説明

膜構造、鉄骨構造建造物等の融雪方法

【課題】 膜構造物の屋根面及び鉄骨構造物の融雪・融氷を初期投資・工事費を低く押さえることができ、熱効率が高く技術的に安定し、且つランニングコストの費用が不要となる融雪方法の提供。
【解決手段】
膜構造物1の室内側の膜の表面に、プライマー2を塗布した被塗膜面に合成樹脂エマルジョン組成物に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物をフィラーにした発熱塗料を塗布した発熱塗膜層3を形成し、この上に同種合成樹脂エマルジョン組成物にセラミック微細中空粒子を配合してなる断熱塗料4を塗布して断熱層を積層して、この表面に上塗り塗料を塗布して、発熱塗膜層3に通電する。鉄骨構造物の表面に、プライマーを塗布した被塗膜面に断熱塗料を塗布して断熱層を形成し、この上に前記発熱塗料を塗布して発熱塗膜層を積層せしめ、この表面に上塗り塗料を塗布して、発熱塗膜層に通電する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、冬期の積雪時における膜構造建造物、橋梁等の鉄骨構造建造物の融雪を行なう際の手間及びランニングコストを大幅に低減することができ、且つ、初期投資を軽減せしめることのできる膜構造、鉄骨構造建造物等の融雪方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本出願人は、株式会社リボールに在籍中、発明者として多数の特許出願を行ない、更にそれらの生産販売を通じて多くの知見を得ることができた。例えば特開平8−24774に於て、建造物、電車の屋根や床下面、電車のトンネル内壁及び外壁等への着雪、着氷を防止することのできる防水塗膜として、合成樹脂エマルジョンからなる、同種塗膜防水材でプライマーの上にセラミック微細中空粒子をフィラーにした断熱中間層、黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物をフィラーにした融雪塗膜層を積層し、この上に表面保護層を積層形成せしめ、長期間の0℃以下の低温時にのみ通電する防水機能を備えた融雪塗膜の技術を開示している。
【0003】
特開平8−127736於て、薄塗り塗膜においても断熱性を充分発揮することができ塗膜の密着性、塗膜間の密着性を高め耐候性、耐久性を高めることができ、更に表面硬度の高い断熱性塗材として、硬化後透明あるいは半透明塗膜層を形成する合成樹脂エマルジョン組成物に圧縮強度600kgf/cm以上で、嵩比重0.3〜0.5g/cm、融点1500℃以上のセラミック微細中空粒子又はセラミック微細中空粒子と粒径0.01〜5.0mmの無機質粉末を配合してなる断熱性塗材の技術を開示している。
【0004】
近年野球場、各種スポーツ、その他多目的施設等として、膜構造建造物が各地に建設されている。膜上屋で覆われた空間は、雨風に影響されずまた炎天下の直射日光を避け、年間を通して安定した多目的空間を維持することができる。これらの膜構造建造物は、気候の温暖な地方は無論のこと寒冷地域、豪雪地域にも建設設置されている。むしろ寒冷地域、豪雪地域等の場合は冬期においても安定的に使用することができるため、その必要性は高い。例えば、秋田県秋田市の「秋田ドーム」、福井県美浜町の「美浜町多目的広場、ゆうあいひろば」等は豪雪あるいは多雪地帯の典型的な例である。このような膜構造建造物は、除雪、融雪等の対策が重要事項である。
【0005】
融雪を行なう際の手間を軽減することができるとともに、コスト低減を図ることができる膜構造物の膜屋根面の融雪方法として特開平9−112071がある。これは膜屋根を二重に構成して、この二重膜間の空間に温風を吹き込む。温風の吹き込みに際しては、空間に温風を吹き込む短管を壁部に沿って配置された空調用の主ダクトに接続し、更にこの単管に透光材で形成された延長ダクトを接続してその先端を屋根勾配20°以下となる部分(積雪部分)に位置させるという技術が開示されている。しかしこの技術では膜構造屋根にすべて温風を吹き込むことのできるよう膜を二重構造としなければならず、初期投資にかかる設備費の負担が非常に大きくなる。
【0006】
特開平9−203245及び特開平10−37526において、膜構造屋根の膜面下方温度と膜内表面温度を検出して、この両検出温度に基づいて膜構造屋根の膜面通過熱量を演算し、この膜面通過熱量が上限値を超えたか否かにより膜面下方温度を変化させ、膜面通過熱量が得られるように膜構造屋根内の空調温度を制御する。この空調温度の制御において、降雪強度と降雪時間との関係を分析し、降雪強度を予測する可能性推定モデルを作成し、この可能性推定モデルによる降雪予測方法により、予測値の入力値を求め、ファジィ規則にしたがって消雪運転の制御量を決定し、膜構造屋根内の空調温度を制御する技術が開示されている。しかしこの方法では、初期設備投資並びにランニングコスト共に過大なものとなる。
【0007】
エネルギー搬送中の不必要な熱ロスを排除でき、また、効率的な融雪促進と、結露受け等のメリットが得られる膜構造建造物の融雪方法の技術として特開平10−341323がある。膜屋根を室内側から加温して膜屋根上の積雪を融かす方法である。熱エネルギーである温水、蒸気、加熱オイル、加熱不凍液等液体又は気体の熱媒体を、熱源機器から融雪場所に配設した放熱部まで搬送した後、放熱部の周囲の空気に強制対流を加えることにより、熱エネルギーを温風に変換して、この変換した温風を融雪対象部位の膜屋根に対して直接放熱させて、融雪・滑雪促進、膜面結露防止を行わさせる技術が開示されている。しかしこの方法では、初期設備投資並びにランニングコスト共に過大なものとなる。
【0008】
積雪は、大きく分けると4つに分けられる。降ったばかりの新雪、降り積もって少し時間が経ち固くなった小しまり雪、積もった雪の重さで固くしまったしまり雪、春が近くなり気温が高くなり融けかけてきてざらざらしたざらめ雪である。鉄骨構造建造物において橋梁、鉄塔等からの落雪は人に対して非常に危険であり、車両に対しても危険なものでフロントガラスを損壊するなどの事故も多々ある。特に小しまり雪、しまり雪やざらめ雪の塊などが落下しやすく危険である。
【0009】
このような橋桁の融雪に対して特開平11−131422では、ヒーターを断面正方形のグラファイト繊維を耐熱樹脂被覆したものを、接着剤で橋桁に貼着する。この線状のヒータを熱反射層で覆い、更に、その線状ヒータを張り巡らせた全面を断熱材を吹きつけて断熱層を形成する。更にヒータはアルミペーストを吹きつけにより被覆して熱反射層を形成し、この熱反射層による熱輻射によって熱がフランジに円滑に伝達して融雪・融氷を行なう技術が開示されている。しかしこの技術には大きな問題がいくつかある。例えば初期設備投資並びに施工工事費が高騰すると共に、技術的に不安定であり、ランニングコスト及びメンテナンスにも大きな手間と時間がかかる。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような課題に鑑み発明されたものであって、膜構造建造物の屋根面及び鉄骨構造建造物就中鉄骨橋梁の橋桁、鉄塔、信号機、広告用看板等の融雪・融氷を初期設備投資を軽減すると共に、施工工事費を極めて低く押さえることができ、熱効率が高く技術的に安定した方法であり且つ、ランニングコストの費用が不要となる膜構造、鉄骨構造建造物等の融雪方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記のごとき課題を解決するため鋭意技術開発を行なった膜構造、鉄骨構造建造物等の融雪方法は、膜構造建造物の場合は膜構造物の室内側の膜の表面に、プライマーを塗布した被塗膜面に合成樹脂エマルジョン組成物に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物をフィラーにした発熱塗料を塗布して発熱塗膜層を積層し、この上に同種合成樹脂エマルジョン組成物に圧縮強度600kgf/cm以上で嵩比重0.3〜0.5g/cm、融点1500℃以上のセラミック微細中空粒子を配合してなる断熱塗料を塗布して断熱層を形成せしめ、この表面に上塗り塗料を塗布して表面保護層とし、発熱塗膜層に通電する。
【0012】
鉄骨構造建造物の場合は鉄骨構造物の表面に、プライマーを塗布した被塗膜面に合成樹脂エマルジョン組成物に圧縮強度600kgf/cm以上で嵩比重0.3〜0.5g/cm、融点1500℃以上のセラミック微細中空粒子を配合してなる断熱塗料を塗布して断熱層を積層し、この上に同種合成樹脂エマルジョン組成物に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物をフィラーにした発熱塗料を塗布して発熱塗膜層を形成せしめ、この表面に上塗り塗料を塗布して表面保護層とし、発熱塗膜層に通電する。
【0013】
発熱塗膜層は、合成樹脂エマルジョン組成物に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物をフィラーにして塗布したものではなく、プライマーを塗布した上に、フイルムの表面に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物を、塗布または印刷してこのフイルムを貼着し、この上を更にプライマーを塗布し、黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物を、塗布または印刷したフイルムに通電してもよい。この場合は、フィルムを貼着する前後にプライマーを塗布する。
【0014】
発熱塗膜層は、膜構造建造物あるいは鉄骨構造建造物が積雪によって塗膜表面温度が0℃以下の降下時に通電して発熱する自動温度管理機能を備えていると共に、コンデンサー付太陽光発電システムを設置し、この電力を通電に使用する。
【0015】
膜構造建造物の場合は膜構造物の室内側の膜の表面に、プライマーを塗布した被塗膜面に、合成樹脂エマルジョン組成物に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物をフィラーにした発熱塗料を塗布して発熱塗膜層を積層し、この上に同種合成樹脂エマルジョン組成物に圧縮強度600kgf/cm以上で嵩比重0.3〜0.5g/cm、融点1500℃以上のセラミック微細中空粒子を配合してなる断熱塗料を塗布して断熱層を形成せしめ、この表面に上塗り塗料を塗布して表面保護塗膜層とし、発熱塗膜層に通電する。このように、発熱塗膜層の上層にセラミック微細中空粒子を配合してなる断熱塗料を塗布し、断熱層を形成することにより、発熱塗膜層から発生する熱は膜構造建造物の室外側に流れることになる。膜構造建造物の膜の方へ放熱され緩和性ができるので、屋外の冷却熱は膜構造建造物の内部には侵入せず、また着雪もし難くなる。これは膜構造建造物の室内側には放熱されず、膜面の方向すなわち室外側に放熱され、このため発熱は有効に融雪に使用される。
【0016】
鉄骨構造建造物の場合は鉄骨構造物の表面に、プライマーを塗布した被塗膜面に合成樹脂エマルジョン組成物に圧縮強度600kgf/cm以上で嵩比重0.3〜0.5g/cm、融点1500℃以上のセラミック微細中空粒子を配合してなる断熱塗料を塗布して断熱層を積層し、この上に同種合成樹脂エマルジョン組成物に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物をフィラーにした発熱塗料を、塗布して発熱塗膜層を形成せしめ、この表面に上塗り塗料を塗布して表面保護塗膜層とし、発熱塗膜層に通電する。セラミック微細中空粒子を配合してなる断熱塗料を塗布した断熱層の上層に発熱塗膜層を形成することにより、発熱塗膜層から発生する熱は鉄骨構造物の方へは行かず、外部すなわち積雪面のほうへ放熱する。鉄骨構造物の冷却熱は断熱層で押さえられ緩和性ができることにより、鉄骨外部の積雪は発熱塗膜層から発生する熱によって有効に融雪される。
【0017】
発熱塗料を塗布した発熱塗膜層は、合成樹脂エマルジョン組成物に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物をフィラーにして塗布したものではなく、プライマーを塗布した上に、フイルムの表面に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物を、塗布または印刷してこのフイルムを貼着し、この上を更にプライマーを塗布し、黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物を、塗布または印刷したフイルムに通電してもよい。黒鉛質炭素は、低比熱であり且つ高熱伝導性を有するものであるため、融雪及び融氷効果に優れている。又感熱電気抵抗組成物は、温度上昇によって抵抗値が増加する正の温度係数を持つもので、発熱温度が異常に高くなると抵抗値が急激に高くなり電流抑制をし得るものである。このため合成樹脂エマルジョンのフィラーとして配合しても、フィルムに塗布あるいは印刷しても発熱効果は同様に得ることができるのである。
【0018】
融雪のメカニズム及び必要なエネルギーは、膜構造建造物及び鉄骨構造建造物共に、表面温度を常時0℃以上に維持していれば、降雪時の着雪あるいは夜半の温度抵下時の氷結現象は生じない。しかし長時間に亘る降雪や豪雪地帯などのような降雪量の多い場合には、対象表面温度を多少加熱し0℃を上回るように維持しなければならない。しかしその熱量は表面温度を0℃以上に保つに充分なものであれば良く、熱源は極めて低いレベルのもので足りるのである。
【0019】
合成樹脂エマルジョン組成物に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物をフィラーにして、発熱塗料を塗布した発熱塗膜層を、膜構造建造物あるいは鉄骨構造建造物の対象物面に塗布形成せしめても、容易に効果を示すことはできない。発熱塗膜層の熱は膜構造建造物の場合は、室内側、鉄骨構造建造物の場合は、鉄骨構造物側に奪われてしまうため温度の抵下により、0℃以上に保たせることが困難となるからである。
【0020】
このため合成樹脂エマルジョン組成物に圧縮強度600kgf/cm以上で嵩比重0.3〜0.5g/cm、融点1500℃以上のセラミック微細中空粒子を配合してなる断熱塗料によって無駄な放熱を防止するのである。膜構造物建造の場合は膜構造物の室内側の膜の表面に、プライマーを塗布した被塗膜面に合成樹脂エマルジョン組成物に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物をフィラーにした発熱塗料を塗布して発熱塗膜層を形成し、この上に同種合成樹脂エマルジョン組成物に、セラミック微細中空粒子を配合してなる断熱塗料を塗布して断熱層を積層して、この表面に上塗り塗料を塗布して表面保護塗膜層とする。鉄骨構造建造物の場合は鉄骨構造物の表面に、プライマーを塗布した被塗膜面に合成樹脂エマルジョン組成物にセラミック微細中空粒子を配合してなる断熱塗料を塗布して断熱層を形成し、この上に同種合成樹脂エマルジョン組成物に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物をフィラーにした発熱塗料を塗布して発熱塗膜層を積層して、この表面に上塗り塗料を塗布して表面保護塗膜層とする。このように断熱塗料による断熱層及び融雪を行なう発熱塗膜層の2重構造による塗膜の構成にすることにより、初期の目的を達成しその成果を上げることができたのである。
【0021】
本発明に使用する合成樹脂エマルジョンは、これ自身が優れた防水効果を有する塗膜防水材である。塗膜防水材に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物を含有せしめることによってかかる性能が得られる塗膜が得られたのである。更に断熱層及び発熱塗膜層に使用する合成樹脂エマルジョンは、同種のものが要求される。合成樹脂エマルジョンの種類が異なると熱膨張も異なり塗膜間に剥離現象を生ずるからである。プライマーも同様の理由で同種の合成樹脂エマルジョンを使用した。
【0022】
上塗り塗料として用いる表面保護塗膜層は、優れた電気絶縁塗膜であるため発熱塗膜層への通電による発熱効果を向上せしめることができ放電による電気の損失を防止することができる。更に、断熱層及び発熱塗膜層に使用する合成樹脂エマルジョンと同種のものをベースとして、これに四フッ化エチレンの粉末を特定割合混入することにより、塗膜自体の耐候性を向上させ、耐電圧性、耐水性、耐候性、耐着雪性に優れたものとすることができる。
【0023】
本発明の断熱層及び発熱塗膜層に使用する合成樹脂エマルジョンは、アクリル樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、スチレン・ブタジエン樹脂系エマルジョン、エポキシ樹脂系エマルジョン及びアクリル酸エステル、スチレン、エチレン、ビニルエステル、酢酸ビニル、合成ゴム等との共重合したものである。
【0024】
黒鉛質炭素は、微粉にしてこれを合成樹脂エマルジョンのフィラーとして配合する。黒鉛質炭素は、低比熱であり且つ高熱伝導性を有するものであるため、融雪及び融氷効果がある。特に常時0℃以上に保つ機能が断熱層の塗膜の効果によって得ることができる。更に通電することによって表面温度を2〜20℃程度に上げることができる。黒鉛質炭素の含有量は、通電しなくとも融雪効果が発揮できる量で且つ通電によって発熱塗膜層が発熱する量であれば制限されないが、2〜50重量%が好ましい。2重量%以下では黒鉛質炭素の機能特性を充分得ることができず、50重量%以上では発熱塗膜の物理的性能を低下させる。黒鉛質炭素は、その組織が高密度化し黒鉛化の進んだものを選択使用する。
【0025】
通電による発熱の程度は、発熱塗膜層の表面温度が2〜20℃程度で充分であり、この時の表面抵抗値は100〜1000Ω/inである。通電の電圧は30〜60Vが好ましい。
【0026】
感熱電気抵抗組成物は、温度上昇によって抵抗値が増加する正の温度係数を持つもので発熱温度が異状に高くなると抵抗値が急激に高くなり電流を制御するものである。感熱電気抵抗組成物は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の結晶性樹脂、ポリエチレングリコール等でこれに黒鉛質炭素を練り込んで使用する。
【0027】
本発明の断熱層となる断熱塗料は、合成樹脂エマルジョンに圧縮強度600kgf/cm以上で嵩比重0.3〜0.5g/cm、融点1500℃以上のセラミック微細中空粒子を配合する。このようなセラミック微細中空粒子を含有せしめることによって、高断熱性により防水機能、耐蝕機能を備えた融雪機能を発揮することができるのである。更に収縮防止、衝撃強度の向上、コストの低減を図ることができる。
【0028】
セラミック微細中空粒子や微細中空発泡体の圧縮強度とは、耐水圧強度と同意語であり、圧縮強度の測定は、セラミック微細中空粒子や微細中空発泡体を水中で加圧し水に加えられた圧力がセラミック微細中空粒子や微細中空発泡体に伝わり破壊する圧力を圧縮強度とするのである。本発明に使用するセラミック微細中空粒子は、従来の微細中空発泡体であるシラスバルーン、ガラスマイクロバルーン、シリカバルーン等に比較して格段に圧縮強度が高いものであり、しかもセラミック微細中空粒子は、100%完全な球状である。従来の微細中空発泡体の圧縮強度は80〜300kgf/cmである。
【0029】
次にセラミック微細中空粒子を使用する場合に重要なことは熱伝導率である。セラミック微細中空粒子や微細中空発泡体は、その粒径によるが一般に0.1kcal/mhr℃前後であり、微細中空発泡体は破壊され易く、熱伝導率は大体0.2kcal/mhr℃以下に低下する。完全中空で破壊されないセラミック微細中空粒子が使用された場合のみ優れた耐熱性の効果が得られるのである。
【0030】
本発明に使用するセラミック微細中空粒子の融点は、1500℃以上である。セラミック微細中空粒子はその材質に起因するのは当然であるが、一般的に融点の高いものほど圧縮強度も高くなる。完全中空で破壊されないセラミック微細中空粒子を使用するため、圧縮強度を600kgf/cm以上とするので、その融点は1500℃以上になるのである。
【0031】
以上により本発明に於て使用するセラミック微細中空粒子は、シリカ50〜60%、アルミナ40〜45%、その他1,5〜2,5%からなるセラミック組成物を発泡生成せしめたもので、その物性は圧縮強度700kgf/cm、融点1600℃、嵩比重0,35g/cm、熱伝導率0.1kcal/mhr℃で完全な中空粒子のみで構成されている。セラミック微細中空粒子の粒径は、5〜300μmのものを使用する。
【0032】
セラミック微細中空粒子の配合割合は、合成樹脂エマルジョン100重量%に対して5〜40重量%が好適である。5重量%以下では断熱層としての効果が低く、40重量%以上では断熱塗膜としての物性が低下する。
【0033】
膜構造建造物の室内面及び鉄骨構造建造物等の対象物表面に同種の合成樹脂エマルジョンからなるプライマーで下地処理を行なった後、膜構造建造物の室内面の場合は、発熱塗膜層を形成せしめ、この上に断熱層を積層する。又鉄骨構造建造物等の場合は、この逆で断熱層を形成せしめ、この上に発熱塗膜層を積層する。発熱塗料を塗布する場合対象物表面に、数cm〜数mの間隔で極板を貼り付けこの上から塗布する。これらの塗膜層の上層に、断熱層及び発熱塗膜層に使用する合成樹脂エマルジョンと同種のものをベースとして、これに四フッ化エチレンの粉末を、特定割合混入した表面保護塗膜層となる上塗り塗料を塗布する。
【0034】
塗布方法はローラー塗り、刷毛塗り、スプレー塗りいずれでも良く、塗膜の厚みは、断熱層が0.5〜3mmで発熱塗膜層は0.5〜2mm程度が好ましい。
【0035】
発熱塗膜層を合成樹脂エマルジョン組成物に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物をフィラーにして塗布したものではなく、プライマーを塗布した上に、フイルムの表面に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物を、塗布または印刷してこのフイルムを貼着し、この上を更にプライマーを塗布し発熱塗膜層とする。黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物を、塗布または印刷したフイルムを貼着し通電する場合も同様に対象物表面に、数cm〜数mの間隔で極板を貼り付け施工する。
【発明の効果】
【0036】
本発明になる耐電圧性、耐水性、耐候性、耐着雪性を備えた融雪方法は、膜構造建造物の室内面及び鉄骨構造建造物等の対象物表面に同種の合成樹脂エマルジョンからなるプライマーで下地処理を行なった後、膜構造建造物の場合は室内面に、発熱塗膜層を形成せしめ、この上に断熱塗膜層を積層する。又鉄骨構造建造物等の場合は、この逆で断熱層を形成せしめ、この上に発熱塗膜層を積層する。これらの塗膜層の上層に、断熱層及び発熱塗膜層に使用する合成樹脂エマルジョンと同種のものをベースとして、これに四フッ化エチレンの粉末を、特定割合混入した表面保護塗膜層となる上塗り塗料を塗布することによって、完全な耐電圧性、耐水性、耐候性、耐着雪性を備えていると共に、積雪時に於ても対象物の表面温度を0℃に保持する機能を有することができ、長期の降雪時等に於ては通電することによって対象物の表面温度を上昇させ着雪、着氷を完全に防止せしめることができた。又この通電に使用した電力は、コンデンサー付太陽光発電システムによるものを使用した。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明を実施する場合、プライマー、断熱層及び発熱塗膜層に使用する合成樹脂エマルジョンは、アクリル樹脂系エマルジョン、酢酸ビニル樹脂系エマルジョン、スチレン・ブタジエン樹脂系エマルジョン、エポキシ樹脂系エマルジョン及びアクリル酸エステル、スチレン、エチレン、ビニルエステル、酢酸ビニル、合成ゴム等との共重合したものであるが、アクリル樹脂系エマルジョンをベースとして酢酸ビニル等で共重合したものなどが好適である。
【0038】
これらの塗膜層の上層に塗装して表面保護塗膜層となる上塗り塗料は、断熱層及び発熱塗膜層に使用する合成樹脂エマルジョンと同種のものをベースとして、これに四フッ化エチレンの粉末を、特定割合混入して使用する。
【0039】
黒鉛質炭素は、低比熱であり且つ高熱伝導性を有するものであるため、融雪及び融氷効果がある。特に常時0℃以上に保つ機能が断熱層の塗膜の効果によって得ることができる。更に通電することによって表面温度を2〜20℃程度に上げることができる。黒鉛質炭素の含有量は、通電しなくとも融雪効果が発揮できる量で且つ通電によって発熱塗膜層が発熱する量であれば制限されないが、2〜50重量%が好ましい。2重量%以下では黒鉛質炭素の機能特性を充分得ることができず、50重量%以上では発熱塗膜の物理的性能を低下させる。黒鉛質炭素は、その組織が高密度化し黒鉛化の進んだものを選択使用する。通電による発熱の程度は、発熱塗膜層の表面温度が2〜20℃程度で充分であり、この時の表面抵抗値は100〜1000Ω/inである。通電の電圧は30〜60Vが好ましい。
【0040】
感熱電気抵抗組成物は、温度上昇によって抵抗値が増加する正の温度係数を持つもので発熱温度が以上に高くなると抵抗値が急激に高くなり電流を制御するものである。感熱電気抵抗組成物は、ポリエチレン、ポリプロピレン等の結晶性樹脂、ポリエチレングリコール等でこれに黒鉛質炭素を練り込んで使用する。含有量は黒鉛質炭素に対して20〜60重量%が好適である。
【0041】
本発明に於て使用するセラミック微細中空粒子は、シリカ50〜60%、アルミナ40〜45%、その他1,5〜2,5%からなるセラミック組成物を発泡生成せしめたもので、その物性は圧縮強度700kgf/cm、融点1600℃、嵩比重0,35g/cm、熱伝導率0.1kcal/mhr℃で完全な中空粒子のみで構成されている。セラミック微細中空粒子の粒径は、5〜300μmのものを使用する。セラミック微細中空粒子の配合割合は、合成樹脂エマルジョン100重量%に対して5〜40重量%が好適である。5重量%以下では断熱層としての効果が低く、40重量%以上では断熱塗膜としての物性が低下する。
【0042】
発熱塗膜層を合成樹脂エマルジョン組成物に、黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物をフィラーにして発熱塗料として塗布したものではなく、プライマーを塗布した上に、フイルムの表面に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物を、塗布または印刷してこのフイルムを貼着し、この上を更にプライマーを塗布し、黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物を、塗布または印刷したフイルムに通電する場合に使用するフィルムは、ポリエチレン、ポリ塩化ビニル、アセテート、ポリプロピレン、ポリビニルアルコール、ポリスチレン、ポリエステルなどが使用できる。フィルム面に塗布または印刷する基本的な組成は、黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物、バインダー、揮発性有機溶剤、可塑剤、可塑性樹脂、ワックス類、分散剤などの各種添加剤である。
【0043】
コンデンサー付太陽光発電システムは、薄型多結晶シリコン太陽電池を使用し、コンデンサーは、長寿命シール型鉛蓄電池を使用することによりランニングコストを大幅に低減することができる。
【0044】
本発明の実施例を詳述する。
【0045】
実施例1 図1は本発明に関わる膜構造建造物の膜の断面を示したものである。膜構造建造物の膜の室内側の面にプライマーによる下地処理を行ない、発熱塗料を塗布して発熱塗膜層を形成し、更にその上に断熱塗料を塗布して断熱層を積層して、この上表面に上塗り塗料を塗布して表面保護塗膜層とした。塗装方法はいずれもローラー塗りである。
【0046】
本実施例に用いた合成樹脂エマルジョンは、合成ゴム変性アクリル共重合エマルジョンをベースとするものである。この合成ゴム変性アクリル共重合エマルジョンは、プライマー、発熱塗膜層の発熱塗料、断熱層を形成する断熱塗料いずれも同様である。表面保護塗膜層として用いた上塗り塗料は、この合成ゴム変性アクリル共重合エマルジョンに四ふっ化エチレンを適量加えたものである。
【0047】
発熱塗膜層の発熱塗料は、合成ゴム変性アクリル共重合エマルジョンの全体量に30重量%の結晶子が200オングストローム以上の黒鉛質炭素粉末を加え、更に13重量%の感熱電気抵抗組成物を加えた。これを1.5mmの厚みにローラー塗りで塗布した。感熱電気抵抗組成物はポリエチレングリコールを使用した。発熱塗料を塗布した際、対象物表面に数cm〜数mの間隔で極板を貼り付けこの上から塗布した。
【0048】
断熱層を形成する断熱塗料は、合成ゴム変性アクリル共重合エマルジョンの全体量に23重量%の耐水圧強度600kgf/cm以上で粒子径が5〜300μm、嵩比重0.35g/cm、熱伝導率0.1kcal/mhr℃で完全な中空粒子のみで構成されている。セラミック微細中空粒子を加えた。これを2.5mmの厚みでローラー塗りにより塗布した。
【0049】
上塗り塗料として用いた表面保護塗膜層は、合成ゴム変性アクリル共重合エマルジョンの全体量に15重量%の四ふっ化エチレンを加えた。表面保護塗膜層は、電気絶縁性が高く、耐電圧性、耐水性、耐候性、耐着雪性に優れたものである。
【0050】
実施例2 図2は鉄骨構造建造物の断面を示したものである。鉄骨構造物の面にプライマーによる下地処理を行ない、断熱塗料を塗布して断熱層を形成し、その上に発熱塗料を塗布して発熱塗膜層を積層し、この上表面に上塗り塗料を塗布した。塗装方法はいずれもローラー塗りである。プライマー、断熱層を形成する断熱塗料、発熱塗膜層を形成する発熱塗料、表面保護塗膜層として用いた上塗り塗料等いずれも実施例1と同じものを使用した。発熱塗料を塗布した際、対象物表面に数cm〜数mの間隔で極板を貼り付けこの上から塗布した。
【0051】
実施例3 図3は実施例1同じ膜構造建造物の室内側の膜の面に、プライマーによる下地処理を行ない、発熱塗膜層を印刷したポリエステルフィルムを貼着し、更にその上に再度プライマーによる下地処理を行なってから断熱塗料を塗布して断熱層を形成し、この上表面に上塗り塗料を塗布した。発熱塗膜層を印刷したポリエステルフィルム表面に数cm〜数mの間隔で極板を貼り付けこの上から塗布した。
【産業上の利用可能性】
【0052】
冬期の積雪時における膜構造建造物の屋根面、及び鉄骨構造建造物就中鉄骨橋梁の橋桁、鉄塔、信号機、広告用看板等の融雪・融氷において初期設備投資を軽減すると共に、施工工事費を極めて低く押さえることができ、更にコンデンサー付太陽光発電システムを設置し、この電力を通電に使用して、技術的、効率的に安定した方法であるため、ランニングコストの費用が不要となる膜構造、鉄骨構造建造物等の融雪方法を提供することを可能ならしめた。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】 実施例1の融雪処理をした膜構造の膜断面図。
【図2】 実施例2の融雪処理をした鉄骨構造の断面図。
【図3】 実施例3の融雪処理をした膜構造の膜断面図。
【図4】 膜構造建造物の融雪方法フローチャート
【符号の説明】
【0054】
1.膜構造建造物の膜断面
2.プライマー
3.発熱塗料を塗布した発熱塗膜層
4.断熱塗料を塗布した断熱層
5.上塗り塗料を塗布した表面保護塗膜層
6.室内側
7.室外側
8.鉄骨構造物の断面
9.発熱塗膜層を印刷したポリエステルフィルム
10.極板
11.膜構造建造物
12.太陽光発電パネル
13.コンデンサー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
膜構造建造物の室内側の膜の表面に、プライマーを塗布した被塗膜面に合成樹脂エマルジョン組成物に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物をフィラーにした発熱塗料を塗布して発熱塗膜層を積層し、この上に同種合成樹脂エマルジョン組成物に圧縮強度600kgf/cm以上で嵩比重0.3〜0.5g/cm、融点1500℃以上のセラミック微細中空粒子を配合してなる断熱塗料を塗布して断熱層を形成せしめ、この表面に上塗り塗料を塗布して表面保護塗膜層とし、発熱塗膜層に通電することを特徴とする膜構造、鉄骨構造建造物等の融雪方法。
【請求項2】
鉄骨構造建造物の表面に、プライマーを塗布した被塗膜面に合成樹脂エマルジョン組成物に圧縮強度600kgf/cm以上で嵩比重0.3〜0.5g/cm、融点1500℃以上のセラミック微細中空粒子を配合してなる断熱塗料を塗布して断熱層を積層し、この上に同種合成樹脂エマルジョン組成物に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物をフィラーにした発熱塗料を塗布して発熱塗膜層を形成せしめ、この表面に上塗り塗料を塗布して表面保護塗膜層とし、発熱塗膜層に通電することを特徴とする膜構造、鉄骨構造建造物等の融雪方法。
【請求項3】
発熱塗膜層がフイルムの表面に黒鉛質炭素及び感熱電気抵抗組成物を、塗布または印刷したものを使用し、フィルム貼着の前後にプライマーを塗布すでることを特徴とする請求項1および請求項2記載の膜構造、鉄骨構造建造物等の融雪方法。
【請求項4】
当該塗膜表面温度が0℃以下の降下時に通電して発熱する自動温度管理機能を備えていることを特徴とする請求項1および請求項2記載の膜構造、鉄骨構造建造物等の融雪方法。
【請求項5】
コンデンサー付太陽光発電システムを設置し、この電力を通電に使用することを特徴とする請求項1および請求項2記載の膜構造、鉄骨構造建造物等の融雪方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−169929(P2006−169929A)
【公開日】平成18年6月29日(2006.6.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−382553(P2004−382553)
【出願日】平成16年12月16日(2004.12.16)
【出願人】(504193734)
【Fターム(参考)】