説明

膜厚測定装置、及び膜厚測定方法

【課題】 着色された膜の膜厚を精度良く測定しうる膜厚測定装置、及び膜厚測定方法を提供すること。
【解決手段】 膜が形成された試料に光を照射させて得られる反射光情報に基いて、干渉特性を検出する干渉特性検出手段と、
該干渉特性検出手段にて検出された干渉特性の波形中に存在する、2つの隣接する極大点の波長を求めるピーク波長算出手段と、
該ピーク波長算出手段により得られた、2つの隣接する極大点の波長における比屈折率Naを求め、該比屈折率Naから膜厚算出に用いる比屈折率Nbを算出する比屈折率算出手段と、
該比屈折率算出手段にて算出された比屈折率Nbから膜厚を算出する膜厚算出手段と、
を備えることを特徴とする膜厚測定装置、及び該膜厚測定装置を用いた膜厚測定方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、膜が形成された試料の膜厚を測定する膜厚測定装置、及び膜厚測定方法に関し、より具体的には、導電性基体上に複数の層を積層してなる電子写真感光体の膜厚を測定するのに好適な膜圧測定装置、及び膜厚測定方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、複写機やプリンタ等の電子写真装置に使用される電子写真感光体において、導電性基体上に下引層と電荷発生層と電荷輸送層とを順次積層させたものが知られており、これらの感光層は各層を構成するための有機系光導電性材料を結着剤樹脂とともに有機溶剤に溶解又は分散させて感光体塗布液として作成し、この感光体塗布液を導電性基体の上に順次塗布、乾燥させることにより電子写真感光体が製造されることが知られている。この塗布方法として多くの工法が知られており、特に浸漬塗布法は、前述の感光体塗布液を満たした塗布槽に導電性基体を浸漬した後に所定の速度で引き上げることにより、感光層を形成する方法であり、その生産性の高さから電子写真感光体の製造において広く利用されている。
【0003】
しかし、上記の浸漬塗布法は垂直方向にだれが生じやすいという欠点をもっており、基体上に形成される感光層に塗布ムラや、筋が発生したり、膜厚の上下差が大きくなり、画像濃淡ムラ等の画質欠陥の原因となることがある。また、塗布液には、塗膜形成の為の、蒸発しやすい有機溶剤を使用していることが多い。そのため、塗布槽内の塗布液から溶剤が蒸発し塗布液の粘度や濃度が変化するため、その製造工程において一定の条件で塗布することが難しい。
【0004】
このため、上記のような電子写真感光体の製造工程においては各層の膜厚の測定及び評価を行い、それを管理することにより塗布工程の変動を検出し、塗布量の調整を行っており、段差計、渦電流式膜厚計等の接触式膜厚測定法や、色彩色差法、干渉法、光吸収法等を用いた非接触式膜厚測定法が考案されている。
特に、干渉法を用いた膜厚評価は、比較的平易かつ短時間での評価が可能なことから、電子写真感光体の下引き層や電荷輸送層のような透明膜の膜厚を測定する場合によく用いられている。例えば、引用文献1及び引用文献2には、下引き層等の透明膜を塗布する際に、光干渉法により逐次膜厚を測定し、その測定結果をフィードバックし塗布速度を自動制御して膜厚の変動を抑え均一化する方法が開示されている。
【0005】
この光干渉法の原理は以下の通りである。図5に、基板上に形成された膜厚d、膜の比屈折率nの透明薄膜試料に光を入射した場合の模式図を示す。このような膜に光を入射し、その反射光のスペクトルを採取した場合、スペクトルは、例えば、図6のような波形になる。このような波形で得られる、2つの隣り合った光量極大となる波長(以下PEAK波長と略す)又は2つの隣り合った光量極小となる波長(以下BOTTOM波長と略す)であるλ1、λ2を求め、それらを膜厚算出式である下記式(1)に代入することにより、膜厚を求める方法である。
【0006】
式(1) d=λ1λ2/2n(λ1−λ2
【0007】
ここで、nは膜の比屈折率であり、光学的に透明な膜においては、可視光領域で一定の値を示すものである。
【0008】
なお、図6は、隣り合った2つのPEAK波長から膜厚を算出する例であるが、波形によっては隣り合った2つのBOTTOM波長を用いてもよい。
また、この2つのPEAK波長の組み合わせが、所定の波長範囲において複数出現する場合には、各々の波長の組み合わせにて膜厚値を算出しておき、得られた膜厚値全てを平均化する処理を行うこともでき、分光器での波長検出誤差による膜厚測定誤差を小さくする方法として、多く用いられている。
【特許文献1】特開平4−336540号公報
【特許文献2】特開平6−130683号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
一方、測定される電子写真感光体の塗布膜のうち、例えば、電荷発生層のような層においては、電荷発生材料の顔料粒子が膜中に分散されて、着色されているものが一般的である。このため、その反射スペクトル上には部分的に強い吸収線が存在する場合があり、この場合の膜の比屈折率(n)は、波長によって大きく変化することが知られている。このように比屈折率(n)が大きく変化すると、上述の式(1)における比屈折率が波長依存性を持つ系となるために、干渉膜厚測定値算出に必要な定数n:比屈折率の定量が不可能となり、ひいては、膜厚の測定が不可能となるという問題があった。
【0010】
そこで、本発明は、前記従来における問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。
即ち、本発明は、着色された膜の膜厚を精度良く測定しうる膜厚測定装置、及び膜厚測定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者らは、上記課題を達成するために、以下の本発明を見出した。
即ち、本発明の膜厚測定装置は、膜が形成された試料に光を照射させて得られる反射光情報に基いて、干渉特性を検出する干渉特性検出手段と、該干渉特性検出手段にて検出された干渉特性の波形中に存在する、2つの隣接する極大点の波長を求めるピーク波長算出手段と、該ピーク波長算出手段により得られた、2つの隣接する極大点の波長における比屈折率Naを求め、該比屈折率Naから膜厚算出に用いる比屈折率Nbを算出する比屈折率算出手段と、該比屈折率算出手段にて算出された比屈折率Nbから膜厚を算出する膜厚算出手段と、を備えることを特徴とする。
【0012】
また、本発明の膜厚測定方法は、膜が形成された試料に光を照射させて得られる反射光情報に基いて、干渉特性を検出する干渉特性検出工程と、該干渉特性検出工程にて検出された干渉特性の波形中に存在する、2つの隣接する極大点の波長を求めるピーク波長算出工程と、該ピーク波長算出工程により得られた、2つの隣接する極大点の波長における比屈折率Naを求め、該比屈折率Naから膜厚算出に用いる比屈折率Nbを算出する比屈折率算出工程と、該比屈折率算出工程にて算出された比屈折率Nbから膜厚を算出する膜厚算出工程と、を有することを特徴とする。
【0013】
本発明の膜厚測定装置、及び膜厚測定方法のそれぞれには、下記第1の態様乃至第3のの態様を少なくとも1つ適用することが好ましい。
【0014】
第1の態様は、前記膜が着色膜である。
第2の態様は、前記膜が顔料分散膜である。
第3の態様は、前記膜が形成された試料が、導電性基体上に複数の層を積層してなる電子写真感光体である。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、着色された膜の膜厚を精度良く測定しうる膜厚測定装置、及び膜厚測定方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
以下、図面を参照し、本発明の膜厚測定装置、及び膜厚測定方法について説明する。
<第1の実施形態>
以下に、第1の実施形態に係る膜厚測定装置を、図1を参照して説明する。なお、膜厚測定方法については、装置と共に説明する。
【0017】
図1は、本発明の第1の実施形態に係る膜厚測定装置を示す概略構成図である。
図1に示す膜厚測定装置100は、試料10において、基板1上に形成された膜2に光を照射して、その反射光情報D1を検出する反射光情報採取部20と、該反射光情報採取部20から採取された反射光情報D1に基いて膜厚を算出する膜厚演算部30と、を備える。なお、図示しないが、膜厚演算部30は、算出した膜厚を表示する表示装置、或いは算出した膜厚に基き塗布膜形成の制御を行う塗布装置等に接続されてもよい。
【0018】
反射光情報採取部20は、光源22と、プローブ24と、分光光度計26と、を備える。また、光源22とプローブ24とは光ファイバ28aを介して接続されている。更に、プローブ24と分光光度計26とは光ファイバ28bを介して接続されている。
光源22は、例えば、ハロゲン、キセノン等の一般的な光源を用いることができる。
分光光度計26は、反射光Loutを結像し、反射光情報D1、即ち、反射光Loutのスペクトルを採取するものである。
【0019】
反射光情報採取部20においては、光源22から照射された光が、光ファイバ28aを経由してプローブ24から膜2に、入射光Linとして照射される。そして、膜2から反射された反射光Loutが、プローブ24で受光され、光ファイバ28bを経由して、分光光度計26の分光器に結像する。分光光度計26は、その反射光Loutの情報をスペクトルとして採取する。採取された反射光情報(スペクトル)D1は、膜厚演算部30に入力される。
なお、反射光情報採取部20の構成は一例であって、例えば、光源22をプローブ24内に収納したり、光ファイバ28a及び28bの代わりにレンズ系等の他の光学素子を用いてもよい。反射光情報採取部20は、少なくとも、試料10に形成された膜2に対して光を照射し、その反射光情報を得られる構成であればよい。
【0020】
膜厚演算部30は、干渉特性検出部(干渉特性検出手段)32と、ピーク波長算出部(ピーク波長算出手段)34と、比屈折率算出部(比屈折率算出手段)36と、膜厚算出部(膜厚算出手段)38と、を備える。この膜厚演算部30は、コンピューター・システムを利用して、ソフトウェア的に構築されていてもよく、また、専用の電気的回路として構成されていてもよい。
【0021】
干渉特性検出部32は、入力された反射光情報D1に基いて、干渉特性を検出するものである。また、ピーク波長算出部34は、干渉特性検出部32にて検出された干渉特性の波形中に存在する、2つの隣接する極大点(ピーク)の波長を求めるものである。更に、比屈折率算出部36は、ピーク波長算出部34により得られた、2つの隣接する極大点の波長における比屈折率Naを算出し、該比屈折率Naから膜厚算出に用いる比屈折率Nbを算出するものである。加えて、膜厚算出部38は、比屈折率算出部36にて算出された比屈折率Nbから膜厚を算出するものである。
【0022】
以上、膜厚測定装置100の構成について説明したが、次に、膜厚測定装置100の具体的動作(本発明の膜厚測定方法の第1の実施形態)について説明する。
反射光情報採取部20により採取された反射光情報D1は、膜厚演算部30に入力される。
ここで、反射光情報D1の採取方法ついてより詳細に説明する。まず、膜2に照射され入射光Linは、膜2内を通過して基板1の表面で反射した後、再びプローブ24に到達する反射光Loutと、膜2の表面で反射して再びプローブ24に到達する反射光Loutと、に分かれる。この際、2つの反射光Loutには2nd(nは膜の比屈折率、dは膜厚である。)の光路差を生じている。また、基板1の表面で反射する反射光Loutは、反射する際に位相が180゜ずれている。従って、下記式(2)のときに、反射光の光量は極大となり、下記式(3)のときに、反射光の光量が極小となる。
【0023】
式(2) 2nd=mλ (m=1、2、3、・・・)
式(3) 2nd=(2m+1)λ/2 (m=1、2、3、・・・)
【0024】
上記式(2)及び(3)中、nは膜の比屈折率、dは膜厚、λは反射光の波長、mは干渉次数である。
【0025】
従って、反射光情報D1、即ち、反射光のスペクトルは、上記式(2)及び式(3)の関係が成立している。
その後、干渉特性検出部32にて、膜厚演算部30に入力された反射光情報(スペクトル)D1に基き、波長と反射光量とを、2次元データ配列として整列した後、移動平均化処理による波形のスムージング等の前処理を行い、干渉特性を検出する(干渉特性検出工程)。この処理により得られた干渉特性の波形の例を図2に示す。
【0026】
その後、ピーク波長算出部34にて、干渉特性検出部32にて検出された、干渉特性の波形中に存在する、2つの隣接する極大点の波長を各々求める(ピーク波長算出工程)。なお、以下、極大点の波長を、単にピーク波長と称する場合がある。
つまり、図3に示す干渉特性の波形においては、w(1)〜w(n)が各極大点の波長(ピーク波長)となる。
【0027】
そして、比屈折率算出部36では、ピーク波長算出部34により得られた、2つの隣接する極大点の波長における比屈折率Naを算出し、該比屈折率Naから膜厚算出に用いる比屈折率Nbを算出する(比屈折率算出工程)。
この比屈折率Na及び比屈折率Nbの算出方法について、図2を参照して、具体的に説明する。
例えば、2つの隣接する極大点の波長(ピーク波長)がw(x)及びw(x+1)である場合、その各々の波長に対応した比屈折率Naw(x)及びNaw(x+1)は、下記式(4)及び式(5)により算出される。
【0028】
式(4) Naw(x)=f・w(x)
式(5) Naw(x+1)=f・w(x+1)
【0029】
ここで、式(4)及び式(5)中のfは、予め、求めておいた係数である。
なお、この係数fは、予め、測定する試料と同じ膜を用意し、その膜の波長と比屈折率との関係を求めておくことで得られる。
【0030】
上記のようにして比屈折率Naw(x)及びNaw(x+1)を求めた後、下記式(6)により、膜厚算出に用いられる比屈折率Nbw(x,x+1)を算出する。
【0031】
式(6) Nbw(x,x+1)=(Naw(x)+Naw(x+1))/2
【0032】
このように、比屈折率Naは、極大点の数と同じ数だけ算出され、また、該比屈折率Naから求められる比屈折率Nbは、(極大点の数−1)だけ算出される。つまり、図2に示すように、極大点がn個存在する場合は、比屈折率Naは、n個算出され、比屈折率Nbは、n−1個算出されることとなる。
【0033】
膜厚算出部38にて、比屈折率算出部36で得られた比屈折率Nbとそれを算出する際のピーク波長に基き、膜厚を算出する(膜厚算出工程)。この膜厚の算出を、比屈折率Nbの数だけ行い、それらの値を平均して、試料10に形成された膜2の膜厚値とする。
具体的には、上記のように、ピーク波長がw(x)及びw(x+1)で、その比屈折率Nbが比屈折率Nbw(x,x+1)である場合、膜厚d(x)は下記式(7)により算出することができる。
【0034】
式(7)
d(x)=w(x+1)・w(x)/2Nbw(x,x+1)[w(x+1)−w(x)]
【0035】
以上、第1の実施形態に係る膜厚測定装置、及び膜厚測定方法は、比屈折率算出部36により、各ピーク波長における比屈折率Naを算出し、その比屈折率Naを用いて、膜厚を算出するための比屈折率Nbが算出されることから、着色膜のように、比屈折率が波長により変化する膜の厚さを測定する場合であっても、精度よく膜厚を測定することができる。
なお、本発明における「着色膜」とは、上記のように、比屈折率が測定波長により変化する膜をいい、例えば、顔料が分散した電荷発生層等が挙げられる。
【0036】
<第2の実施形態>
以下に、第2の実施形態に係る膜厚測定装置を、図3を参照して説明する。なお、膜厚測定方法については、装置と共に説明する。
【0037】
図3は、本発明の第2の実施形態に係る膜厚測定装置を示す概略構成図である。
図3に示す膜厚測定装置200は、膜厚演算部30に、更に比屈折率記憶部37を備える以外、図1に示す膜厚測定装置100と同様な構成である。なお、図1に示す膜厚測定装置100と同様な構成の説明は、省略する。
比屈折率記憶部37は、ピーク波長に対応した比屈折率Naの情報を格納しておくものであり、この情報により、第1の実施形態の比屈折率算出部36における、係数fを用いた比屈折率Naを算出する工程を省略することができる。
【0038】
以下、本発明の膜厚測定装置200の具体的動作(本発明の膜厚測定方法の第2の実施形態)について説明する。なお、ここで、干渉特性検出工程、ピーク波長算出工程、及び膜厚算出工程は、上述の本発明の第1の実施形態の干渉特性検出工程、ピーク波長算出工程、及び膜厚算出工程とそれぞれ同様であるため、説明は省略する。
【0039】
ピーク波長算出工程の後、比屈折率算出部36では、ピーク波長算出部34により得られた、2つの隣接する極大点の波長における比屈折率Naを求め、該比屈折率Naから膜厚算出に用いる比屈折率Nbを算出する。
ここで、比屈折率Nbの求め方について、図2及び図3を参照して、具体的に説明する。
例えば、2つの隣接する極大点の波長(ピーク波長)がw(x)及びw(x+1)である場合、その各々の波長に対応した比屈折率Naw(x)及びNaw(x+1)は、比屈折率記憶部37に格納された情報から得ることができる。
そして、得られた比屈折率Naw(x)及びNaw(x+1)を、下記式(6)に代入することにより、膜厚算出に用いられる比屈折率Nbw(x,x+1)を算出する。
【0040】
式(6) Nbw(x,x+1)=(Naw(x)+Naw(x+1))/2
【0041】
以上のように、本発明の第2の実施形態によれば、着色膜のように、比屈折率が波長により変化する膜の厚さを測定する場合であっても、精度よく膜厚を測定することができることに加え、比屈折率算出部36における比屈折率Nbの算出をより簡易に行うことができるという長所を有する。
【0042】
以上、第1の実施形態及び2の実施形態に係る膜厚測定装置、及び方法の構成及び測定動作について説明したが、本発明は、この実施の形態に限定されるものではない。
【0043】
本発明の膜厚測定装置、及び膜厚測定方法は、着色膜の膜厚の測定に適用されることが好ましいが、特に、電子写真感光体の膜厚測定に適応させることが好ましい。即ち、電子写真感光体は、例えば、顔料粒子を含む電荷発生層(着色膜)を有することから、本発明の膜厚測定装置、及び膜厚測定方法によれば、その電荷発生層の膜厚を精度よく測定することができる。
【0044】
本発明の膜厚測定装置、及び膜厚測定方法において膜厚が測定される、電子写真感光体としては、導電性基体上に少なくとも感光層を有するものが挙げられ、具体的には、導電性基体上に下引き層、電荷発生層、電荷輸送層を順次形成したものなどが挙げられる。このように、電子写真感光体を構成する導電性基体、及び各層の材料等は、従来公知のものを用いる。
【0045】
電子写真感光体を製造する際には、下引き層、電荷発生層、電荷輸送層等の塗布膜を塗布する際に、本発明の膜厚測定装置、及び膜厚測定方法により逐次膜厚を測定し、その測定結果をフィードバックし膜厚を制御することが好ましい。この場合、電子写真感光体を製造する装置としては、例えば、前記第1の実施形態又は第2の実施形態に係る膜厚測定装置と、該膜厚測定装置における膜厚演算部により算出された膜厚の測定結果により、膜厚が制御可能な、従来公知の塗布装置とから構成される。
【0046】
電子写真感光体の製造において、塗布形成における膜厚を制御する因子として塗布速度等が挙げられる。例えば、浸漬塗布法における塗布を例にすると、この塗布速度V(ここで塗布速度とは、基体を塗布液に浸漬し、引き上げるときの速度でる。)と膜厚dとの関係は、下記式(8)のようになっており、粘度η、塗布液密度ρ一定条件下で膜厚dは塗布速度Vの0.5乗に比例することがわかる。下記式(8)中、gは重力加速度、Kは定数(Kは材料等による固有の値である。)を表すため、他の条件(塗布速度V、粘度η、塗布液密度ρ)を変化させることにより、膜厚dを制御することができる。
【0047】
式(8) d=K(Vη/ρg)0.5
【0048】
電子写真感光体の下引き層、電荷発生層、電荷輸送層等の塗布膜を塗布する際に、本発明の膜厚測定装置、及び膜厚測定方法により逐次膜厚を測定し、その測定結果をフィードバックし膜厚を制御することで、電子写真感光体の膜厚を中間製品の状態で正確に評価することが可能となる。そのため、その工程の変動がいち早く検出でき、工程の安定化、膜厚不良品の後工程への大量流出を防ぐことができる。
【実施例】
【0049】
本発明を、電子写真感光体の膜厚測定に関する実施例により具体的に説明するが、本発明は、これら実施例に限定されない。
【0050】
(実施例)
(測定サンプルの作製)
電子写真感光体の電荷発生層の膜厚の水準を、6水準に振ったサンプルを浸漬塗布法により作製した。つまり、電荷発生層の膜厚が6段階の異なるサンプルを用意した。
なお、この電荷発生層は、ポリビニルブチラール樹脂の5質量%シクロヘキサノン溶液20質量部に、臭素化アントアントロン8質量部を混合し、サンドミル分散を行い分散液を得た後、該分散液に更にシクロヘキサノン30質量部を加えたものを塗布してなるものである。
膜厚の正確な水準値は不明であるため、水準を制御する因子として塗布速度をとった。即ち、浸漬塗布法における塗布速度と膜厚の関係は、上記式(8)のようになっており、η、ρ一定条件下で膜厚dは塗布速度Vの0.5乗に比例するため、膜厚は塗布速度で制御できる。
【0051】
(膜厚の測定)
これらのサンプルに、図1に示す膜厚測定装置100を使用して、電荷発生層(膜)2に、光源22より光ファイバー28a及びプローブ24経由で光を照射し、電荷発生層2からの反射光をプローブ24及び光ファイバー28b経由で、分光光度計26の分光器に結像させ反射光情報(スペクトル)D1を得た。なお、分光光度計26における波長範囲は300〜1100nmであった。
【0052】
更に、得られたスペクトルD1より、膜厚算出部30の干渉特性検出部32にてスペクトルを波長と反射光量との2次元データ配列として整列した後、移動平均化処理による波形のスムージング等の前処理を行った。スムージング処理の移動平均回数は3回とし、これにより波形の平滑化を行った。
次に、ピーク波長算出部34により、干渉特性の波形中に存在する、2つの隣接する極大点の波長を各々求めた。その後、比屈折率算出部36において、2つの隣接する極大点の波長における比屈折率Naを算出し、該比屈折率Naから膜厚算出に用いる比屈折率Nbを算出する。なお、ここで、比屈折率Naを算出する際に用いる式(4)及び式(5)における係数fは、図4に示す、実施例のサンプルにおける電荷発生層の波長と比屈折率との関係曲線から導かれる。その後、算出された比屈折率Naから比屈折率Nbを算出した。
【0053】
次に、比屈折率Nbとそれを算出する際のピーク波長に基き、膜厚演算部38により膜厚を求めた。この膜厚の算出を、比屈折率Nbの数だけ行い、それらの値を平均して、試料10に形成された膜2の膜厚値とする。
上述の方法で膜厚の測定を行ったところ、いずれのサンプルにおいても、膜厚の測定繰り返し精度σ=0.07μmという良好な結果が得られた。
なお、膜厚の測定繰り返し精度σは、電荷発生層の膜厚の異なるサンプル6種類毎に5回繰り返して膜厚測定した結果から、標準偏差を算出し、6個の標準偏差から統計的方法によって代表値を求めたものである。
以上により、本発明の膜厚測定装置、及び膜厚測定方法によれば、電子写真感光体の電荷発生層の膜厚を精度良く測定することができた。
【0054】
(比較例)
実施例と同様のサンプルに対し、特開平4−336540号公報に記載の式(2)を用いた膜厚算出方法を用いて、電荷発生層の膜厚の測定を行った。
上述の方法で膜厚の測定を行ったところ、いずれのサンプルにおいても、膜厚の測定繰り返し精度σ=0.25μmという結果が得られ、測定精度が不充分であった。
【図面の簡単な説明】
【0055】
【図1】第1の実施形態に係る膜厚測定装置を示す概略構成図である。
【図2】第1の実施形態に係る膜厚測定装置の動作おける干渉特性の波形の一例である。
【図3】第2の実施形態に係る膜厚測定装置を示す概略構成図である。
【図4】実施例のサンプルにおける電荷発生層の波長と比屈折率との関係曲線を示す図である。
【図5】膜厚d、屈折率nの透明薄膜試料に光を入射した場合の模式図である。
【図6】膜厚d、屈折率nの透明薄膜試料に光を入射した場合の反射光のスペクトルの一例である。
【符号の説明】
【0056】
10 試料
1 基板
2 膜
20 反射光情報採取部
22 光源
24 プローブ
26 分光光度計
28a、28b 光ファイバ
30 干渉特性検出部
34 ピーク波長算出部
36 比屈折率算出部
38 膜厚算出部
1 反射光情報(スペクトル)
in 入射光
out 反射光

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜が形成された試料に光を照射させて得られる反射光情報に基いて、干渉特性を検出する干渉特性検出手段と、
該干渉特性検出手段にて検出された干渉特性の波形中に存在する、2つの隣接する極大点の波長を求めるピーク波長算出手段と、
該ピーク波長算出手段により得られた、2つの隣接する極大点の波長における比屈折率Naを求め、該比屈折率Naから膜厚算出に用いる比屈折率Nbを算出する比屈折率算出手段と、
該比屈折率算出手段にて算出された比屈折率Nbから膜厚を算出する膜厚算出手段と、
を備えることを特徴とする膜厚測定装置。
【請求項2】
膜が形成された試料に光を照射させて得られる反射光情報に基いて、干渉特性を検出する干渉特性検出工程と、
該干渉特性検出工程にて検出された干渉特性の波形中に存在する、2つの隣接する極大点の波長を求めるピーク波長算出工程と、
該ピーク波長算出工程により得られた、2つの隣接する極大点の波長における比屈折率Naを求め、該比屈折率Naから膜厚算出に用いる比屈折率Nbを算出する比屈折率算出工程と、
該比屈折率算出工程にて算出された比屈折率Nbから膜厚を算出する膜厚算出工程と、
を有することを特徴とする膜厚測定方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2006−275521(P2006−275521A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−90262(P2005−90262)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(000005496)富士ゼロックス株式会社 (21,908)
【Fターム(参考)】