説明

自浄性透光板及び屋外工作物

【課題】簡便な作業にてポリカーボネート樹脂の上に自浄性塗膜層が形成された自浄性透光板及び屋外工作物を提供する。
【解決手段】基材2上に自浄性塗膜層1が形成されることで自浄性が備えられるが、基材2に塗料組成物に含まれる溶媒に60秒浸漬した後に、JIS−K7105のプラスチックの光学的特性試験方法に基づくヘーズが40%以下となるものを用いていることで、基材2表面に直接自浄性塗膜層1を形成しても十分な密着性が確保されるようになり、簡便な作業にてポリカーボネート樹脂の上に自浄性塗膜層1が形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリカーボネート樹脂上に自浄性塗膜層を形成した自浄性透光板及び屋外工作物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリカーボネート樹脂は、透明性が高く、且つ耐衝撃性が高く、着火しても自消する等優れた種々の特性を備えることから、様々な用途に用いられてきている。
【0003】
しかし、ポリカーボネート樹脂はそのまま用いた場合には汚染物質の付着が甚だしく、短期間で透明性が失われる恐れがある。そこで汚染物質が雨水等により洗い流されるように、外面に光触媒含有層等の透明な親水性薄膜を形成し自浄性を具備させたものが用いられるが、その中でも低コストで自浄性を具備させることができるものとして、例えば透明プライマー層の上にオルガノシリケート及び/又はその部分加水分解物からなるオルガノシリケート化合物を加水分解触媒の存在化に加水分解して得られたオルガノシリケートの加水分解物を含むコーティング組成物を塗布して形成された透明表面防汚層を有する表面処理透明樹脂成形品が開示されている(例えば特許文献1)。
【0004】
【特許文献1】特開2004−9503号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載のような従来の自浄性透光体は、ポリカーボネート樹脂からなる基材と自浄性塗膜層との間に密着性を確保するためにプライマー層が必要であり、少なくとも2回のコーティング作業が必要となり、コスト高になると共に、作業が繁雑なものとなっていた。
【0006】
本発明は上記の如き課題に鑑みてなされたものであり、簡便な作業にてポリカーボネート樹脂の上に自浄性塗膜層が形成された自浄性透光板及び屋外工作物を提供せんとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明は以下のような構成としている。すなわち、本発明に係わる自浄性透光板は、ポリカーボネート樹脂からなる基材の表面に少なくとも親水化剤および紫外線吸収剤を含む無色透明のフッ素系塗膜である自浄性塗膜層が直接形成されたものであって、該基材として、前記自浄性塗膜層を形成する塗料組成物に含まれる溶媒に60秒浸漬した後に、JIS−K7105のプラスチックの光学的特性試験方法に基づくヘーズが40%以下となるものを用いていることを特徴とするものである。
【0008】
本発明に係わる自浄性透光板によれば、自浄性塗膜層が形成されることで自浄性が備えられるが、基材に塗料組成物に含まれる溶媒に60秒浸漬した後に、JIS−K7105のプラスチックの光学的特性試験方法に基づくヘーズが40%以下となるものを用いていることで、基材表面に直接自浄性塗膜層を形成しても十分な密着性が確保されるようになり、簡便な作業にてポリカーボネート樹脂の上に自浄性塗膜層が形成できる。
【0009】
基材として、塗料組成物に含まれる溶媒に60秒浸漬した後に、JIS−K7105のプラスチックの光学的特性試験方法に基づくヘーズが40%以下となるものを用いることで十分な密着性が確保される要因は明確ではないが、塗料組成物の塗布時に塗料組成物に含まれる溶媒が基材表面を融解させることで表面に濁りが生じるが、その濁りの度合いが小さい、すなわち溶媒に融解しにくい表面を備えた基材を用いることで、溶媒に侵された部分と共に自浄性塗膜層が基材から外れることが防止されて密着性が確保されることが考えられる。
【0010】
また前記フッ素系塗膜は、フルオロオレフィンとビニルエーテルとの共重合体をベース樹脂とするものであれば、高い耐候性を備えつつ、溶剤への可溶性や透明性、硬度、基材への密着性、可撓性等の有益な特性が発現されるようにでき好ましい。
【0011】
また本発明に係わる屋外工作物は、本発明請求項1又は2に記載の自浄性透光板を主要部分若しくは一部分に用いていることを特徴とするものである。
【0012】
本発明に係わる屋外工作物によれば、自浄性透光板によって透光性で自浄性が容易に備えることができ、汚染に対するメンテナンスの手間を軽減できると共に、形成時においてはコスト面や作業面等で高い利点を得られるものとできる。
【発明の効果】
【0013】
本発明に係わる自浄性透光板によれば、自浄性塗膜層が形成されることで自浄性が備えられるが、基材に塗料組成物に含まれる溶媒に60秒浸漬した後に、JIS−K7105のプラスチックの光学的特性試験方法に基づくヘーズが40%以下となるものを用いていることで、基材表面に直接自浄性塗膜層を形成しても十分な密着性が確保されるようになり、簡便な作業にてポリカーボネート樹脂の上に自浄性塗膜層が形成できる。
【0014】
また本発明に係わる屋外工作物によれば、自浄性透光板によって透光性で自浄性が容易に備えることができ、汚染に対するメンテナンスの手間を軽減できると共に、形成時においてはコスト面や作業面等で高い利点を得られるものとできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明に係わる最良の実施の形態について、図面に基づき以下に具体的に説明する。
【0016】
図1は、本発明に係わる自浄性透光板の、実施の一形態を示す断面図である。ポリカーボネート樹脂からなる板状の基材2の両面に自浄性塗膜層1が設けられることで自浄性透光板10が形成されている。基材2と自浄性塗膜層1との間にはプライマー層等の介在はなされず、ポリカーボネート樹脂の表面に直接自浄性塗膜層1が形成されている。基材2は、自浄性塗膜層1を形成する塗料組成物に含まれる溶媒の内、少なくとも1つに60秒浸漬した後に、JIS−K7105のプラスチックの光学的特性試験方法に基づくヘーズが40%以下となるものが用いられている。
【0017】
自浄性塗膜層1は、少なくとも親水化剤および紫外線吸収剤を含む無色透明のフッ素系塗膜であり、そのフッ素系塗膜に用いられるフッ素樹脂は特に限定されるものではないが、フルオロオレフィン−ビニルエーテル共重合体が好ましい。フルオロオレフィンは、例えばテトラフルオロエチレン、クロロトリフルオロエチレン、トリフルオロエチレン、フッ化ビニリデン、ヘキサフルオロプロピレン、ペンタフルオロプロピレン等の炭素数2または3のフルオロオレフィンが用いることができ、特に炭素数2のフルオロエチレン系のものが好ましい。
【0018】
また、フルオロオレフィンに共重合させるビニルエーテルは、例えばエチルビニルエーテル、ブチルビニルエーテル、シクロヘキシルビニルエーテル、フルオロアルキルビニルエーテル、アルキルビニルエーテル等を用いることができる。また、ビニルエーテルのかわりにカルボン酸ビニルエステル、アリルエーテル、カルボン酸アリルエステル、イソプロペニルエーテル、カルボン酸イソプロペニルエステル、メタリルエーテル、カルボン酸メタリルエステル、α−オレフィン、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等を用いることもできる。
【0019】
この共重合体を構成するフルオロオレフィン部により高い耐候性や耐久性が発現されるとともに、ビニルエーテルにエーテル結合された炭化水素基により溶剤への可溶性や透明性、硬度、基材への密着性、可撓性などが発現される。このようなフッ素樹脂の内、とりわけ3フッ素系のフッ化エチレンのビニルエーテル共重合体が耐候性及び塗膜形成性に優れ好ましい。かかるフッ素樹脂としては、例えば旭硝子社製の商品名「ルミフロン」などが挙げられる。
【0020】
また、配合する紫外線吸収剤は、透明性を損なわないものであれば特に限定されるものではないが、例えばトリアジン系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系等があり、これらの中でもトリアジン系紫外線吸収剤が好適である。トリアジン系の紫外線吸収剤は、他のものと比べ低濃度での使用が可能であり、他の樹脂との相溶性が良いため好適に用いることができる。
【0021】
また、親水化剤として、ケイ素化合物、アルミニウム化合物等を用いることができるが、特にシリケート化合物が好適に用いることができる。シリケート化合物は、シリコンアルコキシドの−OH基とアルコールR−OH(Rはアルキル基)が脱水縮合してSi−O−Rとなったものを含む化合物であり、シリケート化合物の一部の−O−R基部分が−OHとなったりすることによって、高い親水性を良好に発揮する。
【0022】
シリケート化合物は、特に限定されるものではないが、例えばメタノール、エタノール、プロパノール、ブタノールなどの低級アルキルアルコールとのシリケート化合物でもよいし、フルオロ基を持ったフルオロアルキルアルコールとのシリケート化合物でもよいし、ハロゲン化アルコールとのシリケート化合物でもよい。また、2価や3価のアルコールとのシリケート化合物でもよく、例えばグリコール系とのシリケート化合物でもよい。
【0023】
また、シリケート化合物はシリカ単量体でも複数重合した多量体であってもよい。またシリケート化合物以外の物質にシリケートが結合しているものでもよい。例えば上記のようなシリケート化合物がフッ素樹脂等に結合したものを用いてもよい。
【0024】
上記に示した紫外線吸収剤や親水化剤、フッ素樹脂を含有した塗料を、透光板に塗装する場合、形成された塗膜はできるだけ平滑に形成されるとよく、具体的には中心線表面粗さRaが3μm以下になるように塗装するとよい。このようにすることで、塗膜への汚染物質の付着を起きにくくすることができ、防汚性が向上する。
【0025】
自浄性塗膜層1を形成するには、特にその塗装方法は限定されるものではなく、ディップ塗装、エアースプレー塗装、エアレススプレー塗装、ロールコーティング、バーコーティグ、フローコーティング、はけ塗り等を用いることができるが、基材の大きさや形状に対応可能なスプレー塗装が好ましく、さらにはエアースプレー塗装が好ましい。
【0026】
本発明に係わる自浄性透光板を、防音壁、トンネル内装板、桁裏面美粧板、高架橋の脚美粧板、道路標識、壁高欄、料金所屋根、料金所窓、ガードレール、柵、視線誘導標、地点標、非常電話、信号機、歩道橋、仕切壁等といった屋外工作物に適用することで、透光性で自浄性が容易に備えることができ、汚染に対するメンテナンスの手間を軽減できると共に、形成時においてはコスト面や作業面等で高い利点を得られるものとできる。
【実施例】
【0027】
(実施例1)
基材として、ポリカーボネート樹脂(三菱エンジニアリングス社製)からなる表面が無処理で5mm厚のものを用い、該基材の表面に直接塗料組成物をスプレー塗装により塗布し、常温で15分養生した後、80℃で1時間乾燥させて厚み約20μmの自浄性塗膜層を形成した。自浄性塗膜層を形成する塗料組成物は、まず主剤としてニューガーメットPCクリヤーDC(フッ素系樹脂ワニス(旭硝子社製、商品名「ルミフロン」)、紫外線吸収剤(ヒドロキシフェニルトリアジン系)、表面処理剤(シリコーン系及び非シリコーン系)を含有する)を用い、硬化剤としてニューガーメットPCクリヤーDC硬化剤(イソシアネート樹脂ワニス、親水化剤(メチルシリケート及びエチルシリケート)、触媒を含有する)を1:1で配合し、メチルイソブチルケトン(MIBK)を含む溶媒を加えて作成したものである。ここで基材は、メチルイソブチルケトン(MIBK)に60秒間浸漬し、浸漬終了後5秒以内に蒸留水で洗浄した場合に、乾燥後にJIS−K7105のプラスチックの光学的特性試験方法の、6.4に規定するヘーズ(曇値)の測定方法に基づいて測定したヘーズが10%となるものを用いている。
【0028】
(実施例2)
基材として、上記MIBK浸漬後の測定でヘーズが37%となるものを用いた以外は実施例1と同じにして、本発明の実施例2に係わる自浄性透明板を得た。
【0029】
(比較例)
基材として、上記MIBK浸漬後の測定でヘーズが44%となるものを用いた以外は実施例1と同じにして、比較例の自浄性透明板を得た。
【0030】
実施例1、2及び比較例の自浄性透明板を、80℃の温水に1時間浸漬した後、JIS−K5600−5−6に規定する付着性(クロスカット法)に基づきカット間隔1mmで密着性の評価を行った。その結果を表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
用いる基材の、ヘーズにおいて、40%を境に自浄性塗膜層の密着性が大きく変化し、ヘーズが37%である実施例2は密着性が良好であったが、ヘーズが44%である比較例は密着性が極めて悪化している。80℃の温水に1時間浸漬した程度で剥離する塗膜は屋外での使用において剥離が発生する恐れが高いことが推定されるから、基材としてヘーズが40%以下となるものを用いない場合では自浄性塗膜層の密着性が確保できないことが明確に示されている。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明に係わる自浄性透光板の、実施の一形態を示す断面図である。
【符号の説明】
【0034】
1 自浄性塗膜層
2 基材
10 自浄性透光板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリカーボネート樹脂からなる基材の表面に少なくとも親水化剤および紫外線吸収剤を含む無色透明のフッ素系塗膜である自浄性塗膜層が直接形成されたものであって、該基材として、前記自浄性塗膜層を形成する塗料組成物に含まれる溶媒に60秒浸漬した後に、JIS−K7105のプラスチックの光学的特性試験方法に基づくヘーズが40%以下となるものを用いていることを特徴とする自浄性透光板。
【請求項2】
前記フッ素系塗膜は、フルオロオレフィンとビニルエーテルとの共重合体をベース樹脂とするものであることを特徴とする請求項1に記載の自浄性透光板。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の自浄性透光板を主要部分若しくは一部分に用いていることを特徴とする屋外工作物。

【図1】
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【公開番号】特開2006−205498(P2006−205498A)
【公開日】平成18年8月10日(2006.8.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−19326(P2005−19326)
【出願日】平成17年1月27日(2005.1.27)
【出願人】(000002462)積水樹脂株式会社 (781)
【Fターム(参考)】