説明

自動車の懸架装置

【課題】車体の下部部材に取り付けられた前、後支持片の間にラテラルロッドの一端部を配置して、一端部を両支持片に枢支させるようにした場合において、両支持片の離間寸法を小さく抑制したままで、ラテラルロッドのNV性能を向上させる。
【解決手段】自動車の懸架装置は、車体2の下部部材3の下方域で、昇降可能となるよう下部部材3に弾性的に連結されるアクスルハウジング8と、下部部材3に取り付けられ、前後方向で互いに対面する前、後支持片28,29と、車体2の幅方向に延び、その長手方向の一端部42が前、後支持片28,29の間に配置されると共に、前後方向に延びる軸心35回りに回動A可能となるよう前、後支持片28,29に枢支され、他端部44がアクスルハウジング8に枢支されるラテラルロッド33とを備える。ラテラルロッド33の一端部42側における断面の外形形状を、上下に長い長円形状にする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体の幅方向の所定位置にアクスルハウジングを保持させるためのラテラルロッドを備えた自動車の懸架装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車の懸架装置には、従来、下記特許文献1に示されるものがある。この公報のものによれば、上記懸架装置は、車体の下部部材の下方域で車体の幅方向に延び、かつ、昇降可能となるよう上記下部部材に弾性的に連結されるアクスルハウジングと、上記下部部材に取り付けられ、前後方向で互いに対面する前、後支持片と、車体の幅方向に延び、その長手方向の一端部が上記前、後支持片の間に配置されると共に、前後方向に延びる軸心回りに回動可能となるよう上記前、後支持片に枢支され、他端部が上記アクスルハウジングに枢支されるラテラルロッドとを備えている。上記アクスルハウジングの各端部に左、右車輪が回転可能に支持され、上記アクスルハウジングに収容される車軸を介し、上記各車輪がエンジンに連動連結される。
【0003】
自動車の走行時、上記各車輪に路面から衝撃力が与えられるとき、これら車輪と共にアクスルハウジングが昇降を繰り返し、これに伴い伸縮する緩衝器より、上記衝撃力が緩和される。また、上記したように、アクスルハウジングが昇降を繰り返すとき、これに連動して、上記ラテラルロッドは上記軸心を中心として上下回動を繰り返す。そして、このように上下回動を繰り返しながら、このラテラルロッドは上記アクスルハウジングを車体の幅方向の所定位置に保持する。
【特許文献1】特開平5−319049号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、上記のように軸心回りにラテラルロッドが上下に回動するとき、このラテラルロッドの一端部側に上記前、後支持片が接触しないよう、これら両支持片の離間寸法が定められている。
【0005】
一方、上記ラテラルロッドには、そのNV(騒音、振動)性能の向上により、ラテラルロッドがエンジンや差動装置と共鳴しないようにすることが求められる。そこで、上記ラテラルロッドの強度と剛性とを向上させ、その固有振動数を大きくさせて、このラテラルロッドの径寸法を大きくさせることが考えられる。しかし、単にこのようにすると、上記ラテラルロッドの一端部側との接触を避けるため、上記両支持片の離間寸法をより大きくする必要が生じるが、これは、車体構成部品をできるだけコンパクトにすることが要求される自動車にとって、好ましくない。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記のような事情に注目してなされたもので、本発明の目的は、車体の下部部材に取り付けられた前、後支持片の間にラテラルロッドの一端部を配置して、この一端部を上記両支持片に枢支させるようにした場合において、これら両支持片の離間寸法を小さく抑制したままで、上記ラテラルロッドのNV性能を向上させることができるようにすることである。
【0007】
請求項1の発明は、車体2の下部部材3の下方域で車体2の幅方向に延び、かつ、昇降可能となるよう上記下部部材3に弾性的に連結されるアクスルハウジング8と、上記下部部材3に取り付けられ、前後方向で互いに対面する前、後支持片28,29と、車体2の幅方向に延び、その長手方向の一端部42が上記前、後支持片28,29の間に配置されると共に、前後方向に延びる軸心35回りに回動A可能となるよう上記前、後支持片28,29に枢支され、他端部44が上記アクスルハウジング8に枢支されるラテラルロッド33とを備えた自動車の懸架装置において、
上記ラテラルロッド33の一端部42側における断面の外形形状を、上下に長い長円形状にしたことを特徴とする自動車の懸架装置である。
【0008】
なお、この項において、上記各用語に付記した符号や図面番号は、本発明の技術的範囲を後述の「実施例」の項や図面の内容に限定解釈するものではない。
【発明の効果】
【0009】
本発明による効果は、次の如くである。
【0010】
請求項1の発明は、車体の下部部材の下方域で車体の幅方向に延び、かつ、昇降可能となるよう上記下部部材に弾性的に連結されるアクスルハウジングと、上記下部部材に取り付けられ、前後方向で互いに対面する前、後支持片と、車体の幅方向に延び、その長手方向の一端部が上記前、後支持片の間に配置されると共に、前後方向に延びる軸心回りに回動可能となるよう上記前、後支持片に枢支され、他端部が上記アクスルハウジングに枢支されるラテラルロッドとを備えた自動車の懸架装置において、
上記ラテラルロッドの一端部側における断面の外形形状を、上下に長い長円形状にしている。
【0011】
このため、上記ラテラルロッドの一端部側の断面積を大きくして、その強度と剛性とを向上させることにより、NV性能を向上させるようにした場合でも、上記ラテラルロッドの一端部の前後方向の厚さ寸法は小さいままに抑制できる。
【0012】
よって、車体の下部部材に取り付けられた前、後支持片の間にラテラルロッドの一端部を配置し、この一端部を上記両支持片に枢支させるようにした懸架装置において、上記したように、ラテラルロッドの一端部の厚さ寸法を小さいままに抑制することにより、上記両支持片の離間寸法を小さく抑制できる。つまり、上記両支持片の離間寸法を小さく抑制したままで、上記ラテラルロッドのNV性能を向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の自動車の懸架装置に関し、車体の下部部材に取り付けられた前、後支持片の間にラテラルロッドの一端部を配置して、この一端部を上記両支持片に枢支させるようにした場合において、これら両支持片の離間寸法を小さく抑制したままで、上記ラテラルロッドのNV性能を向上させることができるようにする、という目的を実現するため、本発明を実施するための最良の形態は、次の如くである。
【0014】
即ち、自動車の懸架装置は、車体の下部部材の下方域で車体の幅方向に延び、かつ、昇降可能となるよう上記下部部材に弾性的に連結されるアクスルハウジングと、上記下部部材に取り付けられ、前後方向で互いに対面する前、後支持片と、車体の幅方向に延び、その長手方向の一端部が上記前、後支持片の間に配置されると共に、前後方向に延びる軸心回りに回動可能となるよう上記前、後支持片に枢支され、他端部が上記アクスルハウジングに枢支されるラテラルロッドとを備える。上記ラテラルロッドの一端部側における断面の外形形状を、上下に長い長円形状にしている。
【実施例】
【0015】
本発明をより詳細に説明するために、その実施例を添付の図に従って説明する。
【0016】
図において、符号1は自動車である。また、矢印Frは、この自動車1の進行方向の前方を示している。なお、下記する左右とは上記前方に向かっての車体2の幅方向をいうものとする。
【0017】
上記車体2は、この車体2の下部部材3を構成し、前後方向の長く延びる左右サイドフレーム4,4と、車体2の幅方向に延び上記左右サイドフレーム4,4に架設される前後で複数のクロスメンバ5とを備えている。これらサイドフレーム4とクロスメンバ5とはそれぞれ板金製で、長手方向の各部断面が倒立ハット形状とされ、車体2の骨格部材を構成している。
【0018】
上記車体2の後部における上記クロスメンバ5の下方域に、車体2の幅方向に延びるリヤアクスルハウジング8が設けられる。このアクスルハウジング8の長手方向の各端部にはそれぞれ後車輪9が回転可能に支持される。また、上記アクスルハウジング8の長手方向の中途部には、差動装置を内有するデフハウジング10が形成されている。上記各後車輪9は、上記アクスルハウジング8の各端部側に内有された各車軸と上記差動装置とを介し走行用エンジンに連動連結されている。
【0019】
走行面13に接地した各後車輪9に上記車体2の後部を懸架させるリヤ懸架装置14が設けられている。この懸架装置14は、上記下部部材3に上記アクスルハウジング8を昇降可能となるよう弾性的に連結する不図示の左右ばねと、上記下部部材3と上記アクスルハウジング8との間に架設される左右緩衝器15,15と、上記アクスルハウジング8を、このアクスルハウジング8よりも前方の上記各サイドフレーム4に連結させる不図示の左右トレーリングアームとを備えている。
【0020】
上記クロスメンバ5の長手方向の一端部(左端部)17から下方に向かって突出するブラケット18が設けられている。このブラケット18は板金製で、前後方向で互いに対面する前、後支持片19,20と、車体2の幅方向における上記両支持片19,20の各端縁同士を一体的に結合させる左、右結合片21,21とを備えている。上記ブラケット18の上部における長手方向の各部断面は閉断面構造とされ、上記ブラケット18の突出端部24における長手方向の各部断面は、上記クロスメンバ5の他端部(右端部)22側に向かって開くコの字形状とされている。
【0021】
また、上記クロスメンバ5の下方域で、車体2の幅方向に延び、その一端部(左端部)25が上記ブラケット18の突出端部24に結合され、他端部(右端部)26が上記クロスメンバ5の他端部22側に結合されるステー27が設けられている。このステー27は板金製で、前後方向で互いに対面する前、後支持片28,29と、これら支持片28,29の各上端縁同士を一体的に結合させる結合片30とを備えている。上記ステー27の長手方向の各部断面は、下方に向かって開く倒立U字形状とされている。
【0022】
上記ブラケット18の突出端部24に、上記ステー27の一端部25が密に嵌入されて互いに結合されている。この場合、上記ブラケット18の突出端部24の前、後支持片19,20と、上記ステー27の一端部25の前、後支持片28,29とは、それぞれ互いに補強するよう結合されて強固な2枚重ね構造とされている。上記ステー27の他端部26は、その前、後支持片28,29が上記クロスメンバ5の他端部22側を前後から挟み付けた状態で、この他端部22側に結合されている。
【0023】
また、上記クロスメンバ5の下方域、かつ、上記アクスルハウジング8の後方近傍域で、車体2の幅方向に直線的に延び、車体2の幅方向の所定位置に上記アクスルハウジング8を保持させるためのラテラルロッド33が設けられている。上記ブラケット18の突出端部24とステー27の一端部25との互いの結合部における前支持片19,28と、後支持片20,29とには、軸心35が前後方向に延びる枢支軸36が架設されている。車体2の幅方向で、上記クロスメンバ5の他端部22側における上記アクスルハウジング8の端部後面には、他の軸心39が前後方向に延びる他の枢支軸40が突設されている。
【0024】
上記ラテラルロッド33の長手方向の一端部(左端部)42は、上記前支持片19,28と、後支持片20,29との間で、前後方向の中央部に配置されると共に、上記軸心35回りに上下に回動A可能となるようリングブッシュ43を介し上記枢支軸36に枢支されている。また、上記ラテラルロッド33の他端部(右端部)44は、上記他の軸心39回りに上下に回動A可能となるようリングブッシュ45を介し上記他の枢支軸40に枢支されている。
【0025】
上記ラテラルロッド33の一端部42と他端部44とは、それぞれ金属製のリング47により形成されている。また、上記ラテラルロッド33の長手方向の中途部は金属製のパイプ材48により形成されている。そして、上記各リング47の外周面と、上記パイプ材48の各端部とは全周溶接Wにより強固に結合されて、このパイプ材48の内部は密封状態とされ、水入りによる発錆が防止されている。
【0026】
特に、図3,4で示すように、上記ラテラルロッド33の一端部42側における断面の外形形状は、上下に長い長円形状となるよう形成されている。なお、この長円形状は長軸が縦向きの楕円形状や、長辺が縦向きの長方形状を含む概念であり、上記ラテラルロッド33の一端部42側は中実の棒材であってもよい。また、この場合、このラテラルロッド33が上記枢支軸36の軸心35回りで上方に回動Aしたとき(図1,3中一点鎖線)、上記ステー27の一端部25側の内部に入り込む可能性がある上記ラテラルロッド33の一端部42側の部分のみにつき、その断面が長円形状とされている。一方、上記ラテラルロッド33の他端部44側における断面の外形形状は、円形とされている。
【0027】
上記構成によれば、ラテラルロッド33の一端部42側における断面の外形形状を、上下に長い長円形状にしている。
【0028】
このため、上記ラテラルロッド33の一端部42側の断面積を大きくして、その強度と剛性とを向上させることにより、NV性能を向上させるようにした場合でも、上記ラテラルロッド33の一端部42の前後方向の厚さ寸法は小さいままに抑制できる。
【0029】
よって、車体2の下部部材3に取り付けられた前、後支持片28,29の間にラテラルロッド33の一端部42を配置し、この一端部42を上記両支持片28,29に枢支させるようにした懸架装置14において、上記したように、ラテラルロッド33の一端部42の厚さ寸法を小さいままに抑制することにより、上記両支持片28,29の離間寸法Lを小さく抑制できる。つまり、上記両支持片28,29の離間寸法Lを小さく抑制したままで、上記ラテラルロッド33のNV性能を向上させることができる。
【0030】
また、上記したように、ラテラルロッド33の一端部42側における断面を、要するに縦長形状にしている。このため、上記ラテラルロッド33の断面の長手方向と上記軸心35を中心とするラテラルロッド33の回動A方向とが合致する。よって、このラテラルロッド33の回動A時にこのラテラルロッド33に生じる応力のうち、より大きい縦方向の応力が小さく抑制されることから、このラテラルロッド33にとって強度上有益である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】車体の後部背面図である。
【図2】車体の後部平面図である。
【図3】図1のIII−III線矢視断面図である。
【図4】車体の後部斜視展開図である。
【符号の説明】
【0032】
1 自動車
2 車体
3 下部部材
5 クロスメンバ
8 アクスルハウジング
9 後車輪
14 懸架装置
18 ブラケット
24 突出端部
25 一端部
26 他端部
27 ステー
28 支持片
29 支持片
30 結合片
33 ラテラルロッド
35 軸心
36 枢支軸
42 一端部
44 他端部
A 回動
L 離間寸法
W 溶接

【特許請求の範囲】
【請求項1】
車体の下部部材の下方域で車体の幅方向に延び、かつ、昇降可能となるよう上記下部部材に弾性的に連結されるアクスルハウジングと、上記下部部材に取り付けられ、前後方向で互いに対面する前、後支持片と、車体の幅方向に延び、その長手方向の一端部が上記前、後支持片の間に配置されると共に、前後方向に延びる軸心回りに回動可能となるよう上記前、後支持片に枢支され、他端部が上記アクスルハウジングに枢支されるラテラルロッドとを備えた自動車の懸架装置において、
上記ラテラルロッドの一端部側における断面の外形形状を、上下に長い長円形状にしたことを特徴とする自動車の懸架装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−47075(P2010−47075A)
【公開日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−211563(P2008−211563)
【出願日】平成20年8月20日(2008.8.20)
【出願人】(000002967)ダイハツ工業株式会社 (2,560)
【Fターム(参考)】