説明

自動車用ガラスラン

【課題】 自動車のドアフレームに取付けられるオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物からなるガラスランにおいて、ドアフレーム縦枠部から斜め上方向に延びるドアフレーム上枠部に移るコーナ部や、ドアフレーム上枠部に沿う部分でずれや抜けが生じるのを防止すること。
【解決手段】 自動車用ガラスランのドアフレーム上枠部に沿う部分で、チャンネルに嵌め込まれる断面コ字形の基底部のチャンネルと接する部分に非架橋型スチレン系熱可塑性エラストマー組成物の被覆層を形成して、チャンネルに対する摩擦抵抗を大きくした自動車用ガラスラン

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車のドアフレームに装着されるガラスランに関するものである。
【背景技術】
【0002】
図2に示すように、自動車のドア1のドアフレーム2にはこれに沿ってガラスラン5が取付けられ、ドアガラス4の昇降を案内するとともに、ドアガラス4が閉じられたときに、その外周部とドアフレーム2との間をシールする。
【0003】
ガラスラン5は、図1(A)、図2および図3に示すように、車体のフロントピラーからルーフサイドにかけて沿うドアフレーム上枠部2Aに沿う押出成形の上辺部分5Aと、前後のドアフレーム縦枠部2B,2Cに沿う垂直部分5B,5Cとを、コーナ部5D,5Eで型成形接続して構成され、基底部50をチャンネル3に嵌め込むことにより取付けられ、シールリップ53a,53bがドアガラス4の外周部をその両面から挟む。
【0004】
ガラスラン5の材料としては、一般にエチレン・プロピレン系ゴム(EPDMゴム)組成物が用いられているが、近時、これに代えてオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物(TPO組成物)が用いられるようになってきた。TPO製のものは、EPDMゴム製のものに匹敵するシール性能を有する他に製造過程で加硫工程が不要であり、かつ軽量である点などにおいて有利である。
ところでドアガラス4の昇降が繰返されると、TPO製のガラスラン5では、
コーナ部、特に垂直部分5Bと、その上端から斜め上方へ延びる上辺部分5Aとが接続するコーナ部5Dがチャンネル3から抜け方向にずれて浮き上る。
【0005】
発明者は、その原因は次によるものであることに着目した。すなわち、ドアガラス4が上昇して閉じ切られるときに、ドアガラス4の押し上げ方向(X方向)に対して傾斜方向にあるドアフレーム上枠部2Aに取付けられたガラスラン5の上辺部分5Aには、下からのドアガラス4の押し付けでドアフレーム上枠部2Aのチャンネル3に沿って押し上げる方向(Y方向)のずれ力が作用する。ところがTPO製のガラスランのチャンネル3に対する摩擦抵抗はEPDM製のガラスランのそれよりも小さいからずれが発生し、コーナ部5Dは直線状に引っ張られて浮きが生じる。
【0006】
そこで、このずれ発生防止のために、車体のフロントピラーからルーフサイドにかけて沿うドアフレーム上枠部のチャンネルに取付けられる上辺部分において、その基底部外面のチャンネルとの接触部に、ガラスラン本体よりも軟質のTPO組成物の被覆層を形成したものがある(特許文献1参照)しかし、特許文献1の方法ではずれ・浮きに対して充分な防止には至らない。
【特許文献1】特開2003-16534
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、このような実状に鑑みてなされたものであり、TPO製のガラスランにおいて、ドアガラス閉め切り時に生ずるずれ・浮きの発生を防止し、優れたシール性を確保することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
自動車ドアのドアフレームの内周に設けた断面ほぼコ字形のチャンネルに一連に取付けられるガラスランであって、ガラスラン本体をオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物(TPO組成物)で構成し、ガラスランのうち少なくとも、車体のフロントピラーからルーフサイドにかけて沿うドアフレーム上枠部のチャンネルに取付けられる上辺部分は、その基底部外面のチャンネルとの接触部に、非架橋型スチレン系熱可塑性エラストマー組成物(非架橋型TPS組成物)の被覆層を形成する。
【0009】
ドアガラス閉じ切り時のガラスランのずれは主として、ガラスランのチャンネルに対する摩擦抵抗で決まる。本発明はガラスランの基底部のチャンネルとの接触部に非架橋型TPS組成物の被覆層を形成し、チャンネルに対する摩擦抵抗を上げガラス閉じ切り時のガラスランのずれを防止する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、自動車のドアフレームに取付れられるTPO製のガラスランにおいて、ドアガラス閉じ切り時にドアフレーム上枠部に取付けられたガラスラン上辺部分に対するドアガラスの押し上げに基因するずれや抜けを防止して、ガラスランのドアフレームへの保持を良好にすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
本発明の好ましい態様としては、図1(B)に示すように、自動車ドアのドアフレームの内周に設けた断面ほぼコ字形のチャンネル3に一連に取付けられるガラスラン本体5をTPO組成物で構成し、車体のフロントピラーからルーフサイドにかけて沿うドアフレーム上枠部2Aのチャンネル3に取付けられる上辺部分5Aは、その断面コ字形の基底部50とチャンネル3との接触部に、厚さ60μm〜80μmの非架橋型TPS組成物の被覆層6a、6b、6cを形成することである。
[TPO組成物]
本発明に用いられるガラスラン本体材料のTPO組成物の硬度(JISAタイプ)は55°〜90°であり、好ましくは65°〜80°である。TPO組成物の硬度調整は、TPO組成物の成分であるポリプロピレン、EPDM、オイルなどの配合割合を変えて行う。
[非架橋型TPS組成物]
本発明に用いられるガラスラン本体への被覆層材料の非架橋型TPS組成物の硬度(JISAタイプ)は20°〜90°であり、好ましくは30°〜80°である。非架橋型TPS組成物の硬度調整は、非架橋型TPS組成物の成分であるポリプロピレン、スチレン系エラストマー、オイルなどの配合割合を変えて行う。非架橋型TPS組成物の原料としてのスチレン系エラストマーの種類としては、SBS(スチレン-ブタジエン-スチレン共重合体)、SIS(スチレン-イソプレン-スチレン共重合体)、SEBS(スチレン-エチレン-ブチレン-スチレン共重合体)、SEPS(スチレン-エチレン-プロピレン-スチレン共重合体)等がある。これらのうち、SEBS、SEPSがより好ましい。
【実施例】
【0012】
ガラスラン本体材料としてTPO組成物を4種類、被覆層材料として非架橋型TPS組成物を4種類および架橋型TPS組成物を1種類準備した。ガラスラン本体材料に厚さ60μm〜80μmの被覆層であるTPS組成物を図1(B)の断面形状に同時押出したもの、および被覆層のないガラスラン本体材料だけを図3の断面形状に押出したものを実験用試料とした。尚、従来例の試料として、被覆層にTPO組成物を用いたものを準備した。
評価項目としては対塗装板(ドアフレームのチャンネルを想定)と被覆層材料との静摩擦係数、ドアフレームに組付けたガラスランを長手方向に引張った時のずれ力、本体材料から被覆層へのオイル移行の有無である。
[静摩擦係数]
HEIDON表面性測定機(新東科学製)を用い次のように測定した。押出成形したガラスランを幅5mmの短冊状に切出したものを試料とし、塗装板上にその試料を2本並行に置く。荷重1kgを掛け、引張速度100mm/minで引張り、試料移動直後の最大摩擦係数を測定し、それを静摩擦係数とした。
[ずれ力]
ドアフレーム型治具に所定長さ(100mm)のガラスランを取り付け、閉じ切り荷重30Nでガラスをはめ込む。引張速度100mm/minでガラスランを引張り、ガラスランがドアフレームから抜ける時の最大荷重をずれ力とした。
[オイル移行]
100℃恒温槽に試料を240時間放置後、被覆層表面へのオイル移行の有無を目視で評価した。
これらの結果を表-1に示す。被覆層として非架橋型TPS組成物を用いた実施例1〜実施例8は架橋型TPS組成物を用いた比較例5と比べ、静摩擦係数が大きく、ずれ力は大きい。被覆層のない本体材料である比較例1〜比較例4と比べてみても、実施例の方が摩擦係数が大きく、ずれ力は大きい。一方オイルの移行については、実施例1〜実施例8、比較例1〜比較例4では移行は認められず、架橋型スチレン系TPE組成物を用いた比較例5のみに移行が認められた。被覆層にTPO組成物を用いた従来例においては、静摩擦係数は小さく、ずれ力は小さい。
【0013】
【表1】

【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明のガラスランを示すもので、(A)は全体図、(B)は(A)のIB−IB線に沿う位置でのドアガラス閉じ切り時のガラスランの取付状態断面図である。
【図2】ガラスランが装着された自動車ドアの正面図である。
【図3】従来のガラスランで、図2のIII−III線に沿う位置でのドアガラス閉じ切り時のガラスランの取付状態断面図である。
【符号の説明】
【0015】
1 ドア
2 ドアフレーム
2A ドアフレーム上枠部
2B,2C ドアフレーム縦枠部
3 チャンネル
4 ドアガラス
5 ガラスラン
50 基底部
53a,53b シールリップ
54 小リップ
6a,6b,6c,6d 被覆層

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車ドアのドアフレームの内周に設けた断面ほぼコ字形のチャンネルに一連に取付けられるガラスランであって、ガラスラン本体をオレフィン系熱可塑性エラストマー組成物(TPO組成物)で構成し、ガラスランのうち少なくとも、ドアフレーム上枠部のチャンネルに取付けられる上辺部分は、その基底部外面のチャンネルとの接触部に、非架橋型スチレン系熱可塑性エラストマー組成物(非架橋型TPS組成物)の被覆層を形成したことを特徴とする自動車用ガラスラン。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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