説明

腫瘍溶解アデノウイルスベクター並びに前記に関連する方法および使用

本発明は生命科学および医学の分野に関する。具体的には、本発明は癌療法に関する。より具体的には、本発明は、腫瘍溶解アデノウイルスベクター並びに前記ベクターを含む細胞および医薬組成物に関する。本発明はまた、対象者で癌を治療するための医薬の製造における前記ベクターの使用および対象者で癌を治療する方法に関する。さらにまた、本発明は、細胞でGM-CSFを生成し対象者で腫瘍特異的免疫応答を高める方法に関するとともに、細胞でGM-CSFを生成し対象者で腫瘍特異的免疫応答を高めるために本発明の腫瘍溶解アデノウイルスベクターを使用することに関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は生命科学および医学分野に関する。具体的には、本発明は癌療法に関する。より具体的には、本発明は、腫瘍溶解(oncolytic)アデノウイルスベクター並びに前記ベクターを含む細胞および医薬組成物に関する。本発明はまた、対象者で癌を治療するための医薬の製造における前記ベクターの使用および対象者で癌を治療する方法に関する。さらにまた、本発明は、細胞でGM-CSFを生成し対象者で腫瘍特異的免疫応答を高める方法に関するとともに、細胞でGM-CSFを生成し対象者で腫瘍特異的免疫応答を高めるために本発明の腫瘍溶解アデノウイルスベクターを使用することに関する。
【背景技術】
【0002】
癌は、外科手術、ホルモン療法、化学療法および/または放射線療法によって処置されえるが、多くの事例では、癌(しばしば進行期を特徴とする)は現在の治療方法では治癒させることはできない。したがって、癌細胞に照準を当てる新規なアプローチ(例えば遺伝子療法)が必要とされる。
ここ20年間、遺伝子移転技術は集中的に研究されてきた。癌の遺伝子療法の目的は、治療用遺伝子を腫瘍細胞に導入することである。標的細胞に導入されたこれらの治療用遺伝子は、例えば変異した遺伝子を修正するか、活動的な腫瘍遺伝子を抑制するか、または当該細胞にまた別の特性を生じさせることができる。適切な外因性治療用遺伝子には、免疫療法遺伝子、抗血管形成遺伝子、化学物質防御遺伝子および“自殺”遺伝子が含まれ(ただしこれらに限定されない)、それらは、改変ウイルスベクターまたは非ウイルス的方法(エレクトロポレーション、遺伝子銃およびポリマーコーティングを含む)を利用することにより細胞に導入できる。
最適なウイルスベクターの要件には、特異的標的細胞を見つけ出し、標的細胞内で当該ウイルスゲノムを発現させる効率的な能力が含まれる。さらにまた、最適なベクターは、標的組織または細胞で活性を維持しなければならない。これらすべてのウイルスベクターの特性がここ数十年の間に開発され、例えばレトロウイルス、アデノウイルスおよびアデノ関連ウイルスベクターが生物医薬として広範囲に研究されてきた。
【0003】
腫瘍への穿通および抗腫瘍作用の局所増幅をさらに改善するために、選択的腫瘍溶解性因子、例えば条件付きで複製するアデノウイルスが構築された。腫瘍溶解アデノウイルスは癌の治療で有望なツールである。腫瘍細胞は、腫瘍細胞内での腫瘍溶解アデノウイルスの複製(効率的な腫瘍穿通および脈管再感染のために周辺腫瘍組織に数千のビリオンを放出する複製の終期)により当該ウイルスによって殺滅される。腫瘍細胞はウイルスの複製を許容し、一方、正常細胞は、非腫瘍細胞での複製を妨げるウイルスゲノムの操作による変化のおかげでウイルス複製を免れる。
複製によって媒介される細胞殺滅に加えて、腫瘍溶解アデノウイルスはまた種々の治療用トランスジーンで武装させることができる。このアプローチは、通常の遺伝子デリバリーの利点と複製能力を有する因子の潜在能力を合体させる。武装ウイルスの1つの目標は、ウイルス複製を許容する細胞に対する免疫反応の誘発である。免疫原性であってもウイルス複製だけでは有効な抗腫瘍免疫の誘発には通常十分ではない。治療免疫の誘発を強化するために、ウイルスを刺激性タンパク質(例えばサイトカイン)で武装させて、抗原提示細胞(例えば樹状突起細胞)に対する腫瘍抗原の引き合わせおよびそれらの刺激および/または成熟を促進することができる。免疫治療用遺伝子の腫瘍細胞への導入、さらにはまた当該タンパク質の翻訳は、免疫応答の活性化および腫瘍細胞の効率的な破壊をもたらす。これに関してもっとも関係の深い免疫細胞はナチュラルキラー細胞(NK)および細胞傷害性CD8+T細胞である。
【0004】
アデノウイルスは中位のサイズで(90−100nm)エンベロープのない正二十面体ウイルスであり、タンパク質キャプシド中に約36キロベースの二重鎖線状DNAを有する。ウイルスキャプシドは線維構造物を有し、前記は標的細胞へのウイルスの接着に関与する。第一に、前記線維タンパク質のノブドメインは標的細胞のレセプター(例えばCD46またはコクサッキーウイルスアデノウイルスレセプター(CAR))と結合し、第二にウイルスはインテグリン分子と相互作用し、第三にウイルスはエンドサイトーシスにより標的細胞内に取り込まれる。次に、ウイルスゲノムはエンドソームから核内に移動し、標的細胞の複製機構もまたウイルスの目的のために利用される(WC Russell, 2000, J General Virol, 81:2753-2604)。
アデノウイルスは、初期遺伝子(E1−E4)、中期遺伝子(IXおよびIVa2)および後期遺伝子(L1−L5)を有し、これらは連続的順序で転写される。初期遺伝子生成物は、宿主細胞の防御メカニズム、細胞周期および細胞代謝に影響を及ぼす。中期および後期遺伝子は、新ビリオン生成のためのウイルス構造タンパク質をコードする(Wu and Nemerow, 2004, Trends Microbiol, 12:162-168;WC Russell, 2000, J General Virol, 81:2573-2604;C Volpers and S Kochanek, 2004, J Gene Med, 6 Suppl 1, S164-71;NA Kootstra and IM Verma, 2003, Annu Rev Pharmacol Toxicol 43:413-439)。
【0005】
50を超える異なるアデノウイルス血清型がヒトで見出されている。血清型はA−Fの6つのサブグループに分類され、異なる血清型は異なる症状、すなわち呼吸器疾患、結膜炎および胃腸炎に関係することが判明している。アデノウイルス血清型5(Ad5)は呼吸器疾患を引き起こすことが知られ、前記は、遺伝子療法の分野で研究されているもっとも一般的な血清型である。最初のAd5ベクターでは、E1およびE3領域が欠失してベクターへの外来DNAの挿入を可能にした(Danthinne and Imperiale, 2000)。さらにまた、更なる変異とともに他の領域の欠失がウイルスベクターに特別な特性を提供した。実際、効率的な抗腫瘍作用の達成のためにアデノウイルスの種々の改変が提唱されてきた。
例えば、特許EP1377671B1(Cell Genesys, Inc.)および特許出願US2003/0104625A1(C Cheng et al)は、免疫療法タンパク質、顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)をコードする腫瘍溶解アデノウイルスベクターを記載している。さらに、出願公開EP1767642A1(Chengdu Kanghong Biotechnologies Co., Ltd.)は、ヒト免疫応答における影響が改善された腫瘍溶解アデノウイルスベクターを指摘している。
それでもなお、遺伝子療法における特異性の強化および十分な腫瘍殺滅能力とともにさらに効率的で正確な遺伝子の移転が担保されねばならない。治療用ベクターの安全性の記録もまた優れていなければならない。本発明は、新規で刷新的な態様でアデノウイルスの腫瘍溶解性および免疫治療性の両方の特性を利用することによって、これら前述の特性を有する癌治療ツールを提供する。
【発明の概要】
【0006】
発明の簡単な説明
本発明の目的は、アデノウイルスの上述の特性を達成し、したがって通常の癌治療の問題を解決する新規な方法および手段を提供することである。より具体的には、本発明は、遺伝子療法のための新規な方法および手段を提供する。
本出願は、組換えウイルスベクターの構築、前記ベクターに関する方法、並びに腫瘍細胞株、動物モデルおよび癌患者での前記ベクターの使用を開示する。
本発明は、アデノウイルス血清型5(Ad5)の核酸骨格、アデノウイルスE1のRb結合定常領域2の24bp欠失(D24)、およびアデノウイルスE3領域の欠失gp19k/6.7Kの代わりに顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)をコードする核酸配列を含む腫瘍溶解アデノウイルスベクターに関する。
本発明はさらに本発明のアデノウイルスベクターを含む細胞に関する。
本発明はまた本発明のアデノウイルスベクターを含む医薬組成物に関する。
本発明はまた、対象者で癌を治療する医薬の製造における本発明のアデノウイルスベクターの使用に関する。
本発明はまた対象者で癌を治療する方法に関し、前記方法は本発明のベクターまたは医薬組成物を対象者に投与する工程を含む。
さらにまた、本発明は細胞でGM-CSFを生成する方法に関し、前記方法は以下の工程を含む:
a)本発明の腫瘍溶解アデノウイルスベクターを含む担体(vehicle)を細胞にもたらす工程、 および
b)前記ベクターのGM-CSFを細胞内で発現させる工程。
さらにまた、本発明は対象者で腫瘍特異的免疫応答を高める方法に関し、前記方法は以下の工程を含む:
a)本発明の腫瘍溶解アデノウイルスベクターを含む担体を標的細胞または組織にもたらす工程、
b)前記ベクターのGM-CSFを細胞内で発現させる工程、および
c)前記標的細胞または組織で細胞傷害性T細胞および/またはナチュラルキラー細胞の量を増加させる工程。
【0007】
さらにまた、本発明は細胞でGM-CSFを生成するために本発明の腫瘍溶解アデノウイルスベクターを使用することに関する。
さらにまた、本発明は細胞でGM-CSFを生成する本発明の腫瘍溶解アデノウイルスベクターに関する。
さらにまた、本発明は対象者で腫瘍特異的免疫応答を高めるために本発明の腫瘍溶解アデノウイルスベクターを使用することに関する。
さらにまた、本発明は対象者で腫瘍特異的免疫応答を高める本発明の腫瘍溶解アデノウイルスベクターに関する。
本発明は、従来のアプローチに対して難治性の癌を治療するツールを提供する。さらにまた、他の多くの治療と比較して治療に適切な腫瘍タイプに関する制限も極めて少ない。実際のところ、本発明を用いて全ての固形腫瘍を治療することができる。より大きな腫瘍およびより複雑な腫瘍を本発明によって治癒させることができる。治療は、腫瘍内投与、空洞内投与、静脈内投与および前記の組合せを用いることができる。前記アプローチは、局所注射にもかかわらず全身的効能を与えることができる。前記アプローチはまた、腫瘍創始とみなされる細胞(癌幹細胞)を根絶することができる。
問題の位置にベクターを輸送することができるだけでなく、本発明のベクターはまたトランスジーンの発現および持続性を担保する。さらにまた、トランスジーンだけでなくベクターに対する免疫応答も最小限にできる。
【0008】
本発明は、通常の治療に対する治療抵抗性に関する問題を解決する。さらにまた、本発明は、健常組織に毒性または損傷を与えない選択的治療のためのツールおよび方法を提供する。本発明の利点にはまた他の療法と比較して緩和された異なる副作用が含まれる。重要なことには、本アプローチは、他の多くの治療形態(化学療法及び放射線療法を含む)と協調性を有し、したがって併用治療方針で用いることができる。
非武装ウイルスの複製を許容する細胞に対する免疫反応の誘発は、治療効果のある腫瘍免疫の発達をもたらすには通常十分に強力とはいえない。この弱点を克服するために、本発明は、強力な抗腫瘍免疫誘発物質で武装させたウイルスを提供する。本発明は癌療法を完成させ、この癌療法では、腫瘍細胞はビリオンにより引き起こされる腫瘍溶解によって破壊される。さらにまた、ヒト免疫応答を活性化する種々の別個のメカニズム(ナチュラルキラー細胞(NK)および樹状突起細胞(DC)を含む)も影響を受ける。
従来技術のアデノウイルスツールと比較して、本発明は、より簡単でより有効であり、安価で毒性のないおよび/またはより安全な癌療法用ツールを提供する。さらにまた、ヘルパーウイルスを必要としない。
本発明の新規な生成物は癌療法で更なる改善を可能にする。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1はpAd5-D24-GMCSFの模式図を示す。ウイルスはE1Aの定常領域2に24塩基対の欠失をもつ。E3のgp19kおよび6.7KはヒトGM-CSFのcDNAで置換されている。ADPはアデノウイルス致死タンパク質を指す。
【図2】図2は、GM-CSFを有するシャトルプラスミド(pTHSN)を作製するための第一のクローニング工程の模式図を示す。
【図3】図3は、E1領域の24塩基対欠失(前記は癌細胞での選択的複製を媒介する)とともに全てのアデノウイルス遺伝子を含むプラスミドを作製するための第二のクローニング工程の模式図を示す。
【図4】図4は、gp19kおよび6.7K(前記はGM-CSFで置き換えられている)を除く全てのアデノウイルス遺伝子を含むプラスミドを作製するための第三のクローニング工程の模式図を示す(pAd5D24.GM-CSF(配列番号:8)。Ad5-RGD-D24-GMCSF(配列番号:9)、Ad5/3-D24-GMCSF(配列番号:7)およびAd5-pK7-D24-GMCSF(配列番号:10)が同様に作製された。
【図5】図5a−dは、GMCSFの発現がウイルス複製および細胞殺滅効果を障害しないことを示す。図5aはMTSアッセイの結果を提示し、前記は新規に作製されたウイルスAd5-D24-GMCSFによる肺癌由来(A549)細胞の殺滅効率を示している。図5bはMTSアッセイの結果を提示し、前記はJIMT-1癌創始細胞(“癌幹細胞”)のAd5-D24-GMCSFによる殺滅を示している。図5cはMTSアッセイの結果を提示し、前記は新規に作製されたウイルスAd5-D24-GMCSFによる乳癌細胞(MDA-MB-436)の殺滅効率を示している。図5dはMTSアッセイの結果を提示し、前記は新規に作製されたウイルスAd5-D24-GMCSF、Ad5-RGD-D24-GMCSFおよびAd5/3-D24-GMCSFによるMDA-MB-436の殺滅効率を示している。
【図6】図6aはヒトGMCSFのアデノウイルス連結発現を示す。A549細胞株をAd5D24またはAd5D24-GMCSFに感染させ、時間経過とともに培養液を採集し、FACSARRAYによってGMCSFの発現について分析した。図6bは、アデノウイルス発現GMCSFはヒトリンパ球でその生物学的活性を保持することを示す。TF1細胞(生存維持にヒトGMCSFを必要とする)をヒト組換えGMCSF(大腸菌(E. coli)産生、Sigmaより購入)またはAd5-D24-GMCSF感染細胞上清の存在下で培養した。
【図7】図7aおよび7bは、Ad5を土台にしたウイルスの感染性を試験する、患者腫瘍の形質導入in vitro分析を示す。図7cは、腫瘍標本アーカイブでそのレセプターCAR(コクサッキー-アデノウイルスレセプター)を染色することによって、Ad5-D25-GMCSFによる腫瘍の形質導入の予測を示す。
【図8】図8aは、膵臓癌腫瘍をもつシリアンハムスター(ヒトアデノウイルス複製に許容的)でのAd5-D24-GMCSFのin vivo有効性を示す。Ad5D24およびAd5-D24-GMCSFの両方が、処置後16日以内に腫瘍を根絶した。1x109VPのウイルスを0、2および4日目に投与した。図8bは、Ad5-D24-GMCSFの腫瘍内注射はシリアンハムスターの血清中に高レベルのhGMCSFをもたらすことを示す。Ad5D24E3またはAd5-D24-GMCSFで処置した動物から4日目にサンプルを採取し、血清中のヒトGMCSF濃度をFACSARRAYによって判定した。図8cは、Ad5-D24-GMCSFによるHapT1腫瘍の治癒(ただしAd5D24では治癒しない)は、その後のHapT1による再チャレンジからシリアンハムスターを防御することを示す。これは、Ad5-D24-GMCSFは腫瘍特異的免疫応答を誘発できることを示している。以前にAd5D24またはAd5-D24-GMCSFで処置した動物(図8a)を同じ腫瘍で再チャレンジし、時間の経過とともに腫瘍の増殖を測定した。図8dは、Ad5-D24-GMCSFにより腫瘍特異的免疫応答が誘発され、Ad5-D24-GMCSFによるHapT1腫瘍の治癒はシリアンハムスターをHak腫瘍から防御しないことを示す。以前にAd5D24またはAd5-D24-GMCSFで処置したHapT1担癌動物(図8a)を異なる腫瘍で再チャレンジし、時間の経過とともに腫瘍増殖を測定した。
【図9】図9aは規則性シクロホスファミド経口投与と併用したAd5-D24-GMCSFの有効性を示す。処置の開始から71日後にCTスキャンによって88%の腫瘍退縮が観察された。図9bは、Ad5-D24-GMCSFで処置した卵巣癌患者におけるAd5D24-GMCSFによる処置の有効性を示す。CTスキャンによって、矢印で示したように全ての測定可能な腫瘍の完全な消失が示された。
【図10】図10a−dは、Ad5-D24-GMCSFが腫瘍エピトープおよびアデノウイルス(腫瘍細胞に存在する)の両方に対してT細胞応答を誘引することを示す。Ad5-D24-GMCSFで処置した患者から採取したT細胞を、アデノウイルス5由来ペプチド混合物および腫瘍抗原サービビン由来ペプチド混合物による刺激時にIFN-ガンマELISPOTによって分析した。
【図11】図11はアデノウイルスヘキソン特異的T細胞の誘発を示す。Ad5-D24-GMCSFで処置した患者から採取した白血球をCD3、CD8およびヘキソン特異的テトラマー抗体で染色し、処置の前後にフローサイトメトリーによって分析した。処置によってヘキソン特異的細胞傷害性T細胞が0.21%から2.72%に増加した。
【図12】図12は患者R73における循環T調節性細胞の減少を示す。CD4陽性、CD127陰性であるがFoxp3が高いPBMCは、有効なT調節性細胞と考えられる。
【図13】図13a−iは、GM-CSFを有するシャトルプラスミド(pTHSN)を作製するため、E1領域の24塩基対欠失(前記は癌細胞での選択的複製を媒介する)とともに全てのアデノウイルス遺伝子を含むプラスミドを作製するため、並びにgp19kおよび6.7K(前記はGM-CSFで置き換えられている)を除く全てのアデノウイルス遺伝子を含むAd5/3-D24-GMCSFプラスミド(pAd5D24.GM-CSF)を作製するためのクローニング工程の模式図を示す。
【図14】図14はAd5/3-D24-GMCSFのヌクレオチド配列を示す。太字領域はD24欠失E1A領域(ヌクレオチド563−1694)を示す。下線部領域はGMCSF(ヌクレオチド28380−28814)を示す。斜字体領域はAd3ノブ領域(ヌクレオチド3170−32272)を示す。この図の配列は配列番号:7の配列に一致する。
【図15】図15は、Ad5/3-D24-GMCSF処置患者の生存プロットを示す。
【発明を実施するための形態】
【0010】
発明の詳細な説明
アデノウイルスベクター:
Ad5では(他のアデノウイルスと同様に)、正二十面体キャプシドは、3つの主要なタンパク質(ヘキソン(II)、ペプトン土台(III)およびノブを有する線維(IV))とともにマイナータンパク質(VI、VIII、IX、IIIaおよびIva2)から成る(WC Russell, J General Virol, 2000, 81:2573-2604)。タンパク質VII、小ペプチドmu、および末端タンパク質(TP)がDNAと結合している。タンパク質Vは、タンパク質VIを介してキャプシドに構造的連結を提供する。ウイルスによってコードされるプロテアーゼが、いくつかの構造タンパク質のプロセッシングのために必要である。
本発明の腫瘍溶解アデノウイルスベクターは、アデノウイルス血清型5(Ad5)核酸骨格、アデノウイルスE1のRb結合定常領域2(CR2)の24bp欠失(D24)、およびアデノウイルスE3領域の欠失gp19k/6.7Kの代わりに顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)をコードする核酸配列を土台にしている。本発明の好ましい実施態様では、アデノウイルスベクターはヒトアデノウイルスを土台にする。
Ad5ゲノムは、初期遺伝子(E1−4)、中期遺伝子(IXおよびIva2)および逆向きの左右末端リピート(それぞれLITRおよびRITR)によってフランキングされた後期遺伝子(L1−5)(前記はDNA複製に必要な配列を含む)を含んでいる。前記ゲノムはまた、パッケージシグナル(Ψ)および主要後期プロモーター(MLP)を含む。
【0011】
初期遺伝子E1Aの転写は複製周期を開始させ、E1B、E2A、E3およびE4の発現が続く。E1タンパク質は、細胞がウイルス複製に対してより感受性になるように細胞代謝を調節する。例えば、それらタンパク質はNF-κB、p53およびpRbタンパク質に干渉する。E1AおよびE1Bは一緒に機能してアポトーシスを抑制する。E2(E2AおよびE2B)およびE4遺伝子生成物はDNA複製を媒介し、さらにE4生成物はまたウイルスRNA代謝を実行し宿主タンパク質合成を妨げる。E3遺伝子生成物は、宿主免疫系に対する防御、細胞溶解の強化およびウイルス子孫の放出をもたらす(WC Russell, J General Virol, 2000, 81:2573-2604)。
中期遺伝子IXおよびIva2はウイルスキャプシドのマイナータンパク質をコードする。後期遺伝子L1−5の発現(ウイルス構造成分の生成、キャプシド被包化および核内でのウイルス粒子の成熟をもたらす)はMLPの影響を受ける(WC Russell, J General Virol, 2000, 81:2573-2604)。
【0012】
野生型アデノウイルスゲノムと比較して、本発明のアデノウイルスベクターは、E1領域、具体的にはE1A領域のCR2から24塩基対、およびE3領域からgp19および6.7Kを欠く。本発明の好ましい実施態様では、部分領域E1およびE3に加えて、本発明の腫瘍溶解アデノウイルスベクターはさらに、E2、E4および後期領域から成る群から選択される1つまたは2つ以上の領域を含む。本発明の好ましい実施態様では、腫瘍溶解アデノウイルスベクターは以下の領域を含む:左ITR、部分的E1、pIX、pIVa2、E2、VA1、VA2、L1、L2、L3、L4、部分的E3、L5、E4および右ITR。前記領域はベクター内で任意の順序で存在できるが、本発明の好ましい実施態様では、前記領域は5'から3'方向に連続的順序で存在する。オープンリーディングフレーム(ORF)は、同じDNA鎖または別個のDNA鎖に存在しえる。本発明の好ましい実施態様では、E1領域はウイルスパッケージシグナルを含む。
本明細書で用いられるように、“アデノウイルス血清型5(Ad5)核酸骨格”という表現はAd5のゲノムまたは部分的ゲノムを指し、前記は、Ad5起源の部分的E1、pIX、pIVa2、E2、VA1、VA2、L1、L2、L3、L4、部分的E3、L5、E4から成る群から選択される1つまたはいくつかの領域を含む。本発明のある好ましいベクターはAd5の核酸骨格を含む。別の好ましいベクターでは、アデノウイルス核酸骨格は大半がAd5に由来し、Ad3の一部分(例えばキャプシド構造の一部分)と結合される。
【0013】
本明細書で用いられるように、“部分的”領域という表現は、対応する野生型領域と比較して任意の部分を欠く領域を指す。“部分的E1”はD24を有するE1領域を指し、“部分的E3”はgp19k/6.7Kを欠くE3領域を指す。
本明細書で用いられるように、“VA1”および“VA2”という表現は、ウイルス結合RNA1および2を指し、前記はアデノウイルスによって転写されるが翻訳されない。VA1およびVA2は細胞の防御メカニズムと戦う役割を有する。
本明細書で用いられるように、“ウイルスパッケージシグナル”という表現はウイルスDNAの部分を指し、前記はATに富む一連の配列から成り、キャプシド被包化プロセスを支配する。
E1の24塩基対欠失(D24)はCR2ドメインに影響を与え、前記はRb腫瘍サプレッサー/細胞周期調節タンパク質の結合をもたらし、したがって合成期(すなわちDNA合成または複製期)の誘発を可能にする。pRbおよびE1A相互作用は、E1Aタンパク質の保存領域の121から127の8アミノ酸を必要とし(C Heise et al. 2000, Nature Med, 6:1134-1139)、前記は本発明では欠失している。本発明のベクターは、Heiseら(C Heise et al. 2000, Nature Med, 6:1134-1139)のベクターのアミノ酸122から129に対応するヌクレオチドの欠失を含む。D24を有するウイルスは、G1−Sチェックポイントを克服する能力が低下し、この相互作用が不要な細胞(例えばRb-p16経路に欠損がある腫瘍細胞)でのみ効率的に複製することが知られている(C Heise et al. 2000, Nature Med, 6:1134-1139;J Fueyo et al. Oncogene, 2000, 19:2-12)。
【0014】
E3領域はin vitroのウイルス複製には必須ではないが、E3タンパク質は、宿主の免疫応答の調節、すなわち先天的および特異的免疫応答の両方の抑制に重要な役割を有する。E3のgp19k/6.7K欠失はアデノウイルスE3A領域の965塩基対の欠失を指す。得られたアデノウイルス構築物では、gp19kおよび6.7K遺伝子の両方が欠失する(A Kanerva et al. Gene Therapy, 2005, 12:87-94)。gp19k遺伝子生成物は、小胞体中の主要組織適合複合体I(MHC1)分子と結合してこれを隔離し、細胞傷害性Tリンパ球による感染細胞の認識を妨げることが知られている。多くの腫瘍はMHC1を欠いているので、gp19kの欠失はウイルスの腫瘍選択性を高める(ウイルスは野生型ウイルスよりも迅速に正常細胞から除去されるが、腫瘍細胞では相違がない)。6.7Kタンパク質は細胞表面で発現され、それらは、TNF関連アポトーシス誘発リガンド(TRAIL)レセプター2のダウンレギュレーションに関与する。
本発明では、GM-CSFトランスジーンは、E3プロモーター下のgp19k/6.7K欠失E3領域に配置される。これによってトランスジーンの発現は、ウイルスの複製およびそれに続くE3プロモーターの活性化を許容する腫瘍細胞に限定される。E3プロモーターは、当分野で公知の任意の外因性プロモーターおよび内因性プロモーターでもよい(好ましくは内因性プロモーターである)。本発明の好ましい実施態様では、GM-CSFをコードする核酸配列はウイルスE3プロモーターの制御下にある。
【0015】
GM-CSFは、種々のメカニズム(ナチュラルキラー(NK)細胞の動員および抗原提示細胞(APC)の刺激を含む)を介して作用することによって免疫応答に関与する。続いてAPCはT細胞を動員し活性化し腫瘍に向かわせる。GM-CSFをコードするヌクレオチド配列は任意の動物(例えばヒト、サル、ラット、マウス、ハムスター、イヌまたはネコ)に由来しえるが、好ましくはGM-CSFはヒトの配列によってコードされる。GM-CSFをコードするヌクレオチド配列は、GM-CSFの作用を改善するために改変してもよいが、改変しなくてもよい(すなわち野生型)。本発明の好ましい実施態様では、GM-CSFをコードする核酸配列は野生型である。
本発明のベクターはまた、上記に述べたCR2およびE3の部分的欠失並びにGM-CSF配列の挿入以外の他の改変を含むことができる。本発明の好ましい実施態様では、Ad5ベクターの他の領域はいずれも野生型である。本発明の別の好ましい実施態様では、E4領域は野生型である。本発明の好ましい実施態様では、野生型領域はE1領域の上流に位置する。“上流”とは発現方向でE1領域の直前を指す。E1B領域はまた本発明のベクターで改変されてもよい。
外因性エレメントの挿入は標的細胞におけるベクターの作用を強化することができる。外因性組織特異的または腫瘍特異的プロモーターの使用は組換えアデノウイルスベクターでは一般的であり、本発明ではまたそれらを利用することができる。例えば、ウイルスの複製は、例えばプロモーターによって標的細胞に限定することができる。前記プロモーターにはCEA、SLP、Cox-2、ミドカイン、hTERT、hTERTの変種、E2F、E2Fの変種、CXCR4、SCCA2およびTTSが含まれるが、ただしこれらに限定されない。それらは通常E1A領域を制御するために付加されるが、前記に加えてまたは前記とは別に他の遺伝子(例えばE1BまたはE4)もまた調節できる。外因性隔離物質(すなわち非特異的エンハンサーに対する遮断物質)、左ITR、天然のE1Aプロモーターまたはクロマチンタンパク質もまた組換えアデノウイルスベクターに含ませることができる。任意の追加成分または改変を場合によって用いることができるが、本発明のベクターでは必須というわけではない。
【0016】
ほとんどの成人はもっとも広範囲に用いられているアデノウイルス血清型Ad5に暴露されているので、したがって免疫系はそれらに対して迅速に中和抗体(Nab)生成することができる。実際、抗Ad5 NAbの広がりは50%に達しえる。NAbはアデノウイルスキャプシドの多数の免疫原性タンパク質の大半に対して誘発されえることが示されたが、他方でAd5の線維ノブにおける小さな変化でもキャプシド特異的NAbから逃れることが可能であることが示された。したがって、ノブの改変は、ヒトでのアデノウイルスの使用を介して遺伝子デリバリーを維持または増強させるために重要である。
さらにまた、Ad5は、線維のノブ部分を介してCARと称されるレセプターと結合し、このノブ部分または線維の改変は標的細胞への進入を改善しいくつかの癌では腫瘍溶解の強化を引き起こすことが知られている(T. Ranki et al. Int J Cancer, 2007, 121:165-174)。実際、キャプシド改変アデノウイルスは、癌細胞への遺伝子デリバリーの改善のために有益なツールである。
【0017】
本発明のある実施態様では、腫瘍溶解アデノウイルスベクターはキャプシドの改変を含む。本明細書で用いられる“キャプシド”はウイルスのタンパク質の殻を指し、前記はヘキソン、線維およびペントン土台タンパク質を含む。いずれのキャプシド改変も、すなわち当分野で公知のヘキソン、線維および/またはペントン土台タンパク質の改変(前記は腫瘍細胞へのウイルスのデリバリーを改善する)も本発明で利用することができる。改変は遺伝的改変でも物理的改変でもよく、前記改変には、リガンドの取り入れのための改変(リガンドは特異的な細胞レセプターを認識しおよび/または天然のレセプター結合を遮断する)、あるアデノウイルスベクターの線維またはノブドメインの他のアデノウイルスのノブによる置換(キメラ状態(chimerism))のための改変、および特異的な分子(例えばFGF2)を付加するための改変が含まれるが、ただしこれらに限定されない。したがって、キャプシド改変には、小ペプチドモチーフ、ペプチド、キメラ状態または変異線維(例えばノブ、テールまたはシャフト部分)、ヘキソンおよび/またはペントン土台への取り入れが含まれるが、ただしこれらに限定されない。本発明の好ましい実施態様では、キャプシド改変は、Ad5/3キメラ状態、インテグリン結合(RGD)領域および/または硫酸ヘパリン結合ポリリジン改変の線維への挿入である。本発明の具体的な実施態様では、キャプシド改変はAd5/3キメラ状態である。
本明細書で用いられるように、キャプシドの“Ad5/3キメラ状態”は、線維のノブ部分がAd血清型3に由来し線維の残りがAd血清型5に由来するキメラ状態である。
【0018】
本明細書で用いられるように、“RGD領域”はアルギニン-グリシン-アスパラギン酸(RGD)モチーフを指し、前記はペプトン土台上に露出し、アデノウイルスの内在化を支援する細胞avインテグリンと相互作用する。本発明の好ましい実施態様では、キャプシド改変はRGD-4C改変である。“RGD-4C改変”は、線維ノブドメインのHIループへのRGD-4Cモチーフの挿入を指す。4Cは4つのシステインを指し、前記はRGD-4Cで硫黄の架橋を形成する。RGD-4Cペプチドを含む線維をコードする組換えAd5線維遺伝子の構築は、例えばDmitrievらの論文(I Dmitriev et al. 1998, J Virol, 72:9706-9713)に詳細に記載されている。
本明細書で用いられるように、“硫酸ヘパリン結合ポリリジン改変”は、線維ノブのc-末端への7リジン鎖の付加を指す。
ベクターを利用することによって標的(例えば細胞)でトランスジーンを発現させるために発現カセットが用いられる。本明細書で用いられるように、“発現カセット”という表現は、cDNAまたは遺伝子をコードするDNAベクターまたはヌクレオチド配列を含むその部分、および前記cDNAまたは遺伝子の発現を制御および/または調節するヌクレオチド配列を指す。類似のまたは異なる発現カセットを1つのベクターにまたはいくつかの異なるベクターに挿入することができる。本発明のAd5ベクターはいくつかの発現カセットまたは1つの発現カセットを含むことができる。しかしながら、ただ1つの発現カセットが適切である。本発明の好ましい実施態様では、腫瘍溶解アデノウイルスベクターは少なくとも1つの発現カセットを含む。本発明の好ましい実施態様では、腫瘍溶解アデノウイルスベクターはただ1つの発現カセットを含む。
【0019】
本発明のアデノウイルスベクターを含む細胞は、任意の細胞、例えば真核細胞、細菌細胞、動物細胞、ヒト細胞、マウス細胞などである。細胞は、in vitro細胞、ex vivo細胞またはin vivo細胞でもよい。例えば、細胞はアデノウイルスベクターをin vitro、ex vivoまたはin vivoで生成するために用いることができる。または細胞は標的(例えば腫瘍細胞)でもよく、アデノウイルスベクターが前記に感染している。
細胞でGM-CSFを生成する方法では、本発明のベクターを含む担体が細胞にもたらされ、さらにGM-CSF遺伝子が発現され、タンパク質が翻訳され、パラクリン的態様で分泌される。“担体”は、任意のウイルスベクター、プラスミドまたは他のツール、例えば粒子(前記は本発明のベクターを標的細胞にデリバ−することができる)でもよい。当分野で公知の任意の一般的方法を用いてベクターを細胞にデリバ−することができる。
本発明によって腫瘍特異的免疫応答を対象者で高めることができる。GM-CSF発現の結果として、細胞傷害性T細胞および/またはナチュラルキラー細胞を刺激し、生成し、標的に向かわせることができる。本発明の好ましい実施態様では、ナチュラルキラーおよび/または細胞傷害性T細胞の量が標的細胞または組織で増加する。本発明の効果を追跡または調査するために、免疫応答の種々のマーカー(例えば炎症マーカー)を測定することができる。もっとも一般的なマーカーには、前炎症性サイトカインの増加、腫瘍またはアデノウイルス特異的細胞傷害性T細胞、抗原提示細胞の動員および活性化、または局所リンパ節のサイズの増加が含まれるが、ただしこれらに限定されない。これらのマーカーのレベルは当分野で一般的な任意の方法にしたがって調べることができる。これらの方法には、抗体、プローブ、プライマーなどを利用する方法(例えばELISPOTアッセイ、テトラマー分析、ペンタマー分析、および血中または腫瘍内の種々の細胞タイプの分析)が含まれるが、ただしこれらに限定されない。
【0020】
癌:
本発明の組換えAd5ベクターは、細胞(Rb経路(具体的にはRb-p16経路)に欠損を有する)での複製能力のために構築された。これらの欠損細胞には動物およびヒトの全ての腫瘍細胞が含まれる(CJ Sherr 1996, Science 274:1672-1677)。本発明の好ましい実施態様では、ベクターはRb経路に欠損を有する細胞で選択的に複製することができる。本明細書で用いられる“Rb経路の欠損”は、経路の任意の遺伝子またはタンパク質における変異および/または後成的変化を指す。これらの欠損のために、腫瘍細胞はE2Fを過剰発現し、したがって効率的な複製のために通常要求されるE1A CR2によるRbの結合が不要である。
任意の癌または腫瘍(悪性および良性腫瘍とともに原発腫瘍および転移を含む)が遺伝子療法の標的となりえる。本発明の具体的な実施態様では、癌は任意の固形腫瘍である。本発明の好ましい実施態様では、癌は以下から成る群から選択される:鼻咽頭癌、滑膜癌、肝細胞癌、腎癌、結合組織の癌、メラノーマ、肺癌、腸癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、脳の癌、咽喉癌、口内癌、肝癌、骨の癌、膵臓癌、絨毛癌、ガストリノーマ、クロム親和性細胞腫、プロラクチノーマ、T細胞白血病/リンパ腫、神経腫、フォン・ヒッペル-リンダウ病、ゾリンジャー-エリソン症候群、副腎癌、肛門癌、胆管癌、膀胱癌、尿管癌、脳の癌、稀突起神経膠腫、神経芽細胞腫、髄膜腫、脊髄腫瘍、骨の癌、骨軟骨腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、未知の原発癌、類癌、胃腸管の類癌、線維肉腫、胸部癌、パジェット病、子宮頸癌、結腸直腸癌、直腸癌、食道癌、胆嚢癌、頭部の癌、眼の癌、首の癌、腎臓癌、ウィルムス腫瘍、肝臓癌、カポジ肉腫、前立腺癌、肺癌、精巣癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、口内癌、皮膚癌、中皮腫、多発性メラノーマ、卵巣癌、内分泌系膵臓癌、グルカゴノーマ、膵臓癌、上皮小体癌、陰茎癌、下垂体癌、軟組織肉腫、網膜芽細胞腫、小腸癌、胃癌、胸腺癌、甲状腺癌、栄養膜の癌、胞状奇胎、子宮癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰部癌、聴覚神経腫、菌状息肉腫、インスリノーマ、類癌症候群、ソマトスタチノーマ、歯肉癌、心臓の癌、口唇癌、髄膜癌、口の癌、神経の癌、口蓋癌、耳下腺癌、腹膜癌、咽頭癌、胸膜癌、唾液腺癌、舌癌、扁桃癌。
【0021】
医薬組成物:
本発明の医薬組成物は少なくとも1つのタイプの本発明のベクターを含む。さらにまた、組成物は少なくとも2つ、3つまたは4つの本発明の異なるベクターを含むことができる。本発明のベクターに加えて、医薬組成物は、また任意の他のベクター、例えば他のアデノウイルスベクター、他の治療に有効な薬剤、任意の他の薬剤、例えば医薬的に許容できる担体、緩衝剤、賦形剤、アジュバント、防腐剤、充填剤、安定化剤または膨張剤、および/または対応する製品で通常的に見出される任意の成分を含むことができる。
医薬組成物は投与に適した任意の形態、例えば固体、半固体、または液体形態でありえる。処方は、溶液、乳液、懸濁液、錠剤、ペレットおよびカプセル(ただし前記に限定されない)から成る群から選択できる。
本発明の好ましい実施態様では、腫瘍溶解アデノウイルスベクターまたは医薬組成物はin situ癌ワクチンとして機能する。本明細書で用いられる“in situ癌ワクチン”は、腫瘍細胞を殺滅しさらにまた腫瘍細胞に対する免疫応答を高める癌ワクチンを指す。ウイルスの複製は免疫系に対する極めて危険な信号であり(=TH1型応答に必要)、したがってAPCのGM-CSF媒介成熟および活性化並びにNK細胞の動員に対する強力な相乗刺激現象として機能する。腫瘍細胞溶解はまた腫瘍フラグメントおよびエピトープのAPCへの提示に役立ち、さらにまた相乗刺激は炎症によって引き起こされる。したがってエピトープ非依存性(すなわちHLA拘束性ではない)応答が、それぞれの腫瘍に対応して引き起こされ、したがってin situで生じる。腫瘍特異的免疫応答は、標的細胞とともに周辺細胞(例えば標的組織)で活性化される。
ベクターの有効用量は少なくとも、治療を要する対象者、腫瘍のタイプ、腫瘍の場所、腫瘍の時期により左右される。用量は、例えば約10e8ウイルス粒子(VP)から約10e14 VP、好ましくは約5x10e9 VPから約10e13 VP、より好ましくは約8x10e9 VPから約10e12 VPで変動しえる。本発明のある具体的な実施態様では、用量は約5x10e10−5x10e11 VPの範囲である。
医薬組成物は、当分野で公知の一般的な任意のプロセスによって製造することができる。例えば以下のいずれかのプロセスを用いることができる:バッチ、材料供給式バッチおよび灌流培養態様、カラムクロマトグラフィー精製、CsClグラディエント精製および低剪断力細胞保持装置(low-shear cell retention device)による灌流態様。
【0022】
投与:
本発明のベクターまたは医薬組成物は、植物、動物およびヒトから成る群から選択される任意の真核細胞性対象生物に投与することができる。本発明の好ましい実施態様では、対象生物はヒトまたは動物である。動物はペット、家畜及び生産性動物から成る群から選択できる。
通常的ないずれの方法もベクターまたは組成物の対象者への投与に用いることができる。投与経路は、組成物の処方または形態、疾患、腫瘍の場所、共存症および他の因子に左右される。本発明の好ましい実施態様では、投与は、腫瘍内、筋肉内、動脈内、静脈内、胸膜内、嚢内、空洞内もしくは腹腔内注射、または経口投与により実施される。
本発明の腫瘍溶解アデノウイルスベクターのただ1回の投与が治療効果を有することがありえる。しかしながら、本発明の好ましい実施態様では、腫瘍溶解アデノウイルスベクターまたは医薬組成物は治療期間中に数回投与される。腫瘍溶解アデノウイルスベクターまたは医薬組成物は、最初の2週間、4週間、毎月、または治療期間中に、例えば1回から10回投与することができる。本発明のある実施態様では、投与は、最初の2週間に3から7回、続いて4週間さらに続いて毎月同様に実施される。本発明の具体的な実施態様では、投与は最初の2週間に4回、続いて4週間さらに続いて毎月同様に実施される。治療期間の長さは変動し、例えば2から12カ月またはそれより長く継続させることができる。
対象者で中和抗体を回避するために、本発明のベクターを治療間で変更することができる。本発明の好ましい実施態様では、より早い時期の治療のベクターと比較して異なるキャプシド線維ノブを有する腫瘍溶解アデノウイルスベクターが対象者に投与される。本明細書で用いられる“キャプシド線維ノブ”は、線維タンパク質のノブ部分を指す(図1)。
本発明の遺伝子療法は単独で有効であるが、他の任意の治療方法(例えば伝統的な治療方法)とアデノウイルス遺伝子療法との併用は、いずれか一方のみよりも有効でありえる。例えば、併用療法の各薬剤は腫瘍組織で独立して作用することができ、アデノウイルスベクターは化学療法または放射線療法に対して細胞を感受性にすることができ、および/または化学療法薬剤は、ウイルス複製レベルを強化するか、または標的細胞のレセプターの状態を有効にすることができる。併用療法の薬剤は同時にまたは連続して投与することができる。
【0023】
本発明の好ましい実施態様では、前記方法または使用はさらに併存放射線療法の対象者への実施を含む。本発明のまた別の好ましい実施態様では、前記方法または使用はさらに、併存化学療法の対象者への実施を含む。本明細書で用いられる“併存”は、本発明の遺伝子療法の前、後または同時に実施される治療方法を指す。併存療法のための期間は数分から数週間の間で変動しえる。好ましくは、併存療法は数時間持続する。
併用療法に適した薬剤には、全トランスレチン酸、アザシチジン、アザチオプリン、ブレオマイシン、カルボプラチン、カペシタビン、シスプラチン、クロラムブシル、シクロホスファミド、シタラビン、ダウノルビシン、ドセタキセル、ドキシフルリジン、ドキソルビシン、エピルビシン、エポシロン、エトポシド、フルオロウラシル、ジェムシタビン、ヒドロキシウレア、イダルビシン、イマチニブ、メクロレタミン、メルカプトプリン、メトトレキセート、ミトキサントロン、オキザリプラチン、パクリタキセル、ペメトレキセド、テモゾロミド、テニポシド、チオグアニン、バルルビシン、ビンブラスチン、ビンクリスチン、ビンデシンおよびベノレルビンが含まれるが、ただしこれらに限定されない。
本発明の好ましい実施態様では、前記方法または使用はさらにベラパミルまたは別のカルシウムチャネル遮断剤の対象者への投与を含む。“カルシウムチャネル遮断剤”は、カルシウムチャネルの伝導性を破壊する薬品類及び天然の物質を指し、前記はベラパミル、ジヒドロピリジン、ガロパミル、ジルチアゼム、ミベフラジル、ベプリジル、フルスピリレンおよびフェンジリンから成る群から選択できる。
【0024】
本発明の好ましい実施態様では、前記方法または使用はさらに、自家融解誘発薬剤の対象者への投与を含む。自家融解は、リソソーム機構による細胞自体の成分の分解を含む異化作用プロセスを指す。“自家融解誘発薬剤”は自家融解を誘発することができる薬剤を指し、mTOR阻害剤、PI3K阻害剤、リチウム、タモキシフェン、クロロキン、バフィロマイシン、テムシロリムス、シロリムスおよびテモゾロミド(ただしこれらに限定されない)から成る群から選択できる。本発明の具体的な実施態様では、前記方法はさらに、対象者へのテモゾロミドの投与を含む。テロゾロミドは経口用テロゾロミドでもまたは静脈用テロゾロミドでもよい。
本発明のある実施態様では、前記方法または使用はさらに、化学療法または抗CD20療法または中和抗体遮断のための他のアプローチの実施を含む。“抗CD20療法”は、CD20陽性細胞を死滅させることができる薬剤を指し、前記薬剤はリツキシマブおよび他の抗CD20モノクローナル抗体から成る群から選択することができる。“中和抗体遮断のためのアプローチ”は、感染により通常生じる抗ウイルス抗体の生成を阻害することができる薬剤を指し、種々の化学療法剤、免疫調節物質、コルチコイドおよび他の薬剤から成る群から選択することができる。これらの物質は、シクロホスファミド、シクロスポリン、アザチオプリン、メチルプレニソロン、エトプシド、CD40L、CTLA4lg4、FK506(タクロリスムス)、IL-12、IFN-ガンマ、インターロイキン10、抗CD8、抗CD4抗体、脊髄離解および経口アデノウイルスタンパク質(ただしこれらに限定されない)から成る群から選択することができる。
【0025】
本発明の腫瘍溶解アデノウイルスベクターは、腫瘍細胞のビリオン媒介腫瘍溶解を誘発し、腫瘍細胞に対するヒト免疫応答を活性化する。本発明の好ましい実施態様では、前記方法または使用はさらに、対象者で調節性T細胞をダウンレギュレートすることができる物質の投与を含む。“調節性T細胞をダウンレギュレートすることができる物質”は、T-サプレッサーまたは調節性T細胞と確認される細胞の量を減少させる物質を指す。これらの細胞は、以下の免疫表現型のマーカーの1つまたは多くを含むことが確認された:CD4+、CD25+、FoxP3+、CD127-およびGITR+。T-サプレッサーまたは調節性T細胞を減少させる物質は、抗CD25抗体または化学療法剤から成る群から選択することができる。
本発明の好ましい実施態様では、前記方法または使用はさらにシクロホスファミドの対象者への投与を含む。シクロホスファミドは一般的な化学療法剤であり、前記はまたいくつかの自己免疫疾患で用いられている。本発明では、シクロホスファミドは、ウイルス複製の強化のために、さらに腫瘍に対する免疫応答を強化させるNK細胞および細胞傷害性T細胞のGM-CSF誘発刺激作用の強化のために用いることができる。前記は、静脈内ボーラス投与として、または低用量の経口規則性投与として用いることができる。
本発明のいずれの方法または使用も、in vivo、ex vivoまたはin vitroでの方法または使用でありえる。
本発明を以下の実施例によって例示する。これら実施例はいずれの態様においても制限を意図するものではない。
【実施例1】
【0026】
実施例1:3つのD24-GM-CSF型ウイルスのクローニング
−PCRによるhGM-CSFの増幅
−Sun/MunI部位の作出=>445bp(鋳型としてpORF-GM-CSF)
−PCR生成物およびpTHSNのSun/MunI消化
−粘着末端連結=>
−Pmel線状化pShuttle-D24+pTG3602=>pAd5-D24
−Ad5-D24-GM-CSF(配列番号:8、ヌクレオチド563位−1524位にD24欠失を有するE1Aおよびヌクレオチド30490位−32236位に線維領域)
相同組換え:SrfI線状化pAd5-D24+FspI線状化pTHSN-GM-CSF
=>pAd5-D24-GM-CSF
PacI線状化およびトランスフェクション=>Ad5-D24-GM-CSF
クローニングの全局面をPCRおよび多段制限消化により確認した。シャトルプラスミドpTHSN-GMCSFの配列を決定した。野生型E1が存在しないことはPCRにより確認した。E1領域、トランスジーンおよび線維は最終ウイルスの配列決定およびPCRによりチェックし、続いてこれらを製造のために無菌室に持ち込んだ。この目的のために、適切な緩衝溶液による一晩(ON)インキュベーションによりウイルスDNAを抽出し、さらにPCRの後で配列決定を実施し線維とともにGMCSF cDNAの完全性を分析した。ウイルス製造の全工程(トランスフェクションを含む)をA549細胞で実施し、以前に記載されたように野生型の組換えを避けた(A Kanerva et al. 2003, Mol Ther, 8:449-58;GJ Baeurschmitz et al. 2006, Mol Ther 14:164-74)。GM-CSFはE3プロモーター下(具体的には内因性ウイルスE3A遺伝子発現制御エレメント下)にある(これによって複製と密接に連動したトランスジーンの発現(感染後約8時間で開始)が得られる)。E3は6.7K/gp19Kの欠失を除いて完全である。
Ad5/3-D24-GM-CSF(配列番号:7)およびAd5-RGD-D24-GM-CSF(配列番号:9、ヌクレオチド580位−1541位にD24欠失を有するE1A領域、ヌクレオチド30514位−32286位に線維領域およびヌクレオチド32128位−32183位にRGD改変)を同一の態様で構築したが、ただし血清型3由来のノブまたはAd5線維HIループ中のRGD-4Cのどちらかの特色を有するレスキュープラスミドを用いたことを除く。Ad5-pK7-D24-GMCSF(配列番号:10、ヌクレオチド561位−1526位にD24欠失を有するE1A、ヌクレオチド30499位−32255位に線維領域およびヌクレオチド32247位−32378位にpK7改変)もまた同様に作製した(図2−4)。
Ad5/3-D24-GMCSFを以下のように構築した。Ad5/3luc1およびpAdEasy-1のBstXI消化8.9kbフラグメントの大腸菌(E. coli)での相同組換えによってキメラ5/3線維を含むpAdEasy-1由来プラスミド(pAdEasy5/3)を作製した。次に、E1Aに24bp欠失を含むシャトルベクター(pShuttle-D24)をPmeIで線状化しpAdEasy5/3と組み換えてpAd5/3-D24を得た。ヒトGMCSF遺伝子をE3領域に挿入するために、Ad5ゲノム由来のSpeIからNdeIのフラグメントをpGEM5Zf+(Promega, Madison, WI)のマルチクローニング部位に挿入することによってE3クローニングベクターを作製した。さらにpTHSNをSunI/MunIで消化しE3領域に965bp欠失(6.7Kおよびgp19Kが欠失)を作出した。ヒトGMCSFをコードする432bpのcDNA(Invitrogen, Carlsbad, CA)を、前記遺伝子にフランキングする特異的制限部位SunI/MunIを特色とするプライマーを用いて増幅し、続いてSunI/MunI消化pTHSNに挿入した(pTHSN-GMCSF)。大腸菌でFspI線状化pTHSN-GMCSFとSrfI線状化pAd5/3-D24を相同組換えしてpAd5/3-D24-GMCSFを作製した。FspI線状化pTHSN-GMCSFおよびSrfI線状化pAd5/3-D24、Ad5.3-D24-GMCSFウイルスゲノムは、PacI消化および増幅とレスキューのためにA549細胞にトランスフェクトすることにより放出させた(図13および14、配列番号:7)。
【実施例2】
【0027】
実施例2:D24-GM-CSF型ウイルスのin vitro解析
D24-GM-CSF型ウイルスのin vitro有効性を、MTS細胞殺滅アッセイを利用することにより肺癌細胞(A549)、乳癌幹細胞由来エクスプラント細胞(JIMT-1)および乳癌細胞(MDA-MB-436)で調べた。MTSアッセイは、癌遺伝子療法の細胞生存率を判定するために公表文献ではこれまでのところ標準的な方法である。Ad5Luc1は複製欠損ウイルスであり、陰性コントロールとして機能する。Ad5wtは野生型Ad5ウイルスであり(Ad300wt株)、陽性コントロールとして用いられる。Ad5-d24-E3は同遺伝子系の24bp欠失をE1に有するが、E3は無傷である。VPはウイルス粒子を指す。
要約すれば、Ad5-D24-GMCSFは陽性コントロールと類似する腫瘍溶解活性をin vitroで有し、したがってトランスジーン生成はウイルスの腫瘍溶解能力を損なわない(図5a−c)。同様なデータがAd5/3-D24-GM-CSFおよびAd5-RGD-D24-GM-CSFについても示された(図5d)。
Ad5D24-GMCSFがトランスジーンを発現することができるか否かを試験するために、A549細胞株に1000VP/細胞を感染させ、時間の経過にしたがって培養液を収集した。培養液中のGMCSFの濃度をFACSARRAY(BD Biosciences, San Diego, CA USA)によって製造業者の指示に従い測定した(図6a)。前記の測定に加えて、我々はまた、ウイルス発現GMCSFがその生物学的活性を保持しているか否かを分析した。この目的のために、Ad5D24-GMCSFを以前に感染させたA549細胞から収集した培養液でTF1細胞株(その増殖および生存はヒトGMCSFに厳密に依存する)を処理した。TF1生存率をMTSアッセイによって時間の経過にしたがって判定した。本実験の結果は、ウイルス発現GMCSFは、そのような細胞株の増殖を刺激することができ、ヒト組換えGMCSF(Sigma)で処理した同じ細胞株との間で相違は認められないということであった(図6b)。
【実施例3】
【0028】
実施例3:トランスダクションの処置前解析
I.Ad5Luc1による腫瘍細胞の感染:
腫瘍がAd5土台ウイルスに感染しえるか否かを確認するために、組織から採取した生検を均質化し、標準的な感染プロトコルにしたがって、ルシフェラーゼをコードするAd5Luc1を感染させた。簡単に記せば、ウェルに播種した細胞をPBSで2回洗浄し、ウイルスを融解し最少量の増殖培養液に再懸濁し、穏やかに細胞上に注いだ。感染を30分間進行させ、その後PBSで細胞を再度洗浄し、さらに適切な量の完全な増殖培養液を添加した。ルシフェラーゼの定量は24時間後に判定した。ほんの微量の組織しか得られず、したがって細胞数を算出できず、ウイルス量も組織量に対して標準化できなかったことに留意されたい。したがって、定量的な分析は実施できなかったが、定性的データによって患者O12およびC3で遺伝子の転移の成功が示された(図7a−b)。バックグラウンドのルシフェラーゼ値(約200 RLU)を差し引いた。
II.CARの免疫組織化学染色:
患者(Ad5-D24-GM-CSF処置のための患者)腫瘍の入手可能なアーカイブ標本を収集し、免疫組織化学によりCAR(アデノウイルス血清型5レセプター)発現について解析した。癌細胞の細胞質(M3)、空腸腺癌(C3)、膵臓癌(H7)、癌小葉浸潤(R8)、卵巣癌の肝臓転移(O12)および滑膜肉腫の肺臓転移のアデノウイルスレセプターCARの染色が図7cに示されている。
III.Ad5/3キャプシドに対する中和抗体力価:
293細胞を96ウェルプレートに1x104細胞/ウェルで播種し一晩培養した。次の日、FCSを含まないDMEMで細胞を洗浄した。補体を不活化するために、ヒト血清サンプルを56℃で90分間インキュベートした。4倍希釈シリーズ(1:1から1:16384)を血清非含有DMEMで調製した(M Sarkioja et al. 2008, Gene Ther, 15(12):921-9)。Ad5/3Luc1を血清希釈と混合し、室温で30分インキュベートした。次に、トリプリケートの細胞を50μLの混合物中で100VP/細胞により感染させ、1時間後に10%のFCSを含む100μLの増殖培養液を添加した。感染から24時間後に、細胞を溶解し、TopCountルミノメーター(PerkinElmer, Waltham,MA)を用い、ルシフェラーゼ活性をルシフェラーゼアッセイ系(Promega, Madison, WI)で測定した。ルシフェラーゼの読みをAd5/3luc1のみで達成された遺伝子移転に対してプロットし、Ad5/3-d24-GMCSFで処置した患者の血清中の中和抗体の影響を評価した。中和抗体力価は、80%を超える遺伝子転移を阻止した最大希釈度として決定した。
【実施例4】
【0029】
実施例4: Ad5/3-D24-GM-CSF有効性の腹水および胸膜サンプルにおけるex vivo解析
新鮮な腹水/胸膜滲出液サンプルを4℃で一晩保存した。サンプルを50mLのファルコンチューブに分け、900rpm、8分、+4℃での遠心によって細胞を単離した。赤血球を溶解させるために、サンプルを25mLのACK溶解緩衝液(Invitorogen,Carlsbad,CA)を用い室温で5−10分インキュベートした。前記ファルコンに2%のDMEMを満たし、細胞を遠心した(900rpm、8分、+4℃)。2%DMEM-ファンギゾン中に100000細胞/mLの細胞懸濁物を調製した(50mLの2%DMEM+200μLのファンギゾン(Fungizone, BMS, Espoo, Finland))。
ルシフェラーゼアッセイでは、トランスダクション有効性におけるキャプシド改変の影響を試験するために、2枚の24ウェルプレートに細胞を50000細胞/ウェルで播種した。24時間後に、トリプリケートの細胞にAd5luc1またはAd5/3luc1を2%DMEM中に500vp/細胞および5000vp/細胞の濃度で感染させた。ルシフェラーゼ発現を実施例3のIII(中和抗体力価の測定)と同様に解析した。
患者K75およびV136の腹水および胸膜サンプルの新鮮な処置前サンプルをそれぞれ解析し、両サンプルでAd5/3による高トランスダクションが観察された。
MTSアッセイでは、臨床サンプルにおけるAd5/3-d24-GMCSFの潜在能力を試験するために、細胞を2枚の96ウェルプレートに10000細胞/ウェルで播種した。24時間のインキュベーション後に細胞を感染させた。感染は2%DMEMで実施した。次の日10%DMEMを添加した。細胞を毎日チェックし、培養液を1日おきに交換した。測定前に、培養液を吸引し、100μLの新鮮な10%DMEMをピペットでウェルに添加した。20μLのMTSアッセイ緩衝液(Promega, Madison, WI)を添加し、細胞を1.5−4時間インキュベートした。マルチスキャンアセント(Multiscan Ascent)およびアセント(Ascent)ソフトウェアv2.6(Thermo Labsystems, Helsinki, Finland)を用いて、490nmで吸収を測定し、バックグラウンド吸収をサンプルの吸収から差し引いた。
V136およびM137の胸膜滲出液の処置前サンプルをAd5/3-d24-GMCSFの腫瘍溶解潜在能力について判定した。感染から6日後に、コントロールの非感染細胞よりもそれぞれ62%および29%少ない細胞(p<0.001)が生存し、Ad5-d24-GMCSFは滲出液に存在する腫瘍細胞を死滅させることができることを示唆した。
処置後に得られたサンプル中のウイルスの存在を判定するために、赤血球溶解後に3mLの2%DMEMに細胞を再懸濁し、-80℃で4回凍結融解した。293細胞を96ウェルプレートに10000細胞/ウェルで播種し、24時間インキュベートした。細胞を4000rpm、15分、+4℃で遠心し、上清を収集した。前記上清を用い293細胞を100μL/ウェルで感染させた。10日間インキュベートした後、細胞変性効果の有無についてウェルを判定した。
腫瘍でのAd5/3-d24-GMCSFの複製を判定するために、我々はまた、処置から7日後に患者O82から採取した腹水サンプルを解析した。その結果、70%の細胞が細胞変性効果を示し、一方、非感染コントロール細胞は同様な効果を示さなかった。
【実施例5】
【0030】
実施例5:D24-GM-CSF型ウイルスの動物におけるin vivo解析
免疫適格性を有するシリアンハムスターでAd5-D24-GM-CSFのin vivo有効性を試験した(前記はヒトアデノウイルスの複製について半許容性である(マウスは非許容性である)(B Ying et al. 2009, Cancer Gene Ther, doi:10.1038/cgt.2009.6))。7*106 HapT1膵臓癌細胞を皮下に注射し、さらに0、2および4日目に、Ad5-D24-GM-CSFまたはAd5D24E3(GM-CSFを発現しない)の1*109 ウイルス粒子(VP)腫瘍内に注射した。擬似グループには同じ表示時期に同じ体積の増殖培養液を注射した。図8bは、Ad5-D24-GMCSFの腫瘍内注射はシリアンハムスターの血清中に高レベルのhGM-CSFを生じたことを示している。ヒトGM-CSFはシリアンハムスターで活性を有することが判明している(Cho, 2006, Exp Toxicl Pathol 57(4):321-8)。興味深いことに、擬似グループを除いて全動物が16日目まで腫瘍が存在しなかった(図8a)。さらに2週間腫瘍痕を詳しく検討して、腫瘍の再出現が生じえるか否かを判定した。しかしながら、32日目にこれらの動物で腫瘍の徴候は存在せず、実験の第一の部分を終了させ、擬似グループの動物を安楽死させた。この時点で、残りの処置動物をその上体の右側に同じ腫瘍の7*106 HapT1細胞で皮下注射によりチャレンジし、一方、左側に異なる腫瘍(1*106 HaK腫瘍)(前記に対して動物はナイーブである)でチャレンジした。時間の経過にしたがって腫瘍の増殖を測定し、図8c−dに示した。興味深いことに、以前にAd5D24GMCSFで処置された動物はHapT1腫瘍チャレンジを完全に拒絶したがHak腫瘍は正常に増殖し、一方、以前にAd5D24E3で処置した動物はそれぞれ無関係にHapT1およびHaK腫瘍を増殖させた(図8c−d)。
要約すれば、これらのデータは、免疫適格性を有する担癌動物でAd5-D24-GM-CSFは抗腫瘍活性を有し、さらに、前記は同じ腫瘍によるその後のチャレンジを拒絶しえる程度に腫瘍特異的免疫を誘引できることを示している。
【実施例6】
【0031】
実施例6:D24-GM-CSF型ウイルスのヒト患者におけるin vivo解析
I.患者:
進行性難知性の固形腫瘍をもつ癌患者を政府承認の特別処置プロトコルに登録した。Ad5-D24-GM-CSFを投与される患者の情報は表1に列挙されている。
標準的治療に耐性を示す進行性固形腫瘍をもつ患者(表6)に静脈内および腫瘍内Ad5/3-d24-GMCSF一巡処置を実施した(表7)。癌腫症または胸膜転移の症例で腫瘍内注射をそれぞれ腹腔内または胸膜内で実施した。包含基準は、通常の治療法に対して耐性を示す固形腫瘍であること、WHO症状スコアは3または3未満であること、および主要器官の機能不全がないことであった。排除基準は、器官移植、HIV、腫瘍溶解ウイルス治療を妨げる重篤な心脈管系、代謝系もしくは肺の異常または他の症状、所見または疾患であった。書面によるインフォームドコンセントを入手し、処置は、グッド・クリニカル・プラクティスおよびヘルシンキ宣言を順守して実施した。
【0032】
II.GM-CSFをコードするアデノウイルスベクターによる処置:
a)Ad5-D24-GM-CSFの、Ad5/3-D24-GM-CSFまたはAd5-RGD-D24-GM-CSF処置
続いて臨床等級のAd5-D24-GM-CSF、Ad5/3-D24-GM-CSFまたはAd5-RGD-D24-GM-CSFを製造し、患者の治療を開始した。この“フェース0”特別使用プログラムは、HUCH外科手術倫理委員会で検討された。このプログラムはまたFinOHTA(national evaluation of medical technologies)およびフィンランド医学会倫理評議会(Ethics Negotiation Board of the Finnish Medical Association)でも検討された。法的側面は、社会保険省(Ministry of Social Affairs and Health)、医学庁(National Agency of Medicines)、フィンランド医学会法律評議会、医療庁(National authority for Medical affairs)、および社会保険内閣評議会(Parliamentary Board of Social Affairs and Health)によりチェックされた。
患者は0日目に一巡の処置を施された。ウイルス投与は超音波誘導腫瘍内注射によって実施し、約1/5の用量を静脈内に投与した。8x1010VPの開始用量は他の研究者が報告した安全性の結果を基準にして選択した。
ウイルスは投与時に適切な条件下で無菌的食塩水溶液にて希釈した。ウイルスを投与した後、全ての患者を病院内で一晩、その後4週間は外来患者としてモニターした。身体的評価および病歴は各診察時に実施し、臨床的に関連する検査室値を追跡した。処置の副作用を記録し、副作用に関する通常用語法(Common Terminology for Adverse Events)v3.0(CTCAE)にしたがってスコアを付けた。
多くの癌患者が疾患による症状を有するので、既存の症状はそれらが悪化しないかぎりスコアを付けなかった。しかしながら、症状がより重篤になった場合(例えば処置前の等級1が処置後に等級2に変化した場合には等級2とスコアを付けた。GMCSFおよび他の4つのサイトカイン(IL-6、IL-8、IL-10およびTNF-アルファ)の血清レベルを、BDサイトメータービーズアッセイ(CBA)のヒト可溶性タンパク質フレックスセット(Becton Dickinson, Franklin Lakes, NJ, US)によって解析した。腫瘍サイズはコントラスト強化コンピュータ断層撮影(CT)スキャンによって判定した。最大腫瘍直径を入手した。固形腫瘍の応答評価基準(RECIST1.1)を全体的症状(注射および非注射病巣を含む)に適用した。これらの基準は以下のとおりである:部分的応答PR(腫瘍の直径の合計で30%を超える減少)、安定的症状SD(減少も増加も無し)、進行性症状PD(20%を超える増加)。PRを満たさない明白な腫瘍の減少はマイナー応答(MR)としてスコアを付けた。基準時に上昇したときは、血清の腫瘍マーカーもまた判定し、同じパーセンテージを用いた。
処置の前後に分析のための血液サンプルを収集した。表1にAd5-D24-GM-CSFで処置した患者の血清中のウイルスの負荷が要約されている。定量的PCR(qPCR)を前記分析のために用いた(方法の説明にはセクションIIIを参照されたい)。
表2、3および4は、Ad5-D24-GM-CSFの処置の間および処置後に報告された全ての副作用の要旨である。全ての副作用を副作用に関する通常用語法v3.0(CTCAE)にしたがって等級付けした。注目すべきは、患者はいずれも等級1および/または2のインフルエンザ様症状を提示したが、2つの等級3の症状が観察されたことである。前記は以前に便秘で苦しんでいた卵巣癌患者の便秘の1例および等級3の低ナトリウム血症の1例である。
表5では、RECIST基準にしたがってAd5-D24-GM-CSFの有効性評価が記録されている(P Therasse et al. 2000, J Natl Cancer Inst 92:205-16)。興味深いことに、14人の解析可能な患者で2つの完全な応答(CR)および5つの安定的症状(SD)が50%の臨床的有益率で観察された。
【0033】
b)癌患者におけるAd5/3-d24-GMCSFの安全性
治療に対しては用いた最高用量(4x1011VP/患者)まで十分な寛容性が得られた。等級4−5の副作用は認められなかった。等級1−2のインフルエンザ様症状は一般的であり、22人中19人、17人および8人の患者がそれぞれ発熱、倦怠または上気道症状を示した。注射部位の痛み(6人の患者)、腹痛(10人)および吐き気(9人)もまた同様に一般的な等級1−2の副作用であった(表8)。無症候性で自己限定性の等級3の血液学的副作用が以下のように4人の患者で観察された:貧血(基準時で等級2)、好中球減少症、アスパルテートアミノトランスフェラーゼ上昇および低ナトリウム血症。唯一の非血液学的等級3の副作用は胆嚢症で、膵臓癌患者H83で処置から3週間後に観察された。前記患者はまた、等級3のアラニンアミノトランスフェラーゼおよびビリルビン上昇を示した。総合すれば、これらの症状は腫瘍媒介性胆管圧迫を示唆している。これが処置によって媒介された炎症性腫脹か疾患の進行によって引き起こされた腫瘍増殖かは不明である。
【0034】
III.血液からウイルスの検出:
Ad5-D24-GM-CSFまたはAd5/3-D24-GM-CSF処置患者から血清サンプルを収集し(実施例6、I参照)、通常のPCRをTakayamaらの論文(Takayama et al. 2007, J Med Virol 79:278-284)によるプライマーおよび条件で実施した。簡単に記せば、3μgの担体DNA(ポリデオキシアデニル酸;Roshe, Mannheim, Germany)を400μLの血清に添加し、さらにQIAamp DNAミニキットを用いて全DNAを抽出した。抽出DNAを60μLのヌクレアーゼフリー水に溶出させ、DNA濃度を分光光度計で測定した。PCR増幅は、24bp欠失にフランキングしたE1A領域を標的とするプライマーおよびプローブに依った(フォワードプライマー5'-TCCGGTTTCTATGCCAAACCT-3'(配列番号:1)、リバースプライマー5'- TCCTCCGGTGATAATGACAAGA-3'(配列番号:2)およびプローブonco5'FAM-TGATCGATCCACCCAGTGA-3'MGBNFQ(配列番号:3))。さらにまた、24bp領域に含まれる配列に相補的であって欠失を標的とするプローブを用いて、野生型アデノウイルス感染の有無についてサンプルを調べた(プローブ5'VIC-TACCTGCCACGAGGCT-3'MGBNFQ (配列番号:))。
各々25μLの反応のためのリアルタイムPCR条件は以下の通りであった:2X LightCycler480プローブマスターミックス(Roche, Mannheim, Germany)、各フォワードおよびリバースプライマー800nM、各プローブ200nM、および抽出DNA250ng。PCR反応はLightCycler(Roche, Mannheim, Germany)で以下のサイクリング条件下で実施した:95℃で10分;95℃で10秒、62℃で30秒および72℃で20秒の50サイクル;および40℃10分。全サンプルをデュープリケートで調べた。TaqMan外因性内部陽性コントロール試薬(Applied Biosystems)をおなじPCR試験に用い、PCR阻害物質の有無について各サンプルを検査した。
回帰標準曲線は、正常なヒト血清によるAd5/3-D24-Cox2Lの連続希釈(1x108−10vp/mL)から抽出したDNAを用いて作成した。アッセイの検出限界および定量限界は500vp/mL血清であった。
陽性サンプルは以下を用いたリアルタイムPCRによって確認された:LightCycler480 SYBR Green Iマスターミックス(Roche, Mannheim, Germany)およびアデノウイルスおよびGM-CSF特異的プライマー(フォワードプライマー5'-AAACACCACCCTCCTTACCTG-3'(配列番号:5)およびリバースプライマー5'-TCATTCATCTCAGCAGCAGTG-3'(配列番号:6))。
【0035】
IV.処置後の血清におけるAd5/3-d24-GMCSFの存在:
全患者がAd5/3-d24-GMCSFによる処置の前にはAd5/3-d24-GMCSFに対して陰性であった。1日目に、17/19の患者が測定可能なレベルのウイルスゲノムを血清中に有し、最高力価は2061VP/mL血清であった。3−7日目に採取したサンプルでは、12/15の患者が陽性で、最高力価は3.36x105 VP/mL血清であった。陽性サンプルは処置後58日目まで観察された。
V.処置後の血清におけるGMCSFおよび中和抗体力価:
Ad5/3-d24-GMCSFの処置後にGMCSFの全身レベルに顕著な変化はなく、このことは、全白血球数レベルで顕著な影響が見られなかったことと良好に対応した。このことは、一般にGMCSFの生成は腫瘍内のウイルス複製局所部位に限定されることを示唆している。ある患者(S70)では、白血球数の一過性上昇を伴う血清GMCSFの一過性増加が4日目に観察された。これらは効率的なウイルス複製と関係があるかもしれない。なぜならば同時に患者は発熱し血清中に3.36x105 VP/mLのウイルスが存在したからである(表9)。この患者は経過観察中に重篤な副作用を全く示さなかった。しかしながら、処置後CTスキャンによれば抗腫瘍活性(SD)が示唆され、患者は処置後4週間の間以前より体調も良く持続的な胸部痛も消えていた。この患者の血液で測定された最高のGMCSF濃度は115pg/mLであり、前記値はヒトのGMCSF有害レベルよりほぼ10倍低い。
基準時には、4/15の患者がAd5/3に対する中和抗体について完全に陰性であった。別の2人の患者はほとんど検出できない力価を有し(1−4)、一方8人の患者は低い中和力価を有していた(16−64)。いずれの患者も基準時にAd5/3に対し中等度または高い中和力価をもたなかった。処置後、力価は全ての患者で増加した(p<0.005)(表9)。中和抗体力価とウイルス用量、抗腫瘍活性または毒性との間に明瞭な相関性は認められなかった。興味深いことに、血清中のウイルス負荷に関して、2人の患者(Y62およびO79)は基準時に中和抗体が陽性で、さらに2−4週間の間高力価を示していたが、それでもなお血清中に存在する測定可能なウイルス負荷を有していた(それぞれ少なくとも28日および58日)(表9)このことは、高い抗体力価でさえ腫瘍内のウイルス複製を妨げることはできないことを示している。興味深いことに、抗体力価は全ての患者で最高に達することはなかった。例えば、S70、X122およびH83は1週目の間に大量の循環ウイルスを有していたが、それらの抗体力価はゆっくりと上昇した。
【0036】
VI.分化腫瘍細胞の殺滅:
Ad5-D24-GM-CSF処置前および処置後の卵巣癌罹患患者および中皮腫罹患患者(表1参照)のCTスキャンは図9a−bに示されている。
VII.Ad5/3-D24-GMCSFの有効性:
全ての患者が処置前に進行性腫瘍を有していた。12人の患者がRECIST1.1にしたがい放射線医学に関する成果ついて評価することができた。2人の患者がマイナー応答を示し、6人の患者が症状安定を示し、4人の患者が症状進行(PD)を示した。したがって、放射線医学に関する臨床成果率は64%であった。特記すれば、急激に増殖するH96の膵臓腫瘍は増殖を停止したが、転移性病巣が肺に出現し、したがってスコアはPDとなった。同様に、患者O129は、注射を受けた腫瘍は6%縮小を示したが新規な転移を示した。患者V136(2つの転移癌を有する)では、注射を受けていない肝臓病巣は消失したが、他方の腫瘍はSDを維持した。
腫瘍マーカーに関しては(基準時にマーカー上昇を示した患者について判定)、2/6の患者がある程度のマーカー低下を示し、4/6がマーカーレベルの上昇を示した(表9)。処置後の患者の全体的生存は図14に示されている。
抗腫瘍活性の客観的測定に加えて、我々はまたいくつかの症例で臨床的および/または主観的成果を観察した(表9)。これらには、患者の幸福度が改善されているか、触診可能な腫瘍が軟らかくなっているかおよび/または小さくなっているのが感じられるか、および/または腫瘍により生じた症状が緩和されたかが含まれる。重要なことには、2人の患者(以前には腹水および/または胸膜滲出液の急速な蓄積に苦しんだ)が、ウイルス処置後にそれらの蓄積の明白な減少を示し、この作用は両症例で数カ月持続した。
全体として、抗腫瘍有効性の徴候が13/21(62%)の患者で観察された。
【0037】
VIII.処置の血液学的効果:
白血球、赤血球、Hb、血小板、ビリルビン、INR、ALT、AST、ALP、クレアチニン、K、Na、CRP、CA19-9、GT、フィブリンD-ダイマーおよびCEAをAd5/3-D24-GM-CSF処置後に調べた(表3−4)。
IX.ウイルスに対する免疫応答:
a)IL-6、IL-10、TNF-αおよびIL-8
アデノウイルス遺伝子療法の潜在的な1つの欠点はウイルス成分によるその早期毒性である(前記ウイルス成分は免疫原性を有し、敗血症様ショックさらには死に至らしめる能力を有する(Brunetti-Pierri et al. 2004, Hum Gene Ther, 15:35-46;Raper et al. 2003, Mol Gen Metab, 80:148-158)。したがって、後に器官不全を引き起こしえるサイトカインストームの徴候をモニターすることは極めて重要である。この目的のために、処置後まもなく表示の時点で血液を患者から採取し、前炎症性サイトカインを論文(V Cerullo et al. 2007, Mol Ther, 15:378-85)に記載されたようにFACSARRAYによって解析した。Ad5-D24-GM-CSFで処置した患者で顕著な変化は認められず、固有の早期毒性は存在しないことが示された。
Ad5/3-D24-GM-CSFに関連する固有の早期毒性の欠如の結果については表10を参照されたい。
【0038】
b)腫瘍に対する細胞傷害性T細胞の誘発および腫瘍エピトープに対する特異的免疫
腫瘍溶解による細胞死は、腫瘍細胞を認識しこれを殺滅する能力を免疫系に獲得させる。このことは潜在的には腫瘍の根絶にとって有益であり、治癒を促進することができる。アデノウイルスは投与後比較的短時間に身体から除去される。したがって、免疫系を刺激し特異的腫瘍抗原を認識する能力をもち、治療が患者にとって有益な効果を持続させることができるということはもっとも重要になる。さらにまた、抗体の存在下ではウイルスは中和され、転移に感染するその能力を失わせることができる。しかしながら、腫瘍に対して誘発されたエフェクターT細胞またはNK細胞は自由に循環し、注射を受けた腫瘍から遠く離れた転移を最終的に死滅させる。GMCSF発現アデノウイルスがアデノウイルス特異的および腫瘍特異的免疫を誘引することができるか否かを明らかにするために、処置患者から収集したPBMCをINF-ガンマELISPOTによって解析した。このELISPOTは、患者が受けているいずれの種類の処置(Proimmune)に関する情報も提供されていない外部の協力者によって盲検的態様で実施された。図10a−dはそのような解析の結果を示している。同一患者では、T細胞が腫瘍抗原(サービビン)またはアデノウイルス(ペントン)のどちらかに由来するペプチドプールで刺激されたとき、これらの細胞は活性化され、したがってIFN-ガンマを生成することが明らかである(IFN-ガンマは刺激されたT細胞の特異的活性化マーカーである)。
図11はアデノウイルスヘキソン特異的T細胞の誘発を示す。Ad5-D24-GMCSFで処置した患者から採集した白血球をCD3、CD8およびヘキソン特異的テトラマー抗体で染色し、処置前および処置後にフローサイトメトリーで解析した。処置によってヘキソン特異的細胞傷害性T細胞は0.21から2.72%に増加した。
c)調節性T細胞の減少
以前のデータは、規則正しいシクロホスファミドの投与は調節性T細胞(T-Reg)を実験動物で減少させることを示した。
このアプローチを、Ad5-D24-GM-CSF処置の前と後にシクロホスファミドの規則正しい投与を受けた患者で利用し、これらの患者から採集したPBMCでT-reg解析を実施した。図12に示した例では患者R73の例が示されてあり、この例は、循環T-regの減少が示されている。全PBMCを患者から採集し、適切な培養液中で凍結した。解析時に、全てのサンプルを融解して最初にCD4およびCD127抗体で染色し、次に細胞を透過性にして転写因子Foxp3のために染色した。CD4について陽性でCD127について陰性であるが、Foxp3が高い細胞は、有効なT調節性細胞(T-reg)と考えられる(図12)。
【実施例7】
【0039】
実施例7:統計解析
2-テールスチューデントt検定を用いて、ルシフェラーゼ活性並びに処置前および処置後の中和抗体力価、サイトカインレベル並びにGM-CSF濃度を比較した。生存データはKaplan-Meier解析により処理した。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
【表3】

【0043】
【表4】

【0044】
【表5】

【0045】
【表6】

【0046】
【表7−1】

【0047】
【表7−2】

【0048】
【表7−3】

【0049】
【表8】

【0050】
【表9】

【0051】
【表10】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
アデノウイルス血清型5(Ad5)核酸骨格、E1のRb結合定常領域2の24bp欠失(D24)、およびE3領域の欠失gp19k/6.7Kの代わりに顆粒球-マクロファージコロニー刺激因子(GM-CSF)をコードする核酸配列を含む腫瘍溶解アデノウイルスベクター。
【請求項2】
E2、E4および後期領域から成る群から選択される1つまたは2つ以上の領域をさらに含む、請求項1に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクター。
【請求項3】
以下の領域:左ITR、部分的E1、pIX、pIVa2、E2、VA1、VA2、L1、L2、L3、L4、部分的E3、L5、E4および右ITRを含む、請求項1または2に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクター。
【請求項4】
前記領域が5'から3'方向に連続的順序で存在する、請求項3に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクター。
【請求項5】
野生型領域がE1領域の上流に位置する、請求項1から4のいずれか1項に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクター。
【請求項6】
E1領域がウイルスパッケージシグナルを含む、請求項1から5のいずれか1項に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクター。
【請求項7】
GM-CSFをコードする核酸配列がウイルスE3プロモーターの制御下にある、請求項1から6のいずれか1項に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクター。
【請求項8】
GM-CSFをコードする核酸配列が野生型である、請求項1から7のいずれか1項に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクター。
【請求項9】
E4領域が野生型である、請求項1から8項のいずれか1項に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクター。
【請求項10】
キャプシドの改変を含む、請求項1から9のいずれか1項に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクター。
【請求項11】
キャプシド改変が、Ad5/3キメラ状態、インテグリン結合(RGD)領域および/または硫酸ヘパリン結合ポリリジン改変の線維への挿入である、請求項10に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクター。
【請求項12】
キャプシド改変がRGD-4C改変である、請求項10または11に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクター。
【請求項13】
少なくとも1つの発現カセットを含む、請求項1から12のいずれか1項に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクター。
【請求項14】
ただ1つの発現カセットを含む、請求項1から13のいずれか1項に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクター。
【請求項15】
ベクターが、Rb-経路に欠損を有する細胞で選択的に複製することができる、請求項1から14のいずれか1項に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクター。
【請求項16】
請求項1から15のいずれか1項に記載のアデノウイルスベクターを含む細胞。
【請求項17】
請求項1から15のいずれか1項に記載のアデノウイルスベクターを含む医薬組成物。
【請求項18】
in situ癌ワクチンとして機能する、請求項1から17のいずれか1項に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクターまたは医薬組成物。
【請求項19】
対象者で癌を治療するための医薬の製造における、請求項1から15のいずれか1項に記載のアデノウイルスベクターの使用。
【請求項20】
対象者で癌を治療する方法であって、前記方法が、請求項1から15又は17のいずれか1項に記載のベクターまたは医薬組成物を対象者に投与する工程を含む、前記癌の治療方法。
【請求項21】
癌が以下から成る群から選択される、請求項19から20に記載の使用または方法:鼻咽頭癌、滑膜癌、肝細胞癌、腎癌、結合組織の癌、メラノーマ、肺癌、腸癌、結腸癌、直腸癌、結腸直腸癌、脳の癌、咽喉癌、口内癌、肝癌、骨の癌、膵臓癌、絨毛癌、ガストリノーマ、クロム親和性細胞腫、プロラクチノーマ、T細胞白血病/リンパ腫、神経腫、フォン・ヒッペル-リンダウ病、ゾリンジャー-エリソン症候群、副腎癌、肛門癌、胆管癌、膀胱癌、尿管癌、脳の癌、稀突起神経膠腫、神経芽細胞腫、髄膜腫、脊髄腫瘍、骨の癌、骨軟骨腫、軟骨肉腫、ユーイング肉腫、未知の原発癌、類癌、胃腸管の類癌、線維肉腫、胸部癌、パジェット病、子宮頸癌、結腸直腸癌、直腸癌、食道癌、胆嚢癌、頭部の癌、眼の癌、首の癌、腎臓癌、ウィルムス腫瘍、肝臓癌、カポジ肉腫、前立腺癌、肺癌、精巣癌、ホジキン病、非ホジキンリンパ腫、口内癌、皮膚癌、中皮腫、多発性メラノーマ、卵巣癌、内分泌系膵臓癌、グルカゴノーマ、膵臓癌、上皮小体癌、陰茎癌、下垂体癌、軟組織肉腫、網膜芽細胞腫、小腸癌、胃癌、胸腺癌、甲状腺癌、栄養膜の癌、胞状奇胎、子宮癌、子宮内膜癌、膣癌、外陰部癌、聴覚神経腫、菌状息肉腫、インスリノーマ、類癌症候群、ソマトスタチノーマ、歯肉癌、心臓の癌、口唇癌、髄膜癌、口の癌、神経の癌、口蓋癌、耳下腺癌、腹膜癌、咽頭癌、胸膜癌、唾液腺癌、舌癌、扁桃癌。
【請求項22】
対象者がヒトまたは動物である、請求項19から21に記載の使用または方法。
【請求項23】
投与が、腫瘍内、筋肉内、動脈内、静脈内、胸膜内、嚢内、腔内または腹膜内注射または経口投与により実施される、請求項19から22のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項24】
腫瘍溶解アデノウイルスベクターまたは医薬組成物が治療期間中に数回投与される、請求項19から23のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項25】
より早い時期の治療のベクターと比較して異なるキャプシド線維ノブを有する腫瘍溶解アデノウイルスベクターが対象者に投与される、請求項19から24のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項26】
前記方法がさらに対象者への放射線療法の同時実施を含む、請求項19から25のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項27】
前記方法がさらに対象者への化学療法の同時実施を含む、請求項19から26のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項28】
前記方法がさらに対象者へのベラパミルまたは別のカルシウムチャネル遮断物質の投与を含む、請求項19から27のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項29】
前記方法がさらに対象者への自家融解誘発物質の投与を含む、請求項19から28のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項30】
前記方法がさらに対象者へのテモゾロミドの投与を含む、請求項19から29のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項31】
前記方法がさらに、対象者への化学療法もしくは抗CD20療法、または中和抗体阻止のための他のアプローチの実施を含む、請求項19から30のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項32】
前記方法がさらに、対象者で調節性T細胞をダウンレギュレートすることができる物質の投与を含む、請求項19から31のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項33】
前記方法がさらに対象者へのシクロホスファミドの投与を含む、請求項19から32のいずれか1項に記載の使用または方法。
【請求項34】
細胞でGM-CSFを生成する方法であって、前記方法が、
a)請求項1から15のいずれか1項に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクターを含む担体を細胞にもたらす工程、および
b)前記ベクターのGM-CSFを細胞で発現させる工程
を含む、前記GM-CSFの生成方法。
【請求項35】
対象者で腫瘍特異的免疫応答を高める方法であって、前記方法が、
a)請求項1から15のいずれか1項に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクターを含む担体を標的細胞または組織にもたらす工程、
b)前記ベクターのGM-CSFを細胞で発現させる工程、および
c)前記標的細胞または組織で細胞傷害性T細胞および/またはナチュラルキラー細胞の量を増加させる工程
を含む、前記腫瘍特異的免疫応答を高める方法
【請求項36】
GM-CSFを細胞で生成させるための、請求項1から15のいずれか1項に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクターの使用。
【請求項37】
対象者で腫瘍特異的免疫応答を高めさせるための、請求項1から15のいずれか1項に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクターの使用。
【請求項38】
ナチュラルキラーおよび/または細胞傷害性T細胞の量を標的細胞または組織で増加させる、請求項37に記載の腫瘍溶解アデノウイルスベクターの使用。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図5c】
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【図5d】
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【図6a】
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【図6b】
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【図7a】
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【図7b】
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【図7c】
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【図8a】
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【図8b】
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【図8c】
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【図8d】
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【図9a】
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【図9b】
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【図10a】
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【図10b】
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【図10c】
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【図10d】
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【図11】
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【図12】
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【図13a】
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【図13b】
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【図13c】
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【図13d】
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【図13e】
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【図13f】
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【図13g】
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【図13h】
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【図13i】
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【図14−1】
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【図14−2】
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【図14−3】
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【図14−4】
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【図14−5】
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【図14−6】
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【図15】
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【公表番号】特表2012−513209(P2012−513209A)
【公表日】平成24年6月14日(2012.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−542856(P2011−542856)
【出願日】平成21年12月21日(2009.12.21)
【国際出願番号】PCT/FI2009/051025
【国際公開番号】WO2010/072900
【国際公開日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【出願人】(511153057)
【Fターム(参考)】