説明

臭気物質の発生防止方法およびシステム

【課題】よりコスト高くなく、汚泥の処理・処分上について別途除去をする必要性も少ない臭気物質の発生防止方法および臭気物質の発生防止システムを提供する。
【解決手段】下水、汚水およびこれらから生じる汚泥など臭気物質を含むまたは前記臭気物質が発生するおそれがある成分中に、汚泥が炭化されてなる汚泥炭を投入し、臭気物質の発生を防止する臭気物質の発生防止方法および臭気物質の発生防止システムである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、臭気物質を含むまたは前記臭気物質が発生するおそれがある汚物からの臭気物質の発生防止方法および臭気物質の発生防止システムに関する。
【背景技術】
【0002】
臭気物質を含むまたは前記臭気物質が発生するおそれがある汚物からの臭気物質の発生防止方法および臭気物質の発生防止システムは、汚水から浄化水を生成する浄化水生成方法および浄化水生成システムなどで様々な報告がある。例えば、汚水としては家庭、し尿処理場や、食品工場、紙パルプ工場など等から排出される有機物含有の下水があり、これら下水は一般に下水処理などで活水汚泥法等により排水処理される。
【0003】
この排水処理に伴って余剰の有機物含有の下水汚泥が発生するが、排水処理量の増加とともに下水汚泥の発生量も年々増加し、その処理処分が問題となっている。
【0004】
例えば、下水を最初沈殿池等で固液分離すると初沈生汚泥が発生し、最初沈殿池の上澄水を曝気槽などを用いて浮遊生物方式により処理すると、活性汚泥の量が増加する。曝気槽などで処理された水は最終沈殿池に導かれ、活性汚泥が分離され、その一部は返送汚泥として曝気槽などに返送され、残余は余剰汚泥とされる。初沈生汚泥と余剰汚泥は、汚泥濃縮槽に導かれ、その後、汚泥貯留槽にいったん貯留される。汚泥貯留槽内の汚泥は、次いで脱水機により脱水され、得られた汚泥脱水ケーキは埋め立てや、焼却のために搬出される。
【0005】
ここで汚泥貯留槽に貯留された汚泥は、腐敗により悪臭物質を発生する場合がある。下水処理場で発生する悪臭物質として特に検出される臭気物質は、硫化水素、メチルメルカプタンなどのイオウ化合物、アンモニア、トリメチルアミンなどの窒素化合物、吉草酸、イソ酪酸などの低級脂肪酸などである。これらの中でも、硫化水素とメチルメルカプタンの量が多い傾向にある。硫化水素は石膏ボードに含まれる硫酸塩、あるいは生体物質(タンパク質等)の硫黄化合物、有機物の分解により発生する場合が多い。
【0006】
汚泥貯留槽で発生した臭気は、その後の汚泥の移動に伴って移動し、汚泥脱水工程、汚泥脱水ケーキの処理工程などにおいて、作業環境の悪化などとなる場合がある。汚泥脱水機は密閉系とすることもできるが、汚泥脱水ケーキは開放系で運搬、保管される場合が多いので、臭気対策は重要である。また、最終埋め立て地においても、発生する臭気が拡散する場合もある。以上のような観点から、発生する汚泥を悪臭物質が発生しないように処分することが望ましい。
【0007】
ところが、下水汚泥を処分するに際し、その下水汚泥には多量の水が含有されていてそのままでは処分できず、そこで減量化のために濃縮及び脱水処理したり、或いは更に焼却したり、溶融したりするなど様々な処理が現在施されてはいる。しかしながら下水汚泥を焼却或いは溶融処理すると多量のエネルギーを消費するなど、処理コストが高いものとなる。そこでエネルギー消費の少ない下水汚泥の処理の方法の一つとして、下記特許文献1などでは、下水汚泥を焼却或いは溶融処理よりも低エネルギー量の消費量で済む炭化処理を用いた下水汚泥の炭化処理システムが提案されている。
【0008】
下記特許文献2および3には、そもそも汚泥に対して汚泥臭気抑制剤を加えて臭気物質の発生自体を抑制する方法が開示されている。
【0009】
例えば臭気物質の1つであり、悪臭防止法にも規定される硫化水素は嫌気性の硫酸還元菌により生成される場合が多いことが知られている。したがって、この菌を殺し、根本的に硫化水素の発生を防止することも種々提案されている。例えば、廃棄物を掘り返す、あるいは空気を供給することで硫酸還元菌を殺す方法があるが、これは大がかりな道具・設備が必要であり、絶えず空気を送り込む必要がありコストが高く実現が困難である場合が多い。また、火山灰土壌、あるいは砂質土系の土砂等の覆土材を産業廃棄物に覆土し、覆土層を形成する方法もあるが、これも適当な覆土材料が入手困難である場合も多く、また効果も不十分である場合がある。さらに、シクロデキストリンとヨウ素を組み合わせた硫化水素の防止方法も提案されてはいるが、ヨウ素による環境汚染および発生防止効果が不十分と指摘される場合もある。さらに、有機系の殺菌剤の使用も提案されているが、環境汚染の問題で好ましくない場合もある。
【0010】
これに対し、下記特許文献2では、硫化水素ガスを発生する対象物の殺菌を主とする硫化水素の発生防止方法であって、Ag、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnからなる金属イオンの少なくとも1種を含む無機系抗菌剤を用いる硫化水素の発生防止方法、これと硫化水素の消臭剤、および/または活性炭、木炭等の炭素系、シリカゲル、アエロジル、ホワイトカーボン、高シリカ粘土、シリカゾル、多孔質ガラス、シリカ繊維、けいそう土、ケイ酸カルシウム等のコロイダルシリカ系、天然ゼオライト、合成ゼオライト等のゼオライト系、賦活アルミナ、アルミナ等のアルミナ系、骨炭、天然アパタイト、合成アパタイト等のアパタイト系、フラースアース、活性白土、活性ボーキサイト、活性酸化マグネシウム、および多孔質セラミック材などの吸着剤を併用することによる硫化水素の発生防止方法が報告され、硫化水素の発生防止効果、コスト安によって産業廃棄物埋立処分場、河川、海岸等のヘドロ、発電所等の配水管内の生物起因の堆積物等の、硫化水素の発生防止方法を提供することができると開示されている。
【0011】
また、下記特許文献3では、炭素数6〜12の脂肪酸若しくはその塩及び/又は炭素数6〜12の脂肪族アルコールを含有することを特徴とする汚泥臭気抑制剤を加え、これにより下水処理場、し尿処理場などの汚泥から発生する硫化水素、メチルメルカプタン、アンモニア、アミンなどの臭気物質に由来する臭気を抑制することが報告されている。
【0012】
【特許文献1】特開2006−224047号公報
【特許文献2】特開2004−329757号公報
【特許文献3】特開2003−285097号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
しかしながら、上記特許文献1に記載される下水汚泥の炭化処理方法では、汚泥を炭化して汚泥炭とはするものの汚水処理時に発生する臭気物質の発生防止について開示されているものではない。したがって、臭気物質の発生防止が課題となる。また汚泥が炭化されてなる大量の汚泥炭の具体的な用途が開示されているものではない。
【0014】
また、上記特許文献2および特許文献3に記載される臭気物質の発生防止方法では、汚泥臭気抑制剤や抗菌剤を用いなければならず、コスト高くなる。さらには別途の工程でこれら金属や有機物質からなる汚泥臭気抑制剤や抗菌剤を汚泥から除去しなければ、汚泥の処理・処分上について新たな問題を生じる場合がある。
【0015】
本発明は、上記課題等を解決することに鑑みてなされたものであり、よりコスト高くなく、汚泥の処理・処分上について別途除去をする必要性も少ない臭気物質の発生防止方法および臭気物質の発生防止システムの提供をその主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、臭気物質を含むまたは前記臭気物質が発生するおそれがある成分中に、汚泥が炭化されてなる汚泥炭を投入し、前記臭気物質の発生を防止する臭気物質の発生防止方法を特徴とする。
【0017】
前記臭気物質の発生防止方法であって、前記臭気物質は硫化水素を含む臭気物質の発生防止方法であると好適である。
【0018】
前記臭気物質の発生防止方法であって、前記臭気物質を含むまたは前記臭気物質が発生するおそれがある成分は汚水または前記汚水から生じた汚泥を含むと好適である。
【0019】
前記臭気物質の発生防止方法であって、前記汚泥を処理する汚泥処理工程を含むと好適である。
【0020】
前記臭気物質の発生防止方法であって、前記汚泥処理工程は、前記汚泥を濃縮する汚泥濃縮工程を含むと好適である。
【0021】
前記臭気物質の発生防止方法であって、前記汚泥処理工程は、前記濃縮された汚泥を凝集剤によって凝集させる凝集工程を含むと好適である。
【0022】
前記臭気物質の発生防止方法であって、前記汚泥処理工程は、前記濃縮または前記凝集された汚泥を脱水する脱水工程とを含むと好適である。
【0023】
前記臭気物質の発生防止方法であって、前記汚泥処理工程は、前記汚泥を炭化する炭化工程を含むと好適である。
【0024】
前記臭気物質の発生防止方法であって、前記炭化工程によって生成される汚泥炭を前記汚泥炭として利用する汚泥炭利用工程とを含むと好適である。
【0025】
前記臭気物質の発生防止方法であって、前記汚泥は下水処理によって生じてなると好適である。
【0026】
前記臭気物質の発生防止方法であって、前記汚泥500mlに対して1g以上の汚泥炭を添加すると好適である。
【0027】
また本発明は、臭気物質を含むまたは前記臭気物質が発生するおそれがある成分中に、汚泥が炭化されてなる汚泥炭を投入し、前記臭気物質の発生を防止する臭気物質の発生防止システムを特徴とする。
【0028】
前記臭気物質の発生防止システムであって、上記のいずれか1つに記載の臭気物質の発生防止方法により臭気物質の発生を防止する装置を含むと好適である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本実施形態に係る臭気物質の発生防止方法および臭気物質の発生防止システムについて説明する。なお、本実施形態は、本発明を実施するための一形態に過ぎず、本発明は本実施形態によって限定されるものではない。
【0030】
「臭気物質の発生防止方法」
本発明者は、汚泥が炭化されてなる汚泥炭の新たな利用方法について、鋭意検討した。その結果、臭気物質を含むまたは臭気物質が発生するおそれがある成分中に、汚泥が炭化されてなる汚泥炭を投入し、臭気物質の発生を防止することに対して汚泥炭を利用できることがわかり、汚泥炭の新たな利用方法を見出すことができた。
【0031】
この汚泥炭の利用を見出したことによって、汚泥炭の新たな利用用途が見出せたことなり、より大量の汚泥炭ひいてはこの原料となるより大量の汚泥の再利用が進むとともに、汚泥を原料としているので臭気発生物質の防止よりコスト高くなく、汚泥を炭にしたものであるので汚泥と混ぜてしまっても処理・処分上について別途除去をする必要性も少ないというなどの優れた効果がある。
【0032】
汚泥炭へと炭化されてなる汚泥としては、特に限られることなく様々な処理によって生じた汚泥を用いることができるが、例えば下水処理等の汚水処理で汚水から生じた汚泥を用いると大量に出る汚泥を再利用できるなどの観点で好適である。
【0033】
炭化する方法は、特に限られることなく適宜選択して採用することができるが、例えば、含水率40%以下の脱水汚泥を炭化する方法などの方法を採用することができる。汚泥が炭化されてなる汚泥炭の物性としては特に限られることなく適宜使用態様、環境等に応じて選択して採用することができる。
【0034】
臭気物質を含むまたは臭気物質が発生するおそれがある成分とは、液体、固体、気体ならびにこれらの混合体であってもよい。例えば家庭、し尿処理場や、食品工場、紙パルプ工場など等から排出される有機物含有の下水などの汚水および汚水から生じた汚泥(脱水汚泥、乾燥汚泥、下水汚泥、返送汚泥、濃縮汚泥など)、バイオマスガス、汚泥と汚水の混合体などを挙げることができる。特に汚水または汚水から生じた汚泥については臭気物質の発生について環境面で特に問題視されるなどの問題があり特にその臭気物質の発生を防止することが好適である。臭気物質を含むまたは臭気物質が発生するおそれがある成分から汚泥が生じてもよいが、汚泥が生じなくとも臭気物質を含むまたは臭気物質が発生するおそれがある成分を含むものであれば足りる。
【0035】
臭気物質とは、硫化水素、メチルメルカプタンなどのイオウ化合物、アンモニア、トリメチルアミンなどの窒素化合物、吉草酸、イソ酪酸などの低級脂肪酸、悪臭防止法に規定される物質などまたはこれらの一種以上の混合物を挙げることができるが、これらの中でも、硫化水素とメチルメルカプタン、特に硫化水素についてはその発生を防止することについて、身近に発生する頻度、有害性などの問題があり特にその発生を防止することが好適である。
【0036】
臭気物質が発生するおそれがある成分とは、汚泥炭を投入した時に臭気物質を含むものではなく、その後の使用状況、時間経過や環境変化、菌の働き、化学反応などで臭気物質を発生する成分をいう。例えば臭気物質が硫化水素である場合については例えば、汚水、汚泥(好気性の返送汚泥、嫌気性の下水汚泥両方を含む)などを挙げることができる。
【0037】
また、本発明者は、汚水から浄化水を生成する浄化水の生成方法に上記臭気物質の発生防止方法を適用すると好適であることを見いだすことができた。すなわち、汚泥が炭化されてなる汚泥炭を汚物の一種である汚水または汚水から生じた汚泥中に投入しつつ、臭気物質の発生の防止に役立てることに汚泥炭を利用できることがわかり、汚泥炭の新たな利用方法を見出すことができた。
【0038】
汚水としては、家庭、し尿処理場や、食品工場、紙パルプ工場など等から排出される有機物含有の下水などを例示することができ、臭気物質を含むまたは臭気物質が発生するおそれがある成分が含まれていればよい。
【0039】
この汚泥炭の利用を見出したことによって、汚泥炭の新たな利用用途が見出せたことなり、汚泥炭ひいてはこの原料となる汚泥の再利用が進むとともに、この汚泥炭を利用して臭気物質の発生抑制できる効果がある。
【0040】
また、本発明者は併せて、特に汚水から生じてしまった汚泥を炭化する炭化工程を含むと好適であることを見出した。これによって単に上記効果以外にも、汚泥処理と同時に汚泥炭を生成することができ、生産的に効率化が図れる。さらには炭化工程によって生成される汚泥炭を汚水に投入する汚泥炭として利用する汚泥炭利用工程とを含むとさらに好適である。汚泥処理と同時に汚泥炭を生成した汚泥炭を当該方法自体に用いることができ、循環したサイクルの汚泥炭再利用方法が提供できる。
【0041】
「臭気物質の発生防止システム」
図1には、臭気物質の発生防止システムとして、汚水たる下水から汚泥を除去して浄化水を生成する下水処理によって生じた汚泥を処理する(汚泥処理工程)汚泥の処理システム100の模式図が一例として示される。なお、汚泥の処理とは公知の汚泥処理方法、炭化処理方法など特に限られることなく適宜その処理態様は選択して採用される。
【0042】
汚泥の処理システム100は下水処理によって生じた汚泥が投入され、汚泥が濃縮される(汚泥濃縮工程)汚泥濃縮槽10と、濃縮した汚泥を貯留する汚泥貯留槽20と、貯留された濃縮汚泥を凝集剤で凝集する(凝集工程)凝集槽30と、凝集された汚泥を脱水して脱水ケーキとする(脱水工程)汚泥脱水機40と、脱水ケーキを炭化して汚泥炭とする(炭化工程)汚泥炭化施設50と、汚泥炭化施設で炭化された汚泥炭を汚泥濃縮槽10、汚泥貯留槽20、凝集槽30、汚泥脱水機40のうち少なくとも一部に汚泥炭を投入する(汚泥炭利用工程)汚泥炭投入機構60とを備えている。
【0043】
これら汚泥濃縮槽10、汚泥貯留槽20、凝集槽30、汚泥脱水機40、汚泥炭化施設50、汚泥炭投入機構60については特に限られることなく公知の装置・機構などを用いて適宜用途等に応じて選択して採用することができる。またこれら装置および機構については同様に公知の制御方法を適宜選択して制御することができる。また汚泥の処理システムについては、これら工程を行う装置は適宜用途に応じて省略したり、さらに別の装置を適宜選択して付加したシステムとすることもできる。
【0044】
汚泥が濃縮される汚泥濃縮槽10と、濃縮した汚泥を貯留する汚泥貯留槽20と、貯留された濃縮汚泥を凝集剤で凝集する凝集槽30と、凝集された汚泥を脱水して脱水ケーキとする汚泥脱水機40において硫化水素などの臭気物質が発生するまたはおそれがある。したがって、これらに対して汚泥炭化施設50で生成された汚泥炭の一部以上を投入することで汚泥炭の硫化水素の吸着作用などによって臭気物質の発生を抑制することができる。
【0045】
好ましくは汚泥濃縮槽10、汚泥貯留槽20、凝集槽30の汚泥濃縮工程における投入が、汚泥が濃縮されているため嫌気性環境による硫酸還元菌などの作用によって硫化水素が発生しやすく、汚泥炭によって発生を防止することがより好適である。汚泥炭の投入箇所は一箇所以上であればよく複数箇所であってもよい。また汚泥炭は別の汚泥の炭化システムなどで製造した汚泥炭を利用してもよい。
【0046】
汚泥の処理システム100は、上記構成に限られることなく、汚泥を含む成分を処理するのに対応する構成であれば足り、特に限られることなく適宜選択して採用することができる。なお、汚泥の処理システム100は、下水処理場に付属されていてもよく、別個に設けられていても良い。また、汚泥炭は図2に示されるように家庭排水が流される下水管中の汚水中に投入されるなど、下水処理場に投入される前の汚水中に投入し、処理前に発生する硫化水素などの臭気物質の発生を抑制すること、これと上述の汚泥処理システムを組み合わせても好適である。
【0047】
本実施形態では、臭気物質を含むまたは臭気物質が発生するおそれがある成分中に、汚泥が炭化されてなる汚泥炭を投入し、臭気物質の発生を防止する臭気物質の発生防止方法を提供することにより、よりコスト高くなく、汚泥の処理・処分上について別途除去をする必要性も少ない臭気物質の発生防止方法および臭気物質の発生防止システムを提供する。すなわち、汚泥炭は、汚泥を炭化し、炭にしたものであるので汚泥と混ぜてしまっても処理・処分上について別途除去をする必要性も少ないというなどの優れた効果がある。
【0048】
本実施形態では、前記臭気物質の発生防止方法であって、前記臭気物質は硫化水素を含む臭気物質の発生防止方法であると好適である。硫化水素は身近に発生する頻度、有害性、悪臭防止法に規定されるなどの問題が多くその効果的な防止方法は社会的に望まれている。
【0049】
本実施形態では、臭気物質の発生防止方法であって、前記臭気物質を含むまたは前記臭気物質が発生するおそれがある成分は汚水または前記汚水から生じた汚泥を含むと好適である。家庭、し尿処理場や、食品工場、紙パルプ工場など等から排出される有機物含有の下水などの汚水または汚泥はその大量で安全な処理が望まれている。汚水またはこれから生じる汚泥は下水処理によって生じてなるものがさらに好適である。
【0050】
さらにこの汚水から生じた汚泥を処理する汚泥処理工程を含むと好適である。汚泥処理についてより多くの硫化水素等の臭気物質が生じるからである。さらに汚泥処理工程は、前記汚泥を濃縮する汚泥濃縮工程または濃縮された汚泥を凝集剤によって凝集させる凝集工程を含み、ここに汚泥炭が投入されるとこれら工程では硫化水素などの臭気物質が発生しやすいので抑制することが好適である。汚泥を脱水する脱水工程とを含み、ここに汚泥炭を投入するとさらに硫化水素などの臭気物質が発生することを抑制できるので好適である。
【0051】
本実施形態では、臭気物質の発生防止方法であって、汚泥処理工程は、汚泥を炭化する炭化工程を含むと好適である。汚泥を炭化し、炭として、そして本実施形態に係る汚泥炭として再利用することもできる。したがって炭化工程によって生成される汚泥炭を前記汚泥炭として利用する汚泥炭利用工程とを含むと再利用として好適である。
【0052】
本実施形態では、臭気物質の発生防止方法であって、汚泥500mlに対して1g以上の汚泥炭を添加すると好適である。さらに好適には2g以上、特に好ましくは3g以上であると好適に硫化水素などの発生を防止できる。ここで汚泥は下水汚泥、濃縮汚泥のような嫌気性により硫酸還元菌により硫化水素を発生しやすいものであると好ましいが、これに限られることはなく、脱水汚泥、乾燥汚泥、返送汚泥などであってもよい。
【0053】
また、本実施形態では、上記臭気物質の発生防止方法により臭気物質の発生を防止する装置をそなえた臭気物質の発生防止システムを開示している。これによってよりコスト高くなく、汚泥の処理・処分上について別途除去をする必要性も少ない臭気物質の発生防止システムを提供できる。すなわち、汚泥炭は、汚泥を炭化し、炭にしたものであるので汚泥と混ぜてしまっても処理・処分上について別途除去をする必要性も少ないというなどの優れた効果があり、本システムの使用は、安全面、環境面、臭気面、経済面など多面的な要素において有益である。
【実施例】
【0054】
以下、本発明をさらに詳しく説明するために一実施例を示す。ここでの実施例では臭気物質の一例として有害な硫化水素をとりあげている。臭気物質を含むまたは前記臭気物質が発生するおそれがある成分は下水処理によって汚水から分離して生じた汚泥(特に注記がない限り、嫌気性環境の下水汚泥)を用いている。汚泥炭は下水汚泥を800℃で1時間炭化させることで製造した。
【0055】
<硫化水素の発生条件>
硫化水素の発生条件を検討した結果を表1に示す。実験は汚泥を2000mlのペットボトルまたは三角フラスコに2000ml入れ表1に示す実験環境(室内、室内の暗所、野外、野外の暗所)に分け、硫化水素濃度の測定等を行った。温度が高温になるほど好気性の微生物が活発になり、この活発作用によって汚泥中の酸素が消費され、汚泥の嫌気性環境が進行し、硫酸還元菌による硫化水素発生が起こるためと考えられる。
【0056】
【表1】

【0057】
<硫化水素の発生濃度>
下水汚泥について濃縮される前と、濃縮後、さらに濃縮後脱水されたものについて硫化水素の発生について検討した結果を表2に示す。これによって硫化水素が発生しやすい条件は濃縮後であり、この時に硫化水素の発生防止策を行うと効果的であることがわかる。
【0058】
【表2】

【0059】
<汚泥炭と他の炭との硫化水素の発生抑制作用の比較>
汚泥に対しての硫化水素の発生抑制作用について、汚泥炭、竹炭(1000℃で炭化された市販のもの)、割り箸炭(割り箸を600℃で30分炭化させたもの)とで比較した結果を表3に示す。500mlメスシリンダーを4つ用意し、500mlの汚泥をそれぞれ入れ、汚泥のみ、竹炭、汚泥炭、割り箸炭のそれぞれを5%(25g)ずつ入れたものとした。硫化水素の測定は1週間後と2週間後に分けて行った。なお、汚泥については均一性を求めるために好気汚泥の返送汚泥を用いた。そのために硫化水素の発生に長時間を要している。
【0060】
【表3】

【0061】
表3より1週間後では竹炭の発生抑制効果が一番高いことが確認できたが、2週間後では発生抑制効果が低下し、汚泥炭、割り箸炭より発生抑制効果が低下した。これとは対照的に、汚泥炭、割り箸炭については1週間後に比べ2週間後では発生抑制効果が低下し、より発生抑制効果が低下した。したがって、時間経過しても発生抑制効果が低下せず、何よりも竹炭、割り箸炭よりも製造コストが小さい汚泥炭が有用であることがわかる。なお、炭毎に硫化水素の発生抑制効果に差異が生じたのは、一考するに、竹炭は細孔が多くあり、硫酸イオンや水素イオンを吸着することで硫酸還元菌による硫化水素の発生を防止していると考えられるが、この吸着により硫化水素が発生しても硫化水素を吸着できず、発生させてしまうとも考えられるのに対して、汚泥炭、割り箸炭は硫酸イオンや水素イオンを吸着するのではなく発生した硫化水素を吸着するからだとも考えられる。
【0062】
<汚泥炭添加量に対する脱水汚泥からの硫化水素の発生抑制効果>
下水汚泥500mlに汚泥炭1〜5gを添加して濃縮、脱水して脱水汚泥とし、硫化水素の発生濃度の測定を行った。なお、汚泥中の微生物濃度(MLSS濃度)は13200mg/lである。図3に汚泥炭の添加量と硫化水素の発生濃度の関係を示す。添加量と共に硫化水素の発生量が顕著に減少し汚泥500mlに対して1g以上で著しい減少効果が見られた。特に汚泥500mlに対して3g以上では全く硫化水素が発生していないことがわかった。
【0063】
<汚泥からの硫化水素の発生抑制効果>
濃縮し12時間経過した後、またこの濃縮後汚泥と分離した液体成分を除去した汚泥、さらに脱水した脱水汚泥それぞれ500mlについて汚泥炭を0.5g〜2g添加し、硫化水素の発生抑制効果を検討した結果を図4に示す。なお、汚泥中の微生物濃度(MLSS濃度)は14200mg/lである。これにより脱水汚泥よりも濃縮後汚泥、この濃縮後汚泥と分離した液体成分を除去した汚泥について顕著な硫化水素の発生抑制効果を観察することができた。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本実施形態に係る汚泥処理システムの模式図である。
【図2】本実施形態に係る下水における硫化水素発生防止の模式図である。
【図3】汚泥炭の添加量による硫化水素の発生抑制効果を示すグラフである。
【図4】汚泥の種類による汚泥炭による硫化水素の発生抑制効果を示すグラフである。
【符号の説明】
【0065】
100 汚泥処理システム、10 汚泥濃縮槽、20 汚泥貯留槽、30 凝集槽、40 汚泥脱水機、50 汚泥炭化施設、60 汚泥炭投入機構。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
臭気物質を含むまたは前記臭気物質が発生するおそれがある成分中に、汚泥が炭化されてなる汚泥炭を投入し、前記臭気物質の発生を防止する臭気物質の発生防止方法。
【請求項2】
請求項1に記載の臭気物質の発生防止方法であって、
前記臭気物質は硫化水素を含む臭気物質の発生防止方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の臭気物質の発生防止方法であって、
前記臭気物質を含むまたは前記臭気物質が発生するおそれがある成分は汚水または前記汚水から生じた汚泥を含む臭気物質の発生防止方法。
【請求項4】
請求項3に記載の臭気物質の発生防止方法であって、
前記汚泥を処理する汚泥処理工程を含む臭気物質の発生防止方法。
【請求項5】
請求項4に記載の臭気物質の発生防止方法であって、
前記汚泥処理工程は、前記汚泥を濃縮する汚泥濃縮工程を含む臭気物質の発生防止方法。
【請求項6】
請求項5に記載の臭気物質の発生防止方法であって、
前記汚泥処理工程は、前記濃縮された汚泥を凝集剤によって凝集させる凝集工程を含む臭気物質の発生防止方法。
【請求項7】
請求項5または6に記載の臭気物質の発生防止方法であって、
前記汚泥処理工程は、前記濃縮または前記凝集された汚泥を脱水する脱水工程とを含む臭気物質の発生防止方法。
【請求項8】
請求項4から7のいずれか1つに記載の臭気物質の発生防止方法であって、
前記汚泥処理工程は、前記汚泥を炭化する炭化工程を含む臭気物質の発生防止方法。
【請求項9】
請求項8に記載の臭気物質の発生防止方法であって、
前記炭化工程によって生成される汚泥炭を前記汚泥炭として利用する汚泥炭利用工程とを含む臭気物質の発生防止方法。
【請求項10】
請求項4から9のいずれか1つに記載の臭気物質の発生防止方法であって、
前記汚泥は下水処理によって生じてなる臭気物質の発生防止方法。
【請求項11】
請求項4から10のいずれか1つに記載の臭気物質の発生防止方法であって、
前記汚泥500mlに対して1g以上の汚泥炭を添加する臭気物質の発生防止方法。
【請求項12】
臭気物質を含むまたは前記臭気物質が発生するおそれがある成分中に、汚泥が炭化されてなる汚泥炭を投入し、前記臭気物質の発生を防止する臭気物質の発生防止システム。
【請求項13】
請求項12に記載の臭気物質の発生防止システムであって、
請求項1から11のいずれか1つに記載の臭気物質の発生防止方法により臭気物質の発生を防止する装置を含む臭気物質の発生防止システム。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2008−229414(P2008−229414A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−68642(P2007−68642)
【出願日】平成19年3月16日(2007.3.16)
【出願人】(504277355)
【出願人】(504277399)
【出願人】(598084666)株式会社第一テクノ (8)
【出願人】(507087982)ウィーグル株式会社 (2)
【Fターム(参考)】