説明

自動分析装置

【課題】反応管が汚れているか否かを判定する自動分析装置における、反応管の汚れに対する感受性の向上の実現。
【解決手段】照射部52は、測光に必要な略最小液量の試験溶液が収容された反応管に向けて測光ビームを照射する。検出部54は、照射部52から照射され試験溶液を透過した測光ビームを検出する。反応管汚れ判定部7は、検出された測光ビームの強度に基づいて反応管が汚れているか否かを判定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、反応管が汚れているか否かを判定する自動分析装置に関する。
【背景技術】
【0002】
反応管が汚れているか否かを判定する自動分析装置がある。判定方法としては、例えば、特許文献1に記載されているような、Cuvette Integrity Checkがある。Cuvette Integrity Checkでは、以下の3つのステップを有している。ステップ1:光吸収率がほぼゼロとみなせる基準溶媒(例えば、純水)に光を照射して、その透過光量I1を測定。ステップ2:基準溶媒に浸水された反応容器に光を照射して、その透過光量I2を測定。ステップ3:透過光量I1とI2との差分が閾値以上か以下であるかによって、反応管が汚れているか否かを判定。このCuvette Integrity Checkは、測光に用いることができない程度の強い汚れが反応管に付着されていないと、反応管が汚れていると判定できない。従って、もっと程度の軽い汚れが付着されている反応管でも汚れていると判定できるような、汚れに対する感受性の高い判定方法を有する自動分析装置が望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特許第2655559号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、反応管が汚れているか否かを判定する自動分析装置において、反応管の汚れに対する感受性の向上を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の第1局面に係る自動分析装置は、測光に必要な略最小液量の溶液が収容された反応管に向けて測光ビームを照射する照射部と、前記照射部から照射され前記溶液を透過した測光ビームを検出する検出部と、前記検出された測光ビームの強度に基づいて前記反応管が汚れているか否かを判定する判定部と、を具備する。
【0006】
本発明の第2局面に係る自動分析装置は、複数の反応管にそれぞれ収容された、測光に必要な略最小液量の複数の溶液を測光する測光部と、前記測光部からの出力に基づいて前記複数の溶液に関する複数の吸光度を算出する吸光度算出部と、前記算出された複数の吸光度に基づいて統計学的なばらつき度合を示す指標を算出するばらつき指標算出部と、前記算出された指標に応じて前記複数の反応管の中に汚れている反応管があるか否かを判定する判定部と、を具備する。
【0007】
本発明の第3局面に係る自動分析装置は、複数の第1反応管に収容された、測光に必要な複数の略最小液量の溶液を測光し、複数の第2反応管に収容された、測光のための複数の十分液量の溶液を測光する測光部と、前記測光部からの出力に基づいて複数の略最小液量の溶液に関する複数の第1吸光度を算出し、前記測光部からの出力に基づいて複数の十分液量の溶液に関する複数の第2吸光度を算出する算出部と、前記算出された複数の第1吸光度の平均値と前記複数の第2吸光度の平均値とに基づいて前記複数の第1反応管の中に汚れている反応管があるか否かを判定する判定部と、を具備する。
【0008】
本発明の第4局面に係る自動分析装置は、反応管に収容された、測光に必要な略最小液量分の溶液を繰り返し測光する測光部と、前記測光部からの出力に基づいて吸光度を繰り返し算出する算出部と、前記繰り返し算出された吸光度のばらつき度合に応じて前記反応管が汚れているか否かを判定する判定部と、を具備する。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、反応管が汚れているか否かを判定する自動分析装置において、反応管の汚れに対する感受性の向上が実現する。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の実施形態に係る反応管の汚れ判定の原理を説明するための図。
【図2】本実施形態に係る自動分析装置の全体構成を示す図。
【図3】本実施形態の実施例1に係る図2の反応管汚れ判定部の構成を示す図。
【図4】実施例1に係る、汚れありグループと汚れなしグループとのそれぞれおける吸光度、平均吸光度、標準偏差、及び汚染反応管の有無の判定結果の一覧を示す図。
【図5】図4の汚れありグループと汚れなしグループとの吸光度のグラフ。
【図6】実施例2に係る図2の反応管汚れ判定部の構成を示す図。
【図7】実施例2に係る、汚れありグループ、汚れなしグループ、及び参照グループのそれぞれにおける吸光度、平均値、確度、及び汚染反応管の有無の判定結果の一覧を示す図。
【図8】実施例3に係る図2の反応管汚れ判定部の構成を示す図。
【図9】実施例3に係る、汚れ有りグループと参照グループとのそれぞれにおける吸光度、平均吸光度、確度、及び汚染反応管の有無の判定結果の一覧を示す図。
【図10】図9の反応管Dに収容された試験溶液の吸光度のタイムコースを示すグラフ。
【図11】図9の反応管Eに収容された試験溶液の吸光度のタイムコースを示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、図面を参照しながら本発明の実施形態に係わる自動分析装置を説明する。
【0012】
本実施形態に係る自動分析装置は、従来に比して汚れに対する感受性が高い、反応管が汚れているか否かの判定処理を行なう。まずは、図1を参照しながら本実施形態に係る反応管の汚れ判定方法の原理について説明する。図1は、反応管10が汚れている場合と汚れていない場合とにおける、反応管10内の最小反応液量の試験溶液の液面を示す図である。最小反応液量とは、測光を精度良く行なうために必要な最小の液量である。この最小反応液量は、自動分析装置の製造メーカにより定められており、装置毎に異なる。
【0013】
図1に示すように、(a)の反応管10は汚れており、(b)の反応管10は汚れていないものとする。反応管10が汚れていない場合、測光ビームは、試験溶液の液面を透過せずに、液面より下の試験溶液内を透過する。従って、反応管10が汚れていない場合、最小反応液量でも精度良く吸光度を測定できる。一方、反応管10が汚れている場合、反応管10内の表面状態により液面に変化が見られる。具体的には、汚れていない場合に比して、反応管10内の壁面に試験溶液が持ち上がり、液面が下がる。従って測光ビームは、試験溶液の液面を透過してしまい、精度良く吸光度を測定できない。すなわち、汚れている反応管10を介して最小反応液量の試験溶液を測光した場合、測定される吸光度は不安定であり、信頼性が低い。
【0014】
そこで本実施形態に係る自動分析装置は、汚れている反応管を介して最小反応液量の試験溶液を測光することにより測定される吸光度が不安定であることを利用し、反応管が汚れているか否かを判定する。
【0015】
図2は、本実施形態に係る自動分析装置の全体構成を示す図である。図2に示すように、自動分析装置は、入力部1、測定条件設定部2、分注機構制御部3、分注機構4、吸光度算出部6、反応管汚れ判定部7(実施例1において反応管汚れ判定部7―1、実施例2において反応管汚れ判定部7―2、実施例3において反応管汚れ判定部7―3と記す)、及び報知部8を備える。
【0016】
入力部1は、オペレータからの各種指令や測定条件を受け付ける。入力部1としては、マウスやトラックボールなどのポインティングデバイス、スイッチボタン等の選択デバイス、あるいはキーボード等の入力デバイスが適宜利用可能である。
【0017】
測定条件設定部2は、オペレータからの入力部1を介した指示に従って、測定条件を設定する。設定された測定条件は、分注機構制御部3に供給される。なお、本実施形態に係る反応管の汚れ判定処理においては、試験溶液のみを測光すればよく、サンプルと試薬とを混合する必要はない。従って汚れ判定処理を行なう場合は、汚れ判定処理専用のオーダ(ダミーオーダ)が設定される。また本実施形態に係る測光パラメータは、例えば、以下の通りである。なお、その他のパラメータは、任意に設定可能である。
モード:End Up
波長:804nm
測光ポイント:30〜33
キャリブレーションモード:Abs
分注機構制御部3は、測定条件設定部2から供給される測定条件に応じて分注機構4の各部の動作を制御する。本実施形態において分注機構制御部3は、分注機構4の各部がダミーオーダに応じた動作をするように、分注機構4の各部を制御する。
【0018】
分析機構4は、反応ディスク11を有する。反応ディスク11は、円周上に配列された複数の反応管10を保持する。反応ディスク11は、ある一定のサイクルで回動と停止とを繰り返す。反応ディスク11は、1サイクルで1周−1セル分回動する。
【0019】
反応ディスク11の近傍には、サンプルディスク13が配置されている。サンプルディスク13は、サンプルを収容するためのサンプル容器15を保持する。サンプルディスク13は、特定のサンプル容器15が所定のサンプル吸入位置に位置決めされるように回動する。本実施形態においては、ダミー用のサンプルとして、任意の溶液、例えば、イオン交換水が用いられる。
【0020】
反応ディスク11の内側には、第1試薬庫17が配置される。第1試薬庫17は、サンプルの各測定項目に選択的に反応する第1試薬が収容された複数の試薬容器19を保持する。第1試薬庫19は、特定の試薬容器19が所定の第1試薬吸入位置に位置決めされるように回動する。本実施形態においては、ダミーの第1試薬として、任意の溶液、例えば、イオン交換水が用いられる。
【0021】
反応ディスク40の近傍には、第2試薬庫21が配置される。第2試薬庫21は、第1試薬に対応する第2試薬が収容された複数の試薬容器23を保持する。第2試薬庫21は、特定の第2試薬容器23が所定の第2試薬吸入位置に位置決めされるように回動する。本実施形態においては、ダミーの第2試薬として、任意の溶液、例えば、イオン交換水が用いられる。
【0022】
反応ディスク11とサンプルディスク13との間にはサンプルアーム25が配置される。サンプルアーム25の先端には、サンプルプローブ27が取り付けられている。ダミーオーダの場合においてサンプルアーム25は、サンプルプローブ27を、サンプルディスク13上のサンプル吸入位置に配置し、サンプル吸入位置に配置されたサンプル容器15内のサンプルを所定量だけ吸入させる。サンプルが吸入されるとサンプルアーム25は、サンプルプローブ27を上昇させ、サンプルプローブ27を回転起動に沿って回動して、反応ディスク11とサンプルディスク13との間に配置された洗浄プール29へ移動させ、この洗浄プール29にサンプルを吐出させる。
【0023】
反応ディスク11の外周近傍には第1試薬アーム31が配置される。第1試薬アーム31の先端には第1試薬プローブ33が取り付けられている。ダミーオーダの場合において第1試薬アーム31は、第1試薬プローブ33を、第1試薬庫17上の第1試薬吸入位置に配置し、第1試薬吸入位置に配置された試薬容器19内の第1試薬を所定量だけ吸入させる。第1試薬が吸入されると第1試薬アーム31は、第1試薬プローブ33を上昇させ、第1試薬プローブ33を回転起動に沿って回動して、反応ディスク40の外周近傍に配置された洗浄プール35へ移動させ、この洗浄プール35に第1試薬を吐出させる。
【0024】
反応ディスク17と第2試薬庫21との間には第2試薬アーム37が配置される。第2試薬アーム37の先端には第2試薬プローブ39が取り付けられている。ダミーオーダの場合において第2試薬アーム37は、第2試薬プローブ39を、第2試薬庫21上の第2試薬吸入位置に配置し、第2試薬吸入位置に配置された第2試薬容器23内の第2試薬を所定量だけ吸入させる。第2試薬が吸入されると第2試薬アーム37は、第2試薬プローブ39を上昇させ、第2試薬プローブ39を回転起動に沿って回動して、第2試薬庫21と反応ディスク11との間にある洗浄プール41へ移動させ、この洗浄プール41に第2試薬を吐出させる。
【0025】
反応ディスク11の外周近傍には、撹拌アーム43が配置される。撹拌アーム43の先端には撹拌子45が取り付けられている。ダミーオーダの場合において撹拌アーム43は、反応管10内の試験溶液を撹拌する必要がないので、停止される。
【0026】
上述に様に分注機構4の各部が動作している中、オペレータは、略最小反応液量の試験溶液を汚れ判定対象の反応管10に手分注する。手分注される試験溶液は、全て同一の種類である。試験溶液の種類は、特に限定されない。しかし、以下の説明を具体的に行なうため、試験溶液は、光吸収率がゼロよりも大きい溶液であるとし、具体的には、色素液の一つである硫酸銅水溶液とする。略最小反応液量は、メーカが保障している最小反応液量、又はその近辺量である。
【0027】
反応ディスク11の内部には、測光部5が設けられている。測光部5は、反応管10を介して略最小液量の試験溶液を測光する。具体的には、測光部5は、照射部52と検出部54とを備える。照射部52は、反応ディスク11の測光位置を通る反応管10に測光ビームを照射する。反応管10には、オペレータにより手分注された略最小反応液量の試験溶液が収容されている。検出部54は、照射部52により照射され反応管10を介して試験溶液を透過した測光ビームを検出する。検出された測光ビームの強度のデータは、吸光度算出部6に供給される。
【0028】
吸光度算出部6は、測光部5から供給される測光ビームの強度に基づいて、試験溶液の吸光度を算出する。吸光度は、下記の(1)に基づいて入射光の強度I0と透過光の強度Iとから算出される。算出された吸光度のデータは、反応管汚れ判定部7に供給される。
吸光度(Abs)=log(I0/I) ・・・(1)
上述のように、汚れている反応管(以下、汚染反応管と呼ぶことにする)内の試験溶液の液面は、汚れていない反応管(以下、非汚染反応管と呼ぶことにする)内の試験溶液の液面に比して低下している。従って、略最小反応溶液の試験用液を測光する場合、非汚染反応管を介する場合に比して、汚染反応管を介する場合の方が、測光ビームが透過する試験溶液の容量が少ない。また、汚染反応管内を介して試験溶液を測光する場合、汚染反応管に付着された汚れの光吸収率によっても吸光度が変動する。すなわち、汚染反応管を介して試験溶液を測光しても安定した吸光度は得られない。換言すれば、汚染反応管を介して得られた吸光度は、統計的にばらついている。
【0029】
反応管汚れ判定部7は、吸光度算出部から供給された吸光度に基づいて、試験溶液を収容していた反応管が汚れているか否かを判定する。より具体的には、反応管汚れ判定部7は、吸光度が統計的にばらついているか否かにより反応管が汚れているか否かを判定する。反応管が汚れていると判定した場合、反応管汚れ判定部7は、汚れている旨の信号(以下、汚れ有り信号と呼ぶことにする)を報知部8に供給する。反応管が汚れていないと判定した場合、反応管汚れ判定部7は、汚れていない旨の信号(以下、汚れ無し信号と呼ぶことにする)を報知部8に供給する。反応管汚れ判定部7の処理の詳細については後述する。
【0030】
報知部8は、反応管汚れ判定部7から汚れ有り信号を受けた場合、反応管が汚れている旨の情報をオペレータに報知する。報知の具体的方法としては、自動分析装置に装備されたディスプレイに反応管が汚れている旨の文章を表示する方法、自動分析装置に装備されたスピーカを介して反応管が汚れている旨の音声を出力する方法等がある。同様に、報知部8は、反応管汚れ判定部7から汚れ無し信号を受けた場合、反応管が汚れていない旨の情報をディスプレイやスピーカを介してオペレータに報知する。
【0031】
以下、本実施形態に係る反応管汚れの判定処理の詳細を実施例1〜実施例3に分けて説明する。
【実施例1】
【0032】
実施例1において略最小反応液量は、例えば、メーカが保障している最小反応液量が80μLであるとすると、80μLよりも10μL少ない70μLであるとする。オペレータは、停止と回動とを繰り返す反応ディスク11上の複数の反応管10のそれぞれに70μLの試験溶液を分注する。反応管10が反応ディスク11の回動により測光位置を通過すると、測光部5は、その反応管10を介して試験溶液を測光する。このようにして測光部5は、複数の反応管10にそれぞれ対応する複数の透過測光ビームの強度を出力する。複数の測光ビームの強度のデータは、吸光度算出部6に供給される。吸光度算出部6は、(1)式により、複数の反応管のそれぞれに対応する複数の吸光度のデータを算出する。各吸光度のデータは、反応管汚れ判定部7に供給される。
【0033】
図3は、実施例1に係る反応管汚れ判定部7―1の構成を示す図である。反応管汚れ判定部7―1は、平均吸光度算出部71、ばらつき指標算出部73、汚染反応管有無判定部75、及び汚染反応管特定部77を備える。
【0034】
平均吸光度算出部71は、吸光度算出部6から供給された複数の吸光度の平均値(以下、平均吸光度と呼ぶことにする)を算出する。ばらつき指標算出部73は、平均吸光度算出部6により算出された平均吸光度と複数の吸光度とに基づいて複数の吸光度のばらつき度合を示す指標を算出する。具体的には、ばらつき指標算出部73は、平均吸光度と複数の吸光度とに基づいて、ばらつき度合を示す指標の1つである標準偏差を算出する。標準偏差を算出すると、ばらつき指標算出部73は、算出された平均吸光度と標準偏差とに基づいて、ばらつき度合を示す指標の1つであるCV%値を算出する。CV%値は、平均値と標準偏差とを用いて、以下の(2)式により定義される。(2)式に示すように、CV%値は、複数の吸光度の変動係数に100を掛けた指標である。
CV%値=(標準偏差/平均値)×100 ・・・(2)
汚染反応管有無判定部75は、ばらつき指標算出部73により算出されたCV%値と予め設定された第1閾値との大小を比較する。CV%値が第1閾値よりも大きい場合、汚染反応管有無判定部75は、複数の反応管の中に汚染反応管があると判定し、汚れあり信号を報知部8と汚染反応管特定部77とに供給する。一方、CV%値が第1閾値よりも小さい場合、汚染反応管有無判定部75は、複数の反応管の中に汚染反応管がないと判定し、汚れなし信号を報知部8に供給する。
【0035】
汚染反応管特定部77は、汚染反応管有無判定部75からの汚れあり信号の供給を受けて、複数の反応管の中から汚染反応管を特定する。具体的には、汚染反応管特定部77は、各吸光度と予め設定された第2閾値とを比較し、複数の吸光度の中から第2閾値より大きい又は小さい吸光度を特定する。汚染反応管特定部77は、特定された吸光度に由来する反応管を汚染反応管であると判定し、汚染反応管の識別情報を報知部8に供給する。第2閾値は、例えば、後述する汚れなしクループの平均吸光度や、汚れありグループの平均吸光度、両グループの平均吸光度に応じて自動的又はユーザにより入力部1を介して設定される。また第2閾値は、現在の判定処理により得られた平均吸光度や、過去の汚れ判定処理に得られた平均吸光度に基づいて設定されてもよい。また第2閾値は、オペレータにより入力部1を介して入力された任意の値でもよい。
【0036】
報知部8は、汚染反応管有無判定部75からの汚れあり信号の供給を受けて、複数の反応管の中に汚染反応管があることをディスプレイやスピーカを介してオペレータに報知する。この際、報知部8は、複数の反応管の番号とそれに対応する吸光度との一覧(例えば、後述する図4に示す一覧)をディスプレイに表示するとよい。このように一覧を表示することで、オペレータは、平均吸光度から逸脱している吸光度、すなわち汚染反応管を特定することができる。また報知部8は、汚染反応管有無判定部75から汚れなし信号の供給を受けて、複数の反応管の中に汚染反応管がないことをディスプレイやスピーカを介してオペレータに報知する。また報知部8は、汚染反応管特定部77からの汚染反応管の識別情報の供給を受けて、供給された識別情報をディスプレイに表示する。
【0037】
次に実施例1の効果を検証するための実験の結果について説明する。実験は、少なくとも1つの汚染反応管を含むグループ(以下、汚れありグループと呼ぶことにする)と、汚染反応管を全くまないグループ(以下、汚れなしグループと呼ぶことにする)とを比較することにより行われた。各グループは、10本の反応管を含んでいる。
【0038】
図4は、汚れありグループと汚れなしグループとのそれぞれおける吸光度、平均吸光度、標準偏差、及び汚染反応管の有無の判定結果の一覧を示す図である。図5は、図4の汚れありグループと汚れなしグループとの吸光度のグラフである。なお、汚染反応管の有無を判定するための第1閾値は、CV%値=0.2%とした。図4と図5とに示すように、汚れありグループの反応管F、反応管H、及び反応管Jに対応する吸光度は、平均吸光度から大きく離れている。従って汚れありグループの標準偏差とCV%値とは、汚れなしグループの標準偏差とCV%値とに比してそれぞれ高い。具体的には、汚れなしグループの10つの吸光度にはほとんどばらつきがないため標準偏差は、ほぼ0に近く、CV%値も閾値(0.2%)を大きく下回っている。一方、汚れありグループの吸光度にはばらつきがあるためCV%値は、閾値を大きく上回り4%以上である。このため、汚れありグループは「汚染反応管が有る」と正しく判定され、汚れなしグループは「汚染反応管が無い」と正しく判定された。
【0039】
また汚染反応管を特定するための第2閾値は、汚れなしグループの平均吸光度1.1507にマージンを加えた値に設定される。図4の場合、マージンの値は、例えば、+0.02、すなわち第2閾値は、1.1707に設定されるとよい。このように第2閾値を設定することで、汚染反応管特定部77は、汚れありグループの複数の反応管の中から汚染反応管(反応管F、H、J)を自動的に特定できる。
【0040】
上記構成により実施例1に係る自動分析装置は、非汚染反応管内の略最小反応液量の試験溶液に由来する吸光度は統計的にばらついておらず、汚染反応管内の略最小反応液量の試験溶液に由来する吸光度は統計的にばらついているということを利用して、反応管が汚れているか否かを判定している。この判定のため、実施例1に係る自動分析装置は、統計的手法を用いて複数の吸光度を分析し、複数の吸光度の中から統計的にばらついている吸光度を漏れなく特定する。このように実施例1に係る自動分析装置は、特許文献1に記載のCuvette Integrity Checkのような吸光度の絶対評価ではなく、相対評価を用いている。すなわち、実施例1に係る自動分析装置は、客観的に見て強い汚れが付着されている反応管でなくても、他の反応管に比して汚れていれば汚染反応管であると判定することができる。かくして実施例1に係る自動分析装置は、反応管の汚れに対する感受性が高い汚れ判定処理を実現している。
【0041】
なお、上記の様に実施例1に係る自動分析装置は、CV%値に基づいて汚染反応管の有無を判定した。しかしながら、実施例1はこれに限定されない。例えば、CV%値でなく、CV値や標準偏差等の他の統計学的なばらつき度合を示す指標に基づいて汚染反応管の有無を判定してもよい。
【実施例2】
【0042】
実施例2に係る自動分析装置は、測光に必要な十分液量の試験溶液の吸光度と最小液量の試験溶液の吸光度とを利用して、反応管の汚れを判定する。ここで十分液量とは、最小反応液量よりも多い液量である。従って十分液量の試験溶液が分注された反応管を介して測光する場合、反応管の汚れやそれに伴う液面の低下による吸光度への悪影響はほとんどない。なお以下の説明において、実施例1と略同一の機能を有する構成要素については、同一符号を付し、必要な場合にのみ重複説明する。
【0043】
測光部5は、各反応管に収容された略最小液量の試験溶液を測光し、測光ビームの強度を出力する。また、測光部5は、各反応管に収容された十分液量の試験溶液を測光し、測光ビームの強度を出力する。略最小液量の試験溶液と十分液量の試験溶液とは、同一種類である。この略最小液量の試験溶液の測定オーダと十分液量の試験溶液の測定オーダとは、どちらが先でも後でも構わない。また、同一オーダでもよい。
【0044】
吸光度算出部6は、測光部5からの略最小液量の試験溶液に関する複数の測光ビームの強度に基づいて、複数の吸光度をそれぞれ算出する。また、吸光度算出部6は、測光部5からの十分液量の試験溶液に関する複数の測光ビームの強度に基づいて、複数の吸光度をそれぞれ算出する。
【0045】
図6は、実施例2に係る反応管汚れ判定部7―2の構成を示す図である。図6に示すように、反応管汚れ判定部7―2は、平均吸光度算出部71、確度算出部79、汚染反応管有無判定部75´、及び汚染反応管特定部77を備える。平均値算出部71は、十分液量の試験溶液の平均吸光度と、最小反応液量の試験溶液の平均吸光度とを算出する。確度算出部79は、十分液量の平均吸光度と最小反応液量の平均吸光度との割合を算出する。具体的には、確度算出部79は、十分液量の平均吸光度に対する最小反応液量の平均吸光度に対する割合、すなわち確度を算出する。
【0046】
汚染反応管有無判定部75´は、確度算出部により算出された確度が予め設定された閾値範囲内にあるか否かを判定する。確度が閾値範囲内にない場合、汚染反応管有無判定部75´は、複数の反応管の中に汚染反応管があると判定し、汚れあり信号を報知部8と汚染反応管特定部77とに供給する。一方、確度が閾値範囲内にある場合、汚染反応管有無判定部75´は、複数の反応管の中に汚染反応管がないと判定し、汚れなし信号を報知部8に供給する。
【0047】
汚染反応管特定部77は、汚染反応管有無判定部75´から汚れ有り信号の供給を受けて、実施例1と同様に、複数の反応管の中から汚染反応管を特定する。
【0048】
次に実施例2の効果を検証するための実験の結果について説明する。実験は、略最小反応液量である70μLの汚れ有りグループ及び汚れ無しグループと、十分液量である120μLのグループ(以下、参照グループと呼ぶことにする)とを用いて行なわれた。各グループは、10本の反応管を含んでいる。
【0049】
図7は、汚れありグループ、汚れなしグループ、及び参照グループのそれぞれにおける吸光度、平均値、確度、及び汚染反応管の有無の判定結果の一覧を示す図である。なお閾値範囲は、99%〜101%とした。また、汚れありグループの反応管F、H、Jは、汚れている。図7に示すように、参照グループの吸光度と汚れなしグループの吸光度とは、共に統計的にばらついておらず、平均吸光度は、略同一である。そのため、汚れなしグループの確度は、99.9%であり閾値範囲内にある。従って汚れなしグループは、「汚染反応管が無い」と正しく判定された。一方、汚れありグループの吸光度は、反応管の汚れやそれに伴う液面低下により、統計的にばらついている。そのため汚れありグループの確度は、102.7%となり閾値範囲外にある。従って汚れありグループは、「汚染反応管が有る」と正しく判定された。
【0050】
上記構成により実施例2に係る自動分析装置は、汚染反応管内の最小反応液量の試験溶液の吸光度は統計的にばらつくが、汚染反応管内の十分反応液量の試験溶液の吸光度は統計的にばらつかないということを利用して、反応管が汚れているか否かを判定している。具体的には、十分反応液量の試験溶液の平均吸光度に対する最小反応液量の試験溶液の平均吸光度の割合によって、統計的なばらつきを評価している。かくして実施例2に係る自動分析装置は、反応管の汚れに対する感受性が高い汚れ判定処理を実現している。
【実施例3】
【0051】
実施例3の測定条件は、実施例1の測定条件と同様に行なわれる。実施例3では、時間経過(タイムコース)に伴う吸光度の統計的なばらつき(ドリフト)を利用して、反応管が汚れているか否かを判定する。なお以下の説明において、実施例1及び2と略同一の機能を有する構成要素については、同一符号を付し、必要な場合にのみ重複説明する。
【0052】
測光部5は、反応ディスクが回転している間、反応管が測光位置を通る毎にその反応管内の試験溶液を繰り返し測光し、透過測光ビームの強度を繰り返し出力している。測光の回数は、測光ポイントの数だけ繰り返される。吸光度算出部6は、測光部5から繰り返し出力される測光ビームの強度に基づいて吸光度を繰り返し算出する。各吸光度は、由来する反応管の識別情報に関連付けられている。
【0053】
図8は、実施例3に係る反応管汚れ判定部7―3の構成を示す図である。反応管汚れ判定部7―3は、平均吸光度算出部71、確度算出部79、汚染反応管有無判定部75´、及び汚染反応管特定部77´を備える。汚染反応管特定部77´は、汚染反応管有無判定部75´から汚れあり信号の供給を受けて、時間経過に伴う吸光度のばらつき度合に応じて、複数の反応管の中から汚染反応管を特定する。具体的には、汚染反応管特定部77´は、各反応管について、吸光度のタイムコースにドリフトがあるか否かを判定する。ドリフトがあると判定した場合、汚染反応管特定部77´は、その反応管が汚れていると判定する。ドリフトがないと判定した場合、汚染反応管特定部77´は、その反応管が汚れていないと判定する。これにより、複数の反応管の中から汚染反応管が特定される。
【0054】
次に実施例3の効果を検証するための実験の結果について説明する。実験は、最小反応液量である80μLの汚れ有りグループと十分液量である120μLの参照グループとを用いて行なわれた。
【0055】
図9は、汚れありグループと参照グループとのそれぞれにおける吸光度、平均吸光度、確度、及び汚染反応管の有無の判定結果の一覧を示す図である。なお閾値範囲は、実施例2と同様に99%〜101%とした。また、汚れありグループの反応管E、F、Hは、汚れている。図9に示すように、汚れありグループの確度は、138%となり閾値範囲外にある。そのため汚れありグループは「汚染反応管が有る」と正しく判定された。
【0056】
図10は、非汚染反応管である反応管Dに収容された試験溶液の吸光度のタイムコースを示すグラフである。図11は、汚染反応管である反応管Eに収容された試験溶液の吸光度のタイムコースを示すグラフである。このグラフは、縦軸が吸光度、横軸が測光ポイントに規定されている。図10と図11とに示すように、反応管に汚れが無い場合のタイムコースにはドリフトが見られず、反応管に汚れが有る場合のタイムコースにはドリフトが見られる。従って、タイムコースにドリフトがある場合、その反応管は汚れていると判定でき、タイムコースにドリフトが無い場合、その反応管は汚れていないと判定できる。ドリフトの有無は、例えば、汚染反応管特定部77´により以下のように判定される。
【0057】
まず、タイムコースにおける最高吸光度と最低吸光度とを特定し、特定された最高吸光度と最低吸光度との差分を算出する。そして算出された差分と予め定められた第3閾値とを比較する。差分が第3閾値以上である場合、タイムコースにドリフトがある、すなわち反応管が汚れていると判定する。差分が第3閾値以下である場合、タイムコースにドリフトがない、すなわち反応管が汚れていないと判定する。この第3閾値は、入力部1を介して任意に設定可能である。
【0058】
上記構成によれば実施例3に係る自動分析装置は、非汚染反応管内の最小反応液量の試験溶液の吸光度は時間経過に伴って統計的にばらつかず、汚染反応管内の最小反応液量の試験溶液の吸光度は時間経過に伴って統計的にばらつくとういうことを利用して、反応管が汚れているか否かを判定する。かくして実施例3に係る自動分析装置は、反応管の汚れに対する感受性が高い汚れ判定処理を実現している。
【0059】
なお、本発明は上記実施形態そのままに限定されるものではなく、実施段階ではその要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形して具体化できる。
【0060】
(変形例)
実施例1、2、及び3においては、自動分析装置はダミーオーダに従って動作される。そのためオペレータは、分注機構4の各部が動作している中、各部の動きを把握したうえで、試験用液を反応管に手分注しなければならない。
【0061】
本実施形態の変形例に係る自動分析装置は、手分注モードを有する。手分注モードは、オペレータが手分注を容易に行うためのモードである。以下、この手分注モードについて説明する。
【0062】
手分注モードにおいて、オペレータにより入力部1を介して手分注を反応管の番号が指定されると反応ディスクは、オペレータにより指定された番号に対応する反応管を自動的に所定位置(典型的には、筐体手前側)に回動させる。回動後、反応ディスクを含む分析機構は一時停止している。この間、オペレータは、反応管に試験溶液を手分注する。手分注が終わった後、オペレータは、入力部1を介して続行指示を入力する。入力部を介して続行指示がなされると、分注機構4は、分注機構制御部3により再び動作される。これにより、手分注された試験溶液が測光部5により測光され、反応管汚れ判定部7により、実施例1、2、又は3に示される反応管の汚れ判定処理が行なわれる。
【0063】
かくして変形例に係る自動分析装置は、オペレータによる手分注の負担を軽減しつつ、反応管の汚れに対する感受性が高い汚れ判定処理を実現できる。
【0064】
また、上記実施形態に開示されている複数の構成要素の適宜な組み合わせにより、種々の発明を形成できる。例えば、実施形態に示される全構成要素から幾つかの構成要素を削除してもよい。さらに、異なる実施形態にわたる構成要素を適宜組み合わせてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0065】
以上本発明によれば、反応管が汚れているか否かを判定する自動分析装置において、反応管の汚れに対する感受性の向上を実現することができる。
【符号の説明】
【0066】
1…入力部、2…測定条件設定部、3…分注機構制御部、4…分注機構、5…測光部、6…吸光度算出部、7…反応管汚れ判定部、8…報知部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
測光に必要な略最小液量の溶液が収容された反応管に向けて測光ビームを照射する照射部と、
前記照射部から照射され前記溶液を透過した測光ビームを検出する検出部と、
前記検出された測光ビームの強度に基づいて前記反応管が汚れているか否かを判定する判定部と、
を具備する自動分析装置。
【請求項2】
前記反応管が汚れていると判定された場合、汚れている旨の情報を報知する報知部をさらに備える、請求項1記載の自動分析装置。
【請求項3】
複数の反応管にそれぞれ収容された、測光に必要な略最小液量の複数の溶液を測光する測光部と、
前記測光部からの出力に基づいて前記複数の溶液に関する複数の吸光度を算出する吸光度算出部と、
前記算出された複数の吸光度に基づいて統計学的なばらつき度合を示す指標を算出するばらつき指標算出部と、
前記算出された指標に応じて前記複数の反応管の中に汚れている反応管があるか否かを判定する判定部と、
を具備する自動分析装置。
【請求項4】
複数の第1反応管に収容された、測光に必要な複数の略最小液量の溶液を測光し、複数の第2反応管に収容された、測光のための複数の十分液量の溶液を測光する測光部と、
前記測光部からの出力に基づいて複数の略最小液量の溶液に関する複数の第1吸光度を算出し、前記測光部からの出力に基づいて複数の十分液量の溶液に関する複数の第2吸光度を算出する算出部と、
前記算出された複数の第1吸光度の平均値と前記複数の第2吸光度の平均値とに基づいて前記複数の第1反応管の中に汚れている反応管があるか否かを判定する判定部と、
を具備する自動分析装置。
【請求項5】
反応管に収容された、測光に必要な略最小液量分の溶液を繰り返し測光する測光部と、
前記測光部からの出力に基づいて吸光度を繰り返し算出する算出部と、
前記繰り返し算出された吸光度のばらつき度合に応じて前記反応管が汚れているか否かを判定する判定部と、
を具備する自動分析装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2010−243307(P2010−243307A)
【公開日】平成22年10月28日(2010.10.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−91755(P2009−91755)
【出願日】平成21年4月6日(2009.4.6)
【出願人】(000003078)株式会社東芝 (54,554)
【出願人】(594164542)東芝メディカルシステムズ株式会社 (4,066)
【Fターム(参考)】