説明

膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法

【課題】種汚泥のBOD/SS負荷の値から、膜分離活性汚泥に最適なBOD/SS負荷の値にまで徐々に下げていくことで、膜ファウリングの原因物質の発生を抑制し、短期間で所定の処理流量を確保できる膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法を提供する。
【解決手段】他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いた膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法であって、所定のBOD/SS負荷よりも高いBOD/SS負荷で運転管理される他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いるとともに、一日当たりのBOD/SS負荷の減少速度を0.04gBOD/gMLSS/dより遅い速度に保持して前記所定のBOD/SS負荷まで下げる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いた膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法、及び汚水処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、一般的には、生活排水のような一般的な都市下水や産業廃水等(以下、「汚水」という)の浄化処理のために標準活性汚泥法を採用した汚水処理装置が構築されていた。
【0003】
図8(a),(b)には、このような標準活性汚泥法による汚水処理装置が示されている。当該汚水処理装置は、沈砂池90、最初沈殿池91、生物処理槽92、最終沈殿池93、消毒設備94がこの順に備えられ、最初沈殿池91(91a〜91d)、生物処理槽92(92a〜92d)、最終沈殿池93(93a〜93d)が複数列並設されて構成されている。
【0004】
汚水処理装置に流入した汚水は、沈砂池90で砂や粗大物が除去された後に、最初沈殿池91(91a〜91d)に移送され、汚水中の浮遊固形物が沈降分離処理される。さらに、生物処理槽92(92a〜92d)に移送されて微生物の作用によって有機成分が分解除去され、その後に最終沈殿池93(93a〜93d)に移送され、最終沈殿池93で活性汚泥が沈降分離された上澄水が、消毒設備94で消毒された後に河川等に放流される。
【0005】
近年、標準活性汚泥法を採用した汚水処理装置の老朽化に伴い、既存の汚水処理装置を改築する必要性が高まっており、その際に汚水からリンや窒素等を効果的に除去する高度処理技術として、また、処理施設全体の敷地面積のコンパクト化技術として、膜分離活性汚泥法を用いた汚水処理装置への改築が試行されつつある。
【0006】
膜分離活性汚泥法を採用した汚水処理装置は、例えば、汚水を嫌気処理する嫌気槽、嫌気処理された汚水から窒素を除去する無酸素槽、有機物及びアンモニア性窒素を好気処理する好気槽、好気処理された汚水から処理水をろ過する膜ろ過装置を備えた膜分離槽等を備えて構成される。
【0007】
このような膜分離活性汚泥法は、活性汚泥濃度が高い状態で固液分離を行えるため槽の容積を小さくでき、あるいは槽内での反応時間を短縮できる等の利点があり、また、膜ろ過されたろ過水にSSが混入しないため、最終沈殿池が不要となるので処理施設全体の敷地面積を減らすことができる等の利点がある。
【0008】
膜分離活性汚泥処理装置を新設する場合には、オキシデーションディッチ法、長時間エアレーション法等のBOD/SS負荷が比較的低い他の水処理装置からの余剰汚泥を種汚泥として馴養し、次第にMLSSが増加するように数ヶ月の時間を掛けて立ち上げるのが一般的である。
【0009】
膜分離活性汚泥法による活性汚泥に適したBOD/SS負荷は、標準活性汚泥法による活性汚泥に適したBOD/SS負荷よりも低く、夫々の処理法の活性汚泥において汚泥濃度、微生物の活性の程度や種類等がそれぞれ異なるため、標準活性汚泥法の活性汚泥を膜分離活性汚泥法の活性汚泥の種汚泥として用いる場合には、種汚泥中に含まれる膜分離活性汚泥法に適した微生物種が優占するように数ヶ月から一年単位の長い時間を掛けて自然増殖させる必要があり、膜分離活性汚泥処理装置を短期間で立ち上げるのは困難である。
【0010】
そのため、特許文献1には、BOD/SS負荷が高い他の水処理装置からの余剰汚泥を種汚泥として用いて新設の膜分離活性汚泥処理装置を立ち上げる場合に、その立上げ期間を短縮するための方法が開示されている。
【0011】
詳述すると、特許文献1には、既存排水処理系から引き抜いた活性汚泥を膜分離馴養槽へ投入し、膜分離馴養槽に既存排水処理系へ流入する廃水の一部を導くとともに、空気を散気して酸素を供給し、僅かな栄養源が流入して栄養源が不足する状態で活性汚泥の微生物群が汚泥中に含まれた有機質からなる粘着性物質を微生物分解して増殖することで活性汚泥を馴養し、膜分離馴養槽内に浸漬した浸漬型膜分離装置で固液分離して分離液を槽外へ取り出すことにより槽内の活性汚泥濃度を高め、膜分離馴養槽から引き抜いた高濃度活性汚泥よりなる湿状種汚泥を新設の膜分離活性汚泥処理槽へ投入して初期運転を行なうことを特徴とする膜分離活性汚泥処理槽の運転立上方法が提案されている。
【0012】
ちなみに、標準活性汚泥法による汚水処理装置では、BOD/SS負荷が概ね0.1〜0.4gBOD/gMLSS/dの範囲で運転管理される一方、膜分離活性汚泥法による汚水処理装置では、BOD/SS負荷が概ね0.03〜0.1gBOD/gMLSS/dの範囲で運転管理される。BODとは生物学的酸素要求量であり、SSとは活性汚泥処理槽内の被処理原水と活性汚泥の混合液中の浮遊物質(懸濁物質ともいう)をいう。また活性汚泥処理槽内の浮遊物質SSのことを特にMLSSという。
【0013】
BOD/SS負荷とは、一日あたりの流入BOD量とMLSSの比率をいい、以下の式で求められる。
BOD/SS負荷(gBOD/gMLSS/d)=[原水流入量(m/d)×BOD(g/L)]/[MLSS(g/L)×槽の容量(m)]
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特許第4334084号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
しかし、特許文献1に記載された方法を採用するためには、予め馴養槽を設けて、膜分離活性汚泥法に適した活性汚泥を馴養する必要があり、そのための設備コストや活性汚泥の馴養コストが嵩むという問題があった。
【0016】
また、標準活性汚泥法を採用した既存の汚水処理装置を、膜分離活性汚泥法を採用した汚水処理装置に改築する場合には、改築の前後で汚水処理量の変動を来たすことがないように改築後の汚水処理装置を速やかに立ち上げる必要もある。
【0017】
そこで、BOD/SS負荷が高い余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いて膜分離活性汚泥処理装置を立ち上げる場合に、BOD/SS負荷を膜分離活性汚泥法に適した領域まで急激に低下させると汚泥中の微生物が自己消化を起こし、その結果として分離膜のファウリング物質が生成されて膜の目詰まりが発生し、早期に所定の汚水処理量まで立ち上げることができないという問題が発生する。
【0018】
BOD/SS負荷の急減を防止するために被処理原水の供給量を増加させるとともに、膜透過水量を増加させることも考えられるが、その結果未分解の有機物により分離膜の閉塞を来たす虞もあった。
【0019】
図9(a),(b)には、高いBOD/SS負荷で運転管理されている標準活性汚泥法による汚泥と、相対的に低いBOD/SS負荷で運転管理されている膜分離活性汚泥法による汚泥とを採取し、膜分離活性汚泥法と同等のBOD/SS負荷で馴養実験し、汚水の上澄を遠心分離して測定した全タンパク質濃度と全糖濃度の時間変化が示されている。
【0020】
標準活性汚泥法からの採取汚泥は、BOD/SS負荷が約0.2gBOD/gMLSS/dであり、膜分離活性汚泥法からの採取汚泥は、BOD/SS負荷が約0.05gBOD/gMLSS/dである。
【0021】
これらを容積6Lの膜分離槽に投入し、全BODが130mg/Lで15L/dの被処理原水を供給し、膜分離装置の単位時間、単位膜面積あたりの膜透過水量を示す膜透過流束を0.14m/dとして、MLSSが約6500mg/LでBOD/SS負荷が約0.05gBOD/gMLSS/dの条件で運転した結果である。
【0022】
図9(a),(b)ともに、膜分離活性汚泥法による活性汚泥を用いた場合に比較して、標準活性汚泥法による活性汚泥を用いた場合には、時間経過とともに全タンパク質濃度及び全糖濃度が増加傾向を示し、活性汚泥に含まれる微生物が自己消化して処理能力が低下していることが推察できる。
【0023】
本発明の目的は、上述した問題点に鑑み、種汚泥のBOD/SS負荷の値から、膜分離活性汚泥に最適なBOD/SS負荷の値にまで徐々に下げていくことで、膜ファウリングの原因物質の発生を抑制し、短期間で所定の処理流量を確保できる膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法、及び、汚水処理装置を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上述の目的を達成するため、本発明による膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法の第一特徴構成は、特許請求の範囲の請求項1に記載した通り、他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いた膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法であって、所定のBOD/SS負荷よりも高いBOD/SS負荷で運転管理される他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いるとともに、一日当たりのBOD/SS負荷の減少速度を0.04gBOD/gMLSS/d以下に保持して前記所定のBOD/SS負荷まで下げる点にある。
【0025】
BOD/SS負荷が高い余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いて膜分離活性汚泥処理装置を立ち上げる場合に、BOD/SS負荷を膜分離活性汚泥法に適した所定の領域まで下げるにあたり、前記一日当たりのBOD/SS負荷を減少させる速度を0.04gBOD/gMLSS/d以下の遅い速度に保持して前記所定のBOD/SS負荷まで下げることで、汚泥中の微生物の自己消化に起因する分離膜のファウリング物質の継続的な生成を回避することができる。
【0026】
同第二の特徴構成は、同請求項2に記載した通り、上述の第一特徴構成に加えて、被処理原水よりも高濃度のBOD源を被処理原水とともに供給することにより前記所定のBOD/SS負荷まで下げる点にある。
【0027】
膜分離活性汚泥法に適した所定のBOD/SS負荷よりも高いBOD/SS負荷で運転管理される他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いる場合に、被処理原水よりも高濃度のBOD源を被処理原水とともに供給すれば、被処理原水のみよりもBOD濃度を上昇させることができ、その結果、種汚泥に適したBOD/SS負荷に近い状態から始めて、早期に膜分離活性汚泥法に適したMLSSまで活性汚泥を馴養することができるようになる。その結果、早期に膜分離装置の膜透過流束を所定の目標値まで上昇させることができるようになる。
【0028】
同第三の特徴構成は、同請求項3に記載した通り、上述の第二特徴構成に加えて、前記高濃度のBOD源が、生物処理前の沈降分離汚泥または沈降分離前の原水を含む点にある。
【0029】
高濃度のBOD源として、生物処理前の沈降分離汚泥または沈降分離前の原水を利用することで、遠方の敷地に設置された他の汚水処理装置からBOD源を搬送するような手間をもたらすことなく、同じ処理系内のBOD源を有効利用して、種汚泥の自己消化を抑制しながら適切な微生物を短期間で馴養することができるようになる。
【0030】
同第四の特徴構成は、同請求項4に記載した通り、上述の第二または第三特徴構成に加えて、前記高濃度のBOD源の添加量を漸次減少させる点にある。
【0031】
高濃度のBOD源の添加量を漸次減少させて、目標のBOD/SS負荷に収束させることで、膜の目詰まりを起こすことなく良好に立上げ運転を終了して定常運転状態に移行することができる。
【0032】
本発明による汚水処理装置の特徴構成は、同請求項5に記載した通り、所定のBOD/SS負荷で運転管理される膜分離活性汚泥処理装置を含み、前記所定のBOD/SS負荷よりも高いBOD/SS負荷で運転管理される他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を、前記膜分離活性汚泥処理装置の立上げ時に供給する汚泥供給経路と、生物処理前の沈降分離汚泥または沈降分離前の原水を供給するBOD源供給経路とを備え、前記BOD源供給経路からのBOD供給量が、一日当たりのBOD/SS負荷の減少速度が0.04gBOD/gMLSS/d以下となる範囲に設定されている点にある。
【0033】
既存の他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を膜分離活性汚泥処理装置の種汚泥として利用する際に、汚泥供給経路を構築することにより余剰汚泥または活性汚泥を適量、柔軟に膜分離活性汚泥処理装置に供給でき、しかも、BOD源供給経路を構築することにより生物処理前の最初沈殿地等による沈降分離汚泥または沈降分離前の原水を容易に供給することができる。このとき、前記BOD源供給経路からのBOD供給量を、一日当たりのBOD/SS負荷の減少速度が0.04gBOD/gMLSS/d以下の遅い速度となる範囲に、手動または制御手段により自動で設定することで、種汚泥の自己消化を抑制しながら短期間で膜分離活性汚泥処理装置を定常状態に立ち上げることができるようになる。
【発明の効果】
【0034】
以上説明した通り、本発明によれば、種汚泥のBOD/SS負荷の値から、膜分離活性汚泥に最適なBOD/SS負荷の値にまで徐々に下げていくことで、膜ファウリングの原因物質の発生を抑制し、短期間で所定の処理流量を確保できる膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法、及び、汚水処理装置を提供することができるようになった。
【図面の簡単な説明】
【0035】
【図1】(a)は本発明による汚水処理装置の概略図、(b)は本発明による膜分離活性汚泥処理装置の概略図
【図2】汚水処理装置と膜分離活性汚泥処理装置の説明図
【図3】汚水処理装置と膜分離活性汚泥処理装置の別実施形態の説明図
【図4】(a)は従来の膜分離活性汚泥処理装置の立ち上げ運転の説明図、(b)は本発明による膜分離活性汚泥処理装置の立ち上げ運転の第一の説明図
【図5】(a)は本発明による膜分離活性汚泥処理装置の立ち上げ運転の第二の説明図、(b)は本発明による膜分離活性汚泥処理装置の立ち上げ運転の第三の説明図
【図6】BOD/SS負荷の低減パターンの説明図
【図7】高いBOD/SS負荷から所定のBOD/SS負荷への減少速度に応じた、(a)は全タンパク質濃度の特性図、(b)は全糖濃度の特性図
【図8】(a)は従来の汚水処理装置の概略図、(b)は従来の汚水処理装置の概略図
【図9】高いBOD/SS負荷で運転管理された種汚泥と、低いBOD/SS負荷で運転管理された種汚泥を、それぞれ低いBOD/SS負荷で馴養実験した場合の汚水成分の特性図を示し、(a)は全タンパク質濃度の特性図、(b)は全糖濃度の特性図
【発明を実施するための形態】
【0036】
以下、本発明による膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法及び汚水処理装置の実施形態を説明する。
【0037】
図8(a)、(b)に示すように、下水処理場などの大規模な既設の汚水処理装置には、沈砂池90、最初沈殿池91、生物処理槽92、最終沈殿池93、消毒設備94がこの順に備えられ、標準活性汚泥法によって汚水が浄化処理されている。尚、最初沈殿池91(91a〜91d)、生物処理槽92(92a〜92d)、最終沈殿池93(93a〜93d)は複数列並設されている。
【0038】
生活排水等の有機性汚濁物質を含む汚水は、沈砂池90で砂や粗大物が除去された後に、最初沈殿池91(91a〜91d)に移送され、汚水中の浮遊固形物が沈降分離される。さらに、上澄水は生物処理槽92(92a〜92d)に移送されて、微生物の作用によって有機成分が分解除去された後に、最終沈殿池93(93a〜93d)に移送され、最終沈殿池93で活性汚泥が沈降分離された上澄水が、消毒設備94で消毒された後に河川等に放流される。
【0039】
汚水処理装置の老朽化に伴い、既設の生物処理槽92、最終沈殿池93が、膜分離活性汚泥法を用いた本発明による汚水処理装置となる膜分離活性汚泥処理装置へ改築されている。
【0040】
設備全体として現状の処理量と同等の処理量で汚水処理を継続しながら改築する必要があるため、一部の列の汚水の処理経路で既存の標準活性汚泥法による汚水の処理を継続しつつ、一部の列の汚水の処理経路に膜分離活性汚泥法を用いた装置を構築している。
【0041】
そして、一部の列の汚水の処理経路の膜分離活性汚泥法を用いた装置への改築後に、残りの列の汚水の処理経路が順次膜分離活性汚泥法を用いた装置に改築される。このため、ある期間は、改築済の処理経路と未改築の処理経路が並列して共存する状態が存在する。
【0042】
図1(a)、(b)には、従来の標準活性汚泥法による生物処理槽の一列92dを、膜分離活性汚泥法を採用した膜分離活性汚泥処理装置20に改築した様子が示されている。
【0043】
このように、標準活性汚泥法の生物処理槽92を膜分離活性汚泥法の膜分離活性汚泥処理装置20に改築することで、従来必要であった最終沈殿池93や消毒設備94等が不要となる。尚、図8(a)、(b)に示すような従来の汚水処理装置と同様の構成については同じ符号を付している。
【0044】
膜分離活性汚泥処理装置20は、無酸素槽21と好気槽22を備えている。好気槽22には分離膜を備えた膜分離装置23が浸漬して配置され、その下部には散気装置24が配設されている。膜分離装置23に備えられた分離膜としては、限外濾過膜、精密濾過膜等が採用される。分離膜の形態は、中空糸膜、平膜、チューブラー膜などが採用される。
【0045】
散気装置24から供給される空気により好気性条件に制御される好気槽22では、活性汚泥により被処理原水に含まれるアンモニア成分が硝化処理されるとともにリンが摂取され、活性汚泥の一部が被処理水とともに無酸素槽21に返送される。つまり、好気槽22は膜分離槽でもあり、散気装置24から供給される気泡により分離膜の表面が洗浄される。
【0046】
無酸素槽21では、最初沈殿池91からの越流水が被処理原水として流入し、嫌気性処理される。好気槽22から返送された被処理水から窒素が分離除去されるとともに、活性汚泥からリンが放出される。
【0047】
無酸素槽21と好気槽22は区画壁により区画され、無酸素槽21内の被処理水が区画壁をオーバーフローすることで下流側の好気槽22へ移送される。図示しない吸引ポンプにより分離膜でろ過された処理水は河川や海に放流される。
【0048】
図2に示すように、膜分離活性汚泥処理装置20には、種汚泥を供給するための汚泥供給経路25と、被処理原水よりも高濃度のBOD源を供給するBOD源供給経路26が設置されている。
【0049】
汚泥供給経路25を介して標準活性汚泥法等を採用した他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥が種汚泥として供給される。当該種汚泥は、膜分離活性汚泥法に適した所定のBOD/SS負荷よりも高いBOD/SS負荷で運転管理される種汚泥である。
【0050】
一例として、膜分離活性汚泥処理装置20の活性汚泥では、MLSSが8000〜12000mg/Lに維持され、BOD/SS負荷が0.03〜0.1gBOD/gMLSS/dの範囲で運転管理されている。一方、種汚泥となる標準活性汚泥法による活性汚泥では、MLSSが生物処理槽で1000〜2000mg/L、最終沈殿池93で3000〜6000mg/Lに維持され、BOD/SS負荷が0.1〜0.4gBOD/gMLSS/dの範囲で運転管理されている。
【0051】
このように高いBOD/SS負荷で運転管理される標準活性汚泥法による余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いて、低いBOD/SS負荷で装置を立ち上げる場合には、BOD/SS負荷の急激な低下により汚泥中の微生物が自己消化を起こし、その結果として分離膜のファウリングを引き起こすファウリング物質が生成されて膜の目詰まりが発生し、早期に所定の汚水処理量まで立ち上げることが困難となる。
【0052】
その対策として、被処理原水の供給量を増加させ、さらに膜分離装置23の膜透過流束を上昇させてBOD/SS負荷の急激な低下を回避しようとすると、未処理の有機物により分離膜が閉塞する虞がある。
【0053】
図4(a)には、所定のBOD/SS負荷よりも高いBOD/SS負荷で運転管理される他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いた膜分離活性汚泥処理装置の立上げ時の特性図が示されている。特性図の横軸に立上げ時からの経過日数が示され、縦軸にMLSS、BOD/SS負荷、分離膜の膜透過流束、ファウリング物質の濃度を示すTOC(全有機炭素量)が示されている。
【0054】
BOD/SS負荷が0.2gBOD/gMLSS/dで運転管理されていた種汚泥を用いて、0.05gBOD/gMLSS/dという低いBOD/SS負荷の状況まで早期に(例えば2日程度で)持っていき装置を立ち上げる場合には、BOD/SS負荷が急激に低下してBOD成分を栄養として摂取できなくなった汚泥中の微生物が自己消化を起こして、ファウリング物質の濃度が上昇し、その状況が長期間に亘って続くことが判る。
【0055】
そこで、BOD源供給経路26を介して、生物処理前の沈降分離汚泥または沈降分離前の原水が被処理原水とともに無酸素槽21に供給されるように構成されている。
【0056】
被処理原水よりも高濃度のBOD源を被処理原水とともに無酸素槽21に供給すれば、分離膜の膜透過流束を増加させなくとも、被処理原水のみよりもBOD濃度を上昇させることができ、その結果、種汚泥に適したBOD/SS負荷に近い状態で、早期に膜分離活性汚泥法に適したMLSSまで活性汚泥を馴養することができるようになる。その結果、早期に膜分離装置の膜透過流束を所定の目標値まで上昇させることができるようになるのである。
【0057】
BOD源供給経路26を介したBOD源の供給量は、膜分離活性汚泥処理装置20のMLSSが所定値になった後に漸次減少させればよい。膜分離活性汚泥処理装置20に適した活性汚泥のMLSSが所定値(上述の例では、8000〜12000mg/L)になる時点を、膜分離活性汚泥処理法による汚水処理槽値の運転立上がり時期の指標として、その後、高濃度のBOD源の添加量を漸次減少させて、目標のBOD/SS負荷に収束させることで、膜の目詰まりを起こすことなく良好に立上げ運転を終了して定常運転状態に移行することができる(例えば図5(b)参照)。
【0058】
なお、MLSSが所定値になるまでは、BOD源の供給量を一定に維持してもよく、添加量を次第に増加させてもよく、或は、添加量を次第に減少させてもよい。
【0059】
図4(b)に示すように、被処理原水よりも高濃度のBOD源として、生物処理前の最初沈殿池91の沈降分離汚泥を被処理原水とともに供給する場合には、図4(a)に示すような、被処理原水よりも高濃度のBOD源を供給しない場合に比べて、膜分離活性汚泥処理装置20の無酸素槽21、好気槽22のBOD/SS負荷が徐々に低下し、膜のファウリングの原因物質の増加の程度および低濃度に落ちつくまでの期間も抑制できることが判る。
【0060】
尚、図4(b)では、MLSSが所定値になるまで種汚泥の添加量を一定に維持するとともに、BOD源としての沈降分離汚泥を次第に減少するように添加している。
【0061】
図5(a)に示すように、高濃度のBOD源を被処理原水とともに供給することにより、ファウリング物質の発生量を抑制できるため、MLSSが所定値になるよりも以前に分離膜の膜透過流束の目標量への立上げ速度を上昇させるように立上げ運転することも可能になる。
【0062】
図5(b)に示すように、標準活性汚泥法による種汚泥のBOD/SS負荷が膜分離活性汚泥法による活性汚泥のBOD/SS負荷よりも極めて高い場合には、立上げ時のBOD/SS負荷の急激な低下を抑制するために、MLSSが所定値になり、膜透過流束が目標量に達した後に種汚泥を、その量が次第に低下するように投入し続けることにより、ファウリング物質の発生を抑制しながら円滑に立ち上げることができる。
【0063】
ここで、BOD/SS負荷が0.2gBOD/gMLSS/dで運転管理されていた標準活性汚泥法の余剰汚泥を種汚泥として用いて、0.04gBOD/gMLSS/dという低いBOD/SS負荷まで持っていく際の減少速度について説明する。
【0064】
図6に、BOD/SS負荷が0.2gBOD/gMLSS/dで運転管理されていた標準活性汚泥法の余剰汚泥を種汚泥として用いて、0.04gBOD/gMLSS/dという低いBOD/SS負荷まで、0日で急激に低下させた試験(条件A)と、4日をかけて低下させた試験(条件B)と、8日かけて低下させた試験(条件C)のそれぞれの結果を示す低減パターンを示す。
【0065】
条件A,B,Cの何れも標準活性汚泥法からの採取汚泥は、BOD/SS負荷が0.2gBOD/gMLSS/d、MLSSが5000mg/Lであり、これらを容積6Lの膜分離槽に投入した。全BODが120mg/Lで50L/dの被処理原水を供給した。膜分離活性汚泥法に適した所定のBOD/SS負荷は0.04gBOD/gMLSS/dと設定した。
【0066】
その後、条件Aは、被処理原水の供給量は10L/dとした。条件Bは、被処理原水の供給量は、初日は42L/d、2日目は34L/d、3日目は26L/d、4日目は18L/d、5日以降は10L/dとした。条件Cは初日と2日目は42L/d、3日目と4日目は34L/d、5日目と6日目は26L/d、7日目と8日目は18L/d、9日目以降は10L/dとした。
【0067】
つまり、被処理原水の供給量を徐々に減少させることで、条件BはBOD/SS負荷を0.2gBOD/gMLSS/dから0.04gBOD/gMLSS/dまで4日をかけて低下、つまり一日当たりのBOD/SS負荷の減少速度を0.04gBOD/gMLSS/dで低下させ、条件CはBOD/SS負荷を0.2gBOD/gMLSS/dから0.04gBOD/gMLSS/dまで8日をかけて低下、一日当たりのBOD/SS負荷の減少速度を0.02gBOD/gMLSS/dで低下させた。
【0068】
図7(a),(b)には、条件A,B,Cの夫々の汚水の上澄を遠心分離して測定した全タンパク質濃度と全糖濃度の時間変化が示されている。条件Aは、条件B,Cに比較して、時間経過とともに全タンパク質濃度及び全糖濃度が著しい増加傾向を示し、活性汚泥に含まれる微生物が自己消化して、ファウリング物質が多量に発生し続けたことがTOCや全糖の増加傾向から伺うことができる。
【0069】
上述の試験結果によって、BOD/SS負荷が0.2gBOD/gMLSS/dから0.04gBOD/gMLSS/dに低下させるために、一日当たりのBOD/SS負荷の減少速度を0.04gBOD/gMLSS/dで低下させると、微生物の自己消化を抑えて、非常に短期間で良好に膜分離活性汚泥処理装置を立ち上げることができることが判明した。
【0070】
同様の試験によれば、膜分離活性汚泥法に適した0.03〜0.1gBOD/gMLSS/dよりも高いBOD/SS負荷で運転管理される他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いて、膜分離活性汚泥法を採用した水処理設備を立ち上げる場合には、一日当たりのBOD/SS負荷の減少速度を0.005以上0.04gBOD/gMLSS/d以下に保持しながら運転すれば、膜の閉塞を招くことなく比較的短期間で立ち上げることができ、一日当たりのBOD/SS負荷の減少速度を0.005以上0.02gBOD/gMLSS/d以下に保持しながら運転することがさらに好ましい。
【0071】
以上の構成により、他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いた膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法であって、所定のBOD/SS負荷よりも高いBOD/SS負荷で運転管理される他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いるとともに、一日当たりのBOD/SS負荷の減少速度を0.04gBOD/gMLSS/d以下の遅い速度に保持して前記所定のBOD/SS負荷まで下げることを特徴とする膜分離活性汚泥処理装置の立ち上げ方法が実現される。
【0072】
種汚泥は、最終沈殿池93からの余剰汚泥に限らず、生物反応槽92中の活性汚泥を利用してもよい。また、BOD源は、生物処理前の最初沈殿池91の沈降分離汚泥(初沈汚泥)に限らず、最初沈殿池91に流入する前の汚水の原水を利用してもよく、さらに言えば、同じ水処理系に由来しないBOD源を別途添加してもよい。
【0073】
図3に示すように、濃縮槽27を設け、種汚泥となる余剰汚泥と、BOD源となる初沈汚泥を混入し、濃縮した後に膜分離活性汚泥処理装置20に供給する構成としてもよい。この場合、汚泥供給経路25とBOD源供給経路26が一体化される。
【0074】
尚、汚水処理装置は、生物処理槽92dのみを膜分離活性汚泥処理装置20へ改築して、膜分離装置を立ち上げた後、生物処理槽92a〜93cも、上述のような膜分離活性汚泥法の膜分離活性汚泥処理装置20へ改築し、すでに立ち上げが完了した稼働中の膜分離活性汚泥法の処理槽内の活性汚泥を種汚泥として用いることで、2箇所目以降の膜分離化成汚泥処理装置を立ち上げるときは、速やかに立ち上げることができる。
【0075】
以下、本発明による汚水処理装置の別実施形態について説明する。
上述の実施形態では、膜分離活性汚泥処理装置20で、汚水は無酸素槽21と好気槽22を区画する区画壁をオーバーフローすることで下流側の処理槽へと移送される構成について説明したが、区画壁の上端を水面以上の高さに形成し、壁面に形成した開口部によって汚水を下流側の処理槽へ移送する構成であってもよい。
【0076】
上述の実施形態では、好気槽22に分離膜装置23を設置して膜分離槽としたが、それぞれ別の槽で構成してもよい。汚水の処理方法は循環式嫌気好気法、長時間曝気法、オキシデーションディッチ法、二段曝気法、嫌気好気法、硝化液循環活性汚泥法等の処理方法であってもよく、膜分離装置を備えた生物処理に有効である。また、膜分離装置23は、浸漬型に限らず槽外型であってもよい。
【0077】
上述の実施形態では、生活排水等の有機性汚濁物質を含む汚水を処理する汚水処理装置に本発明を採用する構成について説明したが、本発明は、産業廃水処理施設や農業集落排水処理施設のような小規模下水処理施設に採用することもできる。
【0078】
上述した実施形態では、改築対象の汚水処理装置における生物処理方式が標準活性汚泥法のものについて説明したが、本発明は、回分式活性汚泥法、循環式硝化脱窒法、ステップ流入式硝化脱窒法、嫌気無酸素好気法、担体投入型活性汚泥法等の公知の処理方式の汚水処理装置に採用することができる。
【0079】
上述した実施形態は、何れも本発明の一例であり、該記載により本発明が限定されるものではなく、各部の具体的構成は本発明の作用効果が奏される範囲で適宜変更設計可能であることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0080】
20:膜分離活性汚泥処理装置
21:無酸素槽
22:好気槽
23:膜分離装置
24:散気装置
25:汚泥供給経路
26:BOD源供給経路
27:濃縮槽
90:沈砂池
91(91a〜91d):最初沈殿池
92(92a〜92d):生物処理槽
93(93a〜93d):最終沈殿池
94:消毒設備


【特許請求の範囲】
【請求項1】
他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いた膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法であって、
所定のBOD/SS負荷よりも高いBOD/SS負荷で運転管理される他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を種汚泥に用いるとともに、
一日当たりのBOD/SS負荷の減少速度を、0.04gBOD/gMLSS/d以下に保持して前記所定のBOD/SS負荷まで下げることを特徴とする膜分離活性汚泥処理装置の立ち上げ方法。
【請求項2】
被処理原水よりも高濃度のBOD源を被処理原水とともに供給することにより前記所定のBOD/SS負荷まで下げることを特徴とする請求項1記載の膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法。
【請求項3】
前記高濃度のBOD源が、生物処理前の沈降分離汚泥または沈降分離前の原水を含むことを特徴とする請求項2記載の膜分離活性汚泥処理装置の立ち上げ方法。
【請求項4】
前記高濃度のBOD源の添加量を漸次減少させることを特徴とする請求項2または3記載の膜分離活性汚泥処理装置の立上げ方法。
【請求項5】
所定のBOD/SS負荷で運転管理される膜分離活性汚泥処理装置を含み、
前記所定のBOD/SS負荷よりも高いBOD/SS負荷で運転管理される他の水処理装置からの余剰汚泥または活性汚泥を、前記膜分離活性汚泥処理装置の立上げ時に供給する汚泥供給経路と、生物処理前の沈降分離汚泥または沈降分離前の原水を供給するBOD源供給経路とを備え、前記BOD源供給経路からのBOD供給量が、一日当たりのBOD/SS負荷の減少速度が0.04gBOD/gMLSS/d以下となる範囲に設定されていることを特徴とする汚水処理装置。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2013−22548(P2013−22548A)
【公開日】平成25年2月4日(2013.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−161977(P2011−161977)
【出願日】平成23年7月25日(2011.7.25)
【出願人】(000001052)株式会社クボタ (4,415)
【出願人】(595011238)クボタ環境サ−ビス株式会社 (19)
【Fターム(参考)】