説明

自動変速機

【課題】変速機ケーシングに作用する負荷を分散すると共に、組立を容易に行うことができる自動変速機を提供する。
【解決手段】変速機ケーシング内に、変速機構の変速機出力軸4を係脱可能に固定するパーキング機構を収容した自動変速機において、変速機ケーシングは、互いに結合して筐体を形成する第1,第2ケーシング(トランスミッションケース8c,コンバータハウジング8a)を有し、パーキング機構のうち、運転者のシフトレバー操作に連動するマニュアルシャフト51及びパーキングロッド52は、第1ケーシング8cに取り付け、パーキングロッド先端部のカム56が乗り上げるサポートアクチュエータ及びパーキングギア55と噛合するパーキングポール54は、第2ケーシング8aに取り付ける。また、第1ケーシング8cの第2ケーシング8aに対峙する面に、パーキングロッド52を仮保持する仮保持リブ85dを設けた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、パーキング機構を有する自動変速機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、車両の変速を行う自動変速機は、変速機ケーシング内に収容したパーキング機構を備えている。このパーキング機構は、運転者のシフトレバー操作に連動して回動するマニュアルシャフトと、マニュアルシャフトの回動に伴って軸方向に移動するパーキングロッドと、パーキングロッドの移動に伴ってパーキングロッド先端部のカムが乗り上げるサポートアクチュエータと、カムがサポートアクチュエータに乗り上げた際にこのカムにより押圧されて移動し、変速機出力軸に設けられたパーキングギアと噛合するパーキングポールと、を有している(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
そして、このパーキング機構は、トランスミッションケースと、これと結合して筐体を形成するコンバータハウジングと、を有する変速機ケーシング内に収容されているが、このとき、全ての構成要素がトランスミッションケースに固定されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2007-205383号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、従来の自動変速機にあっては、パーキングポールがパーキングギアに噛合するパーク時、パーキングポールを介してサポートアクチュエータやパーキングロッドに変速機出力軸からの反力が作用し、この反力がサポートアクチュエータやパーキングロッドからトランスミッションケースに作用することとなる。
【0006】
そのため、トランスミッションケースに集中する負荷が大きくなり、トランスミッションケースの強度を上げる必要があった。しかしながら、強度向上のためには、変速機ケーシング内のレイアウトの変更や、ケース形状の変更を行わなければならず、トランスミッションケースの強度を上げることは容易ではないという問題があった。
【0007】
さらに、トランスミッションケースにパーキング機構を取り付ける際の位置決めが面倒であったり、トランスミッションケースとコンバータハウジングとを結合する際に、パーキングロッド等の内容物が位置ずれを起こして組立作業性が悪いという問題も生じていた。
【0008】
本発明は、上記問題に着目してなされたもので、変速機ケーシングに作用する負荷を分散して負荷集中を防止すると共に、組立を容易に行うことができる自動変速機を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記目的を達成するため、本発明では、変速機ケーシング内に、変速機構の変速機出力軸を係脱可能に機械的に固定するパーキング機構を収容した自動変速機において、
前記変速機ケーシングは、互いに結合して筐体を形成する第1,第2ケーシングを有し、
前記パーキング機構は、運転者のシフトレバー操作に連動して回動するマニュアルシャフトと、該マニュアルシャフトの回動に伴って軸方向に移動するパーキングロッドと、該パーキングロッドの移動に伴ってパーキングロッド先端部のカムが乗り上げるサポートアクチュエータと、前記カムが乗り上げた際に前記カムにより押圧されて移動し、前記変速機出力軸に設けられたパーキングギアと噛合するパーキングポールと、を有し、
前記マニュアルシャフト及び前記パーキングロッドは、前記第1ケーシングに取り付けられ、前記サポートアクチュエータ及び前記パーキングポールは、前記第2ケーシングに取り付けられると共に、
前記第1ケーシングの前記第2ケーシングに対峙する面には、前記パーキングロッドを仮保持する仮保持部を設けたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0010】
よって、本発明の自動変速機にあっては、パーキング機構のうち、マニュアルシャフト及びパーキングロッドが第1ケーシングに取り付けられ、サポートアクチュエータ及びパーキングポールが第2ケーシングに取り付けられるので、パーク時にパーキング機構から変速機ケーシングに作用する負荷を分散することができ、負荷集中を防止して第1ケーシングあるいは第2ケーシングの強度を無理に向上する必要がなくなる。
さらに、第1ケーシングの第2ケーシングに対峙する面には、パーキングロッドを仮保持する仮保持部が設けられたので、パーキングロッドの位置合せを容易に行うことができると共に、第1ケーシングと第2ケーシングを結合する際に生じるパーキングロッドの位置ずれを防止して組立作業性を向上することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】実施例1の自動変速機を搭載したパワートレーンを模式的に示すシステム図である。
【図2】実施例1の自動変速機を示す断面展開図である。
【図3】(a)は実施例1の自動変速機におけるトランスミッションケース内側を示す平面図であり、(b)は実施例1の自動変速機におけるコンバータハウジング内側を示す平面図である。
【図4】実施例1の自動変速機におけるパーキング機構を示す斜視図である。
【図5】実施例1の自動変速機においてパーキング機構の初期状態を示す説明図である。
【図6】実施例1の自動変速機におけるベアリングリテーナを示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の自動変速機を実施するための形態を、図面に示す実施例1に基づいて説明する。
【実施例1】
【0013】
まず、構成を説明する。
図1に示すパワートレーンは、駆動源であるエンジン1と、このエンジン1に駆動結合されるトルクコンバータ2と、このトルクコンバータ2に駆動結合される自動変速機3と、この自動変速機3からドライブシャフト6aを経て動力が出力される車輪6,6と、を有する。また、自動変速機3は、後述する無段変速機構20を制御する無段変速制御部7aと、後述する有段変速機構30を制御する有段変速制御部7bと、を有する変速制御部7により変速制御される。
【0014】
そして、自動変速機3は、変速機ケーシング8内に、変速機構TMと、この変速機構TMの出力軸である変速機出力軸4を係脱可能に機械的に固定するパーキング機構Pとを収容している。
【0015】
変速機ケーシング8は、図2に示すように、コンバータハウジング(第2ケーシング)8aと、トランスミッションカバー8bと、トランスミッションケース(第1ケーシング)8cと、ベアリングリテーナ(軸保持壁)8dと、を有している。
【0016】
コンバータハウジング(第2ケーシング)8aは、内側にトルクコンバータ2が装着される凹部81aを有し、変速機ケーシング8のトルクコンバータ側の外郭面を構成する。このコンバータハウジング8aには、トルクコンバータ2の出力軸2aが挿入される入力軸貫通孔82aが形成されると共に、ドライブシャフト6aが突出するドライブシャフト貫通孔83aが形成されている。なお、入力軸貫通孔82aは、凹部81aの中央位置に形成される。さらに、変速機出力軸4を支持する出力軸受84aが設けられている。
【0017】
トランスミッションカバー8bは、後述する無段変速機構20のプライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22の軸方向端面を覆い、変速機ケーシング8の外郭面を構成する。このトランスミッションカバー8bには、プライマリプーリ21を支持するプライマリプーリ軸受81bと、セカンダリプーリ22を支持するセカンダリプーリ軸受82bとが設けられると共に、プライマリプーリ21の回転数を検出するプライマリプーリ回転数センサKS1及びセカンダリプーリ22の回転数を検出するセカンダリプーリ回転数センサKS2が貫通固定されている。
【0018】
トランスミッションケース(第1ケーシング)8cは、コンバータハウジング8aとトランスミッションカバー8bとの間に挟持され、変速機ケーシング8の内部を分割する中間壁を構成する。ここでは、コンバータハウジング8aとトランスミッションケース8cとを互いに結合すると共に、トランスミッションカバー8bとトランスミッションケース8cとを互いに結合することで筐体である変速機ケーシング8の外郭を形成する。
そして、トランスミッションカバー8bとトランスミッションケース8cとにより、無段変速機構20を収容する第1トランスミッション領域S1が区画され、コンバータハウジング8aとトランスミッションケース8cとにより、パーキング機構Pを収容する第2トランスミッション領域S2が区画される。
さらに、このトランスミッションケース8cには、トルクコンバータ2の出力軸2aを支持する入力軸軸受81cと、プライマリプーリ21の入力軸を貫通支持するプライマリプーリ軸受82cと、セカンダリプーリ22の出力軸を貫通支持するセカンダリプーリ軸受83cとが設けられると共に、ドライブシャフト6aが突出するドライブシャフト貫通孔84cが形成されている。さらに、このトランスミッションケース8cは、内側に有段変速機構30が装着される凹部85cを有している。この凹部85cの中心位置にセカンダリプーリ軸受83cが配置される。
【0019】
ベアリングリテーナ8dは、トランスミッションケース8cの凹部85cを覆うように固定され、第2トランスミッション領域S2から凹部85cの内側を区画する。すなわち、トランスミッションケース8cとベアリングリテーナ8dとにより、有段変速機構30を収容する第3トランスミッション領域S3が区画される。
そして、このベアリングリテーナ8dには、図6に示すように、有段変速機構30に駆動結合した変速機出力軸4を貫通支持する出力軸受81dが設けられると共に、第2トランスミッション領域S2側に突出するリブ82dが形成されている。ここで、リブ82dは、出力軸受81dの外周に沿って延びる周方向リブ83dと、出力軸受81dから径方向に延在された複数の径方向リブ84dと、後述するパーキングロッド52を仮保持する仮保持リブ(突出部)85dと、を有している。
なお、複数の径方向リブ84dは、任意の間隔をおいて形成されている。また、仮保持リブ85dは、パーキングロッド52の下部位置を位置決めする第1仮保持部85daと、パーキングロッド52の上部位置を位置決めする第2仮保持部85dbと、を有している。
【0020】
次に、変速機構TMについて説明する。変速機構TMは、図1及び図2に示すように、変速歯車機構10と、無段変速機構(主変速機構)20と、有段変速機構(副変速機構)30と、ファイナルドライブギア機構40と、を有している。
【0021】
変速歯車機構10は、トルクコンバータ2の出力軸2aに取り付けられた駆動ギア11と、無段変速機構20のプライマリプーリ21の入力軸に取り付けられた従動ギア12とにより構成されている。なお、変速比は、駆動ギア11と従動ギア12とのギア比により任意に設定される。
【0022】
無段変速機構20は、入力軸に従動ギア12が取り付けられ、変速歯車機構10から動力が入力するプライマリプーリ21と、出力軸が有段変速機構30に駆動結合したセカンダリプーリ22と、これら両プーリ21,22間に掛け渡されたベルト23とを有する既存のベルト式無段変速機構である。そして、プライマリプーリ21及びセカンダリプーリ22には、それぞれオイルが供給されており、その油圧に応じてプーリ幅を自由に変更することができる。これにより、無段変速機構20は、プライマリプーリ21への供給油圧とセカンダリプーリ22への供給油圧を制御することで、変速比を無段階に変更することができる。
【0023】
そして、プライマリプーリ21は、トランスミッションカバー8bに設けられたプライマリプーリ軸受81bと、トランスミッションケース8cに設けられたプライマリプーリ軸受82cとに支持されている。また、セカンダリプーリ22は、トランスミッションカバー8bに設けられたセカンダリプーリ軸受82bと、トランスミッションケース8cに設けられたセカンダリプーリ軸受83cとに支持されている。これにより、無段変速機構20は、トランスミッションカバー8bとトランスミッションケース8cとにより区画された第1トランスミッション領域S1に収容されることとなる。
【0024】
有段変速機構30は、ラビニオ遊星歯車機構の複合サンギア31に無段変速機構20のセカンダリプーリ22を駆動結合することで、当該複合サンギア31を入力にする一方、キャリア32を変速機出力軸4に駆動結合することで当該キャリア32を出力としている。そして、複合サンギア31はローブレーキ(第1速選択用ブレーキ)L/Bを介して変速機ケーシング8に固定され、キャリア32はハイクラッチ(第2速選択用クラッチ)H/Cを介してリングギア33に駆動結合されている。さらに、リングギア33は、リバースブレーキR/Bを介して変速機ケーシング8に固定されている。
【0025】
この有段変速機構30では、ローブレーキL/B、ハイクラッチH/C及びリバースブレーキR/Bにもそれぞれオイルを供給することができ、その供給油圧に応じて締結及び解放を自由に行うことができる。これにより、有段変速機構30は、前進1速、前進2速、後進1速をそれぞれ選択することができる。
【0026】
なお、前進1速の場合は、ローブレーキL/Bのみを締結する。また、前進2速の場合は、ハイクラッチH/Cのみを締結する。さらに後進1速の場合は、リバースブレーキR/Bのみを締結する。下記に示す表1に有段変速機構30の制御にあたっての締結及び解放の関係を示す。表中○は締結し示し、×は解放を示す。
【表1】

【0027】
そして、この有段変速機構30により変速を行う際には、無段変速機構20との協調制御を実行することで変速ショックを抑制する。
【0028】
さらに、この有段変速機構30は、入力軸がトランスミッションケース8cのセカンダリプーリ軸受83cに支持されたセカンダリプーリ22に駆動結合し、出力軸がベアリングリテーナ8dの出力軸受81dに支持された変速機出力軸4に駆動結合している。これにより、有段変速機構30は、トランスミッションケース8cとベアリングリテーナ8dとにより区画された第3トランスミッション領域S3に収容されることとなる。
【0029】
ファイナルドライブギア機構40は、ベアリングリテーナ8dからコンバータハウジング8a側に突出した変速機出力軸4に取り付けられた駆動ギア41と、車輪6,6に繋がると共に、コンバータハウジング8a及びトランスミッションケース8cを貫通するドライブシャフト6aに取り付けられた従動ギア42と、により構成されている。なお、減速比は、駆動ギア41と従動ギア42とのギア比により任意に設定される。
【0030】
そして、このファイナルドライブギア機構40は、駆動ギア41及び従動ギア42がコンバータハウジング8aとトランスミッションケース8cとの間に位置するので、第2トランスミッション領域S2に収容されることとなる。
【0031】
次に、パーキング機構Pについて説明する。パーキング機構Pは、図3及び図4に示すように、マニュアルシャフト51と、パーキングロッド52と、サポートアクチュエータ53と、パーキングポール54と、パーキングギア55と、を有している。
【0032】
マニュアルシャフト51は、図3(a)に示すように、トランスミッションケース8cを上下に貫通した状態で回動可能に取り付けられると共に、トランスミッションケース8cから突出した上端部に設けられたパーキングプレート51a及び伝達機構51b介してシフトレバーLに連結されている。そして、運転者のシフトレバー操作に連動して回動する。
【0033】
パーキングロッド52は、図3(a)に示すように、マニュアルシャフト51に固定されたディテントプレート51cに連結されると共に、マニュアルシャフト51の軸方向に対して直交すると共に変速機出力軸4と直交する方向に延在するように配置され、マニュアルシャフト51の回転に伴って軸方向に移動するようになっている。
【0034】
なお、ディテントプレート51cの周縁の一部には、トランスミッションケース8cに固定ネジN1を介して固定されたディテントスプリング51dに係脱可能に係合する複数の凹部が形成されている。これら凹部は、シフトレバーLのシフト位置に対応して設けられており、シフト位置に応じてディテントスプリング51dの係合位置が変化する。
【0035】
さらに、パーキングロッド先端部52aには、先端先細り形状を呈するカム56が摺動可能に嵌装されている。このカム56は、パーキングロッド52とカム56との間に介挿されたスプリング56aによってパーキングロッド先端部52a側に付勢され、パーキングロッド先端で抜け止めされている。
【0036】
サポートアクチュエータ53は、カム56を支持すると共に、パーキングロッド52の移動に伴ってカム56が乗り上げるための斜面53aを有している。このサポートアクチュエータ53は、図3(b)に示すように、固定ネジN3,N3によりコンバータハウジング8aに固定されている。
【0037】
パーキングポール54は、パーキングギア55の上方位置に配置され、このパーキングギア55の外周面に沿って周方向に延在する。このパーキングポール54は、図3(b)に示すように、コンバータハウジング8aに固定ネジN2,N2で固定された固定プレート54aと、コンバータハウジング8aとの間に挟持され、長さ方向中央部54bが回動可能になっている。また、パーキングポール54の一端部には、カム56に当接するカム受け部54cが形成され、他端部には、パーキングギア55に係脱可能に係合する爪54dが突設されている。さらに、パーキングポール54は、スプリング54eによってパーキングギア55から離反する方向(図3(b)において反時計回り方向)に付勢されている。
【0038】
そして、コンバータハウジング8aには、ネジ(固定手段)57aによりストッパー57が取り付けられている。このストッパー57は、鉄製の円形プレートであり、外径の大きさに応じてパーキングポール54の初期位置(パーキングロッド52で押圧されていない状態での位置)を規制する(図3(b)参照)。ここでは、パーキングポール54は、爪54dの背面側がこのストッパー57に当接することで回動が規制され、図5に示す初期位置においてサポートアクチュエータ53とカム受け部54cとの間に隙間をあけた状態で保持される。
【0039】
なお、ストッパー57の外径が小さければ、シフトレバーLが駐車位置(Pレンジ)から例えばドライブ位置(Dレンジ)等に選択変更され、パーキングギア55とパーキングポール54との噛合状態が解除されるラチェット時におけるパーキングポール54の回動量が多くなり、爪54dとパーキングギア55との距離が長くなる。また、ストッパー57の外径が大きければ、ラチェット時におけるパーキングポール54の回動量が小さくなり、爪54dとパーキングギア55との距離が短くなる。
【0040】
パーキングギア55は、変速機出力軸4上のベアリングリテーナ8dから突出した位置に固定されている。なお、このパーキングギア55は、ここでは、ファイナルドライブギア機構40の駆動ギア41とコンバータハウジング8aとの間に配置されている(図2参照)。
【0041】
そして、このパーキング機構Pでは、シフトレバーLが駐車位置(Pレンジ)を選択すると、マニュアルシャフト51が回動してパーキングロッド52を移動させる。これによりカム56がサポートアクチュエータ53の斜面53aに乗り上げ、パーキングポール54のカム受け部54cの下側に入り込む。そして、カム56によりカム受け部54cが押圧され、パーキングポール54が長さ方向中央部54bを中心に回動して、爪54dがパーキングギア55に噛合する。これにより、変速機出力軸4がロックされる。
【0042】
また、パーキングギア55がコンバータハウジング8aとベアリングリテーナ8dとの間に位置し、マニュアルシャフト51及びパーキングロッド52がトランスミッションケース8cに支持され、サポートアクチュエータ53及びパーキングポール54がコンバータハウジング8aに固定されているので、このパーキング機構Pは、コンバータハウジング8aとトランスミッションケース8cとにより区画された第2トランスミッション領域S2に配置されることとなる。
【0043】
なお、図2において、70はオイルポンプ、71はバルブコントロールユニット、72はオイルパンである。ここで、オイルポンプ70は、トルクコンバータ2の出力軸2aにチェーンCHを介して連結しており、出力軸2aの回転によって駆動する。
【0044】
次に、作用を説明する。
実施例1の自動変速機における作用を、「負荷集中防止作用」と「組立性向上作用」とに分けて説明する。
【0045】
[負荷集中防止作用]
実施例1の自動変速機3において、シフトレバーLが駐車位置(Pレンジ)を選択すると、マニュアルシャフト51が回動してパーキングロッド52を移動し、この結果パーキングポール54の爪54dがパーキングギア55に噛合する。これにより、変速機出力軸4がロックされる。
【0046】
このとき、変速機出力軸4が回転しようとしているのに対してパーキングポール54がパーキングギア55に噛合うことで回転を阻止しているため、パーキングポール54や、これを押圧するパーキングロッド52、またパーキングロッド52が乗り上げるサポートアクチュエータ53等には、変速機出力軸4からの反力が作用する。
【0047】
ここで、パーキングポール54は、コンバータハウジング8aに固定ネジN2で固定された固定プレート54aと、コンバータハウジング8aとの間に挟持されている。また、サポートアクチュエータ53は、固定ネジN3,N3によりコンバータハウジング8aに固定されている。一方、パーキングロッド52は、トランスミッションケース8cを貫通するマニュアルシャフト51にディテントプレート51cを介して固定されている。
【0048】
そのため、パーキングポール54及びサポートアクチュエータ53に作用する反力は、コンバータハウジング8aで支持することになり、パーキングロッド52及びマニュアルシャフト51に作用する反力はトランスミッションケース8cで支持することとなる。
【0049】
この結果、変速機出力軸4からの反力を、変速機ケーシング8のコンバータハウジング8aとトランスミッションケース8cとで分散して支持するので、変速機ケーシング8の一部分に負荷集中することを防止でき、変速機ケーシング8の一部の強度を向上させる必要がなくなる。そして、変速機ケーシング内のレイアウトの変更や、ケース形状の変更を行うことなく変速機出力軸4からの反力を支持することができる。
【0050】
[組立性向上作用]
実施例1の自動変速機3を組み立てるには、まず、トランスミッションカバー8bに対して軸を垂直に立てた状態で無段変速機構20を組付ける。
【0051】
次に、無段変速機構20を覆うようにトランスミッションカバー8bにトランスミッションケース8cを結合して第1トランスミッション領域S1を区画し、軸を垂直に立てた状態でトランスミッションケース8cに有段変速機構30を組付ける。なお、このときオイルポンプ70やバルブコントロールユニット71も組付ける。
【0052】
そして、有段変速機構30を覆うようにトランスミッションケース8cにベアリングリテーナ8dを結合して第3トランスミッション領域S3を区画し、軸を垂直に立てた状態で変速機出力軸4や、変速歯車機構10を組付ける。なお、変速機出力軸4には、予めファイナルドライブギア機構40の駆動ギア41及びパーキングギア55を取り付けておく。
【0053】
その後、変速機出力軸4や変速歯車機構10を覆うようにトランスミッションケース8cにコンバータハウジング8aを結合して筐体の変速機ケーシング8を形成し、自動変速機3の組立を終了する。
【0054】
そして、変速機ケーシング8内に収容されるパーキング機構Pは、変速機出力軸4が取り付けられた後に、マニュアルシャフト51がトランスミッションケース8cに貫通した状態で取り付けられ、さらにこのマニュアルシャフト51にディテントプレート51cが取り付けられる。ここで、ディテントプレート51cには、予めパーキングロッド52が一体に固定されているので、トランスミッションケース8cには、マニュアルシャフト51及びパーキングロッド52が取り付けられることとなる。そして、このときパーキングロッド52は、ベアリングリテーナ8d上に載置される状態になり、ベアリングリテーナ8dが有する仮保持リブ85dに仮保持される。
【0055】
すなわち、パーキングロッド52のカム56は、第1仮保持部85daに当接して下部位置(パーキングギア55側)が位置決めされた状態で仮保持されると共に、第2仮保持部85dbに当接して上部位置(パーキングポール側)が位置決めされた状態で仮保持される。つまり、第1仮保持部85daと第2仮保持部85dbとの間に仮置きされる。
【0056】
さらに、トランスミッションケース8cには、ディテントスプリング51dが固定ネジN1により固定される。
【0057】
一方、コンバータハウジング8aには、トランスミッションケース8cへの取り付け前に、予めサポートアクチュエータ53が固定ネジN3,N3で取り付けられていると共に、固定ネジN2,N2で取り付けられた固定プレート54aを介してパーキングポール54が取り付けられている。また、ストッパー57もネジ57aによりコンバータハウジング8aに取り付けられている。
【0058】
そして、トランスミッションケース8cに取り付けられたパーキングロッド52が、コンバータハウジング8aに取り付けられたサポートアクチュエータ53とパーキングポール54との間に入り込むように位置合せを行いながらコンバータハウジング8aをトランスミッションケース8cに結合する。
【0059】
このとき、パーキングロッド52及びサポートアクチュエータ53,パーキングポール54は、コンバータハウジング8aによって隠れてしまうため、各々の位置を目視確認することが非常に困難である。
【0060】
これに対し、パーキングロッド52のカム56が、ベアリングリテーナ8dに形成された第1仮保持部85daと第2仮保持部85dbとの間に仮保持されているので、コンバータハウジング8aの組付け時に位置ずれを生じることがない。
【0061】
そのため、目視確認が困難であっても、パーキングロッド52及びサポートアクチュエータ53,パーキングポール54の相互の位置合せを容易に行うことができ、組付性を向上することができる。
【0062】
また、実施例1の自動変速機3では、変速機ケーシング8内が、主変速機構である無段変速機構20を収容する第1トランスミッション領域S1と、パーキング機構Pを収容する第2トランスミッション領域S2と、副変速機構である有段変速機構30を収容する第3トランスミッション領域S3と、に区画され、仮保持リブ85dがベアリングリテーナ8dに設けられている。
【0063】
そのため、トランスミッションケース8cの形状変更を行うことなく仮保持リブ85dの設計変更に対応することができ、カム56の形状が異なる場合であっても容易に対応可能である。
【0064】
なお、この自動変速機3では、有段変速機構30を無段変速機構20と変速機出力軸4との間に配置したことで、無段変速機構20の各プーリ21,22の径を小さくして軽量化・小型化を図りつつ、変速機構TMの変速比幅(レシオカバレージ)を大きく確保することができる。この結果、燃費の向上と出足のよさを両立することができる。
【0065】
さらに、実施例1の自動変速機3では、仮保持リブ85dが、パーキングロッド52の下部位置を位置決めする第1仮保持部85daと、パーキングロッド52の上部位置を位置決めする第2仮保持部85dbと、を有し、パーキングロッド52のカム56が第1,第2仮保持部85da,85db間に仮保持される。
【0066】
これにより、仮保持性能を向上させ、コンバータハウジング8aを組付ける際のパーキングロッド52の位置ずれをより効果的に防止することができる。
【0067】
なお、実施例1の自動変速機3では、コンバータハウジング8aに取り付けられたストッパー57により、パーキングポール54の初期位置(パーキングロッド52で押圧されていない状態での位置)を規制し、初期位置においてサポートアクチュエータ53にパーキングポール54が当接しないようにしている。
【0068】
そのため、シフトレバーLが駐車位置(Pレンジ)から例えばドライブ位置(Dレンジ)等に選択変更するラチェット時、パーキングポール54がパーキングギア55から外れて初期位置に戻ってもサポートアクチュエータ53に当接することがない。
【0069】
そのため、サポートアクチュエータ53にパーキングポール54を受けるための受け面を設ける必要がなくなり、サポートアクチュエータ53全体の形状を簡素に且つ小さくすることができる。また、サポートアクチュエータ53を取り付ける固定ネジN3も小さくてよい。
【0070】
また、実施例1の自動変速機3では、ストッパー57が変速機ケーシング8を構成するコンバータハウジング8aとは別体に形成され、ネジ57aによりコンバータハウジング8aに取り付けられている。すなわち、このストッパー57は、コンバータハウジング8aの内側面を突出させて形成するようなものではない。
【0071】
そのため、ラチェット時にパーキングポール54がストッパー57に当接した際に、直接コンバータハウジング8aを叩くことがなく、騒音を抑制することができる。
【0072】
さらに、コンバータハウジング8aをアルミ鋳造物で形成する場合に、ストッパー57をコンバータハウジング8aと一体成形すると、ラチェット時の衝撃でストッパー部分が圧壊して微細な破片になり、自動変速機3内部にコンタミを生じるおそれがある。これに対し、コンバータハウジング8aとストッパー57とを別体することで、ストッパー57の強度を安価に向上させることができて、コンタミの発生を安価に防止することができる。
【0073】
そして、実施例1の自動変速機3では、ストッパー57の外径寸法に応じて、パーキングポール54の初期位置におけるパーキングポール54とパーキングギア55との距離が設定される。このパーキングポール54とパーキングギア55との距離は、パーキングポール54がパーキングギア55に噛合するときのパーキングポール54の回転速度に関係があり、上記距離が長いときには回転速度が早くなり、上記距離が短いときには回転速度が遅くなる。
【0074】
したがって、ストッパー57の外径寸法を調整することにより、パーキングポール54がパーキングギア55に噛合するときの回転速度を容易に設定することができ、回転速度の設定及び変更を容易に行うことができる。
【0075】
なお、実施例1の自動変速機3では、パーキングポール54の初期位置において、ストッパー57にはパーキングポール54の爪54dの背面側が当接する構成になっている。ここで、爪54dは、パーキングギア55と噛合するために十分な強度を有する形状を呈している。
【0076】
したがって、ラチェット時にストッパー57に当接することで受ける衝撃を十分な強度を有する爪54dの背面側で受けることが可能となり、パーキングポール54の中間部に作用する衝撃力を低減できる。この結果、パーキングポール54の中間部の強度を低く抑えることができ、寸法を小さくすることができて製造費の抑制を図ることができる。
【0077】
次に、効果を説明する。
実施例1の自動変速機にあっては、下記に列挙する効果を得ることができる。
【0078】
(1) 変速機ケーシング8内に、変速機構TMの変速機出力軸4を係脱可能に機械的に固定するパーキング機構Pを収容した自動変速機3において、前記変速機ケーシング8は、互いに結合して筐体を形成する第1,第2ケーシング(トランスミッションケース8c,コンバータハウジング8a)を有し、前記パーキング機構Pは、運転者のシフトレバーL操作に連動して回動するマニュアルシャフト51と、該マニュアルシャフト51の回動に伴って軸方向に移動するパーキングロッド52と、該パーキングロッド52の移動に伴ってパーキングロッド先端部52aのカム56が乗り上げるサポートアクチュエータ53と、前記カム56が乗り上げた際に前記カム56により押圧されて移動し、変速機出力軸4に設けられたパーキングギア55と噛合するパーキングポール54と、を有し、前記マニュアルシャフト51と、前記パーキングロッド52とは、前記第1ケーシング(トランスミッションケース8c)に取り付けられ、前記サポートアクチュエータ53と、前記パーキングポール54とは、前記第2ケーシング(コンバータハウジング8a)に取り付けられると共に、前記第1ケーシング(トランスミッションケース8c)の前記第2ケーシング(コンバータハウジング8a)に対峙する面に、前記パーキングロッド52を仮保持する仮保持部(仮保持リブ)85dを設ける構成とした。
これにより、変速機ケーシング8に作用する負荷を分散して負荷集中を防止すると共に、組立を容易に行うことができる。
【0079】
(2) 前記変速機構TMは、主変速機構(無段変速機構20)と、副変速機構(有段変速機構30)と、を有し、前記変速機ケーシング8内は、前記主変速機構20を収容する第1トランスミッション領域S1と、前記パーキング機構Pを収容する第2トランスミッション領域S2と、前記副変速機構30を収容する第3トランスミッション領域S3と、に区画され、前記仮保持部(仮保持リブ85d)は、前記第2トランスミッション領域S2と前記第3トランスミッション領域S3とを区画すると共に前記変速機出力軸4を保持する軸保持壁(ベアリングリテーナ8d)に、設ける構成とした。
これにより、トランスミッションケース8cの形状変更を行うことなく仮保持リブ85dの設計変更に対応することができ、カム56の形状が異なる場合であっても容易に対応可能である。
【0080】
(3) 前記仮保持部(仮保持リブ85d)は、前記パーキングロッド52の下部位置を位置決めする第1仮保持部85daと、前記パーキングロッド52の上部位置を位置決めする第2仮保持部85dbと、を有する構成とした。
これにより、仮保持性能を向上させ、コンバータハウジング8aを組付ける際のパーキングロッド52の位置ずれをより効果的に防止することができる。
【0081】
以上、本発明の自動変速機を実施例1に基づき説明してきたが、具体的な構成については、この実施例1に限られるものではなく、特許請求の範囲の各請求項に係る発明の要旨を逸脱しない限り、設計の変更や追加等は許容される。
【0082】
例えば、コンバータハウジング8aのうち、パーキングロッド先端部52aのカム56を仮保持する仮保持リブ85dに対向する位置に、パーキングロッド52及びカム56が入り込む凹部を設けてもよい。
【0083】
この場合、トランスミッションケース8cとコンバータハウジング8aとが結合した際に、コンバータハウジング8aに設けた凹部と、仮保持リブ85dとによりパーキングロッド52が取り囲まれ、パーク時においてパーキングロッド52が軸方向に移動した際に、この凹部及び仮保持リブ85dによって案内される。そのため、パーキングロッド52がサポートアクチュエータ53から外れることなく移動でき、安定した状態でパーキングポール54を押圧することができる。
【0084】
また、実施例1の自動変速機3では、パーキングロッド52を仮保持する仮保持部として、ベアリングリテーナ8dから突出する仮保持リブ85dを形成したが、これに限らない。例えば、パーキングロッド52又はカム56が入り込む凹部であってもよい。この場合であっても、パーキングロッド52の位置決めがなされ、仮保持することができる。
【符号の説明】
【0085】
3 自動変速機
4 変速機出力軸
8 変速機ケーシング
8a コンバータハウジング(第2ケーシング)
8c トランスミッションケース(第1ケーシング)
8d ベアリングリテーナ(軸保持壁)
20 無段変速機構(主変速機構)
30 有段変速機構(副変速機構)
51 マニュアルシャフト
52 パーキングロッド
52a パーキングロッド先端部
53 サポートアクチュエータ
54 パーキングポール
55 パーキングギア
56 カム
85d 仮保持リブ(仮保持部)
85da 第1仮保持部
85db 第2仮保持部
TM 変速機構
P パーキング機構
L シフトレバー
S1 第1トランスミッション領域
S2 第2トランスミッション領域
S3 第3トランスミッション領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変速機ケーシング内に、変速機構の変速機出力軸を係脱可能に機械的に固定するパーキング機構を収容した自動変速機において、
前記変速機ケーシングは、互いに結合して筐体を形成する第1,第2ケーシングを有し、
前記パーキング機構は、運転者のシフトレバー操作に連動して回動するマニュアルシャフトと、該マニュアルシャフトの回動に伴って軸方向に移動するパーキングロッドと、該パーキングロッドの移動に伴ってパーキングロッド先端部のカムが乗り上げるサポートアクチュエータと、前記カムが乗り上げた際に前記カムにより押圧されて移動し、変速機出力軸に設けられたパーキングギアと噛合するパーキングポールと、を有し、
前記マニュアルシャフトと、前記パーキングロッドとは、前記第1ケーシングに取り付けられ、前記サポートアクチュエータと、前記パーキングポールとは、前記第2ケーシングに取り付けられると共に、
前記第1ケーシングの前記第2ケーシングに対峙する面に、前記パーキングロッドを仮保持する仮保持部を設けたことを特徴とする自動変速機。
【請求項2】
請求項1に記載された自動変速機において、
前記変速機構は、主変速機構と、副変速機構と、を有し、
前記変速機ケーシング内は、前記主変速機構を収容する第1トランスミッション領域と、前記パーキング機構を収容する第2トランスミッション領域と、前記副変速機構を収容する第3トランスミッション領域と、に区画され、
前記仮保持部は、前記第2トランスミッション領域と前記第3トランスミッション領域とを区画すると共に前記変速機出力軸を保持する軸保持壁に、設けたことを特徴とする自動変速機。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載された自動変速機において、
前記仮保持部は、前記パーキングロッドの下部位置を位置決めする第1仮保持部と、前記パーキングロッドの上部位置を位置決めする第2仮保持部と、を有していることを特徴とする自動変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−21662(P2011−21662A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−166442(P2009−166442)
【出願日】平成21年7月15日(2009.7.15)
【出願人】(000231350)ジヤトコ株式会社 (899)
【Fターム(参考)】