臨床サンプルにおける分泌性のルイス抗原およびシアル化抗原のレベルの疾患リスクの予測指標としての使用
個体からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定し、少なくとも1つの当該分泌抗原の測定レベルを所定の値または所定の値の範囲と比較することにより、壊死性腸炎および関連障害のリスクがある個体が同定されうる。測定されうる分泌抗原としては、H−1抗原、H−2抗原、ルイスb抗原およびルイスy抗原、並びにこれらの誘導体(例えば、シアル化型のルイスa、ルイスx、ルイスb、ルイスy;H−1、H−2、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスy))が挙げられる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
連邦支援研究に関する記載
本明細書に記載の研究のための財政的支援は連邦政府によってなされたものであり、連邦政府は本発明について何らかの権利を有しうる。
【0002】
技術分野
本願の開示は医療診断の分野に関し、より詳細には、幼年期における炎症性障害および感染性障害を評価および治療するための材料および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
幼年期における炎症性障害および感染性障害は、深刻な罹患率および死亡率と関連しうる。周産期に発生する炎症性障害および感染性障害(例えば、壊死性腸炎(NEC)、敗血症、および絨毛羊膜炎)は、新生児の死亡率における主要な原因である。NECは、新生児に発生する最も一般的な胃腸性の医学的および/または外科的な緊急疾患であり、超低出生体重児の7〜13%に発生し、腸の損傷および腸管壊死により特徴づけられる。NEC全体の死亡率は20〜40%の範囲にあり、また、未熟児の死亡率は50%を超えることが報告されている。症例の約30%において外科的侵襲を要し、外科的手術に関連した死亡率は50%もあることが報告されている。
【0004】
幼年期の炎症性障害および感染性障害の生存者であっても、重篤な短期および長期にわたる病的不全(代謝性合併症、反復性感染、神経発達の不良転帰、および成長の不良転帰など)に罹患する可能性があり、場合によっては繰り返しの外科的侵襲や長期入院を要することもありうる。
【発明の概要】
【0005】
概要
本明細書に記載の方法は、部分的には、我々が、乳幼児が死亡の高いリスクに瀕しているか否か、または、特定の炎症性もしくは感染性の障害(例えば、壊死性腸炎、敗血症、胃腸感染症、呼吸器感染症、および尿路感染症)を発症しやすいか否かを評価する方法を発見したことに基づいている。
【0006】
本明細書には:
(a)個体からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定すること、および、
(b)少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
を含み、少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルが前記所定の値と異なるか、または、前記所定の値の範囲から外れる場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、壊死性腸炎のリスクがある個体の同定方法が開示される。
【0007】
いくつかの実施形態において:個体は乳幼児(乳幼児は、例えば、新生児、低出生体重児、超低出生体重児、または未熟児である)である;少なくとも1つの分泌抗原は、α1,2結合フコース抗原および/またはα2,3シアル化抗原を含む;少なくとも1つの前記分泌抗原は、H−1抗原、H−2抗原、ルイスb抗原およびルイスy抗原並びにこれらの誘導体からなる群から選択される;当該誘導体は、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスyのシアル化型である;当該誘導体は、H−1、H−2、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスyの硫酸化型である;生体サンプルは、体液または組織である;当該体液は、唾液、血液、血漿、血清、尿、糞便、羊水、粘液、涙、またはリンパ液を含む;当該体液は唾液を含む;測定工程はイムノアッセイを含む;少なくとも1つの分泌抗原はH−1、H−2、ルイスbおよびルイスy並びにこれらの誘導体からなる群から選択され、測定レベルが所定の値よりも小さいか、または、所定の値の範囲よりも小さい場合に、個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする;所定の値または所定の値の範囲は、分泌者であるとされる個体の集団における少なくとも1つの分泌抗原の平均値を示す;少なくとも1つの分泌抗原の測定レベルが、分泌者のコントロール集団でみられる平均レベルよりも少なくとも10%小さい場合に、個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする;少なくとも1つの分泌抗原はH−2抗原である;
ある場合には、少なくとも1つの分泌抗原がシアル化ルイスaまたはその誘導体であり、測定レベルが所定の値よりも大きいか、または、所定の値の範囲よりも大きい場合に、個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする。この方法のある実施形態において:乳幼児は、新生児、低出生体重児、超低出生体重児、または未熟児である;生体サンプルは体液または組織である;当該体液は、唾液、血液、血漿、血清、尿、糞便、羊水、粘液、涙、またはリンパ液を含む;当該体液は、唾液を含む;測定工程はイムノアッセイを含む;所定の値または所定の値の範囲は、分泌者であるとされる個体の集団における少なくとも1つの分泌抗原の平均値を示す。
【0008】
本明細書にはまた:
(a)個体からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定すること、および、
(b)少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
を含み、少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルが前記所定の値と異なるか、または、前記所定の値の範囲から外れる場合に、前記個体は胃腸障害のリスクがあるとする、胃腸障害のリスクがある個体の同定方法が開示される。
【0009】
この方法のいくつかの実施形態において:個体は乳幼児である(例えば、新生児、低出生体重児、超低出生体重児、または未熟児);測定される抗原は、α1,2結合フコース抗原および/またはα2,3シアル化抗原を含む;分泌抗原は、H−1抗原、H−2抗原、ルイスb抗原およびルイスy抗原並びにこれらの誘導体からなる群から選択される;当該誘導体は、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスyのシアル化型である;当該誘導体は、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスyの硫酸化型である;生体サンプルは、体液または組織である;当該体液は、唾液、血液、血漿、血清、尿、糞便、羊水、粘液、涙、またはリンパ液を含む;当該体液は唾液を含む;測定工程はイムノアッセイを含む;少なくとも1つの分泌抗原は、H−1、H−2、ルイスbおよびルイスy並びにこれらの誘導体からなる群から選択され、測定レベルが所定の値よりも小さいか、または、所定の値の範囲よりも小さい場合に、個体は胃腸障害のリスクがあるとする;所定の値または所定の値の範囲は、分泌者であるとされる個体の集団における少なくとも1つの分泌抗原の平均値を示す;少なくとも1つの分泌抗原の測定レベルが、分泌者のコントロール集団でみられる平均レベルよりも少なくとも10%小さい場合に、個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする;少なくとも1つの抗原はH−2抗原である;胃腸障害は胃腸性炎症である;胃腸障害は胃腸感染症である;当該障害は後期発症敗血症である;当該胃腸感染症は、ブドウ球菌種、黄色ブドウ球菌、大腸菌、連鎖球菌種、エンテロバクター属菌種、クレブシエラ属菌種、バシラス属菌種、セラチア属菌種、カンジダ属菌種、ノーウォークおよび他のノロウイルス、カンピロバクター属菌種、ビブリオ属菌種、バクテロイデス属菌種、クロストリジウム属菌種、またはランブル鞭毛虫の1つ以上による感染を含む。
【0010】
本明細書にはさらに:
(a)個体からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定すること、
(b)少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
(c)少なくとも1つの前記分泌抗原の前記測定レベルが前記所定の値と異なるか、または、前記所定の値の範囲から外れる場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとすること、および、
(d)前記個体が壊死性腸炎のリスクがあるとした場合に、壊死性腸炎のリスクを治療または低減させる工程を行なうこと、
を含む、方法が開示される。
【0011】
本明細書にはまた:
(a)患者からの生体サンプル中のFUT2タンパク質またはFUT2をコードするmRNAのレベルを測定すること、および、
(b)FUT2タンパク質またはFUT2をコードするmRNAの測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
を含み、FUT2タンパク質またはFUT2をコードするmRNAの測定レベルが前記所定の値または前記所定の値の範囲よりも小さい場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、壊死性腸炎のリスクがある個体の同定方法が開示される。
【0012】
本明細書には:
(a)個体からの生体サンプルを準備すること、および、
(b)前記個体が、FUT2の発現または活性を低下させる遺伝子変異を有するFUT2遺伝子を有するか否かを決定すること、
を含み、前記個体がFUT2の発現または活性を低下させる遺伝子変異を有するFUT2遺伝子を有する場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、壊死性腸炎のリスクがある個体の同定方法が開示される。
【0013】
本明細書には:
(a)個体(例えば、乳幼児)からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定すること、および、
(b)少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
を含み、少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルが前記所定の値と異なるか、または、前記所定の値の範囲から外れる場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、死亡のリスクがある個体の同定方法。
【0014】
特に規定しない限り、本明細書において用いられるすべての技術用語および科学用語は、本発明の属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同一の意味を有するものとする。本発明を実施するためには、本明細書に記載されている方法および材料に類似した、またはこれと均等なものも用いられうるが、以下には適当な方法および材料を記載する。本明細書において言及されているすべての公報類、特許出願、特許、および他の文献は、その全体が参照により引用されている。矛盾が存在する場合には、本願明細書の記載が優先する。また、記載の材料、方法および実施例は例示のためのものにすぎず、何ら限定を意図したものではない。
【0015】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細は、添付の図面および以下の詳細な説明に示されている。本発明の他の特徴、目的、および利点は、これらの詳細な説明および図面、並びに特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】マウス結腸におけるフコシルトランスフェラーゼおよびFut2 mRNAの発現。(A)通常マウス(CONV)、無菌(GF)マウスおよび元無菌(XGF)マウスにおけるα1,2/3−フコシルトランスフェラーゼ。
【図1B】マウス結腸におけるフコシルトランスフェラーゼおよびFut2 mRNAの発現。(B)α1,2/3−フコシルトランスフェラーゼ活性。
【図1C】マウス結腸におけるフコシルトランスフェラーゼおよびFut2 mRNAの発現。(C)CONV、細菌欠乏(BD)マウスおよび細菌回復(XBD)マウスにおけるFut2mRNA。
【図1D】マウス結腸におけるフコシルトランスフェラーゼおよびFut2 mRNAの発現。(D)UEA−1レクチンおよび対応するノマルスキー画像により検出されたα1,2−フコシル化グリカンの発現。
【図2A】(A)腸でのフコシル化の細菌活性化にはTLR4の発現が必要である。
【図2B】(B)細菌回復マウスにおける粘膜フコシル化の活性化にはTLR4リガンドで十分である。
【図3A】B. fragilisによる単一コロニー化は腸のフコシル化を誘導する。
【図3B】B. fragilisによる単一コロニー化は腸のフコシル化を誘導する。
【図4】ヒストグラムは、24例のNEC例または死亡例(上段)および168例のコントロール(下段)を比較するための、光学密度(OD)として測定された唾液中のH−2抗原、Ley抗原、およびsLea抗原の分布を示す。8〜14日目(第2週)に、サンプルを回収した。表は、CART分析により同定されたリスク群を比較するための、NECまたは死亡の発生率、相対リスクおよびp値を示す。三角印は、高リスク群と低リスク群とを最も適切に区別するための、CART分析により同定された各抗原の連続値におけるカットポイントを示す(ノード)。表中、このカットポイントは、各抗原に対して付与されている。H−2についてのみ、NEC例および死亡例をコントロールと比較すると、OD値分布が有意に異なる(P=0.004、ウィルコクソン・マン・ホイットニー検定)。
【図5】CART分析の模式図。
【図6】シンシナティNICUのELBW(<1000g)の乳幼児192人から第2週に回収した唾液サンプルからEIAにより測定したH−2抗原およびsLeA抗原の光学密度(OD)の散布図;24人(12.5%)はNECに罹患したか、または死亡した。CART分析により高リスクセットおよび低リスクセットを体系的に同定して、症例と非症例(non-case)の誤判別を最小化した。高リスクに対するH−2のカットポイントは、OD<0.627と決定された(最小値38%、非分泌者の乳幼児を含む)。H−2の高リスク群では、73人の乳幼児で18症例が発生した(発生率=24.7%)のに対し、119人の乳幼児では6症例であった(発生率=5.0%;相対リスク[RR]=4.9、95%信頼区間[CI]=2.0〜11.8、P<0.0001)。高リスクに対するsLeaのカットポイントは、OC>0.318と決定された(最高値76%)。双方の高リスク群中の乳幼児(H−2低発現およびsLeaの高OD値により定義される)は、すべての他の乳幼児(低リスクセットとして定義され、138人の乳幼児のうち7症例(発生率=5.1%)を含んでいた)の合計と比較して、54人の乳幼児のうち17症例(発生率=31.5%)の図に示す高リスクセットを構成した。この分類の組み合わせによって、高リスク対低リスクの非常に有意な分割がもたらされた(RR=6.2、95%CI 2.7〜14.1、P<0.0001)。
【図7A】ヒトの「分泌者」であるFUT2 mRNAの配列。
【図7B】ヒトの「分泌者」であるFUT2 mRNAの配列。
【図8】ヒトの「分泌者」であるFUT2ポリペプチドの配列。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
ABHおよびルイス組織−血液型抗原は、グリカン鎖の末端構造を示す炭水化物である。H型の組織−血液型抗原(例えば、Hタイプ1抗原およびHタイプ2抗原、ルイスb抗原およびルイスy抗原)は、α1,2結合したフコース末端を特徴とする。哺乳動物では、H型の組織−血液型抗原は、外部環境に直接接触している器官(例えば、上気道、鼻上皮および器官、並びに、陰部−尿路、尿管および膣、並びに、赤血球上、末梢神経系の特定ニューロン、胸腺上皮および皮膚)の上皮細胞などの広範なタイプの組織に見られる。いくつかのヒト集団において、約80%の個体はH型の組織−血液型抗原を体液(例えば、唾液、乳汁、血清、涙、汗および精液)中に可溶型で発現している。これらのヒト集団における残りの約20%の個体では、体液中の可溶型のH型組織−血液型抗原は存在しない型であるか、または極めて低レベルで確認される。これらの2つの表現型は、「分泌者」および「非分泌者」とそれぞれ称されており、可溶型のH型組織−血液型抗原は一般に、分泌抗原と称されている。他のヒト集団においては、非分泌者である個体の百分率は20%未満である。
【0018】
分泌者と非分泌者の亜集団間の表現型の相違の基礎は、フコシルトランスフェラーゼ2酵素をコードするFUT2遺伝子における遺伝子多型に起因しており、当該酵素は本技術分野において、α(1,2)フコシルトランスフェラーゼ2、EC2.4.1.69、SE2、SEC2、フコシルトランスフェラーゼ−2(分泌者)、GDP−L−フコース:β−D−ガラクトシド2−α−L−フコシルトランスフェラーゼ2、ガラクトシド2−α−L−フコシルトランスフェラーゼ2、分泌者血液型α−2−フコシルトランスフェラーゼ、分泌者因子、および膜貫通タンパク質2とも称されている。このFUT2遺伝子はまた、本技術分野において分泌遺伝子(Se)とも称されている。
【0019】
FUT2の遺伝子産物であるFUT2は、GDP−β−L−フコースおよびβ−D−ガラクトシル−R(ここで、Rは、糖タンパク質または糖脂質でありうる)からのα−L−フコシル−1,2−β−D−ガラクトシル−R構造の生成を触媒する。FUT2は、通常内胚葉由来の多くの器官(消化管、咽頭、肝、気道、膀胱、尿道および内分泌腺など)で発現しているが、これらの器官の内部では、FUT2の発現は組織の分化パターン(例えば、扁平上皮のケラチン化対非ケラチン化、腺組織の管対腺房、並びに、特定の細胞タイプ(例えば、子宮内膜における分泌細胞対繊毛細胞、および唾液腺における粘液細胞対漿液細胞))の関数でもある。分泌者は機能性FUT2を発現し、非分泌者は機能性FUT2を発現できない。このため、可溶性のH型組織−血液型抗原は合成されず、よって非分泌者の体液中には分泌されない。
【0020】
実施例の欄に記載の実験によれば、分泌者の状態および乳幼児のシアル化グリカンエピトープの発現はNECおよび死亡のリスクと相関していることが示される。より詳細には、H−2抗原を唾液中にほとんどまたはまったく発現していない超低出生体重児(ELBW)または未熟児、および高レベルのシアル化ルイスa抗原を唾液中に発現している乳幼児は、中レベルまたは高レベルのH−2抗原を唾液中に発現している乳幼児、またはシアル化ルイスa抗原を唾液中にほとんどまたはまったく発現していない乳幼児と比較して、NEC、後期発症敗血症および死亡といった臨床的な有害転帰を生じる傾向が有意に高いのである。
【0021】
本明細書には、炎症性障害または感染性障害(例えば、NEC、胃腸感染症、または後期発症敗血症)を生じるリスクのある個体の同定に関連した材料および方法が開示されている。より詳細には、乳幼児の分泌者としての状態を評価することによって、当該乳幼児は炎症性障害または感染性障害(例えば、NEC、胃腸感染症、または後期発症敗血症)のリスクがあると同定されうる。ある実施形態では、分泌抗原をまったく発現していない乳幼児、または参照サンプルと比較して低レベルの分泌抗原を発現している乳幼児が、NEC、胃腸感染症または後期発症敗血症のリスクがあると分類されうる。他の実施形態では、参照サンプルと比較して高レベルのシアル化ルイスa(sLea)抗原を発現している乳幼児が、NEC、胃腸感染症または後期発症敗血症のリスクがあると分類されうる。
【0022】
本明細書にはまた、炎症性障害または感染性障害(例えば、NEC、胃腸感染症、または後期発症敗血症)を生じるリスクのある個体の治療および管理の方法が開示されている。ある実施形態では、分泌者としての状態によってNEC、胃腸感染症または後期発症敗血症のリスクがあると同定された個体は、保護剤(例えば、プロバイオティック有機体またはα1,2フコシルグリカン類などのプレバイオティック剤)を含む特定の治療法を用いて治療されうる。ある実施形態では、乳幼児に対して供される母乳中の分泌抗原のレベルを評価し、参照サンプルと比較した食物源中の分泌抗原のレベルに基づいて当該乳幼児に対して保護剤(例えば、α1,2フコシルグリカン類、プロバイオティック有機体またはプレバイオティック剤)を含む特定の治療法を施すことにより、分泌者としての状態によってNEC、胃腸感染症または後期発症敗血症のリスクがあると同定された個体の治療の経過が評価されうる。
【0023】
分泌抗原
分泌抗原(すなわち、H型1抗原およびH型2抗原、ルイスb抗原およびルイスy抗原)は、α1,2結合でのフコース末端を含むグリカン類である。本明細書で用いられる場合、「グリカン類」との語は、グリコシド結合(すなわち、1つの単糖の(αまたはβ配置の)アノマー性ヒドロキシ基と第2の単糖における利用可能な任意のヒドロキシ基との間での共有結合であって、さらなる修飾(例えば、さらなる他の単糖単位、ポリペプチド、脂質または他の生体分子もしくは非生体分子との結合)とは無関係である)によって結合された2つ以上のサブユニットである単糖単位の化合物を意味する。少数(典型的には3〜35またはそれより多く)の構成糖を含有する糖ポリマーは、「オリゴ糖」と称されうる。本明細書に記載のすべてのオリゴ糖は、非還元糖(すなわち、Gal)の名称または略称と、それに続くグリコシド結合の配置(αまたはβ)、環結合(1または2)、そして次の糖(すなわち、GlcNac)の名称または略称を用いて、分子の還元末端へと向かって記載されている。標準的な糖生物学の命名法のレビューについては、Essentials of Glycobiology, Varki et al., eds., 1999, Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。
【0024】
分泌抗原の具体的な形態は多様であり、部分的には、最小二糖前駆体の構造またはコア配列(特定の抗原はこのコア配列から作製される)に依存しうる。このコア配列は、ラクトタイプI構造のガラクトース(β1−3)N−アセチルグルコサミン−R(ここでは「Gal(β1−3)GlcNAc」と略する)またはラクトタイプII構造のガラクトース(β1−4)N−アセチルグルコサミン−R(ここでは「Gal(β1−4)GlcNAc」と略する)のいずれであってもよい。最小の、非共役のコア配列において、RはHまたは他の小分子ラジカルである。二糖前駆体はまた、オリゴ糖として、または糖脂質、ペプチド、タンパク質、ムチンもしくは他の高分子のグリカン部位として、より長いグリカン類と共役していてもよい。
【0025】
ここで例えば、H−1抗原は、タイプI前駆体のガラクトース部位へのα1,2結合によるフコース残基のFUT2(またはFUT1)触媒性の付加(これにより、{フコース(α1−2)ガラクトース(β1−3)N−アセチルグルコサミン}(ここでは{Fuc(α1−2)Gal(β1−3)GlcNAc}と略する)なる構造が生成する)による当該タイプI前駆体を由来とするものである。このH−1抗原は、他の分泌抗原であるルイスbの構造的前駆体である。このルイスb分泌抗原は、H−1構造に加えて、GlcNAc部位への非末端のα1,4結合による第2のフコース残基を{フコース(α1−2)ガラクトース(β1−3)[フコース(α1−4)]N−アセチルグルコサミン}(ここでは{Fuc(α1−2)Gal(β1−3)[Fuc(α1−4)]GlcNAc}と略する)の配置で含む。
【0026】
これに対応して、H−2抗原は、タイプII前駆体のガラクトース部位へのα1,2結合によるフコース残基のFUT2(またはFUT1)触媒性の付加(これにより、{フコース(α1−2)ガラクトース(β1−4)N−アセチルグルコサミン}(ここでは{Fuc(α1−2)Gal(β1−4)GlcNAc}と略する)なる構造が生成する)による当該タイプII前駆体を由来とするものである。このH−2抗原は、他の分泌抗原であるルイスyの構造的前駆体である。このルイスy分泌抗原は、H−2構造に加えて、GlcNAc部位への非末端のα1,3結合による第2のフコース残基を{フコース(α1−2)ガラクトース(β1−4)[フコース(α1−3)]N−アセチルグルコサミン}(ここでは{Fuc(α1−2)Gal(β1−4)[Fuc(α1−3)]GlcNAc}と略する)の配置で含む。
【0027】
分泌抗原は、α1,2フコースで置換された単一のコア配列を含んでもよく、この際、Rは、Hまたは他の小ラジカルである。あるいは、分泌抗原は、繰り返しの置換コア配列を含んでもよく、この際、Rは、他のコア配列である。単一のコア配列および繰り返しコア配列は、より大きな糖の内部に存在しうる。よって、分泌抗原を含有するオリゴ糖は、例えば、三糖、四糖、五糖などでありうる。分泌抗原はまた、他の高分子(例えば、ポリペプチドまたは脂質)に対して共有結合していてもよい。単一の置換コア配列はまた、ポリペプチドまたは脂質に対して直接結合していてもよく、例えば、Rは、タンパク質もしくは脂質であってもよいし、またはポリペプチドもしくは脂質に結合した多糖中に存在していてもよい。分泌抗原は、N−結合グリコシル化を介して(すなわち、アスパラギン残基を介して)、またはO−結合グリコシル化を介して(例えば、セリン、スレオニン、ヒドロキシプロリン、チロシンもしくは他のヒドロキシ基含有残基を介して)ポリペプチドに共有結合していてもよい。分泌抗原を含む糖タンパク質としては、例えば、以下に限定されないが、ムチン類、胆汁酸塩活性化リパーゼ(BSSL)、およびラクトアドヘリンが挙げられる。分泌抗原を有する脂質としては、以下に限定されないが、H−1糖脂質、H−2糖脂質、Lex糖脂質、およびLey糖脂質が挙げられる。
【0028】
ルイス抗原
ルイス抗原は、α1,3−またはα1,4−結合フコシル化オリゴ糖部位であるルイスエピトープを含有する(すなわち、H−1、H−2、Lea、Leb、Lexおよび/もしくはLeyエピトープを含有する)任意のグリカンとして存在しうる。ルイス抗原としては、遊離オリゴ糖類、糖脂質類、糖タンパク質類、ムチン類、グリコサミノグリカン類、および糖ペプチド類が挙げられる。個体は、上述したH−1、H−2、Lea、Leb、Lexおよび/またはLeyエピトープを発現するグリカン類を発現することができる。
【0029】
シアル化抗原
シアル化抗原は、遊離オリゴ糖類、糖脂質類(例えば、ガングリオシド類)、糖タンパク質類、ムチン類、グリコサミノグリカン類、および糖ペプチド類などの、シアル化抗原を含有する任意のグリカンとして存在しうる。個体は、ガングリオシド類並びに、シアル化ルイスa(sLea)、sLeb、sLexおよび/またはsLeyエピトープを発現する他のグリカン類などの、シアル化エピトープを発現することができる。
【0030】
分泌抗原のアッセイ
1以上の分泌抗原のレベルは、分泌抗原を含むことが本技術分野において知られている任意の体液中で測定されうる。体液の例としては、以下に限定されないが、唾液、血清、血漿、乳汁、羊水、汗、尿、涙、粘液、リンパ液、および糞便が挙げられる。体液サンプルは、分泌抗原の構造を保存したままにできる、本技術分野において公知の任意の常法を用いて個体から回収されうる。唾液サンプルは、綿棒、ティッシュ、吸引、掻爬を用いて、または個体に口を漱がせ、チューブもしくは回収容器中に吐き出させることによって回収されうる。血液サンプルは、静脈穿刺術によって得ることができる。血清サンプルは、血餅としてもよい血液サンプルを遠心分離するなどの常法を用いて全血から調製されうる。血漿サンプルは、ヘパリンなどの抗凝血剤で処理された血液サンプルを遠心分離することによって得られる。乳汁は、手動で、または機械的圧搾によって回収されうる。生体サンプルは、回収後速やかに、分泌抗原についてアッセイされうる。あるいは、またはこれに加えて、分泌抗原の構造を保存できる本技術分野において公知の方法(例えば、凍結、乾燥、または凍結乾燥)を用いて、生体サンプルを後の分析のために保管してもよい。
【0031】
生体サンプル中の特定の分泌抗原のレベルを測定した後、これらのレベルは標準参照レベルと比較されうる。標準参照レベルは通常、個体の大集団から得られた平均的な分泌抗原レベルを表す。参照集団は、年齢、体重、民族的背景または全般的な健康について、問題となる個体と類似している個体を含んでもよい。参照集団のFUT2の遺伝子型は、既知であっても未知であってもよい。こうして、患者サンプル中の分泌抗原レベルは、1)野生型FUT2を発現し、体液が分泌抗原を含有している個体、2)FUT2の変異型を発現し、中程度から低いFUT2活性を示し、体液が低レベルの分泌抗原を含有している個体、または、3)FUT2活性をほとんどまたはまったく示さず、体液が分泌抗原を含んでいない個体から得られる値と比較されうる。
【0032】
一般に、上昇した分泌抗原のレベルは、コントロールサンプルで見られる分泌抗原のレベルよりも大きいか、または、分泌者である健常個体の集団からのサンプルで見られる分泌抗原の平均レベルよりも大きい任意の分泌抗原レベルでありうる。減少した分泌抗原のレベルは、コントロールサンプルで見られる分泌抗原のレベルよりも小さいか、または、分泌者である健常個体の集団からのサンプルで見られる分泌抗原の平均レベルよりも小さい任意の分泌抗原レベルでありうる。分泌者である健常個体の集団からのサンプルで見られる分泌抗原の平均レベルを測定するには、任意の集団サイズが用いられうる。健常個体の集団からのサンプルにおける分泌抗原の平均レベルを、より多くのサンプル集団由来の測定においてより正確に測定するには、例えば、2〜250(例えば、2、3、4、5、10、15、20、25、30、40、50、100、150、200、250またはより多くの個体)の集団が用いられうる。
【0033】
減少した分泌抗原レベルは、コントロールサンプルで見られるレベル、または健常個体の集団からのサンプルで見られる分泌抗原レベルよりも10、20、30、50、60、70、80、90、100%小さいものでありうる。ある場合には、減少した分泌抗原レベルは、コントロールサンプルで見られるレベル、または健常個体の集団からのサンプルで見られる分泌抗原の平均レベルよりも2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、50倍またはそれ以上低いものであってもよい。
【0034】
ある場合には、サンプル中の特定の分泌抗原の特定のレベルがコントロールサンプルまたはより大きい集団と比較して低いかまたは正常であるか否かを測定するのに、参照チャートが用いられうる。例えば、参照チャートは、問題となる個体と年齢、在胎月齢、民族的背景または全般的な健康が同じである健康な乳幼児で見られる分泌抗原レベルの正常範囲を含みうる。この参照チャートを用いて、サンプル中で測定される分泌抗原の任意のレベルが、コントロールサンプルと比較して、またはより大きい集団由来の平均値と比較して、低いか、正常であるか、または上昇しているものとして分類されうる。
【0035】
あるいは、またはこれに加えて、生体サンプル中の分泌抗原のレベルは1つ以上の追加の生体マーカー(例えば、P抗原またはシアル化抗原などの、発現が個体の分泌者としての状態とは独立している他の組織−血液型抗原)のレベルに対して「規格化」されてもよい。すなわち、追加のマーカーのレベルは、同時または別の場面のいずれかにおいて、分泌抗原のレベルと並行して上昇しうる。この追加マーカーは、サンプル調製、取扱い、および保管、並びに日常のアッセイにおける変動に対する内部コントロールとして機能しうる。分泌抗原および追加マーカーのレベルの値は、比率として表現されてもよく、この比率が参照のサンプルまたは集団について得られた類似の比率と比較されてもよい。有用な第2マーカーの例としては、以下に限定されないが、発現が分泌者(FUT2)の発現とは独立しているルイス抗原(すなわち、ルイスaおよびルイスx)が挙げられる。ルイス抗原は一般的に、コア配列として、1以上のフコシル残基で置換されたラクトタイプI構造またはラクトタイプII構造を有する炭化水素を含む。よって例えば、有用な第2のマーカーは、ルイスa{ガラクトース(β1−3)[フコース(α1−4)]N−アセチルグルコサミン}(ここでは{Gal(β1−3)Fuc(α1−4)GlcNAc}」と略する)もしくはルイスx{ガラクトース(β1−4)[フコース(α1−3)]N−アセチルグルコサミン}(ここでは{Gal(β1−4)Fuc(α1−3)GlcNAc}」と略する)、またはこれらのエピトープのシアル化型、硫酸化型もしくはスルホシアル化型でありうる。一般的に発現している他の非ルイス血液型抗原もまた用いられてもよく、Lua(ルーテルa)、P1&P2(P血液型系の主要な抗原)、M&N、Fya&Fyb(ダフィー式の抗原)などが挙げられる。
【0036】
また、個体の遺伝子発現レベルの確率的変動は生体系には一般的であることから、その発現が個体の分泌者としての状態とは独立していることが知られている2以上の追加の生体マーカーのパネルに対して分泌抗原のレベルを規格化することが望ましいかもしれない。この手法によれば、分泌抗原レベルがより正確に測定されうる。
【0037】
参照サンプルの分泌抗原レベルと比較して、個体における分泌抗原の相対レベルを算出したら、当該個体の胃腸炎、壊死性腸炎、後期発症敗血症または死亡に関する相対リスクが評価されうる。相対リスクを評価するための本技術分野において公知の任意の統計的手法が用いられうる。1つの適法な手法は、分類・回帰ツリー(CART)特性曲線分析である。CART分析は、ノンパラメトリック回帰法のファミリーに属し、個体の高リスク群および低リスク群への分類を最適化する決定木を構築するための再帰分割に基づくものである。このCART分析は、試験の感度(すなわち、検出された真の症例の数)と特異性(すなわち、正確さ)とのバランスに基づき、予測値を最大化して、症例と非症例との誤判別を最小化する、連続型変数におけるカットポイントを体系的に決定するのに適用されうる。これらの2つの変数はまた、正の予測値および負の予測値として考慮されることができ、診断の正確さと関連している。CART分析により作製された決定木は、曲線下面積(AUC)を決定するための受信者操作特性曲線(ROC)分析によって検証されうる。なお、このAUCは、症例と非症例とを区別するための決定木の関係の有効性を示すものである。
【0038】
一例では、CART分析によって、H−2の唾液中発現(OD値により測定)で低分泌者または非分泌者(すなわち、38パーセンタイル以下)と分類された個体はNECおよび死亡のリスクが増大していることが示されている。そして、分泌抗原のレベルが38、33、30、25、20、15、10、5またはそれ以下のパーセンタイル値である個体は、分泌抗原レベルが38パーセンタイルよりも大きい個体よりもNECに罹患し、または死亡する傾向が4〜5倍である。分泌抗原をほとんどまたはまったく発現していない個体では、最高リスク群は高レベルのシアル化ルイスa抗原をも発現している個体によって規定される。分泌抗原をほとんどまたはまったく発現しておらず、高レベルのシアル化ルイスa抗原を発現している乳幼児では、他のすべての乳幼児と比較してNECまたは死亡のリスクが6倍を超える。よって、高リスク群は、ほとんどもしくはまったくないH−2抗原の発現単独によって、または、ほとんどもしくはまったくないH−2抗原と中〜高レベルのシアル化ルイスa抗原との組み合わせによって規定されうる。この組み合わせと、他の臨床指標に基づき、臨床医は、患者がNECのリスクがある可能性を予測し、適宜治療計画を調整することができる。
【0039】
個体の分泌者としての状態は、種々の手法によって決定されうる。分泌抗原のレベルは、体液中で直接測定されうる。例えば、分泌抗原のレベルは、免疫ベースのアッセイ(例えば、ELISAアッセイ、ラジオイムノアッセイ、免疫検出と共役した1次元または2次元の電気泳動)を用いて、または表面プラズモン共鳴ベースのバイオセンサを用いて、またはクロマトグラフィ技術(例えば、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)もしくはガスクロマトグラフィ(GC))を用いて、または分光分析(例えば、質量分析)によって、測定されうる。あるいは、またはこれに加えて、標準的な酵素的手法を用いて生体サンプル中のFUT2活性が測定されうる。また、本技術分野において周知の種々の手法(例えば、RT−PCRもしくは定量的RT−PCR(例えば、Kroupis C, Stathopoulou A, Zygalaki E, Ferekidou L, Talieri M, Lianidou ES. Clin Biochem. 2005 Jan;38(1):50-7, Dyer J, Chisenhall DM, Mores CN. J Virol Methods. 2007 Oct;145(1):9-13)、または、cDNAもしくはオリゴヌクレオチドマイクロアレイなどの定量的なハイブリダイゼーションベースの技術(例えば、Duggan D. J., Bittner M., Chen Y., Meltzer P. and Trent J. M. Nat Genet 21(1 Suppl):10-4 (1999);Cheung V. G., Morley M., Aguilar F., Massimi A., Kucherlapati R. and Childs G. Nat Genet 21(1 Suppl):15-9 (1999)))を用いてFUT2 mRNAレベルを定量してもよい(生体サンプル中のFUT2活性のレベルの代わりとして)。
【0040】
ヒト分泌型FUT2 mRNAの配列を図7に示し(GenBank(登録商標)アクセッション番号NM_000511.4)、ヒト分泌型FUT2タンパク質の配列を図8に示す(GenBank(登録商標)アクセッション番号NP000502.4)。
【0041】
最終的に、個体のFUT2の遺伝子型は、一塩基多型分析(SNP)またはRT−PCRベースの技術によって決定されうる。
【0042】
イムノアッセイ
イムノアッセイ法は、本技術分野の当業者には周知である。特定の分泌ルイス抗原(例えば、H−1、H−2、ルイスb、およびルイスy)並びに他のルイス抗原(例えば、ルイスaおよびルイスx)を検出する抗体試薬は、抗体作製のための常法を用いて作製され、または商業的販売者から購入されうる。抗体は、モノクローナルもしくはポリクローナル、またはこれらの組み合わせでありうる。有用な抗体としては、分泌抗原またはグリカンエピトープに特異的な、モノクローナルおよびポリクローナル抗体、単一鎖抗体、キメラ抗体、二価/二重特異性抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、および相補性決定領域(CDR)−グラフト抗体が挙げられ、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、Fv、キャメルボディまたはミクロ抗体などの抗体断片もまた挙げられる。また、特定の分泌抗原に特異的に結合してこれを検出できる核酸試薬またはペプチドアプタマー試薬は、文献に記載の常法を用いて作製されうる(例えば、分子診断のための大規模アッセイにおけるアプタマー類の利用、Brody E. N., Willis M. C., Smith J. D., Jayasena S., Zichi D. and Gold L. Mol Diagn 4(4):381-8 (1999))。
【0043】
そして、ある実施形態では、特異的な抗H−1、抗H−2、抗ルイスb、もしくは抗ルイスyモノクローナル抗体またはアプタマーは、H−1およびH−2、ルイスb、並びにルイスy以外の抗原に対して、それぞれ約1×105Ka未満の結合親和性を有しうる。ある実施形態では、抗H−1、抗H−2、抗ルイスb、または抗ルイスy抗体は、H−1、H−2、ルイスb、およびルイスyに対して少なくとも1×108Kaの親和性で結合するモノクローナル抗体である。
【0044】
抗H−1、抗H−2、抗ルイスb、および抗ルイスy抗体またはアプタマーを作製するには、それぞれ任意の形態(最小の三糖もしくは二糖構造またはそのエピトープ含有断片、およびこれらのエピトープを含有する任意のグリカンなど)のH−1およびH−2、ルイスb、並びにルイスyが用いられうる。特に適切な抗H−1、抗H−2、抗ルイスb、および抗ルイスy抗体またはアプタマーは、インビボでそれぞれの標的を認識してこれに結合するのに十分な親和性および特異性を有するものである。本明細書で用いられる場合、エピトープとの語は、グリカンの抗原決定基を意味する。
【0045】
炭水化物に特異的に結合する抗体またはアプタマーは、1)結合活性のしきいレベルを示し、および/または2)既知の関連グリカン分子とは有意に交差反応しない分子でありうる。抗体またはアプタマーの結合親和性は、本技術分野における当業者により、例えばスキャッチャード解析(Scatchard, Ann. NY Acad. Sci. 51: 660-672, 1949)によって、容易に決定されうる。ある実施形態では、抗体またはアプタマーはその標的エピトープまたは疑似デコイに対して、標的グリカンにつき当該標的グリカンといくらかの相同性を有する他のグリカンに対するよりも、少なくとも1.5倍、2倍、5倍、10倍、100倍、103倍、104倍、105倍、106倍またはそれ以上の親和性をもって結合することができる。
【0046】
ある実施形態において、抗体またはアプタマーは、H−1もしくはH−2、ルイスb、またはルイスyに対して、10−4M未満、10−7未満、10−9未満もしくはそれ以下の高い親和性で、またはnM未満の親和性(0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1nMまたはさらに低い場合もある)で結合する。ある実施形態において、抗体またはアプタマーのH−1もしくはH−2、ルイスb、またはルイスyに対する結合親和性は、少なくとも1×106Kaである。ある実施形態において、抗体またはアプタマーのH−1もしくはH−2、ルイスb、またはルイスyに対する結合親和性は、少なくとも5×106Kaであり、少なくとも1×107Kaであり、少なくとも2×107Kaであり、少なくとも1×108Kaであり、またはこれよりも大きい。抗体またはアプタマーはまた、自身のH−1および/もしくはH−2、ルイスa、ルイスb、ルイスx、並びに/またはルイスyに対する結合親和性の観点から記載され、または特定されてもよい。ある実施形態において、結合親和性は、5×10−2M未満、5×10−5M〜5×10−7M、5×10−8M〜5×10−10M、5×10−12M〜5×10−14M、またはそれより小さいKdを有するものである。
【0047】
抗体またはアプタマーは、本技術分野の当業者に公知のクロマトグラフィ法(イオン交換およびゲル濾過クロマトグラフィ(例えば、Caine et al., Protein Expr. Purif. (1996) 8(2):159-166))によって精製されうる。あるいは、またはこれに加えて、抗体またはアプタマーは商業的販売者(例えば、Abcam、Biovendor Laboratory、Calbiochem、Signet Laboratories、Accurate Chemical and Scientific Corporation、およびEMD)から購入されてもよい。
【0048】
分泌抗原のレベルは、本技術分野の当業者に公知の任意のイムノアッセイ形式を用いて生体サンプル中で測定されうる。例えば、非競合イムノアッセイでは、分泌抗原は2つの抗体(捕捉抗体および検出抗体)の間に「サンドイッチ」される。一般に、捕捉抗体はチューブまたはウェルなどの固相に共有結合または非共有結合しており、検出抗体はELISAアッセイの場合には酵素と共役しており、RIAアッセイの場合には放射性標識されている。ELISAアッセイでは、検出抗体は酵素に共有結合していてもよいし、生体共役を介して酵素と連結された二次抗体によって自身が検出されてもよい。抗体の特異的な結合は、開裂によって検出可能で定量可能なシグナルを生成する酵素の基質(例えば、発色性分子または蛍光性分子)を添加することによって分析される。RIAアッセイでは、抗体の特異的な結合は担体に結合した放射能のレベルを測定することによって定量される。
【0049】
競合的なイムノアッセイでは、サンプル中の抗原(分析対象)は、標識された抗原(トレーサー)と、限られた数の抗体結合部位を求めて競合する。抗体に結合していない過剰な分析対象から、結合した抗体を分離する。未知のサンプル中の分析対象の量は、ガンマカウンタまたは分光光度計で測定された標識抗原の量に逆比例する。競合的なイムノアッセイの例としては、二重抗体ラジオイムノアッセイ(RIA)、被覆チューブRIA、および被覆ウェル酵素イムノアッセイ(EIA)が挙げられる。用いられうる固相担体のいくつかの例としては、プレート、チューブ、ポリスチレンビーズ、ナイロン、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ガラスファイバおよび他のタイプの多孔質ポリマーが挙げられる。適当な標識としては、放射性核種、フルオロフォア、化学蛍光標識、生物発光標識、酵素が挙げられ、例えばELISA系で用いられる場合には、金コロイドまたは量子ドットなどの染料または粒子が挙げられる。
【0050】
1以上の特定の分泌抗原およびルイス抗原を同時に検出するように設計されたアッセイ系およびキットもまた、本願の方法の範囲内のものである。当該キットは、ディップスティック、フロースルーまたはマイグラトリーといった形式であってもよいし、本技術分野の当業者に公知の他の形式であってもよい。所望により、アッセイを自動化して標準化を保障し、高スループットを達成することができる。
【0051】
FUT2活性のアッセイ
FUT2活性は、FUT2に特異的な、本技術分野において公知の任意の常法を用いて、生体サンプル中で測定されうる。例えば、3μM GDP−[14C]フコース、5mM ATP、25mMリン酸ナトリウム(pH6.0)、40μg全タンパク質(細胞抽出物由来)、およびアクセプタ基質としてフェニルβ−D−ガラクトシドまたはアシアロフェツインを含有する20μLの反応体積中で、フコシルトランスフェラーゼアッセイが行なわれうる。反応混合物を37℃にて2時間インキュベートし、水1mLの添加によって終結させる。反応産物をC18逆相カラムを通すことによって、疎水性のフコシル化フェニルβ−D−ガラクトシド産物を精製する。放射性標識アシアロフェツイン産物は、マイクロファイバメンブレン(GF/C;Whatman)を用いた濾過により精製し、液体シンチレーションカウントによって放射能を測定する。Nanthakumar NN, Dai D, Newburg DS, Walker WA.The role of indigenous microflora in the development of murine intestinal fucosyl- and sialyltransferases. FASEB J (November 15, 2002) 10.1096/fj.02-0031fje (summary: FASEB J 2003;17:44-6)。
【0052】
FUT2ジェノタイピング解析
FUT2のジェノタイピングは、本技術分野において公知の任意の常法(例えば、SNP解析またはRT−PCR技術)により、行われうる。FUT2活性レベルの低下をもたらすものとして同定されているSNPとしては、TRP143TER(428G−A)およびILE129PHE(385A−T)が挙げられる。FUT2遺伝子の完全な欠損もまた、ある非分泌者では観察されている。一塩基多型(SNP)を検出するための手法は本技術分野において周知である:例えば、Ahmadian A., Gharizadeh B., Gustafsson A. C., Sterky F., Nyren P., Uhlen M. and Lundeberg J. Anal Biochem 280(1):103-10 (2000); Griffin T. J., Hall J. G., Prudent J. R. and Smith L. M. Proc Natl Acad Sci U S A 96(11):6301-6 (1999); Nickerson D. A., Kaiser R., Lappin S., Stewart J., Hood L. and Landegren U. Proc Natl Acad Sci U S A 87(22):8923-7 (1990)。
【0053】
他のアッセイ
α−1−フコースと特異的に反応するレクチンであるハリエニシダ(Ulex europaeus)レクチンが、分泌抗原(特に、H−2)を検出するための基礎として用いられうる。金コロイドに共役したハリエニシダレクチンを、適当な条件下で分泌抗原を含有するサンプルに曝露すると、ハリエニシダ−金コロイドは凝集し、検出可能な色の変化をもたらす。
【0054】
概説すると、金コロイドの安定化に要するハリエニシダ(UEA1)(Sigma-Aldrich; St Louis, MO)の最小量および最適pH条件を決定した後、UEA1を金コロイドに共役させる。ニトロセルロース片上に、未処理の被検唾液2μLを添加し、5b分間静置して乾燥させる;カゼインの1.0%TBS溶液200μLを添加し、室温にて3分間インキュベートする。カゼイン溶液を廃棄する;UEA1−金コロイド共役体150μLを、カゼインの0.05%TBS溶液で適切に希釈して添加し、10分間インキュベートする。検出可能な色の変化が生じたら、サンプル中に分泌抗原が存在することが示される。コントロールサンプルは、H−2陽性またはH−2陰性であることが既知の唾液サンプルである。
【0055】
治療の手法
本明細書に開示されている方法はまた、感染性障害および炎症性障害のリスクがある乳幼児の治療にもまた有用である。治療によって、感染性障害または炎症性障害の一部またはすべての兆候および症状が完全にまたは部分的に除去され、症状の重篤性が低減され、発症が遅らせられ、あるいは後続して生じる症状の進行または重篤性が緩和されうる。
【0056】
上記の治療方法は、感染性障害および炎症性障害に有用である。この方法は、満期出産児、未熟児または超低出生体重児に用いられうる。満期出産児は、37〜42週の在胎期間を経て出生したものである;未熟児は通常、37週未満の在胎期間で出生したものである。超低出生体重児(ELBW)は通常、1000g(2ポンド3オンス)未満の出生体重により規定される。ELBWの乳幼児の大部分はまた、未熟児のなかでも最も若く、通常は27週以下の在胎期間で出生する。低出生体重児(<2500g)の約10人に1人が、ELBWの乳幼児である。
【0057】
本明細書に記載の方法を用いて検出されうる感染性障害および炎症性障害としては、壊死性腸炎(NEC)、胃腸感染症、胃腸炎、および敗血症が挙げられる。これらの障害は、疾患、損傷または未知の原因の結果であることもあり、また、個体の遺伝的構成の影響を受けることもある。
【0058】
NECでは、腸管の一部が壊死(すなわち、組織死)を起こす。NECは消化管に症状を引き起こすが、重篤な症例では深刻な全身性の症状をもたらす。初期症状はわずかなものである場合があり、摂食不耐性、胃内容排出遅延、腹部の膨満および/または圧痛、イレウス/腸音遅延、並びに、進行段階では、腹壁紅斑および血便の1つ以上が挙げられる。全身性の兆候は非特異的なものであり、無呼吸、倦怠感、末梢循環不全、ショック(進行した症例)、心血管虚脱および出血性素因(消費性凝固障害)の任意の組み合わせが挙げられる。検査所見の非特異的な異常としては、低ナトリウム血症、代謝性アシドーシス、血小板減少症、左方移動を伴う白血球減少症または白血球増加症、好中球減少症、プロトロンビン時間延長および活性化部分トロンボプラスチン時間延長、フィブリノゲンの減少、並びにフィブリン分解物の上昇(消費性凝固障害の症例)。正確な病因は不明であるが、多因子性であって、異常細菌叢、腸虚血および/または再灌流障害、並びに腸管粘膜の未成熟のいずれかまたはすべてを伴うものであろう。
【0059】
幼年期における胃腸感染症は、下痢、糞便中の粘液または血液の存在、嘔吐、脱水、口渇、倦怠感、粘膜の乾燥、泉門の陥没、皮膚緊張の低下、毛細血管充満時間、頻脈、弱い脈拍、低血圧、および皮膚緊張のテンティングまたは喪失といった症状を伴う。感染の作用因子は、細菌、真菌、ウイルスまたは寄生生物でありうる。細菌性の作用因子の例としては、以下に限定されないが、ブドウ球菌種、黄色ブドウ球菌、大腸菌、連鎖球菌種、エンテロバクター属菌種、クレブシエラ属菌種、バシラス属菌種、セラチア属菌種、サルモネラ属菌種、シゲラ属菌種、カンピロバクター属菌種、エルシニア属菌種、およびクロストリジウム・ディフィシルが挙げられる。真菌性の作用因子の例としては、以下に限定されないが、カンジダ属菌種が挙げられる。寄生生物の例としては、以下に限定されないが、クリプトスポリジウム属種、ジアルジア属種、赤痢アメーバ、シクロスポラ属種が挙げられる。ウイルス生物の例としては、以下に限定されないが、ロタウイルス、サイトメガロウイルス、腸管アデノウイルス、アストロウイルス、アデノウイルスタイプ40またはタイプ41、ノーウォークおよび他のノロウイルス、並びにサポロウイルスが挙げられる。新生児敗血症の臨床的兆候は非特異的であり、原因微生物の特徴および侵襲に対する生体応答の特徴と関連している。新生児敗血症は、早期発症または後期発症に分類されうる。新生児の早期発症感染症の85%は24時間以内に発症し、5%が24〜48時間で発症し、より少ない数の患者では48時間から6日間の間に発症する。発症は、未熟児で最も速い。これらの乳幼児では、顔面蒼白、毛細血管灌流の低下、および浮腫を伴う明らかなショックを呈する。これらのショックの兆候は、重篤な危険の指標であり、死亡率と大きく関係している。敗血症の兆候としては、心兆候(例えば、早期肺高血圧症、心拍出量の減少、低酸素血症、徐脈を伴う心拍出量の段階的減少、および全身性低血圧症)、代謝性兆候(低血糖、高血糖、代謝性アシドーシス、および黄疸)、神経学的兆候(髄膜炎、脳室炎、くも膜炎、血管炎、静脈炎、血栓症、脳浮腫、梗塞、昏迷、および過敏性)、意識障害(すなわち、過敏性を伴う/伴わない昏迷)、昏睡、発作、大泉門膨隆、伸筋硬直、局所性脳兆候、脳神経兆候、項部硬直、脳脊髄液(CSF)の変化(例えば、白血球数の上昇、タンパク質レベルの上昇、CSFグルコース濃度の低下、および陽性の培養結果)のいずれかまたはすべてが挙げられる。新生児敗血症および髄膜炎では温度調節障害が観察されるが、これは細菌性生物により分泌される発熱物質に応答したものであるか、または交感神経系の不安定性によるものである。新生児は、最も低体温となりやすい。乳幼児はまた、緊張の低下、倦怠感、および食欲不振を有する可能性もある。神経過敏の兆候は、後期発症髄膜炎が発症した際に最も発生しやすい。新生児敗血症の他の兆候としては、血液学的兆候(例えば、血小板減少症、異常白血球数(WBC)、異常好中球数(PMNおよび未成熟型)、好中球数の未成熟対全数の比率の異常、播種性血管内凝固症候群(DIC)、プロトロンビン時間(PT)、部分トロンボプラスチン時間(PTT)並びにフィブリノゲンレベルおよびD二量体レベルの異常)、並びに、消化管兆候(例えば、壊死性腸炎)が挙げられる。
【0060】
後期発症敗血症に関与している生物としては、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、クレブシエラ属菌種、シュードモナス属菌種、エンテロバクター属菌種、B群連鎖球菌、セラチア属菌種、アシネトバクター属菌種、およびカンジダ属菌種が挙げられる。乳幼児の皮膚、気管、結膜、消化管、およびへそは、環境からコロニー化されて、侵襲してきた微生物由来の後期発症敗血症を引き起こす可能性がある。かようなコロニー化をもたらす媒介物としては、血管カテーテルもしくは尿路カテーテル、他の留置ライン、または細菌がコロニー化した介護者からの接触が挙げられる。
【0061】
自身のグリカン表現型(分泌抗原、ルイス抗原、またはシアル化抗原の発現)に基づいて感染性障害および炎症性障害(例えば、NEC、胃腸感染症、および敗血症)のリスクがあると同定された乳幼児は、1つ以上の保護剤を含む治療法によって治療されうる。文脈上そうでないとされる場合を除き、「剤」との語は、消化器系の標的分子または標的領域に対して臨床的に好ましい形で影響を及ぼす(例えば、発熱物質が宿主の表面グリカン類に結合するのを阻害する)任意の物質を広く意味するものとする。有用な保護剤としては、例えば、ヒトの授乳、プロバイオティック有機体、プレバイオティック剤、またはα1,2フコシルグリカン類が挙げられる。
【0062】
α1,2フコシルグリカン類は、α1,2結合でのフコース末端を含む糖であり、これ自体は分泌抗原の相同体である。すなわち、α1,2フコシルグリカン類は、α1,2配置でフコース残基に共有結合した、最小二糖前駆体またはコア配列を含む。コア配列は、ラクトタイプI構造であるガラクトース(β1−3)N−アセチルグルコサミン−R(ここでは{Gal(β1−3)GlcNAc}−Rと略する)、またはラクトタイプII構造であるガラクトース(β1−4)N−アセチルグルコサミン−R(ここでは{Gal(β1−4)GlcNAc}−Rと略する)のいずれかである可能性があり、この際、Rは、H、小ラジカル、または他の単糖、二糖もしくは多糖、または糖タンパク質もしくは糖脂質である。これらの糖は、遊離のオリゴ糖であってもよいし、糖タンパク質、糖脂質または他の構造として共役して発現していてもよい。共役/非共役の形態のオリゴ糖は、いずれもグリカン類として分類される。そして、α1,2フコシルグリカン類は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、24、28、32、36、またはより多くの糖を含むことができ、この糖の1つ以上がα1,2配置でフコース残基に共有結合しており、これによって当該グリカン類は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、18、またはより多くのフコース残基を含みうる。適当なα1,2フコシルグリカン類の例としては、以下に限定されないが、2’−フコシルラクトース(2’−FL)、ラクト−N−フコペンタオース−I(LNF−I)、ラクト−N−ジフコヘキサオース I(LDFH I)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、または、可溶型でもしくはプロバイオティック有機体の一部として糖脂質、糖ペプチド、糖タンパク質、ムチンもしくは他の骨格に結合したフコシルグリカンエピトープが挙げられる。α1,2フコシルグリカン類は、本技術分野の当業者に公知の手法を用いて天然の源(例えば、乳、乳製品または植物製品)から精製されうる。あるいは、またはこれに加えて、グリカン類は、本技術分野において公知の手法に従って天然の前駆体または合成されたテンプレートから化学的に合成されうる。また、グリカン類は、本技術分野において周知の生合成酵素を用い、細菌または酵母などの特別に改変された微生物を用いて、インビトロまたはインビボで酵素的に合成されてもよい。
【0063】
保護剤はまた、プロバイオティック有機体(すなわち、宿主によって摂取された際に、当該宿主を利するように腸内細菌叢を変化させる生きた微生物)であってもよい。プロバイオティック有機体は、細菌および細菌産物の粘膜を介した移動に対するバリアを提供したり、潜在的な発熱物質を競合的に除去したり、微生物産物に対する宿主の応答を変化させたり、肺炎桿菌、大腸菌、およびカンジダ・アルビカンスなどの発熱物質の増殖を阻害するように経腸栄養を促進したりすることができる。
【0064】
プロバイオティック有機体は一般に、細菌および酵母を含む。プロバイオティック有機体の種は種々存在しうるが、乳幼児に適切な種としては、乳酸菌(例えば、ラクトバチルス・ラムノーザスGG、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ロイテリ)およびビフィズス菌(例えば、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーヴェ、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス、ビフィドバクテリウム・ロンガム)、並びにサーモフィルス菌が挙げられる。有用な酵母種としては、サッカロマイセス・ブラウディおよびクリベロマイセス・ラクティスが挙げられる。プロバイオティック有機体は、天然由来のものであってもよいし、改変されたものであってもよい。すなわち、当該有機体は、以下に限定されないが、分泌抗原を発現する能力などの所望の特性を獲得できるように遺伝子を導入されたものであってもよい。プロバイオティック有機体は、単独で、または組み合わせて投与されうる。市販されているプロバイオティック製剤としては、例えば、ラクトバチルス・アシドフィルス/ビフィドバクテリウム・インファンティスを含有するインフロラン(登録商標)(Istituto Sieroterapico Berna, Como, Italy)、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダムおよびサーモフィルス菌を含有するABCドフィルス(Solgar, Isreal)、並びに、ラクトバチルス・ラムノーザスGGを含有するディコフロー(Vitis Pharma, Warsaw, Poland)が挙げられる。保護剤はまた、プレバイオティック剤(すなわち、大腸内の1つまたは限られた数の細菌の増殖および/または活性を選択的に刺激することにより宿主を利する、非消化性の食餌成分)であってもよい。大腸の微生物叢中に外因性の細菌を導入するプロバイオティックとは逆に、プレバイオティック剤は、潜在的に健康を促進している常在微生物(例えば、ビフィズス菌または乳酸菌)の1つまたは限られた数の増殖を活性化させる。プレバイオティック剤の例としては、フラクトオリゴ糖類(例えば、イヌリン)、キシロオリゴ糖、およびガラクトオリゴ糖が挙げられる。プレバイオティック剤は、天然の源(例えば、チコリの根、大豆、キクイモ、豆類、タマネギ、ニンニク、オート、コムギおよびオオムギ)から単離されうる。
【0065】
有用なプレバイオティック剤の1つに、フルクタン(フルクトースのポリマー)の1種であるイヌリンがある。イヌリンタイプのフルクタン類は、β2,1結合により連結されたβ−D−フルクトフラノースから構成される。鎖の最初のモノマーはβ−D−グルコピラノシル残基またはβ−D−フルクトピラノシル残基である。イヌリンおよびイヌリン断片の種々の形態が市販されている;例えば、重合度(DP)2〜60のイヌリンはチコリの根から抽出される(Raftiline; Orafti, Tienen, Belgium);イヌリンの部分酵素的加水分解により製造されるオリゴフルクトースは10未満のDPを有し(Raftiline; Orafti)、低分子量オリゴマーが除去されてなるイヌリンは高性能イヌリンと称される(Raftiline; Orafti)。フルクトシルトランスフェラーゼ触媒性の反応においてショ糖(基質)および1,2−βフルクタンを用いると、4未満のDPを有する合成低分子量フルクタンが製造される(Neosugar or Actilight; Beghin-Meji Industries, Paris)。
【0066】
保護剤は、単独でまたは組み合わせて、患者に直接投与されうる。一般に、保護剤は、自身の送達を促進する目的で、製薬上許容されうる担体(例えば、生理食塩水または緩衝食塩水溶液)中に懸濁されうる。保護剤を適当な送達ベヒクル(例えば、高分子マイクロカプセルまたは移植可能な装置)中に封入すると、送達効率が向上しうる。本明細書に記載の任意の保護剤を製薬上許容されうる担体と組み合わせることにより、組成物が得られる。かような担体としては、以下に限定されないが、滅菌された水性または非水性の溶液、懸濁液、およびエマルションが挙げられる。非水性溶媒の例としては、鉱油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、および注入可能な有機エステルが挙げられる。水性の担体としては、以下に限定されないが、水、アルコール、食塩水、および緩衝液が挙げられる。保存料、香料、および、例えば抗微生物剤、抗酸化剤(例えば、プロピルガレート)、キレート剤、不活性ガスなどの他の添加剤もまた存在してもよい。哺乳動物への投与が予定されている本明細書に記載の材料はいずれも、1つ以上の製薬上許容されうる担体を含有しうるものである。
【0067】
これに代えて、またはこれに加えて、保護剤は、乳幼児の食料源(例えば、圧搾母乳または市販の乳幼児用食品)と組み合わされうる。本明細書に記載の任意の組成物が、宿主の体の任意の部位に投与されることができ、その後、消化管へと送達される。組成物は、例えば、哺乳動物の口、鼻粘膜、血液、肺、小腸、筋組織、皮膚、または腹腔に送達されうる。送達の経路について、組成物は、静脈内に、頭蓋内に、腹腔内に、筋肉内に、皮下に、筋肉内に、直腸内に、膣内に、気管内に、皮内に、もしくは経皮注入で、経口投与もしくは経鼻投与によって、または長時間の漸次灌流(gradual perfusion)によって投与されうる。さらに他の例では、組成物のエアロゾル製剤が吸入によって宿主に投与されうる。
【0068】
必要とされる保護剤の用量は、剤の性質、投与経路、製剤の性質、患者の病状の性質、患者の身長、体重、表面積、年齢、および性別、他の投与薬剤、並びに担当医師の判断に依存するものである。保護剤の多様性や種々の投与経路で効率が異なることに鑑みると、必要とされる用量は広く変動することが予想される。これらの用量レベルにおける変動は、本技術分野において周知のように、最適化のための経験に基づく常法を用いて調整されうる。投与は単回であっても複数回(例えば、2回もしくは3回、4回、6回、8回、またはそれ以上)であってもよい。保護剤を適切な送達ベヒクル(例えば、高分子マイクロカプセル)中に封入すると、送達効率が向上しうる。
【0069】
本明細書に記載の任意の組成物を用いた治療の期間は、1日から、上昇したリスクが臨床的に疑わしい限りその期間中(例えば、新生児集中治療室での滞在期間または乳幼児の期間)までの任意の期間でありうる。例えば、保護剤は、1日に複数回、1日1回、1週間に1回(例えば4週間から数ヶ月間)投与されうる。治療の頻度も変動しうることに留意すべきである。例えば、保護剤は、単回(もしくは2回、3回など)、毎日、毎週、または毎月投与されうる。
【0070】
本明細書に記載の任意の組成物の有効量は、疾患のリスクがある、または治療を必要とする個体に投与されうる。本明細書で用いられる場合、「有効」との語は、患者において所望の応答を誘導する一方で有意な毒性を誘導しない任意の量を意味する。かような量は、特定の組成物の既知の量を投与した後の患者の応答を評価することによって、決定されうる。また、毒性(もしあれば)のレベルは、特定の組成物の既知の量を投与する前と後での患者の臨床症状を評価宇することによって、決定されうる。患者に投与される特定の組成物の有効量は、所望の結果並びに患者の応答および毒性のレベルに応じて調整されうることに留意すべきである。有意な毒性は、特定の患者ごとに変動しうるし、以下に限定されないが、患者の疾患状態、年齢、および副作用に対する耐性などの複数の因子に依存する。
【0071】
本明細書に記載の保護剤は、感染性障害または炎症性障害(例えば、NEC、胃腸感染症または敗血症)のリスクがある個体に対する他の予防手段または治療手段と組み合わせて投与されうる。保護剤は、他の薬剤または治療手段を用いた治療の前に、これと同時に、またはこの後に、投与されうる。他の治療方法としては、抗生物質(バンコマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、セフォタキシム、クリンダマイシンまたはメトロニダゾール)の投与、IgGおよびIgAの腸内への共投与、アミノ酸補給、血小板活性化因子(PAF)アンタゴニストの使用またはPAF−アセチルヒドロラーゼの投与、多価不飽和脂肪酸の投与、上皮成長因子の投与、および出生前のコルチコステロイド類の投与が挙げられる。保護剤はまた、他の食事療法(母乳給餌、乳幼児用食品、非経口的液体、遅延されたまたは緩徐な給餌の慎重な管理)とともに、またはこれに加えて、投与されうる。
【0072】
分泌者としての状態に基づき、NECまたは胃腸感染症のリスクがあると同定された乳幼児の治療経過の判定方法もまた、提供される。乳幼児の食餌源中の分泌抗原(例えば、α1,2フコシルグリカン類)のレベルが、参照サンプル中における同一の分泌抗原のレベル比較されうる;食餌源中の分泌抗原のレベルは、参照サンプル中の分泌抗原のレベルと比較して減少しているかまたは上昇しているものとして分類されうる。分泌状態によってNECおよび胃腸感染症のリスクがあることが示されており、その食餌源中の分泌抗原のレベルが低下している乳幼児は、α1,2フコシルグリカン類、プロバイオティック有機体またはプレバイオティック剤の1つ以上を用いて治療されうる。
【0073】
乳幼児の食餌源は、乳幼児自身の母親もしくはドナー源のいずれか由来の乳汁、または市販の乳幼児用食品でありうる。母乳および製剤中の1つ以上の分泌抗原のレベルが、例えばELISA、クロマトグラフィまたは他の手法によって、上述した参照サンプル中のレベルと比較して、評価されうる。
【0074】
母乳のオリゴ糖は通常、還元末端にラクトース部位を含み、非還元末端にフコース部位を含む。オリゴ糖中へのフコースのα1,2結合による付加は、主として分泌遺伝子(Se(FUT2))によって生成されるフコシルトランスフェラーゼによって触媒される;α1,3またはα1,4結合によるフコースの付加は、ルイス遺伝子(Le(FUT3))またはこのファミリーの他のα1,3トランスフェラーゼ遺伝子群(FUT4、5、6、7、および9)によって触媒される。2−および3/4−フコシルトランスフェラーゼの活性の変動は、不活性な、または部分的に活性な遺伝子多型に基づくものである可能性がある。かような変動により、特定のフコシルオリゴ糖類の相対量が異なる乳汁の表現型が発現しうる。非分泌者である女性は、測定可能な量の2−結合フコシルオリゴ糖類を乳汁または他の体液中に発現していない。しかし、乳汁のフコシルオリゴ糖類の発現は分泌者間でも変動する可能性があり、1,3−および1,4−結合フコースのみを含有するフコシルオリゴ糖に対する1,2−結合フコシルオリゴ糖類の比率は、授乳の最初の1年間にわたって、指数関数的に減少する。
【0075】
適当なα1,2フコシルグリカン類の例としては、以下に限定されないが、H−2の類似体である2’−フコシルラクトース(2’−FL)、H−1の類似体であるラクト−N−フコペンタオース−I(LNF−I)、ルイスbの類似体であるラクト−N−ジフコヘキサオースI(LDFH I)、ルイスyの類似体であるラクトジフコテトラオース(LDFT)、並びに、ルイスaの類似体であるラクト−N−ジフコヘキサオースII(LNF−II)、およびルイスxの類似体であるラクト−N−ジフコヘキサオースIII(LNF−III)が挙げられる。コアタイプ1構造であるラクト−N−テトラオース(LNT)は、ラクトース上の末端Galβ1,3GlcNAcである。ラクトースは、乳汁中の最も豊富なタイプ2構造のコアである(2’−FL、3−FL、およびLDFT)が、LNF−IIIのコアは、ラクトース末端上のGalβ1,4GlcNAcであるラクト−N−ネオテトラオースである。他の組織において、ルイス構造部位はラクトサミン骨格(Gal−GlcNAc)に基づく;しかし、乳汁中で最も一般的なタイプ2フコシルオリゴ糖類は、ラクトース(Gal−Glc)から合成され、このためタイプ2ルイス構造に対するグルコース類似体として定義される。これらの構造のエピトープは、乳汁の種々の複合糖質に発現が見られ、これらの複合糖質もまた、予防および/または治療の目的で用いられうる。
【0076】
食餌源における分泌抗原のレベルが低下している乳幼児には、上述したα1,2フコシルグリカン類、プロバイオティック有機体またはプレバイオティック剤を供給することによって経腸的に補給してもよい。
【実施例】
【0077】
実施例1.細菌のコロニー化は腸管でのグリコシル化を誘導する
消化管におけるフコシル化グリカン類およびシアル化グリカン類の発現は発達中に変動し、これは授乳期間中の乳汁で見られる変化に類似したものである。マウス小腸では、Fut2mRNAおよびα1,2/3−フコシルトランスフェラーゼ活性が離乳時に急に上昇するのに対し、シアリルトランスフェラーゼ活性の発現は低下する。これらの2つの酵素活性の反転は、離乳時の粘膜でのグリカン発現の急激な変化および腸内微生物叢の組成の変化に一致するものである。これらの変化の誘導が固有の遺伝的プログラムによるものであるか、食餌もしくは成人の微生物叢による外因性の制御によるものであるかは、以下のように判定した。
【0078】
通常は離乳時に発現するフコシルトランスフェラーゼのアップレギュレーションは、無菌マウスでは起こらない。しかし、離乳後の無菌マウスをコロニー化すると、フコシルトランスフェラーゼおよびフコシル化が誘導される。これにより、細菌のコロニー化が粘膜表面のフコシル化を誘導していることが示唆された。このことは、抗生物質の混合物を摂取することによって細菌を欠乏させた(BD)成熟マウスで確認された。2週間後、Fut2mRNAおよびフコシルトランスフェラーゼ活性は無菌マウスで見られるレベルまで低下し、フコシルグリカン類(ハリエニシダ アグルチニン1[UEA−1]染色)はもはや大腸中に発現していなかった。抗生物質による治療を中止して正常な微生物叢を補充すると、正常にコロニー化された成熟消化管のレベルにまでFut2 mRNAおよびフコシルトランスフェラーゼ活性が回復し、粘膜表面上にフコシルグリカン類が完全に発現した。このことから、消化管のフコシル化はそのコロニー化によって制御されていることが確認された。
【0079】
細胞外のコロニー化が細胞内でのERK経路およびJNK経路の活性化をもたらすメカニズムには、未知の膜貫通受容体が関与しているものと仮説を立てた。膜貫通受容体のファミリーであるトール様受容体(TLR)は、微生物に特有のパターン認識分子の細胞外における存在を感知し、細胞間のシグナル伝達経路を介して核へとシグナルを伝達することが既に知られていた。そこで、大腸粘膜におけるFut2mRNAおよびフコシルトランスフェラーゼ活性の細菌による誘導をもたらす細菌と大腸粘膜との間での情報伝達に、TLRファミリーの1種が関与しているか否かを調べた。TLR2に変異があるマウスは、野生型マウスと同様に、コロニー化の喪失によって失われてしまう正常なフコシル化を示すことができる(図12、次頁)。これに対し、TLR4またはその下流メディエータであるMyD88の変異体は、完全なレベルのフコシル化を示さない。このフコシル化は、コロニー化の喪失の影響を受けないものである。このことは、細菌誘導性の粘膜フコシル化に必要なTLR4のシグナル伝達経路と一致する。細菌欠乏マウスにおけるTLR4自体の活性化が、Fut2発現を促進する伝達経路を活性化するのに十分であるか否かを調べる目的で、細菌欠乏マウスへの飲水中に、TLR4に特異的なリガンドであるLPSを投与した。BDマウス大腸のフコシルトランスフェラーゼ活性およびFut2mRNAは、超高純度LPSで処理すると正常な成体のレベルまで回復する。これに対し、TLR2のリガンドであるペプチドグリカン(PG)で処理したBDマウスでは、フコシルトランスフェラーゼ活性およびFut2 mRNAのレベルはBDマウスの低レベルにとどまった。これらの結果から、細菌欠乏マウスでのTLR4の結合および促進が、消化管のフコシル化をもたらす上皮核イベントへの成体の消化管微生物叢によるシグナル伝達に必要かつ十分な重要なシグナルであることが強く示唆される。フコシル化TLR4への結合がコロニー化誘導性の粘膜フコシル化に必須のシグナルであるならば、フコースに結合する微生物叢のサブセットがこの現象を反復することが予想される。混合微生物叢のフコース利用種を用いて、この仮説を検証した。バクテロイデス・フラジリスは、一般的な成熟哺乳動物の微生物叢において見られる特異的なフコース利用細菌である。細菌欠乏マウスをバクテロイデス・フラジリスで単一コロニー化すると、誘導Fut2 mRNAにより媒介される、混合微生物叢を用いた再コロニー化と同程度のフコシル化が誘導され、フコース発現の誘導に関与している混合微生物叢のフコース利用細菌と一致していた。仮にそうであるならば、右パネルに示されるように、フコースを利用できなくされたバクテロイデス・フラジリスの変異体は粘膜におけるフコシル化の誘導へのシグナル伝達能を喪失するはずである。そして、フコース利用細菌による細菌欠乏マウスでのフコシル化エピトープ(一見するとフコシル化TLR4である)の1セットへの結合は、小腸粘膜上でのフコシル化表現型の誘導に十分であるように見える。
【0080】
実施例2:入院乳幼児の唾液中の組織血液型抗原(グリカン類)
シンシナティ地域新生児集中治療室に入院している在胎期間(GA)24〜42週の36人の乳幼児を、2005年5〜12月の間に登録した。在胎期間によって1群あたり12人ずつの患者の3つの群(出生時で24〜28週、29〜32週、および33週以上)に階層化した。主要な先天異常と診断された乳幼児は除外した。シンシナティチルドレンズホスピタルメディカルセンター、グッドサマリタンホスピタルおよびユニバーシティホスピタルの施設内治験審査委員会により、本研究は承認されている。患者からは、書面によるインフォームドコンセントを得た。収集された母体の人口学的情報には、母体の年齢、人種、産科歴、現在の妊娠において生じた合併症、および妊娠中の母体への薬物治療が含まれていた。被験者登録に記録された臨床データおよび人口学的データには、人種、ジェンダー、在胎期間、出生体重、身長および頭囲が含まれていた。入院期間中の被験乳幼児について記録された臨床データには、呼吸補助の必要性およびその期間、経腸栄養の開始およびタイプ(母乳または製剤)、培養により判明した敗血症のエピソード、壊死性腸炎の発生(ベルの段階で2以上)、および抗生物質の使用の履歴が含まれていた。
【0081】
検体収集
唾液検体を、登録時および、入院している被験者については2週間毎に採取した。各被験者からは、最大で5サンプルを採取した。唾液検体については、食餌の1〜2時間後に、ソフトガーゼを用いて口中から残留している母乳または製剤を除去し、滅菌した綿棒を挿入することによって回収した。見た目上、綿棒が唾液で湿ったら、これを検体回収容器中に移した。検体を簡単に4℃に保持した後、−80℃に移した。全部で107の唾液サンプルを回収した。唾液で湿った綿棒を、1mLのリン酸緩衝食塩水(PBS)中で5分間溶かした。次いで、検体を10000×gで10分間遠心分離し、上清を回収した。各検体を100℃にて10分間煮沸し、4℃にて一晩静置した。サンプルを再度、10000×gで10分間遠心分離し、上清を回収し、100mLのアリコートに分割して、−80℃にて静置した。
【0082】
抗原検出アッセイのそれぞれについて、唾液サンプルの最適な希釈度を決定した。Lea、Lex、H−1、H−2、シアル化Leaおよびシアル化Lex抗原の検出には、1:50に希釈した唾液検体を用いた。Ley抗原の検出には1:125に希釈した唾液検体を用い、Leb抗原の検出には1:250に希釈したものを用いた。個々の被験者からの唾液サンプルの定量分析には、すべての抗原について1:50に希釈したものを用いた。サンプルを4℃にて一晩、マイクロタイタープレート(Dynex Immunlon)上にコーティングした。5%ブロットを用いてブロッキングした後、ルイス抗原およびABH抗原に特異的なモノクローナル抗体(MAb)を1:100希釈で用いた。組織血液型表現型の決定には、ヒト組織血液型抗原タイプに特異的な以下のMAbを用いた。MAb BG−4抗−Hタイプ1、BG−5抗Lea、BG−6抗Leb、BG−7抗Lex、およびBG−8抗Leyについては、Signet Laboratoriesより購入した。MAb BCR9031抗Hタイプ2
、BCR9010抗AおよびBCRM11007抗Bについては、Accurate Chemical and Scientific Corporationより購入した。シアル化Leaおよびシアル化Lexに対するMAbはEMDの製品であり、カタログ番号はそれぞれ565942および565953である。37℃にて1時間インキュベートした後、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)に共役したヤギ抗マウスIgG、IgG3またはIgM抗体を添加した。各工程の後、PBS/Tween溶液を用いてプレートを5回洗浄した。TMBキット(Kirkegard & Perry Laboratories)を用いて比色反応を検出し、EIAスペクトルリーダー(Tecan)を用いて450nmの波長で読み取った。
【0083】
唾液サンプル中に検出可能なレベルの抗原の存在が確認されたすべての乳幼児について、試験第1週および退院前にELISAによって得た平均光学密度の値(±標準誤差)を表1に示す。各抗原については、分けて検討した。本解析によって、未熟児では出生時からほとんどの分泌抗原(ルイスb、ルイスy、およびH−2)が存在すること、および、分泌抗原の発現は分娩後に増加することが示された。表1に示すように、分泌抗原のレベルは、その後の時点に回収されたサンプル(すなわち、退院後に乳幼児から採取されたサンプル)におけるレベルよりも高かった。ルイスb、ルイスyおよびルイスbおよびルイスyは、経時的に有意な増加を示した;他の分泌抗原(H−1およびH−2)のレベルもまた増加したが、増加の割合は統計的な有意性にまでは至らなかった。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例3:
一般化推定方程式(GEE)を用いて、分泌抗原の発現、分娩後の年齢、在胎期間、および抗生物質の使用の関係を分析した。分娩後第1週および「退院前」の24人の乳幼児から唾液サンプルを回収した。実施例1に記載の手法に従ったELISAにより、組織血液型抗原であるルイスa、ルイスx、ルイスb、ルイスy、H−1、H−2、シアル化ルイスa(SLea)およびシアル化ルイスx(SLex)のレベルを測定した。出生時の在胎期間に従って、乳幼児を22〜28週、29〜34週、および35〜40週の群に分類した。GEE分析には、従属変数として組織血液型抗原のOD値を用い(表2の第1カラムでは「モデル」と称されている)、独立変数としては分娩後の週齢、在胎期間の群、および抗生物質の使用日数を含めた。GEE分析について得られたβ係数を表2に示す。GEE分析により、経過(抗生物質による乳幼児の治療(1〜5日)として定義される)は、分娩後の分泌抗原の発現の低下と有意に関連していることが示された。
【0086】
【表2】
【0087】
実施例4:超低出生体重児(ELBW)の転帰の研究
シンシナティの新生児集中治療室で見られた192人の超低出生体重(<1000g)児のコホートで、出生後第1週(第1〜7日)および第2週(第8〜14日)に回収した唾液サンプルを用い、分泌抗原の発現、臨床転帰および壊死性腸炎(NEC)の関係を分析した。この分析はレベルIII新生児集中治療室を備えたシンシナティ地域の3つの病因で行なわれた前向き研究であり、乳幼児は2002〜2004年の間に登録された。除外基準には、主要な染色体異常または先天異常、嚢胞性線維症の診断、または担当の新生児生理学者によって生命の第1週の生存に不適合であると判断される医学的状態が含まれていた。登録後、唾液サンプルを人口学的データおよび臨床データと併せて採取した。その後、乳幼児からは週1回、唾液サンプルを回収した。食餌前の午前5時から午前10時の間に、看護師または研究スタッフが滅菌綿棒を乳幼児の口中に静置し、唾液で浸すことにより唾液を回収した。サンプルを−80℃にて凍結した。綿棒の綿部分を除去し、それを1mLシリンジ中に静置し、250mLの通常食塩水を用いて付着物を溶出することによって、綿棒から唾液を抽出した。図6は結果の散布図である。
【0088】
研究対象集団におけるNECの割合は7.8%(n=15)であった;後期発症敗血症の割合は34.9%(n=67)であった;死亡した割合は9.3%(n=18)であった。NECの15症例のうち、60%の症例で死亡が確認され、192人の被験乳幼児におけるNECによる死亡率は4.7%(n=9)であった。
【0089】
各乳幼児から採取され、まとめて保存された唾液サンプル中の組織血液型抗原であるルイスa、ルイスx、ルイスb、ルイスy、H1、H2、シアル化ルイスa(SLea)、およびシアル化ルイスx(SLex)のレベルを、実施例1に記載の手法に従ったELISAによって測定した。α1,2結合フコースを含有する1つ以上の抗原を発現している個体を、分泌者と判定した。20%(すなわち、39人の乳幼児)が非分泌者(分泌抗原が検出されない)として分類された;153人の乳幼児(80%)が分泌者として分類された。
【0090】
各個体のグリカン(分泌抗原である、ルイスおよびシアル化抗原)値を用いて、分類・回帰ツリー(CART)解析により、NECまたは死亡についての高リスク亜群を同定した。CART解析は、本研究のような臨床研究におけるリスクの診断マーカーまたは予測マーカーのためのアルゴリズムを同定するためのツリーベースの分割を利用する、確立された統計的手法である。再帰分割解析に基づく経験的な統計技術として、この手法はパラメータの仮定を必要とせず、プログレッシブ二値分割からなる決定木を介した連続的データまたはカテゴリデータの異なる値のセグメンテーションを伴うものである。予想値変数のそれぞれの値は潜在的分割とされ、最適な分割は、「不純物基準」を用いた症例と非症例との誤判別の最小化に基づいて選択される。この「不純物基準」は、当該ノードでのデータの二値分割に伴って生じる残差平方和の換算である。7つのすべての抗原について、CARTを用いて一度に解析して、各変数に対する最適なカットポイントを設定した。この工程(図1に部分的に示す)により得られたカテゴリー変数を次いで第2のCARTモデルに再度代入した。この工程では、H−2が第1の分割(図2を参照)として生じ、73人の乳幼児を、最低38パーセンタイル値以下で高リスク群であると判定した(OD値<0.627)。H−2低リスク群に分類された119人の乳幼児における6例のNECまたは死亡例(発生率5.0%、P<0.0001)と比較して、この群には18例のNECまたは死亡例(発生率24.7%)が含まれていた。唾液のH−2により高リスク群に分類された73人の乳幼児(「低分泌者」および非分泌者)の中で、CARTモデルにより第2の分割を行なった:19人が低リスクと分類され(NECまたは死亡例は1例、発生率5.2%)、54人が高リスクと分類された(NECまたは死亡例は17例、発生率31.5%)。このモデルにより、1つの高リスク群(低分泌者および非分泌者、31.5%リスク)および、5%に迫るほとんど同一のリスクを有する2つの低リスク群(高分泌者である119人、並びに、非分泌者および低分泌者であるが低sLeaである19人)が同定された。最後に、これらの3つのノードを最終CARTモデルに再度代入した:その結果は、高リスク群対他のすべてを同定する二値分割であった(図2および図3)。この単一の分割(H−2およびsLeaの組み合わせにより予測される高リスクカットポイント)は、曲線下面積による解析を実施する受信者によって発見されたものであり、全体の的中率は77であった。CART解析については図5および図6にまとめた。
【0091】
本発明の多くの実施形態について記載してきた。しかし、本発明の思想および範囲から逸脱しない限り、種々の変更がなされてもよいことは理解されうるであろう。
【技術分野】
【0001】
連邦支援研究に関する記載
本明細書に記載の研究のための財政的支援は連邦政府によってなされたものであり、連邦政府は本発明について何らかの権利を有しうる。
【0002】
技術分野
本願の開示は医療診断の分野に関し、より詳細には、幼年期における炎症性障害および感染性障害を評価および治療するための材料および方法に関する。
【背景技術】
【0003】
背景
幼年期における炎症性障害および感染性障害は、深刻な罹患率および死亡率と関連しうる。周産期に発生する炎症性障害および感染性障害(例えば、壊死性腸炎(NEC)、敗血症、および絨毛羊膜炎)は、新生児の死亡率における主要な原因である。NECは、新生児に発生する最も一般的な胃腸性の医学的および/または外科的な緊急疾患であり、超低出生体重児の7〜13%に発生し、腸の損傷および腸管壊死により特徴づけられる。NEC全体の死亡率は20〜40%の範囲にあり、また、未熟児の死亡率は50%を超えることが報告されている。症例の約30%において外科的侵襲を要し、外科的手術に関連した死亡率は50%もあることが報告されている。
【0004】
幼年期の炎症性障害および感染性障害の生存者であっても、重篤な短期および長期にわたる病的不全(代謝性合併症、反復性感染、神経発達の不良転帰、および成長の不良転帰など)に罹患する可能性があり、場合によっては繰り返しの外科的侵襲や長期入院を要することもありうる。
【発明の概要】
【0005】
概要
本明細書に記載の方法は、部分的には、我々が、乳幼児が死亡の高いリスクに瀕しているか否か、または、特定の炎症性もしくは感染性の障害(例えば、壊死性腸炎、敗血症、胃腸感染症、呼吸器感染症、および尿路感染症)を発症しやすいか否かを評価する方法を発見したことに基づいている。
【0006】
本明細書には:
(a)個体からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定すること、および、
(b)少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
を含み、少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルが前記所定の値と異なるか、または、前記所定の値の範囲から外れる場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、壊死性腸炎のリスクがある個体の同定方法が開示される。
【0007】
いくつかの実施形態において:個体は乳幼児(乳幼児は、例えば、新生児、低出生体重児、超低出生体重児、または未熟児である)である;少なくとも1つの分泌抗原は、α1,2結合フコース抗原および/またはα2,3シアル化抗原を含む;少なくとも1つの前記分泌抗原は、H−1抗原、H−2抗原、ルイスb抗原およびルイスy抗原並びにこれらの誘導体からなる群から選択される;当該誘導体は、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスyのシアル化型である;当該誘導体は、H−1、H−2、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスyの硫酸化型である;生体サンプルは、体液または組織である;当該体液は、唾液、血液、血漿、血清、尿、糞便、羊水、粘液、涙、またはリンパ液を含む;当該体液は唾液を含む;測定工程はイムノアッセイを含む;少なくとも1つの分泌抗原はH−1、H−2、ルイスbおよびルイスy並びにこれらの誘導体からなる群から選択され、測定レベルが所定の値よりも小さいか、または、所定の値の範囲よりも小さい場合に、個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする;所定の値または所定の値の範囲は、分泌者であるとされる個体の集団における少なくとも1つの分泌抗原の平均値を示す;少なくとも1つの分泌抗原の測定レベルが、分泌者のコントロール集団でみられる平均レベルよりも少なくとも10%小さい場合に、個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする;少なくとも1つの分泌抗原はH−2抗原である;
ある場合には、少なくとも1つの分泌抗原がシアル化ルイスaまたはその誘導体であり、測定レベルが所定の値よりも大きいか、または、所定の値の範囲よりも大きい場合に、個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする。この方法のある実施形態において:乳幼児は、新生児、低出生体重児、超低出生体重児、または未熟児である;生体サンプルは体液または組織である;当該体液は、唾液、血液、血漿、血清、尿、糞便、羊水、粘液、涙、またはリンパ液を含む;当該体液は、唾液を含む;測定工程はイムノアッセイを含む;所定の値または所定の値の範囲は、分泌者であるとされる個体の集団における少なくとも1つの分泌抗原の平均値を示す。
【0008】
本明細書にはまた:
(a)個体からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定すること、および、
(b)少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
を含み、少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルが前記所定の値と異なるか、または、前記所定の値の範囲から外れる場合に、前記個体は胃腸障害のリスクがあるとする、胃腸障害のリスクがある個体の同定方法が開示される。
【0009】
この方法のいくつかの実施形態において:個体は乳幼児である(例えば、新生児、低出生体重児、超低出生体重児、または未熟児);測定される抗原は、α1,2結合フコース抗原および/またはα2,3シアル化抗原を含む;分泌抗原は、H−1抗原、H−2抗原、ルイスb抗原およびルイスy抗原並びにこれらの誘導体からなる群から選択される;当該誘導体は、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスyのシアル化型である;当該誘導体は、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスyの硫酸化型である;生体サンプルは、体液または組織である;当該体液は、唾液、血液、血漿、血清、尿、糞便、羊水、粘液、涙、またはリンパ液を含む;当該体液は唾液を含む;測定工程はイムノアッセイを含む;少なくとも1つの分泌抗原は、H−1、H−2、ルイスbおよびルイスy並びにこれらの誘導体からなる群から選択され、測定レベルが所定の値よりも小さいか、または、所定の値の範囲よりも小さい場合に、個体は胃腸障害のリスクがあるとする;所定の値または所定の値の範囲は、分泌者であるとされる個体の集団における少なくとも1つの分泌抗原の平均値を示す;少なくとも1つの分泌抗原の測定レベルが、分泌者のコントロール集団でみられる平均レベルよりも少なくとも10%小さい場合に、個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする;少なくとも1つの抗原はH−2抗原である;胃腸障害は胃腸性炎症である;胃腸障害は胃腸感染症である;当該障害は後期発症敗血症である;当該胃腸感染症は、ブドウ球菌種、黄色ブドウ球菌、大腸菌、連鎖球菌種、エンテロバクター属菌種、クレブシエラ属菌種、バシラス属菌種、セラチア属菌種、カンジダ属菌種、ノーウォークおよび他のノロウイルス、カンピロバクター属菌種、ビブリオ属菌種、バクテロイデス属菌種、クロストリジウム属菌種、またはランブル鞭毛虫の1つ以上による感染を含む。
【0010】
本明細書にはさらに:
(a)個体からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定すること、
(b)少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
(c)少なくとも1つの前記分泌抗原の前記測定レベルが前記所定の値と異なるか、または、前記所定の値の範囲から外れる場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとすること、および、
(d)前記個体が壊死性腸炎のリスクがあるとした場合に、壊死性腸炎のリスクを治療または低減させる工程を行なうこと、
を含む、方法が開示される。
【0011】
本明細書にはまた:
(a)患者からの生体サンプル中のFUT2タンパク質またはFUT2をコードするmRNAのレベルを測定すること、および、
(b)FUT2タンパク質またはFUT2をコードするmRNAの測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
を含み、FUT2タンパク質またはFUT2をコードするmRNAの測定レベルが前記所定の値または前記所定の値の範囲よりも小さい場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、壊死性腸炎のリスクがある個体の同定方法が開示される。
【0012】
本明細書には:
(a)個体からの生体サンプルを準備すること、および、
(b)前記個体が、FUT2の発現または活性を低下させる遺伝子変異を有するFUT2遺伝子を有するか否かを決定すること、
を含み、前記個体がFUT2の発現または活性を低下させる遺伝子変異を有するFUT2遺伝子を有する場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、壊死性腸炎のリスクがある個体の同定方法が開示される。
【0013】
本明細書には:
(a)個体(例えば、乳幼児)からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定すること、および、
(b)少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
を含み、少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルが前記所定の値と異なるか、または、前記所定の値の範囲から外れる場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、死亡のリスクがある個体の同定方法。
【0014】
特に規定しない限り、本明細書において用いられるすべての技術用語および科学用語は、本発明の属する技術分野における当業者によって一般的に理解されるのと同一の意味を有するものとする。本発明を実施するためには、本明細書に記載されている方法および材料に類似した、またはこれと均等なものも用いられうるが、以下には適当な方法および材料を記載する。本明細書において言及されているすべての公報類、特許出願、特許、および他の文献は、その全体が参照により引用されている。矛盾が存在する場合には、本願明細書の記載が優先する。また、記載の材料、方法および実施例は例示のためのものにすぎず、何ら限定を意図したものではない。
【0015】
本発明の1つ以上の実施形態の詳細は、添付の図面および以下の詳細な説明に示されている。本発明の他の特徴、目的、および利点は、これらの詳細な説明および図面、並びに特許請求の範囲から明らかである。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1A】マウス結腸におけるフコシルトランスフェラーゼおよびFut2 mRNAの発現。(A)通常マウス(CONV)、無菌(GF)マウスおよび元無菌(XGF)マウスにおけるα1,2/3−フコシルトランスフェラーゼ。
【図1B】マウス結腸におけるフコシルトランスフェラーゼおよびFut2 mRNAの発現。(B)α1,2/3−フコシルトランスフェラーゼ活性。
【図1C】マウス結腸におけるフコシルトランスフェラーゼおよびFut2 mRNAの発現。(C)CONV、細菌欠乏(BD)マウスおよび細菌回復(XBD)マウスにおけるFut2mRNA。
【図1D】マウス結腸におけるフコシルトランスフェラーゼおよびFut2 mRNAの発現。(D)UEA−1レクチンおよび対応するノマルスキー画像により検出されたα1,2−フコシル化グリカンの発現。
【図2A】(A)腸でのフコシル化の細菌活性化にはTLR4の発現が必要である。
【図2B】(B)細菌回復マウスにおける粘膜フコシル化の活性化にはTLR4リガンドで十分である。
【図3A】B. fragilisによる単一コロニー化は腸のフコシル化を誘導する。
【図3B】B. fragilisによる単一コロニー化は腸のフコシル化を誘導する。
【図4】ヒストグラムは、24例のNEC例または死亡例(上段)および168例のコントロール(下段)を比較するための、光学密度(OD)として測定された唾液中のH−2抗原、Ley抗原、およびsLea抗原の分布を示す。8〜14日目(第2週)に、サンプルを回収した。表は、CART分析により同定されたリスク群を比較するための、NECまたは死亡の発生率、相対リスクおよびp値を示す。三角印は、高リスク群と低リスク群とを最も適切に区別するための、CART分析により同定された各抗原の連続値におけるカットポイントを示す(ノード)。表中、このカットポイントは、各抗原に対して付与されている。H−2についてのみ、NEC例および死亡例をコントロールと比較すると、OD値分布が有意に異なる(P=0.004、ウィルコクソン・マン・ホイットニー検定)。
【図5】CART分析の模式図。
【図6】シンシナティNICUのELBW(<1000g)の乳幼児192人から第2週に回収した唾液サンプルからEIAにより測定したH−2抗原およびsLeA抗原の光学密度(OD)の散布図;24人(12.5%)はNECに罹患したか、または死亡した。CART分析により高リスクセットおよび低リスクセットを体系的に同定して、症例と非症例(non-case)の誤判別を最小化した。高リスクに対するH−2のカットポイントは、OD<0.627と決定された(最小値38%、非分泌者の乳幼児を含む)。H−2の高リスク群では、73人の乳幼児で18症例が発生した(発生率=24.7%)のに対し、119人の乳幼児では6症例であった(発生率=5.0%;相対リスク[RR]=4.9、95%信頼区間[CI]=2.0〜11.8、P<0.0001)。高リスクに対するsLeaのカットポイントは、OC>0.318と決定された(最高値76%)。双方の高リスク群中の乳幼児(H−2低発現およびsLeaの高OD値により定義される)は、すべての他の乳幼児(低リスクセットとして定義され、138人の乳幼児のうち7症例(発生率=5.1%)を含んでいた)の合計と比較して、54人の乳幼児のうち17症例(発生率=31.5%)の図に示す高リスクセットを構成した。この分類の組み合わせによって、高リスク対低リスクの非常に有意な分割がもたらされた(RR=6.2、95%CI 2.7〜14.1、P<0.0001)。
【図7A】ヒトの「分泌者」であるFUT2 mRNAの配列。
【図7B】ヒトの「分泌者」であるFUT2 mRNAの配列。
【図8】ヒトの「分泌者」であるFUT2ポリペプチドの配列。
【発明を実施するための形態】
【0017】
詳細な説明
ABHおよびルイス組織−血液型抗原は、グリカン鎖の末端構造を示す炭水化物である。H型の組織−血液型抗原(例えば、Hタイプ1抗原およびHタイプ2抗原、ルイスb抗原およびルイスy抗原)は、α1,2結合したフコース末端を特徴とする。哺乳動物では、H型の組織−血液型抗原は、外部環境に直接接触している器官(例えば、上気道、鼻上皮および器官、並びに、陰部−尿路、尿管および膣、並びに、赤血球上、末梢神経系の特定ニューロン、胸腺上皮および皮膚)の上皮細胞などの広範なタイプの組織に見られる。いくつかのヒト集団において、約80%の個体はH型の組織−血液型抗原を体液(例えば、唾液、乳汁、血清、涙、汗および精液)中に可溶型で発現している。これらのヒト集団における残りの約20%の個体では、体液中の可溶型のH型組織−血液型抗原は存在しない型であるか、または極めて低レベルで確認される。これらの2つの表現型は、「分泌者」および「非分泌者」とそれぞれ称されており、可溶型のH型組織−血液型抗原は一般に、分泌抗原と称されている。他のヒト集団においては、非分泌者である個体の百分率は20%未満である。
【0018】
分泌者と非分泌者の亜集団間の表現型の相違の基礎は、フコシルトランスフェラーゼ2酵素をコードするFUT2遺伝子における遺伝子多型に起因しており、当該酵素は本技術分野において、α(1,2)フコシルトランスフェラーゼ2、EC2.4.1.69、SE2、SEC2、フコシルトランスフェラーゼ−2(分泌者)、GDP−L−フコース:β−D−ガラクトシド2−α−L−フコシルトランスフェラーゼ2、ガラクトシド2−α−L−フコシルトランスフェラーゼ2、分泌者血液型α−2−フコシルトランスフェラーゼ、分泌者因子、および膜貫通タンパク質2とも称されている。このFUT2遺伝子はまた、本技術分野において分泌遺伝子(Se)とも称されている。
【0019】
FUT2の遺伝子産物であるFUT2は、GDP−β−L−フコースおよびβ−D−ガラクトシル−R(ここで、Rは、糖タンパク質または糖脂質でありうる)からのα−L−フコシル−1,2−β−D−ガラクトシル−R構造の生成を触媒する。FUT2は、通常内胚葉由来の多くの器官(消化管、咽頭、肝、気道、膀胱、尿道および内分泌腺など)で発現しているが、これらの器官の内部では、FUT2の発現は組織の分化パターン(例えば、扁平上皮のケラチン化対非ケラチン化、腺組織の管対腺房、並びに、特定の細胞タイプ(例えば、子宮内膜における分泌細胞対繊毛細胞、および唾液腺における粘液細胞対漿液細胞))の関数でもある。分泌者は機能性FUT2を発現し、非分泌者は機能性FUT2を発現できない。このため、可溶性のH型組織−血液型抗原は合成されず、よって非分泌者の体液中には分泌されない。
【0020】
実施例の欄に記載の実験によれば、分泌者の状態および乳幼児のシアル化グリカンエピトープの発現はNECおよび死亡のリスクと相関していることが示される。より詳細には、H−2抗原を唾液中にほとんどまたはまったく発現していない超低出生体重児(ELBW)または未熟児、および高レベルのシアル化ルイスa抗原を唾液中に発現している乳幼児は、中レベルまたは高レベルのH−2抗原を唾液中に発現している乳幼児、またはシアル化ルイスa抗原を唾液中にほとんどまたはまったく発現していない乳幼児と比較して、NEC、後期発症敗血症および死亡といった臨床的な有害転帰を生じる傾向が有意に高いのである。
【0021】
本明細書には、炎症性障害または感染性障害(例えば、NEC、胃腸感染症、または後期発症敗血症)を生じるリスクのある個体の同定に関連した材料および方法が開示されている。より詳細には、乳幼児の分泌者としての状態を評価することによって、当該乳幼児は炎症性障害または感染性障害(例えば、NEC、胃腸感染症、または後期発症敗血症)のリスクがあると同定されうる。ある実施形態では、分泌抗原をまったく発現していない乳幼児、または参照サンプルと比較して低レベルの分泌抗原を発現している乳幼児が、NEC、胃腸感染症または後期発症敗血症のリスクがあると分類されうる。他の実施形態では、参照サンプルと比較して高レベルのシアル化ルイスa(sLea)抗原を発現している乳幼児が、NEC、胃腸感染症または後期発症敗血症のリスクがあると分類されうる。
【0022】
本明細書にはまた、炎症性障害または感染性障害(例えば、NEC、胃腸感染症、または後期発症敗血症)を生じるリスクのある個体の治療および管理の方法が開示されている。ある実施形態では、分泌者としての状態によってNEC、胃腸感染症または後期発症敗血症のリスクがあると同定された個体は、保護剤(例えば、プロバイオティック有機体またはα1,2フコシルグリカン類などのプレバイオティック剤)を含む特定の治療法を用いて治療されうる。ある実施形態では、乳幼児に対して供される母乳中の分泌抗原のレベルを評価し、参照サンプルと比較した食物源中の分泌抗原のレベルに基づいて当該乳幼児に対して保護剤(例えば、α1,2フコシルグリカン類、プロバイオティック有機体またはプレバイオティック剤)を含む特定の治療法を施すことにより、分泌者としての状態によってNEC、胃腸感染症または後期発症敗血症のリスクがあると同定された個体の治療の経過が評価されうる。
【0023】
分泌抗原
分泌抗原(すなわち、H型1抗原およびH型2抗原、ルイスb抗原およびルイスy抗原)は、α1,2結合でのフコース末端を含むグリカン類である。本明細書で用いられる場合、「グリカン類」との語は、グリコシド結合(すなわち、1つの単糖の(αまたはβ配置の)アノマー性ヒドロキシ基と第2の単糖における利用可能な任意のヒドロキシ基との間での共有結合であって、さらなる修飾(例えば、さらなる他の単糖単位、ポリペプチド、脂質または他の生体分子もしくは非生体分子との結合)とは無関係である)によって結合された2つ以上のサブユニットである単糖単位の化合物を意味する。少数(典型的には3〜35またはそれより多く)の構成糖を含有する糖ポリマーは、「オリゴ糖」と称されうる。本明細書に記載のすべてのオリゴ糖は、非還元糖(すなわち、Gal)の名称または略称と、それに続くグリコシド結合の配置(αまたはβ)、環結合(1または2)、そして次の糖(すなわち、GlcNac)の名称または略称を用いて、分子の還元末端へと向かって記載されている。標準的な糖生物学の命名法のレビューについては、Essentials of Glycobiology, Varki et al., eds., 1999, Cold Spring Harbor Laboratory Pressを参照されたい。
【0024】
分泌抗原の具体的な形態は多様であり、部分的には、最小二糖前駆体の構造またはコア配列(特定の抗原はこのコア配列から作製される)に依存しうる。このコア配列は、ラクトタイプI構造のガラクトース(β1−3)N−アセチルグルコサミン−R(ここでは「Gal(β1−3)GlcNAc」と略する)またはラクトタイプII構造のガラクトース(β1−4)N−アセチルグルコサミン−R(ここでは「Gal(β1−4)GlcNAc」と略する)のいずれであってもよい。最小の、非共役のコア配列において、RはHまたは他の小分子ラジカルである。二糖前駆体はまた、オリゴ糖として、または糖脂質、ペプチド、タンパク質、ムチンもしくは他の高分子のグリカン部位として、より長いグリカン類と共役していてもよい。
【0025】
ここで例えば、H−1抗原は、タイプI前駆体のガラクトース部位へのα1,2結合によるフコース残基のFUT2(またはFUT1)触媒性の付加(これにより、{フコース(α1−2)ガラクトース(β1−3)N−アセチルグルコサミン}(ここでは{Fuc(α1−2)Gal(β1−3)GlcNAc}と略する)なる構造が生成する)による当該タイプI前駆体を由来とするものである。このH−1抗原は、他の分泌抗原であるルイスbの構造的前駆体である。このルイスb分泌抗原は、H−1構造に加えて、GlcNAc部位への非末端のα1,4結合による第2のフコース残基を{フコース(α1−2)ガラクトース(β1−3)[フコース(α1−4)]N−アセチルグルコサミン}(ここでは{Fuc(α1−2)Gal(β1−3)[Fuc(α1−4)]GlcNAc}と略する)の配置で含む。
【0026】
これに対応して、H−2抗原は、タイプII前駆体のガラクトース部位へのα1,2結合によるフコース残基のFUT2(またはFUT1)触媒性の付加(これにより、{フコース(α1−2)ガラクトース(β1−4)N−アセチルグルコサミン}(ここでは{Fuc(α1−2)Gal(β1−4)GlcNAc}と略する)なる構造が生成する)による当該タイプII前駆体を由来とするものである。このH−2抗原は、他の分泌抗原であるルイスyの構造的前駆体である。このルイスy分泌抗原は、H−2構造に加えて、GlcNAc部位への非末端のα1,3結合による第2のフコース残基を{フコース(α1−2)ガラクトース(β1−4)[フコース(α1−3)]N−アセチルグルコサミン}(ここでは{Fuc(α1−2)Gal(β1−4)[Fuc(α1−3)]GlcNAc}と略する)の配置で含む。
【0027】
分泌抗原は、α1,2フコースで置換された単一のコア配列を含んでもよく、この際、Rは、Hまたは他の小ラジカルである。あるいは、分泌抗原は、繰り返しの置換コア配列を含んでもよく、この際、Rは、他のコア配列である。単一のコア配列および繰り返しコア配列は、より大きな糖の内部に存在しうる。よって、分泌抗原を含有するオリゴ糖は、例えば、三糖、四糖、五糖などでありうる。分泌抗原はまた、他の高分子(例えば、ポリペプチドまたは脂質)に対して共有結合していてもよい。単一の置換コア配列はまた、ポリペプチドまたは脂質に対して直接結合していてもよく、例えば、Rは、タンパク質もしくは脂質であってもよいし、またはポリペプチドもしくは脂質に結合した多糖中に存在していてもよい。分泌抗原は、N−結合グリコシル化を介して(すなわち、アスパラギン残基を介して)、またはO−結合グリコシル化を介して(例えば、セリン、スレオニン、ヒドロキシプロリン、チロシンもしくは他のヒドロキシ基含有残基を介して)ポリペプチドに共有結合していてもよい。分泌抗原を含む糖タンパク質としては、例えば、以下に限定されないが、ムチン類、胆汁酸塩活性化リパーゼ(BSSL)、およびラクトアドヘリンが挙げられる。分泌抗原を有する脂質としては、以下に限定されないが、H−1糖脂質、H−2糖脂質、Lex糖脂質、およびLey糖脂質が挙げられる。
【0028】
ルイス抗原
ルイス抗原は、α1,3−またはα1,4−結合フコシル化オリゴ糖部位であるルイスエピトープを含有する(すなわち、H−1、H−2、Lea、Leb、Lexおよび/もしくはLeyエピトープを含有する)任意のグリカンとして存在しうる。ルイス抗原としては、遊離オリゴ糖類、糖脂質類、糖タンパク質類、ムチン類、グリコサミノグリカン類、および糖ペプチド類が挙げられる。個体は、上述したH−1、H−2、Lea、Leb、Lexおよび/またはLeyエピトープを発現するグリカン類を発現することができる。
【0029】
シアル化抗原
シアル化抗原は、遊離オリゴ糖類、糖脂質類(例えば、ガングリオシド類)、糖タンパク質類、ムチン類、グリコサミノグリカン類、および糖ペプチド類などの、シアル化抗原を含有する任意のグリカンとして存在しうる。個体は、ガングリオシド類並びに、シアル化ルイスa(sLea)、sLeb、sLexおよび/またはsLeyエピトープを発現する他のグリカン類などの、シアル化エピトープを発現することができる。
【0030】
分泌抗原のアッセイ
1以上の分泌抗原のレベルは、分泌抗原を含むことが本技術分野において知られている任意の体液中で測定されうる。体液の例としては、以下に限定されないが、唾液、血清、血漿、乳汁、羊水、汗、尿、涙、粘液、リンパ液、および糞便が挙げられる。体液サンプルは、分泌抗原の構造を保存したままにできる、本技術分野において公知の任意の常法を用いて個体から回収されうる。唾液サンプルは、綿棒、ティッシュ、吸引、掻爬を用いて、または個体に口を漱がせ、チューブもしくは回収容器中に吐き出させることによって回収されうる。血液サンプルは、静脈穿刺術によって得ることができる。血清サンプルは、血餅としてもよい血液サンプルを遠心分離するなどの常法を用いて全血から調製されうる。血漿サンプルは、ヘパリンなどの抗凝血剤で処理された血液サンプルを遠心分離することによって得られる。乳汁は、手動で、または機械的圧搾によって回収されうる。生体サンプルは、回収後速やかに、分泌抗原についてアッセイされうる。あるいは、またはこれに加えて、分泌抗原の構造を保存できる本技術分野において公知の方法(例えば、凍結、乾燥、または凍結乾燥)を用いて、生体サンプルを後の分析のために保管してもよい。
【0031】
生体サンプル中の特定の分泌抗原のレベルを測定した後、これらのレベルは標準参照レベルと比較されうる。標準参照レベルは通常、個体の大集団から得られた平均的な分泌抗原レベルを表す。参照集団は、年齢、体重、民族的背景または全般的な健康について、問題となる個体と類似している個体を含んでもよい。参照集団のFUT2の遺伝子型は、既知であっても未知であってもよい。こうして、患者サンプル中の分泌抗原レベルは、1)野生型FUT2を発現し、体液が分泌抗原を含有している個体、2)FUT2の変異型を発現し、中程度から低いFUT2活性を示し、体液が低レベルの分泌抗原を含有している個体、または、3)FUT2活性をほとんどまたはまったく示さず、体液が分泌抗原を含んでいない個体から得られる値と比較されうる。
【0032】
一般に、上昇した分泌抗原のレベルは、コントロールサンプルで見られる分泌抗原のレベルよりも大きいか、または、分泌者である健常個体の集団からのサンプルで見られる分泌抗原の平均レベルよりも大きい任意の分泌抗原レベルでありうる。減少した分泌抗原のレベルは、コントロールサンプルで見られる分泌抗原のレベルよりも小さいか、または、分泌者である健常個体の集団からのサンプルで見られる分泌抗原の平均レベルよりも小さい任意の分泌抗原レベルでありうる。分泌者である健常個体の集団からのサンプルで見られる分泌抗原の平均レベルを測定するには、任意の集団サイズが用いられうる。健常個体の集団からのサンプルにおける分泌抗原の平均レベルを、より多くのサンプル集団由来の測定においてより正確に測定するには、例えば、2〜250(例えば、2、3、4、5、10、15、20、25、30、40、50、100、150、200、250またはより多くの個体)の集団が用いられうる。
【0033】
減少した分泌抗原レベルは、コントロールサンプルで見られるレベル、または健常個体の集団からのサンプルで見られる分泌抗原レベルよりも10、20、30、50、60、70、80、90、100%小さいものでありうる。ある場合には、減少した分泌抗原レベルは、コントロールサンプルで見られるレベル、または健常個体の集団からのサンプルで見られる分泌抗原の平均レベルよりも2倍、3倍、4倍、5倍、10倍、20倍、50倍またはそれ以上低いものであってもよい。
【0034】
ある場合には、サンプル中の特定の分泌抗原の特定のレベルがコントロールサンプルまたはより大きい集団と比較して低いかまたは正常であるか否かを測定するのに、参照チャートが用いられうる。例えば、参照チャートは、問題となる個体と年齢、在胎月齢、民族的背景または全般的な健康が同じである健康な乳幼児で見られる分泌抗原レベルの正常範囲を含みうる。この参照チャートを用いて、サンプル中で測定される分泌抗原の任意のレベルが、コントロールサンプルと比較して、またはより大きい集団由来の平均値と比較して、低いか、正常であるか、または上昇しているものとして分類されうる。
【0035】
あるいは、またはこれに加えて、生体サンプル中の分泌抗原のレベルは1つ以上の追加の生体マーカー(例えば、P抗原またはシアル化抗原などの、発現が個体の分泌者としての状態とは独立している他の組織−血液型抗原)のレベルに対して「規格化」されてもよい。すなわち、追加のマーカーのレベルは、同時または別の場面のいずれかにおいて、分泌抗原のレベルと並行して上昇しうる。この追加マーカーは、サンプル調製、取扱い、および保管、並びに日常のアッセイにおける変動に対する内部コントロールとして機能しうる。分泌抗原および追加マーカーのレベルの値は、比率として表現されてもよく、この比率が参照のサンプルまたは集団について得られた類似の比率と比較されてもよい。有用な第2マーカーの例としては、以下に限定されないが、発現が分泌者(FUT2)の発現とは独立しているルイス抗原(すなわち、ルイスaおよびルイスx)が挙げられる。ルイス抗原は一般的に、コア配列として、1以上のフコシル残基で置換されたラクトタイプI構造またはラクトタイプII構造を有する炭化水素を含む。よって例えば、有用な第2のマーカーは、ルイスa{ガラクトース(β1−3)[フコース(α1−4)]N−アセチルグルコサミン}(ここでは{Gal(β1−3)Fuc(α1−4)GlcNAc}」と略する)もしくはルイスx{ガラクトース(β1−4)[フコース(α1−3)]N−アセチルグルコサミン}(ここでは{Gal(β1−4)Fuc(α1−3)GlcNAc}」と略する)、またはこれらのエピトープのシアル化型、硫酸化型もしくはスルホシアル化型でありうる。一般的に発現している他の非ルイス血液型抗原もまた用いられてもよく、Lua(ルーテルa)、P1&P2(P血液型系の主要な抗原)、M&N、Fya&Fyb(ダフィー式の抗原)などが挙げられる。
【0036】
また、個体の遺伝子発現レベルの確率的変動は生体系には一般的であることから、その発現が個体の分泌者としての状態とは独立していることが知られている2以上の追加の生体マーカーのパネルに対して分泌抗原のレベルを規格化することが望ましいかもしれない。この手法によれば、分泌抗原レベルがより正確に測定されうる。
【0037】
参照サンプルの分泌抗原レベルと比較して、個体における分泌抗原の相対レベルを算出したら、当該個体の胃腸炎、壊死性腸炎、後期発症敗血症または死亡に関する相対リスクが評価されうる。相対リスクを評価するための本技術分野において公知の任意の統計的手法が用いられうる。1つの適法な手法は、分類・回帰ツリー(CART)特性曲線分析である。CART分析は、ノンパラメトリック回帰法のファミリーに属し、個体の高リスク群および低リスク群への分類を最適化する決定木を構築するための再帰分割に基づくものである。このCART分析は、試験の感度(すなわち、検出された真の症例の数)と特異性(すなわち、正確さ)とのバランスに基づき、予測値を最大化して、症例と非症例との誤判別を最小化する、連続型変数におけるカットポイントを体系的に決定するのに適用されうる。これらの2つの変数はまた、正の予測値および負の予測値として考慮されることができ、診断の正確さと関連している。CART分析により作製された決定木は、曲線下面積(AUC)を決定するための受信者操作特性曲線(ROC)分析によって検証されうる。なお、このAUCは、症例と非症例とを区別するための決定木の関係の有効性を示すものである。
【0038】
一例では、CART分析によって、H−2の唾液中発現(OD値により測定)で低分泌者または非分泌者(すなわち、38パーセンタイル以下)と分類された個体はNECおよび死亡のリスクが増大していることが示されている。そして、分泌抗原のレベルが38、33、30、25、20、15、10、5またはそれ以下のパーセンタイル値である個体は、分泌抗原レベルが38パーセンタイルよりも大きい個体よりもNECに罹患し、または死亡する傾向が4〜5倍である。分泌抗原をほとんどまたはまったく発現していない個体では、最高リスク群は高レベルのシアル化ルイスa抗原をも発現している個体によって規定される。分泌抗原をほとんどまたはまったく発現しておらず、高レベルのシアル化ルイスa抗原を発現している乳幼児では、他のすべての乳幼児と比較してNECまたは死亡のリスクが6倍を超える。よって、高リスク群は、ほとんどもしくはまったくないH−2抗原の発現単独によって、または、ほとんどもしくはまったくないH−2抗原と中〜高レベルのシアル化ルイスa抗原との組み合わせによって規定されうる。この組み合わせと、他の臨床指標に基づき、臨床医は、患者がNECのリスクがある可能性を予測し、適宜治療計画を調整することができる。
【0039】
個体の分泌者としての状態は、種々の手法によって決定されうる。分泌抗原のレベルは、体液中で直接測定されうる。例えば、分泌抗原のレベルは、免疫ベースのアッセイ(例えば、ELISAアッセイ、ラジオイムノアッセイ、免疫検出と共役した1次元または2次元の電気泳動)を用いて、または表面プラズモン共鳴ベースのバイオセンサを用いて、またはクロマトグラフィ技術(例えば、高速液体クロマトグラフィ(HPLC)もしくはガスクロマトグラフィ(GC))を用いて、または分光分析(例えば、質量分析)によって、測定されうる。あるいは、またはこれに加えて、標準的な酵素的手法を用いて生体サンプル中のFUT2活性が測定されうる。また、本技術分野において周知の種々の手法(例えば、RT−PCRもしくは定量的RT−PCR(例えば、Kroupis C, Stathopoulou A, Zygalaki E, Ferekidou L, Talieri M, Lianidou ES. Clin Biochem. 2005 Jan;38(1):50-7, Dyer J, Chisenhall DM, Mores CN. J Virol Methods. 2007 Oct;145(1):9-13)、または、cDNAもしくはオリゴヌクレオチドマイクロアレイなどの定量的なハイブリダイゼーションベースの技術(例えば、Duggan D. J., Bittner M., Chen Y., Meltzer P. and Trent J. M. Nat Genet 21(1 Suppl):10-4 (1999);Cheung V. G., Morley M., Aguilar F., Massimi A., Kucherlapati R. and Childs G. Nat Genet 21(1 Suppl):15-9 (1999)))を用いてFUT2 mRNAレベルを定量してもよい(生体サンプル中のFUT2活性のレベルの代わりとして)。
【0040】
ヒト分泌型FUT2 mRNAの配列を図7に示し(GenBank(登録商標)アクセッション番号NM_000511.4)、ヒト分泌型FUT2タンパク質の配列を図8に示す(GenBank(登録商標)アクセッション番号NP000502.4)。
【0041】
最終的に、個体のFUT2の遺伝子型は、一塩基多型分析(SNP)またはRT−PCRベースの技術によって決定されうる。
【0042】
イムノアッセイ
イムノアッセイ法は、本技術分野の当業者には周知である。特定の分泌ルイス抗原(例えば、H−1、H−2、ルイスb、およびルイスy)並びに他のルイス抗原(例えば、ルイスaおよびルイスx)を検出する抗体試薬は、抗体作製のための常法を用いて作製され、または商業的販売者から購入されうる。抗体は、モノクローナルもしくはポリクローナル、またはこれらの組み合わせでありうる。有用な抗体としては、分泌抗原またはグリカンエピトープに特異的な、モノクローナルおよびポリクローナル抗体、単一鎖抗体、キメラ抗体、二価/二重特異性抗体、ヒト化抗体、ヒト抗体、および相補性決定領域(CDR)−グラフト抗体が挙げられ、Fab、Fab’、F(ab’)2、scFv、Fv、キャメルボディまたはミクロ抗体などの抗体断片もまた挙げられる。また、特定の分泌抗原に特異的に結合してこれを検出できる核酸試薬またはペプチドアプタマー試薬は、文献に記載の常法を用いて作製されうる(例えば、分子診断のための大規模アッセイにおけるアプタマー類の利用、Brody E. N., Willis M. C., Smith J. D., Jayasena S., Zichi D. and Gold L. Mol Diagn 4(4):381-8 (1999))。
【0043】
そして、ある実施形態では、特異的な抗H−1、抗H−2、抗ルイスb、もしくは抗ルイスyモノクローナル抗体またはアプタマーは、H−1およびH−2、ルイスb、並びにルイスy以外の抗原に対して、それぞれ約1×105Ka未満の結合親和性を有しうる。ある実施形態では、抗H−1、抗H−2、抗ルイスb、または抗ルイスy抗体は、H−1、H−2、ルイスb、およびルイスyに対して少なくとも1×108Kaの親和性で結合するモノクローナル抗体である。
【0044】
抗H−1、抗H−2、抗ルイスb、および抗ルイスy抗体またはアプタマーを作製するには、それぞれ任意の形態(最小の三糖もしくは二糖構造またはそのエピトープ含有断片、およびこれらのエピトープを含有する任意のグリカンなど)のH−1およびH−2、ルイスb、並びにルイスyが用いられうる。特に適切な抗H−1、抗H−2、抗ルイスb、および抗ルイスy抗体またはアプタマーは、インビボでそれぞれの標的を認識してこれに結合するのに十分な親和性および特異性を有するものである。本明細書で用いられる場合、エピトープとの語は、グリカンの抗原決定基を意味する。
【0045】
炭水化物に特異的に結合する抗体またはアプタマーは、1)結合活性のしきいレベルを示し、および/または2)既知の関連グリカン分子とは有意に交差反応しない分子でありうる。抗体またはアプタマーの結合親和性は、本技術分野における当業者により、例えばスキャッチャード解析(Scatchard, Ann. NY Acad. Sci. 51: 660-672, 1949)によって、容易に決定されうる。ある実施形態では、抗体またはアプタマーはその標的エピトープまたは疑似デコイに対して、標的グリカンにつき当該標的グリカンといくらかの相同性を有する他のグリカンに対するよりも、少なくとも1.5倍、2倍、5倍、10倍、100倍、103倍、104倍、105倍、106倍またはそれ以上の親和性をもって結合することができる。
【0046】
ある実施形態において、抗体またはアプタマーは、H−1もしくはH−2、ルイスb、またはルイスyに対して、10−4M未満、10−7未満、10−9未満もしくはそれ以下の高い親和性で、またはnM未満の親和性(0.9、0.8、0.7、0.6、0.5、0.4、0.3、0.2、0.1nMまたはさらに低い場合もある)で結合する。ある実施形態において、抗体またはアプタマーのH−1もしくはH−2、ルイスb、またはルイスyに対する結合親和性は、少なくとも1×106Kaである。ある実施形態において、抗体またはアプタマーのH−1もしくはH−2、ルイスb、またはルイスyに対する結合親和性は、少なくとも5×106Kaであり、少なくとも1×107Kaであり、少なくとも2×107Kaであり、少なくとも1×108Kaであり、またはこれよりも大きい。抗体またはアプタマーはまた、自身のH−1および/もしくはH−2、ルイスa、ルイスb、ルイスx、並びに/またはルイスyに対する結合親和性の観点から記載され、または特定されてもよい。ある実施形態において、結合親和性は、5×10−2M未満、5×10−5M〜5×10−7M、5×10−8M〜5×10−10M、5×10−12M〜5×10−14M、またはそれより小さいKdを有するものである。
【0047】
抗体またはアプタマーは、本技術分野の当業者に公知のクロマトグラフィ法(イオン交換およびゲル濾過クロマトグラフィ(例えば、Caine et al., Protein Expr. Purif. (1996) 8(2):159-166))によって精製されうる。あるいは、またはこれに加えて、抗体またはアプタマーは商業的販売者(例えば、Abcam、Biovendor Laboratory、Calbiochem、Signet Laboratories、Accurate Chemical and Scientific Corporation、およびEMD)から購入されてもよい。
【0048】
分泌抗原のレベルは、本技術分野の当業者に公知の任意のイムノアッセイ形式を用いて生体サンプル中で測定されうる。例えば、非競合イムノアッセイでは、分泌抗原は2つの抗体(捕捉抗体および検出抗体)の間に「サンドイッチ」される。一般に、捕捉抗体はチューブまたはウェルなどの固相に共有結合または非共有結合しており、検出抗体はELISAアッセイの場合には酵素と共役しており、RIAアッセイの場合には放射性標識されている。ELISAアッセイでは、検出抗体は酵素に共有結合していてもよいし、生体共役を介して酵素と連結された二次抗体によって自身が検出されてもよい。抗体の特異的な結合は、開裂によって検出可能で定量可能なシグナルを生成する酵素の基質(例えば、発色性分子または蛍光性分子)を添加することによって分析される。RIAアッセイでは、抗体の特異的な結合は担体に結合した放射能のレベルを測定することによって定量される。
【0049】
競合的なイムノアッセイでは、サンプル中の抗原(分析対象)は、標識された抗原(トレーサー)と、限られた数の抗体結合部位を求めて競合する。抗体に結合していない過剰な分析対象から、結合した抗体を分離する。未知のサンプル中の分析対象の量は、ガンマカウンタまたは分光光度計で測定された標識抗原の量に逆比例する。競合的なイムノアッセイの例としては、二重抗体ラジオイムノアッセイ(RIA)、被覆チューブRIA、および被覆ウェル酵素イムノアッセイ(EIA)が挙げられる。用いられうる固相担体のいくつかの例としては、プレート、チューブ、ポリスチレンビーズ、ナイロン、ニトロセルロース、セルロースアセテート、ガラスファイバおよび他のタイプの多孔質ポリマーが挙げられる。適当な標識としては、放射性核種、フルオロフォア、化学蛍光標識、生物発光標識、酵素が挙げられ、例えばELISA系で用いられる場合には、金コロイドまたは量子ドットなどの染料または粒子が挙げられる。
【0050】
1以上の特定の分泌抗原およびルイス抗原を同時に検出するように設計されたアッセイ系およびキットもまた、本願の方法の範囲内のものである。当該キットは、ディップスティック、フロースルーまたはマイグラトリーといった形式であってもよいし、本技術分野の当業者に公知の他の形式であってもよい。所望により、アッセイを自動化して標準化を保障し、高スループットを達成することができる。
【0051】
FUT2活性のアッセイ
FUT2活性は、FUT2に特異的な、本技術分野において公知の任意の常法を用いて、生体サンプル中で測定されうる。例えば、3μM GDP−[14C]フコース、5mM ATP、25mMリン酸ナトリウム(pH6.0)、40μg全タンパク質(細胞抽出物由来)、およびアクセプタ基質としてフェニルβ−D−ガラクトシドまたはアシアロフェツインを含有する20μLの反応体積中で、フコシルトランスフェラーゼアッセイが行なわれうる。反応混合物を37℃にて2時間インキュベートし、水1mLの添加によって終結させる。反応産物をC18逆相カラムを通すことによって、疎水性のフコシル化フェニルβ−D−ガラクトシド産物を精製する。放射性標識アシアロフェツイン産物は、マイクロファイバメンブレン(GF/C;Whatman)を用いた濾過により精製し、液体シンチレーションカウントによって放射能を測定する。Nanthakumar NN, Dai D, Newburg DS, Walker WA.The role of indigenous microflora in the development of murine intestinal fucosyl- and sialyltransferases. FASEB J (November 15, 2002) 10.1096/fj.02-0031fje (summary: FASEB J 2003;17:44-6)。
【0052】
FUT2ジェノタイピング解析
FUT2のジェノタイピングは、本技術分野において公知の任意の常法(例えば、SNP解析またはRT−PCR技術)により、行われうる。FUT2活性レベルの低下をもたらすものとして同定されているSNPとしては、TRP143TER(428G−A)およびILE129PHE(385A−T)が挙げられる。FUT2遺伝子の完全な欠損もまた、ある非分泌者では観察されている。一塩基多型(SNP)を検出するための手法は本技術分野において周知である:例えば、Ahmadian A., Gharizadeh B., Gustafsson A. C., Sterky F., Nyren P., Uhlen M. and Lundeberg J. Anal Biochem 280(1):103-10 (2000); Griffin T. J., Hall J. G., Prudent J. R. and Smith L. M. Proc Natl Acad Sci U S A 96(11):6301-6 (1999); Nickerson D. A., Kaiser R., Lappin S., Stewart J., Hood L. and Landegren U. Proc Natl Acad Sci U S A 87(22):8923-7 (1990)。
【0053】
他のアッセイ
α−1−フコースと特異的に反応するレクチンであるハリエニシダ(Ulex europaeus)レクチンが、分泌抗原(特に、H−2)を検出するための基礎として用いられうる。金コロイドに共役したハリエニシダレクチンを、適当な条件下で分泌抗原を含有するサンプルに曝露すると、ハリエニシダ−金コロイドは凝集し、検出可能な色の変化をもたらす。
【0054】
概説すると、金コロイドの安定化に要するハリエニシダ(UEA1)(Sigma-Aldrich; St Louis, MO)の最小量および最適pH条件を決定した後、UEA1を金コロイドに共役させる。ニトロセルロース片上に、未処理の被検唾液2μLを添加し、5b分間静置して乾燥させる;カゼインの1.0%TBS溶液200μLを添加し、室温にて3分間インキュベートする。カゼイン溶液を廃棄する;UEA1−金コロイド共役体150μLを、カゼインの0.05%TBS溶液で適切に希釈して添加し、10分間インキュベートする。検出可能な色の変化が生じたら、サンプル中に分泌抗原が存在することが示される。コントロールサンプルは、H−2陽性またはH−2陰性であることが既知の唾液サンプルである。
【0055】
治療の手法
本明細書に開示されている方法はまた、感染性障害および炎症性障害のリスクがある乳幼児の治療にもまた有用である。治療によって、感染性障害または炎症性障害の一部またはすべての兆候および症状が完全にまたは部分的に除去され、症状の重篤性が低減され、発症が遅らせられ、あるいは後続して生じる症状の進行または重篤性が緩和されうる。
【0056】
上記の治療方法は、感染性障害および炎症性障害に有用である。この方法は、満期出産児、未熟児または超低出生体重児に用いられうる。満期出産児は、37〜42週の在胎期間を経て出生したものである;未熟児は通常、37週未満の在胎期間で出生したものである。超低出生体重児(ELBW)は通常、1000g(2ポンド3オンス)未満の出生体重により規定される。ELBWの乳幼児の大部分はまた、未熟児のなかでも最も若く、通常は27週以下の在胎期間で出生する。低出生体重児(<2500g)の約10人に1人が、ELBWの乳幼児である。
【0057】
本明細書に記載の方法を用いて検出されうる感染性障害および炎症性障害としては、壊死性腸炎(NEC)、胃腸感染症、胃腸炎、および敗血症が挙げられる。これらの障害は、疾患、損傷または未知の原因の結果であることもあり、また、個体の遺伝的構成の影響を受けることもある。
【0058】
NECでは、腸管の一部が壊死(すなわち、組織死)を起こす。NECは消化管に症状を引き起こすが、重篤な症例では深刻な全身性の症状をもたらす。初期症状はわずかなものである場合があり、摂食不耐性、胃内容排出遅延、腹部の膨満および/または圧痛、イレウス/腸音遅延、並びに、進行段階では、腹壁紅斑および血便の1つ以上が挙げられる。全身性の兆候は非特異的なものであり、無呼吸、倦怠感、末梢循環不全、ショック(進行した症例)、心血管虚脱および出血性素因(消費性凝固障害)の任意の組み合わせが挙げられる。検査所見の非特異的な異常としては、低ナトリウム血症、代謝性アシドーシス、血小板減少症、左方移動を伴う白血球減少症または白血球増加症、好中球減少症、プロトロンビン時間延長および活性化部分トロンボプラスチン時間延長、フィブリノゲンの減少、並びにフィブリン分解物の上昇(消費性凝固障害の症例)。正確な病因は不明であるが、多因子性であって、異常細菌叢、腸虚血および/または再灌流障害、並びに腸管粘膜の未成熟のいずれかまたはすべてを伴うものであろう。
【0059】
幼年期における胃腸感染症は、下痢、糞便中の粘液または血液の存在、嘔吐、脱水、口渇、倦怠感、粘膜の乾燥、泉門の陥没、皮膚緊張の低下、毛細血管充満時間、頻脈、弱い脈拍、低血圧、および皮膚緊張のテンティングまたは喪失といった症状を伴う。感染の作用因子は、細菌、真菌、ウイルスまたは寄生生物でありうる。細菌性の作用因子の例としては、以下に限定されないが、ブドウ球菌種、黄色ブドウ球菌、大腸菌、連鎖球菌種、エンテロバクター属菌種、クレブシエラ属菌種、バシラス属菌種、セラチア属菌種、サルモネラ属菌種、シゲラ属菌種、カンピロバクター属菌種、エルシニア属菌種、およびクロストリジウム・ディフィシルが挙げられる。真菌性の作用因子の例としては、以下に限定されないが、カンジダ属菌種が挙げられる。寄生生物の例としては、以下に限定されないが、クリプトスポリジウム属種、ジアルジア属種、赤痢アメーバ、シクロスポラ属種が挙げられる。ウイルス生物の例としては、以下に限定されないが、ロタウイルス、サイトメガロウイルス、腸管アデノウイルス、アストロウイルス、アデノウイルスタイプ40またはタイプ41、ノーウォークおよび他のノロウイルス、並びにサポロウイルスが挙げられる。新生児敗血症の臨床的兆候は非特異的であり、原因微生物の特徴および侵襲に対する生体応答の特徴と関連している。新生児敗血症は、早期発症または後期発症に分類されうる。新生児の早期発症感染症の85%は24時間以内に発症し、5%が24〜48時間で発症し、より少ない数の患者では48時間から6日間の間に発症する。発症は、未熟児で最も速い。これらの乳幼児では、顔面蒼白、毛細血管灌流の低下、および浮腫を伴う明らかなショックを呈する。これらのショックの兆候は、重篤な危険の指標であり、死亡率と大きく関係している。敗血症の兆候としては、心兆候(例えば、早期肺高血圧症、心拍出量の減少、低酸素血症、徐脈を伴う心拍出量の段階的減少、および全身性低血圧症)、代謝性兆候(低血糖、高血糖、代謝性アシドーシス、および黄疸)、神経学的兆候(髄膜炎、脳室炎、くも膜炎、血管炎、静脈炎、血栓症、脳浮腫、梗塞、昏迷、および過敏性)、意識障害(すなわち、過敏性を伴う/伴わない昏迷)、昏睡、発作、大泉門膨隆、伸筋硬直、局所性脳兆候、脳神経兆候、項部硬直、脳脊髄液(CSF)の変化(例えば、白血球数の上昇、タンパク質レベルの上昇、CSFグルコース濃度の低下、および陽性の培養結果)のいずれかまたはすべてが挙げられる。新生児敗血症および髄膜炎では温度調節障害が観察されるが、これは細菌性生物により分泌される発熱物質に応答したものであるか、または交感神経系の不安定性によるものである。新生児は、最も低体温となりやすい。乳幼児はまた、緊張の低下、倦怠感、および食欲不振を有する可能性もある。神経過敏の兆候は、後期発症髄膜炎が発症した際に最も発生しやすい。新生児敗血症の他の兆候としては、血液学的兆候(例えば、血小板減少症、異常白血球数(WBC)、異常好中球数(PMNおよび未成熟型)、好中球数の未成熟対全数の比率の異常、播種性血管内凝固症候群(DIC)、プロトロンビン時間(PT)、部分トロンボプラスチン時間(PTT)並びにフィブリノゲンレベルおよびD二量体レベルの異常)、並びに、消化管兆候(例えば、壊死性腸炎)が挙げられる。
【0060】
後期発症敗血症に関与している生物としては、コアグラーゼ陰性ブドウ球菌、黄色ブドウ球菌、大腸菌、クレブシエラ属菌種、シュードモナス属菌種、エンテロバクター属菌種、B群連鎖球菌、セラチア属菌種、アシネトバクター属菌種、およびカンジダ属菌種が挙げられる。乳幼児の皮膚、気管、結膜、消化管、およびへそは、環境からコロニー化されて、侵襲してきた微生物由来の後期発症敗血症を引き起こす可能性がある。かようなコロニー化をもたらす媒介物としては、血管カテーテルもしくは尿路カテーテル、他の留置ライン、または細菌がコロニー化した介護者からの接触が挙げられる。
【0061】
自身のグリカン表現型(分泌抗原、ルイス抗原、またはシアル化抗原の発現)に基づいて感染性障害および炎症性障害(例えば、NEC、胃腸感染症、および敗血症)のリスクがあると同定された乳幼児は、1つ以上の保護剤を含む治療法によって治療されうる。文脈上そうでないとされる場合を除き、「剤」との語は、消化器系の標的分子または標的領域に対して臨床的に好ましい形で影響を及ぼす(例えば、発熱物質が宿主の表面グリカン類に結合するのを阻害する)任意の物質を広く意味するものとする。有用な保護剤としては、例えば、ヒトの授乳、プロバイオティック有機体、プレバイオティック剤、またはα1,2フコシルグリカン類が挙げられる。
【0062】
α1,2フコシルグリカン類は、α1,2結合でのフコース末端を含む糖であり、これ自体は分泌抗原の相同体である。すなわち、α1,2フコシルグリカン類は、α1,2配置でフコース残基に共有結合した、最小二糖前駆体またはコア配列を含む。コア配列は、ラクトタイプI構造であるガラクトース(β1−3)N−アセチルグルコサミン−R(ここでは{Gal(β1−3)GlcNAc}−Rと略する)、またはラクトタイプII構造であるガラクトース(β1−4)N−アセチルグルコサミン−R(ここでは{Gal(β1−4)GlcNAc}−Rと略する)のいずれかである可能性があり、この際、Rは、H、小ラジカル、または他の単糖、二糖もしくは多糖、または糖タンパク質もしくは糖脂質である。これらの糖は、遊離のオリゴ糖であってもよいし、糖タンパク質、糖脂質または他の構造として共役して発現していてもよい。共役/非共役の形態のオリゴ糖は、いずれもグリカン類として分類される。そして、α1,2フコシルグリカン類は、2、3、4、5、6、7、8、9、10、12、14、16、18、20、24、28、32、36、またはより多くの糖を含むことができ、この糖の1つ以上がα1,2配置でフコース残基に共有結合しており、これによって当該グリカン類は1、2、3、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、18、またはより多くのフコース残基を含みうる。適当なα1,2フコシルグリカン類の例としては、以下に限定されないが、2’−フコシルラクトース(2’−FL)、ラクト−N−フコペンタオース−I(LNF−I)、ラクト−N−ジフコヘキサオース I(LDFH I)、ラクトジフコテトラオース(LDFT)、または、可溶型でもしくはプロバイオティック有機体の一部として糖脂質、糖ペプチド、糖タンパク質、ムチンもしくは他の骨格に結合したフコシルグリカンエピトープが挙げられる。α1,2フコシルグリカン類は、本技術分野の当業者に公知の手法を用いて天然の源(例えば、乳、乳製品または植物製品)から精製されうる。あるいは、またはこれに加えて、グリカン類は、本技術分野において公知の手法に従って天然の前駆体または合成されたテンプレートから化学的に合成されうる。また、グリカン類は、本技術分野において周知の生合成酵素を用い、細菌または酵母などの特別に改変された微生物を用いて、インビトロまたはインビボで酵素的に合成されてもよい。
【0063】
保護剤はまた、プロバイオティック有機体(すなわち、宿主によって摂取された際に、当該宿主を利するように腸内細菌叢を変化させる生きた微生物)であってもよい。プロバイオティック有機体は、細菌および細菌産物の粘膜を介した移動に対するバリアを提供したり、潜在的な発熱物質を競合的に除去したり、微生物産物に対する宿主の応答を変化させたり、肺炎桿菌、大腸菌、およびカンジダ・アルビカンスなどの発熱物質の増殖を阻害するように経腸栄養を促進したりすることができる。
【0064】
プロバイオティック有機体は一般に、細菌および酵母を含む。プロバイオティック有機体の種は種々存在しうるが、乳幼児に適切な種としては、乳酸菌(例えば、ラクトバチルス・ラムノーザスGG、ラクトバチルス・アシドフィルス、ラクトバチルス・カゼイ、ラクトバチルス・プランタルム、ラクトバチルス・ロイテリ)およびビフィズス菌(例えば、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダム、ビフィドバクテリウム・ブレーヴェ、ビフィドバクテリウム・アニマリス亜種ラクティス、ビフィドバクテリウム・ロンガム)、並びにサーモフィルス菌が挙げられる。有用な酵母種としては、サッカロマイセス・ブラウディおよびクリベロマイセス・ラクティスが挙げられる。プロバイオティック有機体は、天然由来のものであってもよいし、改変されたものであってもよい。すなわち、当該有機体は、以下に限定されないが、分泌抗原を発現する能力などの所望の特性を獲得できるように遺伝子を導入されたものであってもよい。プロバイオティック有機体は、単独で、または組み合わせて投与されうる。市販されているプロバイオティック製剤としては、例えば、ラクトバチルス・アシドフィルス/ビフィドバクテリウム・インファンティスを含有するインフロラン(登録商標)(Istituto Sieroterapico Berna, Como, Italy)、ビフィドバクテリウム・インファンティス、ビフィドバクテリウム・ビフィダムおよびサーモフィルス菌を含有するABCドフィルス(Solgar, Isreal)、並びに、ラクトバチルス・ラムノーザスGGを含有するディコフロー(Vitis Pharma, Warsaw, Poland)が挙げられる。保護剤はまた、プレバイオティック剤(すなわち、大腸内の1つまたは限られた数の細菌の増殖および/または活性を選択的に刺激することにより宿主を利する、非消化性の食餌成分)であってもよい。大腸の微生物叢中に外因性の細菌を導入するプロバイオティックとは逆に、プレバイオティック剤は、潜在的に健康を促進している常在微生物(例えば、ビフィズス菌または乳酸菌)の1つまたは限られた数の増殖を活性化させる。プレバイオティック剤の例としては、フラクトオリゴ糖類(例えば、イヌリン)、キシロオリゴ糖、およびガラクトオリゴ糖が挙げられる。プレバイオティック剤は、天然の源(例えば、チコリの根、大豆、キクイモ、豆類、タマネギ、ニンニク、オート、コムギおよびオオムギ)から単離されうる。
【0065】
有用なプレバイオティック剤の1つに、フルクタン(フルクトースのポリマー)の1種であるイヌリンがある。イヌリンタイプのフルクタン類は、β2,1結合により連結されたβ−D−フルクトフラノースから構成される。鎖の最初のモノマーはβ−D−グルコピラノシル残基またはβ−D−フルクトピラノシル残基である。イヌリンおよびイヌリン断片の種々の形態が市販されている;例えば、重合度(DP)2〜60のイヌリンはチコリの根から抽出される(Raftiline; Orafti, Tienen, Belgium);イヌリンの部分酵素的加水分解により製造されるオリゴフルクトースは10未満のDPを有し(Raftiline; Orafti)、低分子量オリゴマーが除去されてなるイヌリンは高性能イヌリンと称される(Raftiline; Orafti)。フルクトシルトランスフェラーゼ触媒性の反応においてショ糖(基質)および1,2−βフルクタンを用いると、4未満のDPを有する合成低分子量フルクタンが製造される(Neosugar or Actilight; Beghin-Meji Industries, Paris)。
【0066】
保護剤は、単独でまたは組み合わせて、患者に直接投与されうる。一般に、保護剤は、自身の送達を促進する目的で、製薬上許容されうる担体(例えば、生理食塩水または緩衝食塩水溶液)中に懸濁されうる。保護剤を適当な送達ベヒクル(例えば、高分子マイクロカプセルまたは移植可能な装置)中に封入すると、送達効率が向上しうる。本明細書に記載の任意の保護剤を製薬上許容されうる担体と組み合わせることにより、組成物が得られる。かような担体としては、以下に限定されないが、滅菌された水性または非水性の溶液、懸濁液、およびエマルションが挙げられる。非水性溶媒の例としては、鉱油、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、植物油、および注入可能な有機エステルが挙げられる。水性の担体としては、以下に限定されないが、水、アルコール、食塩水、および緩衝液が挙げられる。保存料、香料、および、例えば抗微生物剤、抗酸化剤(例えば、プロピルガレート)、キレート剤、不活性ガスなどの他の添加剤もまた存在してもよい。哺乳動物への投与が予定されている本明細書に記載の材料はいずれも、1つ以上の製薬上許容されうる担体を含有しうるものである。
【0067】
これに代えて、またはこれに加えて、保護剤は、乳幼児の食料源(例えば、圧搾母乳または市販の乳幼児用食品)と組み合わされうる。本明細書に記載の任意の組成物が、宿主の体の任意の部位に投与されることができ、その後、消化管へと送達される。組成物は、例えば、哺乳動物の口、鼻粘膜、血液、肺、小腸、筋組織、皮膚、または腹腔に送達されうる。送達の経路について、組成物は、静脈内に、頭蓋内に、腹腔内に、筋肉内に、皮下に、筋肉内に、直腸内に、膣内に、気管内に、皮内に、もしくは経皮注入で、経口投与もしくは経鼻投与によって、または長時間の漸次灌流(gradual perfusion)によって投与されうる。さらに他の例では、組成物のエアロゾル製剤が吸入によって宿主に投与されうる。
【0068】
必要とされる保護剤の用量は、剤の性質、投与経路、製剤の性質、患者の病状の性質、患者の身長、体重、表面積、年齢、および性別、他の投与薬剤、並びに担当医師の判断に依存するものである。保護剤の多様性や種々の投与経路で効率が異なることに鑑みると、必要とされる用量は広く変動することが予想される。これらの用量レベルにおける変動は、本技術分野において周知のように、最適化のための経験に基づく常法を用いて調整されうる。投与は単回であっても複数回(例えば、2回もしくは3回、4回、6回、8回、またはそれ以上)であってもよい。保護剤を適切な送達ベヒクル(例えば、高分子マイクロカプセル)中に封入すると、送達効率が向上しうる。
【0069】
本明細書に記載の任意の組成物を用いた治療の期間は、1日から、上昇したリスクが臨床的に疑わしい限りその期間中(例えば、新生児集中治療室での滞在期間または乳幼児の期間)までの任意の期間でありうる。例えば、保護剤は、1日に複数回、1日1回、1週間に1回(例えば4週間から数ヶ月間)投与されうる。治療の頻度も変動しうることに留意すべきである。例えば、保護剤は、単回(もしくは2回、3回など)、毎日、毎週、または毎月投与されうる。
【0070】
本明細書に記載の任意の組成物の有効量は、疾患のリスクがある、または治療を必要とする個体に投与されうる。本明細書で用いられる場合、「有効」との語は、患者において所望の応答を誘導する一方で有意な毒性を誘導しない任意の量を意味する。かような量は、特定の組成物の既知の量を投与した後の患者の応答を評価することによって、決定されうる。また、毒性(もしあれば)のレベルは、特定の組成物の既知の量を投与する前と後での患者の臨床症状を評価宇することによって、決定されうる。患者に投与される特定の組成物の有効量は、所望の結果並びに患者の応答および毒性のレベルに応じて調整されうることに留意すべきである。有意な毒性は、特定の患者ごとに変動しうるし、以下に限定されないが、患者の疾患状態、年齢、および副作用に対する耐性などの複数の因子に依存する。
【0071】
本明細書に記載の保護剤は、感染性障害または炎症性障害(例えば、NEC、胃腸感染症または敗血症)のリスクがある個体に対する他の予防手段または治療手段と組み合わせて投与されうる。保護剤は、他の薬剤または治療手段を用いた治療の前に、これと同時に、またはこの後に、投与されうる。他の治療方法としては、抗生物質(バンコマイシン、カナマイシン、ゲンタマイシン、セフォタキシム、クリンダマイシンまたはメトロニダゾール)の投与、IgGおよびIgAの腸内への共投与、アミノ酸補給、血小板活性化因子(PAF)アンタゴニストの使用またはPAF−アセチルヒドロラーゼの投与、多価不飽和脂肪酸の投与、上皮成長因子の投与、および出生前のコルチコステロイド類の投与が挙げられる。保護剤はまた、他の食事療法(母乳給餌、乳幼児用食品、非経口的液体、遅延されたまたは緩徐な給餌の慎重な管理)とともに、またはこれに加えて、投与されうる。
【0072】
分泌者としての状態に基づき、NECまたは胃腸感染症のリスクがあると同定された乳幼児の治療経過の判定方法もまた、提供される。乳幼児の食餌源中の分泌抗原(例えば、α1,2フコシルグリカン類)のレベルが、参照サンプル中における同一の分泌抗原のレベル比較されうる;食餌源中の分泌抗原のレベルは、参照サンプル中の分泌抗原のレベルと比較して減少しているかまたは上昇しているものとして分類されうる。分泌状態によってNECおよび胃腸感染症のリスクがあることが示されており、その食餌源中の分泌抗原のレベルが低下している乳幼児は、α1,2フコシルグリカン類、プロバイオティック有機体またはプレバイオティック剤の1つ以上を用いて治療されうる。
【0073】
乳幼児の食餌源は、乳幼児自身の母親もしくはドナー源のいずれか由来の乳汁、または市販の乳幼児用食品でありうる。母乳および製剤中の1つ以上の分泌抗原のレベルが、例えばELISA、クロマトグラフィまたは他の手法によって、上述した参照サンプル中のレベルと比較して、評価されうる。
【0074】
母乳のオリゴ糖は通常、還元末端にラクトース部位を含み、非還元末端にフコース部位を含む。オリゴ糖中へのフコースのα1,2結合による付加は、主として分泌遺伝子(Se(FUT2))によって生成されるフコシルトランスフェラーゼによって触媒される;α1,3またはα1,4結合によるフコースの付加は、ルイス遺伝子(Le(FUT3))またはこのファミリーの他のα1,3トランスフェラーゼ遺伝子群(FUT4、5、6、7、および9)によって触媒される。2−および3/4−フコシルトランスフェラーゼの活性の変動は、不活性な、または部分的に活性な遺伝子多型に基づくものである可能性がある。かような変動により、特定のフコシルオリゴ糖類の相対量が異なる乳汁の表現型が発現しうる。非分泌者である女性は、測定可能な量の2−結合フコシルオリゴ糖類を乳汁または他の体液中に発現していない。しかし、乳汁のフコシルオリゴ糖類の発現は分泌者間でも変動する可能性があり、1,3−および1,4−結合フコースのみを含有するフコシルオリゴ糖に対する1,2−結合フコシルオリゴ糖類の比率は、授乳の最初の1年間にわたって、指数関数的に減少する。
【0075】
適当なα1,2フコシルグリカン類の例としては、以下に限定されないが、H−2の類似体である2’−フコシルラクトース(2’−FL)、H−1の類似体であるラクト−N−フコペンタオース−I(LNF−I)、ルイスbの類似体であるラクト−N−ジフコヘキサオースI(LDFH I)、ルイスyの類似体であるラクトジフコテトラオース(LDFT)、並びに、ルイスaの類似体であるラクト−N−ジフコヘキサオースII(LNF−II)、およびルイスxの類似体であるラクト−N−ジフコヘキサオースIII(LNF−III)が挙げられる。コアタイプ1構造であるラクト−N−テトラオース(LNT)は、ラクトース上の末端Galβ1,3GlcNAcである。ラクトースは、乳汁中の最も豊富なタイプ2構造のコアである(2’−FL、3−FL、およびLDFT)が、LNF−IIIのコアは、ラクトース末端上のGalβ1,4GlcNAcであるラクト−N−ネオテトラオースである。他の組織において、ルイス構造部位はラクトサミン骨格(Gal−GlcNAc)に基づく;しかし、乳汁中で最も一般的なタイプ2フコシルオリゴ糖類は、ラクトース(Gal−Glc)から合成され、このためタイプ2ルイス構造に対するグルコース類似体として定義される。これらの構造のエピトープは、乳汁の種々の複合糖質に発現が見られ、これらの複合糖質もまた、予防および/または治療の目的で用いられうる。
【0076】
食餌源における分泌抗原のレベルが低下している乳幼児には、上述したα1,2フコシルグリカン類、プロバイオティック有機体またはプレバイオティック剤を供給することによって経腸的に補給してもよい。
【実施例】
【0077】
実施例1.細菌のコロニー化は腸管でのグリコシル化を誘導する
消化管におけるフコシル化グリカン類およびシアル化グリカン類の発現は発達中に変動し、これは授乳期間中の乳汁で見られる変化に類似したものである。マウス小腸では、Fut2mRNAおよびα1,2/3−フコシルトランスフェラーゼ活性が離乳時に急に上昇するのに対し、シアリルトランスフェラーゼ活性の発現は低下する。これらの2つの酵素活性の反転は、離乳時の粘膜でのグリカン発現の急激な変化および腸内微生物叢の組成の変化に一致するものである。これらの変化の誘導が固有の遺伝的プログラムによるものであるか、食餌もしくは成人の微生物叢による外因性の制御によるものであるかは、以下のように判定した。
【0078】
通常は離乳時に発現するフコシルトランスフェラーゼのアップレギュレーションは、無菌マウスでは起こらない。しかし、離乳後の無菌マウスをコロニー化すると、フコシルトランスフェラーゼおよびフコシル化が誘導される。これにより、細菌のコロニー化が粘膜表面のフコシル化を誘導していることが示唆された。このことは、抗生物質の混合物を摂取することによって細菌を欠乏させた(BD)成熟マウスで確認された。2週間後、Fut2mRNAおよびフコシルトランスフェラーゼ活性は無菌マウスで見られるレベルまで低下し、フコシルグリカン類(ハリエニシダ アグルチニン1[UEA−1]染色)はもはや大腸中に発現していなかった。抗生物質による治療を中止して正常な微生物叢を補充すると、正常にコロニー化された成熟消化管のレベルにまでFut2 mRNAおよびフコシルトランスフェラーゼ活性が回復し、粘膜表面上にフコシルグリカン類が完全に発現した。このことから、消化管のフコシル化はそのコロニー化によって制御されていることが確認された。
【0079】
細胞外のコロニー化が細胞内でのERK経路およびJNK経路の活性化をもたらすメカニズムには、未知の膜貫通受容体が関与しているものと仮説を立てた。膜貫通受容体のファミリーであるトール様受容体(TLR)は、微生物に特有のパターン認識分子の細胞外における存在を感知し、細胞間のシグナル伝達経路を介して核へとシグナルを伝達することが既に知られていた。そこで、大腸粘膜におけるFut2mRNAおよびフコシルトランスフェラーゼ活性の細菌による誘導をもたらす細菌と大腸粘膜との間での情報伝達に、TLRファミリーの1種が関与しているか否かを調べた。TLR2に変異があるマウスは、野生型マウスと同様に、コロニー化の喪失によって失われてしまう正常なフコシル化を示すことができる(図12、次頁)。これに対し、TLR4またはその下流メディエータであるMyD88の変異体は、完全なレベルのフコシル化を示さない。このフコシル化は、コロニー化の喪失の影響を受けないものである。このことは、細菌誘導性の粘膜フコシル化に必要なTLR4のシグナル伝達経路と一致する。細菌欠乏マウスにおけるTLR4自体の活性化が、Fut2発現を促進する伝達経路を活性化するのに十分であるか否かを調べる目的で、細菌欠乏マウスへの飲水中に、TLR4に特異的なリガンドであるLPSを投与した。BDマウス大腸のフコシルトランスフェラーゼ活性およびFut2mRNAは、超高純度LPSで処理すると正常な成体のレベルまで回復する。これに対し、TLR2のリガンドであるペプチドグリカン(PG)で処理したBDマウスでは、フコシルトランスフェラーゼ活性およびFut2 mRNAのレベルはBDマウスの低レベルにとどまった。これらの結果から、細菌欠乏マウスでのTLR4の結合および促進が、消化管のフコシル化をもたらす上皮核イベントへの成体の消化管微生物叢によるシグナル伝達に必要かつ十分な重要なシグナルであることが強く示唆される。フコシル化TLR4への結合がコロニー化誘導性の粘膜フコシル化に必須のシグナルであるならば、フコースに結合する微生物叢のサブセットがこの現象を反復することが予想される。混合微生物叢のフコース利用種を用いて、この仮説を検証した。バクテロイデス・フラジリスは、一般的な成熟哺乳動物の微生物叢において見られる特異的なフコース利用細菌である。細菌欠乏マウスをバクテロイデス・フラジリスで単一コロニー化すると、誘導Fut2 mRNAにより媒介される、混合微生物叢を用いた再コロニー化と同程度のフコシル化が誘導され、フコース発現の誘導に関与している混合微生物叢のフコース利用細菌と一致していた。仮にそうであるならば、右パネルに示されるように、フコースを利用できなくされたバクテロイデス・フラジリスの変異体は粘膜におけるフコシル化の誘導へのシグナル伝達能を喪失するはずである。そして、フコース利用細菌による細菌欠乏マウスでのフコシル化エピトープ(一見するとフコシル化TLR4である)の1セットへの結合は、小腸粘膜上でのフコシル化表現型の誘導に十分であるように見える。
【0080】
実施例2:入院乳幼児の唾液中の組織血液型抗原(グリカン類)
シンシナティ地域新生児集中治療室に入院している在胎期間(GA)24〜42週の36人の乳幼児を、2005年5〜12月の間に登録した。在胎期間によって1群あたり12人ずつの患者の3つの群(出生時で24〜28週、29〜32週、および33週以上)に階層化した。主要な先天異常と診断された乳幼児は除外した。シンシナティチルドレンズホスピタルメディカルセンター、グッドサマリタンホスピタルおよびユニバーシティホスピタルの施設内治験審査委員会により、本研究は承認されている。患者からは、書面によるインフォームドコンセントを得た。収集された母体の人口学的情報には、母体の年齢、人種、産科歴、現在の妊娠において生じた合併症、および妊娠中の母体への薬物治療が含まれていた。被験者登録に記録された臨床データおよび人口学的データには、人種、ジェンダー、在胎期間、出生体重、身長および頭囲が含まれていた。入院期間中の被験乳幼児について記録された臨床データには、呼吸補助の必要性およびその期間、経腸栄養の開始およびタイプ(母乳または製剤)、培養により判明した敗血症のエピソード、壊死性腸炎の発生(ベルの段階で2以上)、および抗生物質の使用の履歴が含まれていた。
【0081】
検体収集
唾液検体を、登録時および、入院している被験者については2週間毎に採取した。各被験者からは、最大で5サンプルを採取した。唾液検体については、食餌の1〜2時間後に、ソフトガーゼを用いて口中から残留している母乳または製剤を除去し、滅菌した綿棒を挿入することによって回収した。見た目上、綿棒が唾液で湿ったら、これを検体回収容器中に移した。検体を簡単に4℃に保持した後、−80℃に移した。全部で107の唾液サンプルを回収した。唾液で湿った綿棒を、1mLのリン酸緩衝食塩水(PBS)中で5分間溶かした。次いで、検体を10000×gで10分間遠心分離し、上清を回収した。各検体を100℃にて10分間煮沸し、4℃にて一晩静置した。サンプルを再度、10000×gで10分間遠心分離し、上清を回収し、100mLのアリコートに分割して、−80℃にて静置した。
【0082】
抗原検出アッセイのそれぞれについて、唾液サンプルの最適な希釈度を決定した。Lea、Lex、H−1、H−2、シアル化Leaおよびシアル化Lex抗原の検出には、1:50に希釈した唾液検体を用いた。Ley抗原の検出には1:125に希釈した唾液検体を用い、Leb抗原の検出には1:250に希釈したものを用いた。個々の被験者からの唾液サンプルの定量分析には、すべての抗原について1:50に希釈したものを用いた。サンプルを4℃にて一晩、マイクロタイタープレート(Dynex Immunlon)上にコーティングした。5%ブロットを用いてブロッキングした後、ルイス抗原およびABH抗原に特異的なモノクローナル抗体(MAb)を1:100希釈で用いた。組織血液型表現型の決定には、ヒト組織血液型抗原タイプに特異的な以下のMAbを用いた。MAb BG−4抗−Hタイプ1、BG−5抗Lea、BG−6抗Leb、BG−7抗Lex、およびBG−8抗Leyについては、Signet Laboratoriesより購入した。MAb BCR9031抗Hタイプ2
、BCR9010抗AおよびBCRM11007抗Bについては、Accurate Chemical and Scientific Corporationより購入した。シアル化Leaおよびシアル化Lexに対するMAbはEMDの製品であり、カタログ番号はそれぞれ565942および565953である。37℃にて1時間インキュベートした後、セイヨウワサビペルオキシダーゼ(HRP)に共役したヤギ抗マウスIgG、IgG3またはIgM抗体を添加した。各工程の後、PBS/Tween溶液を用いてプレートを5回洗浄した。TMBキット(Kirkegard & Perry Laboratories)を用いて比色反応を検出し、EIAスペクトルリーダー(Tecan)を用いて450nmの波長で読み取った。
【0083】
唾液サンプル中に検出可能なレベルの抗原の存在が確認されたすべての乳幼児について、試験第1週および退院前にELISAによって得た平均光学密度の値(±標準誤差)を表1に示す。各抗原については、分けて検討した。本解析によって、未熟児では出生時からほとんどの分泌抗原(ルイスb、ルイスy、およびH−2)が存在すること、および、分泌抗原の発現は分娩後に増加することが示された。表1に示すように、分泌抗原のレベルは、その後の時点に回収されたサンプル(すなわち、退院後に乳幼児から採取されたサンプル)におけるレベルよりも高かった。ルイスb、ルイスyおよびルイスbおよびルイスyは、経時的に有意な増加を示した;他の分泌抗原(H−1およびH−2)のレベルもまた増加したが、増加の割合は統計的な有意性にまでは至らなかった。
【0084】
【表1】
【0085】
実施例3:
一般化推定方程式(GEE)を用いて、分泌抗原の発現、分娩後の年齢、在胎期間、および抗生物質の使用の関係を分析した。分娩後第1週および「退院前」の24人の乳幼児から唾液サンプルを回収した。実施例1に記載の手法に従ったELISAにより、組織血液型抗原であるルイスa、ルイスx、ルイスb、ルイスy、H−1、H−2、シアル化ルイスa(SLea)およびシアル化ルイスx(SLex)のレベルを測定した。出生時の在胎期間に従って、乳幼児を22〜28週、29〜34週、および35〜40週の群に分類した。GEE分析には、従属変数として組織血液型抗原のOD値を用い(表2の第1カラムでは「モデル」と称されている)、独立変数としては分娩後の週齢、在胎期間の群、および抗生物質の使用日数を含めた。GEE分析について得られたβ係数を表2に示す。GEE分析により、経過(抗生物質による乳幼児の治療(1〜5日)として定義される)は、分娩後の分泌抗原の発現の低下と有意に関連していることが示された。
【0086】
【表2】
【0087】
実施例4:超低出生体重児(ELBW)の転帰の研究
シンシナティの新生児集中治療室で見られた192人の超低出生体重(<1000g)児のコホートで、出生後第1週(第1〜7日)および第2週(第8〜14日)に回収した唾液サンプルを用い、分泌抗原の発現、臨床転帰および壊死性腸炎(NEC)の関係を分析した。この分析はレベルIII新生児集中治療室を備えたシンシナティ地域の3つの病因で行なわれた前向き研究であり、乳幼児は2002〜2004年の間に登録された。除外基準には、主要な染色体異常または先天異常、嚢胞性線維症の診断、または担当の新生児生理学者によって生命の第1週の生存に不適合であると判断される医学的状態が含まれていた。登録後、唾液サンプルを人口学的データおよび臨床データと併せて採取した。その後、乳幼児からは週1回、唾液サンプルを回収した。食餌前の午前5時から午前10時の間に、看護師または研究スタッフが滅菌綿棒を乳幼児の口中に静置し、唾液で浸すことにより唾液を回収した。サンプルを−80℃にて凍結した。綿棒の綿部分を除去し、それを1mLシリンジ中に静置し、250mLの通常食塩水を用いて付着物を溶出することによって、綿棒から唾液を抽出した。図6は結果の散布図である。
【0088】
研究対象集団におけるNECの割合は7.8%(n=15)であった;後期発症敗血症の割合は34.9%(n=67)であった;死亡した割合は9.3%(n=18)であった。NECの15症例のうち、60%の症例で死亡が確認され、192人の被験乳幼児におけるNECによる死亡率は4.7%(n=9)であった。
【0089】
各乳幼児から採取され、まとめて保存された唾液サンプル中の組織血液型抗原であるルイスa、ルイスx、ルイスb、ルイスy、H1、H2、シアル化ルイスa(SLea)、およびシアル化ルイスx(SLex)のレベルを、実施例1に記載の手法に従ったELISAによって測定した。α1,2結合フコースを含有する1つ以上の抗原を発現している個体を、分泌者と判定した。20%(すなわち、39人の乳幼児)が非分泌者(分泌抗原が検出されない)として分類された;153人の乳幼児(80%)が分泌者として分類された。
【0090】
各個体のグリカン(分泌抗原である、ルイスおよびシアル化抗原)値を用いて、分類・回帰ツリー(CART)解析により、NECまたは死亡についての高リスク亜群を同定した。CART解析は、本研究のような臨床研究におけるリスクの診断マーカーまたは予測マーカーのためのアルゴリズムを同定するためのツリーベースの分割を利用する、確立された統計的手法である。再帰分割解析に基づく経験的な統計技術として、この手法はパラメータの仮定を必要とせず、プログレッシブ二値分割からなる決定木を介した連続的データまたはカテゴリデータの異なる値のセグメンテーションを伴うものである。予想値変数のそれぞれの値は潜在的分割とされ、最適な分割は、「不純物基準」を用いた症例と非症例との誤判別の最小化に基づいて選択される。この「不純物基準」は、当該ノードでのデータの二値分割に伴って生じる残差平方和の換算である。7つのすべての抗原について、CARTを用いて一度に解析して、各変数に対する最適なカットポイントを設定した。この工程(図1に部分的に示す)により得られたカテゴリー変数を次いで第2のCARTモデルに再度代入した。この工程では、H−2が第1の分割(図2を参照)として生じ、73人の乳幼児を、最低38パーセンタイル値以下で高リスク群であると判定した(OD値<0.627)。H−2低リスク群に分類された119人の乳幼児における6例のNECまたは死亡例(発生率5.0%、P<0.0001)と比較して、この群には18例のNECまたは死亡例(発生率24.7%)が含まれていた。唾液のH−2により高リスク群に分類された73人の乳幼児(「低分泌者」および非分泌者)の中で、CARTモデルにより第2の分割を行なった:19人が低リスクと分類され(NECまたは死亡例は1例、発生率5.2%)、54人が高リスクと分類された(NECまたは死亡例は17例、発生率31.5%)。このモデルにより、1つの高リスク群(低分泌者および非分泌者、31.5%リスク)および、5%に迫るほとんど同一のリスクを有する2つの低リスク群(高分泌者である119人、並びに、非分泌者および低分泌者であるが低sLeaである19人)が同定された。最後に、これらの3つのノードを最終CARTモデルに再度代入した:その結果は、高リスク群対他のすべてを同定する二値分割であった(図2および図3)。この単一の分割(H−2およびsLeaの組み合わせにより予測される高リスクカットポイント)は、曲線下面積による解析を実施する受信者によって発見されたものであり、全体の的中率は77であった。CART解析については図5および図6にまとめた。
【0091】
本発明の多くの実施形態について記載してきた。しかし、本発明の思想および範囲から逸脱しない限り、種々の変更がなされてもよいことは理解されうるであろう。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)個体からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定すること、および、
(b)少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
を含み、少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルが前記所定の値と異なるか、または、前記所定の値の範囲から外れる場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、壊死性腸炎のリスクがある個体の同定方法。
【請求項2】
前記個体が乳幼児である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記乳幼児が、新生児、低出生体重児、超低出生体重児、または未熟児である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの前記分泌抗原が、α1,2結合フコース抗原および/またはα2,3シアル化抗原を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの前記分泌抗原が、H−1抗原、H−2抗原、ルイスb抗原およびルイスy抗原並びにこれらの誘導体からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記誘導体が、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスyのシアル化型である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記誘導体が、H−1、H−2、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスyの硫酸化型である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記生体サンプルが、体液または組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記体液が、唾液、血液、血漿、血清、尿、糞便、羊水、粘液、涙、またはリンパ液を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記体液が唾液を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
測定工程がイムノアッセイを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの前記分泌抗原が、H−1、H−2、ルイスbおよびルイスy並びにこれらの誘導体からなる群から選択され、前記測定レベルが前記所定の値よりも小さいか、または、前記所定の値の範囲よりも小さい場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記所定の値または前記所定の値の範囲が、分泌者であるとされる個体の集団における少なくとも1つの前記分泌抗原の平均値を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つの分泌抗原の前記測定レベルが、分泌者のコントロール集団でみられる平均レベルよりも少なくとも10%小さい場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの前記分泌抗原がH−2抗原である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの前記分泌抗原がシアル化ルイスaまたはその誘導体であり、前記測定レベルが前記所定の値よりも大きいか、または、前記所定の値の範囲よりも大きい場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記乳幼児が、新生児、低出生体重児、超低出生体重児、または未熟児である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記生体サンプルが体液または組織である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記体液が、唾液、血液、血漿、血清、尿、糞便、羊水、粘液、涙、またはリンパ液を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記体液が唾液を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
測定工程がイムノアッセイを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記所定の値または前記所定の値の範囲が、分泌者であるとされる個体の集団における少なくとも1つの前記分泌抗原の平均値を示す、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
(a)個体からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定すること、および、
(b)少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
を含み、少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルが前記所定の値と異なるか、または、前記所定の値の範囲から外れる場合に、前記個体は胃腸障害のリスクがあるとする、胃腸障害のリスクがある個体の同定方法。
【請求項24】
前記個体が乳幼児である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記乳幼児が、新生児、低出生体重児、超低出生体重児、または未熟児である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
測定される前記抗原が、α1,2結合フコース抗原および/またはα2,3シアル化抗原を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記分泌抗原が、H−1抗原、H−2抗原、ルイスb抗原およびルイスy抗原並びにこれらの誘導体からなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記誘導体が、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスyのシアル化型である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記誘導体が、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスyの硫酸化型である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記生体サンプルが、体液または組織である、請求項22に記載の方法。
【請求項31】
前記体液が、唾液、血液、血漿、血清、尿、糞便、羊水、粘液、涙、またはリンパ液を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記体液が唾液を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
測定工程がイムノアッセイを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項34】
少なくとも1つの前記分泌抗原が、H−1、H−2、ルイスbおよびルイスy並びにこれらの誘導体からなる群から選択され、前記測定レベルが前記所定の値よりも小さいか、または、前記所定の値の範囲よりも小さい場合に、前記個体は胃腸障害のリスクがあるとする、請求項22に記載の方法。
【請求項35】
前記所定の値または前記所定の値の範囲が、分泌者であるとされる個体の集団における少なくとも1つの前記分泌抗原の平均値を示す、請求項22に記載の方法。
【請求項36】
少なくとも1つの分泌抗原の前記測定レベルが、分泌者のコントロール集団でみられる平均レベルよりも少なくとも10%小さい場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、請求項22に記載の方法。
【請求項37】
少なくとも1つの前記抗原がH−2抗原である、請求項22に記載の方法。
【請求項38】
前記胃腸障害が胃腸性炎症である、請求項22〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記胃腸障害が胃腸感染症である、請求項22〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記障害が後期発症敗血症である、請求項22〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記胃腸感染症が、ブドウ球菌種、黄色ブドウ球菌、大腸菌、連鎖球菌種、エンテロバクター属菌種、クレブシエラ属菌種、バシラス属菌種、セラチア属菌種、カンジダ属菌種、ノーウォークおよび他のノロウイルス、カンピロバクター属菌種、ビブリオ属菌種、バクテロイデス属菌種、クロストリジウム属菌種、またはランブル鞭毛虫の1つ以上による感染を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
(a)個体からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定すること、
(b)少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
(c)少なくとも1つの前記分泌抗原の前記測定レベルが前記所定の値と異なるか、または、前記所定の値の範囲から外れる場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとすること、および、
(d)前記個体が壊死性腸炎のリスクがあるとした場合に、壊死性腸炎のリスクを治療または低減させる工程を行なうこと、
を含む、方法。
【請求項43】
前記工程(d)が、前記個体に対してα1,2フコシルグルカン類、プロバイオティック有機体またはプレバイオティック剤の1つ以上を投与することを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
(a)患者からの生体サンプル中のFUT2タンパク質またはFUT2をコードするmRNAのレベルを測定すること、および、
(b)FUT2タンパク質またはFUT2をコードするmRNAの測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
を含み、FUT2タンパク質またはFUT2をコードするmRNAの測定レベルが前記所定の値または前記所定の値の範囲よりも小さい場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、壊死性腸炎のリスクがある個体の同定方法。
【請求項45】
(a)個体からの生体サンプルを準備すること、および、
(b)前記個体が、FUT2の発現または活性を低下させる遺伝子変異を有するFUT2遺伝子を有するか否かを決定すること、
を含み、前記個体がFUT2の発現または活性を低下させる遺伝子変異を有するFUT2遺伝子を有する場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、壊死性腸炎のリスクがある個体の同定方法。
【請求項46】
(a)個体からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定すること、および、
(b)少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
を含み、少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルが前記所定の値と異なるか、または、前記所定の値の範囲から外れる場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、死亡のリスクがある個体の同定方法。
【請求項47】
前記個体が乳幼児である、請求項46に記載の方法。
【請求項1】
(a)個体からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定すること、および、
(b)少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
を含み、少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルが前記所定の値と異なるか、または、前記所定の値の範囲から外れる場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、壊死性腸炎のリスクがある個体の同定方法。
【請求項2】
前記個体が乳幼児である、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記乳幼児が、新生児、低出生体重児、超低出生体重児、または未熟児である、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
少なくとも1つの前記分泌抗原が、α1,2結合フコース抗原および/またはα2,3シアル化抗原を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの前記分泌抗原が、H−1抗原、H−2抗原、ルイスb抗原およびルイスy抗原並びにこれらの誘導体からなる群から選択される、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記誘導体が、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスyのシアル化型である、請求項5に記載の方法。
【請求項7】
前記誘導体が、H−1、H−2、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスyの硫酸化型である、請求項5に記載の方法。
【請求項8】
前記生体サンプルが、体液または組織である、請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記体液が、唾液、血液、血漿、血清、尿、糞便、羊水、粘液、涙、またはリンパ液を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記体液が唾液を含む、請求項9に記載の方法。
【請求項11】
測定工程がイムノアッセイを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項12】
少なくとも1つの前記分泌抗原が、H−1、H−2、ルイスbおよびルイスy並びにこれらの誘導体からなる群から選択され、前記測定レベルが前記所定の値よりも小さいか、または、前記所定の値の範囲よりも小さい場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、請求項1に記載の方法。
【請求項13】
前記所定の値または前記所定の値の範囲が、分泌者であるとされる個体の集団における少なくとも1つの前記分泌抗原の平均値を示す、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
少なくとも1つの分泌抗原の前記測定レベルが、分泌者のコントロール集団でみられる平均レベルよりも少なくとも10%小さい場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、請求項1に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの前記分泌抗原がH−2抗原である、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
少なくとも1つの前記分泌抗原がシアル化ルイスaまたはその誘導体であり、前記測定レベルが前記所定の値よりも大きいか、または、前記所定の値の範囲よりも大きい場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、請求項1に記載の方法。
【請求項17】
前記乳幼児が、新生児、低出生体重児、超低出生体重児、または未熟児である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記生体サンプルが体液または組織である、請求項16に記載の方法。
【請求項19】
前記体液が、唾液、血液、血漿、血清、尿、糞便、羊水、粘液、涙、またはリンパ液を含む、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
前記体液が唾液を含む、請求項19に記載の方法。
【請求項21】
測定工程がイムノアッセイを含む、請求項16に記載の方法。
【請求項22】
前記所定の値または前記所定の値の範囲が、分泌者であるとされる個体の集団における少なくとも1つの前記分泌抗原の平均値を示す、請求項16に記載の方法。
【請求項23】
(a)個体からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定すること、および、
(b)少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
を含み、少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルが前記所定の値と異なるか、または、前記所定の値の範囲から外れる場合に、前記個体は胃腸障害のリスクがあるとする、胃腸障害のリスクがある個体の同定方法。
【請求項24】
前記個体が乳幼児である、請求項23に記載の方法。
【請求項25】
前記乳幼児が、新生児、低出生体重児、超低出生体重児、または未熟児である、請求項23に記載の方法。
【請求項26】
測定される前記抗原が、α1,2結合フコース抗原および/またはα2,3シアル化抗原を含む、請求項23に記載の方法。
【請求項27】
前記分泌抗原が、H−1抗原、H−2抗原、ルイスb抗原およびルイスy抗原並びにこれらの誘導体からなる群から選択される、請求項26に記載の方法。
【請求項28】
前記誘導体が、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスyのシアル化型である、請求項27に記載の方法。
【請求項29】
前記誘導体が、ルイスa、ルイスx、ルイスbまたはルイスyの硫酸化型である、請求項27に記載の方法。
【請求項30】
前記生体サンプルが、体液または組織である、請求項22に記載の方法。
【請求項31】
前記体液が、唾液、血液、血漿、血清、尿、糞便、羊水、粘液、涙、またはリンパ液を含む、請求項30に記載の方法。
【請求項32】
前記体液が唾液を含む、請求項31に記載の方法。
【請求項33】
測定工程がイムノアッセイを含む、請求項22に記載の方法。
【請求項34】
少なくとも1つの前記分泌抗原が、H−1、H−2、ルイスbおよびルイスy並びにこれらの誘導体からなる群から選択され、前記測定レベルが前記所定の値よりも小さいか、または、前記所定の値の範囲よりも小さい場合に、前記個体は胃腸障害のリスクがあるとする、請求項22に記載の方法。
【請求項35】
前記所定の値または前記所定の値の範囲が、分泌者であるとされる個体の集団における少なくとも1つの前記分泌抗原の平均値を示す、請求項22に記載の方法。
【請求項36】
少なくとも1つの分泌抗原の前記測定レベルが、分泌者のコントロール集団でみられる平均レベルよりも少なくとも10%小さい場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、請求項22に記載の方法。
【請求項37】
少なくとも1つの前記抗原がH−2抗原である、請求項22に記載の方法。
【請求項38】
前記胃腸障害が胃腸性炎症である、請求項22〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項39】
前記胃腸障害が胃腸感染症である、請求項22〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項40】
前記障害が後期発症敗血症である、請求項22〜37のいずれか1項に記載の方法。
【請求項41】
前記胃腸感染症が、ブドウ球菌種、黄色ブドウ球菌、大腸菌、連鎖球菌種、エンテロバクター属菌種、クレブシエラ属菌種、バシラス属菌種、セラチア属菌種、カンジダ属菌種、ノーウォークおよび他のノロウイルス、カンピロバクター属菌種、ビブリオ属菌種、バクテロイデス属菌種、クロストリジウム属菌種、またはランブル鞭毛虫の1つ以上による感染を含む、請求項39に記載の方法。
【請求項42】
(a)個体からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定すること、
(b)少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
(c)少なくとも1つの前記分泌抗原の前記測定レベルが前記所定の値と異なるか、または、前記所定の値の範囲から外れる場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとすること、および、
(d)前記個体が壊死性腸炎のリスクがあるとした場合に、壊死性腸炎のリスクを治療または低減させる工程を行なうこと、
を含む、方法。
【請求項43】
前記工程(d)が、前記個体に対してα1,2フコシルグルカン類、プロバイオティック有機体またはプレバイオティック剤の1つ以上を投与することを含む、請求項42に記載の方法。
【請求項44】
(a)患者からの生体サンプル中のFUT2タンパク質またはFUT2をコードするmRNAのレベルを測定すること、および、
(b)FUT2タンパク質またはFUT2をコードするmRNAの測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
を含み、FUT2タンパク質またはFUT2をコードするmRNAの測定レベルが前記所定の値または前記所定の値の範囲よりも小さい場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、壊死性腸炎のリスクがある個体の同定方法。
【請求項45】
(a)個体からの生体サンプルを準備すること、および、
(b)前記個体が、FUT2の発現または活性を低下させる遺伝子変異を有するFUT2遺伝子を有するか否かを決定すること、
を含み、前記個体がFUT2の発現または活性を低下させる遺伝子変異を有するFUT2遺伝子を有する場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、壊死性腸炎のリスクがある個体の同定方法。
【請求項46】
(a)個体からの生体サンプル中の少なくとも1つの分泌抗原のレベルを測定すること、および、
(b)少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルを、所定の値または所定の値の範囲と比較すること、
を含み、少なくとも1つの前記分泌抗原の測定レベルが前記所定の値と異なるか、または、前記所定の値の範囲から外れる場合に、前記個体は壊死性腸炎のリスクがあるとする、死亡のリスクがある個体の同定方法。
【請求項47】
前記個体が乳幼児である、請求項46に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図2A】
【図2B】
【図3A】
【図3B】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7A】
【図7B】
【図8】
【公表番号】特表2010−538301(P2010−538301A)
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−524176(P2010−524176)
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【国際出願番号】PCT/US2008/075385
【国際公開番号】WO2009/033011
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(500469235)チルドレンズ ホスピタル メディカル センター (40)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【出願人】(510059893)インスティテュート ナシオナル デ シエンシアス メディカス イ ニュートリシオン (2)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成22年12月9日(2010.12.9)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年9月5日(2008.9.5)
【国際出願番号】PCT/US2008/075385
【国際公開番号】WO2009/033011
【国際公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【出願人】(500469235)チルドレンズ ホスピタル メディカル センター (40)
【出願人】(592017633)ザ ジェネラル ホスピタル コーポレイション (177)
【出願人】(510059893)インスティテュート ナシオナル デ シエンシアス メディカス イ ニュートリシオン (2)
【Fターム(参考)】
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