説明

自動車用冷却水回路及び自動車用冷却水回路の制御方法

【課題】 コストアップを抑制しつつ、冷間始動時など速暖性が求められる状況においてヒーターコアへの水流れは確保して暖房性能を確保すると共に、水冷エンジンの速暖性を確保することができる自動車用冷却水回路及び自動車用冷却水回路の制御方法の提供。
【解決手段】 水冷エンジン1とラジエータ2との間に冷却水を循環させ、ラジエータ2と並列に設けられたバイパス回路31にヒーターコア3が設けられた冷却水循環回路11において、該冷却水循環回路11に流量調整可能で流れ方向を正流と逆流に切り換え可能な電動ポンプ4が設けられ、ヒーターコア3と並列に設けられたラジエータ2側の回路21に冷却水の流れ方向の逆流を阻止する逆止弁5が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車用冷却水回路及び自動車用冷却水回路の制御方法
に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、水冷エンジン採用車種の殆どにおいて、冷却水循環にはエンジン駆動のメカポンプが採用されている。このメカポンプは、エンジン回転数により流量が決定し、原則、メカポンプ本体での流量制御ができない。そのため、速暖性向上および水温調節のためにラジエータ回路にサーモスタットが設けられ、このラジエータ回路と並列に設けられたバイパス回路にヒーターコアが設けられている(例えば、特許文献1参照。)。
【特許文献1】特開2007−182859号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、エンジン駆動のメカポンプは、上述のように、任意の流量制御ができない為、冷間始動時など速暖性が求められる状況においても、必要以上の冷却水が流れる場合がある。そのため、通常サーモスタットを組み合わせたバイパス回路を設けるが、暖機終了後は冷却に寄与しない水が流れ、ポンプの作動ロスにつながる。
また、流路中にサーモスタットが位置するため通水抵抗が増加してしまう。
【0004】
そこで、流量を任意で変更することができる電動ウォーターポンプを採用する事で、冷間始動時の速暖性を向上させたシステムも存在するが、通水抵抗低減を目的としてサーモスタットを廃止した場合、ラジエータはヒーターコアと並列接続されている事から、ラジエータへの流量を減少させた時に、同時にヒーターコアへの水流量も減少してしまい、暖房性能が下がってしまう。
よって、ヒーターコアへの流量配分を確保する為に電子制御バルブ機構を備える必要があり、コストアップに繋がるという問題がある。
【0005】
本発明の解決しようとする課題は、コストアップを抑制しつつ、冷間始動時など速暖性が求められる状況においてヒーターコアへの水流れは確保して暖房性能を確保すると共に、水冷エンジンの速暖性を確保することができる自動車用冷却水回路及び自動車用冷却水回路の制御方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するため請求項1記載の自動車用冷却水回路は、水冷エンジンとラジエータとの間に冷却水を循環させ、ラジエータと並列に設けられたバイパス回路にヒーターコアが設けられた冷却水循環回路において、該冷却水循環回路に流量調整可能で流れ方向を正流と逆流に切り換え可能な循環ポンプ手段が設けられ、ヒーターコアと並列に設けられたラジエータ側の回路に冷却水の流れ方向の逆流を阻止する逆止弁が設けられていることを特徴とする手段とした。
【0007】
請求項4記載の自動車用冷却水回路の制御方法は、水冷エンジンとラジエータとの間に冷却水を循環させ、ラジエータと並列に設けられたバイパス回路にヒーターコアが設けられ、該冷却水循環回路に流量調整可能で流れ方向を正流と逆流に切り換え可能な循環ポンプ手段が設けられ、ヒーターコアと並列に設けられたラジエータ側の回路に冷却水の流れ方向の逆流を阻止する逆止弁が設けられた自動車用冷却水回路において、冷間始動時等の水冷エンジンの速暖性が求められる状況においては循環ポンプ手段の流れ方向を逆流に切り換え、その間冷却水の循環流量を減少させる方向に循環ポンプ手段を制御するようにしたことを特徴とする手段とした。
【発明の効果】
【0008】
本発明請求項1記載の自動車用冷却水回路では、上述のように、冷却水循環回路に流量調整可能で流れ方向を正流と逆流に切り換え可能な循環ポンプ手段が設けられ、ヒーターコアと並列に設けられたラジエータ側の回路に冷却水の流れ方向の逆流を阻止する逆止弁が設けられている構成とすることで、冷間始動時等の水冷エンジンの速暖性が求められる状況においては循環ポンプ手段の流れ方向を逆流に切り換えることにより、逆止弁でラジエータ側の回路への冷却水の流れが停止されて水冷エンジンの速暖性が確保されると共に、ヒーターコアへの冷却水の流れは確保されるので暖房性能を確保することができる。
【0009】
また、その間循環ポンプ手段において冷却水の流量調整が可能であるため、ヒーターコアへ必要流量だけ冷却水を循環させることができる。
【0010】
なお、逆止弁は電子制御バルブ機構を設ける場合に比べ構造が簡単でかつ制御機構が不要であるためコストアップを抑制することができ、また、サーモスタットを設ける場合に比べて冷却水の流通抵抗を少なくすることができる。
【0011】
請求項4記載の自動車用冷却水回路の制御方法では、冷間始動時等の水冷エンジンの速暖性が求められる状況においては循環ポンプ手段の流れ方向を逆流に切り換え、その間冷却水の循環流量を減少させる方向に循環ポンプ手段を制御するようにしたことで、逆止弁でラジエータ側の回路への冷却水の流れが停止されて水冷エンジンの速暖性が確保されると共に、ヒーターコアへの水流れは確保されるので暖房性能を確保することができる。
【0012】
また、その間ヒーターコアへの流量を必要最小限度に抑えることで、水冷エンジンの速暖効果を高めることができるようになる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下にこの発明の実施例を図面に基づいて説明する。
【実施例1】
【0014】
この実施例1の自動車用冷却水回路は、請求項1、2、4に記載の発明に対応する。
【0015】
まず、この実施例1の自動車用冷却水回路を図面に基づいて説明する。
【0016】
図1はこの実施例1の自動車用冷却水回路における通常走行時を示す回路図、図2は実施例1の自動車用冷却水回路における冷間始動時を示す回路図である。
【0017】
この自動車用冷却水回路は、図1に示すように、水冷エンジン1とラジエータ2との間に冷却水を循環させ、ラジエータ2と並列に設けられたバイパス回路31にヒーターコア3が設けられた冷却水循環回路11において、該冷却水循環回路11に流量調整可能で流れ方向を正流と逆流に切り換え可能な一台の電動ポンプ(循環ポンプ手段)4が設けられている。
【0018】
なお、ラジエータ2は、水冷エンジン1で熱せられた冷却水を走行風等の外気と熱交換して冷却するエンジン冷却用熱交換器である。
【0019】
また、ヒーターコア3は、水冷エンジン1で熱せられた冷却水を車室内へ導入する外気と熱交換して車室内を暖めるエアコン用熱交換器である。
【0020】
そして、ヒーターコア3と並列に設けられたラジエータ2側の回路21に冷却水の流れ方向の逆流を阻止する逆止弁5が設けられた構成となっている。
【0021】
次に、この実施例1の作用・効果を説明する。
【0022】
この実施例1の自動車用冷却水回路では上述のように構成されるため、冷間始動時等の水冷エンジン1の速暖性が求められる状況においては、図2に示すように、電動ポンプ4の流れ方向を正流(図1参照)から逆流に切り換える。
【0023】
すると、ラジエータ2が設けられた回路21には逆止弁5が設けられているため、冷却水はヒーターコア3が設けられたバイパス回路31を通って水冷エンジン1へと流れる。
【0024】
これにより、熱交換容量の大きいラジエータ2を迂回して冷却水が循環することで、水冷エンジン1の速暖性が確保される。
【0025】
また、その間は、ヒーターコア3への冷却水の流れは確保されるので暖房性能を確保することができる。
【0026】
さらに、この状態で、電動ポンプ4において冷却水の流量を減少する方向に制御し、ヒーターコア3へ必要流量だけ冷却水を循環させることができる。これにより、水冷エンジン1の速暖効果を高めることができるようになる。
【0027】
次に、水冷エンジン1が所定温度以上に暖まった時点で、図1に示すように、電動ポンプ5の流れ方向を正流に切り換える。
【0028】
すると、水冷エンジン1からでる冷却水は逆止弁6を通過してラジエータ2へ流れる一方、ヒーターコア3を流れて水冷エンジン1に戻る流れとなる。これにより、水冷エンジン1を効率的に冷却することができると共に、水冷エンジン1で熱交換された冷却水の温度で十分な暖房効果を得ることができる。
【0029】
また、逆止弁5は電子制御バルブ機構を設ける場合に比べ構造が簡単でかつ制御機構が不要であるためコストアップを抑制することができ、また、サーモスタットを設ける場合に比べて冷却水の流通抵抗を少なくすることができる。
【0030】
次に、他の実施例について説明する。この他の実施例の説明にあたっては、上記実施例1と同様の構成部分については図示を省略し、もしくは同一の符号を付けてその説明を省略し、相違点についてのみ説明する。
【実施例2】
【0031】
この実施例2の自動車用冷却水回路は、請求項1、3に記載の発明に対応する。
【0032】
この実施例2は、実施例1における自動車用冷却水回路の変形例を示すものであり、図3の回路図に示すように、循環ポンプ手段が、冷却水循環回路11に並列に設けられた両流路12、13にそれぞれ設けた流量調整可能な2台の電動ポンプ41、42で構成され、該両電動ポンプ41、42の流れ方向が正流と逆流になるように配置されている。
【0033】
即ち、この実施例2では、冷間始動時等の水冷エンジン1の速暖性が求められる状況においては、電動ポンプ42を駆動させることにより、図3の点線矢印で示すように、冷却水循環回路11における冷却水の流れ方向が逆流になる。
【0034】
すると、ラジエータ2が設けられた回路21には逆止弁5が設けられているため、冷却水はヒーターコア3が設けられたバイパス回路31を通って水冷エンジン1へと流れる。
【0035】
これにより、熱交換容量の大きいラジエータ2を迂回して冷却水が循環することで、水冷エンジン1の速暖性が確保される。
【0036】
また、その間は、ヒーターコア3への冷却水の流れは確保されるので暖房性能を確保することができる。
【0037】
さらに、この状態で、電動ポンプ42において冷却水の流量を減少する方向に制御し、ヒーターコア3へ必要流量だけ冷却水を循環させることができる。これにより、水冷エンジン1の速暖効果を高めることができるようになる。
【0038】
次に、水冷エンジン1が所定温度以上に暖まった時点で、電動ポンプ42の駆動を停止させると共に、電動ポンプ41を駆動させることにより、図3の実線矢印で示すように、冷却水循環回路11における冷却水の流れ方向を正流に切り換える。
【0039】
すると、水冷エンジン1からでる冷却水は逆止弁5を通過してラジエータ2へ流れる一方、ヒーターコア3を流れて水冷エンジン1に戻る流れとなる。これにより、水冷エンジン1を効率的に冷却することができると共に、水冷エンジン1で熱交換された冷却水の温度で十分な暖房効果を得ることができる。
【0040】
以上のように、この実施例2では、実施例1と同様の効果が得られる。
また、この実施例2では、2台の電動ポンプ41、42を備えることで、正流と逆流に切り換える機能は必要でないため、切り換え機能を有する軸流ポンプ等に比べて効率の高い遠心ポンプ等を使用することが可能になるという、追加の効果が得られる。
【0041】
以上本実施例を説明してきたが、本発明は上述の実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲の設計変更等があっても、本発明に含まれる。
【0042】
例えば、実施例2では、両電動ポンプ41、42を流量調整可能としたが、正流側の電動ポンプ41は、必ずしも流量調整可能でなくてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施例1の自動車用冷却水回路における通常走行時を示す回路図である。
【図2】実施例1の自動車用冷却水回路における冷間始動時を示す回路図である。
【図3】実施例2の自動車用冷却水回路を示す図である。
【符号の説明】
【0044】
1 水冷エンジン
11 冷却水循環回路
12 流路
13 流路
2 ラジエータ
21 ラジエータ側回路
3 ヒーターコア
31 バイパス回路
4 電動ポンプ(循環ポンプ手段)
41 電動ポンプ(循環ポンプ手段)
42 電動ポンプ(循環ポンプ手段)
5 逆止弁

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水冷エンジンとラジエータとの間に冷却水を循環させ、前記ラジエータと並列に設けられたバイパス回路にヒーターコアが設けられた冷却水循環回路において、
該冷却水循環回路に流量調整可能で流れ方向を正流と逆流に切り換え可能な循環ポンプ手段が設けられ、
前記ヒーターコアと並列に設けられたラジエータ側の回路に前記冷却水の流れ方向の逆流を阻止する逆止弁が設けられていることを特徴とする自動車用冷却水回路。
【請求項2】
請求項1に記載の自動車用冷却水回路において、前記循環ポンプ手段が前記冷却水循環回路に流量調整可能で流れ方向の切り換えが可能な一台の電動ポンプで構成されていることを特徴とする自動車用冷却水回路。
【請求項3】
請求項1に記載の自動車用冷却水回路において、前記循環ポンプ手段が前記冷却水循環回路に並列に設けられた両流路にそれぞれ設けた流量調整可能な2台の電動ポンプで構成され、
該両電動ポンプの流れ方向が正流と逆流になるように配置されていることを特徴とする自動車用冷却水回路。
【請求項4】
水冷エンジンとラジエータとの間に冷却水を循環させ、前記ラジエータと並列に設けられたバイパス回路にヒーターコアが設けられ、該冷却水循環回路に流量調整可能で流れ方向を正流と逆流に切り換え可能な循環ポンプ手段が設けられ、前記ヒーターコアと並列に設けられたラジエータ側の回路に前記冷却水の流れ方向の逆流を阻止する逆止弁が設けられた自動車用冷却水回路において、
冷間始動時等の前記水冷エンジンの速暖性が求められる状況においては前記循環ポンプ手段の流れ方向を逆流に切り換え、その間前記冷却水の循環流量を減少させる方向に前記循環ポンプ手段を制御するようにしたことを特徴とする自動車用冷却水回路の制御方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−209708(P2009−209708A)
【公開日】平成21年9月17日(2009.9.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−51451(P2008−51451)
【出願日】平成20年3月1日(2008.3.1)
【出願人】(000004765)カルソニックカンセイ株式会社 (3,404)
【Fターム(参考)】