説明

自動分析装置

【課題】通電直後等であり、光学系が不安定な状態においても、安定し、かつ、迅速な分析を行うことが可能な自動分析装置を実現する。
【解決手段】反応ディスク1の円周上に配置される反応容器2のうち、反応容器11、12は、それぞれ隣合う間隙13,14とペアになる。ペアとなる反応容器11,12と間隙13,14の同波長の吸光度を水ブランク吸光度として測定し、この水ブランク吸光度をペアとなる反応容器11,12の補助情報として本測定に反映させることにより、反応容器内の反応による変動以外の吸光度変化を除去することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血液、尿等の生体サンプルの定性・定量分析を行う分析ユニットを備えた自動分析装置に係わり、特に緊急測定に供する自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
血清や尿等の生体サンプルの定性・定量分析を自動で行う自動分析装置には、分析に使用する試薬の測定原理上、吸光度を測定するために、波長を選択して吸光度を測定する光度計や、光源ランプ等の光学系要素、生体サンプルと試薬を至適条件下で、反応させるための恒温槽等の反応系要素が存在する。
【0003】
ここで、光源ランプの光量は、反応液の吸光度を測定する上で、非常に重要な要素である。このため、反応容器の汚れ等の影響を受けない状態で、光源ランプの光量を確認可能な技術が特許文献1に記載されている。
【0004】
【特許文献1】特開平8−271519号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、光源ランプの光量は、分析装置が非通電状態から通電状態になった直後においては、温度上昇により安定した状態に遷移するまでに時間が必要である。仮に、不安定な状態で分析を行なう場合、分析中の変動が濃度演算のための吸光度に影響し、測定結果の変動に至る可能性がある。この濃度変化を回避するためには分析装置が安定するまで待つことを余儀なくされる。
【0006】
現状では、自動分析装置を使用する検査センタ、病院等で夜間や休日に測定を行う場合、分析要求の発生頻度が少ない運用環境では、常に通電状態を維持して安定した分析装置の環境を維持することは無駄が多いと考えられる。このため、分析要求が発生したときのみ分析装置を通電状態にして測定を行なうことがある。
【0007】
しかし、この運用ではやはり分析装置が安定状態に遷移するまで測定を待たなければならない状況が発生し、迅速に分析を行うことができない。
【0008】
本発明の目的は、通電直後等であり、光学系が不安定な状態においても、正確な分析を行うことを可能とし、迅速な分析を行うことができる自動分析装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
複数の反応容器が円状に配列される反応ディスクと、この反応ディスク上の反応容器に被検試料を分注する試料分注手段と、反応容器に試薬を分注する試薬分注手段と、吸光度検出手段と、動作制御手段とを備える自動分析装置において、制御手段は、吸光度検出手段に、反応ディスク上の反応容器に収容された被検試料を試薬との混合液体の吸光度及び水の吸光度を検出させ、検出させた水の吸光度の変化量を算出し、算出した水の吸光度の変化量に基づいて、混合液体の吸光度を補正する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、電源投入直後、光学系が不安定状態にある自動分析装置であっても正確で、迅速な分析を行うことができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を図面を用いて説明する。
【0012】
図1は、本発明の一実施形態による自動分析装置の概略構成図である。
図1において、本発明の一実施形態による自動分析装置は、反応ディスク1と、反応ディスク1の円周上に一定の間隔を確保して30個配置される反応容器2と、測定対象となる試料を充填した試料容器3と、試料容器3から測定に必要な分量の試料を分取し反応容器2に吐出する試料分注機構4と、反応容器2に分取された試料と反応させる試薬を充填した試薬容器5と、試薬容器5から測定に必要な分量の試薬を分取し反応容器2に吐出する試薬分注機構6と、反応容器2内の反応液等の吸光度を測定する光度計7と、光度計7に光を照射する光源ランプ8と、反応ディスク1、試料分注機構4、試薬分注機構6、光度系7、光源ランプ8の動作を制御する制御部とを備える。
【0013】
図2は、反応容器と反応容器間の間隙のレイアウトを示す図である。
図2において、複数の反応容器は、反応容器11,12のように、支持板9に固定されて等間隔に配置されている。また、この反応容器群は支持板9に固定されたまま恒温水10に浸漬されている。反応容器群は、反応ディスク1が回転することにより測光部を通過し、吸光度が測定される。
【0014】
図1に戻り、反応容器2は、試料分注機構4から試料が分注された後、反応ディスク1が1回転プラス1反応容器分、反時計回りに回転して停止すると、試薬分注機構6から試薬が吐出される位置に停止し、試薬が吐出され試料と試薬との混合液体が生成される。
【0015】
その後、1回転プラス1反応容器分の回転と停止を繰り返す度に、各機構系に反応容器2が停止する。反応容器2は1回転プラス1反応容器分の回転を行なう間に光度計7と、光源ランプ8で構成される測光部を通過し、吸光度が測定される。
【0016】
仮に、反応ディスク1が1回転プラス1反応容器分の回転をするのに20秒を要するとすれば、10分間の反応中に30個の吸光度データが得られ、これらの情報は、それぞれの反応容器毎に管理される。反応容器には番号が割り当てられ上記の情報等が管理されている。
【0017】
例えば、図2に示す反応容器11は反応容器番号1、反応容器12は反応容器番号2等である。本発明では更に反応容器に隣接する間隙(反応容器と反応容器との間隙)の吸光度情報を反応容器とペアにして管理する。例えば、間隙13は反応容器番号1と、間隙14は反応容器番号3とペアになる。この間隙13,14におけるペアとなる反応容器11,12と同波長の吸光度を反応ディスク1の回転に伴い水ブランク吸光度として測定し、この水ブランク吸光度をペアとなる反応容器11,12の補助情報として使用する。
【0018】
つまり、反応容器番号1である図2に示す反応容器11が試薬分注後、最初に測光部を通過する時に測定する吸光度をA1とし、反応容器11に隣接する間隙13が測光部を通過するときの吸光度をBASE1とする。反応容器11の吸光度は測光部を通過するたびA2、A3、A4と、10分後のA30まで測定される。
【0019】
また、間隙13の吸光度もBASE2、BASE3、BASE4と、10分後のBASE30まで測定される。
【0020】
図3は、本発明の一実施形態による自動分析装置の吸光度変動の概念を示す図である。
図3において、横軸は測定回数を示し、縦軸は吸光度を示している。
図3のaは、測光系が安定状態にあり、反応が進行しない無色の水ブランクの吸光度を示し、図3のbは、自動分析装置の測光系が不安定な状態の反応容器内の反応液を測定した吸光度を示し、図3のcは、反応容器とペアとなる間隙で測定した恒温水の吸光度を示している。
【0021】
図3のbは、自動分析装置の測光系が不安定な状態であるため、反応容器で測定する吸光度が徐々に変動するドリフト成分を含んだ物となっており、また図3のcは、図3のbのドリフト成分を反映したものとなっている。
【0022】
したがって、各測定吸光度に対して、制御部が式(1)に示す演算を行えば、BASE1を原点とした、ΔBASE1、ΔBASE2、ΔBASE3と、10分後のΔBASE30という30個の補正情報が得られる。
【0023】
ΔBASEn=BASEn−BASE1(n=1〜30)・・・式(1)

また、この補正情報を使用してペアとなる反応容器で測定された吸光度を式(2)に示す補正を行うことにより、TA1、TA2、TA3と、10分後までのTA30という30個のドリフト成分を除外した吸光度が得られる。
【0024】
TAn=An−ΔBASEn(n=1〜30) ・・・式(2)

制御部は、この補正を行った吸光度情報をもとに濃度計算を行なえば、常に不安定成分を除外した吸光度による測定が可能となる。
【0025】
以上のように構成された本発明の一実施形態によれば、通電直後等の分析装置の光学系が不安定な状態においても安定した測定結果を取得することができる。これにより、測定する必要がある場合にのみ通電状態にし、それ以外の場合には、電源をOFFとする運用においても、迅速な分析を行うことができる。
【0026】
また、BASEn(n=1〜30)の測定に反応容器の間隙ではなく別の反応容器を使用することも可能である。以下にその説明を行う。
【0027】
図1に示す30個の反応容器を円周上に配置した反応ディスク1を使用するレイアウトにおいて、例えば試料分注機構4により反応容器2に試料が分注された後、反応ディスク1が1回転プラス1反応容器分、反時計回りに回転して停止すると、回転前に試料が分注された反応容器2が、試薬分注機構6から試薬が吐出される位置に停止する。
【0028】
このとき、試料分注機構4から試料が吐出される位置には、別の測定に使用可能な反応容器2が停止するが、この反応容器2は、隣接反応容器2とペアとなり、隣接反応容器2で測定に使用する波長と同波長の水ブランクを測定するために使用される。したがって、試料測定のための試料分注は行なわれず、その後の1回転プラス1反応容器分の回転により停止する試薬分注機構6から試薬が吐出される位置で、試薬分注機構6から試薬分注機構流路内の無色透明の水、もしくは、無色透明の水を充填した試薬ボトルから分取した水が吐出される。
【0029】
試料と試薬が分注された反応容器2と無色透明の水が分注された反応容器2は、1回転プラス1反応容器分の回転を行なう間に光度計7と光源ランプ8で構成される測光部を通過し、吸光度が測定される。仮に反応ディスク1が1回転プラス1反応容器分の回転をするのに20秒を要するとすれば、10分間の反応中に30個の吸光度データが得られ、これらの情報は、それぞれの反応容器毎に管理される。
【0030】
つまり、試料と試薬が分注された反応容器2は、試薬分注後、最初に測光部を通過する時に測定する吸光度をA1とし、以下測光部を通過するたびA2、A3、A4から、10分後のA15まで測定される。
【0031】
一方、無色透明の水が分注された反応容器2は、試薬分注機構6から水が吐出された後、最初に測光部を通過する時に測定する吸光度をBASE1とし、以下測光部を通過するたびBASE2、BASE3、BASE4と、10分後のBASE15まで測定される。
【0032】
以下、上記の実施形態と同様の補正を行い、算出された吸光度情報をもとに濃度計算を行なうことにより、常に不安定成分を除外した吸光度による測定が可能となる。
【0033】
これにより、従来1つの反応容器で処理していたものを2つの反応容器を使用して処理するため、分析処理能力が半分になるが、前述の反応容器外で吸光度を測定する等の新規技術を用いることなく、現状の分析装置の構成のままで、検体処理プログラムの変更と、計算プログラムの追加のみで同様の効果が得られる。
【0034】
また、上記の処理能力の低下は、以下の方式を使用することにより軽減することができる。以下にその詳細を説明する。
【0035】
図1に示す30個の反応容器を円周上に配置した反応ディスク1を使用する構成要素のレイアウトにおいて、試料の測定処理に先立ち補正情報取得用の反応容器2を1つ用意する。
【0036】
具体的には、試料分注機構4の試料吐出位置に停止した反応容器2に試料を吐出せず、反応ディスク1が1回転プラス1反応容器分、反時計回りに回転し、試薬分注機構6から試薬が分注される位置に補正情報取得用の反応容器2が停止した場合に、試薬分注機構6から試薬分注機構6の流路内の無色透明の水、もしくは、無色透明の水を充填した試薬ボトルから分取した水を吐出する。
【0037】
これと同時に、試料分注機構4の試料吐出位置には測定に使用可能な反応容器2が停止し、試料分注機構4から試料が分注される。以後、1回転プラス1反応容器分反応ディスク1が回転して停止する度に、反応容器2に試料が分注され測定が継続される。反応ディスク1が1回転プラス1反応容器分、反時計回りに回転するとき、次々と測光部を通過する反応容器2の吸光度が測定される。
【0038】
この時、先頭にある補正情報取得用の反応容器2の吸光度は、その周回中に吸光度を測定した全ての反応容器2の補正情報として使用が可能である。したがって、補正情報取得用の反応容器2を用意してから10分間は、1つの補正情報取得用の反応容器2を用意すれば吸光度の補正が可能になる。
【0039】
しかし、補正情報取得用の反応容器が用意されてから10分が経過した時、まだ、反応が継続中の反応容器2が存在する。この反応容器2に対する補正情報を取得するため、1つ目の補正情報取得用の反応容器2を用意してから9分30秒後すなわち、28個目の反応容器2を次の補正情報取得用の反応容器2として使用する。このため、28個目の反応容器2には、試料は分注されず、試薬分注機構流路内の無色透明の水、もしくは、無色透明の水を充填した試薬ボトルから分取した水が分注される。
【0040】
以降、28個おきに補正情報取得用の反応容器2を用意し、補正情報を取得すれば、分析処理能力低下を軽減し、本発明の効果が得られる。
【0041】
また、本発明の機能を搭載した自動分析装置に本機能のオンオフ切替えスイッチを備えることも可能である。このようにすれば、自動分析装置を連続運転せずに、必要な場合だけ電源投入を行う夜間や休日に本機能をオンとして、急を要する依頼であっても、迅速に分析を開始することができる。つまり、昼間の連続運転が可能な時間帯には、本機能をオフにして使用し、高い分析処理能力を必要としない夜間や休日の運用前には、本機能をオンにして電源を切り、分析要求があった場合に電源再投入する。このとき、本機能が働き、電源投入直後であっても、安定した測定が行え、迅速な分析を行うことができる。
【0042】
また、電源投入後の一定時間だけ本発明の機能を有効にし、一定時間経過後に本機能をオフにする手段を備えることにより、本発明の効果を効率的に得ることができる。例えば、自動分析装置が30分間で不安定状態から脱すると仮定すれば、この時間だけ本機能を有効にし、一定時間が経過した後に自動的に本機能をオフにし、本来の分析処理に移行するようにすれば、自動分析装置のモード設定を気にすることなしに、安定した測定結果を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の一実施形態による自動分析装置の概略構成図である。
【図2】本発明の一実施形態による自動分析装置の反応容器と反応容器との間隙のレイアウトを示す図である。
【図3】自動分析装置における吸光度変動の概念を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 反応ディスク
2 反応容器
3 試料容器
4 試料分注機構
5 試薬容器
6 試料分注機構
7 光度計
8 光源ランプ
9 支持板
10 恒温水
11,12 反応容器
13,14 間隙

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の反応容器が円状に配列される反応ディスクと、この反応ディスク上の反応容器に被検試料を分注する試料分注手段と、上記反応容器に試薬を分注する試薬分注手段と、吸光度検出手段と、上記反応ディスク、試料分注手段、試薬分注手段及び吸光度検出手段の動作を制御する制御手段とを備える自動分析装置において、
上記制御手段は、
吸光度検出手段に、上記反応ディスク上の反応容器に収容された被検試料と試薬との混合液体の吸光度及び水の吸光度を検出させ、検出させた水の吸光度の変化量を算出し、算出した水の吸光度の変化量に基づいて、上記検出させた混合液体の吸光度を補正することを特徴とする自動分析装置。
【請求項2】
請求項1記載の自動分析装置において、上記複数の反応容器は、上記反応ディスクに形成され、水が収容された反応槽中に配列され、上記吸光度検出手段は、上記反応槽中の反応容器と反応容器との間の水の吸光度を検出し、上記制御手段は、この検出した水の吸光度の変化量を算出し、算出した水の吸光度の変化量に基づいて、上記混合液体の吸光度を補正することを特徴とする自動分析装置。
【請求項3】
請求項1記載の自動分析装置において、上記試薬分注手段によって、反応容器中に分注された水の吸光度を、上記吸光度検出手段が検出し、上記制御手段は、この検出した水の吸光度の変化量を算出し、算出した水の吸光度の変化量に基づいて、上記混合液体の吸光度を補正することを特徴とする自動分析装置。
【請求項4】
請求項1、2、3のうちのいずれか一項記載の自動分析装置において、上記吸光度検出手段の上記水の吸光度の検出動作、及び検出した水の吸光度の変化量に基づいて混合液体の吸光度を補正する動作を、実行させるか否かを選択する切り替え手段を備えることを特徴とする自動分析装置。
【請求項5】
請求項1、2、3、4のうちのいずれか一項記載の自動分析装置において、上記吸光度検出手段の上記水の吸光度の検出動作、及び検出した水の吸光度の変化量に基づいて混合液体の吸光度を補正する動作は、自動分析装置の電源投入後、一定時間のみ実行することを特徴とする自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−40882(P2007−40882A)
【公開日】平成19年2月15日(2007.2.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−226710(P2005−226710)
【出願日】平成17年8月4日(2005.8.4)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】