説明

自動車用の無段変速機

【課題】自動車用無段変速機の静止半プーリの最も近くに配置された軸受けの寿命向上を図る。
【解決手段】自動車用の無段変速機1であって、少なくとも、駆動軸4上に配置されたプライマリープーリー5および従動軸8上に配置されたセカンダリープーリー9であって、これら二つのプーリー5、9のうち少なくとも一つが軸方向に相互に可動の半プーリー6、7、10、11を有する前記二つのプーリーと、前記二つのプーリーの間に備えられた無限伝動要素12と、前記プーリーの片側にある少なくとも一つの軸受け13と、から成る自動車用の無段変速機において、静止半プーリー6、10にもっとも近く配置された軸受け13Aの負荷周波数に大体一致する周波数の部品の調和振動を防止および/または抑制するための手段をも備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用の無段変速機に関する。この変速機は、CVTとも呼ばれる。
【背景技術】
【0002】
公知のように、自動車は無段変速機を備えることができる。無段変速機は、変速比の無段階調節ができるという点で有利である。そのような無段変速機の一例は、特許文献EP 0,487,134号明細書に記載されている。
【0003】
やはり公知のように、そのような変速機は、通常、主として、
駆動軸上に配置されたプライマリープーリーおよび従動軸(或いは被動軸)に配置されたセカンダリープーリーであって、これら二つのプーリーのうち少なくとも一つが軸方向に相互に可動の半プーリー(pulley half)を有する前記二つのプーリー、
前記二つのプーリーの間に備えられた無限伝動要素、
少なくとも一つのプーリーの半プーリーの間の軸方向距離を変えるための手段、
から成る。
【0004】
駆動軸と従動軸とは、無段変速機を包囲するハウジング内に軸受け取りつけされている。
【0005】
この目的のために、通常、一軸あたり二つの軸受けが備えられ、これらの軸受けは、軸に付随するプーリーのそれぞれの側に一つずつ備えられる。
【0006】
この目的のために、プーリーに対する軸受けの位置における予想負荷に応じて、通常、玉軸受け、円筒ころ軸受け、および/または針状ころ軸受けが備えられる。
【0007】
問題は、軸受けのうちの一つ、特に、駆動軸または従動軸のどちらかで、固定または静止半プーリーのもっとも近くに配置されている軸受けが、早すぎる摩耗または破断を起こし、その結果、自動車用の無段変速機に早すぎる故障が起こるということである。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は、前記その他の欠点を排除し、静止半プーリーのもっとも近くに配置される軸受けに対して、少なくとも標準的な寿命期間が保証できるような無段変速機を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
前記目的に応じて、本発明は、
自動車用の無段変速機であって、少なくとも、
駆動軸上に配置されたプライマリープーリーおよび従動軸上に配置されたセカンダリープーリーであって、これら二つのプーリーのうち少なくとも一つが軸方向に相互に可動の半プーリーを有する前記二つのプーリーと、
前記二つのプーリーの間に備えられた無限伝動要素と、
前記プーリーの片側にある少なくとも一つの軸受けと、
から成る自動車用の無段変速機において、
静止半プーリーにもっとも近く配置された軸受けの負荷周波数に一致する周波数の部品の調和振動を防止および/または抑制するための手段をも備えている、
ことを特徴とする無段変速機、
に関する。
【0010】
特に、本発明は、無限伝動要素によるかまたはこれによらず、固定または静止半プーリーのもっとも近くに配置された軸受けに連結される可動部品の振動の高調波に関する。
【0011】
前記部品の振動の高調波の周波数は、その寸法に依存し、特にこれらの部品が連結されている軸の回転速度にも依存する。
【0012】
ある特定の回転速度および/またはある特定の変速比の場合、振動が発生することがあり、それらのうち、たとえば三次のものは、静止半プーリーのもっとも近くに配置されている軸受けが受ける動負荷の周波数に一致する高調波周波数を有する。
【0013】
この変動負荷の起源は、前記プーリー上の、したがって前記軸上の無限伝動要素によって及ぼされる半径方向の大きな力である。
【0014】
その結果、静止半プーリーのもっとも近くに配置された軸受けは、半径方向の負荷の向きに対するころ要素の位置に依存して、負荷を受けるころ要素の数によって決定され、常に変動するような負荷を受ける。玉軸受けの場合、半径方向の力を主として吸収する玉の数が変化し、ここで、負荷伝達に関与する玉の数は、時間経過に対して一玉ずつ変化する。言い換えると、負荷伝達において、NおよびN+1個の玉が交互に関与する。
【0015】
明らかに、軸受けはこのようにして交互に負荷を受け、この交互負荷の周波数は、特に当該軸受けのパラメータに依存し、また当然、当該軸の回転速度にも依存する。
【0016】
当該軸受けの前記動負荷の周波数は、通常、軸受けの負荷周波数と呼ばれる。
【0017】
研究によれば、調和振動の発生源と考えることができるのは、その周波数が、軸の回転速度とのある組合せにおいて、軸受けの変動負荷のそのときの周波数に一致するものである。
【0018】
これらの調和振動は、場合によっては無限伝動要素により、調和変動負荷に重ねられる。
【0019】
研究によれば、この現象は共振を引起しうるものであり、この共振は、静止半プーリーのもっとも近くに配置された軸受けの早すぎる損傷および/または破断の原因となりうるものである。
【0020】
したがって、本発明によって提供されうる手段は、さまざまなものであるが、すべて、前記重なりを防止または低減させるという考えにもとづくものである。
【0021】
公知のように、無段変速機における可変変速比は、二つのプーリーの少なくとも一つに、軸方向に相互に可動の半プーリーを備えることによって、得ることができる。
【0022】
この目的のために、通常、半プーリーは軸上に動くように備えられる。そのために、この半プーリーは、軸上に押してはめることのできるブッシュに備えられ、この軸とブッシュには、対向する長さ方向の溝が備えられ、これらの溝は一緒に、玉の走路を形成する。この走路内には、半プーリーが前後に動くことを可能にする玉が備えられる。
【0023】
通常、一つの半プーリーあたり三つの玉走路が備えられ、これらの玉走路は、当然、120゜の相互角度ずれがあるように備えられる。
【0024】
しかし、意外にも本発明においては、これらの玉走路は、その数によらず、不同の相互角度ずれがあるように備えられる。
【0025】
三つの玉走路の場合、これらは、たとえば、順次に110゜、120゜、および130゜の相互角度ずれを有するように備えられる。
【0026】
最後に、やはり本発明で可能なことは、システムを制動することによって、特に、より柔軟なベルトの使用により、または減衰材料を備えたベルトを使用することにより、エネルギーを放出することによって、振動を抑制することである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0027】
以下、本発明の特徴がさらに十分に理解されるように、好ましい実施形について、限定を意図しない単なる例として、添付の図面を参照しつつ、説明する。
【0028】
図1と2に示すように、本発明は、自動車用の無段変速機またはCVT 1に関するものであり、該変速機は、公知のように、自動車のエンジン2と自動車の従動輪3との間に取りつけられる。当然、これらの間には、他の要素、たとえばトルクコンバータ、制限(limiting)クラッチ、逆転装置、その他も存在しうるが、簡明なように、図1には示していない。
【0029】
図に示すように、無段変速機1は、軸方向に動かない半プーリー6と軸方向に可動の半プーリー7とを備えた駆動軸4上に配置されたプライマリープーリー5、やはり軸方向に動かない半プーリー10と軸方向に可動の半プーリー11とを備えた従動軸8上に配置されたセカンダリープーリー9、プーリー5と9との間に備えられた無限伝動要素12たとえばベルト、および、各プーリー5と9の片側にある軸受け13を有しており、ここで、プライマリープーリー5の軸方向に動かない半プーリー6の近くの軸受け13Aとこの半プーリー6との距離は、この実施形態の場合、それぞれの半プーリーと他の軸受けとの距離に比して、小さい。
【0030】
軸方向に可動の半プーリー7と11とは、それぞれ軸4、8に押しばめすることのできるブッシュ14上に備えられる。軸4と8との両方には、溝15が備えられ、またこれらに対応して、ブッシュ14には、対向する長さ方向溝16が備えられている。
【0031】
したがって、それぞれの対向溝対は玉走路17を形成し、該走路内には、玉18が備えられ、これらの玉は、半プーリー7と11のそれぞれの軸4と8に対する前後運動を容易にする。
【0032】
本発明においては、セカンダリープーリー9の玉走路17は、不同の相互角度ずれで備えられる。ここに示す実施形態の場合、第二の玉走路17は、第一の玉走路17に対して、110゜のところにあり、一方、第三の玉走路17は、第二の玉走路17に対して130゜のところにあり、したがって第一の玉走路17と第三の玉走路17との相互角度ずれは120゜である。
【0033】
図3は、セカンダリープーリー9の玉走路17の相互角度ずれを示す断面図である。
【0034】
明らかに、場合によっては不均一に分布した他の質量点(mass points)を、この無段変速機の軸と一緒に回転する1つ以上の部品上に備えることもできる。
【0035】
別の好ましい実施形態においては、運動部品に起因する任意の可能な調和振動を防止および/または抑制する手段が、減衰手段から成る。これらの手段は、別種のエネルギー放出手段から成ることができ、たとえば、より柔軟性の高いベルト12もしくは減衰材料を備えたベルトを使用することによって、または、部品たとえば無段変速機1のハウジングの製造に減衰材料を使用することによって、エネルギーを放出する他の手段から成ることができる。
【0036】
本発明は、添付の図面に示し、上で例として説明した実施形態のみに限定されるものではなく、逆に、本発明の無段変速機は、本発明の範囲を逸脱することのない、あらゆる形状と寸法とで具体化することができる。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】本発明の無段変速機の断面を模式的に示す。
【図2】図1にF2で示す部分の拡大図である。
【図3】図2の線III−IIIに沿う断面である。
【符号の説明】
【0038】
1 無段変速機
2 エンジン
3 従動輪
4 駆動軸
5 プライマリープーリー
6 軸方向に動かない半プーリー
7 軸方向に可動の半プーリー
8 従動軸
9 セカンダリープーリー
10 軸方向に動かない半プーリー
11 軸方向に可動の半プーリー
12 無限伝動要素
13 軸受け
13A 軸受け
14 ブッシュ
15 溝
16 溝
17 玉走路
18 玉

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車用の無段変速機であって、少なくとも、
駆動軸(4)上に配置されたプライマリープ―リー(5)および従動軸(8)上に配置されたセカンダリープーリー(9)であって、これら二つのプーリー(5、9)のうち少なくとも一つが軸方向に相互に可動の半プーリー(6、7、10、11)を有する前記二つのプーリーと、
前記二つのプーリーの間に備えられた無限伝動要素(12)と、
前記プーリーの片側にある少なくとも一つの軸受け(13)と、
から成る自動車用の無段変速機において、
静止半プーリー(6、10)にもっとも近く配置された軸受け(13A)の負荷周波数に大体一致する周波数の部品の調和振動を防止および/または抑制するための手段をも備えている、
ことを特徴とする無段変速機(1)。
【請求項2】
軸受け(13A)の負荷周波数に大体一致する周波数の部品の調和振動を防止および/または抑制するための手段が、軸(4、8)とともに回転する部品上に一つ以上の質量点を備えることから成り、また一つよりも多くの質量点が備えられる場合、それらが不同の相互角度ずれで備えられることから成ることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機。
【請求項3】
半プーリー(6、7、10、11)の少なくとも一つを、軸(4、8)上を軸方向に動かすことができ、該軸(4、8)にそのための溝(15)が備えられ、
また、これに対応して、前記半プーリー(6、7、10、11)に、対向する長さ方向の溝(16)が備えられ、前記溝(15-16)が対になって、玉(18)が備えられる玉走路(17)を形成し、
ここで、軸受け(13A)の負荷周波数に大体一致する周波数の部品の調和振動を防止および/または抑制するための手段が、前記玉走路(17)を不同の相互角度ずれで備えることから成る、
ことを特徴とする請求項1に記載の無段変速機。
【請求項4】
軸受け(13A)の負荷周波数に大体一致する周波数の部品の調和振動を防止および/または抑制するための前記手段が、主として減衰手段から成ることを特徴とする請求項1に記載の無段変速機。
【請求項5】
当該減衰手段が、エネルギーを放出または吸収する減衰材料製の部品から成るか、またはエネルギーを放出または吸収する減衰材料を備えた部品から成ることを特徴とする請求項4に記載の無段変速機。
【請求項6】
当該減衰手段が柔軟なベルト(12)から成ることを特徴とする請求項4に記載の無断変速機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−309518(P2007−309518A)
【公開日】平成19年11月29日(2007.11.29)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2007−130339(P2007−130339)
【出願日】平成19年5月16日(2007.5.16)
【出願人】(507160621)パンチ パワートレイン,ナームローゼ フェンノートシャップ (1)
【Fターム(参考)】