説明

自動車用の段階的可変変速機

【課題】本発明は、改良された自動車用の段階的可変変速機を提供すること。
【解決手段】この変速機は、複数個の前進歯車(1,2,3,4,・・・)及び少なくとも1個の後退歯車(R)と、駆動シャフト組立体(12,14,38)と、被動シャフト組立体(16,18,40)と、遊び歯車及びシフト歯車を含む複数個の歯車列とを有する。シフト歯車は、シャフト組立体に回転自在に取り付けられると共にそれぞれのシフトカップリング(SK)によって関連のシャフト組立体に連結できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複数個の前進歯車段及び少なくとも1つの後退歯車段を有する自動車用段階的可変(即ち、可変変速比)変速機(トランスミッション)に関する。
【0002】
本発明は、より正確に言えば、歯車段の入切がアクチュエータによって実施される自動段階的可変変速機に関する。アクチュエータとして、起電力により駆動されるセレクタドラム、油圧リニアアクチュエータ等を用いることができる。
【0003】
本発明は、特に、ツインクラッチ変速機及び自動シフト変速機に関する。
【背景技術】
【0004】
ツインクラッチ変速機は、例えば、独国特許出願公開第19821164号明細書、欧州特許出願公開第0083747号明細書、及び欧州特許出願公開第0046373号明細書で知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】独国特許出願公開第19821164号明細書
【特許文献2】欧州特許出願公開第0083747号明細書
【特許文献3】欧州特許出願公開第0046373号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
自動シフト変速機は、Smart(登録商標)、BMW(登録商標)M3、及び最近導入されたBMW(登録商標)M5で提供されている。後者は、7歯車自動シフト変速機を含む。この自動シフト変速機は、従来型Hパターンを踏襲しない歯車列構造体を有する。具体的に言えば、2つのシフトクラッチを有するシフトクラッチパックは、直接連続していない歯車に割り当てられる。シフトクラッチパックは、それぞれ別々のアクチュエータを有するので、ソース歯車の切(解除)及びターゲット歯車の入(噛み合い又は稼働)は、或る特定の時間オーバラップの状態で起こることができ、したがって、歯車の変更を非常に迅速に行うことができるようになっている。
【0007】
ツインクラッチ変速機では、前進歯車は、2つの部分変速機相互間に分割されている。この場合、奇数番の歯車が一方の部分変速機に割り当てられ、偶数番の歯車が他方の部分変速機に割り当てられるのが通例である。各部分変速機は、別個のクラッチによって駆動モータの駆動出力シャフトに連結される。ツインクラッチ変速機では、歯車の変更を実施するには、必ず、2つのクラッチのオーバラップ状態の作動によって牽引又は駆動力を中断しなければならない。
【0008】
しかしながら、2種類の変速機(ツインクラッチ変速機と自動シフト変速機)は、依然として改良の余地がある。
【0009】
したがって、本発明の目的は、自動車用の改良型段階的可変変速機を提供することにある。
【0010】
この目的は、請求項1記載の特徴を有する段階的可変変速機によって達成される。
【課題を解決するための手段】
【0011】
段階的可変変速機は、好ましくは、ツインクラッチ変速機であり、駆動入力シャフト構造体は、第1及び第2の部分変速機にそれぞれ割り当てられた第1及び第2の駆動入力シャフトを有し、第1の部分変速機には、奇数番前進歯車段が割り当てられ、第2の部分変速機には偶数番歯車段が割り当てられている。
【0012】
上述した形式のツインクラッチ変速機では、主として自動車を前進方向に始動させるために用いられる前進歯車段及び後退歯車段は、別々の部分変速機に割り当てられることが特に好ましい。
【0013】
主として自動車を始動させるために用いられる前進歯車段は、一般に、第1の歯車、即ち1速歯車である。互いに異なる部分変速機へのそれぞれの割り当ての結果として、走行方向の変化の際に歯車段をシフトさせる必要はない。換言すると、始動歯車段及び後退歯車段が同一の部分変速機に割り当てられていれば、例外なくまず最初に一方の歯車段を切り、他方の歯車段を入れることが走行方向の変化の場合に必要である。これにより、車両が動かなくなった場合に、いわゆるフリーロック(free-rocking)モードでは望ましくないほど長い歯車変更時間が生じる。
【0014】
これとは対照的に、好ましい実施形態によれば、シフトクラッチ(同期化)に負荷をかけるシフト又は同期化プロセスは不要である。前進方向及び後退方向における始動プロセスも又、一般に、互いに異なる変速機の入力側始動クラッチにより行われる。したがって、ツインクラッチ変速機の2つの始動クラッチは、一層均一に負荷がかけられる。
【0015】
自動車を始動させる場合、後退歯車段及び始動前進歯車段は、好ましくは、同時に稼働される。これにより、変速機の低温時変速能力が向上する。というのは、任意の方向における始動に関し、変速機が休止状態にある間に稼働プロセスを実施する必要はないからである。
【0016】
別の好ましい実施形態によれば、駆動入力シャフト構造体は、単一の駆動入力シャフトを有する。
【0017】
この実施形態では、段階的可変変速機は、例えば、自動シフト変速機である。
【0018】
出力シャフト構造体が入力駆動シャフト構造体と一緒になって、3シャフト構造体を形成する2本の出力シャフトを有すると、全体として有利である。
【0019】
この種の段階的可変変速機は、軸方向において特にコンパクトな設計のものであるのが良い。
【0020】
この場合、ツインクラッチ変速機では、部分変速機の前進歯車段は、2つの駆動出力シャフト相互間に分配されるのが良い。
【0021】
駆動出力シャフトへの歯車段の「割り当て」は、この歯車段を入切するのに役立つシフトクラッチが駆動シャフトに取り付けられていることを意味している。
【0022】
この場合、或る特定の前進歯車段が出力シャフトのうちの一方の出力シャフトに割り当てられ、後退歯車段が他方の出力シャフトに割り当てられると、特に有利である。
【0023】
この場合、後退歯車段が或る特定の前進歯車段を介して駆動されると、特に有利である。
【0024】
この実施形態では、2本の駆動出力シャフトが設けられているということは、後退歯車に必要な回転方向の逆転を行うのに利用される。換言すると、この実施形態では、回転方向の逆転歯車を取り付けるための別の補助シャフト(副軸)は不要である。回転方向の逆転は、この場合、回転方向がまず最初に或る特定の前進歯車段によって逆転されるので行われる。
【0025】
この場合、後退歯車段が上述の或る特定の前進歯車段を介して直接駆動されると、特に有利である。
【0026】
この実施形態では、回転方向の逆転のための別個の歯車は不要である。
【0027】
変形実施形態では、後退歯車段は、上述の或る特定の前進歯車段に割り当てられた歯車列の遊び歯車に回転的に固定された状態で連結された歯車を介して駆動される。
【0028】
したがって、この実施形態では、或る特定の前進歯車段の遊び歯車は、別の歯車に回転的に固定状態で連結される。この手立ての結果として、逆転歯車段の変速比を広い範囲で自由に選択することができる。
【0029】
また、駐車ロックが出力シャフトのうちの一方に割り当てられると、有利である。
【0030】
これは、第1に、駐車ロックを設けるのにほんの僅かな設置空間しか必要としないので有利である。具体的に言えば、別個の駐車ロックシャフトは不要である。駐車ロックを下流側に連結された差動歯車装置に設けることも又、一般的には構造的に複雑であり、多くのアドオン部品を必要とし、しかもコストを増大させる。加うるに、差動歯車装置に設けられる駐車ロックは、より大形の設計を必要とする。というのは、駆動シャフトにより駐車ロックに導入されるトルクは、駆動出力シャフトのうちの1本に加わるトルクよりも大きいからである。
【0031】
換言すると、駐車ロックに作用するトルク又は力は、特に駆動出力一定変速比に対応して小さくなる。
【0032】
この点に関し、本発明の実施形態の2本の駆動出力シャフトは、一般に、それぞれの駆動出力一定歯車列によって差動歯車装置に連結されることが注目されるべきである。
【0033】
駐車ロックを提供された駆動出力シャフトのうちの1本に取り付けることにより、駐車ロックは、全体として小形且つ費用効果の良い設計のものとなることができる。
【0034】
また、駐車ロックが他方の出力シャフトの或る特定の前進歯車段に軸方向に整列すると、特に有利である。
【0035】
このようにすると、それ以上の節約空間を節約することができる。
【0036】
後退歯車段が或る特定の前進歯車段に割り当てられた歯車列の遊び歯車に回転的に固定された状態で連結された歯車を介して駆動されると、特に有利である。この場合、一方の駆動出力シャフトに取り付けられた別の歯車に関する他方の駆動出力シャフトの追加の軸方向長さは、言わば駐車ロックによって「満たされる」。
【0037】
或る特定の前進歯車段が第2の前進歯車段であると、全体として特に有利である。
【0038】
後退歯車段及び前進方向における始動に用いられる前進歯車段(一般に、1速歯車)は、好ましくは、別々の部分変速機に割り当てられるので、この場合、1速歯車によって後退歯車段を駆動することはできない。
【0039】
したがって、第2の前進歯車段(2速歯車)が、この目的のために用いられる。それにより、後退歯車の始動のために十分に好ましい変速比を依然として提供することが可能である。特に、1速歯車の変速比に近い後退歯車の変速比を実現することが可能である。
【0040】
別の好ましい実施形態によれば、ツインクラッチ変速機において、一方の部分変速機の前進歯車段のうちの2つの前進歯車段は、別々の出力シャフトに割り当てられ、2つの前進歯車段は、駆動入力シャフト構造体に取り付けられた共通の固定歯車を共有する。
【0041】
この実施形態では、固定歯車のいわゆる「デュアルユース」が実現される。これにより、軽量化、設置空間の節約、及びコストの節約が得られる。共通の固定歯車によって関連付けられた2つの稼働歯車段が或る特定の変速比の関係を備えなければならないことは自明である。
【0042】
単一のデュアルユースの実現には、一般に、機能性とコストと設置空間との間に最善の妥協策が必要であるが、いずれの場合においても、2つの部分変速の前進歯車段のうちの2つの前進歯車段は、それぞれ、互いに異なる出力シャフトに割り当てられ、2つの前進歯車段は、それぞれ、駆動入力シャフト構造体に取り付けられた共通の固定歯車を共有することが可能である。
【0043】
したがって、2つのデュアルユースが、この実施形態において実現される。
【0044】
当然のことながら、一般的には、3つ以上のデュアルユースを実現することも又想定できる。
【0045】
別の好ましい実施形態によれば、第1の前進歯車段(1速歯車)及び第2の前進歯車段(2速歯車)は、2本の出力シャフトのうちの一方に割り当てられる。
【0046】
このようにすると、1速歯車から2速歯車、又、この逆の関係の大きなトルクの伝達が、駆動出力シャフトの変更なしに行われる。これは、変速機の騒音及び振動発生に対して良い影響を与える。追加のコスト及び設置空間は不要であり、しかも、変速機の機能性に対する制限はない。
【0047】
また、第1の前進歯車段が短いアクスル間隔を置いて出力シャフトに割り当てられると、有利である。
【0048】
この結果、シフト歯車直径が小さくなり、このことは、アクスルシャフトのための半径方向設置空間に対して良い影響を及ぼす。別の変形実施形態によれば、出力シャフト構造体は、単一の出力シャフトを有する。
【0049】
これにより、副軸減速歯車装置設計の「クラシック」な2シャフト概念が得られる。
【0050】
この実施形態では、変速機は、全体的軸方向長さが大きいが、一般に、半径方向においては一層コンパクトな設計のものである。
【0051】
大きなトルクを伝達する前進歯車段に割り当てられた歯車列が出力シャフト構造体の端部のところに配置されると、全体として有利である。
【0052】
換言すると、大きなシフト歯車直径を備えた歯車は、好ましくは、駆動出力シャフトの端部のところに位置する。小さなシフト歯車直径を備えた歯車段は、好ましくは、中間に配置される。これにより、シャフト曲げに対する良い効果に加えて、いわゆる「パッケージ」利点が得られる。この場合、シフト作動構造体(油圧、空気圧、電気機械式等)、好ましくはセレクタドラム式作動構造体を大きなシフト歯車直径を備えた歯車相互間で駆動出力シャフトに近接して半径方向に配置できる。
【0053】
段階的可変変速機は、5つ又は6つの前進歯車段を備えた変速機として、又、7つ以上の前進歯車段を有する変速機、例えば7歯車変速機として具体化できる。上述の利点は、6歯車変速機の場合に特に顕著である。
【0054】
固定歯車のべべリング方向は、好ましくは、トラクション下におけるトルク加重に起因する反力がかかる反力よりも大きなクラッチ作動力と同一方向に働くように設計される。したがって、駆動入力シャフトの軸方向運動がオーバーランすべきトラクションからの移行の場合に起こることはなく、このことは、クラッチの制御性に良い影響を及ぼす。
【0055】
本発明によれば、コンパクトで費用効果が良く、しかも機能的に高品質であって頑丈な段階的可変変速機を提供することが全体として可能である。
【0056】
上述の特徴及び更に以下に説明されるべき特徴は、それぞれ指定された組合せだけでなく、本発明の範囲から逸脱することなく、他の組合せの状態で又は個々に利用できることは自明である。
【0057】
本発明の例示の実施形態が、図面に記載されており、以下の説明においてこれら実施形態につき詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0058】
【図1】本発明のツインクラッチ変速機の第1の実施形態の歯車列の略図である。
【図2】図1のツインクラッチ変速機の概略断面図である。
【図3】本発明の差動歯車装置の第2の実施形態の歯車列の図である。
【図4】本発明の差動歯車装置の第3の実施形態の歯車列の図である。
【図5】本発明のツインクラッチ変速機の第4の実施形態の歯車列の図である。
【図6】本発明のツインクラッチ変速機の第5の実施形態の歯車列の図である。
【図7】本発明のツインクラッチ変速機の第6の実施形態の歯車列の図である。
【図8】本発明のツインクラッチ変速機の第7の実施形態の歯車列の図である。
【図9】本発明の自動シフト変速機の第1の実施形態の歯車列の略図である。
【図10】本発明のツインクラッチ変速機の第8の実施形態の歯車列の図である。
【発明を実施するための形態】
【0059】
図1において、本発明のツインクラッチ変速機の第1の実施形態が全体を符号10で示されている。
【0060】
ツインクラッチ変速機10は、第1の駆動入力シャフト12及び第2の駆動入力シャフト14を有している。第2の駆動入力シャフト14は、中空シャフトとして具体化されていて、第1の駆動入力シャフト12に対して同心状に配置されている。
【0061】
第1の駆動入力シャフト12を第1のクラッチK1に連結するのが良い。第2の駆動入力シャフト14を第2のクラッチK2に連結するのが良い。
【0062】
第1の駆動入力シャフト12は、第2の駆動入力シャフトよりも軸方向広がりが大きい状態で延び、この第2の駆動入力シャフトを越えて突き出ている。
【0063】
ツインクラッチ変速機10は、第1の出力シャフト16及び第2の出力シャフト18を更に有している。2つの出力シャフト16,18を更に有している。2つの出力シャフト16,18は、それぞれ、駆動入力シャフト12,14に平行に配置され、出力一定歯車列によって、差動歯車装置26の差動駆動入力歯車24に連結されている。
【0064】
正確に言えば、出力一定歯車列は、第1の出力シャフト16に回転的に固定状態で連結された第1の出力歯車20を有すると共に第2の出力シャフト18に回転的に固定状態で連結された第2の出力歯車22を有している。
【0065】
2つの出力歯車20,22は、互いに軸方向に整列しており、両方共、特に図2で理解できるように、差動駆動入力歯車24と噛み合っている。
【0066】
ツインクラッチ変速機10は、6つの前進歯車段1〜6及び1つの後退歯車Rを有している。奇数番の前進歯車段1,3,5は、ツインクラッチ変速機10の第1の部分変速機に割り当てられ、したがって、第1のクラッチK1に割り当てられている。
【0067】
偶数番の前進歯車段2,4,6及び後退歯車段Rは、ツインクラッチ変速機10の第2の部分変速機に割り当てられ、したがって、第2のクラッチK2に割り当てられている。
【0068】
前進歯車段2,4,6は、第1の駆動出力シャフト16に割り当てられている。前進歯車段3,4,5及び後退歯車段Rは、第2の駆動出力シャフト18に割り当てられている。
【0069】
1つのシフトクラッチを有するシフトクラッチパックSK1が、第1の駆動出力シャフト16に取り付けられると共に前進歯車段1に割り当てられている。2つのシフトクラッチを有するシフトクラッチパックSK2/6が、前進歯車段2,6に割り当てられている。これに対応して、2つのシフトクラッチを有するシフトクラッチパックSK3/5が、前進歯車段3,5に割り当てられ、シフトクラッチパックSK4/Rが、歯車段4,Rに割り当てられている。
【0070】
シフトクラッチパックSKに設けられたシフトクラッチは、例えば、従来型同期クラッチとして具体化されている。
【0071】
第1の出力シャフト16には、変速機入力から進んで次の順序で、即ち、第1の出力歯車20、前進歯車段2のための遊び歯車、後退歯車段Rのための回転方向逆転歯車28、シフトクラッチパックSK2/6、前進歯車段6のための遊び歯車、シフトクラッチパックSK1、そして前進歯車段1のための遊び歯車が、取り付けられている。
【0072】
これに対応して、第2の出力シャフト18には、変速機入力から進んで次の順序で、即ち、第2の出力歯車22、駐車ロック30、後退歯車段Rのための遊び歯車、シフトクラッチパックSK4/R、前進歯車段4のための遊び歯車、前進歯車段5のための遊び歯車、シフトクラッチパックSK3/5、そして前進歯車段3のための遊び歯車が、取り付けられている。
【0073】
回転方向逆転歯車28と前進歯車段2のための遊び歯車は、互いに回転的に固定状態で連結されている。回転方向逆転歯車28は、第2の出力シャフト18に取り付けられた後退歯車段Rの遊び歯車と軸方向に整列している。これに対応して、駐車ロック30は、第1の駆動出力シャフト16に取り付けられた第2の前進歯車段2のための遊び歯車に軸方向に整列している。
【0074】
加うるに、前進歯車段4,6は、互いに軸方向に整列していて、共通シフト歯車32と噛み合っている。換言すると、前進歯車4,6のデュアルユースが実現されている。
【0075】
変速機10では、前進歯車段1及び後退歯車段Rは、互いに異なる部分変速機に取り付けられており、したがって、互いに異なるクラッチK1,K2に割り当てられている。
【0076】
後退歯車段Rは、前進歯車段2の回転方向逆転歯車28により、即ち、言わば、段付きの2速歯車によって駆動される。この場合、1速歯車の変速比とほぼ同じ変速機を実現することが可能である。
【0077】
駐車ロック30は、前進歯車段2の遊び歯車又はシフト歯車と対向して取り付けられている。
【0078】
1つのデュアルユースが実現されている。前進歯車段1,2は、一方の出力シャフト、即ち、出力駆動シャフト16に取り付けられている。全体として、4つの同期クラッチパックSKが提供されている。
【0079】
前進歯車段1は、短い軸方向間隔を置いて出力シャフト16に取り付けられている。大きなシフト又は遊び歯車直径を備えた歯車段(この実施形態の場合、出力シャフト16に取り付けられた歯車段1,2及び出力シャフト18に取り付けられた歯車段3,R)は、外部では軸方向に配置され、したがって、作動構造体を出力シャフト16,18に半径方向に近接して中間に配置できるようになっている。
【0080】
ツインクラッチ変速機10は、自動変速機として具体化されている。シフトクラッチパックSKは、対応のアクチュエータに連結されている。これに対応して、クラッチK1,K2も又、自動的に作動される。
【0081】
図2に示すように、出力シャフト16は、駆動入力シャフト12までの軸方向間隔S1が、駆動入力シャフト12に対する第2の出力シャフト18の軸方向間隔S2よりも短くなっている。
【0082】
本発明の段階的可変変速機の別の実施形態について以下に説明する。以下に説明する本発明の段階的可変変速機の実施形態は、一般に、図1及び図2の変速機10とほぼ同じ設計のものである。したがって、以下の説明は、図1及び図2の実施形態に対して相違点だけに関する。他の点については、ツインクラッチ変速機10の説明は、以下に説明する実施形態に当てはまる。したがって、同一の要素は、同一の参照符号で示されている。
【0083】
図3は、本発明の第2の実施形態としてのツインクラッチ変速機10aを示している。
【0084】
図3の実施形態では、前進歯車段4,6の歯車列は、互いに軸方向には整列しておらず、したがって、デュアルユースは実現されていない。これは、変速比に関する制約が不要であるという利点を有している。さらに、変速比は、例えば、ガソリン/ディーゼルエンジンの変速機に関してはモジュール方式で可変である。図1のツインクラッチ変速機10と比較して、長さが僅かに増大している。
【0085】
図4は、本発明の別の実施形態としてのツインクラッチ変速機10bを示している。
【0086】
ツインクラッチ変速機10bでは、図1のツインクラッチ変速機10とは対照的に、2つのデュアルユースが実現されている。それにより、正確に言えば、前進歯車段4,6と前進歯車段3,5は、第1の駆動入力シャフト12に取り付けられた固定歯車34を共有している。
【0087】
また、ここでは、駆動出力シャフト16,18に取り付けられた個々の要素の軸方向順序は、変更されている。第1の出力シャフト16には、変速機入力から進んで次の順序で、即ち、第1の出力歯車20、第2の前進歯車段のための遊び歯車、回転方向逆転歯車28、シフトクラッチパックSK2/6、前進歯車段6のための遊び歯車、前進歯車段5のための遊び歯車、シフトクラッチパックSK1/5、そして前進歯車段1のための遊び歯車が、取り付けられている。
【0088】
これに対応して、第2の出力シャフトには、変速機入力から進んで次の順序で、即ち、第2の出力歯車22、駐車ロック30、後退歯車段Rのための遊び歯車、シフトクラッチパックSK4/R、前進歯車段4のための遊び歯車、前進歯車段3のための遊び歯車、そして第3の前進歯車段のためのシフトクラッチパックSK3が、取り付けられている。
【0089】
図5は、本発明の別の実施形態としてのツインクラッチ変速機10cを示している。
【0090】
ツインクラッチ変速機10cは、図1のツインクラッチ変速機10とは対照的に、5つの前進歯車段だけを有している。これは、特に、6つの歯車段を必要としない低コスト車両に有利である。デュアルユースは実現されておらず、したがって、変速比に対する制約は存在しない。
【0091】
第1の出力シャフト16に取り付けられた要素の順序は、次の通りであり、即ち、第1の出力歯車20、前進歯車段2のための遊び歯車、回転方向逆転歯車28、シフトクラッチパックSK2、シフトクラッチパックSK1、そして前進歯車段1のための遊び歯車が、取り付けられている。
【0092】
第2の出力シャフト18には、次の要素が、即ち、第2の出力歯車22、駐車ロック30、後退歯車段Rのための遊び歯車、シフトクラッチパックSK4/R、前進歯車段4のための遊び歯車、前進歯車段5のための遊び歯車、シフトクラッチパックSK3/5、そして第3の前進歯車段のためのシフトクラッチパックSK3が、取り付けられている。
【0093】
図6は、本発明の別の実施形態としてのツインクラッチ変速機10dを示している。
【0094】
ツインクラッチ変速10dは、この場合も又、6つの歯車段を必要としない自動車用の低コスト変速機である。短い全軸方向設置長さが達成される。というのは、特に前進歯車段3,5についてデュアルユースが達成されるからである。
【0095】
第1の出力シャフト16に取り付けられた要素の順序は、次の通りであり、即ち、第1の出力歯車20、前進歯車段2のための遊び歯車、回転方向逆転歯車28、シフトクラッチパックSK2、前進歯車段5のための遊び歯車、シフトクラッチパックSK1/5、そして前進歯車段1のための遊び歯車である。
【0096】
第2の出力シャフト18には、第2の出力歯車22、駐車ロック30、後退歯車段Rのための遊び歯車、シフトクラッチパックSK4/R、前進歯車段4のための遊び歯車、前進歯車段3のための遊び歯車、そしてシフトクラッチパックSK3が、取り付けられている。
【0097】
図7は、本発明の別の実施形態としてのツインクラッチ変速機10eを示している。
【0098】
これも又、6つの歯車段を必要としない自動車用の低コスト変速機である。構成部品の数は、この場合も又、最小限に抑えられている。3つのシフトクラッチパックSKが必要であるに過ぎない。さらに、ツインクラッチ変速機10eは、軸方向に特に短い。というのは、デュアルユースが実現されている(歯車段3,5について)からである。
【0099】
第1の出力シャフト16には、第1の出力歯車20、前進歯車段2のための遊び歯車、回転方向逆転歯車28、シフトクラッチパックSK2/5、そして前進歯車段5のための遊び歯車が、取り付けられている。
【0100】
第2の出力シャフト18には、第2の出力歯車22、駐車ロック30、後退歯車段Rのための遊び歯車、シフトクラッチパックSK4/R、前進歯車段4のための遊び歯車、前進歯車段3のための遊び歯車、シフトクラッチパックSK1/3、そして前進歯車段1のための遊び歯車が、取り付けられている。
【0101】
図8は、本発明の別の実施形態としてのツインクラッチ変速機10fを示している。
【0102】
ツインクラッチ変速機10fは、7歯車変速機として設計され、2つのデュアルユース(歯車段3,5及び歯車段4,6について)を有すると共に下流側に連結された駆動歯車を有している。
【0103】
この変速機は、直列型構造及びフロント横置き構造に適している。
【0104】
第1の出力シャフト16には、第1の出力歯車20、前進歯車段2のための遊び歯車28′(この遊び歯車28′は、同時に、回転方向逆転歯車として働くと共に第2の出力シャフト18に取り付けられている後退歯車段Rの遊び歯車と噛み合う)、シフトクラッチパックSK2/6、前進歯車段6のための遊び歯車、前進歯車段5のための遊び歯車、シフトクラッチパックSK5/7、そして前進歯車段7のための遊び歯車が、取り付けられている。
【0105】
第2の出力シャフト18には、第2の出力歯車22、駐車ロック30、後退歯車段Rのための遊び歯車、シフトクラッチパックSK4/R、前進歯車段4のための遊び歯車、前進歯車段3のための遊び歯車、シフトクラッチパックSK1/3、そして前進歯車段1のための遊び歯車が、取り付けられている。
【0106】
2つの出力歯車20,22は、駆動歯車36と噛み合っており、この駆動歯車は、軸方向にオフセットするよう配置された差動装置26′に連結されている。
【0107】
図9において、自動シフト変速機の第1の実施形態が、全体を符号10gで示されている。
【0108】
自動シフト変速機10gは、歯車列設計に関しては、図1のツインクラッチ変速機10と完全に一致している。相違点は、駆動入力シャフト構造体がたった1つの駆動入力シャフト38を有し、これに前進歯車段1,6のための固定歯車の全てが固定されていることだけである。
【0109】
図10では、本発明のツインクラッチ変速機の別の実施形態が、全体を符号10hで示されている。
【0110】
ツインクラッチ変速機10hは、2シャフト変速機として実現されており、たった1つの出力シャフト40を有し、この出力シャフトは、入力駆動シャフト構造体(同軸状に配置された駆動入力シャフト12,14で構成されている)に平行に整列している。
【0111】
単一の出力シャフト40には、変速機入力から進んで次の順序で、即ち、差動装置26″に連結された第1の出力歯車20″、駐車ロック30″、前進歯車段2のための遊び歯車、シフトクラッチパックSK2/R、後退歯車段Rのための遊び歯車、前進歯車段6のための遊び歯車、シフトクラッチパックSK4/6、前進歯車段4のための遊び歯車、前進歯車段5のための遊び歯車、シフトクラッチパックSK3/5、前進歯車段3のための遊び歯車、シフトクラッチパックSK1、そして前進歯車段1のための遊び歯車が、取り付けられている。
【0112】
後退歯車段Rのための追加の固定歯車44も又、駆動入力シャフト構造体、より具体的に言えば、駆動入力シャフト4に固定されている。この固定歯車は、補助シャフト(副軸)42に取り付けられた回転方向逆転歯車28″と噛み合い状態にある。補助シャフト42は、駆動入力シャフト構造体12,14及び個々の出力シャフト40に平行に配置されている。
【0113】
回転方向逆転歯車28″は、出力シャフト40に取り付けられた後退歯車段Rのための遊び歯車と噛み合っている。
【0114】
デュアルユースが実現されていないので、変速比は、可変である。前進歯車段1及び後退歯車段Rは、別々の部分変速機に割り当てられている。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用の段階的可変変速機(10)であって、前記段階的可変変速機は、複数個の前進歯車段(1,2,3,4・・・)及び少なくとも1つの後退歯車段(R)を有し、前記段階的可変変速機は、
−駆動入力シャフト構造体(12,14;38)と、
−出力シャフト構造体(16,18;40)と、
−遊び歯車及びシフト歯車を含む複数個の歯車列とを有し、前記遊び歯車は、シャフト構造体に回転自在に取り付けられると共にそれぞれのシフトクラッチ(SK)によって関連の前記シャフト構造体に回転的に固定された状態で連結できる、段階的可変変速機。
【請求項2】
前記段階的可変変速機(10)は、ツインクラッチ変速機であり、前記駆動入力シャフト構造体(12,14)は、第1及び第2の部分変速機にそれぞれ割り当てられた第1及び第2の駆動入力シャフト(12,14)を有し、前記第1の部分変速機には、奇数番前進歯車段(1,3,5,・・・)が割り当てられ、前記第2の部分変速機には偶数番歯車段(2,4,・・・)が割り当てられている、請求項1記載の段階的可変変速機。
【請求項3】
主として前記自動車を前進方向に始動させるために用いられる前記前進歯車段(1)及び前記後退歯車段(R)は、別々の部分変速機に割り当てられている、請求項2記載の段階的可変変速機。
【請求項4】
前記駆動入力シャフト構造体(38)は、単一の駆動入力シャフト(38)を有する、請求項1記載の段階的可変変速機。
【請求項5】
前記出力シャフト構造体(16,18)は、前記入力駆動シャフト構造体(12,14;38)と一緒になって、3シャフト構造体を形成する2本の出力シャフト(16,18)を有する、請求項1〜4のうちいずれか一に記載の段階的可変変速機。
【請求項6】
或る特定の前進歯車段(2)は、前記出力シャフト(16,18)のうちの一方の出力シャフト(16)に割り当てられ、前記後退歯車段(R)は、他方の出力シャフト(18)に割り当てられている、請求項5記載の段階的可変変速機。
【請求項7】
前記後退歯車段(R)は、或る特定の前進歯車段(2)を介して駆動される、請求項6記載の段階的可変変速機。
【請求項8】
前記後退歯車段(R)は、前記或る特定の前進歯車段(2)を介して直接(28′)駆動される、請求項7記載の段階的可変変速機。
【請求項9】
前記後退歯車段(R)は、前記或る特定の前進歯車段(2)に割り当てられた歯車列の遊び歯車に回転的に固定された状態で連結された歯車(28)を介して駆動される、請求項7記載の段階的可変変速機。
【請求項10】
駐車ロック(30)が、前記出力シャフト(16,18)のうちの一方(16)に割り当てられている、請求項5〜9のうちいずれか一に記載の段階的可変変速機。
【請求項11】
前記駐車ロック(30)は、他方の出力シャフト(18)の或る特定の前進歯車段(2)に軸方向に整列する、請求項10記載の段階的可変変速機。
【請求項12】
前記或る特定の前進歯車段(2)は、第2の前進歯車段(2)である、請求項6〜11のうちいずれか一に記載の段階的可変変速機。
【請求項13】
一方の部分変速機の前記前進歯車段のうちの2つの前進歯車段(3,5;4,6)は、別々の出力シャフトに割り当てられ、前記2つの前進歯車段(3,5;4,6)は、前記駆動入力シャフト構造体(12,14;38)に取り付けられた共通の固定歯車(34;32)を共有している、請求項2を引用項とする請求項5〜12のうちいずれか一に記載の段階的可変変速機。
【請求項14】
前記2つの部分変速の前記前進歯車段のうちの2つの前進歯車段(3,5;4,6)は、それぞれ、互いに異なる出力シャフトに割り当てられ、前記2つの前進歯車段(3,5;4,6)は、それぞれ、前記駆動入力シャフト構造体(12,14;38)に取り付けられた共通の固定歯車を共有している、請求項2を引用項とする請求項5〜12のうちいずれか一に記載の段階的可変変速機。
【請求項15】
第1の前進歯車段(1)及び第2の速前進歯車段(2)は、前記2本の出力シャフト(16,18)のうちの一方に割り当てられている、請求項5〜14のうちいずれか一に記載の段階的可変変速機。
【請求項16】
第1の前進歯車段(1)は、短いアクスル間隔(S1)を置いて前記出力シャフト(16)に割り当てられている、請求項5〜15のうちいずれか一に記載の段階的可変変速機。
【請求項17】
前記出力シャフト構造体(40)は、単一の出力シャフト(40)を有する、請求項1〜3のうちいずれか一に記載の段階的可変変速機。
【請求項18】
大きなトルクを伝達する前記前進歯車段(1,2,・・・)に割り当てられた歯車列は、前記出力シャフト構造体(16,18;40)の端部のところに配置されている、請求項1〜17のうちいずれか一に記載の段階的可変変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2012−132570(P2012−132570A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−90141(P2012−90141)
【出願日】平成24年4月11日(2012.4.11)
【分割の表示】特願2007−541755(P2007−541755)の分割
【原出願日】平成17年11月11日(2005.11.11)
【出願人】(505152284)ゲットラーク ゲットリーベ ウント ツァーンラトファブリーク ヘルマン ハーゲンマイアー ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング ウント コンパニー コマンディトゲゼルシャフト (21)
【Fターム(参考)】