自己形成バッテリのための金属フッ化物組成物
記載の発明は、電荷を印加すると(1)負電極及び(2)正電極を形成する(この負電極及び正電極はインシチュで形成される)金属フッ化物コンポジットを含む電子絶縁非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体組成物に関する組成物を提供する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年11月9日に出願の米国特許出願第61/280815号「Metal fluoride compositions for self−formed batteries」の優先権の利益を請求するものであり、その内容は参照により全て本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府出資の記述
本発明は政府の支援のもとに成された。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
記載の発明は、一次及び二次電気化学エネルギー貯蔵システム、特には、電気エネルギーを貯蔵及び供給する手段として、イオンの取り込み及び放出を行う材料を使用するバッテリセル等のシステムに関する。
【背景技術】
【0004】
バッテリ等の電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、小型の神経刺激装置から電気自動車と多岐にわたる技術の急速な開発にとってますます重要になりつつある。これらのデバイスの電力需要に対処するためには、性能を決定する様々な要素に注意を払う必要がある。用途ごとに優先事項は異なるが、ほぼ全てが同じニーズを有する。このニーズには、より高い質量エネルギー密度、容積エネルギー密度、より低いコスト、より簡単なセル作製及びより高い安全性が含まれる。過去20年にわたって、リチウムイオン技術は第1級のバッテリ技術であり続けたが、その技術はその最初の導入時から殆ど進化していない。この技術においては、正及び負の両方の電極がインターカレーション反応に基づいて動作し、この反応では、ゲストイオンが、安定した結晶性ホスト構造体内に挿入される。正電極に関し、このホスト構造体は典型的には積層(LiCoO2)又は3次元(LiMn2O4)ホスト金属酸化物構造体であった。正電極はリチウムイオンバッテリのエネルギー限定電極である。従って、この電極の改良に目を向けることが、バッテリのエネルギー密度の向上の鍵である。現行の及び提案されているインターカレーション材料では、式量単位あたり1つのリチウム及び1つの電子の挿入に限定されるため、この限界を1つの電子及び1つのイオンから大幅に拡大することがエネルギー密度の向上には必要不可欠である。近年、1遷移金属あたり2又は3個の電子を移動可能なステージを設けることによってバッテリのエネルギー密度を少なくとも2倍に上昇させる変換材料の概念が導入されている(Poizot,P,et al.,Nature.2000 Sep 28;407(6803):496−9を参照のこと。この文献の内容は参照により全て本明細書に組み込まれる)。これに関して最も効率の良い変換材料が、金属フッ化物ナノコンポジット(composite)類であった(米国特許第11/813309号明細書;PCT国際出願米国特許第06/00448号明細書;米国特許第60/727471号明細書;米国特許第60/641449号明細書;Bervas,M.,et al.,J.Electrochem.Soc.2006.153(4):A799−A808;Bervas,M.,et al.,Electrochem.Solid−State Lett.2005.8(4):A179−A183;Bervas,M.,et al.,J.Electrochem.Soc.2006.153(1):A159−A170;Badway,F.,et al.,J.Electrochem.Soc.2003.150(10):A1318−A1327;Badway,F.,et al.,J.Electrochem.Soc.2003.150(9):A1209−A1218;Badway,F.,et al.,Chem.Mater.2007.19:4129−4141;Pereira,N.,J.Electrochem.Soc.2009.156(6):A407−A416;Amatucci,G.G.,and Pereira,N.,J.Fluorine Chem.2007.128:243−262を参照のこと。各文献の内容は参照により全て本明細書に組み込まれる)。放電又はリチウム化反応中、金属フッ化物は、寸法<5nmのサブナノコンポジットにおいて金属とLiFに還元される。続く充電又は脱リチウム化中に金属フッ化物材料が再生される。これは何度も繰り返すことができるため、この技術では再充電性が得られる。金属フッ化物自体は絶縁体だが、ナノコンポジットの形成によってこのようなかなりの電気化学的活性が可能となり、材料が電気化学的に活性となる。
【0005】
多くの場合、フッ化物電極をベースとした自己形成バッテリ(self formed battery)が関心の対象であり、また多くの重要な属性が得られる。例えば、限定するものではないが、自己形成バッテリの使用によって製造コストが大幅に低下する。これは個々の電極の製造に関連したコストがないからである。別の例は、使用期限のない保存電池として、必要な時にセルを高反応性の電極(電極は通常、長期間にわたって保管したままだと若干の劣化を示す)に形成できることである。別の例は、セルを小さな又は等角の寸法に形成するのが極めて簡単なことであり、これは1つのフッ化物材料層しか堆積させる必要がないからである。極めて重要な別の例として、自己形成バッテリ技術の利用によって、並外れた電圧とエネルギー密度だが周囲環境に対して極度に反応性が高く、またプロセス安定性が悪い金属ハロゲン化物電極の使用が可能になることが挙げられる。このような材料をインシチュで形成することによって、不安定な材料の極めて困難な取り扱い、潜在的な毒性、特にこれらの材料を別の場所で製造することによる高コストを避けることができる。すなわち、自己形成電気化学セルを化学工場そのものとして利用する。本発明の効果の例を、インシチュで形成したLi/Ag−AgF2対にこの概念をうまく取り込んだ場合の理論上のエネルギー密度に見ることができる。このセルエネルギー密度は3500Wh/Lを超え、これは今日の最先端のリチウムイオン技術の3倍より高い。
【0006】
記載の発明は電気化学的に形成される金属ハロゲン化物のバッテリに関し、また成分の1つが既知のガラス形成剤(glass former)である金属フッ化物セルの組成物及び例を提供する。更なる実施形態において、本発明のバッテリは、2種イオンエネルギー貯蔵メカニズムを通じて動作し得て、バッテリが形成されると、カチオン及びアニオン(例えばLi+及びF-)が相反する反応性集電体(reactive current collector)へと拡散してセルをインシチュで形成する。
【発明の概要】
【0007】
1つの態様において、記載の発明は電子絶縁性の非晶質(amorphous)又はナノ結晶性の混合イオン伝導体(mixed ionic conductor)組成物を提供し、この組成物は金属フッ化物コンポジットを含み、このコンポジットに電位を印加すると(a)負電極及び(b)正電極が形成され、負電極及び正電極はインシチュで形成される。加えて、組成物は、電荷キャリアとしてのイオンで導電する。加えて、伝導イオンはカチオン及びアニオンである。加えて、アニオンはフッ化物イオンである。加えて、カチオンはアルカリ金属である。加えて、このアルカリ金属はリチウムである。加えて、非晶質イオン伝導体(amorphous ion conductor)組成物は、ガラス形成剤を更に含む。加えて、このガラス形成剤はフッ化物である。加えて、このガラス形成剤は、AlF3、ZrF4、GaF3、HfF4、YbF3、ThF3、ZnF2、InF3、ZbF2、UF3及びYF3から成る群から選択される。加えて、非晶質イオン伝導体組成物は、フッ化物ガラス網目修飾剤(glass network modifier)を更に含む。加えて、このフッ化物ガラス網目修飾剤は既知のフッ化物伝導体である又はフッ化物伝導性に寄与する。加えて、ガラス網目修飾剤は、LaF3、BiF3、PbF2、KF、CaF2、BaF2、SnF2、SrF2又は希土類金属フッ化物から成る群から選択される。加えて、リチウムは、既知のリチウムイオン伝導体を更に含む。加えて、このリチウムはLiFである。加えて、正電極は、正極集電体(positive current collector)との反応によって形成される。加えて、正極反応性集電体(positive reactive current collector)は、Ag、Au、Bi、Pb、Sn、Cu、Pt、Pd、Fe、Mn、Ni、Mo、V又はこれらの組み合わせの少なくとも1種を含む。加えて、正極反応性集電体は、La、Ca、Ba、Sr、O及びSの少なくとも1種を含む。加えて、正極集電体は炭素を含む。加えて、この炭素は、カーボンナノチューブ又はグラフェンから選択される炭素である。加えて、負電極は、負極集電体(negative current collector)との反応によって形成される。加えて、反応性負極集電体は、Ag、In、Al、Si、Sn、Ge、Mg、Au、Pd、Bi、Pb、黒鉛、カーボンナノチューブ及びグラフェンの少なくとも1種を含む。加えて、伝導体は、組成物の一部の電気化学的な酸化による正電極の形成又は電気化学的な還元による負電極の形成を可能にする組成傾斜材料(compositionally graded material)として形成される。加えて、非水性液体電極は、負極反応性集電体(negative reactive current collector)と、非晶質固体2種イオン伝導電解質被覆(coated)正極反応性集電体との間に置かれる。加えて、非水性液体電解質は、正極反応性集電体と、固体2種イオン電解質被覆負極反応性集電体との間に置かれる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】厚さ約1ミクロンの8mmx14mmの全体構造において櫛歯(digit)幅が約250ミクロン、間隔が約250ミクロンの例示的なインターディジタルアレイ(IDA)パターンである。
【図1B】LiFリチウム伝導体及び様々なフッ化物伝導ガラス網目修飾剤を利用して調製したAlF3/LiF/CaF2組成物のXRDプロファイルである。
【図1C】相互侵入型3D反応性正極集電体を利用した記載の発明の一実施形態の概略図である。
【図2A】非晶質組成物AlF3/LiF/CaF2の電流(mA)対電圧のプロットである。
【図2B】2種イオン伝導非晶質被覆反応性正電極及び非水性Li+伝導電解質の取り込みを利用した記載の発明の一実施形態の概略図である。
【図3】5Vの定電流で充電したセルについての放電プロファイルを表す電圧対時間のプロットである。
【図4】LiFリチウム伝導体及び様々なフッ化物伝導ガラス網目修飾剤を利用して調製したZrF4/LiF/CaF2組成物のXRDプロファイルである。
【図5】非晶質組成物ZrF4/LiF/CaF2及びCaF2の代わりにBaF2を含む非晶質組成物のポテンショダイナミック応答を比較した電流(mA)対電圧のプロットである。
【図6】5Vの定電流で充電したセルについての代表的な放電プロファイルを示す電圧対時間(時間)のプロットである。
【図7】0.143MeFx−0.428LiF−0.428CaF2(Me=Al、Hf及びZr)の組成物のポテンショダイナミック応答の比較を示す電流(mA)対セル電圧のプロットである。
【図8】0.143MeFx−0.714LiF−0.143CaF2(Me=Al、Hf及びZr)の組成物のポテンショダイナミック応答の比較を示す電流(mA)対セル電圧のプロットである。
【図9】電気化学的に形成されたセルの概略図である。
【図10】堆積させたxZrF4:(1−x)LiF膜(x=0.11、0.14及び0.2)のXRDプロファイルである。
【図11】5Vで極めて短く1時間充電した後の2成分組成物(ZrF4:LiF)の10nA放電を表す電圧対容量(mAh)のプロットである。
【図12】堆積Bi合金におけるCa置換の関数としての200nA形成充電を表す電圧対容量のプロットである。
【図13】堆積Bi合金におけるAg置換の関数としての200nA形成充電を表す電圧対容量(mAh)のプロットである。
【図14】堆積Bi合金におけるKF置換の関数としての200nA形成充電を表す電圧対容量(mAh)のプロットである。
【図15A】連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したBi負極/Bi正極集電体対の電圧対時間(時間)のプロットである。
【図15B】連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したAg負極/Ag正極集電体対の電圧対時間(時間)のプロットである。
【図15C】連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したAg負極/Bi正極集電体対の電圧対時間(時間)のプロットである。
【図15D】連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したTi負極/Bi正極集電体対の電圧対時間(時間)のプロットである。
【図16】連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したBi負極/Bi正極集電体対の(i)充電容量(charge capacity)(mAh)対時間(時間)、(ii)放電容量(mAh)対時間(時間)のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
記載の発明は、少なくとも2種の伝導イオンであるカチオン及びフッ化物アニオンを含む電気化学的に形成されるバッテリを提供し、2種の伝導イオンは、バッテリ形成時に、相対する集電器で反応してバッテリの負電極及び正電極をそれぞれ形成する。記載の発明は、カチオン及びフッ化物アニオンを拡散可能な2種イオン伝導電解質を利用する。
【0010】
記載の発明は更に、優れた可逆性及び利用性の電気化学的自己組織化バッテリ(self assembled battery)の製造に使用可能なナノ結晶及び非晶質状態のフッ化物及びアルカリ金属の混合イオン伝導体を提供する。一部の実施形態において、組成物は、フッ化物伝導性を強化可能な電気化学的に安定したガラス形成剤、例えばZrF4、AlF3、HfF4、GaF3、ScF3、ThF3、InF3及びZnF2を含む(Adam,J.,J.Fluorine Chem.2001.107:265−270;Poulain,M.,Ann.Chim.Sci.Mat.2003.28:87−94;Trnovcova,V.,et al.Ionics.2001.7:456−462;Sorokin,N.I.,Russian Chem.Rev.2001.9:801−807;Bobe,J.M.,et al.,J.Non−Crystalline Solids.1997.209:122−136;Dugat,P.,et al.J.Solid State Chem.1995.120:187−196;Ghosh,S.,and Ghosh,A.,Solid State Ionics.2002.149:67−72;Savchuk,R.N.,et al.,210th Meeting of the Electrochemical Society,2006 Joint International Meeting,Oct.29−Nov.3,2006.Cancun,Mexico,Abstract;Ghosh,S.,and Ghosh,A.,J.Phys.:Condens.Matter.2005.17:3463−3472;Savchuk,R.N.,et al.,218th ECS Meeting,Vol.7,Issue 7,Oct.10−Oct.15,2010,Las Vegas,NV,Abstract;Ghosh,S.,and Ghosh,A.,J.Appl.Physics,2005.97:123525;Ghosh,S.,and Ghosh,A.,J.Phys.:Condens.Matter,2005.17:3463−3472及びSural,M.,and Ghosh,A.,Solid State Ionics,1999.120:27−32を参照のこと。各文献の内容は参照により全て本明細書に組み込まれる)。あるいは、一部の実施形態において、組成物は非フッ化物ガラス形成剤を含み、ボレート及びホスフェートのものを含み(El−Hofy,M.,and Hager,I.Z.,phys.stat.sol.(a).2003.1999,No.3,448−456を参照のこと。この文献の内容は参照により全て本明細書に組み込まれる)、この非フッ化物ガラス形成剤はカチオン及び/又はアニオンの伝導性を支援する。
【0011】
用語集
本明細書で使用の用語「非晶質」とは、長距離結晶構造を有していないこと又はナノ構造相(<100nm)範囲とX線回折で確認できる秩序のない相とから成るコンポジットを意味する。
【0012】
本明細書で使用の用語「非晶質イオン伝導体」とは、イオン伝導(conduction)を可能にする長距離結晶構造(上で定義済み)を有していない媒体のことである。
【0013】
本明細書で使用の用語「アニオン」とは、負に帯電したイオンのことである。
【0014】
本明細書で使用の用語「カーボンナノチューブ」とは、円筒形のナノ構造を有する炭素の同素体(ある元素についての2つ以上の異なる構造形態の1つを意味する)のことである。
【0015】
本明細書で使用の用語「カチオン」とは、正に帯電したイオンのことである。
【0016】
電気化学において、用語「電荷」とは、素電荷eの正又は負の整数の倍数の電荷(物理量)に言及する際に使用される。電荷の合計は常に、電荷が輸送される時間及び空間領域内に保存される。用語「電荷」は、その記号を示すためだけに「正電荷」及び「負電荷」について言及する際にもよく使用される。
【0017】
「バッテリの充電容量」という表現は、バッテリ材料及び/又はバッテリ電極全体に貯蔵される電荷の量のことである。充電容量はクーロンで測定される。実際には、電荷は通常、Ah(アンペア時)で表わされる。1Ahは3600クーロンである。従って、1回の工程で1つの電子を移動させる電気活性材料1モルの充電容量は1F又は26.8Ahである。エネルギー貯蔵及び変換の実際にとって極めて重要となるのが比電荷(比容量(specific capacity))であり、重量比容量の場合は1グラムあたりのAh(Ahg-1)、体積比容量の場合は1リットルあたりのAh(AhL-1)で表わされる。理論上の比容量と実際の比容量とを区別することが重要である。「理論上の比充電容量」は、活性材料の分子量及び電気化学的工程における電子移動の回数に基づく。「実際の比充電容量」は工程で得られる実際の容量であり、多くの実際的要因(電気化学的工程の動力学的限界、動作温度、カットオフ電圧、電極のデザイン及び構成等)に左右される。キャパシタ及び充電式バッテリの分野において、「充電容量」の定義は、デバイスの充電工程に関係する容量であり、通常、放電工程に関係する容量(「放電容量」)と比較される。デバイスの良好なサイクル特性寿命のために、充電工程における損失は最小限であるべきである。
【0018】
本明細書で使用の用語「被覆」及びその様々な文法上の形態は、物体の表面に施される薄い外層又は膜のことである。
【0019】
本明細書で使用の用語「コンポジット」とは、少なくとも1種以上の異なる成分、構成要素又は元素を含む化合物のことである。
【0020】
本明細書で使用の用語「条件付きガラス形成剤(conditional glassformer)」(中間体)とは、単独ではガラスの構造をとらないが、別の化合物と組み合わさるとガラス形成剤のような働きをする化合物のことである。
【0021】
本明細書で使用の用語「伝導」とは、媒体自体は全体として移動することのない媒体を通した電荷の流れのことである。
【0022】
本明細書で使用の用語「伝導性マトリックス」とは伝導性材料を含むマトリックスのことであり、一部はイオン伝導体及び/又は電子伝導体になり得る。マトリックスがイオン伝導性及び電子伝導性の両方を保持する材料は通常、「混合伝導体」と称される。
【0023】
本明細書で使用の用語「伝導性」(又は「導電性」又は「導電率」)とは、電流がボディを流れることができる場合のことである。伝導性は、1メートルあたりのジーメンスとして表わされ得る。
【0024】
本明細書で使用の用語「伝導体」(又は「導電体」)とは、電流が流れやすい媒体のことである。このような媒体は、例えばとりわけ金属ワイヤ、溶解させた電解質又はイオン化ガスになり得る。
【0025】
本明細書で使用の用語「2種イオン伝導体(bi−ion conductor)」とは、カチオン及びアニオンを伝導する固体の組成物のことである。
【0026】
用語「結晶」とは、原子、イオン又は分子の繰り返しの3次元パターンによって形成され、また構成部又はこのようなパターンの単位格子間に固定の距離を有する均質な固体のことである。用語「結晶構造」又は「結晶格子」は本明細書において同じ意味で使用され、結晶内の原子又はイオンの配列又は形成のことである。
【0027】
本明細書で使用の用語「電流」とは、伝導体における電荷の移動のことである。電子伝導体において電子によって運ばれる電荷の移動は「電子電流」と称される。イオン伝導体においてイオンによって運ばれる電荷の移動は「アニオン電流」と称される。
【0028】
本明細書で使用の用語「集電体(current collector)」とは、電子を集めるもののことである。典型的には、集電体は、電極アセンブリの構造部品である。その主な目的は、電極の実際の作動(反応)部と端子(電源又は負荷を接続可能な電気化学セルの外部の電気接続ポスト)との間で電子を伝導することである。集電構造体は、櫛形又は対向する平面デザインになり得る。あるいは、このような構造体は非晶質化学の範囲内で3Dを取り込んだものになり得る。本明細書に記載の発明において、このような集電体は反応性になり得て、これは、セル形成時に、集電体が反応を起こして電極をインシチュで形成することを意味する。これらは「反応性集電体」と定義される。
【0029】
本明細書で使用の用語「電位」とは、基準点から電界内の特定の地点にまで単位電荷を移動させるのに必要な仕事のことである。この基準点は通常、特定の地点からの無限遠と見なされ、電位はゼロと見なされる。1クーロンの電荷の移動に1ジュールが必要な場合、電位は1ボルトに等しい。
【0030】
本明細書で使用の用語「電解質」とは、溶媒に溶解させると及び/又は溶融させるとイオンに解離してイオン伝導性をもたらす化合物のことである。固体状態で高いイオン伝導性を有する化合物は、「固体電解質」と称される。「真性電解質(true electrolyte」は、固体状態(すなわち純粋な形態)でイオンが積み重なったものであり、「潜在的電解質(potential electrolyte)」は、溶媒中での溶解及び解離時にのみイオンを形成するものである(すなわち、純粋な状態では多かれ少なかれ共有結合化合物として存在する)。
【0031】
本明細書で使用の用語「元素」とは、通常の化学的手段ではそれ以上単純な物質に分解できない単純な物質のことである。
【0032】
本明細書で使用の用語「ガラス」とは、ある固体を形成する原子の広がった3次元ネットワークのことであり、結晶材料に典型的な長距離周期性(又は繰り返しの秩序ある配列)を欠く。ガラスは結晶の周期的(長距離)秩序を欠き、無限単位セル(繰り返しの大規模構造がない)、連続ランダムネットワーク(対称性及び周期性を有さない3次元ネットワーク)を有し、また等方性であり、全ての方向において同じ平均パッキング及び性質を有する。「非晶質固体」は長距離秩序を有さない。本発明の文脈において、用語「非晶質」又は「ガラス」は、ナノメートル又はミクロンスケールで組成物全体又は組成物の一部がX線回折では長距離秩序を有さないことを意味すると理解される。
【0033】
本明細書で使用の用語「ガラス状」とは、ナノメートルレンジでは結晶構造を有する、X線回折では非晶質に近い構造のことである。このため、用語「ガラス状炭素(glassy carbon、vitreous carbon)」とは、ガラス様機械的特性と黒鉛の物理的性質とを併せ持つ純粋な炭素のことである。
【0034】
本明細書で使用の用語「ガラス形成剤」とは、ガラス構造を容易にとることが可能な又は通常は長距離秩序で結晶化する組成物にガラス状/非晶質構造をもたらす化合物のことである。一般に、小さいカチオンの化合物はガラスを形成し、原子価の低い大きなカチオンの化合物はガラスを形成しない。非ガラス形成剤をガラス形成剤に添加すると、ガラス形成剤の連続ランダムネットワークが保持されるが、このネットワークは非ガラス形成剤の添加によって変化してしまっている。これらのイオン化合物は「ガラス修飾剤」と称される。
【0035】
本明細書で使用の用語「イオン伝導体(ion conductor、ionic conductor、又はIC)」とは、電荷キャリア(電流が流れている間、電荷を運ぶ粒子を意味する)としてのイオン(帯電した化学的粒子を意味する)で導電する材料のことである。
【0036】
本明細書で使用の用語「イオン液体(又は「液体電解質」、「イオン性金属」、「イオン流体」、「溶融塩」、「液体塩」、「イオンガラス」)」とは、安定した液体を形成する塩のことである。用語「イオン液体」には全ての古典的な溶融塩が含まれ、これらの溶融塩は熱的により安定したイオンから構成されている。
【0037】
本明細書で使用の用語「インシチュ(in−situ)とは、所定の場所で又は特定の部位でを意味する。
【0038】
本明細書で使用の用語「絶縁する」及びその様々な文法上の形態は、電気、熱又は音エネルギーの材料又はボディ内外への伝導を絶縁体の使用を通じて防止することである。
【0039】
本明細書で使用の用語「絶縁体(又は「電気絶縁体」)」とは、電流が流れるには抵抗が大きすぎるため、流れる電流が最小限である又は無視できるものとなる材料のことである。
【0040】
本明細書で使用の用語「金属集電体」とは、金属製の集電体のことである。
【0041】
用語「マイクロメートル」又は「ミクロンレンジ」は本明細書においては同じ意味で使用され、約1マイクロメートル(10-6m)から約1000マイクロメートルの寸法のことである。
【0042】
本明細書で使用の用語「混合イオン伝導体」とは、少なくとも2種のイオンの移動性を示す伝導体のことである。
【0043】
本明細書で使用の用語「溶融」とは、液体状態のことである。
【0044】
本明細書で使用の用語「ナノ結晶子」とは、サイズが<100nmの個別結晶子又はマトリックスに組み込んでナノコンポジットにしたサイズ<100nmの結晶子のことである。最終的なナノコンポジットは、100nmより大きい又は以下であってよい。
【0045】
用語「ナノメートル」又は「ナノレンジ」は同じ意味で使用され、約1ナノメートル(10-9m)から約1000ナノメートルの寸法のことである。
【0046】
本明細書で使用の用語「負極集電体」とは、電子を集めて正味の負電荷を有する集電体のことである。負極集電体は非反応性金属、例えばTi、Ni、Cu、Mo、Ca、La、Y、Li又はガラス状炭素になり得る。あるいは、電着させた原子(Ag、In、Al、Si、Sn、Ge、Mg、Au、Pd、Bi、Pb、グラフェン、又はこれらの混合物等だが、これらに限定されない)と合金又は金属間化合物を形成するような反応性になり得る。あるいは、炭素(黒鉛電極、カーボンナノチューブ等だが、これらに限定されない)の場合、結果的にインターカレーション化合物を形成することがある。加えて、合金化する金属を、非晶質化学の最初のフッ化物組成物に含め得る。
【0047】
本明細書で使用の用語「正極集電体」とは、電子を失って正味の正電荷を有する集電体のことである。反応性正極集電体には、セルの充電時にフッ素アニオンと反応して金属又はフッ化炭素構造体を形成することができる金属及び化合物が含まれ、限定するものではないが、銀、ビスマス、鉛、スズ、金、銅、ニッケル、マンガン、鉄、コバルト、金、パラジウム及び炭素(グラフェン、カーボンナノチューブ、黒鉛)のものが含まれる。このような集電体は混合合金又は互いの若しくは他の元素とのコンポジットとして形成され得て、イオン及び電子の電荷輸送が促進され、続いて電極内で金属又はフッ化炭素が形成される。充電工程中にフッ化物アニオンと大きく反応しない他の成分もこの正極集電体に添加され得る。充電工程中にフッ化物アニオンと大きく反応しないというこの性質は、正電極に与えられた電位での非反応性、任意の電圧での本質的な非反応性又は速度論的に阻害された非反応性に起因すると考えられる。このため、このような元素は、その極めて高い電子伝導性を維持し、また反応性正電極成分の電子伝導性を強化する。
【0048】
本明細書で使用の表現「近接した」とは、直接接触している又は10nm以内であることを意味する。
【0049】
用語「反応性集電体」とは、最初は集電体として機能するが、後に電気化学セルの形成時に活性イオンとの反応によって一部又は全体が活性電極材料に変化する電子伝導性材料の使用のことである。
【0050】
本明細書で使用の用語「負極反応性集電体」とは、電子を獲得していて(又は還元されていて)、また電気化学的セルの充電工程中に正味の負電荷を有する反応性集電体のことである。
【0051】
本明細書で使用の用語「正極反応性集電体」とは、電子を失っていて(酸化されていて)、また電気化学セルの充電工程中に正味の正電荷を有する反応性集電体のことである。
【0052】
本明細書で使用の用語「種晶(seed crystal)」とは、単一の結晶材料の小片のことであり、典型的にはこの小片から同結晶材料の大きな結晶を成長させる。液体は、その標準的な凝固点より低い温度で、種晶又は核の存在下で結晶化し、種晶又は核の周囲に結晶構造が形成される(核形成)。しかしながら、このような核がない場合、液相の維持が可能である(過冷却)。過冷却は、最初の種晶の形成が困難な液体によく見られる。
【0053】
本明細書で使用の表現「固体化学(又は「固体形成化学」)」とは、固体材料の合成、構造及び物理的性質の研究のことである。
【0054】
本明細書で使用の用語「比容量」とは、ある化合物が有する単位質量あたりのミリアンペア時間(mAh)で表わされるエネルギー量のことである。用語「可逆比容量」とは、放電とは反対の方向に電流を流すことによって化合物が再充電され得ることを意味する。
【0055】
用語「電圧」とは、2つの選択された空間の地点の間での電位における差の尺度のことである。
【0056】
用語「ワット」(「W」)とは、電力の単位のことである。1W=1Js-1=1VA。
【0057】
I.電子絶縁非晶質及びナノ結晶混合イオン伝導体組成物
一態様において、記載の発明は電子絶縁非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体組成物を提供し、この組成物は、
(1)金属フッ化物コンポジットを含み、
該金属フッ化物コンポジットに電位を印加すると
(a)負電極、及び
(b)正電極
を形成し、
該負電極及び該正電極はインシチュで形成される。
【0058】
加えて、電子絶縁非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体組成物は、電荷キャリアとしてのイオンで導電する。
【0059】
伝導イオン
加えて、伝導イオンはカチオンである。更に、このカチオンはアルカリ金属である。アルカリ金属には、以下に限定するものではないが、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びフランシウムが含まれる。
【0060】
加えて、非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体組成物は、リチウム化合物を更に含む。更に、このリチウム化合物は、既知のリチウムイオン伝導体である。更に、このリチウム化合物はLiFである。
【0061】
加えて、伝導イオンはアニオンである。更に、このアニオンはフッ化物イオンである。
【0062】
ガラス形成剤
加えて、非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体は、ガラス形成剤を更に含む。更に、このガラス形成剤はフッ化物である。更に、ガラス形成剤はZrF4である。更に、ガラス形成剤はAlF3である。更に、ガラス形成剤はHfF3である。更に、ガラス形成剤はScF3である。更に、ガラス形成剤はThF3である。更に、ガラス形成剤はInF3である。更に、ガラス形成剤はZbF2である。更に、ガラス形成剤はUF3である。更に、ガラス形成剤はYF3である。更に、ガラス形成剤はGaF3である。更に、ガラス形成剤はZnF2である。更に、ガラス形成剤はInF3である。
【0063】
ガラス網目修飾剤
加えて、非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体は、ガラス網目修飾剤を更に含む。
【0064】
加えて、ガラス網目修飾剤は、フッ化物ガラス網目修飾剤である。更に、フッ化物ガラス網目修飾剤は既知のフッ化物伝導体である。このような伝導体の非限定的な例には、並外れた伝導性のアニオン欠乏組成物を形成するLaF3、BiF3、PbF2、CaF2、BaF2、SnF2、SrF2又はこれらの混合物が含まれる。更に、フッ化物ガラス網目修飾剤はフッ化物伝導性に寄与する。このような伝導体の非限定的な例には、LaF3、BiF3、PbF2、CaF2、BaF2、SnF2、SrF2又はこれらの混合物が含まれる。
【0065】
更に、ガラス網目修飾剤はCaF2である。更に、ガラス網目修飾剤はBaF2である。更に、ガラス網目修飾剤はSrF2である。更に、ガラス網目修飾剤はLaF3である。更に、ガラス網目修飾剤は希土類金属フッ化物である。
【0066】
更に、ガラス網目修飾剤はLiFである。更に、ガラス網目修飾剤はBiF3である。更に、ガラス網目修飾剤はPbF2である。更に、ガラス網目修飾剤はSnF2である。更に、ガラス網目修飾剤はSnF4である。
【0067】
電極の形成
加えて、非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体は組成傾斜材料として形成され、この材料は、組成物の一部の電気化学的な酸化による正電極の形成又は電気化学的な還元による負電極の形成を可能にする。
【0068】
加えて、非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体はコンポジットとして形成される。
【0069】
正電極
加えて、組成物は正極集電体に近接して銀を含む。加えて、組成物は正極集電体に近接してビスマスを含む。加えて、組成物は正極集電体に近接してパラジウムを含む。加えて、組成物は正極集電体に近接して金を含む。加えて、組成物は正極集電体に近接して銅を含む。加えて、組成物は正極集電体に近接してモリブデンを含む。
【0070】
加えて、正電極は、反応性正極集電体との反応によって形成される。更に、正極集電体はAgを含む。更に、正極集電体はAuを含む。更に、正極集電体はBiを含む。更に、正極集電体はPbを含む。更に、正極集電体はSnを含む。更に、正極集電体はCuを含む。更に、正極集電体はPtを含む。更に、正極集電体はPdを含む。更に、正極集電体はMoを含む。更に、正極集電体はVを含む。従って、主成分には、以下に限定するものではないが、Ag、Au、Bi、Pb、Sn、Cu、Pt、Pd、Mo及びVが含まれる。F-伝導性を支援し得るが低電圧及び/又は低容量のために正電極材料として有用ではない他の元素には、以下に限定するものではないが、K、Ca、La、Ba、Sr及び酸素が含まれる。
【0071】
加えて、正電極は正極集電体との反応によって形成され、正極集電体はAg、Au、Bi、Pb、Sn、Cu、Pt、Pd、Mo、V又はこれらの組み合わせの少なくとも1種を含む。従って、主成分には、以下に限定するものではないが、Ag、Au、Bi、Pb、Sn、Cu、Pt、Pd、Mo及びVが含まれる。F-伝導性を支援し得るが低電圧及び/又は低容量のために正電極材料として有用ではない他の元素には、以下に限定するものではないが、K、Ca、La、Ba、Sr及び酸素が含まれる。
【0072】
加えて、正電極は正極集電体との反応によって形成され、正極集電体は炭素を含む。更に、この炭素はカーボンナノチューブである。更に、炭素はグラフェンである。更に、炭素は黒鉛である。
【0073】
負電極
加えて、負電極は、負極集電体との反応によって形成される。
【0074】
加えて、負極集電体は非反応性金属になり得て、例えばTi、Ni、Cu、Mo、Ca、La、Y、Li又はガラス状炭素である。加えて、負極集電体は、電着されたLiと合金を形成するような反応性になり得る。このような材料にはAg、In、Al、Si、Sn、Ge、Mg、Au、Pd、Bi、Pb、グラフェン等又はこれらのいずれかの混合物が含まれ、あるいは黒鉛電極及びカーボンナノチューブ等の炭素の場合はインターカレーション化合物の形成をもたらし得る。
【0075】
イオン液体
加えて、非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体はイオン液体を含む。
【0076】
加えて、非水性液体電解質は、負極反応性集電体と非晶質又はナノ結晶電解質被覆正極反応性集電体との間に置かれる。加えて、非水性液体電解質は、正極反応性集電体と非晶質又はナノ結晶電解質被覆負極反応性集電体との間に置かれる。更に、非水性電解質には、以下に限定するものではないが、環式(プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート)及び非環式(ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート)カーボネート、エーテル、ボラン(トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン)並びにニトリル(アセトニトリル、メトキシプロピルニトリル、アジポニトリル)を含む様々な有機溶媒中のリチウム塩(LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiF等)が含まれる。
【0077】
別の態様において、記載の発明は電気化学バッテリセルを提供し、このセルは
(1)電子絶縁非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体組成物を含み、該組成物は、
(a)金属フッ化物コンポジットを含み、
該金属フッ化物コンポジットに電位を印加すると
(i)負電極、及び
(ii)正電極
を形成し、
該負電極及び該正電極はインシチュで形成される。
【0078】
加えて、記載のセルの周囲環境での使用には、このようなセルの周囲での気密に近いパッケージングを必要とする。このようなパッケージングは、高エネルギーバッテリの当業者にはよく知られている。このようなパッケージングには、多層金属ポリマーパッケージング、無機ナノ積層パッケージング、パリレンを含有するパッケージング、ガラスコーティング等が含まれ得る。
【0079】
特に定義がない限り、本明細書で使用する全ての技術的及び科学的な用語は、本発明が属する分野の当業者が普通に理解するものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものに類似した又は同等のいずれの方法及び材料も記載の発明の実践又は試験で使用し得るが、好ましい方法及び材料について今から説明する。本明細書で言及した全ての刊行物は、引用の刊行物との関連で方法及び/又は材料を開示し、また説明するために参照により本明細書に組み込まれる。
【0080】
本明細書及び添付の請求項で使用される単数形には、文脈上明らかにそうではない場合を除いて複数の指示対象が含まれることにも留意しなくてはならない。本明細書で使用の全ての技術的及び科学的用語は同じ意味を有する。
【0081】
本明細書で論じた刊行物は、本願の出願日より先に開示されたという理由で挙げられたに過ぎない。本明細書のいずれの記載も、先行の発明のせいで、記載の発明がこのような刊行物に先んじていないと認めるものだと解釈されるべきではない。また、記載した刊行物の日付が実際の刊行日と異なることもあるため、個別の確認を要する場合もある。
【0082】
本発明の真の精神及び範囲から逸脱することなく様々な変更を加え、また同等物での置き換えを行い得ることが当業者によって理解されるべきである。加えて、多くの改変を加えて特定の状況、材料、物質の組成、工程、工程ステップを記載の発明の目的、精神及び範囲に適合させ得る。このような改変は全て、本明細書に添付の請求項の範囲内にあると意図される。
【実施例】
【0083】
以下の実施例は、本発明をどのように構成し、また使用するかについての完全な開示及び説明を当業者に提供するためのものであり、発明者が発明と見なすものの範囲を限定することを意図するものではなく、また以下の実験が全てである又は行ったのがこれらの実験だけであると意図するものではない。使用した数(例えば、量、温度等)に関して精度を確保するための努力がなされたが、若干の実験誤差及び偏差も考慮されるべきである。特に記載がない限り、「部」とは質量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、圧力は大気圧又はほぼ大気圧である。
【0084】
実施例1:非晶質組成物
フッ化物及びフッ化物/Li伝導体の様々なおおむね非晶質の組成物が、記載の発明にとって有用な組成物のタイプの例として表1の通りに調製された。「混合物」とは、サンプル組成物の厚さのことである。「Ag」を、反応性正及び負電極として利用する。「Ti」は、ガラス基板とAg櫛形電極との間に堆積させたTiの接着補助剤の厚さを示す。
【0085】
【表1】
【0086】
全ての組成物は、ある割合(%)のガラス形成剤を含有した。この実施例においては、AlF3、ZrF4、GaF3、HfF4、YbF3を含めた様々なフッ化物ガラス形成剤を利用した。これらのガラス形成剤を利用したが、他の既知のフッ化物ガラス形成剤も利用し得て、以下に限定するものではないがThF3、InF3、ZbF2、UF3、YF3等が含まれる。高い電解安定性及び電子絶縁ガラス形成能を備えたガラス形成剤並びにフッ化物アニオン伝導性に寄与するガラス形成剤を利用し得る。
【0087】
ガラス形成剤は、ガラス修飾剤と組み合わされた。ガラス修飾剤もまたF伝導体である。これらにはLiF、CaF2、BaF2及びLaF3が含まれる。例えばBiF3、PbF2、SnF2、SnF4のような、高いF伝導を示す他の修飾剤も利用し得る。
【0088】
最後に、リチウム及びフッ化物の拡散に依存する本発明の電気化学的に形成されるバッテリのLi源としてLiFを添加した。
【0089】
上記の材料の材料組成物の形成によって、最も理想的には少なくとも速いLi+及びF-イオン伝導性を示す2種イオン伝導系が得られる。
【0090】
上で挙げた組成物を乳鉢及び乳棒でよく混合し、櫛形集電構造体上に熱蒸着により薄膜として堆積させた。
【0091】
集電体材料の選択には注意が必要である。このような集電体が移動種と組み合わさって電気化学的に形成される電極になり得るからである(すなわち、反応性集電体)。例えば、正極集電体は、最も理想的には極めて高エネルギー密度の電極をF-イオンで形成する。従って、反応性集電体は、それを行う材料組成物製であるべきである。銀、ビスマス、鉛、スズ、金、鉄、ニッケル、パラジウム、銅、炭素(カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛)の正極集電体は全て、移動性のF-イオンと代表的な金属又は炭素とのフッ化物、続いて並外れて高エネルギー密度の正電極をアノード的に形成する実現性のある集電体材料と見なされ得る。このような集電体は、イオン及び電子の電荷輸送を促進して所望の金属フッ化物を容易に形成するために混合合金、コンポジット、組成傾斜構造体として形成され得る。例えば、少量のビスマス、鉛又はランタンを添加して銀のマトリックス内でフッ化ビスマス系化合物を形成させることによって構造体の奥深くでのフッ化物イオンの速い拡散を可能にし得る。加えて、バッテリの外部回路への電子の移動を支援するために、正極集電体は、F-と大量に反応しない金属の電子パーコレーションネットワークを(ミクロン又はナノスケールコンポジットの形態で)含有し得る。例えば、金、プラチナ又は非反応性炭素を添加することによって、活性材料とバッテリの外部構造体との間での速い電子移動を保証し得る。
【0092】
負極集電体は非反応性金属、例えばTi、Ni、Cu、Mo、Ca、La、Y、Li、ガラス状炭素になり得る。あるいは、負極集電体は反応性になり得て、電着させたAg、In、Al、Si、Sn、Ge、Mg、Au、Pd、Bi、Pb、グラフェン等又はこれらのいずれかの混合物と合金を形成し得る。あるいは、黒鉛電極、カーボンナノチューブ等の炭素の場合、インターカレーション化合物の形成をもたらし得る。加えて、合金化する金属を、最初の2種イオン伝導フッ化物組成物に含め得る。例えば、形成中、AlF3からのAlが負極集電体の近くで堆積し、続いて電気化学的に還元されたLiと合金化してLixAl合金を形成する。反応性集電構造体は、櫛形又は対向する平面のデザインになり得る。あるいは、このような構造体は、非晶質特性の範囲内で3次元結合であってよい。自己形成するフッ化物との界面での密接且つ高表面積での化学反応を促進するために、金属集電体と2種イオン伝導フッ化物との化学反応で相互侵入的な接触が起きるようなミクロ又はナノモルホロジーの集電体を有することが有利と考えられる(図1A及び図1Cを参照のこと)。従って、集電構造体は、このような密接な接触を得られる円柱状となり得る又は他のモルホロジーに構成され得る。このような構造体は、ミクロン又はナノメートルオーダーになり得る。
【0093】
本明細書で実証する実施例の殆どに関し、集電体を、櫛形デザインの500nmのAgで作製した(例えば、表1(4欄)及び図1A、図1Cを参照のこと)。
【0094】
非晶質フッ化物組成物の堆積には熱蒸着を利用したが、他の物理蒸着法、例えば電子ビーム蒸着、スパッタリング技法、プラズマ蒸着、化学蒸着技法を利用しても膜を作製し得る。加えて、概念を薄膜を超えて厚さ何十、何百ミクロンの構造体にも拡大し得る低コストの技法も利用し得る(スピン又はディップコーティングによるゾルゲル化学、アーク溶融及びクエンチング、更にはガラス製造の最先端技術に詳しい人間によって利用されてきた伝統的なメルトクエンチ又はメルトキャスト法等)。
【0095】
以下の全ての電気化学試験は、図1Aに示されるように、厚さ約1ミクロンの8mmx14mmの全体構造において櫛歯幅が約250ミクロン、間隔が約250ミクロンのインターディジタルアレイ(IDA)パターンの反応性集電体の熱蒸着によって作製された。図1Cは、相互侵入型3D反応性正極集電体を利用した記載の発明の一実施形態の概略図である。非晶質組成物を、厚さ約1ミクロンでインターディジタルアレイの上に堆積させた。全ての電気化学試験は、周囲大気の影響を排除するためにアルゴンを充填したグローブボックス内で行われた。非水電池技術の当業者なら準気密カプセル化を適用することによって周囲環境におけるバッテリの動作を可能にし得ることを理解できる。
【0096】
実施例2:AlF3ガラス形成剤から成るガラス組成物
表1に従って、ガラス形成剤としてのAlF3を含有する様々な組成物を、その物理的及び電気化学的性質に関して調査した。図1Bは、LiFリチウム伝導体及び様々なフッ化物伝導ガラス網目修飾剤を利用して調製したAlF3/LiF/CaF2組成物のXRDプロファイルを表す強度(任意単位)対角度(2θ)のプロットである。図からわかるように、全てのサンプルが高い非晶性を示し、CaF2リッチな組成物のCaF2ナノ相に関係して若干のブラッグ反射が2θ値47〜48°に見られる。図2Aは、非晶質組成物AlF3/LiF/CaF2の電流(mA)対セル電圧のプロットであり、非晶質組成物のポテンショダイナミックスイープを示している。図2Aからわかるように、最初の充電でバッテリ形成に関係する大きなアノード電流が発生している。続く放電は、2〜4Vの電圧領域における大きなカソード電流を示す。これは形成されたLi−Ag合金/固体電解質/AgFx系バッテリと一致している。続くサイクルは、組成物のサイクル安定性が優れていることを示す。より多くのLiFを含有する組成物に関してより高い電気化学的有用性が見られる。図3は、5Vの定電流で充電したこのようなセルについての放電プロファイルを表す電圧対時間のプロットである。図からわかるように、有用な電圧でバッテリからかなりの容量が得られる。
【0097】
実施例3:ZrF4ガラス形成剤のガラス組成物
表1に従って、ガラス形成剤としてのZrF4を含有する様々な組成物を、正電極及び負電極の両方の反応性集電体の上への堆積後に、その物理的及び電気化学的性質に関して調査した。図4は、LiFリチウム伝導体及び様々なフッ化物伝導ガラス網目修飾剤を利用して調製したZrF4/LiF/CaF2組成物のXRDプロファイルを表す強度(任意単位)対角度(2θ)のプロットである。図からわかるように、全てのサンプルが高い非晶性を示し、組成物中のCaF2量が最も多いサンプルに関してCaF2ナノ相に関係してごくわずかなブラッグ反射が2θ値46〜48°に見られる。図5は、非晶質組成物ZrF4/LiF/CaF2及びCaF2の代わりにBaF2を含む非晶質組成物のポテンショダイナミック応答を比較した電流(mA)対電圧のプロットである。図5からわかるように、最初の充電でバッテリ形成に関係する大きなアノード電流が発生している。続く放電は、2〜4Vの電圧領域における大きなカソード電流を示す。これは形成されたLi−Ag合金/固体電解質/AgFx系バッテリと一致している。実施例2のAlF3研究と同様に、最も高いLiF含有量の組成物は、最も高い電気化学的有用性を示した。図5のポテンショダイナミックスイープはまた、BaF2修飾フッ化物組成物が大きな電気化学的有用性を実証したことを示す。続くサイクルは、組成物のサイクル安定性が優れていることを示す。
【0098】
図6は、5Vの定電流で充電し、次に10nAの定電流で放電させたセルについての代表的な放電プロファイルを示す電圧対時間(時間)のプロットである。有用な電圧でバッテリからかなりの容量が得られる。
【0099】
実施例4:様々なガラス形成剤の比較
図7は、0.143MeFx−0.428LiF−0.428CaF2(Me=Al、Hf及びZr)の組成物のポテンショダイナミック応答を比較した電流(mA)対セル電圧のプロットである。3種類の組成物の全てが非晶質膜となった。正電極及び負電極の両方の反応性集電体の上への堆積後、3種類の膜の全てで大きな電気化学的活性及び良好な可逆性が得られた。図8は、0.143MeFx−0.714LiF−0.143CaF2(Me=Al、Hf及びZr)の組成物のポテンショダイナミック応答を比較した電流(mA)対セル電圧のプロットである。3つの例に関し、最高の電気化学的有用性は、AlF3ガラス形成剤を利用した組成物について観察された。しかしながら、LiF組成を0.143MeFx−0.714LiF−0.143CaF2に上昇させると、図8は、ZrF4ガラス形成剤に関して最高の電気化学的有用性が観察されることを示す。
【0100】
理論によって拘束されるものではないが、ZrF4組成物から最高の性能が得られたのは、このような組成物がLi+及びF-の形態で最も速い2種イオン伝導性を示すからであると考えられる。理論によって拘束されるものではないが、組成物が網目形成剤の電気化学的分解に対して安定である限り、より速い伝導性を示す組成物によってより一層改善された性能が得られると考えられる。このような組成物はフルオロボレート及びフルオロホスフェートにも拡大され得る。これらの組成物は良好な電気化学安定性を示すはずだからである。
【0101】
印加された電気化学ポテンシャルに対して不安定な2種イオン伝導組成物も利用され得る。このような概念の範囲内で、ガラス形成剤又は修飾剤を酸化又は還元してそれぞれ正電極又は負電極の一部にし得る。例えば、AlF3ガラス形成剤は負電極での還元によりAlを形成し得て、次にこれが完全なセル形成時にリチウムにとっての合金化剤として機能する。このような応用例においては、正電極と負電極との間で非晶質フッ化物の組成に勾配があることが好ましい。図2Bは、2種イオン伝導非晶質被覆反応性正電極及び非水性Li+伝導電解質の取り込みを利用した記載の発明の一実施形態の概略図である。この実施形態において、非水性液体電解質は負極反応性集電体と非晶質2種イオン伝導電解質被覆正極反応性集電体との間に置かれる(図2Bを参照のこと)。加えて、非水性液体電解質は、正極反応性集電体と非晶質2種イオン電解質被覆負極反応性集電体との間に置かれる。非水性電解質には、以下に限定するものでないが、環式(プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート)並びに非環式(ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート)カーボネート、エーテル、ボラン(トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン)及びニトリル(アセトニトリル、メトキシプロピルニトリル、アジポニトリル)を含む様々な有機溶媒中のリチウム塩(LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiF等)が含まれる。更に、そのような自己形成セルに関して2種イオン伝導性要件を示すフッ化物組成物は、溶融フッ化物塩(イオン液体)の形態にもなり得る。
【0102】
実施例5:2成分LiF含有組成物の例
図9は電気化学的に形成されたセルの一実施形態の概略図である。LiF:ZrF4の2成分組成物は、2つの銀反応性集電体の間に置かれる。次に、セルを電気的に分極させることによって、負極反応性集電体に向かってのLi+イオン拡散を誘起し、負極反応性集電体でLi+イオンは還元されてLixAg合金を形成する。併発反応において、F-イオンは正電極に向かって拡散し、酸化反応を通じてフッ化銀を形成する。その後、セルを放電させて開始成分を復旧させ得る。
【0103】
図10は、堆積させたxZrF4:(1−x)LiFフィルム(x=0.11、0.14及び0.2)のXRDパターンを表す強度(任意単位)対2θのプロットである。極めて少量のZrF4ガラス形成剤しか存在していないにも関わらず、膜が非晶質組成物として堆積する。図11は、5Vで極めて短く1時間充電した後の2成分組成物(ZrF4:LiF)の10nA放電を表すセル電圧対容量(mAh)のプロットである。図11の放電プロファイルから、LiFが最大量のサンプルが最も高い電気化学的活性を有していたことがわかる。
【0104】
以下の例において、特に記載がない限り、インシチュで形成されるセルの典型的な充電/形成プロトコルは200nAから4.75Vであり、その後は電流が約10nAに減衰するまで4.75Vに保持された定電圧であった。続いて10nAを最小電流として様々な電流の放電を行う。以下の全ての実施例で90LiF10ZrF4から成る非晶質2種イオン伝導体組成物を利用していて、以下のインターディジタルアレイの上に1ミクロンの膜として堆積された。セル構造は全て、図1A及び図1Cの概略図によって表わされる上記のインターディジタルセルのものと同じである。特に記載がない限り、負電極の櫛歯は厚さ約500nmのBi金属である。同じ厚さを正電極にも利用した。
【0105】
実施例6:正電極メタライゼーションコンポジットの例:Bi+Ca
Bi−Ca合金正極反応性集電体を、以下の表2に記載されるような様々な比で堆積させた。
【0106】
【表2】
【0107】
図12は、堆積Bi合金におけるCa置換の関数としての200nA形成充電を表す電圧対容量(mAh)のプロットである。Bi−Ca合金正極反応性集電体が、表2に記載されるような様々な比で堆積された。データは、定電流電圧プロファイル及び得られる形成容量における大幅な改善並びに続く放電容量が適切な量のCa添加で実現され得ることを示す。これは、異種の反応性集電体の使用が有利になり得ることを示す。理論によって拘束されるものでないが、インシチュで形成された電極はカルシウム置換フッ化ビスマスになり得て、改善されたF-拡散を有し得る。
【0108】
実施例7:正電極メタライゼーションコンポジットの例:Bi+Ag
Bi−Ag合金正極反応性集電体を、表3に記載されるような様々な比で堆積させた。
【0109】
【表3】
【0110】
図13は、堆積Bi合金におけるAg置換の関数としての200nA形成充電を表す電圧対容量(mAh)のプロットであり、Bi−Ag合金正極反応性集電体は、表3に記載されるような様々な比で堆積された。データは、定電流電圧プロファイル及び得られる形成容量における大幅な改善並びに続く放電容量が、適切な量のAg添加で実現され得ることを示す。これは、異種の反応性集電体の使用が有利になり得ることを示す。理論によって拘束されるものでないが、インシチュで形成された電極は銀置換フッ化ビスマスになり得て、改善されたF-拡散を有し得る。加えて、高伝導性の銀は、形成及び続く充電反応中に電子が反応域から拡散するための速い輸送経路として機能し得る。
【0111】
実施例8:正電極金属+非金属コンポジットの例:Bi+KF
Bi−KF合金正極反応性集電体を、表4に記載されるような様々な比で堆積させた。
【0112】
【表4】
【0113】
87.5Bi及び12.5KFの混合正極反応性集電体を作製した。図14は、堆積Bi合金におけるKF置換の関数としての200nA形成充電を表す電圧対容量(mAh)のプロットである。Bi−KF合金正極反応性集電体は、表4に記載されるような様々な比で堆積された。データは、定電流電圧プロファイル及び得られる形成容量における大幅な改善並びに続く放電容量が、KF添加で実現され得ることを示す(図14を参照のこと)。これは、金属/無機化合物コンポジットの使用が本発明の電気化学的活性に有益になり得ることを示す。
【0114】
実施例9:様々な負及び正電極メタライゼーションコンポジットの例
様々な負極/正極集電体対を厚さ500nmで堆積することによって、記載の発明の得られる電気化学的性質に関する、選択された化学反応の柔軟性及び影響を実証した。セルを、連続的により長時間にわたって5Vで充電/形成し、各期間後に10nAで放電した。得られた放電曲線を図15に示す。図15Aは、連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したBi負極/Bi正極集電体対の電圧対時間(時間)のプロットである。図15Bは、連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したAg負極/Ag正極集電体対の電圧対時間(時間)のプロットである。図15Cは、連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したAg負極/Bi正極集電体対の電圧対時間(時間)のプロットである。図15Dは、連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したTi負極/Bi正極集電体対の電圧対時間(時間)のプロットである。これらのデータからわかるように、集電体対の選択は、セルの平均電圧及び電気化学的利用にはっきりとした影響を及ぼす。Ag及びTi負極集電体の両方の使用によってBiの場合より高い電圧が得られることが判明した。理論によって拘束されるものでないが、これはのちに形成されるセルにおけるTi上にめっきされたLi、Li−Ag合金及びLi−Biの予測される電圧と一致する。
【0115】
図16(図15のBi/Bi対に関する蓄積電荷及び放電容量をまとめたもの)は、連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したBi負極/Bi正極集電体対の(i)充電容量(mAh)対時間(時間)、(ii)放電容量(mAh)対時間(時間)のプロットである。各サイクルについて蓄積電荷と放電容量との間で優れた調和を見ることができ、本発明に優れた可逆性及び続く放電中の電荷電流の効率的な利用が見られることを示す。
【0116】
記載の発明を、その特定の実施形態に言及しながら説明してきたが、本発明の真の精神及び範囲から逸脱することなく様々な変更を加え、また同等物での置き換えを行い得ることが当業者によって理解されるべきである。加えて、多くの改変を加えて特定の状況、材料、物質の組成、工程、工程ステップを記載の発明の目的、精神及び範囲に適合させ得る。このような改変は全て、本明細書に添付の請求項の範囲内にあると意図される。
【技術分野】
【0001】
関連出願の相互参照
本願は、2009年11月9日に出願の米国特許出願第61/280815号「Metal fluoride compositions for self−formed batteries」の優先権の利益を請求するものであり、その内容は参照により全て本明細書に組み込まれる。
【0002】
政府出資の記述
本発明は政府の支援のもとに成された。政府は、本発明において一定の権利を有する。
【0003】
記載の発明は、一次及び二次電気化学エネルギー貯蔵システム、特には、電気エネルギーを貯蔵及び供給する手段として、イオンの取り込み及び放出を行う材料を使用するバッテリセル等のシステムに関する。
【背景技術】
【0004】
バッテリ等の電気化学エネルギー貯蔵デバイスは、小型の神経刺激装置から電気自動車と多岐にわたる技術の急速な開発にとってますます重要になりつつある。これらのデバイスの電力需要に対処するためには、性能を決定する様々な要素に注意を払う必要がある。用途ごとに優先事項は異なるが、ほぼ全てが同じニーズを有する。このニーズには、より高い質量エネルギー密度、容積エネルギー密度、より低いコスト、より簡単なセル作製及びより高い安全性が含まれる。過去20年にわたって、リチウムイオン技術は第1級のバッテリ技術であり続けたが、その技術はその最初の導入時から殆ど進化していない。この技術においては、正及び負の両方の電極がインターカレーション反応に基づいて動作し、この反応では、ゲストイオンが、安定した結晶性ホスト構造体内に挿入される。正電極に関し、このホスト構造体は典型的には積層(LiCoO2)又は3次元(LiMn2O4)ホスト金属酸化物構造体であった。正電極はリチウムイオンバッテリのエネルギー限定電極である。従って、この電極の改良に目を向けることが、バッテリのエネルギー密度の向上の鍵である。現行の及び提案されているインターカレーション材料では、式量単位あたり1つのリチウム及び1つの電子の挿入に限定されるため、この限界を1つの電子及び1つのイオンから大幅に拡大することがエネルギー密度の向上には必要不可欠である。近年、1遷移金属あたり2又は3個の電子を移動可能なステージを設けることによってバッテリのエネルギー密度を少なくとも2倍に上昇させる変換材料の概念が導入されている(Poizot,P,et al.,Nature.2000 Sep 28;407(6803):496−9を参照のこと。この文献の内容は参照により全て本明細書に組み込まれる)。これに関して最も効率の良い変換材料が、金属フッ化物ナノコンポジット(composite)類であった(米国特許第11/813309号明細書;PCT国際出願米国特許第06/00448号明細書;米国特許第60/727471号明細書;米国特許第60/641449号明細書;Bervas,M.,et al.,J.Electrochem.Soc.2006.153(4):A799−A808;Bervas,M.,et al.,Electrochem.Solid−State Lett.2005.8(4):A179−A183;Bervas,M.,et al.,J.Electrochem.Soc.2006.153(1):A159−A170;Badway,F.,et al.,J.Electrochem.Soc.2003.150(10):A1318−A1327;Badway,F.,et al.,J.Electrochem.Soc.2003.150(9):A1209−A1218;Badway,F.,et al.,Chem.Mater.2007.19:4129−4141;Pereira,N.,J.Electrochem.Soc.2009.156(6):A407−A416;Amatucci,G.G.,and Pereira,N.,J.Fluorine Chem.2007.128:243−262を参照のこと。各文献の内容は参照により全て本明細書に組み込まれる)。放電又はリチウム化反応中、金属フッ化物は、寸法<5nmのサブナノコンポジットにおいて金属とLiFに還元される。続く充電又は脱リチウム化中に金属フッ化物材料が再生される。これは何度も繰り返すことができるため、この技術では再充電性が得られる。金属フッ化物自体は絶縁体だが、ナノコンポジットの形成によってこのようなかなりの電気化学的活性が可能となり、材料が電気化学的に活性となる。
【0005】
多くの場合、フッ化物電極をベースとした自己形成バッテリ(self formed battery)が関心の対象であり、また多くの重要な属性が得られる。例えば、限定するものではないが、自己形成バッテリの使用によって製造コストが大幅に低下する。これは個々の電極の製造に関連したコストがないからである。別の例は、使用期限のない保存電池として、必要な時にセルを高反応性の電極(電極は通常、長期間にわたって保管したままだと若干の劣化を示す)に形成できることである。別の例は、セルを小さな又は等角の寸法に形成するのが極めて簡単なことであり、これは1つのフッ化物材料層しか堆積させる必要がないからである。極めて重要な別の例として、自己形成バッテリ技術の利用によって、並外れた電圧とエネルギー密度だが周囲環境に対して極度に反応性が高く、またプロセス安定性が悪い金属ハロゲン化物電極の使用が可能になることが挙げられる。このような材料をインシチュで形成することによって、不安定な材料の極めて困難な取り扱い、潜在的な毒性、特にこれらの材料を別の場所で製造することによる高コストを避けることができる。すなわち、自己形成電気化学セルを化学工場そのものとして利用する。本発明の効果の例を、インシチュで形成したLi/Ag−AgF2対にこの概念をうまく取り込んだ場合の理論上のエネルギー密度に見ることができる。このセルエネルギー密度は3500Wh/Lを超え、これは今日の最先端のリチウムイオン技術の3倍より高い。
【0006】
記載の発明は電気化学的に形成される金属ハロゲン化物のバッテリに関し、また成分の1つが既知のガラス形成剤(glass former)である金属フッ化物セルの組成物及び例を提供する。更なる実施形態において、本発明のバッテリは、2種イオンエネルギー貯蔵メカニズムを通じて動作し得て、バッテリが形成されると、カチオン及びアニオン(例えばLi+及びF-)が相反する反応性集電体(reactive current collector)へと拡散してセルをインシチュで形成する。
【発明の概要】
【0007】
1つの態様において、記載の発明は電子絶縁性の非晶質(amorphous)又はナノ結晶性の混合イオン伝導体(mixed ionic conductor)組成物を提供し、この組成物は金属フッ化物コンポジットを含み、このコンポジットに電位を印加すると(a)負電極及び(b)正電極が形成され、負電極及び正電極はインシチュで形成される。加えて、組成物は、電荷キャリアとしてのイオンで導電する。加えて、伝導イオンはカチオン及びアニオンである。加えて、アニオンはフッ化物イオンである。加えて、カチオンはアルカリ金属である。加えて、このアルカリ金属はリチウムである。加えて、非晶質イオン伝導体(amorphous ion conductor)組成物は、ガラス形成剤を更に含む。加えて、このガラス形成剤はフッ化物である。加えて、このガラス形成剤は、AlF3、ZrF4、GaF3、HfF4、YbF3、ThF3、ZnF2、InF3、ZbF2、UF3及びYF3から成る群から選択される。加えて、非晶質イオン伝導体組成物は、フッ化物ガラス網目修飾剤(glass network modifier)を更に含む。加えて、このフッ化物ガラス網目修飾剤は既知のフッ化物伝導体である又はフッ化物伝導性に寄与する。加えて、ガラス網目修飾剤は、LaF3、BiF3、PbF2、KF、CaF2、BaF2、SnF2、SrF2又は希土類金属フッ化物から成る群から選択される。加えて、リチウムは、既知のリチウムイオン伝導体を更に含む。加えて、このリチウムはLiFである。加えて、正電極は、正極集電体(positive current collector)との反応によって形成される。加えて、正極反応性集電体(positive reactive current collector)は、Ag、Au、Bi、Pb、Sn、Cu、Pt、Pd、Fe、Mn、Ni、Mo、V又はこれらの組み合わせの少なくとも1種を含む。加えて、正極反応性集電体は、La、Ca、Ba、Sr、O及びSの少なくとも1種を含む。加えて、正極集電体は炭素を含む。加えて、この炭素は、カーボンナノチューブ又はグラフェンから選択される炭素である。加えて、負電極は、負極集電体(negative current collector)との反応によって形成される。加えて、反応性負極集電体は、Ag、In、Al、Si、Sn、Ge、Mg、Au、Pd、Bi、Pb、黒鉛、カーボンナノチューブ及びグラフェンの少なくとも1種を含む。加えて、伝導体は、組成物の一部の電気化学的な酸化による正電極の形成又は電気化学的な還元による負電極の形成を可能にする組成傾斜材料(compositionally graded material)として形成される。加えて、非水性液体電極は、負極反応性集電体(negative reactive current collector)と、非晶質固体2種イオン伝導電解質被覆(coated)正極反応性集電体との間に置かれる。加えて、非水性液体電解質は、正極反応性集電体と、固体2種イオン電解質被覆負極反応性集電体との間に置かれる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1A】厚さ約1ミクロンの8mmx14mmの全体構造において櫛歯(digit)幅が約250ミクロン、間隔が約250ミクロンの例示的なインターディジタルアレイ(IDA)パターンである。
【図1B】LiFリチウム伝導体及び様々なフッ化物伝導ガラス網目修飾剤を利用して調製したAlF3/LiF/CaF2組成物のXRDプロファイルである。
【図1C】相互侵入型3D反応性正極集電体を利用した記載の発明の一実施形態の概略図である。
【図2A】非晶質組成物AlF3/LiF/CaF2の電流(mA)対電圧のプロットである。
【図2B】2種イオン伝導非晶質被覆反応性正電極及び非水性Li+伝導電解質の取り込みを利用した記載の発明の一実施形態の概略図である。
【図3】5Vの定電流で充電したセルについての放電プロファイルを表す電圧対時間のプロットである。
【図4】LiFリチウム伝導体及び様々なフッ化物伝導ガラス網目修飾剤を利用して調製したZrF4/LiF/CaF2組成物のXRDプロファイルである。
【図5】非晶質組成物ZrF4/LiF/CaF2及びCaF2の代わりにBaF2を含む非晶質組成物のポテンショダイナミック応答を比較した電流(mA)対電圧のプロットである。
【図6】5Vの定電流で充電したセルについての代表的な放電プロファイルを示す電圧対時間(時間)のプロットである。
【図7】0.143MeFx−0.428LiF−0.428CaF2(Me=Al、Hf及びZr)の組成物のポテンショダイナミック応答の比較を示す電流(mA)対セル電圧のプロットである。
【図8】0.143MeFx−0.714LiF−0.143CaF2(Me=Al、Hf及びZr)の組成物のポテンショダイナミック応答の比較を示す電流(mA)対セル電圧のプロットである。
【図9】電気化学的に形成されたセルの概略図である。
【図10】堆積させたxZrF4:(1−x)LiF膜(x=0.11、0.14及び0.2)のXRDプロファイルである。
【図11】5Vで極めて短く1時間充電した後の2成分組成物(ZrF4:LiF)の10nA放電を表す電圧対容量(mAh)のプロットである。
【図12】堆積Bi合金におけるCa置換の関数としての200nA形成充電を表す電圧対容量のプロットである。
【図13】堆積Bi合金におけるAg置換の関数としての200nA形成充電を表す電圧対容量(mAh)のプロットである。
【図14】堆積Bi合金におけるKF置換の関数としての200nA形成充電を表す電圧対容量(mAh)のプロットである。
【図15A】連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したBi負極/Bi正極集電体対の電圧対時間(時間)のプロットである。
【図15B】連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したAg負極/Ag正極集電体対の電圧対時間(時間)のプロットである。
【図15C】連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したAg負極/Bi正極集電体対の電圧対時間(時間)のプロットである。
【図15D】連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したTi負極/Bi正極集電体対の電圧対時間(時間)のプロットである。
【図16】連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したBi負極/Bi正極集電体対の(i)充電容量(charge capacity)(mAh)対時間(時間)、(ii)放電容量(mAh)対時間(時間)のプロットである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
記載の発明は、少なくとも2種の伝導イオンであるカチオン及びフッ化物アニオンを含む電気化学的に形成されるバッテリを提供し、2種の伝導イオンは、バッテリ形成時に、相対する集電器で反応してバッテリの負電極及び正電極をそれぞれ形成する。記載の発明は、カチオン及びフッ化物アニオンを拡散可能な2種イオン伝導電解質を利用する。
【0010】
記載の発明は更に、優れた可逆性及び利用性の電気化学的自己組織化バッテリ(self assembled battery)の製造に使用可能なナノ結晶及び非晶質状態のフッ化物及びアルカリ金属の混合イオン伝導体を提供する。一部の実施形態において、組成物は、フッ化物伝導性を強化可能な電気化学的に安定したガラス形成剤、例えばZrF4、AlF3、HfF4、GaF3、ScF3、ThF3、InF3及びZnF2を含む(Adam,J.,J.Fluorine Chem.2001.107:265−270;Poulain,M.,Ann.Chim.Sci.Mat.2003.28:87−94;Trnovcova,V.,et al.Ionics.2001.7:456−462;Sorokin,N.I.,Russian Chem.Rev.2001.9:801−807;Bobe,J.M.,et al.,J.Non−Crystalline Solids.1997.209:122−136;Dugat,P.,et al.J.Solid State Chem.1995.120:187−196;Ghosh,S.,and Ghosh,A.,Solid State Ionics.2002.149:67−72;Savchuk,R.N.,et al.,210th Meeting of the Electrochemical Society,2006 Joint International Meeting,Oct.29−Nov.3,2006.Cancun,Mexico,Abstract;Ghosh,S.,and Ghosh,A.,J.Phys.:Condens.Matter.2005.17:3463−3472;Savchuk,R.N.,et al.,218th ECS Meeting,Vol.7,Issue 7,Oct.10−Oct.15,2010,Las Vegas,NV,Abstract;Ghosh,S.,and Ghosh,A.,J.Appl.Physics,2005.97:123525;Ghosh,S.,and Ghosh,A.,J.Phys.:Condens.Matter,2005.17:3463−3472及びSural,M.,and Ghosh,A.,Solid State Ionics,1999.120:27−32を参照のこと。各文献の内容は参照により全て本明細書に組み込まれる)。あるいは、一部の実施形態において、組成物は非フッ化物ガラス形成剤を含み、ボレート及びホスフェートのものを含み(El−Hofy,M.,and Hager,I.Z.,phys.stat.sol.(a).2003.1999,No.3,448−456を参照のこと。この文献の内容は参照により全て本明細書に組み込まれる)、この非フッ化物ガラス形成剤はカチオン及び/又はアニオンの伝導性を支援する。
【0011】
用語集
本明細書で使用の用語「非晶質」とは、長距離結晶構造を有していないこと又はナノ構造相(<100nm)範囲とX線回折で確認できる秩序のない相とから成るコンポジットを意味する。
【0012】
本明細書で使用の用語「非晶質イオン伝導体」とは、イオン伝導(conduction)を可能にする長距離結晶構造(上で定義済み)を有していない媒体のことである。
【0013】
本明細書で使用の用語「アニオン」とは、負に帯電したイオンのことである。
【0014】
本明細書で使用の用語「カーボンナノチューブ」とは、円筒形のナノ構造を有する炭素の同素体(ある元素についての2つ以上の異なる構造形態の1つを意味する)のことである。
【0015】
本明細書で使用の用語「カチオン」とは、正に帯電したイオンのことである。
【0016】
電気化学において、用語「電荷」とは、素電荷eの正又は負の整数の倍数の電荷(物理量)に言及する際に使用される。電荷の合計は常に、電荷が輸送される時間及び空間領域内に保存される。用語「電荷」は、その記号を示すためだけに「正電荷」及び「負電荷」について言及する際にもよく使用される。
【0017】
「バッテリの充電容量」という表現は、バッテリ材料及び/又はバッテリ電極全体に貯蔵される電荷の量のことである。充電容量はクーロンで測定される。実際には、電荷は通常、Ah(アンペア時)で表わされる。1Ahは3600クーロンである。従って、1回の工程で1つの電子を移動させる電気活性材料1モルの充電容量は1F又は26.8Ahである。エネルギー貯蔵及び変換の実際にとって極めて重要となるのが比電荷(比容量(specific capacity))であり、重量比容量の場合は1グラムあたりのAh(Ahg-1)、体積比容量の場合は1リットルあたりのAh(AhL-1)で表わされる。理論上の比容量と実際の比容量とを区別することが重要である。「理論上の比充電容量」は、活性材料の分子量及び電気化学的工程における電子移動の回数に基づく。「実際の比充電容量」は工程で得られる実際の容量であり、多くの実際的要因(電気化学的工程の動力学的限界、動作温度、カットオフ電圧、電極のデザイン及び構成等)に左右される。キャパシタ及び充電式バッテリの分野において、「充電容量」の定義は、デバイスの充電工程に関係する容量であり、通常、放電工程に関係する容量(「放電容量」)と比較される。デバイスの良好なサイクル特性寿命のために、充電工程における損失は最小限であるべきである。
【0018】
本明細書で使用の用語「被覆」及びその様々な文法上の形態は、物体の表面に施される薄い外層又は膜のことである。
【0019】
本明細書で使用の用語「コンポジット」とは、少なくとも1種以上の異なる成分、構成要素又は元素を含む化合物のことである。
【0020】
本明細書で使用の用語「条件付きガラス形成剤(conditional glassformer)」(中間体)とは、単独ではガラスの構造をとらないが、別の化合物と組み合わさるとガラス形成剤のような働きをする化合物のことである。
【0021】
本明細書で使用の用語「伝導」とは、媒体自体は全体として移動することのない媒体を通した電荷の流れのことである。
【0022】
本明細書で使用の用語「伝導性マトリックス」とは伝導性材料を含むマトリックスのことであり、一部はイオン伝導体及び/又は電子伝導体になり得る。マトリックスがイオン伝導性及び電子伝導性の両方を保持する材料は通常、「混合伝導体」と称される。
【0023】
本明細書で使用の用語「伝導性」(又は「導電性」又は「導電率」)とは、電流がボディを流れることができる場合のことである。伝導性は、1メートルあたりのジーメンスとして表わされ得る。
【0024】
本明細書で使用の用語「伝導体」(又は「導電体」)とは、電流が流れやすい媒体のことである。このような媒体は、例えばとりわけ金属ワイヤ、溶解させた電解質又はイオン化ガスになり得る。
【0025】
本明細書で使用の用語「2種イオン伝導体(bi−ion conductor)」とは、カチオン及びアニオンを伝導する固体の組成物のことである。
【0026】
用語「結晶」とは、原子、イオン又は分子の繰り返しの3次元パターンによって形成され、また構成部又はこのようなパターンの単位格子間に固定の距離を有する均質な固体のことである。用語「結晶構造」又は「結晶格子」は本明細書において同じ意味で使用され、結晶内の原子又はイオンの配列又は形成のことである。
【0027】
本明細書で使用の用語「電流」とは、伝導体における電荷の移動のことである。電子伝導体において電子によって運ばれる電荷の移動は「電子電流」と称される。イオン伝導体においてイオンによって運ばれる電荷の移動は「アニオン電流」と称される。
【0028】
本明細書で使用の用語「集電体(current collector)」とは、電子を集めるもののことである。典型的には、集電体は、電極アセンブリの構造部品である。その主な目的は、電極の実際の作動(反応)部と端子(電源又は負荷を接続可能な電気化学セルの外部の電気接続ポスト)との間で電子を伝導することである。集電構造体は、櫛形又は対向する平面デザインになり得る。あるいは、このような構造体は非晶質化学の範囲内で3Dを取り込んだものになり得る。本明細書に記載の発明において、このような集電体は反応性になり得て、これは、セル形成時に、集電体が反応を起こして電極をインシチュで形成することを意味する。これらは「反応性集電体」と定義される。
【0029】
本明細書で使用の用語「電位」とは、基準点から電界内の特定の地点にまで単位電荷を移動させるのに必要な仕事のことである。この基準点は通常、特定の地点からの無限遠と見なされ、電位はゼロと見なされる。1クーロンの電荷の移動に1ジュールが必要な場合、電位は1ボルトに等しい。
【0030】
本明細書で使用の用語「電解質」とは、溶媒に溶解させると及び/又は溶融させるとイオンに解離してイオン伝導性をもたらす化合物のことである。固体状態で高いイオン伝導性を有する化合物は、「固体電解質」と称される。「真性電解質(true electrolyte」は、固体状態(すなわち純粋な形態)でイオンが積み重なったものであり、「潜在的電解質(potential electrolyte)」は、溶媒中での溶解及び解離時にのみイオンを形成するものである(すなわち、純粋な状態では多かれ少なかれ共有結合化合物として存在する)。
【0031】
本明細書で使用の用語「元素」とは、通常の化学的手段ではそれ以上単純な物質に分解できない単純な物質のことである。
【0032】
本明細書で使用の用語「ガラス」とは、ある固体を形成する原子の広がった3次元ネットワークのことであり、結晶材料に典型的な長距離周期性(又は繰り返しの秩序ある配列)を欠く。ガラスは結晶の周期的(長距離)秩序を欠き、無限単位セル(繰り返しの大規模構造がない)、連続ランダムネットワーク(対称性及び周期性を有さない3次元ネットワーク)を有し、また等方性であり、全ての方向において同じ平均パッキング及び性質を有する。「非晶質固体」は長距離秩序を有さない。本発明の文脈において、用語「非晶質」又は「ガラス」は、ナノメートル又はミクロンスケールで組成物全体又は組成物の一部がX線回折では長距離秩序を有さないことを意味すると理解される。
【0033】
本明細書で使用の用語「ガラス状」とは、ナノメートルレンジでは結晶構造を有する、X線回折では非晶質に近い構造のことである。このため、用語「ガラス状炭素(glassy carbon、vitreous carbon)」とは、ガラス様機械的特性と黒鉛の物理的性質とを併せ持つ純粋な炭素のことである。
【0034】
本明細書で使用の用語「ガラス形成剤」とは、ガラス構造を容易にとることが可能な又は通常は長距離秩序で結晶化する組成物にガラス状/非晶質構造をもたらす化合物のことである。一般に、小さいカチオンの化合物はガラスを形成し、原子価の低い大きなカチオンの化合物はガラスを形成しない。非ガラス形成剤をガラス形成剤に添加すると、ガラス形成剤の連続ランダムネットワークが保持されるが、このネットワークは非ガラス形成剤の添加によって変化してしまっている。これらのイオン化合物は「ガラス修飾剤」と称される。
【0035】
本明細書で使用の用語「イオン伝導体(ion conductor、ionic conductor、又はIC)」とは、電荷キャリア(電流が流れている間、電荷を運ぶ粒子を意味する)としてのイオン(帯電した化学的粒子を意味する)で導電する材料のことである。
【0036】
本明細書で使用の用語「イオン液体(又は「液体電解質」、「イオン性金属」、「イオン流体」、「溶融塩」、「液体塩」、「イオンガラス」)」とは、安定した液体を形成する塩のことである。用語「イオン液体」には全ての古典的な溶融塩が含まれ、これらの溶融塩は熱的により安定したイオンから構成されている。
【0037】
本明細書で使用の用語「インシチュ(in−situ)とは、所定の場所で又は特定の部位でを意味する。
【0038】
本明細書で使用の用語「絶縁する」及びその様々な文法上の形態は、電気、熱又は音エネルギーの材料又はボディ内外への伝導を絶縁体の使用を通じて防止することである。
【0039】
本明細書で使用の用語「絶縁体(又は「電気絶縁体」)」とは、電流が流れるには抵抗が大きすぎるため、流れる電流が最小限である又は無視できるものとなる材料のことである。
【0040】
本明細書で使用の用語「金属集電体」とは、金属製の集電体のことである。
【0041】
用語「マイクロメートル」又は「ミクロンレンジ」は本明細書においては同じ意味で使用され、約1マイクロメートル(10-6m)から約1000マイクロメートルの寸法のことである。
【0042】
本明細書で使用の用語「混合イオン伝導体」とは、少なくとも2種のイオンの移動性を示す伝導体のことである。
【0043】
本明細書で使用の用語「溶融」とは、液体状態のことである。
【0044】
本明細書で使用の用語「ナノ結晶子」とは、サイズが<100nmの個別結晶子又はマトリックスに組み込んでナノコンポジットにしたサイズ<100nmの結晶子のことである。最終的なナノコンポジットは、100nmより大きい又は以下であってよい。
【0045】
用語「ナノメートル」又は「ナノレンジ」は同じ意味で使用され、約1ナノメートル(10-9m)から約1000ナノメートルの寸法のことである。
【0046】
本明細書で使用の用語「負極集電体」とは、電子を集めて正味の負電荷を有する集電体のことである。負極集電体は非反応性金属、例えばTi、Ni、Cu、Mo、Ca、La、Y、Li又はガラス状炭素になり得る。あるいは、電着させた原子(Ag、In、Al、Si、Sn、Ge、Mg、Au、Pd、Bi、Pb、グラフェン、又はこれらの混合物等だが、これらに限定されない)と合金又は金属間化合物を形成するような反応性になり得る。あるいは、炭素(黒鉛電極、カーボンナノチューブ等だが、これらに限定されない)の場合、結果的にインターカレーション化合物を形成することがある。加えて、合金化する金属を、非晶質化学の最初のフッ化物組成物に含め得る。
【0047】
本明細書で使用の用語「正極集電体」とは、電子を失って正味の正電荷を有する集電体のことである。反応性正極集電体には、セルの充電時にフッ素アニオンと反応して金属又はフッ化炭素構造体を形成することができる金属及び化合物が含まれ、限定するものではないが、銀、ビスマス、鉛、スズ、金、銅、ニッケル、マンガン、鉄、コバルト、金、パラジウム及び炭素(グラフェン、カーボンナノチューブ、黒鉛)のものが含まれる。このような集電体は混合合金又は互いの若しくは他の元素とのコンポジットとして形成され得て、イオン及び電子の電荷輸送が促進され、続いて電極内で金属又はフッ化炭素が形成される。充電工程中にフッ化物アニオンと大きく反応しない他の成分もこの正極集電体に添加され得る。充電工程中にフッ化物アニオンと大きく反応しないというこの性質は、正電極に与えられた電位での非反応性、任意の電圧での本質的な非反応性又は速度論的に阻害された非反応性に起因すると考えられる。このため、このような元素は、その極めて高い電子伝導性を維持し、また反応性正電極成分の電子伝導性を強化する。
【0048】
本明細書で使用の表現「近接した」とは、直接接触している又は10nm以内であることを意味する。
【0049】
用語「反応性集電体」とは、最初は集電体として機能するが、後に電気化学セルの形成時に活性イオンとの反応によって一部又は全体が活性電極材料に変化する電子伝導性材料の使用のことである。
【0050】
本明細書で使用の用語「負極反応性集電体」とは、電子を獲得していて(又は還元されていて)、また電気化学的セルの充電工程中に正味の負電荷を有する反応性集電体のことである。
【0051】
本明細書で使用の用語「正極反応性集電体」とは、電子を失っていて(酸化されていて)、また電気化学セルの充電工程中に正味の正電荷を有する反応性集電体のことである。
【0052】
本明細書で使用の用語「種晶(seed crystal)」とは、単一の結晶材料の小片のことであり、典型的にはこの小片から同結晶材料の大きな結晶を成長させる。液体は、その標準的な凝固点より低い温度で、種晶又は核の存在下で結晶化し、種晶又は核の周囲に結晶構造が形成される(核形成)。しかしながら、このような核がない場合、液相の維持が可能である(過冷却)。過冷却は、最初の種晶の形成が困難な液体によく見られる。
【0053】
本明細書で使用の表現「固体化学(又は「固体形成化学」)」とは、固体材料の合成、構造及び物理的性質の研究のことである。
【0054】
本明細書で使用の用語「比容量」とは、ある化合物が有する単位質量あたりのミリアンペア時間(mAh)で表わされるエネルギー量のことである。用語「可逆比容量」とは、放電とは反対の方向に電流を流すことによって化合物が再充電され得ることを意味する。
【0055】
用語「電圧」とは、2つの選択された空間の地点の間での電位における差の尺度のことである。
【0056】
用語「ワット」(「W」)とは、電力の単位のことである。1W=1Js-1=1VA。
【0057】
I.電子絶縁非晶質及びナノ結晶混合イオン伝導体組成物
一態様において、記載の発明は電子絶縁非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体組成物を提供し、この組成物は、
(1)金属フッ化物コンポジットを含み、
該金属フッ化物コンポジットに電位を印加すると
(a)負電極、及び
(b)正電極
を形成し、
該負電極及び該正電極はインシチュで形成される。
【0058】
加えて、電子絶縁非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体組成物は、電荷キャリアとしてのイオンで導電する。
【0059】
伝導イオン
加えて、伝導イオンはカチオンである。更に、このカチオンはアルカリ金属である。アルカリ金属には、以下に限定するものではないが、リチウム、ナトリウム、カリウム、ルビジウム、セシウム及びフランシウムが含まれる。
【0060】
加えて、非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体組成物は、リチウム化合物を更に含む。更に、このリチウム化合物は、既知のリチウムイオン伝導体である。更に、このリチウム化合物はLiFである。
【0061】
加えて、伝導イオンはアニオンである。更に、このアニオンはフッ化物イオンである。
【0062】
ガラス形成剤
加えて、非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体は、ガラス形成剤を更に含む。更に、このガラス形成剤はフッ化物である。更に、ガラス形成剤はZrF4である。更に、ガラス形成剤はAlF3である。更に、ガラス形成剤はHfF3である。更に、ガラス形成剤はScF3である。更に、ガラス形成剤はThF3である。更に、ガラス形成剤はInF3である。更に、ガラス形成剤はZbF2である。更に、ガラス形成剤はUF3である。更に、ガラス形成剤はYF3である。更に、ガラス形成剤はGaF3である。更に、ガラス形成剤はZnF2である。更に、ガラス形成剤はInF3である。
【0063】
ガラス網目修飾剤
加えて、非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体は、ガラス網目修飾剤を更に含む。
【0064】
加えて、ガラス網目修飾剤は、フッ化物ガラス網目修飾剤である。更に、フッ化物ガラス網目修飾剤は既知のフッ化物伝導体である。このような伝導体の非限定的な例には、並外れた伝導性のアニオン欠乏組成物を形成するLaF3、BiF3、PbF2、CaF2、BaF2、SnF2、SrF2又はこれらの混合物が含まれる。更に、フッ化物ガラス網目修飾剤はフッ化物伝導性に寄与する。このような伝導体の非限定的な例には、LaF3、BiF3、PbF2、CaF2、BaF2、SnF2、SrF2又はこれらの混合物が含まれる。
【0065】
更に、ガラス網目修飾剤はCaF2である。更に、ガラス網目修飾剤はBaF2である。更に、ガラス網目修飾剤はSrF2である。更に、ガラス網目修飾剤はLaF3である。更に、ガラス網目修飾剤は希土類金属フッ化物である。
【0066】
更に、ガラス網目修飾剤はLiFである。更に、ガラス網目修飾剤はBiF3である。更に、ガラス網目修飾剤はPbF2である。更に、ガラス網目修飾剤はSnF2である。更に、ガラス網目修飾剤はSnF4である。
【0067】
電極の形成
加えて、非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体は組成傾斜材料として形成され、この材料は、組成物の一部の電気化学的な酸化による正電極の形成又は電気化学的な還元による負電極の形成を可能にする。
【0068】
加えて、非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体はコンポジットとして形成される。
【0069】
正電極
加えて、組成物は正極集電体に近接して銀を含む。加えて、組成物は正極集電体に近接してビスマスを含む。加えて、組成物は正極集電体に近接してパラジウムを含む。加えて、組成物は正極集電体に近接して金を含む。加えて、組成物は正極集電体に近接して銅を含む。加えて、組成物は正極集電体に近接してモリブデンを含む。
【0070】
加えて、正電極は、反応性正極集電体との反応によって形成される。更に、正極集電体はAgを含む。更に、正極集電体はAuを含む。更に、正極集電体はBiを含む。更に、正極集電体はPbを含む。更に、正極集電体はSnを含む。更に、正極集電体はCuを含む。更に、正極集電体はPtを含む。更に、正極集電体はPdを含む。更に、正極集電体はMoを含む。更に、正極集電体はVを含む。従って、主成分には、以下に限定するものではないが、Ag、Au、Bi、Pb、Sn、Cu、Pt、Pd、Mo及びVが含まれる。F-伝導性を支援し得るが低電圧及び/又は低容量のために正電極材料として有用ではない他の元素には、以下に限定するものではないが、K、Ca、La、Ba、Sr及び酸素が含まれる。
【0071】
加えて、正電極は正極集電体との反応によって形成され、正極集電体はAg、Au、Bi、Pb、Sn、Cu、Pt、Pd、Mo、V又はこれらの組み合わせの少なくとも1種を含む。従って、主成分には、以下に限定するものではないが、Ag、Au、Bi、Pb、Sn、Cu、Pt、Pd、Mo及びVが含まれる。F-伝導性を支援し得るが低電圧及び/又は低容量のために正電極材料として有用ではない他の元素には、以下に限定するものではないが、K、Ca、La、Ba、Sr及び酸素が含まれる。
【0072】
加えて、正電極は正極集電体との反応によって形成され、正極集電体は炭素を含む。更に、この炭素はカーボンナノチューブである。更に、炭素はグラフェンである。更に、炭素は黒鉛である。
【0073】
負電極
加えて、負電極は、負極集電体との反応によって形成される。
【0074】
加えて、負極集電体は非反応性金属になり得て、例えばTi、Ni、Cu、Mo、Ca、La、Y、Li又はガラス状炭素である。加えて、負極集電体は、電着されたLiと合金を形成するような反応性になり得る。このような材料にはAg、In、Al、Si、Sn、Ge、Mg、Au、Pd、Bi、Pb、グラフェン等又はこれらのいずれかの混合物が含まれ、あるいは黒鉛電極及びカーボンナノチューブ等の炭素の場合はインターカレーション化合物の形成をもたらし得る。
【0075】
イオン液体
加えて、非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体はイオン液体を含む。
【0076】
加えて、非水性液体電解質は、負極反応性集電体と非晶質又はナノ結晶電解質被覆正極反応性集電体との間に置かれる。加えて、非水性液体電解質は、正極反応性集電体と非晶質又はナノ結晶電解質被覆負極反応性集電体との間に置かれる。更に、非水性電解質には、以下に限定するものではないが、環式(プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート)及び非環式(ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート)カーボネート、エーテル、ボラン(トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン)並びにニトリル(アセトニトリル、メトキシプロピルニトリル、アジポニトリル)を含む様々な有機溶媒中のリチウム塩(LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiF等)が含まれる。
【0077】
別の態様において、記載の発明は電気化学バッテリセルを提供し、このセルは
(1)電子絶縁非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体組成物を含み、該組成物は、
(a)金属フッ化物コンポジットを含み、
該金属フッ化物コンポジットに電位を印加すると
(i)負電極、及び
(ii)正電極
を形成し、
該負電極及び該正電極はインシチュで形成される。
【0078】
加えて、記載のセルの周囲環境での使用には、このようなセルの周囲での気密に近いパッケージングを必要とする。このようなパッケージングは、高エネルギーバッテリの当業者にはよく知られている。このようなパッケージングには、多層金属ポリマーパッケージング、無機ナノ積層パッケージング、パリレンを含有するパッケージング、ガラスコーティング等が含まれ得る。
【0079】
特に定義がない限り、本明細書で使用する全ての技術的及び科学的な用語は、本発明が属する分野の当業者が普通に理解するものと同じ意味を有する。本明細書に記載のものに類似した又は同等のいずれの方法及び材料も記載の発明の実践又は試験で使用し得るが、好ましい方法及び材料について今から説明する。本明細書で言及した全ての刊行物は、引用の刊行物との関連で方法及び/又は材料を開示し、また説明するために参照により本明細書に組み込まれる。
【0080】
本明細書及び添付の請求項で使用される単数形には、文脈上明らかにそうではない場合を除いて複数の指示対象が含まれることにも留意しなくてはならない。本明細書で使用の全ての技術的及び科学的用語は同じ意味を有する。
【0081】
本明細書で論じた刊行物は、本願の出願日より先に開示されたという理由で挙げられたに過ぎない。本明細書のいずれの記載も、先行の発明のせいで、記載の発明がこのような刊行物に先んじていないと認めるものだと解釈されるべきではない。また、記載した刊行物の日付が実際の刊行日と異なることもあるため、個別の確認を要する場合もある。
【0082】
本発明の真の精神及び範囲から逸脱することなく様々な変更を加え、また同等物での置き換えを行い得ることが当業者によって理解されるべきである。加えて、多くの改変を加えて特定の状況、材料、物質の組成、工程、工程ステップを記載の発明の目的、精神及び範囲に適合させ得る。このような改変は全て、本明細書に添付の請求項の範囲内にあると意図される。
【実施例】
【0083】
以下の実施例は、本発明をどのように構成し、また使用するかについての完全な開示及び説明を当業者に提供するためのものであり、発明者が発明と見なすものの範囲を限定することを意図するものではなく、また以下の実験が全てである又は行ったのがこれらの実験だけであると意図するものではない。使用した数(例えば、量、温度等)に関して精度を確保するための努力がなされたが、若干の実験誤差及び偏差も考慮されるべきである。特に記載がない限り、「部」とは質量部であり、分子量は重量平均分子量であり、温度は摂氏温度であり、圧力は大気圧又はほぼ大気圧である。
【0084】
実施例1:非晶質組成物
フッ化物及びフッ化物/Li伝導体の様々なおおむね非晶質の組成物が、記載の発明にとって有用な組成物のタイプの例として表1の通りに調製された。「混合物」とは、サンプル組成物の厚さのことである。「Ag」を、反応性正及び負電極として利用する。「Ti」は、ガラス基板とAg櫛形電極との間に堆積させたTiの接着補助剤の厚さを示す。
【0085】
【表1】
【0086】
全ての組成物は、ある割合(%)のガラス形成剤を含有した。この実施例においては、AlF3、ZrF4、GaF3、HfF4、YbF3を含めた様々なフッ化物ガラス形成剤を利用した。これらのガラス形成剤を利用したが、他の既知のフッ化物ガラス形成剤も利用し得て、以下に限定するものではないがThF3、InF3、ZbF2、UF3、YF3等が含まれる。高い電解安定性及び電子絶縁ガラス形成能を備えたガラス形成剤並びにフッ化物アニオン伝導性に寄与するガラス形成剤を利用し得る。
【0087】
ガラス形成剤は、ガラス修飾剤と組み合わされた。ガラス修飾剤もまたF伝導体である。これらにはLiF、CaF2、BaF2及びLaF3が含まれる。例えばBiF3、PbF2、SnF2、SnF4のような、高いF伝導を示す他の修飾剤も利用し得る。
【0088】
最後に、リチウム及びフッ化物の拡散に依存する本発明の電気化学的に形成されるバッテリのLi源としてLiFを添加した。
【0089】
上記の材料の材料組成物の形成によって、最も理想的には少なくとも速いLi+及びF-イオン伝導性を示す2種イオン伝導系が得られる。
【0090】
上で挙げた組成物を乳鉢及び乳棒でよく混合し、櫛形集電構造体上に熱蒸着により薄膜として堆積させた。
【0091】
集電体材料の選択には注意が必要である。このような集電体が移動種と組み合わさって電気化学的に形成される電極になり得るからである(すなわち、反応性集電体)。例えば、正極集電体は、最も理想的には極めて高エネルギー密度の電極をF-イオンで形成する。従って、反応性集電体は、それを行う材料組成物製であるべきである。銀、ビスマス、鉛、スズ、金、鉄、ニッケル、パラジウム、銅、炭素(カーボンナノチューブ、グラフェン、黒鉛)の正極集電体は全て、移動性のF-イオンと代表的な金属又は炭素とのフッ化物、続いて並外れて高エネルギー密度の正電極をアノード的に形成する実現性のある集電体材料と見なされ得る。このような集電体は、イオン及び電子の電荷輸送を促進して所望の金属フッ化物を容易に形成するために混合合金、コンポジット、組成傾斜構造体として形成され得る。例えば、少量のビスマス、鉛又はランタンを添加して銀のマトリックス内でフッ化ビスマス系化合物を形成させることによって構造体の奥深くでのフッ化物イオンの速い拡散を可能にし得る。加えて、バッテリの外部回路への電子の移動を支援するために、正極集電体は、F-と大量に反応しない金属の電子パーコレーションネットワークを(ミクロン又はナノスケールコンポジットの形態で)含有し得る。例えば、金、プラチナ又は非反応性炭素を添加することによって、活性材料とバッテリの外部構造体との間での速い電子移動を保証し得る。
【0092】
負極集電体は非反応性金属、例えばTi、Ni、Cu、Mo、Ca、La、Y、Li、ガラス状炭素になり得る。あるいは、負極集電体は反応性になり得て、電着させたAg、In、Al、Si、Sn、Ge、Mg、Au、Pd、Bi、Pb、グラフェン等又はこれらのいずれかの混合物と合金を形成し得る。あるいは、黒鉛電極、カーボンナノチューブ等の炭素の場合、インターカレーション化合物の形成をもたらし得る。加えて、合金化する金属を、最初の2種イオン伝導フッ化物組成物に含め得る。例えば、形成中、AlF3からのAlが負極集電体の近くで堆積し、続いて電気化学的に還元されたLiと合金化してLixAl合金を形成する。反応性集電構造体は、櫛形又は対向する平面のデザインになり得る。あるいは、このような構造体は、非晶質特性の範囲内で3次元結合であってよい。自己形成するフッ化物との界面での密接且つ高表面積での化学反応を促進するために、金属集電体と2種イオン伝導フッ化物との化学反応で相互侵入的な接触が起きるようなミクロ又はナノモルホロジーの集電体を有することが有利と考えられる(図1A及び図1Cを参照のこと)。従って、集電構造体は、このような密接な接触を得られる円柱状となり得る又は他のモルホロジーに構成され得る。このような構造体は、ミクロン又はナノメートルオーダーになり得る。
【0093】
本明細書で実証する実施例の殆どに関し、集電体を、櫛形デザインの500nmのAgで作製した(例えば、表1(4欄)及び図1A、図1Cを参照のこと)。
【0094】
非晶質フッ化物組成物の堆積には熱蒸着を利用したが、他の物理蒸着法、例えば電子ビーム蒸着、スパッタリング技法、プラズマ蒸着、化学蒸着技法を利用しても膜を作製し得る。加えて、概念を薄膜を超えて厚さ何十、何百ミクロンの構造体にも拡大し得る低コストの技法も利用し得る(スピン又はディップコーティングによるゾルゲル化学、アーク溶融及びクエンチング、更にはガラス製造の最先端技術に詳しい人間によって利用されてきた伝統的なメルトクエンチ又はメルトキャスト法等)。
【0095】
以下の全ての電気化学試験は、図1Aに示されるように、厚さ約1ミクロンの8mmx14mmの全体構造において櫛歯幅が約250ミクロン、間隔が約250ミクロンのインターディジタルアレイ(IDA)パターンの反応性集電体の熱蒸着によって作製された。図1Cは、相互侵入型3D反応性正極集電体を利用した記載の発明の一実施形態の概略図である。非晶質組成物を、厚さ約1ミクロンでインターディジタルアレイの上に堆積させた。全ての電気化学試験は、周囲大気の影響を排除するためにアルゴンを充填したグローブボックス内で行われた。非水電池技術の当業者なら準気密カプセル化を適用することによって周囲環境におけるバッテリの動作を可能にし得ることを理解できる。
【0096】
実施例2:AlF3ガラス形成剤から成るガラス組成物
表1に従って、ガラス形成剤としてのAlF3を含有する様々な組成物を、その物理的及び電気化学的性質に関して調査した。図1Bは、LiFリチウム伝導体及び様々なフッ化物伝導ガラス網目修飾剤を利用して調製したAlF3/LiF/CaF2組成物のXRDプロファイルを表す強度(任意単位)対角度(2θ)のプロットである。図からわかるように、全てのサンプルが高い非晶性を示し、CaF2リッチな組成物のCaF2ナノ相に関係して若干のブラッグ反射が2θ値47〜48°に見られる。図2Aは、非晶質組成物AlF3/LiF/CaF2の電流(mA)対セル電圧のプロットであり、非晶質組成物のポテンショダイナミックスイープを示している。図2Aからわかるように、最初の充電でバッテリ形成に関係する大きなアノード電流が発生している。続く放電は、2〜4Vの電圧領域における大きなカソード電流を示す。これは形成されたLi−Ag合金/固体電解質/AgFx系バッテリと一致している。続くサイクルは、組成物のサイクル安定性が優れていることを示す。より多くのLiFを含有する組成物に関してより高い電気化学的有用性が見られる。図3は、5Vの定電流で充電したこのようなセルについての放電プロファイルを表す電圧対時間のプロットである。図からわかるように、有用な電圧でバッテリからかなりの容量が得られる。
【0097】
実施例3:ZrF4ガラス形成剤のガラス組成物
表1に従って、ガラス形成剤としてのZrF4を含有する様々な組成物を、正電極及び負電極の両方の反応性集電体の上への堆積後に、その物理的及び電気化学的性質に関して調査した。図4は、LiFリチウム伝導体及び様々なフッ化物伝導ガラス網目修飾剤を利用して調製したZrF4/LiF/CaF2組成物のXRDプロファイルを表す強度(任意単位)対角度(2θ)のプロットである。図からわかるように、全てのサンプルが高い非晶性を示し、組成物中のCaF2量が最も多いサンプルに関してCaF2ナノ相に関係してごくわずかなブラッグ反射が2θ値46〜48°に見られる。図5は、非晶質組成物ZrF4/LiF/CaF2及びCaF2の代わりにBaF2を含む非晶質組成物のポテンショダイナミック応答を比較した電流(mA)対電圧のプロットである。図5からわかるように、最初の充電でバッテリ形成に関係する大きなアノード電流が発生している。続く放電は、2〜4Vの電圧領域における大きなカソード電流を示す。これは形成されたLi−Ag合金/固体電解質/AgFx系バッテリと一致している。実施例2のAlF3研究と同様に、最も高いLiF含有量の組成物は、最も高い電気化学的有用性を示した。図5のポテンショダイナミックスイープはまた、BaF2修飾フッ化物組成物が大きな電気化学的有用性を実証したことを示す。続くサイクルは、組成物のサイクル安定性が優れていることを示す。
【0098】
図6は、5Vの定電流で充電し、次に10nAの定電流で放電させたセルについての代表的な放電プロファイルを示す電圧対時間(時間)のプロットである。有用な電圧でバッテリからかなりの容量が得られる。
【0099】
実施例4:様々なガラス形成剤の比較
図7は、0.143MeFx−0.428LiF−0.428CaF2(Me=Al、Hf及びZr)の組成物のポテンショダイナミック応答を比較した電流(mA)対セル電圧のプロットである。3種類の組成物の全てが非晶質膜となった。正電極及び負電極の両方の反応性集電体の上への堆積後、3種類の膜の全てで大きな電気化学的活性及び良好な可逆性が得られた。図8は、0.143MeFx−0.714LiF−0.143CaF2(Me=Al、Hf及びZr)の組成物のポテンショダイナミック応答を比較した電流(mA)対セル電圧のプロットである。3つの例に関し、最高の電気化学的有用性は、AlF3ガラス形成剤を利用した組成物について観察された。しかしながら、LiF組成を0.143MeFx−0.714LiF−0.143CaF2に上昇させると、図8は、ZrF4ガラス形成剤に関して最高の電気化学的有用性が観察されることを示す。
【0100】
理論によって拘束されるものではないが、ZrF4組成物から最高の性能が得られたのは、このような組成物がLi+及びF-の形態で最も速い2種イオン伝導性を示すからであると考えられる。理論によって拘束されるものではないが、組成物が網目形成剤の電気化学的分解に対して安定である限り、より速い伝導性を示す組成物によってより一層改善された性能が得られると考えられる。このような組成物はフルオロボレート及びフルオロホスフェートにも拡大され得る。これらの組成物は良好な電気化学安定性を示すはずだからである。
【0101】
印加された電気化学ポテンシャルに対して不安定な2種イオン伝導組成物も利用され得る。このような概念の範囲内で、ガラス形成剤又は修飾剤を酸化又は還元してそれぞれ正電極又は負電極の一部にし得る。例えば、AlF3ガラス形成剤は負電極での還元によりAlを形成し得て、次にこれが完全なセル形成時にリチウムにとっての合金化剤として機能する。このような応用例においては、正電極と負電極との間で非晶質フッ化物の組成に勾配があることが好ましい。図2Bは、2種イオン伝導非晶質被覆反応性正電極及び非水性Li+伝導電解質の取り込みを利用した記載の発明の一実施形態の概略図である。この実施形態において、非水性液体電解質は負極反応性集電体と非晶質2種イオン伝導電解質被覆正極反応性集電体との間に置かれる(図2Bを参照のこと)。加えて、非水性液体電解質は、正極反応性集電体と非晶質2種イオン電解質被覆負極反応性集電体との間に置かれる。非水性電解質には、以下に限定するものでないが、環式(プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート)並びに非環式(ジエチルカーボネート、ジメチルカーボネート)カーボネート、エーテル、ボラン(トリス(ペンタフルオロフェニル)ボラン)及びニトリル(アセトニトリル、メトキシプロピルニトリル、アジポニトリル)を含む様々な有機溶媒中のリチウム塩(LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiF等)が含まれる。更に、そのような自己形成セルに関して2種イオン伝導性要件を示すフッ化物組成物は、溶融フッ化物塩(イオン液体)の形態にもなり得る。
【0102】
実施例5:2成分LiF含有組成物の例
図9は電気化学的に形成されたセルの一実施形態の概略図である。LiF:ZrF4の2成分組成物は、2つの銀反応性集電体の間に置かれる。次に、セルを電気的に分極させることによって、負極反応性集電体に向かってのLi+イオン拡散を誘起し、負極反応性集電体でLi+イオンは還元されてLixAg合金を形成する。併発反応において、F-イオンは正電極に向かって拡散し、酸化反応を通じてフッ化銀を形成する。その後、セルを放電させて開始成分を復旧させ得る。
【0103】
図10は、堆積させたxZrF4:(1−x)LiFフィルム(x=0.11、0.14及び0.2)のXRDパターンを表す強度(任意単位)対2θのプロットである。極めて少量のZrF4ガラス形成剤しか存在していないにも関わらず、膜が非晶質組成物として堆積する。図11は、5Vで極めて短く1時間充電した後の2成分組成物(ZrF4:LiF)の10nA放電を表すセル電圧対容量(mAh)のプロットである。図11の放電プロファイルから、LiFが最大量のサンプルが最も高い電気化学的活性を有していたことがわかる。
【0104】
以下の例において、特に記載がない限り、インシチュで形成されるセルの典型的な充電/形成プロトコルは200nAから4.75Vであり、その後は電流が約10nAに減衰するまで4.75Vに保持された定電圧であった。続いて10nAを最小電流として様々な電流の放電を行う。以下の全ての実施例で90LiF10ZrF4から成る非晶質2種イオン伝導体組成物を利用していて、以下のインターディジタルアレイの上に1ミクロンの膜として堆積された。セル構造は全て、図1A及び図1Cの概略図によって表わされる上記のインターディジタルセルのものと同じである。特に記載がない限り、負電極の櫛歯は厚さ約500nmのBi金属である。同じ厚さを正電極にも利用した。
【0105】
実施例6:正電極メタライゼーションコンポジットの例:Bi+Ca
Bi−Ca合金正極反応性集電体を、以下の表2に記載されるような様々な比で堆積させた。
【0106】
【表2】
【0107】
図12は、堆積Bi合金におけるCa置換の関数としての200nA形成充電を表す電圧対容量(mAh)のプロットである。Bi−Ca合金正極反応性集電体が、表2に記載されるような様々な比で堆積された。データは、定電流電圧プロファイル及び得られる形成容量における大幅な改善並びに続く放電容量が適切な量のCa添加で実現され得ることを示す。これは、異種の反応性集電体の使用が有利になり得ることを示す。理論によって拘束されるものでないが、インシチュで形成された電極はカルシウム置換フッ化ビスマスになり得て、改善されたF-拡散を有し得る。
【0108】
実施例7:正電極メタライゼーションコンポジットの例:Bi+Ag
Bi−Ag合金正極反応性集電体を、表3に記載されるような様々な比で堆積させた。
【0109】
【表3】
【0110】
図13は、堆積Bi合金におけるAg置換の関数としての200nA形成充電を表す電圧対容量(mAh)のプロットであり、Bi−Ag合金正極反応性集電体は、表3に記載されるような様々な比で堆積された。データは、定電流電圧プロファイル及び得られる形成容量における大幅な改善並びに続く放電容量が、適切な量のAg添加で実現され得ることを示す。これは、異種の反応性集電体の使用が有利になり得ることを示す。理論によって拘束されるものでないが、インシチュで形成された電極は銀置換フッ化ビスマスになり得て、改善されたF-拡散を有し得る。加えて、高伝導性の銀は、形成及び続く充電反応中に電子が反応域から拡散するための速い輸送経路として機能し得る。
【0111】
実施例8:正電極金属+非金属コンポジットの例:Bi+KF
Bi−KF合金正極反応性集電体を、表4に記載されるような様々な比で堆積させた。
【0112】
【表4】
【0113】
87.5Bi及び12.5KFの混合正極反応性集電体を作製した。図14は、堆積Bi合金におけるKF置換の関数としての200nA形成充電を表す電圧対容量(mAh)のプロットである。Bi−KF合金正極反応性集電体は、表4に記載されるような様々な比で堆積された。データは、定電流電圧プロファイル及び得られる形成容量における大幅な改善並びに続く放電容量が、KF添加で実現され得ることを示す(図14を参照のこと)。これは、金属/無機化合物コンポジットの使用が本発明の電気化学的活性に有益になり得ることを示す。
【0114】
実施例9:様々な負及び正電極メタライゼーションコンポジットの例
様々な負極/正極集電体対を厚さ500nmで堆積することによって、記載の発明の得られる電気化学的性質に関する、選択された化学反応の柔軟性及び影響を実証した。セルを、連続的により長時間にわたって5Vで充電/形成し、各期間後に10nAで放電した。得られた放電曲線を図15に示す。図15Aは、連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したBi負極/Bi正極集電体対の電圧対時間(時間)のプロットである。図15Bは、連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したAg負極/Ag正極集電体対の電圧対時間(時間)のプロットである。図15Cは、連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したAg負極/Bi正極集電体対の電圧対時間(時間)のプロットである。図15Dは、連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したTi負極/Bi正極集電体対の電圧対時間(時間)のプロットである。これらのデータからわかるように、集電体対の選択は、セルの平均電圧及び電気化学的利用にはっきりとした影響を及ぼす。Ag及びTi負極集電体の両方の使用によってBiの場合より高い電圧が得られることが判明した。理論によって拘束されるものでないが、これはのちに形成されるセルにおけるTi上にめっきされたLi、Li−Ag合金及びLi−Biの予測される電圧と一致する。
【0115】
図16(図15のBi/Bi対に関する蓄積電荷及び放電容量をまとめたもの)は、連続的なより長時間にわたるセル形成後の約90:1の非晶質LiF−ZrF4組成物を利用したBi負極/Bi正極集電体対の(i)充電容量(mAh)対時間(時間)、(ii)放電容量(mAh)対時間(時間)のプロットである。各サイクルについて蓄積電荷と放電容量との間で優れた調和を見ることができ、本発明に優れた可逆性及び続く放電中の電荷電流の効率的な利用が見られることを示す。
【0116】
記載の発明を、その特定の実施形態に言及しながら説明してきたが、本発明の真の精神及び範囲から逸脱することなく様々な変更を加え、また同等物での置き換えを行い得ることが当業者によって理解されるべきである。加えて、多くの改変を加えて特定の状況、材料、物質の組成、工程、工程ステップを記載の発明の目的、精神及び範囲に適合させ得る。このような改変は全て、本明細書に添付の請求項の範囲内にあると意図される。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
電子絶縁非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体組成物であって、
電位を印加すると
(a)負電極、及び
(b)正電極、
を形成する金属フッ化物コンポジットを含み、前記負電極及び前記正電極がインシチュで形成されることを特徴とする組成物。
【請求項2】
電荷キャリアとしてのイオンで導電する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記導電イオンがカチオン及びアニオンである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アニオンがフッ化物イオンである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記カチオンがアルカリ金属である、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記アルカリ金属がリチウムである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
非晶質イオン伝導体組成物がガラス形成剤を更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ガラス形成剤がフッ化物である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記ガラス形成剤が、AlF3、ZrF4、GaF3、HfF4、YbF3、ThF3、ZnF2、InF3、ZbF2、UF3及びYF3から成る群から選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
非晶質イオン伝導体組成物がフッ化物ガラス網目修飾剤を更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記フッ化物ガラス網目修飾剤が、既知のフッ化物伝導体である又はフッ化物伝導性に寄与する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記ガラス網目修飾剤が、LaF3、BiF3、PbF2、KF、CaF2、BaF2、SnF2、SrF2又は希土類金属フッ化物から成る群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記リチウムが、既知のリチウムイオン伝導体を更に含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項14】
前記リチウムがLiFである、請求項6に記載の組成物。
【請求項15】
前記正電極が、正極集電体との反応によって形成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記正極反応性集電体が、Ag、Au、Bi、Pb、Sn、Cu、Pt、Pd、Fe、Mn、Ni、Mo、V又はこれらの組み合わせのうちの少なくとも1種を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記正極反応性集電体が、La、Ca、Ba、Sr、O及びSのうちの少なくとも1種を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記正極集電体が炭素から成る、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
前記炭素が、カーボンナノチューブ又はグラフェンから選択される炭素である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記負電極が、負極集電体との反応によって形成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
前記反応性負極集電体が、Ag、In、Al、Si、Sn、Ge、Mg、Au、Pd、Bi、Pb、黒鉛、カーボンナノチューブ及びグラフェンのうちの少なくとも1種を含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記伝導体が、組成物の一部の電気化学的な酸化による正電極の形成又は電気化学的な還元による負電極の形成を可能にする組成傾斜材料として形成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項23】
非水性液体電極が、負極反応性集電体と非晶質固体2種イオン伝導電解質被覆された正極反応性集電体との間に置かれる、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
非水性液体電解質が、正極反応性集電体と固体2種イオン電解質被覆された負極反応性集電体との間に置かれる、請求項22に記載の組成物。
【請求項1】
電子絶縁非晶質又はナノ結晶混合イオン伝導体組成物であって、
電位を印加すると
(a)負電極、及び
(b)正電極、
を形成する金属フッ化物コンポジットを含み、前記負電極及び前記正電極がインシチュで形成されることを特徴とする組成物。
【請求項2】
電荷キャリアとしてのイオンで導電する、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記導電イオンがカチオン及びアニオンである、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
前記アニオンがフッ化物イオンである、請求項3に記載の組成物。
【請求項5】
前記カチオンがアルカリ金属である、請求項3に記載の組成物。
【請求項6】
前記アルカリ金属がリチウムである、請求項5に記載の組成物。
【請求項7】
非晶質イオン伝導体組成物がガラス形成剤を更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項8】
前記ガラス形成剤がフッ化物である、請求項7に記載の組成物。
【請求項9】
前記ガラス形成剤が、AlF3、ZrF4、GaF3、HfF4、YbF3、ThF3、ZnF2、InF3、ZbF2、UF3及びYF3から成る群から選択される、請求項7に記載の組成物。
【請求項10】
非晶質イオン伝導体組成物がフッ化物ガラス網目修飾剤を更に含む、請求項1〜4のいずれか1項に記載の組成物。
【請求項11】
前記フッ化物ガラス網目修飾剤が、既知のフッ化物伝導体である又はフッ化物伝導性に寄与する、請求項10に記載の組成物。
【請求項12】
前記ガラス網目修飾剤が、LaF3、BiF3、PbF2、KF、CaF2、BaF2、SnF2、SrF2又は希土類金属フッ化物から成る群から選択される、請求項10に記載の組成物。
【請求項13】
前記リチウムが、既知のリチウムイオン伝導体を更に含む、請求項6に記載の組成物。
【請求項14】
前記リチウムがLiFである、請求項6に記載の組成物。
【請求項15】
前記正電極が、正極集電体との反応によって形成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項16】
前記正極反応性集電体が、Ag、Au、Bi、Pb、Sn、Cu、Pt、Pd、Fe、Mn、Ni、Mo、V又はこれらの組み合わせのうちの少なくとも1種を含む、請求項15に記載の組成物。
【請求項17】
前記正極反応性集電体が、La、Ca、Ba、Sr、O及びSのうちの少なくとも1種を含む、請求項16に記載の組成物。
【請求項18】
前記正極集電体が炭素から成る、請求項15に記載の組成物。
【請求項19】
前記炭素が、カーボンナノチューブ又はグラフェンから選択される炭素である、請求項18に記載の組成物。
【請求項20】
前記負電極が、負極集電体との反応によって形成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項21】
前記反応性負極集電体が、Ag、In、Al、Si、Sn、Ge、Mg、Au、Pd、Bi、Pb、黒鉛、カーボンナノチューブ及びグラフェンのうちの少なくとも1種を含む、請求項20に記載の組成物。
【請求項22】
前記伝導体が、組成物の一部の電気化学的な酸化による正電極の形成又は電気化学的な還元による負電極の形成を可能にする組成傾斜材料として形成される、請求項1に記載の組成物。
【請求項23】
非水性液体電極が、負極反応性集電体と非晶質固体2種イオン伝導電解質被覆された正極反応性集電体との間に置かれる、請求項22に記載の組成物。
【請求項24】
非水性液体電解質が、正極反応性集電体と固体2種イオン電解質被覆された負極反応性集電体との間に置かれる、請求項22に記載の組成物。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図16】
【図1B】
【図1C】
【図2A】
【図2B】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15A】
【図15B】
【図15C】
【図15D】
【図16】
【公表番号】特表2013−510409(P2013−510409A)
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−538086(P2012−538086)
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/056026
【国際公開番号】WO2011/057263
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(512119838)ラトガース,ザ ステート ユニバーシティー オブ ニュージャージー (1)
【出願人】(512119849)
【出願人】(512119850)
【出願人】(512118897)
【Fターム(参考)】
【公表日】平成25年3月21日(2013.3.21)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年11月9日(2010.11.9)
【国際出願番号】PCT/US2010/056026
【国際公開番号】WO2011/057263
【国際公開日】平成23年5月12日(2011.5.12)
【出願人】(512119838)ラトガース,ザ ステート ユニバーシティー オブ ニュージャージー (1)
【出願人】(512119849)
【出願人】(512119850)
【出願人】(512118897)
【Fターム(参考)】
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