説明

自走型防除機

【課題】従来の防除コントローラは、このコントローラ上の自動散布スイッチを押さなければ、自動モードが選択されない構成であり、オペレータの選択忘れで自動モードで散布作業をしているつもりが、実際は手動散布していたことも度々あり、散布設定と実散布量が大きく異なるという問題があった。
【解決手段】防除コントローラ20上、又は防除コントローラ20の近傍に防除ポンプスイッチ19を設け、防除ポンプ8と複数の散布コックC1〜C3から防除作業を行う自走型防除機において、前記防除ポンプスイッチ19を入り状態にすると共に、機体の発進に基づき前記防除ポンプ8を自動的に駆動して防除作業を開始する制御手段を設けてあることを特徴とする自走型防除機の構成とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、自走しながら圃場の作物に薬液を散布する自走型防除機に関し、農業機械の技術分野に属する。
【背景技術】
【0002】
従来、特許文献1に示すように、薬液を散布する防除装置を制御するコントローラには、ブームスプレーヤのメイン散布ノズルを開閉するスイッチと、散布するブームの数を選択する切替スイッチと、どのブームが散布状態にあるかを表示するランプ群と、散布ノズルの開閉を手動で行うかラジコンで行うかを決めるモード選択スイッチを備えた構成のものが開示されている。
【特許文献1】特開平10−108609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来の防除コントローラは、このコントローラ上の自動散布スイッチを押さなければ、自動モードが選択されない構成であり、オペレータの選択忘れで自動モードで散布作業をしているつもりが、実際は手動散布していたことも度々あり、散布設定と実散布量が大きく異なるという問題があった。
【0004】
この発明はかかる問題点を解消することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
この発明は、上記課題を解決すべく次のような技術的手段を講じた。
すなわち、請求項1記載の本発明は、防除コントローラ(20)上、又は防除コントローラ(20)の近傍に防除ポンプスイッチ(19)を設け、防除ポンプ(8)と複数の散布コック(C1〜C3)から防除作業を行う自走型防除機において、前記防除ポンプスイッチ(19)を入り状態にすると共に、機体の発進に基づき前記防除ポンプ(8)を自動的に駆動して防除作業を開始する制御手段を設けてあることを特徴とする自走型防除機としたものである。
【0006】
防除ポンプ(8)を駆動するための防除ポンプスイッチ(19)を押して入り状態とし、散布レバーや手で直接散布コック(C1〜C3)を任意に開く。そして、機体を発進すると自動的に防除作業が開始される。従って、オペレータが自動と手動の切り替えを行う必要がなくなり、選択忘れによるトラブルの発生を防ぐことができる。
【0007】
請求項2記載の本発明は、請求項1において、前記防除コントローラ(20)上、又は防除コントローラ(20)の近傍に手動モード選択ボタン(29)を設け、該手動モード選択ボタン(29)の入り操作によって手動散布を可能に構成してあることを特徴とする請求項1記載の自走型防除機としたものである。
【0008】
自動散布時に、途中で手動散布したい時には、手動モード選択ボタン(29)を押すだけで手動モードに切り替わり、散布圧を任意に設定して手動散布を行うことができる。例えば、圃場内作物の特に病害虫の発生のひどい区域にのみ散布圧力を高めに設定して手動散布するなど、作物の状況によって即座に対応することができる。
【発明の効果】
【0009】
以上要するに、請求項1の本発明によれば、防除コントローラ(20)上の防除ポンプスイッチ(19)を入り状態として散布コック(C1〜C3)を任意に開き、機体を発進すると自動的に防除作業が開始されるので、オペレータが自動と手動の切り替えをいちいち行う必要がなく、選択忘れによって散布設定と実散布量が大きく異なるといった問題点を解消することができる。また、機体の発進とともに自動的に薬液が散布されるので、散布忘れを防止することができるようになる。
【0010】
請求項2の本発明によれば、請求項1の発明効果を奏するものでありながら、手動散布をしたい時だけ、手動モード選択ボタン(29)を入り状態とすれば手動モードに切り替わるので、散布作業を手動的に行うことができる。従って、例えば、圃場内作物の特に病害虫の発生のひどい区域では、散布圧力を高めに設定して手動散布するなど、作物の状況によって即座に対応することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
この発明の実施例を図面に基づき説明する。
図1及び図2は、乗用型防除機を示すものであり、この車体1の前部にエンジンEを搭載し、このエンジンEの回転動力をミッションケ−ス2内の変速装置に伝え、この変速装置で減速された回転動力を前輪3と後輪4とに伝えるようにしている。機体後部には薬液を収容しているタンク5が設置され、該薬液タンク5の上部に運転席6が、その前方にはステアリングハンドル7が装備されている。薬液タンク5内の薬液は、防除ポンプ8により後述する散布ブ−ム9に設けられた散布ホ−ス10のノズル11から噴出されるようになっている。
【0012】
機体の左右両側には散布ブ−ムを収納支持するためのブーム収納支持枠13,13が立設され、受け具14によって係止保持されるようになっている。
次に、散布ブ−ム9の構成について説明すると、中央の散布ブ−ム(センタブーム)9aは機体の横幅に略一致し、その左右両側に連結される左右散布ブ−ム(サイドブーム)9b,9bは中央のそれよりも長さが長く構成されている。サイドブ−ム9bは、中央のセンターブ−ム9aに対し回動自在に連結され、サイドブ−ム上下シリンダ15により上方へ回動させて収納状態に保持させたり、或いは地面と略平行となる散布作業姿勢状態に回動させて支持させたりすることができる。
【0013】
次に、自走型防除機の車速連動噴霧システムを有したブームスプレーヤ(薬液散布装置)の散布制御装置について説明する。防除コントローラ20、コントローラパネル21及び防除ポンプ8の駆動を入切する防除ポンプスイッチ19や、手動で開閉できる各ブーム9a,9bの散布コックC1,C2,C3等が運転席6の側部に設置される。散布コックC1,C2,C3は散布レバー12L,12C,12Rの操作で開閉する。
【0014】
また、防除コントローラ20を備えたコントローラパネル21には、中央上部のディスプレイ22の左側に上位から散布設定23、圧力24、流量25、流量累計26、形態27等の表示部が表示されていて、ディスプレイ22の左端部に点灯される三角マークによって、このディスプレイに表示されるデータ内容が指示される。ディスプレイ22右側には表示切替手段である表示切替ボタン28が設けられる。また、これらの下方には、手動モード選択ボタン(手動ボタンスイッチ)29が設けられ、このONをパイロットランプ30で表示するようになっている。更に、散布設定ボタンスイッチ31、増減ボタンスイッチ32,33、累計リセットスイッチ34等が配置される。
【0015】
散布制御装置の薬液吸込吐出経路は、薬液タンク5から防除ポンプ8間に至る低圧吸水経路35と、ポンプ8から流量制御弁36を経て各散布ブーム9a,9b間に至る高圧吐水経路37とからなり、ホース等で連結される。高圧吐水経路37には、一定圧以上の液圧を逃がす安全弁38を有した余水戻し経路40が設けられてタンク5に還元できるようになっている。また、このタンク5の底部との間には撹拌経路41が連通されて、一部の薬液をタンク内へ常時噴出還元させて、このタンク5内の薬液を撹拌する。前記流量制御弁36と各ブーム9a,9bへの散布コックC1,C2,C3間における高圧吐水経路37には、この液圧を検出する圧力センサ42と、流量を検出する第1流量センサ43が設けられる。なお、39はエアチャンバである。
【0016】
また、前記低圧吸水経路35には、薬液タンク5とポンプ8との間においてサクションフィルタ44が設けられ、更に、このサクションフィルタ44とポンプ8との間には吸水経路内の流量を検出する第2流量センサ45が設けられる。
【0017】
そして、上記防除コントローラ20には、防除ポンプ8を駆動する防除ポンプスイッチ19を押してスイッチオンし、散布レバー12の開閉操作で散布コックC1〜C3を開き、走行クラッチを入れて機体を前進させると自動的にマイコン防除作業が開始されるように自動散布制御手段が制御プログラム形式で備えられている。そして、この自動散布制御中に途中で手動散布したい時には、手動ボタン29を押すことによって手動モードに切り替え、散布圧を任意に設定することによって手動散布作業が容易に行えるように構成している。
【0018】
また、自動モードで散布作業が開始される自走型防除機において、図6の実施例は、ノズル定数のメモリローテーション例を示すものであるが、ディスプレイ22の内部メモリ内にノズルの種類に対応したノズル定数を設定可能な空メモリ部M(散布設定5)を設けた構成としている。この空メモリ内にはノズル定数によってメモリを新しく記憶設定することができる。
【0019】
図7に示す実施例は、コントローラパネル21のディスプレイ22部にモード表示機能を設けた構成としている。マイコン防除を優先するコントローラにおいては、モードの確認が容易にでき、モード設定や散布の状況を確認できるので、作業ストレスを大きく低減することができる。また、このモード表示機能を作動させる手段として、防除コントローラ上の散布設定ボタンスイッチ32とキースイッチ(エンジン始動用)との操作で「設定モード」に切り替えできるように構成し、キースイッチOFFで再び「散布モード」に切り替わるように構成しておくと、モード設定や散布状況の確認判断が容易にできる。更に、「散布モード」表示で作業開始後、設定された時間内に車速センサからのパルス入力をマイコンが検知すると同時に「散布モード」が「自動モード」に表示されるよう構成しておくと、正常にマイコン防除ができているかどうかがパネル上で容易に確認可能となり、安心して作業を継続することができる。手動ボタン29をONして手動モードを選択した場合には、パネルのディスプレイに「手動モード」を表示することができる。
【0020】
なお、この自動散布モードでの作業中において、所定時間内にパルス信号の検知不可の場合、同時に散布エラーコードが表示されるように構成しておくと、車速センサの異常を素早くオペレータに知らせることで、設定と異なる散布量で散布することがなくなる。また、上記構成において、散布エラーコードの表示のみでは、オペレータが認知できない場合もあるので、散布エラーコードの表示と同時に流量制御弁36を閉じて自動モードでは散布作業が行えないようにすることもできる。但し、手動モードでは散布できるようにすることが望ましく、この場合は、手動モードボタン29をONし、所定の散布圧力を設定して散布する。
【0021】
図8に示す実施例では、散布形態の異なる自動モード散布制御を記憶させたマイコン防除用コントローラにおいて、上記散布モードの表示機能に加えて散布形態の表示機能をも備えた構成としている。車速連動(自動散布)優先型のマイコン防除機にあって、散布形態にかかわらず、手動散布モードを選択しない場合には、常に自動散布モードによる散布が行えるように構成したものである。これによれば、どの散布形態に於いても自動設定の選択忘れが発生しないので、規定通りの散布が行える。散布形態には、例えば、図3に示すような通常ノズル11による作物上方からの散布を可能とする標準散布形態と、図9に示すような通常の上側ノズル11uによる作物上方からの散布と吊り下げノズル11dによる下方からの散布が同時に行える上下散布形態等がある。標準散布の場合には、図8に示す形態27の右側に「標準散布」と表示され、上下散布の場合には、同じく形態27の右側に「上下散布」と表示される。
【0022】
なお、上記いづれの散布形態に於いても、散布開始後、車速センサからのパルス入力があれば、自動モード表示が行われないようにすることもできる。オペレータはその都度散布モードを確認できるので、所定のモードで安心して散布作業を継続することができる。
【0023】
また、自動モードで散布中、車速パルスが途切れた場合には、散布エラーコードの表示をすることによっても、オペレータはその都度散布モードを確認することができる。車速パルスによるエラーが発生した場合には、流量制御弁36が自動的に閉じるように構成することもできる。これによれば、故障診断が素早く実施できる。更に、かかる構成において、手動ボタン29のON操作で手動モードに切り替えて散布継続ができるように構成しておけば、自動モード故障の際にも、手動にて散布早見表により車速と圧力を規定通りに設定することで、略規定量の散布が行えるようになる。
【0024】
図10に示す実施例において、100リットル/10aの慣行散布においては、散布量の増減機能については、従来から設置搭載されているが、少量散布においては、散布量25リットルの設定は一定であり、反当散布量の増減を実施するためには、インジケータを圧力の位置にして、しかも増減ボタンを押して圧力の補正にて散布量の調整を行っていた。これによると、慣行散布と少量散布では散布量変更容量が異なり、混乱しやすい欠点があった。かかる問題点を解消するため、少量散布用マイコンを有するコントローラに於いて、基本設定の25リットル/10a散布を中心に1リットル毎の増減が増減ボタン32,33を押すことで、作業中の設定量を変更できるようにした。これによれば、ノズルの種類に関係なく、散布量設定変更要領を同じにすることで、使い易い防除機を具現することができる。
【0025】
なお、図10に示すように、複数の自動モード散布形態を有した防除機の標準散布形態に於いても実施できる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】自走型防除機の側面図
【図2】同上要部の平面図
【図3】防除機の要部の正面図
【図4】防除コントローラボックスの平面図
【図5】散布制御装置の配管系統図
【図6】防除コントローラパネル部及びノズル定数のメモリローテーション例を示す
【図7】モード表示機能を備えたコントローラパネルの平面図
【図8】散布形態表示機能を備えたコントローラパネルの平面図
【図9】通常の上側ノズルと吊り下げノズルを備えた散布装置の散布状態正面図
【図10】散布量設定変更手段を備えたコントローラパネルの平面図
【符号の説明】
【0027】
C1〜C3 散布コック
8 防除ポンプ 9 散布ブーム
19 防除ポンプスイッチ 20 防除コントローラ
21 コントローラパネル 29 手動モード選択ボタン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
防除コントローラ(20)上、又は防除コントローラ(20)の近傍に防除ポンプスイッチ(19)を設け、防除ポンプ(8)と複数の散布コック(C1〜C3)から防除作業を行う自走型防除機において、前記防除ポンプスイッチ(19)を入り状態にすると共に、機体の発進に基づき前記防除ポンプ(8)を自動的に駆動して防除作業を開始する制御手段を設けてあることを特徴とする自走型防除機。
【請求項2】
前記防除コントローラ(20)上、又は防除コントローラ(20)の近傍に手動モード選択ボタン(29)を設け、該手動モード選択ボタン(29)の入り操作によって手動散布を可能に構成してあることを特徴とする請求項1記載の自走型防除機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【公開番号】特開2008−104418(P2008−104418A)
【公開日】平成20年5月8日(2008.5.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−291412(P2006−291412)
【出願日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【出願人】(000000125)井関農機株式会社 (3,813)
【Fターム(参考)】