説明

自動車用モ−ル

【課題】自動車全体としてステンレスモールの外観意匠の均一性が高く、モール全体に一体感があり、高級感のある自動車用モールの提供を目的とする。
【解決手段】プレス成形又はロール成形したステンレスモール素材の表面にブラスト処理手段を用いて、表面粗さRaの値が0.1μm〜0.4μmの範囲に入るように表面仕上げしてあることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
自動車に用いられるステンレスモールに関し、特にステンレスモール素材にブラスト処理をし、ステンレスの金属光沢を抑え、サテン調又はポリッシュ調に仕上げた自動車用モールに係る。
【背景技術】
【0002】
自動車の外装部品としてステンレス鋼板からなるモール類が多く採用されている。
例えば自動車の側方窓の周囲には、図2に示すようにサッシュモール1、ベルトラインモール2、モジュールモール3等が取り付けられ、外観意匠を形成している。
サッシュモールは図3(図2のA−A施断面端面図)に示すように、ドアサッシュの外部意匠面に取り付けるモールであり、ロール成形やプレス成形にて所定の断面形状及び曲げ形状等を造り出しているがステンレス鋼板においては曲げが強い部位が白化し、見栄えが悪くなる問題があった。
このような強い曲げ部Rでの白化現象は図4(図2のB−B施断面端面図)に示したベルトラインモールにても同様であった。
【0003】
図2に示したモジュールモールにあっては、ステンレス鋼板から素材を打ち出し、プレス成形する場合が多いが、圧延鋼板にあっては一般にコイル材にロール目が存在し、横方向に切り出す部位と縦方向に切り出す部位ではロール目の方向が異なるために意匠面の外観が均一にならない問題もあった。
また、プレス成形時に傷防止を目的に保護テープを貼っているが、完全に傷、打痕を防ぐのは困難であり、不良発生の原因の1つになっていた。
そこで、従来から、意匠面の傷及び白化を修正するためにバフ磨きを実施していたがバフ磨きした部分が他の部分と色合いが異なったり、モールに付いている樹脂部材を傷付けたりした。
【0004】
さらには、ベルトラインモールやサッシュモールのように長尺材の素材を用いる場合にはロール成形が一般的であり、コーナーガーニッシュやモジュールモールのような比較的短いものや3次元形状のものはプレス成形によるのが一般的であり、成形方法が異なると外観の仕上がりも異なり意匠の統一性に劣る問題もあった。
【0005】
ステンレスモールは製造時の光沢が強いものの風雨にさらされている間に光沢が低下する問題もあった。
自動車によっては、ステンレスモールの強い光沢が車全体のデザインを損なう場合もあった。
このような問題があることから金属光沢を抑えた、いわゆる梨地調とも称されるサテン調のステンレスモールの要望があるが、従来はサテン調の樹脂フィルムを貼り付ける方法及び塗装、メッキ処理する方法が一般的であった。
樹脂フィルムを貼り付ける方法では、意匠面が3次元曲面であったり図7に示すような意匠面断面中央部100に凹みがあると樹脂フィルムが凸部111a、111bにまず接着するので樹脂フィルムにシワが発生しやすく、フィルムが伸びないと均一に貼れない問題があり、また樹脂フィルムでは耐候性が低い。
塗装による方法では、モールに樹脂部材が接合されている場合に、塗装以外の部分をマスキングしなければならないために製造コストが高くなる要因となるだけでなく、塗装で金属感を表現することそのものが難しい。
また、メッキ処理はコストアップの要因になり、金属光沢のコントロールが難しい問題があった。
【0006】
特開2007−125684号公報にはショットブラストによる着色方法を開示するがその目的も異なり自動車用モールに適用できるものではない。
特開平11−226606号には、指紋の付着が目立ちにくくなる金属表面に関する技術を開示するが、具体的な製造方法が不明確であり、しかも、表面粗さRaが0.5μm以上では表面に高級感が現われず、自動車用モールには適用できるものではない。
【0007】
【特許文献1】特開2007−125684号公報
【特許文献2】特開平11−226606号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記背景技術に鑑みて、自動車全体としてステンレスモールの外観意匠の均一性が高く、モール全体に一体感があり、高級感のある自動車用モールの提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の技術的要旨は、自動車用モールであって、プレス成形又はロール成形したステンレスモール素材の表面にブラスト処理手段を用いて、表面粗さRaの値が0.1μm〜0.4μmの範囲に入るように表面仕上げしてあることを特徴とする。
プレス成形又はロール成形によりステンレスモール素材の曲げの強い部分が白化するが、表面粗さRaの値が0.1μm〜0.4μmの範囲であれば、この白化部分が目立たなくなり、均一な外観になる。
表面粗さRaが0.1μm未満では、白化部分が残り、光沢も強く、表面キズが目立ちやすく、表面粗さRaが0.4μmを超えると光沢がにぶくなり高級感が消失してしまう。
従って、表面粗さRaを0.1μm〜0.3μm範囲にするのが理想的である。
なお、表面粗さRaは、日本工業規格JIS B0601(1994),算術平均粗さの値を示す。
【0010】
プレス成形又はロール成形したステンレスモール素材に、ブラスト処理手段を用いて表面光沢の値をGLOSSにて50〜450の範囲にすると曲げ部の白化が目立たなくなるとともに、金属光沢を抑えつつ高級感がでることが明らかになった。
なお、光沢GLOSSの値は100〜400の値が理想的である。
ここで、光沢GLOSSの値は、日本工業規格JIS Z8741に基づき、同JISに規定する方法3,G(60°)にて測定した。
即ち、ショットブラストで光沢を調整すればサテン調又はポリッシュ調の高級感のある外観になる。
ここでサテン調とは元のステンレスモール素材表面が消失するレベルに微細な凹凸面を形成することで金属光沢が抑えられたものをいい、ポリッシュ調とは元のステンレスモール素材表面の一部がそのまま残るようにブラスト処理し、金属光沢が2重に見え深みが出た状態をいう。
ブラスト処理としてはガラスビーズ、樹脂ビーズ、SUS球、セラミックス球等の各種ショット材を用いたショットブラストが適用できる。
なかでもガラスビーズ、樹脂ビーズのような比較的に硬度の低い材質を用いると良い。
ガラスビーズは、♯150(平均粒径:115μm)〜♯400(平均粒径:50μm以下)の物を用いると良い。
【0011】
自動車用モールにおいてはステンレスモール素材に樹脂部材を接着したり、ステンレスモール芯材に樹脂を複合押出接合する場合、さらには、ステンレスのプレス成形素材に射出成形にて樹脂部材を接合することも広く採用されている。
これらのステンレス鋼板と樹脂部材との複合モールもそのままブラスト処理ができる。
また、軟質の樹脂の樹脂部材を採用すると、柔らかい材質のショット材では、樹脂部材に傷が付かなく、ステンレス部分のみをサテン調に仕上げることができる。
【0012】
ステンレス鋼板としてBA仕上げステンレス鋼材(JIS 4305)を用いると、色調のコントロールが容易である。
【0013】
ステンレス鋼板を用いて、ロール成形した後に複合押出方法にて軟質の樹脂部材を接合したステンレスモール素材や、プレス成形した後に射出成形にて軟質の樹脂部材を接合したステンレスモール素材にガラスビーズや樹脂ビーズを用いてブラスト処理をすれば樹脂部材に傷を付けることなく、ステンレス材の表面の色調をコントロールすることができることは先に説明したが、ステンレス鋼板を用いてロール成形したものに、ブラスト処理を施し、その後に複合押出方法にて樹脂部材を接合する方法及び同様にステンレス鋼板を用いてプレス成形したものにブラスト処理を施し、その後に射出成形にて樹脂部材を接合すると、ステンレスモール素材の表面に形成された微細な凹凸に樹脂材料が物理的に密着し、ステンレス材と樹脂部材との接着強度が向上し、且つステンレス材の色調をコントロールすることができる。
また、ロール及び押出成形後のストレート材にサテン調処理を行い、その後に曲げ工程を行う場合もある。
【発明の効果】
【0014】
本発明に係る自動車用モールにおいては、ステンレス鋼板を用いてプレス成形又はロール成形した後にブラスト処理により表面に表面粗さRa0.1μm〜0.4μmの微細な凹凸を形成してあるので断面曲げ部等の白化が目立たなくなり、外観意匠が均一になっているのでロール成形品とプレス成形品とを組み合わせた自動車モールにおいても全体としての均一性が高い。
また、プレス成形時等の製造過程に生じる打痕や傷も目立たなくなるため不良率が低減する。
【0015】
ステンレス鋼板の表面にブラスト処理すると、サテン調の柔らかい光沢からなる外観が得られることにより、自動車全体として新規のデザインが得られる。
また、ブラスト処理のショット圧を低くしたり、硬度の低いショット玉の選定をすることで金属光沢を残したポリッシュ調に仕上げることができる。
ポリッシュ調に仕上げると反射光が二重になり深みがでる。
表面を柔らかい色調にコントロールしたことにより、風雨による経時変化も少なくなる。
自動車モールを設計する場合に、従来は、断面曲げRの小さい部位は外部から目立たない位置に配置するか曲げRを大きくせざるを得なかったが、本発明により意匠面に小R曲げ部を配置できるので設計自由度が大きくなる。
よって、従来の樹脂フィルムや塗装では剥がれやすく耐久性に問題があったが、本発明は耐久性も大きく向上する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
図3に示すような、ドアサッシュ11の外表面部に取り付けるサッシュモール1をプレス成形し、樹脂部材1aを接着した状態で、ブラスト処理した。
ショット材として、平均粒径50μmのガラスビーズ、#300(不二製作所製)を用いて試験片をベルトコンベアーの上に載置し、ラインスピード200mm/分の速度で移動している上方からショットし、その時のショット圧を変えて作成した。
その結果を図1に示す。
光沢はグロス値を3回測定し、平均値を求め、表面粗さはロール目に沿った方向を長さ方向とし、それと直角方向を幅方向とした。
この試験結果に基づいて表面粗さと光沢の関係をグラフにしたものを図1(b)に示す。
ブラスト処理する前は、図3に示した強い曲げ部Rに白化が認められたが、実施例1〜3の条件でブラスト処理後はいずれも白化が認められなくなり、全体として均一な外観になった(外観評価「○」とした。)。
実施例1は、ショット圧0.15MPaでブラスト処理した結果、外観がサテン調に仕上がり、高級感があった。
実施例2は、ショット圧0.10MPaでブラスト処理した結果、外観がポリッシュ調に仕上がった。
実施例3は、ショット圧0.07MPaでブラスト処理した結果、外観が実施例2より少し光沢が強いポリッシュ調に仕上がった。
比較例は、BA仕上げステンレス鋼板をプレス成形後、そのまま表面を測定した値である(これまで一般に採用されている光モールである。)。
曲げ部に白化が認められ、プレス傷も認められたので外観評価を「×」とした。
グロス(光沢)は、日本工業規格JIS Z8741に基づき、測定器(日本電色工業株式会社製、VG2000型)を用い、光沢度93.1の常用標準黒板を標準面とし、G(60°)の値を測定した。
表面粗さは、測定器(株式会社ミツトヨ製、SV−414)を用いて、ロール目方向を長さ方向とし、その直角方向を幅方向とし、8mmの長さを測り、Raの値を求めた。
図1に示したグラフから表面粗さと光沢には相関が認められ、好ましい表面粗さは0.1μm以上、0.3μm以下である。
光沢から評価すれば、グロス(GLOSS)で100〜400の範囲である。
【0017】
図4に示すような、ドアパネル12に取り付けるベルトラインモール2をロール成形し、その後にリップ2bの有する樹脂部材2aを複合押出して得た。
この状態では図4に示した曲げ部Rが白化していたが、実施例2の条件にてブラスト処理をしたところ、曲げ部Rの白化が認められなくなり、ポリッシュ調の外観のモールに仕上がった。
【0018】
図2に示す、ステンレス鋼板に保護テープを貼りプレス成形したモジュールモール3は保護テープを剥がすと打痕傷が認められたが、実施例2の条件にてブラスト処理をすると、傷が消失しポリッシュ調に仕上がっていた。
なお、図2において4a、4b、4cはピラーである。
実施例2の条件でブラスト処理したサッシュモール1,ベルトラインモール2,モジュールモール3を自動車の側方窓として組み付けたところ、全体として色調が均一で、傷や曲げ部の白化がなく、外観意匠性に優れていた。
【0019】
車両のドア開口縁部には、サイドシル部を保護するために、図6に示すようなスカッフプレート5が取り付けられている。
これについても、ブラスト処理することで、ステンレス素材に生じていた曲げ部Rの白化が目立たなくなる。
また、スカッフプレートは人が乗り降りするときに、脚が当たりやすく傷付きやすい箇所に取り付いているため、サテン調に仕上げて光沢を抑えることで人が乗り降りするときに意匠面に傷が付きやすいがその傷が目立たなくなる効果もある。
【0020】
本発明は、ステンレスモール素材に樹脂部材を接合した後に表面にブラスト処理をしてもよいが、ステンレス鋼板にブラスト処理をした後に樹脂部材を複合押出成形する例を図5に基づいて説明する。
コイル状に巻いてあるドラムからステンレス材Mを巻き戻して、断面形状をロール成形機21を用いてロール成形する。
ブラスト処理は、ロール成形時に傷が発生する恐れもあるのでロール成形後にショット機20bを配置するのがよいが、ロール成形機前にショット機20aを配置してもよい。
ブラスト処理をしたステンレスモール素材2は複合押出機22にて樹脂部材が複合成形され、冷却機23を経由して引取機24にて連続的に引き出され、切断機25にて定尺寸法に切断される。
このように樹脂部材を複合押出成形する前にブラスト処理をすると、樹脂部材の接着強度が向上する。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、従来の自動用ステンレスモールに替る新規なデザインの自動車モールに適用でき、自動車の側方窓のようにプレス成形、ロール成形等のそれぞれ異なる製法で成形された各種モールを統一的に表面仕上げするのに効果的である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】外観の評価結果を示す。
【図2】自動車の側方窓周囲のモールの構成例を示す。
【図3】サッシュモールの断面例を示す。
【図4】ベルトラインモールの断面例を示す。
【図5】自動車用モールの製造工程例を示す。
【図6】スカッフプレートに本発明を適用した例を示す。
【図7】モールの意匠面に樹脂フィルムを貼る例を示す。
【符号の説明】
【0023】
1 サッシュモール
1a 樹脂部材
2 ベルトラインモール
2a 樹脂部材
2b リップ
3 モジュールモール
5 スカッフプレート
11 ドアサッシュ
12 ドアパネル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
プレス成形又はロール成形したステンレスモール素材の表面にブラスト処理手段を用いて、表面粗さRaの値が0.1μm〜0.4μmの範囲に入るように表面仕上げしてあることを特徴とする自動車用モール。
【請求項2】
プレス成形又はロール成形したステンレスモール素材の表面にブラスト処理手段を用いて、表面光沢の値をGLOSSにて50〜450の範囲に表面仕上げしてあることを特徴とする自動車用モール。
【請求項3】
ステンレスモール素材は、BA仕上げステンレス鋼板であることを特徴とする請求項1又は2記載の自動車用モール。
【請求項4】
ブラスト処理に用いるショット材は、ガラスビーズであることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の自動車モール。
【請求項5】
ステンレスモール素材には、樹脂部材が接合されているものであることを特徴とする請求項1〜4のいずれかに記載の自動車用モール。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2011−213125(P2011−213125A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−180764(P2008−180764)
【出願日】平成20年7月10日(2008.7.10)
【出願人】(000240949)片山工業株式会社 (42)
【Fターム(参考)】