説明

腸三葉型蛋白質

【課題】病変の形成の治療または阻害のための、腸三葉型因子および腸三葉型因子をコードする核酸の提供。
【解決手段】腸三葉型因子(ITF)は、消化管の破壊に抵抗性であり、消化性潰瘍疾患、炎症性腸疾患、およびその他の傷害の治療に使用することができる医薬組成物。ポリペプチドが、マーカーをさらに含む三葉型ポリペプチド。検出可能な標識を施された三葉型ポリペプチドに組織を接触させる段階と、該組織に結合した検出可能な標識を施された三葉型ポリペプチドのレベルを測定する段階とを含むITFレセプターを検出する方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
背景
本発明の分野は、胃腸の疾患に関連するものを含む創傷の診断、予防、または治療に有用なペプチドである。
【背景技術】
【0002】
ジョージェンセンら(Jorgensen)(Regulatory Peptides 3:231, 1982;非特許文献1)は、ブタの膵臓のペプチドである膵臓鎮痙性ペプチド(PSP)について記載している。PSPは、「非経口投与ならびに経口投与の後に、実験動物における胃腸の運動性および胃酸の分泌」を阻害することが報告された。このことから、「実験動物における結果がヒトで確認されれば、PSPが胃十二指腸の潰瘍性疾患の治療に使用できる可能性を有するかもしれない」ということが示唆された。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0003】
【非特許文献1】ジョージェンセンら(Jorgensen)Regulatory Peptides 3:231, 1982
【発明の概要】
【0004】
発明の概要
第一の局面において、本発明は、腸三葉型因子(ITF)をコードする精製された核酸を特徴とする。
好ましい態様において、腸三葉型因子は、哺乳動物腸三葉型因子、好ましくはヒト、ラット、ウシ、またはブタの腸三葉型因子である。別の好ましい態様において、腸三葉型因子をコードする精製核酸は、ベクターの内部に存在する。
関連する局面において、本発明は、腸三葉型因子をコードするベクターを含む細胞を特徴とする。
別の関連する局面において、本発明は、実質的に純粋な腸三葉型因子を特徴とする。好ましい態様において、そのポリペプチドは検出可能な標識を施されている。関連する局面において、本発明は、腸三葉型因子と薬学的に許容される担体とを含む治療用組成物を特徴とする。
【0005】
別の局面において、本発明は、腸三葉型因子に選択的に結合する(すなわち、腸三葉型因子と免疫複合体を形成する)モノクローナル抗体を特徴とする。好ましい態様において、モノクローナル抗体は検出可能な標識を施されている。
関連する局面において、本発明は、ヒト患者においてヒト腸三葉型因子を検出するための方法を特徴とする。本方法には、腸三葉型因子に選択的に結合するモノクローナル抗体と患者から採取された生物学的試料とを接触させる段階、およびモノクローナル抗体と形成された免疫複合体を検出する段階が含まれる。好ましい態様において、生物学的試料は、腸の掻き取った粘膜または血清である。
【0006】
関連する局面において、本発明は、腸三葉型因子と薬学的に許容される担体とを含む薬学的組成物を患者に投与することを含む、ヒト患者において消化性疾患を治療するための方法を特徴とする。治療されうる別の疾患は後述する。
別の局面において、本発明は、患者において腸三葉型因子に結合する部位を検出するための方法を特徴とする。該方法には、該因子と患者から採取された生物学的試料とを接触させる段階、および該試料において結合部位が存在する指標として、該生物学的試料に結合された該因子を検出する段階が含まれる。本明細書で用いられる「結合部位」とは、腸三葉型因子蛋白質、因子、または類似体に結合するあらゆる抗体またはレセプターを意味する。結合部位の検出または定量化は、胃腸管の異常を反映しており有用であると考えられる。
【0007】
別の局面において、本発明は、実質的に純粋な三葉型因子を特徴とする。好ましい態様において、腸三葉型因子は、ヒト、ウシ、またはブタの三葉型因子である。
「腸三葉型因子」(「ITF」)とは、ラット腸三葉型因子(図2;配列番号:2)に実質的に相同であり、小腸、大腸、結腸以外の組織で発現されるよりも、大腸、小腸、または結腸で多く発現される、あらゆる蛋白質を意味する。また以下のものも含まれる:対立遺伝子変異体;天然の変異体;誘導変異体;天然の物質から採取された核酸をコードするITFに、高ストリンジェンシーまたは低ストリンジェンシー条件下でハイブリダイズするDNAにコードされる蛋白質;およびITFに対する抗血清、特にITFの活性部位または結合ドメインに対する抗血清で回収されたポリペプチドまたは蛋白質。また、この用語には、ITFを含むその他のキメラポリペプチドも含まれる。
【0008】
ITFという用語はまた、天然のITFポリペプチドの類似体も包含する。類似体は、アミノ酸配列の相違によって、または配列に影響を及ぼさない修飾、またはその両者によって天然のITFとは異なっていてもよい。本発明の類似体は一般に、天然のITF配列の全てまたは一部と少なくとも70%、より好ましくは80%、より好ましくは90%、および最も好ましくは95%または99%もの相同性を示すと考えられる。比較配列の長さは一般に、少なくとも8アミノ酸残基、一般的には少なくとも20アミノ酸残基、より一般的には少なくとも24アミノ酸残基、典型的には少なくとも28アミノ酸残基、好ましくは35アミノ酸残基以上である。修飾には、ポリペプチドのインビボ、またはインビトロ化学誘導体、例えば、アセチル化またはカルボキシル化が含まれる。同様に、グリコシル化の修飾、例えば、その合成およびプロセシングの際にポリペプチドのグリコシル化パターンの修飾によってなされるもの、またはさらなるプロセシング段階において、例えば通常、そのようなプロセシングを提供する細胞に由来し、グリコシル化に影響を及ぼす酵素、例えば哺乳類のグリコシル化酵素に、ポリペプチドを暴露することによってなされるグリコシル化の修飾も含まれる。また、同じ一次アミノ酸配列を、リン酸化アミノ酸残基、例えばホスホチロシン、ホスホセリン、またはホスホトレオニンを有するように作り替えたものも含む。類似体は、それらの一次配列を変化させることによって、天然のITFと異なっていてもよい。これらの中には、自然発生性または誘発性の双方の遺伝子変異体が含まれる。誘発された変異体は、放射線照射またはエタンメチルスルフェート(EMS)への暴露を用いたコード核酸のランダム変異誘発を含む様々な技法に由来してもよく、または部位特異的変異誘発もしくは分子生物学のその他の技法によって生じた変化を取り込んでもよい。サムブルック、フリッシュ&マニアティス(Sambrook, Fritsch, and Maniatis)(1989)、「分子クローニング:実験マニュアル」(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)(第二版)CSH プレス、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨークを参照のこと。同様に、天然のL-アミノ酸以外の残基、例えばD-アミノ酸または天然に起こらないもしくは合成アミノ酸、例えば、β-またはγ-アミノ酸を含む類似体も含まれる。
【0009】
実質的に完全な長さのポリペプチドの他に、本明細書で用いられるITFという用語には、ポリペプチドの生物学的活性断片が含まれる。本明細書で用いられる「断片」という用語をポリペプチドに当てはめる場合、通常、長さが少なくとも10個の連続したアミノ酸であり、典型的には少なくとも20個の連続したアミノ酸、より典型的には少なくとも30個の連続したアミノ酸、通常少なくとも40個の連続したアミノ酸、好ましくは少なくとも50個の連続したアミノ酸、および最も好ましくは少なくとも60〜80個以上の連続したアミノ酸である。ITFの断片は、当業者に既知の方法によって製造することができる。候補断片がITFの生物活性を示すか否かは、当業者に既知の方法によって評価することができる。
【0010】
「断片」という用語には、ポリペプチドの生物活性に必要ではない付加的なアミノ酸を含むか、または代替mRNAスプライシングもしくは代替蛋白質プロセシング事象に起因する付加的なアミノ酸を含む、蛋白質のプロセシングの際に通常除去されるアミノ酸を含む生物学的に活性なITFポリペプチドも含まれる。
【0011】
ITFポリペプチド、断片、または類似体は、それが天然のITFの生物活性、例えば哺乳類において胃腸管運動性を変化させる能力を示す場合、生物学的に活性である。
【0012】
本発明はまた、特異的にITFポリペプチドに結合する抗体、好ましくはモノクローナル抗体と共に、本明細書に記述のITFポリペプチドをコードする核酸配列、およびその精製調製物を含む。
【0013】
本明細書で用いられる「実質的に純粋な」という用語は、それが天然では付随する成分を実質的に含まない、化合物、例えば核酸、蛋白質、またはポリペプチド、例えば、ITF蛋白質もしくはポリペプチドを指す。典型的には、化合物は、試料中の総材料の少なくとも60%、より好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも99%(容量、湿もしくは乾燥重量、またはモル百分率もしくはモル分画によって)が関係化合物である場合に実質的に純粋である。純度は、適当な方法、例えばポリペプチドの場合、カラムクロマトグラフィー、ポリアクリルアミドゲル電気泳動、またはHPLC分析によって測定することができる。
【0014】
「単離されたDNA」とは、本発明の所定のDNAが由来する有機体の天然のゲノムにおいて、そのDNAに隣接する遺伝子を含まないDNAを意味する。したがって、「単離されたDNA」という用語は例えば、cDNA、クローニングされたゲノムDNA、および合成DNAを包含する。本明細書で用いられる「精製された核酸」とは、それが細胞内で天然に生じるその他の巨大分子(例えば、その他の核酸および蛋白質)を実質的に含まない核酸配列を指す。好ましい態様において、精製核酸調製物の40%未満(およびより好ましくは25%未満)が、そのようなその他の巨大分子からなる。
【0015】
本明細書で用いられる「相同な」とは、2つのポリマー分子、例えば2つの核酸分子、例えば、2つのDNA分子または2つのポリペプチド分子間のサブユニット配列の類似性を指す。双方の分子におけるサブユニットの位置が、同じモノマーサブユニットによって占有される場合、例えば、2つのDNA分子のそれぞれにおける一つの位置がアデニンによって占有される場合、それらはその位置で相同である。2つの配列間の相同性は、対合するまたは相同な位置の数の正関数で、例えば2つの化合物配列における位置の半数、例えば2つの化合物配列における位置の10個中5個が相同である場合、2つの配列は50%相同である;位置の90%、例えば、10個中9個が対合しているかまたは相同である場合、2つの配列は90%の相同性を有する。実例を示すと、DNA配列5'-ATTGCC-3'と5'-TATGGC-3'は、50%の相同性を有する。「実質的に相同な」とは、多くが相同であるが全てが相同である訳ではないことを意味する。
【0016】
本発明のITF蛋白質は、消化管での分解に抵抗性で、消化性潰瘍疾患、炎症性腸疾患の治療に、および放射線障害または細菌感染症のような障害によって生じた損傷から腸管を保護するために用いることができる。ITF蛋白質、断片または類似体はまた、新生物的癌の治療にも用いることができ、後述するように、炎症または、病変、潰瘍形成、火傷、もしくは剥離のような損傷から生体のいかなる部分も保護する(例えば、病変形成を阻害することによって)、または治療するために、用いることができる。
【0017】
一般に、ITFを含む三葉型蛋白質は、口、食道、胃、ならびに大腸および小腸を含む消化管の疾患、および消化管に対する損傷の治療に有用であると共に、消化管の外側に存在する組織の保護および治療に有用である。ポリペプチドは、これらの領域における病変の治療または病変の形成を阻害するためのいずれかに用いることができる。後者の組織は、例えば、皮膚の外表面、眼の表面、鼻腔および呼吸器官の粘膜、ならびに尿生殖管を含む。
【0018】
最も一般的な細菌感染症の一つは、ヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)(H.pylori)によって引き起こされるもので、これは活動型慢性胃炎に至り、十二指腸潰瘍、胃潰瘍、胃癌、MALTリンパ腫、またはメネトリエ症候群のような関連する症候群にしばしば至る。ピロリ菌(H.pylori)を根絶すれば、十二指腸および胃潰瘍の再発が減少することが示されている。さらに、ピロリ菌の広範囲の治療により、全世界の癌関連死の死因の第二位である胃癌の発生率が低下すると考えられる。
【0019】
ピロリ菌感染症に関連した長期間持続する胃炎は、胃粘膜に腸様特徴が現れることにしばしば関連する。この状態は、腸化生(IM)と呼ばれ、胃癌の危険性が高いことのシグナルとなる可能性がある。IMの原因は不明である;これは、ピロリ菌感染症に対する変異的順応または防御の現れとなりうる。例えば、化生粘膜は、粘液または、ピロリ菌に対して敵対する環境を作るその他の物質を産生する可能性がある。ITFはピロリ菌感染症およびピロリ菌感染症に関連する疾患(例えば、潰瘍、胃癌、非潰瘍性消化不良、胃炎、および胃食道逆流疾患に関連した食道病変)の治療に用いることができる。ITFは、胃腸管に対する一般的なその保護作用のために、これらの疾患の治療に有用である。さらに、ITFは粘膜の統合性の維持を促進する。ITFを用いて、ピロリ菌による粘膜への接着または粘膜への定着を阻害することができる。この施用において、ピロリ菌による粘膜への接着または定着を阻害するITFまたはその断片もしくは変異体は有用である。そのような分子は、下記のピロリ菌結合アッセイを含む、当業者に既知のアッセイを用いて同定することができる。
【0020】
ITFはまた、ピロリ菌感染症に関連した疾患による組織障害の治癒を促進するために用いてもよい。この点において、三葉型蛋白質をコンフルエント腸上皮細胞の傷ついた単層に加えれば、上皮細胞が創傷部位に移動する速度が増加することは重要である。この効果は、杯状細胞の他の主要産物であるムチン糖蛋白質を同時に加えることによって増強される。
【0021】
ITFは、腸のような胃腸管または消化管のその他の部分を保護するために用いることができるのと同様に、ITFは放射線療法または化学療法によって生じた障害から口および食道を保護するために用いることができる。ITFはまた、アルコールまたは一般的には薬物によって生じた障害から保護する(すなわち、それらによって生じる損傷を阻害する)および/または治療するために用いることができる。ITFによって保護または治療することができるさらなる組織には、消化管の外側に存在する上記の組織が含まれる。
【0022】
ITFを含む三葉型ファミリーのメンバーは、上記の治療において用いることができる。当業者は、サンズら((Sands)、1996、Ann.Rev.Physiol.58:253〜273)におけるこれらの蛋白質を再検討してもよい。上記のように、本発明は、三葉型蛋白質の生物学的活性断片を含む。三葉型構造(すなわち三ループ構造)を保持する、または高度に保存された蛋白質の領域内に存在する断片は、特に有用である可能性がある。したがって、そのような断片は、三ループ構造のジスルフィド結合に含まれるほぼ最初のシステイン残基から三ループ構造のジスルフィド結合に含まれるほぼ最後のシステイン残基までのITFの部分を含むことができる。
【0023】
選択された三葉型蛋白質の変異体は、選択された三葉型蛋白質、好ましくはヒト三葉型蛋白質、より好ましくはヒトITFと、少なくとも60%、好ましくは少なくとも75%、より好ましくは少なくとも90%、および最も好ましくは少なくとも95%同一である。
【0024】
ポリペプチドまたはDNA配列に関して本明細書で用いられる「同一」という用語は、2つの分子の間のサブユニット配列の同一性を指す。参照配列との同一性が100%未満であるアミノ酸の場合、同一でない位置は、参照配列の保存的置換であることが好ましいが、必ずしもそうである必要はない。保存的置換は、典型的には以下の群の中での置換を含む:グリシン、アラニン;バリン、イソロイシン、ロイシン;アスパラギン酸、グルタミン酸;アスパラギン、グルタミン;セリン、トレオニン;リジン、アルギニン;およびフェニルアラニン、チロシン。配列同一性は典型的には、ウィスコンシン大学遺伝子コンピューターグループの配列分析ソフトウェアパッケージ(バイオテクノロジーセンター、1710 University Avenue, Madison, WI 53705)のような配列分析ソフトウェア、およびそれに明記された欠如パラメータを用いて測定される。
【0025】
選択された三葉型蛋白質の変異体は、好ましくは、蛋白質のより高度に保存されたアミノ酸の位置に、選択された三葉型蛋白質の天然型に存在するアミノ酸配列を有する。このように、ヒトITFの変異体は、好ましくは、より高度に保存された位置の全てにおいて、またはほぼ全てにおいて、天然のヒトITFと同一である。三葉型蛋白質における配列の保存は、当業者がより保存された残基を特定するために用いることができるサンズら(Sands、前記)の表1において、明らかである。
【0026】
本発明は、少なくとも1つの三葉型ポリペプチドまたはその生物学的活性断片を患者に投与することによって、患者の消化管における病変を治療、または病変の形成を阻害する方法を特徴とする。病変は、典型的には消化管の粘膜において発生し、患者の口、食道、胃、または腸に存在してもよい。病変はいくつかの方法で引き起こすことが可能である。例えば、患者は癌の治療のための放射線照射療法または化学療法の投与中であってもよい。これらの治療は典型的に、患者の口および食道に病変を引き起こす。当業者は、そのような治療が始まる前に、患者に本発明の蛋白質を投与することが有用でありうることを認識すると思われる。または、病変は(1)消化管を傷害する、アルコールを含むその他の薬物、(2)放射線もしくは原因物質への偶発的暴露、(3)感染症、または(4)非潰瘍性消化不良、胃炎、消化性もしくは十二指腸潰瘍、胃癌、MALTリンパ腫、メネトリエ症候群、胃食道逆流疾患、およびクローン病を含むがこれに限定されない消化管疾患、によって生じうる。
【0027】
消化管の外側に位置する組織はまた、炎症、病変、潰瘍、剥離、火傷、もしくはその他の創傷によってそれらの組織が傷害される、またはそれらの組織がそのような障害を受ける危険性がある事象において、少なくとも一つの三葉型ペプチドまたはその生物活性断片を患者に投与することによって治療することができる(すなわち、本方法を予防的に行うことができる)。
【0028】
投与すべきペプチドは、腸三葉型ペプチド(ITF)、鎮痙性ペプチド(SP)およびpS2のような三葉型ファミリーのいかなるペプチドであってもよい。ヒト患者の治療のために、ペプチドはヒト遺伝子によって発現されるであろうと予測される。しかし、ラットおよびマウスゲノムからクローニングされたペプチドのように、真核性の三葉型ペプチドもまた、有効である可能性がある。これらのペプチドは、天然の供給源から単離してもよく、組み換え技法によって合成してもよい。典型的な投与経路は経口であると予測される。その他の投与経路の決定、および有効投与量は、当業者の技術の範囲内で、これらの当業者に既知の多くの要因に依存すると思われる。三葉型蛋白質は、単剤で、互いに併用して、および/またはムチン糖蛋白質調製物と併用して投与してもよい。「病変の治療」とは、病変の形成阻害および既に形成された病変の治癒の双方を含む。病変の治癒を促進するかまたは病変の形成を阻害する三葉型蛋白質、特にITFの生物学的活性断片および変異体は、本発明の治療において有用である。
【0029】
本発明のポリペプチドはまた、診断目的に用いることができる。例えば、ポリペプチドは、組織、血清、およびその他の生物試料において、断片および類似体のような、腸三葉型因子および関連ポリペプチドを定量するためのアッセイにおいて用いることができる。多くの炎症性腸疾患、およびおそらく多くの他の炎症状態では、ITFの発現は減少している。このように、発現が比較的低い領域は、損傷した組織の存在を示す。
【0030】
または、ポリペプチドは、診断マーカーに結合させて、患者に投与することができる。この状況では、ポリペプチドによる、ポリペプチドの受容体を発現するあらゆる組織中への診断マーカーの分布が容易となると考えられる。診断マーカーは、検出することが可能ないかなる物質であってもよい。当業者は、本発明によって用いることができる無数の造影剤を十分認識している。
本発明のその他の特徴および利点は、その好ましい態様に関する以下の記述、および請求の範囲から明らかとなると思われる。
【0031】
詳細な説明
rITFの精製およびクローニング
ヒト乳癌由来BT-20細胞(ATCC HTB79)による軟寒天コロニー形成の阻害剤は、細胞学的に陽性のヒト悪性滲出物から単離した(ポドルスキーら(Podolsky)、Cancer Res.48:418、1988)。因子はまた、ヒト結腸癌由来HCT15細胞(ATCC-CCL225)による軟寒天コロニー形成を阻害した。阻害は、ポリオーマ、およびマウス肉腫ウイルスによって形質転換した齧歯類繊維芽細胞株については認められなかった。単離した因子(形質転換した細胞増殖阻害因子、またはTGIF)は、見かけの分子量が110,000 Daで、スルフヒドリル結合によって連結された2つの55,000 Daサブユニットからなると考えられた。
【0032】
精製蛋白質を部分的にシークエンシングした。アミノ末端のアミノ酸14個の配列を用いて、ラット腸上皮細胞cDNAライブラリのスクリーニングのために一連の縮重オリゴヌクレオチドプローブを製造した。
【0033】
ラット腸cDNAライブラリ(ラムダZAP°II、ストラタジーン、ラホヤ、CA)は、ワイスナー(Weisner、J.Biol.Chem.248:2536、1973)の方法によって精製された細胞を用いて、定法(アウスベルら(Ausubel)編、「分子生物学の現在のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)」、ジョン・ウィリー&サンズ、ニューヨーク、1989 )によって作製した。上記の完全な縮重オリゴヌクレオチドプローブによるcDNAライブラリのスクリーニングの結果、クローン21個が選択された。クローンの一つ(T3411)は、一つのオープンリーディングフレームをコードするコア配列を含んでいた。オープンリーディングフレームおよび隣接するDNAのヌクレオチド配列を図1(配列番号:1)に示す。T3411に存在するインサートにニックトランスレーション(アウスベルら(Ausubel)、前記)を行い、ラットポリ(A)+ RNAのノザンブロット分析のための放射性標識プローブを作製した。ノザン分析により、クローニングされたcDNA断片に対応するRNAが、小腸、大腸、および腎臓に発現されていることが示された;肺、脾臓、心臓、睾丸、筋肉、胃、膵臓または肝臓では発現は検出されなかった。RNAが発現された組織では、そのレベルはアクチンレベルと同等であった。
【0034】
クローンT3411のオープンリーディングフレームは、81アミノ酸のペプチド(図2;配列番号:2)をコードしていた。ラット腸三葉型因子(rITF)と称する、コードされたペプチドの配列を、ジェンバンク・データベースの蛋白質の配列と比較すると、ヒト乳癌関連ペプチド(pS2;ヤコレフら(Jakowlev)、Nucleic Acids Res.12:2861、1984)およびブタ膵臓の鎮痙性ペプチド(PSP;ティムら(Thim)、Biochem.Biophys.Acta.827:410、1985)との有意な相同性が明らかとなった。図3は、rITF、PSP、およびpS2の間の相同性を示している。ブタ膵臓鎮痙性因子(PSP)およびpS2はいずれも、三葉と称される特徴的な構造の中に折り畳まれていると考えられる。三葉型構造は、3つのジスルフィド結合によって形成された3つのループからなる。pS2は一つの三葉型を含むと考えられ(図4A)、PSPは2つの三葉を含むと考えられる(図4B)。PSPおよびpS2に最も類似しているrITFの領域(システインからフェニルアラニンまでをコードするヌクレオチド114位からヌクレオチド230位)は、システイン6個を含み、その全てがpS2において三葉型を形成するシステインと同じ位置に存在する(図3)。これらのシステイン6個中5個は、PSPのアミノ末端三葉を形成するシステインと同じ位置に存在する(図3)。図5は、提唱されたrITFのジスルフィド結合配置を示している。
【0035】
PSPおよびpS2との相同性(モリら(Mori)、Biochem.Biophys.Res.Comm.155:366、1988;ヤコレフら(Jakowlew)、Nucleic Acids Res.12:2861、1984)に基づき、rITFはアミノ酸22個中12個が疎水性側鎖を有するおそらくプロ配列(メチオニン1位〜アラニン22位)を含む。
【0036】
抗rITF抗体の製造
rITFのカルボキシ末端のアミノ酸21個に対応するペプチドを合成して、ウシ血清アルブミン(BSA)とカップリングさせた。この共役物(および非共役ペプチド)を用いて、ウサギにおいてポリクローナル抗体を作製した。全ての技法は、アウスベルら(Ausubel、前記)が記述したような標準プロトコルであった。ラット組織におけるrITFの可視化のため、抗rITF抗体を間接免疫蛍光アッセイにおいて用いた。ラット組織の凍結切片は、定法を用いて調製し、フルオレセイン標識ヤギ抗ウサギモノクローナル抗体(標識抗体は、カークガード&ペリー・ラボラトリーズ、ガイサースバーグ、メリーランド州;およびバイオプロダクツ・フォア・サイエンス、インク、インジアナポリス、インジアナ州のような供給業者から入手する)を用いて、ウサギ抗rITF抗体の結合を検出した。この分析により、rITFは小腸の杯状細胞に存在するが、胃または膵臓には存在しないと考えられる。
【0037】
ヒト腸三葉型因子のクローニング
ラット腸三葉型因子をコードするDNAを用いて、ヒト腸三葉型因子(rITF)をコードするcDNAクローンを同定することができる。これは、rITFに由来するプローブ、またはhITF遺伝子の一部に由来するプローブによって、ヒト結腸cDNAライブラリをスクリーニングすることによって達成されうる。後者のプローブは、hITF遺伝子の一部を単離するために、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて、ヒト結腸または腸cDNAから得ることができる。次に、このプローブは、hITF遺伝子の全てをコードするクローンの同定のための特異的プローブとして機能しうる。
【0038】
cDNAライブラリの構築
λgt10もしくはλgt11、またはその他の適したベクター内部のヒト結腸または腸のcDNAライブラリは、hITFの単離に有用である。そのようなライブラリは、購入してもよい(クロンテック・ラボラトリーズ、パロ・アルト、カリフォルニア州;HLI034a、HLI0346b)。または、ライブラリはヒト結腸または腸からの粘膜擦過標本を用いて作製ことができる。簡潔に述べると、本質的には、チャーグィンら((Chirgwin)、Biochemistry 18;5294、1979;アウスベルら(Ausubel)前記もまた参照)が記述したように、総RNAを組織から単離する。次に、オリゴ(dT)カラムを用いて、アビブら((Aviv)、J.Mol.Biol.134:743、1972;アウスベルら(Ausubel)前記もまた参照)の方法によって、ポリ(A)+ RNAを単離する。次に、オリゴ(dT)12-18またはランダム6量体プライマー(またはその両者)を用いて、逆転写により二本鎖cDNAを産生させる。次に、RNAアーゼHおよび大腸菌DNApolIを用いてRNA鎖を第二のDNA鎖に置換する。その後の段階において、大腸菌DNAリガーゼおよびT4 DNAポリメラーゼを用いて第二のDNA鎖におけるギャップを閉じ、平滑末端を作製する。一般に、作製されたcDNAを次に、EcoRIメチラーゼ用いてメチル化し、EcoRIリンカーを加える(用いるベクターに応じてその他のリンカーを用いることができる)。その後の段階において、制限酵素消化によって過剰なリンカーを除去し、cDNA断片を望ましいベクターにインサートする。詳しいプロトコルに関しては、アウスベルら(Ausubel)前記およびサムブルックら((Sambrook)(1989)、「分子クローニング:実験マニュアル」(Molecular Cloning:A Laboratory Manual)CSHラボラトリー・プレス、コールド・スプリング・ハーバー、ニューヨーク(1990))を参照のこと。
【0039】
有用なベクターは、λgt11、λgt10、登録商標ラムダZAP IIベクター、登録商標ラムダUni-ZAP XRベクターを含み、これらは全てストラタジーン(ラホヤ、カリフォルニア州)から入手できる。
【0040】
cDNAライブラリはファージにパッケージングしなければならない;これは、市販のインビトロパッケージングキット、例えば登録商標ギガパックIIゴールド、または登録商標ギガパックIIプラス(ストラタジーン、ラホヤ、カリフォルニア州)を用いてごく容易に行うことができる。パッケージングプロトコルおよび適した宿主株に関しては、アウスベルら(Ausubel、前記)を参照のこと。ライブラリは、パッケージングの後速やかに増幅することが好ましい;この段階により、ライブラリの多数のスクリーニングに十分なクローンが得られる。増幅プロトコルおよび増幅したライブラリの保存技法の詳細に関しては、アウスベルら(Ausubel、前記)およびサムブルックら(Sambrook、前記)を参照のこと。
【0041】
cDNAライブラリのスクリーニング
ライブラリをスクリーニングするためには、それが適当な宿主株上(例えば、λgt10ライブラリに関してはY1090またはY1088、λgt10ライブラリに関してはC600hflA)になければならない。ファージをプレーティングした後、プラークをニトロセルロースまたはナイロン濾紙に移す(アウスベルら(Ausubel、前記)およびサムブルックら(Sambrook、前記)参照)。次に、濾紙をrITFに由来するニックトランスレーションを行ったα-32P標識プローブで調べた。プローブは、三葉型構造をコードするrITF DNAの領域の一部(配列番号:2のシステイン32〜フェニルアラニン71までをコードする、配列番号:1のヌクレオチド114位〜230位)を用いて作製することが好ましい。この領域は、rITF、pS2およびPSPの間で保存されており、またこの領域はrITFとhITFの間で保存されている可能性がある。プラークを同定した後、hITFをコードする純粋なクローンを単離するためには、プラーク精製のいくつかのサイクルを必要とする。ファージDNAを単離し、制限マッピングおよびシークエンシングのため、適当なベクターにcDNAインサートをサブクローニングすることができる。ファージベクターが登録商標ラムダZAP IIの場合、ヘルパーファージに同時に感染させると、cDNAを中に含むpBluescript SK-ファージミドベクター(ストラタジーン、ラホヤ、カリフォルニア州)の検出および再環状化が可能になる;または、ファージクローンを精製して、制限マッピングおよびシークエンシングに適したベクターにcDNAインサートをサブクローニングする。クローンが全hITF遺伝子を含んでいない場合(rITFとの相同性と開始および停止コドンの存在によって評価)、最初のrITFプローブを用いて、好ましくは得られたhITFクローンから生じたプローブによって、ライブラリを再度スクリーニングすることができる。いずれのクローンも完全な遺伝子を含んでいない場合、hITFの重なり合う断片を有するクローンから、クローンを再構築することができる。
【0042】
PCRによるhITFプローブの直接単離
パッケージングしたライブラリまたはcDNAから直接、hITF遺伝子の一部を単離することが可能である。パッケージングしたライブラリから直接hITFの一部を単離するためには、1対のオリゴヌクレオチドプライマーとTaqポリメラーゼを用いて、hITF遺伝子に対応するDNAを増幅する。用いるプライマーの長さは、およそ15〜20ヌクレオチドで、rITFコード配列の最も5'のおよび最も3'の部分までの配列に対応する。フリードマンら(Friedman)(「PCRプロトコル:方法と応用のための手引き」イニスら(Innis)編、アカデミック・プレス、サンジエゴ、カリフォルニア州)は、そのような増幅のための手順について記述している。簡潔に述べると、ファージ粒子を加熱して破壊する;Taqポリメラーゼ、プライマー(それぞれ300 pmol)、dNTP、およびTaqポリメラーゼ緩衝液を加える;ならびに混合液をサーマルサイクルしてDNAを増幅する。増幅されたDNAをアガロースゲル電気泳動によって単離する。断片の末端は、適当なベクターの中にライゲーションするために、それらをT4ポリメラーゼで平滑化し、必要に応じて、リンカーを加えることによって準備する。または、制限部位は、その配列を消化した場合に適当な付着末端を生じるような配列を5'末端に加えたプライマーを用いることによって、断片の中に操作して加えてもよい。例えば、配列:5'-GGGCGGCCGC-3'(配列番号:4)は、各プライマーの5'末端に加えることができる。この配列は、配列:GCによって5'末端に隣接するNotI制限部位を含む。さらなるヌクレオチドがあれば、5'末端の変性を防止し、NotIによるその後の制限酵素消化の妨害が防止される。適当な大きさのゲル精製DNAを次に、シークエンシングおよび制限マッピングのためにクローニングベクターにクローニングする。このクローンは、全hITF配列を有するのではなく、むしろhITF(プライマーに対応する配列間の領域)とrITF(プライマー配列に対応する5'末端と3'末端)の組み合わせであろう。しかし、このDNAは、正しいrITF配列であるため、cDNAが最初に単離されたライブラリの高ストリンジェンシー・スクリーニングにおいて用いることができる標識プローブ(ニックトランスレーションまたはランダムプライマー標識によって生じる)を作製するために用いることができる。もう一つのアプローチにおいて、cDNAは、上記技法においてパッケージングライブラリの代わりに用いることができる。これにより、cDNAパッケージングおよびライブラリ増幅と共に、ベクターへの挿入のためのcDNAの修飾段階が省略される。アウスベルら(Ausubel、前記)は、cDNAから直接的に特定のDNA断片を増幅するプロトコルおよびポリ(A)+ RNAからの増幅プロトコルを提供している。
【0043】
推定のヒトITFクローンの同定
rITF cDNAに由来するニックトランスレーションを行ったプローブ(配列番号:1のヌクレオチド1位〜431位に対応)を、ヒト腸粘膜擦過標本に由来するポリ(A)+ RNAのノザンブロット分析に用いた。プローブのハイブリダイゼーションおよびブロット洗浄は、定法に従って実施した。プローブ(5×105 cpm/mlハイブリダイゼーション緩衝液)を45℃で30%ホルムアミドを含む5×SSC中で濾紙にハイブリダイズさせた。次に、濾紙を60℃で40%ホルムアミドを含む5×SSC中で洗浄した。このプロトコルを用いて、濾紙を強化スクリーンに一晩暴露するとバンドが明確に可視化された。この結果は、rITFとhITFの間には、rITF遺伝子配列に由来するプローブをhITF遺伝子の同定に用いることができるほど十分な相同性が存在することを示している。
【0044】
ヒト腸cDNAライブラリは、クロンテック(パロアルト、カリフォルニア州)から得た。または、ヒト腸cDNAライブラリは、上記のように、粘膜擦過標本から作製することができる。ライブラリcDNAのスクリーニングのために、4つのオリゴヌクレオチドプローブを選択した。プローブの2つは三葉をコードするrITFの領域内部の配列に対応し、内部プローブと呼ぶ(5'-GTACATTCTGTCTCTTGCAGA-3'(配列番号:5)および5'-TAACCCTGCTGCTGCTGGTCCTGG-3'(配列番号:6))。他の2つのプローブはrITFの内部であるが三葉コード領域の外部にある配列を認識し、外部プローブと呼ぶ(5'-GTTTGCGTGCTGCCATGGAGA-3'(配列番号:7)および5'-CCGCAATTAGAACAGCCTTGT-3'(配列番号:8))。これらのプローブが、上記のラット腸cDNAライブラリをスクリーニングするため用いることができるか否かを調べた。4つのプローブのそれぞれを用いて、rITF遺伝子の全てまたは一部を含むクローンを同定することができた。この結果は、hITFの存在下でヒト腸ライブラリをスクリーニングするために、これらのプローブを用いてもよいことを示している。
【0045】
内部プローブを上記のように用いて、ヒト結腸ライブラリcDNAからのDNA断片を増幅した(クロンテック、パロアルト、カリフォルニア州)。単離したDNA断片にリンカーを加えて、次にpBluescriptファージミドベクター(ストラタジーン、ラホヤ、カリフォルニア州)にインサートした。ヒトcDNAの配列に対応するこのクローンの領域(すなわち、内部プローブに対応する配列を含まない)を用いて、ランダムオリゴヌクレオチド・プライミング合成(アウスベルら(Ausubel)、前記)によって放射性標識プローブを作製した。次に、このプローブを用いて、ヒト結腸cDNAライブラリをスクリーニングした。このスクリーニングにより、クローン29個が同定された。これらのクローンの一つ(HuPCR-ITF)にニックトランスレーションを行うと、ヒト腸粘膜擦過標本から単離したポリ(A)+ RNAのノザン分析のためのプローブが得られた。ラット転写物とほぼ同じ大きさの一本のバンド(およそ0.45 kDa)が認められた。
【0046】
ヒト組織から単離したポリ(A)+ RNAのノザン分析は、このプローブに対応するRNAが小腸および大腸で発現されたが、胃または肝臓では発現されないことを示した。これらの結果は、クローンがブタPSPのヒト相同体をコードしていないことを示している。ブタPSPはブタ膵臓において発現され、小腸または大腸では有意に発現されていない。これらの結果はまた、クローニングした遺伝子を胃において発現されるpS2とも区別する。
【0047】
図6は、ヒトITF cDNAに関する核酸配列情報を、1文字コードで示す推定アミノ酸配列(配列番号:3)と共に示す。このクローンは上記の方法によって得た。
【0048】
hITFの製造
単離したhITF遺伝子は、蛋白質発現のために、哺乳類発現ベクターにクローニングすることができる。適当なベクターは、デキサメタゾン誘発可能なMMTV-LTRプロモーターに連結したRSV-LTRエンハンサーを提供するpMAMneo(クロンテック、パロアルト、カリフォルニア州)、SV40複製起点(COS細胞における複製を可能にする)、ネオマイシン遺伝子、およびSV40スプライシングおよびポリアデニル化部位を含む。このベクターは、COS細胞、CHO細胞、またはマウス繊維芽細胞における蛋白質の発現に用いることができる。遺伝子はまた、バキュロウイルス発現系を用いて、キイロショウジョウバエ細胞に発現させるために、ベクターにクローニングしてもよい。
【0049】
腸三葉型因子の精製
腸三葉型因子は、ITFを発現するヒト、ラットまたはその他の種の腸粘膜擦過標本(ブタおよびウシはITF源を提供する可能性がある)から精製することができる。PSPに用いた精製技法は、蛋白質は相同である可能性があるため、ITFの精製にとっても有用であろう。ジョージェンセンら(Jorgensen)は、PSPの精製法を記述している(Regulatory Peptides 3:207、1982)。好ましい方法は、ヨーゲンセンら(Jorgensen、前記)が記述した第二のアプローチである。この方法は、酸性緩衝液中でのSP-セファデックスC-25およびQAEセファデックスA-25カラム(シグマ、セントルイス、ミズーリ州)のクロマトグラフィーを含む。
【0050】
抗腸三葉型因子モノクローナル抗体
抗腸三葉型因子モノクローナル抗体は、その配列がクローニングしたhITFの推定アミノ酸配列(配列番号:3)に基づく合成ペプチドに対して作製することができる。最も一般的なペプチドは、関係蛋白質(ここでは、hITF)のアミノ末端またはカルボキシ末端のアミノ酸10〜20個に基づく。ペプチドは通常、ウシ血清アルブミンまたはキーホール・リンペット・ヘモシアニンのような担体分子に化学的にクロスリンクさせる。本来のhITFと交叉反応する抗体を製造する目的で、ペプチドを選択する。したがって、ペプチドは関係ペプチドの抗原性領域に対応するはずである。これは、(1)表面が暴露された、例えば、疎水性領域、または(2)比較的柔軟な、例えば、ループ領域またはβ-ターン領域、である蛋白質の領域を選択することによって得られる。いずれにせよ、ペプチドが担体にカップリングするならば、カップリング反応に関与することができる側鎖を有するアミノ酸を有するに違いない。抗原性ペプチドの選択に関係する問題の考察に関しては、ホップら(Hopp)(Mol.Immunol.20:483、1983;J.Mol.Biol.157:105、1982)を参照のこと。次に検討することは、免役すべき動物におけるhITFと相同な蛋白質の存在である。そのような蛋白質が存在する場合、その相同体と高度に相同でないhITFの領域を選択することが重要である。
【0051】
hITFに関しては、アミノ末端またはカルボキシ末端のアミノ酸15個に対応するペプチドは、種間の相同性が低く、表面に暴露されている(このため抗原性である)可能性がある。このように、それらはモノクローナル抗体の製造に関しては好ましい。精製hITFはまた、抗体の製造のために用いることができる。
【0052】
三葉型蛋白質の遺伝子破壊は腸粘膜の防御を損なう
上記のように、ITFは、胃腸管の粘膜表面に特異的かつ豊富に発現される三葉型蛋白質ファミリーのメンバーである。このファミリーのその他のメンバーは、ほぼ胃の小窩細胞によってのみ発現されるpS2(マシアコフスキーら(Masiakowski)、Nucl. Acids. Res.10:7896、1982;ヨーゲンセンら(Jorgensen)、Regulatory Peptides 3:231、1982)、および膵臓および胃前庭部によって発現される膵臓の鎮痙性ペプチド(SP)(ヨーゲンセンら(Jorgensen)、前記)を含む。上記のように、これらの蛋白質の発現は損傷した腸の近位では増強される。ITFのインビボでの役割を調べるために、マウスにおける標的破壊によって遺伝子を非機能的にした。
【0053】
マウスITF遺伝子の単離およびITF欠損マウスの作製
マウスITF遺伝子は、ラットITF cDNA配列をプローブとして用いて、ファージゲノムライブラリから単離し、定法を用いてヌクレオチドシークエンシングによって、その同一性を確認した(マシモら(Mashimo)、Biochem.Biophys.Res.Comm.210:31、1995)。
【0054】
胎児幹(ES)細胞における相同組み換えによる遺伝子破壊のための標的ベクターを、図7に示すようにデザインして構築した。XbaI-EcoRI断片内に含まれるマウスITF遺伝子の第二エキソン(Ex2)全体を、ネオマイシン耐性(neo)遺伝子カセットに置換した。欠失配列は「三葉型ドメイン」の多くをコードするため、得られたペプチドが三葉型蛋白質のループ構造の特徴を生じる能力は失われる。陽性-陰性選択法(マンサーら(Mansour)、Nature 336:348、1998)を用いて、相同DNA内でneoを含み、標的ベクターの3'末端に存在する単純ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(hsv-tk)を含まないものを選択することによって、胎児(ES)幹細胞における相同組み換え事象を豊富にした。pPNTプラスミド(チブルウィッツら(Tybulewics)、Cell 65:1153、1991)を用いて、標的ベクターを構築した。標的ベクターは制限酵素NotIで直鎖状にし、既に記述した条件下(ストリットマターら(Strittmatter)、Cell 80:445、1995)で、多能性J1 ES細胞内に電気穿孔した(リら(Li)、Cell 69:915、1992)。相同組み換えの後のES細胞におけるITF遺伝子の破壊は、制限酵素XhoIで消化した細胞の個々のクローンからのゲノムDNAのサザンブロット分析による標的ベクターのランダム組み込みと区別された。pITF2プローブは、19 kbの「野生型」断片および標的ベクターの相同挿入に基づくXhoI部位の導入により作製された23 kbの「ノックアウト」断片を確認した。ネオマイシン耐性ESクローンの約10%が、この方法を用いた相同的なITF組み換えを受けたことが判明した。
【0055】
ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)を用いて以下のような標的変異を確認した。DNAの200 bp領域を、ITFのエキソン2に及ぶプライマーを用いて増幅した(5'-GCAGTGTAACAACCGTGGTTGCTGC-3'(配列番号:9)および5'-TGACCCTGTGTCATCACCCTGGC-3'(配列番号:10));およびneo遺伝子の400 bp領域はもう一組のプライマーによって増幅した(5'-CGGCTGCTCTGATGGCCGCC-3'(配列番号:11)および5'-GCCGGCCACAGTCGATGAATC-3'(配列番号:12))。PCR反応のためのDNA鋳型は、尾の組織から得た。尾の約0.5 cmを各動物から切断し、試料をプロテイナーゼK(50 mMトリス塩酸、pH 8.0および0.5%トライトンX-100を含む溶液で0.5 mg/mlを200 μl;シグマ、セントルイス、ミズーリ州)で55℃で一晩消化した。この混合液1μlをPCR反応液25 μlに直接加えた(パー・ストラタジーン、メノシャ、ウィスコンシン州)。反応は「ホット・スタート」(96℃で10分インキュベーション)で始め、以下のサイクルを30回繰り返した:72℃を120秒(ハイブリダイゼーションおよび伸長)および96℃で30秒(変性)。各反応混合液10 μlを2%アガロースゲル上で電気泳動した。野生型動物は、無傷のITF遺伝子に対応する200 bp断片の存在によって確認し、ヘテロ接合動物はこのバンドと、さらに、neo遺伝子の増幅によって生じた400 bp断片の存在によって確認し、ITF-欠損(ノックアウト)動物はneo遺伝子に対応する断片のみの存在によって確認した。
【0056】
独立して生じた2つのESクローンを用いて、ITFを欠損する2系統のマウスを導出した。これらのマウスはESクローンについて記述したように、サザンゲノムブロット分析によって、またはPCRによってスクリーニングした。
【0057】
野生型および変異マウスにおける三葉型ペプチド発現の分析
ITFの発現は変異マウスにおいて失われているが、その他の三葉型遺伝子の発現は保存されている。ノザンブロット分析は、ITF(スエモリら(Suemori)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 88:11017、1991)、SP(ジェフリーら(Jeffrey)、Gastroenterology 106:336、1994)、および陽性対照としてグリセルアルデヒド3-リン酸デヒドロゲナーゼ(GAPDH)に対するcDNAプローブを用いて実施した。マウスpS2に対する核酸プローブは、発表されたマウスpS2 cDNA配列(ゲンバンク寄託番号:Z21858)に基づいて合成されたオリゴヌクレオチド対:5'-GAGAGGTTGCTGTTTTGATGACA-3'(配列番号:13)および5'-GCCAAGTCTTGATGTAGCCAGTT-3'(配列番号:14)を用いて、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT-PCR)によって作製した。GeneAmp RNA PCRキット(パーキン・エルマー)を、登録商標pCR II(インビトロゲン)クローニングベクターと共に、製造元の指示に従って用いた。RNAは野生型およびITF欠損(ノックアウト)マウスの双方の以下の組織から抽出した:胃、十二指腸、末端回腸、右結腸、虫垂、横行結腸、左結腸および直腸。各試料からの総RNA 15μgを1%アガロースゲル上で電気泳動しニトロセルロース紙に移した。ハイブリダイゼーション、洗浄、およびオートラジオグラフィー後、野生型のマウスは正常と思われる組織発現パターンを示した:ITFは小腸および結腸に発現され、これはラットおよびヒトにおけるITFについて認められた発現パターンと同じであった。変異マウスの分析により、胃腸管におけるITF発現の欠如を確認した。対照的に、その他の三葉型蛋白質である、SPおよびpS2の発現は、変異マウスの胃腸管において不変である。SPは胃において発現され、より低いレベルでは、野生型および変異マウスの双方の十二指腸に発現された。同様に、pS2は野生型およびITF欠損マウスの双方の胃に発現された。
【0058】
免疫細胞化学によりITF欠損マウスの結腸にはITFが発現されていないことが明らかになる
ITFノックアウトマウスでは、ITF蛋白質が発現されていないことを確認するため、免疫細胞化学を以下のように実施した。結腸および小腸からの組織を還流の過程において固定し、4%パラホルムアルデヒドに浸して(マックリーンら(McLean)、J.Histochem.Cytochem.22:1077、1974)、パラフィンに抱埋した。切片を回収して、マウスITFのカルボキシ末端の予想されるアミノ酸18個からの合成ペプチドに対して作製されたポリクローナル抗体、または結腸ムチンに対するモノクローナル抗体(ポドルスキーら(Podolsky)、J.Clin.Invest.77:1263、1986)のいずれかによって染色した。一次抗体結合は、製造元の指示に従って、ビオチン化二次抗体、アビジンDH、ビオチン化ホースラディッシュペルオキシダーゼH、およびジアミノベンジジン4塩酸試薬によって可視化した(ベクタステイン(Vectastain)ABC、ベクター・ラボラトリーズ、ビューリンガム、カリフォルニア州)。免疫細胞化学の後、切片をヘマトキシリンで対染色して観察した。野生型マウスの結腸における杯状細胞は、両抗体に対して免疫反応性で、ITFおよびムチンに対して陽性染色反応を示した。対照的に、ITF欠損マウスの結腸における杯状細胞は検出可能なITFを欠損しているが、結腸ムチンは発現し続けた。
【0059】
デキストラン硫酸ナトリウムによる軽度の結腸上皮障害の誘導
各ESクローンに由来するITF欠損マウスは、正常に発育するように思われれ、ヘテロ接合マウスおよび野生型の同腹子の兄弟たちと外観は区別がつかない。彼らの成長は遅延せず、明確な下痢または便潜血もなく成熟に達した。しかし、ITF欠損マウスの結腸は、野生型マウスの結腸より損傷を受けやすい可能性がある。この仮説を調べるため、マウスにおいて潰瘍化を伴う軽度の結腸上皮損傷を再現性よく生じる(キムら(Kim)、Scand.J.Gastroent.27:529、1992;ウェルズら(Wells)、J.Acquired Immune Deficiency Syndrome 3:361、1990;オカヤスら(Okayasu)、Gastroenterology 98:694、1990)デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)を、動物の飲料水に混ぜて投与した。比較可能な野生型マウスにおけるDSSの効果の標準化後、野生型マウス20匹およびITF欠損マウス20匹(ヘテロ接合交配からの同腹子兄弟、各体重>20 g)の群を2.5%DSSを飲料水に混ぜて9日間処置した。
【0060】
DSSを処置した野生型マウスの85%およびITF欠損マウスの100%が、治療期間中に便潜血(ヘモクルト、スミスクラインディアグノスティックス、サンノゼ、カリフォルニア州)を示すが、ITF欠損マウスはDSSの損傷効果に対して顕著に感受性が高かった。ITF欠損マウスの50%が明らかに血便を示し、死亡した(図8)。対照的に、血便を示したのは同様に処置した野生型マウスでは10%に過ぎず、死亡したのは5%に過ぎなかった。体重減少もまた、ITF欠損マウスではDSSを投与した野生型マウスより有意に顕著であった。
【0061】
デキストラン硫酸ナトリウム(DSS)処置したITF欠損マウスは重度結腸びらんを発症する
DSS(2.5%w/v)による処置の7日後、野生型およびITF欠損マウスの結腸を組織学的に調べた。左結腸の横断面を4%パラホルムアルデヒドで固定し、パラフィンに抱埋して、ヘマトキシリン・エオジンで染色した。ITF欠損マウスの結腸には、明確な潰瘍化および出血を示す多数の部位が存在したのに対し、ほとんどの野生型マウスの結腸は、無処置マウスの結腸と肉眼的に区別がつかなかった。DSS処置ITF欠損結腸の組織学的検査により、多数のびらんおよび腺窩膿瘍を含む強度の炎症性変化の存在が確認された。損傷は遠位結腸、すなわち下行結腸、S字結腸、および直腸ではより顕著で、ここでは、大きい広範囲の粘膜潰瘍化を含んだ。同様に検査すると、粘膜のびらんはDSS処置野生型マウスの80%の組織においても認められたが、ほとんどが治癒するように思われる小さい病変で、ほとんどの病変の完全な再上皮形成を認めた。DSSに暴露したITF欠損マウスの結腸では再上皮形成の徴候を認めなかった。
【0062】
生長および発育の正常な過程において、腸上皮細胞は腸陰窩における幹細胞から発生し、陰窩および絨毛の上まで急速に進行し、5日以内に絨毛の先端から押し出された。腸損傷の後、上皮のカバーリングは、上皮および間葉細胞増殖ならびにマトリクス形成の制御によって、病変を治癒させるシグナルを産生すると考えられる細胞によって再構築される(ポールソンら(Poulsom)、J.Clin.Gastroenterol. 17:S78、1993)。インビトロ証拠は、三葉型蛋白質が損傷後の粘膜統合性の再確立に重要な役割を果たしていることを示唆している。近位胃腸管へのSPおよびpS2発現の正常な制限にもかかわらず、これらの三葉型蛋白質およびITFは結腸損傷および修復部位に豊富に発現されている。上記のDSSモデルは、ITF、その他の三葉型ペプチド、またはその活性ポリペプチド断片または変異体の保護作用を試験する系を提供する。試験すべき分子を、野生型またはITF欠損マウスのいずれかのDSS処置マウスに投与して、上記アッセイを実施することにより、その分子が治療効果を有するか否かを決定することができる。
【0063】
DSSの使用に加えて、消化管の内側の粘膜を傷害することが知られているいかなる化学化合物も、本発明の蛋白質のアッセイに用いることができる。これらの化合物は、アルコール、インドメタシン、およびメソトレキサートを含むがこれに限定しない。例えば、メソトレキサート(MTX)は、40 mg/kgの用量をマウスに腹腔内投与することができる。MTX処置動物の一群にさらに、試験すべき蛋白質を投与することができる。次に、これらの動物の体重、消化管における病変の有無、および死亡率のような様々なパラメータを、蛋白質で処置していない動物から得た同等の測定値と比較することができる。
【0064】
インサイチューピロリ菌結合アッセイ
所定の蛋白質(または蛋白質の断片または変異体)がピロリ菌感染症に関連した疾患の予防または治療に有用であるか否かを調べる一つの方法は、ピロリ菌感染症の確立された動物モデルにおいてそれを調べることである。そのようなモデルの一つが最近、フォークら((Falk)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 92:1515〜1519、1995)によって開発された。このモデルは、酵素α-1,3/4-フコシルトランスフェラーゼを発現し、その結果、ピロリ菌の臨床単離菌に結合する粘膜細胞の表面上にLebを発現するするトランスジェニックマウスを用いることを含む。ITFのような蛋白質をこの系に加えて、粘膜細胞に対するピロリ菌の結合レベルが減少すれば、蛋白質はピロリ菌の阻害剤と見なされるであろう。より詳しく述べると、アッセイは以下のように実施することができる。例えば、ピロリ菌を胃潰瘍または慢性活動性胃炎の患者から採取し、定常期まで増殖させ、例えば、ジゴキシゲニンまたはフルオレセイン・イソチオシアネート(FITC)で標識する。次に、標識した菌を関係蛋白質と共に、成獣のトランスジェニックマウス(上記)の胃、十二指腸、または肝臓から調製した凍結切片に暴露する。対照として、野生型同腹子兄弟からの組織を用いて実験を平行に実施することができる。切片を氷冷メタノールで5分間固定し、洗浄緩衝液(TBS;0.1 mM CaCl2、1 mM MnCl2、1 mM MgCl2;10分/サイクル)で3回すすぎ、ブロッキング緩衝液(ベーリンガー・マンハイム;フォークら(Falk、前記)も参照)で処置する。菌を希釈緩衝液(リューペプチン(1μg/ml)、アプロチニン(1μg/ml)、[-1-p-トシルアミド-2-フェニルエチル・クロロメチルケトン(100 μg/ml)]、フェニルメチルスルフォニルフルオライド(100 μg/ml)、およびペプスタチンA(1μg/ml)を含むTBS;0.1 mM CaCl2、1 mM MnCl2、1 mM MgCl2)でOD600が0.05となるまで希釈し、湿潤チャンバー内で室温で2時間切片上に重層する。次にスライドを回転プラットフォーム(室温で5分/サイクル)上で洗浄緩衝液で6回洗浄する。ジゴキシゲニン標識細菌を、洗浄したスライド上で、組織ブロッキング緩衝液で1:100に希釈したFITC結合ヒツジ抗ジゴキシゲニン免疫グロブリン(ベーリンガー・マンハイム)で可視化する。核はビスベンズイミド(シグマ)で染色した。ブロッキング対照として、ジゴキシゲニンに結合した定常期の菌をOD600が0.05となるように希釈緩衝液中に懸濁し、室温で1時間Leb-HSAまたはLea-HSA(最終濃度、50 μg/ml;反応混合液、200 μl)の有無によらず振盪した。次に懸濁液をメタノール固定凍結切片上に重層する。
【0065】
用途
本発明の実践において、ITFは下記のように、消化性潰瘍疾患、炎症性腸疾患を治療するために、細菌感染症、放射線障害、またはその他の障害によって引き起こされる損傷から腸管を保護するために、投与してもよい。消化管の一部でない組織もまた治療することができる。これらの組織は、皮膚、眼の角膜表面、ならびに呼吸器および尿生殖管内の組織を含む。ITFの投与、投与量、および剤形の様相は治療すべき疾患に依存するであろう。治療レジメに関するさらなる手引きを下記に示す。さらに、本発明のポリペプチドおよび組成物は保護作用を発揮すると思われるため、損傷が起こる前に治療を始めてもよい。
【0066】
その他の態様
抗体の製造
ITFは、間接イムノアッセイを用いて腸組織または血清中にITFを検出するためにモノクローナル抗体を製造するために用いてもよい。ITFは、ITF結合部位を検出するために、検出可能に標識してインサイチューハイブリダイゼーションアッセイにおいて用いてもよい。標識は、フルオレスセインまたは放射性リガンドを含んでもよいがこれに限定しない。
【0067】
ITFは、その他の蛋白質を保護および安定化させるために用いてもよい。この保護は、ITFの全てまたは一部が関係蛋白質のカルボキシ末端またはアミノ末端のいずれか(または双方)に融合するハイブリッド分子を形成することによってなされる。ITFは、消化系における分解に抵抗性であるため、そのような分解から関係蛋白質を保護するであろう。その結果、関係蛋白質は消化系において活性を保持し、および/または完全な形でより容易に吸収されるであろう。
【0068】
安定な二量体三葉型蛋白質は、本発明の方法に用いることができる。そのような分子は、三葉の1量体を安定にクロスリンクさせることによって、または三葉型蛋白質(例えば、ITF)またはその一部(例えば、三葉型蛋白質に特徴的な三ループ構造を形成することができる部分)のタンデムリピートをコードする遺伝子を発現することによって、調製することができる。化学合成によって製造された三葉型蛋白質もまた本発明の方法において有用である。
【0069】
本発明はまた、本発明のポリペプチド、すなわちITFのような三葉型ポリペプチドに結合する抗体を含む。これらのポリペプチドまたはその断片の一つ以上のエピトープを特異的に認識する抗体もまた、本発明に含まれる。そのような抗体は、ポリクローナル抗体、モノクローナル抗体(mAb)、ヒトに適合させたまたはキメラ抗体、1本鎖抗体、Fab断片、F(ab')2断片、Fab発現ライブラリによって生じた断片、抗イディオタイプ(抗-Id)抗体、および上記のいずれかのエピトープ結合断片を含むがこれに限定しない。
【0070】
本発明の抗体は、例えば、生物学的試料中のITFの検出において用いてもよく、したがって、それによって患者のITFの異常量の有無について検査してもよい診断または予後技術の一部として利用してもよい。典型的に、ITFの発現は、炎症性腸疾患(例えば、結腸炎)によって引き起こされる場合のように、病変の非常に近接部ではダウンレギュレートされている。
【0071】
抗体の製造のためには、例えばITFにおいて存在する配列を有するペプチドを注射することによって、様々な宿主動物を免役してもよい。そのような宿主動物は、挙げてもわずかで、ウサギ、マウス、およびラットを含んでもよいがこれに限定しない。宿主の種に応じて、フロイントの(完全または不完全)アジュバント、水酸化アルミニウムのような鉱物ゲル、リゾレシチンのような界面活性物質、プルロン酸ポリオール、ポリアニオン、ペプチド、油性懸濁剤、キーホール・リンペットヘモシアニン、ジニトロフェノール、ならびにBCG(カルメット・ゲラン桿菌)およびコリネバクテリウム・パルバム(Corynebacterium parvum)のようなおそらく有用なヒトアジュバントを含むがこれに限定しない、様々なアジュバントを用いて免疫応答を増加させてもよい。ポリクローナル抗体は免疫した動物の血清に由来する抗体分子の不均一な集団である。
【0072】
特定の抗原に対する抗体の均一な集団であるモノクローナル抗体は、培養した連続細胞株によって抗体分子の製造を提供するいかなる技法によっても得てもよい。これらは、コーラー&ミルステン((Kohler and Milstein)、Nature 256:495〜497、1975;および米国特許第4,376,110号)のハイブリドーマ技法、ヒトB細胞ハイブリドーマ技法(コスボーら(Kosbor)、Immunology Today 4:72、1983;コールら(Cole)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 80:2026〜2030、1983)、およびEBV-ハイブリドーマ技法(コールら(Cole)、「モノクローナル抗体と癌療法」、(Monoclonal Antibodies And Cancer Therapy)、アランR.リス、インク、77〜96頁、1985)を含むがこれに限定しない。そのような抗体は、IgG、IgM、IgE、IgA、IgD、およびそのいかなるサブクラスを含むいかなる免疫グロブリンクラスであってもよい。本発明のmAbを製造するハイブリドーマは、インビトロまたはインビボで培養してもよい。インビボでのmAbの高力価の製造により、これは、現在好ましい製造法となる。
【0073】
さらに、適当な生物活性を有するヒト抗体分子の遺伝子と共に、適当な抗原特異性を有するマウス抗体分子からの遺伝子のスプライシングによって「キメラ抗体」(モリソンら(Morrison)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 81:6851〜6855、1984;ニューバーガーら(Neuberger)、Nature,312:604〜608、1984;タケダら(Takeda)、Nature,314:452〜454、1985)の製造のために開発した技法を用いることができる。キメラ抗体は、マウスmAbに由来する可変領域およびヒト免疫グロブリン定常領域を有する抗体のように、異なる部分が異なる動物種に由来する分子である。
【0074】
または、一本鎖抗体の製造のために記述した方法(米国特許第4,946,778号;バード(Bird)、Science 242:423〜426、1988;ハストンら(Huston)、Proc.Natl.Acad.Sci.USA 85:5879〜5883、1988;およびワードら(Ward)、1989、Nature 334:544〜546、1989)は、ITFのような三葉型ポリペプチドに対する一本鎖抗体を製造するために適合させることができる。一本鎖抗体はアミノ酸架橋を通じてFv領域の重鎖および軽鎖断片を連結させることによって形成され、一本鎖ポリペプチドが得られる。
【0075】
特異的エピトープを認識する抗体断片は、既知の技法によって製造してもよい。例えば、そのような断片は、抗体分子のペプシン消化によって生じることができるF(ab')2断片、およびF(ab')2断片のジスルフィド架橋を還元することによって生じることができるFab断片を含むがこれに限定しない。または、望ましい特異性を有するモノクローナルFab断片の迅速かつ容易な特定を可能にするために、Fab発現ライブラリ(ヒューズら(Huse)、Science,246:1275〜1281、1989)を構築してもよい。
【0076】
これらの抗体は今度は、当業者に周知の技法を用いて、ITFを模する抗イディオタイプ抗体を製造するために用いることができる。(例えば、グリーンスパン&ボナ(Greenspan and Bona)、FASEB J.7:437〜444、1993;およびニシノフ(Nissinoff)、J.Immunol.147:2429〜2438、1991を参照のこと)。そのような中和抗イディオタイプ抗体またはそのような抗イディオタイプのFab断片は、アポトーシス細胞死関連疾患の検出のために診断レジメにおいて用いることができる。
【0077】
抗体は、当技術分野に既知の方法によってヒト化させることができる。例えば、望ましい適合特異性を有するモノクローナル抗体を市販の材料でヒトに適合させることができる(スコットジーン、スコットランド;オックスフォードモレキュラー、パロアルト、カリフォルニア州)。トランスジェニック動物において発現される抗体のように、完全なヒト抗体もまた、本発明の特徴である(グリーンら(Green)、Nature Genetics 7:13〜21、1994;その双方が参照として本明細書に組み入れられる、米国特許第5,545,806号および第5,569,825号も参照のこと)。
【0078】
消化管の外側の組織を保護または治療するためのITFの投与
ITF、その類似体、および断片と共に、SP(鎮痙性ポリペプチド)およびpS2のようなその他の三葉型因子を含む本発明のポリペプチドは、消化管内部に認められない組織の保護または治療に用いることができる。例えば、ポリペプチドは病変、潰瘍、火傷、または皮膚の剥離、眼の表面(すなわち角膜)、もしくは呼吸器または尿生殖管内のような、いかなる種類の創傷も治療するために用いることができる。損傷の正確な特性および損傷の原因は正確に定義する必要はない。
【0079】
損傷の位置にかかわらず(すなわち、損傷が消化管の内部にあるか否かによらず)、所定の化合物の毒性および治療的有効性は、培養細胞または実験動物のいずれかを用いてLD50(集団の50%に致死的な用量)およびED50(集団の50%に治療的に有効な用量)を決定する、標準的な薬学的技法によって決定することができる。毒性効果と治療効果の間の用量比が治療指数であり、LD50/ED50の比として表記することができる。治療指数が高い化合物が好ましい。毒性副作用を示す化合物を用いてもよいが、そのような化合物を罹患組織の部位に輸送する輸送系のデザインに当たっては、非罹患細胞に対する障害の可能性を最小限に留め、それによって副作用を減少させるよう、注意を要する。
【0080】
細胞培養アッセイと動物試験から得られたデータは、ヒトで用いる用量範囲の設定に用いることができる。そのような化合物の用量は、ほとんどまたは全く毒性を示さないED50を含む循環血中の濃度範囲内であることが好ましい。用量は、用いた投与剤形および利用する投与経路に応じてこの範囲内で変更してもよい。本発明の方法において用いられるいかなる化合物に関しても、治療的に有効な用量は、初めは細胞培養アッセイから推定することができる。細胞培養において決定したIC50(すなわち、症状の半最大阻害を得る試験化合物の濃度)を含む循環中の血漿濃度範囲を得るために、動物モデルにおいて用量設定を行ってもよい。そのような情報は、ヒトにおいて有用な用量をより正確に決定するために用いることができる。例えば、高速液体クロマトグラフィーによって血漿濃度を測定してもよい。
【0081】
本発明に従って用いられる薬学的組成物は、一つ以上の生理学的に許容される担体または賦形剤を用いて、従来の方法で製剤化してもよい。薬学的組成物はまた、ムチン糖蛋白質を含むことができる。
【0082】
このように、化合物およびその生理学的に許容される塩ならびに溶媒化合物は、吸入または噴霧(口または鼻を通じて)による投与、または経口、経頬、非経口、もしくは直腸投与のために製剤化してもよい。
【0083】
三葉型ポリペプチドは消化管内部で分解されないため、投与経路は経口であろうと予測される。例えば、ポリペプチドは錠剤、カプセル剤、もしくは丸剤の形状で投与することが可能で、またはシロップのような患者が飲み込む溶液中に懸濁することができる。または、ポリペプチドを含む溶液を胃洗浄として投与してもよい。ポリペプチドはまた、浣腸剤として投与する溶液に含まれてもよく、または坐剤として投与してもよい。
【0084】
消化管内部の損傷組織を治療するために用いることができる経口投与に関しては、薬学的組成物は例えば、結合材(例えば、予めゼラチン処理したトウモロコシデンプン、ポリビニルピロリドン、またはヒドロキシプロピルメチルセルロース);充填剤(例えば、ラクトース、微結晶セルロース、またはリン酸水素カルシウム);潤滑剤(例えば、ステアリン酸マグネシウム、タルク、またはシリカ);崩壊剤(例えば、ジャガイモデンプンまたはデンプングリコール酸ナトリウム);または湿潤剤(例えば、ラウリル硫酸ナトリウム)のような、薬学的に許容される賦形剤を用いた従来の手段によって調製した錠剤またはカプセル剤の形状であってもよい。錠剤は、当技術分野に周知の方法によってコーティングしてもよい。経口投与のための液体製剤は、例えば、溶液、シロップまたは懸濁液の形状であってもよく、それらは使用前に水またはその他の適した溶媒で構成するために乾燥製品として提供してもよい。そのような液体製剤は、懸濁剤(例えば、ソルビトールシロップ、セルロース誘導体または硬化食用油);乳化剤(例えば、レシチンまたはアカシア);非水性溶媒(例えば、アーモンド油、油性エステル、エチルアルコール、または植物油);および保存剤(例えば、メチルまたはプロピル-p-ヒドロキシ安息香酸またはソルビン酸)のような薬学的に許容される添加剤を用いた従来の手段によって調製してもよい。調製物はまた、緩衝塩、香料、着色料および甘味剤を適当に応じて含んでもよい。経口投与のための製剤は、活性化合物の放出を調節するように適切に調製してもよい。
【0085】
口、喉、または上部消化管の内部の損傷組織を治療するために用いることができる経頬投与に関しては、組成物は、従来の方法において調製された錠剤またはトローチ剤の形状であってもよい。
【0086】
呼吸器管内部の損傷組織の治療に用いることができる吸入投与に関しては、本発明による使用の化合物は、適当な推進薬、例えば、ジクロロジフルオロメタン、トリクロロフルオロメタン、ジクロロテトラフルオロメタン、二酸化炭素またはその他の適当なガスを用いて、加圧パックまたはネブライザーによるエアロゾルスプレーの形状で輸送すると都合がよい。加圧エアロゾルの場合、一定量を輸送するための弁を提供することによって、単位用量を決定してもよい。例えば、吸入剤または噴霧剤に用いる、ラクトースまたはデンプンのような、化合物の粉末混合物および適した粉末基剤を含むゼラチンカプセルおよびカートリッジを調製してもよい。
【0087】
本発明のポリペプチドを含む組成物は、注射、例えば1回注射または連続注入による非経口投与のために製剤化することもできる。注射用製剤は、単位投与剤形、例えば、保存剤を加えてアンプルまたは多用量容器で提供してもよい。組成物は、懸濁剤、溶液または油性または水性溶媒中の乳剤のような形状であってもよく、また懸濁剤、安定化剤、および/または分散剤のような製剤を含んでもよい。または、活性成分は、使用前に適した溶媒、例えば、滅菌病原体不含水によって溶解するための粉末形状であってもよい。
【0088】
組成物はまた、例えばココアバターまたは他のグリセリドのような従来の坐剤用基剤を含む坐剤または貯留浣腸のような直腸組成物に製剤化することもできる。
【0089】
前述の製剤に加えて、化合物はまた、デポー製剤として製剤化してもよい。そのような長時間作用型製剤は、植え込み(例えば、皮下または筋肉内)、または筋肉内注射によって投与してもよい。このように、例えば、化合物は適したポリマーまたは疎水性材料(例えば、許容される油中の乳剤として)、またはイオン交換樹脂、もしくは可溶性の低い誘導体、例えば可溶性の低い塩として製剤化してもよい。
【0090】
組成物は、必要に応じて、活性成分を含む一つ以上の単位投与剤形を含むパックまたはディスペンサー装置で提供してもよい。パックは例えば、ブリスターパックのような、金属またはプラスチックホイルを含んでもよい。パックまたはディスペンサー装置には投与説明書を添付してもよい。
【0091】
本発明の治療的組成物はまた、その多くが当業者に既知の担体または賦形剤を含んでもよい。用いることができる賦形剤は、緩衝液(例えば、クエン酸緩衝液、リン酸緩衝液、酢酸緩衝液、および重炭酸緩衝液)、アミノ酸、尿素、アルコール、アスコルビン酸、リン脂質、蛋白質(例えば、血清アルブミン)、EDTA、塩化ナトリウム、リポソーム、マンニトール、ソルビトール、およびグリセロールを含む。本発明の核酸、ポリペプチド、抗体または制御化合物は、いかなる標準的な投与経路によっても投与することができる。例えば、投与は、非経口、静脈内、皮下、筋肉内、頭蓋内、眼窩内、眼内、脳室内、嚢内、脊髄内、槽内、腹腔内、経粘膜、または経口投与であることができる。制御化合物は、対応する投与経路に応じて、様々な方法において製剤化することができる。例えば、液体は摂取または注射用に調製することができ;ゲルまたは粉末は、摂取、吸入、または局所適用のために調製することができる。そのような製剤を作成する方法は周知であり、例えば、「レミントンの製薬科学」に見ることができる。好ましい投与経路は経口であろうと予測される。
【0092】
いかなる一人の患者の投与量も、全般的な健康状態、性別、体重、体表面積、および年齢と共に、投与すべき特定の化合物、投与時間と経路、および同時投与するその他の薬剤を含む多くの要因に依存することは、医学の技術分野において周知である。
【0093】
本発明のポリペプチドおよび抗体の用量は変化するであろう。経口投与に関しては、ポリペプチドは、約10 mg〜約500 mgの用量で投与することができる。例えば、10、50、100、200、250、300、400または500 mgを投与することができる。これらの用量は定期的に投与することができる。例えば、用量を1日1〜4回投与してもよい。局所投与に関しては、ポリペプチドは約1〜10 mg/mlの用量を軟膏またはクリームの中で投与することができる。この組成物はまた、必要であれば定期的に投与することができる。その他の4つの投与経路に関しては、投与量はまた、適用1回あたり約0.1〜1,000 mgまで変化するだろう。所定の治療レジメ内の正確な用量の決定は、薬理学の技術を知る当業者にゆだねられる。
【0094】
特定の疾患の治療におけるポリペプチドの有効性を決定するために、当業者は、いくつかの周知の損傷モデルの一つを用いてルーチン試験を実施することができる。例えば、角膜の損傷の治療におけるポリペプチドの有効性は、コリンら((Collin)、Current Eye Res.14:331〜339、1995)が記述した角膜創傷治癒のためのインビトロモデルを用いて実施することができる。このモデル系において、移植に不適な角膜は、ヒト臓器提供者から死後5日以内に採取して用いられたものである。焼灼チップを用いて、長さが約5 mmの直線の非穿孔性の火傷を角膜上に作製した。創傷角膜を直ちに切除し、空気/液体臓器培養系に入れた(リチャードら(Richard)、Curr.Eye.Res.10:739〜749、1991;およびアンダーソンら(Anderson)、Ophthalmol.Vis.Sci.3:442〜449、1993に記述のように)。このように、そのような創傷の治療における本発明のポリペプチドの有効性を決定するために、例えば、組織培養培地にポリペプチドを入れ、創傷を受けた角膜を創傷を受けていない角膜と比較して創傷治癒に及ぼすポリペプチドの効果を評価することによって、単純に創傷角膜にポリペプチドを適用するであろう。創傷の評価にさらなるガイダンスを必要とする場合、当業者はさらに創傷角膜の組織化学分析について記述しているコリンら(Collin、前記)に相談してもよい。培養ウサギ角膜内皮細胞を用いた創傷治癒モデルのプロトコルもまた、用いることができる(例えば、ジョイスら((Joyce)、Invest.Ophthalmol.Vis.Sci.31:1816〜1826、1990)。または、角膜に対する物理的創傷の場合ポリペプチドの有効性を評価するために、ケスラー((Kessler)、Curr.Eye.Res.14:985〜992、1995)が記述したように誘発された損傷を用いることができる。同様に、表皮に対する創傷の予防または治癒に及ぼすポリペプチドの有効性を調べる無数のモデルが利用可能である。当業者は、これらのモデルを十分承知しており、過度な実験に頼らずに、当技術分野に記述の技法を実施することができる。
その他の態様は以下の請求の範囲内である。
【図面の簡単な説明】
【0095】
【図1】図1は、ラット三葉型因子のヌクレオチド配列(配列番号:1)を示したものである。
【図2】図2は、ラット三葉型因子の推定アミノ酸配列(配列番号:2)を示したものである。
【図3】図3は、ラット三葉型因子、pS2蛋白質、および膵臓鎮痙性ポリペプチド(SP)のアミノ酸配列を示したものである。配列は、蛋白質間のアミノ酸配列相同性を示すように配置している。破線(-)は、配列を最適化するスペースの挿入を示す。バーは配列同一性を示す。
【図4A】図4Aは、pS2(配列番号:15;パネルA)について提唱されたジスルフィド結合構造を示す。
【図4B】図4Bは、PSP(配列番号:16;パネルB)について提唱されたジスルフィド結合構造を示す。
【図5】図5は、ラット腸三葉型因子(配列番号:17)について提唱されたジスルフィド結合構造を示すものである。
【図6】図6は、ヒト腸三葉型因子cDNAのヌクレオチド配列および対応する推定アミノ酸配列の(配列番号:3)を示すものである。
【図7】図7は、胎児幹細胞において、ITF遺伝子を変異させるために用いる方法を示す図である。
【図8】図8は、カプラン-マイヤー(Kaplan-Meier)変形確率対DSS治療日数として示す、デキストラン硫酸ナトリウム(DSS;2.5% w/v飲料水溶液を9日間連続して)の投与後の生存を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
病変の形成の治療または阻害のための、三葉型ポリペプチドまたは生物学的に活性なその断片を含むポリペプチド。
【請求項2】
三葉型ポリペプチドがヒト三葉型ポリペプチドである、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項3】
三葉型ポリペプチドが腸三葉型ポリペプチド(ITF)である、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項4】
三葉型ポリペプチドが鎮痙性ポリペプチド(SP)である、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項5】
三葉型ポリペプチドがPS2である、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項6】
病変が消化管内にある、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項7】
病変が患者の口内にある、請求項6記載のポリペプチド。
【請求項8】
病変が患者の食道内にある、請求項6記載のポリペプチド。
【請求項9】
病変が患者の胃の内部にある、請求項6記載のポリペプチド。
【請求項10】
病変が患者の腸内にある、請求項6記載のポリペプチド。
【請求項11】
患者が、癌の治療のため放射線治療を受けている、請求項6記載のポリペプチド。
【請求項12】
患者が、癌の治療のため化学療法を受けている、請求項6記載のポリペプチド。
【請求項13】
患者が、消化管に損傷を与える薬物を受けている、請求項6記載のポリペプチド。
【請求項14】
患者が消化性疾患に罹患している、請求項6記載のポリペプチド。
【請求項15】
消化性疾患が、非潰瘍性消化不良である、請求項14記載のポリペプチド。
【請求項16】
消化性疾患が胃炎である、請求項14記載のポリペプチド。
【請求項17】
消化性疾患が胃食道逆流性障害である、請求項14記載のポリペプチド。
【請求項18】
消化性疾患が、消化性潰瘍または十二指腸潰瘍である、請求項14記載のポリペプチド。
【請求項19】
投与が経口投与である、請求項6記載のポリペプチド。
【請求項20】
経口投与が、約10ミリグラム〜約100ミリグラムのポリペプチドの投与を含む、請求項6記載のポリペプチド。
【請求項21】
病変が、消化管の組織以外の組織の内部にある、請求項1記載のポリペプチド。
【請求項22】
組織が皮膚である、請求項21記載のポリペプチド。
【請求項23】
投与が局所的投与である、請求項22記載のポリペプチド。
【請求項24】
局所的投与が、約1 mg/ml〜約10 mg/mlのポリペプチドを含む軟膏の投与を含むものである、請求項23記載のポリペプチド。
【請求項25】
組織に、眼の角膜表面が含まれる、請求項21記載のポリペプチド。
【請求項26】
組織に、気道の組織が含まれる、請求項21記載のポリペプチド。
【請求項27】
組織に、尿生殖管の組織が含まれる、請求項21記載のポリペプチド。
【請求項28】
患者の組織における病変の形成を治療または阻害するための三葉型ポリペプチドを含む組成物。
【請求項29】
患者の組織における病変の治療を目的とする医薬品の製造における、請求項28記載の組成物の使用。
【請求項30】
ポリペプチドが、マーカーをさらに含む、請求項1記載の三葉型ポリペプチド。
【請求項31】
マーカーが造影剤を含む、請求項30記載の三葉型ポリペプチド。
【請求項32】
ある組織においてITFレセプターを検出するための方法であって、検出可能な標識を施された三葉型ポリペプチドに該組織を接触させる段階と、該組織に結合した検出可能な標識を施された三葉型ポリペプチドのレベルを測定する段階とを含む方法。
【請求項33】
ある組織において三葉型ポリペプチドを検出するための方法であって、該三葉型ポリペプチドに特異的に結合する抗体に該組織を接触させる段階を含む方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2009−149687(P2009−149687A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69639(P2009−69639)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【分割の表示】特願2007−193980(P2007−193980)の分割
【原出願日】平成9年4月11日(1997.4.11)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【Fターム(参考)】