説明

腐食に対する保護を与える金属コーティングが施された鋼部材を製造する方法、および鋼部材

本発明は、よく付着し、腐食に対する保護を与える金属コーティングが施されている部材を製造することができる方法を提供する。このため、マンガンを0.3〜3wt%含み、かつ降伏点が150〜1100MPaであり、引張強さが300〜1200MPaである鋼材料から製造された平鋼材を、平鋼材に電解析出させるZnNi合金のコーティングを含む防食コーティングで被覆し、このコーティングは、単相のγ−ZnNi相で構成され、かつ亜鉛のほか、不可避な不純物、および7〜15wt%のニッケルを含む。次いで平鋼材からブランクを得て、少なくとも800℃まで直接加熱してから、鋼部材に成形するか、あるいは、最初に鋼部材に成形してから、少なくとも800℃まで加熱する。最後に、それぞれの場合に得られた鋼部材を、十分な高温から十分に急速冷却することにより焼入れする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、鋼部材を形成する前にZnNi合金のコーティングが施されている、Mnを含む鋼からなる平鋼材を形成することにより、腐食に対する保護を与える金属コーティングが施された鋼部材を製造する方法に関する。
【0002】
本発明で「平鋼材」について言及する場合、この用語が意味する内容は、鋼ストリップ、鋼シート、鋼プレート、またはブランク、およびそれらから得られる同種のものである。
【背景技術】
【0003】
現代の車両の車体を作る際に求められる、低重量と、最大強度と、保護作用との一体化を図るため、特に衝突時に高応力を受ける可能性がある車体分野で現在使用されている部材は、熱間プレスによる高強度鋼から成形される部材である。
【0004】
熱間プレス焼入れの場合、熱間または冷間圧延鋼ストリップから得られる鋼ブランクは一般に、対象となる鋼のオーステナイト化温度を上回る成形温度まで加熱され、加熱した状態の時に成形プレスのダイに入れられる。次いで行われる成形の過程で、シートまたはプレート材料のブランク、あるいはむしろそれから成形された部材は、冷却ダイとの接触により急冷される。この場合の冷却速度は、焼入れ後の微細構造が部材に生じるように設定される。
【0005】
熱間プレス焼入れに好適な鋼の典型的な例として、「22MnB5」という呼称で知られる鋼があり、2004年のスチールの手引き(Steel Key, Stahlschluessel(英、独訳))の材料番号(material number, Werkstoffnummer(英、独訳))1.5528で確認することができる。
【0006】
実際には、マンガンを含む鋼は一般に湿食に対する抵抗性がなく、不動態化しにくいという欠点により、熱間プレス焼入れに特に好適であることが知られるMnB鋼の利点は、相殺される。懸念される腐食は、局部的であるとはいえ激しいものであり、高濃度のクロリドイオンにさらされると、さほど高度でない合金鋼と比較して腐食が起こる傾向が強く、この傾向により、高合金シート鋼と呼ばれる材料分類に属する鋼を、車両の車体構築の分野そのもので使用することは、困難になっている。さらに、マンガンを含む鋼は、面腐食を起こす傾向もあり、このことも同様に、この鋼が利用され得る使用範囲を限定する要因になっている。
【0007】
このため、腐食攻撃から鋼を保護する金属コーティングを、マンガンを含む鋼にも付与できる方法の探求が継続している。
【0008】
この目的のため、特許文献1に記載されている熱間プレス焼入れにより部材を製造する方法では、鋼シートまたはプレートは、最初に亜鉛コーティングが施され、次いで熱間成形の前に、加熱の過程で、鋼シートまたはプレート上のコーティングの変態の結果、金属間化合物が平鋼材上に生じるように加熱される。この金属間化合物は、鋼シートまたはプレートを腐食および脱炭から保護し、プレスダイでの熱間成形中に潤滑機能を発揮させるためのものである。
【0009】
特許文献1で一般的な形態で提案された手順を実際に行おうとすると、様々な問題が明らかになってきた。こうして、金属間化合物が形成されたならば、コーティングが鋼素地に十分にうまく付着すること、その後行われる塗装仕上げに対してコーティングが十分な被覆性を有すること、およびコーティング自体と鋼素地とが共に、熱間成形の過程で形成される亀裂に対して十分な抵抗性を有することを確実に行えるような形で、亜鉛コーティングを鋼素地に付けることが困難であることが明らかになった。
【0010】
特に有機コーティングをうまく付けることができる亜鉛コーティングを、鋼ストリップ上にいかに形成できるかに関する提案は、特許文献2に記載されている。この提案では、Feを最大20wt%含むZnの層が、電解により、あるいは、他の何らかの公知のコーティング工程を用いて、鋼シートまたはプレートに付けられ処理される。次いでこうしてコーティングした鋼シートまたはプレートを周囲温度から850〜950℃まで加熱し、700〜950℃で熱間プレスにより成形する。この場合のZn層の形成に特に好適なものとして挙げられるのは、電解析出である。この公知の方法では、Zn層はさらに、合金層の形態をとってもよい。この層に可能な合金の構成要素として特許文献2に引用されているのは、Mn、Ni、Cr、Co、Mg、SnおよびPbであり、別の合金構成要素として、Be、B、Si、P、S、Ti、V、W、Mo、Sb、Cd、Nb、CuおよびSrも挙げられている。
【0011】
特許文献2に記載の方法にとって不可欠なものは、その上に存在する1〜50μm厚のZnコーティングが、鉄−亜鉛固溶体相を含み、かつ平均の厚さが2μm以下に限定された酸化亜鉛の層を有することである。この目的のため、公知の方法で行われるのは、少なくともこの酸化物の形成の制御が行われるように、熱間プレスによる成形に必要な温度まで加熱する時点の焼鈍条件を選択すること、あるいは、熱間成形後、得られた鋼部材上に存在する酸化物の層が、機械加工または粒子浮上の過程で少なくとも一部が除去されることにより、酸化物層を特許文献2に記載される最大厚さに十分に維持することである。このため、この公知の手順も、一方では、Znコーティングが確実に所望の防食効果を有するようにし、他方では、熱間成形後に行われる塗装作業の際に、必要とされる塗装のため優れた被覆性および付着性が確実に確保されるようにするため、費用がかさむ複雑な措置が求められる。
【0012】
特許文献3からは、亜鉛−ニッケル合金のコーティングをストリップ鋼に電解析出させる別の方法が知られる。この方法の過程では、被覆されるストリップに、ZnNiコーティングを析出させる前に、強力な非電気的な前処理を施して、その上に亜鉛およびニッケルを含む薄い一次層を形成する。次いでこの後、実際の亜鉛−ニッケルコーティングが電解により付けられる。前もって調整した組成物を用いて、合金コーティングの電解析出を絶え間なく行われるため、各々が1種のみの合金元素を含む別々のアノードが使用される。これらのアノードは、別々の回路に連結されており、回路を通る電流の流れ、およびそれに伴う、対象となる金属の電解質への放出を目標の方法で調整することができる。
【0013】
焼入れ可能な鋼からなった鋼シートの亜鉛合金コーティングの特性に関する系統的検討の結果については、特許文献4に記載されている。この場合、コーティングは、本質的に亜鉛で構成され、さらに、コーティング全体に対する割合として0.1〜15wt%の総量で酸素に対して親和性のある1つまたは複数の元素を含んでいた。この場合に酸素に対して親和性のある元素として実際に引用されているのは、Mg、Al、Ti、Si、Ca、BおよびMnである。次いで、このように被覆されていた鋼シートを、空気中の酸素を許容しながら、焼入れに必要とされる温度まで上昇させた。この加熱処理の過程で、酸素に対して親和性のある元素(単数または複数)の酸化物の表層が形成された。
【0014】
特許文献4に記載されている実験の1つでは、明記されていない組成物の金属シートに亜鉛およびニッケルを電解析出させることにより、ZnNiコーティングが生成された。層の厚さ5μmに対して防食層の亜鉛とニッケルとの重量比は、約90:10であった。このように被覆されたシートを、空気中の酸素の存在下、900℃で270秒間焼鈍した。これにより、亜鉛層への鋼の拡散に伴い、亜鉛、ニッケルおよび鉄からなる薄い拡散層が生成された。同時に、亜鉛の大部分は、酸化されて酸化亜鉛になった。
【0015】
特許文献4に報告されている結果から、上記のように得られるZnNiコーティングは、純粋な遮断保護作用を発揮するものであり、カソード防食効果をまったく有していなかったことが、明らかである。その表面は、緑色の鱗状の外観をし、酸化物の層が鋼に付着していない小さな剥離が局部にあった。特許文献4によれば、その理由は、コーティング自体が、酸素に対して十分に高親和性の元素を含んでいないことであった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0016】
【特許文献1】欧州特許第1 143 029号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第1 630244号明細書
【特許文献3】独国特許出願公開第32 09 559号明細書
【特許文献4】国際公開第2005/021822号明細書
【非特許文献】
【0017】
【非特許文献1】VDI(Verein Deutscher Ingenieur:ドイツ技術者協会)辞典 材料技術[VDIレキシコンオブマテリアルズサイエンス(VDILexicon of Materials Science)]、フーベルト グレーフェン編、VDI出版 有限会社、デュッセルドルフ 1993年
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0018】
こうした背景の下、本発明の根底にある目的は、実際に実施しやすい方法で、かつ費用および複雑さを同等に抑えつつ、よく付着して確実に腐食に対する保護を与える金属コーティングが施された鋼部材の製造を可能にするような方法を規定することであった。これ以外にも、本意図は、対応する方法で得られる鋼部材を規定することでもあった。
【0019】
本発明の第1の変形例では、この方法に関する本目的を、鋼部材の製造の際に請求項1に規定される方法ステップを経て先に進むことにより、達成する。
【0020】
対応する方法で上記の目的を達成する、本発明による方法の別の変形例については、請求項2に規定する。
【0021】
本発明による方法の第1の変形例は、いわゆる「直接」法により鋼部材を成形することを含むのに対して、本方法の第2の変形例は、いわゆる「間接」法により鋼部材を成形することを包含する。
【0022】
本発明による方法の変形例の有利な実施形態については、請求項1または2に従属する請求項に規定し、下記で説明する。
【0023】
鋼部材に関し、本発明により上記の目的を達成する方法は、この種の部材が請求項14に規定する特徴を有するものである。本発明による鋼部材の有利な変形例については、請求項14に従属する請求項に規定し、下記で説明する。
【0024】
腐食に対する保護を与える金属コーティングが施されている鋼部材を製造する本発明による方法では、マンガンを0.3〜3wt%含む非常に高強度の焼入れ可能な鋼材料から製造される平鋼材、すなわち鋼ストリップ、鋼シートまたはシートプレートを最初に利用可能なものにする。この鋼材料の降伏点は、150〜1100MPaであり、引張強さは300〜1200MPaである。
【0025】
鋼材料は典型的には、組成自体が既知である高強度鋼MnB鋼であってもよい。このため、本発明により処理される鋼は、鉄、および不可避な不純物だけでなく、0.2〜0.5%のC、0.5〜3.0%のMn、0.002〜0.004%のB(wt%単位)を含み、さらに任意にSi、Cr、Al、Tiを含む群から1つまたは複数の元素を、以下の量で0.1〜0.3%のSi、0.1〜0.5%のCr、0.02〜0.05%のAl、0.025〜0.04%のTiで含んでもよい。
【0026】
本発明による方法は、従来の方法で熱間圧延されただけの熱間圧延ストリップ、シートまたはプレート、および従来の方法で冷間圧延された鋼ストリップ、シートまたはプレートの両方から鋼部材を製造するのに好適である。
【0027】
こうして得られ、利用可能なものにされた平鋼材については、本発明により、電解で鋼素地に付けられる単相のγ−ZnNi相を含む亜鉛−ニッケル合金コーティングを含む、防食コーティングで被覆する。このZnNi合金のコーティングは、それ自体単独で防食コーティングを形成してもよいし、あるいは、さらにそれに付けられる保護層で補完してもよい。
【0028】
重要なのは、鋼素地に施されているZnNi合金のコーティングのγ−亜鉛−ニッケル相が、電解被覆によりすでに生成されていることである。すなわち、その後の熱間成形および焼入れに必要な温度まで加熱した結果、そのように拡散工程の手筈が整って初めて合金層が形成される被覆工程とは異なり、本明細書による手順では、亜鉛およびニッケルからなる規定の組成および構造の合金層が、加熱する前にすでに平鋼材上に存在する。この場合、ZnNi合金層の形成におけるZnとNiとの比率、および析出条件については、ZnNi合金層が、立方格子構造を有するNiZn21相からなる単相のコーティングの形をとるように選択する。考慮すべきなのは、電解質から析出させる場合、このγ−ZnNi相の層が化学量論的な組成で生じるのではなく、7〜15%の範囲のニッケル含有量で生じることであり、特に最大13wt%、特に9〜11wt%のニッケル含有量で、コーティングに対して良好な特性が得られる。
【0029】
上記の「析出条件」に分類されるものとして、たとえば、被覆される素地の付随的流れの性質、電解質の流れの速度、電解質のNi:Zn比、その場合に被覆される鋼素地に対する電解質の流れの方向、電流密度、ならびに電解質の温度およびpH値がある。本発明によれば、これらの影響を与える因子は、目的としている単相のZnNiコーティングが、本発明に従い前もって調整されるNi含有量で生じるように、相互に整合させる必要がある。このため、上述のパラメーターは各々、その場合に利用できるシステム技術に応じて以下のように変化してもよい:
− 被覆される素地に対する流れの性質:層流または乱流;被覆される平鋼材に対する電解質の流れが層流のときと、その流れが乱流のときとのどちらも、被覆工程から良好な結果が得られる。しかしながら、実際に利用できる被覆工場の多くでは、乱流流れの方が、電解質と鋼素地との間の交換がより激しいため、好まれる;
− 電解質の流れの速度:0.1〜6m/s;
− 電解質のNi:Zn比:0.4〜4;
− その場合に被覆される鋼素地に対する電解質の流れの方向:鋼素地のコーティングは、垂直設置セルで行っても、水平設置セルで行ってもよい;
− 電流密度:10〜140A/dm
− 電解質の温度:30〜70℃;
− 電解質のpH:1〜3.5。
【0030】
前もって正確に調整した組成および構造のZnNi合金層による平鋼材の、本発明により電解で行うコーティングの具体的な利点としてさらに、こうして生成されたコーティングは、無光沢な粗面を有しており、その反射率が、熱間プレス成形の公知の方法の過程で生成される通常のZnコーティングの反射率より低いことがある。したがって、本発明による方法で被覆された平鋼材は、熱の吸収能力が大きいため、その後、対象となるブランク温度または部材温度まで、より速く、かつエネルギー消費をより少なくして加熱を行うことができる。こうしてオーブンでの滞留時間の短縮、およびエネルギーの節減が可能になるため、本発明による方法は特に経済的である。
【0031】
次いで、本発明による方法で被覆されている平鋼材から、鋼ブランクを成形する。鋼ブランクは、それ自体既知である方法で、対象となる鋼ストリップ、鋼プレートまたは鋼シートから成形すればよい。しかしながら、平鋼材は、その後成形されてコーティングの時点で部材となるのに必要な形をすでにとっている、すなわち平鋼材は、ブランクに相当するとも考えられる。
【0032】
次いで、本発明による方法の第1の変形例では、本発明による方法によりこうして単相のZnNi合金のコーティングが施されている鋼ブランクを800℃以上のブランク温度まで加熱し、次いで、加熱されているブランクから鋼部材を成形する。一方、方法の第2の変形例では、ブランクから鋼部材を少なくとも予め成形しておき、この後初めて少なくとも800℃の部材温度まで加熱を行う。
【0033】
少なくとも800℃のブランク温度または部材温度まで加熱する過程で、鋼素地に付けられたZnNi合金層では、700℃未満の温度でも一部の原子の置換が始まり、金属間γ−亜鉛−ニッケル相(NiZn21)がΓ−亜鉛−鉄相(FeZn10)に転位する。加熱がさらに進み、約750℃を超えると、次いで溶液中にZnおよびNiが存在するα−フェライト混晶が成形される。この工程については、鋼素地がそれぞれ少なくとも800℃のブランク温度または部材温度まで加熱され、溶液中にZnおよびNiが存在するα−Fe混晶と、Ni原子がFe原子で置換され、その逆も同様である混合ガンマ相ZnNi(Fe)とからなる2相コーティングが鋼素地に現れるまで継続する。したがって、本発明の方法で製造された部材には、もはや純粋な合金層は存在しないものの、代わりに、圧倒的大部分がα−Fe(Zn、Ni)混晶で構成され、Znと、Niと、Feとの金属間化合物が、多くても最小限の程度で存在する2相コーティングが存在する。最初に鋼素地に亜鉛コーティングを付け、熱間成形の前の加熱の過程における鋼シート上のコーティングの変態の結果、金属間化合物が生じる従来技術と対照的に、本発明の方法の場合には、そもそも最初から鋼素地に電解析出させ、制御された方法で生成された金属間化合物からなる合金コーティングから始まり、その圧倒的大部分が、成形または焼入れのために行われる焼鈍工程で混晶に変換する。
【0034】
こうしたコーティングは、最終製品上に存在し、その少なくとも70mass%、特に少なくとも75%、典型的には最大95mass%、特に75〜90%は、混晶、および金属間相の残部からなる。それぞれのコーティングの焼鈍条件および厚さに応じて、これらは、低体積濃度で分散するため混晶間に分布するか、あるいは、混晶上にある。このため、状態図における当初の合金コーティングは、明らかにZnリッチ側からFeリッチ側に変化する。したがって、最終鋼部材には鉄−亜鉛合金が存在する。換言すると、本発明の方法では、もはや亜鉛系合金ではなく、鉄系合金からなるコーティングが得られる。
【0035】
本発明による方法の第1の変形例では、本発明に従い少なくとも800℃の温度まで加熱してあるブランクを鋼部材に成形する。これは、たとえば、加熱直後、その際に使用する成形ダイにブランクを供給することにより、行ってもよい。成形ダイへの移動中、ブランクの冷却が起こることは、一般に避けられない。これは、加熱後にこの種の熱間成形作業を行う際、ブランクが成形ダイに入るときのブランクの温度が、通常オーブンから取り出す際のブランク温度より低いことを意味する。成形ダイでは、それ自体既知である方法で鋼ブランクを鋼部材に成形する。
【0036】
焼入れまたは焼戻し後の微細構造が形成されるのに十分に高い温度で成形を行う場合、得られた鋼部材をその温度から、焼戻しまたは焼入れ後の微細構造がその鋼素地に生じるのに十分な冷却速度で冷却してもよい。この工程を成形ダイ自体で行うと、特に経済的である。
【0037】
本発明による方法で被覆されている平鋼材は鋼素地の亀裂および摩耗に対して非感受性であるため、したがって本発明による方法は、加熱作業から、以前に行われるブランク温度まで熱を使用して、鋼部材の熱間成形およびその冷却を、単一のダイで単一作業で実施する1段熱間プレス成形に特に好適である。
【0038】
本方法の第2の変形例では、ブランクを最初に成形し、次いでこのブランクから鋼部材を、その間まったく加熱せずに成形する。この場合、鋼部材の成形については、典型的には1つまたは複数の冷間成形作業を実施する冷間成形工程で行う。この場合の冷間成形の程度は、成形されて得られる鋼部材が実質的に十分な最終状態となるだけ大きくてもよい。しかしながら、第1の成形作業を前成形作業として行い、加熱後に成形ダイで鋼部材を最終状態に成形することも考えられる。この最終成形は、好適な成形ダイでプレス焼入れとして焼入れを行うことにより、焼入れ工程と組み合わせてもよい。この場合、鋼部材を、その最終的な最終形状を画像化するダイに入れ、焼入れまたは焼戻し後の所望の微細構造が形成されるよう十分に急速冷却する。このため、プレス焼入れにより、鋼部材がその形状を特に良好に維持することが可能になる。この場合、プレス焼入れ中の形状の変化は通常小さい。
【0039】
本発明による方法の2つの変形例のどちらを使用しても、従来技術と異なる何らかの特別な方法で成形する必要も、焼入れまたは焼戻し後の微細構造の形成に必要とされる冷却を行う必要もない。このため、むしろ、公知の方法および既存の器具を使用することができる。成形されるブランクには、本発明による方法で合金コーティングがすでに生成されているため、熱間成形または高温での成形を行う際に、どのような形であれコーティングの軟化があって、それによりコーティング材料と接触するダイの表面にコーティング材料が任意に固着するというリスクがない。
【0040】
本発明により処理される鋼素地の0.3〜3wt%、特に0.5〜3wt%のMn含有量は、本発明により平鋼材に生成される、α−Fe(Zn、Ni)混晶と、より低い比率の金属間化合物とからなるコーティングと組み合わせると、特に有用性を獲得する。こうして、本発明により製造される鋼部材の場合、鋼素地に存在するMnが、コーティングの良好な付着性にかなり寄与する。
【0041】
何れの場合にも、本発明により付けられる防食コーティングは、ブランク温度または部材温度に加熱する前に、マンガンを0.1wt%未満含む。プレート温度または部材温度へのその後の加熱の際、鋼素地に存在するマンガンがその後、本発明により付けられた防食コーティングの自由表面に向かって拡散し始める。
【0042】
一方では、加熱の過程でZnNi合金層に拡散するMn原子は、コーティングを鋼素地に協力に結合させる。
【0043】
他方、かなりの割合のMnは、本発明により生成される防食コーティングの表面に進み、そこに金属または酸化形態で蓄積する。本発明により生成され、こうしてコーティングに存在するMnを含む層(このMnを含む層は、簡潔にするため、以下単に「Mn酸化物層」という)の厚さは、典型的には0.1〜5μmである。この場合のMn酸化物層の有益な作用は、その厚さが少なくとも0.2μm、特に少なくとも0.5μmである場合、特に信頼性の高い形で明らかになる。表面に隣接し、表面に近いこのMnを含む層では、防食コーティングのMn含有量が1〜18wt%、特に4〜7wt%である。
【0044】
本発明による方法で生成されるコーティングに存在する際だったMn酸化物層がもたらすものは、上述した鋼素地との結合だけでなく、さらに防食コーティングに付けられる有機コーティングに対する特に良好な付着性である。したがって、本発明による手順は、すでに成形され、塗装仕上げが施される車両の車体の部品の製造に特に好適である。
【0045】
本発明により得られる際だった酸化物層については、導入部分に明らかにした従来技術とは異なり、必ず除去する必要があるとは限らない。それどころか、実用的条件に適した、本発明による方法の変形例の実施形態の1つでは、本発明による手順により得られる酸化物層を防食コーティングに故意に残しておくように準備する。この酸化物層により、本発明により製造され得られる鋼部材の特に良好な被覆性が確保されるだけでなく、さらには、その比較的高い伝導率から、鋼部材は全体として良好な溶接性も確保されるためである。
【0046】
Mn含有量が0.3wt%重量未満の鋼を使用する場合、その結果として、コーティングの外観が帯黄色となり、コーティングに主にZnOで構成される酸化物層が存在することが示唆される。特許文献4に報告された実験で生じたのと同様に、このように生成されるコーティングは、熱間成形後に局部的な剥離およびフレーキングを示す。一方、少なくともMnを0.3wt%含む鋼に、本発明により生成されるコーティングは、表面が褐色であり、フレーキングおよび剥離が認められない。
【0047】
本発明により平鋼材に析出されるZnNiコーティングは、実際に厚さ0.5〜20μmで付けられる。本発明により生成されるZnNiコーティングの特に良好な保護作用は、コーティングを厚さ2μm超で平鋼材に析出させる場合に得られる。本発明により生成されるコーティングの典型的な厚さは、2〜20μmの範囲、特に5〜10μmである。
【0048】
本発明により製造される鋼部材では、平鋼材に付けられるZnNi合金のコーティング以外に、加熱ステップの前にZnNi層にやはり付けられるZn層を防食コーティングに加えることにより、腐食に対する保護のさらに大きな最適化を達成することができる。対象となるブランク温度または部材温度への加熱前に、本発明による部材へとさらに処理するために加工された平鋼材にその後存在するものは、少なくとも2層の防食コーティングであり、その第1の層は、本発明による方法で構成されたZnNi合金層により形成され、その第2の層は、その上にあるZnのみからなるZn層により形成される。
【0049】
典型的には2.5〜12.5μm厚である、追加で付けられるZn層は、鋼素地由来のMnおよびFeと、ZnNi層由来のNiとが合金化されていてもよいZnリッチ層として、本発明による最終鋼部材に存在する。この場合、Znの一部が反応してZn酸化物になり、素地材料由来のMnと一緒にMnを含む層を形成し、本発明により生成される防食コーティング上にある。こうして熱間成形の加熱前に防食コーティングのために追加のZn層を付けると、カソード防食保護作用がさらに向上する。
【0050】
この場合、最終の熱間成形および焼入れ状態で、上記に詳細に記載したようなMn酸化物層は、追加のZn層が防食コーティングの表面上に存在する場合でも、存在することが明らかになっている。ZnNi層およびZn層から組み合わされた防食コーティングの場合とちょうど同じように、このMn酸化物層により、本発明により製造され得られた鋼部材の良好な溶接性が確保され、さらに鋼部材は、塗装仕上げを受けるのに非常に適したものになる。
【0051】
防食コーティングのための追加のZn層については、以前に付けられたZnNi層とちょうど同じように電解析出させることができる。このため、たとえば連続流で進行する、電解被覆の多段装置では、第1段階で対象の鋼素地にZnNi合金のコーティングを析出させることができ、この後に進行する段階でZnNi層にZn層を析出させることができる。
【0052】
上記に説明したように、本発明による鋼部材については、熱間プレス成形により製造し、マンガンを0.3〜3wt%含む鋼を含む鋼素地と、その上に付けられる防食コーティングとを有し、防食コーティングは、少なくとも70mass%がα−Fe(Zn、Ni)混晶と、Zn、NiおよびFeの金属間化合物の残部とからなるコーティング層を含み、かつその自由表面にMnを含む層を有し、Mnは金属または酸化形態で存在する。この場合、焼鈍時間、焼鈍温度およびコーティング層の厚さに応じて、金属間化合物は、低体積の斑点としてα−Fe(Zn、Ni)混晶に拡散する。
【0053】
さらに、防食コーティングは、すでに上述したように、ZnNi層の上にあるZn層を含み、この場合、Mnを含む層も、防食コーティング上に存在してもよい。
【0054】
電解被覆工程から最適な結果を確保するには、それ自体既知である方法で電解被覆の前に平鋼材に前処理を施して、鋼素地の表面を、この表面が、その後に行われる防食層を用いたコーティングに最適な方法で加工される状態になるように処理してもよい。このため、下記の前処理ステップの1つまたは複数を経て次に進んでもよい。
− 脱脂浴中での平鋼材のアルカリ脱脂。脱脂浴は典型的には、5〜150g/l、特に10〜20g/lの界面活性洗浄剤を含む。この場合の脱脂浴の温度は20〜85℃であり、特に65〜75℃の浴温度で良好な有効性が得られる。これは、電解脱脂を行う場合に特にそうであり、特にこの場合の洗浄からは、試験片が陽極性および陰極性である少なくとも1サイクルを実施すれば、良好な結果が達成される。アルカリ洗浄では、この場合、電解浸漬脱脂を行うために有利であるだけでなく、電解洗浄の前にアルカリ媒体を用いてスプレー/ブラシ洗浄を行うためにも有利であることが明らかにされ得る。
− 平鋼材のフラッシング、このフラッシングは、清浄水または脱イオン水により行う。
− 平鋼材の酸洗い。酸洗いでは、平鋼材を酸浴に浸して、平鋼材自体の表面を侵食せずに酸化物層を平鋼材から取り除く。計画的に行う酸洗いのステップにより、電解ストリップ亜鉛メッキに都合がよいように準備された表面が得られるように、酸化物の除去を制御する。酸洗い後、平鋼材を再びフラッシングして、前記平鋼材の酸洗いに使用した任意に残存する酸量を除去すると、有用である場合がある。
− 平鋼材のフラッシングを行う場合、取れにくい粒子をもその表面から除去できるように、フラッシング中に平鋼材を機械的にブラッシングしてもよい。
− 前処理した平鋼材に依然として存在する液体があれば、通常スクイズロールにより電解質浴に入れる前に除去する。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】元素O、Mn、Zn、NiおよびFeについて、熱間成形後の本発明によるコーティングのGDOS(glow discharge optical emission spectrometry:グロー放電発光分光分析法)測定の結果を示す。
【図2】元素Mnを取り出して、図1に示す測定結果を示す。
【図3】様々な製造時点でのコーティングの構造の模式図である。
【図4】本発明により製造された部材に存在するコーティングの顕微鏡写真である。
【図5】本発明により製造された部材に存在するコーティングの顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0056】
以下の変形例については、電解被覆から特に良好な結果が得られる、前処理の優れた実例として引用し得る。
【0057】
(実例1)
ボックス焼鈍した冷間圧延ストリップをアルカリスプレーで脱脂し、さらに電解脱脂する。脱脂浴には、「Ridoline C72」という商品名で入手でき、かつ25%超の水酸化ナトリウム、1〜5%の脂肪アルコールエーテル、ならびに5〜10%のエトキシル化、プロポキシル化およびメチル化C12〜18アルコールを含む、市販されている洗浄剤を15g/lの濃度で入れる。浴温度は65℃とする。スプレー脱脂下の滞留時間は5秒とする。これに続き、ブラシ洗浄を行う。この工程を継続しながら、ストリップを、電流密度15A/dmで陽極性および陰極性により3秒の滞留時間電解脱脂する。これに続き、ブラシを使用しながら周囲温度、脱イオン水で多段フラッシングを行う。フラッシングの滞留時間は3秒とする。ストリップを、滞留時間を11秒として塩酸(20g/l;温度35〜38℃)で酸洗いして次に進む。8秒間続けて脱イオン水でのフラッシュ後、シートまたはプレートを、スクイズロール装置を通過させてから電解セルに移す。実施形態を参照して下記に詳細に説明するように、鋼ストリップ、シートまたはプレートの、本発明によるコーティングを電解セルで生成する。電解被覆ラインから取り出した平鋼材については、複数の段階で周囲温度、水および脱イオン水でフラッシングしてもよい。フラッシング下での総滞留時間は、17秒とする。次いでこの後平鋼材は、乾燥セクションを通過する。
【0058】
(実例2)
22MnB5グレード(1.5528)の熱間圧延ストリップ(酸洗い済み)をアルカリスプレーで脱脂し、電解脱脂する。さらに、このストリップを、アルカリスプレーによる脱脂の過程でブラシ洗浄する。脱脂浴は、「Ridoline 1893」という商品名で入手でき、かつ5〜10%の水酸化ナトリウムおよび10〜20%の水酸化カリウムを含む、市販されている洗浄剤を20g/lの濃度で含む。浴温度は75℃とする。スプレー脱脂下の滞留時間は2秒とする。この工程を継続しながら、ストリップを、15A/dmの電流密度で陽極性および陰極性により4秒の滞留時間電解脱脂する。これに続き、ブラシを使用しながら、上流位置で周囲温度、脱イオン水で多段フラッシングを行う。滞留時間は3秒とする。ストリップを、滞留時間を7秒として塩酸(90g/l、最高温度40℃)で酸洗いして次に進む。脱イオン水での5段カスケードフラッシング後、シートまたはプレートを、スクイズロール装置を通過させてから電解セルに移し、電解セル中でそれに、実施形態を参照して以下に記載されるように、本発明による方法で防食コーティングを施す。電解被覆系から取り出すとき、本発明によりもはや被覆されている平鋼材を、50℃、3段で、脱イオン水によりフラッシングする。この後この試験片を、空気循環乾燥機を採用した乾燥セクションを通過させ、その気温は100℃を超えるものとする。
【0059】
(実例3)
22MnB5グレード(1.5528)のボックス焼鈍した冷間圧延ストリップをアルカリスプレーで脱脂し、電解脱脂する。脱脂浴は、1〜5%のC12〜18脂肪アルコールポリエチレングリコールブチルエーテル、および0.5〜2%の水酸化カリウムを含む洗浄剤を20g/lの濃度で含む。浴温度は75℃とする。水平スプレーフラッシングの滞留時間は12秒とする。これに続き、ブラシ洗浄を2回行う。この工程を継続しながら、ストリップを、10A/dmの電流密度で陽極性および陰極性により9秒の滞留時間電解脱脂する。これに続き、ブラシを使用しながら周囲温度、脱イオン水で多段フラッシングを行う。滞留時間は3秒とする。ストリップを、滞留時間を27秒として塩酸(100g/l、周囲温度)で酸洗いして次に進む。ブラシと噴霧淡水とを組み合わせたフラッシング後、シートまたはプレートを、スクイズロール装置を通過させてから電解セルに移す。電解セルでは、実施形態を参照して以下に記載される方法で、防食コーティングの本発明による電解析出を行う。電解被覆後、こうして本発明による方法で被覆された平鋼材を、40℃、2段で水および脱イオン水によりフラッシングする。総滞留時間は18秒とする。この後、試験片を、75℃の温度で空気を循環させる空気循環送風機を採用した乾燥セクションを通過させる。
【0060】
この工程では、ブランク温度または部材温度が、それ自体既知であるように最高920℃、特に830〜905℃である場合、最適な結果が得られる。これは、その後この場合に使用するどのような成形ダイに、加熱されたブランク(「直接」法)または加熱された鋼部材(「間接」法)を入れても、鋼部材の成形をある程度の温度低下を許容するような、ブランク温度または部材温度まで加熱後の熱間成形として行う場合、特にそうである。この場合の最終作業としてどのような熱間成形を行っても、ブランク温度または部材温度が850〜880℃である場合、特に確実に行うことができる。
【0061】
ブランク温度または部材温度への加熱は、連続加熱オーブンを通過させる工程でそれ自体既知である方法で行うことができる。この場合の典型的な焼鈍時間は3〜15分の範囲であるが、焼鈍時間が180〜300秒の範囲にあるか、あるいは、コーティングが付けられたそれぞれの鋼素地を十分に加熱したら直ちに焼鈍を終了すれば、一方では最適に構成されたコーティング層が、他方では特に経済的生産条件が得られる。しかしながら、誘導型または伝導型加熱手段により加熱を行うことも代替手段として可能である。これにより、特に迅速かつ正確に、この場合に前もって調整したどのような温度にも加熱できるようになる。
【0062】
実施形態を参照して以下に本発明について記載する。
【0063】
冷間圧延、再結晶焼鈍、およびスキンパス圧延を施したストリップ材料の試験片A〜Z − 以下簡潔にするため、単に「試験片A〜V2」という − を利用可能なものにした。試験片A〜V2には、連続パスで通過させる電解亜鉛メッキラインで亜鉛−ニッケル合金層を施しておいた。試験片「Z」はさらに、比較のため溶融浸漬被覆した。
【0064】
この場合のMn含有量は重要であり、焼入れ可能な鋼からなる試験片A〜Zそれぞれについて表2の「Mn含有量」の欄にMn含有量を示す。表は、試験片A〜QおよびZのMn含有量がそれぞれ0.3wt%を超える一方、試験片V1、V2のMn含有量が限界水準の0.3wt%未満であったことを示す。
【0065】
ストリップ形状の各試験片A〜V2は最初に、順々に以下の作業ステップを経る洗浄処理を通って次に進んだ。
【0066】
まず、対象となる試験片A〜V2を、洗浄剤のアルカリ性浴中、60℃の温度で6秒の滞留時間、ブラシを使用してスプレー洗浄に供した。
【0067】
次いで、15A/dmの電流密度で3秒間電解脱脂を行った。
【0068】
これに続いて、ブラシを使用して清浄水で2回フラッシングした。これらのフラッシング処理のそれぞれの期間は3秒であった。
【0069】
この後、150g/lの濃度の塩酸で酸洗いを周囲温度で8秒間行った。
【0070】
最後に、水で3段カスケードフラッシングを行った。
【0071】
このように前処理した試験片A〜V2に電解セル中で電解被覆を行った。試験片A〜V2の各々に設定された以下の作業パラメーターを表1に示す:「Zn」=電解質のg/l単位のZn含有量、「Ni」=電解質のg/l単位のNi含有量、「NaSO」=電解質のg/l単位のNaSO含有量、「pH値」=電解質のpH値、「T」=電解質の℃単位の温度、「セル型」=電解質により発生する、ストリップ上の付随的流れの方向、「流速」=電解質のm/s単位の流速、および「電流密度」=A/dm単位の電流密度。
【0072】
比較として従来の方法で試験片Zに溶融亜鉛メッキを施した。
【0073】
表2には、試験片A〜V2それぞれのMn含有量だけでなく、上記の条件下で電解析出させたZnNiコーティングの特性も示す。変形例A〜HおよびN〜Pの場合には、本発明による単相γ−ZnNiコーティングが得られたのに対して、変形例I〜Kの場合には、η−Zn、すなわち元素の亜鉛、およびγ−ZnNiが相互に隣接して存在することが確認できる。
【0074】
変形例LおよびMの場合、ZnNi層が付けられる前に、純粋なニッケル(いわゆる「ニッケルフラッシュ」)の薄層が鋼素地に付けられた。この後者の層が含んでいたのは、単相γ−ZnNiのコーティングの下にある純粋なニッケルの析出層であった。この種の多層構造は、達成すべき特性に対して何ら有益な作用を有さない。このため、これらの変形例については、変形例I〜Kで得られた試験片と同様に「本発明によらない」ものと見なした。
【0075】
試験片Qは、Ni含有量が高すぎたため、この試験片も「本発明によらない」ものと見なした。
【0076】
試験片V1およびV2については、Mn含有量が低すぎる鋼から製造した。したがって、本発明によるγ−ZnNiコーティングを有していたものの、これらの試験片も「本発明によらない」と見なした。
【0077】
電解被覆された試験片A〜HおよびN〜Pは、そのZnNi合金のコーティングの単相構造を踏まえ、「本発明による」ものと見なすことができ、これらからブランク1〜23を得た。
【0078】
これとは別に、ニッケルフラッシュとZnNiとの2層コーティングを有する試験片LおよびMからブランク31〜35を得た。ブランク36については、そのコーティングのNi含有量が過剰に高かったため、同様に「本発明による」ものとは見なし得なかった試験片Qから得、ブランク37〜40については、比較のため製造した試験片V1およびV2から得、ブランク41については、比較試験片Zから得た。
【0079】
次いでブランク1〜41を、表3に示すブランク温度「Tオーブン」まで焼鈍時間「T焼鈍」加熱し、熱間プレス焼入れのため従来のダイ内で1段でそれぞれ鋼部材に成形し、鋼素地に焼入れ後の微細構造が形成されるよう十分に急速冷却した。
【0080】
ブランク1〜41から製造された鋼部材ごとに、熱間プレス成形の過程で確認された熱間成形時の挙動について、熱間プレス成形の過程で対象となる鋼素地に任意の亀裂が存在するかどうかを検討することにより、評価および点検を行った。この評価および点検工程の結果も表3に示す。
【0081】
次いでブランク1〜36および41から成形された鋼部材を、DIN EN ISO 9227に基づく塩スプレー試験に供した。本試験では、72時間または144時間後に素地金属に何らかの腐食が認められた場合、これを、表3の「素地金属の腐食72時間」および「素地金属の腐食144時間」という見出しの欄に示す。
【0082】
最初に付けられたZnNi合金のコーティング中のNi含有量が9〜13wt%であったブランク9〜23から製造された鋼部材は、成形時に最適な挙動を示すのみならず、腐食に対して優れた抵抗性も有することが明らかになった。
【0083】
試験片Zから得られ従来法で被覆されたブランク41から成形された鋼部材は確かに、熱間成形時に良好な挙動が認められた。しかしながら、その鋼素地の亀裂を回避するため規定される要件を満たさなかった。
【0084】
比較試験片V1およびV2から得られたブランク37〜40から製造された鋼部材では、そのコーティングの剥離、および腐食に対する不十分な抵抗性が認められた。これは除外基準を構成したため、これらの鋼部材については、その後点検を行わなかった。
【0085】
GDOS測定方法は、コーティングの濃度プロファイルを高速検出するための標準的な方法である。GDOSについては、たとえば非特許文献1に記載されている。
【0086】
図1に、本発明による方法で製造して得られた鋼部材の防食コーティングのGDOS測定の典型的な結果を示す。図では、Mn(短破線)、O(点線)、Zn(長破線)、Fe(点鎖線)、およびNi(実線)の含有量をコーティング層の厚さに対してプロットしてある。コーティングの表面では、鋼素地からコーティングを介してコーティングの表面に拡散し、そこで周囲の酸素と酸化した高濃度のMnが存在することを確認することができる。一方、コーティングのZnNiを含む層では、Mn含有量がかなり低く、鋼素地に達した場合に限り、再び上昇する。これは、図2で特にはっきりと確認することができる。これに対し、コーティングのNi含有量は、その厚さ全体にわたり実質的に一定である。
【0087】
別の試験では、最初に再結晶冷間圧延ストリップを、上記に説明した本発明による試験片と同様に、γ−ZnNi相からなるZnNi合金の単相のコーティングで電解被覆した。γ−ZnNi合金コーティング層の厚さは7μm、Ni含有量は10%であった。次いで同様に電解により、このZnNi合金のコーティングに、純粋な亜鉛からなる5μm厚のZn層を付けた。
【0088】
こうして得られた2層防食コーティングが施された冷間圧延ストリップからブランクを得て、5分の時間以内に880℃のブランク温度まで加熱した。熱間成形および焼入れ後、得られた鋼部材上には防食層が存在した。さらに、この層の表面には際だったMn酸化物層も存在し、その下にはZnリッチ層が存在し、さらにその下には、鋼素地の上にあるZnNi層が存在した。
【0089】
ブランク温度まで加熱する間、それぞれのブランクに付けたコーティングがどのように成長するか、さらに、得られた最終部材のコーティングがどのように構成されるかを点検するため、本発明の方法によるZnNi合金のコーティングが施された試験片を用いて、最初に電解被覆後のコーティングの構造、750℃まで加熱し続いて冷却を行った後のコーティングの構造、最後に880℃まで十分に加熱後に部材を最終成形および焼入れする際のコーティングの構造を調査する。対象となる3つの時点でのコーティングの状態については、下記の通り説明することができる。
【0090】
a) 被覆後(図3、画像1):
コーティングは、ガンマ−亜鉛−ニッケル(NiZn21)からなる単相の金属間化合物である。最良の場合、表面には、Mnを含まず、ほとんど作用のない非常に薄い自然酸化物フィルムが存在する。
【0091】
b) 約750℃まで加熱(図3、画像2)
コーティング上にZn/Mn酸化物層が形成される。金属組織学的に検討したコーティングは、2相である。どちらもガンマ相を示し、どちらの場合もFeの一部がNiで置換されており、その逆も同様である。これらの相はその結晶構造が同形である。
【0092】
コーティングのNi含有量が母材に向かって減少し、Fe含有量も自由表面に向かって同様に減少するのが特徴的である。この形態のコーティング構造は、約750℃まで存在し、それぞれのブランクを十分に加熱する時間未満の非常に短い時間の場合、依然として示されることがある。このコーティングのγ−ZnNi(Fe)およびΓ−FeZn(Ni)相の組成の典型的な例を以下の表に示す。
【0093】
【表4】

【0094】
c) 焼鈍工程の結果(図3、画像3、4):
さらに加熱を続けると、コーティングは初めは、可能な限り金属間化合物であり、場合によってはγ−ZnNiおよびΓ−ZnFeという2つのガンマ相が相互に隣接して存在する。しかしながら、焼鈍工程(約750℃超)の過程で、ZnおよびNiが溶解して存在するα−Fe混晶がコーティング内に形成される。
【0095】
さらに加熱を続けても、Zn/Mn酸化物層は存在し続ける。金属組織学的にX線撮影で検討したコーティングは、2相である。混合ガンマ相(γ/Γ−ZnNi(Fe))が形成される。この相は非常にNiリッチであることが特徴的である。鋼−コーティング境界相では新たな相が形成される。ZnおよびNiが溶解したα−Fe混晶が存在する。この強制溶解は、速い冷却速度によって起こる。コーティング層の組成の典型的な例を以下の表に示す。
【0096】
【表5】

【0097】
最終部材は常に、ZnおよびNiが強制溶解して存在するα−Fe混晶と、Ni原子がFe原子で置換されており、その逆も同様である混合ガンマ相ZnNi(Fe)とからなる2相コーティングを有する。
【0098】
焼鈍処理が終了する時点、および焼鈍温度に応じて、混合ガンマ相「γ/Γ−ZnNi(Fe)」が、もはや「ZnMn酸化物」層の下に到達している「α−Fe(Zn、Ni)−混晶」のα−Fe混晶領域に拡散する。この種の相構造は、下記により促進される:
・ 高温
・ 長いオーブン滞留時間
・ 最小限の層の厚さ
【0099】
コーティング層の組成の典型的な例を以下の表に示す。
【0100】
【表6】

【0101】
焼鈍処理の終了後に達したコーティングの2つの状態を、図3の画像3および4に例として示す。
【0102】
図3の画像3は、この場合、コーティングを比較的低い焼鈍温度、短いオーブン滞留時間、または大きな層厚で維持すると生じるコーティングの状態を示す。図4では、この状態の、本発明の方法で生成されたコーティングの断面のフラッシュを使用した顕微鏡写真を示す。
【0103】
これに対し、図3の画像4は、高いコーティングの焼鈍温度、比較的長い焼鈍時間、または最小限の層厚である場合に生じるコーティングの構造を示す。この場合、図3の画像3、および図4に示す状態は、図3の画像4に図示した状態の途中で起こる中間段階を図示する。図5には、この状態の、本発明の方法で生成されたコーティングの断面のフラッシュを使用した顕微鏡写真を示す。
【0104】
上記に明らかにされた相c)(図3、画像3および4)では、α−Fe(Zn、Ni)混晶が、Znを<30wt%含み、混合ガンマ相γ/Γ−ZnNi(Fe)が、Znを>65wt%含むことを確認することができる。混合ガンマ相γ/Γ−ZnNi(Fe)の高Zn含有量により、純粋なZn/Fe系に比べて高い防食効果が発揮される。
【0105】
したがって、本発明では、よく付着し、特に効果的な金属防食コーティングが施された部材を単純な方法で製造できる方法が利用可能になる。このため、マンガンを0.3〜3wt%含み、降伏点が150〜1100MPaであり、さらに引張強さが300〜1200MPaである鋼から製造される平鋼材を、平鋼材に電解析出させるZnNi合金のコーティングを含む防食コーティングで被覆し、防食コーティングは、単相のγ−ZnNi相で構成され、かつ亜鉛のほか、不可避な不純物 7〜15wt%のニッケルを含む。次いで平鋼材からブランクを得て、少なくとも800℃まで直接加熱してから、鋼部材に成形するか、あるいは、最初に鋼部材に成形してから、少なくとも800℃まで加熱する。最後に、それぞれの場合に得られた鋼部材を、鋼部材が、焼入れまたは焼戻し後の微細構造が形成されるのに好適な状態となる温度から、焼入れ後の微細構造が形成されるよう十分に急速冷却することにより焼入れする。
【0106】
【表1】

【0107】
【表2】

【0108】
【表3】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
腐食に対する保護を与える金属コーティングが施されている鋼部材を製造する方法であって、下記作業ステップ:
a) マンガンを0.3〜3wt%含む鋼材料から製造される平鋼材であって、前記鋼材料の降伏点は150〜1100MPaであり、引張強さは300〜1200MPaである、平鋼材を利用可能なものにするステップ、
b) 前記平鋼材に電解析出され、かつ亜鉛のほか、不可避な不純物、および7〜15wt%のニッケルを含む単相のγ−ZnNi相を含むZnNi合金コーティングを含む防食コーティングで前記平鋼材を被覆するステップ、
c) 前記平鋼材から成形されるブランクを少なくとも800℃のブランク温度まで加熱するステップ、
d) 成形ダイ内で前記ブランクから前記鋼部材を成形するステップ、ならびに
e) 前記鋼部材が、焼戻しまたは焼入れ後の微細構造の形成に好適な状態にある温度から、前記焼戻しまたは焼入れ後の微細構造の形成に十分な冷却速度で冷却することにより前記鋼部材の焼入れを行うステップ
を含む、方法。
【請求項2】
腐食に対する保護を与える金属コーティングが施されている鋼部材を製造する方法であって、下記作業ステップ:
a) マンガンを0.3〜3wt%含む鋼材料から製造される平鋼材であって、前記鋼材料の降伏点は150〜1100MPaであり、引張強さは300〜1200MPaである、平鋼材を利用可能なものにするステップ、
b) 前記平鋼材に電解析出され、かつ亜鉛のほか、不可避な不純物、および7〜15wt%のニッケルを含む単相のγ−ZnNi相を含むZnNi合金コーティングを含む防食コーティングで前記平鋼材を被覆するステップ、
c) 成形ダイ内で前記平鋼材から成形されるブランクから前記鋼部材を成形するステップ、
d) 前記鋼部材を少なくとも800℃の部材温度まで加熱するステップ、
e) 前記鋼部材が、焼戻しまたは焼入れ後の微細構造の形成に好適な状態にある温度から、前記焼戻しまたは焼入れ後の微細構造の形成に十分な冷却速度で冷却することにより前記鋼部材の焼入れを行うステップ
を含む、方法。
【請求項3】
前記鋼部材の前記成形(作業ステップc))は前成形として行われることを特徴とし、かつ前記鋼部材は前記加熱(作業ステップd))後に最終状態に成形されることを特徴とする、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記最終鋼部材の、腐食に対する保護を与える前記コーティングは、コーティング層を含み、その少なくとも70mass%は、α−Fe(Zn、Ni)混晶と、Zn、NiおよびFeの金属間化合物の残部とからなることを特徴とする、請求項1〜3の何れか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記金属間化合物は前記α−Fe(Zn、Ni)混晶中に分散されることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記最終鋼部材の場合には、Mnが金属または酸化形態で存在するMnを含む層が、前記防食コーティングに存在することを特徴とする、請求項1〜5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記Mnを含む層は0.1〜5μm厚であることを特徴とする、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記Mnを含む層のMn含有量は0.1〜18wt%であることを特徴とする、請求項4〜7に記載の方法。
【請求項9】
前記鋼部材の前記成形の前、前記防食コーティングは、前記鋼部材の前記成形の前にZnNi合金の前記コーティングに同様に付けられる追加のZn層を含むことを特徴とする、請求項1〜8の何れか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記Zn層は2.5〜12.5μm厚であることを特徴とする、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
前記最終鋼部材の前記防食コーティングは、前記ニッケルを含む合金コーティング上にあるZnリッチ層を含むことを特徴とする、請求項9および10のどちらかに記載の方法。
【請求項12】
前記鋼部材の前記成形は熱間成形として行われ、前記鋼部材の前記成形および冷却は熱間成形ダイで単一作業で行われることを特徴とする、請求項1〜11の何れか1項に記載の方法。
【請求項13】
前記鋼部材の前記成形および前記焼入れは、2つの別のステップで互いに引き続いて行われることを特徴とする、請求項1〜12の何れか1項に記載の方法。
【請求項14】
マンガンを0.3〜3wt%含む鋼からなる鋼素地を有し、かつ、前記鋼素地に付けられた防食コーティングを有する鋼部材であって、前記防食コーティングはコーティング層を含み、その少なくとも70mass%はα−Fe(Zn、Ni)混晶と、Zn、NiおよびFeの金属間化合物の残部とからなり、かつその自由表面にMnを含む層を有し、前記Mnが金属または酸化形態で存在する、鋼部材。
【請求項15】
前記金属間化合物は前記α−Fe(Zn、Ni)混晶中に分散されることを特徴とする、請求項14に記載の鋼部材。
【請求項16】
ZnNi合金の前記コーティングは2μm厚を超えることを特徴とする、請求項14および15のどちらかに記載の鋼部材。
【請求項17】
ZnNi合金の前記コーティングはNiを1〜15wt%含むことを特徴とする、請求項14〜16の何れか1項に記載の鋼部材。
【請求項18】
前記Mnを含む層のMn含有量は1〜18wt%であることを特徴とする、請求項14〜17の何れか1項に記載の鋼部材。
【請求項19】
前記Mnを含む層の厚さは0.1〜5μmであることを特徴とする、請求項14〜18の何れか1項に記載の鋼部材。
【請求項20】
前記防食コーティングはZnNi合金の前記コーティング上にある亜鉛リッチ層を含むことを特徴とする、請求項14〜19の何れか1項に記載の鋼部材。
【請求項21】
前記Mnを含む層に有機コーティングが付けられることを特徴とする、請求項14〜20の何れか1項に記載の鋼部材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公表番号】特表2013−503254(P2013−503254A)
【公表日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−525942(P2012−525942)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【国際出願番号】PCT/EP2010/052326
【国際公開番号】WO2011/023418
【国際公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【出願人】(510041496)ティッセンクルップ スチール ヨーロッパ アクチェンゲゼルシャフト (18)
【氏名又は名称原語表記】ThyssenKrupp Steel Europe AG
【住所又は居所原語表記】Kaiser−Wilhelm−Strasse 100,47166 Duisburg Germany
【Fターム(参考)】