説明

自動車のフード構造

【課題】自動車のフード構造において、ストライカの寸法公差に関わらず、ストライカとフードとの良好な溶接品質を確保する。
【解決手段】フードアウタパネルの前方部分の下面にリーンフォースメント30が設けられ、リーンフォースメント30にストライカ50の脚部52が溶接により固定される。リーンフォースメント30は脚部52の最大径部が嵌合可能な溝部32を有し、且つ、溝部32には脚部52のバラツキ方向に沿って延びる一対の側面32bを設ける。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のフード構造に関し、特に、フードとフードロック用のストライカとの取り付け構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば特許文献1に示されている自動車のフード構造では、フードの内面に設けられたリーンフォースメント(ストライカ支持部材11)に、フードロック用のストライカが溶接固定されている。このストライカと、車体側に設けられたロック部材とが係合することにより、フードが閉じた状態でロックされる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2009−137525号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
例えば、図6に示すフード構造では、一対の脚部151,152及び連結部153からなる略U型形状のストライカ150が、フード100の内面に設けられたリーンフォースメント130に固定されている。詳しくは、リーンフォースメント130に形成された一対の溝部131,132に、ストライカ150の一対の脚部151,152がそれぞれ溶接固定されている。ストライカ150のリーンフォースメント130への固定は、例えば、ストライカ150の一方の脚部151とリーンフォースメント130の一方の溝部131とを嵌合した状態で溶接した後、ストライカ150の他方の脚部152とリーンフォースメント130の他方の溝部132とを溶接することにより行なわれる。
【0005】
ストライカ150は、通常、線材の曲げ加工により形成されるため、製品ごとの曲げ角度にバラツキが生じる。このため、ストライカ150をリーンフォースメント130に取り付ける際に、ストライカ150の一方の脚部151とリーンフォースメント130の一方の溝部131とを先に固定した場合、図7に示すように、他方の溝部132に対する他方の脚部152の位置、具体的には、溝部132の溝底からの脚部152の浮き上がり量にバラツキが生じる。この場合、溝部132に当接した(あるいは十分に近接した)脚部152(図7に実線で示す)は、溶接部Wが溝部132の比較的開口側寄りに形成され、且つ、溶接部Wへの溶接トーチのアクセス角度αが比較的広いため、溶接作業性は良好である。一方、溝部132から大きく浮き上がった脚部152’(図7に鎖線で示す)は、上記と比べて溶接部W’が溝部132の溝底側に移動するため、溶接トーチを長くする必要が生じると共に、溶接部W’への溶接トーチのアクセス角度α’が狭くなり(α’<α)、溶接作業が困難となる。また、溝部132から大きく浮き上がった脚部152’の溶接部W’は、溝部132に当接した脚部152の溶接部Wよりも大きくなるため、母材破壊や穴開けが生じて所望の溶接品質が確保できない恐れがある。
【0006】
本発明の解決すべき課題は、自動車のフード構造において、ストライカの寸法公差に関わらずストライカとフードとの良好な溶接品質を確保すること、すなわち、ストライカの溶接品質のロバスト性を高めることにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために、本発明は、車体に対して開閉可能に取り付けられたフードと、フードの内面に設けられたリーンフォースメントと、線材を曲げ加工してなり、一対の脚部及びこれらを連結する連結部を有するフードロック用のストライカとを備え、リーンフォースメントに一対の溝部を形成し、該一対の溝部にストライカの一対の脚部をそれぞれ溶接固定した自動車のフード構造において、リーンフォースメントの溝部に、ストライカの脚部の最大径部が嵌合可能であり、且つ、ストライカの脚部のバラツキ方向に沿って延びた一対の側面を設けたことを特徴とする。
【0008】
このフード構造によれば、リーンフォースメントの溝部に設けた一対の側面の間にストライカの脚部の最大径部を嵌合させた状態で、ストライカの脚部と溝部とを溶接することができる。これにより、ストライカの脚部のうち、最大径部(溝部との嵌合部)より溝部開口側部分を溶接することができるため、溶接トーチを長くする必要がなく、且つ、溶接トーチのアクセス角度が広くなって溶接作業が容易化される。
【0009】
また、溝部の一対の側部を、ストライカの脚部のバラツキ方向に沿って延ばすことにより、溝部から脚部が浮き上がった場合でも、溝部の一対の側面とストライカの脚部の最大径部との嵌合状態を維持し、あるいは、嵌合しないまでも両者を近接させることができる。これにより、ストライカの寸法公差に関わらず溶接部を小さくして、母材破壊や穴開けを回避することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上のように、本発明のフード構造によれば、ストライカの寸法公差に関わらず、ストライカとフードとの良好な溶接品質を確保することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【図1】フードの内面を示す平面図である。
【図2】図1のA−A断面図である。
【図3】図2のB−B断面図である。
【図4】図2のC−C断面図である。
【図5】図4を拡大した断面図である。
【図6】従来のフード構造の断面図である。
【図7】図6のC’−C’断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。
【0013】
図1は、本発明のフード構造が適用される自動車のフード1の内面(フードを閉じた状態の下側の面)を示す。フード1は、車体(図示省略)のエンジンルームあるいはトランクルームに開閉可能に取り付けられ、フードアウタパネル10と、フードアウタパネル10の内面に固定されたフードインナパネル20とを備える。フード1の前方部分(図1の下方部分)には、リーンフォースメント30及びストライカ50が設けられる。尚、以下の説明では、車体の前後方向を単に「前後方向」と言い、車体の幅方向を単に「幅方向」と言う。
【0014】
リーンフォースメント30は、例えば鋼板のプレス加工により形成され、図2に示すように、フードアウタパネル10とフードインナパネル20との間の空間に設けられる。本実施形態では、フードアウタパネル10の内面に接着剤Gを介して取り付け板40が固定され、この取り付け板40にリーンフォースメント30が溶接固定される。
【0015】
ストライカ50は、車体側に設けられたロック部材(図示省略)と係合可能とされる。ストライカ50は、丸棒状の金属線材を曲げ加工してなり、図2に示すように、一対の脚部51,52と、一対の脚部51,52を連結する連結部53とを有する。図示例では、一対の脚部51,52が略平行な直線状を成し、この一対の脚部51,52の図中下端部同士を連結部53で連結することで、ストライカ50が全体として略U型形状を成している。一方の脚部51は他方の脚部52よりも短く形成される。一対の脚部51,52は、先端側(連結部53と反対側、図2の上方)に向けて互いに離隔する方向に若干広がっている。連結部53は、フード1を閉じた状態(すなわちロック部材と係合させた状態)で略水平となるように設けられる。
【0016】
リーンフォースメント30には一対の溝部31,32が設けられ、この溝部31,32に、ストライカ50の一対の脚部51,52がそれぞれ溶接固定される。本実施形態では、溝部31,32は略上下方向に延び、詳しくは、上方に向けて互いに離隔する方向に若干広がった方向に延びている。溝部31,32は、何れも後方側(図2の右側)に開口している。尚、溝部31,32の一方又は双方を、他の方向(例えば前方側)に開口させても良い。
【0017】
一方の溝部31は、図3に示すように、断面円弧状に形成される。溝部31には、ストライカ50の一方の脚部51が嵌合し、この状態で両者が溶接固定される。詳しくは、ストライカ50の脚部51の幅方向両側(図3の左右両側)が、溝部31の開口部に溶接固定されている(溶接部をW1で示す)。一方の脚部51は、一方の溝部31の溝底面に当接し、且つ、溝部31の開口部から図中上方に突出している。
【0018】
他方の溝部32は、図4に示すように、断面略U型形状を成し、断面円弧形状の溝底面32aと、溝底面32aの幅方向両端部から延びる一対の側面32bと、一対の側面32bから延びる一対のガイド面32cとを有する。一対の側面32bは、ストライカ50の他方の脚部52のバラツキ方向(車体前後方向、図4の上下方向)に沿って延び、幅方向(図4の左右方向)に対向している。一対のガイド面32cは、一対の側面32bの図中上方端部から幅方向外側に湾曲し、溝部32の幅方向両側に設けられた平坦部33,34と滑らかに連続している。
【0019】
図4に実線で示すストライカ50の他方の脚部52は、リーンフォースメント30の他方の溝部32に嵌合して溝底面32aに当接した状態、すなわち溝底面32aからの浮き上がり量が0の状態を示している。このとき、溝部32の一対の側面32bの間には、ストライカ50の脚部52の最大径部52aが嵌合している。これにより、他方の脚部52のうち、最大径部52a(溝部32との嵌合部)よりも溝部開口側部分(図中上側部分)に溶接部Wを形成することができるため、トーチを長くする必要がなく、且つ、トーチを溶接部Wにアクセスする角度αが十分確保され、溶接作業を容易化できる。図示例では、他方の脚部52と溝部32の開口部付近(ガイド面32c)との間に溶接部Wが形成されている。また、図4に実線で示すストライカ50の脚部52は、溝部32の開口部から図中上方に僅かに突出している。すなわち、脚部52の直径が、溝部32の溝深さD(平坦部33,34の図中上側端面と溝底面32aの最深部との距離)よりも僅かに大きくなっている。これにより、溶接部Wが溝部32の奥部に形成されることを回避し、溝部32の開口部付近に溶接部Wを設けることができる。
【0020】
図4に鎖線で示すストライカ50の他方の脚部52’は、ストライカ50の寸法公差が最大の状態、すなわち、脚部52’の溝底面32aからの浮き上がり量が最大の状態を示している。このとき、脚部52’の最大径部52a’は、溝部32の一対の側面32bよりも僅かに上方に位置し、具体的には、最大径部52a’が一対のガイド面32cの幅方向内側に配されている(図5参照)。この場合、脚部52’と溝部32の側面32bとは嵌合していないが、脚部52’の最大径部52a’と溝部32の開口部とが近接している。
【0021】
本発明に係るフード構造では、脚部52の最大径部52aと嵌合可能な溝部32の側面32bが、脚部52のバラツキ方向に沿って延びているため、脚部52の位置にバラツキが生じた場合でも、溶接部W(W’)の場所や大きさをほとんど変えることなく、安定した溶接品質を得ることができる。具体的には、図4に示すように、ストライカ50の寸法公差に関わらず、常に脚部52(52’)を溝部32の開口部付近(ガイド面32c)に溶接することができるため、良好な溶接作業性を維持できる。また、脚部52が溝底面32aから浮き上がっても、一対の側面32bの間に嵌合させることができ、あるいは、嵌合しないまでも、脚部と溝部32とを十分に近接させることができる。これにより、ストライカ50の寸法公差に起因して溶接作業性が低下したり、溶接部W(W’)が大きくなって母材破壊や穴開けを生じたりする事態を回避できる。
【0022】
尚、母材破壊等を確実に回避するためには、ストライカ50の公差範囲内において、ストライカの脚部52と溝部32とが十分近接するように、溝部32の形状(特に、一対の側面32b及びガイド面32cの形状)を適宜設定すれば良い。例えば、溝部32の溝深さDを、最大公差時の脚部52’の断面中心と溝底面32aの最深部との距離Eよりも、若干大きくすればよい。
【符号の説明】
【0023】
1 フード
10 フードアウタパネル
20 フードインナパネル
30 リーンフォースメント
31,32 溝部
32a 溝底面
32b 側面
32c ガイド面
50 ストライカ
51,52 脚部
53 連結部
W 溶接部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体に対して開閉可能に取り付けられたフードと、フードの内面に設けられたリーンフォースメントと、線材を曲げ加工してなり、一対の脚部及びこれらを連結する連結部を有するフードロック用のストライカとを備え、リーンフォースメントに一対の溝部を形成し、該一対の溝部にストライカの一対の脚部をそれぞれ溶接固定した自動車のフード構造において、
前記溝部に、ストライカの脚部の最大径部が嵌合可能であり、且つ、ストライカの脚部のバラツキ方向に沿って延びた一対の側面を設けたことを特徴とする自動車のフード構造。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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