事情により、改善された不働層は、場合により、金属表面の負の"より卑の"電位に比べて、デポー物質の正の"より貴の"電位に基づいて生成されることができ、これは有利に、例えば、ウエスリング(Wessling)によってポリアニリンについて記載されたように、金属表面の金属を含むオキシド‐層である。しかし、電気接触によって金属表面上に形成されるオキシド層は、電導性ポリマーの付着に傷害を及ぼし得る。しかし、本発明による方法では、全ての金属表面上での(要するに、損傷と関係なく)オキシド不働化層の強化を生じさせることは目的ではなく、それというのも、目的の本発明による不働化は、しばしば広汎に又は専ら損傷の範囲でのみ、遊離された陰イオンで行なわれるからである。しかし、本発明により作用する試料におけるオキシド不働化を、本発明による被覆の塗付の際に除外することはできない。不働化層の強化は、通例、比較的には無効と見なされる。
【0064】
小さい損傷では、金属表面の損傷での腐蝕電位は、比較的やや高い電位で、例えば、精鋼ではしばしば−200〜0mVの範囲にあり、一方で、金属表面の大きな損傷では、より低い、例えば、精鋼では約−400mVの程度で、要するに、例えば、−320mV〜−480mVの範囲であってよい。比較的やや高い電位は、特に、金属表面から溶け出す陽イオンと不働化層を形成する陰イオンでの金属表面の不働化のための指標であってよい。これに比較して、非傷害化状態でのデポー物質の酸化還元電位は、例えば、約+350mVの程度である。電位降下、例えば、約100mV、約150mV、約200mV、約250mV又は約300mVで既に、陰イオンはデポー物質から遊離され、従って、損傷でのより強い分離は起こらず、又は限定されただけの分離に、又はむしろ全く分離は起こらず、かつ部分的にも金属/被覆界面でのより強い酸素還元及びラジカル形成も起こらず又は限定的にしか起こらず、かつ暴露された金属表面のより強い酸化も起こらず又は限定的にしか酸化が起こらない(図1参照)。
【0065】
図1の部分図は、作用を例証的に示す:
図1a)は、深い引掻き傷により損傷されている被覆を有する金属表面を通る横断面である。場合により電導性ポリマーを含有する被覆Ctgは、金属支持体Me上又は、ここでは未記載の中間層、例えば、付着を補助する予備処理層上に積層している。CtgとMeとの間の界面Gは、損傷の周りの範囲aで完全に又は/及び殆ど完全に分離している。鞍状点Aは、各々電位測定時点に対する、しばしば推測される分離前部の近似的位置である。電位曲線の引掻き傷から鞍状点Aまで、界面はしばしば完全に又は/及び殆ど完全に分離している("損傷化箇所")。点A及びBの間に、例えば、酸素還元の少なくとも1種の先導前部があり得る。損傷から点Bまで、"傷害化範囲"が達する。損傷からの最少間隔b、要するに点Bまで、界面は実際には障害されていない。点A及びBは、大抵は所定時間を過ぎて傷害から離れて移動し、かつ太く示された第二曲線が示すように、損傷化箇所又は傷害化範囲を拡大する。
【0066】
部分図1b)、1c)及び1d)は、損傷から非傷害化被覆までの範囲での所定時間を過ぎた電位変化を、距離dに渡る電位eの線図で示す。
【0067】
部分図1b)、1c)及び1d)は、全例で同じ出発段階から、各々時間Δt1後の一定のやや進行した段階までの、被覆の離層での電位変化を示し、その際、金属/被覆界面での分離は、部分図1b)及び1c)で既にやや進行している。
【0068】
部分図1b)では、陰イオンが遊離しない被覆での電位変化が示されている。この際、電位降下は、引掻き傷から横に無傷の範囲に更に進行する。時間Δt1後に出現する電位曲線は、実際に出発段階の曲線に似ていて、この際、実際に損傷の腐蝕電位は既に分離した範囲で調整されているが、場合により、なお完全には分離しない界面Gに沿ったイオン輸送によって条件付けられ、その後にオームの電圧降下に起因される、この範囲でのより弱い又はより強い電位上昇も観察すべきである。この例では、電位降下Pは、時間Δt1後に、電位差Pほど減少している。この際、引掻き傷での損傷電位は実際に変化しない。
【0069】
部分図1c)は、デポー物質が存在している場合及び腐蝕の陽極部分反応を抑制する一定量の陰イオンが遊離される場合の傷害化範囲での電位変化を明らかにする。それによって、損傷において及びオームのカップリングによって傷害化範囲においても、一定の範囲で腐蝕電位は上昇する。それによって、傷害化範囲での電位降下Pは減少し、従って、離層の進行のための推進力も減少する。損傷において完全な不働化にはならない場合にも、これは、離層の進行を殆ど完全に停止させるために、又はこの進行の速度を実際に減少させるためには既に十分であり得る。しかし、傷害化範囲と非傷害化範囲との間のより大きな電位差は残る(Pに相応する)。
【0070】
部分図1d)は、損傷の実際に完全な不働化を伴う殆ど理想的な例を示し、この際、離層は完全に停止され、傷害化範囲と非傷害化範囲との間の電位差も(Pに相応する)最少になる。部分図1d)から、損傷とデポー物質との間の電位差が最少に降下するので、有効な損傷修復後に、デポー物質からの更なる陰イオンの遊離が停止されることが明らかである。従って、本発明による遊離機序は、必要な場合にだけ行なわれかつ非制御には経過せず、かつ更なる傷害の際の使用のためにデポー物質中に更なる陰イオンが残留するという意味で自律性である。
【0071】
例えば、鉄/精鋼上での陰極離層又は、例えば、亜鉛/亜鉛合金上での混合された陰極及び陽極離層では、離層の進行は先ず酸素還元率によって、更に金属/被覆界面及びこの界面での付着の安定によって決定される。この種類の離層は、酸素還元率及びその際生じる金属と被覆の間の界面付着を傷害するラジカルによって促される。陰極離層は、通例、陽極離層よりも早い。従って、酸素還元の陰極前部は、通例、金属酸化の陽極前部に先行し、急速かつ更に損傷の周りで拡大する。例えば、しばしばアルミニウム/アルミニウム合金上での陽極離層の際に、陽極離層前部での金属表面の溶解(金属酸化)が、要するに、例えば、金属溶解の陽極前部で、経過する。これは、分離の開始及び電位降下と連結している。これは、特に、糸状腐蝕の際に出現する。しかし、全例で、陽極又は陰極前部での電位降下が行なわれる。
【0072】
本発明による方法では、先導前部は、特に、例えば、酸素還元の陰極前部であってよい。これは分離開始と、及び電位降下と連結していてよい。陰極前部は、しばしば、例えば、鉄、精鋼、亜鉛及び亜鉛合金で出現する。
【0073】
更に、本発明は、腐蝕抑制組成物を含む被覆で金属表面を保護するための方法で解明され、この際、被覆は金属表面上に塗付され、これは塗付後に場合により乾燥され、かつ場合により硬化され、これは1種以上の成分として、a)少なくとも1種のデポー物質、及び場合によりb)少なくとも1種の他の成分又は/及び少なくとも1種のマトリックス物質、特に電導性ポリマーを含有し、
この際、少なくとも1種の陰イオンは、この陰イオンが、水中、少なくとも1種の他の極性溶剤中又は/及び少なくとも1種の非極性溶剤も含有する混合物中で移動性であることによって選択され、
この際、1種以上のデポー物質の製造のための少なくとも1種の出発物質は、その酸化電位が水又は/及びこれに使用される混合物中の少なくとも1種の他の極性溶剤の分解電位よりも少ない又は同じであることによって選択され、
この際、少なくとも1種のデポー物質中の、少なくとも1種の腐蝕保護性及び場合により少なくとも1種の付着補助性の陰イオンは、1.添加イオンとして、少なくとも1種のデポー物質の構造に配合され得る又は/及び配合されていて、2.この構造から、少なくとも1種のデポー物質の電位の降下の場合には(還元)再び遊離され得て、かつ3.金属表面が存在する場合に、腐蝕保護作用をすることができ、
この際、少なくとも1種のデポー物質は、少なくとも1種の腐蝕保護性及び場合により少なくとも1種の付着補助性陰イオンの早期遊離を可能にする酸化還元電位を有する。
【0074】
この際、少なくとも1種の腐蝕保護性及び場合により同様に少なくとも1種の付着補助性陰イオンの、少なくとも1種のデポー物質からの遊離は、脱プロトン化反応を介しては行なわれず又は/及び僅かしか行なわれず、主に又は/及び全て還元反応を介して行なわれ、
この際、少なくとも1種のデポー物質は、選択される遊離すべき腐蝕保護性又は/及び付着補助性陰イオンが、移動の際に、少なくとも1種のデポー物質によって及び場合により少なくとももう1種の成分によって、例えば、マトリックス中で阻害されず又は実際に阻害されず、かつ
この際、少なくとも1種のデポー物質は、比較的低い陽イオン輸送率を有する。
【0075】
電解質から、特に、損傷から又は/及び金属表面から少なくとも1種のデポー物質への陽イオンの陽イオン輸送率は、有利に10−8cm/sよりも少なく、特に有利に10−10cm/sよりも少なく、極めて特に有利に10−12cm/sよりも少なく、特に10−14cm/sよりも少ない。
【0076】
電導性ポリマーの酸化還元特性は、多くの実施態様において、界面での電位の僅かな降下で既に、陰イオンの充分に高い遊離が行なわれるように、有利に調整されるべきであり、従って、著しい傷害の発生の前に既に、更なる傷害に反作用をし得るために、既に離層の最前部で陰イオンが有効になる。即ち、既にできるだけ早期の反応が、目前の又は既に開始した腐蝕攻撃に使用され得る。
【0077】
デポー物質から、限られただけの割合の陰イオンが遊離される場合には、損傷の範囲からデポー物質へ移動する陽イオンについてのデポー物質の高められた陽イオン輸送率となり、それというのも、デポー物質中で多くの陰イオンのドッキング箇所が陽イオン移動のために残っているからである。デポー物質のより高い陽イオン輸送率では、離層速度は傷害化箇所の周り及び危機的な場合には、例えば、大きすぎる損傷面の故に、損傷の不働化が成功しない場合には、この箇所の広い周囲でも強く高められ得る。電解質から、特に、損傷又は/及び金属表面からの陽イオンの陽イオン輸送率が僅少で保たれる場合には、化学系が早期に崩壊し又は殆ど一度に崩壊し得ることが阻止される。従って、陽イオン輸送率をできるだけ無視可能に小さく保つために、陰イオンの遊離が傷害化範囲でできるだけ完全に達成することが最も有利な目標である。従って、遊離陰イオンの量及び被覆中のその移動速度をできるだけ高く保ち、従って、化学系の崩壊に至らせないことも有利な目標である:陰イオン輸送率が高ければ高いほど、高められた陽イオン輸送率での化学系の崩壊を受ける危険は少なくなる。高められた陽イオン輸送率では、少ない損傷からであっても、むしろ金属表面に対する界面での全被覆の離層が起こるからである。しかし、多くの実施変法では、本出願で挙げられる有利な特性、機序及び目標の全てが同時に達成されるものではなく、しばしばこれらの一定の選択されたものだけが達成され得る。
【0078】
しかし、本出願に記載された手段が充分には注目されない場合には、全試料全体にわたり損傷から発する強化された腐食が容易に生成し、全試料を損なうことになる。
【0079】
若干の有利な実施態様では、少なくとも1種のデポー物質の量を、有利に少なくとも1種のマトリックス物質中に、できるだけ均一に分配させ、又は実際に均一に分配させ、かつ陰イオンの十分に高い遊離が行なわれ、離層抑制作用を達成するために、損傷への被覆中の陰イオン輸送率が十分であり、しかしできるだけ、他方で、離層を促進させない又は実際に促進させないように、陽イオン輸送率を僅少で保つように選択される。
【0080】
それというのも、電解質から又は/及び損傷からの陽イオンの高すぎる陽イオン輸送率が、デポー物質の連続還元及びそれと結び付く界面でのイオン濃度の上昇を引き起こし、そのために陰極離層が強く促進される場合に、より大きな損傷において、電導性ポリマーを含む緊密な被覆は完全な分離を引き起こすことが示されたからである。この際、デポー物質も連続して還元され得る。しかし、陰イオン輸送率が高い場合には、被覆における低い陽イオン輸送率が生じる。損傷への被覆における陰イオン輸送率の大きさは、電位勾配を介して、金属表面の種類及びその腐蝕電位に依存し、かつ調整可能である。これは、有利に各々約10−5、10−6、10−7、10−8又は10−9cm/s、稀に10−10、10−11又は10−12cm/sである。
【0081】
陰イオン輸送率は、デポー物質から良好に移動しかつマトリックス及び成分から被覆を通って移動し得るできるだけ小さい陰イオンを選択すること、及び陰イオン輸送率を損なわない又は実際に損なわないために、移動性陰イオンのための、デポー物質、場合によりそのマトリックス又は/及び場合により被覆の他の成分における孔溝又は構造孔の十分な数及び大きさが存在することによって影響され得る。移動特性は、多分、1.塗布され乾燥された被覆から1種以上の溶剤又は/及び揮発性成分が離脱する際に、孔又は溝が形成するように、マトリックス物質が選択され、2.部分的に及び特に広汎に、しかし完全には被膜化されないマトリックス物質を選択し、従って、多数の孔又は傷害箇所又は/及び多孔性構造が含有されていて、それを通って、例えば、被膜化に最適である被膜化助剤、例えば、長鎖アルコールの少量の添加によって陰イオンが移動することができ、従って、不完全な可塑化が生じ、3.より硬性及び軟性の、特に有機性の粒子がマトリックス中で組み合わされ、従って、同様に孔又は傷害箇所が形成され、4.疎水性及び親水性成分が互いに並んで被覆中に配合され、従って、同様に傷害箇所が形成され、又は/及び5.少なくとも1種のマトリックス物質又は/及び少なくとも1種の成分の水収容力の調節のための成分、例えば、水溶性重合体、例えば、ポリアクリル酸が使用されることによっても影響され得る。多かれ少なかれ多孔性の孔‐又は溝構造は、特に、ポリマー‐粒子の一部分だけが可塑化されている又は/及び部分可塑化ポリマー粒子が含有されている混合物によって達成され得る。この際、例えば、ポリアクリル酸又は/及びポリビニルアルコールをベースとする少なくとも1種の化合物の添加は、水収容力の上昇に役立ち、かつ乾燥膜における換気作用及びより大きな孔空間に配慮され得る。この際、事情により、孔又は孔溝は、ナノメーター‐範囲でも又はその範囲だけで存在し、又は空隙は分子規模でも又はその規模だけで存在し得る。
【0082】
被覆の陽イオン輸送率は、デポー物質の含量及び、従って、配合される及び遊離可能な陰イオンの量が、被覆の傷害の際に及び陰イオンの遊離の際に、できるだけ低い陽イオン輸送率が得られるように選択されることによって調整され得る。この際、陽イオン輸送率は、有利に各々約10−8、10−9、10−10、10−11、10−12、10−13又は10−14cm/sである。大きい損傷には、より多量のデポー物質及び、従って、配合されかつ遊離可能な陰イオンが必要である。小さい損傷、例えば、引掻き傷の腐食が抑制され得ることは期待されるが、大きい面の損傷は、しばしば多分、抑制され得ない。抑制可能な損傷の大きさは被覆の厚さにも依存し、かつ暴露された単一損傷の損傷面に対する被覆の縁辺としての界面の比率を介して評価され得る。小損傷では、この比率は、しばしば約0.01〜100又は1000の範囲の値を有し、一方、クロメート化(Chromatierungen)の場合のように、例えば、10000以上の比率値を有する大損傷はもはや抑制され得ない。
【0083】
酸素還元の際に、金属/被覆界面での付着を傷害し得るラジカル又は陰イオン、例えば、OH、O等が生じる:これは、急速に完全な分離を起こし得る。この危険には、1.)金属/被覆界面での酸素還元を明らかに減少させる陰イオンを遊離させることによって、2.)デポー物質から陰イオンの広汎な又は完全な遊離を行ない、それによって、特に電解質から又は/及び損傷からの陽イオンの陽イオン輸送率を小さく保つ又は明らかに低下させることができ、それによって、陰極部分反応の保持のために必要な荷電輸送を同様に小さく保ち、それによって、金属/被覆界面の範囲でのラジカルの生成にも反作用させることによって、3.)界面単位当たりのラジカル‐生成を、金属/被覆界面からの2つの互いに重なり合う被覆間の界面への酸素還元の置換により置換させることによって、又は/及び4.)一方で少なくとも1種のラジカル‐捕捉剤を、デポー物質を含有する被覆中に配合させることによって押えることができる。この第三の方法は、陰極部分反応に必要な電子を、金属/被覆界面から、2つの互いに重なり合う被覆の間の界面に輸送する電子伝導性デポー物質によって促進される。
【0084】
本発明による方法では、場合により、少なくとも2つの互いに重なり合う被覆での酸素還元が、デポー物質の電子伝導性に基づき、金属表面から離れて、2つの被覆の間の界面に置換されることを利用することもでき、従って、酸素還元は、有利に2つの互いに重なり合う被覆間の界面又は界層で起こり、かつ金属と第一の被覆との間の界面では僅かに起こる又は全く起きず、かつ従って、金属と第一の被覆との間の界面では離層は僅かに起こる又は全く起きない。
【0085】
しかし、全てこれらの現象又は結果の調査は、先ず、この種類の検査のためのジュッセルドルフにある鉄研究のマックス‐プランク‐インステチュート(Max-Planck-Institut fuer Eisenforschung)で得られるラスター‐ケルビン‐ゾンデ(Raster-Kelvin-Sonde)の使用によって可能であった。ラスター‐ケルビン‐ゾンデ(SKP)及び使用装置、例えば、SKPFM(Scanning Kelvin Probe Force Microscopy)の使用は、離層での電位降下の測定に基本的に使用され得る、従来唯一で、極めて稀にしかこれに使用されないゾンデである。出願者の知識では、腐蝕研究でのSKP−検査用に3又は4種の装置だけがあり、これは腐蝕機序の研究用に目下使用されるが、多くの装置がこれ用には使用されず、又はこれ用には不適又は使用準備されていない。従って、この種類の好適な検査について、ジュッセルドルフにある鉄研究のマックス‐プランク‐インステチュートのそれ以外に、科学的文献で実際の記載はないが、他の著者は常にその実施において考察を行なっている。
【0086】
意外にも、金属/被覆界面の範囲での損傷は、例えば、デポー物質から目的の腐蝕抑制陰イオンの遊離を生じさせるために及び傷害となる作用を早期に押えるために使用され得る電位降下を引き起こすことが判明した。
【0087】
意外にも、僅少な電位降下を既に有し、かつ機械的に完全な分離箇所の外に出現する先導前部が生じることが判明し、従って、化学的被覆系は、傷害となる作用を押える腐蝕抑制陰イオンの遊離のために、既により僅少な電位降下を利用することが可能である。
【0088】
更に意外にも、好適に選択された化学系で、進行する分離を押えて、かつ停止させるばかりでなく、部分的に再び修復させることも可能であることが判明した。
【0089】
更に意外にも、付着助剤として作用し得る遊離可能な陰イオンを添加することによって、傷害化範囲を付着助剤で再び修復することに成功した。
【0090】
更に意外にも、ラジカル‐捕捉剤の添加によって、離層を遅延させ、又は停止させることができることが判明した。
【0091】
更に意外にも、ここで経過する他の数過程、例えば:1.)デポー物質で損傷から生じる電位降下は、腐蝕抑制剤として作用し得る好適な陰イオンの遊離を生じさせることができ、2.)腐蝕性の明らかな改善のために、損傷の完全な不働化が各事例で必要であるばかりでなく、既に腐食の陽極部分反応の明らかな減少及びそれと結び付いた僅少な腐蝕電位の上昇が、離層率の明らかな減少を作用し、かつ3.)好適なイオン輸送率の無視の際には、陰イオン遊離が行なわれず、むしろ改善された腐蝕保護には結び付かないで、むしろ化学系の即時崩壊に結び付く選択的陽イオン配合が行なわれるということが、従来、専門分野での発明者により記載されていないことが判明した。
【0092】
意外にも、腐蝕範囲への電導性ポリマーから陰イオンの遊離及び移動及び本発明による被覆の期待の腐蝕保護作用を、極めて特異的な検査で、例えば、ラスター‐ケルビン‐ゾンデ(SKP)でばかりでなく、腐蝕範囲での遊離腐蝕保護陰イオンの富化及び電導性ポリマーを含有する有機被覆での金属下地の腐蝕保護の著しい上昇、同様に実施‐関連試料及び実験を伴う巨視的範囲で、例えば、塩噴霧試験でも証明することに成功した。
【0093】
例及び比較例
次の実施例は、本発明を個々の選択された変数で例示する:
例1及び比較例1:
2つの良好に清浄した鉄‐試料に、ポリピロール‐アクリレート‐共重合体を含む核を有するポリピロール‐被覆のコア‐シェル‐粒子を含有する膜化ラッカーを含む複合被膜を、スピンコーティングによって完全に平面上に被覆した。引き続き、同様に、スピンコーティングによって、エポキシドをベースとする絶縁性の模型クリヤラッカー被膜を塗布した。この際、例1では、モリブデート‐陰イオンMoO2−をポリピロール中に配合させ(図2)、比較例では、スルフェート‐陰イオンSO2−を配合させておいた(図3)。モリブデートは、原則的に、デポー物質から放出され、腐蝕抑制作用を有する陰イオンである。スルフェートは、原則的にはデポー物質から放出されるが、腐蝕抑制作用も、付着補助作用も有さない。2つの試料について、各々被覆面上に、金属にまで達する大面積の損傷を付けた。その後に、各々この大面積の損傷上に、被覆範囲で損傷の縁辺だけ接触する0.1モルの塩化ナトリウム‐溶液を塗付した。そうして典型的な離層実験のための標準構造ができ、ここで損傷から発する離層が、電位降下下に、被膜化被覆対金属の界面で進行した。この際、配合された電導性ポリマーが還元された。陰イオンは、先ず部分的に放出され、例1で、オキシド/モリブデートをベースとする不完全な不働化層の形成に用いられた。比較例1では、遊離された陰イオンは、腐蝕抑制作用を示さなかった。
【0094】
図3(比較例1)は、電位経過の時間的変化を、曲線から曲線へ各々2時間の間隔で示す。傷害化範囲は連続的に拡大する。時間と共に拡大速度の強い衰退及び損傷での明らかな腐蝕電位の変化は認められない。
【0095】
図2(例1)は、これに対して、既に図1c)に範例的に表わしたように、腐蝕抑制陰イオンの遊離の際の、各々2時間の間隔で、曲線から曲線への電位経過の時間的変化を示す。傷害化範囲での腐蝕電位は最初に強く、その後に僅かに更に上昇し、それによって、非傷害化範囲と傷害化範囲との間の電位差は明らかに減少し、従って、離層の進行の推進力も明らかに減少する。短時間後に、傷害化範囲の拡大速度は減少し、数時間後には拡大速度は殆どゼロになる。既にこの不完全な不働化は、殆ど完全に離層を停止させる。
【0096】
腐蝕抑制陰イオンの比較的僅少な遊離で、既に明らかな作用が認められ、従ってこれは比較的長時間後に初めて結果が生じる。
【0097】
例2及び比較例2:
2つの良好に清浄した鉄‐試料に、全ての側に完全に純ポリピロールを含む被膜を電気化学的に被覆し、この際、例2で、モリブデート‐陰イオンMoO2−をポリピロール中に配合させ、(図4)、比較例2で、ヘキサフルオロホスフェート‐陰イオンPF1−を配合させた(図5)。モリブデートは、原則的にデポー物質から放出される、腐蝕抑制作用を有するイオンである。ヘキサフルオロホスフェートは、原則的にデポー物質から放出されるが、腐蝕抑制性も、付着補助性も示さない陰イオンである。2つの試料を、各々それらの表面上に、金属まで達する小さい引掻き傷をつけた。その後に、試料を3%の塩化ナトリウム‐溶液に浸漬した。損傷での高い交換電流密度に基づき、試料の電極電位を引掻き傷の腐蝕電位から測定した。
【0098】
比較例2で、損傷での腐蝕電位は、100秒(s)内で、電導性ポリマーによって影響されない腐蝕を示す鉄の遊離腐蝕電位に低下した(図5)。既に1秒(s)後に、既に殆ど約−600mV SCEの鉄の遊離腐蝕電位に近い、約−450mV SCEの腐蝕電位が達成された。
【0099】
例2で、3時間(h)以上後ですら、約−100mV SCEの腐蝕電位が測定され、これは、約−600mV SCEの鉄の遊離腐蝕電位から極めてはるかに離れていて、かつモリブデート−陰イオンによるクロリド‐攻撃及び再不働化の特性を有する強い振動を特徴とする(図4)。この際、約−100mV SCEの腐蝕電位は、オキシド/モリブデート‐層でのクロリド‐溶液中の鉄の不働化には典型である。比較例2の場合とは別に、例2では、数分間後ですらなお、電導性ポリマーの酸化還元電位によって測定される約+0.1mV SCEの電位が検知される。例1と同様に、例2において、遊離されたモリブデート‐イオンによる、損傷での腐蝕を抑制し得る保護作用が達成される。例2において、腐蝕溶液中での試料の完全な浸漬に基づき、活性デポー物質の容積又は面積対引掻き傷における損傷の面積の比率は、例1におけるよりも大きさの順で有利であるので(損傷及び損傷縁辺での局所的にのみ作用する腐蝕溶液での離層)、ここで認められる保護作用は同様により明白である。
【図面の簡単な説明】
【0100】
【図1】図1のa)は、深い引掻き傷で損傷された被覆を有する金属表面を通る横断面を示し、図1のb)は、距離dに渡る電位の変化を示す線図を示し、図1のc)は、距離dに渡る電位の変化を示す線図を示し、図1のd)は、距離dに渡る電位の変化を示す線図を示す。
【図2】図2は、腐蝕抑制陰イオンの遊離での電位経過の時間的変化を示すグラフを示す。
【図3】図3は、比較例での電位経過の時間的変化を示すグラフを示す。
【図4】図4は、時間経過に伴う腐蝕電位変化を示すグラフを示す。
【図5】図5は、比較例での時間経過に伴う腐蝕電位変化を示すグラフを示す。
【符号の説明】
【0101】
A 鞍状点、 a 損傷の周りの範囲、 b 傷害からの最少間隔、 Ctg 被覆、 d 距離、 e 電位、 G 界面、 Me 金属支持体、 P 電位降下、 P 電位差

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗付後に場合により乾燥されかつ場合により硬化もされる腐蝕抑制組成物を含む被覆で金属表面を保護するための方法において、1種以上の成分として、場合により少なくとも部分的にマトリックス中に、
a)少なくとも1種のデポー物質、例えば、1.酸化反応を介して少なくとも1種の配合された陰イオンを添加イオンとして含有し、かつ2.電位降下(還元)の際にこれらのイオンの少なくとも一部分を遊離させる少なくとも1種の電導性ポリマー、
(この際、少なくとも1種の陰イオンは、腐蝕の陽極又は/及び陰極部分反応を抑制し、かつ場合により付着補助作用をするために好適であり、この際、陰イオンは各々、1種以上のデポー物質及び場合により、例えば、被覆のマトリックス中の少なくとももう1種の成分を通るその移動を妨げない又は実際に妨げないイオン半径を有し、
この際、少なくとも1種の陰イオンは、これらの陰イオンが、水中、少なくとも1種の他の極性溶剤中又は/及び同様に少なくとも1種の非‐極性溶剤を含有する混合物中で移動性であることによって選択され/選択されていて、
この際、少なくとも1種のデポー物質からの陰イオンの遊離は、脱プロトン化を介さずに又は/及びほんの僅かにしか脱プロトン化反応を介さずに、主に又は/及び全て還元反応を介して行なわれ、かつ
この際、1種以上のデポー物質の製造のための少なくとも1種の出発物質は、その酸化電位が水又は/及びそれに使用される混合物中の少なくとも1種の他の極性溶剤の分解電位よりも小さい又は等しいことによって選択される)及び
b)場合により少なくとももう1種の成分又は/及び少なくとも1種のデポー物質、例えば、少なくとも1種の有機ポリマー/コポリマーのマトリックスとして少なくとも部分的に用いられる、少なくとも1種のマトリックス物質(この際、少なくとも1種のデポー物質は、被覆の非傷害化範囲で少なくとも部分的に酸化され又は少なくとも部分的に陰イオンを添加されて存在し、かつこの際、少なくとも1種のデポー物質は被覆の傷害化範囲で少なくとも部分的に還元され、又は添加陰イオンを少なくとも部分的に遊離させる)を含有する被覆を金属表面上に塗布し、
この際、被覆は、含有される成分及びその含量の選択によって、少なくとも1種のデポー物質から、腐蝕保護陰イオン及び場合により同様に付着補助陰イオンの実質的割合が、非傷害化状態での少なくとも1種のデポー物質の酸化還元電位と、金属/被覆界面での損傷、例えば、引掻き傷又は不純物の金属表面の腐蝕電位との間の電位降下の際に遊離されるように調整され、従って、金属/被覆界面での強い離層が起こる前に、少なくとも部分的に早期又は適時に離層の発生又は/及び進行が押えられることを特徴とする、腐蝕抑制被覆での金属表面の保護法。
【請求項2】
塗付後に場合により乾燥されかつ場合により硬化もされる腐蝕抑制組成物を含む被覆で金属表面を保護するための方法において、1種以上の成分として、場合により少なくとも部分的にマトリックス中に、
a)少なくとも1種のデポー物質、例えば、1.酸化反応を介して少なくとも1種の配合された陰イオンを添加イオンとして含有し、かつ2.電位降下(還元)の際にこれらのイオンの少なくとも一部分を遊離させる少なくとも1種の電導性ポリマー、
(この際、少なくとも1種の陰イオンは、腐蝕の陽極又は/及び陰極部分反応を抑制し、かつ場合により付着補助作用をするために好適であり、この際、陰イオンは各々、1種以上のデポー物質及び場合により、例えば、被覆のマトリックス中の少なくとももう1種の成分を通るその移動を妨げない又は実際に妨げないイオン半径を有し、
この際、少なくとも1種の陰イオンは、これらの陰イオンが、水中、少なくとも1種の他の極性溶剤中又は/及び同様に少なくとも1種の非‐極性溶剤を含有する混合物中で移動性であることによって選択され/選択されていて、
この際、少なくとも1種のデポー物質からの陰イオンの遊離は、脱プロトン化を介さずに又は/及びほんの僅かにしか脱プロトン化反応を介さずに、主に又は/及び全て還元反応を介して行なわれ、かつ
この際、1種以上のデポー物質の製造のための少なくとも1種の出発物質は、その酸化電位が水又は/及びそれに使用される混合物中の少なくとも1種の他の極性溶剤の分解電位よりも小さい又は等しいことによって選択される)及び
b)場合により少なくとももう1種の成分又は/及び少なくとも1種のデポー物質、例えば、少なくとも1種の有機ポリマー/コポリマーのマトリックスとして少なくとも部分的に用いられる、少なくとも1種のマトリックス物質(この際、少なくとも1種のデポー物質は、被覆の非傷害化範囲で少なくとも部分的に酸化され又は少なくとも部分的に陰イオンを添加されて存在し、かつこの際、少なくとも1種のデポー物質は被覆の傷害化範囲で少なくとも部分的に還元され、又は添加陰イオンを少なくとも部分的に遊離させる)を含有する被覆を金属表面上に塗布し、
この際、被覆は、含有される成分及びその含量の選択によって、少なくとも1種のデポー物質から、腐蝕保護陰イオン及び場合により付着補助陰イオンの実質的割合が、非傷害化状態でのこれらのデポー物質の酸化還元電位から、金属/被覆界面での損傷、例えば、引掻き傷又は不純物の金属表面の腐蝕電位への電位降下の場合よりも少ない電位降下で既に、殊に、分離先導前部でのより少ない電位降下で遊離されるように調整され、従って、金属/被覆界面での弱い又は強い離層が起こる前に、少なくとも部分的に早期又は適時に離層の発生又は進行が押えられることを特徴とする、腐蝕抑制被覆での金属表面の保護法。
【請求項3】
1種以上の成分として、a)少なくとも1種のデポー物質及び場合によりb)少なくとももう1種の成分又は/及び少なくとも1種のマトリックス物質、特に電導性ポリマーを含有する、塗付後に場合により乾燥されかつ場合により硬化もされる被覆を、金属表面上に塗布して、腐蝕抑制組成物を含む被覆で金属表面を保護する方法において、
この際、少なくとも1種の陰イオンは、この陰イオンが水中、少なくとも1種の他の極性溶剤中又は/及び少なくとも1種の非‐極性溶剤も含有する混合物中で移動性であることによって選択され、
この際、1種以上のデポー物質の製造のための少なくとも1種の出発物質は、その酸化電位が水又は/及びそれに使用される混合物中の少なくとも1種の他の極性溶剤の分解電位よりも少ない又は同じであることによって選択され、
この際、少なくとも1種のデポー物質における少なくとも1種の腐蝕保護及び場合により同様に少なくとも1種の付着補助陰イオンは、1.添加イオンとして少なくとも1種のデポー物質の構造に配合されることができ又は/及び配合されていて、2.少なくとも1種のデポー物質の電位が降下する場合には(還元)、この構造から再び遊離されることもでき、かつ3.金属表面が存在する場合には、腐蝕保護作用を有することができ、
この際、少なくとも1種のデポー物質は、少なくとも1種の腐蝕保護及び場合により同様に少なくとも1種の付着補助陰イオンの早期の遊離を可能にする酸化還元電位を有し、
この際、少なくとも1種のデポー物質からの少なくとも1種の腐蝕保護及び場合により同様に少なくとも1種の付着補助陰イオンの遊離が、脱プロトン化反応を介して行なわれない又は/及び僅かしか行なわれず、主に又は/及び全て還元反応を介して行なわれ、
この際、少なくとも1種のデポー物質は、選択された遊離すべき腐蝕保護又は/及び付着補助陰イオンが、少なくとも1種のデポー物質を通る及び場合により、例えば、マトリックス中の少なくとももう1種の成分を通る移動の際に妨げられない又は実際に妨げられないような粒度を有し、かつ
この際、少なくとも1種のデポー物質は、比較的低い陽イオン輸送率を有する、腐蝕抑制被覆での金属表面の保護法。
【請求項4】
少なくとも1種のデポー物質の製造のための少なくとも1種の出発物質は、芳香族又は/及び不飽和炭化水素‐化合物のモノマー又は/及びオリゴマー、例えば、アルキン、複素環、炭素環、その誘導体又は/及びその組合せから選択され、それから電導性オリゴマー/ポリマー/コポリマー/ブロックコポリマー/グラフトコポリマーを生成させることに好適である、請求項1、2又は3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1種のデポー物質の製造のための少なくとも1種の出発物質は、X=N又は/及びSを有する複素環から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1種のデポー物質の製造のための少なくとも1種の出発物質は、イミダゾール、ナフタレン、フェナントレン、ピロール、チオフェン又は/及びチオフェノールをベースとする非置換又は/及び置換の化合物から選択される、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1種のデポー物質は、少なくとも1種の電導性ポリマー、有利に、ポリピロール、ポリチオフェン、ポリ(パラ‐フェニレン)又は/及びポリ(パラ‐フェニレンビニレン)をベースとする少なくとも1種の電導性ポリマーである、請求項1、2又は3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
少なくとも1種のデポー物質は、ポリ(1‐メチルピロール)、ポリ(1‐メトキシピロール)、ポリ(3‐メチルピロール)、ポリ(3‐メトキシピロール)、ポリ(1‐フェニルピロール)、ポリ(3‐フェニルピロール)、ポリ(3‐メチルチオフェン)、ポリ(3‐ヘキシルチオフェン)、ポリ(3‐メトキシチオフェン)、ポリ(3‐ヘキソキシチオフェン)、ポリ(3‐フェニルチオフェン)、ポリ(3‐メチルビチオフェン)、ポリ(3‐ヘキシルビチオフェン)、ポリ(3,3’‐ジメチルビチオフェン)、ポリ(3,3’‐ジヘキシルビチオフェン)、ポリ(3,3’‐ジメトキシビチオフェン)、ポリ(3,3’‐ジヘキソキシビチオフェン)、ポリ(3‐メチルテルチオフェン)、ポリ(3‐メトキシテルチオフェン)、ポリ(5‐アルキル‐3,4‐エチレンジオキシチオフェン)、ポリ(イソチアナフテン)、ポリヘテロシクロペンタジエン、ジオキシ‐3,4‐ヘテロシクロペンタジエン、ジ‐〜オクトヘテロシクロペンタジエン、置換された又は/及びはしご状のポリ(パラ‐フェニレン)及び置換された又は/及びはしご状のポリ(パラ‐フェニレンビニレン)をベースとする化合物から選択される、請求項1から7までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1種の陰イオンは、アルカン酸、アレーン酸、硼素‐含有酸、弗素‐含有酸、ヘテロポリ酸、イソポリ酸、沃素‐含有酸、珪酸、ルイス‐酸、鉱酸、モリブデン‐含有酸、過酸、燐‐含有酸、バナジウム‐含有酸、タングステン‐含有酸、その塩及びその混合物をベースとする陰イオンから選択される、請求項1から8までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1種の陰イオンは、ベンゾエート、カルボキシレート、ジチオール、スルホキシレート、例えば、ホルムアルデヒドスルホキシレート、フマレート、錯フルオリド、ランタネート、メタボレート、モリブデート、ニトロ化合物、オクタノエート、フタレート、燐含有オキシ陰イオン、サリチレート、シリケート、チオール、チタネート、バナデート、タングステート及びジルコネートをベースとする陰イオン、特に有利に、チタン錯フルオリド又は/及びジルコニウム錯フルオリドをベースとする少なくとも1種の陰イオンから選択される、請求項1から9までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
少なくとも1種の付着補助陰イオンは、有利に、燐含有オキシ陰イオン、ポリシロキサン、シラン、シロキサン又は/及び界面活性剤をベースとする少なくとも1種のイオンである、請求項1から10までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1種の腐蝕抑制又は付着補助陰イオンとして、一方で、カルボキシレート、錯フルオリド、モリブデート及びニトロ化合物をベースとする、及び他方で、燐含有オキシ陰イオン、ポリシロキサン、シラン、シロキサン又は/及び界面活性剤をベースとする種類の陰イオンから選択される混合物を使用する、請求項1から11までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
組成物は、特に、その塩が複数段階の原子価で存在し得る酸をベースとする、例えば、鉄塩、例えば、ペルオキシド又は/及び過酸をベースとする、例えば、ペルオキソジスルフェートをベースとする、少なくとも1種の酸化剤も含有する、請求項1から12までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
先導前部は、分離開始及び電位降下と結合している、例えば、酸素還元の陰極前部である、請求項1、2又は3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
先導前部は、金属表面の酸化開始及び電位降下と結合している、例えば、金属溶解の陽極前部である、請求項1、2又は3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
腐蝕抑制又は付着補助陰イオンは、実際の範囲で、700mVよりも少ない電位降下で遊離される、請求項1、2又は3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
腐蝕抑制又は付着補助陰イオンは、実際の範囲で、400mVよりも少ない電位降下で既に遊離される、請求項1、2又は3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
デポー物質量は、少なくとも1種のマトリックス物質中で、実際に均一で分配され、かつ十分に高い陰イオンの遊離が行なわれ、離層抑制作用を達成するために、損傷への被覆中の陰イオン輸送率は十分であり、しかし、他方で、陽イオン輸送率も、それが離層を促進させない又は実際に促進させないように少なく保たれるように選択される、請求項1から17までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
組成物は少なくとも1種の付着助剤も含有し、この際、付着助剤は、場合により、離層箇所でも、被覆と金属表面との間で、離層を停止させ又は/及び修復させる付着橋を形成する、請求項1から18までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項20】
組成物は、少なくとも1種のラジカル‐捕捉剤、例えば、アミンを含有し、これは、酸素還元で生じる遊離ラジカルを収容することができ、それによって離層を停止させ又は遅延させることができる、請求項1から19までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
デポー物質からの陰イオンの広汎な又は完全な遊離を可能にする、少なくとも1種のデポー物質及び少なくとも1種の陰イオンを選択し、それによって、特に電解質又は/及び損傷からの陽イオン輸送率を明らかに低下させることができ、それによって、金属/被覆界面範囲のラジカルの生成も押えられる、請求項1から20までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項22】
少なくとも2つの相互に重なる被覆の場合に、酸素還元は、デポー物質の電子伝導性に基づき、金属表面から離れて、2つの被覆間の界面又は界層に拡大され、従って、酸素還元は、有利に2つの相互に接する被覆間の界層で起こり、かつ金属及び第一被覆間の界面では僅かに又は全く起こらず、かつ従って、金属及び第一被覆間の界面で離層は僅かに又は全く起こらない、請求項1から21までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
金属表面の直上に、及び少なくとも1種のデポー物質を含有する被覆の直下に、付着を改善するOH‐基を有する中間層を塗付する、請求項1から22までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項24】
金属表面を先ず特に徹底的に清浄する、請求項1から23までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項25】
清浄した又は清潔な金属表面上に、デポー物質を含有する被覆を塗付する前に、予備処理層を被覆させる、請求項1から24までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項26】
デポー物質を含有する被覆上に、引き続き、少なくとももう1種の被覆を塗付する、請求項1から25までのいずれか1項に記載の方法。
【請求項27】
請求項1から26までのいずれか1項に記載の方法により保護される、少なくとも1種の被覆を有する金属支持体。
【請求項28】
自動車‐、航空機‐及び宇宙飛行工業で、建築で、外装用、屋根ふき用及び内装で、器具‐及び機械構造用、電極用、戸棚素材及び棚用、家庭用具用、有利に、帯として、板として、成形部材として、内張りとして、遮蔽材として、車体として又は車体の素材として、ドア素材として、船蓋又はボンネット、バンパとして、自動車、トレーラー、キャラバン又は飛行体の部材として、被覆として、家具又は家具素材として、家庭用具、例えば、食器洗浄機、オーブン、冷蔵庫又は洗濯機の素材として、フレームとして、異形材として、正面素材として、サンドウィッチ‐パネルとして、複雑な図形の成形部材として、案内板‐、ヒーター‐又は隔壁素材として、ガレージドア素材として、容器として、ランプとして、燭台として、交通信号灯素材として又は窓‐、ドア‐又は自転車フレームとしての、請求項27に記載の支持体の使用。
【請求項29】
少なくとも1種の電導性ポリマーのための陰イオンとしての、各々少なくとも1種の錯フルオリド、チタネート又は/及びジルコネートの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2008−508429(P2008−508429A)
【公表日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−524254(P2007−524254)
【出願日】平成17年8月1日(2005.8.1)
【国際出願番号】PCT/EP2005/008306
【国際公開番号】WO2006/015754
【国際公開日】平成18年2月16日(2006.2.16)
【出願人】(500399116)ヒェメタル ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (32)
【氏名又は名称原語表記】Chemetall GmbH
【住所又は居所原語表記】Trakehner Str. 3, D−60487 Frankfurt am Main,Germany
【Fターム(参考)】