説明

航空機の複合材製構造体の製造方法及びその構造体

【課題】航空機用の複合材製構造体に含まれる導電性部材に起因する、航空機の無駄な重量増加をなくす。
【解決手段】構造体を製造する方法は、複合材からなる基材10の表面に少なくとも1の導電性部材3を取り付け、導電性部材3の一部又は全部に通電して発熱させることによって、成形及び/又は組立を行う工程(P2、P3)を行い、それらの工程によって形作られた構造体に含まれる導電性部材3の一部又は全部を、航空機において耐雷、防除氷及び電磁干渉シールドの少なくとも一の機能を得るための部材とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の一部を構成する複合材製の構造体を製造する方法及び、その複合材製構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機における、例えば主翼等の前縁部には、その飛行中に氷が付着することがある。そうした着氷は航空機の空力特性を損なうことにもなるため、それの対策として、航空機を構成する構造体において着氷しそうな部分の例えば外表面に、電気ヒータやエンジンからの排熱を利用した熱源を取り付けることが従来から知られている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
また、特許文献1にも開示されているように、近年、航空機の構造体の材料として複合材が用いられているが、こうした複合材製構造体、特に翼前縁のような落雷を受けやすい部位に対しては、落雷による損傷を防ぐべく、耐雷機能を設ける必要がある。こうした耐雷機能の一例として、例えば特許文献2には、複合材製構造体の外表面に金属メッシュを配置した構造が開示されている。
【特許文献1】特表2001−517583号公報
【特許文献2】特開2006−219078号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、例えば熱可塑性複合材により、航空機の構造体を製造する際には、複合材の表面に金属メッシュや金属箔等の導電性部材を取り付けると共に、その導電体に通電することにより発生する熱で、組立をしたり(一例として複合材同士を接合)、成形をしたり(一例として複合材を軟化させて曲げ加工等)する場合がある。
【0005】
このような方法を採用して複合材によって構造体を製造しようとしたときには、複合材を加熱するための導電性部材が必要になるものの、こうした導電性部材が、構造体の完成後に取り除くことができずにそれの内部等にそのまま残ってしまう場合がある。その場合、製品時においては不要な部材が、構造体に含まれることになってしまう。これは、航空機の機体重量を、無駄に増加させることを意味する。
【0006】
また、例えば熱硬化性複合材により航空機の構造体を製造する過程において、部品製作のために基材を加熱して硬化させる際や、硬化させた部品を接合する方法としての接着フィルムによる2次接着の際には、オートクレーブ又はオーブンを使用している。尚、熱可塑性複合材による部品の製作においても、オートクレーブ等が使用される場合がある。こうしたオートクレーブやオーブンは設備として高価であるため、このような高価な設備を使用しない、複合材製構造体の製造方法が望まれている。
【0007】
本発明は、かかる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、航空機用の複合材製構造体に含まれる導電性部材に起因する、航空機の無駄な重量増加をなくすことにあり、さらには必要となる製造設備のコストを低減することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一側面によると、製造方法は、航空機の一部を構成する複合材製構造体を製造する方法であり、この製造方法は、前記複合材からなる基材の表面に少なくとも1の導電性部材を取り付け、前記導電性部材の一部又は全部に通電して発熱させることによって成形を行う工程と、前記導電性部材の一部又は全部に通電して発熱させることによって組立を行う工程と、の少なくとも一方を行うと共に、前記の工程によって形作られた構造体に含まれる導電性部材を、前記航空機において耐雷、防除氷及び電磁干渉シールドの少なくとも一の機能を得るための部材とする。
【0009】
この構成によると、先ず製造時においては、複合材からなる基材の表面に取り付けた導電性部材に通電することによって熱を発生させ、その熱で基材を加熱する。それによって成形及び/又は組立を行い、構造体を形作る。
【0010】
そうして形作った構造体に含まれる導電性部材は、航空機において耐雷、防除氷及び電磁干渉シールドの少なくとも一の機能を得るための構造部材とする。つまり、耐雷用の導電体、防除氷用の熱源、及び/又は、電磁干渉シールド用の導電体を、製造時においては熱源として利用する。
【0011】
このように、前記構造体における前記導電性部材の一部又は全部を、製造用の熱源として使用することにより、製品としては不要であるが、取り除くことができなかった導電性部材は省略されることになり、機体重量の軽量化が図られる。
【0012】
また、前記導電性部材を熱源として用いることにより、オートクレーブやオーブン等の高価な設備を使用することなく、構造体を製造することが可能である。
【0013】
前記複合材を熱可塑性複合材とした場合、前記導電性部材の発熱によって熱可塑性樹脂を溶融させることで、前記基材と、前記導電性部材とを互いに接合する、としてもよい。
【0014】
また、前記複合材を熱可塑性複合材とした場合、前記導電性部材の発熱によって前記基材を軟化させて変形させる(例えば曲げ変形等)、としてもよい。
【0015】
さらに、前記複合材を熱硬化性複合材とした場合、前記導電性部材の発熱によって接着フィルムを硬化させることで、前記基材と、前記導電性部材とを互いに接着する、としてもよい。
【0016】
加えて、前記複合材を熱硬化性複合材とした場合、前記導電性部材の発熱によって前記基材を硬化させる、としてもよい。
【0017】
さらに、前記複合材を熱硬化性複合材とした場合、前記導電性部材の発熱によって熱硬化性樹脂を硬化させることで、前記基材同士又は基材と前記導電性部材とを互いに接着する、としてもよい。
【0018】
特に熱硬化性複合材を用いた複合材製構造体の製造においては、導電性部材に通電して発熱させることによって、基材を硬化させたり、接着フィルムを加熱硬化させたりすることができるため、オートクレーブやオーブン等の高価な設備を使用することがなくなる。
【0019】
本発明の他の側面によると、航空機の一部を構成する複合材製構造体は、前記複合材からなる複合材部と、導電体からなる導電体部と、を備え、前記導電体部は、前記航空機における耐雷、防除氷及び電磁干渉シールドの少なくとも一の機能を得るための部分であると共に、その製造時には、成形及び組立の少なくとも一方のために前記複合材部を加熱する発熱体として機能する。
【0020】
本発明のさらに別の側面によると、航空機の一部を構成する複合材製構造体は、前記複合材からなる複合材部と、導電体からなる導電体部と、を備え、前記導電体部は、前記航空機における耐雷の機能、防除氷の機能、電磁干渉シールドの機能、製造時における成形のための発熱体としての機能、及び組立のための発熱体としての機能、の内の少なくとも2の機能を得るための部分である。つまり、導電体部を少なくとも2の機能を兼用するようにすることで、その分、機体重量の軽減が図られる。
【発明の効果】
【0021】
以上説明したように、本発明によると、航空機の複合材製構造体に含まれる導電性部材を、少なくとも2の機能を得るための部分とする。一例として、完成した航空機においては耐雷用の導電体、防除氷用の熱源、及び/又は、電磁干渉シールドとなる導電性部材を、その製造時には熱源として用いることによって、構造体に含まれる導電性の部材の総数が減少し、航空機の機体重量を軽減することができると共に、その製造コストの低減化も図ることができる。また、高価な製造設備を必要とせず、製造設備のコストを低減することもできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎず、本発明、その適用物或いはその用途を制限することを意図するものではない。
【0023】
(実施形態1)
図1は、本発明の実施形態1に係る航空機の構造体Aを示している。この構造体Aは、この実施形態では翼の前縁部分を構成する構造体Aとされている。但し、本発明に係る構造体Aは、これに限るものではない。尚、図1においては、理解容易のために、前記構造体Aの断面における各層の厚みを、実際とは異ならせて描いている。
【0024】
この構造体Aは、図2に示すように、その断面が略U字状に湾曲すると共に、翼のスパン方向に延びる外板1と、その外板1の内面に対し、スパン方向に所定間隔を開けて接合される複数のリブ2と、を含んでいる。尚、図示は省略するが、外板1の内面には、ビードを形成してもよい。
【0025】
各リブ2は、外板1の内面に沿うように湾曲した弓状のウエブ21と、そのウエブ21の外縁から横方向に突出すると共に、外板1の内面に当接してそこに接合される接合面(外向きの面)を有するフランジ22と、を備え、横断面が略L字状に構成されている。
【0026】
この構造体Aを構成する外板1と各リブ2とは、本実施形態では熱可塑性複合材からなる。
【0027】
そうして、図1に示すように、外板1の外表面には、その全面に亘って、例えば銅やアルミニウム等からなる金属メッシュ3が貼り付けられており、この金属メッシュ3は、完成した航空機においては、翼の表面に配置された耐雷用の導電体として機能するメッシュである。
【0028】
次に、図2を参照しながら、前記構造体Aの製造手順について説明する。先ず、熱可塑性複合材からなる、板状に成形された基材10を用意し、これの表面に金属メッシュ3を取り付ける。後述するように、基材10と金属メッシュ3とは、後の工程において互いに固定することが可能であるため、この金属メッシュ3の取り付けは、例えば仮止め程度にしておいてもよい。また、例えば接着剤等により固定するようにしてもよい(図2の工程P1参照)。
【0029】
次に、金属メッシュ3に通電することによりこの金属メッシュ3を発熱させる。これによって基材10が加熱され、その基材10に含まれる熱可塑性樹脂が軟化乃至溶融する。この熱可塑性樹脂の溶融によって、金属メッシュ3を基材10の表面に固定すればよい。また、熱可塑性樹脂の軟化によって基材10を変形させることが可能になるため、例えばプレス加工によって基材10を曲げて、前述した外板1の形状となるように成形する(図2の工程P2参照)。
【0030】
そうして、図示を省略する別途の工程によって所定の弓状に成形した、熱可塑性複合材製のリブ2を用意し、それを前記外板1に対し接合する。具体的には、前記の金属メッシュ3に通電することで前記外板1を加熱しながら、外板1における所定の取付位置にリブ2を押し付けることで、リブ2のフランジ22における接合面と外板1の内面とを互いに接合させる(図2の工程P3参照)。
【0031】
そうして、外板1と複数のリブ2とを含む構造体Aが完成することになるが、この製造過程において、基材10の加熱に用いた金属メッシュ3は、外板1の外表面に貼り付けられた状態のままである。この金属メッシュ3は、前記構造体Aが航空機の翼を構成するように組み付けられた後に、耐雷用の導電体として機能させるべく必要な処理が行われることになる。
【0032】
このように、耐雷用の導電体として用いる金属メッシュ3を、製造時においては成形及び組立用の熱源として用いることで、製造用熱源を別途取り付ける必要がなくなり、構造体Aに含まれる熱源としての導電部材の点数が、その分削減されて機体重量を軽減することができる。また前記製造時における熱源としての導電体取付工程を省略することができるため、部材点数の低減と相俟って、製造コストの低減化を図ることができる。
【0033】
(実施形態2)
図3は、本発明の実施形態2に係る航空機の構造体B(翼の前縁部分)を示している。この構造体Bにおいて、図1に示す構造体Aと異なる点は、リブ2のフランジ22と、外板1の内面との間に、金属メッシュ4が介設されている点である。この金属メッシュ4は、航空機における防除氷用の熱源として機能する。
【0034】
この実施形態2に係る構造体Bを製造するときには、図2に示す製造手順における工程P3で、各リブ2のフランジ22における接合面に金属メッシュ4を取り付けると共に、この金属メッシュ4に通電することで、フランジ22を加熱しながら、このリブ2を外板1における所定の取付位置に押し付けることで、リブ2と外板1とを接合させるようにすればよい。この場合、外板1に貼り付けている金属メッシュ3には通電をしてもよいし、しなくてもよい。尚、工程P1及びP2は、前記と同様とすればよい。
【0035】
そうして、外板1と複数のリブ2とを含む構造体Bが完成することになる。この製造過程において、接合のための熱源として用いた金属メッシュ4は、前記構造体Bが航空機の翼を構成するように組み付けられた後に、防除氷用の熱源として機能する。そのために必要な処理が適宜行われることになる。
【0036】
従ってこの構成では、耐雷用の導電体として用いる金属メッシュ3を、製造時に熱源として用いることに加えて、防除氷用の熱源として用いる金属メッシュ4も、製造時に熱源として用いることで、構造体Bに含まれる導電部材の点数が、その分削減されて機体重量を軽減することができる。また前記導電体及び熱源の取付工程を省略することができるため、部材点数の低減と相俟って、製造コストの低減化を図ることができる。
【0037】
尚、図示は省略するが、実施形態2においては、金属メッシュ3を省略するようにしてもよい。
【0038】
(他の実施形態)
尚、前記実施形態においては、製造時における熱源として用いる導電性部材を金属メッシュとしているが、これは導電性部材であればよく、例えば金属箔としてもよい。
【0039】
また、実施形態1,2における外板1の表面に貼り付けた金属メッシュ3を、耐雷用として機能させるのではなく、防除氷用の熱源として用いるようにしてもよいし、これを例えば電磁干渉シールドとして用いるようにしてもよい。また、実施形態2におけるリブ2のフランジ22と外板1との間に介設させた金属メッシュ4を、防除氷用の熱源として機能させるのではなく、他の用途に用いてもよい。つまり、製造後における金属メッシュ3,4の機能は、特定の機能に限定されるものではない。
【0040】
また、外板1の表面に貼り付けた金属メッシュ3を、例えば耐雷用の導電体及び電磁干渉シールドといった、2つ又はそれ以上の機能を得るために用いるようにしてもよい。
【0041】
また、前記実施形態においては、複合材を熱可塑性複合材としているが、これを熱硬化性複合材としてもよい。この場合、金属メッシュは、基材を所定の形状に成形(硬化)する際の加熱用として使用しても良いし、成形した基材を2次接着により組み立てる際の、接着フィルムの硬化用の熱源として使用してもよい。さらに、未硬化の基材同士や、基材と金属メッシュとを互いに接着・硬化させる際の熱源として使用してもよい。
【産業上の利用可能性】
【0042】
以上説明したように、本発明は、製品において必要とされる機能を備えた導電性部材を、製造時においても有効に利用することや、従来、別々に設置されていたシステムを1つのシステムで兼用することにより、機体重量の軽減、製造コストの低減化を図ることができるから、航空機の一部を構成する構造体及びそれを製造する方法として有用である。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】実施形態1に係る航空機の構造体の断面図(図2のI−I断面図)である。
【図2】前記構造体の製造手順を示す図である。
【図3】実施形態2に係る航空機の構造体の断面図(図1対応図)である。
【符号の説明】
【0044】
1 外板(複合材部)
10 基材
2 リブ(複合材部)
3,4 金属メッシュ(導電性部材、導電体部)
A,B 構造体

【特許請求の範囲】
【請求項1】
航空機の一部を構成する複合材製構造体を製造する方法であって、
前記複合材からなる基材の表面に少なくとも1の導電性部材を取り付け、
前記導電性部材の一部又は全部に通電して発熱させることによって成形を行う工程と、前記導電性部材の一部又は全部に通電して発熱させることによって組立を行う工程と、の少なくとも一方を行うと共に、
前記の工程によって形作られた構造体に含まれる導電性部材の一部又は全部を、前記航空機において耐雷、防除氷及び電磁干渉シールドの少なくとも一の機能を得るための部材とする製造方法。
【請求項2】
請求項1に記載の製造方法において、
前記複合材は熱可塑性複合材であり、
前記導電性部材の発熱によって熱可塑性樹脂を溶融させることで、前記基材と、前記導電性部材とを互いに接合する製造方法。
【請求項3】
請求項1に記載の製造方法において、
前記複合材は熱可塑性複合材であり、
前記導電性部材の発熱によって前記基材を軟化させて変形させる製造方法。
【請求項4】
請求項1に記載の製造方法において、
前記複合材は熱硬化性複合材であり、
前記導電性部材の発熱によって接着フィルムを硬化させることで、前記基材と、前記導電性部材とを互いに接着する製造方法。
【請求項5】
請求項1に記載の製造方法において、
前記複合材は熱硬化性複合材であり、
前記導電性部材の発熱によって前記基材を硬化させる製造方法。
【請求項6】
請求項1に記載の製造方法において、
前記複合材は熱硬化性複合材であり、
前記導電性部材の発熱によって熱硬化性樹脂を硬化させることで、前記基材同士又は基材と前記導電性部材とを互いに接着する製造方法。
【請求項7】
航空機の一部を構成する複合材製構造体であって、
前記複合材からなる複合材部と、導電体からなる導電体部と、を備え、
前記導電体部は、前記航空機における耐雷、防除氷及び電磁干渉シールドの少なくとも一の機能を得るための部分であると共に、その製造時には、成形及び組立の少なくとも一方のために発熱体として機能する航空機の複合材製構造体。
【請求項8】
航空機の一部を構成する複合材製構造体であって、
前記複合材からなる複合材部と、導電体からなる導電体部と、を備え、
前記導電体部は、前記航空機における耐雷の機能、防除氷の機能、電磁干渉シールドの機能、製造時における成形のための発熱体としての機能、及び組立のための発熱体としての機能、の内の少なくとも2の機能を得るための部分である航空機の複合材製構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2009−107515(P2009−107515A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−282886(P2007−282886)
【出願日】平成19年10月31日(2007.10.31)
【出願人】(000002358)新明和工業株式会社 (919)
【Fターム(参考)】