説明

自律移動装置

【課題】自律移動装置において、既知の障害物には所定の離間距離を保って移動し、未知の障害物には所定の離間距離よりも大きい離間距離を保って移動することを可能とする。
【解決手段】自律移動装置10は、障害物候補が地図情報141に含まれている場合には、その障害物侯補が自己の周囲に設定された第1の領域に入らないように移動し、障害物候補が地図情報141に含まれていない場合には、その障害物候補が自己の周囲の第1の領域よりも広い第2の領域に入らないように移動する。ここで、通常の離間距離よりも障害物候補に接近可能となる接近可能領域が設けられている。これにより、自律移動装置10は、壁等の既知の障害物には接近して移動し、人や一時的に置かれた未知の障害物には広めの離間距離を保って移動することが可能となる。また、目標地点が接近可能領域内にある場合には、目標地点付近にある障害物に接近して移動することが可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、人や台車など他の移動体が移動するのと同じ領域において、障害物を検出して移動し、所望の動作を達成する自律移動装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の自律移動装置として、自律移動装置と障害物までの距離をレーザレーダやソナー等の測距型センサや画像を用いて取得し、得られた距離に応じて自律移動装置の走行速度を設定するものが知られている(例えば、特許文献1参照)。特許文献1に示される装置を図13を参照して説明する。同図において、自律移動装置50は、障害物を障害物検出センサで検出し、自律移動装置50の前方のエリアを距離に応じて、停止エリア51、減速エリア52及び予測エリア53の3種類のエリアに分割し、障害物が減速エリア52内に存在する場合は自律移動装置を減速走行させ、障害物が停止エリア51内に存在する場合は停止させ、障害物が減速エリア52内にも停止エリア51内にも存在しない場合は通常の速度で走行させるものである。
【0003】
また、自律移動装置が、障害物が移動物体であるか静止物体であるかを判別し、判別結果によって走行を停止すべき障害物までの距離を変更させる方法が知られている(例えば、特許文献2参照)。特許文献2に示される装置を図14を参照して説明する。図14(a)に示すように、障害物が静止物体55(例えば、壁)であると判別された場合は、自律移動装置54は、走行を停止すべき障害物までの距離の閾値をD1に減少させる。一方、図14(b)に示すように、障害物が移動物体56(例えば、人)であると判別された場合は、自律移動装置54は、前記閾値をD2に増大させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−229645号公報
【特許文献2】特開2006−293662号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
自律移動装置が壁などに沿って移動する場合、既知の壁にはより接近して移動させ、通路上に置かれた障害物などからは一定の距離を保って移動させたい。しかし、特許文献1に示される装置では、対象物体に関わらず自律移動装置50からの距離に応じて減速エリア52、停止エリア51が設定されるため、上記の動作を実現することはできない。
【0006】
また特許文献2に示される装置においても、自律移動装置54が対象物体を静止物体55であるか移動物体56であるかで判断して接近する距離を設定しているため、接近してもよい対象物体へは接近させ、接近させたくない対象物体には接近させないといった動作を実現することはできない。例えば、人が動かずにいた場合、自律移動装置は人に接近するため、人の後ろから自律移動装置が接近した場合危険である。
【0007】
本発明は、上記従来の問題を解決するためになされたもので、壁などの既知の物体へは通常設定される離間距離より接近して移動をすることが可能となり、人や未知の障害物などへは所定の離間距離を保って移動することが可能となる自律移動装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記目的を達成するために、請求項1の発明は、移動領域の地図情報を記憶した記憶部と、自己の位置情報を取得する位置情報取得手段と、自己の周囲の障害物侯補を検出して障害物侯補位置情報を取得する環境情報取得手段と、自己を移動させる移動手段と、前記地図情報に基づいて目標地点まで移動するように前記移動手段を制御する移動制御手段と、を備える自律移動装置であって、前記障害物候補が前記地図情報に含まれるかを判断する障害物判断部をさらに備え、前記移動制御手段は、前記障害物候補が前記地図情報に含まれる場合には自己の周囲に設定されている第1の領域に前記障害物侯補が入らないように前記移動手段を制御し、前記障害物候補が前記地図情報に含まれない場合には自己の周囲の前記第1の領域よりも広い第2の領域に前記障害物候補が入らないように前記移動手段を制御し、前記地図情報は、自律移動装置が障害物候補に対して通常設定されている離間距離よりも接近可能となる接近可能領域を含み、前記移動制御手段は、前記目標地点が前記接近可能領域内である場合には、前記第2の領域を通常設定される第2の領域よりも狭くするものである。なお、障害物候補とは、センサによって取得した前記自律移動装置周囲の環境情報のことを指す。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、自律移動装置は、地図情報に含まれる物に対しては、地図情報に含まれない障害物よりも接近して移動することができる。例えば、自律移動装置は壁などには接近して移動することができ、一方、人や一時的に置かれた障害物には広めの距離を保って移動することができる。また、例えば、目標地点付近に障害物があった場合でも、障害物に接近して移動することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の前提となる第1形態に係る自律移動装置の機能ブロック図。
【図2】同装置の地図情報に基づく移動制御の説明図。
【図3】同装置の周囲に領域を設定する移動方式の説明図。
【図4】障害物の周囲に領域を設定する移動方式の説明図。
【図5】同装置の制御フロー図。
【図6】同装置の自己の位置情報の説明図。
【図7】同装置のセンサ構成例の説明図。
【図8】同装置における環境情報取得の説明図。
【図9】同装置における障害物候補位置情報取得の説明図。
【図10】同装置における障害物位置情報が地図情報に含まれることを判断の説明図。
【図11】本発明の前提となる第2形態に係る自律移動装置における障害物候補位置と地図情報の一致度合いの説明図。
【図12】本発明の実施形態に係る自律移動装置における接近可能領域の説明図。
【図13】従来の自律移動装置における距離に応じた走行速度変更の説明図。
【図14】従来の自律移動装置における障害物の違いによる停止距離の変更の説明図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の前提となる第1形態に係る自律移動装置について図面を参照して説明する。図1は、自律移動装置10の機能構成を示す。自律移動装置10は、自己を制御するためのコンピュータなどからなる制御部11と、自己の周囲の障害物候補を検出して障害物候補位置情報を取得するためのセンサなどからなる環境情報取得手段12と、自己を移動させるための車輪及び駆動用モータからなる移動手段13を備える。制御部11は、地図情報141と障害物候補位置情報142と走行条件143とを記憶する記憶部14と、自己の位置情報を取得する位置情報取得手段15と、障害物候補が地図情報141に含まれるかを判断する障害物判断部16と、移動手段13を制御する移動制御手段17を備える。さらに、自律移動装置10は、制御部11、環境情報取得手段12、移動手段13へ電力を供給する電池18を備える。
【0012】
このような自律移動装置の制御部11による地図情報に基づく移動制御を図2を参照して説明する。図2(a)において、環境情報取得手段12が検出した障害物候補20が、あらかじめ記憶部14に記憶している地図情報141に含まれると障害物判断部16が判断した場合、自律移動装置10の周囲に設定されている第1の領域21に障害物候補20が入らないように移動制御手段17が移動手段13を制御する。第1の領域21は、自律移動装置が障害物候補20により接近することが可能になるように設定され、自律移動装置10は壁などにより接近して移動することができる。図2(b)において、障害物候補22が地図情報141に含まれないと障害物判断部16が判断した場合、自律移動装置10の周囲の第2の領域23に障害物候補22が入らないように移動手段13が制御される。第2の領域23は、第1の領域21よりも広く設定され、自律移動装置10は、人や障害物とは所定の離間距離を保って移動するよう制御される。
【0013】
図3は、自律移動装置10の進行方向前部に取り付けられ、平面をスキャンして周囲の障害物までの距離情報を得るレーザレンジファインダを環境情報取得手段12とした例である。図3(a)において、環境情報取得手段12が検出した障害物候補20が、予め記憶部14に記憶している地図情報141に含まれると障害物判断部16が判断した場合、自律移動装置10の障害物検知領域のうち障害物候補20が入らないように移動制御手段17が移動手段13を制御する領域を第1の領域21とする。図3(b)において、障害物候補22が地図情報141に含まれないと障害物判断部16が判断した場合、自律移動装置10の障害物検知領域のうち障害物候補22が入らないように移動制御手段17が移動手段13を制御する領域を第1の領域21よりも広く設定された第2の領域23とする。このようにすると、目的地に向かう際、予め地図情報に記憶された壁などには接近して移動することができ、狭い場所での通行も可能となる。一方、地図情報に記憶されていない人や障害物とは所定の距離を保って移動するよう制御される。
【0014】
なお、2点間の距離はどちらの点を起点にしても同じであるので、自律移動装置10は、自己を起点とする障害物候補までの離隔距離を保つ代わりに、障害物候補を起点とする自己までの離隔距離を保って移動してもよい。図4(a)において、環境情報取得手段12が検出した障害物候補20が、予め記憶部14に記憶している地図情報141に含まれると障害物判断部16が判断した場合、障害物候補20の周囲の第1の領域21に自律移動装置10が入らないように移動制御手段17が移動手段13を制御する。図3(b)において、障害物候補22が地図情報141に含まれないと障害物判断部16が判断した場合、障害物候補22の周囲の第1の領域21よりも広く設定された第2の領域23に自律移動装置10が入らないように移動制御手段17が移動手段13を制御する。
【0015】
自律移動装置10の制御フローを図5を参照して説明する。自律移動装置10は目標地点が設定されると、制御部11は、その目標地点を記憶部14に記憶する(S501)。次に、制御部11は、環境情報取得手段12が取得しした環境情報のうち地図情報との照合ができた場合はその照合情報と、少なくともデッドレコニングにより位置情報取得手段15は自己位置の取得を行う(S502)。自己の位置が取得されると、取得した環境情報を障害物候補位置情報142として記憶部14に記憶する(S503)。制御部11は、地図情報141、障害物候補位置情報142、走行条件143、自律移動装置10の自己の位置情報を参照して、移動方向の決定を行う(S504)。移動方向の決定は、目標地点に向かって移動する際に、予め設定した領域(図3では21や23)に障害物候補20が入らないように、かつ、目的位置に向かって進路の変更が少ない方向を移動方向とする。この移動方向に向かって、例えば、特許3879860号に記載の方法を用いることにより走行速度が決定され(S506)、制御部11は決定した走行方向と速度で自律移動装置10が移動するように、移動制御手段17で移動手段13を制御する。
【0016】
制御部11は、上記のステップS502からステップS506までの制御を繰り返して自律移動装置10が目標地点へ到達する。目標地点は、座標データと停止角度の情報を有し、制御部11は、目標地点へ到着したかどうかの判定は、自律移動装置10の座標と目標地点の座標との差、および自律移動装置10の向きと目標地点の停止角度との差が所定の値以内であるかを判断することにより行われる(S507)。
【0017】
自己位置情報について、図6を参照して説明する。図6に示すように、移動する環境における自律移動装置10の自己の位置情報は、座標(x_Robot, y_Robot)と向きαである。自己の位置情報は、車輪の累積の回転角度から算出するか、ジャイロを搭載して取得する。また、地図情報141を参照して自己の位置を補正した後の位置を自己の位置情報として記憶することもできる。
【0018】
障害物候補位置情報142の取得について、図7乃至図9を参照して説明する。図7に示すように、環境情報取得手段12は、自律移動装置10の設置された距離センサを用いて環境情報を取得する。距離センサとしては、例えば、複数の超音波センサや赤外線センサを用いることができ、2次元の平面をスキャンするレーザレンジファインダを用いてもよい。図8において、環境情報は、自律移動装置10の前方の検出角度と長さLength(k) (k=1〜n)をセットとして取得される。図9において、障害物24の障害物候補位置情報142は、移動する環境における大局的な絶対位置の座標(X,Y)として取得される。
【0019】
次に、本発明の前提となる第2形態に係る自律移動装置について説明する。前述の第1形態では、障害物候補位置情報142が地図情報141に含まれれば、自律移動装置10は、障害物検知領域のうち第1の領域に前記障害物候補位置情報142が入らないように移動制御し、障害物候補位置情報142が地図情報141に含まれなければ、自律移動装置10は、障害物検知領域のうち第1の領域よりも広い第2の領域に前記障害物候補位置情報142が入らないように移動制御した。障害物候補位置142が情報が地図情報141に含まれるとは、例えば図10に示すように、取得された障害物候補位置142が地図情報141に記憶された壁情報の線分43から一定距離以内であることを意味する。本第2形態では、障害物候補位置と壁情報の一致度合いに応じて障害物候補位置情報142が入らないように移動制御する領域の大きさを設定する。ここでは、障害物候補位置情報142をある線分(障害物候補位置情報142より取得した線分情報を以下ラインセグメントと呼ぶ)とみなし、そのラインセグメントと地図情報141に記載の壁情報の一致度合いにより領域の大きさを設定する方法について述べる。障害物候補位置情報142よりラインセグメントを取得する方法は、例えば下記文献に記載のアルゴリズムを用いることができる。
Li Zhang & Bijoy K. Ghosh:Line Segment Based Map Building and Localization Using 2D Laser Rangefinder, IEEE Int. Conf. on Robotics and Automation, pp2538-2543, 2000
【0020】
図11において、ラインセグメントを取得すると、ラインセグメントに最寄の地図上の壁を検索し、その壁との角度差(角度差a)を求め、その後その角度差分だけ回転させた後のラインセグメントと壁との距離(線分間距離b)を求める。それらの数値を用いて、領域の半径をRとすると、Rは例えば以下の式により求めることができる。
R=R0+a×a1+b×b1
R0:ラインセグメントと地図上の壁45が一致するときの領域の半径
a1,b1:補正量
(ただし、aもしくはbが一定値以上の場合は、領域には第2の領域を設定する。)
【0021】
表1は、地図情報に含まれる壁情報のテーブルであり、壁情報の各レコードには、壁の始点x座標、始点y座標、終点x座標、終点y座標、壁の向きのデータが含まれる。
【表1】

【0022】
本第2形態によれば、自律移動装置10は、自己位置の認識のずれなどによって、障害物候補位置を障害物と判断することがあっても、障害物候補から過度に離れることなく、障害物候補と地図情報に含まれるものとの一致度合いに応じた接近度合いにすることができる。
【0023】
次に、本発明の実施形態に係る自律移動装置について図12を参照して説明する。本実施形態では、接近可能領域46を地図情報141に含む。接近可能領域46とは、自律移動装置10が障害物候補に対して通常設定されている離間距離よりも接近可能となる領域であり、領域を囲む直線の座標などで設定される。自律移動装置10は、接近可能領域46の中の目標地点に移動する場合には、第2の領域を通常設定される第2の領域よりも狭い領域に設定する。例えば、自律移動装置10の停留場所が常に確保されている環境では、停留場所に障害物があったとしても障害物に接近することが可能である。本実施形態によれば、自律移動装置10が壁48付近に設定された目的地(目的地2)に接近することが可能となる。
【0024】
なお、本発明は、上記実施形態並びにその前提となる第1形態及び第2形態の構成に限られず、発明の要旨を変更しない範囲で種々の変形が可能である。例えば、上記実施形態において、接近可能領域の設定は直線での設定に限られず、曲線(例えば、円)を用いて設定することも可能である。
【符号の説明】
【0025】
10 自律移動装置
11 制御部
12 環境情報取得手段
13 移動手段
14 記憶部
141 地図情報
142 障害物候補位置情報
143 走行条件
15 位置情報取得手段
16 障害物判断部
17 移動制御手段
18 電池
21 第1の領域
23 第2の領域
46 接近可能領域

【特許請求の範囲】
【請求項1】
移動領域の地図情報を記憶した記憶部と、
自己の位置情報を取得する位置情報取得手段と、
自己の周囲の障害物侯補を検出して障害物侯補位置情報を取得する環境情報取得手段と、
自己を移動させる移動手段と、
前記地図情報に基づいて目標地点まで移動するように前記移動手段を制御する移動制御手段と、を備える自律移動装置であって、
前記障害物候補が前記地図情報に含まれるかを判断する障害物判断部をさらに備え、
前記移動制御手段は、前記障害物候補が前記地図情報に含まれる場合には自己の周囲に設定されている第1の領域に前記障害物侯補が入らないように前記移動手段を制御し、
前記障害物候補が前記地図情報に含まれない場合には自己の周囲の前記第1の領域よりも広い第2の領域に前記障害物候補が入らないように前記移動手段を制御し、
前記地図情報は、自律移動装置が障害物候補に対して通常設定されている離間距離よりも接近可能となる接近可能領域を含み、
前記移動制御手段は、前記目標地点が前記接近可能領域内である場合には、前記第2の領域を通常設定される第2の領域よりも狭くすることを特徴とする自律移動装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【公開番号】特開2012−168990(P2012−168990A)
【公開日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−132082(P2012−132082)
【出願日】平成24年6月11日(2012.6.11)
【分割の表示】特願2007−247242(P2007−247242)の分割
【原出願日】平成19年9月25日(2007.9.25)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】