説明

自動変速機の制御装置

【課題】変速時の車両加速度を評価して摩擦係合要素の伝達トルクのばらつきなどを学習によって吸収すると共に、自動変速機の運転経過時間に応じて適正に学習するようにした自動変速機の制御装置を提供する。
【解決手段】車両加速度(I相初期)Gが目標とする所定の範囲(ある幅)に入るように摩擦係合要素(油圧クラッチCn)の制御量を補正する補正する補正量(学習Δトルク)を学習によって算出する自動変速機(トランスミッション)の制御装置であって、自動変速機の運転経過時間を推定すると共に、推定された運転経過時間に応じて補正量を持ち替える(S504からS534)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は自動変速機の制御装置に関し、より具体的には変速時の車両加速度を評価して摩擦係合要素の伝達トルクのばらつきなどを学習によって吸収すると共に、ばらつきが初期ばらつきと経年劣化のいずれによるものかを判別して適正に学習するようにした装置に関する。
【背景技術】
【0002】
下記の特許文献1において、複数個のギヤと油圧クラッチ(摩擦係合要素)を備え、油圧クラッチに作動油を給排させて変速する自動変速機の制御装置において、変速時の油圧(作動油の圧力)の立ち上がり特性を改良する技術が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2001−165290号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1記載の技術にあっては、予めECU(電子制御ユニット)に記憶された制御指令値に応じて油圧クラッチ(摩擦係合要素)の動作を制御しているが、制御指令値の算出に際しては油圧クラッチの摩擦係数、初期ばらつきによる個体差あるいは経年劣化などの影響を考慮しなければならず、どのような状態においても所期の特性が著しく損なわれないように個体差や経年劣化などを考慮するあまり、油圧クラッチの潜在能力を十分に引き出することができなかった。
【0005】
そのためには変速時の車両加速度を評価して摩擦係合要素の伝達トルクのばらつきなどを学習し、学習値で摩擦係合要素の制御量を補正することが考えられるが、学習において自動変速機の運転経過時間が短い初期段階ではばらつきを早期に吸収(解消)する反面、運転経過時間が長いときは経年劣化による緩やかな変化に対応して緩慢に吸収するのが望ましい。
【0006】
この発明の目的は上記した課題を解決し、変速時の車両加速度を評価して摩擦係合要素の伝達トルクのばらつきなどを学習によって吸収すると共に、自動変速機の運転経過時間に応じて適正に収束させるようにした自動変速機の制御装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記した課題を解決するために、請求項1に係る自動変速機の制御装置にあっては、車両加速度が目標とする所定の範囲に入るように摩擦係合要素の制御量を補正する補正量を学習によって算出する補正量算出手段と、前記自動変速機の運転経過時間を推定する運転経過時間推定手段とを備えると共に、前記補正量算出手段は前記推定された運転経過時間に応じて前記補正量を持ち替える如く構成した。
【0008】
請求項2に係る自動変速機の制御装置にあっては、前記補正量が所定のパラメータで格子点が規定されるマップに格納される如く構成した。
【0009】
請求項3に係る自動変速機の制御装置にあっては、前記マップが前記運転経過時間に応じて相違させられる如く構成した。
【0010】
請求項4に係る自動変速機の制御装置にあっては、前記運転経過時間推定手段は、前記算出された差と前記しきい値の上限と下限との比較結果に基づいて前記自動変速機の運転経過時間を推定する如く構成した。
【0011】
請求項5に係る自動変速機の制御装置にあっては、前記運転経過時間推定手段は、前記算出された差が前記しきい値の上限以上と判定された回数、あるいは前記算出された差が前記しきい値の下限以下と判定された回数の少なくともいずれかに基づいて前記自動変速機の運転経過時間を推定する如く構成した。
【0012】
請求項6に係る自動変速機の制御装置にあっては、前記運転経過時間推定手段は、前記算出された差の統計分布の平均値が変化する方向と量に基づいて前記自動変速機の運転経過時間を推定する如く構成した。
【0013】
請求項7に係る自動変速機の制御装置にあっては、前記運転経過時間推定手段は、前記自動変速機が搭載された車両の通算走行時間と通算走行距離の少なくともいずれかに基づいて前記自動変速機の運転経過時間を推定する如く構成した。
【発明の効果】
【0014】
請求項1に係る自動変速機の制御装置にあっては、算出された差が所定の範囲に入るように摩擦係合要素の制御量を補正する補正量を学習によって算出し、自動変速機の運転経過時間を推定すると共に、推定された運転経過時間に応じて補正量を持ち替えるように構成したので、例えば自動変速機の運転経過時間が短いときは補正量を増加させる一方、長いときは補正量を減らすように変更することが可能となり、自動変速機の運転経過時間に応じ、換言すれば初期ばらつきによる個体差か経年劣化かに応じて適正に学習、換言すればばらつきを効果的に吸収することができる。
【0015】
即ち、変速時にエンジン回転の吹き上がりやトルク不足が発生することのないように、工場出荷時に摩擦係合要素の寸法公差は余裕マージンが大きく設定される。また初期の間は摩擦係合要素の特性が未だ十分に安定していないため、制御目標値に対する追従性がその後の安定期に比して低いことから、補正量を比較的大きな値とすることでばらつきを効果的に吸収することができる。他方、それを過ぎた後は、補正量を比較的小さくすることで同様にばらつきを効果的に吸収することができ、安定かつ高精度な補正を実現することができる。
【0016】
請求項2に係る自動変速機の制御装置にあっては、補正量が所定のパラメータで格子点が規定されるマップに格納される如く構成したので、上記した効果に加え、補正量を読み出すときに対応する値が格納されていない場合には近隣の値を補間して得た代替値を用いることが可能となり、トルクや回転変化に対する学習補正精度を向上させることができる。
【0017】
請求項3に係る自動変速機の制御装置にあっては、マップが前記運転経過時間に応じて相違させられる如く構成したので、上記した効果に加え、補正量の格納を一層適正に行うことができ、学習補正精度を一層良く向上させることができる。
【0018】
請求項4に係る自動変速機の制御装置にあっては、算出された差としきい値の上限と下限との比較結果に基づいて自動変速機の運転経過時間を推定する如く構成したので、上記した効果に加え、自動変速機の運転経過時間を簡易に推定することができる。
【0019】
請求項5に係る自動変速機の制御装置にあっては、算出された差がしきい値の上限以上と判定された回数、あるいはしきい値の下限以下と判定された回数の少なくともいずれかに基づいて自動変速機の運転経過時間を推定する如く構成したので、上記した効果に加え、自動変速機の運転経過時間を的確に推定することができる。
【0020】
請求項6に係る自動変速機の制御装置にあっては、算出された差の統計分布の平均値が変化する方向と量に基づいて自動変速機の運転経過時間を推定する如く構成したので、上記した効果に加え、自動変速機の運転経過時間を的確に推定することができる。
【0021】
請求項7に係る自動変速機の制御装置にあっては、自動変速機が搭載された車両の通算走行時間と通算走行距離の少なくともいずれかに基づいて自動変速機の運転経過時間を推定する如く構成したので、上記した効果に加え、自動変速機の運転経過時間を一層的確に推定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】この発明の実施例に係る自動変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
【図2】図1に示す自動変速機の制御装置の動作を示すフロー・チャートである。
【図3】図2フロー・チャートの学習値の読み出し処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図4】図2フロー・チャートの目標クラッチトルクの算出処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図5】図2フロー・チャートなどに記載されるG波形とΔNC推定値などを示す波形図である。
【図6】変速におけるΔNC推定値などを示す波形図である。
【図7】図2フロー・チャートのG波形学習処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図8】図7フロー・チャートのG波形評価許可判断処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図9】図7フロー・チャートの学習値書き込み処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図10】図9フロー・チャートで使用されるしきい値の特性を示す説明図である。
【図11】図9フロー・チャートの初期学習Δトルク減算処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図12】図11フロー・チャートで検索される初期学習Δトルクマップの特性を示す説明図である。
【図13】図9フロー・チャートの初期学習Δトルク加算処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図14】図9フロー・チャートの経時学習Δトルク減算処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図15】図14フロー・チャートで検索される経時学習Δトルクマップの特性を示す説明図である。
【図16】図9フロー・チャートの経時学習Δトルク加算処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【図17】図9フロー・チャートの学習補正を説明するタイム・チャートである。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、添付図面を参照してこの発明に係る自動変速機の制御装置を実施するための形態について説明する。
【実施例】
【0024】
図1はこの発明の実施例に係る自動変速機の制御装置を全体的に示す概略図である。
【0025】
以下説明すると、符号Tは自動変速機(以下「トランスミッション」という)を示す。トランスミッションTは車両(図示せず)に搭載されてなると共に、前進5速および後進1速の速度段を有する平行軸式の有段型からなる。
【0026】
トランスミッションTは、エンジン(内燃機関)Eのクランクシャフトに接続されるアウトプットシャフト10にロックアップ機構Lを有するトルクコンバータ12を介して接続されたメインシャフト(入力軸)MSと、このメインシャフトMSに複数のギヤ列を介して接続されたカウンタシャフト(出力軸)CSとを備える。エンジンEは複数気筒を備えると共に、ガソリンを燃料とする火花点火式のエンジンからなる。
【0027】
メインシャフトMSには、メイン1速ギヤ14、メイン2速ギヤ16、メイン3速ギヤ18、メイン4速ギヤ20、メイン5速ギヤ22、およびメインリバースギヤ24が支持される。
【0028】
また、カウンタシャフトCSには、メイン1速ギヤ14に噛合するカウンタ1速ギヤ28、メイン2速ギヤ16と噛合するカウンタ2速ギヤ30、メイン3速ギヤ18に噛合するカウンタ3速ギヤ32、メイン4速ギヤ20に噛合するカウンタ4速ギヤ34、メイン5速ギヤ22に噛合するカウンタ5速ギヤ36、およびメインリバースギヤ24にリバースアイドルギヤ40を介して接続されるカウンタリバースギヤ42が支持される。
【0029】
上記において、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン1速ギヤ14を1速用油圧クラッチ(摩擦係合要素。以下同様)C1でメインシャフトMSに結合すると、1速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0030】
メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン2速ギヤ16を2速用油圧クラッチC2でメインシャフトMSに結合すると、2速(ギヤ。速度段)が確立する。カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ3速ギヤ32を3速用油圧クラッチC3でカウンタシャフトCSに結合すると、3速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0031】
カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ4速ギヤ34をセレクタギヤSGでカウンタシャフトCSに結合した状態で、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメイン4速ギヤ20を4速−リバース用油圧クラッチC4RでメインシャフトMSに結合すると、4速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0032】
また、カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタ5速ギヤ36を5速用油圧クラッチC5でカウンタシャフトCSに結合すると、5速(ギヤ。速度段)が確立する。
【0033】
さらに、カウンタシャフトCSに相対回転自在に支持されたカウンタリバースギヤ42をセレクタギヤSGでカウンタシャフトCSに結合した状態で、メインシャフトMSに相対回転自在に支持されたメインリバースギヤ24を4速−リバース用油圧クラッチC4RでメインシャフトMSに結合すると、後進速度段が確立する。
【0034】
カウンタシャフトCSの回転は、ファイナルドライブギヤ46およびファイナルドリブンギヤ48を介してディファレンシャルDに伝達され、それから左右のドライブシャフト50,50を介し、エンジンEおよびトランスミッションTが搭載される車両(図示せず)の駆動輪W,Wに伝達される。
【0035】
車両運転席(図示せず)のフロア付近にはシフトレバー54が設けられ、運転者の操作によって8種のレンジ、P,R,N,D5,D4,D3,2,1のいずれか選択される。
【0036】
エンジンEの吸気路(図示せず)に配置されたスロットルバルブ(図示せず)はDBW(Drive By Wire)機構55に接続される。即ち、スロットルバルブはアクセルペダル(図示せず)との機械的な連結が断たれ、電動機などのアクチュエータ(図示せず)によって駆動される。
【0037】
DBW機構55のアクチュエータの付近にはスロットル開度センサ56が設けられ、アクチュエータの回転量を通じてスロットル開度THHFを示す信号を出力する。またファイナルドリブンギヤ48の付近には車速センサ58が設けられ、ファイナルドリブンギヤ48が1回転するごとに車速Vを示す信号を出力する。
【0038】
更に、カムシャフト(図示せず)の付近にはクランク角センサ60が設けられ、特定気筒の所定クランク角度でCYL信号を、各気筒の所定クランク角度でTDC信号を、所定クランク角度を細分したクランク角度(例えば15度)ごとにCRK信号を出力する。また、エンジンEの吸気路のスロットルバルブ配置位置の下流には絶対圧センサ62が設けられ、吸気管内絶対圧(エンジン負荷)PBAを示す信号を出力する。
【0039】
また、メインシャフトMSの付近には第1の回転数センサ64が設けられ、メインシャフトMSの回転数(トランスミッションTの入力回転数)NMを示す信号を出力すると共に、カウンタシャフトCSの付近には第2の回転数センサ66が設けられ、カウンタシャフトCSの回転数(トランスミッションTの出力回転数)NCを示す信号を出力する。
【0040】
さらに、車両運転席付近に装着されたシフトレバー54の付近にはシフトレバーポジションセンサ68が設けられ、前記した8種のポジション(レンジ)の中、運転者によって選択されたポジションを示す信号を出力する。
【0041】
さらに、トランスミッションTの油圧回路Oのリザーバの付近には温度センサ70が設けられて油温(作動油Automatic Transmission Fluidの温度)TATFに比例した信号を出力すると共に、各クラッチに接続される油路には油圧スイッチ72がそれぞれ設けられ、各クラッチに供給される油圧が所定値に達したとき、ON信号を出力する。
【0042】
また車両運転席のブレーキペダル(図示せず)の付近にはブレーキスイッチ74が設けられ、運転者のブレーキペダル操作に応じてON信号を出力すると共に、アクセルペダル(図示せず)の付近にはアクセル開度センサ76が設けられ、運転者のアクセル開度(アクセルペダル踏み込み量)APに応じた出力を生じる。
【0043】
これらセンサ56などの出力は、ECU(電子制御ユニット)80に送られる。
【0044】
ECU80は、CPU82,ROM84,RAM86、入力回路88、および出力回路90からなるマイクロコンピュータから構成される。マイクロコンピュータはA/D変換器92を備える。
【0045】
前記したセンサ56などの出力は、入力回路88を介してECU80内に入力され、アナログ出力はA/D変換器92を介してデジタル値に変換されると共に、デジタル出力は波形整形回路などの処理回路(図示せず)を経て処理され、前記RAM86に格納される。
【0046】
前記した車速センサ58の出力およびクランク角センサ60のCRK信号出力はカウンタ(図示せず)で時間間隔が計測され、車速Vおよびエンジン回転数NEが検出される。第1の回転数センサ64および第2の回転数センサ66の出力もカウントされ、トランスミッションの入力軸回転数NMおよび出力軸回転数NCが検出される。
【0047】
ECU80においてCPU82は行先段あるいは目標段(変速比)を決定し、出力回路90および電圧供給回路(図示せず)を介して油圧回路Oに配置されたシフトソレノイドSL1からSL5を励磁・非励磁してクラッチ油路の切替え制御を行うと共に、リニアソレノイドSL6からSL8を励磁・非励磁して変速に関係する油圧クラッチCnとトルクコンバータ12のロックアップ機構Lへの供給油圧を制御する。
【0048】
さらに、CPU82はエンジンEの燃料噴射量と点火時期を決定し、インジェクタ(図示せず)を介して決定された噴射量の燃料を供給すると共に、点火装置(図示せず)を介して決定された点火時期に従って噴射された燃料と吸気の混合気を点火する。
【0049】
次いで、この発明に係る自動変速機の制御装置の動作を説明する。
【0050】
図2はその処理を示すフロー・チャートである。図示のプログラムはCPU82によって所定時間ごとに実行される。
【0051】
以下説明すると、S10においてΔNC推定値を算出する。
【0052】
ΔNC推定値は、今回の(プログラムループ時の)NC(第2の回転数センサ66で検出されるカウンタシャフトCSの回転数(トランスミッションTの出力回転数、換言すれば車速V))と前回の(プログラムループ時の)NCを減算して得られた差を意味する。尚、ΔNC推定値の算出は、回転数センサ66の出力をローパスフィルタでフィルタリングして高周波ノイズを除去した波形に対して行われる。
【0053】
次いでS12に進み、UP(アップ)シフト、即ち、1速から2速、2速から3速などのアップシフトにあるか否か判断する。この実施例はアップシフト変速を評価するように構成されることから、例えばダウンシフト、アップシフトであったが終了している場合、そもそも変速状態にない場合などは否定される。
【0054】
S12で肯定されるときはS14に進み、学習値を読み出す。
【0055】
図3はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートであり、S100において学習Δトルクマップを検索して学習Δトルク(学習値。変速先の速度段用の油圧クラッチCnの学習による伝達トルクの目標値の増減補正分)を読み出す。
【0056】
この実施例においては速度段ごとに学習Δトルクが算出されてRAM86にマップ値として格納される。即ち、後述する学習値書き込み処理で学習Δトルク値が学習値として算出され、学習Δトルクマップに伝達トルクと車速からなる格子点ごとに検索自在に書き込まれて格納される。
【0057】
S100ではその中から変速先の速度段に相当するマップを選択し、当該油圧クラッチCnの伝達トルクと車速Vから学習Δトルクを検索する(読み出す)。油圧クラッチCnの伝達トルクは、エンジンEのエンジン回転数NEと負荷(例えば吸気管内絶対圧PBA)とトルクコンバータ12のスリップ率ETRから算出する。
【0058】
図2フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS16に進み、目標クラッチトルクを算出する。
【0059】
図4はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートであり、S200において目標クラッチトルクを目標I(イナーシャ)相クラッチトルクとして算出する。目標I相クラッチトルクは、前記した変速先の速度段用の油圧クラッチCnの伝達トルクにS14で読み出された学習Δトルクを加算することで算出する。S200で算出された値がS16の目標クラッチトルクとされる。
【0060】
図2フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS18に進み、変速先の速度段用の油圧クラッチCnのI相のトルクが算出された目標クラッチトルクとなるように、リニアソレノイドSL6からSL8を励磁・消磁して供給油圧を制御する。
【0061】
他方、S12で否定されるときはS20に進み、G波形を学習する。尚、この明細書でGとは車両加速度、より正確には車両の前後方向の加速度を意味し、G波形とは車両加速度の波形を意味する。
【0062】
図5はG波形と前記したΔNC推定値などを示す波形図、図6も変速におけるΔNC推定値などを示す波形図である。
【0063】
図5から明らかな如く、車両加速度Gの波形とΔNC推定値は等価なので、この実施例においてはΔNC推定値が車両加速度Gを示すものとみなし、図6に示す如く、ΔNC推定値から変速時の車両加速度を推定・評価し、それから摩擦係合要素の伝達トルクのばらつきなどを学習するようにした。
【0064】
図7は、図2フロー・チャートのG波形学習処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0065】
以下説明すると、S300においてG波形評価許可判断を行う。
【0066】
図8はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0067】
先ずS400においてUPシフトか否か判断する。前記した如く、この実施例はアップシフト変速を評価するように構成されることから、例えばダウンシフトの場合、そもそも変速していない場合などは否定されてS402に進み、UPシフト後の定常状態にあるか否か判断する。
【0068】
これは、UPシフト後の車両の走行状態が過渡状態にあるときはG波形を適正に評価し難いからである。従ってS402で否定されるときはS404に進み、許可フラグのビットを0にリセットする。
【0069】
一方、S400あるいはS402で肯定されるときはS406に進み、UPシフト後初回、即ち、アップシフトが終了して初めてのプログラムループか否か判断する。
【0070】
S406で肯定されるときはS408に進み、アクセル開度APの値をラッチ(保存)する一方、S406で否定されるときはS410に進み、許可フラグが0にリセットされているか否か判断し、肯定されるときはS404に進む。
【0071】
他方、S410で否定されるときはS412に進み、アクセル開度APの変動判断を実行する。これは検出されたアクセル開度センサ76から検出されたアクセル開度APを適宜なしきい値と比較し、そのしきい値を超えるか否か判定することで行う。
【0072】
次いでS414に進み、S412で検出値がしきい値を超えると判定されたか否か判断し、肯定されるときはアクセル開度APが変動したと判断してS404に進む一方、否定されるときはS416に進み、許可フラグのビットを1にセットする。
【0073】
このように、UPシフトにあるかあるいはUPシフト後の車両の走行状態が定常状態にあり、かつアクセル開度APが変動しない走行状態を選択してG波形(より正確にはΔNC推定値)からアップシフト変速を評価する。
【0074】
図7フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS302に進み、許可フラグのビットからG波形評価が許可されたか否か判断し、肯定されるときはS304に進み、UPシフトか否か判断する。
【0075】
S304で肯定されるときはS306に進み、T(トルク)相の引き込み点を検出する。これは、図6に示すようにΔNC推定値の最小値を検出することで行う。
【0076】
次いでS308に進み、引き込み点の検出時点の後の、T相に続くI相の初期平均GをΔNC推定値から算出する。ここでI相の「初期」とは、GRATIOから検出される区間であり、変速前の速度段用の油圧クラッチCnとの係合が外れて変速先の速度段用の油圧クラッチCnとの係合が始まってから所定の状態まで係合が進行している区間を意味する。尚、図5と図6においてGRATIOはトランスミッションTの入力回転数NMと出力回転数NCの比、即ち、NC/NMを示し、変速状態を示す。
【0077】
S308のI相初期平均Gは、ΔNC推定値が車両加速度Gを示すものとみなし、図6に丸Aで示すΔNC推定値をI相初期平均Gとして求めることで算出する。より具体的には、I相初期平均Gは、上記した区間内のΔNC推定値の積分値を積算回数で除算することで算出する。
【0078】
他方、S304で否定されるときはS310に進み、車両の走行状態が定常状態にあるか否か判断し、肯定されるときはS312に進み、変速後平均G、より正確にはS304で肯定されたときの新たなUPシフトが終了した後の平均G(図6に丸Bで示す)を算出する。
【0079】
変速後平均Gも、トランスミッションTの入力回転数NMとNCの比を示すGRATIOから変速の終了を判定すると共に、ΔNC推定値が車両加速度Gを示すことから目標とする車両加速度を示すものとみなし、変速後GをΔNC推定値からI相初期平均Gと同様な手法での平均値を求めることで算出する。
【0080】
次いでS314に進み、I相初期Gを算出する。これは、図6に丸Aで示す、S308で算出されたI相初期平均G(出力回転数の変化量の平均値)から丸Bで示す、S312で算出された変速後平均G(車両加速度の平均値)を減算して差、即ち、(丸Aの平均値−丸Bの平均値)を求めることで算出する。
【0081】
次いでS316に進み、学習値の書き込み(格納)を実行する。尚、S302で否定されるときはS318に進み、S306などの算出値を初期化(リセット)する。
【0082】
図9はS316の学習値の書き込み処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0083】
以下説明すると、S500で学習許可判断、即ち、車両の走行状態が学習の許可される所定の状態にあるか否か判断する。具体的には、アップシフトが1速から2速あるいは2速から3速であるとき、車速が所定の低車速にあるとき、学習が許可されるので、そのような走行状態にあるか否か判断する。アップシフトを上記に限定したのは、高品質の変速を実現するには、そうしない限り適正に学習できないからである。
【0084】
次いでS502に進み、S500の判断から学習が許可されるか否か判断し、肯定されるときはS504に進み、運転経過時間(トランスミッションTの通算運転時間)を推定する。これについては後述する。
【0085】
次いでS506に進み、推定された運転経過時間を適宜設定する規定値と比較し、運転経過時間が初期学習期間(慣らし運転期間)にあるか(あるいはその後の経時学習期間(経時的劣化が生じる期間)にあるか)否か判断する。
【0086】
推定された運転経過時間が規定値未満のとき、S506の判断は肯定されてS508に進み、I相初期Gを初期学習しきい値(収束しきい値)の上限と比較する。図10はそれを示す説明図である。
【0087】
図示の如く、しきい値の上限(および後述する下限)は運転経過時間に応じて別々に、具体的には運転経過時間が短いときは「初期学習しきい値」と示すように比較的その幅(上、下限の幅)が広く、長いときは「経時学習しきい値」と示すように比較的その幅が狭くなるように設定される。
【0088】
即ち、初期学習しきい値は初期ばらつきによる個体差の補正用であり、変速時にエンジン回転の吹き上がりやトルク不足が発生することのないように、工場出荷時に油圧クラッチCnの寸法公差は余裕マージンが大きく設定される。また初期の間は油圧クラッチCnなどの特性が未だ十分に安定していないため、制御目標値に対する追従性がその後の安定期に比して低い。
【0089】
1回当たりの学習補正量(減算量あるいは加算量)はそれを目標とする収束回数で除して求められるが、上記の理由から比較的大きな値とされる。従って、その場合でも発散しないように、しきい値の上、下限の幅は比較的大きく設定される。
【0090】
他方、経時学習しきい値はその後安定期の経時学習期間の補正用であることから、安定かつ高精度な補正を目指して1回あたりの学習補正量も比較的小さい値に算出されるため、しきい値の上、下限の幅も比較的小さく設定される。
【0091】
これにより、トランスミッションTの運転経過時間に応じ、換言すれば初期ばらつきによる個体差か経年劣化かに応じてばらつきを適正に吸収することができる。
【0092】
図9フロー・チャートにあっては肯定されるときはS508に進み、I相初期Gが初期学習しきい値の上限以上か否か判断し、肯定されるときはS510に進み、初期学習Δトルク減算処理、即ち、目標クラッチトルクを減算補正するための学習Δトルクを算出する。
【0093】
図11はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0094】
先ずS600において変速先の速度段に対応する初期学習Δトルクマップを選択する。
【0095】
図12はそのマップの特性を示す説明図であり、かかるマップが速度段ごとにRAM86に用意される。
【0096】
先に説明した図3フロー・チャートのS14の処理はこのマップ(と後述する経時学習Δトルクマップ)に書き込まれた値(学習Δトルク)を読み出して行うことから、その前処理である書き込みも変速先の速度段に対応するマップを選択する。
【0097】
次いでS602に進み、初期学習Δトルクの前回値(図3フロー・チャートの前回実行時の値)を検索し、S604に進み、初期学習1回あたりの減算量を算出する。前記した如く、初期学習期間にあっては1回あたりの減算量は比較的大きな値に算出される。
【0098】
S606に進み、前回値に1回当たりの減算量を加算して初期学習Δトルク今回値(図3フロー・チャートの今回実行時の値)を算出する。減算処理であることから、今回値(前回値)と1回当たりの減算量は全て負値として算出される。
【0099】
同時に、伝達トルクが算出されると共に、車速が検出され、算出された今回値は、得られた伝達トルクと車速で規定される格子点の該当領域に書き込まれる(格納される)。
【0100】
他方、図9フロー・チャートにあってS508で否定されるときはS514に進み、I相初期Gが初期学習しきい値の下限以下か否か判断し、肯定されるときはS516に進み、初期学習Δトルク加算処理、即ち、目標クラッチトルクを加算補正するための学習Δトルクを算出する。
【0101】
図13はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0102】
先ずS700において変速先の速度段に対応する前記した初期学習Δトルクマップを選択し、S702からS706に進み、初期学習Δトルク今回値(図3フロー・チャートの今回実行時の値)を算出する。
【0103】
図13の場合には加算処理であることから、今回値(前回値)と1回当たりの加算量は全て正値として算出される。同時に伝達トルクが算出されると共に、車速が検出され、算出された今回値は、得られた伝達トルクと車速で規定される格子点の該当領域に書き込まれる(格納される)。
【0104】
図9フロー・チャートの説明に戻ると、次いでS512あるいはS518に進み、算出された今回値が上限リミットを超える、あるいは下限リミット未満となるときはリミット内に止める処理を行なう。
【0105】
次いでS520に進み、学習カウントUP(アップ)を実行する。即ち、S510あるいはS516で学習Δトルクが算出された回数をカウントすると共に、カウントされた回数をRAM86に変速先の速度段用ごとに用意されたマップに油圧クラッチCnの伝達トルクと車速から検索自在に格納する。
【0106】
また、S506で否定されるときはS522に進み、I相初期Gが経時学習しきい値の上限以上か否か判断し、肯定されるときはS524に進み、初期学習Δトルク減算処理、即ち、目標クラッチトルクを減算補正するための学習Δトルクを算出する。
【0107】
図14はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0108】
先ずS800において変速先の速度段に対応する経時学習Δトルクマップを選択する。
【0109】
図15はそのマップの特性を示す説明図であり、初期学習Δマップと同様、速度段ごとにRAM86に用意される。
【0110】
次いでS802に進み、経時学習Δトルクの前回値を検索し、S804に進み、経時学習1回あたりの減算量を算出する。前記した如く、経時学習期間にあっては1回あたりの減算量は初期学習期間の値に比して小さな値に算出される。
【0111】
次いでS806に進み、前回値に1回当たりの減算量を加算して経時学習Δトルク今回値を算出し、算出された今回値を伝達トルクと車速で規定される格子点の該当領域に書き込む(格納する)。
【0112】
他方、図9フロー・チャートにおいてS522で否定されるときはS528に進み、I相初期Gが経時学習しきい値の下限以下か否か判断し、肯定されるときはS530に進み、経時学習Δトルク加算処理、即ち、目標クラッチトルクを加算補正するための学習Δトルクを算出する。
【0113】
図16はその処理を示すサブ・ルーチン・フロー・チャートである。
【0114】
先ずS900において変速先の速度段に対応する前記した経時学習Δトルクマップを選択し、S902からS906に進み、経時学習Δトルク今回値を算出し、算出された今回値を伝達トルクと車速で規定される格子点の該当領域に書き込む(格納する)。
【0115】
次いで図9フロー・チャートのS526あるいはS532に進み、リミット処理を行い、S534に進み、S520と同様に学習カウントUP(アップ)を実行する。
【0116】
ここでS502の運転経過時間の推定を説明すると、その推定は、S508,S514,S522,S528に示すI相初期Gと初期学習(あるいは経時学習)しきい値の上、下限との比較結果に基づいて行う。
【0117】
より具体的には、S508,S522においてI相初期Gがしきい値の上限より大きいと判定された回数、あるいはS514あるいは528においてI相初期Gがその下限より小さいと判定された回数、即ち、S520,S534でカウントされた回数に基づいてトランスミッションTの運転経過時間を推定する。
【0118】
さらには、図10に矢印で示す如く、I相初期Gの統計分布の平均値が変化する方向と量に基づいてトランスミッションTの運転経過時間を推定することとする。即ち、I相初期Gの分布方向が経年劣化として現れる方向を予め実験などで求めておき、その方向への移動傾向の発生が認められるとき、運転経過時間、より具体的には運転経過時間が長いと推定することとする。
【0119】
また、それ以外にも、トランスミッションTが搭載された車両の通算走行時間と通算走行距離の少なくともいずれかを適宜な手法で積算すると共に、それに基づいて運転経過時間を推定することとする。
【0120】
さらには、トランスミッションTが搭載された車両の運転状態や各油圧クラッチCnの運転負荷状態(例えば吸収エネルギ、油温TATF)などから運転経過時間を推定しても良い。
【0121】
また油圧クラッチCnあるいはATFが交換された事実を適宜な手法で検知し、それに基づいて運転経過時間を修正したり、リセットしたりしても良い。
【0122】
図3フロー・チャートの処理を再説すると、S14,S16においてS510などで算出される学習Δトルク今回値が同一のパラメータで検索されて読み出され、目標I相クラッチトルクに加算(負値であるため実質的には減算)されて目標クラッチトルクが算出される。
【0123】
ここで、学習Δトルク今回値は伝達トルクと車速で格子点が規定されるマップに格納されることから、読み出すときに対応する値が格納されていない場合には近隣の値を補間して得た代替値を用いることができ、トルクや回転変化に対する学習補正精度を向上させることができる。
【0124】
またマップが運転経過時間に応じて相違させられる、即ち、別々に設けられる如く構成したので、上記した効果に加え、補正量の格納を一層適正に行うことができ、学習補正精度を一層良く向上させることができる。
【0125】
次いでS18において算出された目標クラッチトルクとなるように油圧が制御される。即ち、図6に示すようにI相初期Gがある幅(所定の範囲)に入るように油圧が制御される。
【0126】
より具体的には、車両加速度Gが図示の「変速時目標値」の付近となるように油圧クラッチCnを制御量(目標クラッチトルク)を補正する補正量が学習によって算出される。これにより、運転者に違和感を与えることなく、車両加速度Gを目標とするG波形に収束させることができる。
【0127】
ここで、図17を参照して上記した学習補正を再説すると、初めに述べた如く、例えばトランスミッションTの運転経過時間が短いときは油圧クラッチCnの制御量を所望の値に早期に収束させる一方、長いときは緩慢に収束させるのが望ましい。
【0128】
その意図から、この実施例においては図17に示すように運転経過時間に応じて学習Δトルク(補正量)を持ち替えるように構成したので、運転経過時間が短いときは学習Δトルクを増加することができ、I相初期Gが所定の範囲に入るように油圧クラッチCnの制御量を補正する速度を上げることができると共に、必要に応じてホールドすることができる。
【0129】
即ち、運転経過時間が短いときはクラッチディスクμ特性やリニアソレノイドSLnとクラッチ油圧間の特性などの油圧クラッチCnの初期ばらつきによる個体差が大きいため、早期に収束させることが望ましいが、かく構成することで収束時期を早めることができ、運転経過時間に応じて適正に学習することができる。
【0130】
一方、運転経過時間が長いときは図17に示すように学習Δトルクの補正量を減少させることができ、I相初期Gが所定の範囲に入るように油圧クラッチCnの制御量を補正する速度を下げることができる。
【0131】
即ち、運転経過時間が比較的長いときは、油圧クラッチCnのばらつきはクラッチディスクμ特性やATF粘性変化などの経年劣化による緩やかな変化となるため、運転経過時間が短いときと同様に学習を継続すると、収束性が悪化することがある。しかしながら、このように構成することで、安定かつ高精度な補正を実現することができる。
【0132】
上記した如く、この実施例に係る自動変速機(トランスミッション)Tの制御装置にあっては、車両加速度(I相初期)Gが目標とする所定の範囲(図6に示す幅)に入るように摩擦係合要素(油圧クラッチCn)の制御量を補正する補正量を学習によって算出する補正量算出手段(S500からS534)と、前記自動変速機の運転経過時間を推定する運転経過時間推定手段(S502)とを備えると共に、前記補正量算出手段は前記推定された運転経過時間に応じて前記補正量を持ち替える(S510,S516,S524,S530)ように構成したので、例えばトランスミッションTの運転経過時間が短いときは補正量を増加させる一方、長いときは補正量を減らすように変更することが可能となり、トランスミッションTの運転経過時間に応じ、換言すれば初期ばらつきによる個体差か経年劣化かに応じて適正に学習、換言すればばらつきを効果的に吸収することができる。
【0133】
即ち、変速時にエンジン回転の吹き上がりやトルク不足が発生することのないように、工場出荷時に油圧クラッチCnの寸法公差は余裕マージンが大きく設定される。また初期の間は油圧クラッチCnの特性が未だ十分に安定していないため、制御目標値に対する追従性がその後の安定期に比して低いことから、補正量を比較的大きな値とすることでばらつきを効果的に吸収することができる。他方、それを過ぎた後は、補正量を比較的小さくすることで同様にばらつきを効果的に吸収することができ、安定かつ高精度な補正を実現することができる。
【0134】
また、補正量が所定のパラメータで格子点が規定されるマップ(初期学習Δトルクマップ、経時学習Δトルクマップ)に格納される如く構成したので、上記した効果に加え、補正量を読み出すときに対応する値が格納されていない場合には近隣の値を補間して得た代替値を用いることが可能となり、トルクや回転変化に対する学習補正精度を向上させることができる。
【0135】
また、前記マップが前記運転経過時間に応じて相違させられる如く構成したので、上記した効果に加え、補正量の格納を一層適正に行うことができ、学習補正精度を一層良く向上させることができる。
【0136】
また、前記運転経過時間推定手段は、前記算出された差(I相初期G)と前記収束しきい値の上、下限との比較結果に基づいて前記自動変速機の運転経過時間を推定する(S20,S316,S500からS522)如く構成したので、上記した効果に加え、トランスミッションTの運転経過時間を簡易に推定することができる。
【0137】
また、前記運転経過時間推定手段は、前記算出された差が前記しきい値の上限以上と判定された回数、あるいは前記算出された差(I相初期G)が前記しきい値の下限以下と判定された回数の少なくともいずれかに基づいて前記自動変速機の運転経過時間を推定する(S20,S316,S520)如く構成したので、上記した効果に加え、トランスミッションTの運転経過時間を的確に推定することができる。
【0138】
また、前記運転経過時間推定手段は、前記算出された差の統計分布の平均値が変化する方向と量に基づいて前記自動変速機の運転経過時間を推定する(S20,S316,S500からS520)如く構成したので、上記した効果に加え、トランスミッションTの運転経過時間を的確に推定することができる。
【0139】
また、前記運転経過時間推定手段は、前記自動変速機が搭載された車両の通算走行時間と通算走行距離の少なくともいずれかに基づいて前記自動変速機の運転経過時間を推定する(S20,S316,S502)如く構成したので、上記した効果に加え、トランスミッションTの運転経過時間を一層的確に推定することができる。
【0140】
尚、上記において、この発明を平行軸式の自動変速機を例にとって説明したが、この発明はプラネタリ型の自動変速機にも妥当する。
【符号の説明】
【0141】
T 自動変速機(トランスミッション)、E エンジン(内燃機関)、O 油圧回路、12 トルクコンバータ、L ロックアップ機構、14,16,18,20,22,24,28,30,32,34,36,42 ギヤ、Cn 油圧クラッチ(摩擦係合要素)、55 DBW機構、58 車速センサ、60 クランク角センサ、62 絶対圧センサ、64,66 回転数センサ、76 アクセル開度センサ、80 電子制御ユニット(ECU)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車両加速度が目標とする所定の範囲に入るように摩擦係合要素の制御量を補正する補正量を学習によって算出する補正量算出手段と、前記自動変速機の運転経過時間を推定する運転経過時間推定手段とを備えると共に、前記補正量算出手段は前記推定された運転経過時間に応じて前記補正量を持ち替えることを特徴とする自動変速機の制御装置。
【請求項2】
前記補正量が所定のパラメータで格子点が規定されるマップに格納されることを特徴とする請求項1記載の自動変速機の制御装置。
【請求項3】
前記マップが前記運転経過時間に応じて相違させられることを特徴とする請求項2記載の自動変速機の制御装置。
【請求項4】
前記運転経過時間推定手段は、前記算出された差と前記しきい値の上限と下限との比較結果に基づいて前記自動変速機の運転経過時間を推定することを特徴とする請求項1記載の自動変速機の制御装置。
【請求項5】
前記運転経過時間推定手段は、前記算出された差が前記しきい値の上限以上と判定された回数、あるいは前記算出された差が前記しきい値の下限以下と判定された回数の少なくともいずれかに基づいて前記自動変速機の運転経過時間を推定することを特徴とする請求項4記載の自動変速機の制御装置。
【請求項6】
前記運転経過時間推定手段は、前記算出された差の統計分布の平均値が変化する方向と量に基づいて前記自動変速機の運転経過時間を推定することを特徴とする請求項4記載の自動変速機の制御装置。
【請求項7】
前記運転経過時間推定手段は、前記自動変速機が搭載された車両の通算走行時間と通算走行距離の少なくともいずれかに基づいて前記自動変速機の運転経過時間を推定することを特徴とする請求項1記載の自動変速機の制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【公開番号】特開2011−226533(P2011−226533A)
【公開日】平成23年11月10日(2011.11.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−95694(P2010−95694)
【出願日】平成22年4月19日(2010.4.19)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】