説明

膜/電極ユニットを製作するための方法および装置

本発明は、電気化学の技術分野に関するものであり、燃料電池コンポーネント、特に膜形燃料電池のための膜/電極ユニット(MEE)を製作するための方法ならびに装置について説明するものである。本発明による方法では、アノード電極もしくはカソード電極をまず、加熱され真空で負荷される2つの隣接したローラに被着する。加えられた真空により、アノード電極もしくはカソード電極は、正確に位置決めされた状態でローラギャップに供給され、その後イオン伝導性の膜でラミネートされる。延長された熱影響ゾーンに基づいて、本発明による方法では、高い生産速度が達成される。本発明による装置は、加熱可能な真空ローラを備えたローラプレスから成り、簡単な構造および移載箇所の省略に基づく利点を有している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学の技術分野に関するものであり、燃料電池コンポーネント、特に膜形燃料電池(Membran−Brennstoffzelle:PEMFC、DMFC)のための膜/電極ユニット(Membran−Elektroden−Einheit:MEE)ならびにその他の電気化学的な装置、例えば電気分解装置またはセンサのための膜/電極ユニットを製作するための方法および装置について説明するものである。要するに本発明は、アノード電極と、カソード電極と、その間に配置されたイオン伝導性の膜とを備えた、膜形燃料電池のための膜/電極ユニットを製作するための方法ならびに膜形燃料電池のための膜/電極ユニットを製作するための装置およびシステムに関する。
【0002】
燃料電池は燃料および酸化剤を、場所的に互いに隔離された状態で、2つの電極において電流、熱および水に変換する。燃料としては水素、水素リッチのガスまたはメタノールが役立ち、酸化剤としては酸素または空気が役立つことができる。燃料電池内でのエネルギ変換の過程は、特に高い効率の点で優れている。この理由から、燃料電池は電動モータとの組み合わせで、従来慣用の内燃機関のための択一的な選択肢としてかなりの意味を獲得している。燃料電池はしかし、ますます定置および可搬での使用のためにも使用される。
【0003】
高分子電解質膜形燃料電池(Polymer−Elektrolyt−Membran−Brennstoffzelle:PEM燃料電池)は、コンパクトな構造形式、高い出力密度ならびに高い効率の点で優れている。燃料電池のテクノロジは文献に詳しく説明されており、例えばK.KordeschおよびG.Simader著の『Fuel Cells and their Applications(VCH Verlag Chemie、ドイツ、ヴァインハイム、1996)』を参照されたい。
【0004】
PEM燃料電池積層体は、膜/電極ユニットから成る個々のPEM燃料電池の積層配置(スタック)から成る。膜/電極ユニット間には、ガス供給および電流案内のためのいわゆるバイポーラプレートが配置されている。所定のセル電圧の達成のために、多数の個々の膜/電極ユニットが相前後して積層され得る。
【0005】
本願で説明するような膜/電極ユニットは一般に5つの層を有しており、有利には両側でそれぞれ1つの電極に結合されているイオン伝導性の膜(メンブレン)から成る(5層MEE)。各電極はさらに、触媒層が施されている、ガス拡散層(独:Gasdiffusionslage、英:gas diffusion layer:GDL)とも呼ばれるガス分配基板(Gasverteilersubstrat)から成る。
【0006】
アノード上の触媒層は水素の酸化のために形成されている。相応の電極はそれゆえ「アノード電極」または短く「アノード」と呼ばれる。
【0007】
カソード上の触媒層は酸素の還元のために形成されている。相応の電極はそれゆえ「カソード電極」または短く「カソード」と呼ばれる。
【0008】
ガス分配基板は一般に、電極への反応ガスの良好な接近と、セル電流の良好な導出とを可能にする基板に基づく。ガス分配基板は、多孔質の電気伝導性の材料、例えば炭素繊維ペーパ、炭素繊維フリース、炭素繊維クロス、金属ネット、メタライジングされた繊維クロスおよびこれに類するものから成ることができる。
【0009】
燃料電池積層体(スタック)への組付け時に膜/電極ユニットをガス密にシールするために、膜/電極ユニットは縁部領域にさらにシール材料、補強材料または場合により保護フィルムを有していることができる。それにより、より高度に統合されたMEE製品(例えば7層MEE)も製作可能である。
【0010】
MEEの間にはバイポーラプレート(セパレータプレートとも呼ばれる)が設けられている。このプレートは一般に伝導性のグラファイトから製作されており、ガス供給およびガス導出のための通路を有している。
【0011】
アノード電極およびカソード電極は、それぞれの反応(水素の酸化もしくは酸素の還元)を触媒作用により助成する電気触媒を有している。そのために一般に貴金属を含む触媒が使用される。触媒は、細かく分配された貴金属、例えば白金、パラジウム、ルテニウム、金またはそれらの組み合わせを含んでいる。有利なのは、Pt/CまたはPtRu/Cのタイプの、カーボンブラックに担持された触媒である。このタイプの触媒は、細かく分配された白金もしくは白金/ルテニウムを伝導性のカーボンブラック表面に有している。触媒コーティングされた電極の典型的な貴金属の担持量は、アノード側で0.1〜0.5mgPt/cmであり、カソード側で0.2〜1mgPt/cmである。アノード側には、改質ガスでの運転のために、特別なPtRuを含む触媒が使用される。
【0012】
イオン伝導性の膜は有利にはプロトン伝導性のポリマー材料から成る。特に有利には、酸基、特にスルホン酸基を有するテトラフルオロエチレン−フルオロビニルエーテル−コポリマーが使用される。そのような材料は例えばNafionという商品名の下でE.I.DuPont社から販売されている。ただし別の、特にフッ素フリーのイオノマー材料、例えばスルホン化されたポリエーテルケトン、スルホン化されたポリアリールケトン、ドープされたポリベンゾイミダゾール、および/または無機イオノマーも使用可能である。
【0013】
文献には、燃料電池のためのコンポーネントを製作するための種々異なる方法が記載されている。
【0014】
EP1365464A2号明細書からは、PEM燃料電池のためのガス分配層を製作するための連続的なプロセスが公知である。ラミネート法については言及されていない。
【0015】
EP1037295B1号明細書には、スクリーン印刷法を用いて帯状のイオノマー膜に電極層を被着する方法が記載されている。
【0016】
EP868760B1号明細書からは、膜/電極接合体を製作するための連続的な方法が公知である。その際、イオン伝導性の膜はローラアッセンブリ内で帯状のコンタクト形成材料によりラミネートされ、結合される。
【0017】
WO03/084748A2号パンフレットは、膜/電極ユニットを製作するための方法および装置を開示する。膜/電極ユニットはその際、帯状のイオノマー膜の使用下で、電極(すなわちガス分配基板)または触媒コーティングされた基板(いわゆる「デカール」)による両面のラミネートにより製作される。前もって打抜き装置で規格に合わせて打抜かれた電極もしくは基板は、真空ベルトによりラミネート箇所に搬送され、そこで高分子電解質膜によりラミネートされる。この方法は以下の欠点を有している:
a)使用される真空ベルトは装置の高い複雑性に至る。このことはより高いコスト、複雑な測定・制御技術および強められたメンテナンス作業に帰結する。
b)真空ベルトによる供給はローラへの受渡し箇所もしくは移載箇所を意味する。それにより、幾何学的な理由から、電極の大きさの下限は制限されており、任意に小さな膜/電極ユニットは製作され得ない。
c)真空ベルトの使用により、電極もしくは基板のための熱影響ゾーンはローラギャップの領域に制限されている。この狭い加熱ゾーンにより、ラミネートプロセス時、特により高い生産速度が実現されねばならないとき、不十分な熱伝達が発生する。そのような装置の設備キャパシティはそれゆえ制限されている。
【0018】
本発明の課題はそれゆえ、膜/電極ユニットを製作するための簡単で改善された方法を提供すると共に、相応の改善された装置を提案することである。
【0019】
この課題は本発明により、独立請求項に記載された特徴により解決される。本発明の有利な実施形態は、従属請求項に記載されている。
【0020】
特に、課題は、
a)それぞれの電極を、真空で負荷される2つの隣接したローラに被着し、
b)被着された電極を両ローラ間のローラギャップに供給し、かつ
c)これらの電極をイオン伝導性の膜に圧着する
という工程を含む、膜/電極ユニットを製作するための方法により解決される。また、方法がさらに、膜/電極ユニットを個別化する工程を含むと有利である。また、両ローラに作用する真空が50〜300mbarの範囲にあると有利である。また、電極が、多孔質の電気伝導性の材料、例えば炭素繊維ペーパ、炭素繊維フリース、炭素繊維クロス、金属ネット、メタライジングされた繊維クロスおよびこれに類するものを有していて、触媒層が施されているガス分配基板から成ると有利である。また、イオン伝導性の膜が有機イオノマー、例えばフッ素化されたポリマーのスルホン酸誘導体、スルホン化されたポリエーテルケトン、スルホン化されたポリアリールケトン、ドープされたポリスルホン、ドープされたポリベンゾイミダゾール、および/または無機イオノマーを含むと有利である。また、電極を予め打抜くと有利である。また、電極を少なくとも1つのロボットによりローラに被着すると有利である。また、グリッパにおける電極の位置を走行運動中画像処理システムにより分析し、かつロボットを目標値に応じて追従制御すると有利である。また、電極を時間同期的にローラに置くと有利である。また、電極を時間的にずらしてローラに置くと有利である。また、イオン伝導性の膜との電極の圧着を、50〜300N/cmの範囲、有利には80〜200N/cmの範囲の線圧で実施すると有利である。また、イオン伝導性の膜との電極の圧着を、130〜220℃の範囲、有利には150℃〜190℃の範囲のローラの表面温度で実施すると有利である。また、ローラの周速度が50〜500m/hの範囲、有利には100〜300m/hの範囲にあると有利である。また、それぞれの電極の圧着後、吹出し空気をローラの表面に送給すると有利である。また、膜/電極ユニットがより高度に統合されており、場合によりシール材料、補強材料または保護フィルムを含むと有利である。また、個別化を打抜き工具、回転打抜き器具、打抜き刃、パーフォレーションローラまたは押切り断裁器具により行うと有利である。
【0021】
前記課題はさらに、少なくとも2つの回転するローラを有しており、これらのローラが加熱可能な真空ローラである装置に基づいて解決される。また、装置が、ローラを加熱するための少なくとも2つの熱源を有していると有利である。また、前記熱源が赤外線放射器であると有利である。また、前記熱源が、ローラリングの内面に被着された電気的な面加熱体であると有利である。また、ローラが複数のゾーン、特に真空ゾーンおよび吹出しゾーンを有していると有利である。また、それぞれのローラが中空軸として構成されており、中空軸の壁に軸方向で分配孔が設けられていると有利である。また、軸方向の分配孔から半径方向の孔がローラ表面に通じていると有利である。また、ローラに付加的にフレキシブルなブランケット、例えばシリコーンゴムが設けられていると有利である。また、1つのローラが固定ローラであり、駆動軸を有していると有利である。また、1つのローラが可動ローラであり、可動ローラがリニアガイド上でローラ軸線に対して横方向で移動可能に配置されていると有利である。また、1つのローラが可動ローラであり、可動ローラが揺動式に円弧上をローラ軸線に対して横方向で案内されていると有利である。
【0022】
さらに前記課題は、本発明による装置を有しており、この装置がピックアンドプレースシステムもしくは画像処理システムに連結されている、膜/電極ユニットを製作するためのシステムにより解決される。
【0023】
本発明は背景技術の欠点を、加熱可能な真空ローラを備えたローラプレスを使用することにより回避する。それにより、電極基板の固定のために必要とされる真空はローラプレス内に統合される。真空ベルトのような付加的な構成群は省略され、方法および装置はかなり簡単化される。投資および保守のコストは低下され、経済性は向上される。真空ベルトが省略されるので、本発明による装置内に移載箇所はもはや存在しない。電極の大きさの下限はそれにより制限されない。このことは特に燃料電池産業における小型化への努力を背景として極めて有益である。
【0024】
特に、電極は真空ローラ上に置かれた後に極めて良好に加熱され得る。熱影響ゾーンは従来慣用の装置に比べてかなり延長されている。この理由から、より高い作業速度およびより高い生産率が実現される。最も簡単な構成にもかかわらず、前記方法および所属の装置により、0.3秒のサイクルタイムを有する高い生産速度が達成される。
【0025】
驚くべきことに、前記装置はそのローラの幅まで、電極の寸法とは完全に無関係であり得ることが判っている。電極は直接、市場で一般的なピックアンドプレースユニットにより真空ローラ上に位置決めされ得る。例えば、本発明によるシステムの使用時、機構の手間のかかる調整は省略され得る。判型交換時、例えば使用されるロボットがプログラムし直されるだけでよい。このことは例えばオフラインで行うこともできるので、判型交換時に準備時間および停止時間は発生しない。付加的な工具コストも生じない。
【0026】
電極は前もって、市場で一般的な打抜き型で打抜かれ得る。そのような型は回転打抜きのための打抜き型よりも明らかに安い。付加的に、商業的にシート製品としてのみ提供可能なガス分配器基板も処理され得る。
【0027】
本発明の別の特徴および利点は、添付図面との関連での、引き続いての説明と、付随する特許請求の範囲から見て取れる。その際、
図1は、本発明による装置の一実施形態のローラ(1)の前面の平面図を示している。真空もしくは吹出し空気下にある孔は、対応するスライダにより覆われている。
図2は、本発明による装置の一実施形態の軸方向断面図を示している。
図3は、膜/電極ユニットの生産中の、本発明による装置の一実施形態の両ローラ(1,1′)の横断面図を示している。
【0028】
本発明による装置は少なくとも2つの回転するローラ(1,1′)から成る。ローラ(1,1′)は有利には同期的に互いに逆向きに回転する。ローラは片持ち式に支承されていることができ、軸受側で駆動され得る(駆動軸7参照)。ローラ(1,1′)は真空ゾーン(2,2′)ならびに吹出しゾーン(3,3′)を有している。特に有利な実施形態ではローラが中空軸として構成され得る。ローラは内側から、例えば制御された赤外線放射器(4)により所望の表面温度に加熱され得る。別の実施形態ではしかし、加熱装置を、中空軸の内表面に例えば締付けリングにより被着される電気的な面加熱体(Flaechenheizkoerper)として構成することも可能である。ローラの典型的な表面温度は130℃〜220℃の範囲、有利には150℃〜190℃の範囲にある。
【0029】
中空軸の壁内には軸方向で分配孔(5)が設けられていることができる。分配孔(5)は、フロント側(支承されていない側)に存在するスライダを介して、任意のセグメントで真空または吹出し空気により負荷され得る。分配孔からは半径方向の孔(6)がローラ表面に向かって延びていることができる。半径方向の孔(6)の吸込み作用により、それぞれのローラの表面に置かれた電極は位置正確に固定され得る。特に有利な構成では、ローラに付加的にフレキシブルなブランケット、例えばシリコーンゴムが設けられている。このブランケットは圧力影響ゾーンの幅を拡大し、圧力勾配を減じる。
【0030】
両ローラの一方は有利には「固定ローラ(Festwalze)」として形成されている。本発明の意味での固定ローラは、固定ローラが一次的に駆動されるローラであり、その軸線を中心とした回転運動だけを実施し得ることを意味している。駆動のために、例えば電動モータ、特にサーボモータまたは直流モータが使用され得る。第2のローラは有利には「可動ローラ(Loswalze)」として形成されている。可動ローラは適当なリニアガイド上でローラ軸線に対して横方向で移動可能に配置され得る。可動ローラを円弧上で揺動可能に配置することも可能である。圧力(Walzkraft)を及ぼすために、可動ローラの押付けは調節され得る。この調節は本発明の特に有利な実施形態ではニューマチックシリンダにより実施され得る。別の実施形態では、調節はしかし、例えばハイドロリックシステムによりまたはモータおよびスピンドルを介して実施されてもよい。可動ローラの駆動および同期は、テンション装置を有する歯付きベルトまたは機能的に等価の機械要素を介して実施され得る。ローラ(1,1′)の周速度は典型的には50〜500m/hの範囲、有利には100〜300m/hの範囲にある。
【0031】
調節可能な力による押付け調節は行程ストッパにより制限され得る。行程ストッパはやはり可変であり、それぞれの製品の要求に応じて調節され得る。そのために、リニアガイドには、正確な電子式の行程測定部が取り付けられ得る。しかし、調節を例えばマイクロメータねじを介して行うことも可能である。
【0032】
装置の運転のために必要とされるすべての補機は、有利にはローラの軸受側に配置されている。補機には、例えば駆動モータ、真空ステーション、電気的な装置、駆動の同期装置および可動ローラの調節装置が数えられる。この配置は、ローラのフロント側が自由に接近可能、例えばピックアンドプレースシステムのために自由に接近可能であるという利点を有している。それにより、例えば単数または複数のロボットのためのできるだけ小さな移動距離およびサイクルタイムが達成され得る。特に、中間的な生産速度まで単独のロボットを用いて両ローラに装着することが何ら問題なく可能である。それにより、装置の経済性は再び向上される。
【0033】
電極は有利には規格に合わせて打抜かれてマガジン内に存在する。電極はただし打抜き台から摘採されてもよい。例えば、適当なグリッパもしくはピッカ、例えばニードルグリッパ(Nadelgreifer)、バキュームグリッパ(Vakuumgreifer)またはアイスグリッパ(Vereisungsgreifer)により、相応にプログラムされたロボット(原則的にはリニアシステムまたはスカラ)が電極をピックアップし、これを位置正確に第1のローラ上に置くことができる。
【0034】
高い精度を達成するために、グリッパにおける電極の位置は移動中画像処理システムにより分析され、ロボットは目標値に応じて追従制御され得る。第1の電極を位置正確に置いた後、ロボットは第2の電極を(場合により第2のマガジンから)摘採し、これを第2のローラに位置決めし得る。
【0035】
別の実施形態では、そのために、2つのロボットが使用されてもよい。その際、両電極は正確に同時に、グリッパを装備した2つのロボットにより第1および第2のローラの頂点に置かれることができる。より高い構造的な手間に対峙して、この場合、両電極が時間同期的に両ローラの頂点に置かれ得るという利点が生じる。それに対して、単独のロボットの使用時、ローラプレスはピックアンドプレースプロセスの時間(約0.5秒)中停止されねばならないか、または第2の電極の載置位置が、第1の電極を置いてからローラの表面上の1点が進んだ距離の分だけ計算により修正されねばならない。中間的な生産速度(判型次第で約2500個/h)までは、費用ファクタが凌駕する(1つのロボット)ことができ、高い生産速度時には、効果ファクタが凌駕する(2つのロボット)ことができる。
【0036】
ローラ(1,1′)に位置正確に置かれた電極は、ローラに作用する真空により保持され、回転運動によりローラギャップに供給される。第1のローラは有利には凡そ340°〜90°の範囲で真空により負荷されており、第2のローラは有利には凡そ270°〜20°の範囲で真空により負荷されている。
【0037】
使用される真空は典型的には50〜300mbarの負圧であり、例えばベンチュリノズルまたはサイドチャンネルブロアにより発生され得る。サイドチャンネルブロアが使用されると、オイルまたは水による空気の汚染は起こらず、ブロアの排気は特に有利には次のゾーンで吹出し空気として使用され得る。
【0038】
ローラギャップは、可動ローラに設けられた調節可能なストッパにより形成され得る。調節は製品の要求次第で行われ得る。ローラギャップの幅は有利には製品の、例えば運転条件下でスタック内に組み込まれた状態で達成されるべき厚さよりも大きい。ローラギャップの制限は、ガス分配層もしくは電極の、機能を損ないかねない許容し得ない高い圧縮を回避すると同時に、ウェブ状製品としてローラ間のローラギャップ内をローラの周速度に対して同期的に走行し得るイオン伝導性の膜が、電極によりコンタクト形成される面の外で負荷または損傷されないことを保証する。圧縮/積層時に有効な線圧は、50〜300N/cm(アクティブな面の幅)の範囲、有利には80〜200N/cmの範囲にある。
【0039】
ローラ圧は有利には単数または複数のニューマチックシリンダにより可動ローラに加えられる。ローラ圧はハイドロリックシステムによりまたは電気的な駆動装置およびスピンドルの組み合わせにより及ぼされてもよい。
【0040】
ローラギャップ内では、真空によりローラ上に固定され加熱された電極が、ウェブ状製品としてローラギャップの中間を通る膜とコンタクト形成され、温度および圧力の影響下で結合される。この箇所で真空ゾーンは終了し、周囲の後続の20°で吹出し空気が導入される。吹出し空気は製作された接合体を第1および第2のローラの表面から離す。特別な事例では、それぞれ1つの付加的な分離シートを、対応するローラと同期的に、ローラのコーティングにおける特に膜の付着力をさらに最小化するために回転させることも可能である。
【0041】
ローラプレスの通走後、完成した接合体はさらなる処理に供される。後続のプロセスステップの構成次第で、膜ウェブ上に存在する膜/電極ユニットは個別化されるか、またはウェブ製品としてさらなる処理に供給されることができる。膜/電極ユニットの個別化は不連続的または連続的に打抜き工具(Stanzwerkzeug)、回転打抜き器具(Rotationsstanze)、打抜き刃(Stanzmesser)、パーフォレーションローラ(Perforationswalze)または押切り断裁器具(Schlagschere)により実施され得る。
【0042】

本例では、前章の構成に相当し、300mmのローラ直径を有する機械が使用される。生産プロセスの準備のために、イオノマー膜(担体シート上に被着され、保護フィルムにより被覆されたもの;Nafion NR112、DuPont社;アメリカ合衆国)のロールが機械に装填され、調整される。装置は膜の担体シートならびに保護フィルムの離層のための装置を有している。その結果、前記膜はフリーの状態でローラギャップに進入する。
【0043】
さらに、最終寸法に合わせて打抜かれたアノード電極およびカソード電極(CCB:Catalyst Coated Backingsとも呼ばれる)がそれぞれのマガジンに収容される。電極はそれぞれタイプSGL Sigracet 30 BC(SGL社;ドイツ、マイティンゲン)のガス分配基板(GDL)から成っており、アノード触媒もしくはカソード触媒でコーティングされている。触媒として、60質量%の白金を含む調整物内の、カーボンブラック担持された白金を使用する。適当なコーティングプロセスは当業者に公知である。
【0044】
71×71mmの外寸を有するアノード電極およびカソード電極が使用される。例で挙げた材料のために、可動ローラのストッパは600μmのローラ表面の間隔に調節され、850Nの押付け力が選択される。ローラは160m/hの周速度で回転し、表面温度は170℃である。コーティングされたアノード電極およびカソード電極はマガジンに貯蔵され、マガジンからグリッパにより取り出される。グリッパはスカラロボットに装備されている。
【0045】
ローラの周速度は本例では44.5mm/sec(=160.2m/h)である。第1の電極はロボットにより第1のローラの頂点に置かれる。第2の電極は同じロボットにより1秒後に、第2の電極の、ローラの回転軸線に平行な中心線が、44.5mmの分だけ第2のローラの頂点よりも両ローラの仮想の接触線寄りに位置するように、第2のローラ上に置かれる。それにより、第1のローラ上の第1の電極の先行分は補償される。電極は載置点で即座にローラの負圧により固定され、グリッパにより解放される。ローラの回転運動により、電極は位置正確にローラギャップに供給される。作業サイクルは、常にローラ表面上で電極間に、最終製品のために予定された膜縁部の少なくとも2倍に相当する間隔が存在するように繰り返される。
【0046】
ローラギャップ内では、負圧によりローラに固定された電極が、圧力および温度により精緻に、電極間でローラギャップを通して案内された膜に積層される。ローラの、ローラギャップを通過したチャンバは、約20°の周角度で吹出し空気により負荷される。その結果、電極を備えた膜ウェブは簡単に両ローラから解離し、フリーな状態で機械から排出される。膜ウェブの牽引により、積層体は簡単にさらなる処理、例えば打抜きステップに供給される。本例で、最終製品は100×100mmの外側の膜縁部を有している。1時間にそれにより1600個の積層体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】本発明による装置の一実施形態のローラの前面の平面図である。
【図2】本発明による装置の一実施形態の軸方向断面図である。
【図3】膜/電極ユニットの生産中の、本発明による装置の一実施形態の両ローラの横断面図である。
【符号の説明】
【0048】
1/1′ ローラ
2/2′ 真空ゾーン
3/3′ 吹出しゾーン
4/4′ 熱源
5 軸方向の分配孔
6 半径方向の孔
7 駆動軸
8/8′ 電極(触媒コーティングされたアノードもしくはカソード)
9 イオン伝導性の膜
10 ローラギャップ
11 膜/電極ユニット

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アノード電極(8)と、カソード電極(8′)と、その間に配置されたイオン伝導性の膜(9)とを備えた、膜形燃料電池のための膜/電極ユニットを製作するための方法において、以下の工程、すなわち:
a)電極(8,8′)を、加熱され真空で負荷される2つの隣接したローラ(1,1′)に被着し、
b)被着された電極(8,8′)を両ローラ(1,1′)間のローラギャップ(10)に供給し、かつ
c)これらの電極(8,8′)を前記イオン伝導性の膜(9)に圧着する
という工程を含むことを特徴とする、膜/電極ユニットを製作するための方法。
【請求項2】
さらに膜/電極ユニットを個別化する工程を含む、請求項1記載の方法。
【請求項3】
両ローラ(1,1′)に作用する真空が50〜300mbarの範囲にある、請求項1記載の方法。
【請求項4】
電極(8,8′)が、多孔質の電気伝導性の材料、例えば炭素繊維ペーパ、炭素繊維フリース、炭素繊維クロス、金属ネット、メタライジングされた繊維クロスおよびこれに類するものを有していて、触媒層が施されているガス分配基板から成る、請求項1記載の方法。
【請求項5】
イオン伝導性の膜(9)が有機イオノマー、例えばフッ素化されたポリマーのスルホン酸誘導体、スルホン化されたポリエーテルケトン、スルホン化されたポリアリールケトン、ドープされたポリスルホン、ドープされたポリベンゾイミダゾール、および/または無機イオノマーを含む、請求項1記載の方法。
【請求項6】
電極(8,8′)を予め打抜く、請求項1記載の方法。
【請求項7】
電極(8,8′)を少なくとも1つのロボットによりローラ(1,1′)に被着する、請求項1記載の方法。
【請求項8】
グリッパにおける電極(8,8′)の位置を走行運動中画像処理システムにより分析し、かつロボットを目標値に応じて追従制御する、請求項5記載の方法。
【請求項9】
電極(8,8′)を時間同期的にローラ(1,1′)に置く、請求項1記載の方法。
【請求項10】
電極(8,8′)を時間的にずらしてローラ(1,1′)に置く、請求項1記載の方法。
【請求項11】
イオン伝導性の膜(9)との電極(8,8′)の圧着を、50〜300N/cmの範囲、有利には80〜200N/cmの範囲の線圧で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項12】
イオン伝導性の膜(9)との電極(8,8′)の圧着を、130〜220℃の範囲、有利には150℃〜190℃の範囲のローラの表面温度で実施する、請求項1記載の方法。
【請求項13】
ローラ(1,1′)の周速度が50〜500m/hの範囲、有利には100〜300m/hの範囲にある、請求項1記載の方法。
【請求項14】
それぞれの電極の圧着後、吹出し空気をローラ(1,1′)の表面に送給する、請求項1記載の方法。
【請求項15】
膜/電極ユニットがより高度に統合されており、場合によりシール材料、補強材料または保護フィルムを含む、請求項1記載の方法。
【請求項16】
個別化を打抜き工具、回転打抜き器具、打抜き刃、パーフォレーションローラまたは押切り断裁器具により行う、請求項2記載の方法。
【請求項17】
膜形燃料電池のための膜/電極ユニットを製作するための装置において、少なくとも2つの回転するローラ(1,1′)を備えたローラプレスが設けられており、前記ローラが、加熱可能な真空ローラであることを特徴とする、膜/電極ユニットを製作するための装置。
【請求項18】
ローラ(1,1′)を加熱するための少なくとも2つの熱源(4,4′)を有している、請求項17記載の装置。
【請求項19】
前記熱源(4,4′)が赤外線放射器である、請求項17記載の装置。
【請求項20】
前記熱源(4,4′)が、ローラリングの内面に被着された電気的な面加熱体である、請求項17記載の装置。
【請求項21】
ローラ(1,1′)が複数のゾーン、特に真空ゾーン(2,2′)および吹出しゾーン(3,3′)を有している、請求項17記載の装置。
【請求項22】
それぞれのローラが中空軸として構成されており、中空軸の壁に軸方向で分配孔(5)が設けられている、請求項17記載の装置。
【請求項23】
軸方向の分配孔(5)から半径方向の孔(6)がローラ表面に通じている、請求項17記載の装置。
【請求項24】
ローラ(1,1′)に付加的にフレキシブルなブランケット、例えばシリコーンゴムが設けられている、請求項17記載の装置。
【請求項25】
1つのローラが固定ローラであり、駆動軸を有している、請求項17記載の装置。
【請求項26】
1つのローラが可動ローラであり、可動ローラがリニアガイド上でローラ軸線に対して横方向で移動可能に配置されている、請求項17記載の装置。
【請求項27】
1つのローラが可動ローラであり、可動ローラが揺動式に円弧上をローラ軸線に対して横方向で案内されている、請求項17記載の装置。
【請求項28】
膜形燃料電池のための膜/電極ユニットを製作するためのシステムにおいて、請求項17記載の装置がピックアンドプレースシステムに連結されていることを特徴とする、膜/電極ユニットを製作するためのシステム。
【請求項29】
膜形燃料電池のための膜/電極ユニットを製作するためのシステムにおいて、請求項17記載の装置が画像処理システムに連結されていることを特徴とする、膜/電極ユニットを製作するためのシステム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2008−520071(P2008−520071A)
【公表日】平成20年6月12日(2008.6.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−540569(P2007−540569)
【出願日】平成17年11月9日(2005.11.9)
【国際出願番号】PCT/EP2005/012005
【国際公開番号】WO2006/050933
【国際公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【出願人】(501399500)ユミコア・アクチエンゲゼルシャフト・ウント・コムパニー・コマンディットゲゼルシャフト (139)
【氏名又は名称原語表記】Umicore AG & Co.KG
【住所又は居所原語表記】Rodenbacher Chaussee 4,D−63457 Hanau,Germany
【Fターム(参考)】