説明

自動車のバックドアの開度保持装置

【課題】バックドアがガススプリングで最上端まで開かないように、あるいは自重で最下端まで回動しないように保持することができる軽量で簡易なバックドア開度保持装置を提供する。
【解決手段】自動車のバックドアを、その付勢力に抗して所望の開き位置に維持するバックドアの開度保持装置であって、回転自在に支持されるケーブル巻き取り用のドラム16と、一端がそのドラムに係止され、ドラムに巻かれると共に、他端がバックドアに対して付勢力に抗する向きで係止されているインナーケーブル19と、前記ドラムをインナーケーブルを巻き取る方向に付勢するゼンマイバネと、前記ドラムのインナーケーブルを巻き取る方向の回転を許し、送り出す方向の回転を拘束する一方向回転状態と、ドラムの両方向の回転を許す拘束解除状態とを切り替える回転制御機構(17、26、18、28、36)とからなるバックドアの開度保持装置10。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車のバックドア(テールゲート)の開度保持装置に関する。さらに詳しくは、ワゴン車やミニバンなどの自動車に用いられる跳ね上げ式のバックドアの開度を維持させる装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ミニバンなどに用いられる跳ね上げ式のバックドアは、開閉操作を容易にするため、いくらか開いた位置からはガススプリング(ガスダンパ)によって開き方向に付勢するようにしている。そのため、バックドアから手を離すとバックドアが勢いよく跳ね上がるので、近くに障害物がある場合はバックドアの開度を維持するため、手で押えておく必要がある。また、ガススプリングを備えていないバックドアやフラップゲートでも、ドアやゲートが最下端まで回動しないように、手で押えておく必要がある。
【0003】
他方、特許文献1〜3のような電動式のバックドア開閉装置が知られている。特許文献1の電動式のバックドア開閉装置は、モータで往復回転駆動するドラムに一対の引きコントロールケーブルを交互に巻き取り、リンクを介してバックドアを開閉させることができる。また、モータで往復回転駆動する回転ケーブルでネジを回転させ、そのネジと螺合するナットを昇降させることにより、ナットおよびリンクを介してバックドアを開閉するものも記載されている。
【0004】
特許文献2には、特許文献1のような開閉装置のモータの制御方法が開示されている。特許文献3には、自動車の後部のドア枠の下端にヒンジで連結されたフラップゲートをケーブルを介してモータで開閉させる装置が開示されている。これらのモータで駆動する開閉装置は、いずれもモータを停止させるとバックドアの作動が止まる。そのため、バックドアがガススプリングで付勢されている場合でも、手で押さえる必要がない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2004−175211号公報
【特許文献2】特開2005−23633号公報
【特許文献3】特開2005−206123号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
モータ駆動のバックドア開閉装置は、押しボタンなどの操作だけでバックドアを開閉できるが、モータ、減速機、制御装置など、装置全体が大がかりとなる。そのため、重量も重く、製造価格も高くなる。本発明は、バックドアがガススプリングで最上端まで開かないように、あるいは自重で最下端まで回動しないように保持することができる軽量で簡易なバックドア開度保持装置を提供することを技術課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のバックドア開度保持装置は、開方向または閉方向に付勢されている自動車のバックドアを、その開き方向の付勢力に抗して所望の開き位置に維持するバックドアの開度保持装置であって、回転自在に支持されるケーブル巻き取り用のドラムと、一端がそのドラムに係止され、ドラムに巻かれると共に、他端がバックドアに対して付勢力に抗する向きで係止されているインナーケーブルと、前記ドラムをインナーケーブルを巻き取る方向に付勢するゼンマイバネと、前記ドラムのインナーケーブルを巻き取る方向の回転を許し、送り出す方向の回転を拘束する一方向回転状態と、ドラムの両方向の回転を許す拘束解除状態とを切り替える回転制御機構とからなることを特徴としている。
【0008】
本発明のバックドア開度保持装置の第2の態様は、開方向または閉方向に付勢されている自動車のバックドアを、その開き方向の付勢力に抗して所望の開き位置に維持するバックドアの開度保持装置であって、前記バックドアを閉じる方向の回転を許し、開ける方向の回転を拘束する一方向回転状態と、バックドアの開閉を許す拘束解除状態とを切り替える回転制御機構を備えており、その回転制御機構が、バックドアの開閉に応じて回転するラチェットホイールと、そのラチェットホイールに対し、開方向でラチェットホイールの歯と噛み合い方向となり、閉方向が滑り方向となるように揺動自在に支持されるラチェット爪と、そのラチェット爪を少なくともラチェットホイールと噛み合う近辺で噛み合い方向に付勢する付勢手段とからなる一方向回転機構と、前記ラチェット爪を、ラチェットホイールと噛み合うことができる位置と噛み合うことができない位置との間で回動操作する制御手段とからなる。
【発明の効果】
【0009】
(1)本発明のバックドア開度保持装置は、バックドアをいくらか開いた状態で回転制御機構を一方向回転状態にすると、バックドアから手を離しても、ドラムのケーブル送り出し方向の回転が拘束され、インナーケーブルがそれ以上ドラムから出て行かない。そのため、インナーケーブルの張力がバックドアに加わる付勢力に抗し、バックドアの開度を維持することができる。他方、回転制御機構を拘束解除状態に切り替えると、ドラムはいずれの向きにも自由に回転する。そのためバックドアを自由に開閉操作することができる。そのとき、ドラムはゼンマイバネによってインナーケーブルを巻き取る方向に付勢されるので、インナーケーブルが弛むことがなく、所定の張力で張り状態が維持される。
【0010】
(2)前記回転制御機構が、ドラムと共廻りするラチェットホイールと、そのラチェットホイールに対し、インナーケーブルを送り出す方向でラチェットホイールの歯と噛み合い方向となり、巻き取る方向が滑り方向となるように揺動自在に支持されるラチェット爪と、そのラチェット爪を少なくともラチェットホイールと噛み合う近辺で噛み合い方向に付勢する付勢手段とからなる一方向回転機構と、前記ラチェット爪を、ラチェットホイールと噛み合わうことができる位置と噛み合うことができない位置との間で回動操作する制御手段とからなる場合は、制御手段によってラチェット爪が噛み合い可能な位置に操作されると、一方向回転状態になり、所望の位置でバックドアの開度を保持することができる。そして制御手段でラチェット爪を噛み合いができない位置に操作すると、拘束解除状態となり、バックドアを自由に開閉操作することができる。
【0011】
(3)前記付勢手段が、ラチェット爪が揺動の中心からラチェットホイールに近い側にあるときはラチェットホイールに近づく方向にラチェット爪を付勢し、ラチェットホイールとは反対側にあるときはラチェットホイールから離れる方向に付勢するオーバーセンターバネである場合は、一旦ラチェット爪をラチェットホイール側に回動させると、オーバーセンターバネの作用によりそのときの一方向回転状態が安定して維持される。他方、ラチェット爪をラチェットホイールから離れる側に回動させると、同様にオーバーセンターバネの作用で拘束解除状態が安定して維持される。
【0012】
(4)前記バックドアと自動車の車体との間に、少なくともバックドアが開いていく途中からバックドアの重量に抗してバックドアを開く方向に付勢するガススプリングが設けられており、前記インナーケーブルが、バックドアが開くのを防止するようにバックドアに係止されている場合は、バックドアの重量がガススプリングによってバランスされ、比較的楽にバックドアの開閉操作を行うことができる。そしてその場合でも、インナーケーブルの張力でガススプリングによるバックドアの開き方向に付勢力と対抗させることができる。
【0013】
(5)前記制御手段が、バックドアが閉じたとき若しくは閉じる前の設定位置でラチェット爪をラチェットホイールから離す方向に回動させる解除機構と、バックドアを開いていく途中で少し閉じる方向に操作したときにラチェット爪をラチェットホイール側に回動させるロック始動機構とを備えている場合は、バックドアを開く方向に操作している途中でバックドアをいくらか閉じ方向に戻すだけで、そのときの開度を維持することができる。バックドアをもっと開きたい場合は、一旦バックドアを閉じて解除機構を作動させ、その位置から開き始めればよい。
【0014】
(6)前記解除機構が、ラチェットホイールの外周から突出し、バックドアが閉じたときにラチェット爪と当接してラチェットホイールと噛み合うことができない位置に移動させる突起である場合は、バックドアを閉じるだけで、簡単にロックを解除することができる。また、ロック解除機構を簡単に構成することができる。
【0015】
(7)前記ロック始動機構が、前記ラチェットホイールと同心状に設けられる第2ラチェットホイールと、基端が前記ラチェット爪の回動中心から逆方向に延びる部位に保持され、先端が第2ラチェットホイールの歯と噛み合う第2ラチェット爪とからなり、前記ドラムのインナーケーブルを巻き取る方向の回転で第2ラチェット爪と第2ラチェットホイールの歯が噛み合い、ドラムのインナーケーブルを送り出す方向の回転で第2ラチェット爪と第2ラチェットホイールの歯が滑るように構成されている場合は、一旦ロック解除したバックドアを簡単にロック状態にすることができる。また、ロック始動機構を簡易に構成することができる。
【0016】
(8)本発明のバックドア開度保持装置の第2の態様は、バックドアをいくらか開いた状態で回転制御機構を一方向回転状態にすると、バックドアから手を離しても、その回動が拘束され、バックドアがそれ以上回動しない。そのため、バックドアに加わる付勢力に抗し、バックドアの開度を維持することができる。他方、回転制御機構を拘束解除状態に切り替えると、バックドアはいずれの向きにも自由に回転する。そのためバックドアを自由に開閉操作することができる。また、簡易な装置で実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】本発明のバックドア開度保持装置の一実施形態を示す側面図である。
【図2】図1のI−I線断面図である。
【図3】図1のバックドア開度保持装置に用いられるゼンマイバネの一実施形態を示す要部側面図である。
【図4】図1のバックドア開度保持装置の自動車への取り付け状態を示す概略側面図である。
【図5】図1のバックドア開度保持装置の作動状態を示す工程図である。
【図6】図5に続く工程図である。
【図7】本発明のバックドア開度保持装置の他の実施形態を示す側面図である。
【図8】図7の一部切り欠き断面図である。
【図9】図7のバックドア開度保持装置の作動状態を示す工程図である。
【図10】本発明のバックドア開度保持装置のさらに他の実施形態を示す一部切り欠き側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
図1および図2に示すバックドア開度保持装置(以下、単に「開度保持装置」という)10は、有底筒状のハウジング本体11と、そのハウジング本体の開口部を塞ぐ蓋体12と、それらによって支持されるシャフト13とを備えている。シャフト13の一端は筒部とフランジを備えたボス14を介してハウジング本体11の底壁11aに固着されている。シャフト13の他端はブッシュ15を介して蓋体12に支持されている。なお、図1には蓋12を図示していない。
【0019】
図2に示すように、シャフト13の周囲には、ケーブル巻き取り用のドラム(プーリ)16と、開度保持用の第1ラチェットホイール17と、ロック始動機構のための第2ラチェットホイール18とが一体となって回転自在に設けられている。なお、ドラム16、第1ラチェットホイール17および第2ラチェットホイール18をシャフト13に固定し、シャフト13をハウジング本体11および蓋体12に対して回転自在に設けることもできる。
【0020】
ドラム16の周囲にはインナーケーブル19をガイドするためのケーブル案内溝20が形成されている。この実施形態ではドラム16は比較的薄い円板状で、ケーブル案内溝20は1本である。インナーケーブル19の端部にはケーブルエンド21が固着されており、ケーブル案内溝20からさらに深く掘り込まれた部位に、ケーブルエンド21を係止するためのエンド係止部22が設けられている(図1、図3参照)。インナーケーブル19は、その一端がケーブルエンド21によってドラム16に係止され、端部近辺はケーブル案内溝20によってガイドされてドラム16の周囲に巻き付けられ、他端は図4に示すようにバックドア23に係止されている。
【0021】
図1に戻って、この実施形態ではハウジング本体11にケーシングキャップ24によってアウターケーシング25の端部が固定されている。そしてインナーケーブル19はアウターケーシング25を通ってドア枠近辺まで案内される。インナーケーブル19とアウターケーシング25とで公知のプルコントロールケーブルを構成する。なお、開度保持装置10をドア枠近辺に配置する場合はアウラーケーシング25を省略することができる。
【0022】
この実施形態では第1ラチェットホイール17の径の方が第2ラチェットホイール18の径より大きい。図1に示すように、第1ラチェットホイール17の外周には、時計回りで係止方向で、反時計回りで滑り方向となるラチェット歯列17aが形成されている。そしてケース本体11には、第1ラチェット爪26の基部がピン27によって回動自在に支持されている。第1ラチェット爪26はその基部からケーブルの巻き取り方向に向かって延びて配置され、先端26aは第1ラチェットホイール17の歯列17aと係止/滑り自在に対向している。
【0023】
第1ラチェット爪26の先端とハウジング11との間には、ネジリコイルスプリングからなるオーバーセンターバネ28が介在されている。このオーバーセンターバネ28は、一端28aがハウジング11の係止孔29に回動自在に係止され、他端28bが第1ラチェット爪26の先端近辺の係止孔30に回動自在に係止されており、係止孔29、30同士を離す方向に付勢する。そのため、第1ラチェット爪26の回動中心Cとハウジングの係止孔29を結ぶ線Tを境として、第1ラチェット爪の係止孔30がその線Tと重なる位置(思案点)より内側に来たとき、第1ラチェット爪26を第1ラチェットホイール17側に付勢する。
【0024】
逆に、第1ラチェット爪26の係止孔30がその線Tを超えて外側に来たとき、第1ラチェット爪26を第1ラチェットホイール17から離れる方向に付勢する。第1ラチェットホイール17、第1ラチェット爪26およびオーバーセンターバネ28は、ドラム16のケーブル巻き取り方向の回転を許し、送り出し方向の回転を拘束する一方向回転機構を構成している。
【0025】
前記ドラム16とシャフト13との間には、ドラム16を常時インナーケーブル19の巻き取り方向に付勢するゼンマイバネ32が介在されている。すなわちゼンマイバネ32の外側の端部は、ドラム16の側面から突出する係止突起31に係止されており、内側の端部はシャフト13またはボス14に係止されている。このゼンマイバネ32は図3に示すように、インナーケーブル19がドラム16から引き出されたとき、ドラム16に巻き取り方向の付勢力を与えてインナーケーブル19に常時張力を付与し、弛みを除くためのものである。また、図4のバックドア23を閉じるときに、復元力によって自動的にインナーケーブル19をドラム16に巻き取ることができる。
【0026】
第1ラチェットホイール17の外周には、第1ラチェット爪26を外向きに回動させるためのカム(初期復帰カム)33が、第1ラチェットホイール17の外側に突出するように固定されている。カム33は略三角形状で、いずれの方向に回動する場合でも第1ラチェット爪26を外向きに思案点を超えるまで回動させることができる。図4においてバックドア23が閉じられたとき、カム33が第1ラチェット爪26の内側26b側または爪部分と当接するようにしている。このカム33は、ロック解除機構を構成している。
【0027】
前述の第2ラチェットホイール18の外周には、第1ラチェットホイール17とは逆向きの略三角形状のラチェット歯列18aが形成されている。他方、第1ラチェット爪26の基部からケーブル巻き取り方向とは逆方向(引き出し方向)に支持突起34が突出しており、その支持突起34にピン35によって第2ラチェット爪36の基部が回動自在に連結されている。第2ラチェット爪36は、その基部からケーブルの引き出し方向に延びるように配置され、その先端36aが第2ラチェットホイール18のラチェット歯列18aと係脱可能に対向している。
【0028】
第2ラチェット爪36の基部には、先端側とは反対側に突出する係止突起36bが設けられ、第1ラチェット爪26の支持突起34には、その係止突起36bと当接して第2ラチェット爪36の時計方向(先端が第2ラチェットホイール側に近づく方向)の回動を規制するストッパ37が設けられている。そして第1ラチェット爪26と第2ラチェット爪36の間には、両方のラチェット爪26、36の先端同士を互いに離す方向に付勢するバネ38が介在されている。この実施形態ではそのバネ38はネジリコイルバネによって構成している。
【0029】
係止突起36b、ストッパ37およびバネ38により、第1ラチェット爪26と第2ラチェット爪36は、外力が加わると先端同士の間隔が狭くなるように相対的に回動し、外力がなくなると拡がる機構が得られる。また、第2ラチェットホイール18、第2ラチェット爪36、両者の間のバネ38、ストッパ37などは、バックドアを開いていく途中でいくらかドアを閉じる方向に回動させることにより、ロック状態に切り替えるロック始動機構を構成している。
【0030】
上記のごとく構成される開度保持装置10は、図4に示すような、ガススプリング40によって開く方向に付勢される自動車のバックドア23の近くに配置し、バックドア23が開く途中で開度を保持させるのに用いる。なお、通常はバックドア23に加わるガススプリングの開き方向の付勢力は、開いた状態OPから閉じる手前の思案点SAまでの範囲で作用し、思案点SAから閉じる位置CLまでの範囲では、バックドア23の自重によってむしろ閉じる方向に付勢される。そして開度保持装置10が作用するのは、インナーケーブル19にある程度大きい張力が加わっている範囲(保持範囲)Pである。保持範囲を超えてドアが閉じる範囲(非保持範囲)Hでは保持機能は発揮されない。
【0031】
つぎに図5、図6を参照して、開度保持装置10の作用を説明する。バックドア23が全閉のとき(第1工程S1)は、カム33が第1ラチェット爪26の内面26bを外向きに押すと共にオーバーセンターバネ28の作用で、第1ラチェット爪26は外向きに回動している。したがって第1ラチェット爪26は第1ラチェットホイール17のラチェット歯列17aとは噛み合っていない。さらに第2ラチェットホイール18は、第2ラチェット爪36との関係で、滑り方向である。そのため第1ラチェットホイール17を時計方向に回転させることができ、ひいてはバックドア23を開くことができる。
【0032】
バックドア23を開いていくと、インナーケーブル19がドラム16から引き出され、ドラム16が図5の時計方向に回転し、カム33は第1ラチェット爪26から離れる。しかしオーバーセンターバネ28の付勢力により、第1ラチェット爪26はそのまま外向きに移動した状態を維持しており、第1ラチェットホイール17のラチェット歯列17aとは噛み合わない状態を維持している(第2工程S2)。また、第2ラチェットホイール18は第2ラチェット爪36に関して滑り方向の回転である。したがってバックドア23をそのまま開いていくことができる。バックドア23を全開まで開きたい場合は、そのまま開いていけばよく、それにより全開状態まで開くことができる。なお、一旦バックドアを開くのを止めても、閉じる方向に回動させなければ、再び開いていくことができる。
【0033】
バックドア23が隣接する自動車や壁などと干渉するおそれがある場合のように、バックドアの開度を途中で保持したい場合は、その位置でバックドア23をいくらか閉じる方向(図5の反時計方向)に回動させる。そうするとインナーケーブル19に弛みが生じるので、ゼンマイバネ32の付勢力で第1ラチェットホイール17がケーブル巻き取り方向に回動する。それによりインナーケーブル19がドラム16に巻き取られる。そのドラム16の回転方向では、第2ラチェットホイール18は第2ラチェット爪36との関係では噛み合い方向である。そのため、第2ラチェットホイール18のラチェット歯18aが第2ラチェット爪36の先端36aと噛み合い、第2ラチェット爪36を反時計方向に押し上げる(第3工程S)。
【0034】
それにより第1ラチェット爪26の支持突起34も押し上げられ、第1ラチェット爪26をピン27の回りに反時計方向に回動させる(図6参照)。それにより第1ラチェット爪26の先端が第1ラチェットホイール17に噛み合う(第4工程S4)。したがって第1ラチェットホイール17は時計方向に回動することができず、インナーケーブル19を介してバックドア23は開かないようにロックされる。そのためバックドア23から手を離しても、バックドア23はそれ以上開かず、そのときの開度を維持する。なお、この状態では手で開けることもできない。
【0035】
この状態からバックドア23を閉じる方向に力を加えると、インナーケーブル19は張力を緩める方向であるのでバックドア23を閉じることができる。そして第1ラチェットホイール17と第1ラチェット爪26とが滑り方向であり、第2ラチェット爪36と第2ラチェットホイール18のラチェット歯列18aとは噛み合っていないので、ドラム16はケーブル巻き取り方向に回転することができ、ゼンマイバネ32の付勢力でインナーケーブル19を巻き取りながら反時計方向に回転する(第5工程S5)。そしていくらか閉じて手を離すと、前述と同様の作用で再びその状態で開度を維持することができる。
【0036】
途中で手を止めずにそのまま全閉状態まで閉じていくこともできる(第6工程S6)。この状態は第1工程S1と同一である。全閉状態になると、カム33が第1ラチェット爪26の先端と当接し、第1ラチェット爪26を外向きに回動させる初期状態となる。そのため前述のように、この状態からバックドアを開いていくことができる。なお、前述のように、一旦開度維持状態にするとその位置からバックドアを開くことができない。そのため、一旦バックドアを全閉の初期状態に戻し、その状態から開いていくようにする。また、全閉状態まで閉じなくても全閉の手前の所定の位置(ほとんど全閉)で第1ラチェット爪26を解除させてもよい。
【0037】
前記開度保持装置10では、第1ラチェット爪26をラチェットホイールに近づく側および離れる側にそれぞれ安定して保持させるため、ネジリコイルバネからなるオーバーセンターバネ28を用いている。しかし引っ張りバネや圧縮バネなどのバネからなるオーバーセンターバネを用いてもよい。さらにオーバーセンターバネを用いずに、プランジャ(図8の符号44参照)などで第1ラチェット爪26の位置を安定化させてもよい。
【0038】
図7および図8に示す開度保持装置42は、第1ラチェット爪26を反時計方向に付勢するためのねじりコイルバネ43を用いるほか、第1ラチェット爪26が反時計方向に回動したときにその位置に安定して維持させるため、プランジャ44を採用している。このプランジャ44は、図8に示すように、ハウジング本体11の底壁に固定した筒状のケースと、そのケースの先端に出没自在に設けられる係合部材と、その係合部材を常時突出する側に付勢するスプリングとから構成される公知の機能部品である。係合部材としては、鋼球などのボールが好ましい。第1ラチェット爪26には、係合部材と係合する凹部45が形成されている。
【0039】
さらに図7に示す開度保持蔵置42は、第2ラチェット爪46を板バネによって構成している。そのため、図1の開度保持装置10における第1ラチェット爪26と第2ラチェット爪36の間に介在させるバネ38が不要である。また、図1の開度保持装置10におけるカム33に代えて、第1ラチェットホイール17自体に突出部47を設けてカムとしている。他の点および作用効果は図1の開度保持装置10と実質的に同一である。そのため図9の工程図に図5、図6の工程図の工程番号を付して説明を省略する。
【0040】
前記実施形態では第1ラチェット爪の第1ラチェットホイールに対する係脱制御を第2ラチェットホイールおよび第2ラチェット爪で行っているが、第1ラチェット爪を手動で直接またはケーブルを介して回動動作させてもよい。
【0041】
図10に示す開度保持装置50はドラム16(図1参照)に代えて、バックドア23のヒンジ23aを直接シャフト13の周囲に回動自在に設けている。そのため、インナーケーブル19や、その弛みを取るゼンマイバネ32や係止突起31も備えていない。前記開度保持装置50は車体後部上方の左右どちらかの側に設けられている。そして、その周囲をトリム51、車体のルーフ52などで囲まれている。なお、バックドア23と車体後部の開口部の間には開口部シール52が設けられている。
また、前記シャフト13に、ヒンジ23a、第1ラチェットホイール17および第2ラチェットホイール18を一体に固定し、ハウジング本体11に対して回動自在にすることもできる。
【0042】
また、図5、6あるいは図10ではバックドア23が車体の上方を支点として下から上に回動して開いているが、車体の下方を支点とし、バックドアが上から下に回動して開くようにしてもよい。その場合にはバックドアを閉じる方向に付勢する。その際に手を離した自然な状態ではドアがゆっくりと閉じるようにドアに加えられる付勢力を調整することもできる。
なお、バックドアを車体の後方の側縁を支点として左右に回動するようにしおてもよい。その際には開閉のどちらの方向にもドアを付勢してもよい。
【符号の説明】
【0043】
10 バックドア開度保持装置
11 ハウジング本体
11a 底壁
12 蓋体
13 シャフト
14 ボス
15 ブッシュ
16 ドラム(プーリ)
17 第1ラチェットホイール
17a ラチェット歯列
18 第2ラチェットホイール
18a ラチェット歯列
19 インナーケーブル
20 ケーブル案内溝
21 ケーブルエンド
22 エンド係止部
23 バックドア
23a ヒンジ
24 ケーシングキャップ
25 アウターケーシング
26 第1ラチェット爪
26a 先端
26b 内面
27 ピン
28 オーバーセンターバネ
28a 一端
28b 他端
29 係止孔
30 係止孔
31 係止突起
32 ゼンマイバネ
33 カム
34 支持突起
35 ピン
36 第2ラチェット爪
36a 先端
37 ストッパ
38 バネ
39 ガススプリング
40 開度保持装置
41 ねじりコイルバネ
42 プランジャ
43 凹部
44 第2ラチェット爪
45 突出部
50 開度保持装置
51 トリム
52 開口部シール
C 回動中心
T 線(思案点)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
開方向または閉方向に付勢されている自動車のバックドアを、その開き方向の付勢力に抗して所望の開き位置に維持するバックドアの開度保持装置であって、
回転自在に支持されるケーブル巻き取り用のドラムと、
一端がそのドラムに係止され、ドラムに巻かれると共に、他端がバックドアに対して付勢力に抗する向きで係止されているインナーケーブルと、
前記ドラムをインナーケーブルを巻き取る方向に付勢するゼンマイバネと、
前記ドラムのインナーケーブルを巻き取る方向の回転を許し、送り出す方向の回転を拘束する一方向回転状態と、ドラムの両方向の回転を許す拘束解除状態とを切り替える回転制御機構とからなるバックドアの開度保持装置。
【請求項2】
前記回転制御機構が、ドラムと共廻りするラチェットホイールと、
そのラチェットホイールに対し、インナーケーブルを送り出す方向でラチェットホイールの歯と噛み合い方向となり、巻き取る方向が滑り方向となるように揺動自在に支持されるラチェット爪と、
そのラチェット爪を少なくともラチェットホイールと噛み合う近辺で噛み合い方向に付勢する付勢手段とからなる一方向回転機構と、
前記ラチェット爪を、ラチェットホイールと噛み合うことができる位置と噛み合うことができない位置との間で回動操作する制御手段とからなる請求項1記載のバックドアの開度保持装置。
【請求項3】
前記付勢手段が、ラチェット爪が揺動の中心からラチェットホイールに近い側にあるときはラチェットホイールに近づく方向にラチェット爪を付勢し、ラチェットホイールとは反対側にあるときはラチェットホイールから離れる方向に付勢するオーバーセンターバネである請求項2記載のバックドアの開度保持装置。
【請求項4】
前記バックドアと自動車の車体との間に、少なくともバックドアが開いていく途中からバックドアの重量に抗してバックドアを開く方向に付勢するガススプリングが設けられており、前記インナーケーブルが、バックドアが開くのを防止するようにバックドアに係止されている請求項1〜3のいずれかに記載のバックドアの開度保持装置。
【請求項5】
前記制御手段が、バックドアが閉じたときに若しくは閉じる前の設定位置でラチェット爪をラチェットホイールから離す方向に回動させる解除機構と、バックドアを開いていく途中で少し閉じる方向に操作したときにラチェット爪をラチェットホイール側に回動させるロック始動機構とを備えている請求項3記載のバックドアの開度保持装置。
【請求項6】
前記解除機構が、ラチェットホイールの外周から突出し、バックドアが閉じたときにラチェット爪と当接してラチェットホイールと噛み合うことができない位置に移動させる突起である請求項5記載のバックドアの開度保持装置。
【請求項7】
前記ロック始動機構が、前記ラチェットホイールと同心状に設けられる第2ラチェットホイールと、基端が前記ラチェット爪の回動中心から逆方向に延びる部位に保持され、先端が第2ラチェットホイールの歯と噛み合う第2ラチェット爪とからなり、
前記ドラムのインナーケーブルを巻き取る方向の回転で第2ラチェット爪と第2ラチェットホイールの歯が噛み合い、
ドラムのインナーケーブルを送り出す方向の回転で第2ラチェット爪と第2ラチェットホイールの歯が滑るように構成されている、請求項5または6記載のバックドアの開度保持装置。
【請求項8】
開方向または閉方向に付勢されている自動車のバックドアを、その開き方向の付勢力に抗して所望の開き位置に維持するバックドアの開度保持装置であって、
前記バックドアを閉じる方向の回転を許し、開ける方向の回転を拘束する一方向回転状態と、バックドアの開閉を許す拘束解除状態とを切り替える回転制御機構を備えており、
その回転制御機構が、バックドアの開閉に応じて回転するラチェットホイールと、
そのラチェットホイールに対し、開方向でラチェットホイールの歯と噛み合い方向となり、閉方向が滑り方向となるように揺動自在に支持されるラチェット爪と、
そのラチェット爪を少なくともラチェットホイールと噛み合う近辺で噛み合い方向に付勢する付勢手段とからなる一方向回転機構と、
前記ラチェット爪を、ラチェットホイールと噛み合うことができる位置と噛み合うことができない位置との間で回動操作する制御手段とからなるバックドアの開度保持装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2011−46280(P2011−46280A)
【公開日】平成23年3月10日(2011.3.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−196373(P2009−196373)
【出願日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【出願人】(390000996)株式会社ハイレックスコーポレーション (362)
【Fターム(参考)】