説明

臍帯マトリックスに由来する幹細胞を肝細胞系細胞へ分化させる方法

【解決手段】
本発明は、臍帯マトリックス細胞を肝細胞様細胞に分化させる方法、並びに、かかる肝細胞様細胞を使用するための組成物及び方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本特許出願は、米国特許法§119(e)に従い、2006年6月28日に出願の米国仮特許出願第60/817251号の優先権を主張し、この仮特許出願における全開示内容を本願明細書に援用する。
【0002】
技術分野)
本発明は、臍帯を有するあらゆる動物(ヒトを含む)に由来する幹細胞の単離、及び肝細胞系へ分化させるためのその使用に関する。具体的には本発明は、臍帯マトリックス細胞を肝細胞様細胞に分化させる方法に関する。本発明はまた、薬剤スクリーニング、薬剤−薬剤相互作用、移植及び疾患治療などの様々な場面に、簡便に利用できる肝臓細胞様細胞を提供する際に有用である。
【背景技術】
【0003】
臓器移植による肝疾患の治療は有効であり、また進歩を遂げていることが知られている。しかしながら、移植の際の主な問題点として、臓器の入手困難性、及び組織適合性が挙げられる。適切な臓器ドナー不足の問題は深刻であり、代替的な治療方法に対するニーズが存在する。細胞ベースの治療法は、再生医療分野においては有望であるが、移植効率が低いことが欠点である。細胞ベースの肝疾患の治療方法を提供するための、より多くの研究開発を実践することが、この分野において必要とされている(Allen JW and Bhatia SN.Tissue Engineering.2002、8(5):725−737、 H.C.Fiegel CLら、J Cell Mol Med.2006、10(3):577−587、非特許文献1及び2)。
【0004】
シトクロムP450の誘導及び阻害が、薬剤及び他の生体異物の酸化的代謝における、鍵となる機構であることが知られている。肝細胞モデルを用いたヒトの薬剤代謝の研究が、現在の臨床研究の中心を占めている。肝細胞は、初代培養においては、一定期間に限り薬剤の代謝活性を示すが、長期培養を行った場合には、かかる能力を喪失する。初代培養の肝細胞を使用する場合の他の課題としては、倫理的な問題、ドナーからの当該組織の入手困難性、初代培養細胞の短い寿命などが挙げられる(Donato Mら、Drug Metab Dispos.1995、23(5):553−558、Li APら、Chemico−Biological Interactions Proceedings of the First Symposium of the Hepatocyte Users Group of North America.1997、107(1−2):5−16、非特許文献3及び4)。すなわち、薬剤相互作用及び細胞毒性を研究する際の適切な細胞モデルを提供することにより、新薬若しくは新規な治療用アイテムのスクリーニングにおいて有利であると考えられる。
【0005】
肝細胞(肝細胞の80%を構成する)は多量の滑面小胞体を有するため、肝臓は多くの種類の内在性化合物及び生体異物を代謝する中心的な部位であり、多くの代謝酵素がそこに存在する。これらの代謝酵素は、主に2種類の主要なプロセスに関与している。すなわち、P450モノオキシゲナーゼによる酸化還元反応(第1のフェーズ)と、内在性分子との結合(第2フェーズ)である。薬剤の探索及び開発においては、新規化合物の代謝プロファイル及び薬剤動態の解析が、その主な矛先であった。前臨床開発においては、多くの場合、薬剤の輸送及び除去に影響を及ぼす肝臓酵素の機能解析が必要となる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】Allen JW and Bhatia SN.Tissue Engineering.2002、8(5):725−737
【非特許文献2】H.C.Fiegel CLら、J Cell Mol Med.2006、10(3):577−587
【非特許文献3】Donato Mら、Drug Metab Dispos.1995、23(5):553−558、
【非特許文献4】Li APら、Chemico−Biological Interactions Proceedings of the First Symposium of the Hepatocyte Users Group of North America.1997、107(1−2):5−16
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
これまで、30以上の薬剤が重度の(あるいは致命的な)薬剤毒性を生じさせていたが、恐ろしいことに販売開始後にそれが明らかとなっていた。薬剤毒性を早期に試験するための現行の技術の1つの欠点として、試験系において遺伝的多様性を考慮に入れられないという点が挙げられる。すなわち、早期の薬剤毒性試験において、簡便に利用でき、遺伝的多様性を有する肝細胞様細胞系を提供するための技術に対するニーズが存在する。本発明はこのニーズに応える以外にも、他の有効性を発揮しうる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様は、臍帯マトリックス細胞を肝細胞様細胞に分化させる方法の提供に関する。当該方法は、臍帯マトリックス細胞と誘導前培地とを接触させるステップと、上記臍帯マトリックス細胞と分化培地とを接触させるステップと、上記臍帯マトリックス細胞と成熟培地とを、接触させるステップを有してなり、上記臍帯マトリックス細胞を肝細胞様細胞に分化させるのに十分な時間、上記ステップを実施する。
【0009】
本発明の別の態様は、in vitroで化合物の毒性を評価する方法の提供に関する。当該方法は、本発明の方法により、臍帯マトリックス細胞から分化させた肝細胞様細胞を、前記化合物と接触させるステップと、前記肝細胞様細胞の生存率を測定するステップを有してなる。当該方法では、前記化合物を含まない場合と比較して、前記化合物を含む場合に上記生存率が減少することが、前記化合物がin vivoで有毒であることの指標となる。
【0010】
本発明の更なる態様は、in vitroで化合物の活性を評価する方法の提供に関する。当該方法は、本発明の方法により臍帯マトリックス細胞から分化させた、代謝活性を有する肝細胞様細胞を、前記化合物と接触させるステップと、前記肝細胞様細胞の代謝活性を測定するステップを有してなる。当該方法では、前記化合物を含まない場合と比較して、前記化合物を含む場合に上記代謝活性が減少又は増加することが、前記化合物がin vivoで活性を有することの指標となる。
【0011】
本発明の更なる態様は、in vitroで化合物の活性を評価する方法の提供に関する。当該方法は、本発明の方法により臍帯マトリックス細胞から分化させた、代謝活性を有する第1の肝細胞様細胞を、前記化合物と接触させ、細胞上清を生成させるステップと、本発明の方法により臍帯マトリックス細胞から分化させた、代謝活性を有する第2の肝細胞様細胞を、上記の上清と接触させるステップと、上記の第2の肝細胞様細胞の代謝活性を測定するステップを有してなる。当該方法では、前記上清を含まない場合と比較して、前記細胞上清を含む場合に上記代謝活性が減少又は増加することが、前記化合物がin vivoで活性を有することの指標となる。
【0012】
本発明の更なる態様は、in vitroで化合物の毒性を評価する方法の提供に関する。当該方法は、本発明の方法により臍帯マトリックス細胞から分化させた、代謝活性を有する第1の肝細胞様細胞を、前記化合物と接触させ、細胞上清を生成させるステップと、本発明の方法により臍帯マトリックス細胞から分化させた、代謝活性を有する第2の肝細胞様細胞を、前記細胞上清と接触させるステップと、前記第2の肝細胞様細胞の生存率を測定するステップを有してなる。当該方法では、前記上清を含まない場合と比較して、前記細胞上清を含む場合に生存率が減少することが、前記化合物がin vivoで有毒であることの指標となる。
【0013】
本発明の別の態様は、in vitroで化合物の活性を評価する方法の提供に関する。当該方法は、本発明の方法により臍帯マトリックス細胞から分化させた肝細胞様細胞を、前記化合物と接触させるステップと、肝細胞様細胞のシトクロムP450遺伝子の発現を測定するステップを有してなる。当該方法では、前記化合物を含まない場合と比較して、前記化合物を含む場合にシトクロムP450遺伝子の発現が増加又は減少することが、前記化合物がin vivoで活性を有することの指標となる。
【0014】
本発明の更なる態様は、in vitroで化合物の活性を評価する方法の提供に関する。当該方法は、本発明の方法により臍帯マトリックス細胞から分化させた、代謝活性を有する第1の肝細胞様細胞を、前記化合物と接触させ、細胞上清を生成させるステップと、本発明の方法により臍帯マトリックス細胞から分化させた、代謝活性を有する第2の肝細胞様細胞を、前記上清と接触させるステップと、前記第2の肝細胞様細胞のシトクロムP450遺伝子の発現を測定するステップを有してなる。当該方法では、前記上清を含まない場合と比較して、前記細胞上清を含む場合にシトクロムP450遺伝子の発現が増加又は減少することが、前記化合物がin vivoで活性を有することの指標となる。一実施形態では、シトクロムP450遺伝子の発現は、ポリメラーゼ連鎖反応を使用して測定される。更なる実施形態では、シトクロムP450遺伝子の発現は、酵素活性の測定により測定される。
【0015】
本発明の別の態様は、薬剤相互作用を測定する方法の提供に関する。当該方法は、本発明の方法により、臍帯マトリックス細胞から分化させた、第1の肝細胞様細胞を、第1の化合物と接触させるステップと、本発明の方法により、臍帯マトリックス細胞から分化させた、第2の肝細胞様細胞を、第2の化合物と接触させるステップと、本発明の方法により、臍帯マトリックス細胞から分化させた、第3の肝細胞様細胞を、上記の第1及び第2の化合物と接触させるステップと、上記第1、第2及び第3の肝細胞様細胞の代謝活性を測定するステップを有してなる。当該方法では、上記の第1若しくは第2の肝細胞様細胞、又はそれらの両方と比較し、第3の肝細胞様細胞において代謝活性が減少又は増加していることが、薬剤相互作用の指標となる。
【0016】
本発明の更なる態様は、薬剤相互作用を測定する方法の提供に関する。当該方法は、本発明の方法により、臍帯マトリックス細胞から分化させた、第1の肝細胞様細胞を、第1の化合物と接触させるステップと、本発明の方法により、臍帯マトリックス細胞から分化させた、第2の肝細胞様細胞を、第2の化合物と接触させるステップと、本発明の方法により、臍帯マトリックス細胞から分化させた、第3の肝細胞様細胞を、上記の第1及び第2の化合物と接触させるステップと、上記第1、第2及び第3の肝細胞様細胞の生存率を測定するステップを有してなる。当該方法では、上記の第1若しくは第2の肝細胞様細胞、又はそれらの両方と比較し、第3の肝細胞様細胞において生存率が減少又は増加していることが、薬剤相互作用の指標となる。
【0017】
本発明の更なる態様は、薬剤相互作用を測定する方法の提供に関する。当該方法は、本発明の方法により、臍帯マトリックス細胞から分化させた、第1の肝細胞様細胞を、第1の化合物と接触させるステップと、本発明の方法により、臍帯マトリックス細胞から分化させた、第2の肝細胞様細胞を、第2の化合物と接触させるステップと、本発明の方法により、臍帯マトリックス細胞から分化させた、第3の肝細胞様細胞を、上記の第1及び第2の化合物と接触させるステップと、上記第1、第2及び第3の肝細胞様細胞のシトクロムP450遺伝子の発現を測定するステップを有してなる。当該方法では、上記の第1若しくは第2の肝細胞様細胞、又はそれらの両方と比較し、第3の肝細胞様細胞においてシトクロムP450遺伝子の発現が減少又は増加していることが、薬剤相互作用の指標となる。
【0018】
本発明の別の態様は、患者の肝機能を向上若しくは回復させる方法の提供に関する。当該方法は、本発明の方法により、臍帯マトリックス細胞から分化させた肝細胞様細胞の集合物を、患者に投与するステップを有してなる。
【0019】
本発明の更なる態様は、患者の肝臓の肝硬変を治療する方法の提供に関する。当該方法は、本発明の方法により、臍帯マトリックス細胞から分化させた肝細胞様細胞の集合物を、患者に投与するステップを有してなる。
【0020】
本発明の更に別の態様は、肝障害を治療する方法の提供に関する。当該方法は、本発明の方法により、臍帯マトリックス細胞から分化させた肝細胞様細胞の集合物を、肝障害に罹患する患者に投与するステップを有してなる。
【0021】
本発明の更に別の態様は、肝炎を治療する方法の提供に関する。当該方法は、本発明の方法により、臍帯マトリックス細胞から分化させた肝細胞様細胞の集合物を、肝障害に罹患する患者に投与するステップを有してなる。
【0022】
本発明の別の態様は、少なくとも2つの、臍帯マトリックス由来の肝細胞様細胞を含んでなる、臍帯マトリックス由来の肝細胞様細胞のパネルの提供に関する。詳細には、上記少なくとも2つの臍帯マトリックス由来の肝細胞様細胞が、異なる患者に由来し、上記臍帯マトリックス由来の肝細胞様細胞が、各々分離されている。すなわち、これらの細胞は、パネル上の異なる別々の位置に存在する。一実施形態では、上記の異なる患者は、遺伝的に異なる。他の実施形態では、上記の異なる患者は、異なる性である。すなわち、かかるパネルは女性及び男性の患者の臍帯に由来する細胞から構成されている。一実施形態では、上記の少なくとも2つの臍帯マトリックス由来の肝細胞様細胞は、マルチウエルプレートにおいて各々分離された位置に存在する。更なる実施形態では、上記パネルは少なくとも3、4、5、6、7、8、9、10又はそれ以上の異なる臍帯マトリックス由来の肝細胞様細胞を含んでなる。この場合、本発明のパネルは、例えば5〜100、又はそれ以上の異なる臍帯マトリックス由来の肝細胞様細胞を、マルチウェル培養プレート中の各々分離された位置に有しうる。
【0023】
本発明の更なる態様は、本発明のパネル、及び少なくとも1つのシトクロムP450酵素活性又は遺伝子発現を測定するための、少なくとも1つの試薬を含んでなる、薬剤スクリーニングキットの提供に関する。一実施形態では、上記のキットは、臍帯マトリックス由来の肝細胞様細胞を培養するための少なくとも1つの培地を含んでなる。
【0024】
本発明の別の態様は、臍帯マトリックス細胞を肝細胞様細胞に分化させる方法の提供に関する。当該方法は、0.1%のゼラチンコーティングした組織培養プレート上に臍帯マトリックス細胞を播種するステップと、臍帯マトリックス細胞を、10〜30ng/mlの組換えヒト上皮細胞増殖因子及び5〜15ng/mlの組換えヒト塩基性フィブロブラスト成長因子を含有する誘導前培地と接触させるステップと、臍帯マトリックス細胞を、10〜30ng/mlの組換えヒトの肝細胞増殖因子、5〜15ng/mlのrhbFGF及び0.5〜1.0g/Lのニコチンアミドを含有する分化培地と接触させるステップと、臍帯マトリックス細胞を、10〜30ng/mlのヒトオンコスタチンM、0.5〜1.5μmol/Lのデキサメタゾン及び30〜70mg/mlのITS+プレミックスを含有する成熟培地と、臍帯マトリックス細胞を肝細胞様細胞に分化させるのに十分な時間、接触させるステップを有してなる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明は広義には、臍帯マトリックス幹細胞を肝細胞系の細胞に分化させる方法、及び当該細胞を含んでなる組成物及びそれを使用する方法に関する。
【0026】
幾つかの研究結果から、胚体外組織が、in vitroにおいて肝細胞様細胞に分化する能力を有することが示されている(Lee OKら、Blood.2004、103(5):1669−1675、Schwartz REら、J Clin Invest.2002、109(10):1291−1302、Hong SHら、Biochemical and Biophysical Research Communications.2005、330(4):1153−1161、Sato Yら、Blood.2005、106(2):756−763)。肝細胞の分化プロトコルでは、分化を誘導する様々な成長因子で処理された原種細胞の単層を用いることにより、細胞分化を実施する(Ong S−Y,Dai H,Leong KW.Tissue Engineering.2006、12(12):3477−3485、Lee OKら、Blood.2004、103(5):1669−1675、Schwartz REら、J Clin Invest.2002、109(10):1291−1302、Hong SHら、Biochemical and Biophysical Research Communications.2005、330(4):1153−1161、Yamada Tら、Stem Cells.2002、20(2):146−154、Koenig Sら、Journal of Hepatology.2006、44(6):1115−1124、Chien C−Cら、Stem Cells.2006、24(7):1759−1768、Forte Gら、Stem Cells.2006,24(1):23−33)。初代肝細胞は、適切なサポートの下、三次元(3D)システムで培養した場合、長期の培養条件においても生存する能力が維持され、肝臓特異的な機能が維持され、天然型の肝臓組織との構造類似性を有することが示されている。一方、二次元(2D)培養組織システムの場合には、肝細胞は代謝物質の輸送にとり重要なそれらの極性を喪失し、また小管又は類洞構造の発達が阻害される(Hamamoto Rら、J Biochem(Tokyo).1998、124(5):972−979、Landry Jら、J Cell Biol.1985、101(3):914−923、Abu−Absi SF,Friend JRら、Experimental Cell Research.2002,274(1):56−67)。更に、ECM(細胞外マトリックス)は、肝細胞の微小な環境に影響を及ぼす生理的役割を果たし、例えば生物体との適合性を有する物質が細胞外マトリックスと結合した際に、細胞分化を促進しうる(HENG BCら、Journal of Gastroenterology and Hepatology.2005、20(7):975−987)。
【0027】
多くの機能性細胞が薬剤の探索や毒性試験に用いられるため、測定の容易な、経済的な細胞モデルが必要とされる。本発明は、ヒト臍帯由来のマトリックス細胞から分化させた肝細胞系細胞の提供に関し、当該細胞系は薬物試験における、関連するシトクロムP450の誘導などの、様々な場面において使用できる。更に本発明により、細胞ベースの薬剤治療や毒性試験用の細胞供給源、並びに特定の症状における移植用の細胞供給源の提供が可能となる。
【0028】
臍帯マトリックス(UCM)細胞の単離及び培養:
幹細胞は自己再生をする能力を有し、分化系列決定の際の前駆細胞として、特定の細胞系への分化及び増殖をさせることができる。
【0029】
精子と卵子との受精の後、生体中に存在するあらゆる分化した細胞種及び組織などを有する、完全に分化した多細胞生物の形成を可能とする単細胞が形成される。このあらゆる能力を備えた初期の受精細胞は、分化全能性を有する細胞と称される。かかる分化全能性の細胞は、胚体外の膜及び組織、胚組織及び器官に分化する能力を有する。これらの分化全能性の細胞は、細胞分裂が数サイクル(大部分の種では5〜7回)終了した後に特殊化を開始し、細胞内に中空(胚盤胞)を形成する。胚盤胞の内側の細胞塊は、多能性(生物体の大部分の組織(若干の胎盤組織などを除く)を構成する多種類の細胞に変化する能力を有する)幹細胞から構成されている。組織幹細胞は、特殊化することにより、成熟した、機能性を有する細胞に分化する。かかる組織幹細胞は、血液細胞、間充織細胞、又は神経外胚葉細胞系に分化しうる。すなわち、幹細胞のヒエラルキーは、分化全能性の幹細胞(totipotent stem cell)→多能性の幹細胞(pluripotent stem cell)→組織幹細胞(multipotent stem cell)→分化決定された細胞系となる。
【0030】
多能性幹細胞の要件としては、(i)未分化状態で、in vitroで無限に増殖できること、(ii)長期にわたる培養後においても、通常の核型が維持されること、及び(iii)長期にわたる培養の後であっても、全ての3胚葉(内胚葉、中胚葉及び外胚葉)に分化する能力が維持されること、が挙げられる。これらの重要な特性に関する有力な証拠は、齧歯類の胚性幹細胞(ES細胞)及び胚性生殖細胞(EG細胞)に関する以下の文献に記載されている:
マウス(Evans&Kaufman,Nature 292:154−156,1981、Martin,Proc Natl Acad Sci USA 78:7634−7638,1981)、ハムスター(Doetschmanら、Dev Biol 127:224−227,1988)、ラット(Iannacconeら、Dev Biol 163:288−292,1994)、決定的とは言い難いが、ウサギES細胞(Gilesら、Mol Reprod Dev 36:130−138,1993、Graves&Moreadith,Mol Reprod Dev 36:424−433,1993)。しかしながら、ラット(Iannacconeら、1994,上記)及びマウス(Bradleyら、Nature 309:255−256,1984)由来の確立した幹細胞系のみが、キメラでの通常の発生に使用できることが報告されている。
【0031】
ヒトの多能性細胞は、以前動物モデルにおける研究において開発された方法を用い、2つの供給源から発生させた例が報告されている。多能性幹細胞は、in vitro受精プログラムから得られる胚盤胞段階のヒトの胚(ES細胞)の内側細胞塊から直接に分離されている。多能性幹細胞(EG細胞)はまた、出産の際にも得られている。
【0032】
本発明は、肝細胞系細胞への分化に使用できる臍帯マトリックス(UCM)幹細胞の提供に関する。UCMは公知の技術、例えば米国特許第5919702号及び米国特許出願公開第2004/0136967号に記載の方法を使用して分離できる。臍帯マトリックス(UCM)幹細胞は、ホワルトンゼリー細胞としても公知である。かかる細胞は、有羊膜類、胎盤動物、ヒトなどの、臍帯を有するほとんどのあらゆる動物において存在する。かかるマトリックス細胞としては、典型的には血管外細胞、粘液結合組織(例えばホワルトンゼリー細胞)が挙げられるが、典型的には臍帯血細胞又はそれに関連する細胞は含まない。これらの細胞のいずれも、分化細胞の供給源となりえ、また幹細胞の培養株の確立又は維持にとり重要なフィーダー環境を提供できる。臍帯組織に由来するUCM幹細胞を、単離、精製し、培養により増殖させることができる。
【0033】
UCM細胞は、UCM細胞を有する臍帯から調製した非血液組織標本から単離してもよい。上記のUCM細胞を更に、UCM細胞の分化をさせずに増殖のみを促進する因子を含有し、培養の際に基材表面へのUCM幹細胞の選択的な接着を可能にする培地に添加する。標本と培地の混合物を培養し、非接着物質を基材表面から除去する。臍帯血の使用は、例えばIssaragrishiら、(1995)N.Engl.J.Med.332:367−369においても記載されている。
【0034】
本発明のUCM幹細胞は、臍帯から、好ましくはホワルトンゼリーから単離される。ホワルトンゼリーは通常、ゆるい粘液を分泌する結合組織と考えられていた臍帯に存在するゼラチン状の物質であり、線維芽細胞、コラーゲン繊維及び主にヒアルロン酸を含有する無定形基質を含有することが報告されている(Takechiら、,1993,Placenta 14:235−45)。ホワルトンゼリーの組成及び組織に関する様々な研究が行われている(Gill and Jarjoura,1993,J.Rep.Med.38:611−614、Meyerら、,1983,Biochim.Biophys.Acta 755:376−387)。1つの報告では、ホワルトンゼリー由来の「線維芽細胞様」細胞の単離とin vitro培養に関して記載している(McElreaveyら、,1991,Biochem.Soc.Trans.636th Meeting Dublin 19:29S)。
【0035】
臍帯は通常、妊娠満期での出産若しくは早産の直後に得られる。例えば、限定されないが、臍帯又はその一部分を、培地(例えばダルベッコの修飾イーグル培地(DMEM))を含む無菌の容器(フラスコ、ビーカー又はペトリ皿など)に入れて分娩室から実験室に輸送する。臍帯は好ましくは、ホワルトンゼリーの回収前及び回収の際、無菌条件下で維持し、処理する。更に、例えば70%エタノール溶液、更に無菌の蒸留水でリンスすることにより、臍帯の表面を処理し、殺菌してもよい。上記の臍帯は、ホワルトンゼリーの抽出前に、短時間、3〜5℃(凍結させない)で、最高約3時間保存させてもよい。
【0036】
ホワルトンゼリーは、公知技術の適切な方法によって、無菌条件下で臍帯から回収する。例えば、臍帯を例えば約1インチのサイズとなるように、外科用メスで横方向に切断し、各切片を充分量のリン酸緩衝食塩水(PBS、CaCl(0.1g/L)及びMgCl・6HO(0.1g/L)を含有)を含む無菌の容器へ移し、穏やかに振動させ、切片の表面から血液を除去する。当該切片を更に無菌の表面へ移し、当該切片の外部層を、臍帯の縦軸に沿ってスライスし、開かせる。例えば無菌の鉗子及び解剖用はさみを用いて、臍帯の血管(2つの静脈及び動脈)を解剖除去し、臍帯を回収し、無菌の容器(例えば100mmのTC処理されたペトリ皿)上に置く。臍帯を更に小さくカットしてもよい(例えば培養の際は2〜3mmとなるようにカットする)。他の方法としては、ホワルトンゼリーをコラゲナーゼで酵素分解して分散させ、遠心分離によって細胞を分離し、更にプレーティングする方法が適用可能である。
【0037】
ホワルトンゼリーを、適当な条件下、培地中でin vitroでインキュベートすることにより、そこに存在するUCM細胞を増殖させることができる。本発明のUCM細胞の単離においては、あらゆる適当な培地を使用することができ、例えば、DMEM、マッコイ5A培地(Gibco社製)、イーグル基礎培地、CMRL培地、グラスゴー最小限培地、ハムF−12培地、Iscoveの修飾ダルベッコ培地、Liebovitz L−15培地、RPMI1640、あるいはその他の培地が使用可能である。上記の培地は、例えばウシ胎児血清(FBS)、ウマ血清(ES)、ヒト血清(HS)、並びに微生物による汚染を防止するための1つ以上の抗生物質及び/又は抗真菌剤(例えばペニシリンG、ストレプトマイシン硫酸塩、アンホテリシンB、ゲンタマイシン及びナイスタチン(それら単独若しくはそれらの組み合わせ)等)などの、1つ以上の成分を補充してもよい。
【0038】
最適な培地の選択、培地の調製方法及び細胞培養技術は公知であり、以下をはじめとする様々な文献において記載されている:Doyleら(eds.).1995,Cell and Tissue Culture:Laboratory Procedures,John Wiley&Sons,Chichester、及びHo and Wang(eds.),1991,Animal Cell Bioreactors,Butterworth−Heinemann,Boston(以上の文献を本発明に援用する)。
【0039】
UCM細胞の培養においては、細胞の共有源(ホワルトンゼリー)を2つのフラクションに分離する。そのうちの1つを幹細胞でリッチにし、その後、当該幹細胞を細胞増殖に適する条件下に置く。このようにして得られる細胞リッチな分離培養液には幹細胞が含まれている。
【0040】
充分な期間(例えば約10〜12日)にわたりホワルトンゼリーを培養した後、外植された組織に存在するUCM由来の幹細胞は、そこからの遊走若しくは細胞分裂、又はそれらの両方の結果として組織から溢れ出す。これらのUCM由来の幹細胞を更に、最初に使用したのと同じ又は異なるタイプの新鮮な培地を含む別の培養容器へ移してもよく、そこにおいて、UCM由来の幹細胞の集合物を有糸分裂により増殖させることができる。
【0041】
あるいは、ホワルトンゼリーに存在する様々なタイプの細胞を更に分離させてもよく、それによりUCM由来の幹細胞を単離することができる。上記の操作は標準的な細胞分離技術を使用して実施してもよく、限定されないが、例えば酵素処理によりホワルトンゼリーを個々の細胞に分離させ、その後特定の細胞タイプ(例えば筋線維芽細胞、幹細胞など)をクローニング及び選抜してもよい。その際、形態的若しくは生化学的な標識の使用、不必要な細胞の選択的な除去(ネガティブ選択)、例えば大豆凝集素を用いた、細胞混合物における個々の細胞の凝集力の差に基づく分離、凍結融解、細胞混合物の特異的な接着特性、濾過、従来公知のゾーン遠心分離、遠心分離による抽出(反流動遠心分離)、重力分離、向流分配、電気泳動、蛍光標示式細胞分取(FACS)などが使用できる。クローン選抜及び細胞分離技術のレビューは、Freshney,1994,Culture of Animal Cells、A Manual of Basic Techniques,3d Ed.,Wiley−Liss,Inc.,New York.を参照のこと。
【0042】
UCM由来の幹細胞の培養の一実施形態では、ホワルトンゼリーを幾つかのセクション(例えば約1〜5mmのセクション)にカットし、適当なディッシュ(例えばペトリ皿の底の上にガラススライドを有するTC処理されたペトリ皿)に置く。組織切片を更に、他のガラススライドでカバーし、例えば、ダルベッコのMEM培地(+20%のFBS)、又はRPMI1640培地(+10%のFBS、5%のES及び抗生物質(ペニシリンG(100ug/ml)、ストレプトマイシン硫酸塩(100ug/ml)、アンホテリシン(250ug/ml)及びゲンタマイシン(10ug/ml)(pH7.4−7.6))などの完全培地で培養する。上記の組織を10〜12日間、37〜39℃、及び5%のCOでインキュベートするのが好ましい。しかしながら、当業者であれば、温度、O及びCOレベルを適宜調整してもよいことは自明である。特定の実施形態では、例えば温度を32℃〜40℃の範囲で変動させてもよく、またCO濃度を2%〜7%の範囲で変動させてもよい。培養の日数は、約5、6、7、8又は9日〜約13、14、15、20、25日又はそれ以上の日数で適宜調整してもよい。適切な培地の更なる例としては、DMEM(40% MCDB201、1×インシュリン−トランスフェリン−セレニウム(ITS)、1×リノール酸−BSA、10−8M デキサメタゾン、10−4M アスコルビン酸2−リン酸塩、100U ペニシリン、1000U ストレプトマイシン、2% FBS、10ng/mL EGF、10ng/mL PDGF−BB)が挙げられる。
【0043】
必要に応じて、例えばピペットでディッシュから培地を慎重に吸引し、新鮮な培地で補充することにより、培地交換を行う。細胞数又は細胞密度が増加し、ディッシュ中及びスライド表面に細胞が蓄積するまで、上記の要領で培養を継続する。例えば、約70%のコンフルエンスとなるまで培養を行うが、完全なコンフルエンスとなるまでは培養しない。外植された最初の組織切片を除去し、残留する細胞を、標準技術を使用してトリプシン処理してもよい。トリプシン処理の後、細胞を回収し、新しい培地へ移し、上記と同様にインキュベートする。トリプシン処理の24時間後、少なくとも一回培地交換し、浮遊する細胞を除去する。培養液中に残留する細胞は、UCM由来の幹細胞であると考えられる。
【0044】
他の実施形態では、UCM細胞を以下の通りに分離し、培養する:
適当な、ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則(Human Subjects Approval)に従い、妊娠満期の乳児から臍帯を調製する。ヒトの臍帯マトリックス(HUCM)細胞を、以下の方法により、臍帯組織から増殖させる:
約500mL、又は完全に臍帯を覆うのに充分な量の95%エタノールを含む1000mL容ビーカー中で30秒間リンスし、臍帯を準備する。エタノールがなくなるまで臍帯を燃焼させ、冷却した無菌のPBS(500mL)で5分間、2度にわたり十分洗浄する。次に、臍帯を500mLのベタジン溶液中に5分間(1回)浸漬し、更に冷却した無菌のPBS(500mL)で5分間×2回で十分洗浄し、ベタジンを除去する。次に臍帯を〜5cmずつに切断する。得られる臍帯の切片を完全に切断し、PBSで洗浄して血液を除去し、40U/mL ヒアルロニダーゼ/0.4mg/mL コラゲナーゼ溶液を含む50mlの試験管又は100mmの組織培養プレートに入れ、37℃で30分、5%のCO条件の湿潤インキュベータ中でインキュベートする。消化された臍帯部の部分を更に、40メッシュのスクリーンを取り付けた、滅菌済の細胞ストレーナー及び乳棒中に入れる。当該装置をさらに滅菌済みの100mmペトリ皿に配置し、58%の低グルコースDMEM(Invitrogen社、カールズバッド、CA)、40%のMCDB201(Sigma社、セントルイス、MO)、1×インシュリン−トランスフェリン−セレニウム−A(Invitrogen社、カールズバッド、CA)、0.15g/mLのAlbuMAX I(Invitrogen社、カールズバッド、CA)、1nMのデキサメタゾン(Sigma社、セントルイス、MO)、100μMのアスコルビン酸2−リン酸塩(Sigma社、セントルイス、MO)、100Uのペニシリン、1000Uのストレプトマイシン(Mediatech社、Herdon、VA)、2%のウシ胎児血清(FBS)(Invitrogen社、カールズバッド、CA)、10ng/mLの上皮細胞増殖因子(EGF)(R&D Systems社、ミネアポリス、MN)、及び10ng/mLの血小板由来成長因子BB(PDGF−BB)(R&D Systems社、ミネアポリス、MN)、を含有する5〜10mLのディファインド培地(DM)を添加する。組織を破砕し、大部分の組織の構造が破壊されるまで乳棒で上記ストレーナーを押し通し、ピペットで液体を回収する。得られるサンプルを、750RCF(×g)で10分間遠心分離する。ペレットを崩壊させないように、注意しながら培地を吸引除去する。ペレットを適当な量のDMで再懸濁して適当な濃度に調製し、抗生物質を添加する。
【0045】
希釈された細胞調製物を更に、必要に応じて6ウェルプレート又は他の容器に播種する。5%のCO、37℃の条件の湿潤インキュベータ内に細胞を置き、〜24時間静置する。分離から24〜48時間後、非接着細胞を、滅菌済みのPBSで3回洗浄し、除去した。2日毎に新鮮なDMで培地交換した。50〜80%の培養コンフルエンシーに達したとき、細胞を0.05%のトリプシン/0.53mMのEDTA溶液を使用して回収し、T25培養フラスコ中に再度プレーティングし、更にDM中で増殖させる。一定の細胞密度(50〜80%コンフルエンシー)が維持されるように培養する。5%のCO、37℃の条件を維持しながら湿潤インキュベータ中で培養する。2〜3日毎に新鮮なDMで培地交換しながら培養する。
【0046】
幹細胞を単離した後、細胞集団は有糸分裂により増殖する。幹細胞は、それらが適当な細胞密度(例えば3×10−cm〜6.5×10−cm)に達するか、又は培養ディッシュ表面上の細胞密度が所定のパーセンテージとなったときに、新鮮な培地に植え継ぐか又は「通過」させる必要がある。幹細胞の培養の間、細胞を培養容器の壁に付着させることにより、細胞を増殖させ、コンフルエントな単層を形成させることができる。あるいは、培養液を例えばオービタルシェーカで振とうし、細胞が壁に付着するのを防止してもよい。細胞をテフロン(登録商標)コーティングした培養バッグ中で増殖させてもよい。
【0047】
他の実施形態では、所望の成熟細胞又は細胞株は、少ない回数のパッセージ(例えば2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14又は15回のパッセージ)の幹細胞を使用して調製する。しかしながら、幾つかの実施形態では、より多くの分裂回数(例えば20、25、30、35、40、45、50、55、60、65、70、75、80、90又は100回以上の細胞分裂回数)となるように細胞を維持する。幹細胞を確立させた後、それらが成熟した細胞又は細胞系となるための原種として機能する能力を維持するため、例えば培養細胞が適当な密度又はパーセンテージのコンフルエンシーに達したときに、定期的に新鮮な培地へ継代すること、適当な成長因子で処理すること、培地又は培養プロトコルを変更すること、又は上記の幾つかの組合せを行うことが、本発明に包含される。
【0048】
本発明では、UCM細胞は、患者自身の臍帯から回収されたホワルトンゼリーから調製することができる。あるいは、治療を必要とする患者が胎児又は子供の両親のいずれかである場合でも、発育中の胎児又は新生児の臍帯から得たホワルトンゼリーからUCM幹細胞を得ることが有利である。あるいは、ホワルトンゼリーから単離した細胞は「胎児」としての性質を有するため、本発明の細胞及び/又はそれにより得られる新規な肝細胞若しくは肝細胞様細胞に対する免疫学的な拒絶反応を最小化することができる。その結果、かかる細胞は、あらゆる患者に用いられる新規な肝細胞又は肝細胞様細胞の生成に使用する「ユビキタスな移植用ドナー細胞」として有用でありうる。
【0049】
UCM細胞の、肝細胞への分化
本願明細書に記載の単離されたUCM細胞は、本願明細書に記載の方法を使用することにより肝細胞系の細胞に分化する。
【0050】
本明細書で用いられる「肝細胞様」又は「肝細胞系細胞」という用語は、少なくとも2つの肝細胞マーカーを発現する細胞のことを指す。肝細胞マーカーの例としては、限定されないが、アルブミン、αFP、肝細胞核内因子4α(HNF4α)、肝細胞核内因子3β(HNF3−β)、サイトケラチン18(CK18)、グルタミン合成酵素(GS)、無秩序な平滑筋アクチン(SMA)及びフォンウィルブランド因子(VWF)の発現が挙げられる。マーカーの他の例としては、肝細胞における誘導可能な遺伝子が挙げられ、例えばアンドロスタン受容体(CAR)、プレグナンX受容体(PXR)、ペルオキシソーム増殖因子活性化受容体−γコアクチベーター1α(PGC−1)、ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)及びペルオキシゾーム増殖因子活性化受容体−γ(PPAR−γ)(鍵となる糖新生成酵素)、CYP3A4(体内異物及び生体異物の代謝にとり重要なシトクロムP450(CYP)フェーズIモノオキシゲナーゼ系の酵素)などが挙げられる。特定の実施形態では、これらの誘導可能な遺伝子は、分化した肝細胞様細胞において高発現するか、又はPB、RIF、8−Br−cAMP又はフォルスコリン処理により誘導されうる。本発明の肝細胞様細胞において、それに関連して発現する肝細胞マーカーとしては、アルブミン産生、7−ペントオキシレゾルフィン−O−非アルキル化(PROD)(CYP2B1/2によって特異的に触媒反応を受ける)による生成物、肝臓ビリルビンの除去の際に必要となる酵素であるUDP−グルクロノシルトランスフェラーゼ(UGT1A1)、内在性及び生体異物のスルホン化及び解毒作用を触媒するヒトヒドロキシステロイドスルホトランスフェラーゼ(SULT2A1)、トランスチレチン(TTR)、トリプトファン−2,3−ジオキシゲナーゼ(TDO)、α−1−アンチトリプシン(α−1−AT)、肝臓特異的有機アニオントランスポーター(LST−1、又はOATP2)、カルバモイルリン酸シンターゼ1(CPSase−1)などが挙げられる。更なるマーカーの例としては、高い核/細胞質比率を有する単核及びヘテロ核の状態であること、多角体〜立方体の形状を有すること、脂質液胞を有すること、毛細胆管様の構造を形成できること、及びシヌソイドを形成できること、などの形態的な特徴が挙げられる。更に他のマーカーの例としては、グリコーゲン産生、血清タンパク質、血漿タンパク質、凝固因子の合成、解毒機能、尿素産生、糖新生及び脂質代謝などの特徴が挙げられる。すなわち、特定の実施形態では、肝細胞様細胞は成熟した肝細胞の機能(例えば代謝経路における機能)を発揮しうる。
【0051】
特定の実施形態では、本発明の肝細胞様細胞は、本願明細書に記載の3つ以上の肝細胞マーカーを発現する。他の実施形態では、上記の肝細胞様細胞は、本願明細書に記載の肝細胞マーカーのうちの4つ以上を発現する。特定の実施形態では、本発明の肝細胞様細胞は、本願明細書に記載の肝細胞マーカーのうちの5つ以上のを発現する。他の実施形態では、本発明の肝細胞様細胞は本願明細書に記載の肝細胞マーカーのうちの6、7、8、9、10個以上を発現する。本発明の肝細胞様細胞が他の公知のマーカー又は機能を発現しうることは、当業者にとり自明である。
【0052】
一実施形態では、以下の方法を使用してUCMを分化させる:
誘導に先立ち、UCMをディファインド培地(低グルコース培地DMEM、MCDB201、1×ITS、0.15g/mLのAlbumax、1nMのデキサメタゾン、100μMのアスコルビン酸−2−ホスフェート、10ng/mLのEGF、10ng/mLのPDGF、2%のFBS、Pen/Strep)で培養する。次にUCMを誘導前培地(無血清Iscove修飾ダルベッコ培地(IMDM)、20ng/mlのEGF、10ng/mlのbFGF、Pen/Strep)で2日間培養する。細胞を更に、IMDM、20ng/mlのHGF、10ng/mlのbFGF、0.61g/Lのニコチンアミド、2%のFBS、Pen/Strepを含有する分化培地で7日間培養する。細胞を更に、IMDM、20ng/mlのオンコスタチンM、1μmol/Lのデキサメタゾン、50mg/mlのITS+プレミックス、2%のFBS、Pen/Strepを含有する成熟培地で10週目まで培養する。
【0053】
他の実施形態では、外部因子を経時的に添加する分化プロトコルを採用する。誘導前に、細胞を、2.0〜3.0E06細胞/フラスコの密度で、0.1%のゼラチンコートしたT75培養フラスコに播種し、一晩付着させる。細胞を更に、無血清IMDM(Invitrogen社、カールズバッド、CA)、20ng/mlの組換えヒト上皮細胞増殖因子(rhEGF)(R&D Systems社、ミネアポリス、MN)、10ng/mlの組換えヒト塩基性フィブロブラスト成長因子(rhbFGF)(Chemicon社、Temecula、CA)及びPen/Strepを含有する誘導前培地で2日間処理する。細胞を7日間、IMDM、20ng/mlの組換えヒト肝細胞成長因子(rhHGF)(Chemicon社、Temecula、CA)、10ng/mlのrhbFGF、0.61g/Lのニコチンアミド(Sigma社、セントルイス、MO)、2%のFBS、Pen/Strep中で、2段階プロセスで培養することにより分化させることができる。細胞を更に、成熟培地(IMDM、20ng/mlのヒトオンコスタチンM(Bioscource社、Camarillo、CA)1μmol/Lのデキサメタゾン、50mg/mlのITS+プレミックス(Sigma社、セントルイス(MO))、2%のFBS1及びPen/Strep)で10週目まで培養する。培地を3日毎に交換し、肝細胞の分化を経時的に評価する。
【0054】
更なる実施形態では、UCM細胞は、以下のように培養することにより分化させることができる。最初に、本願明細書に記載のUCM細胞用の標準的な培養培地
(例えば以下の組成のディファインド培地:
低グルコースDMEM、MCDB201、1×ITS、0.06、0.07、0.08、0.09、0.10、0.15、0.16、0.17、0.18、0.19、0.2、0.3、0.4、0.5g/mL以上のAlbumax、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9若しくは1nMのデキサメタゾン、又は1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、2.5、3.0又は3.5nMの高濃度のデキサメタゾン、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、又は150μMのアスコルビン酸−2−ホスフェート、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20ng/mLのEGF、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、又は20ng/mLのPDGF、0.5、1.0、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5又は5%のFBS、Pen/Strep)
で培養する。UCM細胞を更に1、2、3、4若しくは5日間、又はそれ以上の期間、誘導前培地
(無血清Iscove修飾ダルベッコ培地(IMDM)、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29若しくは30ng/ml又はそれ以上の濃度のEGF、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20ng/mlのbFGF、Pen/Strep)
で培養する。細胞を更に、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14日又はそれ以上の日数、分化培地
(IMDM、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29又は30ng/mlのHGF、1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20ng/mlのbFGF、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.61、0.7、0.8、0.9g/L又はそれ以上の濃度のニコチンアミド、0.5、1.0、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5又は5%のFBS、Pen/Strep)
で培養する。細胞を更に、成熟培地
(IMDM、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19、20、21、22、23、24、25、26、27、28、29、又は30ng/mlのオンコスタチンM、0.1、0.2、0.3、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8、0.9、1、1.1、1.2、1.3、1.4、1.5、1.6、1.7、1.8、1.9、2.0、3.0、4.0又は5μmol/L又はそれ以上の濃度のデキサメタゾン、10、20、30、40、50、60、70、80、90若しくは100mg/ml、又はそれ以上の濃度のITS+プレミックス(BD Biosciences社)、0.5、1.0、1.5、2、2.5、3、3.5、4、4.5又は5%のFBS、Pen/Strep)
で、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19若しくは20週、又はそれ以上の期間培養する。
【0055】
特定の実施形態では、上記の細胞は、限定されないが以下のような様々な成長因子を含有する培養条件下で分化する:肝細胞増殖因子(HGF)、上皮細胞増殖因子(EGF)、トランスフォーミング成長因子(TGF)、酸性線維芽細胞成長因子(aFGF)、インシュリン、インシュリン様成長因子(IGF)、顆粒白血球大食細胞コロニー刺激因子(GM−CSF)、間質由来因子−1α(SDF−1α)、幹細胞因子(SCF)、オンコスタチンM(OSM)、血清由来の肝細胞増殖刺激因子(HGSF)、デキサメタゾン、レチノイン酸、酪酸ナトリウム、ニコチンアミド、ノルエピネフリン及びジメチルスルホキシド。一実施形態では、当該成長因子は組換えヒト成長因子である。
【0056】
一実施形態では、肝細胞様細胞は、分化の間、細胞の三次元培養を可能にする足場の存在下で分化する。足場材料は、自然にoccuringしている構成要素から成ることができるか又は合成材料又は両方ともから成ることができる。足場材料は、生物学的適合性を有するのが好ましい。足場材料の例としては、細胞外マトリックスや、例えばHamamoto Rら、J Biochem(Tokyo)1998、124(5):972−979、HENG BCら、Journal of Gastroenterology and Hepatology.2005、20(7):975−987などに記載されている材料が挙げられる。本発明において使用できる他の足場材料としては、以下のうちの1つ又は2つ以上の混合物が挙げられるが、これらに限られない:
コラーゲン(例えばタイプI、III、IV、V、VIコラーゲン)、ゼラチン、アルギン酸塩、フィブロネクチン、ラミニン、エンタクチン/ニドゲン、テネイシン、トロンボスポンジン、SPARC、アンドゥリン(undulin)、プロテオグリカン、グリコサミノグリカン(例えばヒアルロナン、ヘパラン硫酸、コンドロイチン硫酸、ケラタン硫酸塩及びデルマタン硫酸)、ポリプロピレン、TERポリマー、アルギン酸−ポリL−リジン、コンドロイチン硫酸、キトサン、MATRIGEL(登録商標)(Becton−Dickinson社、米国)又は他の市販の細胞外マトリクス材料。ある特定の実施形態では、UCMを肝細胞様細胞に分化させるのに用いられる細胞外マトリックスは、ゼラチンである。
【0057】
一実施形態では、UCM細胞は、肝細胞フィーダ層(例えば単離された肝細胞)、米国特許第5869243号及び第6107043号に記載の不死化肝細胞、又は当該技術分野で利用可能な他の肝細胞系(例えばHB8065細胞)と共培養させることにより分化する。その場合、UCM細胞を、標準的な成長培地(例えば2%のFBSで補充したDMEM)で培養するか、又はヒートショックなどで無能にした肝細胞フィーダ層と共に培養してもよい。かかる培養は、トランスウェルインサートの多孔膜上で実施してもよい。
【0058】
特定の実施形態では、UCM細胞を、例えば本願明細書において説明したディファインド培地、誘導前培地、分化培地及び成熟培地などのうちの1つ以上の培地において、UCM細胞が肝細胞系細胞に分化し、更に本願明細書に記載のような形態的な変化(肝細胞遺伝子の発現、肝細胞タンパク質の発現及び肝細胞機能的な特徴)などの、様々な指標のうちのいずれかを示すのに充分な時間、培養する。
【0059】
すなわち、特定の実施形態では、UCM細胞を、本願明細書に記載されている1つ以上の培地(例えばディファインド培地、誘導前培地、分化培地及び成熟培地)で、UCM細胞が、コントロール培地で培養した細胞よりも高いレベルでアルブミンを発現するのに充分な時間、培養する。更なる態様では、UCM細胞を、本願明細書に記載されている1つ以上の培地、(例えばディファインド培地、誘導前培地、分化培地及び成熟培地)で、UCM細胞が、コントロール培地で培養した細胞よりも高いレベルでα−胎児タンパク質(αFP)を発現するのに充分な時間、培養する。通常、未分化UCMコントロール細胞は、アルブミン又はαFPを発現しない。更なる態様では、UCM細胞を、本願明細書に記載の1つ以上の培地で、未分化細胞よりも平滑筋アクチンとしての構造形成が不十分となるのに十分な時間、培養する。更なる態様では、UCM細胞を、本願明細書に記載の1つ以上の培地で、当該細胞が肝細胞様の形態(限定されないが、未分化細胞の軸状の形態と比較し、フラットな多角形の形状)をとるのに充分な時間、培養する。一実施形態では、UCM細胞を、本願明細書に記載の1つ以上の培地で、以下のうちの1つ以上に至るのに充分な時間、培養する:細胞がアルブミンを発現すること、α−FPを発現すること、肝細胞様の形態をとること、及び、平滑筋アクチンの構造形成が不十分となること。
【0060】
一実施形態では、UCM細胞は、以下のマーカーのうちの少なくとも2つが発現されるのに充分な時間、本願明細書に記載の1つ以上の培地で培養する:
アルブミン、αFP、肝細胞核因子4α(HNF4α)、サイトケラチン18(CK18)、グルタミン合成酵素(GS)、無秩序な平滑筋アクチン(SMA)、フォンウィルブランド因子(VWF)、肝細胞中で誘導可能な遺伝子(例えばアンドロスタン受容体(CAR)、プレグナンX受容体(PXR)、ペルオキシゾーム増殖因子活性化受容体γコアクチベーター1α(PGC−1)、ホスホエノールピルビン酸塩カルボキシキナーゼ(PEPCK)及びペルオキシゾーム増殖因子活性化受容体−γ(PPAR−γ)(鍵となる糖新生成酵素)、CYP3A4(体内異物及び生体異物の代謝にとり重要なシトクロムP450(CYP)フェーズIモノオキシゲナーゼ系の酵素)(これらの誘導可能な遺伝子は、分化した肝細胞様細胞において高発現するか、又はPB、RIF、8−Br−cAMP又はフォルスコリン処理により誘導されうる)、形態的な特徴(例えば高い核/細胞質比率を有する単核及びヘテロ核の状態であること、多角体〜立方体の形状を有すること、脂質液胞を有すること、毛細胆管様の構造を形成できること、シヌソイドを形成できること、グリコーゲン産生、血清タンパク質、血漿タンパク質、凝固因子の合成、解毒機能、尿素産生、糖新生及び脂質代謝。
【0061】
ある特定の実施形態では、UCM細胞は、ゼラチン、組換えヒト成長因子(例えばrhEGF、rhbFGF、rhHGF、ヒトオンコスタチンM)及びKNOCKOUTTMSerum Replacement(Invitrogen社、カールズバッド、CA)を含有するIMDM中で培養することにより、肝細胞様細胞に分化する。
【0062】
更なる態様では、上記細胞を、肝細胞様の機能的特性(例えばグリコーゲン産生、血清タンパク質、血漿タンパク質、凝固因子の合成、解毒機能、尿素産生、糖新生及び脂質代謝)を獲得するのに充分な時間、培養する。この場合、公知技術の技術を用い、グリコーゲン産生などの機能的特性を測定することにより、分化の度合いを評価する。グリコーゲンとは、肝細胞中に多量に存在する単純な細胞質内多糖類である。グリコーゲンの貯蔵を観察する場合、分化細胞を過ヨウ素酸−シッフ(PAS)染色するのが好ましい。グリコーゲンは、細胞培養条件下で、ジアスターゼにより分解されうる。積極的なグリコーゲン染色を観察するため、ジアスターゼ溶液で分化細胞を前処理するのが好ましい。
【0063】
陰イオン色素、ヨードシアニングリーン(ICG)の細胞取り込みを測定することにより、分化した細胞における肝細胞機能を解析することができる。これは、公知の技術を使用して実施できる。一実施形態では、ICGを最初に溶媒中に5mg/mLの濃度で溶解させる。得られる溶液を更に、成熟メディアで1mg/mLとなるまで希釈し、培養ディッシュに添加し、10〜15分間、5%のCO、37℃の条件の湿潤インキュベータ中でインキュベートする。細胞を滅菌済みのPBSで十分洗浄し、更に光学顕微鏡で観察する。検査の後、PBSを除去し、成熟培地を添加し、細胞を〜4〜6時間、5%のCO、37℃の湿潤インキュベータ内でインキュベートし、ICGの除去を確認する。
【0064】
哺乳類の肝細胞は、コレステロールホメオスタシスの調節のため、LDL受容体を発現する。すなわち、LDLの取り込みを分化の指標として使用できる。分化細胞がLDLの細胞取り込みを示すか否かを解析するため、細胞をDil−Ac−LDLで処理する。一実施形態では、成熟培地でDil−Ac−LDLを10μg/mLに希釈して細胞に添加し、湿潤インキュベータ中で37℃で4時間インキュベートする。培養後、Dil−Ac−LDLを含有する培地を除去し、細胞をプローブ不含有の成熟培地で2度洗浄する。得られる細胞は、標準的なローダミン励起により観察できる。
【0065】
本願明細書の開示を検討することにより、当業者であれば、公知技術の様々な測定技術、例えば限定されないが遺伝子発現の分析(例えばPCR、RT−PCR、定量的PCR、あるいは免疫組織化学、免疫蛍光検定などのタンパク質発現分析)を用いて、アルブミン、α−FPの発現、平滑筋アクチンの形成及び細胞形態を測定できることを想起するであろう。かかる技術は公知技術であり、例えばCurrent Protocols in Molecular Biology,またはCurrent Protocols in Cell Biology,両方ともJohn Wiley and Sons, NY, NY.に記載されている。
【0066】
本発明に係る細胞の分化は、限定されないが様々な技術(例えばフローサイトメトリ、免疫組織化学、免疫蛍光技術、in−situハイブリダイゼーション及び/又は組織学的若しくは細胞生物学的技術)により検出できる。
【0067】
本発明はまた、UCM幹細胞から分化させた肝細胞様細胞のバンクの作製方法の提供に関し、当該方法は、臍帯からマトリックス細胞を得、当該マトリックスを幹細胞リッチなフラクションにし、当該幹細胞を1つ以上の成長因子を含有する培地で培養して、当該細胞を、本願明細書に記載の肝細胞様細胞に分化させることにより実施される。あるいは、臍帯自体及び/又は分画していない細胞のバンクを保管して、後日マトリックス細胞を作製してもよい。
【0068】
本発明はまた、UCMから分化させた肝細胞様細胞株の確立及び維持方法の提供に関する。
【0069】
上記のように本発明の細胞株を確立した後、定期的な培地移動を必要とする、連続的なin vitro培養細胞、又は、特定の実施形態では、凍結保存できる細胞を含んでなる「細胞バンク」中で維持若しくは保存できる。遺伝的に多様な集団から得た臍帯に由来するUCM幹細胞から分化させた肝細胞様細胞を作製し、将来的に使用するバンクにおいて保存してもよい。
【0070】
本発明の細胞の凍結保存は、公知の方法(例えばDoyleら、1995,Cell and Tissue Culture)により実施できる。例えば、限定されないが、細胞を「凍結培地」中に懸濁させてもよい。なお、当該培地中に更に、15〜20%のFBS及び10%のジメチルスルホキシド(DMSO)、5〜10%のグリセロール(無くともよい)を含有させ、例えば4〜10×10細胞/mlの密度としてもよい。次に細胞をガラス製若しくはプラスチック製のアンプル(Nunc社)に懸濁し、封をし、プログラム可能なフリーザーの冷凍室に移す。最適な凍結速度は、経験的に決定できる。例えば、融合熱による約−1℃/分の温度変化による冷却プログラムを使用できる。アンプルが約−180℃に達したとき、液体窒素貯蔵タンクに移す。低温保存された細胞は、長い年月にわたり保存できるが、但し生存率の保守のため、少なくとも5年に1度は点検するのが好ましい。
【0071】
本発明の低温保存された細胞は細胞バンクを構成し、必要に応じて、その一部を解凍して「立ち上げ」、新規な肝細胞様細胞の作製に使用するか、又は本願明細書に記載の他の方法に使用することができる。上記の解凍は通常、例えば液体窒素から37℃の湯浴へアンプルを移すことにより、急速に実施されなければならない。更にアンプル中で解凍された内容物を、滅菌条件下で、20%のFBSを含有するRPMI1640、DMEMなどの適切な培地を含む培養容器に直ちに移す必要がある。培地中の細胞は、好ましくは約3×10〜6×10細胞/mlの初期密度とするのが好ましく、それにより、細胞が迅速に培地に適合することができ、誘導期の長期化を防ぐことができる。培養の際、細胞を毎日、例えば倒立顕微鏡で細胞増殖を観察し、適当な密度に達したときには適宜継代培養を行ってもよい。
【0072】
更に本願明細書に記載のように、本発明の細胞を必要に応じてバンクから取り出し、薬剤スクリーニング又は肝疾患の治療に使用してもよい。本発明の細胞はまた、新規な細胞が必要となる肝臓傷害の際、in vitro又はin vivoで(例えば当該細胞を直接投与する用途に)使用してもよい。上記のように、本発明の肝細胞様細胞を、患者において新規な肝細胞様細胞を生じさせるために使用してもよく、その場合、当該細胞は、最初はその患者の臍帯から分離される(すなわち自己由来である)。あるいは、本発明の細胞をユビキタスなドナー細胞として(すなわち自己以外のあらゆる患者(ヘテロな)における肝細胞の新生において)使用できる。
【0073】
本発明の分化した肝細胞様細胞は、多様な遺伝的バックグラウンドの患者に由来する複数の異なる臍帯源に由来する(あるいは異なる動物の供給源に由来してもよい)肝細胞様細胞のパネルとして提供してもよい。例えば、UMCに由来する肝細胞様細胞のパネルとしては、薬剤代謝酵素及び薬剤トランスポーターをコードする遺伝子中に多形を有することが解っている患者から得たUMC源に由来する肝細胞様細胞が挙げられる。本発明のパネルを、薬剤スクリーニング用の試薬を含んでなるスクリーニング用キットの一部として提供してもよい。かかる試薬としては、例えば本願明細書に記載のいかなる培地、及びアルブミン及びα−FPの発現検出用の試薬などが挙げられる。
【0074】
一実施形態では、本発明の肝細胞様細胞は、遺伝的に改変されていてもよい。この実施形態では、本発明の肝細胞様細胞を、導入遺伝子を有する核酸からなる遺伝子導入ベクターと接触させ、それにより当該核酸が細胞に導入され、更に適切な条件下でその導入遺伝子が細胞内で発現する。導入遺伝子は通常発現カセットであり、適切なプロモータに機能的に連結されたコーディングポリヌクレオチドを含んでなる。コーディングポリヌクレオチドはタンパク質をコードしてもよく、又は、生物学的活性を有するRNA(例えばアンチセンスRNA、siRNA又はリボザイム)をコードしてもよい。すなわち、コーディングポリヌクレオチドは、例えばA、B若しくはC型肝炎などの毒素又は感染性物質に対する抵抗性を付与する遺伝子、ホルモン、(例えばペプチド成長ホルモン、ホルモン放出因子、性ホルモン、副腎皮質刺激ホルモン)、サイトカイン(例えばインターフェロン、インターロイキン及びリンホカイン)、細胞表面結合した細胞内シグナリング部位(細胞接着分子及びホルモン受容体)、特定の細胞系の分化を促進する因子、又は配列が公知の他のあらゆる導入遺伝子、をコードしてもよい。
【0075】
本願明細書において使用する、他の導入遺伝子の例としては、成長エフェクター分子をコードする遺伝子が挙げられる。本明細書で用いられる成長エフェクター分子とは、細胞表面レセプターと結合し、特に肝細胞などの標的細胞又は組織の成長、複製又は分化を制御する分子のことを指す。成長エフェクター分子の例としては、成長因子及び細胞外マトリックス分子が挙げられる。成長因子の例としては、上皮細胞増殖因子(EGF)、血小板由来成長因子(PDGF)、トランスフォーミング成長因子(TGFα、TGFβ)、肝細胞増殖因子、ヘパリン結合因子、インシュリン様増殖因子I又はII、線維芽細胞成長因子、エリトロポイエチン、神経成長因子及び当業者に公知の他の因子などが挙げられる。その他の成長因子に関しては、”Peptide Growth Factors and Their Receptors I”M.B.Sporn and A.B.Roberts,eds.(Springer−Verlag,New York,1990)に記載されている。
【0076】
導入遺伝子を含む発現カセットは、導入遺伝子の細胞への送達に適する遺伝子導入用ベクターに組み込まれる必要がある。所望の最終用途に応じて、あらゆる種類のベクター(例えばプラスミド、裸のDNA、ウイルス(例えばアデノウイルス、アデノ随伴ウイルス、ヘルペスウイルス、レンチウイルス、乳頭腫ウイルス、レトロウイルスなど)を適宜使用して、細胞を遺伝子的に改変することができる。かかるベクター中で、適切な方法を使用して、所望の発現カセットを構築してもよく、その方法としては、例えば直接クローニング、相同組換えなどの公知の方法が挙げられる。ベクターの細胞への導入方法は、使用するベクターの選択により決定され、その選択は従来技術において公知である。好適な技術としては、原形質体融合、リン酸カルシウム沈殿、遺伝子銃、エレクトロポーレーション及びウィルスベクターによる感染などが挙げられる。
【0077】
すなわち、本発明はまた、発現ベクター及び外来DNAの細胞への導入方法、並びに、例えば以下の文献に記載のような、当該細胞における当該外来DNAの発現方法の提供に関する(Sambrookら(2001,Molecular Cloning:A Laboratory Manual,Cold Spring Harbor Laboratory,New York)、及びAusubelら(1997,Current Protocols in Molecular Biology,John Wiley&Sons,New York))。
【0078】
「コードする」とは、遺伝子、cDNA又はmRNAなどのポリヌクレオチド中に存在する特定のヌクレオチド配列が有する固有の特性であって、生物学的プロセスにおいて、所定のヌクレオチド(すなわちrRNA、tRNA及びmRNA)配列又は所定のアミノ酸配列を有する、他のポリマー及び高分子の合成の際に鋳型として機能する特性、並びに、それらから生じる生物学的特性のことを指す。すなわち当該核酸は、その核酸に対応するmRNAの転写及び翻訳が細胞又は他の生物学的システムにおいてタンパク質を産生する場合に、タンパク質をコードすると称される。コーディング鎖(そのヌクレオチド配列はmRNA配列と同一で、通常シーケンスリストに記載される)、及び非コーディング鎖(遺伝子又はcDNAの転写の際の鋳型として使用される)のいずれも、当該タンパク質又はその遺伝子又はcDNAによる他の生成物をコードしているといえる。
【0079】
特に明記しない限り、「アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列」には、各々の退縮したバージョンを含み、同じアミノ酸配列をコードする全てのヌクレオチド配列が包含される。タンパク質及びRNAをコードするヌクレオチド配列は、イントロンを有してもよい。
【0080】
「単離された核酸」とは、天然の状態における隣接している配列から分離された核酸部分又は断片のことを指し、例えば、通常当該断片と隣接する配列から取り出されたDNA断片であってもよく、例えば、天然のゲノム中に存在する断片と隣接する配列であってもよい。当該用語はまた、例えばRNA若しくはDNAなどの核酸を天然において伴う他の構成要素、又は細胞内において天然において伴うタンパク質から実質的に精製された核酸のことを指す。ゆえに当該用語は例えば、ベクター、独立して複製するプラスミド若しくはウイルス、又は原核生物若しくは真核生物のゲノムDNAに組み込まれた組み換えDNAであってもよく、又は他の配列とは独立な、単離された分子(例えばPCR又は制限酵素処理によって得られるcDNA、ゲノム若しくはcDNA断片)として存在してもよい。それはまた、更なるポリペプチド配列をコードするハイブリッド遺伝子の一部としての組み換えDNAをも包含する。
【0081】
本発明においては、共通に用いられる核酸塩基を表記するため、以下の略称を用いる。すなわち「A」はアデノシンを指し、「C」はシトシンを指し、「G」はグアノシンを指し、「T」はチミジンをさし、「U」はウリジンを指す。
【0082】
「ベクター」とは、単離された核酸を有してなり、細胞内部に当該単離された核酸を送達する際に使用できる化合物のことを指す。多くのベクターが公知であり、直鎖状ポリヌクレオチド、イオン性若しくは両親媒性の化合物と会合するポリヌクレオチド、プラスミド及びウイルスなどが挙げられるが、これらに限定されない。すなわち、用語「ベクター」には、独立して複製するプラスミド又はウイルスが包含される。当該用語はまた、細胞への核酸の輸送を容易にする非プラスミド性及び非ウイルス性化合物(例えばポリリシン化合物、リポソームなど)を包含するものとして解釈すべきである。ウィルスベクターの例としては、限定されないがアデノウイルスベクター、アデノ随伴ウイルスベクター、レトロウイルスベクターなどが挙げられる。
【0083】
「発現ベクター」とは、発現させようとするヌクレオチド配列に機能的に連結させた発現制御配列を有する組換えポリヌクレオチドを有してなるベクターのことを指す。発現ベクター中には、発現にとり充分なシス−活性エレメントが含まれるが、発現のための他の要素を、宿主細胞中、又はin vitro発現系中に供給してもよい。発現ベクターには、公知のあらゆるもの(例えばコスミド、プラスミド(例えば裸のもの又はリポソーム中のもの)、組換えポリヌクレオチドを有するウイルス)が包含される。
【0084】
使用方法
本発明のUCM細胞から分化した肝細胞様細胞は、薬剤スクリーニング、薬剤相互作用のスクリーニング、移植、組織/器官再生及び肝障害又は他の肝臓疾患の治療などの様々な場面おいて有用である。
【0085】
一実施形態では、本発明は、化合物(例えば薬剤又は候補薬剤)の活性を試験する方法の提供に関する。化合物の活性は、生存率、代謝活性に対する薬剤の効果、本発明に係る肝細胞様細胞におけるP450酵素遺伝子の発現又はタンパク質活性に対する効果、又は薬剤輸送体に対する薬剤の効果を測定することにより評価できる。当業者により自明のように、本発明の肝細胞様細胞は、肝細胞を使用するいかなる公知の薬剤のスクリーニングアッセイ(例えば特定のP450酵素又はP450酵素のパネルに関するアッセイ)、開発中の薬剤のスクリーニングアッセイにおいても使用できる。本発明の肝細胞様細胞は、作製が容易であり、また多様な遺伝的バックグラウンドをもつ患者に由来してもよいため、本発明において有用性を発揮する。
【0086】
本発明の一実施形態は、化合物と本発明の肝細胞様細胞とを接触させ、肝細胞様細胞の生存率を測定することにより、当該化合物の活性(例えば毒性)を試験する方法の提供に関する。試験化合物を含まない場合と比較し、試験化合物を含む場合に生存率が減少することが、当該化合物がin vivoで有毒なことの指標となる。細胞の生存率は、当業者に公知の技術(例えばフローサイトメトリによって、又は血球計測板を使用した単なる細胞の顕微鏡観察及び染色)により測定できる。
【0087】
本発明の他の実施形態では、化合物と本発明の肝細胞様細胞とを接触させ、肝細胞様細胞の代謝活性を測定することにより、当該化合物の活性を試験する方法の提供に関する。試験化合物を含まない場合と比較し、試験化合物を含む場合に代謝活性の減少又は増加が、in vivoにおける薬剤の活性の指標となる。
【0088】
本発明の他の実施形態は、化合物の活性を試験する方法の提供に関し、当該方法は、当該化合物と本発明の第1の肝細胞様細胞とを接触させ、細胞上清を得るステップと、当該細胞上清と第2の肝細胞様細胞とを接触させるステップと、第2の肝細胞様細胞の測定生存率及び/又は代謝活性を測定するステップを有してなる。細胞上清を含まない場合と比較した、当該上清を含む場合における、第2の肝細胞様細胞の生存率の減少、及び/又は代謝活性の増加若しくは減少は、当該化合物がin vivoで活性を有しうることの指標となる。例えば、細胞上清を含まない場合と比較し、上清を含む場合に、第2の肝細胞様細胞の生存率が減少することは、当該化合物がin vivoで有毒であることの指標となる。
【0089】
本発明の一実施形態は、化合物の活性を試験する方法の提供に関し、当該方法は、当該化合物と本発明の肝細胞様細胞とを接触させ、1つ以上のシトクロムP450酵素遺伝子の発現の誘導若しくは阻害、又はタンパク質活性を測定するステップを有してなる。試験化合物を含まない場合と比較し、試験化合物を含む場合には、1つ以上のシトクロムP450遺伝子の発現及び/又は酵素活性の増加又は減少をモニターすることにより、当該化合物に関する、特に公知の薬剤との潜在的なin vivo薬剤相互作用に関する重要な活性情報が得られる。
【0090】
本発明の更なる実施形態では、化合物の活性を試験する方法の提供に関し、当該方法は、当該化合物と本発明の第1の肝細胞様細胞とを接触させ、細胞上清を得るステップと、当該細胞上清と第2の肝細胞様細胞とを接触させるステップと、上記第2の肝細胞様細胞における、1つ以上のシトクロムP450酵素遺伝子発現の誘導又はタンパク質活性を測定するステップを有してなる。細胞上清を含まない場合と比較し、当該上清を含む場合に、第2の肝細胞様細胞の遺伝子発現及び/又は酵素活性の増加若しくは減少は、in vivoでの当該化合物の特異的な活性の指標となる。この活性情報は例えば、公知の薬剤に関する重要な情報であり、また、現在開発中の薬剤における薬剤相互作用を解析する試験においても使用できる。
【0091】
本発明の別の実施形態は、薬剤相互作用を評価する方法の提供に関する。当該薬剤相互作用は、2つの化合物と本発明の細胞とを接触させ、1つの化合物の細胞に対する効果が、第2の化合物の存在下で影響を受けるか否かを測定することにより評価できる。例えば、当該方法は、第1の化合物と肝細胞様細胞の第1の集合物とを接触させるステップと、第2の化合物と肝細胞様細胞の第2の集合物とを接触させるステップと、上記第1及び第2の化合物の両方と、肝細胞様細胞の第3の集合物とを接触させるステップと、上記の各々の集合物における特徴的な効果(例えば細胞生存率、代謝活性、シトクロムP450遺伝子/タンパク質の発現又は活性)を測定するステップを有してなり、上記の第1若しくは第2の集合物のいずれかと比較し、両方の化合物と接触させた第3の集合物における、化合物の効果の統計学的に有意な減少若しくは増加が、薬剤相互作用の指標となる。上記の薬剤相互作用としては、例えば1つの薬剤が他の薬剤の活性を阻害すること、又は1つの薬剤が他の薬剤の活性を増加させることが挙げられる。
【0092】
上記のように、公知の薬剤によるシトクロムP450プロフィールを本発明おいて利用できる。すなわち、候補化合物に関する薬剤相互作用は、本願明細書に記載の方法により得た肝細胞様細胞を使用して、シトクロムP450酵素に対するその効果を評価するステップと、得られる結果と、公知の薬剤における公知のプロファイルとを比較するステップにより測定され、それにより、候補化合物と公知の薬剤(例えば一般的に用いられる一般用医薬品(例えばイブプロフェン、アセトアミノフェン、アスピリンなど))との相互作用に関して有益な情報が得られる。
【0093】
当業者にとり自明のように、遺伝子発現は、公知の様々な技術(例えば限定されないが、定量的ポリメラーゼ連鎖反応、QC−PCR又はQC−RT PCRのいずれか)を使用して測定できる。他のmRNA発現の検出方法も当該技術分野において周知であり、限定されないが例えば、転写により媒介される増幅(TMA)、ポリメラーゼ連鎖反応(PCR)による増幅、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)による増幅、リガーゼ連鎖反応(LCR)による増幅、鎖置換による増幅(SDA)及び核酸配列をベースとする増幅(NASBA)などが挙げられる。
【0094】
酵素活性は、公知の分析法(例えば限定されないが、肝細胞ミクロソーム調製物による酵素分析)により測定できる(例えばR.Walsky,and R.Scott Obach Drug Metabolism and Disposition 32:647−660,2004を参照)。他の市販の分析用の機器としては、High Throughput P450 Inhibition Kits(BD Biosciences社製(サンノゼ、CA))、又はInvitrogen社(カールズバッド、カリフォルニア)、Promega社(マディソン、ウィスコンシン)、Sigma Aldrich社(セントルイス、MO)などの企業から市販されているキットなどが挙げられる。ヒト肝ミクロソームを用いることにより、CYP450代謝を簡便に解析することができる。ミクロソームとは、ディファレンシャル高速遠心分離によって得られた組織中に含まれる、細胞内フラクションである。CYP450酵素の全てが、ミクロソームのフラクションに集中する。CYP450酵素は長期間にわたり、低温(例えば−70℃)条件下で保存した場合においても、ミクロソーム中又は全肝臓中におけるそれらの活性が維持されている。CYP450により媒介される反応において補因子が必要となることが知られており、酸化還元を維持する系(例えばNADPHによる)がその代表例である。肝臓ミクロソームは、公知の技術を使用して調製できる(例えばCoughtrieら、,Clin Chem 1991 37/5 739−742、J.Lam and L.Benet Drug Metabolism and Disposition 32:1311−1316,2004、Salphati L and Benet LZ(1999) Metabolism of digoxin and digoxigenin digitoxosides in rat liver microsomes:involvement of cytochrome P4503A.Xenobiotica 29:171−185を参照)。一般のCYP450をコードするcDNAsがクローニングされており、組換えヒト酵素のタンパク質が様々な細胞において発現されている。ミクロソームを使用して見かけの代謝経路を決定した後、これらの組換え酵素を使用することにより、結果が確認できるため、優れた方法といえる。
【0095】
本発明の肝細胞様細胞を使用した、薬剤スクリーニングアッセイにおいて測定できる適当な代謝酵素としては、シトクロムP450酵素類が挙げられるが、これに限定されない。適切なCYP450酵素類としては、シトクロムP450、CYP1A1、CYP1A2、CYP2A1、2A2、2A3、2A4、2A5、2A6、CYP2B1、2B2、2B3、2B4、2B5、2B6、CYP2C1、2C2、2C3、2C4、2C5、2C6、2C7、2C8、2C9、2C10、2C11、2C12、CYP2D1、2D2、2D3、2D4、2D5、2D6、CYP2E1、CYP3A1、3A2、3A3、3A4、3A5、3A7、CYP4A1、4A2、4A3、4A4、CYP4A11、CYP P450(TXAS)、CYP P450 11A(P450scc)、CYP P450 17(P45017a)、CYP P450 19(P450arom)、CYP P450 51(P45014a)、CYP P450 105A1、CYP P450 105B1が挙げられる。通常、本発明の肝細胞様細胞を使用した薬剤スクリーニングでは、シトクロムP450酵素の誘導を測定するステップを有してなる。この場合、当該誘導を、遺伝子発現レベルにより測定してもよく、又は特定の酵素タンパク質の活性により測定(例えば米国特許第6830897号、第7041501号)してもよい。市販の試験用キットを、本発明の肝細胞様細胞の用途に適用してもよい。かかるキットとしては、TranscriptionPath(GenPathway社、サンディエゴ、CA)、HTS P450 Inhibition Kits(BD Biosciences社、サンノゼ、CA)などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0096】
本発明の肝細胞様細胞を使用して、薬剤スクリーニングアッセイにおいて測定できる他の重要な代謝酵素としては、アセチル化、メチル化、グルクロニル化、硫酸化及び脱エステル化(エステラーゼ)に関与する酵素が挙げられる。活性(酵素活性又は遺伝子発現を含む)を測定できる適切な代謝酵素としては、
グルタチオン−チオエーテル(ロイコトリエンC4)ブチルコリンエステラーゼ、N−アセチルトランスフェラーゼ、UDP−グルクロノシルトランスフェラーゼ(UDPGT)イソ酵素、TL PST、TS PST;
薬剤グルコシル化抱合酵素(グルタチオン−S−転移酵素(GSTs)(RX:グルタチオン−R−転移酵素):GST1、GST2、GST3、GST4、GST5、GST6)、アルコール脱水素酵素(ADH)(ADH I、ADH II、ADH III)、アルデヒドデヒドロゲナーゼ(ALDH)(サイトゾル(ALDH1)、ミトコンドリア(ALDH2))、モノアミンオキシダーゼ(MAO:Ec1.4.3.4、MAOA、MAOB)、フラビン含有モノアミンオキシダーゼ、スーパーオキシドジスムターゼ(SOD)、カタラーゼ、アミダーゼ、N1−モノグルタチオニルスペルミジン、N1,N8−ビス(グルタチオニル)スペルミジン、チオエステル、GS−SG、GS−S−システイン、GS−S−システイニルグリシン、GS−S−O3H、GS−S−CoA、GS−S−タンパク質、S−カルボン酸脱水酵素III、S−アクチン、メルカプチド、GS−Cu(I)、GS−Cu(II)−SG、GS−SeH、GS−Se−SG、GS−Zn−R、GS−Cr−R、コリンエステラーゼ、リソソームカルボキシペプチダーゼ、カルパイン、レチノールデヒドロゲナーゼ、レチニルレダクターゼ、アシルCoAレチノールアシルトランスフェラーゼ、葉酸ヒドロラーゼ、リン酸化タンパク質(pp)4st、PP−1、PP−2A、PP−2B、PP−2C、デアミダーゼ、カルボキシエステラーゼ、エンドペプチダーゼ、エンテロキナーゼ、中性エンドペプチダーゼ(E.C.3.4.24.11)、中性エンドペプチダーゼ、カルボキシペプチダーゼ、ジペプチジルカルボキシペプチダーゼ(ペプチジル−ジペプチダーゼA又はアンジオテンシン変換酵素(ACE)(E.C.3.4.15.1.)、カルボキシペプチダーゼM、g−グルタミルペプチドトランスペプチダーゼ(E.C.2.3.2.2)、カルボキシペプチダーゼP、葉酸抱合酵素(E.C.3.4.12.10)、ジペプチダーゼ、グルタチオンジペプチダーゼ、膜Gly−Leuペプチダーゼ、亜鉛安定化Asp−Leuジペプチダーゼ、エンテロサイト細胞内ペプチダーゼ、アミノトリペプチダーゼ(E.C.3.4.11.4)、アミノジペプチダーゼ(E.C.3.4.13.2)、Proジペプチダーゼ、Arg選択的エンドプロテアーゼ、刷子縁ヒドロラーゼのファミリー、エンドペプチダーゼ−24.11、エンドペプチダーゼ−2(メプリン)、ジペプチジルペプチダーゼIV、膜ジペプチダーゼGPI、グリコシダーゼ、スクラーゼ−イソマルターゼ、ラクターゼ−グリコシル−セラミニダーゼ、グルコアミラーゼ−マルターゼ、トレハラーゼ、カルボヒドラーゼ酵素、α−アミラーゼ(膵臓)、ジサッカリダーゼ(全身)、ラクターゼ−フロリジンヒドロラーゼ、哺乳類のカルボヒドラーゼ、グルコアミラーゼ、スクラーゼ−イソマルターゼ、ラクターゼ−グリコシルセラミダーゼ、ROMの酵素源、キサンチンオキシダーゼ、NADPHオキシダーゼ、アミンオキシダーゼ、アルデヒドオキシダーゼ、ジヒドロオロト酸デヒドロゲナーゼ、ペルオキシダーゼ、トリプシノーゲン1、トリプシノーゲン2、トリプシノーゲン3、キモトリプシノーゲン、プロエラスターゼ1、プロエラスターゼ2、プロテアーゼE、カリクレイノーゲン、プロカルボキシペプチダーゼA1、プロカルボキシペプチダーゼA2、プロカルボキシペプチダーゼB1、プロカルボキシペプチダーゼB2、グリコシダーゼ、アミラーゼ、リパーゼ、トリグリカライドリパーゼ、コリパーゼ、カルボキシルエステルヒドロラーゼ、ホスホリパーゼA2、ヌクレアーゼ、Dnase I、リボヌクレオチドレダクターゼ(RNRs)、ラベルタンパク質IEP、A1:アミラーゼ1、A2:アミラーゼ2、リパーゼ、CELカルボキシル−エステルリパーゼ、PL:プロホスホリパーゼA、T1:トリプシノーゲン1、T2:トリプシノーゲン2、T3:トリプシノーゲン3、T4:トリプシノーゲン4、C1:キモトリプシノーゲン1、C2:キモトリプシノーゲン2、PE1:プロエラスターゼ1、PE2:プロエラスターゼ2、PCA:プロカルボキシペプチダーゼA1、PCA1:プロカルボキシペプチダーゼA2、PCB1:プロカルボキシペプチダーゼB1、PCB2:プロカルボキシペプチダーゼB2、Rリボヌクレアーゼ、LS:リトスタチン、ラット肝臓から精製したUDPGTイソ酵素(4−ニトロフェノールUDPGT、17b−ヒドロキシステロイドUDDPGT、3−a−ヒドロキシステロイドUDPGT、モルフィンUDPGT、ビリルビンUDPGT、ビリルビンモノグルクロニド、フェノールUDPGT、5−ヒドロキシトリプタミンUDPGT、ジギトキシゲニンモノジジドキシドUDPGT1、4−ヒドロキシビフェニルUDPGT、エストロンUDPGT);
ペプチダーゼ(アミノペプチダーゼN、アミノペプチダーゼA、アミノペプチダーゼP、ジペプチジルペプチダーゼIV);
b−カソモルフィン、アンジオテンシン変換酵素、カルボキシペプチダーゼP、アンジオテンシンII、エンドペプチダーゼ−24.11、エンドペプチダーゼ−24.18 アンジオテンシンI、P物質(脱アミド化)エキソペプチダーゼ、
1. NH2末端アミノペプチダーゼN(EC3.4.11.2)、アミノペプチダーゼA(EC3.4.11.7)、アミノペプチダーゼP(EC3.4.11.9)、アミノペプチダーゼW(EC3.4.11.−)、ジペプチジルペプチダーゼIV(EC3.4.14.5)、g−グルタミルペプチドトランスフェラーゼ(EC2.3.2.2)、
2. COOH末端アンジオテンシン変換酵素(EC3.4.15.1)、カルボキシペプチダーゼP(EC3.4.17.−)、カルボキシペプチダーゼM(EC3.4.17.12)、
3. ジペプチダーゼミクロソームジペプチダーゼ(EC3.4.13.19)、Gly−Leuペプチダーゼ、亜鉛安定化ペプチダーゼ、エンドペプチダーゼ(エンドペプチダーゼ−24.11(EC3.4.24.11)、エンドペプチダーゼ−2(EC3.4.24.18)、PABA−ペプチドヒドロラーゼ、メプリン、エンドペプチダーゼ−3、エンドペプチダーゼ(EC3.4.21.9));GST A1−1α、GST A2−2α、GST M1a−1a Mu、GST M1b−1b Mu、GST M2−2 Mu、GST M3−3 Mu、GST M4−4 Mu、GST M5−5 Mu、GST P1−1 Pi、GST T1−1 θ、GST T2−2 θ、ミクロソームロイコトリエンC4シンターゼ、UGTアイソザイム(UGT1.1、UGT1.6、UGT1.7、UGT2.4、UGT2.7、UGT2.11);
エラスターゼ、アミノペプチダーゼ(ジペプチジルアミノペプチダーゼ(IV)、キモトリプシン、トリプシン、カルボキシペプチダーゼA)、メチルトランスフェラーゼ(O−メチルトランスフェラーゼ、N−メチルトランスフェラーゼ、S−メチルトランスフェラーゼ、カテコール−O−メチルトランスフェラーゼ、MN−メチルトランスフェラーゼ、S−スルホトランスフェラーゼ);
Mg2+−ATPアーゼ、成長因子受容体のアルカリホスファターゼ、ATPアーゼ、Na,KATPアーゼ、Ca2+−ATPアーゼ、ロイシンアミノペプチダーゼ、Kチャネル。
【0097】
代謝活性の測定は、従来技術において公知の方法、例えば試験化合物と細胞を接触させ、上清を回収することにより実施される。例えば適切な高速液体クロマトグラフィ(HPLC)により、上清に存在する当該化合物の代謝産物を、公知の方法を使用して測定する。培養された肝細胞様細胞によるチミジン取り込みを測定することにより、in vitroで細胞増殖を評価できる。Handbook of Drug Metabolism Ed.Thomas Woolf,Informa Healthcare、March 29,1999を参照のこと。
【0098】
細胞培養液から分離した培地、すなわち培養上清は通常、回収した後、アッセイに用いるまで−30℃で保存する。培養上清の除去後、培養プレートを3回リン酸緩衝食塩水(PBS)でリンスし、公知の方法(例えばHaynerら、1982,Tissue Culture Methods 7:77−80)に従い、タンパク質の測定に供することができる。
【0099】
本発明は更に、肝障害の治療方法の提供に関する。この場合、本発明の分化した肝細胞様細胞が、肝障害(限定されないが例えばアメーバ性肝膿瘍、自己免疫肝炎、胆汁閉鎖症、肝硬変、コクシジオイデス症、D型肝炎(播種性)、薬剤性胆汁鬱滞、血色素沈着症、A型肝炎、B型肝炎、C型肝炎、肝臓腫瘍、肝癌、アルコール性肝疾患、原発性胆汁性肝硬変、化膿性肝膿瘍、レイ症候群、Sclerosing胆管炎及びウィルソン病)を生じさせるか又はそれらに関与するあらゆる疾患の治療にも使用できる。
【0100】
本発明は、有効量の本発明の分化した肝細胞様細胞を患者に投与することによる、肝障害の治療方法の提供に関する。有効量とは、治療を受けている患者に有益な効果を提供するのに十分な量(例えば肝疾患/損傷の症状を改善する、及び/又は、肝機能を高める量)のことを意味する。特定の実施形態では、有効量とは、機能しうる肝臓を再び成長させるのに十分な量のことである。肝疾患の症状としては、黄疸(目及び皮膚の黄変)、厳しいかゆみ、暗い色の尿、精神的混乱又は昏睡、出血、挫傷及び嘔吐しやすくなること、灰色若しくは粘土色の便、及び腹部における異常な体液の蓄積などが挙げられるが、これらに限定されない。
【0101】
「治療的」処置とは、病理の徴候を示す患者に対して、それらの徴候を減弱させるか又は排除するためになされる治療のことを指す。
【0102】
本発明の一実施形態では、本発明の分化した肝細胞様細胞を有効量投与することによって、肝機能を向上若しくは回復させる方法の提供に関する。この場合、本願明細書に記載の方法に従い、個々の患者のヒトの臍帯母体から肝細胞様細胞に分化させ、それを用いて、本願明細書に記載されている方法に従い、自家組織的(適当な細胞を出生時に回収し、保存することができる条件において)又は同種間移植を、組織適合性を有するレシピエントに対して行う。上記の細胞を本願明細書に記載のように培養し、回収し、あらゆる原因に由来する変性肝疾患、ウイルスへの二次的感染、毒素の摂取又は先天的な代謝異常などに罹患する患者の脾臓、循環器及び/又は腹膜に導入することができる。可能な場合、放射線の利用に基づく、最小侵襲的な方法を用いて細胞をインプラントする。肝臓機能を高めるように設計された酵素をコードする遺伝子によって遺伝子操作された細胞の使用も、本発明に包含される。
【0103】
具体的な実施形態では、本発明の肝細胞様細胞は、肝移植を受けている患者に投与される。
【0104】
本発明の肝細胞様細胞は、単独で投与してもよく、又は希釈剤及び/又は他の成分(例えば肝細胞増殖因子又は他のホルモン又は細胞集団)との組み合わせによる医薬組成物として投与してもよい。簡潔には、本願明細書に記載の本発明の組成物は、1つ以上の薬学的又は生理的に許容できる担体、希釈剤又は賦形剤と、肝細胞様細胞との組み合わせを含んでなる。かかる組成物は、バッファ(例えば中性緩衝生理食塩水、リン酸緩衝生理食塩水など)、炭水化物(例えばブドウ糖、マンノース、ショ糖又はデキストラン、マンニトール)、タンパク質、ポリペプチド又はアミノ酸(例えばグリシン)、酸化防止剤、キレート剤(例えばEDTA又はグルタチオン)、アジュバント(例えば水酸化アルミニウム)、防腐剤を含有してもよい。本発明の組成物は、静脈内若しくは非経口投与用、又は肝臓への直接投与用に調製してもよい。
【0105】
本発明の医薬組成物は、治療又は予防しようとする疾患に適する方法で投与するのが好ましい。投与する量及び頻度は、患者の症状、患者の疾患のタイプ及び重篤度などの要因により決定されるが、適当な投与量は、臨床試験により決定するのが好ましい。
【0106】
「有効量」又は「治療的有効量」に関しては、投与される本発明の組成物の実際の量は、年齢、体重、疾患、感染又は肝障害の程度及び患者の症状の個体差を考慮し、医師により決定されうる。特定の実施形態では、本願明細書に記載の細胞を含有する医薬組成物は、10〜10細胞/kg体重、他の特定の実施形態では10〜10細胞/kg体重の投与量(それらの範囲内の全ての整数値を含む)で投与するのが好ましい。肝細胞様細胞組成物は、これらの投与量で複数回投与してもよい。特定の患者のための最適投与量及び治療レジメは、医師であれば、患者の疾患の徴候をモニターし、それに従って治療方法を調整することによって容易に決定できる。
【0107】
患者組成物の投与は、注射、注入、インプラント又は移植など、いかなる適切な方法で実施してもよい。本願明細書に記載されている組成物は、皮下、皮内、腫瘍内、結節内、脊髄内、筋肉内、静脈内(i.v.)注射又は腹膜内注射により、患者に投与してもよい。一実施形態では、本発明の肝細胞様細胞組成物を、皮内若しくは皮下注射によって患者に投与する。他の実施形態では、本発明の肝細胞様細胞組成物を、静脈内注射により投与する。肝細胞様細胞の組成物は、直接肝臓に注射してもよい。
【0108】
更に別の実施形態では、上記の医薬組成物を徐放システムで送達してもよい。一実施形態では、ポンプを使用してもよい(Langer,1990,Science 249:1527−1533、Sefton 1987,CRC Crit.Ref.Biomed.Eng.14:201、Buchwaldら、,1980、Surgery 88:507、Saudekら、,1989,N.Engl.J.Med.321 :574を参照)。他の実施形態では、ポリマー物質を用いてもよい(例えばMedical Applications of Controlled Release,1974、Langer and Wise(eds.),CRC Pres.,Boca Raton,Fla.、Controlled Drug Bioavailability,Drug Product Design and Performance,1984、Smolen and Ball(eds.),Wiley,New York、Ranger and Peppas,1983、J.Macromol.Sci.Rev.Macromol.Chem.23:61、あるいはLevyら、,1985,Science 228:190、Duringら、,1989,Ann.Neurol.25:351、Howardら、,1989,J.Neurosurg.71:105を参照)。更に別の実施形態では、徐放システムは治療の標的の付近に置かれることができる。すなわち、一部分の全身投与量だけを必要とする、(例えば、Medical Applications of Controlled Release,1984,Langer and Wise(eds.),CRC Pres.,Boca Raton,Fla.,vol.2,pp.115−138を参照)。
【0109】
本発明の細胞組成物は、任意の種類のマトリックスを使用して投与してもよい。マトリックスは、組織工学の分野でこれまで何年も利用されてきた(例えばPrinciples of Tissue Engineering(Lanza,Langer,and Chick(eds.))1997を参照)。本発明は、肝機能を支持し、維持し、又は調整する人工肝臓として機能する新規な技術において、かかるマトリックスを利用する。したがって本発明では、組織工学において有用性が示されているマトリックス組成物及び製剤を利用してもよい。したがって、本発明の組成物、装置及び方法で使用できるマトリックスのタイプは実質的に限定されず、生物学的マトリックス及び合成マトリックスであってもよい。特定の一実施形態では、上記の組成物及び装置として、米国特許第5980889号、第5913998号、第5902745号、第5843069号、第5787900号又は第5626561号に記載のものを利用する。上記のマトリックスの特徴としては、哺乳動物の宿主に投与したときに共通に生物学的適合性を示すことである。マトリックスは、天然若しくは合成材料から形成されてもよい。上記マトリックスは、動物体内における永久的な構造、又は着脱可能な構造(例えばインプラント)を維持することが望ましい場合には非生物分解性であるのが好ましいが、生物分解性であってもよい。上記マトリックスは、スポンジ、インプラント、チューブ、テルファ・パッド、繊維、中空繊維、凍結乾燥物、ゲル、粉末、多孔性組成物又はナノ粒子の形態であってもよい。更に、マトリックスは、細胞、産生されたサイトカイン又は他の活性薬剤の持続的放出を可能にする態様で設計されてもよい。特定の実施形態では、本発明のマトリックスは、可撓性及び弾力性を有し、例えば無機塩類、水性の液体及び酸素などのガスが溶存する物質が浸透しうる半固体状足場とも称される。
【0110】
マトリックスは本願明細書において、生物学的適合性を有する物質の例として用いられる。しかしながら、本発明はマトリックスに限定されるわけではなく、ゆえにマトリックスの用語を用いる場合は、これらの用語は、細胞の保持又は移動を可能にし、生物学的適合性を有し、高分子物質の直接の移動を可能にする装置及びその他の物質が包含されると解釈すべきであり、それにより、当該物質自体が半透性膜であるか、又は特定の半透性物質との組み合わせで用いられる。
【0111】
本発明の特定の実施形態では、肝細胞様細胞を含有する組成物を、限定されないが任意の種類の関連する治療手段(例えば抗ウイルス剤、化学療法、放射線、免疫抑制剤(例えばシクロスポリン、アザチオプリン、メトトレキサート及びマイコフェノラート)などの薬品)との組み合わせ(例えばそれらの処置前、処置と同時又は処置の後)により患者に投与する。
【0112】
更なる態様では、本発明の細胞組成物を、肝移植との組み合わせ(例えば移植前、移植と同時に又は移植の後)で患者に投与する。
【0113】
患者に投与する上記の治療的投与量は、治療しようとする症状及び治療を受けるレシピエントの実際の状態に応じて変化する。ヒトへの投与のための投与量のスケーリングは、当該分野で公知の方法に従って実施できる。
【0114】
(実施例)
【実施例1】
【0115】
ヒト臍帯マトリックス幹細胞の、肝細胞への分化
この実施例で、ヒト臍帯マトリックス幹細胞の肝細胞様細胞への分化方法を記載する。
【0116】
臍帯マトリックス細胞を、以下の通りに臍帯から分離した:
カンザス大学のHuman Subjects Approvalに従い、臍帯を妊娠満期における乳児から得た。ヒト臍帯マトリックス(HUCM)細胞を、以下の方法で処理することにより、臍帯組織から増殖させた:臍帯を、約500mL、又は完全に臍帯をカバーするのに充分な量の95%のエタノールを含む1000mL容のビーカー中で30秒間リンスすることにより調製した。エタノールがなくなるまで臍帯を火炎処理し、冷却した滅菌済みのPBS(500mL)で5分間、2度にわたり十分洗浄した。次に、臍帯を5分間、500mLのベタジン溶液(1X)に浸漬し、更に5分間、2度にわたり冷却した滅菌済みのPBS(500mL)で十分洗浄し、ベタジンを除去した。臍帯を更に〜5cmの断片にカットした。臍帯の断片を調製し、PBSで血液を洗浄除去し、更に、40U/mLのヒアルロニダーゼ/0.4mg/mLのコラゲナーゼ溶液を含有する50mlのチューブ又は100mmの組織培養プレートに入れ、37℃、5%のCOの湿潤インキュベーター中で30分インキュベートした。消化された臍帯の断片を更に、40メッシュの篩を設置した滅菌済の細胞ストレーナー(+乳棒)に入れた。当該装置を更に滅菌済みの100mmのペトリ皿に配置し、5〜10mLのディファインド培地(DM、以下を含有)を添加した:58%の低グルコースDMEM(Invitrogen社、カールズバッド、CA)、40%のMCDB201(Sigma社、セントルイス、MO)、1×インシュリン−トランスフェリン−セレニウム−A(Invitrogen社、カールズバッド、CA)、0.15g/mLのAlbuMAX I(Invitrogen社、カールズバッド、CA)、1nMのデキサメタゾン(Sigma社、セントルイス、MO)、100μMアスコルビン酸2−ホスフェート(Sigma社、セントルイス、MO)、100Uのペニシリン、1000Uのストレプトマイシン(Mediatech社、Herdon、VA)、2%のウシ胎児血清(FBS)(Invitrogen社、カールズバッド、CA)、10ng/mLの上皮細胞増殖因子(EGF)(R&D Systems社、ミネアポリス、MN)、10ng/mLの血小板由来成長因子BB(PDGF−BB)(R&D Systems、ミネアポリス、MN)。
【0117】
大部分の組織がその構造を失うまで組織を粉砕し、乳棒で濾過器を通して押し出し、抽出液を10mLのピペットで回収した。サンプルを更に750RCF(×g)で10分間遠心分離した。ペレットを崩壊させないように注意しながら培地を吸引除去した。ペレットを、適当量のDM中に再懸濁して所望の濃度とし、その濃度で抗菌剤含有コントロールを調製した。希釈された細胞調製物を更に6ウェルプレート又は他の組織培養容器に適当に播種した。細胞を5%のCO、37℃の湿潤インキュベータ中に置き、〜24時間静置した。分離してから24〜48時間後、滅菌済みのPBSで3回洗浄し、付着しなかった細胞を除去した。2日毎に新鮮なDMに交換した。50〜80%の培養コンフルエンシーに達したとき、0.05%のトリプシン/0.53mMのEDTA溶液を用いて細胞を回収し、T25培養フラスコに再度プレーティングし、DM中で更に増殖させた。所定のコンフルエンシー(50〜80%)となるように、培養液を適宜播種しながら維持した。培養液を、5%のCO、37℃の条件の湿潤インキュベータ中で維持し、2〜3日毎に新鮮なDMを補充した。
【0118】
単離されたHUMCは全能性であることが示され、骨細胞、軟骨細胞、脂肪細胞及び神経様細胞に分化した。これらを顕微鏡写真により示す。これらのユニークな細胞は、幹細胞マーカーのcKit、平滑筋アクチン、神経単位特有のエノラーゼ(NSE)及び神経フィラメントM(NFM)を発現することも示された。また、米国特許出願公開第2004/0136967号を参照。
【0119】
分化プロトコルは、外部因子を経時的に添加することに基づく。誘導前に、細胞を、2.0〜3.0E06細胞/フラスコの密度で、0.1%のゼラチンをコーティングしたT75培養フラスコに播種し、一晩接着させた。細胞を更に前誘導培地(以下の組成)で2日間処理した:無血清IMDM(Invitrogen社、カールズバッド、CA)、20ng/mlの組換えヒト上皮細胞増殖因子(rhEGF)(R&DSystems、ミネアポリス、MN)、10ng/mlの組換ヒト塩基性フィブロブラスト成長因子(rhbFGF)(Chemicon社、Temecula、CA)、及びPen/Strep。細胞を分化培地(以下の組成)中で7日間培養する2ステッププロセスを用いて、分化を行わせた:Iscoveの修飾ダルベッコ培地(IMDM)、20ng/mlの組換えヒトの肝細胞増殖因子(rhHGF)(Chemicon社、Temecula、CA)、10ng/mlのrhbFGF、0.61g/Lのニコチンアミド(Sigma社、セントルイス、MO)、2%のFBS、Pen/Strep。細胞を更に、成熟培地(以下の組成)で10週目まで培養した:IMDM、20ng/mlのヒトオンコスタチンM(Bioscource、Camarillo、CA)、1μmol/Lのデキサメタゾン、50mg/mlのITS+プレミックス(Sigma社、セントルイス、MO)、2%のFBS、及びPen/Strep。培地を3日毎に交換し、肝臓分化を経時的に評価した。
【0120】
以下の方法を用い、細胞の分化を評価した。
【0121】
免疫細胞化学
分化細胞を10分間、PBS中の4%のパラホルムアルデヒドで固定し、更にPBSで洗浄した。細胞を5分間、0.2%のトリトンX−100/PBSで透過処理し、洗浄し、更に0.2%のトリトンX−100、2%の通常血清/PBSで1時間ブロッキングし、更に、α1フェトプロテイン(AFP)、サイトケラチン18(CK18)、サイトケラチン19(CK19)、グルタミン合成酵素(GS)、肝細胞核因子4α(HNF4α)、Nanog、平滑筋アクチン(SMA)、フォンウィルブランド因子(VWF)(1:100、Abeam、ケンブリッジ、MA)と反応する抗体とインキュベートし、PBSで3回洗浄した後、細胞を二次的抗体(1:200、Alexa Flour 488、Molecular Probes、ユージン、オレゴン)とインキュベートした。Cool SNAPcf(Photometrix)デジタルカメラで、63×の油浸レンズ又はNicon Eclipse TE2000U、及び510 Zeissレーザースキャンニング顕微鏡、及びMetaMorphイメージングソフトウェアを使用し、イメージを得た。
【0122】
RNAの単離及び逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR):
RNeasy Quickスピンカラム(Qiagen、バレンシア、CA)を用いて細胞からRNAを単離し、ランダムヘキサマー及びSuperscriptII逆転写酵素(Invitrogen社、カールズバッド、CA)を使用してcDNAを合成した。BioRad I−Cyclerを使用し、PCRを実施した。プライマーのリストを、下記の表1に示す。生成物を2%のアガロースゲル電気泳動に供して分離し、臭化エチジウム染色によって観察した。肝細胞に特有の多数の、以下の遺伝子発現が観察された:
CK18:サイトケラチン18、
HNF3−β:肝細胞核因子3β、
CK19:サイトケラチン19、
AFP:α‐フェトプロテイン、
Alb:アルブミン、
CYP2B6:シトクロムP450 2ファミリー。
【表1】

【0123】
インドシアニングリーン(ICG)の細胞取り込み:
溶媒中にICGを5mg/mLの初期濃度で溶解させた。溶液を更に成熟培地中に1mg/mLとなるまで希釈し、培養プレートに添加し、5%のCO、37℃で湿潤インキュベータ中で10〜15分間インキュベートした。細胞を滅菌済みのPBSで十分洗浄し、更に光学顕微鏡で観察した。試験後、PBSを除去し成熟培地を添加し、細胞を5%のCO、37℃で湿潤インキュベータ中で〜4〜6時間インキュベートし、ICGを確実に除去した。
【0124】
低密度リポプロテイン(LDL)の細胞取り込み:
成熟培地でDil−Ac−LDLを10μg/mLに希釈し、細胞に添加し、37℃で、4時間、湿潤インキュベータ中でインキュベートした。培養の後、Dil−Ac−LDLを含有する培地を除去し、プローブを含有しない成熟培地で細胞を2回洗浄した。標準的なローダミン励起を使用して、細胞を視覚化した。:比較のため、細胞をポジティブ及びネガティブ培養した。
【0125】
過ヨウ素酸シッフ(PAS)染色及びジアスターゼ処理:
細胞をPBSで2回洗浄し、4%のパラホルムアルデヒドで10分間固定し、1×PBSで洗浄し、PBS中に溶解させた0.1%のトリトン−X100で5分間透過させて処理した。細胞を0.2g/40mLのジアスターゼで37℃1時間インキュベートし、グリコーゲン消化させた。細胞を更に1%の過ヨウ素酸で5分間酸化させ、PBSで3回リンスし、更に15分間シッフ試薬で処理し、更にPBSで3回リンスした。細胞をH&Eで1分間対比染色し、PBSで十分洗浄した。サンプルを、光学顕微鏡下でイメージングした。
【0126】
イムノブロッティング:
細胞を氷冷PBS(Cellgro、ダルベッコのリン酸緩衝食塩水w/oマグネシウム及びカルシウム)で2回洗浄した。組織培養プレートに、氷冷した緩衝溶液(Sigma社、CelLyticTM−MT Mammalian Tissue Lysis/Extraction Reagent、C−3228)及びプロテアーゼ阻害剤カクテル(Sigma社、プロテアーゼインヒビターカクテル、P−8340)を添加した。組織培養フラスコから細胞を掻き取り、遠心管へ移した。細胞を更に27ゲージ針を通過させ、更に4℃で10分間、微量遠心機で14,000回転/分で遠心分離した。得られた上清を、BCA法でタンパク質定量した。当該上清に、4×サンプルバッファを添加し、85℃で30分間インキュベートした。溶解物は、4〜20%のSDS−ポリアクリルアミドゲル(Perce社、4〜20%のPreciseTMProteinゲル、25244)で分離させ、PVDF(Pierce社、88518)へトランスファーした。
【0127】
ウェスタンブロッティング:
AFP、Albumin、CK18、CK19、SMA(Abeam、ケンブリッジ、MA)、ホースラディッシュペルオキシダーゼコンジュゲートウサギ抗ヤギ抗体(Invitrogen社、81−1620)若しくはヤギ抗ウサギ(Invitrogen社、62−6120)を1:20,000で希釈して用い、Super Signal West Pico chemilluminescenceシステム(ピアス、34077)に供した。
【0128】
分化細胞のフェノバルビタール、リファンピシン、フォルスコリン及び8−Br−cAMP処理:
分化細胞をトリプシン処理し、成熟培地を使用して10,000〜20,000細胞/cmの播種密度で6−ウェルプレートに播種し、一晩接着させた。シトクロムを以下の通り処理して誘導した:リファミシン(RIF) 20μm、ペノバルビタール(PB) 2mM、フォルスコリン 50μM、8−ブロモ−cAMP 1mM(Tocris、Ellisville、MO)、及びビヒクル(24時間反応)。mRNAを更に回収し、RT−PCRで分析した。
【0129】
フローサイトメトリ:
1×10細胞/mLのHUCM細胞を5分間、4℃でメタノールで固定し、4℃で1時間、5%ウシ血清アルブミン/PBSでブロッキングした。細胞を4℃で1時間、1μg/mLで一次抗体とインキュベートした。細胞をPBSで3回洗浄し、更に氷上で30分間、適当な二次的FITCコンジュゲート(1:100、ヤギ抗マウス、ロバ抗ヤギ、ヤギ抗ウサギ、Molecular Probes社、ユージン、オレゴン)とインキュベートした。細胞をPBSで2回洗浄し、FACS Caliburフローサイトメトリ(ベックマンクールター社、マイアミ、FL)を使用して分析した。1万個の細胞(ゲート制御なし)をFL1チャネルに回収し、分析した。全ての分析において、コントロール細胞(アイソタイプ特異的なIgG又はそれぞれの二次コンジュゲートのいずれか単独とインキュベート)を用いてバックグラウンドシグナルを確立した。
【0130】
結果:
肝臓培地で4週間インキュベートした後、UCM細胞を免疫蛍光染色に供した結果、コントロール培地で培養したコントロールUCM細胞と比較し、アルブミン及びαFPが発現していることが確認された。コントロール培地で増殖させたHUMCでは、2〜4週において、アルブミンの発現増加が見られなかった。分化細胞は2週目において、未分化細胞と比較し高いアルブミン産生を示し、更には、誘導後4週目において、αFPの発現は未分化HUMCでは見られなかった。4週後、分化細胞は核周辺の領域においてαFP産生を示した。平滑筋アクチン(SMA)は、未分化HUMCにおいて良好に形成されていた。肝臓誘発された細胞においては、4週目においてSMAが良好に形成されていなかった。誘導されたHUMCはまた、多角形の形状(肝細胞性細胞と類似)を有し、未分化幹細胞のスピンドル状の形態を喪失していた。
【0131】
HUMCは肝臓条件下で形態変化する:
HUMCは典型的には、分化プロトコルにおいて、形態変化する。これらの変化を解析することにより、添加されるそれぞれの成長因子の有効性を評価することができる。細胞は典型的には、前誘導の前においてコロニー又はクラスターを形成しない、双核の二極の筋線維芽細胞である。細胞を前誘導培地で培養することにより、細胞増殖が停止したが、それらの通常の形態は維持された。誘導及び成熟の後、細胞の大部分は一核であり、高い核:細胞質比率のヘテロ型であった。分化細胞は、多角〜立方体の形状で、脂質液胞を有していた。細胞は堆積せずに、顕微鏡なしで観察できる程の天狼(cannicular)形の構造を有していた。分化細胞を相対照(DIC)顕微鏡で観察した結果、HUCM細胞の形態の変化が観察された。肝臓分化条件下において分化させた肝細胞様細胞は、誘導後4週目において、シヌソイド形となった。
【0132】
分化したHUCM細胞の機能解析(グリコーゲン、ICG及びLDL取り込み):
HUMCに由来する肝細胞様細胞は、機能的特性(グリコーゲン産生)を有する。グリコーゲンとは、肝細胞中に多量に存在する単純な細胞質内多糖類である。グリコーゲン貯蔵を解析するため、分化細胞をPAS染色した。グリコーゲン陽性の染色が、分化細胞において見られたが未分化細胞では見られず、すなわち肝実質細胞に存在するグリコーゲン貯蔵の性能を示唆している(PAS染色により、グリコーゲンが、分化細胞では観察されたが、未分化細胞では観察されなかった)。グリコーゲンは、細胞培養条件においては、ジアスターゼにより分解できる。グリコーゲン陽性染色を明確化するため、分化細胞をジアスターゼ溶液で前処理したが、グリコーゲンの陽性染色は観察されなかった。
【0133】
陰イオン色素(ICG)の細胞内取り込みを、分化及び未分化HUMCにおいて解析し、肝機能を測定した。ICG陽性の細胞は、未分化細胞においては観察されなかった。ICGによる染色は、分化細胞において、約1週間後に最大の陽性染色を示した。1mg/mLのICG濃度でも副作用が観察されなかった。コントロールとしてHepG2細胞を用い、その結果、明確なICG染色が確認された。成熟培地を再度添加した後、細胞からICGを除去した。
【0134】
肝細胞は、哺乳類のコレステロールホメオスタシスの調節のため、LDL受容体を発現する。分化細胞がLDLの細胞取り込みを示すか否かを解析するため、細胞をDil−Ac−LDLで処理した。分化細胞は、誘導後の早い時期のサンプルの場合、遅い時期のサンプル(LDL取り込みが更に増加している)と比較し、低い染色レベルを示していた。
【0135】
誘導されたHUCM細胞のイムノブロッティング及びRT−PCR分析による、肝細胞に特有の遺伝子及びタンパク質の時間経過に伴う発現パターン(プロフィール)の解析:
CK18及びα−フェトプロテインのタンパク質発現濃度はほぼ同様に維持され、一方アルブミンは導入後2〜4週において増加していた。CK19は導入後2週において発現が減少していた。
【0136】
RT−PCR分析では、分化コースの全体にわたり、α−フェトプロテインが検出された。HNF3βは、誘導後1週において検出された。CYP2B6発現は誘導後4週目において検出され、CK−19では誘導後2週目において発現が減少していた。これらの結果は、肝細胞様細胞の成熟を示すものであり、そこでは早期〜後期にわたるマーカーの出現がみられ、すなわち分化した細胞と一致するものである。
【0137】
誘導後4週における、誘導可能なマーカーの発現に関するRT−PCR解析:
分化細胞を、フェノバルビタール(PB)、リファンビシン(RIF)、8−ブロモアデノシン−3’5’−サイクリックアデノシンモノホスフェート(8−Br−cAMP)又はフォルスコリンで処理した結果、肝細胞における誘導可能な遺伝子又は発現レベルの増加が示された。構成的なアンドロスタン受容体(CAR)、プレグナンX受容体(PXR)、ペルオキシソーム増殖因子により活性化された受容体γ活性化補助因子1α(PGC−1)は、薬剤代謝及び糖新生酵素を協調的に調整する。ホスホエノールピルビン酸カルボキシキナーゼ(PEPCK)及びペルオキシソーム増殖因子により活性化された受容体γ(PPAR−γ)は、鍵となる糖新生酵素である。CYP3A4(シトクロムP450(CYP)フェーズIモノオキシゲナーゼ系酵素)は、生体内及び生体異物の代謝にとり重要である。肝細胞核因子4α(HNF4α)は、脂質及びグルコース代謝経路における主要な転写調節因子である。これらの遺伝子は、分化した肝細胞様細胞において高い発現を示すか、又はPB、RIF、8−Br−cAMP又はフォルスコリンによる処理により、これらの細胞において誘導された。上記の分化細胞は、時間依存的に、これらの肝細胞に特有の遺伝子発現を示した。更に、これらのマーカーはこれまで、幹細胞から肝細胞系統に分化する他のタイプの細胞における発現が示されていなかった(例えば、Lee OKら、Blood.2004、103(5):1669−1675、Yamada Tら、Stem Cells.2002、20(2):146−154、Wangら、,Liver Transpl.2005 Jun、11(6):635−43、Hong SHら、Biochemical and Biophysical Research Communications.2005、330(4):1153−1161)を参照。
【0138】
免疫細胞化学的な染色による、肝細胞の分化の解析:
肝臓マーカーの発現を確認するため、分化したHUMCを免疫細胞化学的染色により解析した。細胞を8−ウェルスライドで培養し、固定し、以下の物質と反応するポリクローナル若しくはモノクローなる抗体で染色した:CK18:サイトケラチン18、HNF4−α:肝細胞核因子4α、CK19:サイトケラチン19、AFP:α−フェトプロテイン、GS:グルタミン合成酵素、VWF:フォンウィルブランド因子、Nanog、SMA:平滑筋アクチン、Alexa Flour 488二次抗体。細胞核をTO−PRO−3で染色し、40倍のツァイス共焦顕微鏡でイメージングした。免疫蛍光分析により、分化細胞がCK18、HNF4α、AFP、GS、vWFで染色されることが示され、CK19及びNanogでは染色に対して陰性であった。SMAは分化細胞中に維持されたが、未分化細胞よりも低いレベルであった。核を拡大して観察した結果、HNF4αの局在化が示された。これらの結果は、肝臓マーカーの増加、並びにタンパク質とmRNAの発現の相関を示すものであった。
【0139】
シトクロムはHUCM細胞分化の間、ディファレンシャルに発現する:4週間にわたる分化の際、2mMのPBで処理することにより、PXR、HNF4α及びCYP3A4が誘導された。CAR及びPGC−1の発現レベルが増加し、PPAR−Yは同じレベルであった。25μMのRIF処理により、PEPCK、PXR、HNF4α及びCYP3A4が誘導された。
【0140】
以上、本実施例において、本願明細書に記載のように培養されたUCM細胞が、形態的、形質的及び機能的に、肝細胞様と同様の具体的な性質を有する肝細胞に分化されることが示された。
【実施例2】
【0141】
肝細胞のフィーダー細胞層を用いた、ヒト臍帯マトリックス細胞からの肝細胞への分化:
この実施例では、熱ショックを受けたHB8065細胞(肝癌細胞系)からなるフィーダ層上における共培養後の、HUCM細胞の肝細胞への分化を示す。
【0142】
UCM細胞は、上記のように臍帯から分離した(例えば米国特許出願公開第2004/0136967号を参照)。HUCM細胞を、トランスウェルインサート中の多孔膜に播種した。培養ウェル中に作成したトランスウェルインサートは、上部コンパートメント、微多孔質膜(インサート上)及び下側コンパートメントを有する。HUCM細胞をDMEM(2%のFBS含有)の多孔膜上に播種し、下側コンパートメント上に、ヒートショックを行ったHB8065肝細胞フィーダ層を播種した。コントロールHUCM細胞を、2%のFBSのみを含有するDMEM中で培養した。免疫蛍光、RT−PCR及びタンパク質化学的方法により、分化をアッセイした。
【0143】
肝細胞フィーダ層とHUCMとの共培養により、肝細胞に特有のタンパク質(アルブミン及びαFP)の含量が増加し、SMAのより無秩序な発現がなされた。
【0144】
PCRの結果は、フィーダ層として肝臓癌細胞系を使用した場合に、アルブミンが強く発現し、一方、未分化HUCM細胞及び分化コントロールでは発現が微量であったことを示す。これは、アルブミンが未分化細胞では低レベルで検出された、免疫細胞化学における結果と相関していた。この遺伝子は分化実験を通じて継続的に発現し、特に導入後4週目において、わずかに増加したシグナル強度を示した。βアクチンをPCRの陽性コントロールとして用い、全ての細胞における発現を確認した。
【0145】
以上より、HB8065細胞系は、HUCM細胞の肝臓分化を誘導するのに十分な因子を生じさせることが明らかとなった。
【0146】
米国仮特許出願第60/817251号に限らず、本願明細書に参照され、及び/又は出願データシートにリストされている上記の米国特許、米国特許出願公開、米国特許出願、外国特許、外国特許出願及び非特許公報の全開示内容を、本願明細書に援用する。
【0147】
本発明の特定の実施形態を、説明のため、本願明細書において記載したが、本発明の技術思想及び技術的範囲から逸脱せずに、様々な変形態様を実施できることが言うまでもない。したがって、本発明は添付の特許請求の範囲以外によって限定されることはない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臍帯マトリックス細胞を肝細胞様細胞に分化させる方法であって、
a.臍帯マトリックス細胞を誘導前培地と接触させるステップと、
b.臍帯マトリックス細胞を分化培地と接触させるステップと、
c.臍帯マトリックス細胞を成熟培地と接触させるステップ
を含み、前記臍帯マトリックス細胞の肝細胞様細胞への分化に十分な時間、前記ステップを実施する、前記方法。
【請求項2】
In vitroで化合物の毒性を評価する方法であって、
a.請求項1記載の方法により臍帯マトリックス細胞から分化させた肝細胞様細胞を、前記化合物と接触させるステップと、
b.前記肝細胞様細胞の生存率を測定するステップを含み、
前記化合物を含まない場合と比較した、前記化合物を含む場合の生存率の減少が、前記化合物がin vivoで有毒であることの指標である、前記方法。
【請求項3】
in vitroで化合物の活性を評価する方法であって、
a.請求項1記載の方法により臍帯マトリックス細胞から分化させた代謝活性を有する肝細胞様細胞を、前記化合物と接触させるステップと、
b.前記肝細胞様細胞の代謝活性を測定するステップを含み、
前記化合物を含まない場合と比較した、前記化合物を含む場合の代謝活性の減少又は増加が、前記化合物がin vivoで活性を有することの指標である、前記方法。
【請求項4】
in vitroで化合物の活性を評価する方法であって、
a.請求項1記載の方法により臍帯マトリックス細胞から分化させた代謝活性を有する第1の肝細胞様細胞を、前記化合物と接触させ、細胞上清を得るステップと、
b.請求項1記載の方法により臍帯マトリックス細胞から分化させた代謝活性を有する第2の肝細胞様細胞を、前記上清と接触させるステップと、
c.前記第2の肝細胞様細胞の代謝活性を測定するステップを含み、
前記上清を含まない場合と比較した、前記細胞上清を含む場合の代謝活性の減少又は増加が、前記化合物がin vivoで活性を有することの指標である、前記方法。
【請求項5】
in vitroで化合物の毒性を評価する方法であって、
a.請求項1記載の方法により臍帯マトリックス細胞から分化させた代謝活性を有する第1の肝細胞様細胞を、前記化合物と接触させ、細胞上清を得るステップと、
b.請求項1記載の方法により臍帯マトリックス細胞から分化させた代謝活性を有する第2の肝細胞様細胞を、前記細胞上清と接触させるステップと、
c.前記第2の肝細胞様細胞の生存率を測定するステップを含み、
前記上清を含まない場合と比較した、前記細胞上清を含む場合の生存率の減少が、前記化合物がin vivoで有毒なことの指標である、前記方法。
【請求項6】
in vitroで化合物の活性を評価する方法であって、
a.請求項1記載の方法により臍帯マトリックス細胞から分化させた肝細胞様細胞を、前記化合物と接触させるステップと、
b.前記肝細胞様細胞中のシトクロムP450遺伝子の発現を測定するステップを有してなり、
前記化合物を含まない場合と比較した、前記化合物を含む場合のシトクロムP450遺伝子の発現の増加又は減少が、前記化合物がin vivoで活性を有することの指標である、前記方法。
【請求項7】
in vitroで化合物の活性を評価する方法であって、
a.請求項1記載の方法で臍帯マトリックス細胞から分化させた代謝活性を有する第1の肝細胞様細胞を、前記化合物と接触させ、細胞上清を得るステップと、
b.請求項1記載の方法で臍帯マトリックス細胞から分化させた代謝活性を有する第2の肝細胞様細胞を、前記上清と接触させるステップと、
c.前記第2の肝細胞様細胞のシトクロムP450遺伝子発現を測定するステップを含み、
前記上清を含まない場合と比較した、前記細胞上清を含む場合のシトクロムP450遺伝子の発現の増加又は減少が、前記化合物がin vivoで活性を有することの指標である、前記方法。
【請求項8】
シトクロムP450遺伝子発現が、ポリメラーゼ連鎖反応を用いて測定される、請求項6又は請求項7記載の方法。
【請求項9】
シトクロムP450遺伝子発現が、酵素活性の測定により測定される、請求項6又は請求項7記載の方法。
【請求項10】
薬剤相互作用を測定する方法であって、請求項1記載の方法で臍帯マトリックス細胞から分化させた、第1の肝細胞様細胞を、第1の化合物と接触させるステップと、
請求項1記載の方法で臍帯マトリックス細胞から分化させた、第2の肝細胞様細胞を、第2の化合物と接触させるステップと、
請求項1記載の方法で臍帯マトリックス細胞から分化させた、第3の肝細胞様細胞を、前記第1及び第2の化合物と接触させるステップと、
前記第1、第2及び第3の肝細胞様細胞の代謝活性を測定するステップを含み、
前記第1若しくは第2の肝細胞様細胞、又はそれらの両方と比較した、第3の肝細胞様細胞の代謝活性の減少又は増加が、薬剤相互作用の指標である、前記方法。
【請求項11】
薬剤相互作用を測定する方法であって、請求項1記載の方法で臍帯マトリックス細胞から分化させた、第1の肝細胞様細胞を、第1の化合物と接触させるステップと、
請求項1記載の方法で臍帯マトリックス細胞から分化させた、第2の肝細胞様細胞を、第2の化合物と接触させるステップと、
請求項1記載の方法で臍帯マトリックス細胞から分化させた、第3の肝細胞様細胞を、前記第1及び第2の化合物と接触させるステップと、
前記第1、第2及び第3の肝細胞様細胞の生存率を測定するステップを含み、
前記第1若しくは第2の肝細胞様細胞、又はそれらの両方と比較した、第3の肝細胞様細胞の生存率の減少又は増加が、薬剤相互作用の指標である、前記方法。
【請求項12】
薬剤相互作用を決定する方法であって、請求項1記載の方法で臍帯マトリックス細胞から分化させた、第1の肝細胞様細胞を、第1の化合物と接触させるステップと、
請求項1記載の方法で臍帯マトリックス細胞から分化させた、第2の肝細胞様細胞を、第2の化合物と接触させるステップと、
請求項1記載の方法で臍帯マトリックス細胞から分化させた、第3の肝細胞様細胞を、前記第1及び第2の化合物と接触させるステップと、
前記第1、第2及び、第3の肝細胞様細胞のシトクロムP450遺伝子の発現を測定するステップを含み、
前記第1若しくは第2の肝細胞様細胞、又はそれらの両方と比較した、第3の肝細胞様細胞のシトクロムP450遺伝子の発現の減少又は増加が、薬剤相互作用の指標である、前記方法。
【請求項13】
患者の肝機能を向上若しくは回復させる方法であって、請求項1記載の方法で臍帯マトリックス細胞から分化させた肝細胞様細胞の集合物を前記患者に投与するステップを有してなる、前記方法。
【請求項14】
患者の肝臓における肝硬変を治療する方法であって、請求項1記載の方法で臍帯マトリックス細胞から分化させた肝細胞様細胞の集合物を前記患者に投与するステップを有してなる、前記方法。
【請求項15】
肝障害を治療する方法であって、請求項1記載の方法で臍帯マトリックス細胞から分化させた肝細胞様細胞の集合物を、肝障害に罹患する患者に投与するステップを有してなる、前記方法。
【請求項16】
肝炎を治療する方法であって、請求項1記載の方法で臍帯マトリックス細胞から分化させた肝細胞様細胞の集合物を、肝障害に罹患する患者に投与するステップを有してなる、前記方法。
【請求項17】
臍帯マトリックス由来の少なくとも2つの肝細胞様細胞を含んでなる、臍帯マトリックス由来の肝細胞様細胞のパネルであって、前記臍帯マトリックス由来の少なくとも2つの肝細胞様細胞が、異なる患者に由来し、前記臍帯マトリックス由来の肝細胞様細胞が、他のものとは別々に存在する、前記パネル。
【請求項18】
前記異なる患者が、遺伝的に異なる患者である、請求項17記載のパネル。
【請求項19】
前記異なる患者が、異なる性の患者である、請求項17記載のパネル。
【請求項20】
前記臍帯マトリックス由来の少なくとも2つの肝細胞様細胞が、マルチウエルプレートにおいて、他のものとは別々に存在する、請求項17記載のパネル。
【請求項21】
異なる臍帯マトリックス由来の少なくとも3つの肝細胞様細胞を含んでなる、請求項17記載のパネル。
【請求項22】
異なる臍帯マトリックス由来の少なくとも4つの肝細胞様細胞を含んでなる、請求項17記載のパネル。
【請求項23】
異なる臍帯マトリックス由来の5〜100種類の肝細胞様細胞を含んでなる、請求項17記載のパネル。
【請求項24】
請求項17記載のパネル、及び少なくとも1つのシトクロムP450酵素活性又は遺伝子発現を測定するための少なくとも1つの試薬を含んでなる、薬剤スクリーニング用キット。
【請求項25】
更に臍帯マトリックス由来の肝細胞様細胞を培養するための少なくとも1つの培地を含んでなる、請求項24記載の薬剤スクリーニング用キット。
【請求項26】
臍帯マトリックス細胞を肝細胞様細胞に分化させる方法であって、
a.0.1%のゼラチンコーティングした組織培養プレート上に、臍帯マトリックス細胞を播種するステップと、
b.臍帯マトリックス細胞を、10〜30ng/mlの組換えヒト上皮細胞増殖因子及び5〜15ng/mlの組換えヒト塩基性フィブロブラスト成長因子を含有する誘導前培地と接触させるステップと、
c.臍帯マトリックス細胞を、10〜30ng/mlの組換えヒト肝細胞増殖因子、5〜15ng/mlのrhbFGF及び0.5〜1.0g/Lのニコチンアミドを含有する分化培地と接触させるステップと、
d.臍帯マトリックス細胞を、10〜30ng/mlのヒトオンコスタチンM、0.5〜1.5μmol/Lのデキサメタゾン及び30〜70mg/mlのITS+プレミックスを含有する成熟培地と接触させるステップを含み、
臍帯マトリックス細胞を肝細胞様細胞に分化させるのに十分な時間、前記ステップを実施する、前記方法。

【公表番号】特表2009−542215(P2009−542215A)
【公表日】平成21年12月3日(2009.12.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−518311(P2009−518311)
【出願日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際出願番号】PCT/US2007/015219
【国際公開番号】WO2008/002662
【国際公開日】平成20年1月3日(2008.1.3)
【出願人】(509004697)ザ ユニバーシティー オブ カンザス (1)
【Fターム(参考)】