説明

自己修復層付積層体及び成形体

【課題】自己修復性、耐擦傷性に優れ、かつ伸長性が高く真空成形やインモールド成形に適性を有する自己修復層付積層体とそれを用いた成形体を提供する。
【解決手段】樹脂基材の少なくとも一方の面に、応力緩和層と自己修復層とをこの順で積層した自己修復層付積層体において、該自己修復層は少なくとも軟質合成樹脂から構成され、該自己修復層に接する該応力緩和層のナノインデンテーションによる硬度Hが、自己修復層のナノインデンテーションによる硬度Hと同等または低いことを特徴とする自己修復層付積層体。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規の構成からなる自己修復層付積層体及びそれを用いた成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、カラーフィルターなどの光学材料やフラットパネルディスプレー、自動車ボディの表面保護(傷付き防止や防汚性付与等)を目的として、合成樹脂からなる耐擦傷性に優れたコーティング層(ハードコート層)を設け、ハードコート処理が施されたプラスチックフィルムが用いられている。これらのコーティング層には、表面保護の観点で耐擦傷性が重要な特性として要求される他、その用途に応じて、耐薬品性、耐油性、真空成形適性など様々な特性が要求される。耐擦傷性に関しても、ただ単に形成する薄膜を硬くするだけでは、受ける応力や歪みに対して、薄膜中にひび割れなどの故障が発生し易くなり、真空成形適性等が低下するため、耐擦傷性に優れ、かつ柔軟な薄膜、すなわち、耐擦傷性と柔軟性(伸長性)の両立が要求されている。
【0003】
この様な耐擦傷性と柔軟性を両立させるという課題に対し、柔軟性、伸長性を有する機能性薄膜体としては、表面に生じた傷が時間の経過と共に回復する、いわゆる、自己修復性を有する薄膜が注目されており、ウレタンアクリレートなどからなる自己修復性を備えた薄膜を有する光学フィルムが開示されている(例えば、特許文献1、2参照。)。しかし、ウレタンアクリレートなどのラジカル重合性化合物から構成されるハードコートでは、臭気、酸素硬化阻害、高粘度などによる作業性の悪化、硬化収縮が大きいため、フィルム自身のカールが大きい、プラスチックへの密着性不足(特に、ポリエチレンテレフタレート(PET)フィルムへの密着性不足)などの問題を抱えていた。
【0004】
一方、光学用途などに使用される活性エネルギー線硬化性樹脂としては、上記の他にも、エポキシ樹脂が知られている。エポキシ樹脂は、高い耐熱性や硬度を備え、透明性が高く、硬化時の硬化収縮も小さいことなど、光学材料の用途として様々な優位点を有してはいるが、伸長性に劣り、変形に対してクラックが入りやすく、真空成形性が悪いなどの欠点を有するため、薄膜コーティングや柔軟性が求められているフィルムのトップコート、真空成形用途などには使用が困難であった。そこで、ポリオール化合物を配合し柔軟性を付与するなどの改良が施されており、例えば、樹脂成型品の分野であるが、エポキシ基を有する化合物と特定のカーボネートジオール及び活性エネルギー線活性触媒からなる活性エネルギー線硬化性組成物が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。しかし、特許文献3に記載されている方法では、エポキシ樹脂とポリオールの混和性や耐油性、耐薬品性が低下する場合があり、また、保護層などの薄膜コーティングに適用する検討は一切なされておらず、真空成形性や自己修復性など耐擦傷性に関する検討も全く行われていないのが現状であった。
【0005】
更には、特定の構成からなるエポシキ(メタ)アクリレート化合物を用いて、硬化物の自己修復性と耐擦傷性を向上させる方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。また、樹脂フィルムから構成される基材上に、自己修復性を有する軟質樹脂層と、その上に防眩層を有し、それぞれの層の厚さ及び硬度比を特定の条件に規定することにより、視認性、PEN入力時の筆記感に優れ、かつ耐久性に優れたペン入力装置用表面材が開示されている(例えば、特許文献5参照。)。また、エポキシ樹脂、オキセタン樹脂、ビニルエーテル樹脂から選ばれた少なくとも1つの樹脂(A)と、数平均分子量が400以上のポリオール(B)および活性エネルギー線感応触媒(C)からなり、透明性、密着性、耐油性(耐ガソリン性)、耐薬品性を損なわずに耐摩耗性が良好で、優れた自己修復性と耐擦傷性を発揮し、さらに、真空成形性にも優れた、光学材料やフラットパネルディスプレー、自動車ボディの保護用途などに有用な活性エネルギー線硬化性コーティング剤が開示されている(例えば、特許文献6参照。)。
【0006】
しかしながら、これら各特許文献で開示されている方法では、自己修復層自体が損傷を受けるような外力が加わった場合には、自己修復できない場合があり、また、インモールド成形等により、成形体を形成する際に、基材と自己修復層との伸長性の違いにより、基材との密着性が低下することが判明し、更なる改良が望まれていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2003−4939号公報
【特許文献2】特開2003−84102号公報
【特許文献3】特開平9−71636号公報
【特許文献4】特開2006−124653号公報
【特許文献5】特開2007−207091号公報
【特許文献6】特開2007−284613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、自己修復性、耐擦傷性に優れ、かつ伸長性が高く真空成形やインモールド成形に適性を有する自己修復層付積層体とそれを用いた成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の上記目的は、以下の構成により達成される。
【0010】
1.樹脂基材の少なくとも一方の面に、応力緩和層と自己修復層とをこの順で積層した自己修復層付積層体において、該自己修復層は少なくとも軟質合成樹脂から構成され、該自己修復層に接する該応力緩和層のナノインデンテーションによる硬度Hが、自己修復層のナノインデンテーションによる硬度Hと同等または低いことを特徴とする自己修復層付積層体。
【0011】
2.前記応力緩和層は2層以上の硬度Hの異なる層から構成され、前記自己修復層に接する応力緩和層から樹脂基材に接する応力緩和層に向かって硬度Hが高くなることを特徴とする前記1に記載の自己修復層付積層体。
【0012】
3.前記応力緩和層は、自己修復層に接する領域から樹脂基材に接する領域に向かって膜厚方向に連続的に硬度Hが高くなる構成であることを特徴とする前記1に記載の自己修復層付積層体。
【0013】
4.前記応力緩和層は2層以上の粒子濃度の異なる層からなり、自己修復層に接する応力緩和層から樹脂基材に接する応力緩和層に向かって粒子濃度が高くなることを特徴とする前記1に記載の自己修復層付積層体。
【0014】
5.前記応力緩和層は、自己修復層に接する領域から樹脂基材に接する領域に向かって膜厚方向に連続的に粒子濃度が高くなることを特徴とする前記1に記載の自己修復層付積層体。
【0015】
6.前記応力緩和層は硬度Hの異なる二つの層が交互に積層された構造であり、硬度Hが低い層群をA層ユニット、硬度Hが高い層群をB層ユニットとしたとき、前記自己修復層に接する層はA層ユニットを構成する1層であり、該A層ユニット及びB層ユニットの少なくとも1つの層ユニットは、乾燥膜厚が異なる少なくとも2層で構成され、該A層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該A層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって増加し、該B層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該B層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって減少し、該A層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣAhと該B層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣBhが同等であることを特徴とする前記1に記載の自己修復層付積層体。
【0016】
7.前記応力緩和層は、粒子濃度の異なる二つの層が交互に積層された構造であり、粒子濃度が低い層群をA層ユニット、粒子濃度が高い層群をB層ユニットとしたとき、前記自己修復層に接する層はA層ユニットを構成する1層であり、該A層ユニット及びB層ユニットの少なくとも1つの層ユニットは、乾燥膜厚が異なる少なくとも2層で構成され、該A層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該A層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって増加し、該B層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該B層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって減少し、該A層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣAhと該B層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣBhが同等であることを特徴とする前記1に記載の自己修復層付積層体。
【0017】
8.前記1から7のいずれか1項に記載の自己修復層付積層体を熱成形により絞り成形して形成したことを特徴とする成形体。
【0018】
9.樹脂基材が樹脂フィルムである前記1から7のいずれか1項に記載の自己修復層付積層体を、自己修復層が表面になるように樹脂基体に接着させた後、該樹脂基体を熱成形により絞り成形して形成したことを特徴とする成形体。
【0019】
10.樹脂基材が樹脂フィルムである前記1から7のいずれか1項に記載の自己修復層付積層体を、自己修復層が金型側になるようにして、該金型の片面または両面に装填させた後、合成樹脂からなる成形材料を金型内の該自己修復層付積層体上に射出注入し、該自己修復層付積層体と成形材料とを積層一体化して形成したことを特徴とする成形体。
【0020】
11.樹脂基材の一方の面に、剥離層、自己修復層及び応力緩和層をこの順で積層した自己修復層付積層体において、該自己修復層は少なくとも軟質合成樹脂から構成され、該自己修復層に接する該応力緩和層のナノインデンテーションによる硬度Hが、自己修復層のナノインデンテーションによる硬度Hと同等または低いことを特徴とする自己修復層付積層体。
【0021】
12.前記応力緩和層は2層以上の硬度の異なる層から構成され、前記自己修復層に最も近い応力緩和層から最も遠い応力緩和層に向かって硬度が高くなることを特徴とする前記11に記載の自己修復層付積層体。
【0022】
13.前記応力緩和層は、自己修復層に最も近い領域から最も遠い領域に向かって膜厚方向に連続的に硬度が高くなることを特徴とする前記11に記載の自己修復層付積層体。
【0023】
14.前記応力緩和層は2層以上の粒子濃度の異なる層から構成され、前記自己修復層に最も近い応力緩和層から最も遠い応力緩和層に向かって粒子濃度が高くなることを特徴とする前記11に記載の自己修復層付積層体。
【0024】
15.前記応力緩和層は、自己修復層に最も近い領域から最も遠い領域に向かって膜厚方向に連続的に粒子濃度が高くなることを特徴とする前記11に記載の自己修復層付積層体。
【0025】
16.前記応力緩和層は、硬度の異なる二つの層が交互に積層された構造であり、硬度が低い層群をA層ユニット、硬度が高い層群をB層ユニットとしたとき、前記自己修復層に接する層はA層ユニットであり、該A層ユニット及びB層ユニットの少なくとも1つの層ユニットは、乾燥膜厚が異なる少なくとも2層で構成され、該A層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該A層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって増加し、該B層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該B層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって減少し、該A層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣAhと該B層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣBhが略同等であることを特徴とする前記11に記載の自己修復層付積層体。
【0026】
17.前記応力緩和層は、粒子濃度の異なる二つの層が交互に積層された構造であり、粒子濃度が低い層群をA層ユニット、粒子濃度が高い層群をB層ユニットとしたとき、前記自己修復層に接する層はA層ユニットであり、該A層ユニット及びB層ユニットの少なくとも1つの層ユニットは、乾燥膜厚が異なる少なくとも2層で構成され、該A層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該A層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって増加し、該B層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該B層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって減少し、該A層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣAhと該B層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣBhが略同等であることを特徴とする前記11に記載の自己修復層付積層体。
【0027】
18.前記11から17のいずれか1項に記載の自己修復層付積層体を熱成形により絞り成形して形成したことを特徴とする成形体。
【0028】
19.樹脂基材が樹脂フィルムである前記11から17のいずれか1項に記載の自己修復層付積層体を、該樹脂フィルムが表面になるように樹脂基体に接着させた後、該樹脂基体を熱成形により絞り成形して形成したことを特徴とする成形体。
【0029】
20.樹脂基材が樹脂フィルムである前記11から17のいずれか1項に記載の自己修復層付積層体を、該樹脂フィルムが金型側になるようにして該金型の片面または両面に装填した後、合成樹脂からなる成形材料を金型内の自己修復層付積層体上に射出注入し、自己修復層付積層体と成形材料とを積層一体化し、剥離層を介して樹脂フィルムを自己修復層付積層体から剥離して得られることを特徴とする成形体。
【発明の効果】
【0030】
本発明により、本発明は、上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、自己修復性、耐擦傷性に優れ、かつ伸長性が高く真空成形やインモールド成形に適性を有する自己修復層付積層体とそれを用いた成形体を提供することができた。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の自己修復層付積層体の層構成の一例を示す断面図である。
【図2】本発明の自己修復層付積層体の層構成の他の一例を示す断面図である。
【図3】本発明の自己修復層付積層体の層構成の他の一例を示す断面図である。
【図4】本発明の自己修復層付積層体の層構成の他の一例を示す断面図である。
【図5】本発明の自己修復層付積層体を用いた成形体の形成方法の一例を示す模式図である。
【図6】レンズ型成形体の形成方法の一例を示す模式図である。
【図7】本発明の自己修復層付積層体を用いたインモールド成形法による成形体の作製方法の一例を示す模式図である。
【図8】実施例で用いたレンズ型成型体Lの作製工程を示すフロー図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下、本発明を実施するための形態について詳細に説明する。
【0033】
本発明者は、上記課題に鑑み鋭意検討を行った結果、1)樹脂基材の少なくとも一方の面に、応力緩和層と自己修復層とをこの順で積層した自己修復層付積層体において、該自己修復層は少なくとも軟質合成樹脂から構成され、該自己修復層に接する該応力緩和層のナノインデンテーションによる硬度Hが、自己修復層のナノインデンテーションによる硬度Hと同等または低いことを特徴とする自己修復層付積層体、あるいは2)樹脂基材の一方の面に、剥離層、自己修復層及び応力緩和層とをこの順で積層した自己修復層付積層体において、該自己修復層は少なくとも軟質合成樹脂から構成され、該自己修復層に接する該応力緩和層の硬度が、自己修復層の硬度と同等または低いことを特徴とする自己修復層付積層体により、自己修復性、耐擦傷性に優れ、かつ伸長性が高く真空成形やインモールド成形に適性を有する自己修復層付積層体を実現できることを見出し、本発明に至った次第である。
【0034】
以下、本発明の自己修復層付積層体とそれを用いた成形体の詳細について説明する。
【0035】
《自己修復層付積層体の構成》
〔樹脂基材、応力緩和層及び自己修復層から構成される自己修復層付積層体〕
本発明の自己修復層付積層体の第1の態様は、樹脂基材の少なくとも一方の面に、応力緩和層と、自己修復性及び耐擦傷性を有する自己修復層とをこの順で積層した自己修復層付積層体であり、自己修復層に接する該応力緩和層のナノインデンテーションによる硬度Hが、自己修復層のナノインデンテーションによる硬度Hと同等または低いことを特徴とする。
【0036】
本発明の自己修復層付積層体の第1の態様に係る好ましい構成例を、図を交えて説明する。
【0037】
図1は、本発明の自己修復層付積層体の層構成の一例を示す断面図である。
【0038】
図1のa)に示す層構成は、請求項1で規定する自己修復層付積層体1の層構成の一例を示すのもであり、樹脂基材2上に応力緩和層3と軟質合成樹脂から構成される自己修復層4を積層し、応力緩和層3のナノインデンテーションによる硬度Hが、自己修復層4の硬度Hと同等以下となるように構成することを特徴とする。
【0039】
本発明に係る応力緩和層において、図1のa)に示す様な単層構成である場合には、乾燥膜厚としては1.0〜30μmであることが好ましく、また硬度Hとしては0.1〜1.0GPaであることが好ましい。
【0040】
なお、本発明でいう硬度Hとは、ナノインデンテーションにより測定した硬度である。ナノインデンテーション法とは、試料に対して超微小な荷重で圧子を連続的に負荷、除荷し、得られた荷重−変位曲線から硬さ(Hardness、以下、Hと略記)を測定する方法である。
【0041】
ナノインデンテーションの硬さ(H)は、試料の直接的な表面の硬さの値を表している。従って、ナノインデンテーションの硬さ(H)が表面硬度の指標として適している。
【0042】
〈ナノインデンテーション法による硬度(H)の測定〉
本発明におけるナノインデンテーション法による硬度(H)の測定は、Hysitron社製TriboscopeをDigital Instruments社製NanoscopeIIIに試料を装着し測定した。測定には、圧子としてベルコビッチ型圧子(先端稜角142.3°)と呼ばれる三角錘型ダイヤモンド製圧子を用いる。
【0043】
三角錘型ダイヤモンド製圧子を試料表面に直角に当て、徐々に荷重を印加し、最大荷重到達後に荷重を0にまで徐々に戻した。この時の最大荷重Pを圧子接触部の投影面積Aで除した値P/Aを硬度(H)として算出した。この時の最大荷重の条件は100μNで行う。尚、ナノインデンテーション法による表面硬度測定の原理に関する詳細は、例えば、Handbook of Micro/Nano Tribology(Bharat Bhushan編 CRC)に記載されている。
【0044】
図1のb)に示す層構成は、請求項2で規定する自己修復層付積層体1の層構成の一例を示すのもであり、樹脂基材2上に硬度Hの異なる2層以上の応力緩和層(図1のb)では、一例として2層構成を示してある)と、軟質合成樹脂から構成される自己修復層4を積層した構成で、2層以上で構成される応力緩和層は、自己修復層4に接する応力緩和層(図1のb)における応力緩和層3−2)から樹脂基材2に接する応力緩和層(図1のb)における応力緩和層3−1)に向かって硬度Hが高くなる構成とすることが好ましい。
【0045】
図1のb)に示す層構成においては、硬度Hの異なる2層以上の応力緩和層としては、乾燥膜厚としては1.0〜30μmであることが好ましく、また硬度Hの高い応力緩和層の硬度としては0.3〜3.0GPaであることが好ましく、硬度Hの低い応力緩和層の硬度としては0.1〜1.0GPaであることが好ましく、また各応力緩和層間の硬度H差としては0.1〜0.5GPaであることが好ましい。
【0046】
図1のc)に示す層構成は、請求項3で規定する自己修復層付積層体1の層構成の一例を示すものであり、樹脂基材2上に応力緩和層3と軟質合成樹脂から構成される自己修復層4を積層し、応力緩和層3は、自己修復層4に接する領域Bから樹脂基材2に接する領域Aに向かって膜厚方向に連続的に硬度Hが高くなる構成であることを特徴とする。本発明でいう自己修復層4に接する応力緩和層3の領域Bにおける硬度Hは、自己修復層4に接する面について測定した硬度であり、領域Aにおける硬度も同様にして、樹脂基材と接する応力緩和層表面の硬度Hである。
【0047】
図1のc)に示す層構成においては、領域Aにおける硬度Hとしては0.3〜3.0GPaであることが好ましく、また、領域Bにおける硬度Hとしては0.1〜1.0GPaであることが好ましい。
【0048】
図1のd)に示す層構成は、請求項4で規定する自己修復層付積層体1の層構成の一例を示すものであり、樹脂基材2上に、粒子濃度の異なる2層以上の応力緩和層3−イ、3−ロ(図1のd)では、一例として2層構成を示してある)と、軟質合成樹脂から構成される自己修復層4を積層した構成で、2層以上で構成される応力緩和層は、自己修復層4に接する応力緩和層(図1のd)における応力緩和層3−ロ)から樹脂基材2に接する応力緩和層(図1のd)における応力緩和層3−イ)に向かって粒子濃度が高くなる構成とすることが好ましい。
【0049】
図1のd)に示す層構成においては、粒子濃度の異なる2層以上の応力緩和層としては、乾燥膜厚としては1.0〜30μmであることが好ましく、また粒子濃度の高い応力緩和層の粒子濃度としては30〜70体積%であることが好ましく、粒子濃度の低い応力緩和層の粒子濃度としては0〜40体積%であることが好ましく、また各応力緩和層間の粒子濃度差としては5.0〜20体積%であることが好ましい。
【0050】
本発明でいう応力緩和層における粒子濃度は、粒子の充填率(体積%)として測定して求める。すなわち、通常は、応力緩和層を形成する応力緩和層用塗布液における固形分(溶媒以外の成分)に対する粒子の割合(固形分体積比率)として求めるが、応力緩和層の固形分として活性エネルギー線硬化樹脂を用いる場合には、活性エネルギー線硬化樹脂は、活性エネルギー線の照射による反応で硬化と同時に収縮するため、下記に示す充填率測定法で求めた。
【0051】
〈充填率測定法(体積分析法)〉
乾燥後の膜中の粒子の充填率は、次の方法で測定した。応力緩和層用塗布液を樹脂基材上に湿式塗布法にて塗布して応力緩和層を形成した後、樹脂基材より応力緩和層を剥離して全体積を測定し、次いで、樹脂成分を溶解して含有している粒子体積を測定し、それらの測定値より、粒子の充填率(体積%)を求めた。
【0052】
図1のe)に示す層構成は、請求項5で規定する自己修復層付積層体1の層構成の一例を示すものであり、樹脂基材2上に応力緩和層3と軟質合成樹脂から構成される自己修復層4を積層し、応力緩和層3は、自己修復層4に接する領域Bから樹脂基材2に接する領域Aに向かって膜厚方向に連続的に粒子濃度が高くなる構成であることを特徴とする。本発明でいう連続的に粒子濃度の異なる構成であるか否かは、上記に示した充填率測定法により、任意の位置における充填率を測定法する方法や、簡易的な方法としては応力緩和層3の断面を電子顕微鏡等で観察し、粒子密度が連続的に変化しているか否かを判定することもできる。
【0053】
図1のe)に示す層構成においては、領域Aにおける粒子濃度としては30〜70体積%であることが好ましく、また、領域Bにおける粒子濃度としては0〜40体積%であることが好ましい。
【0054】
また、本発明の自己修復層付積層体においては、応力緩和層が硬度Hの異なる二つの層が交互に積層された構造であり、硬度Hが低い層群をA層ユニット、硬度Hが高い層群をB層ユニットとしたとき、前記自己修復層に接する層はA層ユニットを構成する1層であり、該A層ユニット及びB層ユニットの少なくとも1つの層ユニットは、乾燥膜厚が異なる少なくとも2層で構成され、該A層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該A層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって増加し、該B層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該B層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって減少し、該A層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣAhと該B層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣBhが同等である構成とすることが好ましい。
【0055】
すなわち、図2のa)にその一例を示すように、相対的に硬度Hが低い層群であるA層ユニットにおいては、自己修復層4に向かって、3A−1、3A−2の順に乾燥膜厚が厚くなる構成をとり、逆に相対的に硬度Hが高い層群であるB層ユニットにおいては、自己修復層4に向かって、3B−1、3B−2の順に乾燥膜厚が薄くなる構成をとる。加えて、A層ユニットを構成する3A−1及び3A−2の乾燥膜厚の総和ΣAhと、B層ユニットを構成する3B−1及び3B−2の乾燥膜厚の総和ΣBhが同等であることが好ましい態様である。本発明でいうA層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣAhと、B層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣBhが同等であるとは、両者の乾燥膜厚の総和の差が10%以内であることを言い、好ましくは5%以内である。
【0056】
図2のa)に示す層構成においては、A層ユニットの硬度Hとしては、0.1〜1.0GPaであることが好ましく、また、B層ユニットにおける硬度Hとしては0.3〜3.0GPaであることが好ましい。また、A層ユニット、B層ユニットそれぞれの乾燥膜厚の総和としては、1.0〜20μmであることが好ましい。
【0057】
また、本発明の自己修復層付積層体においては、応力緩和層は、粒子濃度の異なる二つの層が交互に積層された構造であり、粒子濃度が低い層群をA層ユニット、粒子濃度が高い層群をB層ユニットとしたとき、前記自己修復層に接する層はA層ユニットを構成する1層であり、該A層ユニット及びB層ユニットの少なくとも1つの層ユニットは、乾燥膜厚が異なる少なくとも2層で構成され、該A層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該A層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって増加し、該B層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該B層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって減少し、該A層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣAhと該B層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣBhが同等であることが好ましい。
【0058】
すなわち、図2のb)にその一例を示すように、相対的に粒子濃度が低い層群であるA層ユニットにおいては、自己修復層4に向かって、3A−イ、3A−ロの順に乾燥膜厚が厚くなる構成をとり、逆に相対的に粒子濃度が高い層群であるB層ユニットにおいては、自己修復層4に向かって、3B−イ、3B−ロの順に乾燥膜厚が薄くなる構成をとる。加えて、A層ユニットを構成する3A−イ及び3A−ロの乾燥膜厚の総和ΣAhと、B層ユニットを構成する3B−イ及び3B−ロの乾燥膜厚の総和ΣBhが同等であることが好ましい態様である。本発明でいうA層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣAhと、B層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣBhが同等であるとは、両者の乾燥膜厚の総和の差が10%以内であることを言い、好ましくは5%以内である。
【0059】
図2のb)に示す層構成においては、A層ユニットの粒子濃度としては、0〜40体積%であることが好ましく、また、B層ユニットの粒子濃度としては30〜70体積%であることが好ましい。また、A層ユニット、B層ユニットそれぞれの乾燥膜厚の総和としては、1.0〜20μmであることが好ましい。
【0060】
〔樹脂基材、剥離層、自己修復層及び応力緩和層から構成される自己修復層付積層体〕
本発明の自己修復層付積層体の第2の態様は、樹脂基材の一方の面に、剥離層、自己修復層及び応力緩和層をこの順で積層した自己修復層付積層体において、該自己修復層は少なくとも軟質合成樹脂から構成され、該自己修復層に接する該応力緩和層のナノインデンテーションによる硬度Hが、自己修復層のナノインデンテーションによる硬度Hと同等または低いことを特徴とする。
【0061】
本発明の自己修復層付積層体の第2の態様に係る好ましい構成例を、図を交えて説明する。
【0062】
図3は、本発明の自己修復層付積層体の層構成の他の一例を示す断面図である。
【0063】
図3のa)に示す層構成は、請求項11で規定する自己修復層付積層体1の層構成の一例を示すのもであり、樹脂基材2上に、剥離層5、自己修復層4及び応力緩和層3をこの順で積層し、応力緩和層3のナノインデンテーションによる硬度Hが、自己修復層4の硬度Hと同等以下となるように構成することを特徴とする。
【0064】
図3のb)に示す層構成は、請求項12で規定する自己修復層付積層体1の層構成の一例を示すものであり、樹脂基材2上に、剥離層5、自己修復層4及び硬度Hの異なる2層以上の応力緩和層(図3のb)では、一例として2層構成を示してある)を積層した構成で、2層以上で構成される応力緩和層は、自己修復層4に最も近い応力緩和層(図3のb)における応力緩和層3−1)から最も遠い応力緩和層(図3のb)における応力緩和層3−2)に向かって硬度Hが高くなる構成とすることが好ましい。
【0065】
図3のc)に示す層構成は、請求項13で規定する自己修復層付積層体1の層構成の一例を示すものであり、樹脂基材2上に、剥離層5、自己修復層4及び応力緩和層3を積層し、応力緩和層3は、自己修復層4に最も近い領域Aから最も遠い領域Bに向かって膜厚方向に連続的に硬度Hが高くなる構成であることを特徴とする。本発明でいう領域Aの硬度Hとは、自己修復層4に接する面について測定した硬度であり、領域Bにおける硬度とは、応力緩和層最表面における硬度Hである。
【0066】
図3のd)に示す層構成は、請求項14で規定する自己修復層付積層体1の層構成の一例を示すものであり、樹脂基材2上に、剥離層5、自己修復層4及び粒子濃度の異なる2層以上の応力緩和層3−イ、3−ロ(図3のd)では、一例として2層構成を示してある)を積層した構成で、2層以上で構成される応力緩和層は、自己修復層4に最も近い応力緩和層(図3のd)における応力緩和層3−イ)から最も遠い応力緩和層(図3のd)における応力緩和層3−ロ)に向かって粒子濃度が高くなる構成とすることが好ましい。
【0067】
図3のe)に示す層構成は、請求項15で規定する自己修復層付積層体1の層構成の一例を示すものであり、樹脂基材2上に、剥離層5、自己修復層4及び応力緩和層3を積層し、応力緩和層3は、自己修復層4に最も近い領域Aから最も遠い領域Bに向かって膜厚方向に連続的に粒子濃度が高くなる構成であることを特徴とする。
【0068】
また、本発明の第2の態様における自己修復層付積層体においても、応力緩和層が硬度Hの異なる二つの層が交互に積層された構造であり、硬度Hが低い層群をA層ユニット、硬度Hが高い層群をB層ユニットとしたとき、前記自己修復層に接する層はA層ユニットを構成する1層であり、該A層ユニット及びB層ユニットの少なくとも1つの層ユニットは、乾燥膜厚が異なる少なくとも2層で構成され、該A層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該A層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって増加し、該B層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該B層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって減少し、該A層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣAhと該B層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣBhが同等である構成とすることが好ましい。
【0069】
すなわち、図3のa)にその一例を示すように、相対的に硬度Hが低い層群であるA層ユニットにおいては、自己修復層4に向かって、3A−2、3A−1の順に乾燥膜厚が厚くなる構成をとり、逆に相対的に硬度Hが高い層群であるB層ユニットにおいては、自己修復層4に向かって、3B−2、3B−1の順に乾燥膜厚が薄くなる構成をとる。加えて、A層ユニットを構成する3A−1及び3A−2の乾燥膜厚の総和ΣAhと、B層ユニットを構成する3B−1及び3B−2の乾燥膜厚の総和ΣBhが同等であることが好ましい態様である。本発明でいうA層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣAhと、B層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣBhが同等であるとは、両者の乾燥膜厚の総和の差が10%以内であることを言い、好ましくは5%以内である。
【0070】
また、本発明の第2の態様における自己修復層付積層体においても、応力緩和層は、粒子濃度の異なる二つの層が交互に積層された構造であり、粒子濃度が低い層群をA層ユニット、粒子濃度が高い層群をB層ユニットとしたとき、前記自己修復層に接する層はA層ユニットを構成する1層であり、該A層ユニット及びB層ユニットの少なくとも1つの層ユニットは、乾燥膜厚が異なる少なくとも2層で構成され、該A層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該A層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって増加し、該B層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該B層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって減少し、該A層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣAhと該B層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣBhが同等であることが好ましい。
【0071】
すなわち、図3のb)にその一例を示すように、相対的に粒子濃度が低い層群であるA層ユニットにおいては、自己修復層4に向かって、3A−ロ、3A−イの順に乾燥膜厚が厚くなる構成をとり、逆に相対的に粒子濃度が高い層群であるB層ユニットにおいては、自己修復層4に向かって、3B−ロ、3B−イの順に乾燥膜厚が薄くなる構成をとる。加えて、A層ユニットを構成する3A−イ及び3A−ロの乾燥膜厚の総和ΣAhと、B層ユニットを構成する3B−イ及び3B−ロの乾燥膜厚の総和ΣBhが同等であることが好ましい態様である。本発明でいうA層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣAhと、B層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣBhが同等であるとは、両者の乾燥膜厚の総和の差が10%以内であることを言い、好ましくは5%以内である。
【0072】
なお、上記層構成における応力緩和層の膜厚、硬度、粒子濃度等の条件は、前述の樹脂基材、応力緩和層及び自己修復層から構成される自己修復層付積層体で記載した条件と同等である。
【0073】
次いで、本発明の自己修復層付積層体の各構成要素の詳細について説明する。
【0074】
《自己修復層》
本発明に係る自己修復層は、少なくとも軟質合成樹脂から構成されていることを特徴とする。
【0075】
本発明に係る自己修復層に適用可能な軟質合成樹脂としては、特に制限はないが、活性エネルギー線硬化型化合物あるいは熱硬化型化合物を挙げることができ、例えば、ラジカル重合型である飽和アクリル樹脂組成物、ウレタン変性(メタ)アクリレート化合物、エポキシ(メタ)アクリレート化合物等の不飽和ポリウレタン樹脂組成物、不飽和ポリエステル樹脂組成物、ポリアミド樹脂組成物、熱硬化型のシリコーン系、メラミン系及びエポキシ系の樹脂組成物、あるいは、カチオン重合型化合物であるエポキシ化合物、オキセタン化合物、ビニルエーテル化合物等を挙げることができる。
【0076】
より具体的には、例えば、多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物等のアクリロイル基、メタクリロイル基を2つ以上含む多官能重合性化合物を含有する樹脂組成物や、ウレタン変性(メタ)アクリレートを含む樹脂組成物、そしてシリコーン系、メラミン系又はエポキシ系の多官能重合性化合物を含む樹脂組成物等が挙げられる。これらの中では、耐久性や取扱いの容易さの点で、紫外線、電子線などの活性エネルギー線又は加熱により硬化することのできる多価アルコールと(メタ)アクリル酸とのエステル化物やウレタン変性(メタ)アクリレートのような(メタ)アクリロイル基含有化合物を主成分として含む樹脂組成物が優れている。更に、取扱い性や連続生産性の点で、活性エネルギー線硬化型のものがより好ましい。軟質樹脂層形成用の硬化性組成物は、これら(メタ)アクリロイル基含有化合物を通常50質量%以上、好ましくは60質量%以上含有する。
【0077】
また、多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、プロパンジオール、ブタンジオール、ペンタンジオール、ヘキサンジオール、ネオペンチルグリコール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2,2′−チオジエタノール、1,4−シクロヘキサンジメタノール等の2価のアルコール;トリメチロールプロパン、グリセロール、ペンタエリスリトール、ジグリセロール、ジペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン等の3価以上のアルコールが挙げられる。
【0078】
ウレタン変性(メタ)アクリレートとは、1分子中に複数個のイソシアネート基を有するポリイソシアネートと、水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体とのウレタン化反応によって得ることができる。ポリイソシアネートとしては、ヘキサメチレンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネート、トリレンジイソシアネート、ナフタレンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、キシレリンジイソシアネート、ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート等の1分子中に2個のイソシアネート基を有するポリイソシアネート、それらポリイソシアネートをイソシアヌレート変性、アダクト変性、ビウレット変性した1分子中に3個のイソシアネート基を有するポリイソシアネート等が挙げられる。
【0079】
水酸基を有する(メタ)アクリル酸誘導体としては、例えば(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチル等が挙げられる。これらのうち、(メタ)アクリル酸ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルのような長鎖部分を有するものが自己修復性の点で好ましい。
【0080】
また、ウレタン変性(メタ)アクリレートの構成成分に、ポリカプロラクトンジオール、ポリテトラメチレンジオール等複数の水酸基を有するオリゴマーや、トリデカノール、ミリスチルアルコール、セチルアルコールステアリルアルコール、ベヘニルアルコールポリオキシエチレンモノステアレート、ポリオキシエチレンセチルエーテル、ポリオキシエチレンステアリルエーテル、グリセロールモノステアレート等の長鎖アルキルアルコールを使用することで復元性が良好になり、表面滑性を適切にすることができる。これらの成分は単独で用いてもよいし、2種類以上併用してもよい。
【0081】
また、エポキシ化合物としては、脂環式エポキシドが特に好ましく、脂環式エポキシドとしては、少なくとも1個のシクロへキセンまたはシクロペンテン環等のシクロアルカン環を有する化合物を、過酸化水素、過酸等の適当な酸化剤でエポキシ化することによって得られる、シクロヘキセンオキサイドまたはシクロペンテンオキサイド含有化合物が好ましい。
【0082】
脂肪族エポキシドの好ましいものとしては、脂肪族多価アルコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはポリグリシジルエーテル等があり、その代表例としては、エチレングリコールのジグリシジルエーテル、プロピレングリコールのジグリシジルエーテルまたは1,6−ヘキサンジオールのジグリシジルエーテル等のアルキレングリコールのジグリシジルエーテル、グリセリンあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジまたはトリグリシジルエーテル等の多価アルコールのポリグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル、ポリプロピレングリコールあるいはそのアルキレンオキサイド付加体のジグリシジルエーテル等のポリアルキレングリコールのジグリシジルエーテル等が挙げられる。ここでアルキレンオキサイドとしては、エチレンオキサイド及びプロピレンオキサイド等が挙げられる。
【0083】
これらのエポキシドのうち、芳香族エポキシド及び脂環式エポキシドが好ましく、特に脂環式エポキシドが好ましい。本発明では、上記エポキシドの1種を単独で使用してもよいが、2種以上を適宜組み合わせて使用してもよい。また、エポキシ樹脂は、市場でも入手することが可能で、例えば、「セロキサイド2021P」、「セロキサイド2081」、「エポリードGT401」、「エポリードPB3600」、「エポリードPB4700」、「EHPE3150」、「エポリードGT301」、「セロキサイド3000」(いずれもダイセル化学工業(株)製)や「ERL−4221」、「UVR−6128」「UVR−6105」(ダウケミカル(株)製)が好ましく例示される。上記の中でも、特に好ましくは、「セロキサイド2021P」(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3′,4′−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)である。
【0084】
また、オキセタン化合物は、オキセタン環を有する化合物のことであり、特開2001−220526号、同2001−310937号等の各公報に紹介されているような公知のあらゆるオキセタン化合物を使用できる。オキセタン化合物において、オキセタン環を5個以上有する化合物を使用すると、インク組成物の粘度が高くなるため、取扱いが困難になったり、またインク組成物のガラス転移温度が高くなるため、得られる硬化物の粘着性が十分でなくなってしまう。オキセタン化合物はオキセタン環を1〜4個有する化合物が好ましい。オキセタン化合物としては、分子内にオキセタン環を有し、硬化可能な化合物であればよく、特に限定されないが、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、1,4−ビス{〔(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ〕メチル}ベンゼン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、ジ[1−エチル(3−オキセタニル)]メチルエーテル、3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン、3−エチル−3−{[3−(トリエトキシシリル)プロポキシ]メチル}オキセタン、オキセタニルシルセスキオキサン等が挙げられる。これらの化合物は、例えば、東亞合成(株)製「OXT−101、121、211、221、212、610」などが市販品として入手可能である。
【0085】
また、ビニルエーテル化合物としては、例えば、エチレングリコールジビニルエーテル、ジエチレングリコールジビニルエーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、プロピレングリコールジビニルエーテル、ジプロピレングリコールジビニルエーテル、ブタンジオールジビニルエーテル、ヘキサンジオールジビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールプロパントリビニルエーテル等のジまたはトリビニルエーテル化合物、エチルビニルエーテル、n−ブチルビニルエーテル、イソブチルビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル、2−エチルヘキシルビニルエーテル、シクロヘキサンジメタノールモノビニルエーテル、n−プロピルビニルエーテル、イソプロピルビニルエーテル、イソプロペニルエーテル−o−プロピレンカーボネート、ドデシルビニルエーテル、ジエチレングリコールモノビニルエーテル、オクタデシルビニルエーテル等のモノビニルエーテル化合物等が挙げられる。これらの化合物は、例えば、丸善石油化学(株)「HEVE、HBVE、DEGV」等市販品が入手可能である。
【0086】
本発明に係る自己修復層においては、上記軟質合成樹脂と共に、反応性希釈剤、光重合開始剤、溶媒等を加えることができる。
【0087】
反応性希釈剤の例としては、(メタ)アクリロイル基を有する単官能性又は多官能性のモノマー又はオリゴマーが挙げられる。具体的には、フタル酸モノヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシヘキシル(メタ)アクリレート、フェノキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエチル(メタ)アクリレート、2−エトキシエトキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、ポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、ジシクロペンテニルオキシエチル(メタ)アクリレート、N−ビニルピロリドン、アクリロイルモルホリン、イソボルニル(メタ)アクリレート、酢酸ビニル、スチレン等の単官能性のモノマー;ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,9−ノナンジオールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、1,4−ブタンジオールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、プロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、ビスフェノールFジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、ビスフェノールAジグリシジルエーテルアクリル酸付加物、ビスフェノールFエチレンオキサイド変性ジアクリレート、ビスフェノールAエチレンオキサイド変性ジアクリレート等の二官能性のモノマー;トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンの3モルプロピレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパンの6モルエチレンオキサイド付加物のトリ(メタ)アクリレート、グリセリンプロポキシトリ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールのカプロラクトン付加物のヘキサ(メタ)アクリレート等の多官能性のモノマー;不飽和ポリエステル、ポリエステル(メタ)アクリレート、ポリエーテル(メタ)アクリレート、アクリル(メタ)アクリレート、ウレタン(メタ)アクリレート、エポキシ(メタ)アクリレート等のオリゴマーが挙げられる。
【0088】
光重合開始剤の例としては、イソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、ベンゾフェノン、ミヒラーケトン、o−ベンゾイルメチルベンゾエート、アセトフェノン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、エチルアントラキノン、p−ジメチルアミノ安息香酸イソアミルエステル、p−ジメチルアミノ安息香酸エチルエステル、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−プロパン−1−オン、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1,ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)−フェニルフォスフィンオキサイド、メチルベンジルホルメート等が挙げられる。また、既存の市販品を用いることが可能であり、The DOW Chemical Company製「CYRACURE UVI−6992、UVI−6976」、旭電化工業(株)製「アデカオプトマー SP−150、SP−152、SP−170、SP−172」、三新化学工業(株)製「サンエイド SI−60L、SI−80L、SI−100L、SI−110L、SI−180L」、GE東芝シリコーン(株)製「UV9380c」、ローディアジャパン(株)製「Rhodorsil2074」、チバ・ジャパン(株)製「IRGACURE250」、ダイセル・サイテック(株)製「Uvacure1590」などが市場で入手可能である。
【0089】
溶媒の例としては、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、トルエン、酢酸ブチル、メトキシプロパノール、メトキシプロピルアセテート、メトブタ(3−メトキシブタノール)、メトアセ(3−メトキシブチルアセテート)、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテートなどが好ましく用いられる。
【0090】
本発明に係る自己修復層は、自己修復層塗布液を、例えば、スピンコート法、はけ塗り、スプレー法(吹き付け)、ディップコート法、ブレードコート法、ロールコート法、インクジェット印刷、グラビア印刷、スクリーン印刷、フレキソ印刷、バーコート法、ダイコート法などが挙げられる。中でも、自動車用途の場合には、エアスプレー、エアレススプレーなどのスプレー法、回転霧化塗装機、静電塗装機などを用いた方法;プラスチックフィルムに塗布する場合には、グラビア印刷、フレキソ印刷などの印刷、ディップコート法、ブレードコート法、ロールコート法、バーコート法などの方法が好ましい。なお、上記コーティング剤の塗布の際には、密着性などの観点から、被コート物に下塗り層を設けてもよい。また、本発明のコーティング剤が溶剤を用いる場合には、上記塗布後に前記の条件で乾燥を行うことが好ましい。
【0091】
本発明に係る自己修復層の硬化方法は、作業性、生産性や適用できる対象物の範囲が広いなどの観点から、活性エネルギー線照射による。照射する活性エネルギー線としては、可視光、赤外線、紫外線、X線、α線、β線、γ線、電子線などを用いることができる。中でも、安全性、反応効率などの工業性の観点などから紫外線が最も好ましく用いられる。用いられる紫外線の波長は200〜400nmが好ましく、好ましい照射条件としては、例えば、照度1〜1000mW/cm、照射量0.1〜10000mJ/cmである。活性エネルギー線の照射装置としては、例えば、高圧水銀ランプ、低圧水銀ランプ、メタルハライドランプ、エキシマランプなどのランプ光源、アルゴンイオンレーザーやヘリウムネオンレーザーなどのパルス、連続のレーザー光源などを用いることが可能である。
【0092】
自己修復層の厚みは、用途によって異なり、特に限定されないが、例えば、3〜100μmが好ましく、より好ましくは5〜40μmである。中でも、自動車用途の場合には10〜100μmが好ましく、プラスチックフィルム用トップコートの場合には3〜50μmが好ましい。上記好ましい範囲よりも自己修復層が薄い場合には耐擦傷性が低下する場合があり、厚いとコスト面で不利となり、また意匠性が低下する場合や、自己修復層自体が剥離しやすくなる場合がある。
【0093】
本発明に係る自己修復層は、優れた自己修復性を有する。自己修復性とは、自己修復層表面に生じた傷が経時で消失しうる特性を表す。具体的には、23℃、50%RHの雰囲気下、日本スチールウール(株)製スチールウール(#0000)に200gfの錘を載せ(荷重面積20cm)、塗膜面(自己修復層表面)を20往復擦る試験を行い、試験直後からの塗膜面のヘイズ値変化(経時的減少)により評価することができる。磨耗直後のヘイズ値に対して2時間後のヘイズ値が減少していることが好ましく、より好ましくは3%以上減少していることである。自己修復は、傷が可逆変形(弾性変形)的に生じることに起因する。優れた自己修復性は、自己修復層を形成する樹脂が、高い応力に対してまで弾性変形領域を有していること、即ち優れた強靱性(粘り強さ)を有することにより達成される。
【0094】
本発明に係る自己修復層は、更には優れた耐摩耗性を有する。耐摩耗性は、例えば、テーバー形の磨耗試験機で評価(JIS K 5400 8.9に準拠)することが可能である。本発明の自己修復層の上記耐摩耗性は、磨耗輪S−42/CS−0、回転数60rpm、荷重500gf、自己修復層厚み5μmの条件で、基材面が露出するまでの回転数が1500回転以上であることが好ましく、より好ましくは1800回転以上である。耐摩耗性1500回転以下では、表面に傷が付きやすくなり、表面保護性が十分でない場合がある。
【0095】
本発明に係る自己修復層は、優れた耐擦傷性を有する。耐擦傷性は、例えば、前記自己修復性と同様のスチールウール擦過における、試験直後の傷付き度合いを観察することで評価することができる。
【0096】
本発明に係る自己修復層は、耐傷つき性と自己修復性を備えるため、傷が付きにくくなると共に、一旦生じた傷が回復しやすいことにより、総合的に表面に傷が残りにくい。
【0097】
《応力緩和層》
(構成材料)
本発明に係る応力緩和層、あるいはA層ユニット、B層ユニットを構成する各層は、主に、活性光線硬化樹脂と、必要に応じて粒子、好ましくは無機粒子を含む構成で形成される。
【0098】
〈活性光線硬化樹脂〉
本発明に適用可能な活性光線硬化樹脂としては、紫外線硬化性樹脂や電子線硬化性樹脂などが代表的なものとして挙げられるが、紫外線や電子線以外の活性線照射によって硬化する樹脂でもよい。紫外線硬化性樹脂としては、例えば、紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂、紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂、紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂、または紫外線硬化型エポキシ樹脂等を挙げることが出来る。
【0099】
紫外線硬化型アクリルウレタン系樹脂は、一般にポリエステルポリオールにイソシアネートモノマー、もしくはプレポリマーを反応させて得られた生成物に更に2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシエチルメタクリレート(以下アクリレートと記載した場合、メタクリレートを包含するものとする)、2−ヒドロキシプロピルアクリレート等の水酸基を有するアクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることが出来る(例えば、特開昭59−151110号等を参照)。
【0100】
紫外線硬化型ポリエステルアクリレート系樹脂は、一般にポリエステルポリオールに2−ヒドロキシエチルアクリレート、2−ヒドロキシアクリレート系のモノマーを反応させることによって容易に得ることが出来る(例えば、特開昭59−151112号を参照)。
【0101】
紫外線硬化型エポキシアクリレート系樹脂の具体例としては、エポキシアクリレートをオリゴマーとし、これに反応性希釈剤、光反応開始剤を添加し、反応させたものを挙げることが出来る(例えば、特開平1−105738号)。この光反応開始剤としては、ベンゾイン誘導体、オキシムケトン誘導体、ベンゾフェノン誘導体、チオキサントン誘導体等のうちから、1種もしくは2種以上を選択して使用することが出来る。
【0102】
また、紫外線硬化型ポリオールアクリレート系樹脂の具体例としては、トリメチロールプロパントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、アルキル変性ジペンタエリスリトールペンタアクリレート等を挙げることが出来る。
【0103】
これらの樹脂は通常公知の光増感剤と共に使用される。また上記光反応開始剤も光増感剤としても使用出来る。具体的には、アセトフェノン、ベンゾフェノン、ヒドロキシベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、α−アミロキシムエステル、チオキサントン等及びこれらの誘導体を挙げることが出来る。また、エポキシアクリレート系の光反応剤の使用の際、n−ブチルアミン、トリエチルアミン、トリ−n−ブチルホスフィン等の増感剤を用いることが出来る。塗布乾燥後に揮発する溶媒成分を除いた紫外線硬化性樹脂組成物に含まれる光反応開始剤また光増感剤は該組成物の通常1〜10質量%添加することが出来、2.5〜6質量%であることが好ましい。
【0104】
樹脂モノマーとしては、例えば、不飽和二重結合が一つのモノマーとして、メチルアクリレート、エチルアクリレート、ブチルアクリレート、酢酸ビニル、ベンジルアクリレート、シクロヘキシルアクリレート、スチレン等の一般的なモノマーを挙げることが出来る。また不飽和二重結合を二つ以上持つモノマーとして、エチレングリコールジアクリレート、プロピレングリコールジアクリレート、ジビニルベンゼン、1,4−シクロヘキサンジアクリレート、1,4−シクロヘキシルジメチルアジアクリレート、前出のトリメチロールプロパントリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリルエステル等を挙げることが出来る。
【0105】
例えば、紫外線硬化樹脂としては、アデカオプトマーKR・BYシリーズ:KR−400、KR−410、KR−550、KR−566、KR−567、BY−320B(以上、旭電化工業株式会社製)、あるいはコーエイハードA−101−KK、A−101−WS、C−302、C−401−N、C−501、M−101、M−102、T−102、D−102、NS−101、FT−102Q8、MAG−1−P20、AG−106、M−101−C(以上、広栄化学工業株式会社製)、あるいはセイカビームPHC2210(S)、PHC X−9(K−3)、PHC2213、DP−10、DP−20、DP−30、P1000、P1100、P1200、P1300、P1400、P1500、P1600、SCR900(以上、大日精化工業株式会社製)、あるいはKRM7033、KRM7039、KRM7130、KRM7131、UVECRYL29201、UVECRYL29202(以上、ダイセル・ユーシービー株式会社)、あるいはRC−5015、RC−5016、RC−5020、RC−5031、RC−5100、RC−5102、RC−5120、RC−5122、RC−5152、RC−5171、RC−5180、RC−5181(以上、大日本インキ化学工業株式会社製)、あるいはオーレックスNo.340クリヤ(中国塗料株式会社製)、あるいはサンラッドH−601(三洋化成工業株式会社製)、あるいはSP−1509、SP−1507(昭和高分子株式会社製)、あるいはRCC−15C(グレース・ジャパン株式会社製)、アロニックスM−6100、M−8030、M−8060(以上、東亞合成株式会社製)あるいはこの他の市販のものから適宜選択して利用出来る。
【0106】
〈無機粒子〉
本発明に係る応力緩和層においては、粒子を含有することが好ましく、更には無機粒子を含有することが好ましく、本発明に係る応力緩和層の構成層に適用できる無機粒子としては、例えば、Si、Ti、Mg、Ca、Zr、Sn、Sb、As、Zn、Nb、In、Alから選択される金属の酸化物微粒子が好ましく、具体的には、酸化珪素、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化スズ、酸化インジウム、ITO、酸化亜鉛、酸化ジルコニウム、酸化マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸カルシウム、タルク、クレイ、焼成カオリン、焼成ケイ酸カルシウム、水和ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、ケイ酸マグネシウム及びリン酸カルシウムを挙げることができる。特に、本発明においては、無機粒子として、酸化珪素を用いることが好ましい。
【0107】
本発明に好ましく適用することができる酸化珪素としては、例えば、好ましく用いられる酸化珪素粒子は、富士シリシア化学(株)製のサイリシア、日本シリカ(株)製のNipsil E、日本アエロジル(株)製のアエロジルシリーズ、日産化学工業(株)製のコロイダルシリカ、オルガノシリカゾル等を適用することができる。
【0108】
本発明に係る応力緩和層に適用できる無機粒子の平均粒子径としては、5nm以上、1.0μm以下であることが好ましく、更に好ましくは5nm以上、500nm以下である。無機粒子の平均粒子径は、無機粒子を電子顕微鏡で観察し、100個の任意の一次粒子の粒径を求め、その単純平均値(個数平均)として求められる。ここで個々の粒子径はその投影面積に等しい円を仮定した時の直径で表したものである。
【0109】
本発明に係る応力緩和層において、応力緩和層における無機粒子の含有量は、本発明で規定する条件を満たす範囲であれば特に制限はない。
【0110】
本発明に係る応力緩和層には、上記説明した各構成材料の他に、本発明の目的効果を損なわない範囲で各種添加剤を用いることができる。応力緩和層塗布液を調製する際には有機溶媒を用いることができ、例えば、炭化水素類(トルエン、キシレン、)、アルコール類(メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、シクロヘキサノール)、ケトン類(アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン)、エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、乳酸メチル)、グリコールエーテル類、その他の有機溶媒の中から適宜選択し、或いはこれらを混合し利用出来る。プロピレングリコールモノアルキルエーテル(アルキル基の炭素原子数として1〜4)またはプロピレングリコールモノアルキルエーテル酢酸エステル(アルキル基の炭素原子数として1〜4)等を5質量%以上、より好ましくは5〜80質量%含有することができる。
【0111】
応力緩和層塗布液を調製する際には、シリコーン化合物を添加することが好ましい。例えば、ポリエーテル変性シリコーンオイルなどが好ましく添加される。
【0112】
応力緩和層の耐熱性を高めるために、光硬化反応を抑制しないような酸化防止剤を選んで用いることができる。例えば、ヒンダードフェノール誘導体、チオプロピオン酸誘導体、ホスファイト誘導体等を挙げることができる。具体的には、例えば、4,4′−チオビス(6−tert−3−メチルフェノール)、4,4′−ブチリデンビス(6−tert−ブチル−3−メチルフェノール)、1,3,5−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)メシチレン、ジ−オクタデシル−4−ヒドロキシ−3,5−ジ−tert−ブチルベンジルホスフェート等を挙げることができる。
【0113】
更に応力緩和層には、シリコン系界面活性剤或いはポリオキシエーテル化合物を含有させることが好ましい。シリコン系界面活性剤としてはポリエーテル変性シリコンが好ましく、具体的には、BYK−UV3500,BYK−UV3510、BYK−333、BYK−331、BYK−337(ビックケミー−ジャパン社製)、TSF4440、TSF4445、TSF4446、TSF4452、TSF4460(GE東芝シリコン製)、KF−351、KF−351A、KF−352、KF−353、KF−354、KF−355、KF−615、KF−618、KF−945、KF−6004(ポリエーテル変性シリコーンオイル;信越化学工業社製)等が挙げられるがこれらに限定されない。
【0114】
また、応力緩和層にはフッ素−シロキサングラフトポリマーを含有することができる。フッ素−シロキサングラフトポリマーとは、少なくともフッ素系樹脂に、シロキサン及び/またはオルガノシロキサン単体を含むポリシロキサン及び/またはオルガノポリシロキサンをグラフト化させて得られる共重合体のポリマーをいう。
【0115】
〈応力緩和層の形成方法〉
本発明においては、樹脂基材上等に、本発明に係る応力緩和層に形成する方法としては、薄膜を形成する公知の方法を適用することができるが、特に、湿式塗布法により形成することが好ましい。
【0116】
湿式塗布法とは、例えば、活性光線硬化樹脂を溶媒、例えば、炭化水素類、アルコール類、ケトン類、エステル類、グリコールエーテル類、その他の溶媒に溶解した後、無機粒子を添加して無機粒子を含有する層塗布液、あるいは活性光線硬化樹脂を溶媒に溶解した無機粒子を含有しない層塗布液を調製し、この塗布液を用いて、ウェット状態の薄膜を樹脂基材上等に形成する方法である。
【0117】
この様な湿式塗布法に用いられる塗布方式としては、例えば、スピンコート塗布、ディップ塗布、エクストルージョン塗布、ロールコート塗布スプレー塗布、グラビア塗布、ワイヤーバー塗布、エアナイフ塗布、スライドポッパー塗布、カーテン塗布等の公知の溶液を用いた塗布方法(塗布装置)を適用することができる。
【0118】
上記の塗布方式により樹脂基材上に形成した応力緩和層(応力緩和層)は、膜を硬化する目的で、活性光線が照射される。活性光線硬化樹脂を光硬化反応により硬化皮膜層を形成するための光源としては、紫外線を発生する光源であれば何れでも使用することができ、例えば、低圧水銀灯、中圧水銀灯、高圧水銀灯、超高圧水銀灯、カーボンアーク灯、メタルハライドランプ、キセノンランプ等を挙げることができる。照射条件はそれぞれのランプによって異なるが、照射光量は20〜10000mJ/cm程度あればよく、好ましくは、50〜2000mJ/cmである。近紫外線領域〜可視光線領域にかけてはその領域に吸収極大のある増感剤を用いることによって使用出来る。
【0119】
紫外線硬化性樹脂組成物は塗布乾燥された後、紫外線を光源より照射するが、照射時間は0.5秒〜5分がよく、紫外線硬化性樹脂の硬化効率、作業効率とから3秒〜2分がより好ましい。
【0120】
本発明に係るA層ユニットを構成する層とB層ユニットを構成する層とを交互に積層した構成とする場合には、樹脂基材上に湿式塗布法により、第1の層を塗設し、次いで活性光線を照射した後、第1の層上に、第2の層を塗設した後、活性光線を照射する。
【0121】
また、単一の層中で硬度あるいは粒子濃度が連続的に変化する応力緩和層を形成する場合には、例えば、ウェット オン ウェットで多層同時重層塗布が可能なコーター、例えば、スライドホッパー型コーターあるいはカーテンコーターを用いて、粒子濃度の異なる複数の応力緩和層塗布液を用い、例えば、最下層が最も粒子濃度の低い応力緩和層塗布液を用い、順次上層になるに従って粒子濃度が上昇する塗布液構成として、樹脂基材上に同時重層塗布をし、一定の時間を経過させて、各界面間での層間で、多少の層間混合させた後、紫外線を光源より照射して硬化させることにより得ることができる。
【0122】
多層同時塗布法に適用可能な塗布装置としては、複数の塗布液を供給できる供給口あるいは供給スリットを備え、所望の乾燥膜厚となるように各供給口あるいは供給スリットへの塗布液の供給量を制御する手段を備えた装置であり、例えば、エクストルージョン塗布、スライドホッパー塗布、カーテン塗布等の塗布装置を適用することができる。
【0123】
《剥離層》
本発明に係る剥離層は、自己修復層と容易に分離することができる材料で構成されるものであり、剥離層の構成材料としては、例えば、ポリエステル、ポリビニルアセタール、ポリビニルホルマール、ポリパラバン酸、ポリメタクリル酸メチル、ポリカーボネート、エチルセルロース、ニトロセルロース、メチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリ塩化ビニル、ポリスチレン、アクリロニトリルスチレン等のスチレン類及びこれら樹脂を架橋したもの、ポリアミド、ポリイミド、ポリエーテルイミド、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、アラミド等のTgが65℃以上の熱硬化性樹脂及びそれら樹脂の硬化物が挙げられる。硬化剤としてはイソシアナート、メラミン等の一般的硬化剤を使用することができる。
【0124】
本発明に係る剥離層の膜厚としては、特に制限はないが、0.1〜10μmの範囲で適宜設定することができる。
【0125】
《樹脂基材》
本発明の自己修復層付積層体を構成する樹脂基材としては、特に制限はないが、エチレン、プロピレン、ブテン等の単独重合体または共重合体等のポリオレフィン(PO)樹脂、環状ポリオレフィン等の非晶質ポリオレフィン樹脂(APO)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエチレン2,6−ナフタレート(PEN)等のポリエステル系樹脂、ナイロン6、ナイロン12、共重合ナイロン等のポリアミド系(PA)樹脂、ポリビニルアルコール(PVA)樹脂、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等のポリビニルアルコール系樹脂、ポリイミド(PI)樹脂、ポリエーテルイミド(PEI)樹脂、ポリサルホン(PS)樹脂、ポリエーテルサルホン(PES)樹脂、ポリエーテルエーテルケトン(PEEK)樹脂、ポリカーボネート(PC)樹脂、アクリル樹脂、ポリスチレン樹脂、塩化ビニル樹脂、ポリビニルブチラート(PVB)樹脂、ポリアリレート(PAR)樹脂、エチレン−四フッ化エチレン共重合体(ETFE)、三フッ化塩化エチレン(PFA)、四フッ化エチレン−パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(FEP)、フッ化ビニリデン(PVDF)、フッ化ビニル(PVF)、パーフルオロエチレン−パーフロロプロピレン−パーフロロビニルエーテル−共重合体(EPA)等のフッ素系樹脂等を用いることができる。
【0126】
また、上記に挙げた樹脂以外にも、ラジカル反応性不飽和化合物を有するアクリレート化合物によりなる樹脂組成物や、上記アクリルレート化合物とチオール基を有するメルカプト化合物よりなる樹脂組成物、エポキシアクリレート、ウレタンアクリレート、ポリエステルアクリレート、ポリエーテルアクリレート等のオリゴマーを多官能アクリレートモノマーに溶解せしめた樹脂組成物等の光硬化性樹脂およびこれらの混合物等を用いることも可能である。
【0127】
上記例示した樹脂基材は、市販品として入手することができ、例えば、ゼオネックスやゼオノア(日本ゼオン(株)製)、非晶質シクロポリオレフィン樹脂フィルムのARTON(ジェイエスアール(株)製)、ポリカーボネートフィルムのピュアエース(帝人(株)製)、セルローストリアセテートフィルムのコニカタックKC4UX、KC8UX(コニカミノルタオプト(株)製)などを挙げることができる。
【0128】
さらに、これらの樹脂の1または2種以上をラミネート、コーティング等の手段によって積層させたものを樹脂フィルム基材として用いることも可能である。
【0129】
また、本発明に係る樹脂基材は、シート状であってもフィルム状であっても、あるいはその他の形態であってもよく、特にその形態には制限はない。また、樹脂基材の膜厚は、使用する樹脂の種類や、目的用途等の各種条件に応じて広い範囲から適宜選択できるが、通常10μm〜10mm、好ましくは100μm〜5mmの範囲である。
【0130】
《成形体の作製》
本発明の成形体の第1の態様としては、樹脂基材の少なくとも一方の面に、応力緩和層と自己修復層とをこの順で積層した自己修復層付積層体を用いて、熱成形により絞り成形して形成したことを特徴とする。また、上記構成からなる自己修復層付積層体を、自己修復層が表面になるように樹脂基体に接着させた後、該樹脂基体を熱成形により絞り成形して形成したことを特徴とする。
【0131】
図5は、本発明の自己修復層付積層体を用いた成形体の形成方法の一例を示す模式図であり、具体的な方法としては、図5のa)に示すように、樹脂基材2上に、応力緩和層3と自己修復層4を積層した自己修復層付積層体1を、自己修復層4が表面になるように樹脂基体B上に接着させて、成形体7を形成する方法である。
【0132】
また、本発明の成形体は、樹脂基材が樹脂フィルムである上記構成からなる自己修復層付積層体を、自己修復層が金型側になるようにして、該金型片面に装填させた後、合成樹脂からなる成形材料を金型内の該自己修復層付積層体上に射出注入し、該自己修復層付積層体と成形材料とを積層一体化して形成したことを特徴とする。その成形方法の一例を、図6に示す。
【0133】
図6は、レンズ型成形体の形成方法の一例を示す模式図である。
【0134】
図6において、第1射出成形型10内に、本発明の自己修復層付積層体1を自己修復層4が第1射出成形型10と対向する様に配置した後、第2射出成形型9を重ね合わせ、射出口11よりキャビティ内にポリカーボネート樹脂12を、樹脂温度300℃、金型温度90℃、射出圧力10MPaで射出することにより、ポリカーボネート樹脂12表面に自己修復層付積層体1を備えた凸レンズ様のレンズ型成型体を得る方法である。
【0135】
一方、本発明の成形体の第2の態様としては、樹脂基材の一方の面に、剥離層、自己修復層及び応力緩和層をこの順で積層した自己修復層付積層体を用いて、熱成形により絞り成形して形成したことを特徴とする。また、上記構成からなる自己修復層付積層体を、樹脂基材が表面になるように樹脂基体に接着させた後、該樹脂基体を熱成形により絞り成形して形成したことを特徴とする。
【0136】
具体的には、図5のb)に示すように、樹脂基材2上に、剥離層5、自己修復層4及び応力緩和層3を積層した自己修復層付積層体1を、樹脂基材2が表面となるように、応力緩和層3と樹脂基体Bを密着させた後、剥離層5を介して樹脂基材2を取り除いた後、樹脂基体ユニットを熱成形により絞り成形して、成形体7を形成する方法である。
【0137】
また、本発明の成形体は、樹脂基材が樹脂フィルムである上記構成からなる自己修復層付積層体1を、樹脂フィルムが金型側になるようにして金型の片面に装填した後、合成樹脂からなる成形材料を金型内の自己修復層付積層体1上に射出注入し、自己修復層付積層体1と成形材料とを積層一体化し、剥離層を介して樹脂フィルムを自己修復層付積層体1から剥離して得られることを特徴とする。すなわち、自己修復層付積層体フィルムをあらかじめ熱成形により絞り成形して成形体の原型を作成し、その原型を自己修復層が金型側になるようにして少なくとも金型片面に装填後、合成樹脂からなる成形材料を金型内に射出注入し、自己修復層付積層体フィルムと成形材料を積層一体化して成形体を形成しても良い。
【0138】
更にまた別の方法として、自己修復層を施したインモールド用転写フィルムを射出成形に用いる金型の内部に挟み込むことで、射出成形による被転写体となる成形品の形成と同時に、金型内で成形品の表面に自己修復層の転写を行なうインモールド成形を用いても良い。自己修復層付積層体をこのようなインモールド成形用転写フィルムとして用いる場合には、基材の一面に剥離層を形成し、この剥離層の表面に、更に自己修復層、応力緩和層をこの順に積層すればよい。
【0139】
図7は、本発明の自己修復層付積層体を用いたインモールド成形法による成形体の作製方法の一例を示す模式図である。
【0140】
図7は、インモールド成形の概略を工程順に説明する説明図であり、インモールド成形は、図7のa)に示すように、1対の金型101A、101Bの相互間が開いた型開状態とし、金型101(符号101は、1対の金型101A、101Bを総称する。)の相互間の所定に位置に、本発明のインモールド用の自己修復層付積層体フィルム102をセットする。この時、本発明のインモールド用の自己修復層付積層体フィルム102は、樹脂基材102aに剥離層102cを介して形成されている自己修復層102dと応力緩和層102eを、キャビティ101c(図7のb))に充填される材料側に向けて配置される。
【0141】
次いで、図7のb)に示すように、金型101の型締めを行って金型101が閉じた型閉状態とする。この時、金型101に本発明のインモールド用の自己修復層付積層体フィルム102の所定の部分が挟み込まれる。
【0142】
次いで、図7のc)に示すように、閉状態とされた金型101のキャビティ101cに材料103を射出し、その後、金型101に射出された材料103を冷却して固化して被転写体としての成形品104を得る。この時、キャビティ101cに射出された材料は、キャビティ101cに配置されている本発明のインモールド用の自己修復層付積層体フィルム102の転写層(自己修復層102dと応力緩和層102e)を覆うように充填される。また、材料に接触した転写層(自己修復層102dと応力緩和層102e)は、材料の熱と圧力(射出圧)を受けて成形品104の表面に接着(熱転写)される。
【0143】
次いで、図7のd)に示すように、金型101を型開状態として成形品104を金型101のキャビティ101cから脱型する。この時、転写層(自己修復層102dと応力緩和層102e)のうちの成形品104に接着した部分は、本発明のインモールド用の自己修復層付積層体フィルム102の樹脂基材102aから剥離される。
【0144】
このように、インモールド成形においては、成形品104への自己修復層102dと応力緩和層102eの積層が、成形と同時に行われるようになっている。
【実施例】
【0145】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例において「部」あるいは「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量部」あるいは「質量%」を表す。
【0146】
実施例1
《自己修復層用塗布液の調製》
(自己修復層用塗布液1の調製)
ヘキサメチレンジイソシアネートのイソシアヌレート変性タイプ〔三井武田ケミカル(株)製、商品名:タケネートD−170N〕20.5部及びポリカプロラクトン変性ヒドロキシエチルアクリレート〔ダイセル化学工業(株)製、商品名:プラクセルFA5、カプロラクトン単位の繰り返し数=5〕79.5部から形成されたウレタンアクリレート90部と、2−ヒドロキシプロピルアクリレート〔大阪有機化学工業(株)製、商品名:HPA〕6.8部と、光重合開始剤として1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン〔チバ・ジャパン(株)製、商品名「イルガキュア184」、以下イルガキュアと略す〕3部と、表面調整剤〔ビックケミー(Byk−Chemie)社製、商品名「BYK−381」〕0.2部と、メチルエチルケトン100部とを混合して、自己修復層用塗布液1を調製した。
【0147】
後述の方法により測定した自己修復層用塗布液1により形成した自己修復層の表面硬度は、0.52GPaであった。
【0148】
《応力緩和層用塗布液の調製》
(応力緩和層用塗布液1の調製)
紫外線硬化性樹脂:ビームセット575CB、荒川化学工業株式会社製 60.0g
光反応開始剤:イルガキュア184、チバ・ジャパン(株)社製 3.0g
メチルエチルケトン 30.0g
上記各添加剤を順次混合して30分間撹拌した後、孔径1.0μmのポリプロピレン製フィルタで濾過して、応力緩和層用塗布液1を調製した。
【0149】
(応力緩和層用塗布液2の調製)
紫外線硬化性樹脂:B−1405、新中村科学工業株式会社製 60.0g
光反応開始剤:イルガキュア184、チバ・ジャパン(株)社製 3.0g
メチルエチルケトン 30.0g
上記各添加剤を順次混合して30分間撹拌した後、孔径1.0μmのポリプロピレン製フィルタで濾過して、応力緩和層用塗布液2を調製した。
【0150】
(応力緩和層用塗布液3の調製)
紫外線硬化性樹脂:ビームセット575CB、荒川化学工業株式会社製 60.0g
光反応開始剤:イルガキュア184、チバ・ジャパン(株)社製 3.0g
無機粒子分散液:30質量%酸化珪素含有、メチルエチルケトン分散シリカゾル(日産化学(株)製、商品名MEK−ST)、酸化珪素粒子の平均一次粒径=15nm
387.0g
上記各添加剤を順次混合して30分間撹拌した後、孔径1.0μmのポリプロピレン製フィルタで濾過して、応力緩和層用塗布液3を調製した。
【0151】
(応力緩和層用塗布液4の調製)
紫外線硬化性樹脂:ビームセット575CB、荒川化学工業株式会社製 60.0g
光反応開始剤:イルガキュア184、チバ・ジャパン(株)社製 3.0g
無機粒子分散液:30質量%酸化珪素含有、イソプロパノール分散シリカゾル(日産化学(株)製、商品名IPA−ST−ZL)、酸化珪素粒子の平均一次粒径=85nm
387.0g
上記各添加剤を順次混合して30分間撹拌した後、孔径1.0μmのポリプロピレン製フィルタで濾過して、応力緩和層用塗布液4を調製した。
【0152】
(応力緩和層用塗布液5の調製)
紫外線硬化性樹脂:ビームセット575CB、荒川化学工業株式会社製 60.0g
光反応開始剤:イルガキュア184、チバ・ジャパン(株)社製 3.0g
無機粒子分散液:30質量%酸化珪素含有、メチルエチルケトン分散シリカゾル(日産化学(株)製、商品名MEK−ST)、酸化珪素粒子の平均一次粒径=15nm
97.2g
上記各添加剤を順次混合して30分間撹拌した後、孔径1.0μmのポリプロピレン製フィルタで濾過して、応力緩和層用塗布液5を調製した。
【0153】
(応力緩和層用塗布液6の調製)
紫外線硬化性樹脂:ビームセット575CB、荒川化学工業株式会社製 60.0g
光反応開始剤:イルガキュア184、チバ・ジャパン(株)社製 3.0g
無機粒子分散液:30質量%酸化珪素含有、メチルエチルケトン分散シリカゾル(日産化学(株)製、商品名MEK−ST)、酸化珪素粒子の平均一次粒径=15nm
258.5g
上記各添加剤を順次混合して30分間撹拌した後、孔径1.0μmのポリプロピレン製フィルタで濾過して、応力緩和層用塗布液6を調製した。
【0154】
(応力緩和層用塗布液7の調製)
紫外線硬化性樹脂:ビームセット575CB、荒川化学工業株式会社製 60.0g
光反応開始剤:イルガキュア184、チバ・ジャパン(株)社製 3.0g
無機粒子分散液:30質量%酸化珪素含有、メチルエチルケトン分散シリカゾル(日産化学(株)製、商品名MEK−ST)、酸化珪素粒子の平均一次粒径=15nm
166.1g
上記各添加剤を順次混合して30分間撹拌した後、孔径1.0μmのポリプロピレン製フィルタで濾過して、応力緩和層用塗布液7を調製した。
【0155】
(応力緩和層用塗布液8の調製)
紫外線硬化性樹脂:ビームセット575CB、荒川化学工業株式会社製 60.0g
光反応開始剤:イルガキュア184、チバ・ジャパン(株)社製 3.0g
無機粒子分散液:30質量%酸化珪素含有、メチルエチルケトン分散シリカゾル(日産化学(株)製、商品名MEK−ST)、酸化珪素粒子の平均一次粒径=15nm
581.9g
上記各添加剤を順次混合して30分間撹拌した後、孔径1.0μmのポリプロピレン製フィルタで濾過して、応力緩和層用塗布液8を調製した。
【0156】
以上により調製した各応力緩和層塗布液の詳細と各特性値を表1に示す。
【0157】
【表1】

【0158】
なお、表1に記載の各特性値は、下記の方法に従って測定して求めた。
【0159】
〔自己修復層および応力緩和層の表面硬度の測定〕
自己修復層塗布液または各応力緩和層塗布液を用いて自己修復層または応力緩和層を形成した時の表面硬度を、以下の方法に従って測定した。
【0160】
(1)表面硬度
樹脂基材上に、自己修復層塗布液または各応力緩和層用塗布液を用いて、乾燥膜厚が10.0μmとなる条件で、ワイヤーバーで塗布し、90℃で乾燥した後、紫外線ランプを用い、照射部の照度が100mW/cmで、照射量を80mJ/cmとして硬化させ、自己修復層または応力緩和層を形成した。
【0161】
次に、形成した自己修復層または応力緩和層について、ナノインデンテーションによる表面硬度の測定を行った。硬度Hの測定は、Hysitron社製TriboscopeをDigital Instruments社製のNanoscopeIIIに装着して測定した。測定には、圧子としてベルコビッチ型圧子(先端稜角142.3°)と呼ばれる三角錘型ダイヤモンド製圧子を用いた。三角錘型ダイヤモンド製圧子を各層表面に直角に当て、徐々に荷重を印加し、最大荷重到達後に荷重を0にまで徐々に戻した。この時の最大荷重Pを圧子接触部の投影面積Aで除した値P/Aをナノインデンテーション硬度(H)として算出した。この時の最大荷重の条件は、100μNで行った。
【0162】
上記方法で測定した自己修復層の表面硬度は、0.52GPaであった。
【0163】
〔無機粒子充填率の測定〕
各応力緩和層用塗布液において、固形分(溶媒以外の成分)に対する無機粒子の割合(固形分比率、粒子充填率)を測定した。なお、活性エネルギー線硬化樹脂は、活性エネルギー線の照射による反応で硬化と同時に収縮するため、下記に示す充填率測定法(体積分析法)で求めた。
【0164】
〈充填率測定法(体積分析法)〉
乾燥後の応力緩和層中の無機粒子の充填率は、次の方法で測定した。各塗布液を樹脂基材上に湿式塗布法にて塗布して応力緩和層を形成した後、樹脂基材より応力緩和層を剥離して全体積を測定し、次いで、樹脂成分を溶解して無機粒子の体積を測定し、それらの測定値より、無機粒子の充填率(体積%)を求めた。
【0165】
《自己修復層付積層体の作製》
〔樹脂基材〕
樹脂基材としては、厚さ100μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人・デュポン社製フィルム、以下、PETと略記する)を用いた。
【0166】
〔試料100の作製〕
下記の方法に従って、自己修復層付積層体である試料100を作製した。
【0167】
上記樹脂基材上に、自己修復層用塗布液1を用いて、乾燥膜厚が5.0μmとなる条件で、ワイヤーバーを用いて塗布し、90℃で乾燥した後、紫外線ランプを用い、照射部の照度が100mW/cmで、照射量を80mJ/cmの条件で硬化させ、自己修復層を形成し、自己修復層付積層体である試料100を作製した。
【0168】
〔試料101の作製〕
下記の方法に従って、自己修復層付積層体である試料101を作製した。
【0169】
上記樹脂基材上に、応力緩和層用塗布液1を用いて、乾燥膜厚が12.0μmとなる条件で、ワイヤーバーを用いて塗布し、90℃で乾燥した後、紫外線ランプを用い、照射部の照度が100mW/cmで、照射量を80mJ/cmとして硬化させ、応力緩和層を形成した。次いで、その上に、自己修復層用塗布液1を用いて、乾燥膜厚が5.0μmとなる条件で、ワイヤーバーを用いて塗布し、90℃で乾燥した後、紫外線ランプを用い、照射部の照度が100mW/cmで、照射量を80mJ/cmとして硬化させ、自己修復層を形成し、自己修復層付積層体である試料101を作製した。
【0170】
〔試料102、103の作製〕
上記試料101の作製において、応力緩和層の形成条件として、応力緩和層用塗布液1に代えて、応力緩和層用塗布液2、3をそれぞれ用いた以外は同様にして、試料102、103を作製した。
【0171】
〔試料104の作製〕
上記樹脂基材上に、応力緩和層用塗布液1を用いて、乾燥膜厚が4.0μmとなる条件で、ワイヤーバーで塗布し、90℃で乾燥した後、紫外線ランプを用い、照射部の照度が100mW/cmで、照射量を80mJ/cmとして硬化させ、応力緩和層の第1層目を形成した。次いで、その上に、応力緩和層用塗布液2を用いて、乾燥膜厚が4.0μmとなる条件で、ワイヤーバーで塗布し、90℃で乾燥した後、紫外線ランプを用い、照射部の照度が100mW/cmで、照射量を80mJ/cmとして硬化させ、応力緩和層の第2層目を形成した。次いで、その上に、応力緩和層用塗布液3を用いて、乾燥膜厚が4.0μmとなる条件で、ワイヤーバーで塗布し、90℃で乾燥した後、紫外線ランプを用い、照射部の照度が100mW/cmで、照射量を80mJ/cmとして硬化させ、応力緩和層の第3層目を形成した。次いで、その上に、自己修復層用塗布液1を用いて、乾燥膜厚が5.0μmとなる条件で、ワイヤーバーで塗布し、90℃で乾燥した後、紫外線ランプを用い、照射部の照度が100mW/cmで、照射量を80mJ/cmとして硬化させ、自己修復層を形成し、自己修復層付積層体である試料104を作製した。
【0172】
〔試料105〜107の作成〕
上記試料104の作製において、応力緩和層の形成条件として、積層する層数、応力緩和層塗布液の種類と各乾燥膜厚(μm)を、表2に記載の条件に変更した以外は同様にして、試料105〜107を作製した。
【0173】
〔試料108の作製〕
上記試料107の作製において、応力緩和層の第1層〜第4層の各塗布液を、4層同時重層塗布可能なスライドホッパー方式の塗布装置を用いて、樹脂基材上に同時重層塗布し、10秒間その状態を維持した後、試料101に記載の方法と同様にして乾燥及び硬化を行って、応力緩和層を形成した以外は同様にして、試料108を作製した。
【0174】
〔試料109の作製〕
上記試料107の作製において、応力緩和層の形成条件として、応力緩和層塗布液の種類と各乾燥膜厚(μm)を、表2に記載の条件に変更した以外は同様にして、試料109を作製した。
【0175】
〔試料110の作製〕
上記試料109の作製において、応力緩和層の第1層〜第4層の各塗布液を、4層同時重層塗布可能なスライドホッパー方式の塗布装置を用いて、樹脂基材上に同時重層塗布し、10秒間その状態を維持した後、試料101に記載の方法と同様にして乾燥及び硬化を行って、応力緩和層を形成した以外は同様にして、試料110を作製した。
【0176】
【表2】

【0177】
〔試料111の作製〕
上記試料107の作製において、応力緩和層の形成を下記の方法に変更した以外は同様にして、試料111を作製した。
【0178】
(応力緩和層の形成)
上記樹脂基材上に、応力緩和層用塗布液2を用いて、乾燥膜厚が2.0μmとなる条件で、ワイヤーバーで塗布し、90℃で乾燥した後、紫外線ランプを用い、照射部の照度が100mW/cmで、照射量を80mJ/cmとして硬化させ、応力緩和層の第1層目(A層ユニット)を形成した。次いで、その上に、応力緩和層用塗布液3を用いて、乾燥膜厚が6.0μmとなる条件で、ワイヤーバーで塗布し、90℃で乾燥した後、紫外線ランプを用い、照射部の照度が100mW/cmで、照射量を80mJ/cmとして硬化させ、応力緩和層の第2層目(B層ユニット)を形成した。次いで、その上に、応力緩和層用塗布液2を用いて、乾燥膜厚が4.0μmとなる条件で、ワイヤーバーで塗布し、90℃で乾燥した後、紫外線ランプを用い、照射部の照度が100mW/cmで、照射量を80mJ/cmとして硬化させ、応力緩和層の第3層目(A層ユニット)を形成し、A層及びB層が交互に積層した応力緩和層を形成した。
【0179】
〔試料112〜117の作製〕
上記試料111の作製において、応力緩和層の形成に用いた応力緩和層用塗布液の種類及び乾燥膜厚を、表3に記載のように変更した以外は同様にして、試料112〜117を作製した。
【0180】
〔試料118の作製〕
上記試料117の作製において、応力緩和層の第1層〜第6層の各塗布液を、6層同時重層塗布可能なスライドホッパー方式の塗布装置を用いて、樹脂基材上に6層同時重層塗布し、10秒間その状態を維持した後、試料101に記載の方法と同様にして乾燥及び硬化を行って、応力緩和層を形成した以外は同様にして、試料118を作製した。
【0181】
【表3】

【0182】
〔試料119〜125の作製〕
上記試料111の作製において、応力緩和層の形成に用いた応力緩和層用塗布液の種類及び乾燥膜厚を、表4に記載のように変更した以外は同様にして、試料119〜125を作製した。
【0183】
〔試料126の作製〕
上記試料125の作製において、応力緩和層の第1層〜第6層の各塗布液を、6層同時重層塗布可能なスライドホッパー方式の塗布装置を用いて、樹脂基材上に6層同時重層塗布し、10秒間その状態を維持した後、試料101に記載の方法と同様にして乾燥及び硬化を行って、応力緩和層を形成した以外は同様にして、試料126を作製した。
【0184】
〔試料127〜129の作製〕
上記試料111の作製において、応力緩和層の形成に用いた応力緩和層用塗布液の種類及び乾燥膜厚を、表4に記載のように変更した以外は同様にして、試料127〜129を作製した。
【0185】
【表4】

【0186】
《自己修復層付積層体の評価》
上記作製した自己修復層付積層体(試料101〜129)について、下記の各評価を行った。
【0187】
(密着性の評価)
上記作製した各自己修復層付積層体を、JIS K 5400に準拠した碁盤目試験により、密着性の評価を行った。
【0188】
各自己修復層付積層体の各層を形成した面に、片刃のカミソリの刃で表面に対して90度の切り込みを1mm間隔で縦横に11本ずつ入れ、1mm角の碁盤目を100個作成した。この碁盤目上に市販のセロファンテープを貼り付け、その一端を手でもって垂直にはがし、切り込み線からの貼られたテープ面積に対して剥がされた面積の割合を測定し、下記の評価基準に従って密着性を評価した。また、剥離を起こした試料については、剥離した層の確認も同時に行った。
【0189】
〈評価ランク〉
5:全く剥離が認められない
4:剥がれた層の面積が1%以上、5%未満であった
3:剥がれた層の面積が5%以上、10%未満であった
2:剥がれた層の面積が、10%以上、20%未満であった
1:剥がれた層の面積が、20%以上である
〈剥離位置〉
a:樹脂基材とその上層との間で剥離を生じた
b:応力緩和層の途中の層間で剥離を生じた
c:応力緩和層の最表層と自己修復層間で剥離を生じた
−:剥離を全く起こさなかった
(耐擦傷性の評価1)
上記作製した各自己修復層付積層体表面(自己修復層形成面側)を、摩擦試験機HEIDON−14DRで、スチールウール(ボンスター #0000、2cm×2cm)を用い、荷重:9.8N、移動速度:15mm/分の条件で、20回の擦過処理を行った後、擦過範囲をルーペで観察し、下記の基準に従って、耐擦傷性の評価を行った。
【0190】
◎:全く擦り傷の発生が認められない
○:擦り傷の発生が1本以上、5本以下である
△:擦り傷の発生が6本以上、15本以下である
×:擦り傷の発生が16本以上、25本以下である
××:擦り傷の発生が26本以上である
(耐擦傷性の評価2)
耐擦傷性の評価1の結果で◎のサンプルについて、耐擦傷性を更に詳細に評価するため、スチールウールを変更してより傷がつきやすい条件で再度評価した。
【0191】
・摩擦試験機HEIDON−14DR
・スチールウール(ボンスター #00、2cm×2cm)
・荷重:9.8N
・移動速度:15mm/分
・20回の擦過処理
擦過処理を行った後、擦過範囲をルーペで観察し、下記の基準に従って、耐擦傷性の評価を行った。
【0192】
5:全く擦り傷の発生が認められない
4:擦り傷の発生が1本以上、5本以下である
3:擦り傷の発生が6本以上、15本以下である
2:擦り傷の発生が16本以上、25本以下である
1:擦り傷の発生が26本以上である
(自己修復性の評価)
スチールウールの種類、荷重を変更し、全てのサンプルに傷がつく条件で擦過処理を行った。
【0193】
・摩擦試験機HEIDON−14DR
・スチールウール(ボンスター #0、2cm×2cm)
・荷重:19.6N
・移動速度:15mm/分
・20回の擦過処理
擦過処理を行った直後(5分後)に測定したヘイズ値(H)と、静置した状態で2時間放置した後に測定したヘイズ値(H)との差(ΔH)から自己修復性を評価した。
【0194】
とHの差ΔH(ΔH=H−H)を求め、ΔHの値がマイナスであれば自己修復性がある(○)と判断し、0以上の場合は自己修復性がない(×)と判断した。
【0195】
なお、上記において、ヘイズ値は、日本電色工業(株)社製ヘイズメーター「NDH−2000」を用いて、JIS K 7361−1に準拠して測定した。
【0196】
以上により得られた結果を、表5に示す。
【0197】
【表5】

【0198】
表5に記載の結果より明らかな様に、本発明で規定する層構成からなる自己修復層付積層体は、比較例に対し、密着性、耐擦傷性、自己修復性に優れていることが分かる。
【0199】
実施例2
《成形体の作製》
(レンズ型成型体Lの作製)
図8は、レンズ型成型体Lの作製工程を示すフロー図である。
【0200】
図8のa)に示すように、上記作製した自己修復層付積層体である試料100〜129(図8では自己修復層付積層体1)を、自己修復層が上になるようにしてクランプ201で固定する。次に、図8のb)で示すように、自己修復層付積層体1の上下に配置したヒーター203を用いて、自己修復層付積層体1をドローダウン(加熱時の自重による自己修復層付積層体の「たれ」)させる。次に、図8のc)に示すように自己修復層付積層体1の下方から自己修復層付積層体1とレンズ型202を接触させる。次いで、図8のd)で示すように、レンズ型202の下部をX方向に減圧することにより、自己修復層付積層体1とレンズ型202とを密着させる。次に、図8のe)に示すように、自己修復層付積層体1を冷却固化してから、レンズ型202を離型し、クランプ201を外して、図8のf)に示すように、成形されていない余分な部分をトリミングして、凸面側に自己修復層を備えた各レンズ型成型体L1(レンズ型の自己修復層付積層体1)を得た。
【0201】
次に、図6に示すように、第1射出成形型10内に、上記作製したレンズ型成型体L1(図6においては、自己修復層付積層体1として示す)を配置した後、第2射出成形型9を重ね合わせ、射出口11よりキャビティ内にポリカーボネート樹脂12を、樹脂温度300℃、金型温度90℃、射出圧力10MPaで射出することにより、図6に示すようなポリカーボネート樹脂表面の凸面側に自己修復層を備えた各レンズ型成型体Lを得た。
【0202】
《各成型体Lの評価》
(耐擦傷性の評価1)
上記作製した各自己修復層付積層体表面(自己修復層形成面側)を、摩擦試験機HEIDON−14DRで、スチールウール(ボンスター #0000、2cm×2cm)を用い、荷重:9.8N、移動速度:15mm/分の条件で、20回の擦傷処理を行った後、擦傷範囲をルーペで観察し、下記の基準に従って、耐擦傷性の評価1を行った。
【0203】
◎:全く擦り傷の発生が認められない
○:擦り傷の発生が1本以上、5本以下である
△:擦り傷の発生が6本以上、15本以下である
×:擦り傷の発生が16本以上、25本以下である
××:擦り傷の発生が26本以上である
(耐擦傷性の評価2)
上記耐擦傷性の評価1の結果で◎のサンプルについて、耐擦傷性を更に詳細に評価するため、スチールウールを変更して、より傷がつきやすい条件で再度評価した。
【0204】
・摩擦試験機HEIDON−14DR
・スチールウール(ボンスター #00、2cm×2cm)
・荷重:9.8N
・移動速度:15mm/分
・20回の擦過処理
擦傷処理を行った後、擦傷範囲をルーペで観察し、下記の基準に従って、耐擦傷性の評価2を行った。
【0205】
5:全く擦り傷の発生が認められない
4:擦り傷の発生が1本以上、5本以下である
3:擦り傷の発生が6本以上、15本以下である
2:擦り傷の発生が16本以上、25本以下である
1:擦り傷の発生が26本以上である
(自己修復性の評価)
スチールウールの種類、荷重を変更し、全てのサンプルに傷がつく条件で擦傷処理を行った。
【0206】
・摩擦試験機HEIDON−14DR
・スチールウール(ボンスター #0、2cm×2cm)
・荷重:19.6N
・移動速度:15mm/分
・20回の擦過処理
擦過処理を行った直後(5分後)に測定したヘイズ値(H)と、2時間後に測定したヘイズ値(H)との差(ΔH)から自己修復性を評価した。
【0207】
とHの差ΔH(ΔH=H−H)を求め、ΔHの値がマイナスであれば自己修復性がある(○)と判断し、0以上の場合は自己修復性がない(×)と判断した。
【0208】
なお、上記において、ヘイズ値は、日本電色工業(株)社製ヘイズメーター「NDH−2000」を用いて、JIS K 7361−1に準拠して測定した。
【0209】
(基材追従性の評価)
得られた成形体Lの表面応力緩和層の状態をルーペ及び目視で観察し、下記の基準に従って、基材追従性を評価した。
【0210】
◎:型再現が良好で、クラックやしわの発生が全く認められない
○:型再現は良好であるが、極弱いクラックまたはしわの発生が僅かに認められる
△:クラック、しわのいずれか一方の故障発生が認められる
×:クラック、しわの双方の故障発生が認められる
以上により得られた結果を、表6に示す。
【0211】
【表6】

【0212】
表6に示した結果より明らかな様に、本発明で規定する構成で得られた成形用の自己修復層付積層体試料は、比較試料に対し、耐擦傷性、自己修復性、基材追従性で優れていることが分かる。
【0213】
実施例3
実施例1に記載の本発明の自己修復層付積層体101、102、106〜115、117〜123、125〜129の作製において、樹脂基材上に下記の方法に従って、剥離層を形成した後、同一組成の自己修復層及び応力緩和層を積層し、請求項11〜17で規定する条件を満たした構成とした以外は同様にして、本発明の第2の態様である自己修復層付積層体101A、102A、106A〜115A、117A〜123A、125A〜129Aを作製した。
【0214】
(剥離層の形成)
〈剥離層塗布液〉
シリコン樹脂(東レシリコーン社製:SR2411) 16.65質量部
アクリルシリコンブロック共重合体(ナトコ社製:LDL500) 0.37質量部
2−プロパノール 85.5質量部
厚み50μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(帝人デュポンフィルム株式会社製)に上記組成からなる剥離層塗布液を、乾燥膜厚0.5μmとなるようにワイヤーバーを用いて塗布し、乾燥温度80℃で1分間乾燥して剥離層を形成した。
【0215】
次いで、上記作製した各自己修復層付積層体を用いて、図7に記載の方法に従って、成形体を作製し、実施例2に記載の方法と同様にして、作製した成形体の評価を行った結果、表6と同様の結果を得ることができた。
【符号の説明】
【0216】
1、102 自己修復層付積層体
2、102a 樹脂基材
3、3−1、3−2、3A−1、3A−2、3B−1、3B−2、3−イ、3−ロ、3A−イ、3A−ロ、3B−イ、3B−ロ、102e 応力緩和層
4、102d 自己修復層
5、102c 剥離層
9 第2射出成形型
10 第1射出成形型
11 射出口
12 ポリカーボネート樹脂
101、101A、101B 金型
101c キャビティ
103 材料
104 成形品
201 クランプ
202 レンズ型
203 ヒーター
B 樹脂基体
L1 レンズ型成型体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材の少なくとも一方の面に、応力緩和層と自己修復層とをこの順で積層した自己修復層付積層体において、該自己修復層は少なくとも軟質合成樹脂から構成され、該自己修復層に接する該応力緩和層のナノインデンテーションによる硬度Hが、自己修復層のナノインデンテーションによる硬度Hと同等または低いことを特徴とする自己修復層付積層体。
【請求項2】
前記応力緩和層は2層以上の硬度Hの異なる層から構成され、前記自己修復層に接する応力緩和層から樹脂基材に接する応力緩和層に向かって硬度Hが高くなることを特徴とする請求項1に記載の自己修復層付積層体。
【請求項3】
前記応力緩和層は、自己修復層に接する領域から樹脂基材に接する領域に向かって膜厚方向に連続的に硬度Hが高くなる構成であることを特徴とする請求項1に記載の自己修復層付積層体。
【請求項4】
前記応力緩和層は2層以上の粒子濃度の異なる層からなり、自己修復層に接する応力緩和層から樹脂基材に接する応力緩和層に向かって粒子濃度が高くなることを特徴とする請求項1に記載の自己修復層付積層体。
【請求項5】
前記応力緩和層は、自己修復層に接する領域から樹脂基材に接する領域に向かって膜厚方向に連続的に粒子濃度が高くなることを特徴とする請求項1に記載の自己修復層付積層体。
【請求項6】
前記応力緩和層は硬度Hの異なる二つの層が交互に積層された構造であり、硬度Hが低い層群をA層ユニット、硬度Hが高い層群をB層ユニットとしたとき、前記自己修復層に接する層はA層ユニットを構成する1層であり、該A層ユニット及びB層ユニットの少なくとも1つの層ユニットは、乾燥膜厚が異なる少なくとも2層で構成され、該A層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該A層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって増加し、該B層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該B層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって減少し、該A層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣAhと該B層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣBhが同等であることを特徴とする請求項1に記載の自己修復層付積層体。
【請求項7】
前記応力緩和層は、粒子濃度の異なる二つの層が交互に積層された構造であり、粒子濃度が低い層群をA層ユニット、粒子濃度が高い層群をB層ユニットとしたとき、前記自己修復層に接する層はA層ユニットを構成する1層であり、該A層ユニット及びB層ユニットの少なくとも1つの層ユニットは、乾燥膜厚が異なる少なくとも2層で構成され、該A層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該A層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって増加し、該B層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該B層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって減少し、該A層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣAhと該B層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣBhが同等であることを特徴とする請求項1に記載の自己修復層付積層体。
【請求項8】
請求項1から7のいずれか1項に記載の自己修復層付積層体を熱成形により絞り成形して形成したことを特徴とする成形体。
【請求項9】
樹脂基材が樹脂フィルムである請求項1から7のいずれか1項に記載の自己修復層付積層体を、自己修復層が表面になるように樹脂基体に接着させた後、該樹脂基体を熱成形により絞り成形して形成したことを特徴とする成形体。
【請求項10】
樹脂基材が樹脂フィルムである請求項1から7のいずれか1項に記載の自己修復層付積層体を、自己修復層が金型側になるようにして、該金型の片面または両面に装填させた後、合成樹脂からなる成形材料を金型内の該自己修復層付積層体上に射出注入し、該自己修復層付積層体と成形材料とを積層一体化して形成したことを特徴とする成形体。
【請求項11】
樹脂基材の一方の面に、剥離層、自己修復層及び応力緩和層をこの順で積層した自己修復層付積層体において、該自己修復層は少なくとも軟質合成樹脂から構成され、該自己修復層に接する該応力緩和層のナノインデンテーションによる硬度Hが、自己修復層のナノインデンテーションによる硬度Hと同等または低いことを特徴とする自己修復層付積層体。
【請求項12】
前記応力緩和層は2層以上の硬度の異なる層から構成され、前記自己修復層に最も近い応力緩和層から最も遠い応力緩和層に向かって硬度が高くなることを特徴とする請求項11に記載の自己修復層付積層体。
【請求項13】
前記応力緩和層は、自己修復層に最も近い領域から最も遠い領域に向かって膜厚方向に連続的に硬度が高くなることを特徴とする請求項11に記載の自己修復層付積層体。
【請求項14】
前記応力緩和層は2層以上の粒子濃度の異なる層から構成され、前記自己修復層に最も近い応力緩和層から最も遠い応力緩和層に向かって粒子濃度が高くなることを特徴とする請求項11に記載の自己修復層付積層体。
【請求項15】
前記応力緩和層は、自己修復層に最も近い領域から最も遠い領域に向かって膜厚方向に連続的に粒子濃度が高くなることを特徴とする請求項11に記載の自己修復層付積層体。
【請求項16】
前記応力緩和層は、硬度の異なる二つの層が交互に積層された構造であり、硬度が低い層群をA層ユニット、硬度が高い層群をB層ユニットとしたとき、前記自己修復層に接する層はA層ユニットであり、該A層ユニット及びB層ユニットの少なくとも1つの層ユニットは、乾燥膜厚が異なる少なくとも2層で構成され、該A層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該A層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって増加し、該B層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該B層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって減少し、該A層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣAhと該B層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣBhが略同等であることを特徴とする請求項11に記載の自己修復層付積層体。
【請求項17】
前記応力緩和層は、粒子濃度の異なる二つの層が交互に積層された構造であり、粒子濃度が低い層群をA層ユニット、粒子濃度が高い層群をB層ユニットとしたとき、前記自己修復層に接する層はA層ユニットであり、該A層ユニット及びB層ユニットの少なくとも1つの層ユニットは、乾燥膜厚が異なる少なくとも2層で構成され、該A層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該A層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって増加し、該B層ユニットが乾燥膜厚の異なる層で構成される場合には、該B層ユニットを構成する各層の乾燥膜厚が、前記自己修復層に向かって減少し、該A層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣAhと該B層ユニットの乾燥膜厚の総和ΣBhが略同等であることを特徴とする請求項11に記載の自己修復層付積層体。
【請求項18】
請求項11から17のいずれか1項に記載の自己修復層付積層体を熱成形により絞り成形して形成したことを特徴とする成形体。
【請求項19】
樹脂基材が樹脂フィルムである請求項11から17のいずれか1項に記載の自己修復層付積層体を、該樹脂フィルムが表面になるように樹脂基体に接着させた後、該樹脂基体を熱成形により絞り成形して形成したことを特徴とする成形体。
【請求項20】
樹脂基材が樹脂フィルムである請求項11から17のいずれか1項に記載の自己修復層付積層体を、該樹脂フィルムが金型側になるようにして該金型の片面または両面に装填した後、合成樹脂からなる成形材料を金型内の自己修復層付積層体上に射出注入し、自己修復層付積層体と成形材料とを積層一体化し、剥離層を介して樹脂フィルムを自己修復層付積層体から剥離して得られることを特徴とする成形体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−5766(P2011−5766A)
【公開日】平成23年1月13日(2011.1.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−152274(P2009−152274)
【出願日】平成21年6月26日(2009.6.26)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】