説明

膜厚モニタ装置及びこれを備える成膜装置

【課題】 メンテナンス終了後に再度成膜工程を実施可能とするための時間を短縮することで成膜工程の効率を向上させることが可能な膜厚モニタ装置及びこれを備える成膜装置を提供する。
【解決手段】 基板11上に成膜材料10が付着してなる薄膜の膜厚を測定するための膜厚モニタ装置5である。成膜材料10が付着し、成膜材料10の付着量によって共振周波数が変化する水晶振動子と、前記水晶振動子を囲むように形成され内部を熱媒が循環する熱媒循環路5bと、前記熱媒を循環させ、前記水晶振動子のメンテナンス時に前記水晶振動子に付着した成膜材料10を除去するべく前記熱媒の温度を調整する熱媒温度調整手段5cと、を備えてなる。蒸着装置(成膜装置)Aは、基板11上に成膜材料10を付着させて薄膜を形成するための真空室2を備え、真空室2に膜厚モニタ装置5を配設してなる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板上に成膜材料が付着してなる薄膜の膜厚を測定するための膜厚モニタ装置及びそれを備える成膜装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自発光素子であるためバックライト照明が不要であること、視野角が広く、大型の表示パネルに適すること等から有機EL素子を用いた有機ELパネルが注目されている。
【0003】
このような有機ELパネルは、ガラス材料からなる支持基板である透光性基板の所定箇所に、所定パターンの透明電極を形成し、前記透明電極上に絶縁層,正孔注入層,正孔輸送層,発光層,電子輸送層を順次積層して有機層を形成し、前記有機層上に電子注入層及び背面電極を積層形成して有機EL素子を得て、前記有機EL素子を封止基板によって気密的に覆うことで得られるものである。
【0004】
かかる有機ELパネルの製造工程においては、蒸着装置等の成膜装置が用いられる(例えば特許文献1参照)。例えば、前記有機層を形成するための蒸着装置は、排気ポートを介して真空ポンプで高真空に排気された真空室を有し、この真空室の下側に成膜材料を収納するルツボ(収納容器)を有する蒸着源が配設されている。この蒸着源は、加熱コイル等の加熱手段によって前記ルツボを介して前記成膜材料を加熱して蒸発させ、前記真空室の上側に保持される前記支持基板に成膜材料を付着させて前記有機層となる薄膜を形成するものである。
【0005】
また、前記真空室内の前記蒸着源と前記支持基板との間の蒸着雰囲気中には、前記支持基板上に形成された薄膜の膜厚を測定するための膜厚モニタ装置が設けられている。この膜厚モニタは付着する成膜材料の量に応じて共振周波数が変化する水晶振動子を備え、この水晶振動子の共振周波数を測定することで前記薄膜の膜厚を算出するものである。
【0006】
この膜厚モニタ装置の検出結果を示す検出データは、前記蒸着源の加熱を制御する制御手段に出力される。前記制御手段は、前記検出データに基づいて前記薄膜の膜厚を算出し、演算結果に基づいて前記蒸着源の加熱制御を行う、所謂フィードバック制御を行うことで所定の成膜レートに応じた成膜を行うものである。
【0007】
しかしながら、かかる膜厚モニタ装置においては、前記水晶振動子が常に前記成膜材料を含む蒸着雰囲気に晒されるため、連続して成膜工程を実施すると前記水晶振動子に多量の前記成膜材料が堆積する。そのため、精度良く薄膜の膜厚検出を行うためには一定時間毎に前記水晶振動子をクリーニングあるいは交換する等のメンテナンスを行う必要があった。また、このメンテナンスを要する間隔を長くする方法として、膜厚モニタ装置に遮蔽板を設ける方法が特許文献2に開示されている。
【特許文献1】特開2003−193217号公報
【特許文献2】特開平11−222670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前述の方法では、前記メンテナンスを行う際には前記真空室を大気開放しなければならず、前記メンテナンス終了後に再度成膜工程が実施可能となるために時間を要するという問題点があった。
【0009】
そこで、本発明は、前述した問題点に着目し、メンテナンス終了後に再度成膜工程を実施可能とするための時間を短縮することで成膜工程の効率を向上させることが可能な膜厚モニタ装置及びこれを備える成膜装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の膜厚モニタ装置は、前記課題を解決するため、基板上に成膜材料が付着してなる薄膜の膜厚を測定するための膜厚モニタ装置であって、前記成膜材料が付着し、前記成膜材料の付着量によって共振周波数が変化する水晶振動子と、前記水晶振動子を囲むように形成され内部を熱媒が循環する熱媒循環路と、前記熱媒を循環させ、前記水晶振動子のメンテナンス時に前記水晶振動子に付着した前記成膜材料を除去するべく前記熱媒の温度を調整する熱媒温度調整手段と、を備えてなることを特徴とする。
【0011】
また、前記熱媒は、フロロカーボンオイルからなることを特徴とする。
【0012】
また、前記熱媒温度調整手段は、前記膜厚の膜厚を測定する際には、前記メンテナンス時よりも低い温度となるように前記熱媒の温度を調整することを特徴とする。
【0013】
また、本発明の成膜装置は、基板上に成膜材料を付着させて薄膜を形成するための真空室を備え、前記真空室に上記の膜厚モニタ装置の何れかを配設してなる。
【0014】
また、前記成膜材料を加熱する加熱手段を有する成膜源と、前記基板を保持する基板保持手段と、前記膜厚モニタ装置の検出データに基づいて前記加熱手段を制御する制御手段と、を備えてなる。
【発明の効果】
【0015】
本発明は、基板上に成膜材料が付着してなる薄膜の膜厚を測定する膜厚モニタ装置及びそれを備える成膜装置に関するものであって、メンテナンス終了後に再度成膜工程を実施可能とするための時間を短縮することで成膜工程の効率を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、本発明を適用した膜厚モニタ装置を有機EL素子の成膜工程を行う蒸着装置に配設した実施の形態を添付図面に基づき説明する。
【0017】
図1は、蒸着装置(成膜装置)Aを示すものである。蒸着装置Aは、排気ポート1を介して図示しない真空ポンプで高真空に排気された真空チャンバー(真空室)2を有している。真空チャンバー2の下側には、成膜材料を収納するルツボ(収納部材)を有する蒸着源(成膜源)3が配設されている。
【0018】
蒸着源3は、図2に示すように、ルツボ3aを有し、ルツボ3aの周囲に加熱コイル(加熱手段)3bが捲回されるとともに、加熱コイル3bによる熱を良好にルツボ3aに伝達するために熱遮蔽板3cがルツボ3a及び加熱コイル3bの外側を覆うように配設されている。なお、本実施形態においてはルツボ3aに収納される成膜材料10は例えば蒸発性の有機材料からなるものであり、真空チャンバー2の上側に保持される支持基板11に付着して有機EL素子の有機層となるものである。
【0019】
また、蒸着装置Aには、蒸着源3の温度調整を行うための制御手段4が備えられている。この制御手段4は、後で詳述する膜厚モニタ装置5からの検出データを所定周期で入力するとともに、入力された検出データに基づき支持基板11に形成される薄膜(有機層)の膜厚を所定の演算処理によって求め、この演算結果と予め設定される基準値とを比較し、この比較結果に基づいて所定の成膜レートで薄膜を形成するべく加熱コイル3bに対して電流量調整等のフィードバック制御を行うものである。
【0020】
膜厚モニタ装置5は、支持基板11に形成される薄膜の膜厚を測定するためのものである。膜厚モニタ装置5は、蒸着源3と支持基板11との間の成膜材料10の蒸着経路中に配設され、水晶振動子5aと熱媒循環チューブ(熱媒循環路)5bと熱媒温度調整手段5cと、を有する。
【0021】
水晶振動子5aは、図3に示すように、膜厚モニタ装置5のヘッド部に蒸発した成膜材料10が付着可能に配置され、成膜材料10の付着量に応じて共振周波数が変化するものである。膜厚モニタ装置5は、この共振周波数の変化を検出データとして制御手段4に出力し、この検出データに基づいて制御手段4にて薄膜の膜厚が算出される。なお、膜厚モニタ装置5に別途制御手段を備えて薄膜の膜厚の算出を行う構成であってもよい。
【0022】
熱媒循環チューブ5bは、図3に示すように、熱媒温度調整手段5cから延設されるとともに膜厚モニタ装置5の前記ヘッド部において水晶振動子5aを囲むように設けられるものであり、その内部を熱媒(熱媒体)5dが循環する。熱媒5dとしては、例えば高温用のフロロカーボンオイルが用いられる。
【0023】
熱媒温度調整手段5cは、例えば高温サーキュレータからなり、熱媒循環チューブ5b内に熱媒5dを循環させるポンプ等の循環機構と熱媒5dの温度調整を行うヒータ等の温度調整機構とを備える。熱媒温度調整手段5cは熱媒循環チューブ5bを介して水晶振動子5a周辺に熱媒5dを供給する。また、供給された熱媒5dは水晶振動子5a周辺から熱媒温度調整手段5cに環流する。
【0024】
一方、真空室2の上側には、ガラス材料からなる支持基板11(有機ELパネルの場合、有機層が形成される前段階において、透明電極及び絶縁層等が既に形成されている)を保持する基板ホルダー6と、支持基板11に所定の蒸着パターンを形成するため蒸着マスク7を備えたマスクホルダー8とを備え、蒸着源3に対し支持基板11を位置決め保持するための基板保持部材(基板保持手段)9が備えられている。
【0025】
以上の各部によって蒸着装置Aが構成されている。
【0026】
従って、蒸着装置Aは、膜厚モニタ装置5の水晶振動子5aのメンテナンス時において、熱媒温度調整手段5cによって例えば100〜400℃程度に加熱された熱媒5dを熱媒循環チューブ5bを介して水晶振動子5a周辺で循環させることで水晶振動子5aに付着した成膜材料10を加熱し、成膜材料10を再蒸発させて水晶振動子5aから除去して水晶振動子5aのクリーニングを実施することができる。かかる作業には真空室2を大気開放する必要がなく、メンテナンス終了後に再度成膜工程を実施可能とするまでに要するのは熱媒5dの温度上昇及び下降の時間のみとなり、成膜工程の効率を向上させることが可能となる。
【0027】
なお、蒸着装置Aにて成膜工程を実施する際には、熱媒温度調整手段5cによって熱媒5dをメンテナンス時よりも低い温度(特に10〜80℃程度)とすることで、一旦水晶振動子5aに付着した成膜材料10が再蒸発することを低減でき、安定した膜厚測定を行うことができる。
【0028】
また、本実施形態においては、膜厚モニタ装置5は単一の前記ヘッド部を有するものであったが、水晶振動子5aを備える複数のヘッド部を設け、1つのヘッド部によって膜厚測定を行うとともに他のヘッド部のメンテナンスを行うものであってもよい。かかる構成によれば、成膜工程の効率はさらに向上することができる。なお、かかる構成においては、それぞれのヘッド部周辺に熱媒5dを循環させるための熱媒循環チューブ5bが設けられる。
【産業上の利用可能性】
【0029】
尚、本実施形態では、有機ELパネルの蒸着装置Aに適用したが、本発明は、基板上に成膜材料が付着してなる薄膜の膜厚の測定を要する成膜装置に広く適応可能である。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施形態における蒸着装置を示す図。
【図2】同上実施形態の蒸着源を示す図。
【図3】同上実施形態の膜厚モニタ装置を示す図。
【符号の説明】
【0031】
A 蒸着装置
2 真空室
3 蒸着源
3a ルツボ(収納部材)
4 制御手段
5 膜厚モニタ装置
5a 水晶振動子
5b 熱媒循環チューブ(熱媒循環路)
5c 熱媒温度調整手段
5d 熱媒
10 成膜材料
11 支持基板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板上に成膜材料が付着してなる薄膜の膜厚を測定するための膜厚モニタ装置であって、
前記成膜材料が付着し、前記成膜材料の付着量によって共振周波数が変化する水晶振動子と、
前記水晶振動子を囲むように形成され内部を熱媒が循環する熱媒循環路と、
前記熱媒を循環させ、前記水晶振動子のメンテナンス時に前記水晶振動子に付着した前記成膜材料を除去するべく前記熱媒の温度を調整する熱媒温度調整手段と、
を備えてなることを特徴とする膜厚モニタ装置。
【請求項2】
前記熱媒は、フロロカーボンオイルからなることを特徴とする請求項1に記載の膜厚モニタ装置。
【請求項3】
前記熱媒温度調整手段は、前記薄膜の膜厚を測定する際には、前記メンテナンス時よりも低い温度となるように前記熱媒の温度を調整することを特徴とする請求項1に記載の膜厚モニタ装置。
【請求項4】
基板上に成膜材料を付着させて薄膜を形成するための真空室を備え、
前記真空室に請求項1から請求項3のいずれかに記載の膜厚モニタ装置を配設してなることを特徴とする成膜装置。
【請求項5】
前記成膜材料を加熱する加熱手段を有する成膜源と、前記基板を保持する基板保持手段と、前記膜厚モニタ装置の検出データに基づいて前記加熱手段を制御する制御手段と、を備えてなることを特徴とする請求項4に記載の成膜装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−149919(P2009−149919A)
【公開日】平成21年7月9日(2009.7.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−326439(P2007−326439)
【出願日】平成19年12月18日(2007.12.18)
【出願人】(000231512)日本精機株式会社 (1,561)
【Fターム(参考)】