自動車用の空調装置
【課題】電動コンプレッサの停止直後の再起動に大出力のモータを必要とせず、バッテリの消耗を来たさないものとする。
【解決手段】電動コンプレッサ20の前回停止後、コンプレッサ駆動判定部3が駆動要のオン信号を出力したとき、差圧判定部4が停止時からの経過時間が所定時間以下の場合、差圧が残存すると判定し、目標速度設定部6が目標回転速度をゼロとする。経過時間が所定時間を越えたときに差圧が低下したとして目標回転速度を通常制御値にすることにより、コンプレッサ駆動信号出力部8が電動コンプレッサを駆動する信号を出力する。通常起動可能な負荷レベルになってから駆動するので、小型のモータで安定した再起動ができる。また、電動コンプレッサの駆動を遅延させている間、ファン駆動信号出力部9がブロアファン11を駆動させるので、車室内に冷風を供給して快適性を確保する。
【解決手段】電動コンプレッサ20の前回停止後、コンプレッサ駆動判定部3が駆動要のオン信号を出力したとき、差圧判定部4が停止時からの経過時間が所定時間以下の場合、差圧が残存すると判定し、目標速度設定部6が目標回転速度をゼロとする。経過時間が所定時間を越えたときに差圧が低下したとして目標回転速度を通常制御値にすることにより、コンプレッサ駆動信号出力部8が電動コンプレッサを駆動する信号を出力する。通常起動可能な負荷レベルになってから駆動するので、小型のモータで安定した再起動ができる。また、電動コンプレッサの駆動を遅延させている間、ファン駆動信号出力部9がブロアファン11を駆動させるので、車室内に冷風を供給して快適性を確保する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車やハイブリッド電気自動車の空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の駆動源として電動モータを使用または併用する電気自動車やハイブリッド電気自動車では、空調装置の冷媒圧縮に用いるコンプレッサもモータで駆動される。
このような電動コンプレッサはエバポレータで熱を奪って気化した低温、低圧の冷媒ガスを、吸入・圧縮して高温、高圧のガスとしてコンデンサへ吐出するので、その吸入口と吐出口の間には圧力差(差圧)が発生する。
電動コンプレッサは、空調装置の電源のオン/オフにしたがって駆動/停止を繰り返すこととなるが、運転状態から停止状態になった直後は、電動コンプレッサの吸入口と吐出口の間には差圧残存することになる。
【0003】
これは、手動による空調装置のオン/オフの場合だけでなく、空調装置作動中における自動制御によって電動コンプレッサが運転/停止される場合にも同様である。
例えばエバポレータの過冷却時の凍結回避のために、エバポレータの出口温度が2℃に低下すると電動コンプレッサを停止させ、出口温度が3.5℃に上昇すると電動コンプレッサを再起動させる場合、停止から再起動までの時間は10秒程度であり、電動コンプレッサの駆動/停止の頻度は比較的大きい上、短時間の停止では差圧の解消は困難である。
【0004】
この差圧がある状態で電動コンプレッサを再起動するには、差圧がない状態での起動時よりも大きな駆動トルクが必要となる。
この対策として、例えば特開2006−29342号公報には、電動コンプレッサの吸入口と吐出口の間に差圧がある場合には、通常よりもモータに印加する電圧値を大きくするとともに、モータに流れる電流閾値を高くする技術が開示されている。
【特許文献1】特開2006−29342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特開2006−29342号公報に開示されたような技術では、大きなトルクを得るために通常運転では不要な大出力のモータを必要とするので、モータが大型化せざるを得ない。
しかも、大きな起動電圧、電流を必要とするとともに、自動車の空調ではコンプレッサの運転/停止の頻度が大きいため、バッテリの消耗を来たしていわゆる燃費低下を招くという問題がある。
【0006】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑み、モータの小型化が可能で、バッテリの消耗を招かない自動車用の空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の空調装置は、電動コンプレッサの駆動/停止の要否を判断するコンプレッサ駆動判定部と、電動コンプレッサの吸入口と吐出口の間の差圧を判定する差圧判定手段を備え、電動コンプレッサの駆動判定時に、当該電動コンプレッサに所定値を越える差圧があるときには、差圧が前記所定値以下になるまで電動コンプレッサの駆動を遅延させる制御手段を有するものとした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電動コンプレッサの停止から短時間内の再起動で差圧が残存している場合でも、差圧が減少するまで待つことにより、差圧に対抗して大きなトルクを得る大出力、大型のモータを必要とせず安定した再起動ができ、したがってまた、バッテリの消耗を来たしていわゆる燃費低下を招くということもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明の実施の形態について説明する。
図1は駆動源としてエンジンと電動モータを併用するハイブリッド電気自動車に適用した実施の形態における空調装置のブロック図である。
空調装置ACは、自動車の車室内に配置した空気ダクト10内に、ブロワファン11、エバポレータ12、ヒータコア13が設置され、第1切換弁15で選択される室内空気または室外空気がブロワファン11により吸い込まれてエバポレータ12を通過する。エバポレータ12を通過した空気のうちヒータコア13を通過させる量を第2切換弁16で調節して全体として適温となった空気を、乗員が操作する吹出しモードに応じて第3切換弁17や第4切換弁18により、足元(Foot)、顔面(Face)あるいは除霜(Def)方向に吹出すようになっている。
図中、太矢印は空気ダクト10内の空気の流れを示す。
【0010】
エバポレータ12は、車室外のエンジンルームに設置された電動コンプレッサ20およびコンデンサ25に配管27で接続され、冷媒の循環系統を形成している。とくに図示しないが、ヒータコア13にはエンジンの冷却水が通流するように構成されている。
電動コンプレッサ20は圧縮機構部21とモータ22とからなり、モータ22には三相交流モータを用いて、これを駆動制御するインバータ23を含む。
【0011】
空調制御部1には、乗員が操作して目標室内温度等を設定可能な空調操作部2が接続され、実際の室内温度(以下、実室内温度)や、エバポレータ12やコンデンサ25を通過する前後の空気温度、冷媒の循環系統内諸部位の圧力等の情報がパラメータ信号として入力される。空調制御部1はこれらの情報に基づいて、実室内温度が乗員が設定した目標室内温度になるように、冷媒の流量等を制御し、またブロワファン11および電動コンプレッサ20を制御する。
【0012】
図2は、空調制御部1における、ブロワファン11および電動コンプレッサ20にかかる制御回路部分の構成を示すブロック図である。
制御回路部分は、コンプレッサ駆動判定部3、差圧判定部4、制御部5、コンプレッサ駆動信号出力部8、およびファン駆動信号出力部9、および空調制御部1に内蔵のタイマ30とからなる。
コンプレッサ駆動判定部3は、空調操作部2の乗員操作により空調装置ACがオンされたときは電動コンプレッサ20を駆動すべき旨のオン信号を出力し、空調装置ACがオフされたときは電動コンプレッサ20を停止させるべき旨のオフ信号を出力する。また、空調装置ACの作動中においても、前述したエバポレータ12の過冷却時の凍結回避や、その他、急加速や登坂時にバッテリ電力を走行動力に優先的に配分する際には、割り込み制御によって電動コンプレッサ20のオフ信号を出力する。
【0013】
制御部5は、コンプレッサ駆動判定部3から電動コンプレッサ20のオン信号が出力されている場合のその目標回転速度を設定する目標速度設定部6と、目標室内温度と実際の車室内温度の関係に基づいてブロワファン11の駆動の要否を判断するファン駆動判定部7とからなる。
目標速度設定部6は、空調装置が本来備えているもので、目標室内温度と実室内温度を比較して、実室内温度が目標室内温度になるように例えばPI制御などにより目標回転速度を設定する。
【0014】
コンプレッサ駆動信号出力部8は目標速度設定部6の出力に基づいて、電動コンプレッサ20(モータ22)の駆動信号をインバータ23へ出力する。ここでは、例えば速度制御、電流制御、ベクトル制御あるいは位置センサレス制御等、任意の制御方式により、目標回転速度に追従するようモータ22の回転数が制御されることになる。
ファン駆動信号出力部9はファン駆動判定部7の判断結果に基づいてブロワファン11へ駆動信号を出力する。
【0015】
差圧判定部4は、電動コンプレッサ20(圧縮機構部21)の吸入口21aと吐出口21bの間に所定値を越える差圧が残存しているかどうかを判定する。ここでの所定値は、大きな駆動トルク制御を必要とせずに通常起動可能な負荷レベルに相当する圧力差を意味する。
吸入口21aと吐出口21bの各圧力を直接測定してもよいが、ここでは、空調制御部1に内蔵のタイマ30を用いて、電動コンプレッサ20が停止してからの経過時間が所定時間To以下であれば差圧が残存しており、経過時間が所定時間Toを越えていれば差圧なしと判定する。この所定時間Toは例えば60秒など、あらかじめ実験測定することにより自動車の機種ごとに精度良く設定することができる。
【0016】
目標速度設定部6では、電動コンプレッサ20の再起動時に差圧が残存(差圧が所定値を越える)している場合には、電動コンプレッサ20の目標回転速度をゼロ(0)に設定し、これにより電動コンプレッサ20は実質起動が遅延される。そして、差圧なし(所定値以下)となってから、通常制御による目標回転速度に切り換え、再起動を行う。
また、ファン駆動判定部7では、コンプレッサ駆動判定部3から電動コンプレッサ20のオン信号が出力されると同時にブロワファン11の駆動要の信号をファン駆動信号出力部9へ出力する。これにより、電動コンプレッサ20が起動されなくても直ちにブロワファン11は駆動開始される。
【0017】
図3は上記構成による空調制御部1における制御の流れを示すフローチャートである。
制御は、乗員による空調操作部2の操作に基づいて、空調装置ACがオンされ、コンプレッサ駆動判定部3がオン信号を出力して電動コンプレッサ20が駆動されている状態から開始する。
まずステップ100において、差圧判定部4はコンプレッサ駆動判定部3からオフ信号が出力されたかどうかをチェックする。
コンプレッサ駆動判定部3からオン信号が出力されている間は、ステップ100を繰り返し、コンプレッサ駆動判定部3からオフ信号が出力されるとステップ101へ進む。
ステップ101では、差圧判定部4がタイマ30をスタートさせる。
【0018】
それからステップ102において、コンプレッサ駆動判定部3からオン信号が出力されたかどうかをチェックする。
コンプレッサ駆動判定部3からオフ信号が出力されている間は、ステップ102を繰り返し、コンプレッサ駆動判定部3からオン信号が出力されるとステップ103へ進む。
ステップ103では、差圧判定部4はタイマ30のカウントが所定時間Toを越えているかどうかをチェックする。
タイマ30のカウントが所定時間To以下、すなわち、コンプレッサ駆動判定部3からオフ信号が出力されてからの経過時間が所定時間To以下の場合には、差圧判定部4が電動コンプレッサ20に差圧が残存している旨の信号を制御部5へ送出して、ステップ104へ進む。
【0019】
ステップ104では、差圧残存の信号を受けて、目標速度設定部6が目標回転速度をゼロ(0)に設定するとともに、ステップ105において、ファン駆動判定部7はブロワファン11の駆動要のオン信号を出力する。
コンプレッサ駆動信号出力部8は、目標回転速度がゼロの場合、インバータ23へ駆動信号を出力しない。これにより、電動コンプレッサ20は実質的に起動されないまま、停止状態を継続する。
一方、ファン駆動信号出力部9は駆動信号を出力してブロワファン11を駆動開始する。
電動コンプレッサ20が停止した状態ではエバポレータ12に新たな冷媒は供給されないが、電動コンプレッサ20の停止後しばらくはエバポレータ12の冷状態が続いているので、ブロワファン11の駆動により車室内には冷風が供給される。
【0020】
このあと、ステップ106において、差圧判定部4はタイマ30のカウントが所定時間Toを越えているかどうかをチェックする。
タイマ30のカウントが所定時間To以下の場合には、ステップ104へ戻る。
タイマ30のカウントが所定時間Toを越えているときは、差圧判定部4が電動コンプレッサ20に差圧が残存していない旨の信号を制御部5へ送出して、ステップ107へ進む。
ステップ107では、目標速度設定部6では、目標回転速度を通常制御値に設定する。
コンプレッサ駆動信号出力部8は目標速度設定部6の出力する目標回転速度に基づいて、駆動信号をインバータ23へ出力するから、これにより、電動コンプレッサ20は目標回転速度に追随するように再起動され、回転駆動される。
【0021】
ステップ107と同時にステップ108で、ファン駆動判定部7は通常制御に基づいてブロワファン11の駆動要否の信号を出力する。
ファン駆動信号出力部9は駆動要否の信号に基づいてブロワファン11を駆動しあるいは停止状態を保持する。
このあと、ステップ100へ戻る。
ステップ103のチェックでタイマ30のカウントが所定時間Toを越えているときは、直接ステップ107へ進む。
【0022】
上述の制御処理により、図4の(a)に示すように、時刻t0にコンプレッサ駆動判定部3からオフ信号が出力されて前回電動コンプレッサ20が停止したあと、所定時間To経過した時刻t2より前の時刻t1に、コンプレッサ駆動判定部3からオン信号が出力されたときには、目標回転速度は通常制御に基づく値ではなく、時刻t1後もゼロを継続する。
そして、時刻t2に至ってはじめて目標回転速度が通常制御に基づく値(通常制御値)に設定されて、電動コンプレッサ20が駆動されることになる。
【0023】
この間、図4の(b)に示すように、電動コンプレッサ20における差圧は、前回電動コンプレッサ20が停止した時刻t0から低下し始めて、所定時間Toを経て時刻t2において通常起動可能な負荷レベルに相当する値となる。なお、時刻t2で電動コンプレッサ20が駆動されるため、このあとは図示のとおり差圧は増大していく。
【0024】
また、時刻t0から所定時間Toを経過した時刻t2より後の時刻t3に、コンプレッサ駆動判定部3からオン信号が出力されたときには、図5に示すように、目標回転速度は通常制御に基づく値に設定され、時刻t3において直ちに電動コンプレッサ20は駆動される。
【0025】
本実施の形態では、空調制御部1における図3のフローチャートのステップ101、103、106の処理を実行する機能部分が発明における差圧判定手段を構成し、ステップ104、105、107、108の処理を実行する機能部分が制御手段を構成している。
【0026】
実施の形態は以上のように構成され、冷媒を電動コンプレッサ20で循環させて、冷媒と熱交換した空気をブロアファン11で車室内に吹出す自動車用の空調装置において、
電動コンプレッサ20の駆動/停止の要否を判定するコンプレッサ駆動判定部3が駆動を示すオン信号を出力したときに、電動コンプレッサ20の吸入口21aと吐出口21bの間に所定値を越える差圧があるときには、差圧が所定値以下になるまで電動コンプレッサ20の駆動を遅延させるものとしたので、差圧に対抗して大きなトルクを得る大出力、大型のモータを必要とせず安定した再起動ができ、したがってまた、バッテリの消耗を来たしていわゆる燃費低下を招くということもない。
【0027】
とくに、差圧の判定については、電動コンプレッサ20の前回停止時からの経過時間が所定時間を越えたとき、差圧が上記所定値以下になったものと判定するので、電動コンプレッサ20の吸入口21aと吐出口21bのそれぞれにコスト増大させる圧力センサを設ける必要がなく、簡素で低コストが実現される。
また、電動コンプレッサ20駆動の遅延は、具体的には電動コンプレッサのモータ22の目標回転速度をゼロに設定することにより行うので、空調装置が本来備えている目標速度設定部6を利用できるので、この点でも簡素で低コストが実現される。
【0028】
さらに、電動コンプレッサ20の駆動を遅延させている間、ブロアファン11を駆動させるので、電動コンプレッサ20の停止直後で冷状態にあるエバポレータ12を有効活用して、車室内には冷風を供給することができ、快適性が確保される。
【0029】
なお、実施の形態では電動コンプレッサ20のモータを三相交流モータとしてインバータで駆動するものとしたが、これに限定されず、本発明は、直流モータを使用する電動コンプレッサを備える空調装置にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施の形態における空調装置のブロック図である。
【図2】空調制御部の構成を示すブロック図である。
【図3】空調制御部における制御の流れを示すフローチャートである。
【図4】制御過程における目標回転速度および差圧の変化を示すタイムチャートである。
【図5】制御過程における目標回転速度の変化を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0031】
AC 空調装置
1 空調制御部
2 空調操作部
3 コンプレッサ駆動判定部
4 差圧判定部
5 制御部
6 目標速度設定部
7 ファン駆動判定部
8 コンプレッサ駆動信号出力部
9 ファン駆動信号出力部
10 空気ダクト
11 ブロワファン
12 エバポレータ
13 ヒータコア
20 電動コンプレッサ
21 圧縮機構部
21a 吸入口
21b 吐出口
22 モータ
23 インバータ
25 コンデンサ
30 タイマ
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気自動車やハイブリッド電気自動車の空調装置に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車の駆動源として電動モータを使用または併用する電気自動車やハイブリッド電気自動車では、空調装置の冷媒圧縮に用いるコンプレッサもモータで駆動される。
このような電動コンプレッサはエバポレータで熱を奪って気化した低温、低圧の冷媒ガスを、吸入・圧縮して高温、高圧のガスとしてコンデンサへ吐出するので、その吸入口と吐出口の間には圧力差(差圧)が発生する。
電動コンプレッサは、空調装置の電源のオン/オフにしたがって駆動/停止を繰り返すこととなるが、運転状態から停止状態になった直後は、電動コンプレッサの吸入口と吐出口の間には差圧残存することになる。
【0003】
これは、手動による空調装置のオン/オフの場合だけでなく、空調装置作動中における自動制御によって電動コンプレッサが運転/停止される場合にも同様である。
例えばエバポレータの過冷却時の凍結回避のために、エバポレータの出口温度が2℃に低下すると電動コンプレッサを停止させ、出口温度が3.5℃に上昇すると電動コンプレッサを再起動させる場合、停止から再起動までの時間は10秒程度であり、電動コンプレッサの駆動/停止の頻度は比較的大きい上、短時間の停止では差圧の解消は困難である。
【0004】
この差圧がある状態で電動コンプレッサを再起動するには、差圧がない状態での起動時よりも大きな駆動トルクが必要となる。
この対策として、例えば特開2006−29342号公報には、電動コンプレッサの吸入口と吐出口の間に差圧がある場合には、通常よりもモータに印加する電圧値を大きくするとともに、モータに流れる電流閾値を高くする技術が開示されている。
【特許文献1】特開2006−29342号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特開2006−29342号公報に開示されたような技術では、大きなトルクを得るために通常運転では不要な大出力のモータを必要とするので、モータが大型化せざるを得ない。
しかも、大きな起動電圧、電流を必要とするとともに、自動車の空調ではコンプレッサの運転/停止の頻度が大きいため、バッテリの消耗を来たしていわゆる燃費低下を招くという問題がある。
【0006】
そこで本発明は、上記従来の問題点に鑑み、モータの小型化が可能で、バッテリの消耗を招かない自動車用の空調装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の空調装置は、電動コンプレッサの駆動/停止の要否を判断するコンプレッサ駆動判定部と、電動コンプレッサの吸入口と吐出口の間の差圧を判定する差圧判定手段を備え、電動コンプレッサの駆動判定時に、当該電動コンプレッサに所定値を越える差圧があるときには、差圧が前記所定値以下になるまで電動コンプレッサの駆動を遅延させる制御手段を有するものとした。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、電動コンプレッサの停止から短時間内の再起動で差圧が残存している場合でも、差圧が減少するまで待つことにより、差圧に対抗して大きなトルクを得る大出力、大型のモータを必要とせず安定した再起動ができ、したがってまた、バッテリの消耗を来たしていわゆる燃費低下を招くということもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
次に本発明の実施の形態について説明する。
図1は駆動源としてエンジンと電動モータを併用するハイブリッド電気自動車に適用した実施の形態における空調装置のブロック図である。
空調装置ACは、自動車の車室内に配置した空気ダクト10内に、ブロワファン11、エバポレータ12、ヒータコア13が設置され、第1切換弁15で選択される室内空気または室外空気がブロワファン11により吸い込まれてエバポレータ12を通過する。エバポレータ12を通過した空気のうちヒータコア13を通過させる量を第2切換弁16で調節して全体として適温となった空気を、乗員が操作する吹出しモードに応じて第3切換弁17や第4切換弁18により、足元(Foot)、顔面(Face)あるいは除霜(Def)方向に吹出すようになっている。
図中、太矢印は空気ダクト10内の空気の流れを示す。
【0010】
エバポレータ12は、車室外のエンジンルームに設置された電動コンプレッサ20およびコンデンサ25に配管27で接続され、冷媒の循環系統を形成している。とくに図示しないが、ヒータコア13にはエンジンの冷却水が通流するように構成されている。
電動コンプレッサ20は圧縮機構部21とモータ22とからなり、モータ22には三相交流モータを用いて、これを駆動制御するインバータ23を含む。
【0011】
空調制御部1には、乗員が操作して目標室内温度等を設定可能な空調操作部2が接続され、実際の室内温度(以下、実室内温度)や、エバポレータ12やコンデンサ25を通過する前後の空気温度、冷媒の循環系統内諸部位の圧力等の情報がパラメータ信号として入力される。空調制御部1はこれらの情報に基づいて、実室内温度が乗員が設定した目標室内温度になるように、冷媒の流量等を制御し、またブロワファン11および電動コンプレッサ20を制御する。
【0012】
図2は、空調制御部1における、ブロワファン11および電動コンプレッサ20にかかる制御回路部分の構成を示すブロック図である。
制御回路部分は、コンプレッサ駆動判定部3、差圧判定部4、制御部5、コンプレッサ駆動信号出力部8、およびファン駆動信号出力部9、および空調制御部1に内蔵のタイマ30とからなる。
コンプレッサ駆動判定部3は、空調操作部2の乗員操作により空調装置ACがオンされたときは電動コンプレッサ20を駆動すべき旨のオン信号を出力し、空調装置ACがオフされたときは電動コンプレッサ20を停止させるべき旨のオフ信号を出力する。また、空調装置ACの作動中においても、前述したエバポレータ12の過冷却時の凍結回避や、その他、急加速や登坂時にバッテリ電力を走行動力に優先的に配分する際には、割り込み制御によって電動コンプレッサ20のオフ信号を出力する。
【0013】
制御部5は、コンプレッサ駆動判定部3から電動コンプレッサ20のオン信号が出力されている場合のその目標回転速度を設定する目標速度設定部6と、目標室内温度と実際の車室内温度の関係に基づいてブロワファン11の駆動の要否を判断するファン駆動判定部7とからなる。
目標速度設定部6は、空調装置が本来備えているもので、目標室内温度と実室内温度を比較して、実室内温度が目標室内温度になるように例えばPI制御などにより目標回転速度を設定する。
【0014】
コンプレッサ駆動信号出力部8は目標速度設定部6の出力に基づいて、電動コンプレッサ20(モータ22)の駆動信号をインバータ23へ出力する。ここでは、例えば速度制御、電流制御、ベクトル制御あるいは位置センサレス制御等、任意の制御方式により、目標回転速度に追従するようモータ22の回転数が制御されることになる。
ファン駆動信号出力部9はファン駆動判定部7の判断結果に基づいてブロワファン11へ駆動信号を出力する。
【0015】
差圧判定部4は、電動コンプレッサ20(圧縮機構部21)の吸入口21aと吐出口21bの間に所定値を越える差圧が残存しているかどうかを判定する。ここでの所定値は、大きな駆動トルク制御を必要とせずに通常起動可能な負荷レベルに相当する圧力差を意味する。
吸入口21aと吐出口21bの各圧力を直接測定してもよいが、ここでは、空調制御部1に内蔵のタイマ30を用いて、電動コンプレッサ20が停止してからの経過時間が所定時間To以下であれば差圧が残存しており、経過時間が所定時間Toを越えていれば差圧なしと判定する。この所定時間Toは例えば60秒など、あらかじめ実験測定することにより自動車の機種ごとに精度良く設定することができる。
【0016】
目標速度設定部6では、電動コンプレッサ20の再起動時に差圧が残存(差圧が所定値を越える)している場合には、電動コンプレッサ20の目標回転速度をゼロ(0)に設定し、これにより電動コンプレッサ20は実質起動が遅延される。そして、差圧なし(所定値以下)となってから、通常制御による目標回転速度に切り換え、再起動を行う。
また、ファン駆動判定部7では、コンプレッサ駆動判定部3から電動コンプレッサ20のオン信号が出力されると同時にブロワファン11の駆動要の信号をファン駆動信号出力部9へ出力する。これにより、電動コンプレッサ20が起動されなくても直ちにブロワファン11は駆動開始される。
【0017】
図3は上記構成による空調制御部1における制御の流れを示すフローチャートである。
制御は、乗員による空調操作部2の操作に基づいて、空調装置ACがオンされ、コンプレッサ駆動判定部3がオン信号を出力して電動コンプレッサ20が駆動されている状態から開始する。
まずステップ100において、差圧判定部4はコンプレッサ駆動判定部3からオフ信号が出力されたかどうかをチェックする。
コンプレッサ駆動判定部3からオン信号が出力されている間は、ステップ100を繰り返し、コンプレッサ駆動判定部3からオフ信号が出力されるとステップ101へ進む。
ステップ101では、差圧判定部4がタイマ30をスタートさせる。
【0018】
それからステップ102において、コンプレッサ駆動判定部3からオン信号が出力されたかどうかをチェックする。
コンプレッサ駆動判定部3からオフ信号が出力されている間は、ステップ102を繰り返し、コンプレッサ駆動判定部3からオン信号が出力されるとステップ103へ進む。
ステップ103では、差圧判定部4はタイマ30のカウントが所定時間Toを越えているかどうかをチェックする。
タイマ30のカウントが所定時間To以下、すなわち、コンプレッサ駆動判定部3からオフ信号が出力されてからの経過時間が所定時間To以下の場合には、差圧判定部4が電動コンプレッサ20に差圧が残存している旨の信号を制御部5へ送出して、ステップ104へ進む。
【0019】
ステップ104では、差圧残存の信号を受けて、目標速度設定部6が目標回転速度をゼロ(0)に設定するとともに、ステップ105において、ファン駆動判定部7はブロワファン11の駆動要のオン信号を出力する。
コンプレッサ駆動信号出力部8は、目標回転速度がゼロの場合、インバータ23へ駆動信号を出力しない。これにより、電動コンプレッサ20は実質的に起動されないまま、停止状態を継続する。
一方、ファン駆動信号出力部9は駆動信号を出力してブロワファン11を駆動開始する。
電動コンプレッサ20が停止した状態ではエバポレータ12に新たな冷媒は供給されないが、電動コンプレッサ20の停止後しばらくはエバポレータ12の冷状態が続いているので、ブロワファン11の駆動により車室内には冷風が供給される。
【0020】
このあと、ステップ106において、差圧判定部4はタイマ30のカウントが所定時間Toを越えているかどうかをチェックする。
タイマ30のカウントが所定時間To以下の場合には、ステップ104へ戻る。
タイマ30のカウントが所定時間Toを越えているときは、差圧判定部4が電動コンプレッサ20に差圧が残存していない旨の信号を制御部5へ送出して、ステップ107へ進む。
ステップ107では、目標速度設定部6では、目標回転速度を通常制御値に設定する。
コンプレッサ駆動信号出力部8は目標速度設定部6の出力する目標回転速度に基づいて、駆動信号をインバータ23へ出力するから、これにより、電動コンプレッサ20は目標回転速度に追随するように再起動され、回転駆動される。
【0021】
ステップ107と同時にステップ108で、ファン駆動判定部7は通常制御に基づいてブロワファン11の駆動要否の信号を出力する。
ファン駆動信号出力部9は駆動要否の信号に基づいてブロワファン11を駆動しあるいは停止状態を保持する。
このあと、ステップ100へ戻る。
ステップ103のチェックでタイマ30のカウントが所定時間Toを越えているときは、直接ステップ107へ進む。
【0022】
上述の制御処理により、図4の(a)に示すように、時刻t0にコンプレッサ駆動判定部3からオフ信号が出力されて前回電動コンプレッサ20が停止したあと、所定時間To経過した時刻t2より前の時刻t1に、コンプレッサ駆動判定部3からオン信号が出力されたときには、目標回転速度は通常制御に基づく値ではなく、時刻t1後もゼロを継続する。
そして、時刻t2に至ってはじめて目標回転速度が通常制御に基づく値(通常制御値)に設定されて、電動コンプレッサ20が駆動されることになる。
【0023】
この間、図4の(b)に示すように、電動コンプレッサ20における差圧は、前回電動コンプレッサ20が停止した時刻t0から低下し始めて、所定時間Toを経て時刻t2において通常起動可能な負荷レベルに相当する値となる。なお、時刻t2で電動コンプレッサ20が駆動されるため、このあとは図示のとおり差圧は増大していく。
【0024】
また、時刻t0から所定時間Toを経過した時刻t2より後の時刻t3に、コンプレッサ駆動判定部3からオン信号が出力されたときには、図5に示すように、目標回転速度は通常制御に基づく値に設定され、時刻t3において直ちに電動コンプレッサ20は駆動される。
【0025】
本実施の形態では、空調制御部1における図3のフローチャートのステップ101、103、106の処理を実行する機能部分が発明における差圧判定手段を構成し、ステップ104、105、107、108の処理を実行する機能部分が制御手段を構成している。
【0026】
実施の形態は以上のように構成され、冷媒を電動コンプレッサ20で循環させて、冷媒と熱交換した空気をブロアファン11で車室内に吹出す自動車用の空調装置において、
電動コンプレッサ20の駆動/停止の要否を判定するコンプレッサ駆動判定部3が駆動を示すオン信号を出力したときに、電動コンプレッサ20の吸入口21aと吐出口21bの間に所定値を越える差圧があるときには、差圧が所定値以下になるまで電動コンプレッサ20の駆動を遅延させるものとしたので、差圧に対抗して大きなトルクを得る大出力、大型のモータを必要とせず安定した再起動ができ、したがってまた、バッテリの消耗を来たしていわゆる燃費低下を招くということもない。
【0027】
とくに、差圧の判定については、電動コンプレッサ20の前回停止時からの経過時間が所定時間を越えたとき、差圧が上記所定値以下になったものと判定するので、電動コンプレッサ20の吸入口21aと吐出口21bのそれぞれにコスト増大させる圧力センサを設ける必要がなく、簡素で低コストが実現される。
また、電動コンプレッサ20駆動の遅延は、具体的には電動コンプレッサのモータ22の目標回転速度をゼロに設定することにより行うので、空調装置が本来備えている目標速度設定部6を利用できるので、この点でも簡素で低コストが実現される。
【0028】
さらに、電動コンプレッサ20の駆動を遅延させている間、ブロアファン11を駆動させるので、電動コンプレッサ20の停止直後で冷状態にあるエバポレータ12を有効活用して、車室内には冷風を供給することができ、快適性が確保される。
【0029】
なお、実施の形態では電動コンプレッサ20のモータを三相交流モータとしてインバータで駆動するものとしたが、これに限定されず、本発明は、直流モータを使用する電動コンプレッサを備える空調装置にも適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】実施の形態における空調装置のブロック図である。
【図2】空調制御部の構成を示すブロック図である。
【図3】空調制御部における制御の流れを示すフローチャートである。
【図4】制御過程における目標回転速度および差圧の変化を示すタイムチャートである。
【図5】制御過程における目標回転速度の変化を示すタイムチャートである。
【符号の説明】
【0031】
AC 空調装置
1 空調制御部
2 空調操作部
3 コンプレッサ駆動判定部
4 差圧判定部
5 制御部
6 目標速度設定部
7 ファン駆動判定部
8 コンプレッサ駆動信号出力部
9 ファン駆動信号出力部
10 空気ダクト
11 ブロワファン
12 エバポレータ
13 ヒータコア
20 電動コンプレッサ
21 圧縮機構部
21a 吸入口
21b 吐出口
22 モータ
23 インバータ
25 コンデンサ
30 タイマ
【特許請求の範囲】
【請求項1】
冷媒を電動コンプレッサ(20)で循環させて、冷媒と熱交換した空気をブロアファン(11)で車室内に吹出す自動車用の空調装置において、
電動コンプレッサの駆動/停止の要否を判定するコンプレッサ駆動判定部(3)と、
電動コンプレッサの吸入口と吐出口の間の差圧を判定する差圧判定手段を備え、
電動コンプレッサの駆動判定時に、当該電動コンプレッサに所定値を越える差圧があるときには、差圧が前記所定値以下になるまで電動コンプレッサの駆動を遅延させる制御手段を有することを特徴とする自動車用の空調装置。
【請求項2】
前記制御手段は、電動コンプレッサ(20)のモータ(22)の目標回転速度を設定する目標速度設定部(6)を備え、目標回転速度をゼロに設定することにより電動コンプレッサの駆動を遅延させることを特徴とする請求項1に記載の自動車用の空調装置。
【請求項3】
前記制御手段は、電動コンプレッサ(20)の前記駆動判定時から少なくとも前記遅延の間、ブロアファン(11)を駆動させることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用の空調装置。
【請求項4】
前記差圧判定手段は、電動コンプレッサ(20)の前回停止時からの経過時間が所定時間を越えたとき、差圧が前記所定値以下になったものと判定することを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の自動車用の空調装置。
【請求項1】
冷媒を電動コンプレッサ(20)で循環させて、冷媒と熱交換した空気をブロアファン(11)で車室内に吹出す自動車用の空調装置において、
電動コンプレッサの駆動/停止の要否を判定するコンプレッサ駆動判定部(3)と、
電動コンプレッサの吸入口と吐出口の間の差圧を判定する差圧判定手段を備え、
電動コンプレッサの駆動判定時に、当該電動コンプレッサに所定値を越える差圧があるときには、差圧が前記所定値以下になるまで電動コンプレッサの駆動を遅延させる制御手段を有することを特徴とする自動車用の空調装置。
【請求項2】
前記制御手段は、電動コンプレッサ(20)のモータ(22)の目標回転速度を設定する目標速度設定部(6)を備え、目標回転速度をゼロに設定することにより電動コンプレッサの駆動を遅延させることを特徴とする請求項1に記載の自動車用の空調装置。
【請求項3】
前記制御手段は、電動コンプレッサ(20)の前記駆動判定時から少なくとも前記遅延の間、ブロアファン(11)を駆動させることを特徴とする請求項1または2に記載の自動車用の空調装置。
【請求項4】
前記差圧判定手段は、電動コンプレッサ(20)の前回停止時からの経過時間が所定時間を越えたとき、差圧が前記所定値以下になったものと判定することを特徴とする請求項1から3のいずれか1に記載の自動車用の空調装置。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【公開番号】特開2010−137613(P2010−137613A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−313493(P2008−313493)
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年12月9日(2008.12.9)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】
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