説明

自動二輪車

【課題】簡便な構成でベルト室への埃等の侵入を防止可能な自動二輪車を提供すること。
【解決手段】シート30の下方には、シート30とリヤタイヤ40とを画成する壁60が設けられており、ダクト10の外気取り入れ口12は、シート30と壁60との間に形成された空間内に配置されている、自動二輪車100である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動二輪車、特にベルト室へ導風するダクトを備えた自動二輪車に関する。
【背景技術】
【0002】
自動二輪車で使用される変速機として、構造が簡単で安価なVベルトを使用したものがある。このVベルトは、埃や汚泥が付着するとスリップしてしまうため、埃等が付着しないようにベルト室内に収容する必要がある。一方、Vベルトは、走行時に駆動プーリとの摩擦によって発熱し、その熱によってVベルトの耐久性が低下するおそれがあるが、ベルト室内にVベルトを収容すると熱が篭るため、Vベルトの温度はますます上昇してしまう。
【0003】
この問題を解決するために、ベルト室内に外気を導入してベルト室内の温度を下げる冷却装置が既に知られている。このような冷却装置として、例えば、特許文献1及び特許文献2が開示されている。
【0004】
特許文献1によれば、ベルト室の前方に配設された低床式の足載せ台の下方にクリーン室を形成し、該クリーン室に吸気ダクトの外気取り入れ口を形成するという構成になっている。
【0005】
また、特許文献2によれば、Vベルト巻掛機構を支承する動伝ケースと、この動伝ケースの上方に配置された外部の空気を浄化するエアクリーナとを備え、動伝ケースを冷却する外気は該エアクリーナから取り入れる構造になっている。
【特許文献1】特開平10−218062号公報
【特許文献2】特開2000−79892号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記特許文献1の構成では、吸気ダクトの外気取り入れ口が車体の低位置に形成され、かつ、前輪の近傍に配設されているので、前輪の巻き上げた砂塵の侵入を防止するために、クリーン室の内部構造を複雑な構造にする必要がある。
【0007】
また、上記特許文献2の構成では、エアクリーナの外気取り入れ口は、後輪の真上に配設されているため、後輪の巻き上げた砂塵の混ざった外気を吸い込むこととなり、エアクリーナのメンテナンスを頻繁に行わなければならない。
【0008】
このように、従来の技術では、前後輪の巻き上げた粉塵や汚泥がベルト室に侵入することを防止するために、吸気ダクトの周辺構造を複雑にする必要があったり、あるいは、クリーニングを頻繁に行う煩わしさに目を瞑りつつエアクリーナを介して外気を取り入れる必要がある。
【0009】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、簡便な構成でベルト室への埃等の侵入を防止可能な自動二輪車を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の自動二輪車は、シートと、前記シートの下方に配置されたリヤタイヤと、前記リヤタイヤへ駆動力を伝達するベルトを収容したベルト室と、前記ベルト室へ外気を導入するダクトとを備え、前記シートの下方には、前記シートと前記リヤタイヤとを画成する壁が設けられており、前記ダクトの外気取り入れ口は、前記シートと前記壁との間に形成された空間内に配置されている。
【0011】
ある好適な実施形態において、前記シートよりも下方にはサイドカバーが配置されており、前記外気取り入れ口の側方は、前記サイドカバーによって覆われている。
【0012】
ある好適な実施形態では、前記リヤタイヤを駆動するエンジンは、前記シートと前記壁との間に形成された空間外に取り付けられている。
【0013】
ある好適な実施形態では、前記シートの下方には、車両前後方向に沿って延びる車体フレームが配置されており、前記エンジンと前記外気取り入れ口とは、前記車体フレームによって仕切られている。
【0014】
ある好適な実施形態において、前記外気取り入れ口は下向きに開口している。
【0015】
ある好適な実施形態では、前記シートの下方には燃料タンクが配置されており、前記外気取り入れ口は、前記燃料タンクへ向けて開口している。
【0016】
ある好適な実施形態において、前記外気取り入れ口の上方にはカバーフィラが形成されており、当該カバーフィラは、前記燃料タンクの側方を覆っている。
【0017】
ある好適な実施形態では、前記ダクトの開口断面は、車両前後方向に長い楕円形状である。
【0018】
ある好適な実施形態において、前記ダクトの少なくとも一部には蛇腹部が形成されており、当該蛇腹部の開口断面は、車両前後方向に長い楕円形状である。
【0019】
ある好適な実施形態では、前記リヤタイヤの上方には、泥跳ね防止用のリヤフェンダが設けられており、当該リヤフェンダは車両前方へ延びるとともに、前記シートと前記リヤタイヤとを画成する前記壁を形成している。
【0020】
ある好適な実施形態では、前記リヤタイヤは、車体フレームに取り付けられたスイングアームによって支持されており、前記スイングアームのスイングに伴って動く連動部材は、前記リヤフェンダを貫通しており、前記リヤフェンダは、前記連動部材が貫通する貫通孔を有しており、当該貫通孔にはシール部材が設けられている。
【0021】
ある好適な実施形態では、前記連動部材は、前記ダクトに形成された蛇腹部であり、前記シール部材は、前記蛇腹部の先端を覆うとともに、前記貫通孔を塞いでいる。
【0022】
ある好適な実施形態では、前記シール部材は弾性材料からなり、前記連動部材は、前記スイングアームと車体フレームとの間に介在するリヤクッションである。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、シートの下方に、シートとリヤタイヤとを画成する壁が設けられており、ベルト室へ導風するダクトの外気取り入れ口は、シートと壁との間に形成された空間内に配置されているので、リヤタイヤによって巻き上げられた砂塵や汚泥が該外気取り入れ口に吸入されることを防止することができる。したがって、砂塵等がベルト室に侵入することを防止することができ、その結果、安定したベルトの作動状態を維持することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0024】
以下、図面を参照しながら、本発明による実施の形態について説明する。以下の図面においては、説明の簡潔化のため、実質的に同一の機能を有する。なお、本発明は以下の実施形態に限定されない。
【0025】
図1を参照しながら、本発明の実施形態における自動二輪車100について説明する。図1は、本実施形態の自動二輪車100の構造を模式的に示す外観側面図である。
【0026】
本実施形態の自動二輪車100は、シート30と、ハンドル32と、フロントタイヤ42と、リヤタイヤ40と、エンジン50とから構成されている。
【0027】
車体前後方向の中央部には、ライダーが着座するシート30が配置され、このシート30の前方にはハンドル32が配設されている。このハンドル32から前下方へ向けてフロントフォーク38が延びており、このフロントフォーク38は、車体最前部に取り付けられたフロントタイヤ42を支持している。
【0028】
シート30に着座したライダーは、ハンドル32を操作し、この操作力は、フロントフォーク38を伝ってフロントタイヤ42に伝達される。このフロントタイヤ42の方向を変えることによって自動二輪車100の進行方向は決定される。
【0029】
一方、シート30の下方には、エンジン50が配設されており、このエンジン50の後方にはリヤタイヤ40が取り付けられている。このエンジン50とリヤタイヤ40の間には、ベルト(図示せず)が介在されており、エンジン50によって生じた動力は、該ベルトを介してリヤタイヤ40へ伝達され、リヤタイヤ40を駆動する。
【0030】
本実施形態のベルトは、無段変速機として使用されるVベルトであり、埃や汚泥から保護するためにベルト室20内に収容されている。また、このベルト室20の上方には、該ベルト室20へ外気を導くためのダクト10が形成されている。
【0031】
次に、図2を参照しながら、本実施形態のダクト10の構造について説明する。図2は、ダクト10の周囲の構造を分かりやすく図示するため、サイドカバー70の一部を破断線で切り取って内部を表示したダクト10周辺の要部拡大図である。なお、ここでは、ダクト10と、サイドカバー70と、ベルト室20と、リヤフェンダ60との位置関係を主として示している。
【0032】
自動二輪車100において、図2に示された最上部の位置にシート30は配設され、そのシート30の下方にリヤタイヤ40が設けられている。このリヤタイヤ40は、同じくシート30の下方に配設されたエンジン50(図1参照)によって駆動され、このエンジン50の後方には、車体前後方向に延びた略矩形のベルト室20が形成されている。このベルト室20の後部はリヤタイヤ40に接続するとともに、これを支持している。
【0033】
このベルト室20の内部には、エンジン50の駆動力をリヤタイヤ40へ伝達するベルトが収容されている。本実施形態のベルトは、無段変速機として使用されるVベルトであり、このVベルトは、エンジン50の回転に応じて減速比を変化させて、リヤタイヤ40のホイールに動力を伝達している。
【0034】
このベルト室20の前側上面から上方へ向かって、ホース状の部材10が突出している。この部材10は、該ベルト室20へ外気を導くダクト10であり、その形状は逆J字状の形状を有している。この逆J字状の先端には、ダクト10へ外気を吸入するための外気取り入れ口12が開口されており、この取り入れ口12から吸入した外気は、ダクト10内を通過して、ベルト室20の内部へと導かれる。
【0035】
また、シート30の下方には、シート30とリヤタイヤ40とを画成する壁60が設けられており、ダクト10の外気取り入れ口12は、シート30と壁60との間に形成された空間35内に配置されている。
【0036】
本発明の実施形態によれば、ベルト室20へ導風するダクト10の先端に位置する外気取り入れ口12は、壁60によってリヤタイヤ40との間を仕切られているので、リヤタイヤ40によって巻き上げられた砂塵や汚泥が該外気取り入れ口12に吸入されることを防止することができる。したがって、砂塵等がベルト室20に侵入することを防止することができ、その結果、埃等の付着によってベルトがスリップする事態は回避され、安定したベルトの作動状態を維持することができる。
【0037】
さらに、図2に加えて図3を参照しながら、本実施形態のダクト10周辺の構造について詳細に説明する。図3は、図2のIII−III線矢視断面を模式的に示した図である。
【0038】
まず、本実施形態のダクト10の取り付け位置について説明する。ダクト10は、シート30の進行方向左側の下方に配置されており、ダクト10の内側には、車体前後方向に沿って車体フレーム72の一部72aが配設されている。この車体フレーム72の一部72aは、車体後方から前方にかけて斜め下方向へ向かって延びており、本実施形態のダクト10は、この車体フレーム72aの外側面にナット74によって固定されている。
【0039】
車体フレーム72aの内側には、燃料を貯蔵する燃料タンク80が配設されており、この燃料タンク80の左右の側方と車体フレーム72aとダクト10とをまとめて覆うように、シート30よりも下方には左右一対のサイドカバー70が取り付けられている。サイドカバー70は、シート30下に配設された電装品等を保護するための部材であり、車幅方向に湾曲状に突出した形状を有している。サイドカバー70は、シート30の真下に配置されるだけでなく、本実施形態のように、シート30の真下から車幅方向にずれた位置に配置されてもよい。このサイドカバー70は、ダクト10の先端に形成された外気取入れ口12の側方を覆っている。
【0040】
また、このサイドカバー70の後下方には、リヤフェンダ62が取り付けられており、このリヤフェンダ62は、リヤタイヤ40の後上方に配置され、リヤタイヤ40が後上方へ跳ね上げた砂塵や汚泥の飛散を防ぐ役割を果たしている。
【0041】
本実施形態のリヤフェンダ62は、リヤタイヤ40の後上方に配置されるだけでなく、サイドカバー70の下側のほぼ全面を覆うように車体前方まで延びて形成されており、シート30とリヤタイヤ40とを画成する壁60を形成している。そして、このリヤフェンダ62とサイドカバー70とに囲まれた空間35内に、ダクト10の吸気取り入れ口12は形成されている。
【0042】
次に、図4を参照しながら、車体前後方向に沿ってダクト10の取り付け位置を説明する。図4は、図2及び図3に示したダクト10周辺の構造に、シート30の下方に配設された電装品等を追加して示した上面図であり、分かりやすくするためにシート30及びその他の部材は適宜省略して示してある。
【0043】
シート30は、車体前後方向に長い部材であり、シート30の前側下方には、自動二輪車100の動力源であるエンジン50が搭載されている。一方、シート30の後側下方には、燃料タンク80が配設されている。この燃料タンク80の右側側方には、マフラー(図示せず)が配設され、このマフラーと燃料タンク80との間には、カバーフィラ82aが介在している。このカバーフィラ82aは、略矩形状の部材であり、燃料タンク80の右側面に沿い、かつ、燃料タンク80の上面よりも上方へ突出して設けられている。このカバーフィラ82aは、燃料タンク80に貯蔵された燃料が漏れた場合であっても、マフラー側へ燃料が流入しないように防ぐ役割を持つ。
【0044】
本実施形態のカバーフィラ82は、燃料タンク80の右側側方だけでなく左側側方にも設けられている。図4に示した例では、カバーフィラ82bが、燃料タンク80の左側面に沿い、かつ、燃料タンク80の上面よりも上方へ突出して設けられている(図3参照)。そして、このカバーフィラ82bの左側方に、本実施形態のダクト10は取り付けられている。
【0045】
また、燃料タンク80とダクト10との間には、車体前後方向に沿って車体フレーム72aが介在しており、この車体フレーム72aは車体前下方へ延びて、エンジン50の側方まで延設されている。この車体フレーム72aによって、エンジン50とダクト10との間は仕切られている。
【0046】
なお、エンジン50とダクト10との間に車体フレーム72aを介在させて仕切っているが、両者を画成するように車体フレーム72aを配置することもできる。エンジン50とダクト10との間を画成する場合には、両者の間の空間を一層分離することができる。
【0047】
続いて、図5(a)から(c)を参照しながら、本実施形態のダクト10の構造について説明する。図5は、ダクト10及びダクト10周辺の要部拡大図であり、(a)はその上面図、(b)は側面図、(c)は(b)のVc−Vc断面図をそれぞれ示している。
【0048】
上述したように、本実施形態のダクト10は、ベルト室20の上面から上方へ突出した部材であり、逆J字状の形状を有している。この逆J字状の形状は、蛇腹部14と逆U字状部材16との組み合わせで構成されている。蛇腹部14は、弾性材料からなるホース状の部材であり、図5(c)に示すように、その開口断面は車体前後方向に長い楕円形状となっている。この蛇腹部14の下端14aは、ベルト室20の上面前側に取り付けられ、一方、その上端14bは逆U字状部材16の一端と接続している。
【0049】
逆U字状部材16は、樹脂材料からなる部材であり、蛇腹部14と接続した一端の反対側の端には、ダクト10の外気取り入れ口12が形成されている。図5(b)に示すように、この外気取り入れ口12は、逆U字状に折れ曲がることによって、車体下方へ向けて開口されている。
【0050】
また、図5(a)に示すように、逆U字状部材16の先端部分は、車体内側へ捻じ曲げられ、車体フレーム72aの下方に差し込まれており、それゆえに、外気取り入れ口12は燃料タンク80に向かって開口されている。
【0051】
外気取り入れ口12から吸入された外気は、逆U字状部材16内に取り込まれ、楕円形状の蛇腹部14内を通過して、ベルト室20まで導かれる。
【0052】
さらに、図6(a)及び(b)を参照しながら、ベルト室20に導入された外気の流れについて説明する。図6(a)は、図2に示したベルト室20のVI−VI線矢視断面図であり、図6(b)は、ベルト室20内の平面図である。
【0053】
自動二輪車100の走行時、ベルト室20内に配設されたファン24の駆動により、このファン24周辺の吸入部26は負圧となり、前部ケース21aの近傍の外気22aが前部ケース21a内に吸入される。この前部ケース21a内に吸入された外気22bは、フィルタ25aとフィルタ25bとを順次通過して除塵されることにより浄化される。次に、浄化された外気22bは、中途部ケース21bのケース部材内で、一旦、上昇した後、下方に向い反転して外気流動口27に吸入される。
【0054】
この外気流動口27に吸入された外気22cは、外気導入通路28を通り、ファン24の吸入部26に吸入される。すると、外気22cは、ファン24の羽により流速を与えられ、外気流動通路29を通り外気導出口23に向かわされる。この際、外気流動通路29を通る外気22dによりVベルト21が空冷される。この外気導出口23を通りベルト室20の外部に導出された外気22eは、後部ケース21cに案内されて、ベルト室20の後下方から外部に排出される。
【0055】
なお、図2に示すように、本実施形態のベルト室20は、Vベルトを含めた動力系を内部に収容するとともに、ベルト室20の後部内側においてリヤタイヤ40を回動自在に軸支している。一方、ベルト室20の前端部は、ベルト室20の前方に設けられた車体フレーム72の一部72bに、フレームピボット部73を介して上下揺動自在となるように枢支され、このベルト室20自体がリヤタイヤ40のスイングアームとしての役割を果たしている。
【0056】
また、このベルト室20の上面後側からは、リヤクッション64が上方へ突出しており、このリヤクッション64の上端は、リヤタイヤ40の上方に配設された車体フレームの一部72aにナットで固定されるとともに、ベルト室20(スイングアーム)を吊り下げて支えている。
【0057】
本実施形態のリヤクッション64は、コイルスプリング及びダンパーから構成されており、このリヤクッション64の伸縮とベルト室20の上下揺動とによって、走行時のリヤタイヤ40の受けるショックを吸収している。
【0058】
さらに、図2に加えて図7を参照しながら、本実施形態の自動二輪車100の特徴について詳細に説明する。
【0059】
図7は、自動二輪車100で使用されるリヤフェンダ62の外観図であり、(a)は上面図、(b)は側面図を示している。
【0060】
上述したように、本実施形態のリヤフェンダ62は、サイドカバー70の下側を覆うように車体前方まで延びて形成されており、シート30とリヤタイヤ40とを画成する壁60を形成している。
【0061】
また、図7(a)に示すように、リヤフェンダ62の進行方向左側には、2つの貫通孔65a及び65bが形成されている。貫通孔65aは、車体前後方向に長い楕円形状の孔であり、一方、貫通孔65bは円状の孔である。これらの貫通孔65には、ベルト室20(スイングアーム)が上下にスイングしたときに連動する部材66がそれぞれ貫通している。例えば、本実施形態の貫通孔65aには、ベルト室20の前側上面から上方へ突出したダクト10の蛇腹部14が貫通しており、一方、貫通孔65bには、ベルト室20の後側上面から上方へ突出したリヤクッション64が貫通している。連動部材66は、貫通孔65に貫通した状態で可動する必要があるため、貫通孔65の内径は、連動部材66の外径よりも大きくとってある。
【0062】
各貫通孔65に連動部材66が貫通した状態での貫通孔65周辺の構造を図8及び図9に示してある。図8は、ダクト10の蛇腹部14が貫通孔65aに貫通した状態を車体左側から見た断面図であり、図9は、リヤクッション64が貫通孔65bに貫通した状態を車体後側から見た断面図である。
【0063】
本実施形態の貫通孔65には、シール部材94が設けられており、図8に示した例では、ベルト室20の上面から突出した蛇腹部14の上端部15は、円筒状のシール部材94a内に挿通するとともに、このシール部材94aによって周囲を覆われている。
【0064】
また、シール部材94aの下側開口断面は、貫通孔65aの開口形状よりも大きく形成され、かつ、シール部材94aの下端は貫通孔65aを画する外縁に沿ってリヤフェンダ62と固着されている。したがって、このシール部材94aは、蛇腹部14とリヤフェンダ62との間の隙間を塞ぐ役割を果たしている。
【0065】
上記構成を実現するシール部材94aの一例を図10に示してある。(a)は外観上面図、(b)は外観測面図、(c)は外観下面図である。この図に示した例では、シール部材94aは弾性材料からなり、シール部材94aの上端の開口断面は、蛇腹部14の開口断面形状と略同じであり、一方、下端の開口断面は、貫通孔65aの開口形状と略同じである。
【0066】
一方、図9に示した例では、貫通孔65bに設けられたシール部材94bは逆コップ状(倒立した有底筒状)の形状であり、その下端は貫通孔65bを画する外縁に沿ってリヤフェンダ62と固着されている。この逆コップ状の上側の側面には孔96が形成されている。リヤクッション64の上端は、貫通孔65bを貫通するとともに、この逆コップ状のシール部材94b内に挿入され、孔96を介してサイドカバー70内の車体フレーム72aに固定されている。孔96の余剰の隙間は、車体フレーム72aと燃料タンク80(図9では図示せず)とによって塞がれており、これにより、シール部材94bは、リヤクッション64とリヤフェンダ62との間の隙間を塞いでいる。
【0067】
上記構成を実現するためのシール部材94bの一例を図11に示してある。(a)は外観側面図、(b)は(a)のXI−XI断面図、(c)は外観下面図である。この例に示したシール部材94bは弾性材料からなり、シール部材94bの下端の開口断面は、貫通孔65bの開口形状と略同じである。
【0068】
本発明の実施形態によれば、ダクト10の先端に位置する外気取り入れ口12は、車体前方まで延びたリヤフェンダ62とシート30との間に形成された空間内に配設されるので、リヤタイヤ40によって巻き上げられた砂塵や汚泥が該外気取り入れ口12に吸入されることを防止することができる。加えて、外気取り入れ口12が、車体の高位置に形成されているので、埃等の少ない空間から吸気することができる。
【0069】
さらに、外気取り入れ口12の側方は、サイドカバー70によって覆われており、これにより、該外気取り入れ口12は、サイドカバー70とリヤフェンダ62とに囲まれた密閉性の高い空間内に配置することができるので、埃等の侵入をより確実に防ぐことができる。加えて、容積が大きく空気の流れが少ない空間内から吸気することができるので、埃等の吸入を抑制する効果を一層高めることが可能となる。
【0070】
このように、ベルト室20への砂塵等の侵入の防止を、非常に簡便なダクト構造で実現することができ、その結果、埃等の付着によってベルトがスリップする事態は回避され、安定したベルトの作動状態を維持することができる。また、クリーンな外気を吸入できるため、ベルト室20内に設けたフィルタ25を頻繁に洗浄する必要もなく、それゆえに、メンテナンスに費やす時間や費用を低減することができる。
【0071】
なお、本実施形態では、シート30とリヤタイヤ40との間に形成された壁60は、リヤフェンダ62によって一体に構成されているため、壁60を形成する別部材を用意する必要はなく、これにより、部材点数を削減してコストを低減することができるというメリットもある。
【0072】
また、本実施形態の外気取り入れ口12は、車体フレーム72aを間に介在させることによって、エンジン50とは仕切られた空間内に配設することができるので、エンジン50によって暖められた外気を排除して吸気することができ、その結果、ダクト10による冷却効果を高めることができる。
【0073】
なお、特願昭57−5836では、車体カバーとシートに囲まれた空間内に外気吸入口が開口した冷却装置を開示しているが、該外気吸入口は、シートと、そのシートとリヤタイヤとの間に形成された壁との間の空間内に配置されたものではない点で本実施形態の自動二輪車100と異なる。また、該外気吸入口は、エンジンと比較的近い位置に形成されているので、冷却効果が低く、この点においても自動二輪車100とは異なる。
【0074】
また、本実施形態の外気取り入れ口12は車体下方に向かって開口している。したがって、雨天時にサイドカバー70内に雨水が浸入した場合であっても、該外気取り入れ口12に入り込むことを回避することができる。
【0075】
加えて、この外気取り入れ口12は、車体中でも低温に維持する必要のある燃料タンク80に向けて開口しているので、燃料タンク80周辺の冷気を吸入することができ、これにより、ダクト10による冷却効果をアップすることができる。
【0076】
さらに、ダクト10の外気取り入れ口12と燃料タンク80との間には、カバーフィラ82bが取り付けられているので、燃料タンク80から燃料漏れがあった場合であっても、燃料がダクト10に吸引されることを防止することができる。
【0077】
また、本実施形態のダクト10の一部には蛇腹部14が設けられているので、通風路を確保したままベルト室20のスイング時の動作を吸収することができ、これにより、ダクト10の先端部を車体フレーム72aに固定することが可能となる。ダクト10の先端を車体フレーム72aに固定することによって、外気取り入れ口12から外気を安定して吸入することができ、それゆえに、外気吸入性を向上することができるという利点が得られる。
【0078】
加えて、この蛇腹部14の開口断面は、車体前後方向に長い楕円形状となっているので、ベルト室20のスイング動作にスムーズに追従することができるとともに、車体の幅寸方を小さくして車体のスリム化を実現することができる。
【0079】
なお、本実施形態では、蛇腹部14の開口断面は車体前後方向に長い楕円形状であるが、開口断面の車体前後方向の寸方が車幅方向の寸方よりも大きいのであれば、スイングの動きにスムーズに追従し、かつ、車体の幅寸方を小さくすることができるので、それゆえ、蛇腹部14の開口断面は幾何学的な楕円形状に限定されるものではない。例えば、蛇腹部14の開口断面は長円形状や変形した楕円状であってもよい。
【0080】
また、リヤフェンダ62の貫通孔65に貫通した連動部材66(例えば、蛇腹部14及びリヤクッション64)とリヤフェンダ62との隙間は、シール部材94(例えば、シール部材94a及び94b)で塞がれているので、サイドカバー70とリヤフェンダ62とで囲まれた空間35の密閉性をさらに高めることができ、それゆえに、埃等が外気取り入れ口12の配置された空間35内へ侵入すること確実に阻むことができる。さらに、これらのシール部材94は弾性材料からなるので、連動部材66のスムーズな動作を担保する
ことができる。
【0081】
なお、本実施形態では、スクータの例を専ら示したが、本明細書における「自動二輪車」はこれに限定されない。本明細書における「自動二輪車」とは、モーターサイクルの意味であり、原動機付自転車(モーターバイク)を含み、具体的には、ハンドルを回動させて旋回可能な車両のことをいう。したがって、前輪および後輪の少なくとも一方を2輪以上にして、タイヤの数のカウントで三輪車・四輪車(またはそれ以上)としても、それは「自動二輪車」に含まれ得る。
【0082】
以上、本発明を好適な実施形態により説明してきたが、こうした記述は限定事項ではなく、勿論、種々の改変が可能である。
【産業上の利用可能性】
【0083】
本発明によれば、簡便な構成でベルト室への埃等の侵入を防止可能な自動二輪車を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】本実施形態の自動二輪車100の構造を模式的に示す外観側面図。
【図2】サイドカバー70の一部を破断線で切り取って内部を表示したダクト10周辺の要部拡大図。
【図3】図2のIII−III線矢視断面を模式的に示した図。
【図4】図2及び図3に示したダクト10周辺の構造にシート30の下方に配設された電装品等を追加して示した上面図
【図5】ダクト10及びダクト10周辺の要部拡大図。(a)は上面図、(b)は側面図、(c)は(b)のVc−Vc断面図。
【図6】(a)は、図2に示したベルト室20のVI−VI線矢視断面図であり、(b)は、ベルト室20内の平面図。
【図7】自動二輪車100で使用されるリヤフェンダ62の外観図。(a)は上面図、(b)は側面図。
【図8】ダクト10の蛇腹部14が貫通孔65aに貫通した状態を車体左側から見た断面図。
【図9】リヤクッション64が貫通孔65bに貫通した状態を車体後側から見た断面図。
【図10】シール部材94aの一例を示した図であり、(a)は外観上面図、(b)は外観測面図、(c)は外観下面図。
【図11】シール部材94bの一例を示した図であり、(a)は外観側面図、(b)は(a)のXI−XI断面図、(c)は外観下面図。
【符号の説明】
【0085】
10 ダクト
12 外気取り入れ口
14 蛇腹部
16 逆U字状部材
20 ベルト室
30 シート
32 ハンドル
40 リヤタイヤ
50 エンジン
60 壁
62 リヤフェンダ
64 リヤクッション
66 連動部材
65 貫通孔
70 サイドカバー
72 車体フレーム
80 燃料タンク
82 カバーフィラ
94 シール部材
100 自動二輪車

【特許請求の範囲】
【請求項1】
シートと、
前記シートの下方に配置されたリヤタイヤと、
前記リヤタイヤへ駆動力を伝達するベルトを収容したベルト室と、
前記ベルト室へ外気を導入するダクトと
を備え、
前記シートの下方には、前記シートと前記リヤタイヤとを画成する壁が設けられており、
前記ダクトの外気取り入れ口は、前記シートと前記壁との間に形成された空間内に配置
されている、自動二輪車。
【請求項2】
前記シートよりも下方にはサイドカバーが配置されており、
前記外気取り入れ口の側方は、前記サイドカバーによって覆われている、請求項1に記載の自動二輪車。
【請求項3】
前記リヤタイヤを駆動するエンジンは、前記シートと前記壁との間に形成された空間外に取り付けられている、請求項1または2に記載の自動二輪車。
【請求項4】
前記シートの下方には、車両前後方向に沿って延びる車体フレームが配置されており、
前記エンジンと前記外気取り入れ口とは、前記車体フレームによって仕切られている、請求項3に記載の自動二輪車。
【請求項5】
前記外気取り入れ口は下向きに開口している、請求項1または2に記載の自動二輪車。
【請求項6】
前記シートの下方には燃料タンクが配置されており、
前記外気取り入れ口は、前記燃料タンクへ向けて開口している、請求項1または2に記載の自動二輪車。
【請求項7】
前記外気取り入れ口の上方にはカバーフィラが形成されており、
当該カバーフィラは、前記燃料タンクの側方を覆っている、請求項6に記載の自動二輪車。
【請求項8】
前記ダクトの開口断面は、車両前後方向に長い楕円形状である、請求項1または2に記載の自動二輪車。
【請求項9】
前記ダクトの少なくとも一部には蛇腹部が形成されており、当該蛇腹部の開口断面は、車両前後方向に長い楕円形状である、請求項1または2に記載の自動二輪車。
【請求項10】
前記リヤタイヤの上方には、泥跳ね防止用のリヤフェンダが設けられており、
当該リヤフェンダは車両前方へ延びるとともに、前記シートと前記リヤタイヤとを画成する前記壁を形成している、請求項1または2に記載の自動二輪車。
【請求項11】
前記リヤタイヤは、車体フレームに取り付けられたスイングアームによって支持されており、
前記スイングアームのスイングに伴って動く連動部材は、前記リヤフェンダを貫通しており、
前記リヤフェンダは、前記連動部材が貫通する貫通孔を有しており、当該貫通孔にはシール部材が設けられている、請求項10に記載の自動二輪車。
【請求項12】
前記連動部材は、前記ダクトに形成された蛇腹部であり、
前記シール部材は、前記蛇腹部の先端を覆うとともに、前記貫通孔を塞いでいる、請求項11に記載の自動二輪車。
【請求項13】
前記シール部材は弾性材料からなり、
前記連動部材は、前記スイングアームと車体フレームとの間に介在するリヤクッションである、請求項11に記載の自動二輪車。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2007−314165(P2007−314165A)
【公開日】平成19年12月6日(2007.12.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−95127(P2007−95127)
【出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000010076)ヤマハ発動機株式会社 (3,045)
【Fターム(参考)】