説明

自動車用マット及びその製造方法

【課題】 吸音性に優れると共に、敷設下地面に対する滑り防止性に優れた自動車用マットの製造方法を提供する。
【解決手段】 この発明の自動車用マットの製造方法は、不織布30の一方の面に撥水剤を含有した第1水系樹脂エマルジョン31を塗布する第1塗布工程と、前記不織布30の塗布面に、ガラス転移温度が55℃以下である樹脂を含有した第2水系樹脂エマルジョン32を塗布する第2塗布工程と、前記第2塗布工程を経た不織布30の他方の面に表皮材を積層一体化する積層工程とを包含することを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自動車内に敷いて用いられる自動車用マット及びその製造方法に関する。なお、この明細書において、「樹脂」の語は、樹脂及びゴムを含む意味で用いる。
【背景技術】
【0002】
従来より自動車内のフロアーには、足踏み感を良好にすると共に床側からの振動が伝わらないようにすること等を目的として、フロアーマットが敷設されている。このフロアーマットに、足で踏む、蹴る等の外力が加わると、フロアーマットは滑り移動して位置ずれを生じる。このような位置ずれを防止するものとしては、マット裏面のゴムにエンボス(凹凸)形状を付与せしめてなるフロアーマットが公知である(特許文献1参照)。
【0003】
ところで、近年、自動車内での快適性を向上させるために、自動車の室内空間における静粛性をさらに高めることが強く求められるようになってきているが、上記従来のフロアーマットでは、エンボスが付与されたゴム層によって通気性が阻害されて良好な吸音効果が得られず、このような要請に応えることはできなかったことから、近年ではカーペット地等の表皮材の裏面側に不織布を貼り合わせた構成のものが用いられるようになってきている(特許文献2参照)。この構成によれば、騒音等の音は主に不織布層を通過する際に吸音されるので、十分な吸音性能を得ることができる。
【特許文献1】特開平10−99183号公報
【特許文献2】特開2002−200687号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、表皮材の裏面側に不織布を積層した従来の構成では、敷設下地面に対する滑り防止性が殆ど得られないという問題があった。そこで、本発明者は、滑り防止性を向上させるべく、裏面側の不織布層にラテックスエマルジョンを全体に含浸せしめてなるマットを製作し、その滑り防止性を評価したところ、滑り防止性の向上は若干程度認められたものの、十分な滑り防止性能を得ることはできなかった。
【0005】
この発明は、かかる技術的背景に鑑みてなされたものであって、吸音性に優れると共に、敷設下地面に対する滑り防止性に優れた自動車用マット及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明は以下の手段を提供する。
【0007】
[1]不織布の一方の面に撥水剤を含有した第1水系樹脂エマルジョンを塗布する第1塗布工程と、
前記不織布の塗布面に、ガラス転移温度が55℃以下である樹脂を含有した第2水系樹脂エマルジョンを塗布する第2塗布工程と、
前記第2塗布工程を経た不織布の他方の面に表皮材を積層一体化する積層工程とを包含することを特徴とする自動車用マットの製造方法。
【0008】
[2]不織布の一方の面に撥水剤を含有した第1水系樹脂エマルジョンを塗布する第1塗布工程と、
前記不織布の他方の面に、ガラス転移温度が55℃以下である樹脂を含有した第2水系樹脂エマルジョンを塗布する第2塗布工程と、
前記第2塗布工程を経た不織布の前記一方の面に表皮材を積層一体化する積層工程とを包含することを特徴とする自動車用マットの製造方法。
【0009】
[3]不織布と表皮材とを積層して積層シートを得る積層工程と、
前記積層シートの不織布の裏面に、撥水剤を含有した第1水系樹脂エマルジョンを塗布する第1塗布工程と、
前記第1塗布工程を経た積層シートの不織布の裏面に、ガラス転移温度が55℃以下である樹脂を含有した第2水系樹脂エマルジョンを塗布する第2塗布工程とを包含することを特徴とする自動車用マットの製造方法。
【0010】
[4]前記第1塗布工程で用いる第1水系樹脂エマルジョンとして、樹脂100質量部に対して撥水剤を0.5〜60質量部の割合で含有した固形分含有率30〜60質量%の水系樹脂エマルジョンを用いると共に、前記第2塗布工程で用いる第2水系樹脂エマルジョンとして、固形分含有率30〜60質量%の水系樹脂エマルジョンを用いる前項1〜3のいずれか1項に記載の自動車用マットの製造方法。
【0011】
[5]前記第2水系樹脂エマルジョンを塗布することによって、不織布における第2水系樹脂エマルジョン塗布面に、樹脂からなる多数の凝集点状部を形成せしめる前項1〜4のいずれか1項に記載の自動車用マットの製造方法。
【0012】
[6]表皮材層の下面側に不織布層が積層一体化されてなり、前記不織布層内の厚さ方向の少なくとも一部に撥水剤を含有した樹脂が含浸固着された撥水性含浸樹脂層が形成されると共に、前記不織布層の少なくとも裏面にガラス転移温度が55℃以下の樹脂が含浸固着されてなる滑り止め部が設けられていることを特徴とする自動車用マット。
【0013】
[7]前記不織布層の全体に、撥水剤を含有した樹脂が含浸固着された撥水性含浸樹脂層が形成されている前項6に記載の自動車用マット。
【0014】
[8]前記滑り止め部は、前記不織布層の裏面に樹脂が含浸固着されて形成された直径0.5〜5mmの凝集点状部が多数分散状態に配置されたものからなる前項6または7に記載の自動車用マット。
【0015】
[9]前記不織布層の構成繊維の目付量が100〜750g/m2、前記撥水性含浸樹脂層の固着量が30〜300g/m2、前記滑り止め部の固着量が50〜300g/m2である前項6〜8のいずれか1項に記載の自動車用マット。
【0016】
[10]前記表皮材層として、基布の上面にパイルが植設されると共に前記基布の下面にプレコート処理がなされたカーペット原反が用いられ、前記表皮材層と前記不織布層とが熱可塑性樹脂パウダーを加熱溶融することにより形成された目付30〜500g/m2の通気性接着樹脂層を介して接着一体化されている前項6〜9のいずれか1項に記載の自動車用マット。
【発明の効果】
【0017】
[1][2][3]の発明では、不織布に撥水剤を含有した水系樹脂エマルジョンを塗布することによって、不織布層内の厚さ方向の少なくとも一部に撥水剤を含有した樹脂が含浸固着された撥水性含浸樹脂層を先に形成せしめてから、次のガラス転移温度が ℃以下である樹脂を含有した滑り止め用の水系樹脂エマルジョンを塗布するので、該滑り止め用の樹脂が前記撥水性含浸樹脂層の撥水作用により不織布層の表面に凝集し、この不織布層表面の凝集樹脂(ガラス転移温度が55℃以下)からなる滑り止め部によって良好な滑り防止性を得ることができる。また、不織布に水系樹脂エマルジョンを塗布することによって、撥水性含浸樹脂層や滑り止め部を形成するので、マットとして十分な通気性を確保することができて良好な吸音性を得ることができる。
【0018】
[4]の発明では、第1塗布工程で用いる水系樹脂エマルジョンとして、樹脂100質量部に対して撥水剤を0.5〜60質量部の割合で含有した固形分含有率30〜60質量%の水系樹脂エマルジョンを用いるから、撥水性含浸樹脂層の撥水作用をより高めることができ、これにより直径0.5〜5mmの凝集点状部が多数分散状態に配置された滑り止め部を容易に形成せしめることができて、敷設下地面に対する優れた滑り防止性を得ることができる。
【0019】
[5]の発明では、敷設下地面に対する滑り防止性を一層向上させた自動車用マットを製造できる。
【0020】
[6]の発明では、不織布層の少なくとも裏面にガラス転移温度が55℃以下の樹脂が含浸固着されてなる滑り止め部が設けられているので、敷設下地面に対して優れた滑り防止性を確保することができる。
【0021】
[7]の発明では、不織布層の全体に、撥水剤を含有した樹脂が含浸固着された撥水性含浸樹脂層が形成されているので、自動車用マットとして十分な遮水性を確保することができる。
【0022】
[8]の発明では、滑り止め部は、不織布層の裏面に樹脂が含浸固着されて形成された直径0.5〜5mmの凝集点状部が多数分散状態に配置されたものからなるので、敷設下地面に対する滑り防止性を一層向上させることができる。
【0023】
[9]の発明では、軽量性を維持しつつ、敷設下地面に対する滑り防止性をさらに向上させることができる。
【0024】
[10]の発明では、優れた吸音性能を確保しつつ、敷設下地面に対して十分な滑り防止性を確保することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
この発明に係る自動車用マット(1)の一実施形態を図1に示す。図1において、(10)は表皮材層、(6)は不織布層、(7)は滑り止め部である。
【0026】
前記表皮材層(10)は、基布(2)の上面にパイル(3)が植設されると共に該基布(2)の下面にプレコート処理によってプレコート層(4)が形成されたものからなり、通気性を有している。前記表皮材層(10)と前記不織布層(6)とが通気性接着樹脂層(5)を介して接着一体化され、前記不織布層(6)の全体に、撥水剤を含有した樹脂が含浸固着された撥水性含浸樹脂層(8)が形成されている。また、前記不織布層(6)の下面にガラス転移温度(Tg)が55℃以下の樹脂が含浸固着されてなる滑り止め部(7)が設けられている。
【0027】
前記滑り止め部(7)は、図2に示すように、樹脂の含浸固着により形成された多数の凝集点状部(11)…が分散して配置されたものからなる。なお、図2において、(12)は不織布の構成繊維である。これら凝集点状部(11)…の少なくとも一部は、前記不織布層(6)の下面より下方に突出した状態に配置されている(図1の拡大図参照)。前記凝集点状部(11)の直径は0.5〜5mmであるのが好ましい。このような範囲に設定されることで、敷設下地面に対して十分な滑り防止性能を発揮させることができる。
【0028】
上記構成の自動車用マット(1)では、不織布層(6)の裏面にガラス転移温度が55℃以下の樹脂が含浸固着されてなる滑り止め部(7)が設けられているので、敷設下地面に対して優れた滑り防止性を確保することができる。更に、前記滑り止め部(7)は、樹脂の含浸固着により形成された多数の凝集点状部(11)…が分散して配置されたものからなるので、敷設下地面に対する滑り防止性をさらに向上させることができる。
【0029】
なお、上記実施形態(図1)では、不織布層(6)の全体にわたって、撥水剤を含有した樹脂が含浸固着された撥水性含浸樹脂層(8)が形成されているが、特にこのような構成に限定されるものではなく、例えば図3、4に示すように、不織布層(6)内の厚さ方向の一部に、撥水剤を含有した樹脂が含浸固着された撥水性含浸樹脂層(8)が形成された構成を採用しても良い。
【0030】
即ち、図3に示すマット(1)では、不織布層(6)内の裏面側の一部に、撥水剤を含有した樹脂が含浸固着された撥水性含浸樹脂層(8)が形成されると共に、不織布層(6)の下面にガラス転移温度が55℃以下の樹脂が含浸固着されてなる滑り止め部(7)が設けられている。
【0031】
また、図4に示すマット(1)では、不織布層(6)内の厚さ方向の中間部及び上面側に、撥水剤を含有した樹脂が含浸固着された撥水性含浸樹脂層(8)が形成されると共に、不織布層(6)内の裏面側及び不織布層(6)の下面に、ガラス転移温度が55℃以下の樹脂が含浸固着されてなる滑り止め部(7)が設けられている。即ち、前記撥水性含浸樹脂層(8)と前記滑り止め部(7)を構成する含浸樹脂とが不織布層(6)の内部において連接された状態になっている。
【0032】
次に、上記構成に係る自動車用マット(1)の製造方法について説明する。
【0033】
(第1製造方法)
まず、図5に示すように、不織布(30)の片面に撥水剤を含有した第1水系樹脂エマルジョン(31)を塗布する(第1塗布工程)。しかる後、第1加熱装置(21A)により加熱乾燥させる。次いで、前記不織布(30)の塗布面に、ガラス転移温度が55℃以下である樹脂を含有した第2水系樹脂エマルジョン(32)をスプレーノズル部(23)からスプレー塗布する(第2塗布工程)。この後、第2加熱装置(22A)により加熱乾燥させる。次いで、前記不織布(30)の非塗布面に表皮材(10)を積層一体化する。
【0034】
前記第1塗布工程において第1水系樹脂エマルジョン(31)を不織布(30)内に十分に含浸せしめた場合には、例えば図1に示す構成の自動車用マット(1)が得られ、一方前記第1塗布工程において第1水系樹脂エマルジョン(31)の不織布(30)内への含浸を浅く行った場合には、例えば図3に示す構成の自動車用マット(1)が得られる。このような樹脂含浸程度の調整は、塗布量やドクターナイフ(20)の角度等を調整することで対応できる。
【0035】
(第2製造方法)
まず、図6に示すように、不織布(30)の片面に撥水剤を含有した第1水系樹脂エマルジョン(31)を塗布する(第1塗布工程)。しかる後、第1加熱装置(21B)により加熱乾燥させる。次いで、前記不織布(30)の非塗布面に、ガラス転移温度が55℃以下である樹脂を含有した第2水系樹脂エマルジョン(32)をスプレーノズル部(24)からスプレー塗布する(第2塗布工程)。この後、第2加熱装置(22B)により加熱乾燥させる。次いで、前記不織布(30)の前記第1水系樹脂エマルジョン塗布面に表皮材(10)を積層一体化する。
【0036】
前記第1塗布工程において第1水系樹脂エマルジョン(31)を不織布(30)内に十分に含浸せしめた場合には、例えば図1に示す構成の自動車用マット(1)が得られ、一方前記第1塗布工程において第1水系樹脂エマルジョン(31)の不織布(30)内への含浸を浅く行った場合には、例えば図4に示す構成の自動車用マット(1)が得られる。このような樹脂含浸程度の調整は、塗布量やドクターナイフ(20)の角度等を調整することで対応できる。
【0037】
(第3製造方法)
まず、不織布(30)と表皮材(33)とを積層して積層シート(34)を得る。次いで、図7に示すように、この積層シート(34)における不織布(30)の裏面に、撥水剤を含有した第1水系樹脂エマルジョン(31)を塗布する(第1塗布工程)。しかる後、第1加熱装置(21C)により加熱乾燥させる。次いで、前記不織布(30)の塗布面に、ガラス転移温度が55℃以下である樹脂を含有した第2水系樹脂エマルジョン(32)をスプレーノズル部(25)からスプレー塗布する(第2塗布工程)。この後、第2加熱装置(22C)により加熱乾燥させる。
【0038】
前記第1塗布工程において第1水系樹脂エマルジョン(31)を不織布(30)内に十分に含浸せしめた場合には、例えば図1に示す構成の自動車用マット(1)が得られ、一方前記第1塗布工程において第1水系樹脂エマルジョン(31)の不織布(30)内への含浸を浅く行った場合には、例えば図3に示す構成の自動車用マット(1)が得られる。このような樹脂含浸程度の調整は、塗布量やドクターナイフ(20)の角度等を調整することで対応できる。
【0039】
上記第1製造方法、第2製造方法、第3製造方法のいずれにおいても、滑り止め用の樹脂(第2水系樹脂エマルジョン)が撥水性含浸樹脂層(第1水系樹脂エマルジョン)(8)の撥水作用により不織布の表面に点状に凝集するものとなり、この不織布層(6)表面の凝集点状部(ガラス転移温度が55℃以下の樹脂の点状部)(11)…からなる滑り止め部(7)によって良好な滑り防止性を得ることができる。また、不織布に水系樹脂エマルジョンを塗布することによって、撥水性含浸樹脂層(8)や滑り止め部(7)を形成するので、マット(1)として十分な通気性を確保することができて良好な吸音性を得ることができる。
【0040】
上記第1〜3製造方法において、加熱装置(21)(22)による加熱乾燥処理は省略することも可能であるが、いずれも実施するのが望ましい。また、第1水系樹脂エマルジョン(31)の塗布方法、第2水系樹脂エマルジョン(32)の塗布方法としては、特に限定されず、例えばスプレー法、ロールコート法等が挙げられる。
【0041】
上記第1〜3製造方法は、それぞれ好適な一例を示したものに過ぎず、上記例示の製造方法に特に限定されるものではない。
【0042】
この発明において、前記基布(2)としては、特に限定されるものではないが、例えばスパンボンド不織布、ニードルパンチ不織布、織布等を例示できる。これらの中でも、スパンボンド不織布を用いるのが好ましく、この場合にはプレコート処理(抜糸止め処理)しても表裏に連通した空隙がより多く形成されるものとなり、一層優れた通気性が得られるので、吸音性能をより向上させることができる。
【0043】
前記基布(2)の目付は80〜150g/m2 に設定されるのが好ましい。80g/m2 以上とすることでパイル(3)を基布(2)に安定支持状態に植設することができると共に、150g/m2 以下とすることで通気性が十分に得られて十分な吸音性能を得ることができる。
【0044】
また、前記パイル(3)の目付は250〜2000g/m2 の範囲に設定されるのが好ましい。
【0045】
前記プレコート層(4)は、樹脂又はゴムのエマルジョンや溶液を塗布することによって形成された樹脂層からなる。このプレコート層(4)における樹脂の付着量(乾燥状態)は30〜200g/m2 に設定されるのが好ましい。30g/m2 以上とすることで十分なパイル抜糸強度が得られてパイルの抜脱を防止することが出きると共に、200g/m2 以下とすることで通気性が十分に得られて十分な吸音性能を得ることができる。
【0046】
前記不織布層(6)の厚さは1〜20mmに設定されるのが好ましい。1mm以上とすることで十分な吸音効果が得られると共に、20mm以下とすることで車室スペースとしてゆとり感が十分に得られるものとなる。中でも、前記吸音不織布層(6)の厚さは1.5〜15mmに設定されるのが好ましい。
【0047】
前記不織布層(6)の構成繊維の目付は100〜750g/m2 とするのが好ましい。100g/m2 以上とすることで十分な吸音効果が得られると共に、750g/m2 以下とすることで通気性が十分に得られて十分な吸音性能を得ることができる。
【0048】
前記不織布層(6)の不織布形態としては、特に限定されるものではないが、例えばニードルパンチ不織布、スパンボンド不織布等を例示できる。
【0049】
前記撥水性含浸樹脂層(8)を構成する樹脂としては、即ち前記第1塗布工程で用いる第1水系樹脂エマルジョンを構成する樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えばSBR(スチレン−ブタジエンゴム)、EVA(エチレン−酢酸ビニル共重合体樹脂)、塩化ビニル樹脂、アクリル樹脂等が挙げられる。中でも、経済性の点で、SBRを用いるのが好ましい。
【0050】
前記撥水性含浸樹脂層(8)を構成する撥水剤としては、即ち前記第1塗布工程で用いる第1水系樹脂エマルジョン(31)を構成する撥水剤としては、特に限定されるものではないが、例えばフッ素系撥水剤、シリコーン樹脂撥水剤等が挙げられる。中でも、より高い撥水性を付与できる点で、フッ素系撥水剤を用いるのが好ましい。
【0051】
前記第1水系樹脂エマルジョン(31)としては、樹脂100質量部に対して撥水剤を0.5〜60質量部の割合で含有した固形分含有率30〜60質量%の水系樹脂エマルジョンを用いるのが好ましい。このような構成を採用する場合には、撥水性含浸樹脂層(8)の撥水作用をより高めることができ、これにより直径0.5〜5mmの凝集点状部(11)…が多数分散状態に配置された滑り止め部(7)を確実に形成せしめることができる。
【0052】
前記撥水性含浸樹脂層(8)の固着量(乾燥状態)は30〜300g/m2の範囲であるのが好ましい。30g/m2 以上とすることで十分な撥水効果が得られて凝集点状部(11)を多数形成できると共に300g/m2 以下とすることで通気性が十分に得られて十分な吸音性能を得ることができる。
【0053】
前記滑り止め部(7)を構成する樹脂としては、即ち前記第2塗布工程で用いる第2水系樹脂エマルジョン(32)を構成する樹脂としては、ガラス転移温度(Tg)が55℃以下である樹脂を用いる。ガラス転移温度が55℃以下である樹脂としては、特に限定されるものではないが、例えばSBR(スチレン−ブタジエンゴム)、アクリル樹脂等が挙げられる。ガラス転移温度が55℃以下である樹脂を用いることで滑り止め部(7)による滑り防止効果を十分に確保することができる。
【0054】
前記第2水系樹脂エマルジョン(32)としては、固形分含有率30〜60質量%の水系樹脂エマルジョンを用いるのが好ましい。なお、前記第2水系樹脂エマルジョン(32)には、通常、撥水剤は含有せしめない。
【0055】
前記滑り止め部(7)の固着量(乾燥状態)は50〜300g/m2の範囲であるのが好ましい。50g/m2 以上とすることで十分な滑り防止効果が得られると共に、300g/m2 以下とすることで通気性が十分に得られて十分な吸音性能を得ることができると共に軽量性を維持できる。
【0056】
前記滑り止め部(7)は、前記不織布層(6)の裏面に樹脂が含浸固着されて形成された直径0.5〜5mmの凝集点状部(11)…が多数分散状態に配置されたものからなるのが好ましい(図2参照)。このような構成が採用された場合には、敷設下地面に対する滑り防止性を一層向上させることができる利点がある。中でも、前記凝集点状部(11)の直径は0.8〜3mmであるのが特に好ましい。
【0057】
前記通気性接着樹脂層(5)は、熱可塑性樹脂パウダーを加熱溶融することにより形成された接着層であるのが好ましい。前記熱可塑性樹脂パウダーとしては、特に限定されるものではないが、ポリオレフィン系樹脂を用いるのが好ましい。前記ポリオレフィン系樹脂としては、例えばポリエチレン、ポリプロピレン、非晶性ポリオレフィン(APAO)等を例示できる。この熱可塑性樹脂パウダーの塗布量、即ち通気性接着樹脂層(5)の目付量は、30〜500g/m2 に設定されるのが好ましい。30g/m2 以上とすることで十分な接着力を得ることができると共に、500g/m2 以下とすることで通気性が十分に得られて十分な吸音性能を得ることができる。
【0058】
前記熱可塑性樹脂パウダーの平均粒径は90〜1000μmであるのが好ましい。90μm以上とすることで粉が舞い上がり難くなって製造時における作業環境が向上すると共に、1000μm以下とすることで熱可塑性樹脂パウダーが溶融しやすく十分な接着強度を得ることができる。
【実施例】
【0059】
次に、この発明の具体的実施例について説明するが、この発明はこれら実施例のものに特に限定されるものではない。
【0060】
<実施例1>
図5に示すように、300g/m2の不織布(30)の片面に、SBR100質量部に対して撥水剤を11質量部の割合で含有せしめてなる固形分含有率50質量%の第1水系樹脂エマルジョン(31)を塗布した後、第1加熱装置(21A)で加熱乾燥処理した。前記撥水剤としては、日華化学株式会社製「NKガードFSN−78」(フッ素系樹脂)を用いた。
【0061】
次に、前記不織布(30)の塗布面に、アクリル樹脂(ガラス転移温度が55℃)を含有した固形分含有率50質量%の第2水系樹脂エマルジョン(32)をスプレーノズル部(23)からスプレー塗布し、この後第2加熱装置(22A)で加熱乾燥処理して、処理済み不織布層を得た。
【0062】
一方、目付120g/m2 のPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維製スパンボンド不織布からなる基布(2)にナイロン糸からなる目付650g/m2 のパイル(3)がタフトされたものの裏面に、SBRラテックスをプレコート処理して乾燥目付100g/m2 のプレコート層(4)を形成せしめて、カーペット原反を得た。
【0063】
前記カーペット原反をそのパイル面を下側にして一定速度で搬送しつつ、この上に平均粒径400μmのポリエチレンパウダーを散布量300g/m2 で塗布し、次いでこのパウダーを加熱した後、この上に前記処理済み不織布層の非塗布面を重ね合わせた後、冷却加圧ロールで加圧することによって、図1に示す構成からなる自動車用マット(1)を得た。
【0064】
得られた自動車用マット(1)において、撥水性含浸樹脂層(8)の固着量は50g/m2であり、滑り止め部(7)の固着量は120g/m2であった。また滑り止め部(7)は、樹脂が含浸固着されて形成された平均直径3mmの凝集点状部(11)…が多数分散状態に配置されたものから構成されていた。
【0065】
<実施例2>
図6に示すように、300g/m2の不織布(30)の片面に、SBR100質量部に対して撥水剤を15質量部の割合で含有せしめてなる固形分含有率45質量%の第1水系樹脂エマルジョン(31)を塗布した後、第1加熱装置(21B)で加熱乾燥処理した。前記撥水剤としては、日華化学株式会社製「NKガードFSN−78」(フッ素系樹脂)を用いた。
【0066】
次に、前記不織布(30)の非塗布面に、アクリル樹脂(ガラス転移温度が55℃)を含有した固形分含有率45質量%の第2水系樹脂エマルジョン(32)をスプレーノズル部(24)からスプレー塗布し、この後第2加熱装置(22B)で加熱乾燥処理して、処理済み不織布層を得た。
【0067】
一方、目付120g/m2 のPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維製スパンボンド不織布からなる基布(2)にナイロン糸からなる目付650g/m2 のパイル(3)がタフトされたものの裏面に、SBRラテックスをプレコート処理して乾燥目付100g/m2 のプレコート層(4)を形成せしめて、カーペット原反を得た。
【0068】
前記カーペット原反をそのパイル面を下側にして一定速度で搬送しつつ、この上に平均粒径400μmのポリエチレンパウダーを散布量300g/m2 で塗布し、次いでこのパウダーを加熱した後、この上に前記処理済み不織布層の第1水系樹脂エマルジョン塗布面を重ね合わせた後、冷却加圧ロールで加圧することによって、図4に示す構成からなる自動車用マット(1)を得た。
【0069】
得られた自動車用マット(1)において、撥水性含浸樹脂層(8)の固着量は70g/m2であり、滑り止め部(7)の固着量は100g/m2であった。また滑り止め部(7)は、樹脂が含浸固着されて形成された平均直径4mmの凝集点状部(11)…が多数分散状態に配置されたものから構成されていた。
【0070】
<実施例3>
目付120g/m2 のPET(ポリエチレンテレフタレート)繊維製スパンボンド不織布からなる基布(2)にナイロン糸からなる目付450g/m2 のパイル(3)がタフトされたものの裏面に、SBRラテックスをプレコート処理して乾燥目付100g/m2 のプレコート層(4)を形成せしめて、カーペット原反を得た。
【0071】
前記カーペット原反をそのパイル面を下側にして一定速度で搬送しつつ、この上に平均粒径400μmのポリエチレンパウダーを散布量300g/m2 で塗布し、次いでこのパウダーを加熱した後、目付300g/m2の不織布(30)を重ね合わせて冷却加圧ロールで加圧することによって、積層シート(34)を得た。
【0072】
次いで、図7に示すように、前記積層シート(34)の不織布(30)の裏面に、SBR100質量部に対して撥水剤を5質量部の割合で含有せしめてなる固形分含有率55質量%の第1水系樹脂エマルジョン(31)を塗布した後、第1加熱装置(21C)で加熱乾燥処理した。前記撥水剤としては、日華化学株式会社製「NKガードFSN−78」(フッ素系樹脂)を用いた。
【0073】
次に、前記積層シート(34)における不織布(30)の塗布面に、アクリル樹脂(ガラス転移温度が55℃)を含有した固形分含有率55質量%の第2水系樹脂エマルジョン(32)をスプレーノズル部(25)からスプレー塗布し、この後第2加熱装置(22)で加熱乾燥処理することによって、図3に示す構成からなる自動車用マット(1)を得た。
【0074】
得られた自動車用マット(1)において、撥水性含浸樹脂層(8)の固着量は70g/m2であり、滑り止め部(7)の固着量は80g/m2であった。また滑り止め部(7)は、樹脂が含浸固着されて形成された平均直径2mmの凝集点状部(11)…が多数分散状態に配置されたものから構成されていた。
【0075】
<比較例1>
第1水系樹脂エマルジョン(31)は撥水剤を含有しない構成とした以外は、実施例1と同様にして、自動車用マットを得た。
【0076】
上記のようにして得られた各自動車用マットについて下記評価法に基づいて評価を行った。
【0077】
<滑り抵抗評価法>
各マット(1)を210mm×290mmの大きさに切り出して試験片(1A)を作成し、図8に示すように、この試験片(1A)の不織布層を下側にしてカーペット(400g/m2のニードルパンチ不織布)(50)の上に載置し、更にこの試験片(1A)の上に8kg(200mm×200mm)のおもり(51)を載せて荷重を加えた状態で、試験片(1A)の一端を水平方向に引っ張って試験片(1A)をカーペット(50)上で滑らせた時の最大引張荷重(N)を測定した。試験はカーペット(50)の順目及び逆目についてそれぞれ5回測定し、それぞれその平均値を求め、これを最大引張荷重とした。
【0078】
<通気度測定法>
JIS L1096 8.27.1 A法に準拠して通気度(cm3/cm2/sec)を測定した。
【0079】
<遮水性評価法>
自動車用マットの上面(パイル面)に常温の水を100mL静かに載せ、この状態で10分間放置した。10分経過後にマット裏面への透水状態を調べた。
【0080】
(評価基準)
「◎」…マット裏面への透水が全くなく、裏面がドライな状態であった
「○」…マット裏面への透水はなかったが、裏面が半乾き状態のような湿った状態であった
「△」…マット裏面への透水は殆どなかったが、裏面が水で濡れていた
「×」…マット裏面へ透水した。
【0081】
【表1】

【0082】
表から明らかなように、この発明の実施例1〜3の自動車用マットは、通気性が良好で吸音性に優れると共に、滑り防止性に優れ、さらに良好な遮水性も備えていた。
【0083】
これに対し、本発明の範囲を逸脱する比較例1のマットは、滑り防止性が不十分であった。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】この発明の自動車用マットの一実施形態を示す断面図である。
【図2】図1の自動車用マットの裏面の一部を拡大して示す模式的平面図である。
【図3】この発明の自動車用マットの他の実施形態を示す断面図である。
【図4】この発明の自動車用マットのさらに他の実施形態を示す断面図である。
【図5】この発明の製造方法の一例を示す図である。
【図6】この発明の製造方法の他の例を示す図である。
【図7】この発明の製造方法のさらに他の例を示す図である。
【図8】滑り抵抗評価法の説明図である。
【符号の説明】
【0085】
1…自動車用マット
2…基布
3…パイル
4…プレコート層
5…通気性接着樹脂層
6…不織布層
7…滑り止め部
8…撥水性含浸樹脂層
10…表皮材層
11…凝集点状部
30…不織布
31…第1水系樹脂エマルジョン
32…第2水系樹脂エマルジョン
33…表皮材
34…積層シート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
不織布の一方の面に撥水剤を含有した第1水系樹脂エマルジョンを塗布する第1塗布工程と、
前記不織布の塗布面に、ガラス転移温度が55℃以下である樹脂を含有した第2水系樹脂エマルジョンを塗布する第2塗布工程と、
前記第2塗布工程を経た不織布の他方の面に表皮材を積層一体化する積層工程とを包含することを特徴とする自動車用マットの製造方法。
【請求項2】
不織布の一方の面に撥水剤を含有した第1水系樹脂エマルジョンを塗布する第1塗布工程と、
前記不織布の他方の面に、ガラス転移温度が55℃以下である樹脂を含有した第2水系樹脂エマルジョンを塗布する第2塗布工程と、
前記第2塗布工程を経た不織布の前記一方の面に表皮材を積層一体化する積層工程とを包含することを特徴とする自動車用マットの製造方法。
【請求項3】
不織布と表皮材とを積層して積層シートを得る積層工程と、
前記積層シートの不織布の裏面に、撥水剤を含有した第1水系樹脂エマルジョンを塗布する第1塗布工程と、
前記第1塗布工程を経た積層シートの不織布の裏面に、ガラス転移温度が55℃以下である樹脂を含有した第2水系樹脂エマルジョンを塗布する第2塗布工程とを包含することを特徴とする自動車用マットの製造方法。
【請求項4】
前記第1塗布工程で用いる第1水系樹脂エマルジョンとして、樹脂100質量部に対して撥水剤を0.5〜60質量部の割合で含有した固形分含有率30〜60質量%の水系樹脂エマルジョンを用いると共に、前記第2塗布工程で用いる第2水系樹脂エマルジョンとして、固形分含有率30〜60質量%の水系樹脂エマルジョンを用いる請求項1〜3のいずれか1項に記載の自動車用マットの製造方法。
【請求項5】
前記第2水系樹脂エマルジョンを塗布することによって、不織布における第2水系樹脂エマルジョン塗布面に、樹脂からなる多数の凝集点状部を形成せしめる請求項1〜4のいずれか1項に記載の自動車用マットの製造方法。
【請求項6】
表皮材層の下面側に不織布層が積層一体化されてなり、前記不織布層内の厚さ方向の少なくとも一部に撥水剤を含有した樹脂が含浸固着された撥水性含浸樹脂層が形成されると共に、前記不織布層の少なくとも裏面にガラス転移温度が55℃以下の樹脂が含浸固着されてなる滑り止め部が設けられていることを特徴とする自動車用マット。
【請求項7】
前記不織布層の全体に、撥水剤を含有した樹脂が含浸固着された撥水性含浸樹脂層が形成されている請求項6に記載の自動車用マット。
【請求項8】
前記滑り止め部は、前記不織布層の裏面に樹脂が含浸固着されて形成された直径0.5〜5mmの凝集点状部が多数分散状態に配置されたものからなる請求項6または7に記載の自動車用マット。
【請求項9】
前記不織布層の構成繊維の目付量が100〜750g/m2、前記撥水性含浸樹脂層の固着量が30〜300g/m2、前記滑り止め部の固着量が50〜300g/m2である請求項6〜8のいずれか1項に記載の自動車用マット。
【請求項10】
前記表皮材層として、基布の上面にパイルが植設されると共に前記基布の下面にプレコート処理がなされたカーペット原反が用いられ、前記表皮材層と前記不織布層とが熱可塑性樹脂パウダーを加熱溶融することにより形成された目付30〜500g/m2の通気性接着樹脂層を介して接着一体化されている請求項6〜9のいずれか1項に記載の自動車用マット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2007−23403(P2007−23403A)
【公開日】平成19年2月1日(2007.2.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−205071(P2005−205071)
【出願日】平成17年7月14日(2005.7.14)
【出願人】(390014487)住江織物株式会社 (294)
【Fターム(参考)】