説明

自動車運転支援装置および自動車

【課題】大きな力で自動車操縦機器を一定位置または角度で保持する必要がある状況であっても、アクチュエータのエネルギー消費を抑制し、機器の寿命を確保すると共に、装置の小型化を図る。
【解決手段】自動車の運転を支援する自動車運転支援装置であって、駆動力を発生するアクチュエータと、前記アクチュエータが発生した駆動力を一方向にのみ伝達する不可逆機構と、前記不可逆機構から伝達される駆動力を伝達しまたは切断する切り替え機構と、前記駆動力切断機構が前記不可逆機構から伝達される駆動力を伝達するときに、自動車操縦機器へ前記駆動力を伝達する駆動力伝達機構と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車の運転を支援する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、自動車の運転を支援する自動車運転支援装置が提案されている。例えば、特許文献1には、油圧シリンダーなどを用いた運転支援システムが開示されている。この運転支援システムでは、ブレーキ、アクセルのそれぞれのペダルについて、油圧アクチュエータを配置している。また、特許文献2には、電動モータを使用した運転支援システムが開示されている。この運転支援システムは、ペダルおよびブレーキ駆動用に1つの電動モータを備えると共に、舵取りハンドルの回転駆動用に1つの電動モータを備えている。そして、各電動モータをペダル付近、ハンドルの付け根付近に設置し、1本のスティックで2つの電動モータの動きを操作する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】米国特許第4722416号明細書
【特許文献2】米国特許第5086870号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記の従来の技術では、ステアリングホイール、アクセルペダル、およびブレーキペダルを含む自動車操縦機器の作動に大きな力が必要となる状況、例えば、ブレーキを完全にかけた場合や,車両が停止した状態での操舵動作である、いわゆる“すえきり動作”の場合では、油圧シリンダーにより常に大きな出力を維持しつづける必要がある。その結果、エネルギー消費量が大きくなったり,機器の寿命を短くなったり,また、装置自体の大きさが大きくなったりする欠点があった。さらに,油圧ポンプが何らかの異常で停止した場合には,シリンダー動作と自動車操縦機器の動作を瞬時に切り離すことが困難であったので、車両の安全性が十分であるとは言い切れなかった。
【0005】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、大きな力で自動車操縦機器を一定位置または角度で保持する必要がある状況であっても、アクチュエータのエネルギー消費を抑制し、機器の寿命を確保すると共に、装置の小型化を図ることができる自動車運転支援装置および自動車を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)上記の目的を達成するために、本発明は、以下のような手段を講じた。すなわち、本発明の自動車運転支援装置は、自動車の運転を支援する自動車運転支援装置であって、駆動力を発生するアクチュエータと、前記アクチュエータが発生した駆動力を一方向にのみ伝達する不可逆機構と、前記不可逆機構から伝達される駆動力を伝達しまたは切断する切り替え機構と、前記駆動力切断機構が前記不可逆機構から伝達される駆動力を伝達するときに、自動車操縦機器へ前記駆動力を伝達する駆動力伝達機構と、を備えることを特徴とする。
【0007】
このように、アクチュエータが発生した駆動力を一方向にのみ伝達する不可逆機構および不可逆機構から伝達される駆動力を伝達しまたは切断する切り替え機構を備えるので、アクチュエータ自身、アクチュエータの制御装置、または、アクチュエータのエネルギー源である自動車のバッテリーシステムや油圧、空気圧システムその他の箇所において、運転者の意図に反したアクチュエータ動作が発生したときに、アクチュエータと自動車操縦機器あるいは不可逆機構との動力伝達を切り離すことができるので、車両の安全を確保することが可能となる。
【0008】
(2)また、本発明の自動車運転支援装置において、前記不可逆機構は、前記アクチュエータから回転力を受けて回転するウォームギアと、前記ウォームギアと連動するウォームホイールと、から構成され、前記切り替え機構は、電磁クラッチから構成されることを特徴とする。
【0009】
この構成により、運転者に予期せぬ事態が生じた場合であっても、アクチュエータと自動車操縦機器あるいは不可逆機構との動力伝達を切り離すことができるので、車両の安全を確保することが可能となる。
【0010】
(3)また、本発明の自動車運転支援装置において、前記電磁クラッチを接続状態から切断状態に切り替えるスイッチと、前記スイッチが操作されたときに、前記自動車のブレーキペダルを操作する停止装置と、を更に備えることを特徴とする。
【0011】
このように、電磁クラッチを接続状態から切断状態に切り替えるスイッチと、スイッチが操作されたときに、自動車のブレーキペダルを操作する停止装置を備えるので、車両の安全を確保することが可能となる。
【0012】
(4)また、本発明の自動車運転支援装置において、前記自動車操縦機器は、前記アクチュエータから伝達された駆動力で駆動するステアリンク駆動システムおよびアクセル・ブレーキ駆動システムであることを特徴とする。
【0013】
この構成により、アクチュエータと自動車操縦機器あるいは不可逆機構との動力伝達を切り離すことができるので、車両の安全を確保することが可能となる。
【0014】
(5)また、本発明の自動車は、上記(1)から(4)のいずれかに記載の自動車運転支援装置を備えたことを特徴とする。
【0015】
この構成により、一般の自動車について後付けで自動車運転支援装置として機能させることが可能となる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、アクチュエータが発生した駆動力を一方向にのみ伝達する不可逆機構および不可逆機構から伝達される駆動力を伝達しまたは切断する切り替え機構を備えるので、アクチュエータ自身、アクチュエータの制御装置、または、アクチュエータのエネルギー源である自動車のバッテリーシステムや油圧、空気圧システムその他の箇所において、運転者の意図に反したアクチュエータ動作が発生したときに、アクチュエータと自動車操縦機器あるいは不可逆機構との動力伝達を切り離すことができるので、車両の安全を確保することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】第1の実施形態に係る自動車運転支援装置のステアリングホイールの駆動機構を示す図である。
【図2】第1の実施形態に係る自動車運転支援装置のペダルの駆動機構を示す図である。
【図3】第2の実施形態に係る自動車運転支援装置の概要を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
(第1の実施形態)
図1は、第1の実施形態に係る自動車運転支援装置のステアリングホイールの駆動機構を示す図である。このステアリングホイールの駆動機構では、ステアリングドライブユニット10からの駆動力をユニバーサルジョイント17で伝達する。この駆動力は、チェーン18、スプロケット19を介して、ステアリングホイール21に伝達される。ステアリングホイール21には、パワーステアリングユニット20が設けられており、運転者は楽にステアリングホイールを操作することができるように構成されている。パワーステアリングユニット20は、ステアリングラック22を介してフロントタイヤ23の操舵角を制御する。
【0019】
ステアリングドライブユニット10は、アクチュエータとして機能するモータ11と、このモータ11の駆動力を受けて回転するウォームギア12を有している。このウォームギア12は、不可逆機構を構成し、ウォームギア12の回転力は、ウォームホイール13に伝達される。切り替え機構としてのマグネットクラッチ(電磁クラッチ)14は、ウォームホイール13からの駆動力を伝達したり、切断したりする。マグネットクラッチ14が接続状態である場合は、ギア16a、16b、16cに回転力が伝達される。ポテンショメータ15は、ステアリングドライブユニット10によるステアリングホイールの変位を検出する。
【0020】
このような構成により、操舵輪から逆伝搬する力がモータ11に伝達することが防止され、安定した操舵動作を行なうことが可能となる。また、近年の自動車に備えられるパワーステアリング装置に一切改変を加えることなく、その機能を有効に活用して、運転支援システムを用いることが可能となる。この際、パワーステアリングの形態は、油圧、電動の如何を問わず、あらゆる種類に対応することができる。これにより、自動車運転支援装置の小型化を図ることが可能となる。
【0021】
さらに、ステアリングホイール21が目標の角度に達したら、ポテンショメータ15の検出結果に基づいて、モータ11の電源を遮断したとしても、ステアリングホイール21が不用意に回転することがなく、エネルギー消費を抑制することが可能となる。その結果、自動車運転支援装置の小型化を図ることが可能となる。
【0022】
図2は、第1の実施形態に係る自動車運転支援装置のペダルの駆動機構を示す図である。このペダルの駆動機構では、ペダルドライブユニット30からの駆動力をドライブアーム37で伝達する。この駆動力は、ロッド38、L形プレート39を介してブレーキペダル41およびアクセルペダル(ガスペダル)42に伝達される。
【0023】
なお、アクセルペダルとL形プレート39とは、チェーン40を介して接続されている。これにより、ブレーキペダル41が操作されるとき、すなわち、紙面に向かって右側にL形プレート39が動くときにはチェーン40がたるむため、アクセルペダル42には駆動力は伝達されない。一方、アクセルペダル42が操作されるとき、すなわち、紙面に向かって左側にL形プレート39が動くときには、チェーン40には張力がかかるため、アクセルペダル42に駆動力が伝達される。
【0024】
ペダルドライブユニット30は、アクチュエータとして機能するモータ31と、このモータ31の駆動力を受けて回転するウォームギア32を有している。このウォームギア32は、不可逆機構を構成し、ウォームギア32の回転力は、ウォームホイール33に伝達される。切り替え機構としてのマグネットクラッチ(電磁クラッチ)34は、ウォームホイール33からの駆動力を伝達したり、切断したりする。マグネットクラッチ34が接続状態である場合は、ギア36a、36bに回転力が伝達される。ポテンショメータ35は、ペダルドライブユニット30によるペダルの変位を検出する。
【0025】
このような構成により、ブレーキペダル41およびアクセルペダル42から逆伝搬する力がモータ31に伝達することが防止され、安定したペダル動作を行なうことが可能となる。
【0026】
(第2の実施形態)
図3は、第2の実施形態に係る自動車運転支援装置の概要を示す図である。ここでは、ステアリングホイールの駆動機構と、ペダルの駆動機構とを合わせて示している。ジョイスティック100は、運転者がステアリングホイールを操作するための操作レバーである。ジョイスティック100は、運転者の操作角度をシステムコントローラ101に出力する。システムコントローラ101は、コンピュータ102と、FETブリッジ103と、リレー104とを備えており、モータ11の駆動を制御する。
【0027】
このモータ11の駆動力は、ウォームギア12に伝達される。このウォームギア12は、不可逆機構を構成し、ウォームギア12の回転力は、ウォームホイール13に伝達される。切り替え機構としてのマグネットクラッチ(電磁クラッチ)14は、ウォームホイール13からの駆動力を伝達したり、切断したりする。マグネットクラッチ14が接続状態である場合は、ギア16a、16bに回転力が伝達される。そして、図示しないユニバーサルジョイントを介して、ステアリングホイールに駆動力が伝達される。ポテンショメータ15は、ステアリングホイールの変位を検出する。
【0028】
このような構成により、操舵輪から逆伝搬する力がモータ11に伝達することが防止され、安定した操舵動作を行なうことが可能となる。また、近年の自動車に備えられるパワーステアリング装置に一切改変を加えることなく、その機能を有効に活用して、運転支援システムを用いることが可能となる。この際、パワーステアリングの形態は、油圧、電動の如何を問わず、あらゆる種類に対応することができる。これにより、自動車運転支援装置の小型化を図ることが可能となる。
【0029】
ジョイスティック200は、運転者がブレーキペダル41およびアクセルペダル42を操作するための操作レバーである。ジョイスティック200は、運転者の操作角度をシステムコントローラ201に出力する。システムコントローラ201は、コンピュータ202と、FETブリッジ203と、リレー204とを備えており、モータ31の駆動を制御する。このモータ31の駆動力は、ウォームギア32に伝達される。このウォームギア32は、不可逆機構を構成し、ウォームギア32の回転力は、ウォームホイール33に伝達される。切り替え機構としてのマグネットクラッチ(電磁クラッチ)34は、ウォームホイール33からの駆動力を伝達したり、切断したりする。マグネットクラッチ34が接続状態である場合は、ギア36a、36bに回転力が伝達される。ポテンショメータ35は、ブレーキペダル41およびアクセルペダル42の変位を検出する。
【0030】
このような構成により、ブレーキペダル41およびアクセルペダル42から逆伝搬する力がモータ31に伝達することが防止され、安定したペダル動作を行なうことが可能となる。
【0031】
また、第2の実施形態に係る自動車運転支援装置は、マグネットクラッチ14を接続状態から切断状態に切り替えるスイッチ50を備えている。また、スイッチ50が操作されたときに、自動車のブレーキペダル41を操作する停止装置を備えている。また、第2の実施形態に係る自動車運転支援装置は、マグネットクラッチ34を接続状態から切断状態に切り替えるスイッチ51を備えている。また、スイッチ51が操作されたときに、自動車のブレーキペダル41を操作する停止装置を備えている。すなわち、第2の実施形態では、各マグネットクラッチの動力線にスイッチを挿入し、非常停止の際には、マグネットクラッチの動力を強制的に切断する。これにより、いかなるモータの動作も操作装置には伝達されず、図示しない空気圧シリンダーなどを利用して、ブレーキを作動させる。
【0032】
また、例えば、システムの異常時にマグネットクラッチを切断する場合のみならず、ステアリングホイールを利用した通常の運転を行う場合には、マグネットクラッチによる接続を切ることによって、モータの動力伝達系と、ステアリングホイールの動作を完全に遮断することができる。これにより、異常時には安全に車両を停止し、緊急避難をすることを可能とすると共に、通常のステアリングホイールを用いた運転時には、通常のステアリングホイールの操作と変わらない軽い操作を実現することができる。
【0033】
以上説明したように、本実施形態によれば、マグネットクラッチを接続状態から切断状態に切り替えるスイッチと、スイッチが操作されたときに、自動車のブレーキペダルを操作する停止装置を備えるので、車両の安全を確保することが可能となる。
【符号の説明】
【0034】
10 ステアリングドライブユニット
11 モータ
12 ウォームギア
13 ウォームホイール
14 マグネットクラッチ
15 ポテンショメータ
16a、16b ギア
17 ユニバーサルジョイント
18 チェーン
19 スプロケット
20 パワーステアリングユニット
21 ステアリングホイール
22 ステアリングラック
23 フロントタイヤ
30 ペダルドライブユニット
31 モータ
32 ウォームギア
33 ウォームホイール
34 マグネットクラッチ
35 ポテンショメータ
36a、36b ギア
37 ドライブアーム
38 ロッド
39 L形プレート
40 チェーン
41 ブレーキペダル
42 アクセルペダル
50 スイッチ
51 スイッチ
100 ジョイスティック
101 システムコントローラ
102 コンピュータ
103 FETブリッジ
104 リレー
200 ジョイスティック
201 システムコントローラ
202 コンピュータ
203 FETブリッジ
204 リレー



【特許請求の範囲】
【請求項1】
自動車の運転を支援する自動車運転支援装置であって、
駆動力を発生するアクチュエータと、
前記アクチュエータが発生した駆動力を一方向にのみ伝達する不可逆機構と、
前記不可逆機構から伝達される駆動力を伝達しまたは切断する切り替え機構と、
前記駆動力切断機構が前記不可逆機構から伝達される駆動力を伝達するときに、自動車操縦機器へ前記駆動力を伝達する駆動力伝達機構と、を備えることを特徴とする自動車運転支援装置。
【請求項2】
前記不可逆機構は、前記アクチュエータから回転力を受けて回転するウォームギアと、
前記ウォームギアと連動するウォームホイールと、から構成され、
前記切り替え機構は、電磁クラッチから構成されることを特徴とする請求項1記載の自動車運転支援装置。
【請求項3】
前記電磁クラッチを接続状態から切断状態に切り替えるスイッチと、
前記スイッチが操作されたときに、前記自動車のブレーキペダルを操作する停止装置と、を更に備えることを特徴とする請求項2記載の自動車運転支援装置。
【請求項4】
前記自動車操縦機器は、前記アクチュエータから伝達された駆動力で駆動するステアリンク駆動システムおよびアクセル・ブレーキ駆動システムであることを特徴とする請求項1記載の自動車運転支援装置。
【請求項5】
請求項1から請求項4のいずれかに記載の自動車運転支援装置を備えたことを特徴とする自動車。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−207318(P2011−207318A)
【公開日】平成23年10月20日(2011.10.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−76272(P2010−76272)
【出願日】平成22年3月29日(2010.3.29)
【出願人】(508346631)
【出願人】(505455554)
【Fターム(参考)】